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特開2024-140707接着型細胞用培養容器およびそれを用いた接着型細胞の培養方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140707
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】接着型細胞用培養容器およびそれを用いた接着型細胞の培養方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20241003BHJP
   C12N 5/07 20100101ALI20241003BHJP
【FI】
C12M3/00 A
C12N5/07
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052006
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100175477
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 林太郎
(72)【発明者】
【氏名】石神 朋広
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA08
4B029BB11
4B029CC02
4B029CC08
4B029GA03
4B029GB09
4B065AA93X
4B065BC11
4B065BC41
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】細胞塊形成率に優れる接着型細胞用培養容器、および当該培養容器を用いた接着型細胞の培養方法の提供。
【解決手段】脂環構造含有重合体を含む重合体組成物を用いてなる培養面を備える接着型細胞用培養容器であって、X線光電子分光法によって測定される、前記培養面における表面酸素量(原子%)とπ-π遷移量(原子%)の合計が1原子%未満である、接着型細胞用培養容器。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂環構造含有重合体を含む重合体組成物を用いてなる培養面を備える接着型細胞用培養容器であって、
X線光電子分光法によって測定される、前記培養面における表面酸素量(原子%)とπ-π遷移量(原子%)の合計が1原子%未満である、接着型細胞用培養容器。
【請求項2】
請求項1に記載の接着型細胞用培養容器を用いた、接着型細胞の培養方法。
【請求項3】
接着型細胞が前記培養面に細胞塊を形成する細胞塊形成ステップと、
前記細胞塊が前記培養面に接着した状態で培養される培養ステップと
を含む、請求項2に記載の接着型細胞の培養方法。
【請求項4】
前記細胞塊形成ステップに先んじて、前記接着型細胞が前記培養面に接着する接着ステップを更に含む、請求項3に記載の接着型細胞の培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着型細胞用培養容器およびそれを用いた接着型細胞の培養方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、再生医療の分野において、複数の接着型細胞からなる細胞の塊(細胞塊)が注目されている。このような細胞塊は、例えば、臓器再生、オルガノイド培養、薬物スクリーニングなどの用途で使用され得る。
【0003】
そこで、近年では、細胞塊を形成可能な接着型細胞の培養法の改良が試みられている。
具体的には、特許文献1には、接着型細胞と脂環構造含有重合体成形体とを接触させることにより、当該接着型細胞を培養容器底面に接着又は液体培地中に浮遊した状態で培養される段階、少なくとも前記浮遊した状態で培養されている接着型細胞が細胞塊を形成し、浮遊した状態で培養される段階、前記浮遊した状態で培養されていた細胞塊が培養容器底面に接着した状態で培養される段階、を含む接着型細胞の培養方法が開示されている。そして、特許文献1によれば、当該培養方法を用いることで、細胞塊を形成しても細胞の死滅は促進されず、タンパク質の産生能が向上する。
また、特許文献2には、細胞培養面のアルブミン吸着量が830ng/cmを超える、接着性細胞培養用基材が開示されている。そして、特許文献2によれば、当該接着性細胞培養用基材を用いることで、凹凸構造のナノインプリントを必要とせずに、かつガンマ線滅菌後であっても、スフェロイドを基材表面上に付着した状態で形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-79658号公報
【特許文献2】特開2017-77240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の技術には、細胞塊を形成する接着型細胞の割合(即ち、細胞塊形成率)を一層高めるという点において改善の余地があった。
【0006】
そこで、本発明は、細胞塊形成率に優れる接着型細胞用培養容器、および当該培養容器を用いた接着型細胞の培養方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者は、脂環構造含有重合体を含む重合体組成物を用いてなる培養面を備え、当該培養面における表面酸素量とπ-π遷移量の合計が1原子%未満である接着型細胞用培養容器が、細胞塊形成率に優れることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明によれば、下記(1)の接着型細胞用培養容器、および下記(2)~(4)の接着型細胞の培養方法が提供される。
【0009】
(1)脂環構造含有重合体を含む重合体組成物を用いてなる培養面を備える接着型細胞用培養容器であって、X線光電子分光法によって測定される、前記培養面における表面酸素量(原子%)とπ-π遷移量(原子%)の合計が1原子%未満である、接着型細胞用培養容器。
脂環構造含有重合体を含む重合体組成物を用いてなる培養面を備え、当該培養面における表面酸素量とπ-π遷移量の合計が1原子%未満である接着型細胞用培養容器(以下、単に「培養容器」と略記する場合がある。)は、細胞塊形成率に優れる。
なお、本発明において、「培養面」とは、培養中の接着型細胞が接着し得る培養容器表面を意味する。
また、本発明において、培養面における「表面酸素量」および「π-π遷移量」は、それぞれ、本明細書の実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
【0010】
(2)上記(1)に記載の接着型細胞用培養容器を用いた、接着型細胞の培養方法。
