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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140642
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】ポリエステル樹脂組成物及び成形体
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/16 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
C08G63/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051887
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】阿武 秀二
【テーマコード(参考)】
4J029
【Fターム(参考)】
4J029AA03
4J029AB01
4J029AB04
4J029AD01
4J029AE01
4J029BA01
4J029BA02
4J029BA03
4J029BA04
4J029BA05
4J029BA07
4J029BA10
4J029BB06A
4J029BB10A
4J029BB13A
4J029BB13B
4J029BD03A
4J029BD04A
4J029BD06A
4J029BD07A
4J029BD10
4J029BF03
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4J029BF25
4J029BF26
4J029BH02
4J029CA02
4J029CA04
4J029CA05
4J029CA06
4J029CB04A
4J029CB05A
4J029CB05B
4J029CB06A
4J029CB10A
4J029CB12A
4J029CC06A
4J029CD03
4J029CE04
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4J029DB11
4J029EA03
4J029EB05A
4J029ED05A
4J029FA02
4J029FB02
4J029FC03
4J029FC04
4J029FC05
4J029FC08
4J029FC29
4J029FC35
4J029FC36
4J029GA12
4J029JA061
4J029JA091
4J029JA121
4J029JA261
4J029JB131
4J029JB171
4J029JC433
4J029JC533
4J029JF032
4J029JF131
4J029JF141
4J029JF321
4J029JF361
4J029JF371
4J029JF471
4J029KD02
4J029KD07
4J029KE02
4J029KE05
(57)【要約】
【課題】PETボトルと分別せずに回収してリサイクルすることができ、各種容器等の製品としての物性を満たすことができるポリエステル樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ジカルボン酸単位とジオール単位から構成されるポリエステル樹脂を含むポリエステル樹脂組成物であって、該ポリエステル樹脂組成物を用いて成形した1mm厚板が下記要件(1)~(3)を満たすポリエステル樹脂組成物。
要件(1)歪2.0%における曲げ応力が10~50MPa
要件(2)前記1mm厚板の平板部における、直径2mmのサファイヤ球との印加荷重1kgfでの摩擦係数が0.02~0.12
要件(3)前記1mm厚板を粉砕した粉砕物とポリエチレンテレフタレート樹脂とを1:4の質量比で混合した混合物を射出成形して得られる3mm厚板のヘーズと、該粉砕物を添加しない該ポリエチレンテレフタレート樹脂のみを射出成形して得られる3mm厚板のヘーズとの差が5%以下
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸単位とジオール単位から構成されるポリエステル樹脂を含むポリエステル樹脂組成物であって、
該ポリエステル樹脂組成物を用いて成形した1mm厚板が下記要件(1)~(3)を満たすことを特徴とするポリエステル樹脂組成物。
要件(1)歪2.0%における曲げ応力が10~50MPa
要件(2)前記1mm厚板の平板部における、直径2mmのサファイヤ球との印加荷重1kgfでの摩擦係数が0.02~0.12
要件(3)前記1mm厚板を粉砕した粉砕物とポリエチレンテレフタレート樹脂とを1:4の質量比で混合した混合物を射出成形して得られる3mm厚板のヘーズと、該粉砕物を添加しない該ポリエチレンテレフタレート樹脂のみを射出成形して得られる3mm厚板のヘーズとの差が5%以下
【請求項2】
更に、下記要件(4)を満たすことを特徴とする請求項1に記載のポリエステル樹脂組成物。
要件(4)前記1mm厚板の平板部における、荷重0.5Nを印加した先端径1mmの針の侵入深さが0.1mmとなる温度が60℃以上
【請求項3】
請求項1又は2に記載のポリエステル樹脂組成物を用いた成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル樹脂組成物に関する。詳しくは、本発明は、PETボトルと分別せずに回収してリサイクルすることができ、しかも、各種容器等の製品としての物性、具体的には、柔軟性、滑り性、更には耐熱性等を満たすことができるリサイクル性に優れたポリエステル樹脂組成物と、このポリエステル樹脂組成物を用いた成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)は、機械的強度、化学的安定性、ガスバリア性、保香性、衛生性等に優れ、また容器などの成形品を回収、洗浄粉砕し再度溶融成形することが可能であるため、環境面でも優れたリサイクル可能な包装容器等として広く用いられている。しかし、ポリエステル樹脂は柔軟性が劣るため、その改良が求められてきた。
【0003】
特許文献1には、柔軟性と透明性に優れた成形品を得ることができると共に、保管中の透明性の低下の問題もなく、得られた成形品を回収して粉砕後再度溶融成形した際も透明な成形品を得ることができ、優れた再利用適性(リサイクル性)を有するポリエステルとして、ジカルボン酸単位としてテレフタル酸単位と特定量のダイマー酸単位を含み、ジオール単位としてエチレングリコール単位と特定量のポリアルキレングリコール単位を含むポリエステルが提案されている。
【0004】
一方で、各種食品容器や飲料容器等の容器類にあっては、その用途や適用対象により、柔軟性(曲げ特性)、滑り性、更には耐熱性(耐加熱変形性)等が要求される。
従来、このような物性が要求される容器類においては、ポリオレフィンやポリスチレンが用いられている。
