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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141082
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】樹脂組成物、成形体、及び制振材
(51)【国際特許分類】
   C08L 75/04 20060101AFI20241003BHJP
   C08L 27/06 20060101ALI20241003BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C08L75/04
C08L27/06
F16F15/02 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052537
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】藤田 篤志
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 孝明
【テーマコード(参考)】
3J048
4J002
【Fターム(参考)】
3J048AC03
3J048BD04
3J048BD07
3J048BE11
3J048EA36
4J002BD04X
4J002BD18X
4J002CK03W
4J002FD010
4J002FD030
4J002FD170
4J002GM00
(57)【要約】
【課題】
PVCに含有される安定剤に起因するブリードアウトを抑制し、かつ常温付近での高い制振性能を有する制振材を提供すること。
【解決手段】
ポリウレタンと塩化ビニル樹脂を含み、前記ポリウレタンが下記式(1)のイソシアネート構造を有するモノマーに由来する構造を含む、樹脂組成物である。
【化1】
(式(1)中、Aは脂環式構造を表し、L、L’は単結合または2価の炭化水素基からなる連結基を表す)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタンと塩化ビニル樹脂を含み、前記ポリウレタンが下記式(1)のイソシアネート構造を有するモノマーに由来する構造を含む、樹脂組成物。
【化1】
(式(1)中、Aは脂環式構造を表し、L、L’は単結合または2価の炭化水素基からなる連結基を表す)
【請求項2】
前記ポリウレタンが、ポリカーボネートポリオール及び/又はポリカプロラクトンポリオールに由来する構造を有する、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記イソシアネート構造を有するモノマーが、下記式(2)のイソシアネートモノマーである、請求項1に記載の樹脂組成物。
【化2】
【請求項4】
誘電正接(tanδ)のピークを-20~80℃に有する、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
-80~150℃において、前記誘電正接(tanδ)のピークが単一である、請求項4に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリウレタンと塩化ビニル樹脂を95:5~40:60(質量比)で配合してなる、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記ポリウレタンの数平均分子量が6万~12万である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記塩化ビニルの重合度が500~1300である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の樹脂組成物からなる成形体。
【請求項10】
請求項9に記載の成形体を備えた制振材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、該樹脂組成物からなる成形体、及び該成形体を備えた制振材に関する。
【背景技術】
【0002】
制振材としては、個体音や振動に対するエネルギーの吸収を目的として使用される素材が好まれ、その種類としては、ゴム系、プラスチック系、アスファルト系などが挙げられる。
これらの材料は、ガラス転移温度(Tg)付近の粘弾性(tanδ)や機械インピーダンス法などで評価され、従来は、塩素化ポリエチレンやポリ塩化ビニル(PVC)に代表されるハロゲン系の材料が安価で製造が容易という理由で、制振材として用いられてきた。
しかしながら、これらハロゲン系の材料は、可塑剤、熱安定剤等の添加剤のブリードアウトの問題がある。また、アスファルト系の材料では運搬・設置時の重量の問題がある。また、ゴム系の材料ではカーボンブラック等を混練するなどの手法が一般的だが、制振と防振を両立させる、いわゆる減振性能に課題がある。また、熱可塑性ポリウレタン(TPU)も制振材として用いられるが、TPUは紫外線による色調の変化(黄変)の問題があり、また原料の価格帯が高いなどの課題もある。
