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特開2024-141089線量分布計算システム、プログラム及び線量分布計算方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141089
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】線量分布計算システム、プログラム及び線量分布計算方法
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
A61N5/10 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052546
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】平山 嵩祐
(72)【発明者】
【氏名】山田 貴啓
【テーマコード(参考)】
4C082
【Fターム(参考)】
4C082AC02
4C082AE01
4C082AP02
(57)【要約】
【課題】高精度な線量分布計算結果を効率的に得ることができる線量分布計算システム、プログラム及び線量分布計算方法を提供する。
【解決手段】マルチリーフコリメータを通過して照射される放射線の線量分布を算出する線量分布計算システム113は、放射線の粒子毎に、2つの投影面でマルチリーフコリメータの通過経路を算出して、粒子毎の透過率を算出するMLC輸送計算部120と、透過率を用いて線量分布を算出する線量分布計算部121と、を備える。
【選択図】 図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチリーフコリメータを通過して照射される放射線の線量分布を算出する線量分布計算システムであって、
放射線の粒子毎に、2つの投影面で前記マルチリーフコリメータの通過経路を算出して、前記粒子毎の透過率を算出する輸送計算部と、
前記透過率を用いて前記線量分布を算出する線量分布計算部と、を備える
線量分布計算システム。
【請求項2】
請求項1に記載の線量分布計算システムにおいて、
2つの投影面を、前記マルチリーフコリメータのリーフ配置方向の投影面、及びリーフ駆動方向の投影面とする
線量分布計算システム。
【請求項3】
請求項1に記載の線量分布計算システムにおいて、
前記輸送計算部は、前記放射線の粒子毎に、2つの投影面で算出した前記通過経路の共通範囲から経路長を求めて前記透過率を求める
線量分布計算システム。
【請求項4】
請求項3に記載の線量分布計算システムにおいて、
前記輸送計算部は、
前記放射線の粒子毎に設定した共通の補間パラメータを用いて、各制御点の装置情報を前記補間パラメータで内挿し、
前記放射線の粒子毎に異なる装置パラメータを設定し、
連続的に変化する前記装置情報を考慮した粒子種情報を生成し、
生成した前記粒子種情報を用いて前記経路長を求める
線量分布計算システム。
【請求項5】
請求項4に記載の線量分布計算システムにおいて、
前記補間パラメータは、乱数、一様乱数、あるいは準乱数のいずれかである
線量分布計算システム。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の線量分布計算システムにおいて、
前記輸送計算部は、前記粒子としてコンプトン光子を生成し、前記コンプトン光子の透過率を算出する
線量分布計算システム。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の線量分布計算システムにおいて、
前記線量分布計算部は、前記透過率を用いて前記線量分布を算出する際に、統計的重みを直接あるいはロシアンルーレット法を適用して用いる
線量分布計算システム。
【請求項8】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の線量分布計算システムにおいて、
前記線量分布計算部で算出された前記線量分布を表示する表示部を更に備えた
線量分布計算システム。
【請求項9】
放射線の粒子毎に、2つの投影面でマルチリーフコリメータの通過経路を算出して、前記粒子毎の透過率を算出する輸送計算手順と、
前記透過率を用いてマルチリーフコリメータを通過して照射される前記放射線の線量分布を算出する線量分布計算手順と、を計算システムに実行させる
プログラム。
【請求項10】
マルチリーフコリメータを通過して照射される放射線の線量分布を算出する方法であって、
放射線の粒子毎に、2つの投影面で前記マルチリーフコリメータの通過経路を算出して、前記粒子毎の透過率を算出する輸送計算ステップと、
前記透過率を用いて前記線量分布を算出する線量分布計算ステップと、を有する
線量分布計算方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線を腫瘍等の患部に照射して治療するための放射線治療システムに好適に用いられる線量分布計算システム、プログラム及び線量分布計算方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、放射線ビームを通過させるように構成されたアパーチャを画定するコリメータ装置の3次元ジオメトリを画定するステップと、コリメータを放射線ビームに沿って平面上の2次元ジオメトリに投影するステップと、コリメート装置の3次元形状に基づいて開口に隣接する位置におけるコリメート装置の線量不透明度を計算するステップと、平面に投影された2次元形状に基づいてコリメータデバイスを通る放射線ビームの輸送を計算し開口に隣接する位置におけるコリメータデバイスの線量不透明度を用いるステップとを含むことが記載されている。
【0003】
非特許文献1には、強度変調放射線治療の線量分布計算に関し、リーフの透過、リーフ間リーク、丸みを帯びたリーフ先端、リーフシーケンスの効果など、マルチリーフコリメータの形状の影響と、フィールド全体のビーム発散とエネルギー変動をモデルに取り入れることが記載されている。
【0004】
非特許文献2には、モンテカルロ線量分布計算で使用される、正確で高速かつ効率的で、したがって反復強度変調放射線治療線量分布計算に適用できる、ランスポーツベースのマルチリーフコリメータ粒子輸送モデルについて記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国公開2020/0298018号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】R. F. Aaronson et al., “A Monte Carlo based phase space model for quality assurance of intensity modulated radiotherapy incorporating leaf specific characteristics”, Med. Phys. 29(12), 2952-2958 (2002).
