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特開2024-140781セメント組成物、地盤改良材、及び硫化水素の発生抑制方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140781
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】セメント組成物、地盤改良材、及び硫化水素の発生抑制方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20241003BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20241003BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20241003BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B22/14 A
C04B18/14 A
C09K3/00 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052112
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100226023
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 崇仁
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 玲
(72)【発明者】
【氏名】境 徹浩
(72)【発明者】
【氏名】野田 謙二
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112MB11
4G112PA29
(57)【要約】
【課題】
六価クロムの溶出量を維持又は改善しつつ、HSの発生量を低減したセメント組成物を提供すること。
【解決手段】
硫黄化合物を含有する還元材を含むセメント組成物であって、還元材中の硫黄含有量が前記セメント組成物の総量に対して0.2~0.5質量%である、セメント組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄化合物を含有する還元材を含むセメント組成物であって、
前記還元材中の硫黄含有量が前記セメント組成物の総量に対して0.2~0.5質量%である、セメント組成物。
【請求項2】
硫黄化合物を含有する還元材と、スラグとを含むセメント組成物であって、
前記セメント組成物の総量に対して、前記還元材中の硫黄含有量が0.1~0.5質量%であり、前記スラグの含有量が10~35質量%である、セメント組成物。
【請求項3】
前記硫黄化合物が、硫化カルシウム、多硫化カルシウム、硫化マグネシウム、硫化バリウム、及びチオ硫酸塩からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1又は2に記載のセメント組成物。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のセメント組成物を含む、地盤改良材。
【請求項5】
セメント組成物からの硫化水素の発生を抑制する方法であって、
セメントと、硫黄化合物を含有する還元材と、任意成分としてスラグとを混合する工程を含み、
前記セメント組成物が以下の(1)及び(2)の少なくとも一方の条件を満たす、方法。
(1)前記還元材中の硫黄含有量が前記セメント組成物の総量に対して0.2~0.5質量%である。
(2)前記セメント組成物の総量に対して、前記還元材中の硫黄含有量が0.1~0.5質量%であり、スラグの含有量が10~35質量%である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はセメント組成物、地盤改良材、及び硫化水素の発生抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントクリンカーは、石灰石、粘土、硅石、酸化鉄等を主原料として製造される。セメントクリンカーの製造には、これらの主原料のほか、各種産業副産物や産業廃棄物が原燃料として有効利用されている。このため、原材料の選択によっては、セメントクリンカー中に、各種原燃料に由来するカドミウム、クロム、鉛、モリブデン等の重金属類が少量混入することがある。そこで、各種還元材を用いて、セメントクリンカーに由来する重金属イオンを還元し、その溶出量を低減する技術が知られている(特許文献1~4)。
