(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140494
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】アレルギー反応供試食品、及びアレルギー反応供試食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 25/00 20160101AFI20241003BHJP
【FI】
A23L25/00
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051654
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000004477
【氏名又は名称】キッコーマン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】大嶋 麻里子
(72)【発明者】
【氏名】竹内 崇裕
【テーマコード(参考)】
4B036
【Fターム(参考)】
4B036LC06
4B036LE02
4B036LH09
4B036LH12
4B036LH28
4B036LP05
4B036LP09
4B036LP17
(57)【要約】
【課題】ナッツを唯一のアレルゲンとして含み、誤嚥のリスク無く、乳児に提供が可能であるアレルギー反応供試食品、及びアレルギー反応供試食品の製造方法を提供する。
【解決手段】ナッツと、澱粉と、デキストリンとを含有し、ナッツ由来のアレルゲン以外のアレルゲンを含まない、所定形状の凍結乾燥物からなるアレルギー反応供試食品を提供するものである。ナッツはペースト状であり、その最大粒子径は900μm以下であることが好ましく、1個当たりのナッツの含有量が、凍結乾燥前重量で0.02~4.2gであることが好ましく、使用時に水又は湯に溶解してペースト状にして利用されることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナッツと、澱粉と、デキストリンとを含有し、ナッツ由来のアレルゲン以外のアレルゲンを含まない、所定形状の凍結乾燥物からなるアレルギー反応供試食品。
【請求項2】
前記ナッツはペースト状であり、その最大粒子径が900μm以下である、請求項1記載のアレルギー反応供試食品。
【請求項3】
1個当たりのナッツの含有量が、凍結乾燥前重量で0.02~4.2gである、請求項1記載のアレルギー反応供試食品。
【請求項4】
凍結乾燥前重量で、ナッツ1~21質量%、デキストリン2~20質量%含有し、凍結乾燥前におけるボストウィック粘度計の25℃における粘度が10cm/30秒以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載のアレルギー反応供試食品。
【請求項5】
前記デキストリンは、DE値が10以下のデキストリンと、DE値10以上のマルトデキストリンとを含み、該マルトデキストリンが、前記デキストリンの総量の24~65質量%である、請求項4に記載のアレルギー反応供試食品。
【請求項6】
1個当たりの凍結乾燥後重量が0.2~5.0gである、請求項4に記載のアレルギー反応供試食品。
【請求項7】
前記ナッツは、落花生、アーモンド、くるみ、カシューナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、ヘーゼルナッツ、ペカンナッツ、ブラジルナッツから選ばれた1種のナッツである、請求項4に記載のアレルギー反応供試食品。
【請求項8】
使用時に水又は湯に溶解してペースト状にして利用される、請求項4に記載のアレルギー反応供試食品。
【請求項9】
1個ずつ個包装されている、請求項4に記載のアレルギー反応供試食品。
【請求項10】
ナッツペーストと、澱粉と、デキストリンとを含有する原料に水を添加混合してペースト状にするペースト原料調製工程と、該ペースト原料を所定形状に成形して凍結乾燥する凍結乾燥工程とを含むことを特徴とするアレルギー反応供試食品の製造方法。
【請求項11】
前記成型時の形状をブロック状にするか、あるいは前記凍結乾燥工程で得られた凍結乾燥物をブロック状にカットすることにより、ブロック状の凍結乾燥物を得る、請求項10記載のアレルギー反応供試食品の製造方法。
【請求項12】
