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特開2024-141056セメント系固化材及びその製造方法、並びに該セメント系固化材を用いた土壌の固化処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141056
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】セメント系固化材及びその製造方法、並びに該セメント系固化材を用いた土壌の固化処理方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 17/10 20060101AFI20241003BHJP
   C09K 17/06 20060101ALI20241003BHJP
   E02D 3/12 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C09K17/10 P
C09K17/06 P
E02D3/12 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052495
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土肥 浩大
(72)【発明者】
【氏名】清田 正人
【テーマコード(参考)】
2D040
4H026
【Fターム(参考)】
2D040AA01
2D040AB05
2D040AC04
2D040CA01
2D040CA03
2D040CA04
2D040CA10
4H026CA01
4H026CA04
4H026CA05
4H026CB07
4H026CC02
4H026CC05
(57)【要約】
【課題】有機質軟弱地盤や火山灰性地盤を固化させて十分な強度を発現させることができ且つ固化後の該地盤からの重金属等の溶出を抑制すること。
【解決手段】セメント系固化材は、早強ポルトランドセメントと、石膏粉末と、チオ硫酸塩と、ASTM C989規格のGrade80、Grade100及びGrade120のいずれかを満足する高炉スラグ粉末と、を含む。前記早強ポルトランドセメントの配合割合が40質量%以上85質量%以下である。前記石膏粉末の配合割合がSO換算で2質量%以上10質量%以下である。前記チオ硫酸塩の配合割合が0.15質量%以上12質量%以下である。前記高炉スラグ粉末の配合割合が5質量%以上60質量%以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
早強ポルトランドセメントと、石膏粉末と、チオ硫酸塩と、ASTM C989規格のGrade80、Grade100及びGrade120のいずれかを満足する高炉スラグ粉末と、を含むセメント系固化材であって、
前記早強ポルトランドセメントの配合割合が40質量%以上85質量%以下であり、
前記石膏粉末の配合割合がSO換算で2質量%以上10質量%以下であり、
前記チオ硫酸塩の配合割合が0.1質量%以上7.5質量%以下であり、
前記高炉スラグ粉末の配合割合が5質量%以上60質量%以下である、セメント系固化材。
【請求項2】
有機質土又は火山灰質粘性土の固化に用いられる請求項1に記載のセメント系固化材。
【請求項3】
早強ポルトランドセメントと、石膏粉末と、チオ硫酸塩と、ASTM C989規格のGrade80、Grade100及びGrade120のいずれかを満足する高炉スラグ粉末と、を含むセメント系固化材の製造方法であって、
前記早強ポルトランドセメントの配合割合が40質量%以上85質量%以下であり、
前記石膏粉末の配合割合がSO換算で2質量%以上10質量%以下であり、
前記チオ硫酸塩の配合割合が0.1質量%以上7.5質量%以下であり、
前記高炉スラグ粉末の配合割合が5質量%以上60質量%以下であるように、これらを混合する工程を有する、セメント系固化材の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のセメント系固化材を土壌と混合して該土壌を固化する、土壌の固化処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント系固化材及びその製造方法、並びに該セメント系固化材を用いた土壌の固化処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軟弱地盤に含まれる土壌を固化処理する方法として、セメント系固化材等の固化材を添加する方法が知られている。固化処理対象の土壌のうち、含水比が高い泥炭等の有機質土は、有機物としてフミン酸やフルボ酸等の腐植物質を多く含んでいるので、これを固化処理する場合、セメントの水和反応で生成する水酸化カルシウムと腐植物質とが反応して、セメントの水和が阻害されてしまう。また、火山灰質粘性土を固化処理する場合、該火山灰質粘性土にはアロフェンが多量に含まれていることから、セメントの水和反応で生成する水酸化カルシウムをアロフェンが吸着してしまい、セメントの水和が阻害されてしまう。このように、セメント系固化材を用いた有機質土や火山灰質粘性土の固化処理には改良の余地がある。
