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特開2024-141114加熱転写用積層体、複合積層体、及び製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141114
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】加熱転写用積層体、複合積層体、及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/36 20060101AFI20241003BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20241003BHJP
   C08F 297/04 20060101ALI20241003BHJP
   C08F 8/04 20060101ALI20241003BHJP
   C08F 8/42 20060101ALI20241003BHJP
   C08J 7/04 20200101ALI20241003BHJP
【FI】
B32B27/36
B32B27/30 B
C08F297/04
C08F8/04
C08F8/42
C08J7/04 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052585
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 健作
【テーマコード(参考)】
4F006
4F100
4J026
4J100
【Fターム(参考)】
4F006AA35
4F006AB05
4F006AB16
4F006BA01
4F006CA05
4F100AA00C
4F100AB00C
4F100AD00C
4F100AG00C
4F100AK01A
4F100AK12A
4F100AK41B
4F100AK42B
4F100AL02A
4F100AL08A
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA07
4F100EC04
4F100EH46A
4F100EJ423
4F100GB41
4J026HA06
4J026HA26
4J026HA32
4J026HA39
4J026HB16
4J026HB32
4J026HB39
4J026HC06
4J026HC32
4J026HC39
4J026HE02
4J100CA31
4J100HA03
4J100HB02
4J100HC80
4J100HC89
4J100HD04
4J100HE14
4J100HE17
4J100HE41
4J100HG02
4J100JA03
4J100JA05
4J100JA32
(57)【要約】
【課題】加熱転写を経た際の樹脂層の白濁が抑制された変性ブロック共重合体水素化物を含む樹脂層を含む加熱転写用積層体等。
【解決手段】変性ブロック共重合体水素化物を含む樹脂層と、前記樹脂層に直接接して設けられたポリエステルフィルムとを備える、加熱転写用積層体であって、前記変性ブロック共重合体水素化物[3]は、ブロック共重合体水素化物[2]に、アルコキシシリル基が導入されたブロック共重合体水素化物であり、前記ブロック共重合体水素化物[2]は、ブロック共重合体[1]の全不飽和結合の90%以上が水素化された水素化物であり、前記ブロック共重合体[1]は、芳香族ビニル化合物由来の繰り返し単位及び鎖状共役ジエン化合物由来の繰り返し単位を主成分とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
変性ブロック共重合体水素化物[3]を含む樹脂層と、前記樹脂層に直接接して設けられたポリエステルフィルムとを備える、加熱転写用積層体であって、
前記変性ブロック共重合体水素化物[3]は、ブロック共重合体水素化物[2]に、アルコキシシリル基が導入されたブロック共重合体水素化物であり、
前記ブロック共重合体水素化物[2]は、ブロック共重合体[1]の全不飽和結合の90%以上が水素化された水素化物であり、
前記ブロック共重合体[1]は、芳香族ビニル化合物由来の繰り返し単位を主成分とする、少なくとも2つの重合体ブロック[A]と、鎖状共役ジエン化合物由来の繰り返し単位を主成分とする、少なくとも1つの重合体ブロック[B]とからなり、全重合体ブロック[A]のブロック共重合体全体に占める重量分率wAと、全重合体ブロック[B]のブロック共重合体全体に占める重量分率wBとの比(wA:wB)が30:70~60:40であり、
前記ポリエステルフィルムが、オリゴマー溶出低減処理されたポリエステルフィルムである、加熱転写用積層体。
【請求項2】
前記ポリエステルフィルムが、低オリゴマー化処理された材料からなるフィルムである、請求項1に記載の加熱転写用積層体。
【請求項3】
前記ポリエステルフィルムが、その表面に、オリゴマー溶出を低減させるバリア層を備えるフィルムである、請求項1に記載の加熱転写用積層体。
【請求項4】
無機基板と、前記無機基板に直接接して設けられた変性ブロック共重合体水素化物を含む樹脂層と、前記樹脂層に直接接して設けられたポリエステルフィルムとを備える、複合積層体であって、
前記変性ブロック共重合体水素化物が、ブロック共重合体水素化物[2]に、アルコキシシリル基が導入されたブロック共重合体水素化物であり、
前記ブロック共重合体水素化物[2]は、ブロック共重合体[1]の全不飽和結合の90%以上が水素化された水素化物であり、
前記ブロック共重合体[1]は、芳香族ビニル化合物由来の繰り返し単位を主成分とする、少なくとも2つの重合体ブロック[A]と、鎖状共役ジエン化合物由来の繰り返し単位を主成分とする、少なくとも1つの重合体ブロック[B]とからなり、全重合体ブロック[A]のブロック共重合体全体に占める重量分率wAと、全重合体ブロック[B]のブロック共重合体全体に占める重量分率wBとの比(wA:wB)が30:70~60:40であり、
前記ポリエステルフィルムが、オリゴマー溶出低減処理されたポリエステルフィルムである、複合積層体。
【請求項5】
前記無機基板が、ガラス、セラミック、又は金属である、請求項4に記載の複合積層体。
【請求項6】
請求項4に記載の複合積層体の製造方法であって、
前記樹脂層と、前記樹脂層に直接接して設けられたポリエステルフィルムとを備える、加熱転写用積層体を調製する工程(X1)、
前記加熱転写用積層体と、無機基板とを、前記樹脂層と前記無機基板とが直接接するよう重ね合わせ、堆積物(X2)とする工程(X2)、及び
前記堆積物(X2)を加熱処理し、前記樹脂層と前記無機基板とを接着させ、複合積層体とする工程(X3)とを含む、複合積層体の製造方法。
【請求項7】
請求項4に記載の複合積層体の製造方法であって、
前記変性ブロック共重合体水素化物を含む樹脂シートを調製する工程(Y1)、
前記無機基板と、前記樹脂シートと、前記ポリエステルフィルムとを重ね合わせ、堆積物(Y2)とする工程(Y2)、
前記堆積物(Y2)を加熱処理し、前記ポリエステルフィルムと前記樹脂シートと前記無機基板とを接着させ、複合積層体とする工程(Y3)とを含む、複合積層体の製造方法。
【請求項8】
前記加熱処理における加熱温度が130℃以上である、請求項6又は7に記載の複合積層体の製造方法。
【請求項9】
前記加熱処理が、加熱加圧処理である、請求項6又は7に記載の複合積層体の製造方法。
【請求項10】
請求項6又は7に記載の複合積層体の製造方法により得た複合積層体から、前記ポリエステルフィルムを剥離し、前記無機基板及び前記樹脂層を備える複層基板を得る工程(Z)を含む、複層基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱転写用積層体、複合積層体、それらの製造方法、及びそれらを利用した複層基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
表示装置、発光装置等の光学的なデバイスの製造のため、ガラス基板と、ガラス以外の層(例えば、光学的機能を有するフィルム、保護フィルム、導電層、無機被膜等)とを含む複層物を形成する際、これらの層の接着性を高めるために、これらの層の間に、接着性の高い樹脂層を設けることが知られている。
【0003】
