(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140816
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】石炭の流動性向上用改質剤の選定方法、石炭の流動性向上用改質剤、石炭の改質方法、及びコークスの製造方法
(51)【国際特許分類】
C10B 57/06 20060101AFI20241003BHJP
C10B 57/08 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C10B57/06
C10B57/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052160
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】坪内 直人
(72)【発明者】
【氏名】篠原 祐治
(72)【発明者】
【氏名】松井 貴
(72)【発明者】
【氏名】野間 洋人
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼嶋 孝徳
【テーマコード(参考)】
4H012
【Fターム(参考)】
4H012PA00
4H012QA02
(57)【要約】
【課題】石炭の流動性を向上させる改質剤を幅広い化合物の中から簡単に選定するための選定方法の提供、前記選定方法による石炭の流動性向上用改質剤及びその利用方法の提供。
【解決手段】溶解度パラメータ値δ(SP値)、及び沸点又は分解開始温度のいずれか低い方の温度Tが、予め定められたそれぞれの閾値の範囲を同時に満たす化合物を、前記石炭の流動性を向上させる改質剤として選定することを特徴とする、石炭の流動性向上用改質剤の選定方法、前記選定方法を用いて選定された改質剤、並びに前記改質剤を用いた石炭の改質方法及びコークスの製造方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶解度パラメータ値δ、及び沸点又は分解開始温度のいずれか低い方の温度Tが、予め定められたそれぞれの閾値の範囲を同時に満たす化合物を、石炭の流動性を向上させる改質剤として選定することを特徴とする、石炭の流動性向上用改質剤の選定方法。
【請求項2】
前記溶解度パラメータ値δ、及び圧力1013hPa下での沸点又は分解開始温度のいずれか低い方の温度Tが、それぞれ次式
15.0≧δ≧11.0((cal/cm3)1/2)
T≧350(℃)
を同時に満たす化合物を前記改質剤として選定する、請求項1に記載の選定方法。
【請求項3】
溶解度パラメータ値δ、及び圧力1013hPa下での沸点又は分解開始温度のいずれか低い方の温度Tが、それぞれ次式
15.0≧δ≧11.0((cal/cm3)1/2)
T≧350(℃)
を同時に満たす化合物を含むことを特徴とする、石炭の流動性向上用改質剤。
【請求項4】
石炭に請求項3に記載の改質剤を混合して得られる混合物を350℃以上に加熱することを特徴とする、石炭の改質方法。
【請求項5】
前記混合物を、高炉用コークスの原料として用いる、請求項4に記載の改質方法。
【請求項6】
前記改質剤がナイロン66である、請求項4または5に記載の改質方法。
【請求項7】
石炭と請求項3に記載の改質剤との混合物を乾留してコークスを製造することを特徴とする、コークスの製造方法。
【請求項8】
前記混合物が、前記石炭100質量%に対して前記改質剤30質量%以下を含有する、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記改質剤がナイロン66である、請求項7または8に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コークス製造に使用する石炭(非微粘結炭を含む)の軟化溶融特性(以下、「流動性」とも称する)を向上させる、石炭の流動性向上用改質剤の選定方法、前記選定方法で選定した改質剤、前記改質剤を用いる石炭の改質方法及びコークスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製錬原料として鉄鉱石と共に高炉に装入されるコークスは、高強度であることが求められている。高強度のコークスを製造するためには、コークス原料として、粘結性が高い石炭を使用することが望ましい。しかし、粘結性が高い石炭のみが採掘されることはなく、粘結性が低い石炭も採掘される。そのため、性質の異なる複数の種類(銘柄)の石炭を配合して配合炭を作製し、その配合炭をコークス原料とすることが一般的に行われている。
【0003】
粘結性が高い石炭(「良質粘結炭」又は「強粘結炭」とも称する)は、産出量が不足しており、一般に価格が高い。一方、粘結性が低い石炭は、産出量が多く、比較的安価である。そのため、コークス原料には粘結性が低い石炭である、いわゆる「非微粘結炭」を使用することが、良質粘結炭の不足分を補い、原料コストを抑える点で有効である。コークス原料として使用できるように非微粘結炭の粘結性を高めるためには、安価で効率的な改質剤及び改質工程が必要であった。
【0004】
ここで、石炭の粘結性とは、石炭が乾留される際に融けて固まる性質を指し、コークスを製造するうえで不可欠な性質である。粘結性は、石炭が軟化溶融した際の特性(すなわち、流動性)によって決まる為、ある銘柄の石炭についてコークス用原料としての適性を評価する場合、その石炭の流動性に関する値(測定値や推定値)を指標にすることが重要となる。
【0005】
上述するように、高炉などに用いられるコークスを製造する際には、通常、複数の銘柄の石炭を混合した配合炭が用いられており、その配合炭を原料として製造されるコークスの強度を推定する様々な方法が検討されてきた。中でも、「基質強度と流動性を指標としたコークスの強度推定法」が、一般的に採用されている。この方法は、石炭の性状のうち、ビトリニット平均最大反射率(Ro)と、ギーセラープラストメーターの最高流動度(MF)との2つの指標をパラメータとして用い、配合炭を原料としたコークスの強度を推定する方法である。
【0006】
