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特開2024-140918胸部副雑音評価装置、胸部副雑音評価方法および胸部副雑音評価プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140918
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】胸部副雑音評価装置、胸部副雑音評価方法および胸部副雑音評価プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 7/04 20060101AFI20241003BHJP
   A61B 5/08 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
A61B7/04 L
A61B5/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052287
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000126115
【氏名又は名称】エア・ウォーター株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 裕哉
(72)【発明者】
【氏名】大下 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】貞森 拓磨
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038SV05
(57)【要約】
【課題】患者の胸部の生体音を収音した収音データから胸部副雑音の有無を精度高く評価する。
【解決手段】胸部副雑音評価装置(100)は、収音データを取得する取得部(151)と、収音データにおける異常音を検出する検出部(152)と、患者の呼吸状態の推移を推定する推定部(153)と、呼吸状態の推移に基づいて、異常音がアーチファクトであるか否かを判定する判定部(154)と、胸部副雑音の有無を評価する評価部(155)と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の胸部の生体音を収音した収音データを取得する取得部と、
前記収音データにおける、胸部副雑音に対応する異常音を検出する検出部と、
前記収音データの収音時の前記患者の呼吸状態の推移を推定する推定部と、
前記呼吸状態の推移に基づいて、前記異常音がアーチファクトであるか否かを判定する判定部と、
アーチファクトではないと判定された前記異常音に基づいて、前記胸部副雑音の有無を評価する評価部と、を備える、
ことを特徴とする胸部副雑音評価装置。
【請求項2】
前記検出部は、複数種類の胸部副雑音に対応する異常音をそれぞれ検出し、
前記評価部は、前記複数種類の胸部副雑音の有無をそれぞれ評価する、
ことを特徴とする請求項1に記載の胸部副雑音評価装置。
【請求項3】
前記判定部は、前記異常音に対応する胸部副雑音の種類と、当該異常音の収音時の前記呼吸状態との関係に基づいて、当該異常音がアーチファクトであるか否かを判定する、
ことを特徴とする請求項2に記載の胸部副雑音評価装置。
【請求項4】
前記判定部は、
類鼾音または笛声音に対応する異常音について、当該異常音の収音時の呼吸状態が吸気である場合に、当該異常音はアーチファクトであると判定し、
捻髪音または水泡音に対応する異常音について、当該異常音の収音時の呼吸状態が呼気である場合に、当該異常音はアーチファクトであると判定する、
ことを特徴とする請求項3に記載の胸部副雑音評価装置。
【請求項5】
前記判定部は、
類鼾音または笛声音に対応する異常音について、当該異常音の収音時の呼吸状態が吸気後の無呼吸状態である場合に、当該異常音はアーチファクトであると判定し、
捻髪音または水泡音に対応する異常音について、当該異常音の収音時の呼吸状態が呼気後の無呼吸状態である場合に、当該異常音はアーチファクトであると判定する、
ことを特徴とする請求項4に記載の胸部副雑音評価装置。
【請求項6】
前記推定部は、吸気区間、呼気区間、および、無呼吸区間をそれぞれ推定する、
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の胸部副雑音評価装置。
【請求項7】
前記推定部は、前記収音データの収音開始後の時間経過に応じて、前記吸気区間、前記呼気区間、および、前記無呼吸区間をそれぞれ推定する、
ことを特徴とする請求項6に記載の胸部副雑音評価装置。
【請求項8】
患者の胸部の生体音を収音した収音データを取得する取得ステップと、
前記収音データにおける、胸部副雑音に対応する異常音を検出する検出ステップと、
前記収音データの収音時の前記患者の呼吸状態の推移を推定する推定ステップと、
前記呼吸状態の推移に基づいて、前記異常音がアーチファクトであるか否かを判定する判定ステップと、
アーチファクトではないと判定された前記異常音に基づいて、前記胸部副雑音の有無を評価する評価ステップと、を含む、
ことを特徴とする胸部副雑音評価方法。
【請求項9】
