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特開2024-140515セメント組成物、モルタル組成物、及び、コンクリート構造物の補修方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140515
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】セメント組成物、モルタル組成物、及び、コンクリート構造物の補修方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20241003BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20241003BHJP
   C04B 14/28 20060101ALI20241003BHJP
   C04B 111/70 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B24/26 E
C04B14/28
C04B111:70
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051687
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000103769
【氏名又は名称】オリエンタル白石株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】山本 誠
(72)【発明者】
【氏名】辰巳 太一
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 千秋
(72)【発明者】
【氏名】渡瀬 博
(72)【発明者】
【氏名】正司 明夫
(72)【発明者】
【氏名】高橋 謙一
(72)【発明者】
【氏名】岡田 和寿
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112MD03
4G112MD04
4G112MD05
4G112PA10
4G112PB31
(57)【要約】
【課題】流動性を付与すると共に、粘性を向上させることが可能なセメント組成物、及び、モルタル組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明に係るセメント組成物は、セメントを含む結合材と、炭酸カルシウムと、減水剤と、を含み、前記減水剤が、下記構成単位(1)、及び、下記構成単位(2)を含むポリカルボン酸系共重合体を含み、前記炭酸カルシウムと前記ポリカルボン酸系共重合体との質量比が、1.0以上14.0以下である。
構成単位(1):下記式(1)で示される単量体から選ばれる一つ又は二つ以上から形成される構成単位
構成単位(2):(メタ)アクリル酸及び/又はその塩から選ばれる一つ又は二つ以上から形成される構成単位
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントを含む結合材と、炭酸カルシウムと、減水剤と、を含み、
前記減水剤が、下記の構成単位(1)、及び、下記の構成単位(2)を含むポリカルボン酸系共重合体を含み、
前記炭酸カルシウムと前記ポリカルボン酸系共重合体との質量比(炭酸カルシウム/ポリカルボン酸系共重合体)が、1.0以上14.0以下である、セメント組成物。
構成単位(1):下記の式(1)で示される単量体から選ばれる一つ又は二つ以上から形成される構成単位
構成単位(2):(メタ)アクリル酸及び/又はその塩から選ばれる一つ又は二つ以上から形成される構成単位
【化1】
(式(1)において、R、R及びRは、同一又は異なる、水素原子又はメチル基を表し、Rは、同一又は異なる、水素原子又は炭素数1~22の炭化水素基を表す。pは0~5の整数を表す。qは0又は1の整数を表す。AOは炭素数2~4のオキシアルキレン基を表す。nはAOの平均付加モル数であり、40~120の数を表す。)
【請求項2】
前記炭酸カルシウムの含有量が、前記結合材に対して、2.0質量%以上20.0質量%以下である、請求項1に記載のセメント組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のセメント組成物と、細骨材と、を含む、モルタル組成物。
【請求項4】
請求項3に記載のモルタル組成物を、グラウト材として用いる、コンクリート構造物の補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント組成物、モルタル組成物、及び、コンクリート構造物の補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物は、塩害、中性化等の様々な要因により劣化する。劣化したコンクリート構造物は、例えば、劣化した部分を除去し、そこにモルタル又はコンクリートを充填する方法等により補修される。
【0003】