具体的には、石炭を乾留してコークスを製造する際の因子として、石炭の石炭化度を示すビトリニット平均最大反射率(Ro)と、石炭の粘結性(特に流動性)を示す最高流動度(MF)との2つの特性を組み合わせ、この組み合わせに基づいて、製造されるコークスの強度を推定する。つまり、製造されるコークスの強度を確保するために、配合炭のビトリニット平均最大反射率(Ro)及び最高流動度(MF)が所定の範囲になるように原料炭を配合するという方法である。なお、石炭の流動性を示す最高流動度(MF)は、試験方法の特性から試験用攪拌棒の回転数(ddpm)またはその常用対数値(logMF=log[ddpm])で表されている。ここで、「ddpm」は、Dial Division per Minuteの略であり、その測定方法はJIS M8801:2008に規定されている。
【0007】
配合炭は、配合炭の最高流動度の対数値(logMF)、つまり、混合する各原料炭の最高流動度の対数値(logMF)の加重平均値が、1.0~4.0の範囲内、好ましくは2.0~3.5の範囲内になるように、各種石炭が配合されている場合が一般的である(非特許文献1)。ただし、使用する配合炭にとって最適な最高流動度の対数値(logMF)の範囲は、使用するコークス炉の特性やコークス製造条件などに応じて異なるため、上記の範囲を外れることもある。
【0008】
よって、高強度のコークスを製造するためには、石炭の流動性が非常に重要な要因であり、数種の銘柄を組み合わせて、配合炭の最高流動度(MF)を適正化する作業が必要となる。配合炭の流動性が不足していると、製造されるコークスの強度が低下する(非特許文献1)。
【0009】
上述したようにコークス製造用の良質粘結炭は不足傾向にあり、非微粘結炭を良質粘結炭と同等または類似の特性に改質する技術や、非微粘結炭を使用して強度の高いコークスを製造する技術の開発が進められている。
【0010】
例えば、特許文献1では、環境面への配慮から廃プラスチックの再利用及び再資源化のため、コークス炉内に廃プラスチックを添加して処理することやその処理によりコークスの強度が向上することが記載されている。
【0011】
特許文献2には、配合炭の一部又は全部を、250~350℃の温度範囲になるように、40~1000℃/minの昇温速度で加熱した後、加熱処理終了温度から少なくとも100℃まで10℃/min以上の平均冷却速度で冷却し(以下、急速加熱処理と記載する)、その配合炭中に廃プラスチックを添加することで、必要な強度を有するコークスを製造する方法が記載されている。
【0012】
また、特許文献3には、タール重質留分を原料炭に添加して混合し、このタール重質留分が混合された原料炭を乾留して、高強度のコークスを製造する方法が提案されている。
【0013】
特許文献4には、粘結性の低い石炭の改質及び利用方法として、非微粘結炭を良質粘結炭と比べてより細かく粉砕・乾燥し、タール、重質油、ピッチ類などのバインダーと混練して擬似粒子化する、原料炭の事前処理方法が提案されている。特許文献5には、非粘結炭を非水素供与性溶剤と混合してスラリーとし、該スラリーを300~420℃に加熱して溶剤抽出を行い、加熱後のスラリーを液部と非液部とに分離後、液部から溶剤を分離して抽出炭を得るとともに、非液部から非抽出炭を得て、軟化流動性に優れた前記抽出炭を前記非抽出炭と適宜配合することでコークス用原料とする、非粘結炭の改質方法が提案されている。また、特許文献6及び特許文献7には、多量の酸素原子を含む低品位炭を重質油類とともに所定温度で加熱し、低品位炭の表面に重質油類の分解生成物を付着させ、処理過程で水を多量に発生させることなく、効率良く低品位炭を人造粘結炭に改質する方法が記載されている。また、特許文献8には、フェノチアジンやカルバゾールなどの芳香族環を有する1級もしくは2級のアミン系化合物を添加して石炭を改質する方法が記載されている。さらに、特許文献9には、熱硬化性組成物を石炭に混合して成型コークスを得る技術が記載されている。また、特許文献10には、選定対象となる材料の分子構造を基に、分子軌道法を用いた計算から、分子表面積、分子体積、分極率を算出し、特定の閾値以上の値を持つ化合物を改質剤として選定する方法が記載されている。
【0014】
なお、コークス製造業界において、良質粘結炭と非微粘結炭との境界は明確には定義付けられていない。しかしながら、上述のように、高炉などに用いられるコークスを製造する際には、最高流動度の対数値(logMF)が1.0~4.0の範囲内になるように石炭を配合する場合が多いことを考慮すると、最高流動度の対数値(logMF)が1.0以下の範囲に該当する石炭は、それ単独では高炉などに用いられるコークスとしては不向きな低品位な石炭であるといえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開昭48-34901号公報
【特許文献2】特開2016-210866号公報
【特許文献3】特開平11-43675号公報
【特許文献4】特開平10-183136号公報
【特許文献5】特開2006-70182号公報
【特許文献6】特開2009-13222号公報
【特許文献7】特開2009-13221号公報
【特許文献8】特開2014-43545号公報
【特許文献9】特開2016-56335号公報
【特許文献10】特開2022-032852号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】宮津隆ら、日本鋼管技報、67(1975)、p.125
【非特許文献2】野村誠治ら、日本エネルギー学会誌、81(2002)、p.728
【非特許文献3】真田雄三、燃料協会誌、57(1978)、1、p.5
【非特許文献4】James E.Mark、Physical Properties of Polymers Handbook 2nd ed.、Springer、(2006)、p.292-293
【非特許文献5】社団法人 日本化学会、第5版実験化学講座4―基礎編IV 有機・高分子・生化学―、(2003)、p.31
【非特許文献6】宮川亜夫ら、燃料協会誌、54(1975)、p.983
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
低品位炭を改質し、改質した低品位炭を原料炭の一部または全部として高炉などに用いられるコークスを製造する場合、生産性向上の観点から、低品位炭の改質工程とコークス製造工程とを同時に行うことが望ましい。また、石炭の改質剤として、石炭と同様な固体状物質、望ましくは粉体を、石炭に配合または投入する方法が簡便である。
【0018】