【0003】
例えば、特許文献1では、軟弱地盤を固化処理する場合の固化材として、硫酸第一鉄と亜硫酸塩を混合して用いることによって、六価クロムを三価クロムに還元し、六価クロムの溶出を抑制する技術が提案されている。特許文献2では、特定のpH及び酸化還元電位を有し、MgOを所定量含有する地盤改良材を用いて、六価クロムの溶出を抑制する技術が提案されている。特許文献3及び4には、硫化カルシウムを含有する重金属固定化剤を用いて重金属の溶出を抑制する技術が提案されている。
【0004】
硫化カルシウムは空気中の水分及び二酸化炭素等によって、その表面が分解して微量の硫化水素を発生する場合がある。これに対し、特許文献4では、硫化カルシウムに特定割合の硫酸カルシウムを加えることで硫化水素(HS)の発生を低減する技術が提案されている。また、特許文献5では、硫化カルシウムに特定割合の亜硫酸カルシウム及び/又は炭酸カルシウムを加えることで同様に硫化水素の発生を抑制する技術について開示がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-201406号公報
【特許文献2】特開2017-155141号公報
【特許文献3】特開2006-102643号公報
【特許文献4】特開2005-306911号公報
【特許文献5】特開2022-139820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、作業時の安全性確保等のため、HSの発生量を更に低減したセメント組成物が望まれている。
【0007】
本開示は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、六価クロムの溶出量を維持又は改善しつつ、HSの発生量を低減したセメント組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1]
硫黄化合物を含有する還元材を含むセメント組成物であって、
前記還元材中の硫黄含有量が前記セメント組成物の総量に対して0.2~0.5質量%である、セメント組成物。
[2]
硫黄化合物を含有する還元材と、スラグとを含むセメント組成物であって、
前記セメント組成物の総量に対して、前記還元材中の硫黄含有量が0.1~0.5質量%であり、前記スラグの含有量が10~35質量%である、セメント組成物。
[3]
前記硫黄化合物が、硫化カルシウム、多硫化カルシウム、硫化マグネシウム、硫化バリウム、及びチオ硫酸塩からなる群から選択される少なくとも1つである、[1]又は[2]のセメント組成物。
[4]
[1]~[3]のいずれか一つのセメント組成物を含む、地盤改良材。
[5]
セメント組成物からの硫化水素の発生を抑制する方法であって、
セメントと、硫黄化合物を含有する還元材と、任意成分としてスラグとを混合する工程を含み、
前記セメント組成物が以下の(1)及び(2)の少なくとも一方の条件を満たす、方法。
(1)前記還元材中の硫黄含有量が前記セメント組成物の総量に対して0.2~0.5質量%である。
(2)前記セメント組成物の総量に対して、前記還元材中の硫黄含有量が0.1~0.5質量%であり、スラグの含有量が10~35質量%である。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、六価クロムの溶出量を維持又は改善しつつ、HSの発生量を低減したセメント組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示のセメント組成物は、以下の(1)及び(2)の条件の少なくとも一方を満たす。(1)硫黄化合物を含有する還元材を含むセメント組成物であって、還元材中の硫黄含有量がセメント組成物の総量に対して0.2~0.5質量%である、セメント組成物。
(2)硫黄化合物を含有する還元材と、スラグとを含むセメント組成物の総量に対して、還元材中の硫黄含有量が0.1~0.5質量%であり、スラグの含有量が10~35質量%である。
【0011】
還元材に含まれる硫黄化合物としては、硫化カルシウム、多硫化カルシウム、硫化マグネシウム、硫化バリウム、及びチオ硫酸塩からなる群から選択される少なくとも1つであってよい。硫黄化合物は、硫化カルシウムを含んでいてよい。