前記モルタル又はコンクリートが、自然流下又はポンプ等を用いて充填される場合には、モルタル又はコンクリートは適度な流動性を有する必要がある。そのため、前記モルタル又はコンクリートには、従来、各種の流動化剤(減水剤)が添加されている。例えば、特許文献1には、コンクリートなどに挟まれた隙間部に充填される充填用無収縮モルタルとして、セメント、砂、減水剤、膨張材、発泡剤、消泡剤、及び、分離低減材からなる高流動性無収縮モルタルが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-248831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記モルタル又はコンクリートが型枠とコンクリート母材の間隙に充填される場合において、特許文献1のような流動性の高いモルタルを用いると、型枠内にモルタルが速やかに流れ込むことにより、コンクリート母材とモルタルの界面で空気溜りが生じ、コンクリート母材との付着性が確保されない虞がある。また、空気溜りが型枠内に残ると、型枠脱型後の硬化物の表面に凹凸が生じる虞もある。そのため、流動性を有すると共に、空気溜りの発生を抑制し得る程度の粘性を有するものが望まれている。
【0006】
本発明は、このような現状に鑑みてなされたものであり、流動性を付与すると共に、粘性を向上させることが可能なセメント組成物、及び、モルタル組成物を提供することを課題とする。また、そのようなモルタル組成物を用いたコンクリート構造物の補修方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るセメント組成物は、セメントを含む結合材と、炭酸カルシウムと、減水剤と、を含み、前記減水剤が、下記の構成単位(1)、及び、下記の構成単位(2)を含むポリカルボン酸系共重合体を含み、前記炭酸カルシウムと前記ポリカルボン酸系共重合体との質量比(炭酸カルシウム/ポリカルボン酸系共重合体)が、1.0以上14.0以下である。
構成単位(1):下記の式(1)で示される単量体から選ばれる一つ又は二つ以上から形成される構成単位
構成単位(2):(メタ)アクリル酸及び/又はその塩から選ばれる一つ又は二つ以上から形成される構成単位
【化1】
(式(1)において、R、R及びRは、同一又は異なる、水素原子又はメチル基を表し、Rは、同一又は異なる、水素原子又は炭素数1~22の炭化水素基を表す。pは0~5の整数を表す。qは0又は1の整数を表す。AOは炭素数2~4のオキシアルキレン基を表す。nはAOの平均付加モル数であり、40~120の数を表す。)
【0008】
前記セメント組成物は、斯かる構成により、モルタル又はコンクリートに対して、流動性を付与すると共に、粘性を向上させることができる。
【0009】
本発明に係るセメント組成物は、前記炭酸カルシウムの含有量が、前記結合材に対して、2.0質量%以上20.0質量%以下であってもよい。
【0010】
前記セメント組成物は、斯かる構成により、モルタル又はコンクリートに対して、流動性を付与すると共に、粘性をより向上させることができる。
【0011】
本発明に係るモルタル組成物は、前記セメント組成物と、細骨材と、を含む。
【0012】
前記モルタル組成物は、斯かる構成により、モルタル又はコンクリートに対して、流動性を付与すると共に、粘性を向上させることができる。
【0013】
本発明に係るコンクリート構造物の補修方法は、前記モルタル組成物を、グラウト材として用いる。
【0014】
前記コンクリート構造物の補修方法は、流動性を付与すると共に、粘性を向上させることが可能なモルタル組成物をグラウト材として用いることにより、施工性に優れる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、流動性を付与すると共に、粘性を向上させることが可能なセメント組成物、及び、モルタル組成物を提供することができる。また、そのようなモルタル組成物を用いたコンクリート構造物の補修方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<セメント組成物>
以下、本実施形態に係るセメント組成物について説明する。
【0017】
本実施形態に係るセメント組成物は、セメントを含む結合材と、炭酸カルシウムと、減水剤と、を含む。結合材とは、水と反応しコンクリ-トの強度発現に寄与する物質を生成するものの総称であり、セメントを含む。結合材は、セメント以外のその他の物質として、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、シリカフューム、セメントキルンダスト、高炉フューム、転炉スラグ微粉末等を含んでいてもよい。
【0018】
セメントとしては、例えば、JIS R 5210で規定される普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント等のポルトランドセメント、超速硬セメント、アルミナセメント等が挙げられる。また、前記ポルトランドセメントにフライアッシュ、高炉スラグ等を混合した各種混合セメントも使用することができる。なお、セメントは、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0019】
