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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140548
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】CFRP製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 43/58 20060101AFI20241003BHJP
   B29C 43/20 20060101ALI20241003BHJP
   B29C 70/42 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B29C43/58
B29C43/20
B29C70/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051731
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(74)【代理人】
【識別番号】100140844
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 正利
(72)【発明者】
【氏名】高田 昌幸
(72)【発明者】
【氏名】中谷 文紀
(72)【発明者】
【氏名】佐々 喜紀
【テーマコード(参考)】
4F204
4F205
【Fターム(参考)】
4F204AA36
4F204AC03
4F204AD05
4F204AD08
4F204AD16
4F204AG03
4F204AG28
4F204AR02
4F204AR06
4F204FA01
4F204FB01
4F204FB11
4F204FB22
4F204FF05
4F204FG02
4F204FG09
4F204FN11
4F204FN15
4F204FN17
4F205AA36
4F205AC03
4F205AD05
4F205AD08
4F205AD16
4F205AG03
4F205AG28
4F205AR02
4F205AR06
4F205HA08
4F205HA14
4F205HA25
4F205HA33
4F205HA37
4F205HA45
4F205HB01
4F205HB11
4F205HC02
4F205HC17
4F205HF05
4F205HK03
4F205HK04
4F205HK05
4F205HT16
4F205HT26
(57)【要約】
【課題】熱可塑性樹脂からなるシワの無い保護層を表面に有する外観の良好な三次元形状のCFRP物品を、炭素繊維プリプレグシートと熱可塑性樹脂フィルムを成形型内で加熱および加圧することによって効率よく製造する技法を提供する。
【解決手段】表面の少なくとも一部に樹脂製の保護層を有する三次元形状のCFRP製品を製造する方法であって、少なくとも1枚の炭素繊維プリプレグシートとそれに重ねられた非晶性熱可塑性樹脂製のフィルムとを含む積層物を、予備賦形することなしに成形型内で加熱および加圧することにより前記CFRP製品を成形することを含み、前記成形の間および前記CFRP製品を前記成形型から脱型するときの前記成形型の温度が前記非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度よりも高い、CFRP製品の製造方法である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面の少なくとも一部に樹脂製の保護層を有する三次元形状のCFRP製品を製造する方法であって、
少なくとも1枚の炭素繊維プリプレグシートとそれに重ねられた非晶性熱可塑性樹脂製のフィルムとを含む積層物を、予備賦形することなしに成形型内で加熱および加圧することにより前記CFRP製品を成形することを含み、
前記成形の間および前記CFRP製品を前記成形型から脱型するときの前記成形型の温度が前記非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度よりも高い、方法。
【請求項2】
前記積層物が互いに積層された2枚以上の前記炭素繊維プリプレグシートを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記積層物が、前記炭素繊維プリプレグシート同士の間に介在された炭素繊維プリプレグシート以外のフィルムを含まない、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記成形の間の前記成形型の温度が120℃以上である、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記成形の間に前記炭素繊維プリプレグシートに加わる圧力が3MPa以上10MPa以下である、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記脱型のときの前記成形型の温度が、前記CFRP製品に含まれるCFRPのガラス転移温度よりも低い、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記脱型のときの前記成形型の温度が、前記成形の間の前記成形型の温度と同じ又はそれよりも低い、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記成形の間の前記成形型の温度と前記非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度との差が10℃以上である、請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記脱型のときの前記成形型の温度と前記非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度との差が60℃以下である、請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度が、80℃以上である、請求項1から9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記脱型のときの前記成形型の温度が、前記成形の間の前記成形型の温度と同じである、