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特開2024-140286多管式反応器による酸化生成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140286
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】多管式反応器による酸化生成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 8/06 20060101AFI20241003BHJP
   C07C 57/055 20060101ALI20241003BHJP
   C07C 51/235 20060101ALI20241003BHJP
   C07C 47/22 20060101ALI20241003BHJP
   C07C 45/35 20060101ALI20241003BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
B01J8/06
C07C57/055 A
C07C57/055 B
C07C51/235
C07C47/22 A
C07C45/35
C07B61/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051354
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小川 寧之
【テーマコード(参考)】
4G070
4H006
【Fターム(参考)】
4G070AA01
4G070AB05
4G070BA02
4G070BB02
4G070CA25
4G070CB02
4G070CB17
4G070DA21
4H006AA02
4H006AA04
4H006AC45
4H006AC46
4H006BA12
4H006BA13
4H006BA14
4H006BA19
4H006BA20
4H006BA21
4H006BA33
4H006BQ10
4H006BS10
(57)【要約】
【課題】多管式反応管の各反応管における差圧を常時安定的に保持することができ、酸化
反応物を収率の変動が少なく安定的に製造することができる。
【解決手段】不活性物質が充填された予熱層と、固体触媒が充填された触媒層と、を具備
した反応管を、円筒状のシェル内に複数収容した多管式反応器において、該円筒状のシェ
ル内に熱媒体を循環させながら、原料ガスを各反応管の予熱層に供給し、触媒層で接触気
相酸化反応により酸化生成物を製造する方法であって、
下記式(1)により求められ各反応管の予熱層に供給される原料ガス供給速度の相対標準
偏差が0.3%以上、3%以下である酸化生成物の製造方法。
各反応管の予熱層に供給される原料ガス供給速度の相対標準偏差(σ) =
各反応管の予熱層に供給される原料ガス供給速度の標準偏差(s)/反応管1本あたりの
予熱層に供給される平均原料ガス供給速度 (1)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不活性物質が充填された予熱層と、固体触媒が充填された触媒層と、を具備した反応管
を、円筒状のシェル内に複数収容した多管式反応器において、該円筒状のシェル内に熱媒
体を循環させながら、原料ガスを各反応管の予熱層に供給し、触媒層で接触気相酸化反応
により酸化生成物を製造する方法であって、
下記式(1)により求められ各反応管の予熱層に供給される原料ガス供給速度の相対標準
偏差が0.3%以上、3%以下である酸化生成物の製造方法。
各反応管の予熱層に供給される原料ガス供給速度の相対標準偏差(σ) =
各反応管の予熱層に供給される原料ガス供給速度の標準偏差(s)/反応管1本あたりの
予熱層に供給される平均原料ガス供給速度 (1)
ここで、各反応管の予熱層に供給される原料ガス供給速度の標準偏差(s)は以下で表
される。
【数1】
【請求項2】
一部の反応管は、予熱層に充填された不活性物質の平均粒子径が、他の反応管の予熱層
に充填された不活性物質の平均粒子径よりも小さい反応管(以下「反応管A」)であって

反応管Aの本数が多管式反応器の全反応管の本数に対し0.5%以上30%以下である
、請求項1に記載の酸化生成物の製造方法。
【請求項3】
前記円筒状のシェル内の熱媒体循環経路に、ディスク-アンドードーナツ型のバッフル
