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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140645
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】熱硬化性樹脂組成物及び硬化物
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/20 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
C08G59/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051897
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】青木 大
【テーマコード(参考)】
4J036
【Fターム(参考)】
4J036AC03
4J036AE07
4J036DB05
4J036DB06
4J036DC03
4J036DC04
4J036DC05
4J036DC10
4J036DC26
4J036DC27
4J036DC40
4J036FA10
4J036GA04
4J036GA06
4J036GA23
4J036HA01
4J036HA12
4J036JA01
4J036JA06
4J036JA07
4J036JA08
(57)【要約】
【課題】エポキシ樹脂としてエポキシ化リグニンを含む熱硬化性樹脂組成物の硬化物の耐熱性を向上させる。
【解決手段】(A)リグニンの水酸基にエポキシ基を導入してなるエポキシ化リグニン、(B)硬化剤及び(C)酸化防止剤を含む熱硬化性樹脂組成物。(C)酸化防止剤としては、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル基を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましく、特にペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]が好ましい。この熱硬化性樹脂組成物からなる硬化物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)リグニンの水酸基にエポキシ基を導入してなるエポキシ化リグニン、(B)硬化剤及び(C)酸化防止剤を含む熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
(C)酸化防止剤が、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル基を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤であることを特徴とする、請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
(C)酸化防止剤の含有量が、(A)リグニンの水酸基にエポキシ基を導入してなるエポキシ化リグニンの100質量部に対して0.2~10質量部であることを特徴とする、請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
(C)酸化防止剤の含有量が、(A)リグニンの水酸基にエポキシ基を導入してなるエポキシ化リグニンの100質量部に対して0.2~1.2質量部であることを特徴とする、請求項3に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
(C)酸化防止剤が、ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]であることを特徴とする、請求項2に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
(B)硬化剤が、1分子内に2つ以上のアミン基を有する多官能アミンであることを特徴とする、請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物からなる硬化物。
【請求項8】
熱機械分析装置(TMA)を用いて測定されるガラス転移温度が100℃以上であることを特徴とする、請求項7に記載の硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグニンを原料としたエポキシ樹脂を含有する熱硬化性樹脂組成物とその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
