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特開2024-141001脆弱部を有する樹脂成形品の局所ひずみを制御する方法、応力緩和試験方法、定ひずみサイクル試験方法、定ひずみ疲労曲線取得方法、応力緩和破壊寿命予測方法、ヒートショック破壊寿命予測方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141001
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】脆弱部を有する樹脂成形品の局所ひずみを制御する方法、応力緩和試験方法、定ひずみサイクル試験方法、定ひずみ疲労曲線取得方法、応力緩和破壊寿命予測方法、ヒートショック破壊寿命予測方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/32 20060101AFI20241003BHJP
   G01N 19/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
G01N3/32 E
G01N19/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052417
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003421
【氏名又は名称】弁理士法人フィールズ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】束田 拓平
(72)【発明者】
【氏名】土田 浩喜
【テーマコード(参考)】
2G061
【Fターム(参考)】
2G061AA01
2G061AB06
2G061BA15
2G061CA10
2G061CA14
2G061CB02
2G061CB20
2G061EA03
2G061EA04
2G061EB04
2G061EC04
(57)【要約】
【課題】リアルタイムで局所ひずみの制御を行うことができる脆弱部を有する樹脂成形品の局所ひずみを制御する方法、これを用いた応力緩和試験方法、定ひずみサイクル試験方法、定ひずみ疲労曲線取得方法、応力緩和破壊寿命予測方法、ヒートショック破壊寿命予測方法を提供する。
【解決手段】
本発明の一の態様によれば、脆弱部を有する樹脂成形品の局所ひずみを制御する方法であって、前記樹脂成形品にひずみを与える試験機に前記樹脂成形品を設置すること、前記脆弱部を含む所定の部分にひずみセンサを貼り付けること、および前記ひずみセンサから取得した局所ひずみ計測値に基づいて、前記脆弱部に一定の局所ひずみが与えられるように前記試験機を制御して前記局所ひずみを制御することを含む、方法が提供される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脆弱部を有する樹脂成形品の局所ひずみを制御する方法であって、
前記樹脂成形品にひずみを与える試験機に前記樹脂成形品を設置すること、
前記脆弱部を含む所定の部分にひずみセンサを貼り付けること、および
前記ひずみセンサから取得される局所ひずみ計測値に基づいて、前記脆弱部に一定の局所ひずみが与えられるように前記局所ひずみを制御することを含む、方法。
【請求項2】
前記脆弱部がウエルド部であり、前記ひずみセンサがひずみゲージである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記局所ひずみの制御は、前記ひずみゲージとブリッジボックスを接続し、前記ブリッジボックスと動ひずみ計を接続し、かつ前記動ひずみ計と前記万能試験機を接続した状態で、前記動ひずみ計から前記局所ひずみ計測値を電圧で出力し、前記試験機に前記電気信号として入力して行われる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記局所ひずみの制御は、前記局所ひずみ計測値がひずみ設定値と相違する場合には、前記局所ひずみ計測値が前記ひずみ設定値となるように行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法を用いて、前記脆弱部に前記一定の局所ひずみを与えながら、前記樹脂成形品の応力を計測して、前記樹脂成形品の応力緩和率を算出することを含む、応力緩和試験方法。
【請求項6】
