(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141018
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】澱粉含有食品のほぐれ性を向上するために用いられる油脂組成物及びその製造方法、澱粉含有食品のほぐれ性を向上する方法
(51)【国際特許分類】
A23D 7/01 20060101AFI20241003BHJP
A23L 7/109 20160101ALI20241003BHJP
【FI】
A23D7/01
A23L7/109 A
A23L7/109 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052439
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 朋子
(74)【代理人】
【識別番号】100196313
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 大輔
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 太一
(72)【発明者】
【氏名】岡田 孝宏
【テーマコード(参考)】
4B026
4B046
【Fターム(参考)】
4B026DG04
4B026DK10
4B026DP01
4B026DP03
4B046LA06
4B046LB10
4B046LC15
4B046LG10
4B046LG11
4B046LP41
4B046LP56
4B046LP64
4B046LP69
(57)【要約】
【課題】本発明の解決しようとする課題は、澱粉含有食品のほぐれ性を向上するために用いられる、新規な油脂組成物を提供する。
【解決手段】HLB3.0以上のポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを0.1~5.5質量%含有する、油脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
HLB3.0以上のポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを0.1~5.5質量%含有する、油脂組成物。
【請求項2】
澱粉含有食品のほぐれ性を向上するために用いられる、請求項1に記載の油脂組成物。
【請求項3】
20℃で流動性を有する、請求項1又は2に記載の油脂組成物。
【請求項4】
請求項1又2に記載の油脂組成物で表面がコーティングされた、麺。
【請求項5】
前記麺が冷凍麺である、請求項4に記載の麺。
【請求項6】
請求項1に記載の油脂組成物で澱粉含有食品の表面をコーティングすることを含む、澱粉含有食品のほぐれ性を向上させる方法。
【請求項7】
HLB3.0以上のポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル0.1~5.5質量%と食用油とを混合する工程を含む、油脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、澱粉含有食品のほぐれ性を向上するために用いられる油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
そば、うどん、中華麺、パスタなどは、茹でて食すが、特に加熱などしなくても、そのまま食すことができるように流通しているものも多い。しかし、それらの麺類は、流通あるいは保存中に麺と麺が付着するなどの問題が発生しやすく、これらの問題を改善するために、油脂をコーティングし、麺相互の付着を防止し、ほぐれ性を改善することが行われてきた。
【0003】
例えば、特許文献1には、油脂とポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する麺用ほぐれ剤の例が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記先行技術があるところ、本発明の課題は、澱粉含有食品のほぐれ性を向上するために用いられる、新規な油脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、HLB3.0以上のポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有する油脂組成物が、澱粉含有食品のほぐれ性向上作用を有し、上記課題を解決することを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、下記の[1]~[7]を提供する。
[1]HLB3.0以上のポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを0.1~5.5質量%含有する、油脂組成物。
[2]澱粉含有食品のほぐれ性を向上するために用いられる、[1]に記載の油脂組成物。
[3]20℃で流動性を有する、[1]又は[2]に記載の油脂組成物。
[4][1]~[3]に記載の油脂組成物で表面がコーティングされた、麺。
[5]前記麺が冷凍麺である、[4]に記載の麺。
[6][1]~[3]に記載の油脂組成物で澱粉含有食品の表面をコーティングすることを含む、澱粉含有食品のほぐれ性を向上させる方法。