このように、制振材の材料は種々あるが、各材料により一長一短がある。
【0003】
これまで、塩化ビニル樹脂もしくは塩化ビニル共重合体と熱可塑性ポリウレタン樹脂を必須成分とする有機質バインダーと充てん材を主に配合してなる制振材が知られている。より具体的には、ポリ塩化ビニル(PVC)と熱可塑性ポリウレタン(TPU)を配合比率95:5~40:60の範囲で配合した制振材が開示されている(特許文献1参照)。特許文献1に開示される技術は、PVCを主原料として、これにTPUをブレンドする手法である。
しかしながら、特許文献1に開示される制振材は、常温領域で制振性を発揮するために塩化ビニルを主成分とする必要があった。PVCは安定化のために、安定剤を添加する必要があり、該安定剤がブリードアウトするという問題があった。
【0004】
また、TPUをベースとして、自動車内装用表皮材料向けにPVCとTPUのポリマーアロイとするために、液状可塑剤であるトリメリット酸エステル(TOTAE)を配合し、ブリードアウトを制御する処方が知られている(特許文献2参照)。
しかしながら、液状可塑剤を使用するため、取り得る材料物性が制限されるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61-192753号公報
【特許文献2】特開2006-124509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、制振材として、TPUとPVCをブレンドする配合は知られているものの、PVCに起因する添加剤のブリードアウトの問題があり、ブリードアウトの懸念が少ない、あらたな制振材を得るための処方が求められている。
本発明は、かかる状況下、PVCに含有される安定剤に起因するブリードアウトを抑制し、かつ常温付近での高い制振性能を有する制振材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記実状に鑑み、鋭意検討した結果、特定のポリウレタンに対して塩化ビニルを配合することで、ポリウレタン単体に対して硬さを付与しつつ、振動エネルギーの吸収性を高めることができ、常温付近での制振材性能を向上させることができることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。すなわち、本発明は、以下の[1]~[10]を提供するものである。
【0008】
[1]ポリウレタンと塩化ビニル樹脂を含み、前記ポリウレタンが下記式(1)のイソシアネート構造を有するモノマーに由来する構造を含む、樹脂組成物。
【0009】
【化1】
【0010】
(式(1)中、Aは脂環式構造を表し、L、L’は単結合または2価の炭化水素基からなる連結基を表す)
[2]前記ポリウレタンが、ポリカーボネートポリオール及び/又はポリカプロラクトンポリオールに由来する構造を有する、上記[1]に記載の樹脂組成物。
[3]前記イソシアネート構造を有するモノマーが、下記式(2)のイソシアネートモノマーである、上記[1]又は[2]に記載の樹脂組成物。
【0011】
【化2】
【0012】
[4]誘電正接(tanδ)のピークを-20~80℃に有する、上記[1]~[3]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[5]-80~150℃において、前記誘電正接(tanδ)のピークが単一である、上記[4]に記載の樹脂組成物。
[6]前記ポリウレタンと塩化ビニル樹脂を95:5~40:60(質量比)で配合してなる、上記[1]~[5]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[7]前記ポリウレタンの数平均分子量が6万~12万である、上記[1]~[6]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[8]前記塩化ビニルの重合度が500~1300である、上記[1]~[7]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[9]上記[1]~[8]のいずれかに記載の樹脂組成物からなる成形体。
[10]上記[9]に記載の成形体を備えた制振材。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、PVCに含有される安定剤に起因するブリードアウトを抑制し、かつ常温付近での高い制振性能を有する制振材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態の一例について詳細に説明する。ただし、本発明は次に説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
