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特開2024-140679繊維強化複合材料及びその製造方法並びに成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140679
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】繊維強化複合材料及びその製造方法並びに成形体
(51)【国際特許分類】
   B29B 15/14 20060101AFI20241003BHJP
   B29C 43/34 20060101ALI20241003BHJP
   B29C 70/42 20060101ALI20241003BHJP
   B29K 105/10 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
B29B15/14
B29C43/34
B29C70/42
B29K105:10
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051961
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】林 崇寛
【テーマコード(参考)】
4F072
4F204
4F205
【Fターム(参考)】
4F072AA04
4F072AB10
4F072AB22
4F072AD42
4F072AG03
4F072AH06
4F072AH44
4F072AH49
4F072AL02
4F072AL11
4F204AA32
4F204AC03
4F204AD16
4F204AG01
4F204AR02
4F204AR06
4F204AR12
4F204FA01
4F204FB01
4F204FF01
4F204FG08
4F204FJ09
4F204FN11
4F204FN15
4F205AA32
4F205AC03
4F205AD16
4F205AG01
4F205AR02
4F205AR06
4F205AR12
4F205HA08
4F205HA25
4F205HA34
4F205HA37
4F205HB01
4F205HC02
4F205HC17
4F205HK03
4F205HK04
4F205HK24
4F205HM13
(57)【要約】
【課題】 反りや変形の少ない繊維強化複合材料を提供する。
【解決手段】強化繊維とマトリックス樹脂を含み、下記厚み波長(λ)が31mm以上120mm以下である繊維強化複合材料。
厚み波長(λ):繊維強化複合材料について、一方向性繊維強化複合材料の場合には繊維に沿った方向に、それ以外の繊維強化複合材料の場合にはX線を照射されることによって生じる円状の回折像を取得し、その中で最も高い回折強度の角度を示す方向に、1mm間隔で200回以上計測した厚み分布を測定し、厚み分布曲線を得る。得られた厚み分布曲線について、厚みの各数値を最小二乗法により正弦曲線でフィッティングする。この正弦曲線の波長を厚み波長(λ)とする。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維とマトリックス樹脂を含み、下記厚み波長(λ)が31mm以上120mm以下である繊維強化複合材料。
厚み波長(λ):繊維強化複合材料について、一方向性繊維強化複合材料の場合には繊維に沿った方向に、それ以外の繊維強化複合材料の場合にはX線を照射されることによって生じる円状の回折像を取得し、その中で最も高い回折強度の角度を示す方向に、1mm間隔で200回以上計測した厚み分布を測定し、厚み分布曲線を得る。得られた厚み分布曲線について、厚みの各数値を最小二乗法により正弦曲線でフィッティングする。この正弦曲線の波長を厚み波長(λ)とする。
【請求項2】
下記厚み差(A)が、0.3μm以上5.0μm以下である請求項1に記載の繊維強化複合材料。
厚み差(A):前記厚み波長(λ)の測定で得られる正弦曲線の振幅の2倍を厚み差(A)とする。
【請求項3】
前記マトリックス樹脂が熱可塑性樹脂である請求項1または2に記載の繊維強化複合材料。
【請求項4】
前記強化繊維が一方向に引き揃えられている請求項1または請求項2記載の繊維強化複合材料。
【請求項5】
厚みが0.1~0.5mmである請求項1または2に記載の繊維強化複合材料。
【請求項6】
前記強化繊維として炭素繊維を含む請求項1または2に記載の繊維強化複合材料。
【請求項7】