[7]HLB3.0以上のポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル0.1~5.5質量%と食用油とを混合する工程を含む、油脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、澱粉含有食品のほぐれ性を向上するために用いられる、新規な油脂組成物を提供することができる。また、本発明によれば、澱粉含有食品のほぐれ性を向上させる新規な方法を提供することができる。また、本発明によれば、澱粉含有食品のほぐれ性を向上するために用いられる、新規な油脂組成物の新規な製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に例示説明する。なお、本発明の実施形態において、A(数値)~B(数値)は、A以上B以下を意味する。また、数値範囲の記載は例示であって、各範囲の上限と下限並びに実施例の数値とを適宜組み合わせた範囲も好ましく使用することができる。さらに、「含有する」又は「含む」等の用語は、「本質的になる」や「のみからなる」と読み替えてもよい。
【0010】
本発明の油脂組成物は、HLB3.0以上のポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル(以下、PGPRと表すことがある)を含有する。ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルのHLB値が3.0よりも小さいと、澱粉含有食品のほぐれ性向上効果が期待できない。本発明の油脂組成物で用いるポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルはHLB3.0~7.0であることが好ましく、HLB3.4~6.0であることがより好ましく、HLB3.6~5.0であることがさらに好ましい。ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルのHLBが上記の範囲にあると、本発明の効果をより奏しやすい。
なお、HLBとは、親水性疎水性バランス(Hydrophile Lipophile Balance)の略であって、乳化剤が親水性か親油性かを知る指標となるもので、0~20の値をとる。HLB値が小さい程、親油性が強いことを示す。本発明において、HLB値の算出はアトラス法の算出法を用いる。アトラス法の算出法は、
HLB=20×(1-S/A)
S:ケン化価
A:エステル中の脂肪酸の中和価
からHLB値を算出する方法を言う。同算出方法では、HLB値は、算術平均として算出される。本発明においては、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルが2種以上のHLB成分を有する混合物である場合、平均HLBが3.0以上であればよい。ここで、前記平均HLBは、各ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルのHLB値を加重平均した数値を指す。
【0011】
本発明の油脂組成物は、HLB3.0以上のポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを0.1~5.5質量%含有する。また、本発明の油脂組成物は、HLB3.0以上のポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを0.4質量%以上含有することが好ましく、0.8質量%以上含有することがより好ましい。ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの含有量が上記の範囲にあると、本発明の効果をより奏しやすい。
【0012】
本発明で用いるポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルは、通常の製造方法により得られ、例えば、主にヒマシ油から得られるリシノレイン酸とポリグリセリンとのエステル化反応により得られる。ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルのポリグリセリン部分は、重合したグリセリンの数(重合度)が異なる複数のポリグリセリンの混合物であり、平均重合度で表記され得る。ポリグリセリンの平均重合度は、例えば、混合物の水酸基価から算出できる。本発明の油脂組成物に含まれるポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルのポリグリセリン部分の平均重合度は、好ましくは2~12程度であり、より好ましくは2~10程度であり、さらに好ましくは3~8程度である。本発明で用いるポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルは、2種以上を併用してもよい。
【0013】
なお、本発明の油脂組成物は、本発明で用いるポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルと通常の食用油とを混合して製造される。通常の食用油量は、油脂組成物中、90.0~99.9質量%であることが好ましく、93.0~99.9質量%であることがより好ましく、94.5~99.9質量%であることがさらにより好ましい。通常の食用油は、一般に食用として使用される動植物油脂及びその水素添加油、分別油、エステル交換油などを単独あるいは組合わせて用いることができる。特に、食用油の精製の程度は限定するものではないが、混合後にろ過以外の精製を行うとポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルが、除去・分解されることもあるので、混合後はろ過以外の精製を行わないことが好ましい。また、動植物油脂としては、例えば、大豆油、なたね油、ひまわり油、オリーブ油、サフラワー油、コーン油、綿実油、米油、牛脂、乳脂、魚油、ヤシ油、パーム油、パーム核油、中鎖脂肪酸油(MCT)などが挙げられる。また、高オレイン酸の大豆油、菜種油、紅花油、ひまわり油、パーム油等のように、品種改良により構成脂肪酸の組成を変えた油脂を用いることもできる。上記油脂は単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。本発明の油脂組成物は、室温で固形化するものは、使用時に加熱により溶解させる必要があるので、20℃で流動性を有することが好ましい。