【0003】
特許文献1では、有機質土の固化材として、セメント、高炉スラグ微粉末及び石膏粉末を含むセメント系固化材が提案されている。
特許文献2では、火山灰質粘性土を固化の対象とするセメント系固化材に、チオ硫酸カリウムや亜硫酸ナトリウムを含有させて、該火山灰質粘性土に強度を発現させたり、六価クロムの溶出を抑制したりすることが提案されている。
特許文献3では、低粘度地盤に高い強度を発現させることを目的として、セメントと、チオ硫酸塩の地盤改良用混和剤とを含む地盤改良用材料が提案されている。
特許文献4では、有機質土を対象とするセメント系固化材に、ポルトランドセメント、高炉スラグ微粉末、石膏及び酸性硫酸塩を含有させることが提案されている。
特許文献5では、火山灰質粘性土及び有機質土を対象とするセメント系固化材に、硫黄酸化物塩を含有させることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第7185794号公報
【特許文献2】特開2019-178274号公報
【特許文献3】特開2020-158710号公報
【特許文献4】特開2022-055749号公報
【特許文献5】特開2023-012126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
有機質土及び火山灰質粘性土は、通常の粘性土と比較して、固化処理による強度向上が困難であり、有機質土は特に強度を向上させづらい。また、セメント系固化材を用いて土壌を固化処理する際、六価クロムをはじめとする重金属やフッ素などのハロゲン元素の溶出が起こりやすいという問題もある。従来のセメント系固化材では、固化処理による強度向上と、重金属等の溶出抑制とを両立させることが容易ではなかった。
また、砂質土や粘性土といった土質では、日本等の温帯地域で通常観測される温度範囲(0℃~40℃程度)であれば、通常は温度が高いほど材齢7日や材齢28日での強度は高まるが、一部の有機質土では、35℃を超える様な夏場の高温下において強度が低下する問題があった。
したがって本発明の課題は、強度向上及び重金属等の溶出抑制を同時に解決し得る固化材及びその製造方法、並びに固化材を用いた土壌の固化処理方法を提供することにある。
また本発明の課題は、土壌の温度環境の変化に影響を受けづらい固化材及びその製造方法、並びに固化材を用いた土壌の固化処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、早強ポルトランドセメントと、石膏粉末と、チオ硫酸塩と、ASTM C989規格のGrade80、Grade100及びGrade120のいずれかを満足する高炉スラグ粉末と、を含むセメント系固化材であって、
前記早強ポルトランドセメントの配合割合が40質量%以上85質量%以下であり、
前記石膏粉末の配合割合がSO換算で2質量%以上10質量%以下であり、
前記チオ硫酸塩の配合割合が0.1質量%以上7.5質量%以下であり、
前記高炉スラグ粉末の配合割合が5質量%以上60質量%以下である、セメント系固化材を提供することによって前記課題を解決したものである。
【0007】
また本発明は、前記セメント系固化材を土壌と混合して該土壌を固化する、土壌の固化処理方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、有機質軟弱地盤や火山灰性地盤を固化させて十分な強度を発現させることができ且つ固化後の該地盤からの重金属等の溶出を抑制することができる。また本発明によれば、土壌の温度環境の変化に影響を受けづらいセメント系固化材が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のセメント系固化材を、その好ましい実施形態に基づき説明する。
本発明のセメント系固化材は、早強ポルトランドセメントと、石膏粉末と、チオ硫酸塩と、高炉スラグ粉末とを含む。以下それぞれの材料について説明する。
【0010】