請求項1または2に記載の繊維強化複合材料を成形してなる成形体。
【請求項8】
前記マトリックス樹脂が熱可塑性樹脂である請求項7に記載の成形体。
【請求項9】
前記強化繊維が一方向に引き揃えられている請求項7に記載の繊維強化複合材料成形体。
【請求項10】
前記繊維強化複合材料の厚みが0.1~0.5mmである請求項7に記載の繊維強化複合材料成形体。
【請求項11】
前記強化繊維が炭素繊維である請求項7に記載の繊維強化複合材料成形体。
【請求項12】
強化繊維とマトリックス樹脂フィルムを重ねた繊維強化複合材料前駆体を準備する工程、
前記繊維強化複合材前駆体を前記マトリックス樹脂の軟化温度以上に加熱する工程、
それぞれ独立した1又は複数の加圧体により、前記繊維強化複合材料前駆体を加圧する工程、
前記繊維強化複合材料前駆体を間欠搬送する工程を含み、
前記間欠搬送する工程での前記繊維強化複合材料前駆体の移動距離が、35mm以上130mm以下である、繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項13】
前記加熱する工程における加熱温度が400℃以上である、請求項12に記載の繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項14】
前記加圧体の加圧する圧力が2MPa以上である、請求項11または12に記載の繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項15】
前記加圧する工程において、前記加圧体により前記繊維強化複合材料前駆体を冷却する工程を含み、
前記冷却する工程において、軟化温度以上から軟化温度以下に冷却する際に0.3mm/℃以上1.0mm/℃以下の冷却距離Dで冷却する請求項11または12記載の繊維強化複合材料の製造方法。
軟化温度以上の金型温度:T1(℃)
軟化温度以下の金型温度:T2(℃)
繊維強化複合材料前駆体の移動距離:d(mm)
冷却距離:D=d/(T1-T2)(mm/℃)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化複合材料及びその製造方法並びに成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機部品、自動車部品、電気・電子部品等の様々な分野において、強化繊維基材にマトリックス樹脂組成物を複合化した繊維強化複合材料の成形体が用いられている。
【0003】
強化繊維とマトリックス樹脂を含む繊維強化複合材料は、プリプレグ等の中間材料や成形体の製造時に、積層の取扱性や内部の残留応力による強度低下の観点から、反りや捩じれと言った変形が少ないことが求められる。例えば、特許文献1には、特殊な冷却機構を備えることにより、材料表面の粗さから得られるRaやうねり曲線等の特徴が記載され、繊維強化複合材料の反り量を抑制できる材料表面の粗さの範囲や製造方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2019/124203号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、繊維強化複合材料の片面のみを計測する表面粗さの特徴が示されるものの、強化繊維複合材料は剛性が高く、一度変形が発生すると矯正が困難である。本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、反りや捩じれと言った変形を抑制することを目的とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、反りや捩じれと言った変形の少なく、成形体としたときに強度に優れる繊維強化複合材料を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
<繊維強化複合材料>
本発明の繊維強化複合材料(以下、「本複合材料」と称する場合がある。)は、強化繊維とマトリックス樹脂とを含み、下記厚み波長(λ)が31mm以上120mm以下であるものである。
厚み波長(λ):繊維強化複合材料について、一方向繊維強化複合材料の場合には繊維に沿った方向に、それ以外の繊維強化複合材料の場合にはX線を照射されることによって生じる円状の回折像を取得し、その中で最も高い回折強度の角度を示す方向に、1mm間隔で200回以上計測した厚み分布を測定し、厚み分布曲線を得る。得られた厚み分布曲線について、厚み分布の各数値を最小二乗法により正弦曲線でフィッティングする。この正弦曲線の波長を厚み波長(λ)とする。
