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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140996
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】合成ガスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 3/40 20060101AFI20241003BHJP
   C01B 32/40 20170101ALI20241003BHJP
   B01J 21/06 20060101ALI20241003BHJP
   B01J 21/04 20060101ALI20241003BHJP
   B01J 29/78 20060101ALI20241003BHJP
   B01J 29/85 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C01B3/40
C01B32/40
B01J21/06 M
B01J21/04 M
B01J29/78 M
B01J29/85 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052410
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】村田 和優
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 亮
(72)【発明者】
【氏名】堤内 出
【テーマコード(参考)】
4G140
4G146
4G169
【Fターム(参考)】
4G140EA03
4G140EA07
4G140EC02
4G146JA01
4G146JB02
4G146JC03
4G146JC27
4G169AA03
4G169AA08
4G169BA01A
4G169BA01B
4G169BA03A
4G169BA04A
4G169BA05A
4G169BA05B
4G169BA07A
4G169BA07B
4G169BC54B
4G169BC60B
4G169BD05B
4G169CC17
4G169DA05
4G169FA01
4G169FA02
4G169ZA11B
4G169ZA12B
4G169ZA41B
(57)【要約】
【課題】メタンと酸素との反応において、メタンの完全酸化を抑制し、高選択的にメタンを部分酸化させる触媒を提供すること。
【解決手段】周期表の第4族から第6族の元素或いはアルミニウム、シリコン、リンの内少なくとも二つ以上を含み、Co、Ni、Feの含有量が0.1質量%未満かつ、Ru、Rh、Pd、Ir、Ptの含有量が0.05質量%未満の複合酸化物触媒を用い、メタンの部分酸化を行う合成ガスの製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期表の第4族から第6族の元素或いはアルミニウム、シリコン、リンの内少なくとも二つ以上を含み、Co、Ni、Feの含有量がそれぞれ0.1質量%未満かつ、Ru、Rh、Pd、Ir、Ptの含有量がそれぞれ0.05質量%未満の複合酸化物触媒を用い、メタンの部分酸化を行う合成ガスの製造方法。
【請求項2】
周期表の第4族から第6族の元素或いはアルミニウム、シリコン、リンの内少なくとも二つ以上を含み、Co、Ni、Feの含有量がそれぞれ0.1質量%未満かつ、Ru、Rh、Pd、Ir、Ptの含有量がそれぞれ0.05質量%未満のメタン部分酸化用複合酸化物触媒。
【請求項3】
酸化物担体に周期表の第4族から第6族の元素或いはアルミニウム、シリコンの内少なくとも一つ以上を担持し、Co、Ni、Feの含有量がそれぞれ0.1質量%未満かつ、Ru、Rh、Pd、Ir、Ptの含有量がそれぞれ0.05質量%未満の担持酸化物触媒を用い、メタンの部分酸化を行う合成ガスの製造方法。
【請求項4】
前記酸化物担体がAl、ZrO、TiO、SiO及びゼオライトからなる群より選ばれる少なくとも一つである請求項3に記載の合成ガスの製造方法。
【請求項5】
酸化物担体上に、周期表の第4族から第6族の元素或いはアルミニウム、シリコンの内少なくとも二つ以上を含み、Co、Ni、Feの含有量がそれぞれ0.1質量%未満かつ、Ru、Rh、Pd、Ir、Ptの含有量がそれぞれ0.05質量%未満であるメタン部分酸化用複合酸化物触媒。
【請求項6】
前記ゼオライトの結晶構造は、IZAで規定されるコードでAEI、CHA、MFI、及びBEAからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項4に記載の合成ガスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は合成ガスの製造方法に関し、より詳細には、メタンを原料として、触媒を用いて一酸化炭素及び水素(合成ガス)を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一酸化炭素(CO)及び水素(H)の混合ガス(合成ガス)を製造する技術としてメタン(CH)の改質はよく利用される技術である。メタンの改質反応の中でも、メタンの水蒸気改質(CH+HO→3H+CO、ΔH=+206kJ)は最もよく利用される技術であるが、この反応は大きな吸熱反応であり、プロセスにおける大きなエネルギー消費が問題となっている。
一方で、メタンの部分酸化(2CH+O→4H+2CO、ΔH=-36kJ)は発熱反応であるために、いったん反応が始まれば外部からエネルギーを供給する必要のない、エネルギー効率が高いプロセスとして注目を集めている。
【0003】