一方、より価格が安い改質剤の利用の観点からは、コークス炉に高分子化合物である廃プラスチックを添加して低品位炭を改質処理する技術が考えられる。これにより、前述した低品位炭の改質工程とコークス製造工程とを安価に且つ同時に行うことが可能となる。しかし、固体状物質の改質剤は、これまで経験的に選定する方法が主流であり、特定の物性条件を考慮して選択する方法が少なかった。所定の物性条件を考慮して改質剤を選択することが可能となれば、添加工程において必要な添加条件を満たす改質剤を短時間で選定でき、コスト面や製造時間で有利となる。
【0019】
上述した観点から上記従来技術を検証すると、特許文献1には、揮発時に固定炭素が残るプラスチックを添加剤として選定し、その選定方法により選定されたポリ塩化ビニルやベークライトを石炭に添加し乾留すると、得られるコークスの強度が増加することが記載されている。しかし、非特許文献2では、ポリ塩化ビニルの添加で石炭の流動性が低下することが報告されており、コークス強度が増加することは考えにくい。また特許文献9では、特許文献1に開示されたベークライト(フェノール樹脂)を固体状態のまま石炭に添加することではコークス強度が上がらず、液体から固化させる添加方法によりコークス強度が向上することが記載されている。すなわち、特許文献1に記載の選定方法では、コークス強度を増加させる添加剤を選定することは不可能である。また、石炭に各種プラスチックを添加し流動性の影響を検討した非特許文献2においても、プラスチックの石炭への添加による石炭の流動性向上効果は発現しないことが報告されている。
【0020】
特許文献2は、急速加熱処理を施した石炭に廃プラスチックを添加することで、必要な強度を有するコークスを製造する方法が記載されている。非特許文献2に報告されているように、プラスチックの石炭への添加はコークスの強度を低下させる。特許文献2は、そのようなプラスチックの添加に起因するコークス強度の低下分を、予め急速加熱処理により石炭の流動性を高めることで補償したコークス製造方法である。そのため、プラスチックの添加に起因するコークス強度の増加とは言えない。
【0021】
特許文献3では、タール重質留分を原料炭に添加して混合し、このタール重質留分が混合された原料炭を乾留する。単純な工程ではあるものの、液体のタールを改質剤として使用することから、専用の混合容器を用いた混合工程が必要である。特許文献4、5、6、7、9は、コークスを製造する前段階で石炭に処理を行う必要性がある。特許文献8は、固体状物質を石炭に配合する技術であるが、改質剤を大量に使用するためには、その製造(合成)を行う必要性があり、その費用も高く、産業上の実用化には多くの課題が残されたままである。さらに、特許文献3~9の改質剤は経験的に選定された物であり、物性条件に基づく選定方法の記載は無く、化合物限定された記載である。このように、上記従来技術には、改善すべき点が多くあった。
【0022】
特許文献10の手法は、計算により特定の物性値を算出し選定に用いることから精度が高く、短時間で行える利点がある。また、分子量が正確に特定できる化合物には、高精度な選定結果が期待できる。一方、分子量が極めて大きく、一般的に平均分子量等を用いて表される化合物を計算する場合、例えば、高分子化合物の中から改質剤を選定する場合には、計算に採用する分子構造のモデルの違いによって、計算から求めた物性値が閾値を超える可能性もあり、高精度な評価結果を得ることには限界があった。
【0023】
本発明は、上述する事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、高強度のコークスを製造するために必要な石炭の特性である流動性を向上させることのできる改質剤を、簡単な方法で幅広い化合物の中から選定する選定方法及びその改質剤を提供することである。さらに、その改質剤を用いて石炭を改質する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、コークス原料となる石炭または配合炭に添加し、石炭の流動性を向上させるための改質剤を選定するための特定の物性条件及びその特定の物性条件を有する改質剤を見出し、以下の本発明の完成に至った。上記課題を解決するための本発明の要旨は以下のとおりである。
【0025】
[1]溶解度パラメータ値δ、及び沸点又は分解開始温度のいずれか低い方の温度Tが、予め定められたそれぞれの閾値の範囲を同時に満たす化合物を、石炭の流動性を向上させる改質剤として選定することを特徴とする、石炭の流動性向上用改質剤の選定方法。
【0026】
[2]前記溶解度パラメータ値δ、及び圧力1013hPa下での沸点又は分解開始温度のいずれか低い方の温度Tが、それぞれ次式
15.0≧δ≧11.0((cal/cm3)1/2)
T≧350(℃)
を同時に満たす化合物を前記改質剤として選定する、[1]に記載の選定方法。
【0027】
[3]溶解度パラメータ値δ、及び圧力1013hPa下での沸点又は分解開始温度のいずれか低い方の温度Tが、それぞれ次式
15.0≧δ≧11.0((cal/cm3)1/2)
T≧350(℃)
を同時に満たす化合物を含むことを特徴とする、石炭の流動性向上用改質剤。
【0028】
[4]石炭に[3]に記載の改質剤を混合して得られる混合物を350℃以上に加熱することを特徴とする、石炭の改質方法。
【0029】
[5]前記混合物を、高炉用コークスの原料として用いる、[4]に記載の改質方法。
【0030】
[6]前記改質剤がナイロン66である、[4]または[5]に記載の改質方法。
【0031】
[7]石炭と[3]に記載の改質剤との混合物を乾留してコークスを製造することを特徴とする、コークスの製造方法。
【0032】
[8]前記混合物が、前記石炭100質量%に対して前記改質剤30質量%以下を含有する、[7]に記載の製造方法。
【0033】
[9]前記改質剤がナイロン66である、[7]または[8]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、化合物の溶解度パラメータ値δと、沸点又は分解開始温度のいずれか低い方の温度Tとを指標に、極めて簡単な方法で石炭の流動性を向上させる改質剤を、低分子量から高分子量まで、幅広い分子量の化合物内から選定することが可能である。また、コークス用原料として用いる石炭を、入手時と比べて高い最高流動度(MF)を有する石炭へ改質することができる。さらに、コークス炉でコークスを製造する際に、同時に石炭を改質することが可能であり、従来技術と比較して、簡単、かつ、効率的に石炭の改質を実現できる。この改質により、最高流動度(MF)の高い石炭を確保しているのと同様の効果が生じ、高強度コークスの製造に必要な複数銘柄の配合設計の自由度を高められる。また、流動性の乏しい低品位な石炭を用いても、従来、高品位の石炭を使用して製造されていたコークスと同等品質のコークスを製造することができ、コークスの製造コストの削減を達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】改質剤MA-2の添加量と最高流動度の対数値(logMF)との関係を示すグラフである。