本複合材料の形態としては、例えば、強化繊維をマトリックス樹脂に含浸させたシート状材料であるプリプレグが挙げられる。
【0008】
周期的形状を付与した本複合材料の厚み波長(λ)や厚み差(A)は、下記測定法によって200mm以上の長さを測定することにより得られる。具体的には厚みの分布を公知の非接触式であるレーザー変位計や接触式のマイクロメータ―で測定することできる。レーザー変位計を用いて、1mm間隔で200箇所測定した。
【0009】
繊維強化複合材料の周期的形状を測定する方向は強化繊維が一方向に引き揃えられた一方向性繊維強化複合材料の場合は、製造時の流れ方向である繊維の配向方向に沿って厚みを測定することができる。また、それ以外の繊維強化複合材料の場合、例えば、強化繊維形態が連続した強化繊維束が多方向に引き揃えられた平織、綾織、朱子織、ノンクリンプファブリック(NCF)、三次元織物等の織物形態、強化繊維束を用いたコンティニュアスストランドマットやチョップドストランドマット等の繊維形態などの多方向性繊維強化複合材料の場合は、X線を用いて測定方向を特定することができる。具体的には、繊維強化複合材料にX線を照射されることによって生じる円状の回折像を取得し、その中で最も高い回折強度の角度を示す方向に沿って、厚み分布を測定する方向を特定することができる。例えば、強化繊維がA方向に引き揃えられた繊維複合材料と、強化繊維がA方向に直交する方向に引き揃えられた繊維複合材料とが重ねられた、いわゆる直交積層体の場合、90°毎に回折強度のピークが現れる。また、繊維複合材料の繊維方向を45°ずつずらして積層された、いわゆる疑似等方材料の場合、45°毎にピークが現れる。また、粉砕した炭素繊維、つまり完全等方材料の場合、配向プロファイルはφ=0°~360°にわたって一定の値となる。これら強化繊維は繊維強化複合材料の製造時に、流れ方向に沿って繊維の配向が強まるため、X線回折ピークが最大となる角度を求めることにより、測定方向を決定する。
【0010】
繊維強化複合材料の反りや変形を抑制するには、繊維強化複合材料の繊維が配向する方向に周期的形状を付与することが好ましい。本発明ではこの周期的形状として波長(λ)を特定の範囲とすることを定めたものである。
【0011】
本複合材料における周期的形状は、前述のように、繊維強化複合材料を構成する繊維の配向方向の厚み分布を計測し、その厚み分布を正弦曲線でフィッティングすることで、定量化することができる。本繊維強化複合材料は、フィッティングした前記正弦曲線の波長(λ)が31mm以上であり、33mm以上が好ましく、35mm以上がより好ましく、一方、120mm以下であり、100mm以下が好ましく、80mm以下がより好ましい。正弦曲線の波長が前記下限値以上であることで繊維強化複合材料の反りが低減し、前記上限値以下であることで繊維強化複合材料の捩じれが低減する。
【0012】
また、前記厚み波長(λ)の測定で得られる正弦曲線の振幅の2倍を厚み差(A)とすると、厚み差(A)は、0.3μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましく、一方で5.0μm以下が好ましく、4.0μm以下がより好ましく、3.0μm以下がさらに好ましい。厚み差(A)が前記下限値以上であることで反りが軽減し、前記上限値以下であることで繊維強化複合材料の捩じれが低減する。
【0013】
本複合材料における周期的形状は凹形状でも凸形状でもよく、繊維強化複合材料の一部に凹凸があっても全体的に凹凸があってもよい。前記凸形状の部分と凹形状の部分のプリプレグの厚み差が小さい方が、繊維強化複合材料に荷重が負荷された際に応力集中を避け、安定した強度を得ることができる。周期的形状は線状でもよく、点が直線または曲線に並んだ場合でもよい。同一形状だけではなく、複数の異なる形状、複数の異なる方向で周期的に並んでもよい。周期的形状の方向は繊維の配向方向を0°とすると、周期的形状は60~90°方向に存在することが好ましく、80~90°がより好ましく、特に流れ方向の反りを抑制するには90°が好ましい。
【0014】
本複合材料における周期的形状は、繊維強化複合材料を製造する際に使用する型や、型と繊維強化複合材料との間に配置する副資材や加圧体に形状を付与することにより、繊維強化複合材料、例えばプリプレグを製造した後に周期的形状を転写することによって本複合材料とすることもできる。その際の波長(λ)や厚み差(A)は周期的形状により決定される。副資材には離型紙、離型フィルムが含まれ、加圧体には金属板やC/Cコンポジット板が含まれる。