【0015】
[樹脂組成物]
本発明の樹脂組成物(以下、「本樹脂組成物」と称することがある。)は、特定の構造を有するポリウレタンと塩化ビニル樹脂を含む樹脂組成物である。
本樹脂組成物は、ポリウレタンを主成分とすることができるので、塩化ビニルの安定剤に起因するブリードアウトの懸念が小さい。なお、ここで主成分とは、該樹脂組成物中で最も含有量の大きい材料を指し、通常50質量%以上、好ましくは70質量%以上であり、さらに好ましくは80質量%以上である。
【0016】
<ポリウレタン>
本樹脂組成物は、主成分として、下記式(1)のイソシアネート構造を有するモノマーに由来する構造を含む。下記式(1)のモノマーは、脂環式構造を有するポリイソシアネートであり、脂環式構造とそれに結合する二つのイソシアネート基類とを有する化合物である。
【0017】
【化3】
【0018】
式(1)中、Aは脂環式構造を表し、L、L’は単結合または2価の炭化水素基からなる連結基を表す。
Aで示される脂環式構造としては、特に限定されないが、炭素数3~8のシクロアルキレン基であることが好ましい。
脂環式構造を有するポリイソシアネートとしては、例えば、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、シクロヘキサンジイソシアネート、ビス(イソシアネートシクロヘキシル)メタン、イソホロンジイソシアネート等の脂環式構造を有するジイソシアネート等が挙げられる。なお、脂環式構造を有するポリイソシアネートは、樹脂組成物を硬化して得られる硬化物の耐候性を高める機能がある。また、ポリイソシアネートが脂環式構造を有し適度な剛直性を有するので、後述する塩化ビニルと配合したとき、その樹脂組成物の誘電正接(tanδ)のピークは-20~80℃に調整しやすくなり、常温付近で制振性能を示すという効果が得られる。
【0019】
L及びL’は、それぞれ単結合または2価の炭化水素基からなる連結基を表す。連結基としては2価の炭化水素基からなる連結基が好ましく、例えば、炭素数1~10のアルキレン基、炭素数6~12のアリーレン基等が挙げられる。より具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、フェニレン基等が挙げられる。
【0020】
上記式(1)のイソシアネートモノマーとしては、特に下記式(2)で示されるイソシアネートモノマーであることが好ましい。該モノマーを用いることで、耐候性、耐熱性に優れたポリウレタンが得られる。
【0021】
【化4】
【0022】
また、本組成物のポリウレタンはポリカーボネートポリオール及び/又はポリカプロラクトンポリオールに由来する構造を有することが好ましい。ポリカーボネートポリオール、ポリカプロラクトンポリオールは、上記式(1)のイソシアネート構造を有するモノマーと反応して、ポリウレタンを形成する。
ポリカーボネートポリオールとポリカプロラクトンポリオールは、それぞれ単独で使用することもできるし、両者を併用して、上記式(1)のイソシアネート構造を有するモノマーと反応させてポリウレタンを得てもよい。
【0023】
ポリカプロラクトンポリオールは、環状ラクトン化合物を低分子ポリオールで開環重合して得られる。環状ラクトン化合物としてはε-カプロラクトン、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン等が挙げられ、これらは単独で使用することもできるし併用してもよい。
低分子ポリオールは、分子量が数十から数百程度であり、かつ、水酸基を1分子中に2個以上有するものである。具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、ネオペンチルグリコール、2-エチル-2-n-ブチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-ヘキシル-1,3-プロパンジオール、シクロヘキサンジメタノール、グリセリン、トリメチロールプロパン、1,2,6-ヘキサントリオール、ジグリセリン、ペンタエリスリトールのような低分子量化合物、およびビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物のようなオリゴマー等が挙げられ、これらは単独で使用することもできるし、又は併用してもよい。
【0024】
ポリカーボネートポリオールは、例えば、アルキレンカーボネート、ジアリールカーボネート、及びジアルキルカーボネートからなる群から選ばれる少なくとも1つのカーボネート化合物とジオールまたはポリエーテルポリオールを反応させて得ることができる。