本発明のセメント系固化材を構成する材料の一つである早強ポルトランドセメントは該固化材における主材である。早強ポルトランドセメントとしては、例えばJIS R5210:2019に規定されるものを用いることができる。早強ポルトランドセメントはそのブレーン比表面積値が3300cm/g以上であることが好ましい。セメント成分として早強ポルトランドセメントを用いることで、本発明のセメント系固化材は、その初期強度を高めることが可能になる。
セメント成分として普通ポルトランドセメントを用いることも一応可能ではあるが、その場合には、初期強度を十分に高めるために多量の普通ポルトランドセメントを使用する必要があるので、その点で早強ポルトランドセメントに比べて不利となる。
【0011】
セメント系固化材における早強ポルトランドセメントの配合割合は、セメント系固化材に対して40質量%以上85質量%以下であることが、セメント系固化材の初期強度の発現性を向上させ得る点から好ましい。この利点を一層顕著なものとする観点から、早強ポルトランドセメントの配合割合は、セメント系固化材に対して45質量%以上85質量%以下であることが更に好ましく、60質量%以上70質量%以下であることが一層好ましい。
【0012】
本発明のセメント系固化材を構成する材料の一つである石膏粉末は、例えば無水石膏粉末、半水石膏粉末及び二水石膏粉末などであり得る。有機質土及び火山灰質粘性土の固化処理を効果的に行う観点から、石膏粉末は、無水石膏粉末及び二水石膏粉末のいずれかであることが好ましく、無水石膏粉末であることが更に好ましい。
【0013】
セメント系固化材における石膏粉末の配合割合は、セメント系固化材に含まれるすべての硫黄元素をSO換算して表して、セメント系固化材に対して2質量%以上10質量%であることが、有機質土及び火山灰質粘性土の固化処理を効果的に行い得る観点から好ましい。この利点を一層顕著なものとする観点から、石膏粉末の配合割合は、SO換算して表して、セメント系固化材に対して3質量%以上9質量%以下であることが更に好ましく、4質量%以上8質量%以下であることが一層好ましい。
【0014】
本発明のセメント系固化材を構成する材料の一つであるチオ硫酸塩は、固化処理の対象となる土壌の強度発現性の向上の目的で用いられる。特に有機質土又は火山灰質粘性土の土壌における強度発現の向上を目的として用いられる。更にチオ硫酸塩を用いることで本発明のセメント系固化材は、土壌の温度環境の変化によらず、固化処理において高い強度発現性を示すようになる。有機質土は、例えば夏場の高温下では強度が低下する問題があったことから、この点において本発明のセメント系固化材は極めて有効である。
【0015】
本発明のセメント系固化材がチオ硫酸塩を含むことの他の利点は次のとおりである。
セメント系固化材中のセメントと土壌中の水が接触すると水酸化カルシウムが生成し、土壌のpHが高アルカリ領域に上昇する。固化処理の対象となる土壌が例えば有機質土である場合、有機質土に含まれる腐植物質が高アルカリの影響によって多量に溶解する傾向にある。溶解した腐植物質はセメントの水和阻害の一因となるところ、セメント系固化材中にチオ硫酸塩を配合することで、セメントの硬化促進、及び高炉スラグの反応が促進され、土壌の強度、特に初期強度が高まる。
固化処理の対象である土壌が火山灰質粘性土である場合には、火山灰質粘性土に含まれるアロフェンがセメントの水和阻害の一因になるところ、セメント系固化材中にチオ硫酸塩を配合することで、有機質土の場合と同様に、セメントの硬化促進、及び高炉スラグの反応が促進され、土壌の強度、特に初期強度が高まる。
【0016】
以上の観点から、セメント系固化材におけるチオ硫酸塩の配合割合は、セメント系固化材に対して0.1質量%以上7.5質量%以下であることが好ましい。固化処理の対象である土壌、特に有機質土及び火山灰質粘性土の強度発現性を一層高める観点からは、チオ硫酸塩の配合割合は、セメント系固化材に対して0.13質量%以上6.4質量%以下であることが好ましい。
【0017】
チオ硫酸塩としては、チオ硫酸のアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩を用いることが、強度発現性が高い点、及び経済性の点から好ましい。チオ硫酸のアルカリ金属塩としては、例えばチオ硫酸ナトリウム及びチオ硫酸カリウムが挙げられる。チオ硫酸のアルカリ土類金属塩としては、例えばチオ硫酸マグネシウムが挙げられる。
チオ硫酸塩は、無水物であってもよく、一水和物、四水和物、五水和物又は七水和物等の水和物であってもよい。本明細書において「チオ硫酸塩」というときには、特に断らない限りチオ硫酸塩の無水物のことを意味する。
【0018】