【0015】
または、所定の形状のついた型、副資材、加圧体と、繊維強化複合材料とを一定間隔で移動と接触を繰り返すことにより製造することができる。前記形状のついた型等が移動してもよく、繊維強化複合材料が移動しても、両者が同方向に移動もしくは異方向に移動してもよい。移動と接触を繰り返す際の移動距離を変えることにより、周期的形状の厚み波長(λ)を変えることができる。
【0016】
または、周期的形状は繊維強化複合材料の製造後に、公知の工具により切削加工してもよく、加熱体や振動体を押し当てて変形させて周期的形状を付与させて本複合材料としてもよい。
【0017】
本繊維強化複合材料の厚さは、プリプレグの形態である場合は、成形体を製造した場合の残留応力の点から、0.015~10.0mmが好ましく、0.04~6.0mmがより好ましく、0.1~0.5mmが更に好ましい。
【0018】
本繊維強化複合材料のボイド率は、0.1~20体積%が好ましく、0.2~2体積%がより好ましく、0.2~1体積%がさらに好ましい。前記下限値以上では生産性に優れ、前記上限値以下では機械特性に優れる。剛性や強度の観点から、本繊維強化複合材料の繊維体積含有率(Vf)は、20~75体積%が好ましく、40~65体積%がより好ましい。
【0019】
加工の寸法精度が上がることから、繊維強化複合材料の厚みの変動係数が5%以下であることが好ましく、変動係数が4%以下であることがより好ましい。熱可塑性樹脂と強化繊維を含み、変動係数が4%以下である繊維強化複合材料とすることが好ましく、厚さ40μm~50000μmの平板状且つ、厚みの変動係数が4%以下である繊維強化複合材料とすることがより好ましい。
【0020】
[強化繊維]
本複合材料に用いる強化繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、金属繊維、樹脂繊維等が挙げられ、それらを複数組み合わせてもよい。剛性、強度の点から、本複合材料は炭素繊維を含むものであることが好ましい。炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系、石油・石炭ピッチ系、レーヨン系、リグニン系等が挙げられる。強化繊維基材中の強化繊維の割合は、強化繊維基材の総質量に対して、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、100質量%が特に好ましい。強化繊維を複数本束ねてサイジング剤を付着させることにより、強化繊維束とすることができる。
【0021】
(強化繊維束)
強化繊維束としては、工業的規模における生産性及び力学特性に優れる点から、3,000~60,000本からなるトウが好ましい。優れた引張強度を有する成形体を得るには、強化繊維束のストランド強度は、4000MPa以上が好ましく、5000MPa以上がより好ましい。強化繊維束のストランド弾性率は、十分な成形体の剛性が発現しやすいため、200GPa以上であることが好ましく、230GPa以上であることがより好ましい。また、強化繊維の表面及び内部の黒鉛結晶サイズが小さくなり、繊維断面方向の強度及び繊維軸方向の圧縮強度の低下が抑制されやすいことから380GPa以下であることが好ましく、350GPa以下であることがより好ましい。なお、強化繊維束のストランド強度及びストランド弾性率は、ASTM D4018に準拠した方法で測定される。強化繊維束を引き揃えることにより、強化繊維基材とすることができる。
【0022】
(強化繊維基材)
強化繊維基材の形態としては、連続した強化繊維束を一方向に引き揃えた一方向連続繊維形態、連続した強化繊維束を用いた平織、綾織、朱子織、ノンクリンプファブリック(NCF)、三次元織物等の織物形態、強化繊維束を用いたコンティニュアスストランドマットやチョップドストランドマット等の多方向性繊維形態が挙げられる。織物の配列を保持するため、強化繊維等によるステッチや熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂繊維の溶着等の固定方法を適用することができる。一方向連続繊維形態がより変形が生じやすいため、周期的形状による変形抑制の効果が大きい。
【0023】
[マトリックス樹脂]