請求項1に記載の胸部副雑音評価装置としてコンピュータを機能させるための胸部副雑音評価プログラムであって、上記取得部、上記検出部、上記推定部、上記判定部および上記評価部としてコンピュータを機能させるための胸部副雑音評価プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の胸部の生体音を収音した収音データから胸部副雑音の有無を評価する胸部副雑音評価装置、胸部副雑音評価方法および胸部副雑音評価プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
聴診器にてノイズの少ない綺麗な音を聴取するには、高度な聴診スキル(手技スキル)が必要となる。臨床で取得されるデータには、多くの場合、聴診器使用者の手技によるアーチファクトが含まれる。例えば、胸部副雑音を聴取する場合、胸部副雑音と類似した音が取得データに混入し、取得データの解析結果において、誤評価に導く恐れがある。
【0003】
特に、遠隔診察においては、電子聴診器を患者側において使用して生体音を収音し、収音データを医療従事者が確認することによって遠隔で聴診を行うことが可能であるが、患者側における聴診スキルに起因してアーチファクトが多く含まれ、誤評価に導く恐れがある。
【0004】
このようなアーチファクトの影響を低減するための技術として、特許文献1では、周期的に発生していない異常音をノイズと認識する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許04904488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の技術では、偶々周期的に発生するアーチファクトが存在した場合に、誤評価に導く場合がある。
【0007】
そのため、アーチファクトの影響を別の観点から低減し、胸部副雑音の有無を精度高く評価するための技術を提供することは有用である。
【0008】
本発明の一態様は、患者の胸部の生体音を収音した収音データから胸部副雑音の有無を精度高く評価することができる胸部副雑音評価装置、胸部副雑音評価方法および胸部副雑音評価プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る胸部副雑音評価装置は、患者の胸部の生体音を収音した収音データを取得する取得部と、前記収音データにおける、胸部副雑音に対応する異常音を検出する検出部と、前記収音データの収音時の前記患者の呼吸状態の推移を推定する推定部と、前記呼吸状態の推移に基づいて、前記異常音がアーチファクトであるか否かを判定する判定部と、アーチファクトではないと判定された前記異常音に基づいて、前記胸部副雑音の有無を評価する評価部と、を備える。
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る胸部副雑音評価方法は、患者の胸部の生体音を収音した収音データを取得する取得ステップと、前記収音データにおける、胸部副雑音に対応する異常音を検出する検出ステップと、前記収音データの収音時の前記患者の呼吸状態の推移を推定する推定ステップと、前記呼吸状態の推移に基づいて、前記異常音がアーチファクトであるか否かを判定する判定ステップと、アーチファクトではないと判定された前記異常音に基づいて、前記胸部副雑音の有無を評価する評価ステップと、を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、患者の胸部の生体音を収音した収音データから胸部副雑音の有無を精度高く評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る胸部副雑音評価装置を備えた胸部副雑音評価システムの構成を示すブロック図である。
図2図1に示すガイダンス部による表示の一態様を示す図である。
図3図1に示すガイダンス部がガイダンスする呼吸のタイミングの一態様を示す図である。
図4図1に示す表示部120の表示画面の一態様を示す図である。
図5】本発明の一実施形態に係る胸部副雑音評価方法の動作フローを示す図である。
図6】本発明の他の実施形態に係る胸部生体音収音装置の構成を示すブロック図である。
図7】本発明の一実施例における類鼾音に関する検証結果を示す図である。
図8】本発明の一実施例における笛声音に関する検証結果を示す図である。
図9】本発明の一実施例における捻髪音に関する検証結果を示す図である。
図10】本発明の一実施例における水泡音に関する検証結果を示す図である。
図11図1に示す表示部120の表示画面の一態様を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔実施形態1〕
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態1に係る胸部副雑音評価装置100を備えた胸部副雑音評価システム1の構成を示すブロック図である。
【0014】
胸部副雑音評価システム1は、患者の胸部の生体音を収音する胸部生体音収音装置10と、患者の胸部の生体音を収音した収音データから胸部副雑音の有無を評価する胸部副雑音評価装置100とを備える。
【0015】
