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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140869
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】容器詰非レトルト食品
(51)【国際特許分類】
   A23L 3/00 20060101AFI20241003BHJP
   A23L 3/349 20060101ALI20241003BHJP
   A23L 3/3526 20060101ALI20241003BHJP
   A23L 23/00 20160101ALI20241003BHJP
   A23L 3/3508 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
A23L3/00 101A
A23L3/349 501
A23L3/3526 501
A23L23/00
A23L3/3508
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052225
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】398012306
【氏名又は名称】株式会社日清製粉ウェルナ
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中井 朋恵
(72)【発明者】
【氏名】関口 伸美
(72)【発明者】
【氏名】徳田 慎也
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 純子
【テーマコード(参考)】
4B021
4B036
【Fターム(参考)】
4B021LA01
4B021LA33
4B021LW08
4B021MC01
4B021MK18
4B021MK20
4B021MK23
4B021MP01
4B036LC04
4B036LE02
4B036LE05
4B036LF03
4B036LG01
4B036LH05
4B036LH06
4B036LH07
4B036LH13
4B036LH14
4B036LH32
4B036LH39
4B036LK01
4B036LP01
4B036LP19
4B036LP22
(57)【要約】      (修正有)
【課題】風味が良好で、常温で長期保存可能な非レトルト食品を提供すること。
【解決手段】容器内のヘッドスペースが全体容量に対し20%未満となるように容器に食品が充填され、該食品が、水分活性が0.85以上0.94未満である、容器詰非レトルト食品。食品が、pH4.5以上5.7以下であることが好ましい。食品が、流動性食品であることも好ましい。食品が、静菌剤として有機酸またはその塩を含有することも好ましい。食品が、静菌剤として、アミノ酸及びエタノールから選択される一種以上を含むことも好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器内のヘッドスペースが全体容量に対し20%未満となるように容器に食品が充填され、該食品の水分活性が0.85以上0.94未満である、容器詰非レトルト食品。
【請求項2】
食品のpHが4.5以上5.7以下である、請求項1に記載の容器詰非レトルト食品。
【請求項3】
食品が、流動性食品である、請求項1または2に記載の容器詰非レトルト食品。
【請求項4】
食品が、静菌剤として有機酸またはその塩を含有する、請求項1又は2に記載の容器詰非レトルト食品。
【請求項5】
食品が、静菌剤として、アミノ酸及びエタノールから選択される一種以上を含む、請求項1又は2に記載の容器詰非レトルト食品。
【請求項6】
アミノ酸がグリシンである、請求項5に記載の容器詰非レトルト食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器詰非レトルト食品に関する。
【背景技術】
【0002】
食品分野においては従来、主に食品の安心・安全の観点から、食品の保存性を向上させることが要望されてきた。近年は、食品の消費期限徒過等による販売店舗での食品の廃棄が問題となっており、食品の廃棄ロスを低減する観点からも、食品の保存性を向上させることが要望されている。
【0003】
