(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141117
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】電解セルの試験装置、電解セルの試験装置の使用方法、電解セルの試験装置を用いた電解セルの評価方法
(51)【国際特許分類】
C25B 15/00 20060101AFI20241003BHJP
C25B 1/042 20210101ALI20241003BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20241003BHJP
【FI】
C25B15/00 302Z
C25B1/042
C25B9/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052590
(22)【出願日】2023-03-29
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「水素利用等先導研究開発事業/水電解水素製造技術高度化のための基盤技術研究開発/高温水蒸気電解技術の研究開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】嘉藤 徹
(72)【発明者】
【氏名】中野 清隆
【テーマコード(参考)】
4K021
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021BA02
4K021BC09
4K021CA15
4K021DC01
4K021DC03
(57)【要約】
【課題】電解セルの運転中でもセンサ校正が簡便に行え、電解性能を正確に測定、評価できる、電解セルの試験装置とその使用方法、電解セルの評価方法を提供することである。
【解決手段】
電解セル1に、負極側原料ガスラインと、負極側生成ガスの測定器のガスラインと、正極側搬送ガスラインと、正極側生成ガスの測定器のガスラインとを設け、さらに、各測定器の校正用のガスラインを設け、負極を介する流路と負極を介さない流路、正極を介する流路と正極を介さない流路とに切り替える切替バルブ65、67、69により、負極側測定器ガスラインと正極側測定器ガスラインの測定器により生成ガス成分を測定する機能と、負極側測定器ガスラインと正極側測定器ガスラインの生成ガス測定器により負極側校正用ガスと正極側校正用ガスの成分を測定し、測定値と校正用ガス供給量から、ガス測定器を校正する機能とを備えた電解セルの試験装置10である。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質と、前記電解質の両側に設けられ、負極と正極から構成される一対の電極とを備えた電解セルの試験装置であって、
原料ガスを負極に供給する原料ガスラインと、
生成ガスの搬送ガスを正極に供給する搬送ガスラインと、
負極側で生成する生成ガスを含むガス成分を測定する生成ガス測定器を備えた負極側測定器ガスラインと、
正極側で生成する生成ガスを含むガス成分を測定する生成ガス測定器を備えた正極側測定器ガスラインと、
前記負極側に設けられ、前記負極側の生成ガス測定器の校正用ガスを供給する負極側校正用ガスラインと、
前記正極側に設けられ、前記正極側の生成ガス測定器の校正用ガスを供給する正極側校正用ガスラインと、
負極側ガスを外部に排出する負極側排出ガスラインと、
正極側ガスを外部に排出する正極側排出ガスラインと、
前記原料ガスラインと前記負極側校正用ガスラインとを、負極を介する流路と負極を介さない流路とに切り替えるとともに、前記負極を介する流路と負極を介さない流路とを、前記負極側測定器ガスラインと前記負極側排出ガスラインとに切り替えて接続させる負極側流路切替器と、
前記搬送ガスラインと前記正極側校正用ガスラインとを、正極を介する流路と正極を介さない流路とに切り替えるとともに、前記正極を介する流路と正極を介さない流路とを、前記正極側測定器ガスラインと正極側排出ガスラインとに切り替えて接続させる正極側流路切替器と
を備え、
前記負極側流路切替器と正極側流路切替器の切り替えにより、
原料ガスラインと負極側測定器ガスラインとが負極を介して接続し、搬送ガスラインと正極側測定器ガスラインとが正極を介して接続し、負極側測定器ガスラインの生成ガス測定器により前記ガス成分を測定するとともに、正極側測定器ガスラインの生成ガス測定器により前記ガス成分を測定する測定機能と、
負極側校正用ガスラインと負極側測定器ガスラインとが負極を介さずに接続し、正極側校正用ガスラインと正極側測定器ガスラインとが正極を介さずに接続し、負極側測定器ガスラインの生成ガス測定器により負極側校正用ガスの成分を測定するとともに、正極側測定器ガスラインの生成ガス測定器により正極側校正用ガスの成分を測定し、得られた測定値と校正用ガスの供給量とを比較することで、前記生成ガス測定器を校正する校正機能と
を備えたことを特徴とする電解セルの試験装置。
【請求項2】
前記負極側校正用ガスを前記原料ガスと同じ組成とし、前記正極側校正用ガスを前記搬送ガスと同じ組成とし、
前記負極側流路切替器、正極側流路切替器の切り替えにより、
負極側校正用ガスラインと負極側測定器ガスラインとが負極を介して接続し、正極側校正用ガスラインと正極側測定器ガスラインとが正極を介して接続し、負極側測定器ガスラインの生成ガス測定器により前記ガス成分を測定するとともに、正極側測定器ガスラインの生成ガス測定器により前記ガス成分を測定する校正用ガス測定機能を備えたことを特徴とする請求項1に記載の電解セルの試験装置。
【請求項3】
負極側校正用ガスラインに負極側校正用ガスの流量制御器を設け、正極側校正用ガスラインに正極側校正用ガスの流量制御器を設け、
負極側排出ガスラインと正極側排出ガスラインとに、校正用の流量計をそれぞれ設け、
前記負極側流路切替器、正極側流路切替器の切り替えにより、
負極側校正用ガスラインと負極側排出ガスラインとが負極を介さずに接続し、正極側校正用ガスラインと正極側排出ガスラインとが正極を介さずに接続し、前記校正用の流量計により、負極側校正用ガスの流量制御器と正極側校正用ガスの流量制御器をそれぞれ校正する流量制御器校正機能を備えたことを特徴とする請求項1に記載の電解セルの試験装置。
【請求項4】
原料ガスラインに原料ガスの流量制御器を設け、搬送ガスラインに搬送ガスの流量制御器を設け、
負極側排出ガスラインと正極側排出ガスラインとに、校正用の流量計をそれぞれ設け、
前記負極側流路切替器、正極側流路切替器の切り替えにより、
原料ガスラインと負極側排出ガスラインとが負極を介さずに接続し、搬送ガスラインと正極側排出ガスラインとが正極を介さずに接続し、前記校正用の流量計により、原料ガスの流量制御器と搬送ガスの流量制御器をそれぞれ校正する流量制御器校正機能を備えたことを特徴とする請求項1に記載の電解セルの試験装置。
【請求項5】
前記請求項1、請求項3-4のいずれか1項に記載の電解セルの試験装置を用いて、原料ガスラインから原料ガスを供給するとともに、搬送ガスラインから搬送ガスを供給して、前記測定機能により、負極側測定器ガスラインの生成ガス測定器により前記ガス成分を測定するとともに、正極側測定器ガスラインの生成ガス測定器により前記ガス成分を測定することを特徴とする電解セルの試験装置の使用方法。
【請求項6】
前記請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の電解セルの試験装置を用いて、負極側校正用ガスラインから負極側校正用ガスを供給するとともに、正極側校正用ガスラインから正極側校正用ガスを供給して、前記校正機能により、負極側測定器ガスラインの生成ガス測定器により負極側校正用ガスの成分を測定するとともに、正極側測定器ガスラインの生成ガス測定器により正極側校正用ガスの成分を測定し、得られた測定値と校正用ガスの供給量とを比較することで、前記生成ガス測定器を校正することを特徴とする電解セルの試験装置の使用方法。
【請求項7】
請求項2に記載の電解セルの試験装置を用いて、負極側校正用ガスラインから前記原料ガスと同じ組成の負極側校正用ガスを供給するとともに、正極側校正用ガスラインから前記搬送ガスと同じ組成の正極側校正用ガスを供給し、前記校正用ガス測定機能により、負極側測定器ガスラインの生成ガス測定器により前記ガス成分を測定するとともに、正極側測定器ガスラインの生成ガス測定器により前記ガス成分を測定することを特徴とする電解セルの試験装置の使用方法。
【請求項8】