前記セメントの含有量は、強度発現性を安定させる観点から、前記結合材全体に対して、80.0質量%以上100.0質量%以下であることが好ましく、90.0質量%以上95.0質量%以下であることがより好ましい。なお、セメントが二種以上含まれる場合、前記含有量は、合計含有量である。
【0020】
高炉スラグ微粉末としては、例えば、JIS A 6206:2013で規定される高炉スラグ微粉末3000、高炉スラグ微粉末4000、高炉スラグ微粉末6000、高炉スラグ微粉末8000等が挙げられる。なお、高炉スラグ微粉末は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0021】
フライアッシュとしては、例えば、JIS A 6201:2015で規定されるフライアッシュI種、フライアッシュII種、フライアッシュIII種、フライアッシュIV種等が挙げられる。なお、フライアッシュは、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0022】
前記結合材の含有量は、材料の分離抵抗性を高める観点から、セメント組成物全体に対して、0.1質量%以上20.0質量%以下であることが好ましく、5.0質量%以上10.0質量%以下であることがより好ましい。
【0023】
炭酸カルシウムの含有量は、流動性を付与し、材料の分離抵抗性を高める観点から、前記結合材に対して、2.0質量%以上20.0質量%以下であることが好ましく、4.0質量%以上15.0質量%以下であることがより好ましい。
【0024】
減水剤は、下記の構成単位(1)、及び、下記の構成単位(2)を含むポリカルボン酸系共重合体を含む。
構成単位(1):下記の式(1)で示される単量体から選ばれる一つ又は二つ以上から形成される構成単位
構成単位(2):(メタ)アクリル酸及び/又はその塩から選ばれる一つ又は二つ以上から形成される構成単位
【化2】
【0025】
式(1)において、R、R及びRは、同一又は異なる、水素原子又はメチル基を表す。Rは、同一又は異なる、水素原子又は炭素数1~22の炭化水素基を表す。pは0~5の整数を表す。qは0又は1の整数を表す。AOは炭素数2~4のオキシアルキレン基を表す。nはAOの平均付加モル数であり、40~120の数を表す。
【0026】
式(1)において、pは0~5の整数であり、0~2の整数であることが好ましく、0又は1の整数であることがより好ましい。また、qは0又は1の整数であることが好ましい。
【0027】
式(1)において、AOは炭素数2~4のオキシアルキレン基であり、例えば、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基等が挙げられる。AOが二種類以上の場合は、ランダム付加体、ブロック付加体、交互付加体のいずれの形態であってもよい。共重合体の溶解性を考慮し、共重合体の水溶性を保つためには、式(1)において、オキシアルキレン基全体の50mol%以上がオキシエチレン基であることが好ましく、90mol%以上がオキシエチレン基であることがより好ましく、95mol%以上がオキシエチレン基であることが更に好ましい。式(1)において、nはAOの平均付加モル数を表し、40~120の整数であり、分散性を確保する観点から、45~115の整数であることが好ましく、50~115の整数であることがより好ましい。
【0028】
式(1)で示される単量体としては、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレン(ポリ)エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシ(ポリ)エチレン(ポリ)プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ブトキシ(ポリ)エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコール(ポリ)ブチレングリコールビニルエーテル、ポリエチレングリコールモノアリルエーテル、(ポリ)エチレングリコールモノ(2-メチル-2-プロペニル)エーテル、ポリエチレングリコールモノ(3-メチル-ブテニル)エーテル、ポリエチレン(ポリ)プロピレングリコールモノ(2-メチル-2-プロペニル)エーテル等が挙げられる。構成単位(1)を形成する式(1)で示される単量体は一種又は二種以上使用してもよい。
【0029】
構成単位(2)は、(メタ)アクリル酸及び/又はその塩から選ばれる一つ又は二つ以上から形成される構成単位である。構成単位(2)を形成する(メタ)アクリル酸の塩としては、特に限定されるものではなく、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩等のアミン塩等が挙げられる。