又は欠円型のバッフルを有する、請求項1又は2に記載の酸化生成物の製造方法。
【請求項4】
前記反応管Aが前記円筒状のシェル内の中心近傍及び/又は外側近傍に存在する、請求
項2又は3に記載の酸化生成物の製造方法。
【請求項5】
前記反応管Aの予熱層が、2層に分かれており、原料ガス供給側の予熱層に充填された
不活性物質の平均粒子径が、原料ガス排出側の予熱層に充填された不活性物質の平均粒子
径よりも小さい、請求項2又は3に記載の酸化生成物の製造方法。
【請求項6】
前記反応管Aの反応層には、固体触媒とともに不活性物質が混合されて充填されており
、該不活性物質の平均粒子径が、固体触媒の平均粒子径に対し、0.5倍以上1.0倍未
満である、請求項2又は3に記載の酸化生成物の製造方法。
【請求項7】
前記原料ガスが、オレフィンを含み、前記酸化生成物が不飽和アルデヒドを含む、請求
項1又は2に記載の酸化生成物の製造方法。
【請求項8】
前記原料ガスが、不飽和アルデヒドを含み、前記酸化生成物が不飽和カルボン酸を含む
、請求項1又は2に記載の酸化生成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多管式反応器による酸化生成物の製造方法に関する。さらに詳しくは、簡易
な方法で酸化生成物の生産量を向上させる多管式反応器による酸化生成物の製造方法に関
する。
【背景技術】
【0002】
プロピレンやイソブチレン等の不飽和炭化水素を接触気相酸化反応によりアクロレイン
やメタクロレイン等の不飽和アルデヒド、アクリル酸やメタクリル酸等の不飽和カルボン
酸を商業生産する場合、通常は多管式反応器が用いられる。該多管式反応器は円筒状のシ
ェル内に複数の反応管が収容されており、円筒状のシェル内を循環する熱媒体により酸化
反応で発生する熱の制御が図られている。
【0003】
一方、近年の化成品の市場要求の拡大に伴い、二つの方策が検討されている。その一つ
が多管式反応器の大型化である。特許文献1では、二枚の扇形管板とこれらに両端を固定
された反応管群、及びその側面を覆う板からなる部材を機器の製造所で複数製作してから
化学プラントに移送し、化学プラント内でこれらを結合して円筒型の反応器とする方法が
示されている。しかし、製作に要する費用は割高であり、また製作期間も長くなる為、化
学プラントへの輸送が問題となる場合に限って採用されているのが実情である。
【0004】
もう一つの方策が、既設の多管式反応器において生産量を増加させる方法である。多管
式反応器の場合、新設機器の製造・搬入、既設設備の撤去等の何れにおいても費用が嵩む
ため、既設の多管式反応器を継続して使用することが好ましい。なお、多管式反応器を用
いた生産量増加に伴い、最も懸念される事項はホットスポットの発生である。ホットスポ
ットとは、反応管内の酸化反応の場である固体触媒が充填された触媒層の温度が、発熱の
除去が充分に行えないために上昇し、その触媒層の温度上昇が酸化反応速度を更に上げる
こととなり、酸化反応による発熱量が一層増える、という悪循環を意味する。ホットスポ
ットでは、目的とする酸化生成物を得るための原料物質の部分酸化に比べ、一酸化炭素や
二酸化炭素等を産する副反応がより加速するため、酸化生成物の大幅な収率低下を招く。
更に温度上昇が続けば、制御不能な暴走反応へと至り、多管式反応器による酸化反応の停
止及び過度な温度に長時間触媒がさらされることにより劣化した固体触媒の交換を余儀な
くされる。
【0005】
従来より、ホットスポットの抑制法が提案されている。特許文献2には、シェル内にデ
ィスク-アンド-ドーナツ型のバッフルを用い、更に多管式反応器への熱媒体供給及び熱
媒体抜出に環状導管を用いることで、多管式反応器の半径方向に対する熱媒体の流れ、つ
まり反応管に対して直交する熱媒体の流れを均一に形成する方法が示されている。特許文
献3には、特許文献2記載の方法に加え、熱動力学的手法によるシミュレーションを用い
て熱媒体の伝熱係数、つまりは除熱能力を算出し、その値を1000W/(m・K)以
上とすることで、ホットスポットを抑制する方法が示されている。特許文献4には、製作
に用いる反応管の外径や肉厚を所定値以下とすることで、反応管毎に充填される触媒量や
流通する反応ガス量を均一化し、つまりは反応管毎の発熱量を均一化することで、ホット
スポットを抑制する方法が示されている。特許文献5には、触媒の充填された反応管に所