請求項3に記載の電解セルの試験装置を用いて、原料ガスの電解前に、負極側校正用ガスラインから負極側校正用ガスを供給するとともに、正極側校正用ガスラインから正極側校正用ガスを供給し、前記流量制御器校正機能によって、前記校正用の流量計により、負極側校正用ガスの流量制御器と正極側校正用ガスの流量制御器とをそれぞれ校正することを特徴とする電解セルの試験装置の使用方法。
【請求項9】
請求項4に記載の電解セルの試験装置を用いて、原料ガスの電解前に、原料ガスラインから原料ガスを供給するとともに、搬送ガスラインから搬送ガスを供給し、前記流量制御器校正機能によって、前記校正用の流量計により、原料ガスの流量制御器と搬送ガスの流量制御器とをそれぞれ校正することを特徴とする電解セルの試験装置の使用方法。
【請求項10】
前記請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の電解セルの試験装置を用いた電解セルの評価方法であって、
前記原料ガスは水蒸気であって、搬送ガスは空気であって、前記負極側の生成ガス測定器は負極側測定器ガスラインを流れるガスの全流量を測定する第1流量計と、湿度計とを含み、前記正極側の生成ガス測定器は正極側測定器ガスラインを流れるガスの全流量を測定する第2流量計と露点計と酸素濃度計とを含み、
前記第1流量計、第2流量計および湿度計は水蒸気が凝縮しない温度で保持されており、
前記測定機能または校正用ガス測定機能により前記ガス成分を測定し、
前記負極に供給した水蒸気量から電解反応した水蒸気量を引いた理論水蒸気流量に比べて前記第1流量計および前記湿度計の測定値から求められる、負極側測定器ガスラインを流れる水蒸気流量が多い場合は、
負極から正極へリークする水蒸気量をゼロとし、前記第2流量計の測定値、酸素濃度計の測定値、露点計の測定値を用いて正極側測定器ガスラインを流れる水蒸気量を求めて、当該水蒸気量を負極から正極へリークした水素量とし、さらに、前記湿度計の測定値、前記第1流量計の測定値を用いて負極側測定器ガスラインを流れる水蒸気量を求め、当該水蒸気量と供給した水蒸気量と電解反応した水蒸気量から、正極から負極へリークした酸素量を求める一方、
前記理論水蒸気流量に比べて前記負極側測定器ガスラインを流れる水蒸気流量が少ないか同量の場合は、
正極から負極へリークする酸素量をゼロとし、供給した水蒸気量と電解反応した水蒸気量と前記負極側測定器ガスラインを流れる水蒸気量から、負極から正極へリークした水蒸気量を求め、前記正極側測定器ガスラインを流れる水蒸気量と前記負極から正極へリークした水蒸気量から、負極から正極へリークした水素量を求めることで、
電解セルを評価することを特徴とする電解セルの評価方法。
【請求項11】
前記請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の電解セルの試験装置を用いた電解セルの評価方法であって、
前記原料ガスは水蒸気であって、搬送ガスは空気であって、前記負極側の生成ガス測定器は負極側測定器ガスラインを流れるガスの全流量を測定する第1流量計と、湿度計と、窒素量と水素量とを測定する窒素水素測定装置とを含み、前記正極側の生成ガス測定器は正極側測定器ガスラインを流れるガスの全流量を測定する第2流量計と露点計と酸素濃度計とを含み、
前記第1流量計、第2流量計および湿度計は水蒸気が凝縮しない温度で保持されており、
前記測定機能または校正用ガス測定機能により前記ガス成分を測定し、
前記原料ガスと搬送ガスの組成と、
前記第1流量計、湿度計、窒素水素測定装置、第2流量計、露点計、酸素濃度計から測定される測定値を用いて算出されるガス組成と
のマテリアルバランスから、
電解セル外部にリークした窒素、酸素、水素、水蒸気の流量を求めることで、
電解セルを評価することを特徴とする電解セルの評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水蒸気電解や共電解により水素や一酸化炭素等を製造する固体酸化物形などの電解セルの分野において、当該電解セルの生成ガスを正確に測定でき、セルの性能を正しく評価可能な電解セルの試験装置、電解セルの試験装置の使用方法、電解セルの試験装置を用いた電解セルの評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気分解技術によって、原料を電気分解して有用なガスを生成し、生成したガスを利用することが行われている。その一例として、水素社会の実現に向け、水を電気分解(電解)して水素を合成する技術の開発が進められている。例えば、水蒸気電解セルは700-1000℃で蒸気を電気分解し水素を発生させることができるため、再生可能エネルギー等からの高効率水素技術として世界中で精力的に研究が進められている。また、水蒸気電解セルは、水と二酸化炭素とを同時に電気分解して(共電解という。)水素と一酸化炭素と酸素に変換する技術としても利用されており、それらから触媒反応によってメタンを合成するメタレーション技術としても注目されている。このように、水素製造や燃料合成技術として水蒸気電解セルが利用されているが、水素等の正確な流量を把握するために、適宜分析計や流量計などのセンサ校正が必要である。そして、水蒸気電解セルの開発に当たっては、開発されたセルの性能評価と開発を繰り返し、性能を向上させることが望ましい。したがって、水蒸気電解セルの電解性能を正確に測定、評価することが重要である。
【0003】
水蒸気電解セルの電解性能を測定、評価する方法として、例えば、特許文献1には、固体酸化物形電解セル(SOEC)のセルスタックのガスリークを検出するシステムが開示されている。このシステムでは、水蒸気電解により水素と酸素を生成させるセルスタックにおいて、セルスタックを収容する筐体の出口ダクトに存在する酸素含量と筐体の入口ダクト中の既定の酸素含量とを測定し、両酸素含量が異なる場合に、装置のリークを診断する分析ユニットを設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のシステムにおいては、筐体の出口ダクトと入り口ダクトの酸素含量を測定することで、酸素のリーク流量は測定できるが、他の生成ガスについては評価ができない。したがって、SOECの電解性能を正確に測定、評価できるものとはいえない。また、特許文献1には分析計や流量計などのセンサ校正については記載されておらず、校正する場合は、システム全体を止めて分析計や流量計等をシステムから取り外して行う必要がある。SOEC等の性能評価では、単セル、小規模スタックレベルの規模の被試験体に原料ガスを正確な流量で安定に供給するとともに、SOECの生成ガスの成分と流量を正確に測定しSOECの性能(例えば、水素生成能力、ガスリーク流量など)を評価することが重要である。SOEC等の性能評価のための試験装置に取り付けた流量制御器、組成、流量等の測定器をSOEC等の運転中(電解反応時)に校正することは困難である。また、SOEC等の性能の長期間にわたる評価では、各種制御器、測定器等が不具合を起こす場合もあるが、このような場合はSOEC等の装置の運転を中断しなければならない。
【0006】
本発明の課題は、このような問題を解決することであり、電解セルの運転中においてもセンサ校正が簡便に行え、SOECの電解性能を正確に測定、評価できる、電解セルの試験装置、電解セルの試験装置の使用方法、電解セルの試験装置を用いた電解セルの評価方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
通常、SOEC等の電解セルの性能評価では正負極出口で正負極の生成ガス中の水分を除去した後に、流量及び組成を測定している。この場合、水素生成量は計算できるが、セル負極からの水素ガス(H2)のリーク流量、正極から負極への酸素(O2)の漏れ込みによるH2の消費量などを把握することは困難だった。水蒸気電解では、SOEC等への供給ガス、生成ガス中には水分が含まれるため、水素生成能力、ガスリーク流量などを測定するためには、蒸気が凝縮しない状態で流量や成分を測定することが好ましいが、このような測定条件では各種センサの測定値にドリフト、変動が発生しやすいこと、また実際の測定条件と同じ条件下でセンサを校正することが難しいこと、などから生成ガスの成分や流量を精度よく測定することは難しい。しかしながら、SOEC等の測定用の原料ガス等の供給流路とは別にセンサの校正用の流路を設けることで、実際の測定条件と同じ条件下でセンサを校正することが可能となる。また、流路の切り替えにより運転と校正を同時に行うことができる。具体的には、以下の構成を有する。
【0008】