そのような複層物を形成する際には、ガラス基板と、その表面に直接接して設けられた接着性の高い樹脂層とからなる複層基板を予め調製することが、製造の都合上便宜である。そして、そのような複層基板は、ガラス基板の表面に、別途形成された樹脂層を転写することが、製造の都合上便宜である。そして、そのような転写のためには、離型フィルムと、その上に直接設けられた樹脂層とを備える、転写用の積層体を予め調製することが、製造の都合上便宜である。そのような転写用積層体を用いた転写は、その樹脂層側の面をガラス基板に接して重ね合わせて、加熱状態で圧着させ、その後離型フィルムを剥離することにより達成しうる。そのような離型フィルムとしては、通常PET(ポリエチレンテレフタレート)等の、ポリエステルフィルム製のフィルムが用いられる。また、そのような加熱転写用積層体の調製は、かかる離型フィルムを基材フィルムとして、その上に樹脂層の材料の層を設けて、必要に応じて乾燥させる等して樹脂層を形成することにより行いうる。
【0004】
ところで、芳香族ビニル化合物由来の繰り返し単位及び鎖状共役ジエン化合物由来の繰り返し単位を有するブロック共重合体を、水素化し、さらにシラン化合物等で変性させてなる、変性ブロック共重合体水素化物が知られている。変性ブロック共重合体水素化物は、様々な用途に用いうるが、特にその取扱いの容易さ、保存安定性の高さ、及びガラスとの高い接着性等の特性を有するため、合わせガラス板における構成要素として用いることが、これまで提案されている(特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-78090号公報
【特許文献2】国際公開第2013/176258号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上に述べた複層基板に設ける接着性の樹脂層として、変性ブロック共重合体水素化物を含む樹脂層を採用すれば、その有利な特徴を享受する複層物を容易に得られることが期待される。
【0007】
しかしながら、本発明者が見出したところによれば、変性ブロック共重合体水素化物を含む樹脂層を、そのような接着性の樹脂層として用いて加熱転写用積層体を調製し、転写を行うと、転写後の樹脂層において、フィルムの白濁が発生し、ヘーズが上昇するという不所望な現象が発生する。
【0008】
したがって、本発明の目的は、変性ブロック共重合体水素化物を含む樹脂層を含む加熱転写用積層体であって、加熱転写を経た際の樹脂層の白濁が抑制された積層体を提供することにある。
本発明のさらなる目的は、かかる加熱転写用積層体の有益性を享受し、容易に製造できる複層基板、及びその材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため本発明者は検討を行ったところ、変性ブロック共重合体水素化物を含む樹脂を樹脂層の材料として用いた場合の特有の現象として、基材フィルムとして用いられるポリエステルフィルムが直接接触することに起因することを推測し、そして、オリゴマー溶出低減処理されたポリエステルフィルムを基材フィルムとして用いることにより、かかる課題を解決しうることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成されたものである。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0010】
<1> 変性ブロック共重合体水素化物[3]を含む樹脂層と、前記樹脂層に直接接して設けられたポリエステルフィルムとを備える、加熱転写用積層体であって、
前記変性ブロック共重合体水素化物[3]は、ブロック共重合体水素化物[2]に、アルコキシシリル基が導入されたブロック共重合体水素化物であり、
前記ブロック共重合体水素化物[2]は、ブロック共重合体[1]の全不飽和結合の90%以上が水素化された水素化物であり、
前記ブロック共重合体[1]は、芳香族ビニル化合物由来の繰り返し単位を主成分とする、少なくとも2つの重合体ブロック[A]と、鎖状共役ジエン化合物由来の繰り返し単位を主成分とする、少なくとも1つの重合体ブロック[B]とからなり、全重合体ブロック[A]のブロック共重合体全体に占める重量分率wAと、全重合体ブロック[B]のブロック共重合体全体に占める重量分率wBとの比(wA:wB)が30:70~60:40であり、
前記ポリエステルフィルムが、オリゴマー溶出低減処理されたポリエステルフィルムである、加熱転写用積層体。
<2> 前記ポリエステルフィルムが、低オリゴマー化処理された材料からなるフィルムである、<1>に記載の加熱転写用積層体。
<3> 前記ポリエステルフィルムが、その表面に、オリゴマー溶出を低減させるバリア層を備えるフィルムである、<1>又は<2>に記載の加熱転写用積層体。
<4> 無機基板と、前記無機基板に直接接して設けられた変性ブロック共重合体水素化物を含む樹脂層と、前記樹脂層に直接接して設けられたポリエステルフィルムとを備える、複合積層体であって、
前記変性ブロック共重合体水素化物が、ブロック共重合体水素化物[2]に、アルコキシシリル基が導入されたブロック共重合体水素化物であり、
前記ブロック共重合体水素化物[2]は、ブロック共重合体[1]の全不飽和結合の90%以上が水素化された水素化物であり、
前記ブロック共重合体[1]は、芳香族ビニル化合物由来の繰り返し単位を主成分とする、少なくとも2つの重合体ブロック[A]と、鎖状共役ジエン化合物由来の繰り返し単位を主成分とする、少なくとも1つの重合体ブロック[B]とからなり、全重合体ブロック[A]のブロック共重合体全体に占める重量分率wAと、全重合体ブロック[B]のブロック共重合体全体に占める重量分率wBとの比(wA:wB)が30:70~60:40であり、
前記ポリエステルフィルムが、オリゴマー溶出低減処理されたポリエステルフィルムである、複合積層体。
<5> 前記無機基板が、ガラス、セラミック、又は金属である、<4>に記載の複合積層体。
<6> <4>又は<5>に記載の複合積層体の製造方法であって、
前記樹脂層と、前記樹脂層に直接接して設けられたポリエステルフィルムとを備える、加熱転写用積層体を調製する工程(X1)、
前記加熱転写用積層体と、無機基板とを、前記樹脂層と前記無機基板とが直接接するよう重ね合わせ、堆積物(X2)とする工程(X2)、及び
前記堆積物(X2)を加熱処理し、前記樹脂層と前記無機基板とを接着させ、複合積層体とする工程(X3)とを含む、複合積層体の製造方法。
<7> <4>又は<5>に記載の複合積層体の製造方法であって、
前記変性ブロック共重合体水素化物を含む樹脂シートを調製する工程(Y1)、
前記無機基板と、前記樹脂シートと、前記ポリエステルフィルムとを重ね合わせ、堆積物(Y2)とする工程(Y2)、
前記堆積物(Y2)を加熱処理し、前記ポリエステルフィルムと前記樹脂シートと前記無機基板とを接着させ、複合積層体とする工程(Y3)とを含む、複合積層体の製造方法。
<8> 前記加熱処理における加熱温度が130℃以上である、<6>又は<7>に記載の複合積層体の製造方法。
<9> 前記加熱処理が、加熱加圧処理である、<6>~<8>のいずれか1項に記載の複合積層体の製造方法。
<10> <6>~<9>のいずれか1項に記載の複合積層体の製造方法により得た複合積層体から、前記ポリエステルフィルムを剥離し、前記無機基板及び前記樹脂層を備える複層基板を得る工程(Z)を含む、複層基板の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、変性ブロック共重合体水素化物を含む樹脂層を含む加熱転写用積層体であって、加熱転写を経た際の樹脂層の白濁が抑制された積層体;並びに、かかる加熱転写用積層体の有益性を享受し、容易に製造できる複層基板、及びその材料が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0013】
(加熱転写用積層体)
本発明の加熱転写用積層体は、特定の樹脂層と、それに直接接して設けられた特定のポリエステルフィルムとを備える。
【0014】
(加熱転写用積層体:ポリエステルフィルム)
加熱転写用積層体が備えるポリエステルフィルムは、オリゴマー溶出低減処理されたポリエステルフィルムである。