チオ硫酸塩は好ましくは粉末状である。チオ硫酸塩の粉末を構成する粒子の平均粒径は、好ましくは5μm以上40μm以下であり、更に好ましくは5μm以上20μm以下である。
チオ硫酸塩がこのような平均粒径を有する粒子であることによって、高アルカリに起因する腐植物質の溶解が抑制される。これとともに、硫酸イオンの供給が適正な速度で進行し、その結果、強度発現性が向上する。このような平均粒径を有するチオ硫酸塩としては、例えば市販品を用いることができる。あるいは粉砕や篩分けによって平均粒径を調整できる。
チオ硫酸塩の平均粒径は、例えばレーザー回折式粒度分布測定装置を使用して測定できる。平均粒径は累積体積50容量%における体積累積粒径D50である。
【0019】
本発明のセメント系固化材を構成する材料の一つである高炉スラグ粉末は、製鉄所の高炉で副次的に発生するスラグを水冷し粉砕して平均粒径5μm以上20μm以下程度の粉状にしたものである。高炉スラグ粉末は、アルミナ成分の含有量が多く、そのことに起因してエトリンガイトの生成量を多くするためのアルミナ源として寄与する。したがって、セメント系固化材に高炉スラグ粉末を配合することで、固化処理後の土壌の強度を向上させることができる。
【0020】
本発明で用いられる高炉スラグ粉末は、ASTM C989規格のGrade80、Grade100及びGrade120のいずれかを満足するものであることが有利である。ASTM C989においては、高炉スラグをその活性度指数に応じてGrade80、Grade100及びGrade120に分類しており、本発明においてはこれら三種のうちのいずれか一つ又は二つ以上を用いることができる。ASTM C989に規定される活性度指数は、普通ポルトランドセメントを用いて作製した基準とするモルタルの所定の材齢での圧縮強さに対する、普通ポルトランドセメントの50%を混和材に置換して作製した試験モルタルの同じ材齢の圧縮強さの比を百分率で表した値である。各グレードは以下のように区分される。
Grade80:材齢7日での規定は特になし。材齢28日で活性度指数が75以上である。
Grade100:材齢7日で活性度指数75以上、且つ材齢28日で活性度指数95以上。
Grade120:材齢7日で活性度指数95以上、且つ材齢28日で活性度指数115以上。
上述の規格を満足する高炉スラグ粉末を用いることで、高炉スラグ粉末による潜在水硬性と、セメントによるアルカリ水和反応とをバランスよく発現させて、固化処理後の土壌に高い強度を発現させることができる。
【0021】
特に、有機質土や火山灰質粘性土を固化させて十分な強度を発現させ且つ固化処理後の土壌からの重金属の溶出を抑制する観点から、セメント系固化材における高炉スラグ粉末の配合割合は、セメント系固化材に対して5質量%以上60質量%以下であることが好ましく、10質量%以上50質量%以下であることが更に好ましく、15質量%以上45質量%以下であることが一層好ましい。
本明細書において「重金属」とは、ヒ素、セレン、鉛、六価クロム、水銀及びカドミウムなどの狭義の重金属元素だけでなく、土壌汚染対策法に規定されるフッ素及びホウ素等の元素も包含する広義の概念である。
【0022】
高炉スラグ粉末は、セメントに含まれるアルカリ等の刺激を受けて硬化する潜在水硬性を有しており、そのことに起因して、含水状態の有機質土又は火山灰質粘性土を固化処理することで、固化処理後の土壌の強度を向上させることができる。この利点を一層顕著なものとする観点から、高炉スラグ粉末はそのブレーン比表面積値が、好ましくは2500cm/g以上であることが好ましく、3000cm/g以上であることが更に好ましく、3500cm/g以上であることが一層好ましい。高炉スラグ粉末のブレーン比表面積値は、JIS R5201:2015「セメントの物理試験方法」に準拠して測定することができる。
【0023】
高炉スラグ粉末をセメントと組み合わせて用いるときの反応性の尺度として一般に塩基度が知られている。高炉スラグ粉末は、その塩基度が高いほど反応性が大きくなる。塩基度は、高炉スラグ粉末の成分中の(CaO+MgO+Al)/SiOで計算される。本発明で用いられる高炉スラグ粉末はその反応性の高さの観点から、塩基度が好ましくは1.60以上、更に好ましくは1.68以上である。
【0024】
本発明のセメント系固化材は、含水状態の有機質土又は火山灰質粘性土の固化処理に特に好適に用いられる。特に本発明のセメント系固化材は、含水比が好ましくは50%以上200%以下、更に好ましくは50%以上150%以下、一層好ましくは50%以上70%以下である有機質土又は火山灰質粘性土の固化処理に用いられる。このような含水比を有する土に対して本発明のセメント系固化材を用いることによって、これまで強度発現が困難であった土に対しても、高い強度を発現させることができる。