【0030】
ポリカルボン酸系共重合体は、分散性と流動性を保持する観点から、構成単位(1)を全構成単位中に70.0質量%以上86.0質量%以下含むことが好ましく、全構成単位中に74.0質量%以上86.0質量%以下含むことがより好ましく、全構成単位中に78.0質量%以上86.0質量%以下含むことが更に好ましい。ポリカルボン酸系共重合体は、分散性と流動性を保持する観点から、構成単位(2)を全構成単位中に14.0質量%以上30.0質量%以下含むことが好ましく、全構成単位中に14.0質量%以上26.0質量%以下含むことがより好ましく、全構成単位中に14.0質量%以上22.0質量%以下含むことが更に好ましい。
【0031】
ポリカルボン酸系共重合体は、構成単位(1)及び構成単位(2)に加えて構成単位(3)を含むことが好ましい。構成単位(3)は、アルキル基の炭素数が1~4である(ヒドロキシ)アルキル(メタ)アクリレートから選ばれる一種または二種以上から形成される構成単位である。(ヒドロキシ)アルキル(メタ)アクリレートとしては、アクリル酸メチル、ヒドロキシエチルアクリレート、メチルメタクリレート、ブチルアクリレート等が挙げられる。構成単位(3)を形成する単量体は一種又は二種以上使用してもよい。
【0032】
ポリカルボン酸系共重合体は、構成単位(1)、構成単位(2)、及び、構成単位(3)から構成されることがより好ましい。ポリカルボン酸系共重合体は、分散性と流動性を保持する観点から、構成単位(1)を全構成単位中に70.5質量%以上85.0質量%以下含むことが好ましく、全構成単位中に74.5質量%以上85.0質量%以下含むことがより好ましく、全構成単位中に78.5質量%以上85.0質量%以下含むことが更に好ましい。ポリカルボン酸系共重合体は、分散性と流動性を保持する観点から、構成単位(2)を全構成単位中に14.5質量%以上29.0質量%以下含むことが好ましく、全構成単位中に14.5質量%以上25.0質量%以下含むことがより好ましく、全構成単位中に14.5質量%以上21.0質量%以下含むことが更に好ましい。ポリカルボン酸系共重合体は、分散性と流動性を保持する観点から、構成単位(3)を全構成単位中に0.5質量%以上5.0質量%以下含むことが好ましく、全構成単位中に0.5質量%以上3.0質量%以下含むことがより好ましく、全構成単位中に0.5質量%以上2.0質量%以下含むことが更に好ましい。
【0033】
ポリカルボン酸系共重合体は、構成単位(1)及び構成単位(2)に加えて、これらの構成単位を形成する単量体と共重合可能な単量体に由来する、構成単位(4)を含んでいてもよい。すなわち、ポリカルボン酸系共重合体は、構成単位(1)、構成単位(2)及び構成単位(4)を含むものであってもよく、ポリカルボン酸系共重合体は、構成単位(1)、構成単位(2)、構成単位(3)及び構成単位(4)を含むものであってもよい。このような構成単位(4)を形成する単量体は、構成単位(1)、構成単位(2)、構成単位(3)を形成する単量体のうちの少なくとも一つと共重合可能であれば特に制限はなく、かかる単量体としては、(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド等の不飽和アミド類、(メタ)アクリロニトリル等の不飽和シアン類、マレイン酸、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸と(ポリ)アルキレングリコールや炭素数1~22のアルキル基やアルケニル基のアルコールとのモノエステルやジエステルとなる不飽和ジカルボン酸エステル類、不飽和カルボン酸や不飽和ジカルボン酸と炭素数が1~22であるアミンとのモノアミドやジアミドとなるアミド単量体類、不飽和カルボン酸や不飽和ジカルボン酸と炭素数が1~22であるアミンとのモノアミドやジアミドとなるアミド単量体類、アルキルジカルボン酸とポリエチレンポリアミンを縮合させたものの活性水素を持つ窒素原子にエチレンオキシドやプロピレンオキシドを付加させたものと(メタ)アクリル酸との反応物や、不飽和カルボン酸や不飽和ジカルボン酸と炭素数が1~22であるアミンとのモノアミドやジアミドとなるアミド単量体類、アルキルジカルボン酸とポリエチレンポリアミンを縮合させたものの活性水素を持つ窒素原子にエチレンオキシドやプロピレンオキシドを付加させたものとグリシジル(メタ)アクリレートと反応させたものである、ポリアミドポリアミン単量体類、(メタ)アリルスルホン酸やビニルスルホン酸及びそれらの塩等からなるスルホン酸系単量体類、リン酸2-(メタクリロイルオキシ)エチルやリン酸-ビス[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]およびそれらの塩等からなるリン酸系単量体類等が挙げられる。
【0034】