即ち、現行のPETボトル用のPETは、硬いために、柔軟性不足から、離型時に弾性変形できず、例えば、逆テーパー部のある製品には、離型性が悪いため、適用できない。
一方、柔軟性の高いPETでは滑り性が悪く、このようなPET製容器では、運搬のために容器同士を重ねた場合、これらを取り出す際の分離が困難であり、著しい場合には容器が割れる場合がある。また、相対的に変形し難い物体との滑り性も悪い(滑り難い)ため、取り扱いが困難である。
【0005】
このようなことから、従来、柔軟性、滑り性が要求される用途においては、成形材料としてポリオレフィンやポリスチレンが用いられている。
しかし、ポリオレフィンやポリスチレン製容器では、PETボトル等のPET製容器と共に溶融成形できない。即ち、これらは、PETと相溶しないので、PETとの溶融成形で得られる成形品は不透明となり再利用できない。このため、ポリオレフィンやポリスチレン製の容器はPETボトルと分別回収する必要がある。
【0006】
このようなことから、PETボトル等のPET製容器と分別せずに回収してリサイクルすることができ、かつ柔軟性、滑り性にも優れた成形材料の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2021-24951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来の実状に鑑み、PETボトルと分別せずに回収してリサイクルすることができ、しかも、各種容器等の製品としての物性、具体的には、容器等成形時に変形などすることなく離型可能な柔らかさと、ねじ山形状を有するキャップ等での密栓を確実に行える硬さとを併せ持つ適度な柔軟性;容器を積み重ねて保管した後の取り外しが容易な滑りやすさと、容器をトレー等の上に置いた際容易に滑り倒れない滑りにくさとを併せ持つ適度な滑り性;PETとの混合使用時に混合有無によるヘーズ差が小さく、透明性を損なうことのない良好なPETとの相溶性;等を満たすことができるポリエステル樹脂組成物と、このポリエステル樹脂組成物を用いた成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ジカルボン酸単位と、ジオール単位とからなるポリエステル樹脂を含むポリエステル樹脂組成物であって、該ポリエステル樹脂組成物を用いて成形した1mm厚板の曲げ応力、サファイヤ球との摩擦係数、および板粉砕物とポリエチレンテレフタレート樹脂との混合物の射出成形3mm厚板のヘーズと該粉砕物を添加しないポリエチレンテレフタレート樹脂の射出成形3mm厚板のヘーズとの差が、特定の範囲になるポリエステル樹脂組成物が、上記課題を解決することができることを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下を要旨とする。
【0011】
[1] ジカルボン酸単位とジオール単位から構成されるポリエステル樹脂を含むポリエステル樹脂組成物であって、該ポリエステル樹脂組成物を用いて成形した1mm厚板が下記要件(1)~(3)を満たすことを特徴とするポリエステル樹脂組成物。
要件(1)歪2.0%における曲げ応力が10~50MPa
要件(2)前記1mm厚板の平板部における、直径2mmのサファイヤ球との印加荷重1kgfでの摩擦係数が0.02~0.12
要件(3)前記1mm厚板を粉砕した粉砕物とポリエチレンテレフタレート樹脂とを1:4の質量比で混合した混合物を射出成形して得られる3mm厚板のヘーズと、該粉砕物を添加しない該ポリエチレンテレフタレート樹脂のみを射出成形して得られる3mm厚板のヘーズとの差が5%以下
【0012】
[2] 更に、下記要件(4)を満たすことを特徴とする[1]に記載のポリエステル樹脂組成物。
要件(4)前記1mm厚板の平板部における、荷重0.5Nを印加した先端径1mmの針の侵入深さが0.1mmとなる温度が60℃以上
【0013】
[3] [1]又は[2]に記載のポリエステル樹脂組成物を用いた成形体。
【発明の効果】
【0014】
本発明のポリエステル樹脂組成物によれば、PET樹脂との混合使用時においてPETとの相溶性に優れるため、PETとの混合使用時の成形品ヘーズ差を小さくできる。このためボトル等のPET製容器と分別せずに回収してリサイクルすることができる(以下、この物性を「リサイクル性」と称す場合がある。)。
本発明のポリエステル樹脂組成物は、逆テーパー部のある形状であっても良好な離型性と、キャップによる良好な密栓性も有する適度な曲げ応力(柔軟性)を有する。
また、積み重ね保管後に取り外せる滑りやすさと運搬時等において倒れにくい滑りにくさも兼ね備える適度な摩擦係数(滑り性)を有する。
このため、本発明のポリエステル樹脂組成物であれば、従来、ポリオレフィンやポリスチレンが用いられている各種容器類等の成形材料として用いて、その廃材を分別することなく容易にPET製品と共に回収してリサイクルすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の代表例であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。
【0016】
〔ポリエステル樹脂組成物〕
本発明のポリエステル樹脂組成物は、ジカルボン酸単位とジオール単位から構成されるポリエステル樹脂を含むポリエステル樹脂組成物であって、該ポリエステル樹脂組成物を用いて成形した1mm厚板が下記要件(1)~(3)、好ましくは更に下記要件(4)を満たすことを特徴とする。
要件(1)歪2.0%における曲げ応力が10~50MPa
要件(2)前記1mm厚板の平板部における、直径2mmのサファイヤ球との印加荷重1kgfでの摩擦係数が0.02~0.12
要件(3)前記1mm厚板を粉砕した粉砕物とポリエチレンテレフタレート樹脂とを1:4の質量比で混合した混合物を射出成形して得られる3mm厚板のヘーズと、該粉砕物を添加しない該ポリエチレンテレフタレート樹脂のみを射出成形して得られる3mm厚板のヘーズとの差が5%以下
要件(4)前記1mm厚板の平板部における、荷重0.5Nを印加した先端径1mmの針の侵入深さが0.1mmとなる温度が60℃以上
なお、上記要件(1)~(4)の測定対象である1mm厚板の成形方法及び各要件の測定方法の具体的な方法は後掲の実施例の項に示す通りである。
【0017】
前述の通り、PETボトルと分別せずに回収してリサイクルすることができ、しかも、各種容器等の製品として要求される物性としては、
(i)容器等成形時に変形などすることなく離型可能な柔らかさと、ねじ山形状を有するキャップ等での密栓が確実に行える硬さとを併せ持つ適度な柔軟性;
(ii)容器を積み重ねて保管した後の取り外しが容易な滑りやすさと、容器をトレー等の上に置いた際容易に滑り倒れない滑りにくさとを併せ持つ適度な滑り性;
(iii)PETとの混合使用時に混合有無によるヘーズ差が小さく、透明性を損なわないPETとの良好な相溶性;
が望まれる。