従来、容器詰食品については、保存性の向上の点から容器詰め後のレトルト殺菌を行うことが一般的であった(例えば特許文献1及び2)。これは、レトルト殺菌によれば、芽胞菌などの常温保存中に増殖する耐熱菌を比較的短時間で死滅させることができるためである。仮にレトルト殺菌を行わない場合はチルド保存する(例えば特許文献3)ことが提案されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平02-104264号公報
【特許文献2】特開2001-046034号公報
【特許文献3】特開平09-297424号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上の通り、容器詰食品の保存のためにはレトルト殺菌又はチルド保存が必要とされてきた。このため、レトルト殺菌を行わずに常温保存可能な容器詰食品はこれまでほとんど検討されてこなかった。
しかしながら、レトルト殺菌は高温高圧処理であり、当該処理により、食品の色や味、臭い等の好ましい特性を維持することが難しい場合がある。
【0006】
本発明の課題は、風味が良好で、常温で長期保存可能な非レトルト食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は鋭意検討した結果、容器におけるヘッドスペースを特定比率以下とし、且つ、食品の水分活性を特定範囲とするなどの条件を満たすことで、驚くべきことに、非レトルトであるにも関わらず、常温での長期保存を実現できることを見出した。
【0008】
本発明は容器内のヘッドスペースが全体容量に対し20%未満となるように容器に食品が充填され、該食品の水分活性が0.85以上0.94未満である、容器詰非レトルト食品を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、風味が良好で、常温で長期保存可能な非レトルト食品を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を説明する。本明細書において、容器詰非レトルト食品とは、レトルト処理が行われていない容器詰食品をいう。レトルト処理とは、耐熱性容器に充填及び密封された食品を、加熱及び加圧により殺菌する処理をいう。
【0011】
本発明では、容器内のヘッドスペースが全体容量に対し20%未満となるように容器に食品が充填されている。ここでいう全体容量とは、容器を密閉した状態での容器の全内容量である。このようにヘッドスペースの容量を小さくすることで、静菌効果を高め、常温での長期保存をしやすいものとなる。
【0012】
ここでいうヘッドスペースとは、容器内に形成される空間であり、容器内に形成された内部空間であっても上部空間であってもよい。例えば本発明で用いる容器がボトル容器であり、静置状態で上方に空間が生じる場合は、上部空間となる。或いは、本発明で用いる容器が可とう性を有するパウチ容器等である場合、ヘッドスペースが内部空間となる場合もありうる。
【0013】
本発明では、容器内のヘッドスペースが全体容量に対し20%未満であり、15%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。容器内のヘッドスペースの容量は、全体容量の3%以上であることが、容器詰非レトルト食品の製造容易性の点で好ましく、5%以上であってもよい。ヘッドスペースは窒素等のガスで置換されていても、置換されていなくてもよい。
【0014】
本発明の容器詰非レトルト食品における容器詰めされた食品は、固形食品であってもよく、液状、ペースト状等の流動性食品であってもよいが、流動性食品であることが、本発明の経済的効果に特に優れる点で好ましい。流動性食品であることは、25℃でB型粘度計にて、測定したときに、粘度が10000mPa・s以下であることで確認できる。粘度の測定は例えば、JIS Z 8803「液体の粘度-測定方法」に準拠して測定される。また、食品が固形具材等の固形部(常温常圧で流動性を有しない部分)を含む場合は、該食品から該固形部を除去して残った該残部の粘度が、前記特定範囲にあれば流動性とする。食品から固形部を除去する方法として、食品を目開き5mmの篩にかける篩分け法が挙げられる。この篩分けは常温で行えばよい。斯かる篩分け法では、目開き5mmの篩上に食品を直接配置した状態で5分間放置し、その放置後に自重で篩下になった画分を残部として粘度を測定する。なお、固形部としては、例えば後述するソース類の具材が挙げられ、具材としては肉類、魚介類、野菜類、キノコ類、香辛料などが挙げられる。