【非特許文献2】J. V. Siebers et al., “A method for photon beam Monte Carlo multileaf collimator particle transport”, Phys. Med. Biol. 47, 3225-3249 (2002).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
放射線療法は、がん病巣に放射線を照射し、がん細胞のDNAに損傷を与えることで、がん細胞を死滅させる局所療法である。照射される放射線種としてはX線や陽子や炭素イオンなどの粒子があるが、このうち、X線が最も用いられている。
【0008】
X線を用いる放射線治療では、強度変調放射線治療(IMRT:Intensity Modulated Radiation Therapy)や、強度変調回転照射(VMAT:Volumetric Modulated Arc Therapy)、波状軌跡で連続的ノンコプラナ照射を行うDWA(Dynamic Wave Arc)など、複数の照射方向からX線を標的に照射することで線量集中性を向上させた高精度照射法による治療が行われている。
【0009】
VMATでは、ガントリ角・多葉コリメータ(MLC, Multi-Leaf Collimator)の開口形状・線量率の3つのパラメータを連続的に変調させながら、連続回転照射を行う事で、正常組織への線量を低減させつつ、腫瘍に高線量を付与する事が可能となる。
【0010】
放射線治療では、患者CT画像と医師が設定した処方線量とに基づき、治療計画ソフトウエアを用いて患者体内の線量分布をシミュレートする事で、治療装置の機器パラメータ(コリメータの開口形状等)、照射角度、照射角度毎の照射量、エネルギー等の照射パラメータを決定する。
【0011】
ここで、決定された照射パラメータ及び照射パラメータの算出根拠となる線量分布を治療計画と呼び、治療計画に基づいて照射装置がビームを照射することで、所望の線量分布を患部に形成する事が可能となる。
【0012】
治療に使用する治療計画は、治療計画の健全性を保障するために、患者に照射する前に治療計画通りの線量分布を装置が照射できるかを確認する。これを患者QAと呼ぶ。患者QAに於いて実施される最も一般的な方法は、個体ファントム等の均質ファントムに実際に照射する治療計画を照射し線量分布を実測することである。
【0013】
臨床スタッフは、患者QAを通して、(1)治療計画ソフトウエアの線量分布計算アルゴリズムの計算精度の検証、(2)均質ファントム内での、照射装置の照射誤差による線量分布への影響の検証、(3)治療計画に対する装置動作の妥当性の確認を行う。
【0014】
(1)及び(2)の項目に関しては、実測結果と治療計画ソフトウエアの計算結果との比較により検証される。治療施設では、施設ごとに患者QAの評価項目及び判定基準を設定しており、各評価項目が判定基準を満足する事を確認した後、治療プランとして使用することが可能となる。判定基準を逸脱した場合は、患者QAの再実施もしくは治療計画の再作成を実施する。
【0015】
放射線治療は、1日1回の患部への照射を数日から数週間に渡って繰り返すことで実施される。そのため、治療期間中に腫瘍の拡大・縮小や、腫瘍周辺の体内構造の変化が起こりうる。
【0016】
このような変化が起きた場合に、治療計画を再作成し、再作成した治療計画を用いて治療を行うアダプティブ治療のニーズが高まっている。アダプティブ治療の中でも患者が治療用ベッドに寝た状態で治療直前に治療計画を再作成することをオンラインアダプティブ治療と呼ぶ。
【0017】
オンラインアダプティブ治療は、鼻腔や腸の状態など治療日毎に異なる患者体形に対応して照射量を最適化する。治療日毎に線量分布を最適化するため、マージンとして照射する標的外の領域を小さくでき、正常組織へのダメージを低減することが可能となる。
【0018】
しかしながら、オンラインアダプティブ治療では、治療計画の再作成など治療中に実施するプロセスが大幅に増えるため、治療時間が増大する等、様々な開発課題が存在する。課題の一つにオンラインアダプティブ治療時の患者QAが挙げられる。
【0019】
オンラインアダプティブ治療では、患者が寝台に寝た状態で、再計画された治療計画の患者QAを実施する必要があるため、これまで実施されてきた実照射による実測ベースの患者QAを実施する事が困難となる。
【0020】
従って、近年、患者QAに於いて、モンテカルロ法等の高精度線量分布計算手法を用いた独立線量分布計算エンジンを用い、CT画像内や均質ファントム内で計画通りの線量分布を形成できるか確認する手法が提案されている。
【0021】
モンテカルロ法では、個々の放射線挙動を乱数を用いて確率的に再現し、これを多数回(数百万回以上)繰り返すことで、放射線の平均的な振る舞いを推定し、線量分布を算出する。X線治療の線量分布計算では、加速器で加速された電子がタングステン標的に照射されX線が生成される段階から、X線がMLCを通過し照射野が形成され、照射野が形成されたX線が患者に照射され線量が付与されるまでのプロセスを一気通貫でモンテカルロシミュレーションを行う場合、膨大な計算時間を要す。
【0022】
そのため、(A)MLCによって照射野が形成されるまでの過程と、(B)照射野が形成されたX線が患者体内を輸送する過程と、の二つの過程に分けて計算される事が一般的である。
【0023】
本発明は、前者の(A)MLCの照射野形成過程の計算に関する。
【0024】
VMAT照射等では、ガントリの回転に応じてリーフ形状が複雑に変化することから、効率的にMLCの照射野形成過程の輸送計算を実施するために、解析的手法や準解析的手法を用いて照射野の形成過程を算出する。
【0025】