1個当たりのナッツの含有量が、凍結乾燥前重量で0.02~4.2gとなるように、前記ブロック状の凍結乾燥物の重量を調整する、請求項10又は11記載のアレルギー反応供試食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アレルギー反応供試食品、及びアレルギー反応供試食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳児に離乳食を与える際に最も注意しなければならないものの1つに、アレルゲンがある。離乳食期は様々な食材を乳児が初めて口にする機会も多く、全ての食材はアレルゲンとなり得るので、乳児がアレルゲンに対しアレルギー反応を示すかどうかは保護者の不安の一つでもある。しかしながら、市販の離乳食には、様々なアレルゲンが含まれている可能性があり、乳児がアレルギー反応を示した場合に、その原因であるアレルゲンが特定しにくかった。また、アレルゲンの量も不明なため、アレルギーを発症した場合に重篤な症状となる危険性があった。
【0003】
また、近年、ナッツのアレルギーが増加しており、幼少期で新規にアレルギーを発症する原因食物として注目されている。ナッツのアレルギー症状は重篤である場合が多く、少量でも発症しやすい。ナッツは菓子類やドレッシングなど様々な加工食品に使用されているために、無自覚に摂取する場合が多いので、欧米をはじめとした海外では、早いうちに摂取することで発症予防につながると考えられている。
【0004】
しかしながら、ナッツを乳児に与えることは困難を伴う。5歳以下の子どもにナッツをそのまま食べさせると、喉頭や気管に詰まり、窒息の原因となることが指摘されている。小さく砕いた場合でも、気管に入り込んで肺炎や気管支炎の原因となり得る。また、ピーナッツバター等の市販品のナッツペーストは、多くの場合、ナッツ以外に砂糖や大豆油などの他の原料を含んでおり、また高い粘稠性を有するため、乳児に与える離乳食やアレルギーの供試食品として適さない。そのため、家庭での調理を必要とせず、かつ誤嚥のリスク無く乳児にナッツを与えることができるアレルギーの供試食品が求められていた。
【0005】
ここで、従来、アレルギー供試食品として、下記特許文献1に示されるようなアレルギー負荷試験用の焼き菓子や、下記特許文献2に示されるようなアレルギー診断用の果汁飲料といった製品が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-10387号公報
【特許文献2】特許3679145号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に示されるような焼き菓子、上記特許文献2に示されるような果汁飲料といった形態は、乳児に与える離乳食として適さないという課題があった。具体的には、乳児に与える場合、特許文献1のような焼き菓子の形態では誤嚥の恐れがあり、特許文献2のような果汁飲料の形態では下記の理由により酸味や甘味など調味されていることが好ましくない。
【0008】
乳児は消化器官の発達が未熟であり、成人より味を感じる味蕾の数が多く味覚が敏感であるので、調味をしないことが推奨される。離乳食期(月齢5ヶ月以降)においては、離乳食初期(月齢5~6ヶ月)では調味をしないことが推奨され、離乳食中期(月齢7~8ヶ月)にごく少量の調味が可となり、離乳食完了期(1歳以降)に一般的な調味料の使用が少量ではあるが可能となる。一般的に、離乳食初期を含む離乳食完了期以前においてもアレルギーの供試は始められ得ることから、1歳半未満の乳児にも提供が可能であるアレルギーの供試食品が求められていた。
【0009】
本発明は、上記に鑑み、ナッツを唯一のアレルゲンとして含み、誤嚥のリスク無く、乳児に提供が可能であるアレルギー反応供試食品、及びアレルギー反応供試食品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的達成のため、鋭意検討の結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、ナッツと、澱粉と、デキストリンとを含有し、ナッツ由来のアレルゲン以外のアレルゲンを含まない、所定形状の凍結乾燥物からなるアレルギー反応供試食品を提供するものである。
【0011】
