(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140486
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】リテーナリングの組立方法
(51)【国際特許分類】
B24B 37/32 20120101AFI20241003BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B24B37/32 Z
H01L21/304 622G
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051642
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】100169960
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 貴光
(72)【発明者】
【氏名】青木 泰雅
【テーマコード(参考)】
3C158
5F057
【Fターム(参考)】
3C158AA07
3C158CB03
3C158CB06
3C158CB10
3C158DA12
3C158DA17
3C158EA23
3C158EB01
5F057AA31
5F057AA53
5F057BA11
5F057BB03
5F057CA12
5F057DA03
5F057EC24
5F057EC25
5F057FA13
5F057FA19
5F057FA20
5F057GA27
(57)【要約】
【課題】初期撓みに起因する研磨レートの低下やスリップアウトを抑制可能なリテーナリングの組立方法を提供する。
【解決手段】リテーナリング40の組立方法であって、初期撓みを有し、ワークWを収容可能なポケット41aが略中央に形成され、下面41cが研磨パッド5に接触可能な円環状のテンプレート41を、外周にテンプレート41よりも高い複数の位置決め部92を有し、且つ中央にポケット41aよりも径の大きい凸部91を有する治具90の複数の位置決め部92の間に載置する工程と、テンプレート41とリング状のホルダ42との間に接着剤を塗布する工程と、テンプレート41の上面41b外周にホルダ42を複数の位置決め部92に従って位置決めして配置する工程と、ホルダ42上にウェイト93を積載し、ホルダ42と凸部91の高さに応じて中央側を外周部より上面41b側に撓ませたテンプレート41とを圧着させる工程と、を含む。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを研磨パッドに押し当てて研磨するCMP装置に用いられ、前記ワークを収容可能なテンプレートと前記テンプレートを保持するホルダとを備えているリテーナリングの組立方法であって、
初期撓みを有し、前記ワークを収容可能なポケットが略中央に形成され、下面が前記研磨パッドに接触可能な円環状の前記テンプレートを、外周に前記テンプレートよりも高い複数の位置決め部を有し、且つ中央に前記ポケットよりも径の大きい凸部を有する治具の前記複数の位置決め部の間に載置する工程と、
前記テンプレートと前記リング状のホルダとの間に接着剤を塗布する工程と、
前記テンプレートの上面外周に前記ホルダを前記複数の位置決め部に従って位置決めして配置する工程と、
前記ホルダ上にウェイトを積載し、前記ホルダと前記凸部の高さに応じて中央側を外周部より上面側に撓ませた前記テンプレートとを圧着させる工程と、
を含むことを特徴とするリテーナリングの組立方法。
【請求項2】
前記凸部の高さは、0.18mm以上0.7mm未満に設定されていることを特徴とする請求項1に記載のリテーナリングの組立方法。
【請求項3】
前記テンプレートの初期撓みは、0.18mm乃至0.33mmに設定されていることを特徴とする請求項2に記載のリテーナリングの組立方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CMP装置に用いられ、ワークを収容可能なリテーナリングの組立方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製造分野では、シリコンウェハ等の半導体ウェハ(以下、「ワーク」という)を平坦化するCMP装置が知られている。
【0003】
特許文献1記載の研磨装置は、化学的機械的研磨、いわゆるCMP(Chemical Mechanical Polishing)技術を適用した研磨装置である。この研磨装置では、研磨時に研磨布に押し付けられる円環状のテンプレートの上面に弾性基材が貼着され、弾性基材とテンプレートのポケット内に収容されたウェハとの間にはバッキングフィルムが介在し、研磨ヘッドのキャリアと弾性部材との間には、エア室が形成されている。エア室にエアが供給されると、弾性基材がエアの圧力で下方に弾性変形してワークを研磨布に押し付けて研磨する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、テンプレートには、個々に異なる態様の初期撓みが存在する。