本明細書において含水状態とは、含水比が0%超であることをいう。含水比は、測定対象の土において、土の乾燥質量に対する土中の水の質量の比を百分率で表したものである。含水比はJIS A1203:2009に準拠して測定できる。
【0025】
また、有機質土又は火山灰質粘性土は、湿潤密度が好ましくは1.250g/cm以上、更に好ましくは1.400g/cm以上、一層好ましくは1.500/cm以上である。このような湿潤密度を有する土に対して本発明のセメント系固化材を用いることによって、これまで強度発現が困難であった土に対しても、高い強度を発現させることができる。湿潤密度の上限値に特に制限はないが、2.300g/cm程度であることが好ましい。湿潤密度はJIS A1225:2020に準拠して測定できる。
【0026】
本明細書において「有機質土」とは、書籍「地盤材料試験の方法と解説」(社団法人地盤工学会著、2009年11月発行、53~79ページ)において、大分類にて「有機質土」の土質区分に分類されるものをいう。具体的には、有機質土は、有機質粘土及び有機質火山灰土等といった中分類記号〔O(オー)〕に分類される有機質土と、泥炭や黒泥等といった中分類記号〔Pt〕に分類される高有機質土とを包含する。これらの土は有機物を含んでいる。有機質土は有機物含有量が20質量%未満であり、高有機質土は有機物含有量が20質量%以上である。有機物含有量は、後述する強熱減量における値とすることができる。
本明細書では、特に断りのない限り「有機質土」はこれらの土の総称のことである。
【0027】
本発明のセメント系固化材の適用対象となる有機質土は、含水状態において腐植物質を含むものであり得る。腐植物質とは、有機質土に含まれる有機質を構成する成分であり、例えば、フミン酸及びフルボ酸等の腐植酸性成分、ヒューミン、並びにビチューメン等の成分が挙げられる。
本発明のセメント系固化材は、腐植物質の含有割合が5質量%以上である有機質土の固化処理において特に効果的であり、7質量%以上の有機質土の固化処理においてより一層効果的である。腐植物質の含有量は、含水状態の有機質土の質量に対する割合とする。
腐植物質をこのような割合で含む有機質土に対して、本発明のセメント系固化材を用いると、腐植物質による固化反応の阻害が生じにくくなるので、従来強度発現が困難であった有機質土に対して固化反応を効率よく進行させることが可能となり、固化処理後の土に高い強度を発現させることができる。
【0028】
特に、本発明のセメント系固化材は、腐植物質のうちフミン酸及びフルボ酸から選ばれる少なくとも一種を含む有機質土の固化処理に用いることが好ましい。とりわけ本発明のセメント系固化材は、フミン酸とフルボ酸との合計量の割合が5質量%以上である有機質土の固化処理において特に効果的であり、7質量%以上である有機質土の固化処理においてより一層効果的である。フミン酸及びフルボ酸の含有量は、含水状態の有機質土の質量に対する割合とする。このような有機質土を、本発明のセメント系固化材で固化処理することによって、該固化材と、フミン酸及びフルボ酸等の成分との反応が抑制されるため、固化反応が阻害されにくくなる。その結果、これまで強度発現が困難であった有機質土に対して、固化反応を効率よく進行させることが可能となり、固化処理後の土に高い強度を発現させることができる。
【0029】
本発明のセメント系固化材による処理対象となる有機質土は、その強熱減量が、好ましくは20質量%以上90質量%以下、更に好ましくは25質量%以上70質量%以下である。有機質土の強熱減量は、例えばJIS A1226:2009に準じて測定することができる。
【0030】
本発明の固化材は、例えば、各材料を公知の混合機で混合することによって製造することができる。本発明の固化材を製造方法は、早強ポルトランドセメントの配合割合が40質量%以上85質量%以下であり、石膏粉末の配合割合がSO換算で2質量%以上10質量%以下であり、チオ硫酸塩の配合割合が0.1質量%以上7.5質量%以下であり、高炉スラグ粉末の配合割合が5質量%以上60質量%以下であるように、これらを混合する工程を有する。混合機の種類に特に制限はなく、例えばボールミルを用いて各材料を混合粉砕し固化材を製造することができる。
【0031】
本発明によれば、セメント系固化材と、処理対象の土壌とを混合して該土壌を固化する、土壌の固化処理方法も提供される。この方法における混合方法は、セメント系固化材を処理対象の土壌に添加して混合する。セメント系固化材は、粉状のまま用いてもよく、あるいは水等の分散媒に分散させたスラリーの状態にして土壌と混合してもよい