ポリエステルフィルムは、主成分たる重合体としてポリエステルを含むフィルムであり、かかる重合体の具体例としては、PET(ポリエチレンテレフタレート)が挙げられる。ポリエステルフィルムは、任意の添加成分を含んでいてもよいが、ポリエステルフィルムにおける、重合体としてのポリエステルの割合は、好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上である。
【0015】
オリゴマー溶出低減処理されたフィルムの例としては、下記の2種類のフィルムが挙げられる。
(i)低オリゴマー化処理された材料からなるフィルム。
(ii)表面に、オリゴマー溶出を低減させるバリア層を備えるフィルム。
【0016】
(i)の低オリゴマー化処理とは、重合体を含む材料をフィルムに成形する前の段階で、低分子量のオリゴマーを材料から除去し、オリゴマーの割合を低減する処理である。ここでいうオリゴマーとは、ポリエステルの重合に際し発生する環状三量体としうる。ポリエステルがPET(ポリエチレンテレフタレート)の場合、分子量600未満の物質を、オリゴマーとして、重合体と区別しうる。容易な調製を可能とする観点からは、フィルム中のオリゴマー含有量の割合の下限は、好ましくは0.3重量%であり、より好ましくは0.33重量%であり、さらに好ましくは0.35重量%である。本発明の効果を発現する観点からは、オリゴマー含有量の上限は好ましくは0.7重量%であり、より好ましくは0.6重量%であり、さらに好ましくは0.5重量%である。かかる処理を施された材料からなるPETフィルムの例としては、東レ社製、商品名「Lumirror(登録商標)」の、耐熱・耐加水分解グレード製品群(品番X10S及びA8等)が挙げられる。
【0017】
(ii)のバリア層としては、加熱処理に供されても、オリゴマーが透過することを抑制しうる性質を有する層である。バリア層は、Tgが90℃以上の樹脂を50重量%以上含む層であることが好ましい。かかる樹脂の例としては、メラミン等のアミノ樹脂、アルキッド樹脂、ポリスチレン、アクリル樹脂などが好ましい。樹脂のTgの上限は200℃であることが好ましい。バリア層の厚みの下限は好ましくは0.01μmであり、より好ましくは0.03μmであり、さらに好ましくは0.05μmである。上記未満であると十分なバリア効果が得られないことがある。バリア層の厚みの上限は好ましくは10μmであり、より好ましくは5μmであり、さらに好ましくは2μmである。上記を越えると効果が飽和となることがある。かかるバリア層を有するPETフィルムの例としては、藤森工業社製「FILMBYNA(登録商標)」が挙げられる。
【0018】
本発明者が見出したところによれば、前記(i)(ii)の、オリゴマー溶出低減処理されたフィルムを、本発明の加熱転写用積層体を構成する基材フィルムとして使用した場合、加熱転写後の樹脂層の白濁化を、効果的に抑制することができる。その理由は、下記の通りであるものと推測される。即ち、通常のPETフィルム製品には、分子量が比較的小さいオリゴマーが多く含まれており、PETフィルムを基材フィルムとして使用し樹脂層と貼合し転写用積層体とした場合、そのようなオリゴマーが樹脂層の表面に接触しうる。多くの場合そのようなオリゴマーの接触は問題とはならないが、樹脂層が、変性ブロック共重合体水素化物を含む樹脂層であり、且つ、樹脂層を加熱転写する際には、樹脂層表面に接触したオリゴマーが、樹脂層に作用し、白濁化の原因となる。そこで、加熱転写用積層体を構成する基材フィルムとして、前記(i)(ii)の、オリゴマー溶出低減処理されたフィルムを使用した場合、白濁化を抑制することが可能となる。
【0019】
(加熱転写用積層体:樹脂層)
加熱転写用積層体が備える樹脂層は、特定の変性ブロック共重合体水素化物[3]を含む。
【0020】
変性ブロック共重合体水素化物[3]は、ブロック共重合体水素化物[2]に、アルコキシシリル基が導入されたブロック共重合体水素化物であり、ブロック共重合体水素化物[2]は、ブロック共重合体[1]の全不飽和結合の90%以上が水素化された水素化物である。
【0021】
ブロック共重合体[1]は、芳香族ビニル化合物由来の繰り返し単位を主成分とする、少なくとも2つの重合体ブロック[A]と、鎖状共役ジエン化合物由来の繰り返し単位を主成分とする、少なくとも1つの重合体ブロック[B]とからなり、ここで全重合体ブロック[A]のブロック共重合体全体に占める重量分率wAと、全重合体ブロック[B]のブロック共重合体全体に占める重量分率wBとの比(wA:wB)が30:70~60:40である。
ただし、本発明において、変性ブロック共重合体水素化物[3]などの各々の化合物は、その製造方法によっては限定されない。
【0022】
(ブロック共重合体[1])
ブロック共重合体[1]は、少なくとも2つの重合体ブロック[A]と少なくとも1つの重合体ブロック[B]を含有する。
【0023】
重合体ブロック[A]は、芳香族ビニル化合物由来の構造単位を主成分とするものであり、重合体ブロック[A]中の芳香族ビニル化合物由来の構造単位の含有量は、通常90重量%以上、好ましくは95重量%以上、より好ましくは99重量%以上である。また、重合体ブロック[A]中の芳香族ビニル化合物由来の構造単位以外の成分としては、鎖状共役ジエン由来の構造単位及び/又はその他のビニル化合物由来の構造単位を含むことができ、その含有量は通常10重量%以下、好ましくは5重量%以下、より好ましくは1重量%以下である。重合体ブロック[A]中の芳香族ビニル化合物由来の構造単位が少なすぎると、本発明の加熱転写用積層体の耐熱性が低下する恐れがある。複数の重合体ブロック[A]は、上記の範囲を満足すれば互いに同じであっても、異なっていても良い。
【0024】
重合体ブロック[B]は、鎖状共役ジエン化合物由来の構造単位を主成分とするものであり、重合体ブロック[B]中の鎖状共役ジエン化合物由来の構造単位の含有量は、通常90重量%以上、好ましくは95重量%以上、より好ましくは99重量%以上である。鎖状共役ジエン化合物由来の構造単位が上記範囲にあると、本発明の加熱転写用積層体の耐熱衝撃性、低温での接着性に優れる。また、重合体ブロック[B]中の鎖状共役ジエン化合物由来の構造単位以外の成分としては、芳香族ビニル化合物由来の構造単位及び/又はその他のビニル化合物由来の構造単位を含むことができ、その含有量は、通常10重量%以下、好ましくは5重量%以下、より好ましくは1重量%以下である。重合体ブロック[B]中の芳香族ビニル化合物由来の構造単位の含有量が増加すると、接着樹脂層の低温での柔軟性が低下し、樹脂層の機械的強度が低下する恐れがある。重合体ブロック[B]が複数有る場合には、重合体ブロック[B]は、上記の範囲を満足すれば互いに同じであっても、異なっていても良い。
【0025】
芳香族ビニル化合物としては、具体的には、スチレン、α-メチルスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、2,4-ジイソプロピルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、4-t-ブチルスチレン、5-t-ブチル-2-メチルスチレンなどが挙げられ、工業的な入手の容易さからスチレンが特に好ましい。
【0026】
鎖状共役ジエン系化合物としては、具体的には、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエンなどが挙げられ、工業的な入手の容易さ、重合反応の制御の容易さから1,3-ブタジエン、イソプレンが特に好ましい。
【0027】
その他のビニル系化合物としては、鎖状ビニル化合物及び環状ビニル化合物が挙げられ、具体的には、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ドデセン、1-エイコセン、4-メチル-1-ペンテン、4,6-ジメチル-1-ヘプテンなどの鎖状オレフィン;ビニルシクロヘキサンなどの環状オレフィンなどの、極性基を含有しないものが吸湿性の面で好ましく、鎖状オレフィンがより好ましく、エチレン、プロピレンが特に好ましい。
【0028】
ブロック共重合体[1]中の重合体ブロック[A]の数は、通常4個以下、好ましくは3個以下、より好ましくは2個である。重合体ブロック[A]及び/又は重合体ブロック[B]が複数存在する際、重合体ブロック[A]の中で重量平均分子量が最大と最少の重合体ブロックの重量平均分子量をそれぞれMw(A1)及びMw(A2)とし、重合体ブロック[B]の中で重量平均分子量が最大と最少の重合体ブロックの重量平均分子量をそれぞれMw(B1)及びMw(B2)とした時、該Mw(A1)とMw(A2)との比(Mw(A1)/Mw(A2))、及び、該Mw(B1)とMw(B2)との比(Mw(B1)/Mw(B2))は、それぞれ2.0以下、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.2以下である。