上述した培養容器を用いた接着型細胞の培養方法(以下、単に「培養方法」と略記する場合がある。)は、細胞塊形成率に優れる。
【0011】
(3)接着型細胞が前記培養面に細胞塊を形成する細胞塊形成ステップと、前記細胞塊が前記培養面に接着した状態で培養される培養ステップとを含む、上記(2)に記載の接着型細胞の培養方法。
上述した細胞塊形成ステップおよび培養ステップを含む培養方法を用いれば、細胞塊形成率を一層高めることができる。
なお、本発明において、「細胞塊」とは、単独の細胞以外の細胞集合であり、2個以上の細胞が1つに結合した状態を意味する。
【0012】
(4)前記細胞塊形成ステップに先んじて、前記接着型細胞が前記培養面に接着する接着ステップを更に含む、上記(3)に記載の接着型細胞の培養方法。
細胞塊形成ステップに先んじて、上述した接着ステップを更に含む培養方法を用いれば、細胞塊形成率を一層高めることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、細胞塊形成率に優れる接着型細胞用培養容器、および当該培養容器を用いた接着型細胞の培養方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明の培養容器は、その内部で接着型細胞を培養することを目的としたものであれば特に限定されない。そして、本発明の培養容器の具体例としては、ディッシュ、プレート、マイクロ流路チップ、バッグ、チューブ、スキャホールド、カップ、ジャー・ファーメンター等が挙げられる。また、本発明の培養方法は、本発明の培養容器を用いることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の培養容器に収容される接着型細胞も特に限定されず、目的に応じて任意に選択することができる。具体的には、脂肪細胞、肝細胞、腎細胞、膵臓細胞、乳腺細胞、内皮細胞、上皮細胞、平滑筋細胞、筋芽細胞、心筋細胞、神経細胞、グリア細胞、シュワン細胞、樹状細胞、軟骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、骨細胞、線維芽細胞、各種血液系細胞、網膜細胞、角膜由来細胞、生殖腺由来細胞、各種線細胞、その他間葉系前駆細胞、各種癌細胞(例えば、肺癌細胞、乳癌細胞、膵臓癌細胞など)等が挙げられる。これらの中でも、腎細胞、心筋細胞、シュワン細胞、癌細胞が好ましい。
なお、接着型細胞は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0016】
(接着型細胞用培養容器)
本発明の培養容器は、少なくとも培養面が脂環構造含有重合体を含む重合体組成物を用いて形成される。例えば、本発明の培養容器がマルチウェルプレートである場合、ウェルの内側の底面が、重合体組成物を用いて形成されていればよい。また、本発明の培養容器が複数のフィルムからなる積層構造を有するバッグである場合、最内層のフィルム(バッグ内面)が、重合体組成物を用いて形成されていればよい。あるいは、培養容器全体が、重合体組成物を用いて形成されていてもよい。
ここで、本発明の培養容器は、培養面における表面酸素量とπ-π遷移量の合計が1原子%未満であることを特徴とする。
【0017】
そして、本発明の培養容器は、培養面における表面酸素量とπ-π遷移量の合計が1原子%未満であるため、当該培養容器を用いれば細胞塊形成率を向上させることができる。かかる本発明の培養容器を用いることで、上記の効果が得られる理由は定かではないが、以下の通りであると推察される。
【0018】
まず、本発明の培養容器は、脂環構造含有重合体を含む重合体組成物を用いてなる培養面を備え、当該培養面における表面酸素量とπ-π遷移量の合計が1原子%未満である。ここで、接着型細胞は、通常、培養面に吸着した足場タンパク質を介して、培養面に接着することが知られている。そして、培養面における表面酸素量とπ-π遷移量の合計が高いほど、培養面への足場タンパク質の吸着量が増加することが本発明者の検討により新たに明らかになった。したがって、培養面における表面酸素量とπ-π遷移量の合計が高い場合、培養面に足場タンパク質が十分に存在するので、接着型細胞は細胞塊を形成することなく培養面に良好に接着し得る。一方、培養面における表面酸素量とπ-π遷移量の合計が低い場合、培養面に足場タンパク質が十分に存在しないので、接着型細胞はそのままの状態では培養面に接着できず、細胞塊を形成することで培養面に接着しようとする。そして、本発明の培養容器は、培養面における表面酸素量とπ-π遷移量の合計が1原子%未満であるため、培養面に足場タンパク質が十分に存在せず、接着型細胞は細胞塊を形成することで培養面に接着する。そのため、本発明の培養容器を用いて接着型細胞を培養すると、培養容器内の全細胞の数に対する細胞塊の数の割合(すなわち、細胞塊形成率)が向上すると考えられる。
したがって、本発明の培養容器を用いれば、細胞塊形成率を向上させることができる。
【0019】
<重合体組成物>
本発明の培養容器が備える培養面の形成に用いる重合体組成物は、脂環構造含有重合体を含み、任意に、脂環構造含有重合体以外の成分(その他の成分)を更に含有する。
【0020】
<<脂環構造含有重合体>>
脂環構造含有重合体は、主鎖および/または側鎖に脂環構造を有する樹脂であり、細胞塊形成率を一層高める観点から、主鎖に脂環構造を含有するものが好ましく、極性基を有しないものがより好ましい。ここで、極性基とは、極性のある原子団を指す。極性基としては、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、酸無水物基などが挙げられる。
なお、脂環構造含有重合体は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
上記脂環構造としては、飽和環状炭化水素(シクロアルカン)構造、不飽和環状炭化水素(シクロアルケン)構造などが挙げられるが、機械的強度、耐熱性などの観点から、シクロアルカン構造やシクロアルケン構造が好ましく、中でもシクロアルカン構造を有するものが最も好ましい。
【0022】
脂環構造を構成する炭素原子数は、格別な制限はないが、通常4~30個、好ましくは5~20個、より好ましくは5~15個である。脂環構造を構成する炭素原子数がこの範囲内であるときに、機械的強度、耐熱性、および成形性の特性が高度にバランスされ、好適である。
【0023】
脂環構造含有重合体中の脂環構造を有する繰り返し単位の割合は、使用目的に応じて適宜選択されればよいが、通常30重量%以上、好ましくは50重量%以上、より好ましくは70重量%以上である。脂環構造含有重合体中の脂環構造を有する繰り返し単位の割合が過度に少ないと耐熱性に劣り好ましくない。脂環構造含有重合体中の脂環構造を有する繰り返し単位以外の残部は、格別な限定はなく、使用目的に応じて適宜選択される。
