(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140980
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂組成物およびそれを用いたガスバリア材並びにその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 29/04 20060101AFI20241003BHJP
C08K 5/01 20060101ALI20241003BHJP
C08F 216/06 20060101ALI20241003BHJP
C08J 7/048 20200101ALI20241003BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C08L29/04 S
C08K5/01
C08F216/06
C08J7/048 CER
C08J7/048 CEX
C08J7/048 CEQ
C08J5/18 CEZ
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052381
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100207295
【弁理士】
【氏名又は名称】寺尾 茂泰
(72)【発明者】
【氏名】青山 眞人
【テーマコード(参考)】
4F006
4F071
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4F006AA11
4F006AA31
4F006AB05
4F006AB20
4F006BA05
4F006CA07
4F071AA12
4F071AA15X
4F071AA30X
4F071AF08
4F071AH04
4F071BB02
4F071BB06
4F071BC01
4F071BC12
4J002BE031
4J002EA016
4J002GG02
4J100AA02Q
4J100AG04P
4J100AG39R
4J100BA03H
4J100CA05
4J100CA31
4J100DA24
4J100DA36
4J100FA03
4J100FA19
4J100HA09
4J100HB39
4J100HE14
4J100JA58
(57)【要約】
【課題】良好な生分解性と熱安定性を示すとともに、水溶液の曇点がありながらも基材への水溶液塗布または溶融成形による外観不良を防ぎ、高いガスバリア性を高湿度下でも発揮できる変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂組成物を提供する。
【解決手段】側鎖に一級水酸基構造単位を有する変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂と、共役ポリエンを0.1ppm以上500ppm以下で含む樹脂組成物であって、
前記変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂のエチレン構造単位の含有量が2.5~16.5mol%、ケン化度が98.5mol%を超え、
前記変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂を再アセチル化後の変性エチレン-ビニルエステル系共重合体のテトラヒドロフラン溶液の粘度平均分子量から求めた重合度(DPv)が450以上1350以下であり、
前記変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂の4質量%水溶液の曇点(Tcp)と前記重合度(DPv)との関係が下記式(i)を満たす、変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂組成物。
[式] -14×Tcp+1200≦DPv…(i)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
側鎖に一級水酸基構造単位を有する変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂と、共役ポリエンを0.1ppm以上500ppm以下で含む樹脂組成物であって、
前記変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂のエチレン構造単位の含有量が2.5~16.5mol%、ケン化度が98.5mol%を超え、
前記変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂を再アセチル化後の変性エチレン-ビニルエステル系共重合体のテトラヒドロフラン溶液の粘度平均分子量から求めた重合度(DPv)が450以上1350以下であり、
前記樹脂組成物の4質量%水溶液の曇点(Tcp)と前記重合度(DPv)との関係が下記式(i)を満たす、変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂組成物。
[式] -14×Tcp+1200≦DPv…(i)
【請求項2】
前記変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂の融点(Tm)と前記曇点(Tcp)との間で下記式(ii)を満たす、請求項1記載の変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂組成物。
[式] 0.4×Tcp+155≦Tm≦0.2×Tcp+179…(ii)
【請求項3】
前記曇点(Tcp)が15℃以上である、請求項1または2に記載の変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂組成物。
【請求項4】
前記融点(Tm)が190℃以下である、請求項2記載の変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1または2に記載の変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂組成物からなる層を有する、ガスバリア材。
【請求項6】
請求項1または2に記載の変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂組成物からなる水溶液を曇点を示さない温度で基材へ塗工する、ガスバリア材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂組成物と、それからなる層を有するガスバリア材ならびにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコール系樹脂からなる層を有するガスバリア材を、透明性を保ちつつ、保香性、耐溶剤性、耐油性を併せ持った食品包材として用いる試みが行われている。そのガスバリア性発現は、ポリビニルアルコール分子内の水酸基同士の水素結合により、ポリマー鎖の分子運動性が低下するため、と考えられている。
【0003】
上記のポリビニルアルコール系樹脂が、ポリビニルアルコールのホモポリマーの場合、特に高湿度条件でのガスバリア性に劣ることから、エチレン-ビニルアルコール系樹脂(以下、エチレン-ビニルアルコール系樹脂を「EVOH系樹脂」と称することがある)を用いることによって、改善を図る試みがなされてきた。
【0004】
一方、近年では環境負荷の低減が求められているが、さらなる環境負荷低減の観点(例えば、海洋問題)から、優れた生分解性を有するガスバリア性樹脂が求められていた。しかし、エチレン構造単位の含有量が20~60mol%のEVOH系樹脂は生分解性が低く、EVOH系樹脂で生分解性とガスバリア性を両立するために、エチレン構造単位の含有率が20mol%未満のEVOH系樹脂の検討が進められている。
【0005】
EVOH系樹脂を用いてガスバリア材を得る方法としては、溶融成形による方法と、水溶液を基材に塗布する方法が考えられる。
EVOH系樹脂の溶融成形によってガスバリア材を得ようとするとき、あまりに低重合度でも分子鎖の絡み合いが少なく材料としての性能発揮が難しい一方で、あまりに高重合度では溶融粘度が高すぎることから溶融成形によってガスバリア材を得ることは難しい。
【0006】
他方、EVOH系樹脂の水溶液を基材に塗布してガスバリア材を得ようとするとき、重合度を高くして高分子鎖の絡み合いを増やし、材料強度を上げることができるが、高湿度下でのガスバリア性を改善するためには、エチレン構造単位の含有量を増やす必要があり、そのような水溶液には曇点が観察されることがある。
【0007】
水溶液の曇点とは、水溶液が低温では透明または半透明であっても、加温すると、ある温度を境に溶解度が急に低下し、水と相分離して不透明になる温度を指し、ケン化度の低いポリビニルアルコール水溶液や、ポリオキシエチレン等のポリエーテル鎖を持つ非イオン性界面活性剤の水溶液でよく見られる現象であって、エチレン変性率が高いEVOH系樹脂の水溶液でも同様に見られる。曇点が発生する原因は、これらの水溶液が高温になると、ポリビニルアルコールの水酸基は、溶媒の水と相互作用して水素結合を生成するよりも、ポリマー分子内で水素結合する方がエネルギー的に有利であるために、水への溶解性が急に低下して不透明になるためである。
【0008】
EVOH系樹脂の水溶液を基材に塗布して高湿度でのガスバリア性を向上させたバリア材を得るものとして、例えば、エチレン変性率が2~19mol%、粘度平均重合度が200~2000、ケン化度が80~99.99mol%のEVOH系樹脂の水溶液を用いたバリア材が提案されている(特許文献1)。
【0009】
特許文献1では、溶融成形によって射出成形品やブロー成形品を得る例は示されているが、溶融成形によりガスバリア材を得る方法は示されておらず、ガスバリア材を得る方法は、水溶液を基材に塗布する方法のみである。また、ガスバリア材を得ている例では、ケン化度が98.0mol%以上の樹脂の融点はどれも196℃以上であることから、仮に溶融成形によりガスバリア材を得ようとしても溶融成形は難しく、改良が求められていた。一方、融点が190℃以下の樹脂はケン化度が95.5mol%のものだけであって、高湿度下でのガスバリア性の改善が求められるものであった。
【0010】
また、EVOH系樹脂の曇点については、特許文献2において0.1~10%水溶液濃度範囲で曇点が90℃以下であるEVOH系樹脂を用いたセラミックス成形用バインダーが開示され、かかる特許文献2において、ケン化度が低いほど、重合度が高いほど、エチレン含有量が高いほど、水溶液の曇点が低下することが報告されている。
【0011】
しかし、特許文献2においては、EVOH系樹脂を用いたセラミックス成形用バインダーが報告されているのみで、他の用途については触れられていない。