本発明の食品は、食品の全質量中、前記の残部が30質量%以上であることが、容器から容易に取り出せる流動性を持つ点で好ましく、40質量%以上であることがより好ましい。
【0015】
流動性食品の一例としては、ソース類、飲料、調味料、米飯類が挙げられる。ソース類としては、例えば、パスタソース、シチューソース、カレーソース、ディップソース、スープなどを挙げることができ、パスタソース、スープがより好ましく、特に好ましくはパスタソースである。パスタソースとしては、和風パスタソース、ボンゴレソース、野菜ソース、明太子パスタソース、カルボナーラソース、エビトマトクリームソース、醤油ソース等が挙げられる。スープとしては、コンソメ野菜スープ、コーンポタージュスープ、トマトスープ、トムヤンクンスープ等が挙げられる。調味料としては、ドレッシング、スプレッド、フィリング等のソース類以外の各種の液体若しくはペースト状の調味液が挙げられる。飲料としては、コーヒー飲料、茶飲料、ジュース等が挙げられる。米飯類としては、リゾット、雑炊、おかゆ等が挙げられる。本発明は中でも、材料にバリエーションがあり、幅広い風味が求められるために本発明の経済的な効果が高い点や保存性が高く調理の利便性に優れる点で、ソース類が好ましく、とりわけパスタソースが好ましい。
【0016】
本発明の食品は、水分活性が0.85以上0.94未満であり、好ましくは0.88以上0.93以下であり、更に好ましくは0.89以上0.93以下であり、最も好ましくは、0.90以上0.93以下である。食品の水分活性が0.85以上、特に0.88以上、とりわけ0.89以上であることで、水分活性を高めるために塩味や甘味等の調味料の味が強すぎたり、油性感が強すぎたりして食味が低下してしまうことを防止できる。水分活性が0.94未満であることで、常温において繁殖し得る細菌の静菌、特に芽胞菌の静菌が可能となる。
食品の水分活性は、1気圧、品温25℃とした時に、水分活性測定装置を用いて測定した値である。水分活性測定装置としてはメータージャパン社製AquaLab TDLを用いることができる。
【0017】
本発明の食品のpHは4.5以上5.7以下が好ましい。pHが4.5以上であることで食品の食味が向上する。また、pHが5.7以下であり、ヘッドスペースの体積や水分活性等と組み合わせることで、常温で繁殖する可能性のある耐熱菌を静菌でき、常温での静菌が可能となる。この観点からpHは4.6以上5.6以下がより好ましく、4.7以上5.5以下が特に好ましい。食品のpHは25℃にて測定できる。
【0018】
上記pHは、本発明の食品が固形状である場合、例えば、上記の5mmの篩分けを行ったときに残部がほとんど存在しない場合には、イオン交換水で5質量倍に希釈し、ストマッカー又はミキサーでペースト状にして測定する。なお、残部がほとんど存在しないとは、残部が食品全質量中5質量%以下である場合をいう。
【0019】
本発明の容器詰非レトルト食品において食品は、静菌剤を含有することが好ましい。ヘッドスペースが小さく、含気量が制限された環境下において、食品の水分活性値を特定値以下とした条件で静菌剤を用いると、芽胞菌などの常温下で繁殖し得る芽胞菌などの耐熱菌を更に効果的に静菌できる。
【0020】
常温下で繁殖し得る耐熱菌を静菌する点から、静菌剤として、有機酸又はその塩を用いることが好ましい。有機酸又はその塩としては、食用が可能な一価、二価又は三価以上のカルボン酸が挙げられ、酢酸、乳酸、フマル酸、クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸、アジピン酸、ソルビン酸等が挙げられる。有機酸塩としては、前記の各種有機酸のアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩を用いることが、静菌性の効果及び食味の点で好適である。アルカリ金属塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。アルカリ土類金属塩としてはカルシウム塩が好適に挙げられる。以下では、有機酸及び該有機酸の塩から選ばれる1種以上を「有機酸類」ともいう。有機酸類は1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。静菌性の高さの点で有機酸類としては、酢酸の塩を用いることが好ましく、酢酸のアルカリ金属塩が更に一層好ましく、酢酸ナトリウムが最も好ましい。
【0021】