ポリカルボン酸系共重合体は、添加率の増加を抑制する観点から、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定したポリエチレングリコール換算の質量平均分子量が20000~100000であることが好ましく、25000~45000であることがより好ましい。なお、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーの測定は、下記の条件で行う。
【0035】
(測定条件)
装置:昭和電工株式会社製 Shodex GPC-101
カラム:昭和電工株式会社製 OHpak SB-G+SB-806M HQ+SB-806M HQ
検出器:示差屈折計(RI)
溶離液:50mM硝酸ナトリウム水溶液
流量:0.7mL/分
カラム温度:40℃
試料濃度:0.5質量%の溶離液溶液
標準物質:ポリエチレングリコール
【0036】
前記ポリカルボン酸系共重合体は、各種方法で製造することができる。例えば、溶媒に水を使用したラジカル重合、溶媒に有機溶媒を使用したラジカル重合、無溶媒のラジカル重合による方法等が挙げられる。ラジカル重合における反応温度は、反応時間等の観点から、0~120℃であることが好ましく、20~100℃であることがより好ましく、50~90℃であることが更に好ましい。ラジカル重合に使用するラジカル重合開始剤は、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過酸化物、2,2-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2-アゾビス(イソブチロニトリル)等のアゾ系化合物が挙げられ、重合反応温度下において分解し、ラジカル発生するものであれば、その種類は特に制限されない。これらは、亜硫酸塩、L-アスコルビン酸等の還元性物質、更にはアミン等と組み合わせ、レドックス開始剤として使用することもできる。得られるポリカルボン酸系共重合体の質量平均分子量を所望の範囲とするため、2-メルカプトエタノール、2-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトプロピオン酸、チオグリコール酸、チオグリセリン、チオリンゴ酸等の連鎖移動剤を使用することもできる。これらのラジカル重合開始剤、還元性物質、連鎖移動剤は、それぞれ単独で使用しても二種類以上を併用してもよい。なお、本実施形態において、ポリカルボン酸系共重合体は、乾燥させて粉末としたものを使用することが好ましい。
【0037】
前記ポリカルボン酸系共重合体の含有量は、流動性を保持し、材料分離抵抗性を高める観点から、前記結合材に対して、0.5質量%以上2.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以上1.5質量%以下であることがより好ましい。
【0038】
前記炭酸カルシウムと前記ポリカルボン酸系共重合体との質量比(炭酸カルシウム/ポリカルボン酸系共重合体)は、1.0以上14.0以下であり、流動性の安定性を高める観点から、3.0以上13.0以下であることが好ましい。
【0039】
本実施形態に係るセメント組成物は、前記ポリカルボン酸系共重合体以外のその他の混和剤をさらに含んでいてもよい。その他の混和剤としては、例えば、AE剤、AE減水剤、高性能減水剤、流動化剤、分離低減剤、凝結遅延剤(例えば、酒石酸等)、凝結促進剤(例えば、硫酸アルミニウム等)、急結剤、収縮低減剤、増粘剤、起泡剤、発泡剤、防水剤、消泡剤等が挙げられる。なお、混和剤は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0040】
前記その他の混和剤の含有量は、例えば、前記結合材に対して、2.0質量%以上30.0質量%以下であってもよく、5.0質量%以上20.0質量%以下であってもよい。
【0041】
本実施形態に係るセメント組成物は、混和材をさらに含んでいてもよい。混和材としては、例えば、無水石膏、半水石膏、二水石膏、膨張材、生石灰微粉末、ドロマイト微粉末等の無機質微粉末、ナトリウム型ベントナイト、カルシウム型ベントナイト、アタパルジャイト、セピオライト、活性白土、酸性白土、アロフェン、イモゴライト、シラス(火山灰)、シラスバルーン、カオリナイト、メタカオリン(焼成粘土)、合成ゼオライト、人造ゼオライト、人工ゼオライト、モルデナイト、クリノプチロライト等の無機物系フィラーが挙げられる。なお、混和材は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0042】
前記混和材の含有量は、例えば、前記結合材に対して、1.0質量%以上20.0質量%以下であってもよく、5.0質量%以上10.0質量%以下であってもよい。
【0043】
本実施形態に係るセメント組成物は、セメントを含む結合材と、炭酸カルシウムと、減水剤と、を含み、前記減水剤が、前記構成単位(1)、及び、前記構成単位(2)を含むポリカルボン酸系共重合体を含み、前記炭酸カルシウムと前記ポリカルボン酸系共重合体との質量比(炭酸カルシウム/ポリカルボン酸系共重合体)が、1.0以上14.0以下であることにより、モルタル又はコンクリートに対して、流動性を付与すると共に、粘性を向上させることができる。