胸部副雑音評価装置100は、患者の胸部の生体音を収音した収音データを取得する取得部151と、取得部151が取得した収音データにおける、胸部副雑音に対応する異常音を検出する検出部152と、収音データの収音時の患者の呼吸状態の推移を推定する推定部153と、推定部153が推定した呼吸状態の推移に基づいて、異常音がアーチファクトであるか否かを判定する判定部154と、判定部154によってアーチファクトではないと判定された前記異常音に基づいて、胸部副雑音の有無を評価する評価部155と、を備える。
【0016】
胸部副雑音評価装置100は、また、胸部生体音収音装置10と通信する通信部110、評価部155の評価結果を表示する表示部120、ならびに、取得部151、検出部152、推定部153、判定部154および評価部155を備える主制御部150を備えている。
【0017】
胸部副雑音評価装置100によれば、収音データの収音時の患者の呼吸状態の推移に基づいて、収音データにおいて検出された胸部副雑音に対応する異常音がアーチファクトであるか否かを判定することができるため、胸部副雑音の有無を精度高く評価することができる。
【0018】
(胸部生体音収音装置10)
胸部生体音収音装置10は、胸部副雑音評価装置100と通信する通信部11、患者の胸部の生体音を収音する電子聴診器12、患者の胸部の生体音を収音した収音データを生成する生成部13、および、患者に対して呼吸のタイミングをガイダンスするガイダンス部14を備えている。胸部生体音収音装置10は、専用の装置であってもよいし、スマートフォンなどの情報端末に、所定のアプリケーションがインストールされたものであってもよい。
【0019】
胸部生体音収音装置10の通信部11と胸部副雑音評価装置100の通信部110との間の通信経路は特に限定されず、有線回線、無線回線、任意のネットワーク、これらの組み合わせ等を介して通信可能であってもよい。
【0020】
電子聴診器12は、患者の胸部の生体音を収音可能な一般的な電子聴診器であってよい。電子聴診器12は、胸部生体音収音装置10の本体に対して有線または無線接続しているものであってもよい。
【0021】
生成部13は、電子聴診器12が収音した生体音から収音データを生成する。一態様において、生成部13は、生体音を収音した患者を示すIDを収音データに付してもよい。その他、生成部13は、胸部における収音位置、収音日時などを示す情報をさらに収音データに付してもよい。通信部11は、生成部13が生成した収音データを胸部副雑音評価装置100に送信する。
【0022】
ガイダンス部14は、表示画面、音声、それらの組み合わせ等によって、患者に対して呼吸のタイミングをガイダンスする。呼吸のタイミングをガイダンスするとは、どのタイミングにおいて吸気を行い、どのタイミングにおいて呼気を行なうかを患者に示すことを意味する。ガイダンス部14は、吸気を行なう吸気区間、呼気を行なう呼気区間、呼気および吸気の何れも行わない無呼吸区間を患者に示すものであってもよい。
【0023】
図2は、ガイダンス部14による表示の一態様を示す図である。図2に示すように、ガイダンス部14は、胸部生体音収音装置10の表示画面に、インディケータX、ガイドY、および、ガイドZを表示させる。ガイドYおよびガイドZは所定の円に沿って配置されており、当該円に沿ってインディケータXを回転させることにより、患者に対して呼吸のタイミングをガイダンスしている。すなわち、インディケータXがガイドYを指しているタイミングは吸気区間を示しており、インディケータXがガイドZを指しているタイミングは呼気区間を示しており、インディケータXがガイドYおよびZのいずれも指していないタイミングは無呼吸区間を示している。
【0024】
なお、ガイダンス部14は、図2のような表示に加えて、または、替えて、吸気のタイミング、および、呼気のタイミングを音声によってガイダンスしてもよい。
【0025】
図3は、ガイダンス部14がガイダンスする呼吸のタイミングの一態様を示す図である。ガイダンス部14は、予め定められた時間の吸気区間、予め定められた時間の無呼吸区間、予め定められた時間の呼気区間、予め定められた時間の無呼吸区間からなるサイクルをガイダンスしてよい。図3に示す例では、ガイダンス部14は、吸気区間2秒、無呼吸区間1秒、呼気区間3秒、無呼吸区間1秒のサイクルをガイダンスするが、各区間の時間はこれらに限定されない。
【0026】
このように、ガイダンス部14が予め定められた呼吸のタイミングで患者に呼吸をガイダンスし、生成部13が、当該ガイダンスに合わせて、電子聴診器12が収音した生体音から収音データを生成することにより、収音データの収音時の患者の呼吸状態が予め定められたように推移する収音データを生成することができる。
【0027】
また、生成部13は、ガイダンス部14がガイダンスした呼吸のタイミングを示すタイミング情報を収音データに付与してもよい。例えば、図3に示す例では、吸気区間2秒、無呼吸区間1秒、呼気区間3秒、無呼吸区間1秒のサイクルであることを示すタイミング情報を収音データに付与してもよい。
【0028】
なお、一変形例において、胸部生体音収音装置10は、ガイダンス部14を備えていなくともよい。この場合、患者の生体音を収音する際に、患者または収音を実行する実行者が、呼吸のタイミングをガイダンスする動画または音声を任意のデバイスを用いて再生してもよい。また、収音を実行する実行者が、時計等を参照しながら、口頭で、患者の呼吸のタイミングをガイダンスしてもよい。
