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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140290
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】成膜装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/56 20060101AFI20241003BHJP
   C23C 14/04 20060101ALI20241003BHJP
   H01L 21/683 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C23C14/56 J
C23C14/04 A
H01L21/68 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051363
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下窄 義行
【テーマコード(参考)】
4K029
5F131
【Fターム(参考)】
4K029CA01
4K029DA03
4K029HA04
5F131AA03
5F131AA10
5F131AA21
5F131AA23
5F131AA33
5F131AA34
5F131BA03
5F131CA01
5F131CA08
5F131CA22
5F131DA09
5F131DA33
5F131DA42
5F131EA03
5F131EA14
5F131EA22
5F131EA23
5F131EA24
5F131EB11
5F131EB12
5F131EB13
5F131EB31
5F131EB63
5F131FA10
5F131FA17
5F131FA32
5F131FA33
5F131FA37
5F131KA03
5F131KA14
5F131KA40
5F131KA72
5F131KB12
5F131KB32
5F131KB53
5F131KB54
5F131KB55
5F131KB56
(57)【要約】
【課題】有機EL成膜装置において、マスクフレームの平面度悪化による製品の良品率低下を抑制し、製品の品質ばらつきを低減させる。
【解決手段】複数の開口を備えたマスクをマスクフレームに固定し、複数の開口を介して基板に成膜する成膜装置であって、マスクフレームを支持するとともに複数の磁石が配置された支持部と、複数の磁石と対向する位置に配置された複数のコイルと、マスクまたはマスクフレームの位置を測定する複数のセンサと、複数のセンサのそれぞれの測定値に応じて複数のコイルのそれぞれに印加する電流を制御することで支持部およびマスクフレームを変形させる制御部を備える成膜装置を用いる。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の開口を備えたマスクをマスクフレームに固定し、前記複数の開口を介して基板に成膜する成膜装置であって、
前記マスクフレームを支持するとともに複数の磁石が配置された支持部と、
前記複数の磁石と対向する位置に配置された複数のコイルと、
前記マスクまたはマスクフレームの位置を測定する複数のセンサと、
前記複数のセンサのそれぞれの測定値に応じて前記複数のコイルのそれぞれに印加する電流を制御することで前記支持部およびマスクフレームを変形させる制御部と、
を備えることを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記複数の磁石は、前記支持部の少なくとも一辺に並んで配置される
ことを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記複数の磁石が、前記支持部の一辺当たり少なくとも4つ以上配置されている
ことを特徴とする請求項1または2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記複数のセンサは、前記複数のコイルそれぞれの位置において、前記基板と前記支持部の距離、または、前記基板と前記マスクフレームの距離を測定する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記センサが測定した距離が相対的に遠い位置においては前記コイルに印加する電流を多くし、前記センサが測定した距離が相対的に近い位置においては前記コイルに印加する電流を少なくする
ことを特徴とする請求項4に記載の成膜装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記複数のコイルに印加する電流を変化させる前と後で、前記複数のコイルに印加する電流の総和を維持する
ことを特徴とする請求項5に記載の成膜装置。