図9に示すように、中央に収容ポケット101aが形成されたテンプレート101は、テンプレート101の上面101b外周に圧着されてテンプレート101を保持するホルダ102とともにリテーナリング100を構成し、バッキングフィルム103に保持されたワークW及びテンプレート101の下面101cが、研磨パッド104に押し当てられる。このとき、テンプレート101の外周側の撓みは、ホルダ102によって補正されている一方、テンプレート101の中央側に生じた初期撓みが残存している。
【0006】
例えば、
図10に示すように、テンプレート101の中央側が外周側より過度に上面101b側に位置する上反りの初期撓みがテンプレート101に残存する場合、ワークWがバッキングフィルム103に密着せず脱落し易く、テンプレート101の中央側が過度に研磨パッド104から過度に浮くため、テンプレート101と研磨パッド104との隙間からワークWが飛び出すスリップアウトが生じる虞があった。さらに、ワークWを研磨する際にテンプレート101の外周側が研磨パッド104に接触してワークWの研磨レートが低下しがちであった。
【0007】
また、
図11に示すように、テンプレート101の中央側が外周側より下面101c側に位置する下反りの初期撓みがテンプレート101に残存する場合、下面101cの中央側が研磨パッド104に過剰に押し付けられる分だけ、ワークWの研磨レートが著しく低下する虞があった。
【0008】
そこで、ワークを効率良く且つ安全に研磨するために解決すべき技術的課題が生じるのであり、本発明はこの課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係るリテーナリングの組立方法は、ワークを研磨パッドに押し当てて研磨するCMP装置に用いられ、前記ワークを収容可能なテンプレートと前記テンプレートを保持するホルダとを備えているリテーナリングの組立方法であって、初期撓みを有し、前記ワークを収容可能なポケットが略中央に形成され、下面が前記研磨パッドに接触可能な円環状の前記テンプレートを、外周に前記テンプレートよりも高い複数の位置決め部を有し、且つ中央に前記ポケットよりも径の大きい凸部を有する治具の前記複数の位置決め部の間に載置用意する工程と、前記テンプレートと前記リング状のホルダとの間に接着剤を塗布する工程と、前記テンプレートの上面外周に前記ホルダを前記複数の位置決め部に従って位置決めして配置する工程と、前記ホルダ上にウェイトを積載し、前記ホルダと前記凸部の高さに応じて中央側を外周部より上面側に撓ませた前記テンプレートとを圧着させる工程と、を含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、初期撓みに起因する研磨レートの低下やスリップアウトを抑制して、ワークを効率良く且つ安全に研磨することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係るCMP装置を模式的に示す斜視図。
【
図3】(a)弾性押圧部材の構造を示す縦断面図、(b)弾性押圧部材内で区分された4つのゾーンの位置関係を示す底面図。
【
図4】リテーナリングを組み立てる手順を示す模式図。
【
図5】リテーナリングの段差を計測する手順を示す模式図。
【
図10】過度な上反りの初期撓みが残存した従来のテンプレートを用いた研磨の様子を示す模式図。
【
図11】下反りの初期撓みが残存した従来のテンプレートを用いた研磨の様子を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。なお、以下では、構成要素の数、数値、量、範囲等に言及する場合、特に明示した場合及び原理的に明らかに特定の数に限定される場合を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でも構わない。
【0013】
また、構成要素等の形状、位置関係に言及するときは、特に明示した場合及び原理的に明らかにそうでないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似又は類似するもの等を含む。
【0014】
また、図面は、特徴を分かり易くするために特徴的な部分を拡大する等して誇張する場合があり、構成要素の寸法比率等が実際と同じであるとは限らない。また、断面図では、構成要素の断面構造を分かり易くするために、一部の構成要素のハッチングを省略することがある。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態に係るCMP装置1を模式的に示す斜視図である。CMP装置1は、ワークWの一面を平坦に研磨するものである。ワークWは、例えば、シリコンウェハであるがこれに限定されるものではない。CMP装置1は、プラテン2と、研磨ヘッド10と、を備えている。