【
図2】改質剤MA-2の添加量と円柱形コークスの間接引張強度との関係を示すグラフである。
【
図3】改質剤MA-2を添加した又は添加しなかったコークスの断面顕微鏡写真である。
【
図4】改質剤MA-2を添加した石炭を乾留して得られたコークスの強度(DI
150
15)を示すグラフである
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0037】
本発明者らは、高強度のコークスを得る上で必要となる、石炭の流動性を向上させること、つまりギーセラープラストメーターの最高流動度(MF)を高めることを目的として、種々の固体を石炭に添加して石炭を改質する改質剤の選定方法及び改質方法を検討した。なお、前述のように、ギーセラープラストメーターの最高流動度(MF)は、コークスの品質に影響を及ぼす石炭の重要特性の評価指標の一つとして、一般に採用されている。
【0038】
[改質剤の選定方法]
本発明の石炭の流動性向上用改質剤の選定方法は、溶解度パラメータ値δ(SP値)、及び沸点又は分解開始温度のいずれか低い方の温度Tが、予め定められたそれぞれの閾値の範囲を同時に満たす化合物を、石炭の流動性を向上させる改質剤として選定することを特徴とする。
【0039】
本発明の選定方法が、改質剤として使用できる化合物を、溶解度パラメータ値δ(SP値)、及び沸点又は分解開始温度のいずれか低い方の温度Tに基づいて選定できる理由は、以下のように推察される。
【0040】
改質剤として使用できる化合物は、溶融すると石炭構成分子内に入り込み、石炭構成分子間の結合距離を広げる効果があると推察される。そのため、改質剤と石炭が軟化溶融する際に、それらの親和性が大きくなるほど、改質剤分子が石炭構成分子内に入り込みやすくなり、より均質に混合すると考えられる。この親和性を判断する指標として溶解度パラメータ値δ(SP値)を用い、石炭と改質剤のそれぞれの溶解度パラメータ値δ(SP値)が近い値となるような改質剤を選定することが、本発明の特徴である。実際、実用的な石炭の溶解度パラメータ値δ(SP値)は、Van Krevelenの計算式により、11.0(cal/cm3)1/2以上、15.0(cal/cm3)1/2以下である(非特許文献3)。この範囲内に溶解度パラメータ値δ(SP値)が存在する化合物であれば、石炭との親和性が大きく、均質に混合できる改質剤として選定できると考えられる。
【0041】
一方、コークスを製造する際の乾留温度は、一般に1000~1300℃と高温であるが、前記改質剤による石炭の流動性改善効果は、350℃以上550℃以下の温度範囲で発現する。そのため、改質剤として使用できる化合物は、大気圧1013hPaにおいて、少なくとも350℃以上の沸点又は分解開始温度を持つ必要性がある。仮に、改質剤の沸点又は分解開始温度が350℃よりも小さい場合、それら化合物は、蒸発または分解に伴う低分子化が起こるため、石炭構成分子内に入り込むことが出来ないか、入り込むことが出来たとしても、石炭構成分子間の結合距離を広げる効果が極端に失われることが考えられる。なお、化合物の沸点と分解開始温度の両方が定まる場合は、いずれか低い方の温度をTとし、その温度Tが350℃以上であればよい。化合物の沸点または分解開始温度のいずれかが定められない場合は、定まる方の温度を温度Tとすればよい。
【0042】
以上のような視点に立って、溶解度パラメータ値δ(SP値)、及び沸点又は分解開始温度Tの値に着目して、改質剤の選定を行った結果、以下の条件を満たす化合物が石炭の流動性の改質に有効であることを見出した。以下のような特性を有する化合物が石炭の改質作用を有していることは、従来は知られておらず、本発明はこのような化合物の新たな選定方法及び改質剤を提供する。
【0043】
<沸点>
本発明における沸点の測定方法の一例としては、沸点測定装置を用いて光学的に気泡を検出し、沸点を測定する方法が挙げられる。本装置による一般的な沸点の測定手順を以下に示す。沸点(液体から気体への相転移が発生する温度)を測定するには、測定をしたい化合物を約100μL量り取り、ガラス管に封入する。次に、測定物の過剰加熱による測定誤差を防ぐため、一回り小さいキャピラリをその測定物が入ったガラス管内に挿入後、そのガラス管を当該測定装置内に設置し測定を行う。当該測定装置において、そのガラス管が加熱され、温度上昇と共に気泡の発生が観察されるようになる。発生した気泡は、当該測定器の内蔵光源の光を反射して、気泡の発生頻度として計測され、気泡発生時の温度を沸点と定義する。なお、高沸点化合物においては、当該測定器内の気圧を低くして測定することも一般的であり、その場合は測定装置に内蔵された気圧計で気圧を測定し、大気圧下(1013hPa)に換算された値に変換し、沸点を算出する。なお、本発明においては、前記測定方法に限定されず、示差分析測定法、示差走査熱量分析法、Siwoloboff法、蒸留法、ダイナミック法(還流冷却器を用いて再凝縮温度を測定する方法)等のいかなる公知の沸点に関する測定方法を用いて、測定してもよい。また、公知の文献等に記載されている大気圧下(1013hPa)の沸点を用いてもよく、大気圧とは異なる気圧下の沸点が知られている場合には、大気圧下(1013hPa)の沸点に換算して用いてもよい。そのための換算方法は特定の方法に限定されないが、本発明においては、非特許文献5に記載されている沸点換算図を用いて、大気圧下(1013hPa)の沸点に換算した。
【0044】
<分解開始温度>