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記成形の間の前記成形型の温度が170℃以下である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度が80℃以上100℃以下である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記少なくとも1枚の炭素繊維プリプレグシートが、炭素繊維UDプリプレグと炭素繊維織物プリプレグのいずれか一方または両方を含む、請求項1から13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記非晶性熱可塑性樹脂がアクリル樹脂、ABS樹脂およびポリカーボネート樹脂から選ばれる1種以上の樹脂を含む、請求項1から14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記非晶性熱可塑性樹脂がアクリル樹脂を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか1項に記載の方法における、
前記非晶性熱可塑性樹脂製のフィルムとしてのアクリル樹脂フィルムの使用。
【請求項18】
CFRP部と前記CFRP部の表面の少なくとも一部を覆う樹脂製の保護層とを有し、
前記保護層は非晶性熱可塑性樹脂からなり、
前記CFRP部のガラス転移温度が前記非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度よりも高い、三次元形状のCFRP製品。
【請求項19】
前記非晶性熱可塑性樹脂がアクリル樹脂、ABS樹脂およびポリカーボネート樹脂から選ばれる1種以上の樹脂を含む、請求項18に記載のCFRP製品。
【請求項20】
前記非晶性熱可塑性樹脂がアクリル樹脂を含む、請求項19に記載のCFRP製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CFRP製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維強化樹脂(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)は、金属に匹敵する強度・弾性率を有しながら、金属よりも比重が小さいため、燃費の低減を目的として航空機や自動車への採用が増加している。
【0003】
CFRP製品を効率よく製造するために、炭素繊維プリプレグシートが用いられている。炭素繊維プリプレグシートは、炭素繊維からなる補強材を予め熱硬化性のマトリックス樹脂で含浸させたシート状の中間材料である。
特許文献1には、炭素繊維プリプレグシートをオートクレーブ内で硬化させるときに、表面にアクリル樹脂フィルムを配置することにより、アクリル樹脂層を表面に有するCFRP板を得たことが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-1411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、シワの無い樹脂製の保護層を表面に有する外観の良好な三次元形状のCFRP物品を、炭素繊維プリプレグシートと樹脂フィルムを成形型内で加熱および加圧することによって効率よく製造する技法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、表面の少なくとも一部に樹脂製の保護層を有する三次元形状のCFRP製品を製造する方法であって、少なくとも1枚の炭素繊維プリプレグシートとそれに重ねられた非晶性熱可塑性樹脂製のフィルムとを含む積層物を、予備賦形することなしに成形型内で加熱および加圧することにより前記CFRP製品を成形することを含み、前記成形の間および前記CFRP製品を前記成形型から脱型するときの前記成形型の温度が前記非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度よりも高い、方法が提供される。
本発明の一態様によれば、CFRP部と前記CFRP部の表面の少なくとも一部を覆う樹脂製の保護層とを有し、前記保護層は非晶性熱可塑性樹脂からなり、前記CFRP部のガラス転移温度が前記非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度よりも高い、三次元形状のCFRP製品が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の好ましい実施形態によれば、シワの無い樹脂製の保護層を表面に有する外観の良好な三次元形状のCFRP物品を、炭素繊維プリプレグシートと樹脂フィルムを成形型内で加熱および加圧することによって効率よく製造する技法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、プレス成形装置を示す模式図である。
図2図2は、成形型の断面図である。
図3図3は、CFRP製品の製造工程を説明するための断面図である。
図4図4は、CFRP製品の製造工程を説明するための断面図である。
図5図5は、CFRP製品の製造工程を説明するための断面図である。
図6図6は、CFRP製品の製造工程を説明するための断面図である。
図7図7は、トレーの外観を示す図である。
図8図8は、積層物における炭素繊維プリプレグシートと熱可塑性樹脂フィルムの配置の例を示す図である。
図9図9は、積層物における炭素繊維プリプレグシートと熱可塑性樹脂フィルムの配置の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について適宜図面を参照して説明する。
1.CFRP製品の製造方法
本発明の一実施形態は、CFRP製品を製造する方法に関し、特に、表面の少なくとも一部に樹脂製の保護層を有する三次元形状のCFRP製品を製造する方法に関する。
【0010】
実施形態に係る製造方法は、通常、プレス成形装置を用いて実施される。
実施形態に係る製造方法では、例えば、図1に示す構成を備えるプレス成形装置を用いることができる。図1を参照すると、プレス成形装置100は、プレス機10と、成形型20と、真空ポンプ30とを有している。
プレス機10は、メインフレーム11と、メインフレーム11の下部に固定されたボルスター12と、垂直方向に昇降可能なスライド13と、スライド13を昇降させる昇降機構14とからなる。