脆弱部を有する樹脂成形品に一定のひずみの付与および除荷を交互に行なう定ひずみサイクル試験方法であって、
請求項1に記載の方法を用いて、前記脆弱部に前記一定の局所ひずみを与えて、前記樹脂成形品の定ひずみ疲労特性を算出することを含む、定ひずみサイクル試験方法。
【請求項7】
脆弱部を有する樹脂成形品の定ひずみ疲労曲線の取得方法であって、
請求項6に記載の定ひずみサイクル試験方法を用いて、前記樹脂成形品における局所ひずみ水準が異なる2以上の定ひずみ疲労特性を取得すること、および前記2以上の定ひずみ疲労特性に基づいて定ひずみ疲労曲線取得することを含む、定ひずみ疲労曲線取得方法。
【請求項8】
請求項5に記載の応力緩和試験方法により算出した応力緩和率に基づいて、インサート部材と、前記インサート部材の表面の少なくとも一部を覆い、かつ脆弱部を有する樹脂部材とを有するインサート成形品の応力緩和破壊寿命を予測することを含む、応力緩和破壊寿命予測方法。
【請求項9】
請求項7に記載の定ひずみ疲労曲線取得方法により算出した定ひずみ疲労曲線に基づいて、インサート部材と、前記インサート部材の表面の少なくとも一部を覆い、かつ脆弱部を有する樹脂部材とを有するインサート成形品のヒートショック破壊寿命を予測することを含む、ヒートショック破壊寿命予測方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脆弱部を有する樹脂成形品の局所ひずみを制御する方法、応力緩和試験方法、定ひずみサイクル試験方法、定ひずみ疲労曲線取得方法、応力緩和破壊寿命予測方法、ヒートショック破壊寿命予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属部材と樹脂を複合したいわゆるインサート成形品は、電気制御部品、電子制御部品や金属部材の軽量化など様々な目的で自動車、電機部材や電子部品などに応用されている。このようなインサート成形品は温度変化が大きい環境で用いられた場合、樹脂と金属との線膨張差からヒートショック割れを生じることがある。このため、ヒートショック割れを抑制するために、樹脂材料処方や加工法などが検討されてきた。また、これらのインサート成形品がウエルド部等の脆弱部を有する場合、ウエルド部を起点とした成形品の破壊に対する対策、予測または評価手法の必要性が高まっている。
【0003】
このように、ヒートショック破壊等の起点となりやすい脆弱部での破壊寿命を予測するためには、正確な脆弱部の物性の評価と取得が必要となる。従来、伸び計を用いた引張試験より取得した力学特性をもとに脆弱部近傍の平均的な応力-ひずみ曲線を算出し、ストローク変位をもとに脆弱部近傍の平均的な定ひずみ疲労特性の評価を行っていた。
【0004】
しかし、引張試験機のチャック間長さ(115mm)内の平均ひずみ、または伸び計の計測範囲(50mm)内の平均化されたひずみしか計測ができないため、脆弱部を有する試験片においては脆弱部の局所的なひずみ(局所ひずみ)の制御ができず、正確な応力緩和現象の評価ができていない。
【0005】
このよう問題に対し、デジタル画像相関法(DICM)を用いて、荷重を加えた際の脆弱部における応力-ひずみ曲線を算出する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011-22125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、DICMを用いた技術を用いた場合、局所ひずみを計測できるものの、局所ひずみを算出するためには計測後に解析処理が必要となるため、応力緩和試験や定ひずみ疲労特性(ヒートショック破壊判定用)においてリアルタイムでの局所ひずみの制御を行うことができない。
【0008】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものである。すなわち、リアルタイムで局所ひずみの制御を行うことができる脆弱部を有する樹脂成形品の局所ひずみを制御する方法、これを用いた応力緩和試験方法、定ひずみサイクル試験方法、定ひずみ疲労曲線取得方法、応力緩和破壊寿命予測方法、ヒートショック破壊寿命予測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1]脆弱部を有する樹脂成形品の局所ひずみを制御する方法であって、前記樹脂成形品にひずみを与える試験機に前記樹脂成形品を設置すること、前記脆弱部を含む所定の部分にひずみセンサを貼り付けること、および前記ひずみセンサから取得される局所ひずみ計測値に基づいて、前記脆弱部に一定の局所ひずみが与えられるように前記局所ひずみを制御することを含む、方法。