(1)電解質と、前記電解質の両側に設けられ、負極と正極から構成される一対の電極とを備えた電解セルの試験装置であって、原料ガスを負極に供給する原料ガスライン(L1)と、生成ガスの搬送ガスを正極に供給する搬送ガスラインと、負極側で生成する生成ガスを含むガス成分を測定する生成ガス測定器を備えた負極側測定器ガスライン(L4)と、正極側で生成する生成ガスを含むガス成分を測定する生成ガス測定器を備えた正極側測定器ガスライン(L7)と、前記負極側に設けられ、前記負極側の生成ガス測定器の校正用ガスを供給する負極側校正用ガスライン(L8)と、前記正極側に設けられ、前記正極側の生成ガス測定器の校正用ガスを供給する正極側校正用ガスラインと、負極側ガスを外部に排出する負極側排出ガスライン(L10)と、正極側ガスを外部に排出する正極側排出ガスライン(L13)と、前記原料ガスライン(L1)と前記負極側校正用ガスライン(L8)とを、負極を介する流路と負極を介さない流路とに切り替えるとともに、前記負極を介する流路と負極を介さない流路とを、前記負極側測定器ガスライン(L4)と前記負極側排出ガスライン(L10)とに切り替えて接続させる負極側流路切替器(65、67)と、前記搬送ガスラインと前記正極側校正用ガスラインとを、正極を介する流路と正極を介さない流路とに切り替えるとともに、前記正極を介する流路と正極を介さない流路とを、前記正極側測定器ガスライン(L7)と正極側排出ガスライン(L13)とに切り替えて接続させる正極側流路切替器(69、71、73、74、または、69、74、87)とを備え、前記負極側流路切替器と正極側流路切替器の切り替えにより、原料ガスライン(L1)と負極側測定器ガスライン(L4)とが負極を介して接続し、搬送ガスラインと正極側測定器ガスライン(L7)とが正極を介して接続し、負極側測定器ガスライン(L4)の生成ガス測定器により前記ガス成分を測定するとともに、正極側測定器ガスライン(L7)の生成ガス測定器により前記ガス成分を測定する測定機能と、負極側校正用ガスライン(L8)と負極側測定器ガスライン(L4)とが負極を介さずに接続し、正極側校正用ガスラインと正極側測定器ガスライン(L7)とが正極を介さずに接続し、負極側測定器ガスライン(L4)の生成ガス測定器により負極側校正用ガスの成分を測定するとともに、正極側測定器ガスライン(L7)の生成ガス測定器により正極側校正用ガスの成分を測定し、得られた測定値と校正用ガスの供給量とを比較することで、前記生成ガス測定器を校正する校正機能とを備えたことを特徴とする電解セルの試験装置である。
(2)前記負極側校正用ガスを前記原料ガスと同じ組成とし、前記正極側校正用ガスを前記搬送ガスと同じ組成とし、前記負極側流路切替器、正極側流路切替器の切り替えにより、負極側校正用ガスライン(L8)と負極側測定器ガスライン(L4)とが負極を介して接続し、正極側校正用ガスラインと正極側測定器ガスライン(L7)とが正極を介して接続し、負極側測定器ガスライン(L4)の生成ガス測定器により前記ガス成分を測定するとともに、正極側測定器ガスライン(L7)の生成ガス測定器により前記ガス成分を測定する校正用ガス測定機能を備えたことを特徴とする前記(1)に記載の電解セルの試験装置である。
(3)負極側校正用ガスライン(L8)に負極側校正用ガスの流量制御器を設け、正極側校正用ガスラインに正極側校正用ガスの流量制御器を設け、負極側排出ガスライン(L10)と正極側排出ガスライン(L13)とに、校正用の流量計(81、83)をそれぞれ設け、前記負極側流路切替器、正極側流路切替器の切り替えにより、負極側校正用ガスライン(L8)と負極側排出ガスライン(L10)とが負極を介さずに接続し、正極側校正用ガスラインと正極側排出ガスライン(L13)とが正極を介さずに接続し、前記校正用の流量計により、負極側校正用ガスの流量制御器と正極側校正用ガスの流量制御器をそれぞれ校正する流量制御器校正機能を備えたことを特徴とする前記(1)に記載の電解セルの試験装置である。
(4)原料ガスライン(L1)に原料ガスの流量制御器を設け、搬送ガスラインに搬送ガスの流量制御器を設け、負極側排出ガスライン(L10)と正極側排出ガスライン(L13)とに、校正用の流量計(81、83)をそれぞれ設け、前記負極側流路切替器、正極側流路切替器の切り替えにより、原料ガスライン(L1)と負極側排出ガスライン(L10)とが負極を介さずに接続し、搬送ガスラインと正極側排出ガスライン(L13)とが正極を介さずに接続し、前記校正用の流量計により、原料ガスの流量制御器と搬送ガスの流量制御器をそれぞれ校正する流量制御器校正機能を備えたことを特徴とする前記(1)に記載の電解セルの試験装置である。
(5)前記(1)、(3)-(4)のいずれか1つに記載の電解セルの試験装置を用いて、原料ガスライン(L1)から原料ガスを供給するとともに、搬送ガスラインから搬送ガスを供給して、前記測定機能により、負極側測定器ガスライン(L4)の生成ガス測定器により前記ガス成分を測定するとともに、正極側測定器ガスライン(L7)の生成ガス測定器により前記ガス成分を測定することを特徴とする電解セルの試験装置の使用方法である。
(6)前記(1)から(4)のいずれか1つに記載の電解セルの試験装置を用いて、負極側校正用ガスライン(L8)から負極側校正用ガスを供給するとともに、正極側校正用ガスラインから正極側校正用ガスを供給して、前記校正機能により、負極側測定器ガスライン(L4)の生成ガス測定器により負極側校正用ガスの成分を測定するとともに、正極側測定器ガスライン(L7)の生成ガス測定器により正極側校正用ガスの成分を測定し、得られた測定値と校正用ガスの供給量とを比較することで、前記生成ガス測定器を校正することを特徴とする電解セルの試験装置の使用方法である。
(7)前記(2)に記載の電解セルの試験装置を用いて、負極側校正用ガスライン(L8)から前記原料ガスと同じ組成の負極側校正用ガスを供給するとともに、正極側校正用ガスラインから前記搬送ガスと同じ組成の正極側校正用ガスを供給し、前記校正用ガス測定機能により、負極側測定器ガスライン(L4)の生成ガス測定器により前記ガス成分を測定するとともに、正極側測定器ガスライン(L7)の生成ガス測定器により前記ガス成分を測定することを特徴とする電解セルの試験装置の使用方法である。
(8)前記(3)に記載の電解セルの試験装置を用いて、原料ガスの電解前に、負極側校正用ガスライン(L8)から負極側校正用ガスを供給するとともに、正極側校正用ガスラインから正極側校正用ガスを供給し、前記流量制御器校正機能によって、前記校正用の流量計により、負極側校正用ガスの流量制御器と正極側校正用ガスの流量制御器とをそれぞれ校正することを特徴とする電解セルの試験装置の使用方法である。
(9)前記(4)に記載の電解セルの試験装置を用いて、原料ガスの電解前に、原料ガスライン(L1)から原料ガスを供給するとともに、搬送ガスラインから搬送ガスを供給し、前記流量制御器校正機能によって、前記校正用の流量計により、原料ガスの流量制御器と搬送ガスの流量制御器とをそれぞれ校正することを特徴とする電解セルの試験装置の使用方法である。
(10)前記(1)から(4)のいずれか1つに記載の電解セルの試験装置を用いた電解セルの評価方法であって、前記原料ガスは水蒸気であって、搬送ガスは空気であって、前記負極側の生成ガス測定器は負極側測定器ガスライン(L4)を流れるガスの全流量を測定する第1流量計と、湿度計とを含み、前記正極側の生成ガス測定器は正極側測定器ガスライン(L7)を流れるガスの全流量を測定する第2流量計と露点計と酸素濃度計とを含み、前記第1流量計、第2流量計および湿度計は水蒸気が凝縮しない温度で保持されており、前記測定機能または校正用ガス測定機能により前記ガス成分を測定し、前記負極に供給した水蒸気量から電解反応した水蒸気量を引いた理論水蒸気流量に比べて前記第1流量計および前記湿度計の測定値から求められる、負極側測定器ガスラインを流れる水蒸気流量が多い場合は、負極から正極へリークする水蒸気量をゼロとし、前記第2流量計の測定値、酸素濃度計の測定値、露点計の測定値を用いて正極側測定器ガスライン(L7)を流れる水蒸気量を求めて、当該水蒸気量を負極から正極へリークした水素量とし、さらに、前記湿度計の測定値、前記第1流量計の測定値を用いて負極側測定器ガスライン(L4)を流れる水蒸気量を求め、当該水蒸気量と供給した水蒸気量と電解反応した水蒸気量から、正極から負極へリークした酸素量を求める一方、前記理論水蒸気流量に比べて前記負極側測定器ガスラインを流れる水蒸気流量が少ないか同量の場合は、正極から負極へリークする酸素量をゼロとし、供給した水蒸気量と電解反応した水蒸気量と前記負極側測定器ガスライン(L4)を流れる水蒸気量から、負極から正極へリークした水蒸気量を求め、前記正極側測定器ガスライン(L7)を流れる水蒸気量と前記負極から正極へリークした水蒸気量から、負極から正極へリークした水素量を求めることで、電解セルを評価することを特徴とする電解セルの評価方法である。