このようなメタンの部分酸化には、従来から活性点としてCo、Ni、Ru、Rh、Pd、Ptといった遷移金属を含む触媒材料、特にゼオライトを含むものが用いられてきた。例えば、特許文献1には、コバルトおよびロジウム担持ゼオライトを含む、軽質炭化水素の部分酸化触媒が開示される。また、特許文献2には、ゼオライトに、周期表第8族~11族の遷移金属から選択される少なくとも1種の元素、周期表第1族~3族の金属から選択される少なくとも1種の元素と、を担持した、軽質炭化水素の部分酸化触媒が開示される。
また、特許文献4には、ロジウム、イリジウムまたはルテニウムを担体に担持した炭化水素の接触部分酸化触媒が開示される。特許文献5にはロジウム、ルテニウム、イリジウム、パラジウム、白金からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の金属からなるメタン等の有機化合物の酸化的改質用の担持触媒が開示された。ニッケルもまた、特許文献6にあるように担持ニッケル触媒もまたメタンの酸化的改質に利用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-181375号公報
【特許文献2】特開2021-45722号公報
【特許文献3】中国公開101597030号公報
【特許文献4】特開平7-10503号公報
【特許文献5】特開2008-136907号公報
【特許文献6】特表平9-502414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び2に開示される触媒材料を用いたときには、メタンの部分酸化と同時にメタンの一部が完全酸化(CH+2O→2HO+CO、ΔH=-803kJ)を起こしやすい。完全酸化の発熱量は部分酸化時の発熱量に対して、非常に大きいものであるため、反応が起こり始めるとすぐに触媒床が急激に加熱され、ホットスポットが形成される。このような、ホットスポットの形成により、一酸化炭素の収率が低下するのみならず、ホットスポットでの活性金属種の凝集が生じる。ホットスポットが形成された場合に、いったん反応を停止し部分酸化反応を再開させたとしても、再び完全酸化反応が起こりやすく、また金属の凝集により、触媒劣化の原因ともなる。したがって、メタンの完全酸化を抑制し、酸素との反応によって高選択的にメタンを部分酸化する触媒の開発が求められている。
また、デュアル触媒床システムによるメタンの部分酸化も提案されている。デュアル触媒床システムでは触媒床の前段に金属酸化物触媒、後段に金属触媒が配置される。前段の酸化物触媒はメタンをOによって酸化し、CO、H、CO、HOへと転換する。Oが消費された後段においては、担持金属触媒によるCOとHOとのメタン改質で、COとHへと転換する。触媒床の前段で反応熱をコントロールするためには、酸化物触媒のCO、H選択性がカギとなる。メタン酸化するための酸化物触媒として、Y安定化ZrOやCrなどが報告されているが(例えば特許文献3)、そのCO、H選択性はそれほど高くない。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するものであり、メタンと酸素との反応において、メタンの完全酸化を抑制し、高選択的にメタンを部分酸化させる触媒を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決すべく検討を進めた結果、複合酸化物或いは、異種の酸化物-酸化物界面を有する担持酸化物が、CH部分酸化反応において高いCO収率を示すことを見出した。特に第1、2、3族の酸化物は塩基性を有するためにメタン酸化カップリング(OCM)反応が進行しやすいこと、第7族から11族遷移金属の酸化物は、酸化還元性に優れるので、メタン完全酸化反応が進行してしまいやすいこと、そしてその一方で、周期表の第4族から第6族元素及びAl、Si、Pの内2つ以上を組み合わせた複合酸化物或いは担持酸化物触媒がメタン部分酸化に高活性であることを見出した。
本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
【0008】
本発明は、以下の要旨を含む。
[1]周期表の第4族から第6族の元素或いはアルミニウム、シリコン、リンの内少なくとも二つ以上を含み、Co、Ni、Feの含有量がそれぞれ0.1質量%未満かつ、Ru、Rh、Pd、Ir、Ptの含有量がそれぞれ0.05質量%未満の複合酸化物触媒を用い、メタンの部分酸化を行う合成ガスの製造方法。
[2]周期表の第4族から第6族の元素或いはアルミニウム、シリコン、リンの内少なくとも二つ以上を含み、Co、Ni、Feの含有量がそれぞれ0.1質量%未満かつ、Ru、Rh、Pd、Ir、Ptの含有量がそれぞれ0.05質量%未満のメタン部分酸化用複合酸化物触媒。
[3]酸化物担体に周期表の第4族から第6族の元素或いはアルミニウム、シリコンの内少なくとも一つ以上を担持し、Co、Ni、Feの含有量がそれぞれ0.1質量%未満かつ、Ru、Rh、Pd、Ir、Ptの含有量がそれぞれ0.05質量%未満の担持酸化物触媒を用い、メタンの部分酸化を行う合成ガスの製造方法。
[4]前記酸化物担体がAl、ZrO、TiO、SiO及びゼオライトからなる群より選ばれる少なくとも一つである上記[3]に記載の合成ガスの製造方法。
[5]酸化物担体上に、周期表の第4族から第6族の元素或いはアルミニウム、シリコンの内少なくとも二つ以上を含み、Co、Ni、Feの含有量がそれぞれ0.1質量%未満かつ、Ru、Rh、Pd、Ir、Ptの含有量がそれぞれ0.05質量%未満であるメタン部分酸化用複合酸化物触媒。
[6]前記ゼオライトの結晶構造は、IZAで規定されるコードでAEI、CHA、MFI、及びBEAからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、上記[4]に記載の合成ガスの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、メタンと酸素との反応において、メタンの完全酸化を抑制し、高選択的にメタンを部分酸化させる触媒を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1で製造した触媒を用いたメタンの部分酸化反応試験結果である。