本発明において、有機酸類を用いる場合、その含有量は、食品全質量に対し、0.3~1.5質量%であることが、静菌効果を高める点及び食品の食味を良好とする点で好ましく、0.5~1.3質量%であることがより好ましく、0.7~1.1質量%であることが特に好ましい。特に酢酸塩の含有量が上記範囲内であることが好ましい。
【0022】
本発明の容器詰非レトルト食品は、静菌剤として、アミノ酸及びエタノールから選ばれる1種以上を含有することも好ましい。アミノ酸は乳酸菌を除くグラム陽性菌やグラム陰性菌の静菌に効果的である。エタノールはカビ類、特にByssochlamys属、Hamigera属、Neosartorya属、Talaromyces属等の耐熱性のカビ類の静菌に効果的である。
この観点から、アミノ酸及びエタノールから選ばれる1種以上を含有することで幅広い菌種の静菌を図ることができ、特に、アミノ酸及びエタノールを組み合わせることが好ましく、とりわけ、アミノ酸、エタノール及び有機酸類を組み合わせることが最も好ましい。食品中の芽胞形成細菌を静菌する観点からアミノ酸としてはグリシンが好ましい。
【0023】
本発明において、静菌剤としてアミノ酸を用いる場合、その含有量は、食品全質量に対し、0.5~2質量%であることが、静菌効果を高める点及び食品の食味を良好とする点で好ましく、0.7~1.8質量%であることがより好ましく、0.9~1.6質量%であることが特に好ましい。
【0024】
本発明において、エタノールを用いる場合、その含有量は、食品全質量に対し、0.5~3.5質量%であることが、静菌効果を高める点及び食品の食味を良好とする点で好ましく、0.8~3.0質量%であることがより好ましく、1.0~2.5質量%であることが特に好ましい。
【0025】
容器詰非レトルト食品における容器は酸素バリア性を有する容器を用いることが好ましく、容器の30℃での平均酸素透過度が10cc/m2・day・atm以下であることが好ましい。容器は30℃での平均酸素透過度が5cc/m2・day・atm以下であることがより好ましく、3cc/m2・day・atm以下であることが更に好ましい。また、容器の30℃での平均酸素透過度は0.1cc/m2・day・atm以上であることが容器の厚みや硬さの点から好ましく、0.5cc/m2・day・atm以上であることがより好ましい。
【0026】
このような容器を構成し得る容器の材質としては、酸素バリア層を有するものが好ましい。酸素バリア層としては、酸素バリア性樹脂層であるエチレン-ビニルアルコール共重合体層(EVOH);アルミニウム箔などの金属箔;ナイロン、ポリエチレンテレフタラート(PET)、二軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPP)等の合成樹脂製基材フィルムにアルミニウムを蒸着したフィルム;ポリエチレンテレフタラート(PET)、二軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPP)等の合成樹脂製基材フィルムに酸化アルミニウムを蒸着したフィルム等が挙げられる。
【0027】
前記のバリア層は機械的強度や成形性、透明性、耐薬品性、耐ピンホール性、保香性等を得るために、種々の樹脂層と積層されていてもよい。積層フィルムとしては、例えば、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリ乳酸、ナイロン、塩化ビニリデン/塩化ビニル共重合体、塩化ビニリデン/メチルアクリレート共重合体、ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタラートやこれらの1又は2以上の複合体が挙げられる。中でも機械的強度や成形性、透明性、耐薬品性に優れることやコスト、環境負荷の点から、ポリオレフィン系樹脂と積層されているものが好ましい。ポリオレフィン系樹脂としては、低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、線状超低密度ポリエチレン(LVLDPE)等のポリエチレン(PE)や、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、ポリブテン-1、エチレン-ブテン-1共重合体、プロピレン-ブテン-1共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン-1共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、イオン架橋オレフィン共重合体(アイオノマー等が挙げられ、とりわけ、ポリエチレン(PE)であることが、加工性、耐薬品性、防水性、コストの点で好ましい。