本発明の選定方法において、改質剤候補として高分子材料等を用いる場合には、前記沸点の測定方法を用いても明確に沸点を測定できない場合がある。その場合には、沸点の代わりに分解開始温度を測定し、その温度を用いればよい。本発明における分解開始温度の測定方法の一例としては、熱分解ガスクロマトグラフ/質量分析法(Pyro-GC-MS)を用いた測定方法が挙げられる。この測定方法では、熱分解装置とガスクロマトグラフ(GC)及び質量分析装置(MS)から構成される測定装置を用い、熱分解装置で高分子材料を昇温しながら小さな分子に分解し、分解されたさまざまな種類の小分子をGCでカラム分離し、分離された各成分をMSで検出して、温度上昇に伴う分解物の特定を行う。また、本発明における分解開始温度の測定には、上述した方法に限定されず、発生ガス分析法(EGA-MS)や、示差熱-熱重量同時測定装置(TG-DTA)を用いた測定方法等、いかなる公知の分解開始温度に関する測定方法を用いて、分解開始温度を測定してもよい。なお、昇温開始後、初期に発生する気体については、高分子材料合成時に付着した溶媒分子や重合開始剤等の不純物であるため、本発明においては、熱天秤で昇温速度3~10℃/分で常温から800℃まで加熱した時の全重量減少量の10%となる重量減少が観測されたときの温度を、分解開始温度と定義する。
【0045】
<溶解度パラメータ値>
溶解度パラメータ値δ(SP値)は、ヒルデブラント(Hildebrand)によって導入された正則溶液論により定義された値であり、溶媒や溶質の凝集エネルギー密度の平方根で示され、2成分系溶液の溶解度の目安となる。溶解度パラメータ値δ(SP値)を求める方法としては、蒸発熱から計算する方法、化学組成から計算する方法、溶解度パラメータ値δ(SP値)が既知の物質との相溶性から実測する方法などが挙げられるが、本発明では、化学組成から計算する方法の一例である、非特許文献4に記載のグループ寄与法による計算方法により計算した値が好適に使用できる。当該計算においては、Van Krevelenのパラメータを用い、一部Van Krevelenのパラメータが得られない場合にはSmallのパラメータを用いて算出する。計算に必要な密度は公知の方法で測定した値や文献値を用いることができる。なお、本発明における数値範囲の上限値及び下限値は、本発明が特定する数値範囲から僅かに外れる場合であっても、当該数値範囲内と同様の作用効果を備えている限り、本発明の均等範囲に含まれる。
【0046】
改質剤として選定する化合物の溶解度パラメータ値δ(SP値)は、例えば非特許文献3に記載のVan Krevelenの石炭の溶解度パラメータ値δ(SP値)を考慮に入れると、11.0(cal/cm3)1/2以上15.0(cal/cm3)1/2以下が好ましい。粘性・流動性向上の観点からは、11.2(cal/cm3)1/2以上15.0(cal/cm3)1/2以下がより好ましく、11.3(cal/cm3)1/2以上15.0(cal/cm3)1/2以下がさらに好ましい。溶解度パラメータ値δ(SP値)が11.0(cal/cm3)1/2未満、又は、15.0(cal/cm3)1/2より大きい場合は、石炭と化合物との親和性が小さく、石炭構成分子内部に化合物分子が入り込むことが不可能となり、十分な添加効果が得られない。
【0047】
<改質剤>
本発明の上記パラメータを満たす改質剤となりうる高分子化合物の一例としては、グループ寄与法による計算式(非特許文献4)を用いて算出した溶解度パラメータ値δ(SP値)が、11.0~15.0(cal/cm3)1/2の範囲内にあり、分解開始温度が、350(℃,1013hPa)以上を示す、ポリアミド樹脂が挙げられる。なお、ポリアミド樹脂とは、アミド結合によって多数のモノマーが結合してできた樹脂を指し、一般に脂肪族骨格を含むポリアミドをナイロンと総称し、また、芳香族骨格のみで構成されるポリアミドは、アラミドと総称される。中でも、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン46、ナイロン6/66、ナイロン6/66/12、ナイロン6/66/610、ナイロンMXD6、ナイロン6T、ナイロン6/6T、ナイロン6I、ナイロン9Tなどは、流動性向上効果が高く改質剤として好ましい。なお、溶解度パラメータ値δ(SP値)及び分解開始温度が、本発明が特定する数値範囲にあれば、ここに挙げたポリアミド樹脂に限定されず、いかなる公知の化合物を用いてもよい。
【0048】
本発明の上記パラメータを満たす改質剤となりうる高分子化合物の別の例としては、グループ寄与法による計算式(非特許文献4)を用いて算出した溶解度パラメータ値δ(SP値)が、12.39(cal/cm3)1/2であり、分解開始温度が、400(℃,1013hPa)を示す、ポリアセタール樹脂(ポリオキシメチレン樹脂)が挙げられる。ポリアセタール樹脂とは、CH2O(オキシメチレン又はホルムアルデヒド)を単位構造(モノマー)とした重合体(ポリマー)である。中でも、ホルムアルデヒドのみのホモポリマーや、CH2CH2O(オキシエチレン)がモノマーとして10モル%ほど加わった、(CH2O)と(CH2CH2O)が一定比で共重合したコポリマー共重合体などが挙げられる。なお、溶解度パラメータ値δ(SP値)及び分解開始温度が、本発明が特定する数値範囲にあれば、ここに挙げたポリアセタール樹脂に限定されず、いかなる公知の化合物を用いてもよい。
【0049】
本発明の上記パラメータを満たす改質剤となりうる低分子化合物の構造の一例としては、グループ寄与法による計算式(非特許文献4)を用いて算出した溶解度パラメータ値δ(SP値)が、11.0~15.0(cal/cm3)1/2の範囲内にあり、沸点が、350(℃,1013hPa)以上を示す、1級もしくは2級のアミン系化合物誘導体、フェノチアジン誘導体、カルバゾール誘導体、インドール誘導体、イミダゾール誘導体、ピラゾール誘導体等の複素環化合物、アニリン誘導体、ヒドラゾン誘導体、芳香族アミン誘導体、アリールアミン誘導体及びこれらの化合物の複数種が結合したもの、またはこれらの化合物からなる基を主鎖もしくは側鎖に有する重合体等が挙げられる。特に、4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、N,N’-ジフェニル-1,4-フェニレンジアミン、N,N’,N’’-トリフェニル-1,3,5-ベンゼントリアミン、N,N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジ-2-ナフチル-1,4-フェニレンジアミン(略称:DNPD)、N-フェニル-1-ナフチルアミン(略称:NPN)などの芳香族アミン骨格を有する化合物は、流動性向上効果が高く、改質剤として好ましい。フェノチアジン、カルバゾールなども好ましい。なお、溶解度パラメータ値δ(SP値)及び沸点が、本発明で特定する数値範囲にあれば、ここに挙げたものに限定されず、いかなる公知の低分子化合物を用いてもよい。