【0010】
[2]前記脆弱部がウエルド部であり、前記ひずみセンサがひずみゲージである、上記[1]に記載の方法。
【0011】
[3]前記局所ひずみの制御は、前記ひずみゲージとブリッジボックスを接続し、前記ブリッジボックスと動ひずみ計を接続し、かつ前記動ひずみ計と前記万能試験機を接続した状態で、前記動ひずみ計から前記局所ひずみ計測値を電圧で出力し、前記試験機に前記電気信号として入力して行われる、上記[2]に記載の方法。
【0012】
[4]前記局所ひずみの制御は、前記局所ひずみ計測値がひずみ設定値と相違する場合には、前記局所ひずみ計測値が前記ひずみ設定値となるように行われる、上記[1]に記載の方法。
【0013】
[5]上記[1]に記載の方法を用いて、前記脆弱部に前記一定の局所ひずみを与えながら、前記樹脂成形品の応力を計測して、前記樹脂成形品の応力緩和率を算出することを含む、応力緩和試験方法。
【0014】
[6]脆弱部を有する樹脂成形品に一定のひずみの付与および除荷を交互に行なう定ひずみサイクル試験方法であって、上記[1]に記載の方法を用いて、前記脆弱部に前記一定の局所ひずみを与えて、前記樹脂成形品の定ひずみ疲労特性を算出することを含む、定ひずみサイクル試験方法。
【0015】
[7]脆弱部を有する樹脂成形品の定ひずみ疲労曲線の取得方法であって、上記[6]に記載の定ひずみサイクル試験方法を用いて、前記樹脂成形品における局所ひずみ水準が異なる2以上の定ひずみ疲労特性を取得すること、および前記2以上の定ひずみ疲労特性に基づいて定ひずみ疲労曲線取得することを含む、定ひずみ疲労曲線取得方法。
【0016】
[8]上記[5]に記載の応力緩和試験方法により算出した応力緩和率に基づいて、インサート部材と、前記インサート部材の表面の少なくとも一部を覆い、かつ脆弱部を有する樹脂部材とを有するインサート成形品の応力緩和破壊寿命を予測することを含む、応力緩和破壊寿命予測方法。
【0017】
[9]上記[7]に記載の定ひずみ疲労曲線取得方法により算出した定ひずみ疲労曲線に基づいて、インサート部材と、前記インサート部材の表面の少なくとも一部を覆い、かつ脆弱部を有する樹脂部材とを有するインサート成形品のヒートショック破壊寿命を予測することを含む、ヒートショック破壊寿命予測方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、リアルタイムで局所ひずみの制御を行うことができる脆弱部を有する樹脂成形品の局所ひずみを制御する方法、これを用いた応力緩和試験方法、定ひずみサイクル試験方法、定ひずみ疲労曲線取得方法、応力緩和破壊寿命予測方法、ヒートショック破壊寿命予測方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、実施形態に係る脆弱部を有する樹脂成形品の局所ひずみの制御方法の模式的な概念図である。
図2図2は、実施形態に係る定ひずみサイクル試験におけるひずみ制御のイメージ図である。
図3図3は、実施例1に係る応力緩和試験の結果を示すグラフである。
図4図4は、比較例1に係る応力緩和試験の結果を示すグラフである。
図5図5は、実施例2に係る定ひずみサイクル試験の結果を示すグラフである。
図6図6は、実施例3に係る定ひずみサイクル試験の結果を示すグラフである。
図7図7は、比較例2に係る定ひずみサイクル試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態に脆弱部を有する樹脂成形品の局所ひずみを制御する方法、応力緩和試験方法、定ひずみサイクル試験方法、定ひずみ疲労曲線取得方法、応力緩和破壊寿命予測方法、ヒートショック破壊寿命予測方法について説明する。図1は、本実施形態に係る脆弱部を有する樹脂成形品の局所ひずみの制御方法の模式的な概念図であり、図2は、実施形態に係る定ひずみサイクル試験におけるひずみ制御のイメージ図である。
【0021】
<<脆弱部を有する樹脂成形品の局所ひずみを制御する方法>>