図2】実施例2で製造した触媒を用いたメタンの部分酸化反応試験結果である。
図3】実施例3で製造した触媒を用いたメタンの部分酸化反応試験結果である。
図4】実施例4で製造した触媒を用いたメタンの部分酸化反応試験結果である。
図5】実施例5で製造した触媒を用いたメタンの部分酸化反応試験結果である。
図6】実施例6で製造した触媒を用いたメタンの部分酸化反応試験結果である。
図7】比較例1で製造した触媒を用いたメタンの部分酸化反応試験結果である。
図8】比較例2で製造した触媒を用いたメタンの部分酸化反応試験結果である。
図9】比較例3で製造した触媒を用いたメタンの部分酸化反応試験結果である。
図10】比較例4で製造した触媒を用いたメタンの部分酸化反応試験結果である。
図11】比較例5で製造した触媒を用いたメタンの部分酸化反応試験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0012】
[合成ガスの製造方法]
本発明の第1の合成ガスの製造方法は、メタンの部分酸化反応によって合成ガスを製造する方法であって、周期表の第4族から第6族の元素或いはアルミニウム、シリコン、リンの内少なくとも二つ以上を含み、Co、Ni、Feの含有量が0.1質量%未満かつ、Ru、Rh、Pd、Ir、Ptの含有量が0.05質量%未満の複合酸化物触媒を用いることを特徴とする。
また本発明の第2の合成ガスの製造方法は、酸化物担体に周期表の第4族から第6族の元素或いはアルミニウム、シリコンの内少なくとも一つ以上を担持し、Co、Ni、Feの含有量が0.1質量%未満かつ、Ru、Rh、Pd、Ir、Ptの含有量が0.05質量%未満の担持酸化物触媒を用い、メタンの部分酸化を行うことを特徴とする。
第1の合成方法と第2の合成方法は、第1の合成方法においては、担体も含めた複合酸化物として本発明をとらえる見方であり、一方第2の合成方法は、担持酸化物に焦点を当てて本発明をとらえる見方となる。
【0013】
<複合酸化物触媒>
本発明に用いられる触媒は、周期表の第4族から第6族の元素或いはアルミニウム、シリコン、リンの内少なくとも二つ以上を含み、Co、Ni、Feの含有量が0.1質量%未満かつ、Ru、Rh、Pd、Ir、Ptの含有量が0.05質量%未満の複合酸化物である。
ここで、Co、Ni、Feの含有量が、それぞれ0.1質量%未満であることが必要であり、より好ましくはCo、Ni、Feの合計量が複合酸化物中の含有量として0.1質量%未満であることが好ましい。そして、Ru、Rh、Pd、Ir、Ptの含有量がそれぞれ複合酸化物中に0.05質量%未満であることが必要であり、より好ましくはCo、Ni、Feの合計量が複合酸化物中の含有量として0.1質量%未満である。これらの元素を特定量以下にすることで、前述の通り、メタンの完全酸化反応を引き起こしにくく、高選択的に部分的な酸化反応を進めることができる。したがって、反応プロセスにおいて触媒劣化の原因となる局所的な発熱の可能性を抑えることができるため、好ましい。
【0014】
複合酸化物を用いることによるメリットは、二つの酸化物を混合して複合酸化物をつくる際に酸点が発現するが、一般的にその酸点の発現の原因は部分的に生じた電荷の過不足によると考えられる。例えば、ゼオライトは二酸化ケイ素(SiO)からなる骨格構造を基にして、一部のケイ素がアルミニウムに置き換わることによって、骨格の一部が負に帯電している。この過剰な電荷にはプロトン(H)が配位しており、ブレンステッド酸性を示す。
また、複合化の結果、電荷が不足するような酸化物のカチオンサイトは電子を受け取るルイス酸性を示す。この酸化物のルイス酸性はメタンを始めとしたアルカンのC-Hを活性化するためのサイトとして機能することが知られている。これらの機構については、例えば、Otroshchenko, T.; Jiang, G.; Kondratenko, V. A.; Rodemerck, U.; Kondratenko, E. V. Chem. Soc. Rev. 2021, 50, 473-527.又はWischert, R.; Laurent, P.; Coperet, C.; Delbecq, F.; Sautet, P. J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 14430-14449.に詳細に記載されている。
したがって、酸化物の複合化によって酸化物触媒のメタン部分酸化活性の向上が期待できる。
【0015】
具体的に複合酸化物の主成分として使用される元素としては、Zr、V、W、Al、Si、Pの中から選択をすることが好ましく、更にW-Zr、W-Al、V-Zr、Si-Zr、Si-Al、Al-P、Si-Pの組み合わせが好ましい。
【0016】
かかる複合酸化物の粒径は、特に限定されないが、使用される反応器の大きさを考慮し、反応効率、滞留時間、圧壊しないための強度、通気抵抗、扱いやすさなどを考慮し、適宜決定すればよい。
【0017】
複合酸化物の合成方法は、特に限定されるものではなく、錯体重合法、固相法沈澱法、ゾルゲル法、水熱合成法等、適宜使用すればよい。
錯体重合法では、出発原料として、酸化物前駆体を純水に溶解して前駆体イオン含有水溶液(水溶液A)を調製する。また、キレート剤の溶液(水溶液B)を別途調製する。次いで、撹拌下の水溶液Aに、水溶液Bを加え、得られた混合溶液を加熱(一次焼成)し、金属錯体を前駆体として得る。この得られた前駆体を加熱し、有機物を燃焼させることで複合酸化物(粉末状)を得る。
水溶液Aを得るために用いる酸化物前駆体としては、塩化物、酸化物、硝酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩、サリチル酸塩、酢酸塩、炭酸塩、水酸化物等が挙げられ、生成物の組成制御の観点から、塩化物、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩であることが好ましく、特に硝酸塩であることが好ましい。金属含有原料がこれら塩である場合、複合酸化物の製造に伴う副生成物は、窒素、酸素、塩素、炭素、硫黄等を含有するガス又は水であり、容易に系外に排除できるからである。