【0016】
プラテン2は、円盤状に形成されており、プラテン2の下方に配置された回転軸3に連結されている。回転軸3がモータ4の駆動によって回転することにより、プラテン2は
図1中の矢印D1の方向に回転する。プラテン2の上面には、研磨パッド5が貼付されており、研磨パッド5上に図示しないノズルから研磨剤と化学薬品との混合物であるCMPスラリーが供給される。
【0017】
研磨ヘッド10は、プラテン2より小径の円盤状に形成されており、研磨ヘッド10の上方に配置された回転軸10aに連結されている。回転軸10aが図示しないモータの駆動によって回転することにより、研磨ヘッド10は、
図1中の矢印D2の方向に回転する。研磨ヘッド10は、図示しない昇降装置によって垂直方向Vに昇降自在である。研磨ヘッド10は、ワークWを研磨する際に下降して研磨パッド5にワークWを押圧する。研磨ヘッド10が研磨するワークWは、図示しないウェハ搬送機構によって受け渡される。
【0018】
CMP装置1の動作は、図示しない制御部によって制御される。制御部は、CMP装置1を構成する構成要素をそれぞれ制御するものである。制御部は、例えばコンピュータであり、CPU、メモリ等により構成される。なお、制御部の機能は、ソフトウェアを用いて制御することにより実現されても良く、ハードウェアを用いて動作するものにより実現されても良い。
【0019】
次に、研磨ヘッド10について、
図2に基づいて説明する。
図2は、研磨ヘッド10の要部を模式的に示す縦断面図である。なお、
図2では、後述する弾性押圧部材70を省略している。
【0020】
研磨ヘッド10は、ヘッド本体20と、キャリア30と、リテーナリング40と、メンブレンフィルム50と、バッキングフィルム60と、を備えている。
【0021】
ヘッド本体20は、回転軸10aに接続されており、回転軸10aが図示しないモータの駆動によって回転することにより、回転軸10aと共に回転する。ヘッド本体20は、回転部21を介してヘッド本体20の下方に配置されたキャリア30に連結されており、ヘッド本体20及びキャリア30は連動して回転する。
【0022】
キャリア30には、キャリア30の周縁に等間隔に離間して配置されたエアライン31が設けられている。エアライン31の下端は、キャリア30の下面30aとメンブレンフィルム50との間に形成されたエア室Aに開口している。エアライン31は、図示しないエア供給手段としてのエア供給源に接続されており、エア室Aには、エアライン31を介してエアが導入される。エアライン31に供給されるエアの圧力は、図示しないレギュレータによって調整される。エア室A内に供給されたエアは、キャリア30の外周縁に形成されたリムによってメンブレンフィルム50の上方にエア層を形成し、メンブレンフィルム50全面を下方に押圧する。
【0023】
ヘッド本体20とキャリア30との間には、キャリア押圧手段32が設けられている。キャリア押圧手段32は、図示しないエア供給源から供給されるエアによって膨張するエアバッグ等である。エア供給源から供給されるエアの圧力は、図示しないレギュレータによって調整される。キャリア押圧手段32は、供給されるエアの圧力に応じて、キャリア30を介してワークWを研磨パッド5に押圧する。
【0024】
リテーナリング40は、キャリア30の周囲を囲むように配置されている。リテーナリング40は、テンプレート41と、ホルダ42と、を備えている。
【0025】
テンプレート41は、例えば、ガラスエポキシ、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)又はポリフェニレンサルファイド(PPS)等の樹脂から成る。テンプレート41は、円環状に形成されており、略中央にワークWを収容する収容ポケット41aを備えている。
【0026】
ホルダ42は、リング状に形成され、下面42aがテンプレート41の上面41b外周にメンブレンフィルム50を介して接合されていることにより、テンプレート41を保持する。ホルダ42は、スナップリング43を介してリテーナ押圧部材44に取り付けられている。ヘッド本体20とリテーナ押圧部材44との間には、リテーナ押圧手段45が設けられている。なお、符号46は、スナップリング43の上方を覆うカバーである。
【0027】
リテーナ押圧手段45は、図示しないエア供給源から供給されるエアによって膨張するエアバッグ等である。エア供給源から供給されるエアの圧力は、図示しないレギュレータによって調整される。リテーナ押圧手段45は、供給されるエアの圧力に応じてリテーナリング40を研磨パッド5に向けて押圧する。
【0028】
メンブレンフィルム50は、収容ポケット41aを覆うようにテンプレート41の上面41bに貼着されるとともに周縁がリテーナリング40に挟持されており、エア室Aに圧縮空気が導入されると、収容ポケット41a内で下方に向かって弾性変形する。
【0029】