EVOH系樹脂の水溶液を基材に塗布してガスバリア材を得るとき、バリア性を高くするには、均一な塗膜が必要なことは言うまでもないが、曇点が認められる水溶液を塗布すると、塗布時、および乾燥時に相分離が生じたり、均一な塗工面が形成できず、バリア性を高くできない欠点があった。したがって、これまで曇点のあるEVOH系樹脂はガスバリア材に不適切と考えられてきた。
【0012】
また、曇点以下の温度で水溶液を塗布してガスバリア材を得ようと試みた場合でも、特許文献2の実施例において、ケン化度が98.8mol%、98.5mol%のEVOH系樹脂は、無水酢酸およびピリジン中で再酢化して求めた粘度平均重合度がそれぞれ250、450と低く、ガスバリア材に適さないものであった。
【0013】
特許文献3では、エチレン構造単位の含有量が1mol%以上10mol%未満で、主鎖に1,3-プロパンジオール構造を3~15mol%有し、ケン化度が99.0~99.3mol%である変性EVOH系樹脂が、その水溶液を基材に塗布することによって高湿度下でも酸素バリア性を有するガスバリア材を与えるとともに、生分解性を示し、溶融成形によってペレットが得られることが示されている。
【0014】
特許文献3では、ガスバリア材を得る方法の例示は、濃度10質量%の変性EVOH系樹脂水溶液を基材に塗布し、60℃に熱風乾燥機で乾燥させる方法であって、酢酸ナトリウムの含有量を求めるのに、90℃で2時間以上かけて加熱溶解させた、と記載されていることから、例示の樹脂の曇点は少なくとも90℃を超えるものと考えられるが、重合度との関係は求められていない。
【0015】
特許文献4では、EVOH系樹脂で生分解性とガスバリア性を両立した樹脂として、エチレン構造単位を2.5~16.5mol%有し、さらに側鎖に一級水酸基を特定量有する変性EVOH系樹脂が提案されている。
【0016】
特許文献4の変性EVOH系樹脂は、溶液を塗工してガスバリア材を得ようとしたときに、光線透過率の低い水溶液しか得られなかったり、水とアルコールの混合溶媒を使用しなければならず、水溶液の性質を改善できるような変性EVOH系樹脂、または安定して溶融成形ができるようなEVOH系樹脂が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2000-309607号公報
【特許文献2】特開2000-272970号公報
【特許文献3】国際公開第2022/97718号
【特許文献4】国際公開第2021/235507号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
そこで、本発明は、以上の状況に鑑みてなされたものであり、良好な生分解性と熱安定性を示すとともに、水溶液の曇点がありながらも基材への水溶液塗布または溶融成形による外観不良を防ぎ、高いガスバリア性を高湿度下でも発揮できる変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
しかるに本発明者は、かかる事情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、側鎖に一級水酸基構造単位を有する変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂と、共役ポリエンを0.1ppm以上500ppm以下で含む樹脂組成物であって、前記変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂のエチレン構造単位の含有量が2.5~16.5mol%、ケン化度が98.5mol%を超え、前記変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂を再アセチル化後の変性エチレン-ビニルエステル系共重合体のテトラヒドロフラン溶液の粘度平均分子量から求めた重合度(DPv)が450以上1350以下であり、前記変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂の4質量%水溶液の曇点(Tcp)と前記重合度(DPv)との関係が下記式(i)を満たす、変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂組成物を用いることにより、良好な生分解性と熱安定性を示すとともに、水溶液の曇点がありながらも基材への水溶液塗布または溶融成形による外観不良を防ぎ、高いガスバリア性を高湿度下でも発揮できる変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂組成物となることを見出し、本発明を完成した。
[式] -14×Tcp+1200≦DPv…(i)
【0020】
すなわち、本発明は、以下の態様を有する。
[1]
側鎖に一級水酸基構造単位を有する変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂と、共役ポリエンを0.1ppm以上500ppm以下で含む樹脂組成物であって、
前記変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂のエチレン構造単位の含有量が2.5~16.5mol%、ケン化度が98.5mol%を超え、
前記変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂を再アセチル化後の変性エチレン-ビニルエステル系共重合体のテトラヒドロフラン溶液の粘度平均分子量から求めた重合度(DPv)が450以上1350以下であり、
前記樹脂組成物の4質量%水溶液の曇点(Tcp)と前記重合度(DPv)との関係が下記式(i)を満たす、変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂組成物。
[式] -14×Tcp+1200≦DPv…(i)
[2]
前記変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂の融点(Tm)と前記曇点(Tcp)との間で下記式(ii)を満たす、[1]記載の変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂組成物。
[式] 0.4×Tcp+155≦Tm≦0.2×Tcp+179…(ii)
[3]
前記曇点(Tcp)が15℃以上である、[1]または[2]に記載の変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂組成物。
[4]
前記融点(Tm)が190℃以下である、[2]または[3]記載の変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂組成物。
[5]
[1]~[4]のいずれかに記載の変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂組成物からなる層を有する、ガスバリア材。
[6]
[1]~[4]のいずれかに記載の変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂組成物からなる水溶液を曇点を示さない温度で基材へ塗工する、ガスバリア材の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明の変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂組成物は、良好な生分解性と熱安定性を示すとともに、水溶液の曇点がありながらも基材への水溶液塗布または溶融成形による外観不良を防ぎ、高いガスバリア性を高湿度下でも発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施例2、5、6における曇点の判定に用いた温度と光線透過率の関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明を実施するための形態の例に基づいて本発明を説明する。但し、本発明が、次に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0024】
本発明において「X~Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意とともに、「好ましくはXより大きい」または「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
また、「X以上」(Xは任意の数字)または「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、「Xより大きいことが好ましい」または「Y未満であることが好ましい」旨の意も包含する。
さらに、「xおよび/またはy(x,yは任意の構成)」とは、xおよびyの少なくとも一方を意味するものであって、xのみ、yのみ、xおよびy、の3通りを意味するものである。
【0025】
本発明において「フィルム」とは、「テープ」や「シート」をも含めた意味である。
本発明において「主成分」とは、対象物中の最も多い成分を示し、通常、対象物中の50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、特に好ましくは80質量%以上、殊に好ましくは90質量%以上、殊さらに好ましくは99質量%以上であり、100質量%であってもよい。
【0026】
本発明の一実施形態に係る変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂組成物(以下、「本変性EVOH系樹脂組成物」という場合がある)は、側鎖に一級水酸基構造単位を有する変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂と、共役ポリエンを0.1ppm以上500ppm以下で含む樹脂組成物であって、
前記変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂のエチレン構造単位の含有量が2.5~16.5mol%、ケン化度が98.5mol%を超え、
前記変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂を再アセチル化後の変性エチレン-ビニルエステル系共重合体のテトラヒドロフラン溶液の粘度平均分子量から求めた重合度(粘度平均重合度:DPv)が450以上、1350以下であり、
前記変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂の4質量%水溶液の曇点(Tcp)とDPvとの関係が式(i)を満たすものである。
[式] -14×Tcp+1200≦DPv…(i)
【0027】