キレート剤の溶液としては、クエン酸水溶液、エチレンジアミン四酢酸のアンモニア溶液、ニトリロ三酢酸水溶液等が挙げられる。中でも低コスト、低環境負荷であることから、クエン酸水溶液が好ましい。
【0018】
固相反応法では、出発原料として、酸化物前駆体の粉末を混合し、焼成処理を行うことで、目的の複合酸化物(粉末状)が得られる。固相反応法に用いる酸化物前駆体としては、水酸化物、酸化物、炭酸塩等が挙げられる。中でも不純物相生成を抑制し、かつ低温で合成可能であることから、酸化物が好ましい。
一般的に、固相法で合成する場合は溶液法よりも前駆体の段階、及び焼成後の段階で各元素の組成分布の偏りが生じやすいため、原料粉末の粒度制御、及び粉体の均一混合を行うことが重要である。例えば、小粒子径かつ凝集の少ない原料粉を使用すること、ボールミル等により混合すること等が有効である。
【0019】
複合酸化物の合成における焼成温度及び焼成時間は特段制限されないが、不純物相低減の観点から、目的相が主相又は単一相として生成する焼成温度及び焼成時間であることが好ましい。一方で、焼結による比表面積の低下抑制及びるつぼとの副反応低減の観点から、目的相の融点より400℃低い温度以上融点以下での処理が好ましい。
焼成雰囲気も特段制限されず、目的の複合酸化物に応じて適宜選択することができる。最終的な焼成雰囲気は、例えば、酸素-不活性ガス混合雰囲気であってもよく、不活性ガス雰囲気であってもよい。
【0020】
複合酸化物の元素の組成は特段制限されないが、不純物相低減の観点から、目的相が主相又は単一相として生成する組成であることが好ましい。
また、構成元素としては、周期表の第4族から第6族の元素及び、Si、Al、Pの他に、例えばマグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ホウ素(B)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)から選ばれる1種または2種以上を含んでいてもよい。
【0021】
複合酸化物のBET比表面積は、本発明の効果を奏する範囲で特に限定されないが、例えば、10m/g以上であることが好ましい。複合酸化物のBET比表面積が10m/g以上であると、原料であるメタンの活性サイトが十分確保され、反応効率を向上させることができる。複合酸化物のBET比表面積は10m/g以上が好ましく、30m/g以上が更に好ましい。
上記の複合酸化物は単独で用いてもよく2種類以上を乳鉢やボールミルを用いて、物理混合したものを用いてもよい。
【0022】
<担持酸化物>
本発明の第2の合成方法も第1の合成方法同様の利点を生じる。これは、複合酸化物のように原子レベルで元素の複合化がされていない担持酸化物においても、担持種と酸化物の間に界面が形成されるために、酸性質の発現が期待できるためである。また担持酸化物触媒は、担体の選択によって触媒の高表面積化や機械的強度の制御が容易であることも、担持酸化物触媒を用いることの利点である。構成する元素の組み合わせは、第1の発明と同様である。酸化物担体として好ましくはAl、ZrO、TiO、SiO及びゼオライトからなる群より選ばれる少なくとも一つである。以下、担持酸化物としてゼオライトを用いる場合を例としてより詳しく説明する。
【0023】
<ゼオライト>
本発明の合成ガスの製造方法について、触媒として用いるゼオライトは、構成元素としてケイ素(Si)とアルミニウム(Al)を含有する。構成元素としては、Si、Alの他に、例えばホウ素(B)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、リン(P)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)、ジルコニウム(Zr)、錫(Sn)から選ばれる1種または2種以上を含んでいてもよい。なお、ゼオライト骨格を形成するAl等は酸点となり、触媒活性の反応点として作用する。
これらのゼオライトのケイ素とアルミニウムのモル比(Si/Al)は、本発明の効果を奏する範囲であれば、特に制限はないが、3以上100以下であることが好ましい。
Si/Al比が100以下であると、酸量が適度となり、メタンの部分酸化反応を促進することができる。以上の観点から、Si/Al比は80以下であることがさらに好ましい。一方、Si/Al比が3以上であると、メタンの部分酸化反応における脱アルミを抑制し、活性を高く維持することができる。以上の観点から、Si/Al比は8以上であることがさらに好ましい。
なお、本発明の方法により製造されるゼオライトのSi、Al等の含有量は、通常、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)等により、測定することができ、製造されたゼオライトについて測定された値であり、原料の仕込みの比率ではない。
【0024】
Si/Al比は、ゼオライトを製造する際の仕込みのSiO/Alの比によって制御することができ、また製造条件によっても制御することができる。さらには、ゼオライトを製造した後に、スチーミング処理等により、Al等を脱離させてSi/Al比を制御することもできる。
【0025】
本発明に係るゼオライトの結晶構造については、本発明の効果を奏するものであれば、特に制限はなく、International Zeolite Association(IZA)が定めるコードで、AEI、AEL、AFI、AFX、APC、ATO、BEA、BRE、CDO、CHA、CON、DDR、EAB、EPI、ERI、ESV、EUO、FAU、FER、GIS、GME、HEU、ITH、KFI、LEV、LTA、LTL、MER、MEL、MFI、MON、MOR、MSE、MTF、MTT、MTW、MWW、NES、OFF、PAU、PHI、RHO、RTE、RTH、SOD、STI、STT、SZR、TON、TSC、TUN、UFI、VNI、WEI、YUGなどがあげられる。中でも、CHA、MFI、及びBEAから選択される1種以上を含むことが好ましい。これらのゼオライトは、メタン部分酸化反応中でルイス酸性を発現しうる骨格外Al種が生成し、メタンの部分酸化反応の反応場として好適である。したがって、MOR、FAUと比較して、より好ましい活性を示す。