ポリカーボネートポリオールの原料であるジオールとしては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,12-ドデカンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリブタジエンジオール等が挙げられる。これらの中でも、耐摩耗性の点から、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオールから選ばれる少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0025】
さらに前記ポリウレタン化合物は、ポリオール、ポリイソシアネートと鎖延長剤の反応物であってもよい。
鎖延長剤は、イソシアネート基と反応する2つ以上の活性水素を有する化合物である。鎖延長剤としては、数平均分子量500以下の低分子量ジアミン化合物等が挙げられ、例えば、2,4-もしくは2,6-トリレンジアミン、キシリレンジアミン、4,4’-ジフェニルメタンジアミン等の芳香族ジアミン;エチレンジアミン、1,2-プロピレンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、2,2,4-もしくは2,4,4-トリメチルヘキサンジアミン、2-ブチル-2-エチル-1,5-ペンタンジアミン、1,8-オクタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、1,10-デカンジアミン等の脂肪族ジアミン;及び、1-アミノ-3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジアミン、イソプロピリデンシクロヘキシル-4,4’-ジアミン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、トリシクロデカンジアミン等の脂環式ジアミン等が挙げられる。これらは1種を用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
本発明のポリウレタンの数量平均分子量は、6万~20万であることが好ましい。数平均分子量が6万以上であると機械特性の点で有利である。一方、数平均分子量が20万以下であると加工性(流動性)の点で有利である。以上の観点から、ポリウレタンの数量平均分子量は、7万~18万の範囲であることがより好ましく、8万~16万の範囲であることがさらに好ましい。
なお、ポリウレタンの数平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)により測定した標準ポリスチレン換算よる値である。
【0027】
本発明のポリウレタンは公知の方法で製造でき、上記ポリオールとポリイソシアネートを触媒存在下で反応さればよい。
ポリオールとポリイソシアネートの混合比率は、ポリオール中の水酸基価に対する、ポリイソシアネート中のイソシアネート基の当量比が、0.5以上1.0未満となる配合比で使用することが好ましく、0.8以上1.0未満となる配合比で使用することがより好ましい。 前記下限値以上であれば、制振性能を良好にすることができる。また、前記上限値以下であれば、成形性を良好にすることができる。
【0028】
触媒としては、例えばジブチルスズラウレート、ジブチルスズジオクテート、ジオクチルスズジラウレート、及びジオクチルスズジオクテート等のスズ系触媒;ビスマストリス(2-エチルヘキサノエート)等のビスマス系触媒等が挙げられる。触媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらのうち、触媒は、環境適応性及び触媒活性、保存安定性等の点から、ジオクチルスズジラウレート、ビスマストリス(2-エチルヘキサノエート)が好ましい。触媒の使用量は、原料化合物の総含有量に対して、2000ppm以下が好ましく、1000ppm以下がより好ましい。また、10ppm以上が好ましく、30ppm以上がより好ましい。
【0029】
ポリウレタンの製造に際して、有機溶剤を用いることができる。使用する溶剤としては水酸基、アミノ基等の活性水素を有しない溶媒が好ましく、メチルセロソルブ、セロソルブ、ブチルセロソルブ、メチルカルビトール、カルビトール、ブチルカルビトール、ジエチルカルビトール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤;スワゾール1000(商品名、丸善石油化学社製)、スーパーゾール100(商品名、新日本石油化学社製)、スーパーゾール150(商品名、新日本石油化学社製)、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤;シクロヘキサン等の環状炭化水素系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤;エチルアセテート、n-ブチルアセテート、イソブチルアセテート、n-アミルアセテート、プロピレングリコールアセテート等のアセテート系溶剤等を用いることができる。これらの中でもポリウレタン化合物に対して良好な溶解性を有する点で、ケトン系溶剤あるいはアセテート系溶剤のいずれか一方を含む溶剤組成が好ましい。