【0029】
ブロック共重合体[1]のブロックの形態は、鎖状型ブロックでもラジアル型ブロックでも良いが、鎖状型ブロックであるものが、機械的強度に優れ好ましい。ブロック共重合体[1]の最も好ましい形態は、重合体ブロック[B]の両端に重合体ブロック[A]が結合したトリブロック共重合体、及び、重合体ブロック[A]の両端に重合体ブロック[B]が結合し、更に、該両重合体ブロック[B]の他端にそれぞれ重合体ブロック[A]が結合したペンタブロック共重合体である。
【0030】
ブロック共重合体中[1]の、全重合体ブロック[A]がブロック共重合体全体に占める重量分率をwAとし、全重合体ブロック[B]がブロック共重合体全体に占める重量分率をwBとした時に、wAとwBとの比(wA:wB)は、30:70~60:40、好ましくは30:70~55:45、より好ましくは40:60~50:50である。wAが高過ぎる場合は、本発明で使用する変性ブロック共重合体水素化物[3]の耐熱性は高くなるが、柔軟性が低く、樹脂層の機械的強度が低下する恐れがあり、wAが低過ぎる場合は、耐熱性が劣る。
【0031】
ブロック共重合体[1]の分子量は、テトラヒドロフラン(THF)を溶媒とするGPCにより測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)で、通常30,000~200,000、好ましくは40,000~150,000、より好ましくは50,000~100,000である。また、ブロック共重合体[1]の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは3以下、より好ましくは2以下、特に好ましくは1.5以下である。
【0032】
ブロック共重合体[1]の製造方法は、例えばリビングアニオン重合などの方法により、芳香族ビニル化合物を主成分として含有するモノマー混合物(a)と鎖状共役ジエン系化合物を主成分として含有するモノマー混合物(b)を交互に重合させる方法;芳香族ビニル化合物を主成分として含有するモノマー混合物(a)と鎖状共役ジエン系化合物を主成分として含有するモノマー混合物(b)を順に重合させた後、重合体ブロック[B]の末端同士を、カップリング剤によりカップリングさせる方法などがある。
【0033】
(ブロック共重合体水素化物[2])
ブロック共重合体水素化物[2]は、上記のブロック共重合体[1]の共役ジエンに由来する炭素-炭素不飽和結合を水素化したものであり、その水素化率は通常90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上である。また、芳香族ビニル化合物に由来する芳香環の炭素-炭素不飽和結合の水素化率は、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下、特に好ましくは5%以下である。
【0034】
共役ジエンに由来する炭素-炭素不飽和結合の水素化率が高いほど、耐候性、耐熱劣化性が良好である。また、芳香族ビニル化合物に由来する芳香環の炭素-炭素不飽和結合の水素化を抑制することにより、耐クリープ変形性および耐熱劣化性を維持できる。ブロック共重合体水素化物[2]の水素化率は、H-NMRによる測定において求めることができる。
【0035】
共役ジエンに由来する炭素-炭素不飽和結合のみを選択的に水素化する方法及び反応形態などは特に限定されず、公知の方法にしたがって行えばよいが、水素化率を高くでき、重合体鎖切断反応の少ない水素化方法が好ましい。このような水素化方法の具体的な例として、例えば、特開昭59-133203号公報、特開平1-275605号公報、特開平5-222115号公報、特開平7-90017号公報などに記載の方法が挙げることができる。
【0036】
上記した方法で得られるブロック共重合体水素化物[2]は、水素化触媒及び/又は重合触媒を、ブロック共重合体水素化物[2]を含む反応溶液から除去した後、反応溶液から回収される。回収されたブロック共重合体水素化物[2]の形態は限定されるものではないが、その後のシリル化変性反応に供し易いように通常はペレット形状にすることが好ましい。
【0037】
ブロック共重合体水素化物[2]の分子量は、テトラヒドロフラン(THF)を溶媒としたゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)で、通常30,000~300,000、好ましくは40,000~200,000、より好ましくは50,000~150,000である。また、ブロック共重合体水素化物[2]の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは3以下、より好ましくは2以下、特に好ましくは1.5以下にする。Mw及びMw/Mnが上記範囲となるようにすると、樹脂層の接着材としての機械強度及び耐熱性が向上する。
【0038】
(変性ブロック共重合体水素化物[3])
変性ブロック共重合体水素化物[3]は、上記ブロック共重合体水素化物[2]に、有機過酸化物の存在下でエチレン性不飽和シラン化合物と反応させることによりアルコキシシリル基が導入されたものである。アルコキシシリル基は、ブロック共重合体水素化物[2]にアルキレン基又はアルキレンオキシカルボニルアルキレン基などの2価の有機基を介して結合していても良い。
【0039】
アルコキシシリル基の導入量は、通常、ブロック共重合体水素化物[2]100重量部に対し、0.1~10重量部、好ましくは0.2~5重量部、より好ましくは0.3~3重量部である。アルコキシシリル基の導入量が多過ぎると、所望の形状に溶融成形する前に微量の水分等で分解されたアルコキシシリル基同士の架橋が進み、ゲルが発生したり、溶融時の流動性が低下したりして成形性が低下するなどの問題を生じる。アルコキシシリル基の導入量が少な過ぎると、ガラスとの十分な接着力が得られないという不具合が生じるため好ましくない。アルコキシシリル基の導入はIRスペクトルで確認することができ、導入量はH-NMRスペクトル(導入量が少ない場合は積算回数を増やす)にて算出することができる。
【0040】
エチレン性不飽和シラン化合物としては、ブロック共重合体水素化物[2]とグラフト重合し、ブロック共重合体水素化物[2]にアルコキシシリル基を導入するものであれば特に限定されないが、例えばビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、ジメトキシメチルビニルシラン、ジエトキシメチルビニルシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、などが好適に用いられる。
【0041】
これらのエチレン性不飽和シラン化合物は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。エチレン性不飽和シラン化合物の使用量は、ブロック共重合体水素化物[2]100重量部に対して、通常0.1~10重量部、好ましくは0.2~5重量部、より好ましくは0.3~3重量部である。
【0042】
過酸化物としては、1分間半減期温度が170~190℃のものが好ましく使用され、例えば、t-ブチルクミルパーオキシド、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ヘキシルパーオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ-t-ブチルパーオキシド、ジ-(2-t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼンなどが好適に用いられる。
【0043】
これらの過酸化物は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。過酸化物の使用量は、ブロック共重合体水素化物[2]100重量部に対して、通常0.05~2重量部、好ましくは0.1~1重量部、より好ましくは0.2~0.5重量である。
【0044】