(11)前記(1)から(4)のいずれか1つに記載の電解セルの試験装置を用いた電解セルの評価方法であって、前記原料ガスは水蒸気であって、搬送ガスは空気であって、前記負極側の生成ガス測定器は負極側測定器ガスライン(L4)を流れるガスの全流量を測定する第1流量計と、湿度計と、窒素量と水素量とを測定する窒素水素測定装置とを含み、前記正極側の生成ガス測定器は正極側測定器ガスライン(L7)を流れるガスの全流量を測定する第2流量計と露点計と酸素濃度計とを含み、前記第1流量計、第2流量計および湿度計は水蒸気が凝縮しない温度で保持されており、前記測定機能または校正用ガス測定機能により前記ガス成分を測定し、前記原料ガスと搬送ガスの組成と、前記第1流量計、湿度計、窒素水素測定装置、第2流量計、露点計、酸素濃度計から測定される測定値を用いて算出されるガス組成とのマテリアルバランスから、電解セル外部にリークした窒素、酸素、水素、水蒸気の流量を求めることで、電解セルを評価することを特徴とする電解セルの評価方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電解セルの運転中においてもセンサ校正が簡便に行え、SOECの電解性能を正確に測定、評価できる、電解セルの試験装置、電解セルの試験装置の使用方法、電解セルの試験装置を用いた電解セルの評価方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】固体酸化物形電解セルの構成図(模式図)である。
【
図2】本発明の実施形態に係る固体酸化物形電解セルの試験装置のガスライン系統図である(事前校正モード1)。
【
図3】本発明の実施形態に係る固体酸化物形電解セルの試験装置のガスライン系統図である(事前校正モード2)。
【
図4】本発明の実施形態に係る固体酸化物形電解セルの試験装置のガスライン系統図である(測定モード1)。
【
図5】本発明の実施形態に係る固体酸化物形電解セルの試験装置のガスライン系統図である(センサ校正モード)。
【
図6】本発明の実施形態に係る固体酸化物形電解セルの試験装置のガスライン系統図である(測定モード2)。
【
図7】本発明の別実施形態に係る固体酸化物形電解セルの試験装置のガスライン系統図である。
【
図8】固体酸化物形電解セルの試験装置の全体写真である。
【
図9】校正用ガスの流量制御器の校正結果である。(実施例1)
【
図10】センサ類(酸素濃度計、湿度計、露点計)の校正結果である。(実施例2)
【
図11】センサ類(流量計)の校正結果である。(実施例2)
【
図12】
図12(A)は、負極出口でのガス成分ごとの流量測定結果であり、
図12(B)は、正極出口でのガス成分ごとの流量測定結果である。(実施例3)
【
図13】正負電極入口と出口でのH、O、Nのマテリアルバランスを示した図である。(実施例3)
【
図14】正極から負極へのリークO
2流量、負極から正極へのリークH
2流量を求めた結果を示した図である。(実施例3)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下において、本発明の実施の形態を、図面を参照しつつ詳しく説明する。なお、図中同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0012】
(実施形態1)
図1には、水を電気分解して水素を合成する固体酸化物形電解セル(SOEC)のガスライン系統図を示す。なお、本実施形態では、水蒸気電解により水素を生成する固体酸化物形電解セルを例として示しているが、これに限らず二酸化炭素と水蒸気の混合ガスから一酸化炭素、水素の混合ガスを生成する電解セルなども含まれる。
SOEC1は、電解質11と、電解質11の両側に設けられた一対の電極(正極12、負極13)を備えている。
図1に示すSOEC1は、電解質11が一対の電極12、13で挟まれた単セルとなっているが、複数のセルが積層されたスタック構造としてもよく、電解セルにはセルスタックも含まれる。電解質11は、酸化物イオン伝導性を有する固体材料であり、例えばジルコニア系酸化物であるイットリア安定化ジルコニア(YSZ)を用いることができる。電極12、13は、それぞれ、ストロンチウムとコバルトをドープしたランタンフェライト(La
1-XSr
XCo
1-yFe
y0
3)、ニッケルなどの金属触媒とセラミックスを混合して焼成したサーメットから構成されている。SOEC1には、外部電源2により電力が供給され、電力は電力計3により測定される。水蒸気(H
2O)は、所定の流量でSOEC1の負極13に導入される。SOEC1に供給された水蒸気はSOEC1中での電解反応により水素(H
2)と酸化物イオン(O
2-)に分解される。生成したO
2-は、電解質11を伝導して正極12側に移動する。正極12では、電子とO
2-が結合して酸素が生成される。なお、本明細書では、電気分解の対象(原料)を水(水蒸気)とした場合について説明するが、原料として二酸化炭素を用いた場合(一酸化炭素が生成)や水蒸気と二酸化炭素を用いた共電解(一酸化炭素と水素が生成)なども対象となる。
【0013】
図2には、上記したSOEC1の試験装置10のガスライン系統図を示す。この図では、ガスライン系統が分かりやすいように、負極13と正極12とに接続されたガスライン系統のみを模式的に示しており、電解質11等は図示を省略している。また、測定用の原料ガス21、23の流路を太線で示し、校正用の原料ガス51、53の流路を細線で示している。この試験装置10では、通常の運転(測定、試験)前、すなわち原料の電解前に、校正用ガスの流量制御器等を校正する。最初に装置の概略について説明する。
【0014】
この装置は、主に、負極13側には、測定用の原料ガス(H2Oは原料水であるが、便宜上、これを含めて原料ガスと称している。)21と、測定用原料ガス21を負極13に供給し、負極13から発生した生成ガスが流れるガスライン(配管)L1-L4等を備え、正極12側には、測定用ガス23と、測定用ガス23を正極12に供給し、正極12から発生した生成ガスが流れるガスラインL5-L7等を備えている。負極13側に供給するガスは、主に水蒸気であり、原料水が蒸発器25に供給されて蒸発器25内で蒸気となることで、負極13側に供給される。正極12側に供給するガス(測定用ガス23)は、主に空気であり、空気によって正極12で生成する酸素を搬送する。測定用のガス21、23はそれぞれボンベやタンクに貯留されている。
【0015】
負極13側の測定用原料ガス21には、電極を保護する目的で、水蒸気の他に水素も少量(例えば、10%程度)含まれる。負極13の上流側ラインL1には各原料ガスや原料水の流量制御器27、29(例えば、マスフローコントローラ)、水蒸気流量を制御する流量制御器32(例えば、マスフローコントローラ)、圧力計P1が設けられており、負極13の下流側ラインL4には全体のガス流量を測定する流量計33や湿度計35、チラー(冷却装置)37、測定装置41(例えば、ガスクロマトグラフ)、圧力計P2などが設けられている。なお、上流側、下流側とは、電極を基準として、上流側、下流側と称している。また、正極12の上流側ラインL5には測定用ガス23の流量制御器43(例えば、マスフローコントローラ)と切替バルブ71が設けられており、正極12の下流側ラインL7には全体のガス流量を測定する流量計45や露点計47、チラー37、酸素濃度計48などが設けられている。電極の下流側ラインの流量計33、45や圧力計P1-P3により、これらの値が一定範囲であるかを常時監視している。なお、圧力計P2、P3の値に応じて、生成ガス等の圧力がバルブ49、49により調整される。
【0016】
ここで、本実施形態の試験装置10では、上記ガスラインL1-L7とは別に、主に校正用の流路であるガスラインL8-14を設けたことを特徴としている。校正用ガスは、測定用ガスと同じガス組成となるように設定しており、校正用ガスラインにより、実際の測定条件と同じ条件下でセンサ類を校正することやSOEC1の評価が可能となる。具体的には、後述するが、負極13側には、校正用の原料ガス51と、校正用の原料ガス51の反応管52と、校正用ガスの供給流路となるラインL8-10を備え、正極12側には、校正用の原料ガス53と、校正用の原料ガス53の反応管54と、校正用の原料ガス53の流路となるラインL11-L14とを備えている。負極側の各校正用ガスラインと反応管52との間には、各校正用ガスの流量制御器55、57、59(例えば、マスフローコントローラ)が配置されており、正極側の各校正用ガスラインと反応管54との間には、各校正用ガスの流量制御器61、63、64(例えば、マスフローコントローラ)と、窒素と酸素の流路切替バルブ73、水素の開閉バルブ74等が配置されている。なお、校正用の原料ガス51、53はそれぞれボンベやタンクに貯留されている。