本変性EVOH系樹脂組成物は、変性エチレン-ビニルアルコール系樹脂(以下、「EVOH系樹脂」と称することがある)を主成分として含有するものであり、以下、本変性EVOH系樹脂組成物につき、含まれる各成分につき説明する。
【0028】
[変性EVOH系樹脂]
EVOH系樹脂は、通常、エチレンとビニルエステル系モノマーとの共重合体であるエチレン-ビニルエステル系共重合体をケン化させることにより得られる熱可塑性樹脂であり、エチレン構造単位と、ビニルアルコール構造単位を主とし、通常、ケン化されずに残る若干量のビニルエステル構造単位を含むものである。
【0029】
また、本変性EVOH系樹脂組成物に含まれる変性EVOH系樹脂とは、側鎖に一級水酸基構造単位を有するEVOH系樹脂であり、具体的には、下記一般式(1)の構造単位を有するEVOH系樹脂である。
【0030】
【化1】
(式中、R
1~R
3は、それぞれ独立して水素原子または有機基を表し、Xは単結合または結合鎖を示す)
【0031】
R1~R3としては、水素原子または有機基であれば、特に限定されない。上記有機基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、フェニル基、ナフチル基等の炭化水素基(これらの炭化水素基は水酸基、フッ素、塩素、および臭素等を置換基として有してもよい)等が挙げられる。
【0032】
ポリマー主鎖と一級水酸基構造とを結合する結合鎖(X)としては、特に限定されないが、例えば、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、フェニレン、ナフチレン等の炭化水素(これらの炭化水素は水酸基、フッ素、塩素、および臭素等を置換基として有してもよい)、オキシアルキレン、オキシアルケニレン、オキシアルキニレン、オキシフェニレン、オキシナフチレン等のエーテル結合でポリマー主鎖と結合する炭化水素(これらの炭化水素は水酸基、フッ素、塩素、および臭素等を置換基として有してもよい)のほか、-CO-、-CO(CH2)mCO-、-CO(CH2)mCOR4-、-NR5-、-CONR5-等が挙げられる(R4,R5は独立して任意の置換基であり、水素原子またはアルキル基が好ましく、mは自然数を示す)。
【0033】
前記変性EVOH系樹脂を得るためには、例えば、側鎖に一級水酸基を有するモノマーおよび/または側鎖の一級水酸基をエステル等で保護したモノマーをエチレン、およびビニルエステル系モノマーと共重合させた後に、ケン化する方法が挙げられる。
【0034】
以下、変性EVOH系樹脂の製造方法について説明する。
まず、エチレン、ビニルエステル系モノマーおよび、側鎖に一級水酸基を有するモノマーおよび/または側鎖の一級水酸基をエステル等で保護したモノマーを共重合させる。
【0035】
前記ビニルエステル系モノマーとしては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル、トリフルオロ酢酸ビニル等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上を併せて用いてもよい。なかでも、経済的な観点から、酢酸ビニルが好ましい。
【0036】
前記側鎖に一級水酸基を有するモノマーとしては、例えば、アリルアルコール、3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オール、6-ヘプテン-1-オール、メタリルアルコール等のモノヒドロキシアルキル基含有モノマー; 2-メチレン-1,3-プロパンジオール、3,4-ジオール-1-ブテン、4,5-ジオール-1-ペンテン、4,5-ジオール-3-メチル-1-ペンテン、5,6-ジオール-1-ヘキセン、グリセリンモノアリルエーテル等のジヒドロキシアルキル基含有モノマーが挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上を併せて用いてもよい。
【0037】
また、前記側鎖の一級水酸基をエステル等で保護したモノマー(以下、「水酸基をエステル等で保護したモノマー」と称することがある)としては、例えば、上記の側鎖一級水酸基を有するモノマーの酢酸エステル等が挙げられる。具体的には、例えば、酢酸アリル、酢酸3-ブテニル、酢酸4-ペンテニル、酢酸5-ヘキセニル 、酢酸6-ヘプテニル、酢酸メタリル等のモノアセトキシアルキル基含有モノマー;2-メチレン-1,3-プロパンジオールジアセテート、3,4-ジアセトキシ-1-ブテン、4,5-ジアセトキシ-1-ペンテン、4,5-ジアセトキシ-3-メチル-1-ペンテン、5,6-ジアセトキシ-1-ヘキセン、3-アリルオキシ-1,2-プロパンジオールジアセテート等のジアセトキシアルキル基含有モノマー等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上を併せて用いてもよい。
【0038】
側鎖に一級水酸基を有するモノマーと水酸基をエステル等で保護したモノマーを併用して、エチレン、ビニルエステル系モノマーと共重合させることもできる。なかでも、生産性の観点から、水酸基をエステル等で保護したモノマーが好ましく、ジアセトキシアルキル基含有モノマーがより好ましく、3,4-ジアセトキシ-1-ブテン、2-メチレン-1,3-プロパンジオールジアセテートがより好ましく、3,4-ジアセトキシ-1-ブテンが特に好ましい。
【0039】
また、共重合成分として本発明の効果を阻害しない範囲(例えば、共重合成分の10質量%以下)で、共重合可能なエチレン性不飽和単量体を共重合させてもよい。
かかるエチレン性不飽和単量体としては、例えば、プロピレン、1-ブテン、イソブテン等のオレフィン類;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいは炭素数1~ 18のモノまたはジアルキルエステル類;アクリルアミド、炭素数1~18のN-アルキルメタクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、2-アクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩;アクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩類あるいはその4級塩等のアクリルアミド類;メタクリルアミド、炭素数1~18のN-アルキルメタクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、2-メタクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩等のメタクリルアミド類;N-ビニルピロリドン、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド等のN-ビニルアミド類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル類;炭素数1~18のアルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、アルコキシアルキルビニルエーテル等のビニルエーテル類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル類;ビニルシラン類等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上を併せて用いてもよい。
【0040】
これらの共重合反応においては、例えば、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、分散重合、またはエマルジョン重合等、公知の方法を採用することができる。なかでも、共重合制御の容易な溶液重合が好適に用いられる。
【0041】
かかる共重合を溶液重合で実施するとき、用いられる溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ブタノール等の炭素数1~5の低級アルコール、アセトン、2-ブタノン等のケトン類が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上を併せて用いてもよい。なかでも、重合反応の制御容易さからメタノールが好適に用いられる。また、低重合度の共重合体を合成する場合には2-プロパノールが好適に用いられる。
【0042】
上記溶媒の使用量は、目的とする変性EVOH系樹脂の重合度、溶媒の連鎖移動定数を考慮して適宜選択することができる。溶媒がメタノールまたは2-プロパノールのときは、S(溶媒)/M(モノマー)=0.01~10(質量比)が好ましく、0.05~7(質量比)がより好ましい。
【0043】
溶液重合における共重合成分の仕込み方法としては、例えば、初期一括仕込み、分割仕込み、モノマーの反応性比を考慮したHanna法等の連続仕込み等の任意の方法を採用することができる。
【0044】
上記共重合には、重合開始剤が用いられる。かかる重合開始剤としては、例えば、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2'-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系開始剤、過酸化アセチル、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウリル、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、等の過酸化物系開始剤が挙げられる。これらは単独で、もしくは2種以上を併せて用いてもよい。
【0045】
上記重合開始剤の使用量は、目的とするEVOH系樹脂の重合度、重合開始剤の種類により異なるために一概には決められないが、重合速度に応じて任意に選択される。例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、t-ブチルパーオキシネオデカノエートを用いる場合、ビニルエステル系モノマーに対し、通常、10~2000ppmであり、好ましくは50~1000ppmである。
【0046】
共重合の重合温度は、使用する溶媒やエチレン圧力に応じて、40℃から沸点までの範囲から選択することが好ましい。
【0047】
また、共重合時に、本発明の効果を阻害しない範囲で、連鎖移動剤の存在下で共重合させてもよい。連鎖移動剤としては、例えば、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、クロトンアルデヒド等のアルデヒド類;2-ヒドロキシエタンチオール等のメルカプタン類等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上を併せて用いてもよい。共重合時の連鎖移動剤の添加量は、連鎖移動剤の連鎖移動定数および目的とする変性EVOH系樹脂の重合度に応じて決定されるが、一般に、ビニルエステル系モノマー100質量部に対して0.1~10質量部が好ましい。