上記のブロック共重合体水素化物[2]とエチレン性不飽和シラン化合物とを過酸化物の存在下で反応させる方法は特に限定されないが、例えば、二軸混練機にて所望の温度で所望の時間混練することによりアルコキシシリル基を導入することができる。本発明のブロック共重合体水素化物[2]では、その温度は、通常180~220℃、好ましくは185~210℃、より好ましくは190~200℃である。加熱混練時間は、通常0.1~10分、好ましくは0.2~5分、より好ましくは0.3~2分程度である。温度、滞留時間が上記範囲になるようにして、連続的に混練、押出しをすればよい。
【0045】
本発明に係る変性ブロック共重合体水素化物[3]の分子量は、導入されるアルコキシシリル基の量が少ないため、原料として用いたブロック共重合体水素化物[2]の分子量と実質的には変わらないが、過酸化物の存在下でエチレン性不飽和シラン化合物と反応させるため、重合体の架橋反応、切断反応も併発し、分子量分布は大きくなる。テトラヒドロフランを溶媒としたゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)で、通常30,000~300,000、好ましくは40,000~200,000、より好ましくは50,000~150,000である。また、分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは3.5以下、より好ましくは2.5以下、特に好ましくは2.0以下にする。Mw及びMw/Mnが上記範囲となるようにすると、本発明の加熱転写用積層体の接着材としての機械強度及び耐熱性が維持される。
【0046】
変性ブロック共重合体水素化物[3]は、透明性が高く、且つガラス、樹脂フィルム、金属等の各種材料との接着性に優れ、これらを接着させるための層の材料として有用に用いることができる。特に、高い接着性能と透明性とを両立しうることから、表示装置、発光装置等の光学的なデバイスにおいて特に好ましく用いうる。
一方変性ブロック共重合体水素化物[3]は、上に述べた通り、基材フィルムとして用いられるポリエステルフィルムと直接接触することにより白濁を生じやすいという不利益を有するところ、本発明の加熱転写用積層体を構成することにより、そのような不利益を低減することができるので、特に好ましく用いることができる。
【0047】
(樹脂層のその他の成分)
本発明の加熱転写用積層体を構成する樹脂層は、変性ブロック共重合体水素化物[3]に加えて、任意成分を含有しうる。任意成分としては、紫外線吸収剤耐候性及び耐熱性などを向上させるための光安定剤、酸化防止剤、樹脂特性を向上させるための変性ブロック共重合体水素化物[3]以外の重合体、及びペレットのブロッキングを防止して、成形加工時の取扱い作業性を良くするためのブロッキング防止剤などであり、単独でも、2種以上併用してもよい。
【0048】
(紫外線吸収剤)
変性ブロック共重合体水素化物[3]の耐光性を向上させるために、樹脂層に、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリチル酸系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤などの紫外線吸収剤を配合しうる。
【0049】
紫外線吸収剤として、例えば、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン-5-スルホン酸3水和物、2-ヒドロキシ-4-オクチロキシベンゾフェノン、4-ドデカロキシ-2-ヒドロキシベンゾフェノン、4-ベンジルオキシ-2-ヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノンなど;サリチル酸系紫外線吸収剤としては、フェニルサルチレート、4-t-ブチルフェニル-2-ヒドロキシベンゾエート、フェニル-2-ヒドロキシベンゾエート、2,4-ジ-t-ブチルフェニル-3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート、ヘキサデシル-3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンゾエートなど;ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)2H-ベンゾトリアゾール、2-(3-t-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)-5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール、2-(3,5-ジ-t-ブチル-2-ヒドロキシフェニル)-5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール、2-(3,5-ジ-t-ブチル-2-ヒドロキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-(3,5-ジクミル-2-ヒドロキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、5-クロロ-2-(3,5-ジ-t-ブチル-2-ヒドロキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-(3,5-ジ-t-アミル-2-ヒドロキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-t-オクチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-4-オクチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-メチル-6-(3,4,5,6-テトラヒドロフタリミジルメチル)フェノール、2,2’-メチレンビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-[(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール]];トリアジン系紫外線吸収剤としては、2-[4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン-2-イル]-5-(オクチルオキシ)フェノール、2,4-ビス[2-ヒドロキシ-4-ブトキシフェニル]-6-(2,4-ジブトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン;などが挙げられ、中でも耐光性に優れる点で2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)2H-ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-t-オクチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾールが好ましい。
【0050】
紫外線吸収剤の量は、変性ブロック共重合体水素化物[3]100重量部に対して、通常0.05~2重量部、好ましくは0.1~1.5重量部、より好ましくは0.2~1.0重量部である。紫外線吸収剤の量がこれより少ない場合は、樹脂層の耐候性の改善効果が顕著でなく、これより多い場合は、ガラス及び金属との接着力が低下し易くなるため好ましくない。
【0051】
(光安定剤)
変性ブロック共重合体水素化物[3]の耐光性を向上させるために、樹脂層に光安定剤を配合しうる。光安定剤としては、ヒンダードアミン系光安定剤が好ましく、構造中に3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル基、2,2,6,6-テトラメチルピペリジル基、あるいは、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル基などを有している化合物が挙げられる。
【0052】