メンブレンフィルム50は、適度な強度と柔軟性を兼ね備えた材料が好ましく、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)又はポリエチレンテレフタレート(PET)等の樹脂が好ましい。メンブレンフィルム50には、物性及び入手性の観点からPEEKが特に好ましいが、PPSやPETであってもヤング率がPEEKに近く、また比較的に容易に入手できるため好ましい。
【0030】
バッキングフィルム60は、例えば、スウェードフィルムである。バッキングフィルム60は、その中心が研磨ヘッド10の回転軸10a上に位置決めされた状態でメンブレンフィルム50に貼着されている。バッキングフィルム60は、エア室Aに圧縮空気が導入されると、メンブレンフィルム50の弾性変形に伴って弾性変形してワークWを加圧する。
【0031】
図3(a)に示すように、キャリア30の下面30aには、研磨ヘッド10の回転軸10aと同軸上に配置された弾性押圧部材70が設けられている。弾性押圧部材70は、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)製、フッ素樹脂(PFA)製又はポニフェニレンサルファイド(PPS)製である。PFAは、吸水率が低く適度に柔軟性があって伸びや変形に強い。PPSは、吸水率が低く、伸びや変形に強い上、PFAに比べて安価である。
【0032】
弾性押圧部材70の上面には4本のリム71が立設されており、各リム71は、キャリア30と弾性押圧部材70との間に介装されたレイアウトベース80の環状溝81に挿入されている。リム71は、2液性エポキシ樹脂接着剤等でレイアウトベース80に着脱自在に貼着されている。レイアウトベース80は、図示しないボルトでキャリア30に締結されている。
【0033】
弾性押圧部材70は、リム71を境にして4つのゾーンに区分されている。各ゾーンは、ゾーンエアライン82を介してエア供給源に接続されており、エア供給源から供給されるエアによって独立して膨張可能である。これにより、弾性押圧部材70は、4つに区分されたゾーンが独立して膨張可能に構成される。以下、弾性押圧部材70が区分された各領域を、
図3(b)に示すように、研磨ヘッド10の外周側から内周側に向かって順に「ゾーンZ1~Z4」とそれぞれ称す。
【0034】
このような構成により、
図3(a)に示すように、CMP装置1は、エア室A内に供給される圧縮空気がキャリア30に加えられる押圧力をメンブレンフィルム50を介してワークWに伝えることで、均一な圧力分布でワークWを研磨パッド5に押圧してワークWを研磨することができる。
【0035】
また、弾性押圧部材70の各ゾーンZ1~Z4を圧縮空気の圧力に応じてそれぞれ独立して膨張させることにより、ゾーンZ1~Z4を選択的に加圧して、ワークWを局所的に研磨することができる。
【0036】
すなわち、CMP装置1では、ワークWに作用する研磨圧力は、ゾーンZ1~Z4内のエア圧に応じて弾性押圧部材70がメンブレンフィルム50を押圧する圧力と、エア室A内のエア圧に応じてメンブレンフィルム50がワークWを押圧する圧力とを合算したものである。
【0037】
そして、CMP装置1では、ゾーンZ1~Z4の境界付近では、硬質の弾性押圧部材70がメンブレンフィルム50を押圧しない分だけ圧力降下が発生する。しかしながら、メンブレンフィルム50が有する剛性によって、上述した弾性押圧部材70の境界付近における圧力降下が吸収されて、ワークWに作用する圧力がワークW全面において連続し、緩やかに変化する研磨形状を得ることができる。
【0038】
次に、リテーナリング40の組立方法について、
図4に基づいて説明する。
【0039】
まず、テンプレート41を用意する。次に、テンプレート41の上面41bにメンブレンフィルム50を貼り付け、続けて、収容ポケット41a内でバッキングフィルム60をメンブレンフィルム50に貼り付ける。これにより、
図4(a)に示すように、テンプレート41、メンブレンフィルム50及びバッキングフィルム60が一体化される。
【0040】
次に、
図4(b)に示すように、上面41bを上方に向けた状態で、テンプレート41を治具90上に載置する。このとき、テンプレート41の中央側が、治具90の中央に形成された凸部91に支持される。凸部91の外径は、収容ポケット41aの径より大径に設定されており、例えば、収容ポケット41aの径が101mmの場合には、凸部91の外径を107mmに設定する。なお、凸部91の高さは、テンプレート41及びバッキングフィルム60が大きく歪む高さ、例えば0.7mmより小さく設定され、厚み0.123mm、外径約177mmのPEEK製のテンプレート41に対応する凸部91は、高さ0.18mmに設定される。なお、凸部91の高さは、0.18mmに限定されるものではなく、テンプレート41の材質や外径等に応じて任意に変更可能である。
【0041】