【0011】
成形型20は、ボルスター12の上面に固定された下型20Lと、スライド13の下面に固定された上型20Uとからなる。
上型20Uと下型20Lのそれぞれに、例えば蒸気ヒーター、オイルヒーターまたは電熱ヒーターであってもよいヒーター(図示せず)が内蔵され、成形型20を所定の温度に加熱することが可能となっている。
【0012】
図2は、一例に係る成形型20を開いた状態を示す断面図である。
下型20Lと上型20Uは、それぞれ、成形面21Lと成形面21Uを有している。成形面21Lと成形面21Uはいずれも三次元的である。
下型20Lは垂直な外周面を有し、その外周面を一周する溝にシールリング22が嵌め込まれている。下型20Lと上型20Uがシールリング22を介して篏合し得るように、上型20Uには環状の垂直壁23が設けられている。
下型20Lと上型20Uを篏合させたとき両者の間に形成される気密空間は、上型20Uに設けられた孔を通して接続された真空ポンプ30を作動させることにより、真空脱気することができる。
【0013】
実施形態に係る製造方法では、図3に示すように、少なくとも1枚の炭素繊維プリプレグシート1と、それに重ねられた熱可塑性樹脂フィルム2を含む積層物3が、予備賦形されることなしに、下型20Lと上型20Uの間に置かれる。下型20Lと上型20Uはこの時点で既に成形温度Tmと同じ温度に加熱されていることが好ましい。成形温度Tmについては後述する。
【0014】
積層物3は、互いに積層された2枚以上の炭素繊維プリプレグシート1を含んでもよい。
図3では、1枚の熱可塑性樹脂フィルム2が炭素繊維プリプレグシート1に重ねられているが、他の例では、1枚の炭素繊維プリプレグシート1または互いに積層された2枚以上の炭素繊維プリプレグシート1を、2枚の熱可塑性樹脂フィルム2で両側から挟んでもよい。
2枚以上の炭素繊維プリプレグシート1を積層する場合には、炭素繊維プリプレグシート1同士の間に各種の機能を有するフィルムを介在させてもよいし、炭素繊維プリプレグシート1のみを積層させた構成、すなわち、炭素繊維プリプレグシート1同士の間に、炭素繊維プリプレグシート以外のフィルムを含まない構成とすることもできる。
【0015】
炭素繊維プリプレグシート1と熱可塑性樹脂フィルム2は必要に応じて所定形状にカットされるが、予備賦形はされない。つまり、これらは平坦な状態のまま互いに積層されて、下型20Lと上型20Uの間に置かれる。
【0016】
次いで、下型20Lと上型20Uを互いに近付けて、図4に示すように成形型20を閉じる。成形型20を閉じる前は平坦だった炭素繊維プリプレグシート1と熱可塑性樹脂フィルム2が、成形型20を閉じた後は、成形面21Lと成形面21Uの形状に従うように変形した状態となる。そのため、熱可塑性樹脂フィルム2にはシワが発生する。
【0017】
成形型20を閉じる過程では、図5に示すように、シールリング22により密封された気密空間24が下型20Lと上型20Uの間に形成される。好適例では、炭素繊維プリプレグシート1と熱可塑性樹脂フィルム2の間から気泡を追い出すために、真空ポンプ30を作動させて気密空間24を真空脱気してもよい。気泡を十分に追い出すために、気密空間24が形成されたところで、下型20Lと上型20Uを互いに近付けるのを中断してもよいし、あるいは、下型20Lと上型20Uを互いに近付ける速度を下げてもよい。
【0018】
炭素繊維プリプレグシート1と熱可塑性樹脂フィルム2の積層物3を成形型20内で加熱および加圧するために、成形型20は一定の時間、閉じた状態に保持される。本明細書では、この時間(成形型20を閉じてから開くまでの時間)を「成形時間」と呼ぶ。
成形型20内で炭素繊維プリプレグシート1に加えられる圧力は、好ましくは3MPa以上10MPa以下の範囲内である。ここでいう圧力は、プレス機10の押圧力を炭素繊維プリプレグシート1の面積で除算することにより得られる値である。
成形時間は、炭素繊維プリプレグシート1が硬化するに足る長さに設定される。
【0019】
成形型20を閉じてから開くまでの間の成形型20の温度(本明細書では、この温度を「成形温度Tm」と呼ぶ。)が高いほど、炭素繊維プリプレグシート1は短時間で硬化する。従って、成形温度Tmは、好ましくは120℃以上であり、より好ましくは130℃以上、更に好ましくは135℃以上である。成形温度Tmが120℃以上であるとき、成形時間は2時間以内とすることができる。
【0020】
炭素繊維プリプレグシート1の硬化が早過ぎることによる成形不良の発生頻度を下げる観点から、成形温度Tmは、好ましくは170℃以下であり、より好ましくは160℃以下、更に好ましくは150℃以下である。
成形温度Tmを高くし過ぎないことは、成形温度Tmと後述する温度Tdとの差を小さくし、成形型20の温度制御に要する時間を短縮するうえでも有利である。
【0021】
炭素繊維プリプレグシート1が硬化したら、図6に示すように成形型20を開き、三次元的形状に成形されたCFRP製品4を、成形型20から脱型する。
CFRP製品4は、硬化した炭素繊維プリプレグシート1からなるCFRP部41と、CFRP部41の表面を覆う保護層42とを有する。保護層42は、熱可塑性樹脂フィルム2がCFRP部41の表面に貼り付くことにより形成される。従って、保護層42の材質は熱可塑性樹脂である。
【0022】
実施形態に係る製造方法では、熱可塑性樹脂フィルム2を構成する熱可塑性樹脂が非晶性である。言い換えれば、熱可塑性樹脂フィルム2を構成する熱可塑性樹脂がガラス転移温度Tg2を有し、そのガラス転移温度Tg2以上の温度で流動性を示す。Tg2を決定付けるのは、熱可塑性樹脂中で連続相を形成する非晶性の主ポリマーの性質である。
【0023】
実施形態に係る製造方法では、更に、該熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg2よりも成形温度Tmの方が高い。そのため、成形型20が閉じられる際に熱可塑性樹脂フィルム2に生じたシワが成形中に消失し、保護層42は全くシワの無いものとなり得る。その理由は、成形型20内では熱可塑性樹脂フィルム2が持続的に高い圧力を受けた状態で、ガラス転移温度Tg2よりも高い温度に晒されるので、シワの周囲の樹脂が互いに融着するためと考えられる。
【0024】