【0024】
脂環構造含有重合体の具体例としては、(1)ノルボルネン系重合体、(2)単環の環状オレフィン系重合体、(3)環状共役ジエン系重合体、(4)ビニル脂環式炭化水素系重合体、および(1)~(4)の水素化物などが挙げられる。これらの中でも、細胞塊形成率を一層高める観点から、ノルボルネン系重合体およびその水素化物が好ましい。
【0025】
[ノルボルネン系重合体]
ノルボルネン系重合体は、ノルボルネン骨格を有する単量体であるノルボルネン系単量体を重合してなるものであり、開環重合によって得られるものと、付加重合によって得られるものに大別される。
【0026】
開環重合によって得られるものとしては、ノルボルネン系単量体の開環重合体およびノルボルネン系単量体とこれと開環共重合可能なその他の単量体との開環重合体、ならびにこれらの水素化物などが挙げられる。付加重合によって得られるものとしては、ノルボルネン系単量体の付加重合体およびノルボルネン系単量体とこれと共重合可能なその他の単量体との付加重合体などが挙げられる。これらの中でも、ノルボルネン系単量体の開環重合体水素化物が、細胞塊形成率を一層高める観点から好ましい。
【0027】
ノルボルネン系重合体の合成に使用可能なノルボルネン系単量体としては、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン(慣用名ノルボルネン)、5-メチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5,5-ジメチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-エチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-エチリデン-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-ビニル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-プロペニルビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-メトキシカルボニル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-シアノビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン、5-メチル-5-メトキシカルボニル-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン等の2環式単量体;
トリシクロ[4.3.01,6.12,5]デカ-3,7-ジエン(慣用名ジシクロペンタジエン)、2-メチルジシクロペンタジエン、2,3-ジメチルジシクロペンタジエン、2,3-ジヒドロキシジシクロペンタジエン等の3環式単量体;
テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン(テトラシクロドデセン)、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、8-メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、8-エチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、8-エチリデンテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、8,9-ジメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、8-エチル-9-メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、8-エチリデン-9-メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、8-メチル-8-カルボキシメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、7,8-ベンゾトリシクロ[4.3.0.12,5]デカ-3-エン(慣用名メタノテトラヒドロフルオレン:1,4-メタノ-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレンともいう)、1,4-メタノ-8-メチル-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレン、1,4-メタノ-8-クロロ-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレン、1,4-メタノ-8-ブロモ-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレン等の4環式単量体;等が挙げられる。
【0028】
ノルボルネン系単量体と開環共重合可能なその他の単量体としては、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン、1,4-シクロヘキサジエン、1,5-シクロオクタジエン、1,5-シクロデカジエン、1,5,9-シクロドデカトリエン、1,5,9,13-シクロヘキサデカテトラエン等の単環のシクロオレフィン系単量体が挙げられる。
これらの単量体は、置換基を1種または2種以上有していてもよい。置換基としては、アルキル基、アルキレン基、アリール基、シリル基、アルコキシカルボニル基、アルキリデン基等が挙げられる。
【0029】
ノルボルネン系単量体と付加共重合可能なその他の単量体としては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン等の炭素数2~20のα-オレフィン系単量体;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテン、テトラシクロ[9.2.1.02,10.03,8]テトラデカ-3,5,7,12-テトラエン(3a,5,6,7a-テトラヒドロ-4,7-メタノ-1H-インデンとも言う)等のシクロオレフィン系単量体;1,4-ヘキサジエン、4-メチル-1,4-ヘキサジエン、5-メチル-1,4-ヘキサジエン、1,7-オクタジエン等の非共役ジエン系単量体;等が挙げられる。
【0030】
これらの中でも、ノルボルネン系単量体と付加共重合可能なその他の単量体としては、α-オレフィン系単量体が好ましく、エチレンがより好ましい。