【0029】
(胸部副雑音評価装置100)
胸部副雑音評価装置100は、情報処理が可能な端末であれば特に限定されず、例えば、パーソナルコンピュータ、タブレット端末、スマートフォン端末などであってよい。
【0030】
胸部副雑音評価装置100は1または複数の胸部副雑音の有無を評価してよい。胸部副雑音評価装置100が評価する胸部副雑音としては、例えば、類鼾音、笛声音、捻髪音、水泡音などが挙げられる。胸部副雑音評価装置100が複数の胸部副雑音の有無を評価する場合、検出部152は、複数種類の胸部副雑音に対応する異常音をそれぞれ検出し、評価部155は、複数種類の胸部副雑音の有無をそれぞれ評価する。
【0031】
通信部110は、1または複数の胸部生体音収音装置10と通信してよい。
【0032】
表示部120は、ディスプレイなどであってよい。図4は、表示部120の表示画面の一態様を示す図である。図4に示すように、表示部120には、患者ID、収音日時が表示されているとともに、吸気区間P1、呼気区間P2、無呼吸区間P0と、収音データQとが対応付けられたグラフGと、収音データのスペクトログラムCと、4種の副雑音の有無および収音データに含まれる割合を示すレーダーチャートRとが示されている。収音データを聴く場合には、グラフGの左側の操作ボタンEで操作可能である。
【0033】
続いて、主制御部150の各部の動作について、図5を参照して説明する。図5は、本実施形態に係る胸部副雑音評価方法の動作フローを示す図である。
【0034】
ステップS1(取得ステップ)において、取得部151は、患者の胸部の生体音を収音した収音データを取得する。取得部151は、通信部110を介して、胸部生体音収音装置10から収音データを取得してもよいし、過去に胸部生体音収音装置10から胸部副雑音評価装置100に送信され、図示しない記憶部に記憶されている収音データを読み込んでもよい。
【0035】
ステップS2(検出ステップ)において、検出部152は、ステップS1において取得された収音データにおける、胸部副雑音に対応する異常音を検出する。
【0036】
一例として、検出部152は、ステップS1において取得部151が取得した収音データを、胸部副雑音に対応する異常音の検出のための検出モデルに入力することによって行なうことができる。当該検出モデルは、例えば、患者の収音データを入力し、収音データの各フレームにおける異常音の有無を出力する機械学習モデルであってよい。そのような検出モデルは、例えば、患者群および非患者群から収音した収音データについての医師の判定結果を教師データとして機械学習させることにより生成してもよい。また、公知のモデルを用いてもよい(例えば、特許6672478号参照)。検出モデルとしては、全種類の胸部副雑音に対応する異常音を検出する検出モデルを用いてもよいし、単一の胸部副雑音に対応する異常音を検出する検出モデルを組み合わせて用いてもよい。
【0037】
また他の例として、検出部152は、音の周波数成分を抽出した特徴を利用した計算手法や、音声波形の振幅成分の振幅幅等の特徴を利用した計算手法等により、異常音を検出してもよい。詳細には、検出部152は、収音データに含まれる観測された音データの周波数スペクトラムが、正常/異常生体音種ごとに特有の複数のスペクトラムパターンの線形結合で近似できると仮定し、その結合係数を求めることによって、音種ごとの信号強度を数値化することによって、異常音を検出してもよい(特許6298527号参照)。
【0038】
ステップS3(推定ステップ)において、推定部153は、ステップS1において取得された収音データの収音時の患者の呼吸状態の推移を推定する。ステップS2およびステップS3は並行して行ってもよいし、一方を行なってから他方を行なってもよい。
【0039】
呼吸状態とは、吸気、呼気または無呼吸状態である。呼吸状態の推移とは、呼吸状態が、時系列に沿ってどのように変化するかを示すものである。
【0040】
一態様において、推定部153は、少なくとも、呼吸状態が吸気である時間的な区間を示す吸気区間、および、呼吸状態が呼気である時間的な区間を示す呼気区間を推定するものであってよい。また、一態様において、推定部153は、吸気区間、呼気区間、および、無呼吸区間をそれぞれ推定してもよい。なお、無呼吸区間は、呼吸状態が無呼吸状態である時間的な区間を示す。推定部153が、吸気区間および呼気区間に加えて無呼吸区間を推定することにより、判定部154がより精度の高い判定を行なうことができる。
【0041】
推定部153が、呼吸状態の推移を推定する方法は特に限定されないが、例えば、本実施形態のように、収音データの収音時に、患者の呼吸のタイミングがガイダンスされていることによって、吸気区間、呼気区間、および、無呼吸区間の長さが予め決まっている場合には、推定部153は、収音データの収音開始後の時間経過に応じて、吸気区間、呼気区間、および、無呼吸区間をそれぞれ推定してもよい。
【0042】
また、収音データにタイミング情報が含まれている場合には、推定部153は、タイミング情報に基づいて、呼吸状態の推移を推定してもよい。また、推定部153は、収音データ中の無音区間を検出することにより、無呼吸区間を推定してもよい。