本発明のアレルギー反応供試食品において、前記ナッツはなめらかなペースト状であり、その最大粒子径は900μm以下であることが好ましい。
【0012】
本発明のアレルギー反応供試食品において、1個当たりのナッツの含有量が、凍結乾燥前重量で0.02~4.2gであることが好ましい。
【0013】
本発明のアレルギー反応供試食品において、凍結乾燥前重量で、ナッツ1~21質量%、デキストリン2~20質量%含有し、かつ凍結乾燥前の25℃におけるボストウィック粘度が10cm/30秒以上であることが好ましい。
【0014】
本発明のアレルギー反応供試食品において、前記デキストリンは、DE値が10以下のデキストリンと、DE値10以上のマルトデキストリンとを含み、該マルトデキストリンが、前記デキストリンの総量の24~65質量%であることが好ましい。
【0015】
本発明のアレルギー反応供試食品において、1個当たりの凍結乾燥後重量が0.2~5.0gであることが好ましい。
【0016】
本発明のアレルギー反応供試食品において、前記ナッツは、落花生、アーモンド、くるみ、カシューナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、ヘーゼルナッツ、ペカンナッツ、ブラジルナッツから選ばれた1種のペーストであることが好ましい。
【0017】
本発明のアレルギー反応供試食品において、使用時に水又は湯に溶解してペースト状にして利用されることが好ましい。
【0018】
本発明のアレルギー反応供試食品において、1個ずつ個包装されていることが好ましい。
【0019】
更に、本発明は、ナッツと、澱粉と、デキストリンとを含有する原料に水を添加混合してペースト状にするペースト原料調製工程と、該ペースト原料を所定形状に成形して凍結乾燥する凍結乾燥工程とを含むことを特徴とするアレルギー反応供試食品の製造方法を提供するものである。
【0020】
本発明のアレルギー反応供試食品の製造方法において、前記成型時の形状をブロック状にするか、あるいは前記凍結乾燥工程で得られた凍結乾燥物をブロック状にカットすることにより、ブロック状の凍結乾燥物を得ることが好ましい。
【0021】
本発明のアレルギー反応供試食品の製造方法において、1個当たりのナッツの含有量が、凍結乾燥前重量で0.02~4.2gとなるように、前記ブロック状の凍結乾燥物の重量を調整することが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ナッツと、澱粉と、デキストリンとを含有するので、ペースト原料を調製したとき、ナッツを均一に分散させて、1個当たりのナッツの含有量を均一にできることにより、アレルギー反応が生じた場合にも、反応が過剰とならないよう、ナッツの含有量を調整することができる。
また、凍結乾燥物であるため、保存性に優れており、水やお湯を添加混合することにより、容易にペースト状にすることができ、乳幼児に対して食べさせやすい形態にすることができる。
更に、ナッツ由来のアレルゲン以外のアレルゲンをほぼ含まないので、アレルギー反応が出た際はナッツに対するアレルゲン反応を明確に試験することができる。また、食物アレルギー診断後の治療において、食物経口負荷試験に基づいた栄養食事指導の際に供する食品としても使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明のアレルギー反応供試食品、及びアレルギー反応供試食品の製造方法について、好ましい態様を挙げて、更に詳しく説明する。
【0024】
本発明のアレルギー反応供試食品は、ナッツと、澱粉と、デキストリンとを含有し、ナッツ由来のアレルゲン以外のアレルゲンを含まない、所定形状の凍結乾燥物からなる。
【0025】
本発明のアレルギー反応供試食品に用いるナッツは、当該供試食品中のアレルゲンを均一に分散させ、また乳児が食べやすい形状にするために、ペースト状であることが好ましい。本発明のアレルギー反応供試食品に用いるナッツペーストは、原料であるナッツを粉砕処理することにより得ることができる。上記ナッツペーストの原料となるナッツの種類は特に限定されないが、例えば、落花生(ピーナッツ)、アーモンド、くるみ、カシューナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、ヘーゼルナッツ、ペカンナッツ、ブラジルナッツ等を挙げることができ、品種や産地等、特に限定せず使用することができる。これらのナッツ類は、成長と共に日常的に摂取される機会が多くなり、乳幼児期にもアレルギー症状を起こしやすいものである。また、ナッツは、精選、粗砕、脱皮、焙煎、乾燥等の処理を行ったものを用いることができる。