これらの単量体は、置換基を1種または2種以上有していてもよい。置換基としては、アルキル基、アルキレン基、アリール基、シリル基、アルコキシカルボニル基、アルキリデン基等が挙げられる。
【0031】
ノルボルネン系単量体の開環重合体、またはノルボルネン系単量体とこれと開環共重合可能なその他の単量体との開環重合体は、単量体成分を、公知の開環重合触媒の存在下で重合して得ることができる。開環重合触媒としては、例えば、ルテニウム、オスミウムなどの金属のハロゲン化物と、硝酸塩またはアセチルアセトン化合物、および還元剤とからなる触媒、あるいは、チタン、ジルコニウム、タングステン、モリブデンなどの金属のハロゲン化物またはアセチルアセトン化合物と、有機アルミニウム化合物とからなる触媒を用いることができる。
ノルボルネン系単量体の開環重合体水素化物は、通常、上記開環重合体の重合溶液に、ニッケル、パラジウムなどの遷移金属を含む公知の水素化触媒を添加し、炭素-炭素不飽和結合を水素化することにより得ることができる。
【0032】
ノルボルネン系単量体の付加重合体、またはノルボルネン系単量体とこれと共重合可能なその他の単量体との付加重合体は、単量体成分を、公知の付加重合触媒の存在下で重合して得ることができる。付加重合触媒としては、例えば、チタン、ジルコニウムまたはバナジウム化合物と有機アルミニウム化合物とからなる触媒を用いることができる。
【0033】
[単環の環状オレフィン系重合体]
単環の環状オレフィン系重合体としては、例えば、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどの、単環の環状オレフィン系単量体の付加重合体を用いることができる。
【0034】
[環状共役ジエン系重合体]
環状共役ジエン系重合体としては、例えば、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエンなどの環状共役ジエン系単量体を1,2-または1,4-付加重合した重合体およびその水素化物などを用いることができる。
【0035】
[ビニル脂環式炭化水素重合体]
ビニル脂環式炭化水素重合体としては、例えば、ビニルシクロヘキセン、ビニルシクロヘキサンなどのビニル脂環式炭化水素系単量体の重合体およびその水素化物;スチレン、α-メチルスチレンなどのビニル芳香族系単量体の重合体の芳香環部分の水素化物;などが挙げられる。ビニル脂環式炭化水素重合体は、これらの単量体と共重合可能な他の単量体との共重合体であってもよい。
【0036】
[重量平均分子量]
脂環構造含有重合体の分子量に格別な制限はないが、シクロヘキサン溶液(重合体が溶解しない場合はトルエン溶液)のゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーで測定したポリイソプレン換算の重量平均分子量で、通常5,000以上であり、好ましくは5,000~500,000、より好ましくは8,000~200,000、特に好ましくは10,000~100,000である。重量平均分子量がこの範囲内であるときに、機械的強度と成形加工性とが高度にバランスし、好適である。
【0037】
[ガラス転移温度]
脂環構造含有重合体のガラス転移温度は、使用目的に応じて適宜選択すればよいが、50℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがより好ましく、90℃以上であることが更に好ましく、200℃以下であることが好ましく、180℃以下であることがより好ましく、160℃以下であることが更に好ましく、150℃以下であることがより一層好ましく、140℃以下であることが特に好ましい。脂環構造含有重合体は、ガラス転移温度がこの範囲内であるときに、耐熱性と成形加工性とが高度にバランスし、好適である。
なお、本発明における脂環構造含有重合体のガラス転移温度は、JIS K 7121に基づいて測定されたものである。
【0038】
<<その他の成分>>
本発明の細胞培養容器が備える培養面の形成に用いる重合体組成物は、上述した脂環構造含有重合体以外の成分(その他の成分)を更に含有することができる。その他の成分としては、熱可塑性樹脂材料で通常用いられている配合剤、例えば、脂環構造含有重合体以外の重合体(以下、単に「その他の重合体」という)、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、近赤外線吸収剤、離型剤、染料や顔料等の着色剤、可塑剤、帯電防止剤、蛍光増白剤などが挙げられる。
なお、その他の成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0039】
ここで、重合体組成物におけるその他の重合体の含有量は、細胞塊形成率を一層高める観点から、脂環構造含有重合体100質量部当たり、50質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましく、1質量部以下であることが更に好ましく、0.1質量部以下であることがより一層好ましく、0質量部である(即ち、重合体組成物はその他の重合体を含まない)ことが特に好ましい。
【0040】
<<重合体組成物の調製方法>>
上述した脂環構造含有重合体と、任意にその他の成分とを含む重合体組成物を得る際の混合方法は、特に限定されず、例えば、単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、フィーダールーダー等の既知の溶融混練機を用いて行うことができる。混合後は、常法に従って、棒状に押出し、ストランドカッターで適当な長さに切ることで、ペレット化することができる。
【0041】
[表面酸素量]
また、本発明の培養容器は、培養面における表面酸素量が1原子%未満であることが必要である。培養面における表面酸素量が1原子%以上であると、細胞塊形成率が低下する。そして、培養面における表面酸素量は、0.1原子%以上であることが好ましく、0.2原子%以上であることがより好ましく、り、0.9原子%以下であることが好ましく、0.8原子%以下であることがより好ましく、0.7原子%以下であることが更に好ましく、0.6原子%以下であることがより一層好ましく、0.5原子%以下であることが特に好ましい。培養面における表面酸素量が0.1原子%以上であれば、培養容器の製造容易性を良好に確保することができる。一方、培養面における表面酸素量が0.9原子%以下であれば、細胞塊形成率を一層高めることができる。
なお、培養面における表面酸素量は、例えば、重合体組成物から培養面を形成する際の成形条件、培養面の表面処理の有無、射出成形によって培養面を形成する場合には、射出成形機が備えるシリンダーの温度(以下、単に「シリンダー温度」と略記する場合がある。)などを変更することにより調整することができる。具体的には、シリンダー温度を低くすることで表面酸素量を低下させることができ、シリンダー温度を高くすることで表面酸素量を上昇させることができる。また、培養面に表面処理を施さないことで、表面酸素量を低下させることができる。