【0043】
ステップS4(判定ステップ)において、判定部154は、ステップS3において推定された呼吸状態の推移に基づいて、異常音がアーチファクトであるか否かを判定する。
【0044】
本明細書において、アーチファクトとは、肺の疾患に起因する胸部副雑音に似ているものの、肺の疾患に起因したものではない異常音を意味する。
【0045】
例えば、類鼾音については、電子聴診器12を強く握ることによって生じる音や、心音などがアーチファクトになり得る。また、笛声音については、話し声や、チャイム音などがアーチファクトになり得る。また、捻髪音については、電子聴診器12をずらしたり、電子聴診器12が服に当たることによって生じる音などがアーチファクトになり得る。また、水泡音については、電子聴診器12を強く握ることによって生じる音や、腸音などがアーチファクトになり得る。
【0046】
一態様において、判定部154は、異常音に対応する胸部副雑音の種類と、当該異常音の収音時の呼吸状態との関係に基づいて、当該異常音がアーチファクトであるか否かを判定する。すなわち、胸部副雑音の種類ごとに、発生し得る呼吸状態が異なるため、胸部副雑音の種類と、呼吸状態との関係に基づいて、異常音がアーチファクトであるか否かを判定することができる。
【0047】
例えば、類鼾音および笛声音は、呼気時に発生する音である。また、捻髪音または水泡音は、吸気時に発生する音である。そのため、判定部154は、類鼾音または笛声音に対応する異常音について、当該異常音の収音時の呼吸状態が吸気である場合(当該異常音が吸気区間において検出された場合)に、当該異常音をアーチファクトであると判定してもよい。また、判定部154は、捻髪音または水泡音に対応する異常音について、当該異常音の収音時の呼吸状態が呼気である場合(当該異常音が呼気区間において検出された場合)に、当該異常音をアーチファクトであると判定してもよい。
【0048】
すなわち、類鼾音および笛声音は、吸気区間には発生しない蓋然性が高いため、吸気区間に検出した類鼾音または笛声音に対応する異常音は、アーチファクトであると判定することができる。また、捻髪音および水泡音は、呼気区間には発生しない蓋然性が高いため、呼気区間に検出した類鼾音または笛声音に対応する異常音は、アーチファクトであると判定することができる。
【0049】
そして、判定部154は、アーチファクトであると判定しなかった異常音のうち、類鼾音または笛声音に対応する異常音について、当該異常音の収音時の呼吸状態が呼気である場合(当該異常音が呼気区間において検出された場合)に、当該異常音はアーチファクトではないと判定してもよい。また、判定部154は、アーチファクトであると判定しなかった異常音のうち、捻髪音または水泡音に対応する異常音について、当該異常音の収音時の呼吸状態が吸気である場合(当該異常音が吸気区間において検出された場合)に、当該異常音はアーチファクトではないと判定してもよい。
【0050】
また、一態様において、判定部154は、無呼吸区間において検出された異常音についてもアーチファクトであるか否かを判定してもよい。
【0051】
例えば、判定部154は、類鼾音または笛声音に対応する異常音について、当該異常音の収音時の呼吸状態が吸気後の無呼吸状態である場合(当該異常音が吸気区間後の無呼吸区間において検出された場合)に、当該異常音をアーチファクトであると判定してもよい。また、判定部154は、捻髪音または水泡音に対応する異常音について、当該異常音の収音時の呼吸状態が呼気後の無呼吸状態である場合(当該異常音が呼気区間後の無呼吸区間において検出された場合)に、当該異常音をアーチファクトであると判定してもよい。
【0052】
すなわち、類鼾音および笛声音は、吸気区間後の無呼吸区間には発生しない蓋然性が高いため、吸気区間後の無呼吸区間に検出した類鼾音または笛声音に対応する異常音は、アーチファクトであると判定することができる。また、捻髪音および水泡音は、呼気区間後の無呼吸区間には発生しない蓋然性が高いため、呼気区間後の無呼吸区間に検出した類鼾音または笛声音に対応する異常音は、アーチファクトであると判定することができる。
【0053】
そして、判定部154は、アーチファクトであると判定しなかった異常音をアーチファクトではないと判定してもよい。すなわち、判定部154は、類鼾音または笛声音に対応する異常音について、当該異常音の収音時の呼吸状態が呼気後の無呼吸状態である場合(当該異常音が呼気区間後の無呼吸区間において検出された場合)に、当該異常音はアーチファクトではないと判定してもよい。また、判定部154は、捻髪音または水泡音に対応する異常音について、当該異常音の収音時の呼吸状態が吸気後の無呼吸状態である場合(当該異常音が吸気区間後の無呼吸区間において検出された場合)に、当該異常音はアーチファクトではないと判定してもよい。また、一態様において、判定部154は、上述した基準に基づいて、アーチファクトである異常音を検出せずに、アーチファクトではない異常音を判定してもよい。
【0054】
ステップS5(評価ステップ)において、評価部155は、ステップS4においてアーチファクトではないと判定された異常音に基づいて、胸部副雑音の有無を評価する。
【0055】