上述の特許文献1や非特許文献1では、解析的手法を用いた照射野形成過程の計算手法が記載されている。これらの文献では、ビーム照射方向から3次元のMLC形状を投影したビームの透過率マップを計算する事で、透過率マップを用いてMLC形状の影響を考慮する事で線量分布を算出する手法が示されている。VMATの治療計画を作成する場合、計算コストを低減するため、連続的な照射角度を有限個の照射角度(例えば、2度間隔のガントリ角度)に離散化し、照射角度毎のMLC形状を最適化計算により決定する。そのため、解析的な計算手法は、治療計画の作成プロセスに於いて広く用いられている。
【0026】
非特許文献2では、準解析的手法を用いた照射野計算過程の計算手法が示されている。準解析的手法では、事前にモンテカルロシミュレーションを用いて計算した、もしくはモデル化した、MLC上流の粒子種情報(粒子の種類、位置、エネルギー、進行方向情報)を生成しておき、本粒子種情報を入力として粒子毎にMLC内の通過長を算出し、算出された通過長から計算される透過率を、粒子の重みとして設定する事で、MLC形状の影響を考慮する。
【0027】
ここで、モンテカルロシミュレーションで使用する粒子数は数百万以上に及び、準解析的手法では、MLCの通過長の算出を粒子数回繰り返し、粒子毎に透過率を算出する必要があるため、MLCの通過長の算出手法の計算速度及び計算精度が極めて重要となる。
【0028】
非特許文献2では、MLCの通過長を、MLCのリーフの駆動方向に関しては、リーフ形状を考慮する一方で、リーフの配置方向は、リーフ上面とリーフ中面での粒子の入射位置で代表させたリーフ厚に基づき経路長を算出する方法を採用している。本手法では、隣接したリーフ間でリーフ位置が異なる領域を通過する粒子では、リーフ上面-中面間、もしくはリーフ中面-下面間でリーフ外に出る場合に、計算精度が低下する懸念がある。
【0029】
高精度に通過長を算出する方法として3次元のレイトレース計算を用いる方法があるが、この場合、計算コストが増大し、短時間で高精度なMLC通過長の算出が困難となる。
【0030】
本発明は、高精度な線量分布計算結果を効率的に得ることができる線量分布計算システム、プログラム及び線量分布計算方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0031】
本発明は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、マルチリーフコリメータを通過して照射される放射線の線量分布を算出する線量分布計算システムであって、放射線の粒子毎に、2つの投影面で前記マルチリーフコリメータの通過経路を算出して、前記粒子毎の透過率を算出する輸送計算部と、前記透過率を用いて前記線量分布を算出する線量分布計算部と、を備える。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、高精度な線量分布計算結果を効率的に得ることができる。上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施例の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本実施例の放射線治療システムの全体構成図である。
図2】本実施例の線量分布計算システムによる線量分布の計算工程を示すフロー図である。
図3】本実施例の線量分布計算システムによるMLC輸送計算工程を示すフロー図である。
図4】本実施例の線量分布計算システムによる粒子毎にMLCの透過率を算出する工程を示すフロー図である。
図5】本実施例の線量分布計算システムにおけるMLCの各投影面での形状例である。
図6】本実施例の線量分布計算システムにおけるMLC通過長の算出過程を説明するための概念図である。
図7】本実施例の線量分布計算システムによるMLC輸送計算工程の他の例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の線量分布計算システム、プログラム及び線量分布計算方法の実施例について図1乃至図7を用いて説明する。なお、本明細書で用いる図面において、同一のまたは対応する構成要素には同一、または類似の符号を付け、これらの構成要素については繰り返しの説明を省略する場合がある。
【0035】
本発明は、用いる放射線としてX線を用いるX線照射システムに好適に適用することができるが、X線以外にも陽子や炭素イオンなどの粒子を用いる粒子線照射システムにも好適に適用可能である。以下の実施例では、X線照射システムを例に説明する。
【0036】
最初に、図1を用いて本発明のX線治療システムの全体構成について説明する。図1はX線治療システムの全体構成の概略を示す図である。
【0037】
図1に示すX線治療システムは、X線照射システム110、データサーバ111、治療計画装置112、線量分布計算システム113を備える。
【0038】
X線照射システム110は、X線照射装置100、放射線照射制御装置104、通信装置105、記憶装置106、入力装置107を備える。X線照射装置100はリング型ガントリ101、照射ノズル102、寝台103を備える。
【0039】
X線照射システム110では、放射線照射制御装置104より出射開始信号が出力されると、照射ノズル102内の線形加速器は電子線を加速し、加速した電子線をタングステンに照射する事でX線を発生する。
【0040】
照射ノズル102内には、左右に配置された複数の板状の遮蔽物(以下、リーフ)で構成されたコリメータ(以下、マルチリーフコリメータ(MLC))を備えており、放射線照射制御装置104からの指示値に基づき各リーフの位置を任意に変化させる事で、生成したX線を所望の分布に整形する。
【0041】
また、照射ノズル102内には、X線の照射量を計測する線量モニタを有しており、検出した計測値は放射線照射制御装置104に出力され、放射線照射時の制御に活用される。
【0042】
照射対象Aを載せるベッドを寝台103と呼ぶ。寝台103は放射線照射制御装置104からの指示に基づき、直交する3軸の方向へ移動することができ、さらに各軸を中心として回転することができる。これらの移動と回転により、照射対象Aの位置を所望の位置に移動することができる。