木材からセルロース、ヘミセルロース等を分離して得られるリグニンは、カーボンニュートラルであり且つ多量に存在する植物由来物質であることから、石油に代わる樹脂原料として活用するため多様な技術検討がなされている。リグニンの構造は木種、生息域、さらにはその抽出方法等によって多岐にわたるが、一般にフェノール骨格を豊富に含むことを特徴とする。その特徴を生かし、熱硬化性樹脂としてフェノール樹脂やエポキシ樹脂の主剤及び硬化剤として用いることが検討されている。
【0003】
例えば特許文献1には、リグニンとフェノール及びアルデヒドを反応させて得られるフェノール樹脂とその製造方法、及び該フェノール樹脂の硬化物が記載されている。
また、特許文献2には、リグニンの水酸基とエピハロヒドリンとの反応によりエポキシ化して得られるエポキシ樹脂とその製造方法、及び該エポキシ樹脂の硬化物が記載されている。
【0004】
リグニンをエポキシ樹脂硬化物に用いる場合、リグニンをポリフェノール系硬化剤として主剤とともに配合するほか、特許文献2に記載の通り、リグニン自体をエポキシ化し、得られたエポキシ化リグニンと通常エポキシ樹脂に用いられる硬化剤とを配合することも可能である。通常エポキシ樹脂に用いられる硬化剤としては、ポリアミン系、イミダゾール系、酸無水物系、ポリフェノール系等多岐に渡るものが市販されている。リグニンをエポキシ化して用いることで、リグニンをポリフェノール系硬化剤として用いる場合よりも配合の選択肢が広がり、より多様な特性に対応する熱硬化性樹脂組成物を提供することが可能となる。
【0005】
一方で、非特許文献1に記載の通り、エポキシ化リグニンから得られる樹脂硬化物の熱分解温度は、特許文献1に記載のようなリグニンを硬化剤として用いた樹脂硬化物と比較して低下する傾向がある。非特許文献1によれば、これは樹脂硬化物中のリグニン骨格の分解に由来する。エポキシ化リグニンから得られる樹脂硬化物の熱分解温度が低下する理由については、リグニンを硬化剤として用いた樹脂硬化物はリグニン由来のフェノール基が酸化防止能(ラジカルトラップ能)として機能する一方、エポキシ化リグニンから得られる樹脂硬化物はリグニン由来のフェノール基がエポキシ化されているため、その酸化防止能が失われるためであると考えられる。リグニンを用いた樹脂硬化物は、リグニンのフェノール基を豊富に含有する分子骨格に由来する高い耐熱性(ガラス転移温度など)が期待されるため、その性能を十分に発揮するためには、その熱分解耐性を向上させる手法が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013-199561号公報
【特許文献2】特開2018-178023号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】D.K.Shen et al./Bioresource Technology 101(2010)6136-6146
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記従来技術の問題点に鑑みてなされたものである。即ち、本発明の課題は、エポキシ樹脂としてエポキシ化リグニンを含む熱硬化性樹脂組成物の硬化物の耐熱性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、エポキシ化リグニンと硬化剤との組成物に特定の酸化防止剤を配合した熱硬化性樹脂組成物が上記課題を解決し得ることを見出し、発明の完成に至った。
即ち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0010】
[1] (A)リグニンの水酸基にエポキシ基を導入してなるエポキシ化リグニン、(B)硬化剤及び(C)酸化防止剤を含む熱硬化性樹脂組成物。
【0011】
[2] (C)酸化防止剤が、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル基を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤であることを特徴とする、[1]に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【0012】
[3] (C)酸化防止剤の含有量が、(A)リグニンの水酸基にエポキシ基を導入してなるエポキシ化リグニンの100質量部に対して0.2~10質量部であることを特徴とする、[1]又は[2]に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【0013】
[4] (C)酸化防止剤の含有量が、(A)リグニンの水酸基にエポキシ基を導入してなるエポキシ化リグニンの100質量部に対して0.2~1.2質量部であることを特徴とする、[3]に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【0014】
[5] (C)酸化防止剤が、ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]であることを特徴とする、[2]~[4]のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