【0030】
<塩化ビニル樹脂>
本組成物は、上記ポリウレタンに加えて塩化ビニル樹脂を含むことが好ましい。塩化ビニル樹脂を配合することで、ポリウレタンに対して、塩化ビニルによる硬さを付与することができ、かつ振動エネルギーの吸収性を高めることができる。その結果、常温付近での制振材性能を向上することができる。
【0031】
本発明に用いることができる塩化ビニル樹脂の種類については特に制限されるものではなく、例えば塩化ビニルの単独重合体、塩素化塩化ビニル重合体、部分架橋塩化ビニル重合体あるいは塩化ビニルと共重合し得る他のビニル化合物と塩化ビニルとの共重合体、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0032】
上記塩化ビニルと共重合し得る他のビニル化合物は特に限定されないが、具体例としては、酢酸ビニル、及びプロピオン酸ビニル等の脂肪酸ビニルエステル;メタクリル酸メチル、及びメタクリル酸エチル等のメタクリル酸アルキルエステル;アクリル酸エチル、及びアクリル酸ブチル等のアクリル酸アルキルエステル;エチレン、プロピレン、及びスチレン等のα‐オレフィン;ビニルメチルエーテル、及びビニルブチルエーテル等のアルキルビニルエーテル;並びにアクリル酸、メタクリル酸、及び無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸又はその酸無水物が挙げられ、これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記の共重合し得る他のビニル化合物の共重合量が30質量%以下であれば、塩化ビニル樹脂の本来の特徴を損なわないので好ましい。さらに、これらの塩化ビニル樹脂は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
また、本発明に用いる塩化ビニル樹脂の平均重合度は、100~5000の範囲にあることが好ましい。平均重合度を100以上とすることで、衝撃強度が良好となる。また、平均重合度を5000以下とすることで、成形性の点で有利となる。
以上の観点から、塩化ビニル樹脂の平均重合度は、200~4000の範囲がより好ましく、300~3000の範囲がさらに好ましい。
【0034】
本発明に用いる塩化ビニル樹脂の製造方法は特に制限はなく、乳化重合法、懸濁重合法、塊状重合法等の種々の重合法で製造したものを使用することができる。
【0035】
また、塩化ビニル樹脂は、その成形加工温度と熱分解温度が近接していることから、加工時に熱安定剤の添加が必要である。具体的には、鉛系、有機スズ系、複合金属石けん系等の熱安定剤を混合させることが可能である。
上記熱安定剤としては、複合金属石けん系が好ましく、亜鉛を含む複合金属石けん系熱安定剤が特に好ましい。亜鉛を含む複合金属石けん系熱安定剤は、亜鉛を含む金属石鹸からなる。金属石鹸としては、長鎖脂肪酸の亜鉛塩(Zn系熱安定剤)単体の他に、長鎖脂肪酸のカルシウム塩(Ca系熱安定剤)、長鎖脂肪酸のバリウム塩(Ba系熱安定剤)のいずれかまたは両方を含む、Ca/Zn複合系熱安定剤、Ba/Zn複合系熱安定剤、Ca/Ba/Zn複合系熱安定剤が挙げられる。これらの中でも、熱安定性に優れる点で、Ca/Zn系複合系熱安定剤が好適である。
長鎖脂肪酸としては、特に限定されないが、例えば、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、イソステアリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リシノール酸、オクチル酸、アラキジン酸、アラキドン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、モンタン酸等が挙げられる。熱安定剤は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0036】
上記熱安定剤は、塩化ビニル樹脂100質量部に対して、1~10質量部となるよう添加され、1~8質量部となるよう添加されることが好ましく、さらに2~6質量部となるよう添加されることがより好ましい。1質量部以上とすることで、塩化ビニル樹脂の熱安定性の向上効果がより得られやすくなる。また、10質量部以下であれば、塩化ビニル樹脂が溶融・混練されやすくなり、成形体の機械特性がより向上する。
【0037】
<塩素化塩化ビニル樹脂>
塩素化塩化ビニル樹脂とは、塩化ビニル系樹脂を塩素化してなる塩化ビニル系樹脂である。本発明の樹脂組成物では、塩化ビニル樹脂として、塩素化塩化ビニル樹脂を用いることがより好ましい。本発明の樹脂組成物に塩素化塩化ビニル樹脂を用いると、後に詳述する誘電正接(tanδ)を向上させることができる。