まず、図1に示されるように試験対象となる樹脂成形品10と、樹脂成形品10の試験を行う試験機11と、樹脂成形品10の後述する脆弱部10Aを含む所定の部分に貼り付けるひずみセンサ12と、ひずみセンサ12に接続されたブリッジボックス13と、ブリッジボックス13および試験機11に接続された動ひずみ計14とを用意する。なお、ひずみセンサ12の種類によっては、ブリッジボックス13および動ひずみ計14の代わりに、光学系の装置を用いてもよい。
【0022】
<樹脂成形品>
樹脂成形品10は、脆弱部10Aを有するものである。本明細書における「脆弱部」とは、樹脂成形品の他の部分より機械的強度が低い部分を指す。脆弱部は樹脂成形品の他の部分よりも機械的強度が低いので、変形しやすい(伸びやすい)。脆弱部10Aは、樹脂成形品10中に1以上あればよく、2以上あってもよい。脆弱部10Aとしては、例えば、ウエルド部、ボイドや発泡部等の空隙存在部が挙げられる。「ウエルド部」とは、例えば樹脂成形の際、金型内部での流動樹脂末端同士の合流箇所を意味する。
【0023】
脆弱部は、例えば、X線CT装置を用いた繊維配向観察や内部欠陥観察、またはDICMを活用した変形分布により特定することができる。
【0024】
樹脂成形品10としては、脆弱部10Aを有する限り、どのような樹脂材料を含む樹脂成形品であってもよい。また、複数の樹脂材料をブレンドした樹脂混合物も上記樹脂材料に含まれる。さらに、樹脂に対してガラス繊維、炭素繊維等の無機充填剤、核剤、カーボンブラック、無機焼成顔料等の顔料、酸化防止剤、安定剤、可塑剤、滑剤、離型剤及び難燃剤等の添加剤を添加して、所望の特性を付与した樹脂組成物も上記樹脂材料に含まれる。
【0025】
脆弱部10Aでのより正確なひずみ量の算出が求められる樹脂材料としては、強度や耐久性を求められることが多い結晶性熱可塑性樹脂を含む樹脂材料が挙げられる。局所ひずみ制御方法は、上記結晶性熱可塑性樹脂に対しても好ましく適用できる点が特徴の一つである。すなわち、樹脂成形品10が荷重を受けることで、脆弱部10Aに生じる局部応力に基づく塑性変形が強度や耐久性に大きく影響するからである。結晶性熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられる。
【0026】
樹脂成形品10の原料となる樹脂材料を選択した後、樹脂材料を成形し樹脂成形品を作製する。成形方法は特に限定されないが、圧縮成形、トランスファー成形、射出成形、押出成形、ブロー成形等種々の成形方法を挙げることができる。また、本発明に用いる樹脂成形品には、二以上の樹脂部品を溶着等の方法により接合したものも含む。
【0027】
<試験機>
試験機11としては、例えば、万能試験機が挙げられる。試験機11では、例えば、樹脂成形品の引張試験が行われる。試験機11は、樹脂成形品10を把持するチャック部11Aおよび制御部11Bを有している。制御部11Bは、制御手順を規定したプログラムを実行するCPU等の汎用のプロセッサ又は各機能の処理に特化した専用のプロセッサとすることができる。制御部11Bは、演算手段やプログラム等を記憶する記憶手段等を有している。
【0028】
記憶手段に記憶されているプログラムは、脆弱部に一定の局所ひずみが与えられるように試験機を制御するプログラムである。具体的には、まず、制御部に電気信号として入力される後述する局所ひずみ計測値が局所ひずみの設定値であるか否かを判断し、局所ひずみ計測値が設定値と異なる場合には、局所ひずみ計測値が設定値となるように、試験機の動作を制御する。
【0029】
<ひずみセンサ>
ひずみセンサ12は、脆弱部10Aを含む所定の部分に貼り付けられ、この部分のひずみを計測するものである。ひずみセンサ12は、脆弱部10Aに接触している。ひずみセンサ12としては、例えば、ひずみゲージや光ファイバセンサを用いることができる。伸び計を用いた場合には、計測範囲が50mmという広い範囲でひずみが測定されるが、ひずみセンサ12を用いた場合には、1mm程度という非常に狭い範囲でのひずみを測定できる。
【0030】
<ブリッジボックス、動ひずみ計>
ブリッジボックス13は、ひずみセンサ12からの出力(例えば、抵抗値)を電圧に変換するためのものであり、動ひずみ計14は、電圧を増幅するためのものである。ひずみセンサ12から取得されたひずみ計測値は、ブリッジボックス13で電圧に変換され、動ひずみ計で増幅された後、試験機11の制御部11Bに電気信号として入力される。なお、必ずしもブリッジボックス13および動ひずみ計を用いる必要はない。例えば、ひずみセンサ12が光ファイバセンサである場合には、光ファイバセンサからの出力を、ブリッジボックス13および動ひずみ計14の代わりに光学系の装置(図示せず)を介して試験機11の制御部11Bに電気信号として入力することが可能である。