また、治具90の外周には、複数の位置決め部92が形成されている。位置決め部92は、例えば、互いに等間隔で略同心円状に6本設けられている。位置決め部92の高さは、テンプレート41の高さより高く設定されている。位置決め部92がテンプレート41の外周面に接触することにより、テンプレート41の中心が治具90の中心と略一致するようにテンプレート41が位置決めされる。また、位置決め部92は、リテーナリング40の組立時にテンプレート41がずれることを抑制している。
【0042】
次に、ホルダ42をテンプレート41の上面41b上に載置する。ホルダ42の外周面が、位置決め部92に接触して又は位置決め部92にしたがって配置することにより、ホルダ42の中心がテンプレート41の中心と略一致するように、ホルダ42が位置決めされている。そして、テンプレート41の上面41bとホルダ42の下面42aとの間に接着剤を塗布し、
図4(c)に示すように、ホルダ42上にウェイト93を積載して、ホルダ42をテンプレート41に圧着させる。ホルダ42の圧着時間は、接着剤が乾燥するまでの所要時間に応じて適宜調整可能であり、例えば24時間に設定される。
【0043】
このとき、ウェイト93がホルダ42を介してテンプレート41の外周部を治具90に押さえ付けることにより、テンプレート41の外周部における初期撓みは略平坦に補正される。また、凸部91がテンプレート41の中央側を支持した状態で、ウェイト93がテンプレート41の上面41bの外周部を下方に押し付けるため、テンプレート41の中央側が外周側より上面41b側に高く僅かに撓んでいる。
【0044】
そして、
図4(d)に示すように、治具90及びウェイト93を取り外す。治具90及びウェイト93が取り除かれたリテーナリング40では、テンプレート41とホルダ42との接合部分においてテンプレート41の中央側を外周部より上面41b側に撓ませる圧縮応力が残存しており、テンプレート41には、凸部91の高さに応じた初期撓みが残存している。
【0045】
このように、テンプレート41の中央側が外周側より上面41b側に僅かに上反った初期撓みをテンプレート41に付与することにより、ワークWがバッキングフィルム60に安全に吸着され、またテンプレート41の中央側から外周側に亘って研磨パッド5に適度に接触可能でワークWのスリップアウトが抑制され、さらに研磨パッド5に対してテンプレート41の一部が過度に接触することが抑制されてワークWを効率良く研磨することができる。
【0046】
そして、本願発明者は、鋭意研究を重ねた結果、テンプレート41の初期撓みに応じて算出される「段差」を管理することにより、ワークWの研磨に好適なテンプレート41を安定して得られることを知見した。以下、テンプレート41の評価方法について、
図5に基づいて説明する。
【0047】
まず、
図5(a)に示すように、テンプレート41の上面41b側を下方に向けた状態で、テンプレート41が第1の計測台94に支持されるように、リテーナリング40を第1の計測台94上に載置する。
【0048】
次に、計測器95が、テンプレート41の外周部が第1の計測台94に押し付けられてテンプレート41の初期撓みが矯正された状態で、テンプレート41の下面41c側からバッキングフィルム60の下面60aの平面度(第1の平面度)を計測する。
【0049】
次に、
図5(b)に示すように、テンプレート41の上面41b側を下方に向けた状態で、ホルダ42が第2の計測台96に支持されるように、リテーナリング40を第2の計測台96上に載置する。
【0050】
次に、計測器95が、テンプレート41の外周部が第2の計測台96に押し付けられてテンプレート41の初期撓みが発現した状態で、テンプレート41の下面41c側からバッキングフィルム60の下面60aの平面度(第2の平面度)を計測する。なお、第1、第2の平面度は、テンプレート41の下面41cの外周端の高さをゼロとし、上方に向かう向きを正に設定した。また、計測器95には、例えば、株式会社ミツトヨ製ダイヤルゲージ(型番:1D-C112)等を用いることができる。
【0051】
そして、第1の平面度から第2の平面度を減じた数値(以下、「段差」という)を算出する。
図10に示す過度に上反りの初期撓みを示すテンプレート41の段差の一例は、第1の平面度0.133mm、第2の平面度―0.352mm、段差0.469mmである。また、
図11に示す下反りの初期撓みを示すテンプレート41の段差の一例は、第1の平面度0.102mm、第2の平面度―0.021mm、段差0.123mmである。一方、
図4(d)に示すように、厚み0.123mm、外径約177mmのPEEK製のテンプレート41を高さ0.18mmの凸部91で適度な上反りの初期撓みを形成したテンプレート41の段差の一例は、第1の平面度0.128mm、第2の平面度―0.119mm、段差0.245mmである。
【実施例0052】
(実験例1)