定流量の気体を流した際に生じる差圧を全ての反応管で±20%以内となるよう調整する
ことで、反応管毎に流れる原料ガス量や反応管毎の発熱量を均一化してホットスポットを
抑制する方法が示されている。特許文献6には、特許文献3に記載された熱動力学的なシ
ミュレーションに基づき、伝熱係数の低い反応管に対しては触媒の充填仕様(触媒の種類
、量、形状、希釈割合など)を変更すること、更に極端に伝熱係数の低い反応管は閉止し
て原料ガスの供給を止めることでホットスポットを抑制する方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭52-43778号公報
【特許文献2】特開昭48-80473号公報
【特許文献3】特開2004-83430号公報
【特許文献4】特開2004-944号公報
【特許文献5】特開2003-252807号公報
【特許文献6】特開2003-206244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述のような様々な工夫により、多管式反応器における各反応管に対し、一律に原料ガ
スを増量させる手法では、増量した時点では、気相酸化反応により得られる酸化生成物量
は原料ガスの増量に見合い、増加するが、時間の経過とともに、酸化生成物量は減少に転
じ、最終的には、原料ガスの増量前よりも酸化生成物量は低下することが判明した。
【0008】
本発明は上記問題点を改善し、多管式反応器を用いた、気相接触酸化反応により酸化生
成物を製造する方法において、継続して高い生産速度を維持して酸化生成物を得ることが
できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、多管式反応器の各反応管に
供給する原料ガスを極力均等に増量する、という考え方を見直し、多管式反応器総体に供
給する原料ガスを増量したとしても、一部の反応管、特に相対的に除熱能力の劣る反応管
には、供給する原料ガスを少なくすることにより、単位時間当たりの酸化生成物の生産量
増加が可能になることを見出した。
【0010】
本発明はこのような知見に基づいて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0011】
[1] 不活性物質が充填された予熱層と、固体触媒が充填された触媒層と、を具備した
反応管を、円筒状のシェル内に複数収容した多管式反応器において、該円筒状のシェル内
に熱媒体を循環させながら、原料ガスを各反応管の予熱層に供給し、触媒層で接触気相酸
化反応により酸化生成物を製造する方法であって、予熱層に供給される原料ガスの単位時
間当たりの供給速度は、全反応管で均一ではなく、下記式(1)により求められ各反応管
の予熱層に供給される原料ガス供給速度の相対標準偏差(σ)が0.3%以上、3%以下
である酸化生成物の製造方法。
【0012】
各反応管の予熱層に供給される原料ガス供給速度の相対標準偏差(σ) =
各反応管の予熱層に供給される原料ガス供給速度の標準偏差(s)/反応管1本あたりの
予熱層に供給される平均原料ガス供給速度 (1)
ここで、各反応管の予熱層に供給される原料ガス供給速度の標準偏差(s)は以下で表
される。
【0013】
【数1】
【0014】
[2] 一部の反応管は、予熱層に充填された不活性物質の平均粒子径が、他の反応管の
予熱層に充填された不活性物質の平均粒子径よりも小さい反応管(以下「反応管A」)で
あって、反応管Aの本数が多管式反応器の全反応管の本数に対し0.5%以上30%以下
である、[1]記載の酸化生成物の製造方法。
[3] 前記円筒状のシェル内の熱媒体循環経路に、ディスク-アンドードーナツ型のバ
ッフル又は欠円型のバッフルを有する、[1]又は[2]に記載の酸化生成物の製造方法

[4] 前記反応管Aが前記円筒状のシェル内の中心近傍及び/又は外側近傍に存在する
、[2]又は[3]に記載の酸化生成物の製造方法。
[5] 前記反応管Aの予熱層が、2層に分かれており、原料ガス供給側の予熱層に充填
された不活性物質の平均粒子径が、原料ガス排出側の予熱層に充填された不活性物質の平
均粒子径よりも小さい、[2]乃至[4]にいずれか記載の酸化生成物の製造方法。
[6] 前記反応管Aの反応層には、固体触媒とともに不活性物質が混合されて充填され
ており、該不活性物質の平均粒子径が、固体触媒の平均粒子径に対し、0.5倍以上1.