【0031】
脆弱部10Aを有する樹脂成形品10の局所ひずみを制御する方法は、上記のような樹脂成形品10や試験機11等を用いて行われる。まず、樹脂成形品10を試験機11に設置する。具体的には、樹脂成形品10を試験機11のチャック部11Aに把持させる。その後、樹脂成形品10における脆弱部10Aを含む所定の部分に、ひずみセンサ12を貼り付ける。ひずみセンサ12がひずみゲージであれば、所定の部分に貼り付ける。なお、ひずみセンサ12は、樹脂成形品10を試験機11に設置する前に樹脂成形品10に貼り付けてもよい。
【0032】
ひずみセンサ12を貼り付けた後、樹脂成形品10の脆弱部10Aの破断ひずみの1%以上90%以下のひずみを設定値として試験機11に入力して、室温(例えば、23℃)で、試験機11により樹脂成形品10にひずみを与える。樹脂成形品10にひずみを与えると、ひずみセンサ12から脆弱部10Aを含む所定の部分のひずみである局所ひずみ計測値が得られるので、ブリッジボックス13で電圧に変換して、動ひずみ計14に入力される。動ひずみ計14に入力された電圧の電気信号は、増幅されて、試験機11の制御部11Bに入力される。そして、制御部11Bにおいて、上記プログラムに基づいて、脆弱部10Aに一定の局所ひずみが与えられるように試験機11を制御して局所ひずみを制御する。ここで、「一定の局所ひずみ」とは、実質的に局所ひずみが一定であればよく、設計上やプロセスに起因する僅かな変動があってもよい。例えば、局所ひずみ計測値において立ち上がりがある場合には、立ち上がってからの局所ひずみ計測値の変動率が1%以内であれば、局所ひずみが一定であると判断できる。
【0033】
本実施形態によれば、脆弱部10Aを含む所定の部分に貼り付けられたひずみセンサ12を介して局所ひずみが計測され、局所ひずみ計測値に基づいて、一定の局所ひずみが与えられるように脆弱部10Aに与える局所ひずみを制御するので、リアルタイムで局所ひずみの制御を行うことできる。
【0034】
このような局所ひずみの制御方法は、応力緩和試験方法および定ひずみサイクル試験方法に用いることが可能である。
【0035】
<応力緩和試験方法>
「応力緩和試験」とは、樹脂成形品10に一定のひずみを加え、時間とともに変化する応力を計測する試験である。応力緩和試験方法においては、上記制御方法を用いることによって、応力緩和試験中の脆弱部10Aの局所ひずみを一定に制御することが可能となる。
【0036】
具体的には、まず、上記制御方法を用いて、室温(例えば、23℃)で、脆弱部10Aの局所ひずみを一定に制御しながら、試験機11によって樹脂成形品10の応力を計測する。この計測を60秒間~172800秒間行った後、応力緩和率を算出する。応力緩和率Δσ(%)は、以下の式(1)から求めるものとする。
Δσ=100-(σ÷σ×100) …式(1)
ここで、式(1)中、σは応力緩和試験で測定された樹脂成形品の最大応力値であり、σは樹脂成形品の応力緩和試験終了時の応力値である。
【0037】
このような応力緩和試験方法によれば、脆弱部10Aに一定の局所ひずみが与えられるように局所ひずみを制御しながら、樹脂成形品10の応力を計測して、樹脂成形品10の応力緩和率を算出することが可能となる。これにより、脆弱部10Aの正確な応力緩和率を算出することができる。
【0038】
なお、応力緩和試験において、伸び計で一定のひずみが与えられるように制御した場合であっても、脆弱部の局所ひずみは一定とならないので、脆弱部の正確な応力緩和率を算出することができない。これは、伸び計では計測範囲が50mmという広い範囲でのひずみ制御となるために、ひずみは平均化されたひずみとなるからである。具体的には、ひずみを一定とした場合であっても、実際には脆弱部は伸びてしまうため、応力は増えてしまう。一方で、樹脂成形品全体では、ひずみが一定であるので、ひずみを一定に保つために、応力の揺り戻しが生じる。これにより、伸び計でひずみ制御した場合には、ひずみセンサでひずみ制御した場合よりも応力緩和率は低くなる。
【0039】
<応力緩和破壊寿命予測方法>