塩素化塩化ビニル樹脂としては、BET比表面積値が、1.3~8m/gであることが好ましい。BET比表面積値が1.3m/g以上であると、塩化ビニル系樹脂粒子内部に0.1μm以下の微細孔が十分に存在するため、後工程での塩素化速度が遅くなることがない。また、塩素化前の塩化ビニル系樹脂粒子自体の加工性が悪いことによる、得られる塩素化塩化ビニル系樹脂の加工性の悪化がない。また、8m/g以下であると、塩素化前の塩化ビニル系樹脂粒子自体の熱安定性が維持され、得られる塩素化塩化ビニル系樹脂の加工性が良好となる。以上の点から、BET比表面積値は好ましくは、1.5~5m/gである。
【0038】
<ポリウレタンと塩化ビニル樹脂の配合比>
本樹脂組成物において、ポリウレタンと塩化ビニル樹脂の配合比(質量比)は、95:5~40:60であることが好ましい。塩化ビニル樹脂の配合比が下限値以上であると、ポリウレタン単体に対して塩化ビニルによる硬さを十分に付与でき、振動エネルギーの吸収性を高めることができる。一方、塩化ビニル樹脂の配合比が上限値以下であると、塩化ビニル樹脂の使用量が少なくなる分、塩化ビニル樹脂に添加される安定剤、可塑剤等の添加剤のブリードアウトを抑制することができる。また、塩化ビニル樹脂の含有量が多いと、ポリウレタン単体に比較して、安価であることから、コスト的にも有利である。
【0039】
本樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、各種添加剤を配合することができる。添加剤としては、例えば、滑剤、充填材、加工助剤、補助安定剤等の各種添加剤が挙げられる。
【0040】
滑剤としては、例えば、流動パラフィン、天然パラフィン、マイクロワックス、合成パラフィン、及び低分子量ポリエチレン等の純炭化水素系滑剤;ハロゲン化炭化水素系滑剤、高級脂肪酸、及びオキシ脂肪酸等の脂肪酸系滑剤;脂肪酸アミド、及びビス脂肪酸アミド等の脂肪酸アミド系滑剤;脂肪酸の低級アルコールエステル及びグリセリド等の脂肪酸の多価アルコールエステル;脂肪酸のポリグリコールエステル、及び脂肪酸の脂肪アルコールエステル(エステルワックス)等のエステル系滑剤;金属石けん、脂肪アルコール、多価アルコール、ポリグリコール、ポリグリセロール、脂肪酸と多価アルコールとの部分エステル、及び、脂肪酸とポリグリコール又はポリグリセロールとの部分エステルが挙げられ、これらは1種あるいは2種以上組み合わせて使用することができる。
滑剤の添加量については特に制限されないが、前記(A)成分と(B)成分の全量100質量部に対して、0.1~15質量部が好ましく、0.1~5質量部がさらに好ましい。0.1質量部以上とすることで、樹脂組成物の成形機への付着を低減することができ、15質量部以下とすることで、ゲル化特性の低下を防ぐことができる。
【0041】
充填剤としては、金属粉、酸化物、水酸化物、珪酸及び珪酸塩、炭酸塩、炭化珪素、植物性繊維、動物性繊維、並びに合成繊維等が挙げられ、これらの具体的な代表例としては、アルミニウム粉、銅粉、鉄粉、アルミナ、天然木材、紙、炭酸カルシウム、タルク、硝子繊維、炭酸マグネシウム、マイカ、カオリン、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、シリカ、クレー、ゼオライト、アセテート粉、絹粉、アラミド繊維、アゾジカルボンアミド、グラファイト、及び再生充填剤材料が挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0042】
また、難燃性向上目的に充填剤を添加する場合、例えば金属水酸化物、臭素系化合物、トリアジン環含有化合物、亜鉛化合物、リン系化合物、ハロゲン系化合物、シリコン系化合物、イントメッセント系化合物、又は酸化アンチモンが使用できる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
充填材の添加量については特に制限されないが、前記(A)成分と(B)成分の全量100質量部に対して、0~300質量部が好ましく、0~100質量部がより好ましく、1~50質量部がさらに好ましく、1~15質量部がとりわけ好ましい。300質量部以下とすることで、成形体外観の平滑性が向上できる。また、1質量部以上とすることで、剛性を高めることができる。
【0043】
加工助剤としては、例えば、アクリル系加工助剤、塩素化ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレンが挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
加工助剤の添加量については特に制限されないが、前記(A)成分と(B)成分の全量100質量部に対して、0.1~10質量部が好ましく、0.1~5質量部がより好ましく、1~4質量部がとりわけ好ましい。10質量部以下とすることで、成形機への負荷を低減できる。また、0.1質量部以上とすることで、成形品の光沢を高めることができる。
【0044】