【0015】
[6] (B)硬化剤が、1分子内に2つ以上のアミン基を有する多官能アミンであることを特徴とする、[1]~[5]のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
【0016】
[7] [1]~[6]のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物からなる硬化物。
【0017】
[8] 熱機械分析装置(TMA)を用いて測定されるガラス転移温度が100℃以上であることを特徴とする、[7]に記載の硬化物。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、エポキシ化リグニンから得られるエポキシ樹脂と硬化剤を含む熱硬化性樹脂組成物であって、得られる硬化物の耐熱性が高く、熱分解温度の向上した熱硬化性樹脂組成物とその硬化物が提供される。
このような特長を有することから、本発明の熱硬化性樹脂組成物及びその硬化物は、電気・電子材料、FRP(繊維強化樹脂)等の幅広い分野において応用展開が可能であり、石油に代わる樹脂原料の実用化を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
本明細書において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。
【0020】
〔熱硬化性樹脂組成物〕
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、(A)リグニンの水酸基にエポキシ基を導入してなるエポキシ化リグニン(以下、単に「(A)エポキシ化リグニン」と称す場合がある。)、(B)硬化剤及び(C)酸化防止剤を含むことを特徴とする。
【0021】
[(A)エポキシ化リグニン]
本発明で用いる(A)エポキシ化リグニンは、木材からセルロース、ヘミセルロース等を分離して得られるリグニンを、その水酸基を反応点としてエピハロヒドリンと反応させることで得られる。エポキシ化リグニンの原料として用いるリグニンの原料木種や構造、製造方法は特に限定されないが、エピハロヒドリンとの反応によりエポキシ化を行うため、通常エピハロヒドリンに対する溶解性を有するものである。そのなかでも生産性の観点からエピハロヒドリンに対する溶解度が100g/L以上であるものが好ましく、特にエピクロロヒドリンに対する溶解度が100g/L以上であるものが好ましい。
【0022】
本発明で用いる(A)エポキシ化リグニンのエポキシ当量の下限値としては特に制限されないが、通常200g/mol以上、好ましくは250g/mol以上、より好ましくは300g/mol以上である。エポキシ当量が上記下限以上であれば、熱硬化性樹脂組成物中のバイオマス由来物質の割合を高めることが可能である。
また、本発明で用いる(A)エポキシ化リグニンのエポキシ当量の上限値としては特に限定されないが、他材料との相溶性や得られる硬化物の架橋密度の観点から、通常200,000g/molであり、100,000g/molであることが好ましく、50,000g/molであることがより好ましい。
なお、(A)エポキシ化リグニンのエポキシ当量は、後掲の実施例の項に記載の方法で測定される値である。
【0023】
[(B)硬化剤]
本発明で用いる(B)硬化剤は、エポキシ化合物のエポキシ基間の架橋反応及び/又は鎖長延長反応に寄与する物質である。なお、本発明においては通常、「硬化促進剤」と呼ばれるものであってもエポキシ化合物のエポキシ基間の架橋反応及び/又は鎖長延長反応に寄与する物質であれば、硬化剤とみなすこととする。
【0024】
(B)硬化剤としては、多官能フェノール類、ポリイソシアネート系化合物、アミン系化合物、酸無水物系化合物、イミダゾール系化合物、アミド系化合物、カチオン重合開始剤及び有機ホスフィン類からなる群のうちの少なくとも1つを用いることが好ましい。(B)硬化剤としては、その他、ホスホニウム塩やテトラフェニルボロン酸を用いることもできる。
【0025】
多官能フェノール類の例としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ビスフェノールB、ビスフェノールAD、ビスフェノールZ、テトラブロモビスフェノールA等のビスフェノール類、4,4’-ビフェノール、3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ビフェノール等のビフェノール類;カテコール、レゾルシン、ヒドロキノン、ジヒドロキシナフタレン類;及びこれらの化合物の芳香環に結合した水素原子がハロゲン基、アルキル基、アリール基、エーテル基、エステル基、硫黄、リン、珪素等のヘテロ元素を含む有機置換基等の非妨害性置換基で置換されたもの等が挙げられる。