【0043】
照射ノズル102は、リング型ガントリ101に搭載されており、放射線照射制御装置104からの指示値を受けて、ガントリ回転角度及びリング回転角度が設定され、任意の角度からX線を寝台103上の照射対象Aに照射する事が可能である。このガントリ回転及びリング回転の回転中心をアイソセンタと呼ぶ。
【0044】
放射線照射制御装置104は、リング型ガントリ101、照射ノズル102、寝台103、通信装置105、記憶装置106、入力装置107などと接続されており、照射ノズル102内の機器、リング型ガントリ101、寝台103等を制御する。
【0045】
通信装置105は、ネットワークを介して、データサーバ111に接続しており、照射前にネットワーク経由で治療計画装置112によって作成された照射パラメータ(ガントリ角度、照射量、リーフ位置情報等)が格納された治療計画データをデータサーバ111より取得し、記憶装置106に照射パラメータを保存する。
【0046】
入力装置107は、放射線照射制御装置104と接続されており、放射線照射制御装置104から取得した信号に基づいてモニタ上に情報を表示する。また、X線照射システム110を操作する医療従事者からの入力信号を受け取り、放射線照射制御装置104に様々な制御信号を送信する。放射線照射制御装置104は、入力装置107を介して放射線の照射開始指示を受けると、記憶装置106に保存されている照射パラメータに基づいて照射を開始する。
【0047】
線量分布計算システム113は、マルチリーフコリメータを通過して照射される放射線の線量分布を算出するシステムであり、MLC輸送計算部120、線量分布計算部121、表示部122、入力部123、記憶部124から構成される。線量分布計算システム113はネットワークを介して、データサーバ111に接続されており、線量分布を計算する治療計画情報を取得する。
【0048】
MLC輸送計算部120は、記憶部124に記憶されているMLC上面での粒子種情報を入力として、粒子毎にMLC内の通過長を算出し、通過長から算出した透過率を粒子の重みとして設定する事で、MLC下流での粒子種データを生成する。このMLC輸送計算部120が好適には輸送計算手順、輸送計算ステップの実行主体となる。
【0049】
本実施例では、MLC輸送計算部120は、放射線の粒子毎に、2つの投影面でマルチリーフコリメータの通過経路を算出して、粒子毎の透過率を算出する。ここで、2つの投影面を、マルチリーフコリメータのリーフ配置方向の投影面、及びリーフ駆動方向の投影面とすることができる。また、透過率を算出するにあたって、放射線の粒子毎に、2つの投影面で算出した通過経路の共通範囲から経路長を求めて透過率を求めることができる。
【0050】
また、MLC輸送計算部120は、放射線の粒子毎に設定した共通の補間パラメータを用いて、各制御点の装置情報を補間パラメータで内挿し、放射線の粒子毎に異なる装置パラメータを設定し、連続的に変化する装置情報を考慮した粒子種情報を生成し、生成した粒子種情報を用いて経路長を求めることができる。
【0051】
更に、MLC輸送計算部120は、粒子としてコンプトン光子を生成し、コンプトン光子の透過率を算出することができる。
【0052】
線量分布計算部121は、MLC輸送計算部120が生成したMLC下流での粒子種データ及び透過率を入力として、患者体内もしくは数値ファントム中の線量分布を計算する。ここで、粒子種データには、粒子・光子毎の位置情報、進行ベクトル、エネルギー、粒子種(X線、電子、陽電子)、統計的重みが含まれる。この線量分布計算部121が好適には線量分布計算手順、線量分布計算ステップの実行主体となる。
【0053】
表示部122は、線量分布計算部121で算出された線量分布を表示するディスプレイである。
【0054】
これら放射線照射制御装置104や線量分布計算システム113は、中央演算装置(CPU:Central Processing Unit)及びこのCPUに接続されたメモリを有する。
【0055】
なお、実行される動作の制御処理は、1つのプログラムにまとめられていても、それぞれが複数のプログラムに分かれていても良く、更にはそれらの組み合わせでも良い。
【0056】
各装置の保有するプログラムの一部またはすべては専用ハードウェアで実現しても良く、モジュール化されていても良い。更には、各種プログラムは、プログラム配布サーバや外部記憶メディアによって各装置にインストールされていてもよいし、既存の装置をアップデートしてもよい。
【0057】
また、各装置は、各々が独立した装置で有線あるいは無線のネットワークで接続されたものであっても、2つ以上が一体化していてもよい。
【0058】
続いて、本実施例の線量分布計算システム113を用いて、患者体内の線量分布を計算する実施の形態を説明する。線量分布計算の全体フローを図2に、本発明の特徴的な処理である、MLC内の輸送計算部分のフローを図3に示す。
【0059】
図2に示すように、まず、線量分布計算システム113は、線量分布を検証する治療計画データをデータサーバ111から取得する(S201)。この時、線量分布計算システム113が読み込む治療計画データは、操作者がデータサーバ111内の治療計画情報111Aから入力部123を用いて選択することができるし、線量分布計算システム113が自動で、放射線照射制御装置104によって読み込まれた治療計画データをデータサーバ111内の治療計画情報111A内を検索し、読み込むことができる。
【0060】
続いて、線量分布計算システム113のMLC輸送計算部120は、ステップS201で読み込んだ治療計画データから、線量分布計算及びMLC輸送計算に使用するプランパラメータを抽出し、記憶部124に保存する(S202)。
【0061】