0倍未満である、[2]乃至[5]のいずれかに記載の酸化生成物の製造方法。
[7] 前記原料ガスが、オレフィンを含み、前記酸化生成物が不飽和アルデヒドを含む
、[1]乃至[6]のいずれかに記載の酸化生成物の製造方法。
[8] 前記原料ガスが、不飽和アルデヒドを含み、前記酸化生成物が不飽和カルボン酸
を含む、[1]乃至[6]のいずれかに記載の酸化生成物の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、多管式反応器における一部の反応管に供給する原料ガスを少なくする
ことで、継続して高い生産速度を維持して酸化生成物を得ることができた。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、本発明は、以下の説明に限定され
るものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0017】
本発明の製造方法に用いる多管式反応器は、円筒状のシェル内に複数の反応管を収容し
た多管式反応器である。該複数の反応管の本数は10,000本以上であることが好まし
く、13,000本以上であることがより好ましく、20,000本以上であることがさ
らに好ましい。上限は80,000本であることが好ましく、60,000本であること
がより好ましい。本数が前記範囲内であることにより、多管式反応器として経済的かつ安
定な操業が可能となる。又、反応管の配置は、反応温度の制御を目的として、各反応管は
近接する反応管との間隔を等しくするため、反応管の両端部は管板に千鳥状に取り付けら
れていることが好ましく、45°千鳥状に取り付けられていることがより好ましく、60
°千鳥状に取り付けられていることがさらに好ましい。更に、各反応管の管形状は反応管
内の不活性物質や固体触媒の充填密度が不均一となったり、ガスの偏流が発生することを
避けるため、円柱状であることが好ましい。加えて、各反応管において反応が均一に進行
することより、管内径は均一であることが好ましい。管内径は好ましくは16mm~36
mm、より好ましくは22mm~30mmである。更に加えて、各反応管で反応にバラつ
きを生じることなく、効率的に反応を進行させるために、全反応管の両端部が管板上で同
一円内に取り付けられていることが好ましい。
該円筒状のシェルにおける円筒部は鉛直方向にあるのが好ましい。
【0018】
多管式反応器に前記複数の反応管は管軸が垂直に収容されていることが好ましい。垂直
に収容されていることにより、原料ガスの接触気相酸化反応が効率的に進行する可能性が
ある。各反応管の端部には不活性物質が充填された予熱層を有し、予熱層に次いで反応管
内部に固体触媒が充填された触媒層を有する。原料ガスは各反応管の端部にある予熱層に
供給され、加熱され、次いで、固体触媒が充填された触媒層において、接触気相酸化反応
により酸化生成物となる。なお、予熱層は反応管を多管式反応器に収容した際に、上端部
にあっても、下端部にあっても構わないが、目的生成物である酸化生成物以外の様々な高
沸点副生成物やこれらに起因する炭化物などが生成し、これらは反応ガスの流れ方向が鉛
直下方な場合に比べて鉛直上方の場合の方が、反応管内に堆積する割合が高くなるため、
反応ガスの流れ方向が鉛直下方となる仕様、つまり予熱層は上端部にある方が好ましい。
【0019】
多管式反応器の円筒状のシェル内には、熱媒体が循環されている。循環することにより
、接触気相酸化反応による過度の発熱を制御することができる。なお、予熱層が反応管の
上端にある場合、すなわち、原料ガスが反応管の上端より下向きに流れ、接触気相酸化反
応が進行する場合、逆に、予熱層が反応管の下端にある場合、すなわち、原料ガスが反応
管の下端より上向きに流れ、接触気相酸化反応が進行する場合の何れにおいても、熱媒体
は円筒状のシェル内を上向きに循環することが好ましい。接触気相酸化反応で生じた反応
熱が熱媒体に移動する為、熱媒体の温度は入口側に比べて出口側が高くなる。温度の上昇
に伴い、熱媒体は膨張して比重が小さくなるため、より効率的に熱媒体の循環が可能とな
る。
【0020】
前記円筒状のシェル内の熱媒体循環経路は、反応管の管軸に対し直行した流れが存在す
ることが伝熱の観点から有効であり、ディスク-アンドードーナツ型のバッフル又は欠円
型のバッフルを有する、ことが好ましく、特にディスク-アンド-ドーナツ型のバッフル
が、熱媒流路の対称性の高さから、特に好ましい。
【0021】
原料ガスとは、酸化生成物を製造するための成分を含んだものである。酸化生成物が、
例えばアクロレインやメタクロレイン等の不飽和アルデヒドである場合、原料ガスとして
は、不飽和アルデヒドの元となるプロピレンやイソブチレン等のオレフィン、酸化反応を
推進させる酸素含有ガスを必須成分とし、その他、窒素、水蒸気等の不活性ガスを含んで
いてもよい。又、酸化生成物が、例えばアクリル酸やメタクリル酸等の不飽和カルボン酸
である場合、原料ガスとしては、不飽和カルボン酸の元となるアクロレインやメタクロレ
イン等の不飽和アルデヒド、酸化反応を推進させる酸素含有ガスを必須成分とし、その他
、窒素、水蒸気等の不活性ガスを含んでいてもよい。
【0022】