【0042】
[π-π遷移量]
また、本発明の培養容器は、培養面におけるπ-π遷移量が1原子%未満であることが必要である。培養面におけるπ-π遷移量が1原子%以上であると、細胞塊形成率が低下する。そして、培養面におけるπ-π遷移量は、0.8原子%以下であることが好ましく、0.4原子%以下であることがより好ましく、0.2原子%以下であることが更に好ましく、0.1原子%以下であることがより一層好ましく、0原子%であることが特に好ましい。培養面におけるπ-π遷移量が0.8原子%以下であれば、細胞塊形成率を一層高めることができる。また、培養面におけるπ-π遷移量の下限は、特に限定されず、例えば、0.1原子%以上とすることができ、0.2原子%以上とすることができる。
なお、培養面におけるπ-π遷移量は、例えば、培養面の形成に用いる重合体組成物中の重合体(脂環構造含有重合体およびその他の重合体)の種類などを変更することにより調整することができる。具体的には、芳香環を有さない重合体を用いることで、π-π遷移量を低下させることができる。
【0043】
[表面酸素量とπ-π遷移量の合計]
そして、本発明の培養容器は、培養面における表面酸素量とπ-π遷移量の合計が1原子%未満である必要がある。培養面における表面酸素量とπ-π遷移量の合計が1原子%以上であると、細胞塊形成率が低下する。そして、培養面における表面酸素量とπ-π遷移量の合計は、0.1原子%以上であることが好ましく、0.2原子%以上であることがより好ましく、0.9原子%以下であることが好ましく、0.8原子%以下であることがより好ましく、0.7原子%以下であることが更に好ましく、0.6原子%以下であることがより一層好ましく、0.5原子%以下であることが特に好ましい。培養面における表面酸素量とπ-π遷移量の合計が0.1原子%以上であれば、培養容器の製造容易性を良好に確保することができる。一方、培養面における表面酸素量とπ-π遷移量の合計が0.9原子%以下であれば、細胞塊形成率を一層高めることができる。
【0044】
<培養容器の製造方法>
本発明の培養容器を製造する方法は、特に限定されないが、本発明の培養容器は、例えば、上述した脂環構造含有重合体と、任意にその他の成分とを含む重合体組成物を成形して培養面を得る工程(成形工程)を経て製造され得る。なお、本発明の培養容器は、任意に、上述した成形工程以外の工程(その他の工程)を経て製造してもよい。
【0045】
<<成形工程>>
ここで、重合体組成物を成形して培養面を得る方法としては、特に限定されず、培養面の所望の形状に応じて既知の成形方法から適宜選択しうる。このような既知の成形方法としては、例えば、押出成形、射出成形、インフレーション成形、ブロー成形、押出ブロー成形、射出ブロー成形、プレス成形、真空成形、パウダースラッシュ成形、カレンダー成形、発泡成形、熱成形等が挙げられる。これらの中でも、成形方法として、射出成形を用いることが好ましい。
【0046】
そして、成形方法として射出成形を用いる場合、シリンダー温度は、250℃以上とすることが好ましく、260℃以上とすることがより好ましく、320℃以下とすることが好ましく、310℃以下とすることがより好ましい。シリンダー温度が上述した範囲内であれば、培養面における表面酸素量とπ-π遷移量の合計を1原子%未満に収めることが容易になり、細胞塊形成率を一層高めることができる。
【0047】
また、成形方法として射出成形を用いる場合、射出成形に用いる金型の温度(以下、単に「金型温度」と略記する場合がある。)は、重合体組成物中の脂環構造含有重合体のガラス転移温度をTg(℃)として、(Tg-50)℃以上とすることが好ましく、(Tg-40)℃以上とすることがより好ましく、(Tg-20)℃以下とすることが好ましく、(Tg-25)℃以下とすることがより好ましい。金型温度が上述した範囲内であれば、培養面における表面酸素量とπ-π遷移量の合計を1原子%未満に収めることが容易になり、細胞塊形成率を一層高めることができる。
【0048】
<<その他の工程>>
その他の工程としては、例えば、成形工程に先んじて重合体組成物を予備乾燥する工程(予備乾燥工程)、培養面と他の部材を組み合わせて培養容器を組み立てる工程(組み立て工程)、培養容器に滅菌処理を施す工程(滅菌工程)、培養面に表面処理を施す工程(表面処理工程)などが挙げられる。
【0049】
そして、本発明の培養容器は、上述した成形工程に加えて滅菌工程を経て製造されることが好ましい。また、滅菌工程における滅菌処理の方法に格別な制限はなく、高圧蒸気法や乾熱法などの加熱法;γ線や電子線などの放射線を照射する放射線法や高周波を照射する照射法;酸化エチレンガス(EOG)などのガスを接触させるガス法;滅菌フィルタを用いる濾過法;など、医療分野で一般的に採用される方法から適宜選択することができる。中でも、培養面の表面自由エネルギーを特定の範囲に維持しやすいことから、ガス法が好ましい。
【0050】
表面処理工程では、培養面に、プラズマ処理、コロナ放電処理、オゾン処理、紫外線照射処理などの表面処理を施す。ただし、これらの表面処理を施すことにより発生する費用を抑えることができることや、表面処理に伴う培養面の部分分解により清浄性が損なわれるおそれがあること、表面処理により表面酸素量が増加し細胞塊形成率が低下するおそれがあることなどから、表面処理工程を行わないことが好ましい。また、表面処理工程を行う場合には、培養面における表面酸素量とπ-π遷移量の合計を1原子%未満に収め得る弱い表面処理しか行わないことが好ましい。
【0051】
(接着型細胞の培養方法)
本発明の培養方法は、上述した本発明の培養容器を用いることを特徴とする。そして、本発明の培養方法は、本発明の培養容器を用いるため、細胞塊形成率に優れる。
【0052】
ここで、本発明の培養方法は、本発明の培養容器を用いる限り、特に限定されない。例えば、上述した本発明の培養容器内に、接着型細胞と液体培地を収容し、液体培地中で接着型細胞を培養することができる。
【0053】
ここで、液体培地としては、通常、pH緩衝作用があり、浸透圧が細胞に好適なものであり、細胞の栄養成分を含み、かつ、細胞に対して毒性がないものが用いられる。
pH緩衝作用を示す成分としては、トリス塩酸塩、各種リン酸塩、各種炭酸塩等が挙げられる。
液体培地の浸透圧調整は、通常、細胞の浸透圧とほぼ同じになるように、カリウムイオン、ナトリウムイオン、カルシウムイオン、グルコース等の濃度を調整した水溶液を用いて行われる。かかる水溶液としては、具体的には、リン酸緩衝生理食塩水、トリス緩衝生理食塩水、HEPES緩衝生理食塩水等の生理食塩水;乳酸リンゲル液、酢酸リンゲル液、重炭酸リンゲル液等のリンゲル液;等が挙げられる。