更に、これらのフェノール類やフェノール、クレゾール、アルキルフェノール等の単官能フェノール類とアルデヒド類の重縮合物であるノボラック類、レゾール類等が挙げられる。
【0026】
ポリイソシアネート系化合物の例としては、トリレンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジントリイソシアネート等のポリイソシアネート化合物が挙げられる。更に、これらのポリイソシアネート化合物と、アミノ基、水酸基、カルボキシル基、水等の活性水素原子を少なくとも2個有する化合物との反応により得られるポリイソシアネート化合物、又は前記のポリイソシアネート化合物の3~5量体等を挙げることができる。
【0027】
アミン系化合物の例としては、脂肪族の一級、二級、三級アミン、芳香族の一級、二級、三級アミン、環状アミン、グアニジン類、尿素誘導体等が挙げられ、具体的には、トリエチレンテトラミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルエーテル、m-キシレンジアミン、ジシアンジアミド、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)-7-ウンデセン、1,5-ジアザビシクロ(4,3,0)-5-ノネン、ジメチル尿素、グアニル尿素等が挙げられる。
【0028】
酸無水物系化合物の例としては、無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水マレイン酸と不飽和化合物の縮合物等が挙げられる。
【0029】
イミダゾール系化合物の例としては、1-イソブチル-2-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、ベンズイミダゾール等が挙げられる。なお、イミダゾール系化合物は後述する硬化促進剤としての機能も果たすが、本発明においては硬化剤に分類するものとする。
【0030】
アミド系化合物の例としては、ジシアンジアミド及びその誘導体、ポリアミド樹脂等が挙げられる。
【0031】
カチオン重合開始剤は、熱又は活性エネルギー線照射によってカチオンを発生するものであり、芳香族オニウム塩等が挙げられる。具体的には、SbF 、BF 、AsF 、PF 、CFSO 2-、B(C 等のアニオン成分とヨウ素、硫黄、窒素、リン等の原子を含む芳香族カチオン成分とからなる化合物等が挙げられる。特に、ジアリールヨードニウム塩、トリアリールスルフォニウム塩が好ましい。
【0032】
有機ホスフィン類としては、トリブチルホスフィン、メチルジフェニルホスフイン、トリフェニルホスフィン、ジフェニルホスフィン、フェニルホスフィン等が挙げられる。
【0033】
ホスホニウム塩としては、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウム・エチルトリフェニルボレート、テトラブチルホスホニウム・テトラブチルボレート等が挙げられる。
テトラフェニルボロン塩としては、2-エチル-4-メチルイミダゾール・テトラフェニルボレート、N-メチルモルホリン・テトラフェニルボレート等が挙げられる。
【0034】
本発明の熱硬化性樹脂組成物には以上に挙げた硬化剤の他、例えば、メルカプタン系化合物、有機酸ジヒドラジド、ハロゲン化ホウ素アミン錯体等も硬化剤として用いることができる。
【0035】
これらの硬化剤は1種のみで用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
これらの硬化剤のうち、本発明で用いる(B)硬化剤としては、エポキシ化リグニンとの相溶性、反応性の観点から、アミン系化合物、中でも1分子内に2つ以上のアミン基を有する多官能アミンが好ましく、特に、m-キシリレンジアミン等の芳香環を有する多官能アミンが好ましい。
【0037】
本発明の熱硬化性樹脂組成物における(B)硬化剤の含有量は、本発明の熱硬化性樹脂組成物中の固形分としての全エポキシ化合物成分100質量部に対して好ましくは0.1~1000質量部であり、より好ましくは100質量部以下であり、更に好ましくは80質量部以下であり、特に好ましくは60質量部以下である。
【0038】
本発明において、「固形分」とは溶媒を除いた成分を意味し、固体のエポキシ化合物のみならず、半固形や粘稠な液状物をも含むものとする。
また、「全エポキシ化合物成分」とは、本発明の熱硬化性樹脂組成物がエポキシ化合物として(A)エポキシ化リグニンのみを含有する場合は(A)エポキシ化リグニンが該当し、後述の(A)エポキシ化リグニン以外のエポキシ化合物を含有する場合は、(A)エポキシ化リグニンと(A)エポキシ化リグニン以外のエポキシ化合物との合計が該当する。
【0039】
硬化剤のより好ましい量は、硬化剤の種類に応じてそれぞれ以下に記載する通りである。
【0040】