加えて用途によっては高温環境での保管や使用が想定される場合もあり、
(iv)高温下での変形が小さい耐熱性;
も要求される場合もある。
本発明のポリエステル樹脂組成物は、前記要件(1)により上記(i)の適度な柔軟性の要求特性を満たすことができ、前記要件(2)により上記(ii)の適度な滑り性の要求特性を満たすことができ、前記要件(3)により上記(iii)の相溶性、透明性の要求特性を満たすことができる。更には、前記要件(4)により上記(iv)の耐熱性の要求特性を満たすことができる。
本発明では、これらの要件(1)~(3)、好ましくは更に要件(4)を満たすことにより、本発明の課題を解決できる。
【0018】
本発明において、「単位」とは、ポリエステル樹脂の製造原料として用いた化合物(単量体)に由来してポリエステル樹脂中に導入された繰り返し単位を指し、例えば、テレフタル酸単位とは、テレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体(以下、これらを「テレフタル酸成分」と称し、同様にジカルボン酸単位導入に用いるジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体についても「ジカルボン酸成分」と称す場合がある。)に由来してポリエステル樹脂に導入された単位をさす。
同様に、ジオール単位も、ポリエステル樹脂の製造原料として用いたジオールに由来してポリエステル樹脂に導入された繰り返し単位を指す。
ポリエステル樹脂中の各ジカルボン酸単位及び各ジオール単位等の構成単位は、H-NMRスペクトルを測定することにより定量することができる。
【0019】
以下において、本発明のポリエステル樹脂組成物に含まれるポリエステル樹脂を「本発明のポリエステル」と称す場合があるが、本発明のポリエステルは、単一のポリエステルのみからなるものであってもよく、2種以上のポリエステルのブレンド物であってもよい。
【0020】
[要件(1)]
要件(1)は、本発明のポリエステル樹脂組成物を用いて成形した1mm厚板の歪み2.0%における曲げ応力が10~50MPaであるというものである。
この曲げ応力が50MPa以下であれば、容器等成形時に変形などすることなく離型可能な柔らかさを得ることができる。一方、曲げ応力が10MPa以上であれば、ねじ山形状を有するキャップ等での密栓が確実に行える硬さを満たすことができる。これらの特性を共に併せ持つ適度な柔軟性の観点から、1mm厚板の曲げ応力は、11~50MPaであることが好ましく、12~48MPaであることがより好ましい。
【0021】
本発明のポリエステル樹脂組成物が、上記要件(1)を満たすための工夫としては、例えば、ポリエステル樹脂を構成するジカルボン酸単位やジオール単位について、ベンゼン環、ナフタレン環等の剛直な成分と、エチレン鎖、プロピレン鎖等の柔軟な成分とを、その種類と比率を変えて組み合わせる方法、ポリエステル樹脂組成物に、フタル酸エステル、アジピン酸ジブチル、セバシン酸ジブチル等の可塑剤を、その種類、組み合わせ、添加量を変えて添加する方法等が挙げられ、これらを単独又は組み合わせて用いることができる。
【0022】
[要件(2)]
要件(2)は、本発明のポリエステル樹脂組成物を用いて成形した1mm厚板の平板部における、直径2mmのサファイヤ球との摩擦係数が0.02~0.12であるというものである。
この摩擦係数が0.12以下であれば、容器を積み重ねて保管した後の取り外しが容易な滑りやすさを得ることができる。一方、摩擦係数が0.02以上であれば、容器をトレー等の上に置いた際容易に滑り倒れない滑りにくいものとすることができる。これらの特性を共に併せ持つ適度な滑り性の観点から、1mm厚板の摩擦係数は0.02~0.10であることが好ましく、0.03~0.09であることがより好ましい。
【0023】
本発明のポリエステル樹脂組成物が、上記要件(2)を満たすための工夫としては、例えば、脂肪酸アミド、飽和脂肪酸、飽和脂肪酸金属塩等の滑剤をポリエステル樹脂組成物に含有させ、該滑剤をポリエステル樹脂組成物成形体の表面に析出させることでポリエステル樹脂組成物成形体の摩擦係数を調整する方法、二酸化ケイ素、炭酸カルシウム等の粒子を含有させてポリエステル樹脂組成物成形体の表面を粗面化し、ポリエステル樹脂組成物成形体表面が他と接触する面積を少なくすることにより摩擦係数を調整する方法、ポリエステル樹脂組成物成形体を成形する金型表面を粗面化し、ポリエステル樹脂組成物成形体表面を粗面化することにより、ポリエステル樹脂組成物成形体表面が他と接触する面積を少なくし摩擦係数を調整する方法等が挙げられ、これらを単独又は組み合わせて用いることができる。
【0024】
[要件(3)]
要件(3)は本発明のポリエステル樹脂組成物を用いて成形した1mm厚板を粉砕した粉砕物とポリエチレンテレフタレート樹脂とを1:4の質量比で混合した混合物を射出成形して得られる3mm厚板のヘーズと、該粉砕物を添加しない該ポリエチレンテレフタレート樹脂のみを射出成形して得られる3mm厚板のヘーズとの差が5%以下であるというものである。
このヘーズ差が5%以下であれば、PETとの混合使用時に混合有無によるヘーズ差が小さく透明性を損なわない良好なPETとの相溶性が得られる。この観点から上記ヘーズ差は4%以下が好ましく、3%以下がより好ましい。
【0025】
本発明のポリエステル樹脂組成物が、要件(3)を満たすための工夫としては、例えば、ポリエステル樹脂を構成するジカルボン酸成分、ジオール成分や、滑剤などの添加剤を選定する際、ポリエステル樹脂の溶解度パラメーターがPETの溶解度パラメーターに近い値となるように各成分の種類と量を選定する方法、結晶核となりにくいポリエステル樹脂や添加剤を選定する方法が挙げられる。これにより、PETとの良好な相溶性が得られPETとの混合使用時に結晶化による透明性悪化を防ぐことができ、PETとの混合使用時にも良好な透明性を得ることができる。これらの方法は、単独または組み合わせて用いることができる。
【0026】
[要件(4)]
要件(4)は、本発明のポリエステル樹脂組成物を用いて成形した1mm厚板の平板部における、荷重0.5Nを印加した先端径1mmの針の侵入深さが0.1mmとなる温度が60℃以上であるというものである。
上記針の侵入深さが0.1mmとなる温度が60℃以上であれば、高温下での変形が小さい優れた耐熱性を得ることができる。この観点から、上記針の侵入深さが0.1mmとなる温度は65℃以上がより好ましく、70℃以上が更に好ましい。
【0027】
本発明にポリエステル樹脂組成物が、要件(4)を満たすための工夫としては、例えば、ポリエステル樹脂のガラス転移温度が60℃以上となるように、ポリエステル樹脂を構成するジカルボン酸成分とジオール成分を選定する方法、ポリエステル樹脂組成物の成形時に結晶化が十分に進行する結晶化速度を有する構成成分を選定する方法、ポリエステル樹脂組成物の成形時に結晶化が十分に進行する結晶化速度を有するように添加剤を選定する方法等が挙げられ、これらは単独または組み合わせて用いることができる。