【0017】
負極13側では、校正用の原料ガス51である水素と酸素を、内部に触媒(例えば、ニッケル系触媒、白金系触媒など)を充填した反応管52に導入して水素と酸素の燃焼反応により水蒸気を生成させる。この燃焼反応において、水素はリッチな状態で反応させることから、生成ガスは水蒸気と水素との混合ガスとなる。なお、窒素は原料ガスではないが、正極12で供給する空気が負極13側で流れることで(このことをリークともいう。)、検出される窒素の測定に必要であることから、負極13側にも供給するものである。また、正極12側においても、校正用の原料ガス53である窒素と酸素と水素を、内部に触媒(例えば、ニッケル系触媒、白金系触媒など)を充填した反応管54に導入し、酸素と水素を反応させて水蒸気を生成させるとともに、負極から水素、水蒸気がリークした正極の電解生成ガスを模擬するため窒素と酸素の混合ガスを生成させる。
【0018】
そして、
図2に示すように、負極13側では、ラインL1、L2間とラインL8、L9間に切替バルブ65が配置され、ラインL3、L4間とラインL9、L10間に切替バルブ67が配置されている。また、正極12側では、ラインL6、L7間とラインL12、L13間に切替バルブ69が配置されている。切替バルブ65、67、69は、4ポート流路切替バルブであり、対向する流路を二方向に切り替えできるものである。そして、これらのガスラインL1-L14は所定の温度に保つため、一部オーブン75内に配置されており、概ね130-150℃に保温されている。また、蒸発器25はヒータ等の加熱器(図示せず)を備えているが、所定の温度(例えば、130-150℃の範囲)に保つためオーブン77内に配置されている。さらに、正極12の下流側ラインL7に設けた露点計47も、所定の温度(例えば、30―150℃の範囲)に保つためオーブン79内に配置されている。
【0019】
以上が装置の概略であるが、本実施形態によれば、通常の試験装置10の運転に先だって、事前(原料の電解前)に測定用や校正用の原料ガス等の流量制御器の校正を行う。このことを事前校正という。
【0020】
(事前校正モード1)
このモードは、校正用原料ガス51、53の各流量制御器の校正を行う機能を有するモードである。校正用原料ガス51、53の各流量制御器の事前校正は、この試験装置10(
図2)を用いて以下のように行う。
まず、ガスラインL10、L13に、校正用の石鹸膜流量計などの高精度流量計81、83を配置する。負極側の校正用の原料ガス51の流量制御器(水素流量制御器55、窒素流量制御器57、酸素流量制御器59)の校正は、以下のように行う。各ガスの流量制御器を一種類ずつ切り替えて流し、当該ガスを反応管52に導入し、切替バルブ65、67を介して、ガスラインL10に導入し、高精度流量計81により、各ガス(水素、窒素、酸素)の正確な流量をそれぞれ測定する。なお、反応管52には各ガスが時間を異にして流れるため、反応管52内では反応は起こらず、このモードでは反応管52は単なる流路となっている。
【0021】
正極側の校正用の原料ガス53についても同様に、各ガスの流量制御器(窒素流量制御器61、酸素流量制御器63、水素流量制御器64)を一種類ずつ切り替えて当該ガスを反応管54に導入し、切替バルブ69を介して、ガスラインL13の高精度流量計83により、各ガス(窒素、酸素、水素)の正確な流量をそれぞれ測定する。この反応管54も、反応管52と同様に単なる流路となっているだけである。このように、負極側と正極側の校正用の原料ガス51、53の流量制御器の校正を行うことで、ひいては、生成ガスの成分や流量を精度よく測定できるものである。なお、これら水素流量制御器55、64、窒素流量制御器57、61、酸素流量制御器59、63等は、試験装置10への設置前に校正用の高精度流量計(石鹸膜流量計など)によりそれぞれ校正しておいてもよいが、事前校正モード1により、これらの流量制御器を設置した状態で、各流量制御器を切り替えて順にガスを流すことで、これらの校正をまとめてかつ簡便に行うことができる。
【0022】
(事前校正モード2)
このモードは、測定用ガス21、23の各流量制御器の校正を行う機能を有するモードである。この試験装置10によれば、測定用ガス21、23の各流量制御器の事前校正も行うことができる。この場合の試験装置10のガスライン系統を
図3に示す。
負極側の測定用ガス21の水素を、切替バルブ65、67の切り替えにより、ガスラインL1から切替バルブ65、67を介してガスラインL9からガスラインL10に導入する。この場合も校正用原料ガス51、53の各流量制御器の事前校正と同様に、高精度流量計81により、水素の正確な流量が測定できることで、水素流量制御器29の校正ができる。また、正極側の測定用ガス23は、切替バルブ69の切り替えにより、ガスラインL11からガスラインL12を介してガスラインL13に導入することで、高精度流量計83により空気流量制御器43の校正ができる。なお、これら水素流量制御器29、空気流量制御器43等は、試験装置10への設置前に校正用の高精度流量計(石鹸膜流量計など)によりそれぞれ校正しておいてもよいが、事前校正モード2により、これらの流量制御器を設置した状態で、これらの校正をまとめてかつ簡便に行うことができる。
【0023】
なお、事前校正モード1と事前校正モード2の行う順番はどちらが先でも構わないし、どちらか一方のみ行ってもよい。そして、試験装置10の運転に先だって、すなわち測定前に必ずしも行わなければいけないものでもなく、必要なときに行ってもよい。また、水量制御器27と水蒸気流量制御器32については、以下の方法により校正することができる。原料水を蒸発器25に供給する際に、蒸発器25内の温度、圧力を、供給水が全量、水蒸気となる条件とし、供給水量(原料水の減少量)が水蒸気流量と一致することを利用する方法である。例えば、原料水の蒸発器25への供給量を電子天秤などの重量計で正確に測定し、所定時間(例えば、30分間)の水の減少量から水量制御器27と水蒸気流量制御器32の設定値と実際の水蒸気の流量(水の減少量から算出される)とを比較することで、水量制御器27と水蒸気流量制御器32の校正を行うことができる。
【0024】
(測定モード1)
次に、
図4のSOEC1の試験装置10のガスライン系統図(測定モード)に基づいて、原料をSOECに供給して生成ガスを測定するときの動作について説明する。なお、
図4の試験装置10は、主に高精度流量計81、83を設置していない点で
図2の試験装置とは異なるが、それ以外の構成については共通しており、共通する部分の説明は省略する。
【0025】
上記の事前校正後、高精度流量計81、83を取り外して、所定の起動条件でSOECを起動した後に所定の運転条件に設定する。SOECの温度、生成ガス量、電解電流、電解電圧等が安定した後に測定を開始する。ここで測定とは、主に測定用ガス21、23を用いて電解反応を行い、生成ガスを上記流量計33、湿度計35、測定装置41、流量計45、露点計47、酸素濃度計48等のセンサ類(生成ガス測定器)によりガス成分を測定することをいうが、校正用ガス51、53を用いて電解反応を行い、上記センサ類によりガス成分を測定することも含まれる。そして、この測定によって、SOEC1の性能を確かめる試験をしたり、SOEC1の性能を評価したりすることができる。このモードは、上記センサ類が配置されたガスラインL4、L7のガス成分を測定する機能を有するモードである。
【0026】
所定の起動プロセス終了後、測定用ガスを試験条件に設定し、SOEC1の電解特性の測定を開始する。所定の起動プロセスとしては、図示していないが、SOEC1を加熱するための電気炉(
図8)などの温度、供給ガスの組成・流量・圧力を設定して、昇温し、安定するまで待つことである。通常の試験装置10の運転時では、負極13側の測定用の原料ガス21のうち、原料水が蒸発器25に供給されて、水蒸気となったガスと少量の水素が切替バルブ65を介してガスラインL2(負極13に接続している)から負極13に供給される。
【0027】