一態様において、評価部155は、胸部副雑音の有無の評価結果として、アーチファクトでないと判定された異常音の成分量の総和から副雑音傾向を算出してもよい。例えば、評価部155は、胸部副雑音の種類ごとに、対応する異常音であって、アーチファクトではないと判定された異常音が検出されたフレーム数を合計し、収音データ全体のフレーム数に占める割合を副雑音傾向として算出する。このように算出した副雑音傾向は、胸部副雑音の有無の評価を示すものといえる。
【0056】
また、評価部155は、さらに、算出した副雑音傾向を所定の閾値と比較し、副雑音傾向が所定の閾値以上である場合に、当該胸部副雑音を「有り」と評価してもよい。
【0057】
また、評価部155は、副雑音傾向を算出する際に、無呼吸状態(無呼吸区間)において検出された異常音の成分量(フレーム数)について1よりも小さい係数を乗算して、副雑音傾向を算出してもよい。これにより、無呼吸区間におけるアーチファクトか否かの判定は、吸気区間または呼気区間におけるアーチファクトか否かの判定よりも信頼性が低いと考えられるため、上記係数を用いることにより、より精度高く胸部副雑音の有無を評価することができる。
【0058】
ステップS6において、表示部120は、ステップS5の評価結果を表示する。表示部120による評価結果の表示態様は特に限定されないが、一例として、表示部120は、図4に示すような表示画面を表示してもよい。図4に示す例において、レーダーチャートRには、例えば、各胸部副雑音の副雑音傾向を示してもよい。
【0059】
また、他の例として、表示部120は、図11に示すような表示画面を表示してもよい。図11に示す例では、表示画面には、時系列に沿って、無呼吸区間A0、吸気区間A1、無呼吸区間A2、呼吸状態A3、無呼吸区間A4、および、吸気区間A5がそれぞれ示されている。また、表示画面には、捻髪音の検出結果B1、水泡音の検出結果B2、笛声音の検出結果B3、および、類鼾音の検出結果B4がそれぞれ示されている。
【0060】
各検出結果B1~B4には、対応する異常音を検出したフレーム(タイミング)が縦線によって示されている。そして、当該異常音がアーチファクトであると判定された場合には、縦線にX印が重ねて表示されている。
【0061】
詳細には、図11に示す例では、捻髪音の検出結果B1および水泡音の検出結果B2では、無呼吸区間A0、呼気区間A3および無呼吸区間A4において、アーチファクトである可能性が高い検出結果F1およびF3が検出され、吸気区間A1および無呼吸区間A2において、信頼性の高い検出結果F2が検出されている。また、笛声音の検出結果B3および類鼾音の検出結果B4では、吸気区間A1、無呼吸区間A2および吸気区間A5において、アーチファクトである可能性が高い検出結果F4およびF6が検出され、呼気区間A3および無呼吸区間A4において、信頼性の高い検出結果F5が検出されている。
【0062】
すなわち、表示部120は、図11に示す例のように、時系列的に、各副雑音に対応する異常音の有無およびアーチファクトであるか否かを出力してもよい。
【0063】
このように、表示部120は、各胸部副雑音の副雑音傾向を示すことによって、各胸部副雑音の有無の評価結果を示すことができる。また、表示部120は、文字情報によって、各胸部副雑音の有無を表示してもよい。
【0064】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0065】
図6は、本実施形態に係る胸部生体音収音装置10aの構成を示すブロック図である。胸部生体音収音装置10aは、ガイダンス部14の替りに、患者の呼吸状態を検知するセンサ部15を備えている。
【0066】
一態様において、センサ部15は、患者の呼気を検知する呼気センサを備えていてもよい。また、他の態様において、センサ部15は、患者の胸部を撮像するカメラを備えていてもよい。生成部13は、センサ部15の検知結果に基づいて、患者の呼吸状態を評価し、収音データの収音時の患者の呼吸状態を示す呼吸状態データを収音データに付してもよい。
【0067】
そして、推定部153は、呼吸状態データに基づいて、収音データの収音時の患者の呼吸状態の推移を推定してよい。
【0068】
以上の構成によっても、実施形態1と同様に、胸部副雑音の有無を精度高く評価することができる。
【0069】
〔ソフトウェアによる実現例〕
胸部副雑音評価装置100(以下、「装置」と呼ぶ)の機能は、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、当該装置の各制御ブロック(特に、取得部151、検出部152、推定部153、判定部154、評価部155)としてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現することができる。
【0070】
この場合、上記装置は、上記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により上記プログラムを実行することにより、上記各実施形態で説明した各機能が実現される。
【0071】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、上記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