【0026】
上記粉砕処理の方法としては、例えば攪拌粉砕、圧縮粉砕、せん断粉砕、高速粉砕等を挙げることができる。例えばコロイドミル、ロールミル、カッターミル、ハイスピードミルなどの各種粉砕機を用いることができ、ナッツの種類に応じて適宜選択することができる。なお、ナッツの粉砕処理工程は、他の原料と混合する工程である原料調製工程の前後どちらに行ってもよいが、ナッツを容易に定量できることから、原料調製工程の前に行うことが好ましい。
【0027】
粉砕されてペースト状となった上記ナッツの粒子径は、特に限定されないが、最大粒子径が900μm以下であることが好ましい。最大粒子径が900μm以下であると、他の原料と混合して凍結乾燥前のアレルギー反応供試食品を調製したとき、ナッツが均一に分散しやすくなり、1個当たりのナッツの含有量をより均一にすることができる。
なお、本発明における最大粒子径は、上記ナッツペーストを温水に分散混合したものをサンプルとして用い、レーザー回折・散乱法によって該サンプル中の粒子の直径分布を測定し、得られた直径分布から得られたものである。最大粒子径を測定する方法は限定されず、上述の通りレーザー回折式粒度分布測定装置を用いた粒子径解析-レーザ回折・散乱法(ISO13320、ISO9276、JISZ8825:2013)など本技術分野における通常の方法により行ってよい。レーザー回折式粒度分布測定装置としては、例えば、商品名「SALD-2300」、株式会社島津製作所 社製のものを用いることができ、同装置で測定される最大粒子径をもって、本発明の最大粒子径とすることができる。
【0028】
本発明のアレルギー反応供試食品において、後述の通り1個当たりのアレルギー反応供試食品は凍結乾燥前重量で2.0~20.0gが好ましい。よって、1個当たりのアレルギー反応供試食品に含有される上記ナッツ量は、凍結乾燥前重量で0.02~4.2gであることが好ましく、0.05~1.25gであることがより好ましく、0.05~0.5gであることが更に好ましい。1個当たりのナッツの含有量が、凍結乾燥前重量で0.02~4.2gであることにより、アレルギー反応が生じた場合にも、反応が過剰となることを回避することができる。
【0029】
本発明のアレルギー反応供試食品に用いる澱粉としては、食用として利用可能な澱粉でであればよく、特に制限なく用いることができる。例えば、コーンスターチ、タピオカ、米澱粉、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、緑豆澱粉、片栗澱粉、葛澱粉、蕨澱粉、サゴ澱粉等が挙げられる。また、いずれの澱粉においても通常の澱粉に加え、ウルチ種、ワキシー種、ハイアミロース種のように、育種学的手法もしくは遺伝子工学的手法において改良されたものを用いてもよい。
【0030】
更に、本発明においては、澱粉として、未加工の生澱粉が好ましいが、各種加工処理を施した加工澱粉を使用することも可能である。すなわち、澱粉に、酸化処理、エステル化処理、エーテル化処理、架橋処理といった化学修飾処理や、α化処理、造粒処理、湿熱処理、ボールミル処理、微粉砕処理、加熱処理、温水処理、漂白処理、殺菌処理、酸処理、アルカリ処理、酵素処理といった加工処理、あるいはそれらの2種以上の処理を施した澱粉を使用してもよい。
なお、本発明で用いる澱粉としては、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、もち米澱粉、コーンスターチが好ましい。さらに、馬鈴薯澱粉がより好ましい。馬鈴薯澱粉は、他の澱粉に比べて少量で目的の粘性を付与でき、凍結乾燥品中に占める澱粉量を増やさず済むため、結果として出来上がった凍結乾燥品の溶解性が良好となる。なお、本発明のアレルギー反応供試食品において、馬鈴薯澱粉の含有量は、凍結乾燥前重量で0.9~2.1質量%が好ましい。
【0031】