一方で、CFRP製品4を成形型20から脱型するときに、成形型20の温度を該熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg2以下の温度まで下げる必要はない。脱型時の成形型20の温度Tdがガラス転移温度Tg2を大きく超えない限り、脱型時に該熱可塑性樹脂フィルム2の一部が成形面21Lに残る問題は生じないからである。
その理由は、該熱可塑性樹脂が非晶性であるためと考えられる。非晶性の熱可塑性樹脂は、ガラス転移温度Tg2より高い温度においても、粘度がガラス状態のときに比べて極端に低くならず、弾性体としての性質を多分に有している。
【0025】
このような非晶性の熱可塑性樹脂の性質は、結晶性の熱可塑性樹脂とは対照的である。結晶性の熱可塑性樹脂が流動性を示す状態になったときの粘度、つまり、融点に達したときに示す粘度はかなり低い。
例えば、実施形態に係る製造方法では、シワの無い保護層42が得られるよう成形温度Tmを設定すると同時に、成形型20の温度をその成形温度Tmに保持したままCFRP製品4を脱型することが可能であるが、それは、熱可塑性樹脂フィルム2の材質が非晶性だからである。
【0026】
CFRP製品4を成形型20から脱型するときの成形型20の温度Tdを決めるにあたっては、CFRP製品4のCFRP部41のガラス転移温度Tg1が考慮すべき要素となり得る。脱型時の成形型の温度TdがCFRP部41のガラス転移温度Tg1に比べ高過ぎる場合、脱型時にCFRP製品4が歪む虞があるからである。
【0027】
脱型時の成形型の温度Tdは、CFRP部41のガラス転移温度Tg1と同等以上であってもよいが、その場合、この2つの温度の差(Td-Tg1)は20℃以下であることが好ましく、10℃以下であることがより好ましい。更に好ましいのは、脱型時の成形型20の温度TdがCFRP部41のガラス転移温度Tg1より低いことである。
【0028】
脱型時の成形型の温度Tdは、成形温度Tmと同じか、それよりも低いことが好ましい。特に好ましい実施形態では、成形型20を閉じる前からCFRP製品4を成形型20から脱型するまでの間、成形型20の温度が一定に保持される(以下ではこの実施形態を「実施形態A」と呼ぶ)。成形サイクルを連続的に実行する場合に実施形態Aを適用すると、成形型20の温度を変更するために要する時間が不要となり、生産効率の面で非常に有利である。
【0029】
実施形態Aでは、成形温度Tmと脱型時の成形型20の温度Tdが同じであるため、成形温度Tmを高くし過ぎないことが、脱型時のCFRP製品4の歪みを防ぐうえでも、脱型後のCFRP製品4の熱収縮を抑制するうえでも望ましい。
従って、実施形態Aにおいても、成形温度Tmは170℃以下であることが好ましく、160℃以下であることがより好ましく、150℃以下であることが更に好ましい。
【0030】
実施形態Aにおいて、120℃以上170℃以下、特に130℃以上160℃以下、中でも135℃以上150℃の範囲内の成形温度Tmを採用するとき、熱可塑性樹脂フィルム2として、ガラス転移温度を80℃から100℃の間に有する非晶性熱可塑性樹脂からなるフィルムを好ましく用いることができる。
【0031】
2.材料
前記1.に記したCFRP製品の製造方法で使用し得る材料について以下に説明する。
【0032】
2.1.炭素繊維プリプレグシート
炭素繊維プリプレグシートは、炭素繊維からなる補強材と、未硬化の熱硬化性マトリックス樹脂とからなるシート状の成形材料であり、該補強材を該マトリックス樹脂で含浸させることにより製造される。
炭素繊維プリプレグシートの典型例には、炭素繊維UDプリプレグ、炭素繊維織物プリプレグおよび炭素繊維シートモールディングコンパウンドが含まれる。
【0033】
炭素繊維UDプリプレグでは、補強材として含まれる炭素繊維が一方向に引き揃えられている。
炭素繊維織物プリプレグでは、炭素繊維からなる織物が補強材として用いられている。織物組織の例には平織、綾織および朱子織が含まれるが、これらに限定されない。織物は、ノンクリンプ織物であってもよい。
炭素繊維シートモールディングコンパウンドでは、チョップド炭素繊維束をばら撒くことにより形成されるランダムマットが補強材として用いられている。
【0034】
実施形態に係る製造方法において好ましく使用し得る炭素繊維プリプレグシートは、成形中に流動し難いことから、炭素繊維UDプリプレグと炭素繊維織物プリプレグであり、とりわけ炭素繊維織物プリプレグである。炭素繊維プリプレグシートを2枚以上使用する場合、炭素繊維UDプリプレグと炭素繊維織物プリプレグのいずれか一方のみを使用してもよく、炭素繊維UDプリプレグと炭素繊維織物プリプレグの両方を使用してもよい。
【0035】
炭素繊維UDプリプレグ、炭素繊維織物プリプレグおよび炭素繊維シートモールディングコンパウンドは、従来から広く使用されており、その種類、仕様、製造方法等については公知情報を適宜参照することができる。
炭素繊維UDプリプレグおよび炭素繊維織物プリプレグの市販品の例には、三菱ケミカル株式会社のパイロフィル(登録商標)、東レ株式会社のトレカ(登録商標)、帝人株式会社のテナックス(登録商標)が含まれ、当業者はこれらを購入して使用することができる。
【0036】
CFRP製品のCFRP部のガラス転移温度Tg1を知るには、材料に用いる炭素繊維プリプレグシートを実際の成形条件を模擬した条件で硬化させて得た試験片を用いて動的粘弾性測定を行い、貯蔵剛性率G´の温度依存性に基づいて決定されるG´Tgを、ガラス転移温度Tg1として採用すればよい。
より具体的には、炭素繊維プリプレグシートを硬化させて厚さ約1mmのCFRP板を作製した後、そこから長さ55mm、幅12.5mmの試験片を切り出す。この試験片の貯蔵剛性率G´を、TAインストルメンツ社製レオメーターARES-RDAを用いて、ねじりモード、測定周波数1Hz、昇温速度5℃/分という条件で測定する。logG´を温度に対しプロットしたグラフにおける、logG´の平坦領域の近似直線とlogG´が急激に低下する領域の近似直線との交点の温度がG´Tgである。
【0037】
例えば、国際公開WO2013/081058号パンフレットには、炭素繊維プリプレグシートを硬化させることで約100℃から約170℃の範囲内の様々なG´Tgを有するCFRPが得られることが、炭素繊維プリプレグシートの製造方法とともに開示されており、参考にすることができる。
【0038】
2.2.熱可塑性樹脂フィルム