樹脂成形品10においては、応力緩和過程で破壊されることがある(応力緩和破壊)。これに対し、上記応力緩和率を用いれば、局所ひずみがどの程度与えられているときに、応力緩和過程で樹脂成形品10が壊れることが予測できるので、応力緩和破壊寿命を高精度に予測することができる。なお、伸び計でひずみ制御した場合の応力緩和率は、正確ではないので、応力緩和破壊寿命を予測することを高精度に予測することはできない。
【0040】
<定ひずみサイクル試験方法、定ひずみ疲労曲線取得方法>
「定ひずみサイクル試験」とは、樹脂成形品に繰り返しひずみを与え、樹脂成形品が破壊に至る繰り返し数を測定する試験である。すなわち、ひずみの付与と除荷が繰り返し行われる。定ひずみサイクル試験方法においては、上記制御方法を用いることによって、定ひずみサイクル試験中の脆弱部10Aに一定の局所ひずみが与えられるように局所ひずみを制御することが可能となる。ここで、定ひずみサイクル試験においては、樹脂成形品10に繰り返しひずみが付与されるので、図2に示されるように1サイクル中でひずみが変動する。このため、定ひずみサイクル試験における「一定の局所ひずみ」とは、局所ひずみの上限および下限をそれぞれ設定し、その設定したひずみをそれぞれ一定に保持することを意味する。
【0041】
定ひずみサイクル試験における樹脂成形品10に与えられるひずみの上限は、脆弱部10Aの局所破断ひずみの1%以上99%以下の範囲で設定することが可能であり、ひずみの下限は任意に設定することが可能である。例えば、ひずみの下限は、ひずみの上限の半分の値に設定してもよく、また0%としてもよく、また座屈変形を引き起こさない程度の圧縮ひずみを設定してもよい。樹脂成形品10が塑性変形などを引き起こすことにより、樹脂成形品10に圧縮応力が生じることがあるので、好ましくは、樹脂成形品10に圧縮応力が生じないようにするため、局所ひずみの設定下限値を樹脂成形品10の応力が0MPaとなるひずみとする。
【0042】
具体的には、まず、上記制御方法を用いて、室温(例えば、23℃)で、脆弱部10Aの局所ひずみを一定に制御しながら、何サイクルで樹脂成形品10が破壊に至るか測定する。試験機11には、サイクル数の上限があるので、樹脂成形品10が試験機11のサイクル数の上限内で破壊されないこともあるが、試験機11のサイクル数の上限でも樹脂成形品10が破壊されない場合には、局所ひずみの設定値を上げて再度行う。定ひずみサイクル試験においても、応力緩和率を求めるために樹脂成形品10の応力を計測してもよい。
【0043】
このような定ひずみサイクル試験方法によれば、脆弱部10Aに一定の局所ひずみが与えられるように局所ひずみを制御しながら行うので、脆弱部10Aがどの程度の局所ひずみでどの程度のサイクル数で破壊されるか否かという定ひずみ疲労特性を得ることが可能となる。これにより、脆弱部10Aの正確な定ひずみ疲労特性を算出することができる。
【0044】
なお、定ひずみサイクル試験において、伸び計で一定のひずみが与えられるように制御した場合であっても、脆弱部の局所ひずみは一定とならないので、脆弱部の正確な定ひずみ疲労特性を算出することができない。これは、伸び計では計測範囲が50mmという広い範囲でのひずみ制御となることからひずみは平均化されたひずみとなるとともに、実際は脆弱部は伸びてしまうためである。なお、定ひずみサイクル試験において、応力緩和率を算出すると、応力緩和試験で述べた理由と同様の理由から、伸び計でひずみ制御した場合には、ひずみセンサでひずみ制御した場合よりも応力緩和率は低くなる。
【0045】
このように得られた定ひずみ疲労特性のうち、試験機11のサイクル数の上限内で樹脂成形品10が破壊された定ひずみ疲労特性は、脆弱部10Aを有する樹脂成形品10の定ひずみ疲労曲線の取得に用いることができる。具体的には、まず、局所ひずみ水準が異なる2以上の定ひずみ疲労特性を取得する。定ひずみ疲労特性は2以上であれば、定ひずみ疲労曲線を取得することができるが、正確な定ひずみ疲労曲線を得るためには、3以上、5以上、または7以上の定ひずみ疲労特性を取得しておくことが好ましい。
【0046】
局所ひずみ水準が異なる2以上の定ひずみ疲労特性を取得した後、これらの定ひずみ疲労特性に基づいて、縦軸がひずみ(%)であり、横軸がサイクル数のグラフにプロットし、近似曲線を算出して、定ひずみ疲労曲線を得る。このグラフを用いれば、局所ひずみがどの程度与えられているときに、何サイクルで樹脂成形品10が破壊されるか予測できる。なお、伸び計で得られた定ひずみ疲労特性に基づいて定ひずみ疲労曲線を取得した場合には、脆弱部の正確な定ひずみ疲労特性が取得されていないので、定ひずみ疲労曲線も正確ではないものとなる。