【0050】
一般に、高炉などに用いられるコークスの原料として供される石炭は、加熱すると350℃付近から軟化溶融を開始し、その軟化溶融温度域は350℃以上550℃以下の範囲と言われている。よって、ポリアミド樹脂の中でも、比較的融点が高い樹脂の場合、石炭の軟化溶融時に、石炭中に融解することが可能であると考えられる。
【0051】
また、ポリアミド樹脂であるナイロン66、ナイロン6、ナイロン6Tなどは、その優れた機械特性、耐熱性、耐薬品性などの特長を生かし、様々な用途分野に使用されており、廃プラスチックとしても回収されている。そのため、そのような産業廃棄物や一般廃棄物として大量に排出される廃棄ポリアミド樹脂を再生して用いてもよい。
【0052】
[石炭の改質方法・コークスの製造方法]
以下、本発明に係る前記改質剤の添加による石炭の改質方法(流動性の改善方法)及びコークスの製造方法の実施形態の一例を説明する。
【0053】
流動性改善(改質)対象の石炭を、粒径5.0mm以下(目開き寸法5.0mmの篩いを通過した篩下)に粉砕し、好ましくは粒径5.0mm以下で、さらにそのうちの少なくとも70質量%以上が粒径3.0mm以下(目開き寸法3.0mmの篩いを通過した篩下)となるように粉砕し、この粉砕した石炭に前記改質剤の粉末(粒状の形態も含む)を混合する。その際、複数の前記改質剤を添加してもよい。
【0054】
この石炭と前記改質剤の粉末との混合物を、350℃以上の温度で乾留する。高炉などに用いられるコークス用石炭は、350℃以上に加熱されると流動現象が発現し、この流動性が、前記改質剤の添加によって向上する。
【0055】
前記改質剤を固体状物質、例えば粉末として添加する場合は、その粒径は特に規定されるものではないが、効率的に改質したい場合には、その粒径は小さい方が好ましく、例えば10mm以下が好ましく、3mm以下がより好ましい。
【0056】
更に、複数の銘柄の石炭を混合した配合炭をコークス炉に装入してコークスを製造する際に、1種以上のある銘柄の石炭に前記改質剤の1種もしくは2種以上の粉末を添加後混合し、この前記改質剤と石炭との混合物を、配合炭を構成する石炭としてコークスの製造に用いてもよい。前記改質剤の粉末と石炭から成る混合物は、コークス炉における乾留時、加熱され昇熱する際に前記改質剤によって流動性が改善され、他の銘柄の石炭と反応してコークスが製造される。
【0057】
コークスを製造する際の乾留温度は、一般的に1000~1300℃と高温であるが、前記改質剤による流動性改善効果は350℃以上550℃以下の温度範囲で発現するものであり、コークス製造のための乾留時の昇熱過程において、石炭は十分に改質される。石炭をコークスに乾留しないで前記改質剤による石炭の流動性向上のみの評価を目的とする場合には、乾留温度は350~550℃で十分である。また、この場合の乾留時間は、石炭の種類などによっても左右されるため、予め流動性を改善しようとする石炭を少量用い、評価試験を行うことで適宜決定することができる。
【0058】
また、前記改質剤の効果を阻害しない範囲で、他の化合物を前記改質剤に混合したものを流動性改質剤として使用してもよく、更に、種類の異なる2種以上の前記改質剤を混合して使用してもよい。
【0059】
前記他の化合物としては、例えば、産業廃棄物や一般廃棄物として、大量に排出されるプラスチックまたは予備プラスチックを含有する廃棄物であってもよい。その場合、廃プラスチックに含有されるプラスチックは、特に限定されるものでないが、ポリエチレンテレフタレート(PET)や、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)等のプラスチックが例示される。
【0060】
本発明に係る石炭の改質方法において、改質の対象となる石炭は、限定されず、例えば、強粘結炭、非微粘結炭などの高炉などに用いられるコークスの原料として供される石炭の全てを対象とすることができる。なお、本発明では、最高流動度(MF)が小さい値を有する非微粘結炭を単独で、または数種類の非微粘結炭が配合された配合炭を対象とすることが現実的である。
【0061】
前記改質剤の改質対象の石炭に対する配合量は、少量でも効果を発揮するため下限値を設ける必要はない。ただし、添加量が多いと改質効果も大きくなる傾向があるため、添加量は、改質対象の石炭100質量%に対して、0.01質量%以上が好ましい。また、30質量%を超える量ではコスト的に高くなるため、0.01~30質量%が好ましく、より好ましくは0.2~30質量%である。種類の異なる2種以上の前記改質剤を混合して使用する場合には、それらの合計量が上記範囲にあればよい。
【0062】
上述のように、前記改質剤は粉末状にして添加してもよいが、添加する際の形態は特に制限されない。例えば、前記改質剤を粒子状に成形した状態で添加してもよく、溶剤などに溶解して溶液として添加してもよく、スラリー状で添加してもよい。
【0063】
以上、本発明によれば、前記改質剤を石炭に添加するという簡単な方法で、コークス用原料として用いる石炭の流動性を、入手時とは異なる流動性、つまり入手時に比べて最高流動度(MF)の大きな値を有する石炭に改質することが実現できる。さらに、コークス炉でコークスを製造する際に、その製造と同時に改質することも可能であり、従来に比較して簡単、かつ、効率的に石炭の流動性を向上させ、高強度のコークスを製造することが実現される。
【実施例0064】
以下で、実施例に基づいて本発明を更に具体的に説明する。
【0065】
以下の表1に、本発明に好適な改質剤の例であるMA-1~MA-8、17、18及び対照例の改質剤MA-9~MA-16の化合物名、ならびグループ寄与法(非特許文献4)を用いて算出したそれぞれの溶解度パラメータ値δ(SP値)と、公知の文献等により記載されているそれぞれの沸点又は分解開始温度のいずれか低い方の温度Tを示す。以下の化合物は本発明をより具体的にするために例示するものであり、本発明の概念を逸脱しない限りは表1に示す化合物に限定されるものではなく、本発明の趣旨に反しない限りはいかなる公知の化合物を用いてもよい。
【0066】
【0067】