実施形態に係るCFRP製品の製造方法で使用する熱可塑性樹脂フィルムの材質は非晶性の熱可塑性樹脂である。非晶性の熱可塑性樹脂の種類は特に限定されないが、好適例として、アクリル樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂が挙げられる。
【0039】
実施形態に係るCFRP製品の製造方法では、成形温度Tmを熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg2よりも高温とすることで、成形型を閉じるときに熱可塑性樹脂フィルムに形成されるシワの消失が図られる。より短い成形時間でシワを消失させるためには、熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg2と成形温度Tmとの差(Tm-Tg2)は好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上、更に好ましくは30℃以上である。
【0040】
実施形態に係るCFRP製品の製造方法では、CFRP製品を成形型から脱型するときの成形型の温度Tdが、熱可塑性樹脂フィルムの材質である熱可塑性樹脂のガラス温度Tg2よりも高い。脱型のときに、熱可塑性樹脂フィルムの一部が成形面に残らないようにするには、熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg2と脱型時の成形型の温度Tdとの差(Td-Tg2)は、好ましくは60℃以下、より好ましくは50℃以下である。
【0041】
熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg2は、次の方法により測定される。
示差走査熱量計(例えば、DSC6200、セイコーインスツルメント株式会社製)を用いて、熱可塑性樹脂を室温から昇温速度10℃/分で加熱し150℃に到達させた後、20℃まで急冷する。再度、昇温速度10℃/分で150℃まで加熱しながら、リファレンスとの熱流の差を測定し、得られたチャートにおいて、ベースラインが下にシフトする温度域よりも低温側のベースラインと、該温度域内にある変曲点におけるDSCカーブの接線との交点の温度を求める。この交点の温度をガラス転移温度として採用する。
【0042】
熱可塑性樹脂が複数の非晶性熱可塑性ポリマー相を含む場合、ベースラインがシフトする温度域を複数有するDSCカーブが得られる。その場合は、連続相を形成する主ポリマーのガラス転移温度を、当該熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg2とする。
【0043】
熱可塑性樹脂フィルムの候補材料を選定する段階では、示差走査熱量分析に基づく測定値の代用として、ポリマーハンドブック[Polymer HandBook(J.Brandrup,Interscience,1989)]に記載されている値又はモノマーメーカーのカタログ値を用いてFOXの式から求められる推算ガラス転移温度を利用することもできる。
【0044】
熱可塑性樹脂フィルムの材質である熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg2が高い程、実施形態に係る方法で製造されるCFRP製品において保護層が与える保護効果が高くなる。この観点から、熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg2は好ましくは80℃以上、より好ましくは90℃以上であり、100℃以上であってもよい。
ガラス転移温度Tg2が80℃以上の非晶性熱可塑性樹脂からなる樹脂フィルムは、炭素繊維プリプレグシートの予備賦形が行われるときの温度(通常80℃未満)では塑性変形しない。従って、炭素繊維プリプレグシートとかかる樹脂フィルムとの積層物は、プレス成形の前に予備賦形することが困難なことが多い。
【0045】
熱可塑性樹脂フィルムの厚さは、限定するものではないが、通常25μm以上、好ましくは50μm以上、より好ましくは75μm以上であり、また、通常300μm以下、好ましくは250μm以下、より好ましくは200μm以下である。
【0046】
熱可塑性樹脂フィルムの表面は、鏡面であってもよいし、艶消し面であってもよい。熱可塑性樹脂フィルムの表面が艶消し面であるときの表面粗度に特に限定はなく、その算術平均粗さ(Ra)は、例えば、0.2μm以上0.5μm未満、0.5μm以上1.0μm未満または1.0μm以上~2.0μm以下であり得る。最大高さ(Rz)は、好ましくは算術平均粗さ(Ra)の4~8倍の範囲内である。
【0047】
算術平均粗さと最大高さは、先端半径1μmで先端形状60°円錐の測定子を備える触針式表面粗さ計を用いて、JIS B0601-2001に従い、測定長さ4.0mm、評価長さ4.0mm、カットオフ波長0.8mm、測定速度0.3mm/sの条件で行われる粗さ測定に基づいて算出される。熱可塑性樹脂フィルムがMD(Machine Direction)とTD(Transverse Direction)を有する場合、測定方向はTDに平行とする。測定には、限定するものではないが、例えば(株)東京精密の表面粗さ計SURFCOM 1400Dを使用することができる。
【0048】
熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方の面が艶消し面である場合には、前述の製造方法において熱可塑性樹脂フィルムと炭素繊維プリプレグシートを重ねるときに、艶消し面が炭素繊維プリプレグシートの表面と向き合うようにすると、熱可塑性樹脂フィルムと炭素繊維プリプレグシートの間に気泡が入り難く、また、気泡が入ったとしても成形中に抜け易い。
【0049】
熱可塑性樹脂フィルムの製造方法に限定はなく、Tダイ法およびインフレーション法を含む溶融押出法、カレンダー法、これら以外の溶融流延法のいずれであってもよい。
【0050】
一例に係る熱可塑性樹脂フィルムは、艶消し剤を含有する層と艶消し剤を含有しない層とを有する積層フィルムであってもよい。
積層フィルムの製造方法は、単層のフィルムを製膜した後にフィルム同士を貼り合せる方法であってもよいが、経済性の点で好ましいのは、マルチマニホールドやフィードブロックを有したTダイを使用した共押出ラミネーション法である。
【0051】