【0028】
[ジカルボン酸単位]
本発明のポリエステルのジカルボン酸単位を構成する製造原料としてのジカルボン酸成分としては、例えば、テレフタル酸及びその炭素数1~4程度のアルキル基を有するエステルやハロゲン化物等のテレフタル酸成分、ダイマー酸成分、イソフタル酸及びその炭素数1~4程度のアルキル基を有するエステルやハロゲン化物等のイソフタル酸成分が挙げられる。
【0029】
ここで、ダイマー酸とは、炭素数16以上の不飽和脂肪族カルボン酸の二量体又はその水添物をいう。このダイマー酸は、例えば、大豆油や菜種油、牛脂、トール油などの非石油原料から抽出された炭素数16以上の不飽和カルボン酸(例えば、リノール酸やオレイン酸を主成分とする不飽和脂肪族カルボン酸)の混合物を二量体化又はそれを水添して得ることができる。このような製法を用いてダイマー酸を得ると、不純物として、過剰に反応した三量体、未反応物である不飽和脂肪族カルボン酸が含有される。該不純物はポリエステルにおいてはブリードアウトやゲル化の原因となるため、可能な限り少ないことが好ましい。
また、ダイマー酸は不飽和結合を含み、そのまま使用すると重合中に分岐反応が進行したり、得られるポリエステルの色調を悪化させる可能性があることから、ポリエステルにダイマー酸単位を導入するために用いる製造原料としてのダイマー酸成分は、水添されたものであることが好ましい。
【0030】
上記以外のその他のジカルボン酸成分として、フタル酸、スルホイソフタル酸ナトリウム、フェニレンジオキシジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルケトンジカルボン酸、4,4’-ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸等の脂環式ジカルボン酸、及び、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカジカルボン酸、ドデカジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、並びにこれらの炭素数1~4程度のアルキル基を有するエステル、及びハロゲン化物等を用いることもできる。
【0031】
これらのジカルボン酸成分は、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0032】
[ジオール単位]
本発明のポリエステルのジオール単位を構成する製造原料としてのジオール成分としては、例えば、1,4-ブタンジオール、ポリアルキレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、オクタメチレングリコール、デカメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、2-エチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール等の脂肪族ジオール、1,2-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,1-シクロヘキサンジメチロール、2,5-ノルボルナンジメチロール等の脂環式ジオール、及び、キシリレングリコール、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4’-β-ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4-β-ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン酸等の芳香族ジオール、並びに、2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)プロパンのエチレンオキサイド付加物又はプロピレンオキサイド付加物、ダイマージオール等が挙げられる。
これらは、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0033】
ポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールブロック共重合体、ポリテトラメチレングリコール、ポリヘキサメチレングリコール等が挙げられるが、これらのうち、樹脂の透明性と柔軟性の観点から、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールが好ましい。
【0034】
ポリアルキレングリコールとしては、PETとの良好な相溶性の観点から重量平均分子量が4000以下のポリエチレングリコールが好ましい。
ポリアルキレングリコールの分子量が上記上限以下であれば、白濁を防止して透明なポリエステルを得ることができる。ただし、ポリアルキレングリコールの分子量が小さすぎるとポリエステルの融点が低くなりすぎるため、ポリエチレングリコールであれば、その重量平均分子量は500以上であることが好ましく、より好ましくは1000以上2000以下である。
ポリエチレングリコールの重量平均分子量が上記範囲内であると溶融状態で透明なポリエステルが得られ、PETボトル用PETとのブレンドした際のリサイクル成形品の透明性に影響を及ぼしにくくなる。
ここで、ポリアルキレングリコールの重量平均分子量はサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)での値である。
【0035】
これらのポリアルキレングリコールは、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0036】
[その他の構成単位]
本発明のポリエステルは、本発明の効果を妨げない範囲において、ジカルボン酸単位及びジオール単位以外のその他の構成単位を含有していてもよい。
ポリエステルにその他の構成単位を導入するための製造原料としてのその他の構成成分としては、特に制限はないが、例えば、グリコール酸、p-ヒドロキシ安息香酸、p-β-ヒドロキシエトキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸やアルコキシカルボン酸、及び、ステアリルアルコール、ヘネイコサノール、オクタコサノール、ベンジルアルコール、ステアリン酸、ベヘン酸、安息香酸、t-ブチル安息香酸、ベンゾイル安息香酸などの単官能成分、トリカルバリル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ナフタレンテトラカルボン酸、没食子酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール、シュガーエステルなどの三官能以上の多官能成分等が挙げられる。これらは、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0037】