続いて、MLC輸送計算部120は、ステップS202で読み込んだ治療計画データのプランパラメータを用いて、MLC上流位置での総サンプル数を算出する(S203)。ここで、サンプル数は線量分布計算に使用する粒子数であり、X線照射装置100に於いて、X線の照射量が照射ノズル内に設置される線量モニタのMU値で定められることから、MU値あたりの粒子数が用いられることが多い。ここでは、更に規格化点での単位線量あたりとして算出したサンプル数[particles/(MU/Gy)]を用いた例で説明する。
【0062】
MLC輸送計算部120は、治療計画情報から、規格化点での線量値及びMU値情報を取得し、規格化点での単位線量当たりのMU値[MU/Gy]を算出する。予め、単位線量当たりMU値あたりの粒子数[particles/(MU/Gy)]を記憶部124に保存しておき、規格化点での単位線量当たりのMU値に、単位線量当たりMU値あたりの粒子数を乗じる事で、総サンプル数を算出する。ここで、単位線量当たりMU値あたりの粒子数[particles/(MU/Gy)]として、操作者が入力部123を用いて指定した値を用いても良い。
【0063】
続いて、MLC輸送計算部120は、MLC上流の粒子種データを読み込み、MLC下流での粒子種データを生成するため、MLC内の輸送計算を実施する(S204)。
【0064】
輸送計算完了後、線量分布計算システム113の線量分布計算部121は、MLC輸送計算部120によって生成されたMLC下流の粒子種データを読み込み、線量分布計算を実施する(S205)。線量分布計算では、入力となる粒子kの統計的重みをs、粒子kがボクセルiに付与する線量をdi,kとすると、ボクセルiの線量Dは次式(1)で算出される。
=C×Σw×di,k ・・・ (1)
【0065】
ここで、Cは、計算サンプル数で計算された線量を、実際の粒子数で付与される線量に変換するための補正係数である。
【0066】
本発明は、ステップS204のMLCの輸送計算部分の計算方法に特徴を有する。MLCの輸送計算のフロー図を図3に示す。
【0067】
ここでは、VMATやDWAに代表される連続回転照射の治療計画に対して、MLCの輸送計算を実施する場合を例として説明する。
【0068】
連続回転照射は照射角度(ガントリ角、照射リング角)・MLC形状・線量率の3つのパラメータを連続的に変調させながら照射を行う照射法である。この連続回転照射での治療計画の作成に於いては、治療計画作成時の計算負荷を低減させるため、等間隔の照射角度に離散化して照射装置の制御点が生成され、治療計画が作成される。そのため、連続的に変化するリーフの位置等の装置情報を計算に考慮する事が困難であった。
【0069】
これに対し、本発明では、粒子毎に設定した共通の準乱数を用いて、各制御点の装置情報を同一の準乱数で内挿することで、粒子毎に異なる装置パラメータを設定し、連続的に変化する装置情報を考慮した粒子データの生成が可能となる。これにより、従来に比べて線量分布を高精度に算出する事が可能になる。これが、本発明の特徴の一つである。
【0070】
なお、補間パラメータとして準乱数を用いる場合について説明するが、準乱数の他に、乱数あるいは一様乱数のいずれかを用いることができる。
【0071】
図3に示すように、まず、MLC輸送計算部120は、X線照射装置100で使用されているマルチリーフコリメータの体系データを読み込み、計算体系を構築する(S301)。
【0072】
マルチリーフコリメータは、1軸方向に駆動可能な複数枚の板状の遮蔽物(以下、リーフ)が一列に配置されており、リーフの駆動する方向をリーフ駆動方向、リーフが配置されるリーフの配置方向をリーフ配置方向と呼ぶ。
【0073】
リーフ配置方向に於いて、リーフの外側にはフレームが置かれており、照射野外の線量を遮蔽する役割を持つ。後述するが、本発明では、各粒子のマルチリーフコリメータの輸送を、各リーフ及びフレームのリーフ配置方向への投影面情報、及びリーフ駆動方向への投影面情報を用いて算出する。そのため、ここで読み込む体系情報は、各リーフ及びフレームの配置方向及び駆動方向への投影面情報となる。
【0074】
続いて、MLC輸送計算部120は、記憶部124内に格納されている、MLC上流の粒子種情報データベース125を読み込み、MLC輸送計算の入力となるMLC上流の粒子データを取得する(S302)。
【0075】
続いて、MLC輸送計算部120は、ステップS202で取得したプランパラメータを記憶部124より取得する(S302)。連続回転照射のプランパラメータでは、制御点毎のリーフ位置、ガントリ角度、照射リング角度、制御点間の照射量が記載されている。
【0076】
その後、MLC輸送計算部120は、制御点間単位で、MLC輸送計算を実施するため、プランパラメータより2制御点の装置情報及び、2制御点間の装置情報を取得する(S303)。各制御点間のMLC輸送計算に用いるサンプル数は、制御点間毎の線量に応じて割り振られる。
【0077】
続いて、MLC輸送計算部120は、ステップS302で読み込んだMLC上流の粒子種データから、粒子を読み込み(S304)、粒子毎に準乱数tを設定する(S305)。このステップS305で設定するtは、2制御点間での照射タイミングに関する時刻パラメータを意味し、0<t≦1の一様乱数で与えられる。
【0078】
続いて、MLC輸送計算部120は、本時刻パラメータを用いて、2制御点間での装置パラメータを内挿する事で、粒子毎に異なる装置パラメータを設定し、連続的に変化する装置情報を考慮する(S306)。制御点A及び制御点Bにおける装置パラメータをそれぞれε,εとすると、時刻パラメータとして粒子jにtが与えられた場合、粒子jの装置パラメータεは次式(2)で与えられる。
ε=ε+t×(ε-ε) ・・・ (2)
【0079】
装置パラメータには、ガントリ角度、照射リング角度、MLCのリーフ位置等が、含まれており、装置間で同一のパラメータtを用いて、粒子毎に異なる装置パラメータが設定される。
【0080】
続いて、MLC輸送計算部120は粒子毎にMLCの通過長を算出し、透過率を算出する(S307)。透過率の算出フローを図4に示す。図4を用いて、透過率の算出手法について説明する。