細胞の栄養成分としては、アミノ酸、核酸、ビタミン類、ミネラル類等が挙げられる。
液体培地としては、RPMI-1640、HAM、α-MEM、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、イーグル最小必須培地(EMEM)、HAM’s F-12K(Kaighn’s)培地、F-12、F-10、M-199等の各種市販品を利用することができる。
【0054】
そして、液体培地には、培地添加物を配合することもできる。培地添加物としては、ウシ胎児血清(FBS)などの血清;ペニシリン、ストレプトマイシンなどの抗生物質;分化誘導因子;各種成長因子;ホルモン;ミネラル;金属;ビタミン成分;等が挙げられる。
これらの培地添加物は一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0055】
また、培養条件は特に限定されず、用いる接着型細胞の種類や培養目的に応じて適宜決定することができる。例えば、二酸化炭素濃度が5%程度で、温度が20℃~37℃の範囲で一定に維持された、加湿された恒温器を用いて細胞を培養することができる。
【0056】
なお、接着型細胞は、細胞の健康状態を良好に維持する観点から、培養密度等に応じて適宜継代することが好ましい。接着型細胞の継代は、例えば、トリプシン処理により接着型細胞を培養面から剥離し、剥離した接着型細胞を新たな液体培地で希釈して、再播種することで行うことができる。
【0057】
<好適な培養方法>
ここで、本発明の培養方法は、細胞塊形成率を一層高める観点から、接着型細胞が培養面に細胞塊を形成するステップ(細胞塊形成ステップ)と、形成された細胞塊が培養面に接着した状態で培養されるステップ(培養ステップ)とを含むことが好ましい。
【0058】
<細胞塊形成ステップ>
細胞塊形成ステップでは、接着型細胞の少なくとも一部が、上述した本発明の培養容器が備える培養面に細胞塊を形成する。通常、播種直後の接着型細胞は、単独で浮遊した状態で液体培地中に存在する。培養時間が経過するに従って、液体培地中に浮遊した状態で存在する接着型細胞の少なくとも一部が、培養面に細胞塊を形成し始める。播種してから培養面に細胞塊が形成されるまでの時間は、細胞の種類や播種量などに依存し特に限定されないが、通常3~7日である。なお、細胞塊形成ステップで培養面に細胞塊を形成しない接着型細胞は、通常、細胞塊を形成せず単独で培養面に接着した状態で存在するか、または液体培地中に浮遊した状態で存在する。
【0059】
<培養ステップ>
培養ステップでは、細胞塊形成ステップで培養面に形成された細胞塊の少なくとも一部が、液体培地中に浮遊することなく、培養面に接着した状態で培養される。蒸発による液体培地の減少、液体培地中の栄養成分の枯渇などによる細胞の健康状態の悪化を防止する観点から、適宜、液体培地を交換することが好ましい。なお、細胞塊の一部は、培養面から離れて液体培地中に浮遊してもよい。
【0060】
<接着ステップ>
ここで、本発明の培養方法は、細胞塊形成率を一層高める観点から、上述した細胞塊形成ステップに先んじて、接着型細胞が培養面に接着するステップ(接着ステップ)を更に含むことが好ましい。通常、播種直後の接着型細胞は、単独で浮遊した状態で液体培地中に存在する。接着ステップでは、液体培地中に浮遊した状態で存在する接着型細胞の少なくとも一部が、上述した本発明の培養容器が備える培養面に接着する。接着型細胞の培養面への付着様式は、特に限定されない。例えば、液体培地中に培地添加物として含まれる血清などに由来する足場タンパク質が培養面に吸着し、当該足場タンパク質に接着型細胞の細胞膜上に存在する細胞接着タンパク質が結合することで、接着型細胞は培養面に接着し得る。なお、接着ステップで培養面に付着しない接着型細胞は、通常、液体培地中に浮遊した状態で存在する。
【0061】
なお、本発明の培養方法は、上述した接着ステップ、細胞塊形成ステップおよび培養ステップ以外のステップ(その他のステップ)を含んでいてもよい。その他のステップとしては、例えば、コンフルエントな状態になる前に接着型細胞を継代するステップなどが挙げられる。
【実施例0062】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」および「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
そして、実施例および比較例において、培養面における表面酸素量およびπ-π遷移量、ならびに、細胞塊形成率は、下記の方法で評価した。
【0063】
<表面酸素量>
実施例および比較例で作製した96ウェルプレートの底面(培養面)を切り出したものを試験片とした。そして、X線光電子分光法(XPS)を用いて、この試験片のワイドスペクトル(測定範囲:0eV~1100eV)およびナロースペクトル(測定範囲:520eV~545eV)を測定した。結合エネルギー補正は炭化水素由来のC1sスペクトルピーク位置284.8eVを基準として行った。そして、ワイドスペクトルで検出された全ピークの面積の総和をS0とし、ナロースペクトル中のO1sピーク(530~535eVの範囲内に存在するピーク)の面積をS1として、下記式により表面酸素量(原子%)を算出した。
表面酸素量(原子%)=(S1/S0)×100
なお、XPSスペクトルの測定条件は以下の通りである。
[XPSスペクトルの測定条件]
装置:GCIB-XPS分析装置(アルバック・ファイ社製、製品名「PHI5000 Versa Probe II)
励起X線:単色化AlKα線(50W、15kV)
分析面積:200μm×200μm
電子・イオン中和銃:ON
[ワイドスペクトル測定条件の詳細]
Pass Energy:187.85eV
Step:0.8eV
積算回数:3回
[ナロースペクトル測定条件の詳細]
Pass Energy:23.5eV
Step:0.1eV
積算回数:5回
<π-π遷移量>
実施例および比較例で作製した96ウェルプレートの底面(培養面)を切り出したものを試験片とした。そして、X線光電子分光法(XPS)を用いて、この試験片のワイドスペクトル(測定範囲:0eV~1100eV)およびナロースペクトル(測定範囲:275eV~300eV)を測定した。結合エネルギー補正は炭化水素由来のC1sスペクトルピーク位置284.8eVを基準として行った。得られたナロースペクトル中のC1sピーク(285~294eVの範囲内に存在するピーク)を、非線形最小二乗法によるカーブフィッティングを用いて波形分離した。なお、非線形最小二乗法によるカーブフィッティングには、解析ソフトMULTIPACK(アルバック・ファイ社製)を使用した。そして、C1sピークの面積をS2とし、C1sピークの波形分離によって得られたπ-π遷移に由来するピーク(290~294eVの範囲内に存在するピーク)の面積をS3として、下記式によりπ-π遷移量(原子%)を算出した。