本発明のアレルギー反応供試食品に用いるデキストリンとしては、食用として利用可能なデキストリンであればよく、特に制限なく用いることができる。また、本発明においては、一般にデキストリンと呼称されるデキストロース当量(DE)値10以下のデキストリン(以下「一般デキストリン」と称することがある)に加え、DE値が10以上のマルトデキストリンも用いることができる。例えば、白色デキストリン、黄色デキストリン、ブリティッシュガム、酵素変性デキストリン、酸変性デキストリン、焙焼デキストリン、酸添加焙焼デキストリン、酵素分解デキストリン、酸分解デキストリン、熱変性デキストリン、難消化性デキストリン、還元難消化性デキストリン、還元デキストリン等を必要に応じて適宜用いることができる。
【0032】
本発明のアレルギー反応供試食品において、上記マルトデキストリンが、上記デキストリンの総量の24~65質量%であることが好ましく、30~53質量%であることがより好ましい。前記マルトデキストリンを上記の範囲で含有することにより、凍結乾燥前に水とナッツが分離せず、更に凍結乾燥後の保形性が良く、水又は湯に溶解する際にダマを生じない。
【0033】
本発明のアレルギー反応供試食品において、上記ナッツの含有量は、凍結乾燥前重量で、1~21質量%が好ましく、6.7~16.5質量%が更に好ましい。また、上記凍結乾燥前の25℃におけるボストウィック粘度は、10cm/30秒以上が好ましい。粘度の調整は、主としてナッツや澱粉の含有量で行うことができる。また、上記デキストリンは2~20質量%の範囲で含有されることが好ましく、6~11質量%の範囲で含有されることが更に好ましい。各原料を上記の範囲で含有することにより、凍結乾燥前に水とナッツが分離せず、かつ成形用の容器に充填する際に内部に泡を生じない粘性とすることができ、更に凍結乾燥後の保形性が良く、水又は湯に溶解する際にダマを生じない。
【0034】
本発明において、アレルギー反応供試食品の原料としては、ナッツ、澱粉、デキストリン、及び水を含むものであればよく、必要に応じてその他の原料を添加してもよい。その他の原料としては、例えば、砂糖を除くその他糖類や酸化防止剤等が挙げられる。
【0035】
本発明のアレルギー反応供試食品において、凍結乾燥後の形状は、特に限定されないが、例えば、ブロック状、板状、球形状などを挙げることができ、必要に応じて適宜選択することができる。特に、ブロック状が好ましく、ブロック状とすることによって、製造しやすくなり、取り扱い及び保管時に破損しにくく、包装形態を比較的コンパクトにできるなどの利点が得られる。なお、ブロック状とは、直方体、立方体、それらの角が丸みを帯びた形状などを意味する。
【0036】
本発明のアレルギー反応供試食品は、1個当たりの凍結乾燥後重量が0.2~5.0g(1個当たりの凍結乾燥前重量は2.0~20.0g)であることが好ましく、0.2~1.0gであることがより好ましい。凍結乾燥後重量が0.2~5.0gであることにより、水やお湯を添加混合してペースト状にしたとき、アレルギー反応供試食品は乳児に与えやすい量や粘性となる。また、流通時の送料が安価となり、市場でのサンプル配布が容易となる。
【0037】
本発明のアレルギー反応供試食品は、使用時に水又は湯に溶解してペースト状にして利用されることが好ましい。水又は湯に溶解してペースト状にすることにより、誤嚥のリスクなく乳児にナッツを与えることができる。
【0038】
本発明のアレルギー反応供試食品は、1個ずつ個包装されていることが好ましい。個包装の形態及び包装の素材は特に限定されないが、アレルギー反応供試食品が空気中の水分に接触することを防ぐため、気密性、不透湿性を有する素材を用いて密封されていることが好ましい。また、シリカゲル等の乾燥材が同封されることが更に好ましい。個包装されることにより保存性が高まり、家庭で利用しやすくなる。また、輸送や保管中に外力が作用してアレルギー反応供試食品である凍結乾燥物が破損しても、1個当たりの質量が変わらないので、予め定められた一定量のナッツペーストを摂取させることができる。
【0039】
本発明のアレルギー反応供試食品は、ナッツと、澱粉と、デキストリンとを含有する原料に水を添加混合してペースト状にするペースト原料調製工程と、該ペースト原料を所定形状に成形して凍結乾燥する凍結乾燥工程とによって製造される。
【0040】
上記ペースト原料調製工程における混合の方法は、特に限定されないが、例えば、ミキサーなどの撹拌機を用いて混合することができる。また、上記ペースト原料調製工程における原料の温度は、特に限定されないが、加温されていることが好ましい。