【0048】
エチレン-ビニルエステル系共重合体の重合度は、重合過程における重合方法、溶液重合におけるモノマー濃度(上述のS(溶媒)/M(モノマー)比)、ビニルエステル系モノマーと他のモノマーの比、特に、ビニルエステル系モノマーと側鎖に一級水酸基を有するモノマーまたは水酸基をエステル等で保護したモノマーの比、重合開始剤の使用量、連鎖移動剤の使用量、重合率によって制御することができる。一般的には、モノマー濃度が高いほど、ビニルエステル系モノマーと他のモノマーの比において他のモノマーが少ないほど、重合開始剤の使用量が少ないほど、連鎖移動剤の使用量が少ないほど、重合率が小さいほど、重合度は高くなる傾向にある。
【0049】
共重合成分を共重合させた後は、反応を確実に停止させるために、重合禁止剤としてソルビン酸等の共役ポリエンを添加することも好ましい。
この共役ポリエンは、後述する変性EVOH系樹脂を洗浄するとき、洗浄用内に溶解するために、洗浄とともに含有量が減少するのであるが、洗浄方法を制御することにより、変性EVOH系樹脂中の現有量を制御することができる。
好ましい共役ポリエンの構造、添加量、作用機構の推定については、後述する。
【0050】
こうして得られたエチレン-ビニルエステル系共重合体をケン化することによりEVOH系樹脂を得ることができる。また、ケン化を行う前に、加熱等により、溶液中に残存する未反応のビニルエステル系モノマーの含有量を減少させることが、得られる変性EVOH系樹脂組成物の着色抑制の観点から好ましい。上記ケン化方法は公知の方法を採用でき、例えば、上記で得られたエチレン-ビニルエステル系共重合体をアルコールまたは含水アルコールに溶解した状態で、ケン化触媒を添加して行われる。
【0051】
上記アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等の炭素数 1~5の低級アルコールが挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上を併せて用いてもよい。なかでもメタノールが好ましい。
アルコール中のエチレン-ビニルエステル系共重合体の濃度は、粘度により適宜選択され、通常、5~60質量%である。
【0052】
上記ケン化触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート、カリウムエチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラート等のアルカリ触媒;硫酸、塩酸、硝酸、メタスルホン酸等の酸触媒が挙げられ、好ましくは、水酸化ナトリウム、ナトリウムメチラート等のナトリウムの水酸化物やアルコラートが挙げられる。
【0053】
ケン化を行う温度は限定されないが、20~140℃の範囲が好適である。ケン化の進行に従って粒子状物が生成し、反応が進行したことが分かる。このとき、ゲル状の生成物が析出してくる場合には、生成物を粉砕すればよい。生成した粒子状物を洗浄、乾燥させて、変性EVOH系樹脂を得ることができる。水酸基をエステル等で保護したモノマーを共重合させた場合、上記ケン化反応により、保護したモノマーのエステル等も同時に脱保護され、側鎖一級水酸基に変換される。
【0054】
例えば、共重合成分として、3,4-ジアセトキシ-1-ブテンを用いた場合、ケン化により脱保護して得られる変性EVOH系樹脂は、下記一般式(2)で表される一級水酸基を側鎖に有する。
【0055】
【0056】
また、共重合成分として、2-メチレン-1,3-プロパンジオールジアセテートを用いた場合、ケン化により脱保護して得られる変性EVOH系樹脂は、下記一般式(3)で表される一級水酸基を側鎖に有する。
【0057】
【0058】
変性EVOH系樹脂のケン化度を高めるために、二次ケン化として、一旦生成した粒子状物から洗浄等により副生成物(ビニルエステル系モノマーとして酢酸ビニル、ケン化時の溶媒としてメタノールを使用したときには、酢酸メチル)を除いた後に、再度アルコール等に分散させ、アルカリ触媒等を追加して、さらに反応させることも好ましい。
【0059】
なお、変性EVOH系樹脂では、ケン化反応において、完全に脱保護されず、少量のエステル基が残存してもよく、側鎖の保護基も完全には脱保護されずに少量のエステル基が残存してもよい。
【0060】
ケン化反応終了後、必要に応じて、アルカリ触媒または酸触媒を中和し、固液分離した後、洗浄、乾燥させることにより、EVOH系樹脂が得られる。
【0061】
<変性EVOH系樹脂の物性>
変性EVOH系樹脂におけるエチレン構造単位の含有量は2.5~16.5mol%であり、好ましくは5~16mol%であり、より好ましくは7~15mol%である。
エチレン構造単位の含有量が少なすぎると、樹脂中の水酸基が多いために高湿度下では水分が水酸基に相互作用する余地が多くなって、ガスバリア性の発揮が難しくなる欠点がある。また、溶融成形をしようとする場合には、変性EVOH系樹脂の融点が高くなって分解しやすくなる傾向がある。
また、エチレン構造単位の含有量が多すぎると、低湿度ではガスバリア性が低下し、生分解性が低下する傾向がある。また、好ましい曇点となるような樹脂設計が難しくなる欠点がある。
上記変性EVOH系樹脂のエチレン構造単位の含有量は、共重合時のエチレン圧力を調整することで制御することができる。
【0062】
変性EVOH系樹脂が側鎖に有する一級水酸基構造単位(以下「側鎖一級水酸基構造単位」と称することがある)の含有量は、通常2.5mol%以上、好ましくは2.5~10mol%、特に好ましくは3~6mol%、さらに好ましくは3~4.5mol%である。
側鎖一級水酸基構造単位の含有量は、共重合モノマーとして用いる、側鎖に一級水酸基を有するモノマーまたは上記水酸基をエステル等で保護したモノマーの仕込み量によって制御することができる。
【0063】
側鎖一級水酸基構造単位は、その構造単位の含有量が増えるほど、変性EVOH系樹脂の融点を低下させる効果がある。また、変性EVOH系樹脂の水溶液で、エチレン構造単位のために水溶性が乏しくなって、ビニルアルコール構造単位の水酸基同士が相互作用しやすくなるような範囲において、高温で水溶液中の分子運動が激しい時でも、溶媒の水との相互作用を確保するために特に有効な構造単位であって、そのために、曇点を制御することができる。
【0064】
側鎖一級水酸基構造単位の含有量が少なすぎると、変性EVOH系樹脂の融点を低下させる効果が少なく、溶融成形時には分解しやすくなる傾向があり、水溶液作製時には曇点が低くなりすぎて、基材への塗工温度を低くしなければならず、不利な傾向になる。
また、側鎖一級水酸基構造単位の含有量が多すぎると、水との親和性が高くなることから、高湿度下でのガスバリア性確保が難しくなる傾向や、製造時に側鎖に一級水酸基を有するモノマーおよび/または側鎖の一級水酸基をエステル等で保護したモノマーを多く使用する必要があり、製造コストが高くなる傾向がある。
【0065】
変性EVOH系樹脂のケン化度は、98.5mol%を超えるものであり、好ましくは98.7mol%以上99.9mol%未満、好ましくは、99.0mol%以上99.8mol%未満である。ケン化度が低すぎると、特に、高湿度下でのバリア能が低くなる傾向にある他、保香性、耐溶剤性、耐油性が低下する傾向にある。ケン化度が高すぎると、製造時に厳しい条件を用いる必要があり、価格が高くなる傾向がある。
【0066】
変性EVOH系樹脂の含有量は、本変性EVOH系樹脂組成物に対して、通常80質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上である。
【0067】
変性EVOH系樹脂の重合度は、該樹脂を再アセチル化後の変性エチレン-ビニルエステル系共重合体のテトラヒドロフラン溶液の粘度平均分子量から求めた重合度(粘度平均重合度:DPv)として、450以上1350以下であり、好ましくは500以上1250以下、より好ましくは600以上1200以下である。上記重合度(DPv)は、実施例記載の方法により求められる。
【0068】
前記DPvが低すぎると、樹脂の分子間の絡み合いが少なくなるためにガスバリア材が脆くなる傾向にあることから、好ましくない。
また、DPvが高すぎると、重合度が高いために水溶液を基材に塗布するときには粘度が高すぎてスジが入りやすい傾向があり、溶融成形時には粘度が高すぎて、成形機に負荷がかかる傾向があり、いずれも好ましくない。
【0069】
[共役ポリエン]
本変性EVOH系樹脂組成物は、変性EVOH系樹脂とともに共役ポリエンを含有する。
前記共役ポリエンは、2個の炭素-炭素二重結合と1個の炭素-炭素単結合が交互に繋がってなる構造である共役ジエン、3個の炭素-炭素二重結合と2個の炭素-炭素単結合が交互に繋がってなる構造である共役トリエン、あるいはそれ以上の数の炭素-炭素二重結合と炭素-炭素単結合が交互に繋がってなる構造である共役ポリエンであってもよい。
【0070】
ただし、共役する炭素-炭素二重結合の数が8個以上になると共役ポリエン自身の色により成形物が着色する傾向があるため、共役する炭素-炭素二重結合の数は7個以下であることが好ましい。また、2個以上の炭素-炭素二重結合からなる上記共役二重結合が互いに共役せずに1分子中に複数組あってもよい。例えば、桐油のように共役トリエンが同一分子内に3個ある化合物も共役ポリエンに含まれる。
【0071】
具体的な共役ポリエンとしては、例えば、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3- ブタジエン、2,3-ジエチル-1,3-ブタジエン、2-t-ブチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ペンタジエン、2,4-ジメチル-1,3-ペンタジエン、3,4-ジメチル-1,3-ペンタジエン、3-エチル-1,3-ペンタジエン、2-メチル-1,3-ペンタジエン、3-メチル-1,3-ペンタジエン、4-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、2,4-ヘキサジエン、2,5-ジメチル-2,4-ヘキサジエン、1,3-オクタジエン、1,3-シクロペンタジエン、1,3-シクロヘキサジエン、1-フェニル-1,3-ブタジエン、1,4-ジフェニル-1,3-ブタジエン、1-メトキシ-1,3-ブタジエン、2-メトキシ-1,3-ブタジエン、1-エトキシ-1,3-ブタジエン、2-エトキシ-1,3-ブタジエン、2-ニトロ-1,3-ブタジエン、クロロプレン、1-クロロ-1,3-ブタジエン、1-ブロモ-1,3-ブタジエン、2-ブロモ-1,3-ブタジエン、フルベン、トロポン、オシメン、フェランドレン、ミルセン、ファルネセン、センブレン、ソルビン酸、ソルビン酸エステル、ソルビン酸塩、アビエチン酸等の炭素-炭素二重結合2個の共役構造よりなる共役ジエン;1,3,5-ヘキサトリエン、2,4,6-オクタトリエン-1-カルボン酸、エレオステアリン酸、桐油、コレカルシフェロール等の炭素-炭素二重結合3個の共役構造からなる共役トリエン;シクロオクタテトラエン、2,4,6,8-デカテトラエン-1-カルボン酸、レチノール、レチノイン酸等の炭素-炭素二重結合4個以上の共役構造からなる共役ポリエン等が挙げられる。なお、1,3-ペンタジエン、ミルセン、ファルネセンのように、複数の立体異性体を有するものについては、そのいずれを用いてもよい。かかる共役ポリエンは単独でもしくは2種類以上を併せて用いてもよい。