π-π遷移量(原子%)=(S3/S2)×100
なお、XPSスペクトルの測定条件は、ナロースペクトルの積算回数を5回から3回に変更した以外は、「表面酸素量」の項で上述した通りである。
<細胞塊形成率>
起眠(解凍)した接着型細胞を2回継代した。その後、以下の条件で、96ウェルプレートに接着型細胞を播種し、37℃で培養した。培養3日目に、オールインワン蛍光顕微鏡(キーエンス社製、型番「BZ-X710」)を用いて、細胞の位相差像を撮影(対物4倍)し、ウェル内の全細胞数および細胞塊の数をカウントした。そして、ウェル内の全細胞の数に対する細胞塊の数の割合として細胞塊形成率(%)を算出し、以下の基準で評価した。細胞塊形成率が高いほど、細胞塊形成能に優れる。
A:細胞塊形成率が90%以上
B:細胞塊形成率が50%以上90%未満
C:細胞塊形成率が50%未満
[A549(ヒト肺癌細胞)]
入手元:European Collection of Authenticated Cell Cultures(ECACC)、株番号「86012804」
液体培地:Ham’s F-12K(Kaighn’s)培地(Thermo Fisher Scientific社製、品番「#21127022」)
培地添加物:10%ウシ胎児血清(Thermo Fisher Scientific社製、品番「#172012-500mL」;以下「FBS」と略記する。)+1%ペニシリン-ストレプトマイシン(ナカライテスク社製、品番「26253-84」;以下「P/S」と略記する。)
播種条件:10,000細胞/ウェル
[MCF7(ヒト乳癌細胞)]
入手元:ECACC、株番号「86012803」
液体培地:MEM培地(ナカライテスク社製、品番「#21443-15」)
培地添加物:10%FBS+1%P/S
播種条件:10,000細胞/ウェル
[PANC-1(ヒト膵臓癌細胞)]
入手元:ECACC、株番号「87092802」
液体培地:DMEM培地(ナカライテスク社製、品番「#08458-45」)
培地添加物:10%FBS+1%P/S
播種条件:10,000細胞/ウェル
[HEK293細胞(ヒト胎児腎細胞)]
入手元:ECACC、株番号「85120602」
液体培地:DMEM培地(ナカライテスク社製、品番「#08458-45」)
培地添加物:10%FBS+1%P/S
播種条件:10,000細胞/ウェル
[マウスシュワン細胞(IMS32)]
入手元:コスモ・バイオ社、品番「SWN-IMS32C」
培地:マウスシュワン細胞(IMS32)用メディウム(コスモ・バイオ社製、品番「SWNMM」)
播種条件:10,000細胞/ウェル
[心筋細胞(iCell(登録商標) Cardiomytocytes)]
入手元:富士フィルム和光純薬社、品番「C1016」
液体培地(解凍用):iCell Cardiomyocytes Plating Medium(富士フィルム和光純薬社製、品番「#M1001」)
液体培地(維持用):iCell Cardiomyocyte Mentenance Medium(富士フィルム和光純薬社製、「#M1003)」)
播種条件:1.56×10細胞/cm(iCell Cardiomytocytes2 User’s Guideに従って細胞播種を実施した。)
【0064】
(製造例1)
<培養容器(96ウェルプレート)の作製>
脂環構造含有重合体としてのノルボルネン系単量体の開環重合体水素化物(日本ゼオン社製、製品名「ZEONOR(登録商標) 1060R」、ガラス転移温度(Tg):100℃、以下「COP1」と称する。)を用いて、射出成形により、円筒形状のウェルを96個有する96ウェルプレート(各ウェルの底面積:0.32cm)を作製した。なお、射出成形の条件は以下の通りである。
射出成形機:ファナック社製、製品名「ROBOSHOTα100B」
シリンダー温度:270℃
金型温度:70℃
射出圧:170MPa
その後、得られた96ウェルプレートに、酸化エチレンガスによる滅菌処理を施した。この96ウェルプレート(以下「P1」と称する。)の底面における表面酸素量およびπ-π遷移量を測定した。結果を表1に示す。
【0065】
(製造例2)
脂環構造含有重合体としてのCOP1に代えてノルボルネン系単量体の開環重合体水素化物(日本ゼオン社製、製品名「ZEONEX(登録商標) F52R」、Tg:155℃、以下「COP2」と称する。)を用いるとともに、シリンダー温度を270℃から300℃に変更し、金型温度70℃から125℃に変更したこと以外は、製造例1と同様にして、96ウェルプレート(以下「P2」と称する。)を作製した。そして、製造例1と同様にして測定を行った。結果を表1に示す。
【0066】
(製造例3)
脂環構造含有重合体としてのCOP1に代えてノルボルネン系単量体の開環重合体水素化物(日本ゼオン社製、製品名「ZEONEX 690R」、Tg:136℃、以下「COP3」と称する。)を用いるとともに、シリンダー温度を270℃から300℃に変更し、金型温度70℃から106℃に変更したこと以外は、製造例1と同様にして、96ウェルプレート(以下「P3」と称する。)を作製した。そして、製造例1と同様にして測定を行った。結果を表1に示す。
【0067】
(製造例4)
脂環構造含有重合体としてのCOP1に代えてノルボルネンとエチレンの付加共重合体(ポリプラスチックス社製、製品名「TOPAS(登録商標) 6013-M07」、Tg:142℃、以下「COC1」と称する。)を用いるとともに、シリンダー温度を270℃から300℃に変更し、金型温度70℃から112℃に変更したこと以外は、製造例1と同様にして、96ウェルプレート(以下「P4」と称する。)を作製した。そして、製造例1と同様にして測定を行った。結果を表1に示す。
【0068】
(製造例5)
脂環構造含有重合体としてCOP1に代えてノルボルネン系単量体の開環重合体水素化物(日本ゼオン社製、製品名「ZEONEX 790R」、Tg:163℃、以下「COP4」と称する。)を用いるとともに、シリンダー温度を270℃から320℃に変更し、金型温度70℃から125℃に変更したこと以外は、製造例1と同様にして、96ウェルプレート(以下「P5」と称する。)を作製した。そして、製造例1と同様にして測定を行った。結果を表1に示す。
【0069】
(製造例6)
脂環構造含有重合体としてCOP1に代えてCOP4を用いるとともに、シリンダー温度を270℃から330℃に変更し、金型温度70℃から125℃に変更したこと以外は、製造例1と同様にして、96ウェルプレート(以下「P6」と称する。)を作製した。そして、製造例1と同様にして測定を行った。結果を表2に示す。