[その他の成分]
本発明のポリエステル樹脂組成物には、本発明のポリエステルの他、その用途に応じて、滑剤、結晶核剤、酸化防止剤、着色防止剤、顔料、染料、紫外線吸収剤、離型剤、難燃剤、帯電防止剤、無機及び/又は有機粒子等を配合することができる。
【0038】
これらのうち、得られる成形体の滑り性すなわち取り扱いの容易性に関わる滑剤として脂肪酸アミドや飽和脂肪酸や飽和脂肪酸金属塩等が挙げられる。脂肪酸アミドとしては飽和脂肪酸アミドでも不和脂肪酸アミドでもよいが、衛生性の観点から不飽和脂肪酸アミドが好ましく、具体的には、エルカ酸アミド、オレイン酸アミド、ブラシジン酸アミド、エライジン酸アミド等の公知の不飽和脂肪酸アミドが挙げられる。飽和脂肪酸や飽和脂肪酸金属塩としてはパルミチン酸、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸亜鉛等が挙げられる。ポリエステルの透明性維持の観点からステアリン酸若しくはステアリン酸マグネシウムが好ましい。
これらの不飽和脂肪酸アミドの中でも、融点が高く耐熱性に優れることから、エルカ酸アミド、オレイン酸アミドが好ましく、エルカ酸アミドがより好ましい。これらの不飽和脂肪酸アミドや飽和脂肪酸や飽和脂肪酸金属塩等は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明のポリエステル樹脂組成物にエルカ酸アミド等の滑剤を配合する場合、その含有量は、本発明のポリエステル100質量部に対して0.1~2質量部、特に0.2~1.5質量部とすることが好ましい。
【0039】
[固有粘度]
本発明のポリエステルの固有粘度(IV)は0.40dL/g~1.20dL/gであることが好ましく、より好ましくは0.45dL/g~1.15dL/g、更に好ましくは0.48dL/g~1.10dL/gである。固有粘度が上記範囲内であると生産性を悪化させずに、成形加工性に優れたポリエステルとすることが可能となる。
【0040】
ポリエステルの固有粘度は以下に記載の方法で測定される。
試料約0.25gを、フェノール/1,1,2,2-テトラクロロエタン(重量比1/1)の混合溶媒約25mLに、濃度が1.00g/dLとなるように溶解させた後、30℃まで冷却し、30℃において全自動溶液粘度計(センテック社製「DT553」)にて、試料溶液の落下秒数、溶媒のみの落下秒数それぞれを測定し、以下の式により、固有粘度(IV)を算出する。
IV=((1+4Kηsp0.5-1)/(2KC)
ここで、ηsp=η/η-1であり、ηは試料溶液の落下秒数、ηは溶媒のみの落下秒数、Cは試料溶液濃度(g/dL)、Kはハギンズの定数である。Kは0.33とする。試料の溶解条件は、110℃で30分間とする。
なお、適切に乾燥成形された場合、成形後のIV保持率は90~95%程度となる。
【0041】
ポリエステルの固有粘度は後述のポリエステルの製造方法において、例えば触媒や上記添加剤の添加量の最適化や、重縮合時の温度、圧力、反応時間を最適な範囲に調節することにより上記好適範囲内に調整することができる。
【0042】
〔ポリエステルの製造方法〕
本発明のポリエステルは、ジカルボン酸単位を導入するための製造原料としてのジカルボン酸成分と、ジオール単位を導入するためのジオール成分とを製造原料として用い、これらのジカルボン酸成分とジオール成分とのエステル化又はエステル交換反応により直接、ジカルボン酸単位とジオール単位を含むポリエステルとして製造することもできるが、反応性や各構成単位の含有量制御の容易性等を考慮した場合、以下の通り、本発明のポリエステルの構成単位の一部を含むポリエステルを複数種用い、これらを溶融混練して本発明のポリエステルを得ることが好ましい。
以下に、複数種のポリエステルを溶融混練してテレフタル酸単位及びダイマー酸単位を含むジカルボン酸単位と、ポリアルキレングリコール単位と1,4-ブタンジオール単位及び/又はエチレングリコール単位を含むジオール単位とを主構成単位として含むポリエステルを製造する方法について、具体例を挙げるが、本発明のポリエステルの製造方法は何ら以下に記載の方法に限定されるものではない。
【0043】
<1> ダイマー酸単位を含むポリエチレンテレフタレート(ダイマー酸単位とテレフタル酸単位とエチレングリコール単位とを含むポリエステル。以下「ポリエステルI」と称す場合がある。)と、ポリアルキレングリコール単位を含むポリブチレンテレフタレート(ポリアルキレングリコール単位とテレフタル酸単位と1,4-ブタンジオール単位を含むポリエステル。以下、「ポリエステルII」と称す場合がある。)とを溶融混練する。
<2> ダイマー酸単位を含むポリエチレンテレフタレート(ポリエステルI)と、ポリアルキレングリコール単位を含むポリブチレンテレフタレート(ポリエステルII)と、ダイマー酸単位及びポリアルキレングリコール単位を含まないポリエチレンテレフタレート(テレフタル酸単位とエチレングリコール単位を含むポリエステル。以下、「ポリエステルIII」と称す場合がある。)とを溶融混練する。
<3> ダイマー酸単位を含むポリブチレンテレフタレート(ダイマー酸単位とテレフタル酸単位と1,4-ブタンジオール単位を含むポリエステル。以下、「ポリエステルIV」と称す場合がある。)と、ポリアルキレングリコール単位を含むポリエチレンテレフタレート(テレフタル酸単位とポリアルキレングリコール単位とエチレングリコール単位を含むポリエステル。以下、「ポリエステルV」と称す場合がある。)とを溶融混練する。
<4> ダイマー酸単位を含むポリブチレンテレフタレート(ポリエステルIV)と、ポリアルキレングリコール単位を含むポリエチレンテレフタレート(ポリエステルV)と、ダイマー酸単位及びポリアルキレングリコール単位を含まないポリエチレンテレフタレート(ポリエステルIII)とを溶融混練する。
<5> ダイマー酸単位及びポリアルキレングリコール単位を含まないポリエチレンテレフタレート(ポリエステルIII)と、ダイマー酸単位及びポリアルキレングリコール単位を含むポリエステル(以下、「ポリエステルVI」と称す場合がある。)とを溶融混練する。
<6> ダイマー酸単位を含むポリエチレンテレフタレート(ポリエステルI)と、ポリアルキレングリコール単位を含むポリエチレンテレフタレート(ポリエステルV)と、ダイマー酸単位及びポリアルキレングリコール単位を含まないポリブチレンテレフタレート(ポリエステルVII)とを溶融混練する。
【0044】
上記<1>~<6>の方法は2種以上を組み合わせて用いてもよい。いずれの場合においても、ポリエステルI~VIIのうち2種以上を所定のテレフタル酸単位含有量、ダイマー酸単位含有量、ポリアルキレングリコール単位及び1,4-ブタンジオール単位含有量となるように用いて溶融混練することにより、容易にテレフタル酸単位及びダイマー酸単位を含むジカルボン酸単位と、ポリアルキレングリコール単位と1,4-ブタンジオール単位及び/又はエチレングリコール単位を含むジオール単位とを主構成単位として含むポリエステルを製造することができる。