【0041】
上記ペースト原料調製工程において、水の添加量(原料自体に含まれる水を除いた添加量)は、ペースト原料の68.6~89.4質量%であることが好ましい。水の添加量を上記の範囲とすることにより、水とナッツが分離せず、かつ凍結乾燥工程においてペースト原料を成形用の容器に充填する際に、内部に泡を生じない粘度とすることができる。
【0042】
上記凍結乾燥工程は、ペースト原料を所定の容器に充填した後、凍結させ、次いで高真空下で昇華乾燥させ、最後に加温して二次乾燥させることにより行われる。一連の工程は、通常の凍結乾燥機を用いて行うことができる。凍結温度、昇華乾燥にかける時間、二次乾燥時の温度、二次乾燥にかける時間等は、必要に応じて適宜選択することができる。
【0043】
本発明のアレルギー反応供試食品の製造方法においては、上記凍結乾燥工程における上記成型時の形状をブロック状にするか、あるいは上記凍結乾燥工程で得られた凍結乾燥物をブロック状にカットすることにより、ブロック状の凍結乾燥物を得ることが好ましい。これにより、効率よく所定形状の凍結乾燥物を得ることができる。
【0044】
こうして得られた本発明のアレルギー反応供試食品は、水又はお湯を添加混合することによって、容易にペースト状にすることができる。そして、ペースト状にしたアレルギー反応供試食品は、乳幼児に食べさせやすい形態であり、誤嚥のリスクが少なく、安全に摂取させることができる。ナッツを主たるアレルゲンとして含有することより、アレルギー反応がナッツ由来のアレルゲンによるものであると判断できる確率が高まる。ナッツに対するアレルギー反応の有無を正確に判断することができる。仮にアレルギー反応を生じた場合でも、摂取量が少ないので、重篤な症状となることを避けられる可能性が高い。また、凍結乾燥物とすることにより常温流通と長期の常温保管が可能である。これらのことから、乳児のナッツに対するアレルギー反応の有無を試験するためのアレルギー反応供試食品として好適に使用することができる。
【実施例0045】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例においては、充填適性、保形性、溶解性の全てにおいて良好とはならないものも存在したが、いずれの実施例も、ナッツを唯一のアレルゲンとして含み、誤嚥のリスク無く、乳児に提供が可能であるアレルギー反応供試食品としては成立するものであった。
【0046】
[実験1.ピーナッツペーストを含むアレルギー反応供試食品について]
ナッツペーストと、澱粉と、デキストリンとを含有し、ナッツ由来のアレルゲン以外のアレルゲンを含まない、所定形状の凍結乾燥物からなるアレルギー反応供試食品は、以下のように作製した。
【0047】
ロールミルを用いてピーナッツを粉砕し、ピーナッツペースト(最大粒子径 811μm)を得た。水、澱粉(馬鈴薯澱粉ER:松谷化学)、一般デキストリン(パインデックス#1:松谷化学)、及びマルトデキストリン(TK-16:松谷化学)を下記表1~3に示す配合で混合し、50~60℃に加温しながら、ミキサーを用いて攪拌した。この混合物に、前記ピーナッツペーストを下記表1~3に示す配合で加えて攪拌し、90℃で1分間加熱した。このペースト状混合物を適温まで氷冷したのち、3ccキューブのトレーに充填した。充填した原料を凍結乾燥処理し、アレルギー反応供試食品を得た。
凍結乾燥前に上記ペースト状混合物の粘度を、ボストウィック型粘度計(CFCサイエンティフィック社製)を用いて測定した。すなわち、同粘度計に品温を25℃にした試料75mlを入れ、シャッターを開いてから30秒間で試料が流れた距離を測定した。例えば、30秒間で試料が流れた距離が18cmの場合は、測定値を「18cm/30秒」と表記した。なお、24cmを超えると、測定ができなくなるので、その場合は「>24cm/30秒」と表記した。
【0048】
上記アレルギー反応供試食品に対し、充填適性、保形性、溶解性について、下記の基準で評価し、結果を表1~3に示した。
表1は、好適なデキストリンの含有量を求めるため、デキストリン、マルトデキストリンの含有量を変えて実験した結果を示している。
表2は、好適な澱粉の含有量を求めるため、澱粉の含有量を変えて実験した結果を示している。
表3は、デキストリン中のマルトデキストリンの好適な割合を求めるため、デキストリン中のマルトデキストリンの含有量を変えて実験した結果を示している。