【0044】
本実施形態に係るセメント組成物は、前記炭酸カルシウムの含有量が、前記結合材に対して、2.0質量%以上20.0質量%以下であることにより、モルタル又はコンクリートに対して、流動性を付与すると共に、粘性をより向上させることができる。
【0045】
<モルタル組成物>
以下、本実施形態に係るモルタル組成物について説明する。本実施形態に係るモルタル組成物は、上述のセメント組成物と、細骨材と、を含む。
【0046】
細骨材とは、10mm網ふるいを全部通過し、5mm網ふるいを質量で85%以上通過する骨材のことをいう(JIS A 0203:2014)。細骨材としては、例えば、JIS A 5308附属書Aレディミクストコンクリート用骨材で規定される山砂、川砂、陸砂、海砂、砕砂、石灰石砕砂等の天然由来の砂、高炉スラグ、電気炉酸化スラグ、フェロニッケルスラグ等のスラグ由来の砂等が挙げられる。なお、これらの細骨材は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0047】
前記細骨材の粒度の範囲は、充填性を向上させる観点から、0.053mm以上10mm未満であることが好ましく、0.053mm以上5.6mm未満であることがより好ましい。なお、細骨材の粒度は、JIS A 1102:2014に準じて測定した値である。
【0048】
前記細骨材の含有量は、収縮に対する抵抗性及び強度発現性を高める観点から、モルタル組成物全体に対して、50.0質量%以上80.0質量%以下であることが好ましく、60.0質量%以上75.0質量%以下であることがより好ましい。なお、細骨材が二種以上含まれる場合、前記含有量は合計含有量である。
【0049】
本実施形態に係るモルタル組成物における前記結合材の含有量は、収縮に対する抵抗性及び強度発現性を高める観点から、モルタル組成物全体に対して、20.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましく、25.0質量%以上40.0質量%以下であることがより好ましい。
【0050】
本実施形態に係るモルタル組成物は、該モルタル組成物に水を添加して、コンクリート構造物の補修材料として好適に用いることができる。前記水は、特に限定されるものではなく、例えば、水道水、工業用水、回収水、地下水、河川水、雨水等を使用することができる。前記水の添加量は、モルタル組成物100質量部に対して、例えば、5.0質量部以上20.0質量部以下とすることができる。
【0051】
本実施形態に係るモルタル組成物は、該モルタル組成物に前記水、及び、粗骨材を添加して、コンクリート構造物の補修材料として用いてもよい。粗骨材としては、特に限定されるものではなく、例えば、川砂利、山砂利、海砂利等の天然骨材、砂岩、硬質石灰岩、玄武岩、安山岩等の砕石等の人工骨材、再生骨材等が挙げられる。なお、粗骨材は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0052】
本実施形態に係るモルタル組成物は、前記セメント組成物と、細骨材と、を含むことにより、モルタル又はコンクリートに対して、流動性を付与すると共に、粘性を向上させることができる。
【0053】
<コンクリート構造物の補修方法>
以下、本実施形態に係るコンクリート構造物の補修方法について説明する。
【0054】
本実施形態に係るコンクリート構造物の補修方法は、前記モルタル組成物を、グラウト材として用いる。より詳細には、コンクリート構造物の補修方法は、例えば、コンクリート構造物の劣化した部分を除去した箇所を囲うように型枠を配置し、該型枠とコンクリート構造物の間隙に前記グラウト材を充填することにより、コンクリート構造物を補修する。また、コンクリート構造物の補修方法は、例えば、前記劣化した部分を除去した箇所に前記グラウト材を塗布することにより、コンクリート構造物を補修する。
【0055】
前記グラウト材の製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば、前記モルタル組成物を構成する成分を予め混合している粉末状のモルタル組成物(すなわち、プレミックス)に、現場で水等を加えて混練する方法であってもよいし、前記モルタル組成物を構成する成分を現場で混合し、得られた粉末状の混合物に水等を加えて混練する方法であってもよい。
【0056】
本実施形態に係るコンクリート構造物の補修方法は、流動性を付与すると共に、粘性を向上させることが可能なモルタル組成物をグラウト材として用いることにより、施工性に優れる。具体的には、充填性に優れると共に、型枠とコンクリート構造物の間隙に前記グラウト材を充填する場合には、空気溜りの発生を抑制することができる。
【0057】
本発明は、以下の態様を含む。
[1]セメントを含む結合材と、炭酸カルシウムと、減水剤と、を含み、