【0012】
還元材における硫化カルシウムの含有量は、還元作用を十分に高くして六価クロム等の溶出を十分に抑制する観点から、15~50質量%であってよく、20~40質量%であってよく、25~35質量%であってよい。硫化カルシウムの含有量は、例えば、XRD-リートベルト法によって求めることができる。
【0013】
上記(1)について、還元材中の硫黄含有量がセメント組成物の総量に対して0.15~0.45質量%であってよく、0.2~0.4質量%であってよく、0.2~0.35質量%であってよく、0.2~0.3質量%であってよい。上記(2)について、還元材中の硫黄含有量がセメント組成物の総量に対して0.15~0.45質量%であってよく、0.1~0.4質量%であってよく、0.1~0.35質量%であってよく、0.1~0.3質量%であってよい。
【0014】
セメント組成物における還元材の含有量は、0.1~1.8質量%であってよく、0.2~1.5質量%であってよい。
【0015】
還元材は、石膏の炭素還元物を含有する硫化カルシウム含有物を含んでよい。石膏の炭素還元物は硫化カルシウムを含む。石膏の炭素還元物を含有する硫化カルシウム含有物は、石膏を含有する石膏源と炭素源とを含む組成物を加熱して得られる加熱処理物であってよい。石膏源は特に限定されず、火力発電所から副生する排脱二水石膏、天然二水石膏、天然無水石膏、及び廃石膏ボード等が挙げられる。これらのうち、廃棄物利用の観点から廃石膏ボードが好適に使用される。炭素源としては、紙、廃プラスチック、炭素繊維、バイオマス、木炭、石炭、石炭ガス化スラグ(石炭ガス化コーススラグなど)、石油等の炭素を含有するものが挙げられる。上記組成物を、大気中、又は、大気よりも酸素濃度が低い還元雰囲気下、500~1500℃の温度範囲で加熱して、石膏の炭素還元物を含有する硫化カルシウム含有物を得てもよい。還元材を製造する際の原材料における炭素原子とCaSOのモル比は、2~3であってよい。同様に、還元材が硫化マグネシウム含有物を含む場合、原料として石膏に代えて硫酸マグネシウム、マグネシウム等のマグネシウム源を使用してよく、還元材が硫化バリウム含有物を含む場合、原料として石膏に代えて硫酸バリウム等のバリウム源を使用してよい。石膏、マグネシウム源、バリウム源当の原料は、所望の還元材の組成に応じて1種又は複数種を使用してよい。
【0016】
還元材は、更に、亜硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、酸化カルシウム、硫黄、二酸化ケイ素等の成分を含んでいてもよい。これらの成分は1種又は2種以上を併用することができる。
【0017】
セメント組成物は、還元材以外に、例えば、セメント及び石膏を含んでいてもよい。
【0018】
石膏は、二水石膏、半水石膏及び無水石膏のいずれであってもよい。セメント組成物の強度発現性の観点から二水石膏又は無水石膏を含んでいてよい。例えば、セメント組成物を得る際には、二水石膏と無水石膏を混合した石膏を使用してもよい。地盤改良土等として使用した際の強度発現性の観点から、セメント組成物における石膏の無水物換算の含有量は、例えば、1~25質量%であってよく、3~20質量%であってよく、4~15質量%であってよく、5~12質量%であってよい。
【0019】
セメントは、JIS R5210:2003「ポルトランドセメント」に規定の各種ポルトランドセメントであってよい。これらの中でも、入手のしやすさ、及び短期材齢の圧縮強さを高くする観点から、普通ポルトランドセメント又は早強ポルトランドセメントであってよい。セメント中の全クロム量は、入手の容易性の観点から、例えば、30~250mg/kgであってよく、50~200mg/kgであってもよい。セメントの水溶性六価クロム量も、同様の観点から、例えば、3~40mg/kgであってよく、4~30mg/kgであってもよい。なお、セメントの全クロム量はJIS R5202:2010に記載の方法に準拠して測定され、水溶性六価クロム量はセメント協会標準試験方法I-51-1981に記載の方法に準拠して測定される。
【0020】
セメント組成物におけるセメントの含有量は、例えば、50~98質量%であってよく、70~95質量%であってよく、75~90質量%であってよい。セメントの含有量が50質量%以上であると地盤改良土等に使用した際の強度が発現しやすい傾向にある。一方、セメントの含有量が98質量%以下であるとセメントの六価クロムの含有量次第で、得られるモルタル、コンクリート及び地盤改良土からの六価クロムの溶出量を低減できる傾向にある。