【0045】
上記ポリエステルI~VIIの物性や製法は特に限定されず、これらを溶融混練してポリエステルを得ることができればよい。
【0046】
上記のポリエステルの製造方法は特に制限されるものではなく、通常の方法を適用することができる。例えば、テレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体、必要に応じてイソフタル酸又はそのエステル形成性誘導体を含むジカルボン酸成分と、1,4-ブタンジオール、又はエチレングリコールを含むジオール成分とを、所定割合で攪拌下に混合して原料スラリーとする工程、次いで、該原料スラリーを常圧又は加圧下で加熱して、エステル化反応させてポリエステル低重合体(以下「オリゴマー」と称する場合がある。)とする工程、次いで、得られたオリゴマーにダイマー酸又はそのエステル形成性誘導体とポリアルキレングリコールを添加し、エステル交換触媒等の存在下に、漸次減圧するとともに、加熱して、溶融重縮合反応させポリエステルを得る工程、必要に応じて得られたポリエステルを更に固相重縮合反応する工程を経て製造することができる。
【0047】
尚、ダイマー酸又はそのエステル形成性誘導体やポリアルキレングリコールは原料スラリーに添加する方法、オリゴマーに添加する方法のいずれの方法も適用することができる。
【0048】
エステル交換触媒としては、例えば、三酸化二アンチモン等のアンチモン化合物;二酸化ゲルマニウム、四酸化ゲルマニウム等のゲルマニウム化合物;テトラメチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート等のチタンアルコラート、テトラフェニルチタネート等のチタンフェノラート等のチタン化合物;ジブチルスズオキサイド、メチルフェニルスズオキサイド、テトラエチルスズ、ヘキサエチルジスズオキサイド、シクロヘキサヘキシルジスズオキサイド、ジドデシルスズオキサイド、トリエチルスズハイドロオキサイド、トリフェニルスズハイドロオキサイド、トリイソブチルスズアセテート、ジブチルスズジアセテート、ジフェニルスズジラウレート、モノブチルスズトリクロライド、トリブチルスズクロライド、ジブチルスズサルファイド、ブチルヒドロキシスズオキサイド、メチルスタンノン酸、エチルスタンノン酸、ブチルスタンノン酸等のスズ化合物;酢酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、マグネシウムアルコキサイド、燐酸水素マグネシウム等のマグネシウム化合物、酢酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、カルシウムアルコキサイド、燐酸水素カルシウム等のカルシウム化合物等が挙げられる。尚、これらの触媒は、単独でも2種以上混合して使用することもできる。
【0049】
また、ポリエステルの製造時、エステル交換触媒と共に安定剤を併用することが好まい。安定剤としては、正リン酸、ポリリン酸、及び、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリ-n-ブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリス(トリエチレングリコール)ホスフェート、エチルジエチルホスホノアセテート、メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、モノブチルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、トリエチレングリコールアシッドホスフェート等の5価のリン化合物、亜リン酸、次亜リン酸、及びジエチルホスファイト、トリスドデシルホスファイト、トリスノニルデシルホスファイト、トリフェニルホスファイト等の3価のリン化合物等が挙げられる。これらの中、3価のリン化合物は5価のリン化合物よりも一般に還元性が強く、重縮合触媒として添加した金属化合物が還元されて析出し、異物を発生する原因となる場合があるので、5価のリン化合物の方が好ましい。
【0050】
溶融重縮合反応における反応圧力は絶対圧力で0.001kPa~1.33kPaであることが好ましい。また、反応温度は220℃~280℃であることが好ましく、230℃~260℃であることがより好ましい。
固相重縮合反応は減圧下または不活性ガス雰囲気下で行われ、反応温度は180℃~220℃であることが好ましい。固相重縮合反応の反応時間は5時間~100時間であることが好ましい。
前記溶融重縮合反応条件、固相重縮合反応条件とすることにより所望の固有粘度を有するポリエステルとすることが可能となる。
【0051】
前述のポリエステルI~VIIのうちの2種以上を用いて本発明のポリエステルを製造する場合、各ポリエステルを溶融状態のまま混練してペレット化してもよく、各ポリエステルをペレット状にした後、2種以上のポリエステルペレットを乾式混合し、更に溶融混練してもよい。各ポリエステルペレットは予め溶融混練した後成形に供してもよく、成形機内で溶融混練して成形してもよい。溶融混練時の温度は通常240~300℃程度である。
【0052】
〔ポリエステル樹脂組成物の用途〕
本発明のポリエステル樹脂組成物は、リサイクル性、柔軟性、更には滑り性、耐熱性に優れる。
このため、このような柔軟性、滑り性、耐熱性が求められ、更にPETボトルと共に回収されてリサイクルされるリサイクル性が求められる複雑な形状の食品容器やその保護シートやフィルム等に有用である。
【0053】
例えば、食品容器としては、本発明のポリエステル樹脂組成物を射出成形することにより、開口部を有する容器やその蓋とすることができる。また本発明のポリエステル樹脂組成物の射出成形によりプリフォームを得、該プリフォームを延伸ブロー成形、又は、押出成形によってパリソンとし、該パリソンをブロー成形することにより、ボトルやチューブ等の容器とすることができる。このような容器は、固形物や飲料、醤油、ソース、みりん、ドレッシング、マヨネーズ等の液状調味料等の液状物の容器として有用である。
また、本発明のポリエステルを押出成形によってシートとし、該シートを真空成形などにより所望の形状に賦形させた容器にすることができ、これらは飲料カップやその蓋として、揚げ物や総菜といった食品などのトレーや容器等として有用である。また、該シートを延伸によりフィルム等とし、食品包装材やトレーや容器の内外表面の保護フィルムとして利用することも可能である。
【実施例0054】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0055】
[ポリエステル中の各ジカルボン酸単位及び各ジオール単位の定量]