上記ゼオライトは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
なお、骨格外Al種の形成はIRによってAl-OHのOH伸縮振動から確認することができる。
【0026】
ゼオライトの細孔径は、特に限定されないが、0.3nm以上が好ましく、0.35nm以上がより好ましい。また0.9nm以下が好ましく、0.8nm以下がより好ましく、0.6nm以下がさらに好ましい。なお、ここで言う細孔径とは、International Zeolite Association(IZA)が定める結晶学的なチャネル直径を示す。ゼオライトの細孔径が上記範囲であると、原料であるメタン及び酸素がゼオライト細孔内に入りやすく、細孔内の活性点で反応が進みやすい。また、生成物の脱離が容易であり、細孔内で過度に反応が進むことによるコーキング等の問題もない。
【0027】
ゼオライトのイオン交換サイトは、特に限定されず、H型であっても、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン等で交換されたものであってもよいが、H型が好ましい。
【0028】
また、ゼオライトのBET比表面積は、本発明の効果を奏する範囲で特に限定されないが、例えば、200m/g以上であることが好ましい。ゼオライトのBET比表面積が200m/g以上であると、原料であるメタンの活性サイトが十分確保され、反応効率を向上させることができる。以上の観点から、ゼオライトのBET比表面積は、250m/g以上であることがより好ましく、300m/g以上であることがさらに好ましい。一方、ゼオライトのBET比表面積は、2000m/g以下であることが好ましい。ゼオライトのBET比表面積が2000m/g以下であると、ゼオライトの合成が容易になる。以上の観点からゼオライトのBET比表面積は1500m/g以下であることがより好ましく、1000m/g以下であることがさらに好ましい。
なお、BET比表面積は、窒素吸着法により測定することができる。
【0029】
また、本発明に係るゼオライトの細孔容積は、本発明の効果を奏する範囲で特に限定されないが、0.1mL/g以上であることが好ましい。ゼオライトの細孔容積が0.1mL/g以上であると、原料であるメタンの吸着サイトが十分確保され、反応効率を向上させることができる。以上の観点から、ゼオライトの細孔容積は0.2mL/g以上であることがより好ましく、0.3mL/g以上であることがさらに好ましい。
一方、ゼオライトの細孔容積は、3mL/g以下であることが好ましく、さらに好ましくは2mL/g以下である。
なお、ゼオライトの平均細孔径は前記IZAが公開している各結晶構造の細孔径の値を使用すればよく、細孔容積は、窒素吸着法により測定することができる。
【0030】
本発明に係るゼオライトの平均一次粒子径は、本発明の効果を奏する範囲で特に限定されないが、10μm以下であることが好ましい。ゼオライトの平均一次粒子径が10μm以下であると、反応基質と反応生成物の拡散の点で有利である。以上の観点から、ゼオライトの平均一次粒子径は、3μm以下であることがより好ましく、700nm以下であることがさらに好ましい。
一方、下限値については、本発明の効果を奏する範囲であれば、特に制限はなく、通常20nm以上であり、好ましくは40nm以上である。
【0031】
なお、「平均一次粒子径」は、いずれも走査型電子顕微鏡(SEM)により測定することができる。
ここで、「一次粒子」とは、粒界が確認されない最小の粒子のことをいう。本発明では、ゼオライト触媒のSEM画像を取得し、当該SEM画像に含まれるゼオライトに相当する部分であって、粒界が確認されない最小粒子を「一次粒子」として判断する。なお、本発明においては、一次粒子は単体の粒子として存在していなくてもよく、凝集等により二次粒子を形成していてもよい。二次粒子を形成していたとしても、SEM画像において二次粒子の表面の一次粒子を判別可能である。
「平均一次粒子径」とは以下のようにして測定されたものをいう。すなわち、ゼオライト触媒のSEM画像に含まれる一次粒子を無作為に50個選択し、選択した50個の一次粒子それぞれについて長径(一次粒子の一端と多端とを直線で結んだ場合に最長となる直線の長さ)を測定し、測定した50個の長径の相加平均値を「平均一次粒子径」とする。ただし、ゼオライト触媒全体において一次粒子が50個未満しか含まれていない場合は、ゼオライト触媒に含まれるすべての一次粒子について、それぞれの長径を測定し、その平均値を「平均一次粒子径」とする。
【0032】
平均一次粒子径を特定の範囲とすることは、例えば、種結晶として粒子径の小さいゼオライトを用いることや、ゼオライトの製造工程において、ゼオライトの合成原料ゲルに界面活性剤を添加することなどにより、達成できる。
【0033】
本発明に係るゼオライトは、Co、Ni、Feの含有量が0.1質量%未満かつ、Ru、Rh、Pd、Ir、Ptの含有量が0.05質量%未満であることにより、メタンの完全酸化反応によりホットスポットが形成することがない。したがって、ホットスポットの形成によって、一酸化炭素の収率が低下することがなく、好ましい。
【0034】
<ゼオライトの製造方法>
本発明のゼオライトの製造方法は、原料組成物を水熱合成する工程を有する。
より具体的には、シリカ源、アルミニウム源及びアルカリ金属を含む原料ゲルを調製する工程、該原料ゲルを10~240℃で水熱合成する工程を有する。
【0035】
(原料ゲルの調製)