【0021】
セメントの代替としてセメントクリンカーを使用することもできる。セメントクリンカーを使用する場合は、適度な粉末度に調整した上で使用することが好ましい。
【0022】
セメント組成物はスラグを含んでいてよい。スラグとしては、高炉スラグ粉末、製鋼スラグ、銅スラグ等が挙げられる。セメント組成物は、1種又は2種以上のスラグを含んでいてよい。上記(2)の場合、スラグの含油量は、セメント組成物の総量に対して10~30質量%であってよく、10~25質量%であってよく、11~20質量%であってよい。また、スラグのブレーン比表面積は、3500~5000cm/gであってよく、塩基度は1.60~2.00であってよく、ガラス化率は98%以上であってよい。なお、スラグに含まれる硫化物由来の硫黄含有量は、六価クロムの還元効果の観点から高いほど好ましく、上限は、例えば1.10%であってよい。
【0023】
上記(1)の場合、セメント組成物におけるスラグの含有量は、セメント組成物の総量に対して5質量%以下であってよく、1質量%以下であってよく、0.1質量%以下であってよい。上記(1)の場合、セメント組成物は、実質的にスラグを含まなくてもよい。
【0024】
セメント組成物は、スラグ及びセメント以外の成分として、石灰石、シリカフューム、フライアッシュ 、バイオマス灰等を更に含んでいてよい。
【0025】
セメント組成物の粉末度は特に限定されず、ブレーン比表面積が例えば1000~6000cm/gであってよく、2000~5500cm/gであってよく、3000~5000cm/gであってよく、4000~4500cm/gであってもよい。このような範囲であれば、得られるモルタル、コンクリート及び地盤改良土の強度を維持しながら六価クロムの溶出量を抑制することができる。このブレーン比表面積は、JIS R5201:2015「セメントの物理試験方法」に準拠して測定することができる。
【0026】
セメント組成物の製造方法は特に限定されず、所定の粉末度に調整された原料を混合して製造してもよいし、原料を混合粉砕して製造してもよい。
【0027】
本実施形態のセメント組成物からの硫化水素の発生を抑制する方法は、セメントと、硫黄化合物を含有する還元材と、任意成分としてスラグとを混合する工程を含み、前記セメント組成物が以下の(1)及び(2)の少なくとも一方の条件を満たすものである。
(1)還元材中の硫黄含有量がセメント組成物の総量に対して0.2~0.5質量%である。
(2)セメント組成物の総量に対して、還元材中の硫黄含有量が0.1~0.5質量%であり、スラグの含有量が10~35質量%である。
【0028】
本実施形態のセメント組成物は、地盤改良材として使用できる。すなわち、本実施形態の地盤改良材は、上述のセメント組成物を含んでいてよい。
【0029】
本実施形態の地盤改良土は、上述の地盤改良材と改良対象土とを含む。このような地盤改良土は、上述の地盤改良材と改良対象土とを混合することによって得られる。改良対象土1mに対する、地盤改良材の含有量は、例えば、20~500kgであってよく、50~450kgであってよく、50~400kgであってよく、100~350kgであってもよい。
【0030】
改良対象土は、特に限定されず、六価クロムの溶出抑制が比較的難しい火山灰質粘性土(例えば、関東ローム)であってもよい。本実施形態に係る地盤改良材を用いれば、地盤改良土の圧縮強さを高く維持しつつ地盤改良土からの六価クロムの溶出を十分に抑制することができる。
【0031】
以上、本開示の実施形態を説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されるものではない。例えば、還元材の用途は、地盤改良材用、又はセメント組成物用に限定されるものではなく、焼却灰あるいは建設発生土等に配合してもよい。
【実施例0032】
以下、実施例及び比較例を挙げて本開示の内容を詳細に説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0033】
[還元材の製造]