【請求項7】
前記複数の磁石と、前記複数のコイルとにより、前記支持部を昇降させる
ことを特徴とする請求項1または2に記載の成膜装置。
【請求項8】
前記複数のコイルのそれぞれを昇降させる昇降機構を有する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の成膜装置。
【請求項9】
前記昇降機構は、前記センサが測定した距離が相対的に遠い位置においては、前記コイルを前記支持部から遠ざかる方向に移動させ、前記センサが測定した距離が相対的に近い位置においては、前記コイルを前記支持部に近づく方向に移動させる
ことを特徴とする請求項8に記載の成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置に関する。特に、有機ELディスプレイのマスク成膜装置において、マスクを浮上アライメントさせる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ELディスプレイを製造する方法として、所定のパターンで開口が形成されたマスクを介して基板上に真空蒸着法により有機薄膜を成膜することで、所定のピクセルパターンを形成するマスク成膜法が知られている。マスク成膜法では、マスクと基板を位置合わせした後に、マスクと基板を密着させて成膜を行う。
【0003】
一般に有機ELディスプレイ向けのマスクは薄い箔体状であることが多く、マスクそれ自身だけでは形状を保てない。そのため、通常マスクフレームと呼ばれる金属製の枠体に張力を印加した状態でマスクを固定する。
【0004】
近年、生産性向上のため基板が大型化する傾向にあり、基板のたわみを抑制するため、基板把持機構に静電チャックを用いる技術が知られている。また、マスクと基板の位置合わせにおいては、位置合わせ精度向上、発塵抑制の観点から、磁気浮上ステージを用いてマスク側を駆動させる技術が知られている。磁気浮上ステージは簡易な構造でXYΘ駆動が可能であり、たとえば基板側が何らかの原因で傾いたような場合であっても、容易に位置合わせが可能である。特許文献1には、ワーク(基板)に対する浮上体(マスク)の傾きを補正する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平05-276608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年の基板大型化傾向にともない、対応するマスクも大型化している。特にマスクフレームは、大型金属枠体を作製する際の金属の残留内部応力や、加工精度等により、平面度が悪化するという課題がある。
【0007】
マスクフレームの平面度が悪化すると、張られたマスクの平面度が悪化する。マスクの平面度が悪化すると、基板とマスクの間に空隙が生じてしまい、成膜時の膜ボケが発生して良品率を低下させてしまうという課題があった。また、マスクは装置内で定期的に交換されるため、異なるマスク間に平面度の機差があると、前記の理由により製品品質がばらついてしまうという課題があった。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものである。本発明は、有機EL成膜装置において、マスクフレームの平面度悪化による製品の良品率低下を抑制し、製品の品質ばらつきを低減させる目的でなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の構成を採用する。すなわち、
複数の開口を備えたマスクをマスクフレームに固定し、前記複数の開口を介して基板に成膜する成膜装置であって、
前記マスクフレームを支持するとともに複数の磁石が配置された支持部と、
前記複数の磁石と対向する位置に配置された複数のコイルと、
前記マスクまたはマスクフレームの位置を測定する複数のセンサと、
前記複数のセンサのそれぞれの測定値に応じて前記複数のコイルのそれぞれに印加する電流を制御することで前記支持部およびマスクフレームを変形させる制御部と、
を備えることを特徴とする成膜装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、有機EL成膜装置において、マスクフレームの平面度悪化による製品の良品率低下を抑制し、製品の品質ばらつきを低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第一の実施形態における成膜装置の概略斜視図
図2】成膜装置のチャンバ内部の断面図
図3】成膜装置のチャンバ内部の別方向の断面図
図4】マスクフレームが変形した状態におけるチャンバ内部の断面図
図5】マスクフレームを矯正した後の状態におけるチャンバ内部の断面図