硬化剤として多官能フェノール類、アミン系化合物、酸無水物系化合物を用いる場合は、熱硬化性樹脂組成物中の全エポキシ基に対する硬化剤中の官能基(多官能フェノール類の水酸基、アミン系化合物のアミノ基又は酸無水物系化合物の酸無水物基)の当量比で0.8~1.5の範囲となるように用いることが好ましい。
(B)硬化剤としてポリイソシアネート系化合物を用いる場合は、熱硬化性樹脂組成物中の水酸基数に対してポリイソシアネート系化合物中のイソシアネート基数が、当量比で1:0.01~1:1.5の範囲で用いることが好ましい。
(B)硬化剤としてイミダゾール系化合物を用いる場合は、熱硬化性樹脂組成物中の固形分としての全エポキシ化合物成分100質量部に対して0.5~10質量部の範囲で用いることが好ましい。
(B)硬化剤としてアミド系化合物を用いる場合は、熱硬化性樹脂組成物中の固形分としての全エポキシ化合物成分とアミド系化合物との合計量に対して0.1~20質量%の範囲で用いることが好ましい。
(B)硬化剤としてカチオン重合開始剤を用いる場合は、熱硬化性樹脂組成物中の固形分としての全エポキシ化合物成分100質量部に対し、0.01~15質量部の範囲で用いることが好ましい。
(B)硬化剤として有機ホスフィン類を用いる場合は、熱硬化性樹脂組成物中の固形分としての全エポキシ化合物成分と有機ホスフィン類との合計量に対して0.1~20質量%の範囲で用いることが好ましい。
【0041】
[(C)酸化防止剤]
(C)酸化防止剤としては、特に限定されないが、好ましいものとして、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、中でも3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル基を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤が挙げられる。
ヒンダードフェノール系酸化防止剤、特に3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル基を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤であれば、本発明の熱硬化性樹脂組成物と良好に均一混合可能であり、本発明の熱硬化性樹脂組成物よりなる硬化物の耐熱性を効果的に向上させることができる。
【0042】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤の具体例としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナミド]、2,4-ジメチル-6-(1-メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォエート、3,3’,3”,5,5’,5”-ヘキサ-tert-ブチル-a,a’,a”-(メシチレン-2,4,6-トリイル)トリ-p-クレゾール、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン,2,6-ジ-tert-ブチル-4-(4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イルアミノ)フェノール、2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ペンチルフェニル)エチル]-4,6-ジ-tert-ペンチルフェニルアクリレート等が挙げられる。
【0043】
中でも、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。このようなフェノール系酸化防止剤の市販品としては、BASF社製「イルガノックス(登録商標)1010」、「イルガノックス(登録商標)1076」、「イルガノックス(登録商標)1135」、ADEKA社製「アデカスタブ(登録商標)AO-50」、「アデカスタブ(登録商標)AO-60」等が挙げられる。
【0044】
これらの(B)硬化剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0045】
本発明の熱硬化性樹脂組成物における(C)酸化防止剤の含有量は、特に限定されないが、(A)エポキシ化リグニンの100質量部に対して0.2~10質量部、特に0.25質量部、とりわけ0.2~1.2質量部であることが好ましい。(C)酸化防止剤の含有量が上記下限以上であれば、(C)酸化防止剤を含有することによる耐熱性の向上効果を十分に得ることができる。一方、(C)酸化防止剤の含有量が上記上限以下であれば、(C)酸化防止剤自体がエポキシ基と反応する硬化反応阻害による、得られる硬化物の物性低下を抑制することができる。
【0046】
[他のエポキシ化合物]
本発明の熱硬化性樹脂組成物には、前述の(A)エポキシ化リグニン以外のエポキシ化合物(本明細書において、「他のエポキシ化合物」と称することがある。)を含有していてもよい。
他のエポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、テトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂、その他の多官能フェノール型エポキシ樹脂等のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、上記芳香族エポキシ樹脂の芳香環を水素添加したエポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、線状脂肪族エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、複素環式エポキシ樹脂等のエポキシ化合物が挙げられる。以上に挙げた他のエポキシ化合物は1種のみで用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
本発明の熱硬化性樹脂組成物が、(A)エポキシ化リグニンと他のエポキシ化合物とを含有する場合、熱硬化性樹脂組成物中の固形分としての全エポキシ化合物成分中の他のエポキシ化合物の割合は、好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは5質量%以上であり、一方、好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは30質量%以下である。他のエポキシ化合物の割合が上記下限値以上であることにより、他のエポキシ化合物を配合することによる物性向上効果を十分に得ることができる。一方、他のエポキシ化合物の割合が前記上限値以下であることにより、(A)エポキシ化リグニンを用いることによる石油に代わる樹脂原料の有効活用の効果を得ることができると共に、前述の(C)酸化防止剤を配合することによる耐熱性の向上効果を顕著に得ることができる。
【0048】
[溶剤]
本発明の熱硬化性樹脂組成物には、塗膜形成時等の取り扱い時に、熱硬化性樹脂組成物の粘度を適度に調整するために溶剤を配合し、希釈してもよい。本発明の熱硬化性樹脂組成物において、溶剤は、熱硬化性樹脂組成物の成形における取り扱い性、作業性を確保するために用いられ、その使用量には特に制限がない。
本発明の熱硬化性樹脂組成物が含み得る溶剤としては、特に制限はないが、通常は有機溶媒である。
【0049】
有機溶媒としては例えば、芳香族系溶媒、ケトン系溶媒、アミド系溶媒、グリコールエーテル系溶媒、ハロゲン系溶媒等が挙げられる。芳香族系溶媒の具体例としては、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。ケトン系溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、2-ヘプタノン、4-ヘプタノン、2-オクタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、アセチルアセトン等が挙げられる。アミド系溶媒の具体例としては、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、2-ピロリドン、N-メチルピロリドン等が挙げられる。グリコールエーテル系溶媒の具体例としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等が挙げられる。ハロゲン系溶媒の具体例としては、クロロホルム、ジクロロメタン、1,1,2,2-テトラクロロエタン等が挙げられる。
以上に挙げた溶剤は1種のみを用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
[その他の成分]
本発明の熱硬化性樹脂組成物には、以上に挙げた成分の他にその他の成分を含有することができる。その他の成分としては例えば、硬化促進剤(ただし、前記硬化剤に該当するものを除く。)、カップリング剤、難燃剤、光安定剤、可塑剤、反応性希釈剤、顔料、無機充填材、有機充填材等が挙げられる。以上に挙げたその他の成分は熱硬化性樹脂組成物の所望の物性により適宜組み合わせて用いることができる。
【0051】
〔硬化物〕
本発明の熱硬化性樹脂組成物を硬化させることにより、硬化物を得ることができる。
ここでいう「硬化」とは熱及び/又は光等によりエポキシ化合物を意図的に硬化させることを意味するものであり、その硬化の程度は所望の物性、用途により制御すればよい。
【0052】
本発明の熱硬化性樹脂組成物を硬化させてなる硬化物とする際の熱硬化性樹脂組成物の硬化方法は、熱硬化性樹脂組成物中の配合成分や配合量、配合物の形状によっても異なるが、通常、50~200℃で5秒~180分の加熱条件が挙げられる。この加熱は50~160℃で5秒~120分の一次加熱と、一次加熱温度よりも40~120℃高い90~200℃で1分~180分の二次加熱との二段処理で行うことが、硬化不良を少なくする点で好ましい。