【0049】
充填適性については、上記アレルギー反応供試食品の作製工程において、3ccキューブに上記混合物を充填する際に、水とナッツが分離せず、充填時に内部に泡を生じていないかを観察し、均一かつ気泡ができない場合に◎、均一かつ気泡が出来にくい場合に〇、やや分離しやすい、もしくはやや気泡ができやすいが許容できる場合に△、均一でない、もしくは気泡が出来やすい場合に×として評価した。
【0050】
保形性については、上記アレルギー反応供試食品を目視及び触って観察し、しっかりとした硬さがあり、軽く押しても崩れない場合に◎、硬さがあり、軽く押しても崩れにくい場合に〇、やや脆く、軽く押すとやや崩れやすい場合に△、脆く、軽く押すと崩れる場合に×として評価した。
【0051】
溶解性については、上記アレルギー反応供試食品に水2mLを加え、かき混ぜた場合にダマが生じることなくペースト状になるかを観察し、ダマなくすぐに溶ける場合に◎、ダマなく溶ける場合に〇、ややダマになりやすい、もしくは溶けにくい場合に△、ダマになる、もしくは溶けない場合に×として評価した。
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
表1の結果から、デキストリンの合計含有量が2~20質量%である実施例1~8は、充填適性、保形性、溶解性のいずれも問題のない結果となった。したがって、デキストリンの合計含有量は2~20質量%が好ましいことがわかる。
表2の結果から、澱粉の含有量が0.9~2.1質量%である実施例4,11~13は、充填適性、保形性、溶解性のいずれも問題のない結果となった。したがって、澱粉の含有量は、0.9~2.1質量%が好ましいことがわかる。
なお、澱粉を2.1質量%より多く含有させると、気泡ができやすく充填適性に劣り、また凍結乾燥物を水で溶解させるとダマが発生し溶解しにくく、均質な凍結乾燥品を製造しにくかった。
【0056】
表3の結果から、マルトデキストリンが、デキストリンの総量の24~65質量%であるようにして作成した実施例4、16~18は、充填適性、保形性、溶解性のいずれも良好な結果となった。したがって、デキストリンの総量中のマルトデキストリンの含有量は、24~65質量%が好ましいことがわかる。
【0057】
[実験2.ピーナッツ以外のナッツを含むアレルギー反応供試食品について]
ピーナッツペーストをアーモンドペースト(最大粒子径857μm)、カシューナッツペースト(最大粒子径532μm)、くるみペースト(最大粒子径857μm)、ピーナッツ粉末(最大粒子径2220μm)とした以外は、実験1の実施例4と同様にアレルギー反応供試食品を作製した。そして、実験1と同様に充填適性、保形性、溶解性について評価し、表4に示した。
【0058】
【0059】
表4の結果から、ピーナッツ以外のナッツ類ペーストやピーナッツ粉末を用いた場合でも、充填適性、保形性、溶解性に優れるアレルギー反応供試食品を作製できることが示された。なお、ピーナッツ粉末を用いた場合、アレルギー反応供試食品を水で溶解して食した時にざらつきがあるため、口当たりの観点からもナッツ類の形態はペースト状であることが好ましいことがわかった。
【0060】
[実験3.ピーナッツペーストの含有量と好適な粘度の範囲について]
ピーナッツペーストの含有量を変えた以外は、実験1の実施例4と同様にアレルギー反応供試食品を作製した。そして、実験1と同様に充填適性、保形性、溶解性について評価し、表5に示した。
【0061】
【0062】
表5の結果から、ピーナッツペーストの含有量が1~21質量%の範囲であって、凍結乾燥前の25℃におけるボストウィック粘度が10cm/30秒以上である、実施例27~31は、充填適性、保形性、溶解性のいずれも良好な結果であった。
前記デキストリンは、DE値が10以下のデキストリンと、DE値10以上のマルトデキストリンとを含み、該マルトデキストリンが、前記デキストリンの総量の24~65質量%である、請求項1に記載のアレルギー反応供試食品。
前記ナッツは、落花生、アーモンド、くるみ、カシューナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、ヘーゼルナッツ、ペカンナッツ、ブラジルナッツから選ばれた1種のナッツである、請求項1~4のいずれか1項に記載のアレルギー反応供試食品。