【0072】
これらのうち、共役ポリエンとしては、ソルビン酸、ソルビン酸エステル、およびソルビン酸塩からなる群から選択される少なくとも一つが好ましく、ソルビン酸が特に好ましい。これらの共役ポリエンは、EVOH系樹脂の製造において、共重合反応停止時に添加する重合禁止剤として使用することができる。これらの共役ポリエンを重合禁止剤として使用した場合、重合を確実に停止させることができ、取り扱い性に優れる傾向がある。また、これらの共役ポリエンは、変性EVOH系樹脂組成物に後から所定量添加する場合、取り扱い性に優れる傾向がある。
【0073】
共役ポリエンの含有量は、変性EVOH系樹脂組成物に対して0.1以上500ppm以下であり、好ましくは0.2~400ppm、より好ましくは0.2~20ppm、さらに好ましくは0.2~10ppm以下、特に好ましくは0.2~5ppmである。共役ポリエンの含有量が少なすぎると、変性EVOH系樹脂組成物の熱安定性が悪くなる傾向があり、例えば、後述する溶融成形によってガスバリア材を得るとき、長時間運転時にゲルやブツの発生しやすくなる傾向がある。また、共役ポリエンの含有量が多すぎると、ガスバリア性や生分解性が低下する傾向がある。
【0074】
また、共役ポリエンは適切な曇点を示すのにも寄与するものと考えられる。その作用機構は確かではないが、共役ポリエン中の共役二重結合が変性EVOH系樹脂のエチレンユニットと相互作用し、樹脂の疎水基部分の分子間相互作用を適度に阻害するために、かえって、水酸基間では分子間相互作用しやすくなって、分子運動が激しくなると凝集しやすくなるため、と考えられる。
また、共役ポリエンとして、ソルビン酸を用いた場合、水溶液の腐敗防止に寄与できる利点がある。
【0075】
[他の成分]
本変性EVOH系樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲(例えば、本変性EVOH系樹脂組成物の10質量%以下)で、変性EVOH系樹脂、共役ポリエン以外に、他の成分を配合することができる。上記他の成分としては、例えば、変性EVOH系樹脂以外の他の熱可塑性樹脂、可塑剤、滑剤、安定材、界面活性剤、色剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、乾燥剤、架橋剤、金属塩、充填剤、各種繊維等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上を併せて用いてもよい。
【0076】
[本変性EVOH系樹脂組成物の製造方法]
本変性EVOH系樹脂組成物は、前記変性EVOH系樹脂、共役ポリエン、必要に応じて他の成分を混合することにより製造されるが、製造方法としては、例えば、ドライブレンド法、溶融混合法、溶液混合法、含浸法等の公知の方法が挙げられ、これらを任意に組み合わせることも可能である。
また、前記共役ポリエンは、前述のとおり、変性EVOH系樹脂の製造中に重合禁止剤として用いることにより、変性EVOH系樹脂に含有させてもよい。
【0077】
<本変性EVOH系樹脂組成物>
このようにして得られる本変性EVOH系樹脂組成物は、4質量%水溶液の曇点(Tcp)と、変性EVOH系樹脂を再アセチル化後の変性エチレン-ビニルエステル系共重合体のテトラヒドロフラン溶液の粘度平均分子量から求めた重合度(粘度平均重合度:DPv)との関係が下記式(i)を満たすものである。
[式] -14×Tcp+1200≦DPv…(i)
【0078】
ここで、曇点(Tcp)とは、JIS K-6726において水溶液の透明度を求める方法に準拠し、濃度4質量%の水溶液の430nmにおける透過率を分光光度計で測定するにあたり、20℃未満で透過率が80%以上である温度から1℃/分の昇温速度で90℃まで加熱しながら測定したとき、透過率が50%以下になる温度のことを指す。
【0079】
粘度平均重合度DPvを指標として用いる意義について考える。
ガスバリア性と関係深いのは、非晶部分の分子鎖の動きやすさであるが、分子鎖の動きやすさは樹脂分子内の水素結合の維持と、絡み合いの寄与が大きいと考えられる。このような樹脂分子の絡み合いを反映する指標として、分子量が好ましい。
ここで、樹脂の分子量を反映する指標として、サイズ排除クロマトグラフィーによって求められる数平均分子量、粘度平均分子量、重量平均分子量があり、その原理と求め方はJIS K7252-2に規定されている。そのなかでも、樹脂1本1本の性質を反映する数平均分子量よりも、樹脂同士の絡み合った状態を反映する粘度平均分子量を指標とすることが好ましい。
【0080】
サイズ排除クロマトグラフィーによって粘度平均分子量を求める方法を述べる。すなわち、変性EVOH系樹脂を再アセチル化して得た変性エチレン-ビニルエステル系樹脂について、そのテトラヒドロフラン溶液のサイズ排除クロマトグラフィーを測定して、それからJIS K7252-2に準拠することによって粘度平均分子量が求められる。粘度平均分子量を求めるのに必要な、マーク・ホーウィンク・桜田式におけるKおよびαとして、同規格の附属書Bにポリ酢酸ビニルのテトラヒドロフラン中の値として示されている、K=3.5×102cm3/g、α=0.63を用いて算出した値を用いることができる。
再アセチル化は、実施例に示す方法により実施できる。
【0081】
分子量と重合度の関係については、本発明のように複数の単量体単位が共重合されてなる共重合体の場合、共重合体の各単量体単位の含有率から繰り返し単位当たりの平均分子量を求め、その平均分子量で、サイズ排除クロマトグラフィーによって求められる分子量を割ることで、重合度に換算することができる。実施例に換算方法の例を示す。
【0082】
上述の再アセチル化においては、水酸基のアセチル化反応のみが起きると考えられ、変性EVOH系樹脂の重合度は再アセチル化の前後では変化しないと考えられることから、このようにして求めた変性エチレン-ビニルエステル系樹脂の粘度平均重合度は、そのまま変性EVOH系樹脂の粘度平均重合度を示すと考えられる。
【0083】
ここで、粘度平均重合度をJIS K6726に示されるような、水溶液の水との相対粘度を30.0℃にて測定する方法で求めようとすると、曇点が30℃未満の変性EVOH系樹脂は重合度を求めることができない欠点がある。しかし、本発明のようにエチレン-ビニルエステル系共重合体の粘度平均分子量を指標とすることにより、JIS K6726に示されるようなEVOH系樹脂の水溶液について測定される粘度平均重合度との比較が必要な場合に、水溶液が30℃未満の曇点を示す場合でも、基準が一致し、比較が容易になる利点がある。
【0084】
先にも述べたように、水溶液の曇点は、ケン化度が低いほど、重合度が高いほど、エチレン含有量が高いほど、曇点が低下することが報告されている。また、ポリビニルアルコール水溶液では、水溶液濃度や、酢酸ナトリウム等の塩濃度にも依存することが知られている。
【0085】
ガスバリア性、特に高湿度下でのガスバリア性を発揮するには、特定範囲のケン化度、重合度、エチレン構造単位の含有量であることが好ましく、好ましいガスバリア性を示す変性EVOH系樹脂の曇点と粘度平均重合度の関係を追及したところ、式(i)を満たす範囲のものが好ましいことが分かった。
【0086】
水溶液の曇点が樹脂の重合度が高いほど低下する、とは、水溶液中での樹脂分子の絡み合いが高重合度ほど高く、樹脂分子は高重合度ほど動きにくく、樹脂末端の寄与が高重合度ほど低下することと関係があり、水溶液中での分子運動が、温度上昇とともに活発になると、樹脂分子内で水素結合を形成しやすく、溶媒の水分子は樹脂の水酸基との相互作用の機会を失う傾向と関係あるものと考えられる。重合度の制御方法については、既に述べた。
【0087】
高湿度下でのガスバリア性を改善するには、湿度に依存して多く存在する水分子が存在する条件でも変性EVOH系樹脂の水酸基同士の相互作用が強い方が好ましいと考えられ、すなわち、適切な範囲の曇点を示す樹脂が好ましいと考えられる。
【0088】
水溶液が曇点を示す樹脂とは、分子内水酸基同士の水素結合が水溶液の水分子との相互作用より強くなる点を示す樹脂ということである。したがって、水溶液が曇点を示す樹脂をガスバリア材として用いることにより、高湿度条件では、むしろ分子内水酸基同士の水素結合が強固になって、湿度由来の水の影響を抑制して、高いガスバリア性発揮できると考えられる。ガスバリア層は均一な外観でないと商品価値に劣り、また、ガスバリア性を発揮しにくいから、曇点を示さない条件で基材にガスバリア層を形成する必要がある。そのための方法は、溶融成形に依るのでも、曇点以下の温度で水溶液を塗布、乾燥することに依るのでも構わない。本変性EVOH系樹脂組成物は、このような曇点を示すような樹脂を用いて、高湿度条件でもバリア性の高いガスバリア材を示す材料を見出したものである。
【0089】
変性EVOH系樹脂(または樹脂組成物)の4質量%水溶液の曇点(Tcp)は、15℃以上が好ましく、より好ましくは25℃以上であり、さらに好ましくは30℃以上である。
水溶液を基材に塗布してガスバリア材を形成させる場合、良好な外観のガスバリア材を得るには、塗布時に均一な水溶液であることが好ましいことから、例えばTcp<15℃の範囲では、塗布時の温度を15℃未満にしなければならず、かかる制限は好ましくない傾向がある。
また、水に不溶の変性EVOH系樹脂については、水酸基同士の相互作用が強いためガスバリア性発揮に好ましいとも言えるが、生分解性を発揮させるための菌の接近が困難で、生分解性が低くなることから好ましくない。
【0090】
また、Tcp<70℃がさらに好ましい。この範囲とすることにより、ガスバリア材として使用するときに、高湿度下において外部環境の水分子が多く存在する条件であっても、変性EVOH系樹脂間での水素結合がしっかり保たれて、ガスバリア性が発揮しやすい利点がある。
【0091】