【0014】
本発明の油脂組成物には、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの他、本発明の効果を損なわない範囲で、添加剤を適宜使用できる。添加剤の使用は、例えば、保存安定性向上、酸化安定性向上、熱安定性向上、低温下での結晶析出抑制などを目的とする。添加剤は、具体的には、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、レシチン、などの乳化剤、トコフェロール、アスコルビン酸脂肪酸エステル、コエンザイムQ、などの抗酸化剤、リグナン、植物ステロールおよび誘導体、オリザノール、ジグリセリド、シリコーン、着色料、着香料(フレーバー)、などが挙げられる。しかし、油脂組成物に含まれるPGPR以外の乳化剤の含有量は、好ましくは、PGPRの含有量より少ない。より好ましくは、PGPR含有量の2/3以下か、1/2以下であり、さらに好ましくは、0質量%である。油脂組成物に占めるPGPRを除く添加剤の含有量は、好ましくは0~3質量%であり、より好ましくは0~1質量%であり、さらに好ましくは0~0.1質量%である。
【0015】
本発明の油脂組成物は、澱粉含有食品の表面をコーティングして用いることができる。澱粉含有食品としては、そば、うどん、中華麺、パスタ等の麺類が好ましく挙げられる。さらに、流通後や保存後に電子レンジ等で加熱して食す、ボロネーゼ、ミートソース、カルボナーラ等の麺類が好ましく、冷凍後に電子レンジ等で加熱して食す麺類(冷凍麺)がより好ましい。なお、本発明の油脂組成物は、澱粉含有食品全量に対して、好ましくは1~5質量%、より好ましくは2~5質量%となるようにコーティングできる。
【0016】
本発明の油脂組成物は、澱粉含有食品に「蒸す」・「茹でる」等の加熱処理を施した後に、コーティングして用いることが好ましい。また、コーティング方法としては、スプレーする方法、添加して混合してコーティングする方法などがある。
【実施例0017】
次に、実施例、比較例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらに何ら制限されるものではない。
【0018】
[油脂組成物の製造]
表の配合に従い、約60℃で加熱しながら、各原料が溶解し、均一になるまで混合して、各種油脂組成物を得た。得られた油脂組成物は、20℃で流動性を有していた。使用した原材料は以下の通り。
・菜種油(精製キャノーラ油 商品名「日清キャノーラ油」、日清オイリオグループ(株)製)
・PGPR-1(ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル 試作品、HLB3.94)
・PGPR-2(ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル PGPR-1とPGPR-4とを質量比2.3:1で混合したもの、平均HLB3.1)
・PGPR-3(ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル PGPR-1とPGPR-4とを質量比1:1で混合したもの、平均HLB2.55)
・PGPR-4(ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル 商品名「サンソフト No.818H」、太陽化学(株)製、HLB1.17)
【0019】
[澱粉含有食品(パスタ)]
茹でたパスタを冷水で冷やして水切りした後、茹でたパスタ全量に対して油脂組成物を1~5質量%添加し(対麺質量1~5質量%)、油脂組成物がパスタ全体をコーティングするように混合した。油脂組成物でコーティングされたパスタ60gを平皿に盛り付け、ディープフリーザーを用いて-40℃で1時間保管後、冷蔵庫を用いて-18℃で24時間保管し冷凍パスタを調製した。
【0020】
[引っ張り強度の測定]
前記冷凍パスタを電子レンジで600W、1分間解凍処理し、次にテクスチャー・アナライザーを用いて、引っ張り強度を測定した。引っ張り強度は、解凍したパスタを平皿に置いた状態で、フォーク型の治具を装着したテクスチャー・アナライザーに設置し、フォーク部分にパスタを10本引っ掛け、70mm(1mm/sec)引き上げた際にかかる最大の力(荷重:単位 gf)の値を用いた。さらに、引っ張り強度を、以下の評価基準にしたがい評価し、ほぐれ性評価とした。なお、引っ張り強度が低値になるほど、パスタ同士の付着が低減され、ほぐれやすくなると考えられた。
(評価基準)
×:35.0gf以上
○:25.0gf以上35.0gf未満
◎:25.0gf未満
【0021】
【0022】
【0023】
【0024】
HLB3.1又は3.94のPGPRを0.1~5.0質量%含有する油脂組成物をパスタ表面に茹でたパスタ全量に対して1~5質量%コーティングさせて調製した冷凍パスタは、該PGPRを含有しない油脂組成物をパスタ表面にコーティングさせて調製した冷凍パスタと比較して、解凍後の引っ張り強度が低値となった。したがって、パスタ同士の付着性が低減され、ほぐれ性が向上した。また、目視によりパスタのほぐれやすさを確認したところ、引っ張り強度の低下と同様の傾向が認められた。