以下の実施例及び比較例で用いたポリエステル中の各ジカルボン酸単位及び各ジオール単位は以下の方法で定量した。
ポリエステル(ペレット又はその混合物)約20mgを重クロロホルム/重ヘキサフルオロイソプロパノール(質量比7/3)の混合溶媒0.75mLに溶解させ、重ピリジン25μLを添加して試料溶液とした。該試料溶液を外径5mmのNMR試料管に入れ、核磁気共鳴装置(Bruker社製「AVANCE400」)を用い、室温でH-NMRスペクトルを測定し、ポリエステル中の各ジカルボン酸単位及びジオール単位の割合を求めた。
【0056】
[製造例1:ポリエステル1(ポリブチレンテレフタレート)の製造]
攪拌装置、窒素導入口、加熱装置、温度計、留出管を備えたエステル交換反応槽に、ジメチルテレフタレート64.1質量部、1,4-ブタンジオール(以下1.4BG)をジメチルテレフタレートに対してモル比で1.2倍となる量用い、触媒としてテトラブチルチタネートを金属チタン換算で、生成するポリマーに対して33ppmとなるように1,4BG溶液として添加した。次いで、槽内液温を150℃に60分保持した後90分かけて210℃まで昇温し210℃で30分保持した。この間、生成するメタノールを留出させつつ、合計180分エステル交換反応を行った。
エステル交換反応終了の15分前に、酢酸マグネシウム・四水塩を1,4BGに溶解して添加し、さらにヒンダードフェノール系酸化防止剤(チバ・ガイギー社製「Irganox 1010」)を1,4BGのスラリーとして加え、引き続き、テトラブチルチタネートを1,4BGの溶液として添加した後、攪拌装置、窒素導入口、加熱装置、温度計、留出管、減圧用排気口を備えた重縮合反応槽に移送し減圧を付加して、重縮合反応を行った。
重縮合反応は槽内圧力を常圧から0.4kPaまで85分かけて徐々に減圧し、0.4kPa以下で継続した。反応温度は減圧開始から15分間210℃に保持し、以後、この反応の最高温度240℃まで45分間で昇温し、この温度で1時間保持し、その後最終温度235℃となるようにコントロールした。最終温度は235℃である。所定の攪拌トルク(IV=1.20dL/gに相当)に到達した時点で反応を終了した。重縮合反応に要した時間は150分であった(重縮合反応時間は減圧開始から窒素で復圧までの時間とした。)。
次に槽内を減圧状態から窒素で復圧し、次いでポリマー抜出しのため加圧状態にした。抜出しの際の口金の熱媒温度を230℃としてポリマーを口金からストランド状に抜き出し、次いで冷却水槽内でストランドを冷却した後、該ストランドをカッターでカットすることによりポリエステル1のペレットを得た。ポリエステル1中の各成分の含有量は以下の通りであり、固有粘度は1.20dL/gであった。
テレフタル酸単位 : 67.3質量%
1,4-ブタンジオール単位 : 32.7質量%
【0057】
[製造例2:ポリエステル2(ポリエチレングリコール単位を含むポリエステル)の製造]
エステル交換反応槽に、ジメチルテレフタレート64.1質量部、1,4-ブタンジオール(1.4BG)36.8質量部、ポリエチレングリコール(重量平均分子量2000)30質量部、触媒としてテトラブチルチタネートを金属チタン換算で、生成するポリマーに対して33ppmとなるように1,4BG溶液として添加したこと以外は、製造例1と同様にエステル交換反応及び重縮合反応を行って、ポリエステル2のペレットを得た。ポリエステル2の各成分の含有量は以下の通りであり、固有粘度は1.20dL/gであった。
テレフタル酸単位 : 47.1質量%
ポリエチレングリコール単位 : 30.0質量%
1,4-ブタンジオール単位 : 22.9質量%
【0058】
[製造例3:ポリエステル3(ポリエチレングリコール単位を含むポリエステル)の製造]
エステル交換反応槽に、ジメチルテレフタレート37.7質量部、1,4-ブタンジオール(1.4BG)17.7質量部、ポリエチレングリコール(重量平均分子量2000)60質量部、触媒としてテトラブチルチタネートを金属チタン換算で、生成するポリマーに対して33ppmとなるように1,4BG溶液として添加したこと以外は、製造例1と同様にエステル交換反応及び重縮合反応を行って、ポリエステル3のペレットを得た。ポリエステル3の各成分の含有量は以下の通りであり、固有粘度は1.20dL/gであった。
テレフタル酸単位 : 26.9質量%
ポリエチレングリコール単位 : 60.0質量%
1,4-ブタンジオール単位 : 13.1質量%
【0059】
[製造例4:ポリエステル4(ダイマー酸単位を含むポリエステル)の製造]
テレフタル酸、イソフタル酸は重合後のポリエステル中においてそれぞれ58.5質量%、3.3質量%となる量、エチレングリコールはテレフタル酸とイソフタル酸の合計量に対しモル比で1.2倍となる量を攪拌装置、昇温装置及び留出液分離塔を備えたエステル化反応槽に仕込み、温度250℃、圧力0.90kg/cmにてエステル化反応を4時間行った。次に、温度250℃、常圧下で4時間エステル化反応を行ない、ポリエステル低重合体(オリゴマー)を得た。
次いで、該オリゴマーを、留出管を備えた攪拌機付き重縮合反応槽へ移送し、炭素数36の水添ダイマー酸(クローダジャパン社製「Pripol1009」)を重合後のポリエステル中において17.4質量%となる量添加し、さらに触媒として二酸化ゲルマニウムのエチレングリコール溶液を、安定剤として正リン酸のエチレングリコール溶液を添加した。
該重縮合反応槽内温度を280℃に保ちながら、2時間かけて圧力を0.13kPaに減圧し、次いで、同圧力にて3時間反応を行った後、反応系を常圧に戻し、反応を終了した。
得られたポリエステルを該重縮合反応槽の底部からストランドとして抜き出し、水中を潜らせた後、カッターで該ストランドをカットすることによりポリエステル4のペレットを得た。ポリエステル4の各成分の含有量は以下の通りであり、固有粘度は0.67dL/gであった。
テレフタル酸単位 : 58.5質量%
イソフタル酸単位 : 3.3質量%
ダイマー酸単位 : 17.4質量%
エチレングリコール単位 : 18.8質量%
ジエチレングリコール単位 : 2.0質量%
【0060】
[PETボトル用ポリエチレンテレフタレート]
相溶性評価のためのPETボトル用ポリエチレンテレフタレートとして、三菱ケミカルインドネシア社製ポリエチレンテレフタレート樹脂「BK2180」(以下、「相溶性評価用PET」と称す。)を準備した。
この相溶性評価用PETの各成分の含有量は以下の通りであり、固有粘度は0.83dL/gであった。
テレフタル酸単位 : 98.4mol%
イソフタル酸単位 : 1.6mol%
エチレングリコール単位 : 97.3mol%
ジエチレングリコール単位 : 2.7mol%
【0061】
[1mm厚板の成形方法]
樹脂ペレットを、60℃で72時間真空乾燥機にて乾燥させた。滑剤を添加する場合は、乾燥後のペレットを密封パッキン付きステンレス缶に入れ滑剤を所定量添加し、密封後十分に攪拌した。