前記式(i)を満たさないような、「DPv<-14×Tcp+1200」の範囲では、重合度が低すぎて樹脂の末端が多すぎたり、分子の絡み合いが少なすぎて、湿度由来の水との相互作用が増え、高湿度下でのガスバリア性発揮には好ましくなかったり、エチレン構造単位や側鎖一級水酸基構造単位の導入量のバランスが悪くて、水との相互作用が悪く、ガスバリア材の外観が不良になったりすることから好ましくない。
【0092】
このようなDPvを有する変性EVOH系樹脂を得るための、ひいてはこのようなDPvを有するエチレン-ビニルエステル系共重合体を得るための、重合過程における重合方法、溶液重合におけるモノマー濃度、重合開始剤の使用量、連鎖移動剤の使用量によって制御することについては既述した。
【0093】
さらにTcpは、変性EVOH系樹脂の融点(Tm)との関係において、下記式(ii)を満たすことが好ましい。
[式] 0.4×Tcp+155≦Tm≦0.2×Tcp+179…(ii)
【0094】
EVOH系樹脂の融点は、既述のように、エチレン構造単位の含有量とケン化度により制御することができる。さらに、融点は側鎖一級水酸基構造単位の含有量によっても制御できるほか、重合度の影響も少し受ける。
【0095】
「Tm<0.4×Tcp+155」の範囲では、高湿度下でのガスバリア性を発揮できなかったり、溶融成形時にガスバリア材を得るのに十分な冷却が必要で時間がかかったりする傾向があり好ましくない。
一方、「0.2×Tcp+179<Tm」の範囲では、溶融成形時融点が高すぎるため、変性EVOH系樹脂が分解しやすくなる傾向があり好ましくない。
【0096】
さらに、変性EVOH系樹脂の融点(Tm)の上限としては、Tm≦190℃が好ましい。融点が高すぎると、溶融成形によりガスバリア材を得ようとするとき、変性EVOH系樹脂が分解しやすくなる傾向があり好ましくない。また、エチレン構造単位の導入量が少なすぎて、高湿度下でのガスバリア性に劣る傾向があったり、または側鎖一級水酸基構造単位の導入量が少なすぎるために水溶液を塗工してガスバリア材を作製しようとするときには、曇点が低くなりすぎて塗工条件が制限されやすい傾向がある。
【0097】
本変性EVOH系樹脂組成物の生分解度は、30%以上であることが好ましく、35%以上であることがより好ましく、40%以上であることが特に好ましい。なお、上記生分解度は、JIS K6950に記載された方法を参考にし、実施例に記載の方法から求められる。
【0098】
本変性EVOH系樹脂組成物は、フィルム状とすることにより、延伸フィルムや食品包材等のガスバリア材として好適に用いることができる。特に、本変性EVOH系樹脂組成物は曇点を示すことから、高湿度下においても、変性EVOH系樹脂間の水素結合は、湿度由来の水分子からの影響は受けにくいことから、高いバリア性を発現しやすい特徴がある。
【0099】
[ガスバリア材の製造方法]
本変性EVOH系樹脂組成物をガスバリア材とする方法としては特に制限されないが、例えば、(i)本変性EVOH系樹脂組成物の水溶液を基材樹脂のフィルムに塗工、乾燥して変性EVOH系樹脂組成物からなる層を形成してガスバリア材とする方法、(ii)本変性EVOH系樹脂組成物を溶融成形してガスバリア材とする方法等が好ましく挙げられる。
【0100】
上記(i)の方法において、変性EVOH系樹脂組成物の水溶液とするときに、水以外の水と親和性のある溶媒を併用してもよい。このような溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール等の炭素数1~5の低級アルコールが挙げられる。昨今の揮発性有機化合物(VOC)排出規制に対応させるために、水だけを用いることも好ましい。水だけを用いるとき、曇点(Tcp)以下の温度で塗布することが好ましい。
【0101】
また、変性EVOH系樹脂組成物水溶液中の固形分濃度は、通常0.5~30質量%、好ましくは4~20質量%である。
上記変性EVOH系樹脂組成物水溶液を塗工する方法としては、例えば、バーコーター、ロールコーティング、ダイコーティング、グラビアコーティング、コンマコーティング、スクリーン印刷等公知の方法が挙げられる。なかでもバーコーターが好ましい。
【0102】
また、変性EVOH系樹脂組成物からなる水溶液の基材への塗工温度は、外観不良抑制の点から曇点(Tcp)を示さない温度であることが好ましい。
【0103】
塗工後、流動性がなくなるまで塗布温度で水を除いてから、例えば60~105℃、0.5~10分間加熱処理等により乾燥させることにより、変性EVOH系樹脂からなるガスバリア材を得ることができる。
【0104】
また、上記(ii)の方法における溶融成形方法としては、例えば、押出成形、射出成形、インフレーション成形、プレス成形、ブロー成形等が挙げられる。この場合、水溶液の曇点とは関係なくガスバリア材を製造する条件を選ぶことができる。
【0105】
このようにして本変性EVOH系樹脂組成物からなる層を有するガスバリア材が得られる。上記ガスバリア材は、単層構造のガスバリア材としてもよいし、多層構造のガスバリア材としてもよいが、多層構造とすることが好ましい。上記多層構造のバリア材は、本変性EVOH系樹脂組成物からなる層を少なくとも一層有することが好ましい。また、上記多層構造のガスバリア材は、本変性EVOH系樹脂組成物からなる層を積層してもよいし 、他の基材樹脂と積層させてもよい。
【0106】
上記基材樹脂としては、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン-プロピレン(ブロックおよびランダム)共重合体、エチレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体等のポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン、プロピレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体等のポリプロピレン系樹脂、ポリブテン、ポリペンテン、ポリ環状オレフィン系樹脂(環状オレフィン構造を主鎖および側鎖の少なくとも一方に有する重合体)等の(未変性)ポリオレフィン系樹脂や、これらの ポリオレフィン類を不飽和カルボン酸またはそのエステルでグラフト変性した不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂等の変性オレフィン系樹脂を含む広義のポリオレフィン系樹脂、アイオノマー、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体 、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂(共重合ポリアミドも含む)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル系樹脂、ポリスチレン、ビニルエステル系樹脂、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等のハロゲン化ポリオレフィン、芳香族または脂肪族ポリケトン類等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いてもよい。また、これらの基材樹脂は、コロナ処理等の表面処理を行ってもよい。
【0107】
本変性EVOH系樹脂組成物からなる層の厚みは、通常1~200μm、好ましくは1~100μm、より好ましくは1~50μmである。なお、上記ガスバリア材が多層構造である場合は、ガスバリア材に含まれる全ての本変性EVOH系樹脂組成物からなる層の厚みを合計したものである。
【0108】
また、本変性EVOH系樹脂組成物からなる層の酸素透過度は、23℃65%RHの環境下で、3(cc・3μm/m2・day・atm)以下であることが好ましく、より好ましくは2.9(cc・3μm/m2・day・atm)以下、さらに好ましくは2.5(cc・3μm/m2・day・atm)以下、特に好ましくは2(cc・3μm/m2・day・atm)以下である。下限値は通常0(cc・3μm/m2・day・atm)である。また、上記酸素透過度は、酸素透過度測定装置により求めることができる。
【実施例0109】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中、「部」、「%」とあるのは、質量基準を意味する。
【0110】
EVOH系樹脂またはEVOH系樹脂組成物における各構造単位の含有率の算出、融点、曇点、粘度平均重合度、共役ポリエンの含有量、熱安定性試験、生分解度の測定方法を下記に示す。
【0111】
[各単量体単位の含有率、ケン化度の算出]
(側鎖一級水酸基構造単位として、1,2-ブタンジオール構造を有している共重合体の場合)
・1H-NMR測定:
EVOH系樹脂約50mgをバイアル瓶に秤量し、重水素化ジメチルスルホキシド1mLを加え、加熱撹拌することで溶解させた。目視で溶解を確認してから、重水素化トリフルオロ酢酸を、パスツールピペットを用いて10滴程度滴下して、測定溶液を作製した。これをブルカー社製核磁気共鳴装置Ascend 400を用い、50℃で測定した。
δ0.9~1.9ppm、δ1.9~2.0ppm、δ3.15~4.15ppmの積分値をそれぞれa、b、cとした。
・13C-NMR測定:
EVOH系樹脂約200mgをバイアル瓶に秤量し、重水素化ジメチルスルホキシド1mLを加え、80℃で加熱撹拌することで溶解させた。目視で溶解を確認してから、これをブルカー社製核磁気共鳴装置Ascend 400を用い、90℃で測定した。
δ64.0~75.0ppmの積分値をδ63.2~64.0ppmの積分値で除した値をdとした。
EVOH系樹脂のエチレン構造単位、ビニルアルコール構造単位、1,2-ブタンジオール構造単位、未ケン化のアセチル基に由来する構造単位をそれぞれ、E、V、D、Aとすると、上記a~dの4変数のうち、
d=(V+A)/D+1と考えられることから、
・A=b/3
・V={[c×(d-1)]-b}/(d+2)
・D=(V+A)/(d-1)
・E=[a-(2×V)-(3×D)-(2×A)]/4
と求められて、それを百分率に換算し直すことで、各構造単位の含有率を求めた。
【0112】
(側鎖一級水酸基構造単位として、1,3-プロパンジオール構造を有している共重合体の場合)
まず、共重合後、ケン化前のエチレン-ビニルエステル-1,3-プロパンジオールジアセテート共重合体について、1H-NMRを測定して、エチレン、ビニルエステル、1,3-プロパンジオールジアセテートの比を求めておき、それらの比をそのまま、ケン化反応後のエチレン、ビニルアルコール、1,3-プロパンジオールの比とした。ケン化度については、ビニルエステルと1,3-プロパンジオールジアセテートのアセチル基は同じモル比でケン化されたものと仮定して、ケン化度を求めた。