本複合材料に用いるマトリックス樹脂は、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂等の熱硬化性樹脂や、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトンケトン樹脂等の熱可塑性樹脂や、それらを組み合わせた樹脂を用いることができる。これらの中でも成形サイクルの観点で、熱可塑性樹脂が好ましく、中でもポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂及びポリエーテルケトンケトン樹脂のから選ばれる少なくとも1つを含むことが好ましい。アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、熱可塑性エポキシ樹脂等の、モノマーや低分子量体を強化繊維基材に含浸させた後、重合可能な樹脂を用いてもよい。マトリックス樹脂には、発明の効果を損なわない範囲で必要に応じて公知の熱硬化性樹脂、充填剤、熱安定剤、酸化防止剤、老化防止剤、難燃剤、顔料などの各種添加剤を含有させたマトリックス樹脂組成物を用いてもよい。
【0024】
前記マトリックス樹脂の軟化温度は示差走査熱量計(DSC)による結晶融解エンタルピーΔHmが10J/g以上場合は融点、10J/g未満の場合は(Tg+100)(℃)とする。ここでTgはガラス転移温度である。結晶融解エンタルピーΔHm、ガラス転移温度Tg、及び融点はISO11357に準拠する方法で測定することができる。
【0025】
(繊維強化複合材料の製造方法)
本複合材料の製造方法は、特に限定されないが、具体例として、以下に挙げられる。
【0026】
本発明の繊維強化複合材料の製造方法は、強化繊維とマトリックス樹脂フィルムを重ねた繊維強化複合材料前駆体を準備する工程、前記繊維強化複合材前駆体を前記マトリックス樹脂の軟化温度以上に加熱する工程、それぞれ独立した1又は複数の加圧体により、前記繊維強化複合材料前駆体を加圧する工程、前記繊維強化複合材料前駆体を間欠搬送する工程を含み、前記間欠搬送する工程での前記繊維強化複合材料前駆体の移動距離が、35mm以上130mm以下である。
【0027】
まず、繊維強化複合材料前駆体を準備する工程では、強化繊維をロールより巻き出し、別途、複数のロールより巻き出した、マトリックス樹脂フィルムと圧着ローラを経由して、マトリックス樹脂フィルムを強化繊維の上下面に重ねて繊維強化複合材料前駆体を形成する。得られた繊維強化複合材料前駆体をヒーターにより予備加熱を行った後、繊維強化複合材料前駆体の上下面に離型フィルムを配置する。
【0028】
次に、繊維強化複合材料前駆体をマトリックス樹脂の軟化点以上に加熱する工程では、加熱された熱板や加圧体、金型を繊維強化複合材料前駆体に接触させることで加熱を行う。この時の加熱温度は、繊維強化複合材料前駆体を加熱する温度は400℃以上であることが好ましく、より好ましくは410℃以上、さらに好ましくは420℃以上である。前記範囲で加熱することで、より周期的形状が形成されやすくなり、反りや捩じれが低減される。
【0029】
繊維強化複合材料前駆体を加圧する工程では、加熱した繊維強化複合材料前駆体を、それぞれ独立した1又は複数の加圧体により加圧する。加圧体の加圧する圧力は、2MPa以上であることが好ましく、より好ましくは3MPa以上であり、さらに好ましくは4MPa以上である。前記範囲で加圧することで、より周期的形状が形成されやすくなり、反りや捩じれが低減される。
【0030】
繊維強化複合材料前駆体を間欠搬送する工程では、一度加圧したのち、加圧体を繊維強化複合材料前駆体から離し、繊維強化複合材料前駆体を一定の移動距離で前方へ搬送する。その後再度繊維強化複合材料前駆体を加圧体により加圧する。この加圧と搬送の行程を繰り返すことで、繊維強化複合材料前駆体が間欠搬送される。間欠搬送する工程での移動距離は、35mm以上であり、好ましくは36mm以上であり、より好ましくは37mm以上であり、一方で130mm以下であり、好ましくは120mm以下であり、さらに好ましくは100mm以下である。前記下限値以上であることで得られる繊維強化複合材料の反りが低減し、前記上限値以下であることで得られる繊維強化複合材料の捩じれが低減する。間欠搬送したのち、離型フィルムを除去して、繊維強化複合材料を得る。
【0031】