これらの中でも、耐候性に優れる点で、ホルムアルデヒド重縮合物と{2,4,6-トリクロロ-1,3,5-トリアジン・[N,N’-ビス(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)ヘキサン-1,6-ジイルジアミン]・モルフォリン重合物}とギ酸との反応生成物、N,N’-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-N-メチルピペリジル)-N,N’-ジホルミル-アルキレンジアミン類、N,N’-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-N,N’-ジホルミルアルキレンジアミン類、N,N’-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-N,N’-ビスアルキレン脂肪酸アミド類、ポリ[{6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル}{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}]などが好ましい。
【0053】
ヒンダードアミン系耐光安定剤の量は、変性ブロック共重合体水素化物[3]100重量部に対して、通常0.01~1重量部、好ましくは0.02~0.5重量部、より好ましくは0.04~0.3重量部である。ヒンダードアミン系耐光安定剤の量がこれより少ない場合は、加熱転写用積層体の接着層の耐候性の改善効果が顕著でなく、これより多い場合は、ガラス及び金属との接着力が低下し易くなるため好ましくない。
【0054】
(酸化防止剤)
変性ブロック共重合体水素化物[3]の熱安定性をさらに向上させるために、樹脂層に酸化防止剤を配合しうる。酸化防止剤としては、リン系酸化防止剤、フェノ-ル系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤などが挙げられる。
【0055】
酸化防止剤の具体例として、例えば、リン系酸化防止剤としては、トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、10-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイドなどのモノホスファイト系化合物;4,4’-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニル-ジ-トリデシルホスファイト)、4,4’-イソプロピリデン-ビス(フェニル-ジ-アルキル(C12~C15)ホスファイト)などのジホスファイト系化合物;6-[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロポキシ]-2,4,8,10-テトラキス-t-ブチルジベンゾ[d,f][1.3.2]ジオキサフォスフェピン、6-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロポキシ]-2,4,8,10-テトラキス-t-ブチルジベンゾ[d,f][1.3.2]ジオキサフォスフェピンなどの化合物を挙げることができる。
【0056】
フェノ-ル系酸化防止剤としては、ペンタエリスリチル・テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,2-チオ-ジエチレンビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3,9-ビス{2-[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロオニルオキシ]-1,1-ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼンなど化合物を挙げることができる。
【0057】
硫黄系酸化防止剤としては、ジラウリル-3,3’-チオジプロピオネート、ジミリスチル3,3’-チオジプロピオネート、ジステアリル-3,3’-チオジプロピオネート、ラウリルステアリル-3,3’-チオジプロピオネート、ペンタエリスリトール-テトラキス-(β-ラウリル-チオ-プロピオネート)、3,9-ビス(2-ドデシルチオエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンなどなど化合物を挙げることができる。
【0058】
酸化防止剤の量は、変性ブロック共重合体水素化物[3]100重量部に対して、通常0.02~1重量部、好ましくは0.05~0.5重量部、より好ましくは0.1~0.3重量部である。酸化防止剤の量がこれより少ない場合は、変性ブロック共重合体水素化物[3]を溶融成形する際の熱劣化を抑制する効果が顕著でなく、これより多い場合は、成形品のヘーズが大きくなったり、ガラス及び金属との接着力が低下し易くなったりするため好ましくない。
【0059】
(変性ブロック共重合体水素化物[3]以外の重合体)
樹脂層は、変性ブロック共重合体水素化物[3]以外の重合体を含みうる。その例としては、柔軟性及び軟化温度を調整するための変性ブロック共重合体水素化物[3]の前駆体であるブロック共重合体水素化物[2];流動性及び接着温度を下げるためのポリイソブテン、水素化ポリイソブテン、水素化ポリイソプレン、水素化1,3-ペンタジエン系石油樹脂、水素化シクロペンタジエン系石油樹脂、水素化スチレン・インデン系石油樹脂などが挙げられる。これらの重合体の配合量は、変性ブロック共重合体水素化物[3]100重量部に対して、通常40重量部以下で、樹脂特性を向上させる目的に合わせ、配合量は適宜選択される。
【0060】
変性ブロック共重合体水素化物[3]に、上記任意成分を均一に分散する方法は、例えば、任意成分を適当な溶剤に溶解して変性ブロック共重合体水素化物[3]の前駆体であるブロック共重合体水素化物[2]の溶液に添加した後、溶媒を除去して任意成分を含むブロック共重合体水素化物を回収し、これとエチレン性不飽和シラン化合物とを過酸化物の存在下で反応させる方法;二軸混錬機、ロール、ブラベンダー、押出機などで変性ブロック共重合体水素化物[3]を溶融状態にして任意成分を混練する方法;ブロック共重合体水素化物[2]に上記任意成分を均一に分散してペレット状にしたものと、変性ブロック共重合体水素化物[3]をペレット状にしたものを混合し、溶融混合しながら成形品とする方法などが挙げられる。
【0061】
(樹脂層の厚み等)
本発明の加熱転写用積層体における樹脂層の厚みは、特に限定されず、最終的な製品における所望の樹脂層厚みに適応するよう適宜設定しうる。樹脂層の厚みは、例えば、好ましくは10μm以上、より好ましくは10μm以上であり、一方好ましくは1mm以下、より好ましくは500μm以下である。
【0062】
(加熱転写用積層体の製造方法)
本発明の加熱転写用積層体の製造方法は、特に限定されず既知の各種の製造方法を適宜選択して用いうる。例えば、上に述べた樹脂層の材料を、溶媒に溶解して樹脂溶液とし、基材としてのポリエステルフィルムの表面に樹脂溶液を塗工して樹脂溶液の塗工層を形成し、さらに塗工層を乾燥させることにより、加熱転写用積層体の製造を行うことができる。かかる溶媒としては、溶剤としては、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、トルエン、キシレン、テトラヒドロフランなどの可溶性溶剤が使用される。溶液の濃度は、生産性と接着性のバランスの観点から通常5~40重量%、好ましくは10~30重量%である。
また例えば、上に述べた樹脂層の材料を溶融押し出し成形などによりシートとし、これをポリエステルフィルムと貼合することによっても、加熱転写用積層体の製造を行うことができる。
【0063】
(複合積層体及び製造方法)
本発明の複合積層体は、無機基板と、無機基板に直接接して設けられた変性ブロック共重合体水素化物を含む樹脂層と、樹脂層に直接接して設けられたポリエステルフィルムとを備える。
【0064】
無機基板の例としては、ガラス、セラミック、又は金属の板状の成形物が挙げられる。ガラスの具体例としては、青板ガラス、白板ガラス、アルミノシリケート酸ガラス、アルミノホウケイ酸ガラス、ウランガラス、カリガラス、ケイ酸ガラス、結晶化ガラス、ゲルマニウムガラス、石英ガラス、ソーダガラス、鉛ガラス、バリウムホウケイ酸ガラス、硼珪酸ガラス、表面に極薄の金属膜をコーティングした熱線反射ガラスなどを挙げることができる。
【0065】
本発明の複合積層体における樹脂層及びポリエステルフィルムとしては、本発明の加熱転写用積層体の構成要素として上に述べたものと同じものを採用しうる。
【0066】