補助安定剤としては、例えば、エポキシ樹脂、及びエポキシ化脂肪酸アルキルエステル等のエポキシ化合物、並びに有機亜リン酸エステル等の非金属系安定剤が挙げられ、これらは1種又は2種以上組み合わせて用いられる。
補助安定剤の添加量については特に制限されないが、前記(A)成分と(B)成分の全量100質量部に対して、0~5質量部が好ましく、1~4質量部がより好ましい。5質量部以下とすることで、成形品の外観低下を抑制できる。また、1質量部以上とすることで、成形時の熱安定性をより高めることができる。
【0045】
その他、離型剤、流動性改良剤、着色剤、帯電防止剤、界面活性剤、防曇剤、抗菌剤、可塑剤、又は発泡剤等も、本発明の効果を損なわない限りにおいて、目的に応じて任意に配合することができる。
【0046】
<誘電正接>
本発明の樹脂組成物は、誘電正接(tanδ)のピークを-20~80℃に有することが好ましい。誘電正接がこの温度範囲にあると、tanδのピーク温度が常温に近いことから、常温での制振材性能が高くなる。以上の点から、tanδのピーク温度は、-13℃~60℃の範囲にあることがさらに好ましい。
また、本発明の樹脂組成物は、-80~150℃において、前記誘電正接(tanδ)のピークが単一であることが好ましい。ピークが単一であるということは、ポリウレタンと塩化ビニル樹脂が互いに相溶しているか、又は分散状態が良好であることを示すものである。
【0047】
<語句の説明>
本発明においては、「フィルム」とも称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」とも称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
また、画像表示パネル、保護パネル等のように「パネル」と表現する場合、板体、シート及びフィルムを包含するものである。
本発明において、「X~Y」(X,Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。
また、「X以上」(Xは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「好ましくはXより大きい」の意を包含し、「Y以下」(Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。
【実施例0048】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例における評価方法は下記のとおりである。
【0049】
[評価方法]
実施例、比較例にて得られたフィルムを用いて、MD4mm、TD30mmに切り出された短冊状のサンプル片を用い、-100~200℃、周波数10Hzの条件で動的粘弾性測定を行い、貯蔵弾性率(E’)、損失弾性率(E’’)、及び、貯蔵弾性率(E’)と損失弾性率(E’’)の比であるtanδ(=E’’/E’)を算出した。tanδ(=E’’/E’)のピークが現れる温度を表1に示す。
【0050】
実施例1~3
熱可塑性ポリウレタンとして、TPU(三井化学 フォルティモXCT-A1095、数分子量:121、000)を用い、塩化ビニル樹脂として、金属石鹸系安定剤(ステアリン酸Caおよびステアリン酸Zn)を配合したPVC(カネカ S1003 重合度1300)を用いた。
TPUとPVCを表1に示すように、9:1~7:3の割合で配合し、190~210℃で溶融混練し、圧力3MPaで30秒間熱プレスし、厚み100μmの無延伸のフィルムを作製した。評価結果を表1に示す。
【0051】
実施例4~6
熱可塑性ポリウレタンとして、TPU(三井化学 フォルティモXCT-P1095)を用いたこと以外は、実施例1~3同様にして、フィルムを作製した。評価結果を表1に示す。
【0052】
実施例7及び8
塩化ビニル樹脂として、塩素化塩化ビニル樹脂(C-PVC、積水化学 HA-05K 重合度500、塩素化率67%)を用いたこと以外は実施例1及び3と同様にして、フィルムを作製した。評価結果を表1に示す。
【0053】
比較例1及び2
表1に示すように、塩化ビニル樹脂を用いず、熱可塑性ポリウレタンのみで実施例と同様にフィルムを作製した。評価結果を表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
表1の結果より、ポリウレタンに対して、塩化ビニル樹脂を加えることで、tanδのピーク温度は高温側にシフトし、常温に近づけることができる。すなわち、主成分であるポリウレタンに塩化ビニルを配合することで、振動エネルギーの吸収性を高めることができ、常温付近での制振材性能を向上させることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、PVCに含有される安定剤に起因するブリードアウトを抑制することができ、常温付近での制振材性能を向上させる制振材料を提供することができる。この制振材性能の高い材料は広範な用途に応用展開でき、その工業的価値は高い。