【0053】
硬化物を半硬化物として製造する際には、加熱等により形状が保てる程度に熱硬化性樹脂組成物の硬化反応を進行させればよい。熱硬化性樹脂組成物が溶剤を含んでいる場合には、加熱、減圧、風乾等の手法で大部分の溶剤を除去するが、半硬化物中に5質量%以下の溶剤を残留させてもよい。
【0054】
〔用途〕
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、石油に代わる樹脂原料の有効利用を図ると共に耐熱性に優れた硬化物を与えるものである。このことから、本発明の熱硬化性樹脂組成物は、塗料、電気・電子材料、接着剤、繊維強化樹脂(FRP)等の幅広い分野において好適に用いることができる。
【実施例0055】
以下、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0056】
[測定・評価方法]
以下の製造例、実施例及び比較例における測定・評価方法は以下の通りである。
【0057】
<エポキシ化リグニンのエポキシ当量>
製造例で製造されたエポキシ化リグニンのエポキシ当量は、内部標準物質を用いたH-NMR測定より求めた。エポキシ化リグニン及び内部標準物質として1,1,2,2-テトラクロロエタン(TCE)を重クロロホルムに溶解し、H-NMR(Bruker製 Ascend MMR 400)測定を行った。各構造単位のシグナル強度と下式(1)より、エポキシ化リグニンのエポキシ当量を算出した。尚、式(1)中の167.85はTCEの分子量である。
エポキシ当量(g/mol)=(A/B)×(D/C)×167.85 (1)
A:エポキシ化リグニンの秤量値(mg)
B:H-NMRスペクトル上のエポキシ基プロトンのシグナル(2.6~3.0ppm)の積分値
C:TCEの秤量値(mg)
D:H-NMRスペクトル上のTCEプロトンのシグナル(5.9~6.0ppm)の積分値
【0058】
<5%質量減少温度(Td5)>
実施例及び比較例で得た硬化物(サンプル)から約5mgを切り出して測定用サンプルとし、以下条件で測定を行った。
昇温開始時から質量が5質量%減少した時点での温度を、5%質量減少温度(Td5)として決定した。
装置:リガク(株)製示差熱-熱重量同時測定装置「TG-DTA8812」
サンプル秤量用パン:アルミニウム製
測定雰囲気ガス:窒素(流量300mL/分)
測定温度:35℃~550℃
昇温速度:10℃/分
【0059】
<ガラス転移温度(Tg)>
実施例及び比較例で得た硬化物(サンプル)を使用し、以下条件でTMA測定を行った。TMA曲線の補外開始温度(TMA曲線の傾きがガラス転移に伴い変化する前後領域の直線外挿が交わる点)をガラス転移温度(Tg)として決定した。尚、測定温度範囲内でTMA曲線に傾きの変化が見られなかった場合は、Tgは150℃より高いものと判断した。
装置:(株)日立ハイテクサイエンス製熱機械分析装置「TMA7100」
プローブ材質:石英
測定モード:圧縮モード
荷重:100 mN/m
測定温度:30℃~180℃
昇温速度:10℃/分
【0060】
[原材料]
以下の製造例、実施例及び比較例で用いた原材料は以下の通りである。
【0061】
<リグニン1>
SIPリグニンSIP-R559-PEG200は、戦略的イノベーション創造プログラム(次世代農林水産業創造技術)「木質リグニン等からの高付加価値素材の開発」(SIPリグニン)にて製造されたリグニンである。
【0062】
<リグニン2>
Bloom社リグニンオリゴマー改質リグニンは、Bloom社より製造されたリグニンである。
【0063】
<硬化剤>
MXDA:m-キシリレンジアミン(東京化成工業(株)製)
2E4MZ:2-エチル-4-メチルイミダゾール(東京化成工業(株)製)
【0064】
<参考例のエポキシ化合物>
ビスフェノールA型エポキシ樹脂「jER828」(三菱ケミカル(株)製)
【0065】
<酸化防止剤>
ヒンダードフェノール系酸化防止剤「イルガノックス(登録商標)1010」(BASF社製)
(ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート])
【0066】
[製造例1:エポキシ化リグニン1の合成]
スターラーチップを入れた200mLの試験管にSIPリグニンSIP-R559-PEG200:3g、エピクロロヒドリン:30mL、イソプロパノール:15mL、塩化テトラメチルアンモニウムの10質量%水溶液:4.11mL、純水:4.73mLを仕込み、アダプターを接続し、40℃に昇温しながら攪拌して均一に溶解し、そのまま40℃で1時間攪拌した。その後、水酸化ナトリウムの10質量%水溶液:2.62mLを滴下し、65℃まで昇温し、6時間加熱攪拌を続けた。その後、水:100mLで3回水洗し、無機塩を除去した。得られた油層をエバポレートした後、110℃で2時間真空乾燥を行い、褐色粉末を得た。