図6】第二の実施形態における成膜装置のチャンバ内部の断面図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。すなわち、以下の実施形態は本発明の好ましい構成を例示的に示すものにすぎず、本発明の範囲をそれらの構成に限定されない。また、以下の説明における、装置のハードウェア構成およびソフトウェア構成、処理フロー、製造条件、寸法、材質、形状などは、特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0013】
本発明は、基板等の成膜対象物の表面に成膜材料の薄膜を形成する成膜装置に好適である。本発明は、かかる成膜装置による成膜方法や、かかる成膜装置の制御方法として捉えられる。本発明はまた、電子デバイスの製造装置やその制御方法、電子デバイスの製造方法としても捉えられる。本発明はまた、制御方法をコンピュータに実行させるプログラムや、当該プログラムを格納した記憶媒体としても捉えられる。記憶媒体は、コンピュータにより読み取り可能な非一時的な記憶媒体であってもよい。
【0014】
本発明における基板の材料としては、ガラス、樹脂、金属、シリコンなど任意のものを利用できる。成膜材料としては、有機材料、無機材料(金属、金属酸化物)など任意のものを利用できる。本発明は特に有機材料により形成された有機膜の検査および評価に好適である。以下の説明における「基板」とは、基板材料の表面に既に1つ以上の成膜が行われたものを含む。本発明の技術は、典型的には、電子デバイスや光学部材の製造装置に適用される。特に、有機EL素子を備える有機ELディスプレイ、それを用いた有機EL表示装置などの有機電子デバイスに好適である。本発明はまた、薄膜太陽電池、有機CMOSイメージセンサにも利用できる。
【0015】
[第一の実施形態]
(装置構成)
図1図2図3は本発明における成膜装置およびマスク浮上方法における全体構成を示すための模式図である。図1は成膜装置100の概略斜視図である(チャンバを省略)。図2図1の矢印A方向から見たチャンバ内部の断面図である。図3図1の矢印B方
向からみたチャンバ内部の断面図である。
【0016】
成膜装置100は、成膜室であるチャンバ1を有する。成膜装置100は、複数の成膜室を有していてもよい。複数の成膜室を有することにより、成膜室ごとに異なる種類の膜を形成することもできるし、複数のラインで成膜を行ってタクトタイムを向上させることもできる。基板を成膜室間で運搬する際の運搬機構としては、後述するような磁力浮上を用いた機構を好適に利用できる。また、ロボットアームなどの運搬機構を組み合わせて用いてもよい。成膜装置100はさらに、基板の搬送や受け渡しに用いる搬送室、基板を反転させる回転室、基板をストックする基板ストック室、マスクをストックするマスクストック室、基板の成膜状況を評価する評価室、などを備えていてもよい。
【0017】
成膜装置100はさらに、搬送や成膜に関する電気制御や機械制御を行ったり、ユーザとのインタフェース機能を担ったりする制御部101を備えることが好ましい。制御部101としては、プロセッサやメモリなどを備えるコンピュータや制御回路が好適である。
【0018】
図中、符号1はチャンバ、符号2は基板保持部である静電チャック、符号3はマスクまたはフレームの位置を測るセンサ、符号4は基板、符号5はコイル、符号6はマスクフレームを支持する支持部であるマスクステージ、符号7はマスク、符号8はマスクフレーム、符号9は磁石、符号10はマスクステージの着座台、符号11は蒸発源である。所定のパターンで設けられた微小開口を備えたマスク7はマスクフレーム8に固定されている。
【0019】
チャンバ1は、製造過程で高真空状態に維持される。静電チャック2は、基板4の両面のうち、マスク7に当接する面とは反対側の面に当接し、基板4を静電引力によって吸着保持する基板保持部である。静電チャック2は、セラミック等で構成された板状の基材に、金属電極などの電気回路が埋設された構造を有し、グラディエント力タイプ、クーロン力タイプ、ジョンソン・ラーベック力タイプなど、任意の方式のものを利用できる。
【0020】
センサ3は、マスク7またはマスクフレーム8の位置を測定するための測定手段である。センサ3の測定位置や測定対象は、マスク7またはマスクフレーム8の位置を測定し、測定値を出力できれば特に限定されない。測定方法も特に限定されず、例えば光センサ方式やレーザー検知方式を採用できる。
【0021】
基板4は、静電チャック2により把持され、チャンバ1側に固定される。この基板4ないし静電チャック2を基準として、マスクフレーム8に張られたマスク7を位置合わせする。マスクフレーム8およびマスク7は、マスクステージ6の上に載っており、かつ、このマスクステージ6には複数の磁石9が配置されている。複数の磁石9と対向する位置に、チャンバ側に固定された複数のコイル5が配置される。複数のコイル5のそれぞれの電流を制御することで、磁力を制御し、マスク7、マスクフレーム8をマスクステージ6ごと浮上、XYΘ微動させる。