本発明は、前記した多管式反応器を用いた酸化生成物を製造する方法であって、多管式
反応管の各反応管の予熱層に供給される原料ガス供給速度の相対標準偏差(以下「相対標
準偏差」と称する場合がある)が0.3%以上、3%以下である。該相対標準偏差の下限
は好ましくは0.4%、より好ましくは0.5%、さらに好ましくは0.6%である。又
上限は好ましくは2.7%、より好ましくは2.3%、さらに好ましくは2.0%である

なお、各反応管の予熱層に供給される原料ガス供給速度の相対標準偏差とは、下記式(
1)で表すことができる。
【0023】
各反応管の予熱層に供給される原料ガス供給速度の相対標準偏差(σ) =
各反応管の予熱層に供給される原料ガス供給速度の標準偏差(s)/反応管1本あたりの
予熱層に供給される平均原料ガス供給速度 (1)
ここで、各反応管の予熱層に供給される原料ガス供給速度の標準偏差(s)は以下で表
される。
【0024】
【数2】
【0025】
相対標準偏差を上記範囲に制御することの必要性は以下と考えている。
多管式反応器において、酸化生成物を大量に生産することが求められている。大量生産
では、複数の多管式反応器を用いて製造された酸化生成物を合算する方法が考えられるが
、複数の多管式反応器を製造するには多大なコストが必要となり、設備の大型化に伴う経
済的利点を大きく損なうものであった。既設の多管式反応器において酸化生成物を増加さ
せる試みは、従来技術では、多管式反応器におけるすべての反応管に対し、一律に原料ガ
スの単位時間当たりの供給速度を増加させると共に、反応管の供給速度差、すなわち、相
対標準偏差を極力0に近づけることでホットスポットの抑制を行っていたが、酸化生成物
の生産速度の増加を長時間継続することはできなかった。
【0026】
本発明者は、多管式反応器の熱媒体による温度制御の状況を検討した結果、多管式反応
器内の特定範囲に存在する反応管は原料ガスの供給速度を増加する手法を採用するよりは
、原料ガスの供給速度を増加しない、または減じる手法を採用する方が、特定範囲以外の
反応管の原料ガスの供給速度をより増加することができることを見出した。すなわち、予
熱層に供給される原料ガスの単位時間当たりの供給速度は、全反応管で均一とすることな
く、各反応管の予熱層に供給される原料ガス供給速度の相対標準偏差を特定範囲に制御す
ることにより、長時間継続して高い酸化生成物の生産速度を維持することができるのであ
る。
【0027】
尚、反応管に供給される原料ガスの供給速度を制御する手法は、例えば、反応管内に充
填する充填物の表面積を増やすことで、原料ガスの供給速度を減じることができる。又、
反応管の空隙率を低下させることで、原料ガスの供給速度を減じることができる。具体的
には、反応管内に充填する充填物の平均粒子径を小さくすることで、充填物の表面積を増
やすことが出来る。また、反応管の内径に対して充填物の平均粒子径が1/10以上の場
合、平均粒子径が小さいほど、空隙率は低下する。更に、粒子径が単一である粒子を充填
する場合に比べ、異なる粒子径を有する粒子を混合して充填した方が空隙率が低下する。
故に、充填物の平均粒子径を小さくする手法は、充填物の表面積を増やすと共に、平均粒
子径の異なる触媒との混合により反応管内の空隙率も効果的に低下させることができるの
で好ましい。
【0028】
前記多管式反応器内の特定範囲に存在する反応管とは、多管式反応器がディスク-アン
ドードーナツ型のバッフルを有している場合は、円筒状のシェル内の中心近傍及び/又は
外側近傍に存在する、反応管である。熱媒体の流れはその箇所の反応管の管軸と直行せず
、他の反応管に比べて反応管外表面における境膜伝熱係数が低くなることによる。
又、多管式反応器が欠円型のバッフルを有している場合は、前記特定範囲に存在する反
応管とは円筒状のシェル内の外側近傍に存在する、反応管である。熱媒体の流れはその箇
所の反応管の管軸と直行せず、他の反応管に比べて反応管外表面における境膜伝熱係数が
低くなることによる。
【0029】
一部の反応管は、予熱層に充填された不活性物質の平均粒子径が、他の反応管の予熱層
に充填された不活性物質の平均粒子径よりも小さい反応管(以下「反応管A」と称する場
合がある)とし、反応管Aの本数が多管式反応器の全反応管の本数に対し、好ましくは0
.5%以上50%未満であり、より好ましくは1%以上30%以下であり、さらに好まし
くは2%以上20%以下である。反応管Aの本数の割合を前記範囲とすることで、長時間
継続して高い酸化生成物の生産速度を維持することが可能となる。
【0030】
前記反応管Aの予熱層は、2層に分かれており、原料ガス供給側の予熱層に充填された
不活性物質の平均粒子径が、原料ガス排出側の予熱層に充填された不活性物質の平均粒子
径よりも小さいことがより好ましい。該反応管Aの予熱層を前記した構成とすることによ
り、該反応管Aへの原料ガス供給速度の制御が容易となり、長時間継続して高い酸化生成
物の生産速度を維持することが可能となる。
【0031】
前記反応管Aの反応層には、固体触媒とともに不活性物質が混合されて充填されており
、該不活性物質の平均粒子径が、固体触媒の平均粒子径に対し、好ましくは0.5倍以上
1.0倍未満であり、より好ましくは0.5以上0.9以下でありさらに好ましくは0.