石膏として廃石膏ボードの粉砕物(二水石膏含有量94質量%、紙を含む)と炭素源(石炭ガス化コーススラグ、UBE株式会社製)とを[C]/[CaSO]=2.4の割合(モル比)で混合した原料を、ハイスピードミキサー(株式会社アーステクニカ製 FS100)で転動造粒して粒径5mmの略球状の造粒原料を得た。得られた造粒原料を100kg/hの投入速度でロータリーキルン(全長約3m、回転数0.5min-1)でキルン内温度を変更しながら焼成し還元材を得た。還元材中の硫化カルシウム量は30.6%であった。硫化カルシウムの定量はX線回折装置(ブルカー・エイエックス株式会社製、加速電圧:30kV、電流10mA、管球:Cu)を用いて測定したデータをXRD-リートベルト法で定量した。リートベルト解析には解析ソフトウェア(ブルカー・エイエックス株式会社製、Topas)を用いた。
【0034】
[地盤改良材(固化材)の調製]
以下の原材料を準備した。
・セメント:早強ポルトランドセメント(全クロム量:85mg/kg、水溶性六価クロム量:9.9mg/kg)
・無水石膏:天然無水石膏
・スラグ:ケイメント(神鋼スラグ製品株式会社製)
・上記で作製した還元材
以上の原材料を、以下の表1に示す配合割合で混合し、各実施例及び比較例の地盤改良材を調製した。
【0035】
【表1】
【0036】
[地盤改良土の調製と評価]
改良対象土:関東ローム
改良対象土(関東ローム)に対して、地盤改良材の配合量が改良対象土1mあたり300kg/mとなるように地盤改良材を配合し、ホバートミキサーで混合した。合計3分間、混合を行い、途中の1分30秒経過時点でパドル及びボールへ付着した土の掻き落としを行った。混合完了後、直径50mm×高さ100mmの円柱型枠にランマーを用いて三層詰めした後、20℃で材齢7日及び材齢28日まで密封養生した。
【0037】
[六価クロムの溶出量の評価]
上記材齢の各地盤改良土について、環境庁告示46号(平成3年8月23日)に則って溶出試験を行い、六価クロムの溶出量を測定した。六価クロムの溶出量は、振とう後のろ液中の六価クロム濃度を、JIS K0102;2016の65.2.1のジフェニルカルバジド吸光光度法で定量することにより求めた。定量測定の操作のうち、硫酸(1+9)3mLを加えた後、ジフェニルカルバジド溶液(10g/L)1mLを加えるまでの間隔は20秒以内とした。
【0038】
[硫化水素ガスの発生量の評価]
上記で作製した供試体のうち、材齢7日で脱型した供試体を固液比1:10となるように供試体を蒸留水中に浸漬させ、28日間養生した。28日経過後に供試体を取り出して溶液をろ過し、ろ液のヨウ素消費量を測定した。
硫化水素測定について一般的にはガス状態となったものを検知管等に直接吸引するガス測定を行うが、溶液中に溶出したものについて特にアルカリ性の場合、硫化水素イオンとして存在するためガス化せず直接のガス濃度測定は容易でないため、その代用として下水道法施行令第9条1項4号に規定されている下水道中に硫化物量を表すヨウ素消費量にて求めた。ヨウ素消費量は、昭和三十七年厚生省・建設省令第一号 「下水の水質の検定方法等に関する省令」第七条による検定により求められたものであり、その方法としては同省令別表第二に掲げる方法を用いた。試験結果を以下の表2に示す。
【0039】
【表2】
【0040】
(結果の概要)
<CaSのみを含む系>
CaSに含まれる硫黄の含有量がセメント組成物の総量に対して0.2~0.5質量%の範囲内にある実施例2及び実施例4では、六価クロムの溶出量が0.02mg/Lを下回り、HSの発生量も少なかった。一方で、CaSに含まれる硫黄の含有量がセメント組成物の総量に対して0.2質量%を下回る比較例2では、材齢28日で六価クロムの溶出量が高く、CaSに含まれる硫黄の含有量がセメント組成物の総量に対して0.5質量%を上回る比較例3では、材齢28日でHSの発生量が大きかった。
【0041】
<CaS及びスラグの両方を含む系>
セメント組成物の総量に対して、CaSに含まれる硫黄の含有量が0.2~0.5質量%の範囲内にあり、且つスラグの含有量が10~35質量%の範囲内にある実施例1、3、及び5~7では、六価クロムの溶出量が0.02mg/Lを下回り、HSの発生量も少なかった。一方、CaSを含まない比較例1では六価クロムの溶出量が0.02mg/L以上と高かった。また、セメント組成物の総量に対してスラグの含有量が10質量%を下回る比較例4及び5では、材齢7日で六価クロムの溶出量が0.02mg/Lを超えており、六価クロムの溶出抑制が不十分であった。このことから、特に材齢28日の実験結果について、スラグの含有量とCaSに含まれる硫黄の含有量との相乗効果が見られる。