負極13に水蒸気が供給されると、SOEC1での電解反応により水素と酸素が生成する。正極12側では、測定用ガス23である空気をガスラインL5(正極12に接続している)から正極12に供給し、生成した酸素をガスラインL6(正極12に接続している)からガスラインL7へと搬送する。負極13側では、水素と、未反応の水蒸気とがガスラインL3(負極13に接続している)からガスラインL4に流れて、流量計33により全流量が測定され、さらに湿度計35により水蒸気濃度が測定されて、チラー37により水分が除去された後、水素濃度(反応により発生した水素と未反応の水素)と窒素濃度(正極側の空気から負極側に流入した窒素)が測定装置41により測定される。正極12側では、流量計45により全流量が測定され、露点計47により、正極側に流入あるいは正極で発生する水蒸気の濃度が測定されて、チラー37により水分が除去された後、酸素濃度(反応により発生した酸素と空気中の酸素)が酸素濃度計48により測定される。正極側の窒素流量は、流量計45と酸素濃度計48から計算される。なお、負極側の湿度計35では多量の水蒸気を正確に測定するため、高温用の湿度計を用いてオーブン75の内部に設置している。一方、正極側の露点計47は負極側を流れる水蒸気量に比べると微量の水蒸気を測定するものであるため、高温のオーブン75(例えば、130-150℃)の外部に設置し、低温のオーブン79(例えば、室温から150℃、通常は正極側水蒸気の露点を10℃程度上回る温度に設定)内に配置している。そして、これら湿度計35、測定装置41、露点計47、酸素濃度計48等のセンサ類により測定された生成ガス等の流量を原料ガスの流量と比較することで、SOEC1の電解性能の試験や電解性能の評価をすることができる。
【0028】
(センサ校正モード)
ここで、測定中、ガスラインL4、L7に設置されたセンサ類(生成ガス測定器)の校正が必要になった場合に、センサ校正を行う。例えば、前記センサ類においてドリフトが発生したり、長時間(例えば、1か月以上など)運転を継続したり、オーブン75の温度を変更した場合などが想定される。このモードでは、校正用ガス51、53を流量計33、湿度計35、測定装置41、流量計45、露点計47、酸素濃度計48等のセンサ類が設置されたガスラインL4、L7に流すことで、センサ類の校正を行うものである。すなわち、このモードは、これらのセンサ類の校正を行う機能を有するモードである。
【0029】
まず、校正用ガス51、53の供給を開始し、各流量が所定の流量になり安定するまで待つ。このとき、校正用ガス51、53は、それぞれガスラインL10、L13からオーブン75の外部へと排出される。また、露点計47では水蒸気濃度を測定するため、校正用の原料ガス53には水素も使用して、酸素と水素を反応させることで所定の水蒸気流量を生成させる。そして、校正用ガス51、53が所定の流量になり、安定したら切替バルブ65、67、69を変更する。この時のSOEC1の試験装置10のガスライン系統図(センサ校正モード)を
図5に示す。このモードでは、校正用ガス51、53は、それぞれ、湿度計35、測定装置41、露点計47、酸素濃度計48等のセンサ類が設置されたガスラインL4、L7を流れる構成となる。なお、測定用ガス21、23はガスラインL10、L13をそのまま流れる状態が維持される。
【0030】
そして、各ガスの測定値は、各センサ類の測定値(表示値)を用いて、以下の式から算出できる。
負極側では、流量計33の表示値をfNMFM、高温湿度計35による水蒸気濃度の測定値をCNH2O、測定装置41の窒素濃度の測定値をCGCN2、水素濃度の測定値をCGCH2とすると、以下の式が成り立つ。なお、以下の式について、「N」は負極側であることを示し、「f」は流量を示し、「C」は濃度を示している。
fNMFM = fNH2O/CFH2O+fNN2/CFN2+fNH2/CFH2 (1)
CNH2O = fNH2O/(fNN2+fNH2+fNH2O) = fNH2O/fNtotal (2)
CGCN2 = fNN2/(fNN2+fNH2) (3)
CGCH2 = fNH2/(fNN2+fNH2) (4)
(上記式(1)中、CFH2O及びCFH2は流量計33の窒素基準とした水蒸気と水素のコンバージョンファクター(CF)である。なお、CFN2は窒素のCFであり、1である。通常、コンバージョンファクターの値は流量計製作者から得るか、計測したいガスを実際に流し流量校正を行って求める。また、式(2)-(4)中、fNH2OはガスラインL4を流れる水蒸気流量、fNN2は窒素流量、fNH2は水素流量である。)
【0031】
上記式(1)-(4)から、下記式(5)-(7)が導かれfNH2O、fNN2、fNH2が求められる。
fNH2O ={CFH2OCNH2O/(CFH2O+CNH2O- CFH2OCNH2O)}・fNMFM (5)
fNN2 = {CGCN2CFH2O(1-CNH2O)/(CFH2O+CNH2O- CFH2OCNH2O)}・fNMFM (6)
fNH2 = {(1-CGCN2)CFH2O(1-CNH2O)/(CFH2O+CNH2O- CFH2OCNH2O)}・fNMFM (7)
【0032】
正極側では、流量計45の測定値をfPMFM、露点計47による水蒸気濃度測定値をCPH2O、酸素濃度計48の酸素濃度の測定値をCPO2とすると、以下の式が成り立つ。なお、以下の式について、「P」は正極側であることを示し、「f」は流量を示し、「C」は濃度を示している。また、fPH2OはガスラインL7を流れる水蒸気量、fPN2は窒素流量、fPH2は水素流量、fPO2は酸素流量である。
fPMFM = fPH2O/CFH2O+fPN2/CFN2+fPH2/CFH2+fPO2/CFO2 (8)
CPH2O = fPH2O/(fPN2+fPH2+fPO2+fPH2O) = fPH2O/fPtotal (9)
CPO2 = fPO2/(fPN2+fPH2+fPO2) (10)
fPH2 = 0(正極側の水素はゼロである。仮に、負極側の水素が正極側に流入した場合でも、正極側にある多量の酸素と反応し、水蒸気となるからである。)
CFH2O、CFO2及びCFH2は流量計45の窒素基準とした水蒸気と水素のコンバージョンファクター(CF)である。なお、CFN2は窒素のCFであり、1である。
上記式(8)-(10)から、下記式(11)-(13)が導かれfPO2、fPH2O、fPN2が求められる。
fPO2 = {CPO2/(1-CPO2)}・fPN2 (11)
fPH2O = [CPH2O/{(1-CPO2)(1- CPH2O)}]・fPN2 (12)
fPN2top = CFH2OCFO2(1-CPO2)(1- CPH2O)fPMFM、
fPN2bottom = CFO2CPH2O+CFO2CFH2O(1-CPO2)(1- CPH2O)+CFH2OCPO2(1- CPH2O)として、
fPN2 = fPN2top/fPN2bottom (13)
なお、露点計、湿度計は水蒸気の濃度を明示的に表示できないものもあり、その場合は校正用に決まった濃度のガスを発生させて、露点計、湿度計により、水蒸気分圧を測定し、校正用の水蒸気濃度と比較することにより、測定分圧と濃度の関係式を導き、測定濃度を算出する。なお、その際、配管内の圧力を別途測定し、配管内圧力値そのものと圧力が変動していないことを確認する。
【0033】
そして、このモードでは、校正用ガス51、53の各流量制御器(水素量制御器55、窒素量制御器57、酸素量制御器59、窒素量制御器61、酸素量制御器63、水素の流量制御器64)の流量が安定し、流量計33、45、湿度計35、測定装置41、露点計47、酸素濃度計48等のセンサ類のセンサ値も一定になったら各センサ値を測定する。負極側では、校正用ガス51である水素、窒素、酸素が反応管52において水素と酸素の燃焼反応により水蒸気が生成する。この燃焼反応において、水素はリッチな状態で反応させることから、生成ガスは水蒸気と水素との混合ガスとなる。また、窒素はそのまま前記混合ガスと共に切替バルブ65、67を介してガスラインL4へ流れて、湿度計35により水蒸気濃度が、測定装置41により水素濃度と窒素濃度が、それぞれ測定される。正極側では、校正用ガス53である水素、酸素が反応管54において水蒸気となり、窒素と共に切替バルブ69を介してガスラインL7へ流れて、露点計47により水蒸気濃度が、酸素濃度計48により酸素濃度が、それぞれ測定される。
【0034】
所定の時間測定したら校正用ガス51、53の組成や流量を変えて測定を繰り返す。所定の組成範囲や流量範囲での測定が終了したら、切替バルブ65、67、69を変更して、前記測定モード1(
図4)になるように戻し、校正用ガス51、53の供給を停止する。供給した組成・流量値と測定値を対比させることで、それぞれのセンサ類の校正ができる。