【0022】
基板に対するマスクの位置をアライメント用カメラ(非図示)で観測し、浮上用およびXYΘ微動用コイル電流にフィードバックして、マスクを基板に対して位置合わせ(アライメント)する。アライメント用カメラは例えば、チャンバ1の上方に配置され、チャンバ天井の覗き穴から下方を撮像する光学カメラであり、基板4に設けられた基板アライメントマークと、マスク7(またはマスクフレーム8)に設けられたマスクアライメントマークの相対的な位置関係を取得する。なお本実施形態では、マスクステージ6に配置された複数の磁石および複数のコイルによってマスクフレームを浮上(昇降)させる例を示したが、これに限るものではない。例えば、受け爪でマスクステージを受け、受け爪を昇降させる駆動部によってマスクステージを昇降させてもよい。なお、静電チャック2に、不図示のアクチュエータが接続されていてもよい。その場合、マスクステージ6の駆動とと
もに、基板4を静電チャック2ごと、XY方向、Θ回転方向、Z方向などに移動させることで、基板4とマスク7のアライメントの精度を向上させることができる。
【0023】
位置合わせを終えた後、蒸発源11から基板4に向け、蒸発物質を放出させる。蒸発物質は、マスクステージ6の大開口越しにマスク7に到達し、マスク7に所定のパターンで設けられた微小開口越しに基板に到達、堆積する。蒸発源11は、蒸着材料(成膜材料)を収容するルツボ等の容器、ヒータ、シャッタ、駆動機構、蒸発レートモニタなどを含む成膜手段である。なお、成膜源は蒸発源には限られず、スパッタリング装置でもよい。
【0024】
(マスクフレームの変形)
上記一連の成膜動作のなかで、マスクフレーム8が変形している場合を仮定する。図4はその模式図である。符号13は浮上状態において変形しているマスクフレーム、符号12はマスクフレームの変形にならって変形したマスクステージ、符号91~94は磁石、符号51~54はコイル、符号31~34は静電チャック2からマスクフレーム13上端までの距離を測定するセンサである。ここで、マスクフレーム13とマスクステージ12の剛性は同等であると仮定し、一方の形状が他方の形状に倣い得るものとする。
【0025】
図4に示すようにマスクフレーム13が変形していると、マスク7と基板4を密着させた際、マスクフレーム13の変形形状に応じてマスク7と基板4との間に一部隙間が生じる。このような場所においては、成膜時の膜ボケを引き起こされ、製品の不良を生じさせるおそれがある。
【0026】
また、マスク7には、成膜パターンに応じた所定のパターンで微小な複数の開口が設けられている。成膜時、蒸発物質がこの開口端部にも付着することで、開口が徐々に狭まっていくという問題がある。そこで生産時は、マスク7およびマスクフレーム13は一定の時間間隔で交換、洗浄される。ここで、マスクフレーム13の変形には個体差があり、かつ、その変形形状も洗浄のたびに変化する。そのため、マスク7の交換ごとに、膜ボケの様相が変化しうる。
【0027】
(本発明の構成)
上述した課題に対し、本発明では、以下の手順でマスクフレーム13の変形を矯正する。まず静電チャック2からマスクフレーム13上端までの距離を測るセンサ31~34を用い、マスクフレーム13の変形の様子を測定する。マスクフレーム13の変形は、実際には極端な高次モードは観察されにくいため、本実施形態では、一辺当たり4つのセンサを設け、2次モードまでの変形形状を測定する。複数のセンサは、静電チャック2の少なくとも1辺に並んで配置される。また、静電チャック2の対向する2辺にそれぞれ、複数のセンサを並べて配置してもよい。また、3辺以上にセンサを配置してもよい。一辺当たりのセンサ数は4つに限られず、マスクフレーム13のサイズや、合成に基づき想定される変形の程度に応じて適宜設置すればよい。
【0028】
制御部101は、浮上状態を維持したまま、上記センサが検出した距離の差に応じ、コイル51~54のそれぞれに印加する電流量を変化させる。このとき、コイル51~54に流れる総電流量(総和)は維持したままとする。この際重要な点は、静電チャックからマスクフレーム上端までの距離を測るセンサ31~34のそれぞれの位置と、コイル51~54のそれぞれの位置とが近接していることである。
【0029】
図4の例で説明すると、センサ31、33の検出する静電チャックーマスクフレーム間の距離は相対的に遠く、センサ32、34の検出する静電チャックーマスクフレーム間の距離は相対的に近くなる。これに対応し、コイル51、53に流す電流を多く、コイル52、54に流す電流を少なくなるよう、制御する。この際、コイル51~54に流す電流
の総和は変えないようにする。なお、電流の総和は極力変えないようにするが、誤差程度の変化を許容しない趣旨ではない。
【0030】