【0047】
<ヒートショック破壊寿命予測方法>
上記したようにインサート成形品においては、樹脂と金属との線膨張差からヒートショック割れを生じることがある。これに対し、上記定ひずみ疲労曲線を用いれば、局所ひずみがどの程度与えられているときに、何サイクルで樹脂成形品10が破壊されるか予測できるので、インサート成形品のヒートショック破壊寿命を高精度に予測することができる。
【0048】
インサート成形品は、インサート部材と、インサート部材の表面の少なくとも一部を覆い、かつ脆弱部を有する樹脂部材とを有するものである。インサート部材は、金属に限定されず、複合材、セラミック、または樹脂等を含んでいてもよい。
【実施例0049】
本発明を詳細に説明するために、以下に実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの記載に限定されない。図3は実施例1に係る応力緩和試験の結果を示すグラフであり、図4は、比較例1に係る応力緩和試験の結果を示すグラフである。図5は、実施例2に係る定ひずみサイクル試験の結果を示すグラフであり、図6は、実施例3に係る定ひずみサイクル試験の結果を示すグラフであり、図7は、比較例2に係る定ひずみサイクル試験の結果を示すグラフである。
【0050】
<実施例1>
まず、試験片を作製した。具体的には、ガラス繊維入りポリフェニレンサルファイド材料(商品名「ジュラファイド(登録商標)」、ポリプラスチックス株式会社製)を用いて、射出成形にて、ウエルド部を有する厚さ4mmのダンベル型の試験片を作製した。
【0051】
また、試験機としての万能試験機(製品名「オートグラフAG-Xplus 20kN」、株式会社島津製作所製)、ひずみゲージ(型番「KFGS-1-120-C1-23、共和電業株式会社製)、ブリッジボックス(型番「DB-120」、共和電業株式会社製)、動ひずみ計(製品名「DPM611A」、共和電業株式会社製)を用意した。
【0052】
万能試験機のチャック部に試験片を、チャック部間距離が115mmとなるように把持した。また、試験片のウエルド部を含む所定の部分にひずみゲージを貼り付けた。ひずみゲージによるひずみ制御範囲は1mmであった。また、ひずみゲージとブリッジボックスを接続し、ブリッジボックスと動ひずみ計を接続し、動ひずみ計と万能試験機の制御部を接続した。
【0053】
制御部には、ウエルド部に一定の局所ひずみが与えられるように万能試験機を制御するプログラムが記憶されていた。具体的には、局所ひずみ計測値が局所ひずみの設定値として設定された0.86%であるか否かを判断し、局所ひずみ計測値が設定値と相違する場合には、局所ひずみ計測値がひずみ設定値0.86%となるように万能試験機の動作を制御するようなプログラムが記憶されていた。なお、ひずみ設定値0.86%は、試験片の脆弱部局所破断ひずみの80%相当のひずみである。
【0054】
そして、上記プログラムに基づいて、試験片の長手方向に試験片を引張るとともに、ウエルド部に一定の局所ひずみが与えられるように制御しながら1800秒間応力緩和試験を行ったところ、図3に示されるグラフが得られた。このグラフから、局所ひずみが一定であることが理解できるので、応力緩和試験において、局所ひずみが一定となるように局所ひずみを制御できたことが確認された。また、上記式(1)に基づいて、応力緩和試験における試験片の応力緩和率を算出したところ、応力緩和率は、7.7%であった。
【0055】
<比較例1>
比較例1においては、伸び計(型番「3542-020M-050-LHT」、Epsilon Technology社製)を用いて試験片のひずみ制御を行ったこと以外は、実施例1と同様に応力緩和試験を行った。具体的には、伸び計を試験片の背面側に取り付けた。伸び計によるひずみ制御範囲は50mmであった。また、比較例1のひずみ設定値は、0.36%とした。なお、比較例1においても、ウエルド部の局所ひずみを計測するためにウエルドを含む所定の部分にひずみゲージを貼り付けたが、試験片のひずみ制御は伸び計のみで行った。
【0056】