【0028】
例えば、エチレン-ビニルアルコール共重合体層(EVOH)を中間層とし、ポリエチレン(PE)を内層及び外層とした積層体は、バリア性を持ったブロー成形ボトルに適し、容器詰流動性食品の保存性を高められる点で好ましい。
【0029】
エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)層を中間層とし、ポリエチレン(PE)を内層及び外層とした積層体の構成としては「外層(PE)/EVOH層/内層(PE)」として記載される。また、外層(PE)とEVOH層との間、EVOH層と内層(PE)との間にはそれぞれ種々の目的から任意の中間層を設けたものも挙げられる。そのような中間層としては、再生層が挙げられる。再生層とは、例えば再生材料を粉砕等してフィルム化して用いているものであり、再生材料としてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタラートを用いるものが挙げられる。再生層を用いた層構成としては、「外層(PE)/再生層/EVOH層/内層(PE)」「外層(PE)/EVOH層/再生層/内層(PE)」等が挙げられる。
【0030】
容器は、EVOH以外の層としてポリエチレンなどのポリオレフィン(及び必要に応じて再生層)を用いる場合、ポリエチレンなどのポリオレフィン(及び必要に応じて再生層)とEVOH層の厚さの比が100:1~10が好適であり、100:2~7がより好適である。ここでいう「ポリオレフィン(及び必要に応じて再生層)」の厚さは、ポリオレフィン層及び再生層の各層の合計の厚さをいい、2つ以上のポリオレフィン層(厚さA、厚さB)と1つの再生層(厚さC)が存在する場合、A+B+Cをいう。容器がポリオレフィンからなる外層と内層を有する場合、両者の厚さの比率は問わないが、容器内部に食品を充填する場合、バリア層であるEVOHが食品中の水分から受ける影響を低減させるため、ポリオレフィン層の厚さの比率は内層と外層が同じか、又は内層の方が外層に比して厚くなることが好ましい。
【0031】
容器は、「外層(PE)/(再生層/)EVOH層/内層(PE)」の層構成を用いている場合、各厚さの比は100(外層):(50~150(再生層):)1~20(EVOH層):50~150(内層)が例示される。ここで()は、カッコ内の構成を有する場合も有さない場合も含むことを意味する。容器が「外層(PE)/EVOH層/再生層/内層(PE)」の層構成を用いている場合も好ましい厚さ比率は上記と同様である。
各層の厚さは容器断面を光学顕微鏡で観察し各層の厚さを測定することにより確認できる。
【0032】
ここで、容器の平均酸素透過度の測定は、次の(1)~(4)の手順により行うことができる。
【0033】
(1)測定対象の容器に少量の水を注入し、常圧にして密封する。これにより容器内部の相対湿度は100%になる。蛍光エネルギーを発する酸素センサーを容器内に取り付け、非破壊酸素濃度計(例えば、PreSens 社製の非破壊酸素濃度計「FIBOX3 OXYGEN METER」)を用いて酸素センサーの蛍光エネルギーを測定することで間接的に酸素濃度を測定可能としておく。
【0034】
(2)(1)の容器内を窒素100%に置換し、温度30℃、相対湿度80%、容器外酸素濃度100%の条件下で所定の日数(例えば30日間以上)保存する。保存中、気体の分圧差により酸素は容器を透過する。
【0035】
(3)保存後、容器内の酸素センサーの蛍光エネルギーを測定することで、容器内の酸素濃度Cを測定する。
【0036】
(4)(3)で得られた酸素濃度C(%O2)、容器の容積V(cc)、容器内面の表面積A(m2)、保存期間T(day)および分圧差P(atm)から次式により平均酸素透過度Q(cc/m2・day・atm)を算出する。
Q=(C/100×V)/(A×T×P)
【0037】
容器を構成する包材の厚さは200~800μmであることが、静菌性の点や保形性、スクイーズ性の点から好ましく、300~700μmであることがより好ましい。ここでいう容器の厚さは容器が開口を有する本体と、本体の開口を閉塞する蓋体を有する場合は本体の厚さであり、本体の何れかの部分が上記厚さの範囲内であればよいが、当該厚さに該当する部分が容器表面の80%以上を占めることがより好ましい。容器の厚さはテスター産業社製 紙・フィルム用厚さ測定機(型番;TH-104)にて測定できる。