【0081】
透過率の算出は、図4に示すように、MLC内通過長の算出プロセス400と通過長から透過率を算出する透過率算出プロセス401の2つのプロセスに分かれる。これら2つのプロセスの実行主体はMLC輸送計算部120である。
【0082】
本発明では、透過率の算出フローのうち、MLC内通過長の算出プロセス400に、2つ目の特徴を有する。本発明では、MLCのリーフ配置方向への投影面とリーフ駆動方向への投影面に於いて、MLC内の粒子の通過経路情報を算出し、各投影面での通過経路の共通範囲を求める事で、MLC内の通過長を算出する。これにより、隣接したリーフ間でリーフ位置が異なる領域を通過する粒子の計算程度低下を防ぎつつ、効率的な通過長の算出が可能となる。
【0083】
まず、MLC内通過長の算出プロセス400のうち、ステップS304で読み込んだ粒子(以下、輸送粒子)のMLC上面位置及び下面位置から、輸送粒子と交わる可能性があるリーフ及びフレームを抽出する(S4001)。
【0084】
より具体的には、輸送粒子の進行ベクトル(v,v,v)と位置情報(x,y,z)に基づいて、輸送粒子のリーフの駆動方向(x方向)投影面及びリーフの配置方向(y方向)投影面の経路式を算出する。粒子は進行方向に直進する事のみを考えるため、x方向及びy方向の輸送粒子の経路式は一次関数で表され、次式(3),(4)で計算される。
z=v/v×x+(z-v/v×x), ・・・ (3)
z=v/v×y+(z-v/v×y), ・・・ (4)
【0085】
y方向の粒子の経路式を用い算出したMLC上面深さ及び下面深さに於けるy座標に基づき、粒子との衝突判定を実施する必要があるリーフ(以下、対応リーフ)及びフレームを抽出する。
【0086】
続いて、MLCの開口領域が大きい(照射野サイズが大きい)場合では、ステップS4001で選ばれた対応リーフと衝突する粒子は一部であり、多くの粒子はリーフやフレームと衝突することなくMLC下流に到達する。そのため、MLC輸送計算部120は、衝突可能性のある粒子に対してのみレイトレーシング計算を行い、計算の効率化を図るため、対応リーフのリーフ位置を用いて、粒子がリーフと衝突する可能性があるか判別する(S4002)。
【0087】
対応リーフの左側リーフ位置の最大値をxLmax、右側リーフ位置の最小値をxRminとした場合、MLC上面での粒子のx座標xup、MLC下面での粒子のx座標xdownが以下の条件を満たす場合、リーフと衝突することなく輸送される。
xLmax<xup<xRmin,及びxLmax<xdown<xRmin, ・・・ (5)
【0088】
したがって、上述の条件を満たす場合(衝突可能性がない、ステップS402のNo)はMLC内の経路長の計算を行わず、粒子の統計的重みを1とする。一方で、(4)式を満たさない場合(衝突可能性がある、ステップS402のYes)は処理をステップS403に進めて経路長計算を開始する。
【0089】
続いて、ステップS4001で算出した対応リーフ及びフレームの中から、計算対象とするリーフもしくはフレームを選択(S4003)した後、リーフ配置方向投影面での粒子とリーフもしくはフレームとの交点(接点を除く)を算出する(S4004)。
【0090】
図5に各投影面でのMLCのリーフ形状及びフレーム形状の例を示す。図5中(a)にリーフ配置方向投影面、図5中(b)にリーフ駆動方向投影面の例を示す。図5中(a)から確認できるように、リーフ及びフレームの形状は、斜辺に関しては粒子の経路式と同様に一次関数で、他の辺に関してはz=kの関数形で表すことができる。そのため、粒子の経路式とフレーム及びリーフとの交点を容易に算出する事ができる。
【0091】
続いて、リーフ駆動方向投影面での粒子とリーフとの交点を算出する(S4005)。
【0092】
リーフの駆動方向(x方向)投影面の形状は、リーフ先端の円弧形状とz=kの関数形状で表される。このリーフ先端の円弧の方程式は、リーフ中間座標をzmid、円弧部分の半径をR、円弧部分のx方向長さをdl、j番目の粒子に於ける、i番目の左側・右側リーフのリーフ位置を、それぞれxL,i,j、xR,i,jとすると、j番目の粒子に於ける、i番目の左リーフ先端の円弧の方程式は(6)式、i番目の右リーフ先端の円弧の方程式は(7)式で表される。
(x-(xL,i,j-R))+(z-zmid=R , xL,i,j-dl<x≦xL,i,j ・・・ (6)
(x-(xR,i,j+R))+(z-zmid=R , xR,i,j≦x<xR,i,j+dl ・・・ (7)
【0093】
従って、x-z面に関しても粒子の経路式とリーフとの交点を容易に算出する事が可能となる。
【0094】
続いて、両投影面で算出した交点情報を基に実際のリーフとの交点及び通過経路を算出する(S4006)。この手順を図6を使って説明する。
【0095】
図6では、リーフに粒子(粒子Aまたは粒子B)が入射した際の各投影面での様子と交点情報及びz軸方向のリーフ内通過範囲を示す。
【0096】
上述のS4004及びS4005で作成した各投影面での交点情報は、各リーフ及びフレームの間に空気層が存在しているため、z軸の値で交点を降順にソートした場合に奇数番目の交点は粒子がリーフ内に入る点、一方偶数番目の交点は粒子がリーフ外に出る点に対応する。これにより交点情報からz軸方向のリーフ内通過範囲を算出する事が確認できる。
【0097】
リーフの通過経路が主にリーフ駆動方向投影面のin-outで決まる粒子Aの算出例を図6中(a)-(c)に、リーフ駆動方向投影面でinが決まり、リーフ配置方向投影面でoutが決まる粒子Bの算出例を図6(d)-(f)に示す。リーフの投影面形状と断面形状が等しい場合、実際にリーフと粒子が衝突する交点及び通過経路は、両投影面でのリーフ通過範囲のz座標の共通範囲から算出される。
【0098】
このステップS4003からステップS4006までのステップを、他に関連リーフ/フレームがなくなるまで行い(S4007)、全リーフの輸送粒子との交点情報から通過長を算出する(S4008)。