原料ゲルは、シリカ源、アルミニウム源、アルカリ金属を含む化合物を用いて調製する。原料ゲルの調製には、本発明の効果を大幅に阻害しない限り、更にアルカリ土類金属を含む化合物、有機構造規定材、種晶などのこれら以外の成分を用いてもよい。
【0036】
<<原料等>>
シリカ源は、ゼオライトを構成するケイ素原子になる原料化合物のことを言う。シリカ源としては、ヒュームドシリカ、シリカゾル、コロイダルシリカ、水ガラス、ケイ酸エチル、ケイ酸メチルなどが挙げられ、これらの1種又は2種以上が用いられる。これらのうち、ヒュームドシリカおよびコロイダルシリカが取扱い易く反応性が高いので好ましい。
【0037】
アルミニウム源は、ゼオライトを構成するアルミニウム原子になる原料化合物のことを言う。アルミニウム源は、通常、擬ベーマイト、ギブサイト、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムトリエトキシド等のアルミニウムアルコキシド;水酸化アルミニウム;アルミナゾルおよびアルミン酸ナトリウムなどが挙げられ、これらの1種又は2種以上が用いられる。これらのうち、水酸化アルミニウム、アルミニウムイソプロポキシド、及び擬ベーマイトが取り扱い易く反応性が高い点で好ましい。
【0038】
アルカリ金属を含む化合物は、NaOH、KOHなどのアルカリ金属の水酸化物などを用いることができる。アルカリ金属の種類は特に限定されず、通常Na、K、Li、Rbが挙げられ、好ましくはNaおよびKである。また、アルカリ金属を含む化合物は2種類以上を併用してもよい。
また、アルカリ土類金属を含む化合物を用いてもよい。アルカリ土類金属を含む化合物としては、Ca(OH)などを用いることができる。アルカリ土類金属の種類は特に限定されず、通常Ca、Mg、Sr、Baが挙げられる。また、アルカリ土類金属を含む化合物は2種類以上を併用してもよい。
【0039】
ゼオライトの合成に用いられる有機構造規定材としては、通常、アミン類、4級アンモニウム塩類などが用いられる。例えば、CHA型のアルミノシリケートを合成する場合には、米国特許第4544538号明細書、米国特許公開第2008/0075656号明細書に記載の有機テンプレートが好ましいものとして挙げられる。なお、得られるゼオライトの組成によっては、有機構造規定材は必ずしも必要ではない。
【0040】
原料ゲルの調製には、種晶を用いてもよい。種晶としては、通常ゼオライトを用いる。種晶は、製造されるゼオライトがアルミノシリケートであれば、同じくアルミノシリケートのゼオライトが好ましく、CBUとしてd6rが含まれるアルミノシリケートのゼオライトがより好ましい。種晶には、その一部としてアモルファス成分を含んでいてもよい。また、種晶として用いるゼオライトは、有機構造規定材を含むものでもよいし、含まないものでもよい。種晶となるゼオライトの製造方法は、特に限定されず、本発明のゼオライトの製造方法により製造されたものであってもよく、他の方法、例えばオートクレーブ等を用いて一般的なバッチ方式で製造されたものであってもよい。種晶の量としては、種晶として結晶化を促す効果が発現しやすい点では多いことが好ましい。また、一方で、種晶の溶解がしやすく、種晶として機能しやすい点では少ないことが好ましい。そこで、原料組成物に含まれるシリカ源に対して0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1.0質量%以上が更に好ましく、2質量%以上が特に好ましい。また、一方で、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、15質量%以下が更に好ましく、10質量%以下が特に好ましい。
【0041】
(原料ゲルの水熱合成)
本発明のゼオライトは、上述の原料ゲルを水熱合成することにより製造することができる。原料ゲルの水熱合成温度は、通常、10℃以上、好ましくは50℃以上、更に好ましくは70℃以上である。反応が進行しやすい点では高温とすることが好ましい。また、水熱合成の温度の上限は特に制限はなく、通常240℃以下、好ましくは220℃以下、更に好ましくは200℃以下である。
【0042】
<<カチオン交換>>
本発明のゼオライトの製造方法は、更に、上述の水熱合成により得られるゼオライトのカチオン型を交換する工程を有していてもよい。
水熱合成により得られるゼオライトは、必要に応じて、得られたゼオライトを、所望のカチオン型へカチオン交換することができる。カチオン交換は、以下に限定されないが、例えば、NHNO、LiNO、NaNO、KNO、RbNO、CsNO、Be(NO、Ca(NO、Mg(NO、Sr(NO、Ba(NOなどの硝酸塩、或いはこれらの硝酸塩に含まれる硝酸イオンに代えて、ハロゲン化物イオン、硫酸イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン、酢酸イオン、リン酸イオン、リン酸水素イオンとした塩、および硝酸や塩酸などの酸を用いて行うことができる。カチオン交換の温度は、一般的なカチオン交換の温度であれば特に限定されないが、通常、10℃以上、100℃以下である。また、アンモニウム型ゼオライトは、該ゼオライトを焼成することによりプロトン型ゼオライトに変換することもできる。
【0043】
原料ゲルの結晶化後は、結晶化した原料ゲルを濾過および洗浄した後、固形分を100~200℃で乾燥し、引続き400~900℃で焼成することによって、ゼオライト粉末として得ることができる。
更に、ゼオライト粉末を所定の濃度の酸化物前駆体溶液に含浸し、溶媒を蒸発乾固させた後に、400~900℃で焼成することによって、ゼオライト担持酸化物の粉末を得ることができる。
【0044】
<反応条件>
メタンの部分酸化を用いた反応条件は、第1の発明、第2の発明とも共通である。本発明の合成ガスの製造方法における反応温度は650℃以上であることが好ましい。反応温度が650℃以上であることで、メタンの部分酸化が進行し、合成ガスを効率的に得ることができる。