得られたポリエステル樹脂組成物を用いて射出成形機(日精樹脂工業製「FE80S12ASE」)で、以下の条件で成形板(1mm厚板)を射出成形した。
成形温度:260℃(シリンダー設定)
金型温度:20℃(チラー水設定温度)
成形板重量:40g(平板部、ランナー部、スプルー部を含んだ全重量)
金型内への充填時間:1秒
保圧時間:14秒
冷却時間:20秒
成形板寸法:厚み1mm、110mm×110mm(ランナー・スプルー含まず)
【0062】
[評価方法]
<リサイクル性(PETボトル用PETとの混合使用有無によるヘーズ差)>
前述の方法で得られた1mm厚板を、粉砕機((株)ホーライ製V形粉砕機「V-360」、スクリーン穴直径8mm)を用いて粉砕し、粉砕品400gと相溶性評価用PET(三菱ケミカルインドネシア社製「BK2180」)1600gとをステンレス缶の中に入れて混合し、混合物を60℃で72時間真空乾燥機にて乾燥した。乾燥後の混合物を用いて射出成形機(日精樹脂工業製「FE80S12ASE」)により、以下の条件で成形板(以下、「再利用成形板」と称す。)を射出成形した。
成形温度:290℃(シリンダー設定)
金型温度:20℃(チラー水設定温度)
成形板重量:80g(平板部、ランナー部、スプルー部を含んだ全重量)
金型内への充填時間:1.5秒
保圧時間:13.5秒
冷却時間:90秒
成形板寸法:厚み3~7mmの段付きを有する110mm幅で、ランナー側より7mm厚が20mm、次いで6mm厚が20mm、次いで5mm厚が20mm、次いで4mm厚が20mm、最後に3mm厚が30mmとなる110mm×110mm(ランナー・スプルー含まず)
この再利用成形板の厚さ3mm部分のヘーズをヘーズメーター(日本電色工業社製「NDH-300A」)にて測定し、相溶性評価用PET「BK2180」のみで同様にして成形した成形板の厚さ3mm部分のヘーズとの差を算出し、ヘーズ差とした。
【0063】
<曲げ応力>
前述の方法で得られた1mm厚板より幅10mm×長さ60mm×厚さ1mmの試験片を切り出し、以下の曲げ試験機を用いて以下の条件で定速曲げ試験を実施し、歪量が2.0%の時の曲げ応力を測定した。
東洋精機製作所社製 曲げ試験機:ベンドグラフII 型式:B
支点間距離:16mm
試験速度 :1mm/分
【0064】
<摩擦係数>
前述の方法で得られた1mm厚板の平板部分を用い、新東科学製「トライボギアTYPE14DR」にて、以下条件により定荷重水平摩擦試験での水平抗力を測定し、摩擦子の移動距離が0.3cmから0.7cmの間の水平抗力平均値を印加荷重で除した値を動摩擦係数とした。
摩擦子 :直径2mmのサファイヤ製球針
印加荷重:1kgf
移動速度:1cm/秒
抗力測定:0.01秒/回
【0065】
<変形温度>
前述の方法で得られた1mm厚板の平板部分を用い、セイコーインスツルネント社製「TMA/SS6100」にて、以下条件により定荷重昇温試験を行い、針侵入深さが0.1mmとなる温度を測定した。
評価温度:室温~120℃
昇温速度:5℃/分
プローブ:針入プローブ(先端径1mm)
測定荷重:0.5N
【0066】
<容器の成形と評価>
口部天面外径が38mmで、天面から10mmの間は内面にねじ山を有し、口部肉厚がねじ山込みで2mmであり、ねじ山より下の肉厚が2mmである有底植木鉢形状の容器を射出成形により成形し、以下の(1)~(5)の評価を行った。また、この容器の粉砕品を前述の相溶性評価用PETに20質量%混合して再度同様にして容器の成形を行い、容器外観の透明性を目視にて観察し、以下の(6)のPETとの相溶性を確認した。
(1) 離型性:金型離型時の変形の有無を調べた。
(2) 密栓性:ポリプロピレン製キャップで栓をしたときの密栓性(内容物が漏れるか否か)を評価した。内容物が漏れないものを「良好」、漏れるものを「不可」とした。
(3) 取り外し性:同じ容器を積み重ね、室温(20℃程度)で3日間保管した後取り外す際、良好に取り外すことができるか、取り外しが困難かを調べた。
(4) 運搬性:ステンレス製のトレー上に容器を置いたときに、容易には滑り倒れず、滑りにくさが良好であるか滑り倒れるかで調べた。
(5) 高温保管後の変形:容器を55℃で3日間保管したときの変形の有無を調べた。
(6) PETとの相溶性:容器粉砕品を相溶性評価用PETと混合して再度成形して得られた容器が透明で相溶性に優れる(良好)か否か(不良)を調べた。
【0067】
[実施例1]
ポリエステル1を65質量%、ポリエステル2を35質量%用い、これらをペレットの状態でブレンドし、乾燥後のペレットを密封パッキン付きステンレス缶に入れ粉状滑剤(三菱ケミカル社製 エルカ酸アミド「ダイヤミッド(登録商標) L-200」)を乾燥ペレットに対して0.5質量%相当量添加し、密封後十分に攪拌した。
得られたポリエステル樹脂組成物を用いて前述の評価を行った。
評価結果を表1に示す。
【0068】
[実施例2~7、比較例1~5]
ポリエステル1~4のブレンド量、添加剤の種類と配合量を表1,2に示す通り変更したこと以外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂組成物を得、同様に前述の評価を行った。
評価結果を表1,2に示す。
【0069】
表1,2中、各構成単位及び添加剤の略号は以下の通りである。
TPA:テレフタル酸
IPA:イソフタル酸
DA:ダイマー酸
BG:1,4-ブタンジオール
EG:エチレングリコール
DEG:ジエチレングリコール
PEG:ポリエチレングリコール
EA:エルカ酸アミド
WAX:ポリエチレンワックス
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
表1,2より、1mm厚板の曲げ応力およびサファイヤ球との摩擦係数、並びに粉砕物とポリエチレンテレフタレート樹脂との混合物の射出成形3mm厚板のヘーズと粉砕物を添加しないポリエチレンテレフタレート樹脂の射出成形3mm厚板のヘーズとの差が本発明の規定範囲であるポリエステル樹脂組成物であれば、リサイクル性、柔軟性、滑り性のすべてにおいて優れていることが分かる。
これに対して、本発明の規定範囲から外れる比較例1~5ではこれらの物性のいずれかが劣る。
即ち、比較例1は、ヘーズ差が大きくPETとの相溶性が悪いためリサイクル性に劣りリサイクル使用に悪影響がある。
比較例2は、曲げ応力が低すぎるため硬さが不足し、キャップを締める際、口部が広がるため密栓できない。
比較例3は、曲げ応力が高すぎるため硬くなりすぎ、金型からの離型の際にねじ山が変形しキャップできない。
比較例4は、摩擦係数が低すぎるため滑りすぎ、少しの振動で倒れやすく運搬しにくい。さらにヘーズ差も大きく、PETとの相溶性が悪いためリサイクル性に劣りリサイクル使用に悪影響がある。
比較例5は摩擦係数が高すぎるため滑りにくく、容器を積み重ねた後に取り外しにくくなり取り扱いが難しい。