複合積層体の製造方法の例としては、下記製造方法(X)又は下記製造方法(Y)が挙げられる。
【0067】
製造方法(X):
樹脂層と、樹脂層に直接接して設けられたポリエステルフィルムとを備える、加熱転写用積層体を調製する工程(X1)、
加熱転写用積層体と、無機基板とを、樹脂層と無機基板とが直接接するよう重ね合わせ、堆積物(X2)とする工程(X2)、及び
堆積物(X2)を加熱処理し、樹脂層と無機基板とを接着させ、複合積層体とする工程(X3)とを含む、の製造方法。
【0068】
製造方法(Y):
変性ブロック共重合体水素化物を含む樹脂シートを調製する工程(Y1)、
無機基板と、樹脂シートと、ポリエステルフィルムとを重ね合わせ、堆積物(Y2)とする工程(Y2)、
堆積物(Y2)を加熱処理し、ポリエステルフィルムと樹脂シートと無機基板とを接着させ、複合積層体とする工程(Y3)とを含む、製造方法。
【0069】
製造方法(X)における工程(X1)は、上に述べた加熱転写用積層体の製造方法と同様に行いうる。工程(X3)における堆積物(X2)の加熱処理は、好ましくは110℃以上、より好ましくは130℃以上の温度において行いうる。また、加熱処理に際して、併せて加圧処理を行い、樹脂層と無機基板とを密着させることが好ましい。より具体的には、真空ラミネータを用いて、真空加圧接着を行うことが好ましい。
【0070】
製造方法(Y)における工程(Y1)は、上に述べた加熱転写用積層体の製造方法における、樹脂層のシートを形成する方法と同様に行いうる。工程(Y3)における堆積物(Y2)の加熱処理は、工程(X3)における堆積物(X2)の加熱処理と同様に、好ましくは110℃以上、より好ましくは130℃以上の温度において行いうる。また、加熱処理に際して、併せて加圧処理を行い、ポリエステルフィルムと樹脂層と無機基板とを密着させることが好ましい。より具体的には、真空ラミネータを用いて、真空加圧接着を行うことが好ましい。
【0071】
(複層基板の製造方法)
本発明の複層基板の製造方法は、前記製造方法(X)又は(Y)で得た複合積層体から、ポリエステルフィルムを剥離し、無機基板及び樹脂層を備える複層基板を得る工程(Z)を含む。このようにして得られた複層基板は、さらに、樹脂層を介して他の層と接着させ、表示装置、発光装置等の光学的なデバイスの構成要素として利用しうる。本発明の複層基板は、前記本発明の複合積層体を介して得られたものであるため、容易に製造することができ、変性ブロック共重合体水素化物を含む樹脂層の遊離な特性(取扱いの容易さ、保存安定性の高さ、及びガラスとの高い接着性等)を享受することができ、且つ樹脂層における白濁の発生が抑制され、ヘーズが低く、透明度が高い樹脂層を備えた複層基板として利用しうる。
【実施例0072】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り重量基準である。また、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温及び常圧の条件において行った。
【0073】
[評価方法]
(1)重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)
ブロック共重合体及びブロック共重合体水素化物の分子量は、テトラヒドロフランを溶離液とするゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)による標準ポリスチレン換算値として38℃において測定した。測定装置としては、東ソー社製HLC8020GPCを用いた。
【0074】
(2)水素化率
ブロック共重合体水素化物の主鎖、側鎖及び芳香環の水素化率は、H-NMRスペクトルを測定して算出した。
【0075】
(3)ヘーズ
ヘーズは日本電色社製[HAZE MATER NDH7000]を用いて測定した。
【0076】
[製造例1]
(P1-1.ブロック共重合体の調製)
充分に窒素置換された、撹拌装置を備えた反応器に脱水シクロヘキサン550部、脱水スチレン25.0部及びn-ジブチルエーテル0.475部を入れ、60℃で撹拌しながらn-ブチルリチウムの15%シクロヘキサン溶液0.68部を加えて重合を開始した。撹拌しながら60℃で60分反応させた。ガスクロマトグラフィーにより測定したこの時点で重合転化率は99.5%であった。
【0077】
次に、脱水イソプレン50.0部を加えそのまま30分撹拌を続けた。この時点で重合転化率は99%であった。その後、更に、脱水スチレンを25.0部加え、60分撹拌した。この時点での重合転化率はほぼ100%であった。ここでイソプロピルアルコール0.096部を加えて反応を停止して、ブロック共重合体を含む重合体溶液を得た。得られたブロック共重合体の重量平均分子量(Mw)は61,600、分子量分布(Mw/Mn)は1.05であった。
【0078】
(P1-2.ブロック共重合体水素化物の調製)
(P1-1)で得た重合体溶液を、撹拌装置を備えた耐圧反応器に移送した。重合体溶液に、水素化触媒溶液(トルエン1.0部中で、ビス(シクロペンタジエニル)チタニウムジクロリド0.042部とジエチルアルミニウムクロライド0.122部を混合して得た溶液)を添加して混合した。反応器内部を水素ガスで置換し、更に溶液を撹拌しながら水素を供給し、温度90℃、圧力1.0MPaにて5時間水素化反応を行い、ブロック共重合体水素化物を含む水素化物溶液を得た。ブロック共重合体水素化物の重量平均分子量(Mw)は62,900、分子量分布(Mw/Mn)は1.06であった。
【0079】
得られた水素化物溶液に水0.10部を添加して、60℃で60分間撹拌し、その後30℃以下まで冷却した。冷却後の水素化物溶液に、活性白土(製品名「ガレオンアース(登録商標)」、水澤化学工業社製)1.5部及びタルク(製品名「ミクロエース(登録商標)」、日本タルク社製)1.5部を添加し、濾過して不溶物を除去した。濾過された水素化物溶液に、酸化防止剤溶液(フェノール系酸化防止剤であるペンタエリスリチル・テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート](製品名「Songnox1010」、コーヨ化学研究所社製)0.1部をキシレン0.9部に溶解して得た溶液)1.0部を添加して溶解させた。次いで、上記溶液を、金属ファイバー製フィルター(孔径0.4μm、ニチダイ社製)にて濾過して微小な固形分を除去した後、円筒型濃縮乾燥器(製品名「コントロ」、日立製作所社製)を用いて、温度260℃、圧力0.001MPa以下で、溶液から、溶媒であるシクロヘキサン、キシレン及びその他の揮発成分を除去し、濃縮乾燥器に直結したダイから溶融状態でストランド状に押出し、冷却後、ペレタイザーでカットしてブロック共重合体水素化物のペレット92部を得た。ペレットにはブロッキング防止剤として約100ppmのエチレンビスステアリン酸アマイドの微粉を添加した。得られたブロック共重合体水素化物の重量平均分子量(Mw)は62,300、分子量分布(Mw/Mn)は1.11であった。共役ジエンに由来の二重結合の水素化率は99%、芳香環に由来の二重結合の水素化率は5%未満、wA:wB=50:50であった。
【0080】
(P1-3.変性ブロック共重合体水素化物の調製)
(P1-2)で得られたブロック共重合体水素化物のペレット100部に対してビニルトリメトキシシラン2.0部及び2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン(製品名「パーヘキサ(登録商標)25B」、日油社製)0.2部を添加し、混合物とした。この混合物を、二軸押出機(製品名「TEM37B」、東芝機械社製)を用いて、樹脂温度200℃、滞留時間60~70秒で混練し、ストランド状に押出し、空冷した後、ペレタイザーによりカッティングし、アルコキシシリル基を有する変性ブロック共重合体水素化物のペレット97部を得た。ペレットには約100ppmのブロッキング防止剤を追加添加した。
【0081】
得られた変性ブロック共重合体水素化物のペレット10部をシクロヘキサン100部に溶解した後、脱水したメタノール400部中に注いで変性ブロック共重合体水素化物を凝固させ、濾別した後、25℃で真空乾燥して変性ブロック共重合体水素化物のクラム9.0部を単離した。FT-IRスペクトルでは、1090cm-1にSi-OCH基、825cm-1と739cm-1にSi-CH基に由来する新たな吸収帯が、ビニルトリメトキシシランのそれらの1075cm-1、808cm-1、及び766cm-1と異なる位置に観察された。また、H-NMRスペクトル(重クロロホルム中)では3.6ppmにメトキシ基のプロトンに基づく吸収帯が観察され、ピーク面積比からブロック共重合体水素化物[2]-1の100部に対してビニルトリメトキシシラン1.8部が結合したことが確認された。