熱可塑性樹脂フィルムが積層フィルムである場合は、同じ種類の熱可塑性樹脂で形成された層のみを含んでもよいし、異なる種類の熱可塑性樹脂から形成された層を含んでもよい。ただし、いずれの層を形成する熱可塑性樹脂も、非晶性であることと、実施形態に係る製造方法における成形温度より低いガラス転移温度Tg2を有することが必要である。
【0052】
前記熱可塑性樹脂フィルムの材質として例示した前述の非晶性熱可塑性樹脂の中でも、特に好ましいのはアクリル樹脂である。
アクリル樹脂とは、(メタ)アクリル酸アルキルの重合体を主成分として含有する組成物である。
【0053】
好適例に係るアクリル樹脂は、アクリルゴム含有重合体と熱可塑性(メタ)アクリル酸アルキル重合体とを主要成分として含有する。かかるアクリル樹脂においてアクリルゴム含有重合体と熱可塑性(メタ)アクリル酸アルキル重合体の含有量比は、重量にして10/90以上が好ましく、20/80以上95/5以下がより好ましい。
【0054】
アクリルゴム含有重合体は、アクリル酸アルキルを30質量%以上含む単量体成分を重合させてゴム粒子を得た後、該ゴム粒子の存在下でメタクリル酸アルキルを51質量%以上含む単量体成分を重合させることにより製造される。
【0055】
熱可塑性(メタ)アクリル酸アルキル重合体中の単量体残基は、全てがメタクリル酸アルキル単量体残基であってもよいし、50~99.9質量%、85~99.9質量%、あるいは92~99.9質量%がメタクリル酸アルキル単量体残基であってもよい。熱可塑性(メタ)アクリル酸アルキル重合体中のアクリル酸アルキル単量体残基の含有量は50質量%以下が好ましく、0.1~15質量%がより好ましく、0.1~8質量%が更に好ましい。熱可塑性(メタ)アクリル酸アルキル重合体は、二重結合を1分子当たり1個有する(メタ)アクリル酸アルキル以外の単量体の残基を49質量%以下含んでいてもよい。
【0056】
アクリル樹脂には、必要に応じて、艶消し剤、安定剤、滑剤、加工助剤、可塑剤、耐衝撃助剤、発泡剤、充填剤、着色剤、紫外線吸収剤等の添加剤を配合することができる。
【0057】
2.3.その他のフィルム
実施形態に係るCFRP製品の製造方法では、前記1.で述べたように、2枚以上の炭素繊維プリプレグシートを積層して用いる場合に、炭素繊維プリプレグシート同士の間に各種の機能を有するフィルムを介在させることができる。
かかるフィルムの例には、限定するものではないが、発泡フィルムとエラストマーフィルムが含まれる。
【0058】
発泡フィルムの使用により期待される効果は、CFRP製品の軽量化と、CFRP製品に対する遮音性の付与である。
エラストマーフィルムの使用により期待される効果は、CFRP製品に対する耐衝撃性の付与である。エラストマーフィルムの例にはニトリルゴムフィルムが含まれるが、これに限定されるものではない。
【0059】
3.CFRP製品
実施形態に係る方法を用いて製造されるCFRP製品は、CFRPからなる部分が三次元形状を有し、かつ、該部分の表面の少なくとも一部に樹脂製の保護層を有する。
前述の製造方法の説明から理解されるように、樹脂製の保護層は、非晶性の熱可塑性樹脂からなり、そのガラス転移温度Tg2はCFRP製品の成形温度Tmよりも低い。
従って、CFRPからなる部分のガラス転移温度Tg1が成形温度Tmよりも高い場合には、該ガラス転移温度Tg1が、保護層を構成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg2よりも高い。
【0060】
用途によっては、CFRP製品が表面に有する樹脂製の保護層が、スプレー塗装の代替としての役割を果たし得る。言い換えれば、実施形態に係る方法を用いて製造されるCFRP製品は、用途によっては、更にスプレー塗装を施すことなく使用することができる。
保護層が与える保護効果を高める観点からは、保護層の材質である非晶性の熱可塑性樹脂のガラス転移温度は好ましくは80℃以上、より好ましくは90℃以上であり、100℃以上であってもよい。
【0061】
4.上塗り塗装
一例では、実施形態に係る方法を用いて製造されるCFRP製品が有する樹脂製の保護層の上に、上塗り塗装を施してもよい。言い換えれば、樹脂製の保護層はプライマー塗膜としての役割を果たし得る。かかる例において、上塗り塗装を行う前に、保護層を研磨して表面を平坦化してもよい。保護層の表面平坦化に要する研磨量は、保護層の無いCFRP表面を研磨して平坦化する場合に必要な研磨量に比べて少ないのが普通である。
【0062】
上塗り塗装では、着色塗膜を含む少なくともひとつの塗膜が形成される。
上塗り塗装で形成される塗膜は、好ましくは焼付塗膜であり、塗布した塗料を80℃以上、典型的には100℃以上の温度で乾燥させることにより形成される。
上塗り塗装で形成される塗膜は、着色塗膜と、その上に形成されるクリヤ塗膜を含み得る。クリヤ塗膜は、トップコートとして形成され得る。
上塗り塗装で形成される塗膜は、着色塗膜と、その下に形成される下塗り塗膜を含み得る。
上塗り塗装で複数の塗膜を重ねて形成する場合、好ましくは、複数の塗料がウェットオンウェットで重ね塗りされた後、1工程で同時に焼付けられる。
【0063】
5.実施形態のまとめ
本発明の実施形態は以下を含むが、これらに限定されるものではない。
[実施形態1]表面の少なくとも一部に樹脂製の保護層を有する三次元形状のCFRP製品を製造する方法であって、少なくとも1枚の炭素繊維プリプレグシートとそれに重ねられた非晶性熱可塑性樹脂製のフィルムとを含む積層物を、予備賦形することなしに成形型内で加熱および加圧することにより前記CFRP製品を成形することを含み、前記成形の間および前記CFRP製品を前記成形型から脱型するときの前記成形型の温度が前記非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度よりも高い、方法。
[実施形態2]前記積層物が互いに積層された2枚以上の前記炭素繊維プリプレグシートを含む、実施形態1に係る方法。
[実施形態3]前記積層物が、前記炭素繊維プリプレグシート同士の間に介在された炭素繊維プリプレグシート以外のフィルムを含まない、実施形態2に係る方法。
[実施形態4]前記成形の間の前記成形型の温度が120℃以上、好ましくは130℃以上、より好ましくは135℃以上であり、かつ、好ましくは170℃以下、より好ましくは160℃以下、更に好ましくは150℃以下である、実施形態1~3のいずれかに係る方法。