一方、反応温度の上限値については、特に制限はないが、メタンの完全酸化を抑制するために、1000℃以下であることが好ましい。
以上の観点から、本反応における反応温度は、650℃~1000℃の範囲が好ましく、650~800℃の範囲であることがさらに好ましい。
なお、本反応は発熱反応であるため、例えば、反応開始温度を500℃としても、断熱反応容器を用いた場合には650℃以上になることもある。したがって、ここで反応温度とは、反応ガスの入り口温度ではなく、反応器の触媒層の温度を指す。触媒層の温度は、通常反応器の内部温度(入り口温度ではなく)と同じであるとみなすことができる。
【0045】
また、本発明におけるメタンの部分酸化プロセスにおいては、原料中のメタンと酸素の比(CH/O)が1以上であることが好ましい。この比が1以上であると、メタンの完全酸化を抑制しやすくすることができ、メタンの部分酸化を促進することができる。また、メタンと酸素の比(CH/O)が1以上であると十分な反応速度が得られる。以上の観点から、原料中のメタンと酸素の比(CH/O)は1以上であることが好ましく、さらに好ましくは1.5以上、最も好ましくは2以上である。
一方、メタンと酸素の比(CH/O)の上限値については、特に制限はないが、反応効率の点から、6以下であることが好ましく、3以下であることがさらに好ましい。
【0046】
本実施形態における反応様式としては、流動床反応装置、移動床反応装置または固定床反応装置を用いた公知の気相反応プロセスを適用することかできる。固定床反応装置の場合、特に附帯設備を含めた設備費、触媒コスト、運転管理の点で有利である。
また、バッチ式、半連続式または連続式のいずれの形態でも行われ得るが、連続式で行うのが好ましく、その方法は、単一の反応器を用いた方法でもよいし、直列または並列に配置された複数の反応器を用いた方法でもよい。
【0047】
なお、流動床反応器に前述の触媒を充填する際、触媒層の温度分布を小さく抑えるために、石英砂、アルミナ、シリカ、シリカ-アルミナ等の反応に不活性な粒状物を、触媒と混合して充填してもよい。この場合、石英砂等の反応に不活性な粒状物の使用量は特に制限はない。なお、この粒状物は、触媒との均一混合性の面から、触媒と同程度の粒径であることが好ましい。
また、反応器には、反応に伴う発熱を分散させることを目的に、反応基質(反応原料)を分割して供給してもよい。
【0048】
反応器内には、メタンと酸素の他に、ヘリウム、アルゴン、窒素、一酸化炭素、二酸化炭素、水素、水、パラフィン類、芳香族化合物類、および、それらの混合吻など、を存在させることかできるが、この中でも水(水蒸気)および/または二酸化炭素が共存しているのが、触媒上への炭素析出を抑制する効果が期待できることから好ましい。
このような希釈剤としては、反応原料に含まれている不純物をそのまま使用してもよいし、別途調製した希釈剤を反応原料と混合して用いてもよい。また、希釈剤は反応器に入れる前に反応原料と混合してもよいし、反応原料とは別に反応器に供給してもよい。
【0049】
反応温度の下限としては、650℃以上であることが好ましい。反応温度の上限としては、本発明の効果を奏する範囲であれば、制限はないが、800℃以下であることが好ましい。反応温度が650℃以上であると、十分な反応速度が得られる。一方、反応温度が800℃以下であると、触媒の活性が安定的になる。
【0050】
反応圧力の上限は、3MPa(絶対圧、以下同様)以下であることが好ましい。反応圧力が3MPa以下であると、好ましくない副生成物の生成を抑制することができる。以上の観点から、反応圧力は1MPa以下であることが好ましい。
また、反応圧力の下限は特に制限されないが、通常0.1kPa以上、好ましくは1kPa以上、より好ましくは、10kPa以上である。これらの下限値以上であることで、十分な反応速度を得ることができる。
【0051】
反応原料の重量空間速度は0.1hr-1以上であることが好ましく、0.5hr-1以上であることがより好ましい。一方、重量空間速度は10hr-1以下であることが好ましく、5hr-1以下であることがより好ましい。重量空間速度がこの範囲内であると、メタンの部分酸化反応に有利である。
【0052】
本発明の方法によれば、反応生成物は、合成ガス(CO+H)の他にエタン、エチレン等の炭素数2の炭化水素(副生成物)、二酸化炭素、および水を含むが、これらの反応生成物のうち、反応原料であるメタンに対する二酸化炭素の選択率を25%以下とすることができる。また、本発明においては、メタンの転化率は8~100%であり、一酸化炭素及び水素の選択率は、それぞれ60~90%、8~25%である。
なお、反応器出口ガス中の未反応原料、副生成物および希釈剤を含む混合ガスは、公知の分離・精製設備に導入され、それぞれの成分に応じて回収、精製、リサイクル、排出の処理を行うことができる。
【実施例0053】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明の範囲は以下の実施例により限定されるものではない。
(評価方法)
(1)ゼオライトの物性
<元素分析>
元素分析は、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)により行った。
<X線回折測定>
各ゼオライトの結晶構造をX線回折測定(XRD)により決定した。測定は、BRUKER社製の「D2PHASER」を用いて行った。
各実施例及び比較例で用いた酸化物の元素分析結果を表1に示す。なお、表1の数値は、試料中金属半定量結果[μg/g]であり、200μg/gが0.02質量%に相当する。
【0054】
【表1】
【0055】
(2)反応評価