【0032】
セメント系固化材の添加量は、処理対象の土壌の種類や性状によって適宜変更可能である。一般的には、処理対象の土壌1mに対して好ましくは20kg以上1000kg以下であり、更に好ましくは40kg以上900kg以下であり、一層好ましくは50kg以上800kg以下である。このような範囲でセメント系固化材と土壌とを混合することによって、土壌中にエトリンガイトを効率よく生成させることができ、固化処理後の土の強度を高いものとすることができる。また、強度の向上に伴って、六価クロム等の重金属の溶出を低減することができる。処理対象の土の前記体積は、固化処理前の値である。
【0033】
セメント系固化材と処理対象の土壌との混合手段に特に制限はない。例えばバックホウ、ミキシングバケット装着バックホウ、スタビライザー、自走式土質改良機、定置式ミキサー、ホバート型ミキサー、トレンチャー型撹拌混合機、深層混合処理機、パワーブレンダー、プラント混合等の当該技術分野において通常用いられる装置又は方法を用いることができる。
【実施例0034】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0035】
〔実施例1ないし36及び比較例1ないし7〕
(1)セメント系固化材の製造
早強ポルトランドセメント、無水石膏粉末、チオ硫酸ナトリウム及び高炉スラグ粉末を、以下の表1ないし表3に示す割合で混合してセメント系固化材を得た。各材料の詳細は以下に示すとおりである。
・早強ポルトランドセメント(UBE三菱セメント製)
・無水石膏粉末(コクサイ商事社製、ブレーン比表面積値:4010cm/g)
・チオ硫酸ナトリウム五水和物(関東製薬社製、乳鉢を用いて粉砕し、平均粒径:15μm程度の粉末状に加工した)
・高炉スラグ粉末(ASTM C989 Grade80品、ブレーン比表面積値:3850cm/g、ただし、比較例6及び比較例7で用いた高炉スラグ粉末は、活性度指数が材齢28日で75未満であり、ASTM C989のいずれのグレードにも非該当。)
【0036】
(2)固化処理対象の土壌
・有機質土A(種類:腐泥、フミン酸の含有割合:36.3%、湿潤密度:1.295g/cm、含水比:197.3%)
【0037】
(3)固化処理土の供試体作製方法
粉末状態のセメント系固化材を、有機質土A1m当たり300kgの割合を添加した。20℃及び35℃の環境下、ホバート型ミキサーを用いて両者を360秒間混合した。その後、所定の温度下に湿潤状態で7日間静置した。
【0038】
(4)評価
実施例及び比較例のセメント系固化材の一部を用いてモルタル供試体をそれぞれ作製し、一軸圧縮強さを測定した。供試体の作製及び圧縮強さの測定は、ASTM C109に準拠して行った。
また、固化処理土の供試体について、一軸圧縮強さをJIS A 1216:2020に従い測定した。
更に、固化処理土の供試体からの六価クロムの溶出量を、環境庁告示第46号に従い測定した。
【0039】
〔実施例37ないし45並びに比較例8及び9〕
固化処理対象の土壌を下記の有機質土Bに変更したこと以外は、セメント系固化材の製造、供試体作製、及び評価については、実施例1ないし36及び比較例1ないし5と同様に行った。供試体の作製は、20℃、35℃及び40℃の環境下で行った。
・有機質土B(土質:腐泥、フミン酸の含有割合:28.1%、湿潤密度:1.318g/cm、含水比:146.2%)
以上の結果を表1ないし表4に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
【表3】
【0043】
【表4】
【0044】
表1ないし表4に示す結果から、実施例及び比較例のいずれにおいても、セメント系固化材を用いて作製したモルタル供試体の強度(psi)は十分に高いことが確認された。また、各実施例のセメント系固化材を用いて固化処理することで、比較例のセメント系固化材を用いて固化処理した場合に比べて、固化処理土の強度向上と六価クロムの溶出抑制とが両立していることが分かる。したがって、本発明により、有機質軟弱地盤や火山灰性地盤を固化させて十分な強度を発現させることができ且つ固化後の該地盤からの重金属等の溶出を抑制できることが分かる。
また、表1ないし表3に示す結果から、供試体作製及び養生を35℃で行った場合であっても、20℃で行った場合と同程度の強度が発現できることが確認された。
更に、表4に示す結果から、各実施例のセメント系固化材は、有機質土Aよりも強度発現が難しい有機質土Bに対して、最高40℃で供試体作製及び養生を行った場合であっても、強度発現の低下を抑制できていることが確認された。