以下の実施例に示すとおり、表1記載の化合物を石炭に添加した場合のギーセラー流動性の向上効果を測定したところ、所定の溶解度パラメータ値δ(SP値)及び沸点又は分解開始温度のいずれか低い方の温度Tの範囲を同時に満たす化合物が石炭を改質する効果を有することを確認することができた。
【0068】
[実施例1]
改質剤MA-1(N,N’-ジフェニル-1,4-フェニレンジアミン)を添加して、石炭の流動性を改質した例を説明する。なお、改質剤MA-1は、グループ寄与法を用いて算出した溶解度パラメータ値δ(SP値)と、実験により測定された沸点又は分解開始温度のいずれか低い方の温度Tが、15.0(cal/cm3)1/2≧δ≧11.0(cal/cm3)1/2及びT≧350(℃,1013hPa)を同時に満たす化合物である。
【0069】
改質剤MA-1の石炭への添加による流動性向上効果(改質効果)は、以下の手順により確認した。先ず、JIS M8801に従って、粒径425μm以下に粉砕した石炭と市販のMA-1の粉末(以降、ポリマーについては、450μm以下に凍結粉砕した粉末)を混合し、石炭とMA-1との混合試料を作製した。このとき、石炭に対するMA-1粉末の混合量は、石炭100質量%に対するMA-1の質量比が10質量%となるように調製した。
【0070】
この混合粉末を、JIS M8801のギーセラープラストメーター法で定められた所定の容器内に装入し、この容器を、JIS M8801に基づいて300℃に予熱した炉内に装入し、3℃/minで550℃まで加熱することによって、混合粉末を石炭の軟化溶融温度域に昇温した。この混合試料に対して、JIS M8801に準拠して石炭の最高流動度(MF)の測定を行った。
【0071】
併せてMA-1を混合しない原炭(本願実施例では複数の銘柄を混合しない1銘柄の石炭単独、すなわち、単味炭を使用した)での最高流動度(MF)の測定も行った。改質試験に供した石炭の最高流動度の対数値(logMF)を表2に示す。表2において、「原炭の最高流動度の対数値(logMF)」として示すように、改質試験に供した石炭の最高流動度の対数値(logMF)は最高でも1.26であり、いずれの原炭も、このままでは高強度コークスの製造が不可能な低い流動度を有する低品位な石炭であった。
【0072】
[実施例2~10]
改質剤MA-1を、グループ寄与法を用いて算出した溶解度パラメータ値δ(SP値)と、実験により測定された沸点又は分解開始温度のいずれか低い方の温度Tが、15.0(cal/cm3)1/2≧δ≧11.0(cal/cm3)1/2及びT≧350(℃,1013hPa)を同時に満たす、表1に示す改質剤MA-2~MA-8、17、18に変更した以外は、実施例1と同様に最高流動度(MF)の測定を行った。
【0073】
[比較例1~8]
比較例として、MA-1の代わりに、グループ寄与法を用いて算出したそれぞれの溶解度パラメータ値δ(SP値)が、δ>15.0(cal/cm3)1/2又は、11.0(cal/cm3)1/2>δを満たすMA-9~MA-16を、石炭100質量%に対して10質量%となるように石炭に添加し、これらの混合試料についても、JIS M8801に準拠した石炭の最高流動度(MF)の測定を行った。
【0074】
また、併せて実施例1と同様に改質剤を混合しない原炭での最高流動度(MF)の測定も行った。測定結果を表2に、「原炭の最高流動度の対数値(logMF)」と共に示す。改質前後の最高流動度の対数値の差(ΔlogMF)の値が、正数の場合は「効果あり」、0の場合は「効果なし」、それ以外は「悪化作用」と標記する。また、改質後の最高流動度の結果が「測定不能」は、流動性を全く示さなかった(MF=0ddpm)、すなわち、流動性が失われたことを意味する。
【0075】
【0076】
表2に示すように、実施例1~10のMA-1~MA-8、17、18を石炭に添加することで、いずれにおいても流動性が向上し、最高流動度の対数値(logMF)が上昇することがわかった。このことは、原料石炭の最高流動度の対数値(logMF)の大小に拘らず、MA-1~MA-8、17、18は最高流動度の対数値(logMF)の向上に有効であることを示している。すなわち、最高流動度の対数値(logMF)の向上は、改質剤の添加により石炭が溶融しやすくなったことを示しており、コークス化性が向上していると言える。
【0077】
これに対して、比較例1~8のMA-9~MA-16の改質剤では、石炭の流動性の変化は無いか、又は、逆に悪化作用をもたらす結果となった。
【0078】
以上の結果から、グループ寄与法を用いて算出した溶解度パラメータ値δ(SP値)と、実験により測定された沸点又は分解開始温度のいずれか低い方の温度Tが、15.0≧δ≧11.0((cal/cm3)1/2)及びT≧350(℃)を同時に満たす改質剤は、石炭の最高流動度の対数値(logMF)の向上をもたらす効果があることがわかった。なお、表2に示す原炭の最高流動度の対数値(logMF)0.48~1.26よりも高いlogMFを有する石炭においても、この改質効果は確認された。従って、本発明の改質剤及び改質方法はどのような石炭に対しても有効であると言えるが、流動性の低い石炭を改質するという意味からは、logMFが2.3以下程度の石炭に改質剤を添加することが特に有効である。
【0079】
[実施例11:改質剤の添加量と石炭の流動性向上効果]
グループ寄与法を用いて算出した溶解度パラメータ値δ(SP値)と、実験により測定された沸点又は分解開始温度のいずれか低い方の温度Tが、15.0(cal/cm3)1/2≧δ≧11.0(cal/cm3)1/2及びT≧350(℃,1013hPa)を同時に満たす改質剤MA-2(ナイロン66)においてその添加量を変えて最高流動度(logMF)を測定した例と、コークス強度を測定した例(実施例12~13)を説明する。改質試験には、最高流動度(logMF)が0.3以下と低く、単独では高強度なコークスを製造することが困難な石炭を使用した。
【0080】
MA-2の添加による石炭の流動性向上効果については、以下の手順で確認した。先ず、JIS M8801に従って粒径425μm以下に粉砕した石炭とMA-2を混合し、石炭とMA-2との混合試料を作製した。このとき、石炭に対するMA-2の粉末の混合量は、石炭100質量%に対するMA-2の質量比が0(添加無)、0.2、1、5、10、20又は30質量%となるように調製した。石炭には、MFが2ddpm(logMF=0.3)の石炭Aと、MFが0ddpmの石炭Bを使用した。
【0081】