また、加圧する工程において、少なくとも1つの加圧体により繊維強化複合材料前駆体を冷却することが好ましい。その場合、マトリックス樹脂の軟化点以上に加熱する加圧体を少なくとも1つとマトリックス樹脂の軟化点以下に冷却する金型を少なくとも1つ有することが好ましい。マトリックス樹脂の軟化点以上に加熱する加圧体の温度をT1(℃)、マトリックス樹脂の軟化点以下に加熱する温度をT2(℃)とし、マトリックス樹脂の軟化点以上に加熱する金型から、マトリックス樹脂の軟化点以下に冷却する金型までの移動距離をd(mm)とした場合に、以下の式で表される冷却距離D(mm/℃)は、0.3mm/℃以上であることが好ましく、0.31mm/℃以上であることがより好ましく、0.32mm/℃以上であることが更に好ましく、一方で1.0mm/℃以下であることが好ましく、0.9mm/℃以下であることがより好ましく、0.7mm/℃以下であることが更に好ましい。前記下限値以上であることで、反りが軽減される。前記上限値以下であることで繊維強化複合材料の捩じれが低減する。
軟化温度以上の金型温度:T1(℃)
軟化温度以下の金型温度:T2(℃)
繊維強化複合材料前駆体の移動距離:d(mm)
冷却距離:D=d/(T1-T2)(mm/℃)
【0032】
また、マトリックス樹脂フィルムの代わりにマトリックス樹脂を用いて形成した樹脂繊維又は樹脂粒子を強化繊維に加え、加熱溶融してマトリックス樹脂を含浸させ、繊維間の空気を除去する製造方法が挙げられる。
【0033】
マトリックス樹脂のフィルムの代わりにマトリックス樹脂の樹脂繊維を用いる場合、樹脂繊維の繊維径は、5~50μmが好ましい。マトリックス樹脂のフィルムの代わりにマトリックス樹脂の樹脂粒子を用いる場合、樹脂粒子の平均粒径は、10~100μmが好ましい。その他に、マトリックス樹脂組成物を用いて形成したフィルムを強化繊維と重ね、繊維強化複合材料前駆体を得、加熱溶融してマトリックス樹脂を含浸させ、繊維間の空気を除去して繊維強化複合材料を得る方法が挙げられる。マトリックス樹脂がフィルム形態の場合、フィルムの厚さは、10~100μmが好ましい。フィルムは、無延伸フィルムであっても、延伸フィルムであってもよく、二次加工性に優れる点から、無延伸フィルムが好ましい。なお、無延伸フィルムには、延伸倍率が2倍未満であるフィルムを含むものとする。マトリックス樹脂がフィルム形態の場合のフィルムの製造方法は、特に限定されず、公知の方法を採用できる。例えば、マトリックス樹脂に用いる材料を溶融混練した後、フィルム状に押出成形し、冷却する方法が挙げられる。溶融混練には、単軸又は二軸押出機等の公知の混練機を用いることができる。押出成形は、例えば、Tダイ等の金型を用いることにより行える。溶融温度は、樹脂の種類や混合比率、添加剤の有無や種類に応じて適宜調整できる。冷却は、例えば、冷却されたキャストロール等の冷却機に接触させる方法が挙げられる。
【0034】
[成形体]
本複合材料を成形することにより成形体とすることができる。この成形体は、連続した形状を連続的に製造することができる。例えば角柱状、円柱状、I字、H字、C字、ハット形状等の開断面形状や、円筒状、中空形状等の閉断面形状を製造することができる。成形体の厚さは、例えば0.1~50mmで成形体の形状により適宜決定できる。
【0035】
(成形体の製造方法)
本複合材料を成形して成形体する場合、この成形体の製造方法では、本複合材料と同様に金型内を間欠搬送する方法にて、前記成形体の形状が付与された金型内を通過させ、成形体を製造することができる。その場合公知の方法を用いて強化繊維複合材料を加熱および加圧して、空隙を排除する方法が好ましい。周期的形状は成形体の製造中に付与しても、成形体の製造後に付与してもよい。成形体の製造後に付与する方法は、インラインでもオフラインでもよい。
【実施例0036】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限または下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限または下限の値と、下記実施例の値または実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0037】
[実施例1]
炭素繊維MR50R(三菱ケミカル社製)を使用した一方向性繊維基材と、TダイにてPEEK樹脂(ダイセルエボニック社製 3300G、融点330~340℃)を押出成形した27μm厚みのフィルムを熱融着により張り合わせ、炭素繊維目付(FAW)が72g/mの未含浸繊維が残る繊維強化複合材料前駆体を得た。
【0038】