【0038】
食品はソース類である場合、静菌剤以外の成分として、水、牛乳、塩、砂糖、卵、生クリーム、トマトや玉ねぎなどの野菜類やエンドウなどの豆類のペースト、ピューレ状物、しょうゆ、酢、ブイヨン、コンソメなどの調味料類や、必要に応じて加配される酸味料、乳化剤、増粘剤、安定剤、着色料など、従来よりソース類のソース原材料として用いられているものを用いることができ、ソース類の種類に応じて適宜選択することができる。
【0039】
本発明の食品は水分量が30~90質量%の範囲内であることが好ましく、40~85質量%の範囲内であることがより好ましく、50~80質量%の範囲内であることが更に好ましい。このように水分を主体とするにも関わらず、上記構成により、本発明は容器詰非レトルト食品として用いることができる。
【0040】
以下、本発明の容器詰非レトルト食品の好適な製造方法について説明する。
まず、食品を加熱殺菌する。加熱殺菌は製造コストや食品の食味、静菌性の点から80~95℃が好適であり、85℃~90℃がより好適である。この加熱殺菌は、食品の製造過程中に行われてもよい。
次いで、得られた食品を容器に充填する。充填は食品が加熱状態で行うことが好ましく、充填直後の食品の温度が70~90℃となる条件で行うことが好ましく、75~85℃となる条件で行うことがより好ましい。
【0041】
次いで、充填後に容器の開口部をシールし、開口部の殺菌を行う。殺菌は任意の方法で行うことができ、例えばボイル殺菌の場合、70~90℃とすることが好ましく、75~85℃とすることがより好ましい。またボイル殺菌の場合の時間は5~30分が好ましく、10~20分がより好ましい。
【0042】
以上のようにして、本発明の容器詰非レトルト食品が好適に得られる。
本発明の容器詰非レトルト食品は、常温で保存、流通及び/又は販売されるものであり得る。一般に「常温」とは、15~35℃の範囲内をいい、本発明によれば25~35℃であっても長期保存が可能である。
【0043】
また、本明細書において、常温で長期保存可能であることは、常温で繁殖する可能性のある細菌の増殖を抑制できることにより確認できる。そのような細菌の例としてはBacillus属の細菌が挙げられる。Bacillus属細菌は、常温で流通及び販売される食品において制御対象となる主な細菌である。Bacillus属細菌の例としては、Bacillus shackletonii、Bacillus oleronius、Bacillus firmus、Bacillus cereus、Bacillus subtilis等が挙げられる。本明細書において、常温で長期保存可能であることは、Bacillus属の一種の細菌が本発明の容器詰非レトルト食品において常温で長期保存しても増殖が抑制されていることを確認できればよいが、複数種の細菌が本発明の容器詰非レトルト食品において常温で長期保存しても増殖が抑制されていることを確認できることが好適である。長期保存とは、例えば3か月以上の保存が可能なことを意味することが好ましく、6か月以上の保存が可能であることがより好ましい。
【実施例0044】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、各実施例・比較例において、容器に充填されたソースの水分量は50~80質量%の範囲内であった。
【0045】
(試験1)
<クリームソースの作成>
バター50gを鍋に入れて弱火で加熱し、バターが溶けたところで薄力小麦粉50gを加えてよく混合した。全体に泡立ちはじめたら牛乳950mLを加え、強火で素早く撹拌しながら加熱した。沸騰し始めたら中火で時々撹拌しながら10分間加熱した。塩で味を整え、ブラックペッパー(植物由来香味成分)粉末2.5gを加えた後、水を加えて全量を1000gとしてクリームソースを得た。B型粘度計として東京計器社製B型粘度計 (形式;BL)を用いて測定したところ、ソースの25℃の粘度は5000mPa・s以下であった。
【0046】
<ソースの調製>
上記で作成したクリームソース(以下、「ソース」とも記載。)に酢酸Naを表1又は表2に示す量で添加し、よく撹拌し溶解させた。これにそれぞれ水分活性0.84~0.96となるようグリセリン(富士フィルム和光純薬)を添加し、よく撹拌した。また、1N-HClを添加し、pH5.4に調整した。水分活性測定には市販の水分活性測定装置(メータージャパン社製、AquaLab TDL)、pH測定には市販のpHメーター(東亜ディーケーケー社製、TOAHM-30G)を使用した。これを121℃で15分間滅菌処理し、微生物の接種試験に用いた。なお表1及び2において、グリセリンの量はソースの量に含めた、