すなわち、共重合終了後にエチレン-ビニルエステル-1,3-プロパンジオールジアセテート共重合体のメタノール溶液を少量サンプリングし、イオン交換水中でエチレン-ビニルエステル-1,3-プロパンジオールジアセテート共重合体を析出させた。この析出物を60℃減圧で乾燥させることにより、エチレン-ビニルエステル-1,3-プロパンジオールジアセテート共重合体乾燥品を得た。この乾燥品約50mgをバイアル瓶に秤量し、重水素化ジメチルスルホキシド1mLを加え、加熱撹拌することで溶解させた。これをブルカー社製核磁気共鳴装置Ascend 400を用い、50℃で測定した。
δ0.6~1.0ppm、δ1.0~1.85ppm、δ3.7~4.1ppm、δ4.4~5.3ppm、の積分値をそれぞれx、y、z、wとした。エチレン、ビニルエステル、1,3-プロパンジオールジアセテート各構造単位の含有量をそれぞれ、a、b、c(モル%)としたとき、下記により求めた。
・a=(2x+2y-z-4w)/(2x+2y+z+4w)×100
・b=8w/(2x+2y+z+4w)×100
・c=2z/(2x+2y+z+4w)×100
ケン化度は、ケン化後のEVOH樹脂について1H-NMRを測定して求めた。すなわち、EVOH系樹脂約50mgをバイアル瓶に秤量し、重水素化ジメチルスルホキシド1mLを加え、加熱撹拌することで溶解させた。目視で溶解を確認してから、重水素化トリフルオロ酢酸を、パスツールピペットを用いて10滴程度滴下して、測定溶液を作製した。これをブルカー社製核磁気共鳴装置Ascend 400を用い、80℃で測定した。
δ1.85~2.1ppmの残酢酸ビニル単位のメチルプロトンと、δ3.15~4.15ppmのビニルアルコール単位のメチンプロトン積分比から求めた。
【0113】
[融点]
示差走査熱量分析計(TA Instrument社製「Q2000」)を用い、JIS K7121において、一定の熱処理を行った後融解温度を測定する方法に準じて求めた融解ピーク温度を融点とした。具体的には、-50℃から250℃まで10℃/分の速度にて加熱し、融解させた後、10℃/分の速度にて-50℃まで冷却し、再度-50℃から250℃まで10℃/分の速度にて加熱した際の2度目の加熱時の融解ピークの頂点の温度を融点として求めた。
【0114】
[曇点]
曇点は以下のように測定した。
すなわち、EVOH系樹脂(または樹脂組成物)を4質量%水溶液が得られるように水と混合し、一旦95℃まで加熱し、その後、10℃まで冷却した。
このとき、不溶分が観察されたり、濁りが見られたものについては、「水に不溶」と判定し、以降の光線透過率測定は行わなかった。
得られた不溶分や濁りが観察されない水溶液について、日本分光社製V-750型分光光度計と、付属の温度変化測定プログラムを用い、430nm、光路長10mmでの光線透過率をその透過率が80%以上である温度か20℃のいずれか低い温度から1℃/分の昇温速度で加熱しながら測定し、光線透過率が1%以下となってからさらに15℃以上高温になるまで測定した。この測定において光線透過率が50%となる温度を曇点とした。
90℃まで加熱しても光線透過率が50%超であったときは、曇点が観察されなかったものとし、曇点「なし」と判定した(表2に記載)。
4質量%水溶液の430nmでの光線透過率を測定することは、JIS K6726におけるポリビニルアルコール水溶液の透明度測定方法に対応する。
【0115】
[粘度平均重合度]
EVOH系樹脂を無水酢酸とピリジンによって再アセチル化して得た、EVOH系樹脂について、そのテトラヒドロフラン溶液のサイズ排除クロマトグラフィーを測定して、それをJIS K7252-2に準拠して処理することによって求めた。
具体的には、まず、EVOH系樹脂の再アセチル化を以下の手順で行った。
EVOH系樹脂0.5gを氷酢酸4.0g、無水酢酸4.0g、ピリジン0.5gの混合溶媒に分散させ、130℃で溶解させた後、さらに、130℃で、ときどきかき混ぜつつ3時間反応させた。反応終了後、冷却して、反応混合物をポリテトラフルオロエチレン製シート上に移し、室温(23℃)で2日間風乾させてフィルム状にした。このフィルムを60℃の真空乾燥器に入れ、ときどき表裏を返しつつ揮発成分を除いて、再アセチル化物を得た。
ついで、その再アセチル化物のサイズ排除クロマトグラフィーを測定する。
上記のようにして、得られた再アセチル化物、すなわち、エチレン-ビニルエステル系共重合体のテトラヒドロフラン(THF)0.5%溶液を高速液体クロマトグラフ(Waters社製ACQUITY APC システム)に、カラム:ACQUITY APC XT450を1本、ACQUITY APC XT200を1本、ACQUITY APC XT45を2本の計4本を直列にして用いた系に注入し、示差屈折率検出器を用いて、溶出時間と、そのときのシグナル強度を記録した。分子量は、標準ポリスチレンにより、校正した。また、粘度平均分子量を求めるための、マーク・ホーウィンク・桜田式におけるKおよびαとしては、JIS K7252-2 附属書Bにおいて、ポリ酢酸ビニルのテトラヒドロフラン中での値として示されている、K=3.5×102cm3/g、α=0.63を使用した。
こうして得られた粘度平均分子量Mvについて、以下の式により、粘度平均重合度DPvに換算した。
[式] DPv=Mv×100/[(28×a)+(44×b)+(X×c)]
a、b、cは、既述のNMRから求めた。それぞれエチレン構造単位、ビニルアルコール構造単位、側鎖一級水酸基構造単位の含有率(百分率)である。Xは側鎖一級水酸基構造単位の分子量であって、前記一般式(2)または(3)の構造単位の場合は、いずれも88である。
【0116】
[共役ポリエンの含有量]
共役ポリエンがソルビン酸の場合、含有量は以下のようにして求めた。
樹脂組成物を凍結粉砕し、200mgを精秤した。これに3.5mLのメタノールを加えて分散させてから、水1.5mLを添加した。さらにメタノール/水=7/3の混合溶媒を添加して全量を10mLとし、60分間超音波を照射して溶解させたものを検体とした。この検体を液体クロマトグラフィーによりソルビン酸量を定量した。なお、この方法での定量下限値は0.1ppmであり、定量下限値以下の場合「0.1ppm未満」と表記した。
【0117】
[熱安定性試験]
樹脂組成物1gを三角フラスコに取り、表3に示す溶媒100mLを注ぎ、95℃で1時間撹拌した後、曇点(Tcp)以下の温度まで冷却した。その後、この溶液が均一な溶液であることを目視にて確認した。
次に、樹脂組成物1gをアルミ皿に取り、窒素で中を満たした230℃のイナートオーブンに30分間静置して溶融させた。溶融させた樹脂組成物を室温(23℃)まで冷却、固化させた後、これを砕いて、表3に示す溶媒100mLを注ぎ、95℃で1時間撹拌した後、曇点(Tcp)以下の温度まで冷却した。これを目視にて確認し、下記の基準にて熱安定性を評価した。
(評価基準)
〇(very good):未溶解分がなく、均一な溶液であった。
×(poor):未溶解分が認められた。
【0118】
[生分解度]
生分解度の評価は、JIS K6950に記載された方法を参考にし、下記の条件で行った。
・装置:BOD TESTER 200F (タイテック社製)
・植種源:家庭下水を処理している下水処理場の返送汚泥
・標準試験培養液:100mL
・植種濃度:90mg/L
・温度:25±1℃
・期間:28日間
生物化学的酸素消費量と、理論的酸素要求量から、生分解度を求めた。
【0119】
<実施例1>
[変性エチレン-ビニルエステル系共重合体の合成]
温度制御のできるオートクレーブに、酢酸ビニル460部、側鎖の一級水酸基をエステル等で保護したモノマーとして、3,4-ジアセトキシ-1-ブテン44部、メタノール179部を仕込み、系内を窒素ガスで一旦置換した後、ついでエチレンで置換して、撹拌しながら、67℃まで昇温した。昇温後、エチレンをその分圧が1.25MPaとなるように圧入し、撹拌を続けながら、t-ブチルパーオキシネオデカノエート0.103部をメタノール5.2部(2%溶液)に溶解させた溶液を4時間かけて添加しつつ重合反応を行った。添加終了後もさらに67℃で3時間撹拌を続けて、重合反応を継続した。
その後、重合停止反応として、ソルビン酸0.096部(仕込みの酢酸ビニルモノマー100部に対して0.021部)をメタノール100部に溶解させた溶液を投入、室温(23℃)まで冷却した。さらに未反応のモノマーを減少させる目的で、75℃加熱による揮発分追い出しとメタノール添加を繰り返すことにより、エチレン-酢酸ビニル-3,4-ジアセトキシブテン共重合体のメタノール溶液を得た。
【0120】
[変性EVOH系樹脂組成物の合成]
ついで、一次ケン化を行った。上記溶液をメタノールで希釈して濃度30%に調整してニーダーで撹拌し、溶液温度を45℃に保ちながら、水酸化ナトリウムの8.7%メタノール溶液を、水酸化ナトリウムが共重合体の酢酸ビニル単位に対して9mmol当量となる量を加えて、撹拌を続けた。約15分後に粘度上昇を伴ってケン化物が析出し、ついには粒子状物を含むスラリーになった。1時間後に水酸化ナトリウムの8.7%メタノール溶液を、水酸化ナトリウムが共重合体の酢酸ビニル単位に対して11mmol当量となる量を加えて一次ケン化をさらに1時間継続した。
さらにケン化を進めるために、二次ケン化を行った。生成したスラリーを一旦ろ別した後、再度、ケン化物の5倍量のメタノールに分散させ、ニーダーで撹拌しつつ、水酸化ナトリウムの8.7%メタノール溶液を、水酸化ナトリウムが共重合体中の最初の酢酸ビニル単位に対して50mmol当量となる量を加えて、50℃で3時間反応させた。反応後、酢酸で中和し、スラリーを再度ろ別して、ウェットケーキを得、該ウェットケーキをその5倍の質量のメタノールで3回洗浄してろ別した後、100℃熱風乾燥器中で8時間乾燥させて変性EVOH系樹脂組成物を得た。
得られた変性EVOH系樹脂は、側鎖一級水酸基構造単位として、1,2-ブタンジオール構造を有していた。
【0121】
また、得られた変性EVOH系樹脂のNMR測定によるエチレン構造単位の含有量、1,2-ブタンジオール構造単位の含有量、ケン化度は、それぞれ、10.6mol%、4.0mol%、99.7mol%であった。
さらに、この変性EVOH系樹脂の共役ポリエンとしてのソルビン酸含有量は0.4ppmであった。融点、曇点はそれぞれ、182℃、40℃であった。
さらに熱安定性試験では、溶媒として水を用いた場合、水の均一溶液を得ることができ、また、一度溶融させた樹脂組成物についても、水の均一溶液が得られ、熱安定性は良好であった。
また、生分解度は46%であった。
ついで、変性EVOH系樹脂を再度アセチル化して得た変性エチレン-ビニルエステル系樹脂の粘度平均分子量(Mv)は5.87×104であった。この粘度平均分子量と、先に求めたエチレン構造単位の含有量、1,2-ブタンジオール構造単位の含有量から、変性エチレン-ビニルエステル系樹脂の粘度平均重合度(DPv)は705と求められた。このDPvは、再アセチル化前の変性EVOH系樹脂のDPvと同じ値と考えられる。