油圧プレス内に420℃に温調した平板金型1と300℃に温調した平板金型2との間に約1mm長さの溝形状を付与した複合金型を用意し、その中に加圧体1及び加圧体2(約3mm厚さのC/Cコンポジット板)を配置した。次に前記2枚重ねた繊維強化複合材料前駆体の両面に離型フィルム(宇部興産社製 ユーピレックス50S)を重ねたものを、前記加圧体1と加圧体2の間に通し、前記420℃に温調した金型1にて加熱加圧後、300℃に温調した金型2の方へ75mm移動させ、再度加圧して冷却固化させる工程を繰り返し、平均圧力4.1MPaで含浸した約0.13mm厚さの繊維強化複合材料を得た。
【0039】
得られた繊維強化複合材料には、金型1と金型2の溝形状による、凸形状が繊維の配向方向と直角方向に付与されていた。繊維の配向方向に300mm、繊維の配向方向と直角する方向に200mmの長方形に切り出し、卓上密度計(ヒューテック社製)のレーザー変位機能を用いて、前記繊維強化複合材料の厚みを表裏両側から測定し、繊維の配向方向に1mm間隔で厚さ分布を計測した。得られた厚み分布を、最小二乗法を用いてフィッティングした。得られた正弦曲線の波長(λ)と厚み差(A)を表1に示す。
【0040】
続いて、前記長さ300mm、幅200mmの長方形のプリプレグを下が凸になるよう平坦な場所に配置し、長方形のプリプレグの四隅と平坦な場所との間の高さを、金尺を用いて測定し、四隅の平均を取得した。また、反りや捩じれの有無を観察した。四隅と平坦な場所との間の高さの差と反りや捩じれの有無の結果を表1に示す。また以下の判定に基き、総合評価を行った。この総合評価はAが最も良く、Dが最も悪いものと評価される。
(総合評価)
A:四隅から平坦な場所の高さの平均が10mm以下であり、かつ反りや捩じれが見られなかった。
B:四隅から平坦な場所の高さの平均が10mmを超えるが、反りや捩じれが見られなかった。
C:四隅から平坦な場所の高さの平均が10mm以下であるが、反りや捩じれが見られた。
D:四隅から平坦な場所の高さの平均が10mmを超え、かつ反りや捩じれが見られた。
【0041】
[実施例2]
前記300℃に温調した金型2への移動距離を50mmに変えた以外は、実施例1と同じ方法にて製造した。結果を表1に示す。
【0042】
[実施例3]
前記300℃に温調した金型2への移動距離を38mmに変えた以外は、実施例1と同じ方法にて製造した。結果を表1に示す。
【0043】
[比較例1]
前記300℃に温調した金型2への移動距離を30mmに変えた以外は、実施例1と同じ方法にて製造した。結果を表1に示す。
【0044】
[比較例2]
前記300℃に温調した金型2への移動距離を150mmに変えた以外は、実施例1と同じ方法にて製造した。結果を表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
[まとめ]
以上をまとめると本発明は以下の実施形態を有していても良い。
[実施態様1]
強化繊維とマトリックス樹脂を含み、下記厚み波長(λ)が31mm以上、33mm以上又は35mm以上である繊維強化複合材料。
厚み波長(λ):繊維強化複合材料について、一方向性繊維強化複合材料の場合には繊維に沿った方向に、それ以外の繊維強化複合材料の場合にはX線を照射されることによって生じる円状の回折像を取得し、その中で最も高い回折強度の角度を示す方向に、1mm間隔で200回以上計測した厚み分布を測定し、厚み分布曲線を得る。得られた厚み分布曲線について、厚みの各数値を最小二乗法により正弦曲線でフィッティングする。この正弦曲線の波長を厚み波長(λ)とする。
[実施態様2]
前記厚み波長(λ)が120mm以下、100mm以下又は80mm以下である、実施態様1に記載の繊維強化複合材料 。
[実施態様3]
強化繊維とマトリックス樹脂を含み、下記厚み波長(λ)が120mm以下、100mm以下又は80mm以下である繊維強化複合材料 。
厚み波長(λ):繊維強化複合材料について、一方向性繊維強化複合材料の場合には繊維に沿った方向に、それ以外の繊維強化複合材料の場合にはX線を照射されることによって生じる円状の回折像を取得し、その中で最も高い回折強度の角度を示す方向に、1mm間隔で200回以上計測した厚み分布を測定し、厚み分布曲線を得る。得られた厚み分布曲線について、厚みの各数値を最小二乗法により正弦曲線でフィッティングする。この正弦曲線の波長を厚み波長(λ)とする。
[実施態様4]
下記厚み差(A)が、0.3μm以上、0.4μm以上又は0.5μm以上である繊維強化複合材料。