[実施形態5]前記成形の間に前記炭素繊維プリプレグシートに加わる圧力が3MPa以上10MPa以下である、実施形態1~4のいずれかに係る方法。
[実施形態6]前記脱型のときの前記成形型の温度が、前記CFRP製品に含まれるCFRPのガラス転移温度よりも低い、実施形態1~5のいずれかに係る方法。
[実施形態7]前記脱型のときの前記成形型の温度が、前記成形の間の前記成形型の温度と同じ又はそれよりも低い、実施形態1~6のいずれかに係る方法。
[実施形態8]前記成形の間の前記成形型の温度と前記非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度との差が10℃以上、好ましくは20℃以上、より好ましくは30℃以上である、実施形態1~7のいずれかに係る方法。
[実施形態9]前記脱型のときの前記成形型の温度と前記非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度との差が60℃以下、好ましくは50℃以下である、実施形態1~8のいずれかに係る方法。
[実施形態10]前記非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度が、80℃以上、好ましくは90℃以上であり、更には100℃以上であってもよい、実施形態1~9のいずれかに係る方法。
[実施形態11]前記脱型のときの前記成形型の温度が、前記成形の間の前記成形型の温度と同じである、実施形態7に係る方法。
[実施形態12]前記成形の間の前記成形型の温度が170℃以下、好ましくは160℃以下、より好ましくは150℃以下である、実施形態11に係る方法。
[実施形態13]前記非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度が80℃以上100℃以下である、実施形態12に係る方法。
[実施形態14]前記少なくとも1枚の炭素繊維プリプレグシートが、炭素繊維UDプリプレグと炭素繊維織物プリプレグのいずれか一方または両方を含む、実施形態1~13のいずれかに係る方法。
[実施形態15]前記非晶性熱可塑性樹脂がアクリル樹脂、ABS樹脂およびポリカーボネート樹脂から選ばれる1種以上の樹脂を含む、実施形態1~14のいずれかに係る方法。
[実施形態16]前記非晶性熱可塑性樹脂がアクリル樹脂を含む、実施形態15に係る方法。
[実施形態17]
実施形態1~16のいずれかに係る方法における、前記非晶性熱可塑性樹脂製のフィルムとしてのアクリル樹脂フィルムの使用。
[実施形態18]CFRP部と前記CFRP部の表面の少なくとも一部を覆う樹脂製の保護層とを有し、前記保護層は非晶性熱可塑性樹脂からなり、前記CFRP部のガラス転移温度が前記非晶性熱可塑性樹脂のガラス転移温度よりも高い、三次元形状のCFRP製品。
[実施形態19]前記非晶性熱可塑性樹脂がアクリル樹脂、ABS樹脂およびポリカーボネート樹脂から選ばれる1種以上の樹脂を含む、実施形態18に係るCFRP製品。
[実施形態20]前記非晶性熱可塑性樹脂がアクリル樹脂を含む、実施形態19に係るCFRP製品。
【実施例0064】
6.実験結果
6.1.CFRP製品の試作
本発明者等によるCFRP製品の試作の結果を以下に記す。
【0065】
試作したCFRP製品は、図7に外観を示す、開口部が155mm×205mmの角丸長方形で、高さ25mmのトレーである。図7においては、トレーが底を上に向けて置かれており、図7(a)が底面側斜視図、(b)が底面図、(c)が側面図を示す。
【0066】
<材料>
使用した材料は次の通りである。
[炭素繊維プリプレグシート]
炭素繊維を一方向に引き揃えて密に並べ、エポキシ樹脂組成物で含浸させてなる炭素繊維UDプリプレグと、平織の炭素繊維織物をエポキシ樹脂組成物で含浸させてなる炭素繊維織物プリプレグの、いずれかを使用した。どちらを使用する場合も、使用前に176mm×228mmの角丸長方形にカットした。
いずれの炭素繊維プリプレグも、140℃、4MPa、5分間という条件で硬化させたときのガラス転移温度は170℃である。
【0067】
[熱可塑性樹脂フィルム]
表1に示す7種類のアクリル樹脂フィルムを205mm×260mmの角丸長方形にカットして使用した。
【0068】
【表1】
【0069】
表1に示す推算ガラス転移温度は、各アクリル樹脂フィルムの材質であるアクリル樹脂の推算ガラス転移温度である。該推算ガラス転移温度は、ポリマーハンドブック[Polymer HandBook(J.Brandrup,Interscience,1989)]に記載されている値又はモノマーメーカーのカタログ値を用いてFOXの式から算出した。
【0070】
表1に示すアクリル樹脂フィルムの表面粗度は、3箇所で行った粗さ測定から求めた算術平均粗さRaおよび最大高さRzの平均値である。
粗さ測定には触針式表面粗さ計((株)東京精密のSURFCOM 1400D)を用いた。測定子は、(株)東京精密の差し替え粗さ形状測定子(高倍率測定用)(型番010 2506)で、先端半径が1μm、先端形状は60°円錐であった。測定条件は、JIS B0601-2001に従い、測定長さ4.0mm、評価長さ4.0mm、カットオフ波長0.8mm、測定速度0.3mm/sとした。測定方向はTDに平行とした。
【0071】
アクリル樹脂フィルムA、B、C、Gは積層フィルムで、艶消し剤を含有する第一のアクリル樹脂からなる層と艶消し剤を含有しない第二のアクリル樹脂からなる層とを有していた。
表1において、アクリル樹脂フィルムA、B、C、Gの推算ガラス転移温度は、スラッシュの前の値が第一のアクリル樹脂のもので、スラッシュの後の値が第二のアクリル樹脂のものである。すなわち、(第一のアクリル樹脂の推算ガラス転移温度)/(第二のアクリル樹脂の推算ガラス転移温度)である。
表1において、アクリル樹脂フィルムA、B、C、Gの表面粗度は、第一のアクリル樹脂からなる層の側の表面粗度である。
各アクリル樹脂の製造方法は後述する。
【0072】
<トレーの成形>
下記表2に示す10通りの組合せについて試作を行った。
各試作では、まず、複数枚の炭素繊維プリプレグシートに2枚のアクリル樹脂フィルムを重ねた積層物を作製した。
炭素繊維UDプリプレグを用いる場合には、図8に示すように、2枚のアクリル樹脂フィルムの間に6枚(後述する試作10のみ5枚)の炭素繊維UDプリプレグを配置した。6枚(後述する試作10のみ5枚)のうち両端の2枚は、繊維方向を角丸長方形の長辺と平行とし、その2枚に挟まれた残りの4枚(後述する試作10のみ3枚)は、繊維方向を角丸長方形の短辺と平行とした。