【0047】
<供試菌>
非レトルト食品では殺菌できず、常温保存中に増殖する可能性が考えられる以下のBacillus属細菌の芽胞を試験に供した。
・Bacillus subtilis
・Bacillus cereus
・Bacillus oleronius
【0048】
<芽胞液の調製>
マイクロバンクで保存した菌を標準寒天培地にそれぞれ画線し、35℃で24時間培養した。培養した標準寒天培地から単一コロニーを釣菌し、TSB(Trypticase soy broth)培地10mLに接種した後、80℃で10分間加熱し、芽胞の発芽を促進させた後に35℃で一晩培養した。その培養液を、1菌株につき10枚の芽胞形成培地に0.1mLずつ塗抹し、さらに35℃で7日間培養を行い、芽胞を形成させた。形成させた芽胞は1/15Mリン酸緩衝液を用いて精製し、得られた精製物を芽胞液とした。得られた芽胞液を80℃10分ヒートショック処理し、1/15Mリン酸緩衝液で104~105cfu/ml程度となるよう調整し、氷冷したものを試験に供した。
【0049】
<ソースへの芽胞の接種>
外層から内層にかけて、PE/EVOH/PE(この順で厚さの比率が10:1:15、容器の厚さは500μm、30℃の平均酸素透過度1cc/m2・day・atm)の容器に、ソースをヘッドスペース容量が全体容量の10%程度となるよう充填し、最終濃度がソース1g当たりの芽胞数が102~103cfuとなるよう、芽胞液をソースに接種した。キャップを閉めて容器を密閉し、容器のヘッドスペースを80℃、10分間ボイル殺菌後、35℃のインキュベーターで12週まで保管した。
【0050】
<生菌数計測>
12週目にソースを取り出し、0.1質量%ペプトン水で10倍希釈後60秒間ストマッカー処理した。処理後の上清を試料とし、生菌数を計測した。
生菌数は、寒天培地またはフィルム培地を用いて計測した。B.subtilis、B.cereusを接種した試料液は、0.1質量%ペプトン水で適宜希釈し、標準寒天培地に0.1ml滴下した。これをコンラージ棒で均等に塗抹し、35℃で2日間培養した。B.oleroniusを接種した試料液は、0.1質量%ペプトン水で適宜希釈し、ペトリフィルムACプレート(3M)に1.0ml滴下した。滴下後、上部フィルムを閉じ、スプレッダーで軽く押さえ試料を広げ、30℃で3日間培養した。生菌数は、培地で生育したコロニー数に希釈倍数を乗じてソース1gあたりの生菌数(cfu/g)として計測した。
【0051】
<微生物の増殖抑制評価>
芽胞液を接種した直後のソース中の菌数を初発菌数とし、保存後菌数の測定値の常用対数値から前記初発菌数の常用対数値を差し引いて、増加菌数を算出した。
増加菌数(LOGcfu/g)=LOG(恒温保存後菌数)-LOG(初発菌数)
【0052】
〇:増加菌数 1LOGcfu/g未満。
△:増加菌数 1LOGcfu/g以上、2LOGcfu/g未満。
×:増加菌数 2LOGcfu/g以上。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
表1及び表2の結果より、水分活性0.96以上では微生物が増殖するが、水分活性0.94未満に調整することで35℃12週間保管中の微生物の増殖菌数を2LOGcfu/g未満に抑制することができた。
【0056】
(試験2)
<クリームソースの作成>
試験1と同様のソースを評価に用いた。
<ソースの調製>
ソースに酢酸Naを添加し、よく撹拌し溶解させた。これにそれぞれ水分活性0.84~0.96となるよう食塩及び大豆油を添加し、よく撹拌し溶解させた。また、クエン酸を添加し、pH5.4に調整した。水分活性測定には市販の水分活性測定装置(メータージャパン社製、AquaLab TDL)、pH測定には市販のpHメーター(東亜ディーケーケー社製、TOAHM-30G)を使用した。なお、表3において、添加した大豆油及び食塩の量はソースの量に含めている。
なお、下記表3の食塩及び大豆油を添加した各実施例・比較例において食塩及び大豆油の添加量の質量比率は1:5とした。
外層から内層にかけて、PE/EVOH/PE(この順で厚さの比率が10:1:15、容器の厚さは500μm、30℃の平均酸素透過度1cc/m2・day・atm)の容器に、ソースをヘッドスペース容量が全体容量の10%程度となるよう充填した。キャップを閉めて容器を密閉し、これを35℃のインキュベーターで12週まで保管した。