上記のような制御を行うことで、コイル51および53と、磁石91および93と、の間に働く磁気吸引力を大きくできる。それに対して、コイル52および54と、磁石92および94と、の間に働く磁気吸引力を小さくできる。このようにマスクステージ12に働く磁気吸引力のバランスを変化させることで、マスクステージ12を変形させることができる。マスクステージ12とマスクフレーム13の剛性は同等で、一方の形状は他方の形状に倣い得るとすると、上記のような制御を行うことで、間接的にマスクフレーム13の変形を矯正することが可能となる。
【0031】
一方、マスクフレーム13の昇降を別の手段で行なう場合は、複数の磁石91~94及び複数のコイル51~54に流す電流の総電流量を、マスクフレーム13が浮上しない値に抑えなければならない。そのため、マスクフレーム13によっては変形を抑制しきれない場合がある。それに対し、磁石91~94およびコイル51~54によってマスクフレーム13の浮上(昇降)も行なう場合は、総電流量(総和)を維持したままそれぞれに流す電流量を変化させればよいため、制御が容易であり、より好ましい。
【0032】
上記のような制御を、センサ31~34が検出する距離が等しくなるまで継続し静定させる。上記のような制御を行った結果の様子を図5に示す。図5の符号15は矯正後のマスクフレーム、符号14は矯正後のマスクステージである。図示例では、センサ31~34による検出距離は厳密に一致するわけではないが、実用上問題が無い範囲に収まっている。すなわちセンサ31~34による検出距離は、アライメント精度や成膜精度との関係で問題が許容範囲となる程度に略等しければよい。
【0033】
上記手法により、マスクフレームの変形を矯正することが可能となり、マスクフレーム変形による膜ボケと、それに起因する製品の良品率低下および品質ばらつきを抑制することが可能となる。
【0034】
[第二の実施形態]
続いて、この発明の第二の実施の形態について、図面に基づいて説明する。なお以下では、第一の実施の形態との差分について主に説明する。
【0035】
ここで、第一の実施形態について検討する。静電チャック2からマスクフレーム上端までの距離を測るセンサ31~34の検出距離に応じ、コイル51~54を制御する際、マスクフレームの変形の振幅が大きくなるほど、電流の変化幅も大きくなる。コイルに流す電流量が大きくなると、コイルの発熱が大きくなり、最終的にコイルが焼損する等の課題が生じる。コイルの発熱は電流量の二乗に比例するため、最終的にはこの電流量が律速し、マスクフレーム変形の矯正可能範囲が限定されることとなってしまう。
【0036】
このような場合、コイル51~54自身に、z方向の昇降機構をもたせることが有効である。電流量を増すことと、コイルの位置を下げることは、磁気吸引力を変化させるという意味では等価である。同様に、電流量を減らすことと、コイルの位置を上げることもまた、磁気吸引力を変化させるという意味では等価である。
【0037】
本実施形態の成膜装置100は、各コイルを個別にz方向に昇降させる昇降機構を備える。昇降機構として例えば、ボールねじとアクチュエータなどを用いた構成を用いることができる。
【0038】
上記の例を図6に示す。図4に示した状態を矯正前の状態とする。制御部101は、マ
スクステージの浮上状態を維持したまま、すなわち、コイル51~54に流れる総電流量(総和)は維持したまま、センサ31~34が検出した静電チャックーマスクフレーム間の距離に応じて、コイル51~54の高さ方向の位置を変化させる。図6の例であれば、センサ31、33の検出する距離は遠く、センサ32、34の検出する静電チャックーマスクフレーム間の距離は近くなる。これに対応し、コイル51、53についてはマスクステージに近づく方向に高さ方向の位置を変化させる。一方、コイル52、54についてはマスクステージから離れる方向に高さ方向の位置を変化させる。この際、51~54に流す電流の総和は変えないようにしてもよいし、変化させてもよい。
【0039】
本実施形態では、上記手法により、マスクフレームの変形の程度が大きい場合であっても、コイルの高さ方向の位置を調整することにより、変形を矯正することが可能となる。その結果、マスクフレーム変形による膜ボケと、それに起因する製品の良品率低下および品質ばらつきを抑制することが可能となる。
【0040】
以上述べたように、本発明の実施の形態によれば、有機EL成膜装置において、マスクフレームの平面度悪化による製品の良品率低下を抑制し、製品の品質ばらつきを低減させることが可能になる。そして、マスク及びマスクフレームの大型化にともなうマスクフレームの平面度を矯正して、製品の良品率向上と品質ばらつきを低減可能となる。
【符号の説明】
【0041】
1:チャンバ、2:静電チャック、3:センサ、4:基板、5:コイル、6:マスクステージ、7:マスク、8:マスクフレーム、9:磁石
図1
図2
図3
図4
図5
図6