前記減水剤が、下記の構成単位(1)、及び、下記の構成単位(2)を含むポリカルボン酸系共重合体を含み、
前記炭酸カルシウムと前記ポリカルボン酸系共重合体との質量比(炭酸カルシウム/ポリカルボン酸系共重合体)が、1.0以上14.0以下である、セメント組成物。
構成単位(1):下記の式(1)で示される単量体から選ばれる一つ又は二つ以上から形成される構成単位
構成単位(2):(メタ)アクリル酸及び/又はその塩から選ばれる一つ又は二つ以上から形成される構成単位
【化3】
(式(1)において、R、R及びRは、同一又は異なる、水素原子又はメチル基を表し、Rは、同一又は異なる、水素原子又は炭素数1~22の炭化水素基を表す。pは0~5の整数を表す。qは0又は1の整数を表す。AOは炭素数2~4のオキシアルキレン基を表す。nはAOの平均付加モル数であり、40~120の数を表す。)
[2]前記炭酸カルシウムの含有量が、前記結合材に対して、2.0質量%以上20.0質量%以下である、[1]に記載のセメント組成物。
[3][1]又は[2]に記載のセメント組成物と、細骨材と、を含む、モルタル組成物。
[4][3]に記載のモルタル組成物を、グラウト材として用いる、コンクリート構造物の補修方法。
【実施例0058】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0059】
表1に示す材料を表1に示す配合で混合して、各実施例及び各比較例のモルタル組成物を作製した。作製した各モルタル組成物100質量部に対して、水9質量部をそれぞれ混合し、180秒間練り混ぜて、各実施例及び各比較例のモルタルを作製した。
【0060】
表1に示す各成分の詳細を以下に示す。
結合材:セメントを主成分(85質量%以上)として含み、その他高炉スラグ微粉末及びフライアッシュを含む
炭酸カルシウム(CaCO):近江鉱業社製
細骨材:粒度範囲が0.053mm以上5.6mm未満である混合砂
減水剤(ポリカルボン酸系):ポリカルボン酸系共重合体(竹本油脂社製)
減水剤(ナフタレン系):ポールファイン510-AN、竹本油脂社製
【0061】
減水剤としてのポリカルボン酸系共重合体の詳細を表2及び以下に示す。
M-1:α-メタクリロイル-ω-ヒドロキシ-ポリ(n=43)オキシエチレンポリ(m=2)オキシプロピレン(M-1において、R及びRは水素原子であり、Rはメチル基であり、Rは水素原子である。pは0であり、qは1である。AOはオキシエチレン基及びオキシプロピレン基である。)
M-2:α-(3-メチル-3-ブテニル)-ω-ヒドロキシ-ポリ(n=50)オキシエチレン(M-2において、R及びRは水素原子であり、Rはメチル基であり、Rは水素原子である。pは1であり、qは0である。AOはオキシエチレン基である。)
M-3:α-メタクリロイル-ω-メトキシ-ポリ(n=68)オキシエチレン(M-3において、R及びRは水素原子であり、Rはメチル基であり、Rはメチル基である。pは0であり、qは1である。AOはオキシエチレン基である。)
M-4:α-メタクリロイル-ω-メトキシ-ポリ(n=113)オキシエチレン(M-4において、R及びRは水素原子であり、Rはメチル基であり、Rはメチル基である。pは0であり、qは1である。AOはオキシエチレン基である。)
M-5:α-メタクリロイル-ω-メトキシ-ポリ(n=150)オキシエチレン(M-5において、R及びRは水素原子であり、Rはメチル基であり、Rはメチル基である。pは0であり、qは1である。AOはオキシエチレン基である。)
C-1:アクリル酸
C-2:メタクリル酸
E-1:ヒドロキシエチルアクリレート
E-2:アクリル酸メチル
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
【表3】
【0065】
<スランプフローの測定>
各実施例及び各比較例のモルタルについて、練上り直後(表3における0hr)、及び、練上りから1時間後(表3における1hr)に、JIS A 1150:2020に基づいてスランプフローを測定した。測定値を表3に示す。
【0066】
<50cmフロー到達時間の測定>
各実施例及び各比較例のモルタルについて、練上り直後にJIS A 1150:2020に基づいて50cmフロー到達時間を測定した。測定値を表3に示す。
【0067】
表3の結果から分かるように、本発明の構成要件をすべて満たす各実施例のモルタルは、練上り直後のスランプフロー値が720~830mmであり、50cmフロー到達時間が3.8~9.5秒であることから、各比較例のモルタルと比較して、流動性に優れると共に、粘性を有することが認められる。よって、本発明の構成要件をすべて満たす各実施例のセメント組成物及びモルタル組成物は、モルタル又はコンクリートに対して、流動性を付与すると共に、粘性を向上させることができる。
【0068】
また、本発明の構成要件をすべて満たす各実施例のモルタルは、練上りから1時間後のスランプフロー値も670~800mmであることから、流動性及び粘性を維持することができると考えられる。