実施例1と同様のプログラムに基づいて、試験片の長手方向に試験片を引張るとともに、試験片に一定のひずみが与えられるように制御しながら1800秒間応力緩和試験を行ったところ、図4に示されるグラフが得られた。このグラフから、伸び計で制御された試験片のひずみは一定である一方で、ウエルド部の局所ひずみは立ち上がった後増大していたため、伸び計ではウエルド部の局所ひずみが一定になるように局所ひずみを制御できていなかったことが確認された。また、上記式(1)に基づいて、応力緩和試験における試験片の応力緩和率を算出したところ、応力緩和率は、3.4%であり、実施例1での応力緩和率よりも低かった。
【0057】
<実施例2>
実施例2においては、実施例1と同様の試験片、装置等を用いて、定ひずみサイクル試験を行った。定ひずみサイクル試験は、ひずみの付与と除荷を交互に繰り返すプログラムに基づいて行われた。定ひずみサイクル試験においては、周波数を1Hzとし、局所ひずみの設定上限値を局所破断ひずみの0.86%とし、かつ設定下限値を試験片の応力が0MPaとなるようなひずみとした。なお、局所ひずみの設定下限値を局所破断ひずみの0%とすると、仮に試験片が塑性変形などを引き起こす場合には、試験片に圧縮応力が生じるので、圧縮応力が生じないようにするために、局所ひずみの設定下限値を試験片の応力が0MPaとなるひずみとした。
【0058】
実施例2においては、上記プログラムに基づいて、試験片の長手方向に試験片を引張るとともに、ウエルド部に一定の局所ひずみが与えられるように制御しながら定ひずみサイクル試験(上限1000サイクル)を行ったところ、図5に示されるグラフが得られた。このグラフから、局所ひずみが一定であることが理解できるので、定サイクル試験において、局所ひずみが一定となるように局所ひずみを制御できたことが確認された。また、上記式(1)に基づいて、試験片の応力緩和率を算出したところ、応力緩和率は、17.4%であった。また、実施例2の定ひずみサイクル試験においては、試験片は万能試験機のサイクル数の上限である1000サイクル以内に破壊しないことが確認された。
【0059】
<実施例3>
実施例3においては、局所ひずみの設定上限値を局所破断ひずみの0.86%から0.95%に変更したこと以外は、実施例2と同様にして、定ひずみサイクル試験を行った。その結果、図6に示されるグラフが得られた。このグラフから、局所ひずみが一定であることが理解できるので、定サイクル試験において、局所ひずみが一定となるように局所ひずみを制御できたことが確認された。また、実施例3の定ひずみサイクル試験においては、試験片は26サイクルで破壊することが確認された。
【0060】
<比較例2>
比較例2においては、伸び計(製品名「3542-020M-050-LHT」、Epsilon Technology社製)を用いて試験片のひずみ制御を行ったこと以外は、実施例2と同様に定ひずみサイクル試験を行った。具体的には、伸び計を試験片の背面側に取り付けた。伸び計によるひずみ制御範囲は50mmであった。また、比較例2のひずみ設定値は、0.40%とした。なお、比較例2においても、ウエルド部の局所ひずみを計測するためにウエルドを含む所定の部分にひずみゲージを貼り付けたが、試験片のひずみ制御は伸び計のみで行った。
【0061】
実施例2と同様のプログラムに基づいて、試験片の長手方向に試験片を引張るとともに、ウエルド部に一定の局所ひずみが与えられるように制御しながら定ひずみサイクル試験(上限1000サイクル)を行ったところ、図7に示されるグラフが得られた。このグラフから、伸び計で制御された試験片のひずみは一定である一方で、ウエルド部の局所ひずみはサイクル数が増えるにつれて増大していたため、伸び計ではウエルド部の局所ひずみが一定になるように局所ひずみを制御できていなかったことが確認された。これは、1サイクル毎にひずみが除荷されているが、ひずみ設定値が、ウエルド部が塑性変形するようなひずみであることから、元に戻らず、ウエルド部が少しずつ伸びていくためと考えられる。また、上記式(1)に基づいて、応力緩和試験における試験片の応力緩和率を算出したところ、応力緩和率は、5.4%であり、実施例2での応力緩和率よりも低かった。
【0062】
10…樹脂成形品
10A…脆弱部
11…試験機
11A…チャック部
11B…制御部
12…ひずみセンサ
13…ブリッジボックス
14…動ひずみ計

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7