炭素繊維織物プリプレグを用いる場合には、図9に示すように、2枚のアクリル樹脂フィルムの間に4枚の炭素繊維織物プリプレグを配置した。
【0073】
アクリル樹脂フィルムが積層フィルムである場合は、艶消し剤を含有する層の表面を炭素繊維プリプレグシートと接触させた。
アクリル樹脂フィルムA、B、C、D、Gを用いたときは、積層時に炭素繊維プリプレグシートとアクリル樹脂フィルムの間にできる気泡は、積層物の表面を手作業で押すことにより簡単に追い出すことができた。
【0074】
次いで、積層物を予備賦形することなくプレス成形装置の成形型内で加熱および加圧することにより、トレーを成形した。成形温度は140℃、成形圧は4MPa、成形時間は5分間とした。
試作1~9では、成形型の表面に離型剤[ケムトレンドジャパン株式会社の液体離型剤ケムリース(登録商標)AF-7]を塗布した。試作10では離型剤を使用しなかった。
成形型を閉じるときは、成形型内の真空圧が0.1MPaとなるように真空ポンプで90秒間脱気を行った。
成形したトレーの脱型は、成形型の温度を下げることなく行った。
【0075】
結果を下記表2に示す。
【0076】
【表2】
【0077】
表2に記すように、試作1~10のいずれにおいても、成形したトレーは成形型の温度を140℃から下げることなしに、容易に脱型することができた。
試作1~10のいずれで得られたトレーにおいても、表面はアクリル樹脂製の保護層で覆われており、その保護層にシワは観察されなかった。
【0078】
6.2.アクリル樹脂フィルムの製造方法
前記6.1.に記載した試作実験で使用したアクリル樹脂フィルムA~Gの製造方法は以下の通りである。
【0079】
[アクリル樹脂フィルムA]
下記表3に示す成分を、ヘンシェルミキサーを用いて同表のA-1列に示す配合比で混合のうえ二軸押出機に供給し、シリンダー温度170~260℃およびダイヘッド温度220~240℃の条件で、スクリーンメッシュ(ステンレス製200メッシュ・平織、公称ろ過径77μm)で夾雑物を取り除きながらストランドを押し出す。このストランドを水槽中で冷却したうえで切断することにより第一のアクリル樹脂のペレットを得る。
同様にして、下記表3の成分を同表のA-2列に示す配合比で配合してなる第二のアクリル樹脂ペレットを得る。
【0080】
第一のアクリル樹脂のペレットと第二のアクリル樹脂のペレットは、85℃で一昼夜除湿乾燥したうえで使用する。
第一のアクリル樹脂は30mmφのノンベントスクリュー型押出機を用いてシリンダー温度200~240℃の条件で可塑化、第二のアクリル樹脂は40mmφのノンベントスクリュー型押出機を用いてシリンダー温度220~240℃の条件で可塑化したうえ、245℃に設定した500mm幅の2種2層用マルチマニホールドTダイに供給し、積層フィルムを押し出す。積層フィルムを冷却するとき、第一のアクリル樹脂側はエンボス仕上げしたシリコーン製ロールと接触させ、第二のアクリル樹脂側は鏡面仕上げしたステンレス製ロールのニップロールに接触させる。
【0081】
[アクリル樹脂フィルムB]
第一のアクリル樹脂の配合組成が下記表3のB-1列に示す配合組成であることと、第二のアクリル樹脂の配合組成が下記表3のB-2列に示す配合組成であること以外は、アクリル樹脂フィルムAと同様である。
【0082】
[アクリル樹脂フィルムC]
積層フィルムを冷却するとき、第二のアクリル樹脂側を、ニップロールの代わりに鏡面冷却ロールに接触させること以外は、アクリル樹脂フィルムBと同様である。
【0083】
[アクリル樹脂フィルムD]
下記表3のD列に示す配合組成を有するアクリル樹脂のペレットを、85℃で一昼夜除湿乾燥したうえで使用する。
300mm幅のTダイを取り付けた40mmφのノンベントスクリュー型押出機を用いて、シリンダー温度200~240℃、Tダイ温度245℃の条件で単層フィルムを押し出す。フィルムを冷却するときは、表面を鏡面冷却ロールに接触させる。
【0084】
[アクリル樹脂フィルムE]
アクリル樹脂の配合組成が下記表3のE列に示す配合組成であること以外はアクリル樹脂フィルムDと同様である。
【0085】
[アクリル樹脂フィルムF]
アクリル樹脂の配合組成が下記表3のF列に示す配合組成であること以外はアクリル樹脂フィルムDと同様である。
【0086】
[アクリル樹脂フィルムG]
第一のアクリル樹脂の配合組成が下記表3のG-1列に示す配合組成であることと、第二のアクリル樹脂の配合組成が下記表3のG-2列に示す配合組成であること以外は、アクリル樹脂フィルムCと同様である。
【0087】
【表3】
【0088】
表3に示すアクリル系ゴム含有重合体(G)の製造方法は次の通りである。
ゴム含有多段重合体(I)は、国際公開WO2019/244791号パンフレットに記載の調整例1の方法で製造される。
ゴム含有多段重合体(II)は、国際公開WO2019/244791号パンフレットに記載の調整例2の方法で製造される。
【0089】
ゴム含有多段重合体(III)は、単量体成分(ii-c)のn-OMの配合量を0.186部に変更すること以外は、国際公開WO2019/244791号パンフレットに記載の調整例2と同様の方法で製造される。
【0090】
ゴム含有多段重合体(IV)は、国際公開WO2019/244791号パンフレットに記載の調整例3の方法で製造される。
表3に示す艶消し剤(D1)は国際公開WO2019/244791号パンフレットに記載の調整例5の方法で製造される。
【産業上の利用可能性】
【0091】
樹脂被覆されたCFRP成形体は、航空機や自動車を含む移動体の部品、モバイルパソコン、デジタルビデオカメラ、携帯電話等を含む電子機器の筐体、および、大型フラットパネルディスプレイの筐体を含む、様々な用途に適用し得る。
【符号の説明】
【0092】
1 炭素繊維プリプレグシート
2 熱可塑性樹脂フィルム
3 積層物
4 CFRP製品
10 プレス機
11 メインフレーム
12 ボルスター
13 スライド
14 昇降機構
20 成形型
20L 下型
20U 上型
21L 成形面
21U 成形面
22 シールリング
23 垂直壁
24 気密空間
30 真空ポンプ
41 CFRP部
42 保護層
100 プレス装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9