55以上0.85以下である。該反応管Aの反応層を前記した構成とすることにより、該
反応管Aへの原料ガス供給速度の制御が容易となり、長時間継続して高い酸化生成物の生
産速度を維持することが可能となる。
【0032】
不活性物質は、酸化反応に対し安定であり、原料ガスおよび酸化生成物と反応性が無い
物質であれば特に制限されず、具体的には、アルミナ、シリコンカーバイド、シリカ、酸
化ジルコニア、酸化チタンが好ましい。
また、その形状に制限は無く、球状、円柱状、円筒状、星型状、リング状、小片状、網
状、不定形などの如何なる形状であってもよい。但し、空隙率を下げる観点から、球状や
円筒状などが好ましい。また、充填操作時に固体触媒粒子との分球を緩和する為、固体触
媒の形状に近いものを用いることも好ましい。大きさは、反応管径および圧力損失を考慮
して決定することができる。
該不活性物質の平均粒子径は少なくとも無作為に100個以上の不活性物質を抽出し、
抽出した不活性物質の形状を測定し、その体積と表面積を測定し、体積の合計値を表面積
の合計値で割った値を6倍した値とする。なお、粒子径は、一粒ずつ取り出してノギスで
測定するか、画像解析により自動測定することができる。
【0033】
前記酸化生成物がアクロレインやメタクロレイン等の不飽和アルデヒドである場合、固
体触媒は該固体触媒の触媒成分元素が下記式(2)で表されることが好ましい。
Mo12BiFeCoNiSi (2)
(式(2)中、XはNa、K、Rb、Cs及びTlからなる群より選ばれた少なくとも
一種の元素を示し、YはMg、Ca、Sr、Ba、Mn及びZnからなる群より選ばれた
少なくとも一種の元素を示し、ZはF、Cl、B,P、As、W及びNbからなる群より
選ばれた少なくとも一種の元素を示す。a~iはそれぞれの元素の原子比を示し、0.5
≦a≦7、0.05≦b≦5、0≦c≦10、0≦d≦10、0≦e≦2、0≦f≦5、
0≦g≦5、0≦h≦500の範囲にあり、iは他の元素の酸化状態を満足させる値であ
る。)
更に、該固体触媒の平均粒子径は少なくとも無作為に100個の不活性物質を抽出し、
抽出した不活性物質の形状を測定してその体積と表面積を算出し、体積の合計値を表面積
の合計値で割った値を6倍した値とする。なお、粒子径は、一粒ずつ取り出してノギスで
測定するか、画像解析により自動測定することができる。
【0034】
前記酸化生成物がアクリル酸やメタクリル酸等の不飽和カルボン酸である場合、固体触
媒は該固体触媒の触媒成分元素が下記式(3)で表されることが好ましい。
Mo12CuSbSi (3)
(式(3)中、XはNb及び/又はWを示し、YはMg、Ca、Sr、Ba及びZnから
なる群より選ばれた少なくとも一種の元素を示し、ZはFe、Co、Ni及びBiからな
る群より選ばれた少なくとも一種の元素を示す。a~iはそれぞれの元素の原子比を示し
、0<a≦12、0≦b≦12、0<c≦12、0≦d≦8、0≦e≦500、0≦f≦
500、0≦g≦500、0≦h≦500の範囲にあり、iは他の元素の酸化状態を満足
させる値である。)
更に、該固体触媒の平均粒子径は少なくとも無作為に100個の不活性物質を抽出し、
抽出した不活性物質の形状を測定してその体積と表面積を算出し、体積の合計値を表面積
の合計値で割った値を6倍した値とする。なお、粒子径は、一粒ずつ取り出してノギスで
測定するか、画像解析により測定することができる。
【0035】
本発明の酸化生成物の製造方法によれば、設備の大型化等を実施することもなく、長期
間安定的に酸化生成物を大量製造することができる。