上述した実施形態に係る手順で組み立てられたリテーナリングである実施例1、及び従来の方法で組み立てられたリテーナリングである比較例1~2を用意し、それぞれを用いてワークWを研磨した際のワークWの研磨レートを比較した。なお、比較例1~2の組立方法は、治具90を用いてテンプレート41を上反りに撓ませた状態でテンプレート41の上面41bにホルダ42を圧着した点を除き、上述した本発明に係るリテーナリングの組立方法と同様である。
【0053】
本実験例では、実施例1に係るテンプレート41として、厚み0.123mm、外径約177mmのPEEK製のテンプレート41に高さ0.18mmの凸部91で上反りの初期撓みを形成したものを用意した。このようにして得られた実施例1に係るテンプレート41の段差は、0.245mmであった。また、比較例1、2に係るテンプレートの段差は、それぞれ0.285mm、0.123mmであった。すなわち、実施例1及び比較例1に係るテンプレートは、適度な上反りの初期撓みを示すものであり、比較例2に係るテンプレートは、中央側が外周側より下面側に低い下反りの初期撓みを示すものである。
【0054】
本評価で設定された主な研磨条件は、表1の通りである。また、研磨ヘッドの回転中心から径方向に向かって45~65mmのゾーンZ1の圧力を3.9psiに設定し、他のゾーンZ2~Z4の圧力は0psiに設定した。
【0055】
【0056】
図6(a)、(b)は、本実験例の結果を示すグラフであり、縦軸に研磨レート、横軸に研磨ヘッドの回転中心を原点とした径方向座標を表している。所定範囲内に収まる高い研磨レート(高レート)は、良品レートと判定され、良品レート範囲内の研磨レートを実現するリテーナリングが良品と判定される。以下では、良品レートと判定される所定範囲内の高レートを「良品レート範囲」という。良品レート範囲は、例えば、210mm/min~250mm/minであるが、この範囲に限定されるものではない。また、
図6(a)、(b)に示す研磨レートのワークW全面の平均値(以下、単に「平均研磨レート」という)は、実施例1が220mm/min、比較例1が239mm/min、比較例2が184mm/minであった。
【0057】
図6(a)、(b)によれば、実施例1は、比較例1に比べて、遜色ない平均研磨レートを示すとともに、ワークW全面に亘って安定した研磨レートを示すことが分かる。また、実施例1は、比較例2に比べて、ワークW全面に亘って安定して且つ優れた研磨レートを示すことが分かる。
【0058】
(実験例2)
次に、上述した実施形態に係る手順で組み立てられたリテーナリングである実施例1~5及び従来の方法で組み立てられたリテーナリングである比較例1~13を用意し、各テンプレートの段差を計測し、またワークWを研磨した際の研磨レートの良否及びスリップアウトの発生有無を評価し、その結果を
図7に示す。なお、本実験例で用いた実施例2~4の組立方法は、実験例1で用いた実施例1の組立方法と同様であり、本実験例で用いた比較例3~13の組立方法は、実験例1で用いた比較例1~2の組立方法と同様である。また、本実験例の研磨条件は、実験例1で説明した研磨条件と同様である。
【0059】
図7は、縦軸に段差を表している。
図7によれば、比較例1、3、4、10~12及び実験例1~5は、高い研磨レート(良品レート)を示した。これらの段差の範囲は、0.18~0.33である。
【0060】
一方、比較例6、7は、実験例1~5等と比較して低い研磨レート(中間レート)を示した。また、比較例2は、比較例6~7よりさらに低い研磨レート(低レート)を示した。さらに、比較例5、8、9、13は、ワークWの吸着エラーが生じ、スリップアウトが発生した。すなわち、本実験によれば、
図7中の実線で囲った段差0.13~0.33に対応した上反りの初期撓みをテンプレート41に付与することにより、初期撓みに由来する研磨レートの低下やワークWのスリップアウトを抑制可能なテンプレート41を安定して得られることが分かる。
【0061】
次に、実施例1~5及び比較例2、4、5、8、11における、テンプレートの段差とリテーナリングの研磨レートを表2に示す。また、表2に示す段差と研磨レートの関係を
図8に示す。
図8において、縦軸は、研磨レート(平均研磨レート)を表し、縦軸は段差を表している。
【0062】
【0063】
図8中の1点破線は、実施例1~5及び比較例2、4、11に対応する各点の一次近似式を示す。一次近似式によれば、良品レート範囲の下限(210nm/min)に対応するテンプレートの段差が、0.18mmであることが分かる。また、テンプレートの段差が0.18~0.33mmに設定された場合、研磨レートが良品レートを示すことが分かる。さらに、比較例5、8のようにテンプレートの段差が0.33mmより著しく大きい場合には、研磨レートが良品レート範囲から外れることが分かる。
【0064】
また、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り、上記以外にも種々の改変を為すことができ、そして、本発明が該改変されたものに及ぶことは当然である。