【0035】
SOECの性能の長期間にわたる試験や評価では、各種制御器、測定器等が不具合を起こす場合もあるが、このような場合については、SOECの運転を中断することなく不具合を起こした制御器、測定器等の修理、交換を簡便に行うことができる。したがって、長期間に及ぶ連続運転も可能である。また、全てのセンサ類を校正する必要はなく、必要なもののみ行えばよい。
【0036】
また、上記説明したセンサ校正モードは、測定モードで高温(例えば、電気炉温度700℃)での運転中に切替バルブ65、67、69を変更して運転を継続しながらセンサ類を校正するものであるが、運転前または運転後などにセンサ校正モードにより、各センサ類の校正を行うこともできる。この場合、SOECは運転していないことから電気炉が昇温されておらず、電解セルの温度は、室温程度である。このように、SOECに測定用ガス21、23を供給することなく、各センサ類の校正を行うこともできる。
【0037】
(測定モード2)
また、測定は、主に測定モード1により、測定用ガス21、23を用いて電解反応を行い、生成ガスのガス成分をセンサ類により測定するものであるが、校正用ガス51、53を原料ガス等に用いて電解反応を行い、センサ類によりガス成分を測定してもよい。この場合のSOEC1の試験装置10のガスライン系統図を
図6に示す。この時の原料をSOECに供給して生成ガスを測定するときの動作について説明する。
【0038】
この測定モード2では、負極13側では、校正用ガス51である水素、酸素が反応管52において水素と酸素の燃焼反応により水蒸気、水素が生成する。そして、ガスラインL8、L2を介して負極13に水蒸気が供給されると、SOEC1での電解反応により水素(負極)と酸素(正極)が生成する。正極12側では、校正用ガス53である窒素、酸素(例えば4:1)をガスラインL5から正極12に供給し、生成した酸素をガスラインL6からガスラインL7へと搬送する。負極13側では、水素と未反応の水蒸気がガスラインL4を流れて、流量計33により全流量が測定され、さらに湿度計35により水蒸気濃度が測定されて、チラー37により冷やされた後、水素濃度(反応により発生した水素と未反応の水素)と窒素濃度(正極側の空気から負極側に流入した窒素)が測定装置41により測定される。また、正極12側では、流量計45により全流量が測定され、露点計47により、正極側に流入する水蒸気濃度が測定されて、チラー37により冷やされた後、酸素濃度(反応により発生した酸素と空気中の酸素)が酸素濃度計48により測定される。この測定モード2においては電解電流が0の時、湿度計35、測定装置41、露点計47、酸素濃度計48等のセンサ類により測定された生成ガスの流量等を校正用ガスの流量と比較することで、SOEC1のガスリークの評価を簡便、高精度に行うことができる。一方、測定モード1では、測定用ガス21、23に容易に入手可能な水や空気を用いていることから、大流量の測定、長時間の測定などを行う場合に好適である。
【0039】
(実施形態2)
図7には、別の実施形態のSOEC1の試験装置10Aのガスライン系統図を示す。この試験装置10Aでは、切替バルブ71、73に代えて、反応管54の下流側に切替バルブ69とは別の切替バルブ87を配置したものである。それ以外の構成については
図5の試験装置10(センサ校正モード)と共通しており、共通する部分の説明は省略する。
この試験装置10Aでは、測定用ガス23である空気をガスラインL15から切替バルブ87を介してガスラインL16から正極12に供給し、生成した酸素をガスラインL6から切替バルブ69を介してガスラインL13へと搬送する。また、校正用ガス53である水素、酸素が反応管54において水蒸気となり、ガスラインL17から窒素と共に切替バルブ87、ガスラインL18、切替バルブ69を介してガスラインL7へ流れて、露点計47により水蒸気濃度が、酸素濃度計48により酸素濃度が、それぞれ測定される。
この実施形態2においても、実施形態1のモードと同様の各モードを構成することができる。また、切替バルブ71、73を一つの切替バルブ87で兼用できることから、簡素な構成となる。
【0040】
以上、述べたように、上記実施形態の試験装置によれば、事前校正モード、測定モード、センサ校正モード等を有し、SOECの測定(試験)中に測定モード1、測定モード2、センサ校正モードは必要に応じて切り替えることができるものである。また、この切り替えは、切替バルブ65、67、69、71、73、74、87を切り替えることで簡便、容易にできる。また、切り替えは手動ではなくモード切替スイッチ等により自動で行うこともできる。さらに、これらのモードとなるように、予め定められたプログラムに基づいて図示しない制御装置により制御されるようにしてもよい。そして、上記実施形態の試験装置により、電解により生成するガスの正確な流量を把握できる。
【実施例0041】
[実施例1]
(事前校正)
図8には、固体酸化物形電解セルの試験装置の全体写真を示す。オーブンA、B、Cは、それぞれ
図2等に示す試験装置10のオーブン75、77、79に相当する。オーブンBは負極への水蒸気供給装置である。オーブンAは
図2等で示したように反応管52、54、切替バルブ65、67、69、流量計33、45、湿度計35、セル出入り口の圧力計P1-P3などを有し、それぞれ配管で接続され、測定値をロガーに出力している。オーブン中に設定されている各測定機器は150-180℃で使用可能なものを選定している。また、オーブンAの上部にあるSOEC運転用の電気炉内のSOECの正負極にガスを供給している。オーブンCには、正極ガス水蒸気濃度を計測するために露点計47を配置している。正極ガス中の水蒸気濃度は負極に比較して低いので、水蒸気濃度がなるべく高い精度で測定できるよう、オーブンCの温度は露点計47の測定値を参考にしてなるべく低く設定している。各オーブンの温度は各オーブンが有する温度制御装置により制御される。電気炉は
図2等では示されていないがSOECの運転温度制御に用いる。モニター・制御系はロガーと温度・プレス圧制御システム、蒸気供給システムからなり、正負極の各ガス流量、各部の温度、各圧力計、湿度計、露点計、酸素濃度計、正負極の流量計、直流安定化電源の電流、SOECの出力電圧等の測定値をモニターし、電気炉の温度、SOECに印加する荷重、蒸発器に供給する水の流量等を制御する。ガス供給系は多数の質量流量計(マスフローコントローラー)で構成され正負極の測定用ガス、校正用ガスを供給する。正負極ガス分析系は正極の酸素濃度計48と負極用の測定装置41(ガスクロマトグラフ)からなりオーブンAおよびオーブンCの出口に配置したチラー37を経由してきた正負極の生成ガスの窒素濃度(負極)と酸素濃度(正極)を室温条件で測定する。電気制御系は直流安定化電源、交流インピーダンス測定装置等からなり前者はSOECに印加する電流値を制御する。後者は運転条件下でのSOECの内部インピーダンスを測定する。各オーブン、電気炉はガス配管で接続されている。接続部分でガスが冷却されないよう、必要に応じて配管を保温し、ガス配管を通す開口部はシリコンゴム等で隙間を埋めている。
【0042】
本実施例で用いたSOEC1は直径50mm、厚さ1.5-2mmで、Ni-YSZ(Y
2O
3安定化ZrO
2)多孔質支持体の上にNi-SDC(Sm
2O
3ドープCeO
2)負極、SSZ(Sc
2O
3安定化ZrO
2)電解質膜、La
0.85Sr
0.15Co
0.2Fe
0.8O
3正極をデップコート法で塗布、焼成する方法を繰り返し形成した。作製したセルは正負極の短絡を防ぐ絶縁板、正負極のガスのリークを防ぐシール板および正負極のガス供給板を用いて試験装置に設置した。
下記各装置およびガスライン(ステンレス製チューブ)を
図2に示すように、セルの負極側と正極側に配置した。
【0043】
図2示すガスライン系統(事前校正モード1)とし、校正用原料ガス51、53の各流量制御器の校正を室温にて行った。ガスラインL10、L13に、校正用の石鹸膜流量計(株式会社堀場エステック製、品番SU-2U)81、83を配置して、負極側校正用ガス51の水素、窒素、酸素を、それぞれ順にガスラインL10に供給し、石鹸膜流量計81を用いて測定した。また、正極側校正用ガス53の窒素、酸素、水素を、それぞれ順にガスラインL13に供給し、石鹸膜流量計83を用いて測定した。それぞれのガスの流量制御器の設定値を変えて、このときの石鹸膜流量計に表示される実測値を測定した。なお、以下の実施例において、実施例1と共通する装置、計器等は、実施例1と同じものを用いた。このときの測定結果(校正結果)を