【0057】
<風味の評価>
保管後のソースの風味を評価した。具体的には、ソースを平皿に取り出し、その風味を10名の専門パネラーにより、製造直後の標準ソースの風味を5点として下記評価基準にて評価し、10名の評価の平均値を求めた。
【0058】
5点:塩味や油脂感は適度で、非常に良好。
4点:塩味や油脂感が感じられるが、良好。
3点:やや塩味や油脂感がやや強く感じられるが、許容範囲。
2点:塩味や油脂感が強く感じられ、不良。
1点:塩味や油脂感が非常に強く感じられ、非常に不良。
【0059】
【表3】
【0060】
表3の結果より、ソースの水分活性を0.84以下に低下させようとすると食塩や油の必要配合量が多くなり、塩味や油脂感が強く感じられ、風味評価は許容範囲外となった。
【0061】
表1~表3の結果より、ソースの水分活性を0.94未満に調整することで35℃での微生物の増殖を抑制できるが、喫食用ソースの水分活性を0.84以下まで低下させようとすると食塩や油の必要配合量が多くなり、塩味や油脂感が強くなりすぎてしまう。したがって、ソースをレトルト処理することなく常温で長期保存可能にするためには、微生物の増殖抑制およびソースの風味の点から、水分活性0.85以上0.94未満に調整することが好ましい。
【0062】
(試験3)
<和風ソースの作成>
大豆油50gとにんにくペースト70gを鍋に入れて弱火で加熱した。にんにくが色づいたら醤油400g、顆粒だしの素10g、水400gを加え撹拌しながら加熱し、沸騰し始めたら中火で時々撹拌しながら10分間加熱した。ブラックペッパー(植物由来香味成分)粉末10gを加えた後、水を加えて量を1000gとして和風ソースを得た。
【0063】
<ソースの調製>
実施例4、5、6、7のソースとして上記和風ソースを用いた。実施例5及び7のソースには酢酸Na及びグリシン、実施例6のソースには酢酸Naを表4の量で添加し、よく撹拌し溶解させた。実施例4及び5はソースの水分活性0.93となるようグリセリン(富士フィルム和光純薬)を添加し、よく撹拌した。また、1N-HClを添加し、pH5.4に調整した。実施例6及び7はエタノール添加後のソースの水分活性が0.93となるようグリセリン(富士フィルム和光純薬)を添加し、よく撹拌した。また、1N-HClを添加し、エタノール添加後のpHが5.4となるよう調整した。水分活性測定には市販の水分活性測定装置(メータージャパン社製、AquaLab TDL)、pH測定には試験1と同様のものを使用した。上記ソースを121℃で15分間滅菌処理した。実施例6及び7のソースは冷却後、エタノールを表4の量で添加し、よく撹拌した。上記ソースを微生物の接種試験に用いた。
【0064】
<供試菌>
非レトルト食品では殺菌できず、常温保存中に増殖する可能性が考えられる以下のBacillus属細菌の芽胞を試験に供した。
・Bacillus subtilis
【0065】
<芽胞液の調製>
試験1と同様の方法で、芽胞液を調製した。
【0066】
<ソースへの芽胞の接種>
試験1と同様の方法でソースに芽胞を接種した。ソースを外層から内層にかけて、PE/EVOH/PE(この順で厚さの比率が10:1:15、容器の厚さは500μm、30℃の平均酸素透過度1cc/m2・day・atm)の各ボトルにヘッドスペース容量が全体容量の10%程度となるよう充填し、最終濃度102~103cfu/gとなるよう、芽胞液を接種した。キャップを閉めて容器を密閉し、容器のヘッドスペースを80℃、10分間ボイル殺菌後、これを35℃のインキュベーターで12週まで保管した。
【0067】
<生菌数計測>
試験1と同様の方法で、生菌数を計測した。
【0068】
<微生物の増殖抑制評価>
芽胞液を接種した直後のソース中の菌数を初発菌数とし、保存後菌数の測定値の常用対数値から前記初発菌数の常用対数値を差し引いて、増加菌数を算出した。
増加菌数(LOGcfu/g)=LOG(恒温保存後菌数)-LOG(初発菌数)
【0069】
〇:増加菌数 1LOGcfu/g未満。
△:増加菌数 1LOGcfu/g以上、3LOGcfu/g未満。
×:増加菌数 3LOGcfu/g以上。
【0070】
【表4】
【0071】
上記実施例4、5、6、7の対比の通り、酢酸ナトリウム、グリシン及びエタノールを用いることで生菌数を特に効果的に抑制できることが判る。