【0072】
また、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0073】
〔実施例〕
実施例として、実施形態1のように、呼吸状態の推移に基づいて異常音がアーチファクトであるか否かを判定し、アーチファクトではないと判定された異常音を用いて胸部副雑音の有無を評価した。すなわち、ガイダンス部14を備えた胸部生体音収音装置10を用いて患者の胸部の生体音を収音した収音データを取得し、収音データにおける、胸部副雑音に対応する異常音を検出し、収音データの収音時の患者の呼吸状態の推移を推定し、呼吸状態の推移に基づいて、異常音がアーチファクトであるか否かを判定し、アーチファクトではないと判定された異常音に基づいて、胸部副雑音の有無を評価した。胸部副雑音として、笛声音、類鼾音、捻髪音および水泡音のそれぞれについて評価を行なった。呼吸状態の遷移の推定では、呼気区間、吸気区間および無呼吸区間をそれぞれ推定した。異常音の判定では、類鼾音および笛声音に対応する異常音については、呼気区間の異常音のみをアーチファクトではないと判定し、捻髪音および水泡音に対応する異常音については、吸気区間の異常音のみをアーチファクトではないと判定した。胸部副雑音の有無の評価では、アーチファクトではないと判定した異常音のみを用いて評価を行なった。詳細には、類鼾音および笛声音については、呼気期間中に、対応する異常音を検出したフレーム数を合成し、収音データの全フレームに対する割合を算出し、閾値と比較することによって胸部副雑音の有無を評価した。捻髪音および水泡音については、吸気期間中に、対応する異常音を検出したフレーム数を合成し、収音データの全フレームに対する割合を算出し、閾値と比較することによって胸部副雑音の有無を評価した。
【0074】
比較例として、異常音がアーチファクトであるか否かの判定を行なわずに胸部副雑音の有無を評価した。すなわち、ガイダンス部14を備えた胸部生体音収音装置10を用いて患者の胸部の生体音を収音した収音データを取得し、収音データにおける、胸部副雑音に対応する異常音を検出し、胸部副雑音の有無を評価した。異常音の検出には、実施例と同一の検出モデルを用いた。胸部副雑音の有無の評価では、検出された全ての異常音を用いて評価を行なった。詳細には、各胸部副雑音について、対応する異常音を検出したフレーム数を合成し、収音データの全フレームに対する割合を算出し、閾値と比較することによって胸部副雑音の有無を評価した。
【0075】
実施例および比較例では、専門医10名中10名が同じ評価を行なった検証用の収音データを使用した。検証用の収音データでは、何れの胸部副雑音も「無し」(Normal)22データ、類鼾音「有り」(RH)20データ、笛声音「有り」(WH)29データ、捻髪音「有り」(FC)29データ、および、水泡音「有り」(CC)14データが含まれていた。実施例および比較例における評価結果について、上述した専門医の評価結果と対比して、感度、特異度およびAUC(Area Under the Curve)をそれぞれ算出した。検証用の収音データにおいて「有り」とされた胸部副雑音と同一の胸部副雑音が、評価の結果「有り」となった場合を「陽性」とし、それ以外の場合を「陰性」とした。このとき、AUCは、縦軸に真陽性率、横軸に偽陽性率を取ってプロットしたROC曲線(Receiver Operating Characteristics Curve)の下側の面積を示し、1に近づくほど予測性能が高いことを示す。結果を図7~10に示す。
【0076】
図7~10に示すように、全ての胸部副雑音について、実施例は、比較例に比べて、感度、特異度およびAUCが向上していた。特に、笛声音および水泡音については、実施例は、比較例に比べて、AUCが大きく向上していた。このように、呼吸状態の推移に基づいて異常音がアーチファクトであるか否かを判定し、アーチファクトではないと判定された異常音を用いて胸部副雑音の有無を評価することにより、精度高く胸部副雑音の有無を評価することができた。
【0077】
〔付記事項1〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0078】
〔付記事項2〕
本発明に態様1における胸部副雑音評価装置は、
患者の胸部の生体音を収音した収音データを取得する取得部と、
前記収音データにおける、胸部副雑音に対応する異常音を検出する検出部と、
前記収音データの収音時の前記患者の呼吸状態の推移を推定する推定部と、
前記呼吸状態の推移に基づいて、前記異常音がアーチファクトであるか否かを判定する判定部と、
アーチファクトではないと判定された前記異常音に基づいて、前記胸部副雑音の有無を評価する評価部と、を備える。
【0079】
前記の構成によれば、収音データの収音時の前記患者の呼吸状態の推移に基づいて、収音データにおいて検出された胸部副雑音に対応する異常音がアーチファクトであるか否かを判定することができるため、胸部副雑音の有無を精度高く評価することができる。
【0080】
本発明に態様2における胸部副雑音評価装置は、前記態様1において、
前記検出部は、複数種類の胸部副雑音に対応する異常音をそれぞれ検出し、