【0099】
透過率算出プロセス401では、MLC通過長算出プロセス400で算出したMLC通過長を用いて、粒子毎に透過率を算出する。
【0100】
まず、粒子種を確認し、粒子が光子か、電子または陽電子かを判別する(S4011)。粒子が光子である場合は、MLC内の経路長を基にX線の透過率を算出し(S4012)、これを粒子の統計的重みとして設定する(S4013)。光子の透過率は、一般的に指数関数を用いて表される。そのため、ステップS4013で設定される、X線光子の統計的重みは次式(8)で表される。
w=w0,j×exp(-μ/ρ(E)×ρ×t), ・・・ (8)
【0101】
ここで、w0,jは輸送するX線光子の初期重みを意味し、PSDから取得した一次X線の場合w0,j=1である。また、tはMLC通過長算出プロセス400で算出したMLC内の経路長を、ρはMLCの密度を、μ/ρはMLCの材質、たとえばタングステンの質量減弱係数を表す。
【0102】
また、粒子が電子・陽電子である場合に関しては、MLC内の経路長が値を持っているか確認し(S4014)、MLC内の経路長が値を持っている場合(t≠0)は、電子・陽電子はリーフに遮蔽されるため、輸送粒子を削除し(S4015)、経路長が値を持っいない場合(t=0)は、粒子の統計的重みを1として設定する(S4016)。
【0103】
これらステップS4013,S4015,S4016の完了後、MLC輸送計算部120は、処理をステップS308に移行する。
【0104】
図2に戻り、MLC輸送計算部120は、ステップS204(図3のステップS301からステップS312)で作成した統計的重み付きの粒子種データを読み込み、モンテカルロ法を用いて線量分布を計算する(S205)が、ステップS205で読み込む粒子種データに於いて、統計的重みが小さい粒子が多い場合、線量分布計算の効率は大幅に低下する。
【0105】
そこで、ステップS205の計算効率を向上させるため、MLC輸送計算部120は、図3に示す分散低減法の一つであるロシアンルーレット法を用いて、低ウエイト粒子を削減するステップ(S308)を設ける。
【0106】
ロシアンルーレット法では、カットオフ値wcutを設定し、カットオフ値wcut以下の粒子に関しては、一様乱数を用いてw/wcutの確率で粒子を削減する。一方、生き残ったwcut以下の統計的重みをもつ粒子に関しては、カットオフ値wcutを統計的重みとして設定する。
【0107】
続いて、MLC下流位置での粒子の座標値を算出した後、ステップS306で取得した装置パラメータの内、照射角度情報(ガントリ角度情報、照射リング角度情報、カウチ角度情報)を用いた回転行列を作成する(S309)。
【0108】
続いて、作成した回転行列を用いて、粒子種データの進行ベクトル情報及び位置情報を座標変換する事で、治療装置の回転の影響を考慮する。治療装置の回転を考慮後、MLC下流の粒子種データとして書き込み、保存する(S310)。
【0109】
このステップS304からステップS310までのステップを、制御点間内の全ての粒子に対して行い(S311)。これを全ての制御点間に対して繰り返す(S312)事で、MLC下流の粒子種データを作成する。
【0110】
算出された線量分布は、従来と同じように線量分布として表示部122に表示されるほかに、治療計画時の線量分布と比較可能なように並列あるいは重ねて表示部122に表示される。なお、表示部122には、線量分布のみが表示されることに限定されず、加えて、あるいは替えて、γインデックス、DVHを表示することができる。
【0111】
なお、線量分布計算システム113内の表示部122に表示される形態に限定されず、他の箇所の表示部(図示の都合上省略)に表示する形態とすることができる。
【0112】
ここで、MLC輸送計算の計算精度を向上させるために、MLC内のコンプトン散乱の影響を考慮することができる。
【0113】
この場合、図7に示すように、ステップS310の後にコンプトン散乱により散乱された光子(コンプトン光子)を生成するステップを設ける。
【0114】
より具体的には、MLC輸送計算部120は、粒子種を確認し、一次光子か否かを判定する(S701)。一次光子と判定されたときは、続いてコンプトン光子の重みを算出し(S702)、コンプトン光子を生成する(S703)。その後、処理をステップS307に戻し、コンプトン光子に対しても、ステップS307以降の処理を実施する。なお、一次光子と判定されなかったときは、処理をステップS311に進めればよい。
【0115】
更に、ステップS205において、線量分布計算部121は、透過率を用いて線量分布を算出する際に、統計的重みを用いる場合について説明したが、線量分布計算に統計的重みを直接用いずに、カットオフ値を1としたロシアンルーレット法を適用し、低ウエイトの粒子を削除したMLC下流位置での粒子種データを作成し、線量を算出することができる。
【0116】
次に、本実施例の効果について説明する。
【0117】
上述した本実施例のマルチリーフコリメータを通過して照射される放射線の線量分布を算出する線量分布計算システム113は、放射線の粒子毎に、2つの投影面でマルチリーフコリメータの通過経路を算出して、粒子毎の透過率を算出するMLC輸送計算部120(輸送計算手順、輸送計算ステップ)と、透過率を用いて線量分布を算出する線量分布計算部121(線量分布計算手順、線量分布計算ステップ)と、を備える。
【0118】
このような構成によって、多方向から連続的にビームを照射する照射法である、VMAT・DWAを高精度に再現した、MLC下流での粒子種データ(Phase space data)を効率的に算出する事が可能となり、高精度な線量分布の計算結果を効率的に得ることができる、との効果が得られる。
【0119】
また、2つの投影面を、マルチリーフコリメータのリーフ配置方向の投影面、及びリーフ駆動方向の投影面とするため、マルチリーフコリメータの通過経路の算出をより簡易に行うことができ、より効率的に粒子種データを算出することができる。