実施例1の製造条件等を下記の表1に示し、物性等を後記の表2、3に示す。
【0122】
【0123】
<実施例2~4>
実施例1における、仕込みの酢酸ビニル量、側鎖一級水酸基をエステルで保護したモノマーの種類と量、メタノール量、エチレン分圧、t-ブチルパーオキシネオデカノエート量を表1のとおりに変更して重合を行った。t-ブチルパーオキシネオデカノエートの添加時間、t-ブチルパーオキシネオデカノエートを添加し終わった後の重合継続時間、重合停止反応工程、未反応モノマーを減少させる工程、一次ケン化は実施例1と同様に実施した後、二次ケン化の有無、二次ケン化で使用したアルカリ量、ケン化後のウェットケーキの洗浄方法を表1のとおりに変更したほかは実施例1と同様にして、変性EVOH系樹脂組成物を得た。
実施例3では一次ケン化のみ実施し、二次ケン化は実施しなかった。
【0124】
<比較例1、2>
実施例1における、仕込みの酢酸ビニル量、側鎖一級水酸基をエステルで保護したモノマーの種類と量、メタノール量、エチレン分圧、t-ブチルパーオキシネオデカノエート量を表1のとおりに変更して重合を行った。t-ブチルパーオキシネオデカノエートの添加時間、t-ブチルパーオキシネオデカノエートを添加し終わった後の重合継続時間、重合停止反応工程、未反応モノマーを減少させる工程は実施例1と同様に実施した後、一次ケン化工程を以下のように変更した。
未反応モノマーを減少させる工程を終了させた溶液をメタノールで希釈して濃度10%に調整して撹拌機と冷却管を有するフラスコにて撹拌しつつ、溶液温度を45℃に保ちながら、水酸化ナトリウムの3.5%メタノール溶液を、水酸化ナトリウムが共重合体の酢酸ビニル単位に対して10mmol当量となる量を加えて、一次ケン化を行った。約30分後にケン化物が析出し、ついには粒子状物を含むスラリーになった。
【0125】
比較例2では、さらにケン化を進めるために、二次ケン化を行った。生成したスラリーを一旦ろ別した後、再度、ケン化物の20倍量のメタノールに分散させ、撹拌機と冷却管を有するフラスコにて撹拌しつつ、水酸化ナトリウムの3.5%メタノール溶液を、水酸化ナトリウムが共重合体中の最初の酢酸ビニル単位に対して50mmol当量となる量を加えて、50℃で3時間反応させた。
比較例1では二次ケン化は行わなかった。
これを、酢酸で中和し、スラリーをろ別して、ウェットケーキを得、該ウェットケーキをその5倍の質量のメタノールで3回洗浄してろ別した後、100℃熱風乾燥器中で8時間乾燥させて変性EVOH系樹脂組成物を得た。
【0126】
<実施例5,6、比較例3~8>
実施例1における、仕込みの酢酸ビニル量、側鎖一級水酸基をエステルで保護したモノマーの種類と量、メタノール量を表1のとおりに変更し、系内の窒素ガスの置換、エチレンでの置換、67℃までの昇温は実施例1と同様に行った。
昇温後のエチレン分圧を表1のとおりに変更して圧入し、撹拌を続けながら、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル0.082部をメタノール10部に溶解させた溶液を加え、撹拌しながら、内温を67℃で4時間保つことにより、重合反応を行った。その後、重合反応停止工程として、ソルビン酸0.096部をメタノール100部に溶解させた溶液を投入、室温(23℃)まで冷却した。
さらに未反応のモノマーを減少させる目的で、減圧による揮発分追い出しとメタノール添加を繰り返した。
ついで、上記溶液をメタノールで希釈して濃度10%に調整して撹拌機と冷却管を有するフラスコにて撹拌しつつ、溶液温度を45℃に保ちながら、水酸化ナトリウムの3.5%メタノール溶液を、水酸化ナトリウムが共重合体の酢酸ビニル単位に対して10mmol当量となる量を加えて、一次ケン化を行った。約30分後にケン化物が析出し、ついには粒子状物を含むスラリーになった。
【0127】
実施例5,6、比較例4~6,8では、さらにケン化を進めるために、二次ケン化として、生成したスラリーを一旦ろ別した後、再度、ケン化物の20倍量のメタノールに分散させ、撹拌機と冷却管を有するフラスコにて撹拌しつつ、水酸化ナトリウムの3.5%メタノール溶液を、水酸化ナトリウムが共重合体中の最初の酢酸ビニル単位に対して50mmol当量となる量を加えて、50℃で3時間反応させた。
比較例3,7では二次ケン化は行わなかった。
ケン化反応後、酢酸で中和し、スラリーを再度ろ別して、ウェットケーキを得、該ウェットケーキをその5倍の質量のメタノールで3回洗浄してろ別して粒子を得た。
実施例5,6、比較例3~7では、このろ別後の粒子を、100℃熱風乾燥器中で8時間乾燥させて変性EVOH系樹脂組成物を得た。
比較例8では、ろ別後の粒子を、さらにメタノールでソックスレー抽出1日実施し、その後に100℃熱風乾燥器中で8時間乾燥させて変性EVOH系樹脂組成物を得た。
【0128】
得られた実施例2~6、比較例1~8の変性EVOH系樹脂組成物またはEVOH系樹脂組成物のエチレン構造単位の含有量、側鎖一級水酸基構造単位の含有量、ケン化度、共役ポリエン化合物とその含有量、融点、曇点、JIS K7252-2に準拠して求めた再アセチル化した変性エチレン-ビニルエステル系樹脂の粘度平均重合度、熱安定性試験で用いた溶媒と溶解性、生分解度を実施例1と同様に求めた。結果を下記の表2、3に示す。
また、実施例2,5,6において、曇点の判定に用いた温度と光線透過率の関係図を
図1に示す。
【0129】
【0130】
【0131】
上記表3の結果から、熱安定性試験では、樹脂組成物を溶融させない場合、すべての実施例、比較例について、均一な溶液を得ることができた。また、一度樹脂組成物を溶融させた場合、すべての実施例1~6と、比較例1~7については、均一な溶液を得ることができ、熱安定性は良好であった。
しかし、比較例8については均一溶液が得ることができず、熱安定性は不良であった。
【0132】
得られた実施例1~6、比較例1~8の各樹脂組成物を用いて以下の評価を行った。
【0133】
[ペレットの作製]
実施例1~4の変性EVOH系樹脂組成物を下記の条件で押出することによりペレットを作製した。
(ペレット化条件)
・押出機:芝浦機械社製、2軸混練押出機 TEM-18DS
・スクリュー:2軸、20mmΦ、L/D=48
・シリンダー部設定温度:170~220℃
・ヘッダー部設定温度:210℃
・押出された樹脂の冷却方法:空冷ベルト
・吐出量:4kg/hr
【0134】
〔溶融押出単層フィルム作製と外観判定基準〕
得られた実施例1のペレットを下記の条件で押出することにより、溶融押出単層フィルムを得、これをそのままガスバリア材として用いた。
(フィルム作製条件)
・押出機:ブラベンダー社製、プラストグラフEC-plus
・スクリュー:単軸、20mmΦ、フルフライト
・シリンダー部設定温度:170~220℃
・冷却ロール設定温度:80℃
・フィルムの厚み:20μm
(外観判定基準)
ガスバリア材の外観を目視で判定し、スジがなく、なめらかな外観のものを「良好」、スジがあって、ごつごつした外観な外観のものを「不良」とした。
【0135】
〔溶融押出多層フィルム作製と外観判定基準〕
得られた実施例2、3、4のペレットから以下の条件で押出することにより、LLDPE/LLDPE/ガスバリア層(変性EVOH系樹脂組成物からなる層)/LLDPE/LLDPEの多層構造を有する溶融押出多層フィルムを得、これをそのままガスバリア材として用いた。
(フィルム作製条件)
・押出機:プラスチック工学研究所社製、3種5層インフレフィルム製膜機
・スクリュー:単軸、20mmΦ、フルフライト
・シリンダー部設定温度:180~210℃
・フィルム厚み:90μm(LLDPE40μm/ガスバリア層10μm/LLDPE40μm)
・LLDPE:三菱ケミカル社製、ノバテックLL UF240
(外観判定基準)
ガスバリア材の外観を目視で判定し、スジがなく、なめらかな外観のものを「良好」、スジがあって、ごつごつした外観な外観のものを「不良」とした。
【0136】
〔溶液キャストによるフィルム作製と外観判定基準〕
実施例5,6、比較例1~5,7,8の樹脂組成物の水溶液を、曇点(Tcp)以下の温度で、PETフィルム基材(38μm厚)上にバーコーターで塗布後、水を引き続き曇点以下で蒸発させて粗乾燥したガスバリア材を得た。この粗乾燥したガスバリア材を80℃で5分間乾燥させることにより、樹脂組成物からなる層を3μm有するガスバリア材を得た。
比較例6の樹脂組成物は水に溶けなかったため、ガスバリア材は作製しなかった。
(外観判定基準)
ガスバリア材の外観を目視で判定し、スジがなく、なめらかな外観のものを「良好」、流れが発生したり、スジがあって、ごつごつした外観な外観のものを「不良」とした。
【0137】
[酸素透過度]
得られたガスバリア材について、23℃65%RHにおける酸素透過度を、酸素透過度測定装置(MOCON社製「OXTRAN2/20」)を用いて測定し、この測定値を樹脂組成物の厚み3μmの値に換算し、ガスバリア性を示す値とした。
実施例1,2,5,6、比較例2~5,7,8では、湿度0%RHについても同様に測定した。
ガスバリア材の外観と、酸素透過度の測定結果を表4に示す。
【0138】
【0139】
比較例1のように、ケン化度が本発明の範囲よりも低い樹脂組成物では、65RH%での酸素透過度が3.0cc/m2・day・atm(3μm換算時)を超え、好ましくないものだった。
比較例2,4のように、曇点と重合度の関係が式(i)を満たさない樹脂は、外観の良いガスバリア材が得られなかったり(比較例2)、65RH%での酸素透過度が3.0cc/m2・day・atm(3μm換算時)を超えるうえに生分解度が低く(比較例4)、好ましくないものであった。
比較例3のように重合度が高すぎる樹脂組成物では、外観の良いガスバリア材が得られず、好ましくないものであった。
比較例5のように、曇点が観察されなかったものは、65RH%での酸素透過度が3.0cc/m2・day・atm(3μm換算時)を超え、好ましくないものだった。
比較例6のように、水に不溶なものは生分解度が低く、好ましくないものだった。
比較例7のように、重合度が低すぎると、外観が不良になり(融点が高く生分解度が低いのは側鎖一級水酸基変性がないから)、好ましくないものだった。
比較例8のように、共役ポリエンの含有量が少なすぎるものは、表3のように熱安定性が好ましくないものであった。
本発明の変性EVOH系樹脂組成物は、良好な生分解性と熱安定性を示すとともに、水溶液の曇点がありながらも基材への水溶液塗布または溶融成形による外観不良を防ぎ、高いガスバリア性を高湿度下でも発揮できるため、環境負荷の低減が求められる分野、特に食品包材等のガスバリア材として好適に用いることができる。