【0070】
(製造例7)
脂環構造含有重合体としてCOP1に代えてCOP4を用いるとともに、シリンダー温度を270℃から335℃に変更し、金型温度70℃から125℃に変更したこと以外は、製造例1と同様にして、96ウェルプレート(以下「P7」と称する。)を作製した。そして、製造例1と同様にして測定を行った。結果を表2に示す。
【0071】
(製造例8)
脂環構造含有重合体としてCOP1に代えてCOP4を用いるとともに、シリンダー温度を270℃から340℃に変更し、金型温度70℃から125℃に変更したこと以外は、製造例1と同様にして、96ウェルプレート(以下「P8」と称する。)を作製した。そして、製造例1と同様にして測定を行った。結果を表2に示す。
【0072】
(製造例9)
脂環構造含有重合体としてCOP1に代えてCOC1を用いるとともに、シリンダー温度を270℃から330℃に変更し、金型温度70℃から112℃に変更したこと以外は、製造例1と同様にして、96ウェルプレート(以下「P9」と称する。)を作製した。そして、製造例1と同様にして測定を行った。結果を表2に示す。
【0073】
(製造例10)
市販のポリスチレン製96ウェルマイクロプレート(Greiner社製、品番「665185」、以下「P10」と称する。)を用いた。そして、製造例1と同様にして測定を行った。結果を表2に示す。
【0074】
(実施例1~6)
培養容器としてP1を用い、接着型細胞としてA549(実施例1)、MCF7(実施例2)、PANC-1(実施例3)、HEK293細胞(実施例4)、マウスシュワン細胞(実施例5)、心筋細胞(実施例6)をそれぞれ用いた。そして、細胞塊形成率の評価を行った。結果を表3に示す。
【0075】
(実施例7~12)
培養容器としてP2を用い、接着型細胞としてA549(実施例7)、MCF7(実施例8)、PANC-1(実施例9)、HEK293細胞(実施例10)、マウスシュワン細胞(実施例11)、心筋細胞(実施例12)をそれぞれ用いた。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表3に示す。
【0076】
(実施例13~18)
培養容器としてP3を用い、接着型細胞としてA549(実施例13)、MCF7(実施例14)、PANC-1(実施例15)、HEK293細胞(実施例16)、マウスシュワン細胞(実施例17)、心筋細胞(実施例18)をそれぞれ用いた。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表3に示す。
【0077】
(実施例19~24)
培養容器としてP4を用い、接着型細胞としてA549(実施例19)、MCF7(実施例20)、PANC-1(実施例21)、HEK293細胞(実施例22)、マウスシュワン細胞(実施例23)、心筋細胞(実施例24)をそれぞれ用いた。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表3に示す。
【0078】
(実施例25~30)
培養容器としてP5を用い、接着型細胞としてA549(実施例25)、MCF7(実施例26)、PANC-1(実施例27)、HEK293細胞(実施例28)、マウスシュワン細胞(実施例29)、心筋細胞(実施例30)をそれぞれ用いた。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表4に示す。
【0079】
(比較例1~6)
培養容器としてP6を用い、接着型細胞としてA549(比較例1)、MCF7(比較例2)、PANC-1(比較例3)、HEK293細胞(比較例4)、マウスシュワン細胞(比較例5)、心筋細胞(比較例6)をそれぞれ用いた。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表4に示す。
【0080】
(比較例7~12)
培養容器としてP7を用い、接着型細胞としてA549(比較例7)、MCF7(比較例8)、PANC-1(比較例9)、HEK293細胞(比較例10)、マウスシュワン細胞(比較例11)、心筋細胞(比較例12)をそれぞれ用いた。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表4に示す。
【0081】
(比較例13~18)
培養容器としてP8を用い、接着型細胞としてA549(比較例13)、MCF7(比較例14)、PANC-1(比較例15)、HEK293細胞(比較例16)、マウスシュワン細胞(比較例17)、心筋細胞(比較例18)をそれぞれ用いた。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表5に示す。
【0082】
(比較例19~24)
培養容器としてP9を用い、接着型細胞としてA549(比較例19)、MCF7(比較例20)、PANC-1(比較例21)、HEK293細胞(比較例22)、マウスシュワン細胞(比較例23)、心筋細胞(比較例24)をそれぞれ用いた。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表5に示す。
【0083】
(比較例25~30)
培養容器としてP10を用い、接着型細胞としてA549(比較例25)、MCF7(比較例26)、PANC-1(比較例27)、HEK293細胞(比較例28)、マウスシュワン細胞(比較例29)、心筋細胞(比較例30)をそれぞれ用いた。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表5に示す。
【0084】
なお、以下に示す表1~5中、
「シュワン」は、マウスシュワン細胞を示し、
「Tg」は、ガラス転移温度を示す。
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
【0087】
【表3】
【0088】
【表4】
【0089】
【表5】
【0090】
表1~5より、脂環構造含有重合体を含む重合体組成物を用いてなる培養面を備え、且つ、当該培養面における表面酸素量とπ-π遷移量の合計が1原子%未満である培養容器を用いた実施例1~30では、細胞塊形成率が十分に高いことが分かる。
一方、培養面における表面酸素量とπ-π遷移量の合計が1原子%以上である培養容器を用いた比較例1~30では、細胞塊形成率が低下していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明によれば、細胞塊形成率に優れる接着型細胞用培養容器、および当該培養容器を用いた接着型細胞の培養方法を提供することができる。