この混合粉末を、JIS M8801のギーセラープラストメーター法で定められた所定の容器内に装入し、この混合粉末を装入した容器を、JIS M8801に基づいて300℃に予熱した炉内に装入し、3℃/minで550℃まで加熱することによって、混合粉末を石炭の軟化溶融温度域に昇温した。この混合試料に対して、JIS M8801に準拠して石炭の最高流動度(MF)の測定を行った。また、併せてMA-2を混合しない原炭のみにおける最高流動度(MF)の測定も行った。
【0082】
図1に、MA-2の添加量と最高流動度の対数値(logMF)との関係を示す。
図1において、MFが0ddpmである場合、最高流動度の対数値(logMF)は図示できないため、便宜上、縦軸の0の位置をlog0とした。また、添加率が30質量%の測定においては、最高流動度(MF)の測定上限値である50000ddpmを超えたため、
図1に示すことができず、添加率が0~20質量%の範囲においてのみ、結果を図示した。なお、
図1において、MA-2の添加量が少ない範囲では、logMFが一定値として示されているが、これは、1ddpm単位で測定が行われるため、1ddpm未満の差を検出できないことに起因する。
【0083】
図1に示すように、石炭に対してMA-2を添加することにより、その添加量の増加とともに流動性も著しく向上することがわかった。
【0084】
このように、本発明を適用することで、石炭の流動性向上用の改質剤の選定が容易になること、また、実際に選定した改質剤を石炭に添加して加熱した場合、石炭の流動特性が向上することがわかった。つまり、本発明における改質剤の選定方法の有効性が確認できた。
【0085】
さらに、本発明を用いて選定した改質剤を使用し、コークスを作製後、その強度を簡易乾留試験(実施例12)、及び大型乾留試験(実施例13)を行うことで確認した。
【0086】
[実施例12:簡易乾留試験によるコークス強度の測定]
簡易乾留試験は、以下の手順で実施した。粒径500μm以下に粉砕した石炭とMA-2を混合し、石炭とMA-2との混合試料を作製した。このとき、石炭に対するMA-2の粉末の混合量は、石炭100質量%に対するMA-2の質量比が0(添加無)、0.2、1、5、10、20、30質量%となるように調製した。石炭には、
図1と同じ石炭Aと石炭Bを用いた。
【0087】
乾燥させた石炭とMA-2の混合物1.0g(以下、単位に-dryと表記する)を、直径10mmのモールド中に充填し、30MPaで1分間の圧力をかけ、円柱状の成型物を得た。その成型物をN2気流中、昇温速度3℃/minで900℃まで昇温後、そのまま30分間保持し円柱状のコークスを得た。得られた円柱状のコークスの強度は、非特許文献6を参考にして、側面から荷重をかけ、コークスが破断した際の圧力を間接引張強度として測定した。
【0088】
試験結果を表3及び
図2に示す。
図2は、MA-2の添加量とコークスの間接引張強度との関係を表す。
図2に示すように、間接引張強度は、石炭AとB共に、0.2質量%の添加から向上し、添加率が上がるとともに高くなることが分かった。
【0089】
【0090】
MA-2が石炭に対してどのような影響をもたらしているのかを確認するために、添加量0質量%と30質量%の条件で作製した円柱状のコークスについて、それらの断面顕微鏡観察を行った。その時の顕微鏡写真を、
図3に示す。石炭A、Bともに、添加量が0質量%のコークスでは、石炭粒子間の溶融が容易に進行しないため、大半の粒子が角張った形状を持つ石炭特有の形状であるのに対し、添加量30質量%のコークスでは、角張った形状を持つ粒子はほとんど観察されずに、大半の粒子において、粒子同士が相互に融着した構造が観察された。MA-2の石炭に対する添加量を考慮すると、MA-2が溶融後に石炭粒子間に留まることで石炭粒子同士を接着し固化したものと解釈するには、添加量が少な過ぎると考えられる。すなわち、石炭分子内にMA-2が浸透し、石炭が改質され、石炭自身の溶融性が向上したことにより、顕微鏡写真の状態が形成されたと考えられる。
【0091】
[実施例13:大型乾留試験によるコークス強度の測定]
大型乾留試験は、以下の手順で実施した。粒径3mm以下に粉砕した石炭A(logMF=0.3)とMA-2を混合し、石炭とMA-2との混合試料を作製した。このとき、石炭に対するMA-2の粉末の混合量は、石炭100質量%に対するMA-2の質量比が0(無添加)、2、5又は10質量%となるように調製した。石炭とMA-2の混合物12.2kg-dryをSUS容器内に750kg-dry/m3の密度となるよう充填し、1050℃で6h乾留後、窒素中で冷却して、コークスを製造した。得られたコークスの強度は、JIS K2151:2004に規定されている150回転15mm指数(DI150
15)により評価した。
【0092】
試験結果を
図4に示す。
図4は、MA-2の添加量とコークス強度(DI
150
15)との関係を示す。
図4に示すように、コークス強度は、MA-2の添加率の上昇とともに増加した。MA-2の分解開始温度は450℃であり、乾留時の処理温度1050℃においてそのほとんどが分解していると考えられるが、MA-2の添加によりコークス強度は上昇している。よって、この結果からも、MA-2の作用として、溶融して石炭粒子間に留まることで石炭粒子同士を接着しているのではなく、MA-2が石炭と反応して石炭を改質することで石炭の流動性が上がり、その結果、コークスの強度が向上したと考えられる。
【0093】
以上、本発明を適用することで、石炭の流動性向上用の改質剤の選定が容易になること、また、実際に選定した改質剤において石炭の流動特性の向上効果が発現することが確認できた。つまり、本発明における改質剤の選定方法の妥当性が確認できた。
本発明によれば、化合物の溶解度パラメータ値δ(SP値)、及び沸点又は分解開始温度のいずれか低い方の温度Tを指標として、石炭の流動性を向上させるための改質剤を、極めて簡単に選定することが出来る。さらに、選定された改質剤を石炭に添加するという簡単な方法で、コークス用原料として用いる石炭の流動性を、入手時とは異なる流動性、つまり入手時に比べて最高流動度の対数値(logMF)の高い特性を有する石炭に改質することが実現できる。さらに、コークス炉でコークスを製造する際に合わせて改質することも可能であり、従来に比較して簡単、かつ、効率的に石炭の流動性を向上させ、かつ、高強度のコークスを製造することが実現できる。