得られたサンプル:エポキシ化リグニン1のエポキシ当量はH-NMR測定より888g/molと決定された。
【0067】
[製造例2:エポキシ化リグニン2の合成]
スターラーチップを入れた200mLの試験管にBloom社製リグニンオリゴマー改質リグニン:3g、エピクロロヒドリン:30mL、イソプロパノール:15mL、塩化テトラメチルアンモニウムの10質量%水溶液:4.11mL、純水:4.73mLを仕込み、アダプターを接続し、40℃に昇温しながら攪拌して均一に溶解し、そのまま40℃で1時間攪拌した。その後、水酸化ナトリウムの10質量%水溶液:2.62mLを滴下し、65℃まで昇温し、6時間加熱攪拌を続けた。その後、水:100mLで3回水洗し、無機塩を除去した。得られた油層をエバポレートした後、110℃で2時間真空乾燥を行い、粘稠な暗褐色物質を得た。
得られたサンプル:エポキシ化リグニン2のエポキシ当量はH-NMR測定より435g/molと決定された。
【0068】
[実施例1]
エポキシ化リグニン1:100質量部、MXDA:11.36質量部、イルガノックス1010:0.36質量部をクロロホルム:600質量部に溶解し、クロロホルムの均一な溶液を調製した。これを離形シリコーン塗布PETフィルム状に塗布した後、クロロホルムを乾燥させ、褐色のキャスト膜を得た。このキャスト膜を70℃で1時間加熱硬化させた後、カッターナイフで裁断したものを、5枚積層し、さらにその後、150℃で1時間の加熱硬化を行うことで、厚さ0.944mmの褐色硬化物を得た。
【0069】
[実施例2]
エポキシ化リグニン1:100質量部、MXDA:7.6質量部、イルガノックス1010:0.98質量部を使用し、実施例1に準じて熱硬化性樹脂組成物及び硬化物を得た。
なお、各成分の正確な量と得られた硬化物の厚さは表1に示した。
【0070】
[実施例3]
エポキシ化リグニン2:100質量部、MXDA:23.4質量部、イルガノックス1010:1.20質量部を使用し、実施例1に準じて熱硬化性樹脂組成物及び硬化物を得た。
なお、各成分の正確な量と得られた硬化物の厚さは表1に示した。
【0071】
[実施例4]
エポキシ化リグニン1:100質量部、2E4MZ:10質量部、イルガノックス1010:0.44質量部を使用し、実施例1に準じて熱硬化性樹脂組成物及び硬化物を得た。
なお、各成分の正確な量と得られた硬化物の厚さは表1に示した。
【0072】
[実施例5]
エポキシ化リグニン1:100質量部、2E4MZ:20質量部、イルガノックス1010:0.22質量部を使用し、実施例1に準じて熱硬化性樹脂組成物及び硬化物を得た。
なお、各成分の正確な量と得られた硬化物の厚さは表1に示した。
【0073】
[比較例1~5]
実施例1~5において、イルガノックス1010を加えなかったこと以外は、それぞれ実施例1~5に準じて熱硬化性樹脂組成物及び硬化物を得た。
なお、各成分の正確な量と得られた硬化物の厚さは表1に示した。
【0074】
[参考例1]
jER828:100質量部、MXDA:34質量部、イルガノックス1010:0.20質量部を使用し、実施例1に準じて熱硬化性樹脂組成物及び硬化物を得た。
なお、各成分の正確な量と得られた硬化物の厚さは表1に示した。
【0075】
[参考例2]
参考例1において、イルガノックス1010を加えなかったこと以外は、参考例1に準じて熱硬化性樹脂組成物及び硬化物を得た。
なお、各成分の正確な量と得られた硬化物の厚さは表1に示した。
【0076】
[耐熱性の評価]
実施例1~5、比較例1~5及び参考例1~2で得られた硬化物について、前述の5%質量減少温度(Td5)とガラス転移温度(Tg)の測定を行い、結果を表1に示した。
【0077】
【表1】
【0078】
[評価結果]
参考例1及び参考例2の比較から、石油由来のエポキシ樹脂であるjER828を使用した場合は0.2質量部のイルガノックス1010を添加することで5%質量減少温度(Td5)が低下してしまうことが分かる。
この結果の理由は以下のように推察される。
イルガノックス1010のようなヒンダートフェノール系化合物はそれ自体がエポキシ基との反応性を有しており、その一部がエポキシ基と反応することで本来の硬化反応を阻害する。これによる未反応の硬化剤が硬化物内に残留することになり、これが加熱により揮発するため、5%質量減少温度(Td5)が低下すると考えられる。
【0079】
一方、各実施例と比較例の結果から、エポキシ化リグニンを用いた硬化物においては、イルガノックス1010の配合で5%質量減少温度(Td5)が上昇していることが示された。
その理由については定かではないが、エポキシ化リグニンを用いた場合は、参考例で示したような硬化反応の阻害が起こりにくいことが考えられる。
これらの結果から、(A)エポキシ化リグニンと(B)硬化剤を含む熱硬化性樹脂組成物に、(C)酸化防止剤を配合することで、耐熱性の向上、具体的には熱分解温度の向上を図るという(A)エポキシ化リグニンに特有の効果が得られることが分かる。