前記評価部は、前記複数種類の胸部副雑音の有無をそれぞれ評価する。
【0081】
前記の構成によれば、複数種類の胸部副雑音の有無を評価することができる。
【0082】
本発明に態様3における胸部副雑音評価装置は、前記態様2において、
前記判定部は、前記異常音に対応する胸部副雑音の種類と、当該異常音の収音時の前記呼吸状態との関係に基づいて、当該異常音がアーチファクトであるか否かを判定する。
【0083】
前記の構成によれば、胸部副雑音の種類ごとに、発生し得る呼吸状態が異なるため、胸部副雑音の種類と、呼吸状態との関係に基づいて、異常音がアーチファクトであるか否かを判定することができる。
【0084】
本発明に態様4における胸部副雑音評価装置は、前記態様3において、
前記判定部は、
類鼾音または笛声音に対応する異常音について、当該異常音の収音時の呼吸状態が吸気である場合に、当該異常音はアーチファクトであると判定し、
捻髪音または水泡音に対応する異常音について、当該異常音の収音時の呼吸状態が呼気である場合に、当該異常音はアーチファクトであると判定する。
【0085】
前記の構成によれば、類鼾音および笛声音は、吸気時には発生しない蓋然性が高いため、吸気時に検出した類鼾音または笛声音に対応する異常音は、アーチファクトであると判定することができる。また、捻髪音および水泡音は、呼気時には発生しない蓋然性が高いため、呼気時に検出した類鼾音または笛声音に対応する異常音は、アーチファクトであると判定することができる。
【0086】
本発明に態様5における胸部副雑音評価装置は、前記態様4において、
前記判定部は、
類鼾音または笛声音に対応する異常音について、当該異常音の収音時の呼吸状態が吸気後の無呼吸状態である場合に、当該異常音はアーチファクトであると判定し、
捻髪音または水泡音に対応する異常音について、当該異常音の収音時の呼吸状態が呼気後の無呼吸状態である場合に、当該異常音はアーチファクトであると判定する。
【0087】
前記の構成によれば、類鼾音および笛声音は、吸気後の無呼吸状態では発生しない蓋然性が高いため、吸気後の無呼吸状態で検出した類鼾音または笛声音に対応する異常音は、アーチファクトであると判定することができる。また、捻髪音および水泡音は、呼気後の無呼吸状態では発生しない蓋然性が高いため、呼気後の無呼吸状態で検出した類鼾音または笛声音に対応する異常音は、アーチファクトであると判定することができる。
【0088】
本発明に態様6における胸部副雑音評価装置は、前記態様1から5の何れかにおいて、
前記推定部は、吸気区間、呼気区間、および、無呼吸区間をそれぞれ推定する。
【0089】
前記の構成によれば、吸気区間および呼気区間だけでなく、無呼吸区間を推定することにより、より精度高く胸部副雑音を評価することができる。
【0090】
本発明に態様7における胸部副雑音評価装置は、前記態様6において、
前記推定部は、前記収音データの収音開始後の時間経過に応じて、前記吸気区間、前記呼気区間、および、前記無呼吸区間をそれぞれ推定する。
【0091】
前記の構成によれば、吸気区間、呼気区間、および、無呼吸区間の長さが予め決まっている場合に、各区間を容易に推定することができる。
【0092】
本発明の態様8に係る胸部副雑音評価方法は、
患者の胸部の生体音を収音した収音データを取得する取得ステップと、
前記収音データにおける、胸部副雑音に対応する異常音を検出する検出ステップと、
前記収音データの収音時の前記患者の呼吸状態の推移を推定する推定ステップと、
前記呼吸状態の推移に基づいて、前記異常音がアーチファクトであるか否かを判定する判定ステップと、
アーチファクトではないと判定された前記異常音に基づいて、前記胸部副雑音の有無を評価する評価ステップと、を含む。
【0093】
前記の構成によれば、態様1と同等の効果を奏する。
【0094】
本発明の各態様に係る胸部副雑音評価装置は、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、コンピュータを上記胸部副雑音評価装置が備える各部(ソフトウェア要素)として動作させることにより上記胸部副雑音評価装置をコンピュータにて実現させる胸部副雑音評価装置の胸部副雑音評価プログラム、およびそれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本発明の範疇に入る。
【0095】
なお、以上の構成によれば、胸部副雑音を精度高く評価することができる。このような効果は、例えば、国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)の目標3「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する」等の達成にも貢献するものである。
【符号の説明】
【0096】
10、10a 胸部生体音収音装置
11 通信部
12 電子聴診器
13 生成部
14 ガイダンス部
15 センサ部
100 胸部副雑音評価装置
110 通信部
120 表示部
150 主制御部
151 取得部
152 検出部
153 推定部
154 判定部
155 評価部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11