固定床気相流通式反応装置を用いて、石英ガラス製反応管(触媒層部分:外径8.0mm、内径6.0mm、その他:外径6.0mm、内径4.0mm、全長260mm)の中段に、各実施例及び比較例の触媒100mgを充填した。N流通下(10ml/min)で電気炉を500℃まで昇温した。その後、CHを5.0ml/min及び、Oを2.5ml/min、Nを12.5ml/minの流量で導入し、反応温度500℃から800℃の温度範囲でメタンの部分酸化反応試験を行った。反応器の下流では、リボンヒーターにより100℃での加熱及び、反応ガスをN(100ml/min)で希釈することによって、生成した水の凝縮を防いだ。生成物の分析は2チャンネルのオンラインMicro-GC(FUSION、INFICON製)で分析した。Micro-GCのチャンネル1では、キャリアガスにArを用いたキャピラリーカラム Moleculer Sieve 5A(商品名)によって、H、O、N、CH、COを定量した。チャンネル2では、キャリアガスにHeを用いたキャピラリーカラム Porapak(商品名)によって、CO、C、C、HOを定量した。検出器にはTCDを用いた。
【0056】
反応物の転化率及び生成物の収率は以下のようにして算出した。なお、以下の式で、Fはflow rate、inはinlet、outはoutletを意味する。例えば、FCH4,inは入口のCH流量を意味する。
【0057】
【数1】
【0058】
なお、上記式には、以下の関係が成り立つ。
【0059】
【数2】
【0060】
実施例1
担体としてZrO上に酸化タングステンを担持させた触媒を用い、上述の反応評価を行った。
【0061】
実施例2~6及び比較例1~5
実施例1において、それぞれ担体をアルミナに変更(実施例2)、担持される酸化物を酸化バナジウム(VO)に変更(実施例3)、担持される酸化物を酸化ケイ素(SiO)に変更(実施例4)、MFI型ゼオライト(Si/Al=15)に変更(実施例5)、SAPO-34ゼオライト(Si/(Al+P+Si)=0.13)に変更(実施例6)、酸化ジルコニウム単体(比較例1)、酸化アルミニウム単体(比較例2)、酸化タングステン(WO)単体(比較例3)、担持される酸化物を酸化ニッケル(NiO)に変更(比較例4)、担体を酸化ケイ素に、担持される酸化物を酸化ニッケル(NiO)に変更(比較例5)、した以外は実施例1と同様にして、メタンの部分酸化反応試験を行った。結果をそれぞれ図1から図11に示す。
【0062】
実施例1はタングステンとジルコニウムの組み合わせとなるが、図1に示すように、600℃でメタン転換率は20%であったものが、700℃で80%、800℃で100%となる一方、得られるCOガスの生成は増え、また選択率も常に60%以上と高いものであった。
【0063】
実施例2はタングステンとアルミニウムの組み合わせとなるが、図2に示すように、600℃でメタン転換率は数%であったものが、700℃で40%、800℃で90%以上となる一方、得られるCOガスの生成は増え、また選択率も常に60%以上と高いものであった。
【0064】
実施例3はバナジウムとジルコニウムの組み合わせとなるが、図3に示すように、600℃でメタン転換率は60%であったものが、700℃以上でほぼ100%となる。一方、得られるCOガスの生成は増え、また選択率も800℃で水と二酸化炭素(完全酸化したことを意味する)が減少しCOと水素の選択率が高くなるという効果が得られた。
【0065】
実施例4はケイ素とジルコニウムの組み合わせとなるが、図4に示すように、600℃でメタン転換率は20%超であったものが、700℃以上で80%弱、800℃で90%となる。一方、得られるCOガスの生成は増え、またCOもほぼ60%の選択率で得ることができた。
【0066】
実施例5はケイ素とアルミニウムの複合酸化物であるMFI型ゼオライト(Si/Al=15)になるが、図5に示すように、温度上昇に伴いメタンの転換率が上昇し、一方、得られるCOガスの生成は増え、またCOの選択率もほぼ80%の高い選択率を保つことができた。
【0067】
実施例6はケイ素とアルミニウムとリンの複合酸化物であるSAPO-34(Si/(Al+P+Si)=0.13)になるが、図6に示すように、温度上昇に伴いメタンの転換率が上昇し、一方、得られるCOガスの生成は増え、またCOの選択率もほぼ70%の高い選択率を保つことができた。
【0068】
比較例1は、ジルコニウム酸化物単独での合成ガス製造になるが、図7に示すように反応温度が上がると、COの逐次酸化が進むために、ZrOのCO収率と選択性が減少することがわかる。
【0069】
比較例2は、アルミニウム酸化物単独での合成ガス製造になるが、これも図8に示すように比較例1と同様、低温ではCO選択性が高いが、メタンの転換率が高くなる高温域ではCO選択率が下がってしまうことがわかる。
【0070】
比較例3は、タングステン酸化物単独での合成ガス製造になるが、図9に示すように、反応温度が上がっても、転換率そのものが高くならない。
【0071】
比較例4は、ジルコニウム酸化物を担体とし、ニッケル酸化物を担持した触媒を用いた場合の合成ガス製造になるが、図10に示すように温度が上がっていく過程の500-600℃で燃焼反応のみが進行してしまうことがわかる(つまり完全酸化が起こってしまう)。このことから直接的にメタンを部分酸化するための触媒としてNi等の金属種が含まれていない方がよいことがわかる。
【0072】
比較例5は、ケイ素酸化物を担体とし、ニッケル酸化物を担持した触媒を用いた場合の合成ガス製造になるが、図11に示すように温度が上がっていく過程の600℃から700℃でほぼ燃焼反応のみが進行してしまうことがわかる(つまり完全酸化が起こってしまう)。この組み合わせでも直接的にメタン部分酸化するための触媒としてNi等の金属種が含まれていない方がよいことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の製造方法によれば、高い選択率でメタンを部分酸化することができ、効率的に合成ガス(CO+H)を製造することができる。合成ガスは、種々の反応原料として重要であることから、本発明は産業に貢献し得る技術である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11