【0120】
更に、MLC輸送計算部120は、放射線の粒子毎に、2つの投影面で算出した通過経路の共通範囲から経路長を求めて透過率を求めることで、経路長をより簡易な計算で求めることができることから、演算負荷をより軽減することができる。
【0121】
また、MLC輸送計算部120は、放射線の粒子毎に設定した共通の補間パラメータを用いて、各制御点の装置情報を補間パラメータで内挿し、放射線の粒子毎に異なる装置パラメータを設定し、連続的に変化する装置情報を考慮した粒子種情報を生成し、生成した粒子種情報を用いて経路長を求めることにより、離散的なガントリ角度だけではなく、その間のガントリ角度を補間して、当該ガントリ角度で照射するときのリング角度とマルチリーフコリメータのリーフ位置も考慮した粒子毎に異なる装置情報を算出することができるため、従来より高精度に線量分布を算出できるようになる。また、短時間で線量分布を算出することができる、との効果が得られる。
【0122】
更に、補間パラメータは、乱数、一様乱数、あるいは準乱数のいずれかであることで、短時間での線量分布の算出を精度を担保しつつ実現することができる。
【0123】
また、MLC輸送計算部120は、粒子としてコンプトン光子を生成し、コンプトン光子の透過率を算出することにより、照射野以外の領域の線量の影響を考慮することができるようになるため、照射野外の線量分布計算精度を向上させることが可能となる。
【0124】
更に、線量分布計算部121は、透過率を用いて線量分布を算出する際に、統計的重みを直接あるいはロシアンルーレット法を適用して用いることで、MLCの開口形状を考慮した線量分布を提供することができる。
【0125】
また、線量分布計算部121で算出された線量分布を表示する表示部122を更に備えたことにより、高精度に、且つ短時間で求められた線量分布などをもとに、再計画された治療計画の線量検証作業を迅速に実施できるようになるため、オンラインアダプティブ治療の精度の更なる向上を図ることができる。
【0126】
<その他>
なお、本発明は上記の実施例に限られず、種々の変形、応用が可能なものである。上述した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。
【0127】
例えば、他の態様として、上述の特許文献1や非特許文献1,2では、連続的に動く装置に対して、より細かいガントリ角度、リング角度、MLRの開口を考慮した計算は複雑すぎて困難であるように、連続的に変化する装置情報を計算に考慮することが困難である、との課題を解決するものとして、(1)マルチリーフコリメータを通過して照射される放射線の線量分布を算出する線量分布計算システムであって、放射線の粒子毎に透過率を算出する輸送計算部と、前記透過率を用いて前記線量分布を算出する線量分布計算部と、を備え、前記輸送計算部は、前記放射線の粒子毎に設定した共通の補間パラメータを用いて、各制御点の装置情報を前記補間パラメータで内挿し、前記放射線の粒子毎に異なる装置パラメータを設定し、連続的に変化する前記装置情報を考慮した粒子種情報を生成し、生成した前記粒子種情報を用いて前記放射線の前記マルチリーフコリメータの通過する経路長を求める線量分布計算システムとする。
【0128】
この(1)の線量分布計算システムとすることにより、離散的なガントリ角度だけではなく、その間のガントリ角度を補間して、当該ガントリ角度で照射するときのリング角度とマルチリーフコリメータのリーフ位置も考慮した粒子毎に異なる装置情報を算出することができるため、従来より高精度に線量分布を算出できるようになる。また、粒子毎に設定した補間パラメータを基に制御点の装置情報を同一の補間パラメータで内挿するため、短時間で線量分布を算出することができる、との効果が得られる。
【0129】
(2)(1)記載の線量分布計算システムにおいて、前記補間パラメータは、乱数、一様乱数、あるいは準乱数のいずれかである。
【0130】
(3)(1)または(2)記載の線量分布計算システムにおいて、前記輸送計算部は、前記放射線の粒子毎に、2つの投影面で前記マルチリーフコリメータの通過経路を算出して、前記粒子毎の透過率を算出する。
【0131】
(4)(3)に記載の線量分布計算システムにおいて、2つの投影面を、前記マルチリーフコリメータのリーフ配置方向の投影面、及びリーフ駆動方向の投影面とする。
【0132】
(5)(3)または(4)に記載の線量分布計算システムにおいて、前記輸送計算部は、前記放射線の粒子毎に、2つの投影面で算出した前記通過経路の共通範囲から経路長を求めて前記透過率を求め。
【0133】
(6)(1)乃至(5)のいずれかに記載の線量分布計算システムにおいて、前記輸送計算部は、前記粒子としてコンプトン光子を生成し、前記コンプトン光子の透過率を算出する。
【0134】
(7)(1)乃至(6)のいずれかに記載の線量分布計算システムにおいて、前記線量分布計算部は、前記透過率を用いて前記線量分布を算出する際に、統計的重みを直接あるいはロシアンルーレット法を適用して用いる。
【0135】
(8)(1)乃至(7)のいずれかに記載の線量分布計算システムにおいて、前記線量分布計算部で算出された前記線量分布を表示する表示部を更に備えた。
【符号の説明】
【0136】
A…照射対象
100…X線照射装置
101…リング型ガントリ
102…照射ノズル
103…寝台
104…放射線照射制御装置
105…通信装置
106…記憶装置
107…入力装置
110…X線照射システム
111…データサーバ
111A…治療計画情報
112…治療計画装置
113…線量分布計算システム
120…MLC輸送計算部
121…線量分布計算部
122…表示部
123…入力部
124…記憶部
125…粒子種情報データベース
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7