【0082】
[実施例1]
製造例1で得られた変性ブロック共重合体水素化物のペレット100重量部に対して、紫外線吸収剤である2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール(Tinuvin(登録商標)329、BASFジャパン社製)0.6部を添加して、300重量部のシクロヘキサンに溶解させて樹脂溶液を得た。
【0083】
基材フィルムとして、長尺のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(藤森工業社製「FILMBYNA(登録商標) 38E-0010GCOB」、厚み38μm)を用意した。このフィルムは、通常のPET製のフィルムの、樹脂溶液を塗工する側の面にオリゴマーバリア層を有し、加熱融着時のPETオリゴマーの溶出を回避した状態であり、さらにオリゴマーバリア層の上に易接着層を備えるPETフィルムである。
【0084】
基材フィルムの一方の面に、ダイコーターを用いて樹脂溶液を塗工し、塗工層を形成した。塗工層の厚みは、厚み25μmの樹脂層が得られるように調整した。次いで、塗工層を100℃で10分間加熱乾燥させて、厚み25μmの樹脂層を形成し、基材フィルムと、樹脂層とを備えた、幅600mmの長尺の積層体[1-1]を得た。積層体においては、基材フィルムの一方の面に、樹脂フィルムが直に接していた。
得られた積層体[1]の樹脂層側の面とガラス基板((CORNING社製[イーグルXG]、厚み0.7mm)とを重ね合わせて堆積物とした。真空ラミネータ(製品名「PVL0202S」、日清紡メカトロニクス社製)を使用して、130℃の温度で、堆積物を5分間真空脱気した後、10分間真空加圧接着することにより、(ガラス基板)/(樹脂層)/(PETフィルム)の層構成を有する積層体[1-2]を得た。さらに、積層体[1-2]のPETフィルムを剥離し、(ガラス基板)/(樹脂層)の層構成を有する積層体[1-3]を得た。積層体[1-3]のヘーズを測定したところ、ヘーズは0.5%であった。
【0085】
[実施例2]
下記の変更点の他は、実施例1と同じ操作を行い、積層体[1-1]~[1-3]に相当する積層体[2-1]~[2-3]を得て評価した。
・基材フィルムとして、藤森工業社製「FILMBYNA(登録商標) 38E-0010GCOB」に代えて、長尺のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ社製[Lumirror(登録商標) #50-AP8]、厚み50μm)を用いた。このフィルムは、低オリゴマー処理されたポリエチレンテレフタレートからなる層と、その表面に設けられた易接着層とを備えるフィルムであり、加熱融着時の、フィルムからのオリゴマーの溶出が低減されている。
【0086】
[実施例3]
下記の変更点の他は、実施例1と同じ操作を行い、積層体[1-1]~[1-3]に相当する積層体[3-1]~[3-3]を得て評価した。
・基材フィルムに樹脂溶液を塗工する工程に先立ち、基材フィルムの被塗工面に、コロナ処理を施した。
・真空脱気及び加圧接着の温度を、130℃から、180℃に変更した。
【0087】
[実施例4]
製造例1で得られた変性ブロック共重合体水素化物のペレット100重量部に対して、紫外線吸収剤である2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール(Tinuvin(登録商標)329、BASFジャパン社製)0.6部を添加して、均等に混合し、混合物とした。この混合物を、40mmφのスクリューを備えた樹脂溶融押出し機を有するTダイ式フィルム成形機(Tダイ幅600mm)を使用し、溶融樹脂温度190℃、Tダイ温度190℃、ロール温度50℃の成形条件にて押し出し成形し、厚さ400μm、幅450mmのシート[4-1]を得た。
上記シート[4-1]と、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(藤森工業社製「FILMBYNA(登録商標) 38E-0010GCOB]、厚み38μm)と、ガラス基板((CORNING社製[イーグルXG]、厚み0.7mm)とをこの順に重ね合わせ、堆積物とした。真空ラミネータ(製品名「PVL0202S」、日清紡メカトロニクス社製)を使用して、130℃の温度で、堆積物を5分間真空脱気した後、10分間真空加圧接着することにより、(ガラス)/(シート[4-1])/(PETフィルム)の層構成を有する積層体[4-2]を得た。さらに、積層体[4-2]のPETフィルムを剥離し、(ガラス)/(シート[4-1])の層構成を有する積層体[4-3]を得た。積層体[4-3]のヘーズを測定したところ、ヘーズは0.5%であった。
【0088】
[比較例1]
下記の変更点の他は、実施例1と同じ操作を行い、積層体[1-1]~[1-3]に相当する積層体[C1-1]~[C1-3]を得て評価した。
・基材フィルムとして、藤森工業社製「FILMBYNA(登録商標) 38E-0010GCOB」に代えて、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡社製「A4300]、厚み50μm)を用いた。このフィルムは、低オリゴマー処理されていないポリエチレンテレフタレートのフィルムであり、その片面において易接着層が設けられたフィルムであった。
・樹脂溶液の塗工は、基材フィルムの、易接着層側の面に対して行った。
【0089】
[比較例2]
下記の変更点の他は、実施例1と同じ操作を行い、積層体[1-1]~[1-3]に相当する積層体[C2-1]~[C2-3]を得て評価した。
・基材フィルムとして、藤森工業社製「FILMBYNA(登録商標) 38E-0010GCOB」に代えて、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡社製「A4300]、厚み50μm)を用いた。
・樹脂溶液の塗工は、基材フィルムの、ポリエチレンテレフタレートが露出している層に対して行った。
・真空脱気及び加圧接着の温度を、130℃から、180℃に変更した。
【0090】
[比較例3]
下記の変更点の他は、実施例1と同じ操作を行い、積層体[1-1]~[1-3]に相当する積層体[C3-1]~[C3-3]を得ることを試みた。しかしながら、加圧接着により樹脂層とガラス基板とが接着せず、積層体[C3-2]を得ることができなかった。
【0091】
実施例及び比較例の概要及び結果を、表1に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
実施例及び比較例の結果から以下のことがわかる。
基材フィルムとして通常のPETフィルム(東洋紡社製「A4300]、厚み50μm)を用いると加熱圧着時にPETオリゴマーが溶出して、樹脂表面が白濁し、ヘーズが1%以上になる(比較例1)。加圧接着温度を180℃まで上げると、PETオリゴマーの溶出も多くなり、ヘーズも悪化する(比較例2)。また、加圧接着温度を100℃に低下すると樹脂が溶融せず、ガラスと密着しない(比較例3)。
そこで、通常のPETにオリゴマーバリア層を設けたPETフィルム(藤森工業社製「FILMBYNA(登録商標) 38E-0010GCOB]、厚み38μm)を用いると、加圧接着時のPETオリゴマーの溶出が回避でき、ヘーズも1%以下になった(実施例1)。また、このPETフィルムでは加圧接着温度を180℃まで上昇してもヘーズは1%以下であった(実施例3)
またPET中のオリゴマーを少なくしたPETフィルム(東レ社製[Lumirror(登録商標) #50-AP8]、厚み50μm)を用いてもラミネートによるPETオリゴマーの溶出が回避でき、ヘーズも1%以下になった(実施例2)。
積層体の製造方法としては、PET基材に樹脂層を塗布した積層体をガラス基板に加圧接着した場合(実施例1)でも、押出フィルムをPETフィルム、ガラス基板と重ね合わせて加圧接着した場合(実施例4)でもヘーズが1%以下であった。