厚み差(A):前記厚み波長(λ)の測定で得られる正弦曲線の振幅の2倍を厚み差(A)とする。
[実施態様5]
前記厚み差(A)が、5.0μm以下、4.0μm以下又は3.0μm以下である実施態様4に記載の繊維強化複合材料。
[実施態様6]
下記厚み差(A)が、5.0μm以下、4.0μm以下又は3.0μm以下である実施態様1から3のいずれかに記載の繊維強化複合材料。
厚み差(A):前記厚み波長(λ)の測定で得られる正弦曲線の振幅の2倍を厚み差(A)とする。
[実施態様7]
下記厚み差(A)が、0.3μm以上、0.4μm以上又は0.5μm以上である実施態様1から3のいずれかに記載の繊維強化複合材料。
厚み差(A):前記厚み波長(λ)の測定で得られる正弦曲線の振幅の2倍を厚み差(A)とする。
[実施態様8]
前記厚み差(A)が、5.0μm以下、4.0μm以下又は3.0μm以下である実施態様7に記載の繊維強化複合材料。
[実施態様9]
前記マトリックス樹脂が熱可塑性樹脂である実施態様1から8のいずれかに記載の繊維強化複合材料。
[実施態様10]
前記強化繊維が一方向に引き揃えられている実施態様1から9のいずれか記載の繊維強化複合材料。
[実施態様11]
厚みが0.015mm以上、0.04mm以上又は0.1mm以上である実施態様1から10のいずれかに記載の繊維強化複合材料。
[実施態様12]
厚みが10.0mm以下、6.0mm以下、1.0mm以下又は0.5mm以下である実施態様1から11のいずれかに記載の繊維強化複合材料。
[実施態様13]
前記強化繊維として炭素繊維を含む実施態様1から12のいずれかに記載の繊維強化複合材料。
[実施態様14]
実施態様1から13のいずれかに記載の繊維強化複合材料を成形してなる成形体。
[実施態様15]
強化繊維とマトリックス樹脂フィルムを重ねた繊維強化複合材料前駆体を準備する工程、前記繊維強化複合材前駆体を前記マトリックス樹脂の軟化温度以上に加熱する工程、それぞれ独立した1又は複数の加圧体により、前記繊維強化複合材料前駆体を加圧する工程、前記繊維強化複合材料前駆体を間欠搬送する工程を含み、前記間欠搬送する工程での前記繊維強化複合材料前駆体の移動距離が、35mm以上、36mm以上または37mm以上である、繊維強化複合材料の製造方法。
[実施態様16]
強化繊維とマトリックス樹脂フィルムを重ねた繊維強化複合材料前駆体を準備する工程、前記繊維強化複合材前駆体を前記マトリックス樹脂の軟化温度以上に加熱する工程、それぞれ独立した1又は複数の加圧体により、前記繊維強化複合材料前駆体を加圧する工程、前記繊維強化複合材料前駆体を間欠搬送する工程を含み、前記間欠搬送する工程での前記繊維強化複合材料前駆体の移動距離が、130mm以下、120mm以下または100mm以下である、繊維強化複合材料の製造方法。
[実施態様17]
前記間欠搬送する工程での前記繊維強化複合材料前駆体の移動距離が、35mm以上、36mm以上または37mm以上である、実施態様16に記載の繊維強化複合材料の製造方法。
[実施態様18]
前記加熱する工程における加熱温度が400℃以上、410℃以上または420℃以上である、実施態様15から17のいずれかに記載の繊維強化複合材料の製造方法。
[実施態様19]
前記加圧体の加圧する圧力が2MPa以上、3MPa以上または4MPa以上である、実施態様15から18のいずれかに記載の繊維強化複合材料の製造方法。
[実施態様20]
前記加圧する工程において、前記加圧体により前記繊維強化複合材料前駆体を冷却する工程を含み、前記冷却する工程において、軟化温度以上から軟化温度以下に冷却する際に0.3mm/℃以上、0.31mm/℃以上または0.32mm/℃以上の冷却距離Dで冷却する実施態様15から19のいずれかに記載の繊維強化複合材料の製造方法。
軟化温度以上の金型温度:T1(℃)
軟化温度以下の金型温度:T2(℃)
繊維強化複合材料前駆体の移動距離:d(mm)
冷却距離:D=d/(T1-T2)(mm/℃)
[実施態様21]
前記加圧する工程において、前記加圧体により前記繊維強化複合材料前駆体を冷却する工程を含み、前記冷却する工程において、軟化温度以上から軟化温度以下に冷却する際に1.0mm/℃以下、0.9mm/℃以下または0.7mm/℃以下の冷却距離Dで冷却する実施態様15から20のいずれかに記載の繊維強化複合材料の製造方法。
軟化温度以上の金型温度:T1(℃)
軟化温度以下の金型温度:T2(℃)
繊維強化複合材料前駆体の移動距離:d(mm)
冷却距離:D=d/(T1-T2)(mm/℃)