図9に示す。また、各ガスの流量制御器の設定値と実測値(石鹸膜流量計の表示値)とを対比させて各流量制御器の校正値を計算する計算式を得た。なお、正極側校正用ガス53の水素の流量制御器については、測定結果の記載は省略した。そして、測定用ガス21、23の各流量制御器(水素量制御器29、空気量制御器43等)は、試験装置10への設置前に校正用の高精度流量計(石鹸膜流量計)によりそれぞれ校正した。
【0044】
[実施例2]
(センサ校正)
実施例1による測定用ガス21、23と校正用原料ガス51、53の各流量制御器の事前校正の後、配管内で水蒸気が凝集しないようにそれぞれのオーブン温度を所定の温度(オーブン75は135℃、オーブン79は80℃)まで上昇させた後、ガスライン系統を
図5のように切替えセンサ校正を行った。
また、正負極の流量計33、45についてはヒータ(図示せず)により150℃に加温した。
センサ校正モード(
図5)では、校正用ガス51、53は、それぞれ、流量計33、湿度計35、測定装置41、流量計45、露点計47、酸素濃度計48等のセンサ類が設置されたガスラインL4、L7を流れる。本実施例では、負極側流量計33、正極側流量計45、酸素濃度計48、湿度計35、露点計47について、各センサ値を測定した。このときの測定結果を
図10及び
図11に示す。
図10(A)は酸素濃度計48、
図10(B)は湿度計35、
図10(C)は露点計47の測定結果である。事前校正時の校正値を利用して、規定された濃度のガス(実測値で示す)を各センサに供給して表示値との校正を行った。また、
図11(A)は負極側の流量計33、
図11(B)は正極側の流量計45の測定結果である。事前校正時の校正値を利用して、規定された濃度のガスを各流量計に供給して校正を行った。この場合も、各ガスの表示値と設定値(正しい値)とを対比させて各計器の校正値を計算する計算式を得た。なお、
図11(A)においては、CF
H2Oは0.81、CF
H2は1として、
図11(B)においては、CF
N2は1、CF
O2は0.98としてfN
MFMとfP
MFMを計算した。
【0045】
[実施例3]
(測定、評価)
センサ校正後、切替バルブ65、67、69を
図6(測定モード2)の状態にし、SOEC1に校正用ガスを利用してガスの供給を開始するとともに外部電源2により電力を供給して、電気炉の温度を700℃に昇温した。表1には、測定条件を示す。なお、下記運転温度とは、電解反応温度を示している。
【表1】
【0046】
なお、正極と負極側の供給ガスは、具体的には以下のようにした。
(1)電気炉温度が200℃未満の時
正極:窒素160sccm、酸素40sccm 負極:窒素200sccm(安全性を考慮し、水素の代わりに窒素を供給)
(2)電気炉温度が200-700℃の時(炉の温度が200℃になったら、組成を変えた。)
正極:窒素160sccm、酸素40sccm 負極:窒素160sccm、水素40sccm
昇温速度 100℃/hとした。200℃以上700℃まで水素を薄めて流し、負極のNiOをNiに還元した。
電気炉温度が700℃に達し、負極の還元が完了し、開回路(電解電流0A)の電解電圧が一定になったら、
(3)正極:窒素160sccm、酸素40sccm 負極:水素200sccm、酸素80sccm(表1の反応管供給ガス組成)
とし、測定を開始した。このとき、各ガスの測定値は、各センサ類の測定値(表示値)を用いて、上記(1)-(13)の式から算出した。これにより、電解セルの性能を確認した。
【0047】
図12(A)は、負極出口でのガス成分ごとの流量測定結果であり、
図12(B)は、正極出口でのガス成分ごとの流量測定結果である。また、
図13には、正負電極入口と出口でのH、O、Nのマテリアルバランスを示す。これらの結果は、前記式(1)-(13)から得られたものである。また、マテリアルバランスは、Hは負極側のH
2OとH
2(式(5)、(7))と正極側のH
2O(式(12))から、Oは負極側のH
2O(式(5))と正極側のO
2とH
2O(式(11)、(12))から、Nは負極側のN
2(式(6))と正極側のN
2(式(13))から求めることができる。
【0048】
SOECの性能評価では、セル負極からの水素ガスのリーク流量、正極から負極へのO
2の漏れ込みによるH
2の消費量などを把握することが重要である。なお、消費とは、生成したガス(例えばH
2)が他のガス(例えばO
2)との反応により他の生成物(例えばH
2O)となることで、生成したガスが消費されることをいう。SOECへの供給ガス、生成ガス中には水分が含まれるため、水素生成能力、ガスリーク流量などを測定するためには、蒸気が凝縮しない状態で流量や成分を測定する必要がある。本実施例では、負極側の流量計33と湿度計35をオーブン75内に配置することで、水蒸気の凝縮を防止して、正確な水蒸気量を測定することができる。流量計33と湿度計35は、使用温度が150-180℃でも可能な高温用のものである。本実施例の装置により、H
2Oを含めてSOEC正極、負極の出口ガス組成・流量が測定可能となった。そして、これらの結果により正極から負極へのN
2リーク流量(
図12(A)の黒四角のプロット)、正極から負極へのO
2リーク流量と負極から正極へのH
2リーク流量によるH
2の減少量(
図12(A)の黒三角のプロットの理論値と測定値との差)、正極から負極へのO
2リーク流量と負極から正極へのH
2Oリーク流量によるH
2O量の増減(
図12(A)のひし形のプロットの理論値と測定値との差)、負極から正極へのH
2リーク流量(正極側O
2と反応してH
2Oが生成)と負極から正極へのH
2Oリーク流量による正極でのH
2O発生量(
図12(B)の白抜きひし形のプロット)、さらに負極から正極へのH
2リーク流量と正極から負極へのO
2リーク流量による正極におけるO
2の減少量(
図12(B)の黒ひし形のプロットの理論値と測定値との差)などを求めることができる。
【0049】
また、
図13から、正負電極入口と出口でのH、O、NのマテリアルバランスはH、O、Nとも2%以内で、流量計の不確かさ程度のずれのみであることから、各電極12、13からセル周辺へのリークはほぼないことが示された。そのような場合は、正負極間のリーク(負極から正極または正極から負極へ電解質を介して移動するリークを指す)のみを考慮すればよい。そして、ガスラインL4、L7を流れる湿度計35、測定装置41、露点計47、酸素濃度計48等のセンサ類のセンサ値から、正極側から負極側にリークする窒素量、正極側から負極側にリークする酸素量、負極側から正極側にリークする水素量、負極側から正極側にリークする水蒸気量が、下記式(14)-(20)から求めることができる。
【0050】
電解電流をI(A)とすると、電解により発生するH2は、下記式(14)で示される。
60(秒)×22400I/2F(sccm) = aI (14)
a=6.965 sccm/A F:ファラデー定数
また、水素のリーク流量は下記式より計算される。
負極出口理論H2流量 fNtheoH2 = fNinH2 + aI (15)
fNinH2:H2供給流量
負極出口消耗H2流量 fNcomH2 = fNinH2 + aI - fNH2 (16)
なお、消耗流量とは、負極から正極やセル外部へのリーク分と正極から負極へのO2の漏れ込みによるH2の消費量分を合わせた流量をいう。
fNH2:負極出口のH2流量(式(7)より)
正極から負極へのリークN2流量 fP-NN2 = fNN2 (17)
fNN2:負極出口のN2流量(式(6)より)
正極から負極へのリークO2流量 fP-NO2 = fPinO2 + 0.5aI - fPO2 - 0.5fN-PH2(18)
fPO2:正極出口のO2流量(式(11)より)
fPinO2:正極入り口のO2供給流量
負極から正極へのリークH2流量 fN-PH2 = fPH2O - fN-PH2O (19)
fN-PH2O:負極から正極へのリークH2O流量
水蒸気のマテリアルバランス fNH2O = fNinH2O - fN-PH2O + 2fP-NO2 - aI(20)
fNinH2O:H2O供給流量
【0051】
正極から負極へのリークO
2流量、負極から正極へのリークH
2流量、負極から正極へのリークH
2O流量は、以下の考え方により、求めることができる。
正極、負極間のガスリークについて、負極からはH
2Oが正極側にリークし、正極からはO
2が負極側にリークする。ここで、理論水蒸気流量に比べてH
2O流量(ガスラインL4を流れる水蒸気流量であって、上記式(5)から計算されるfN
H2Oである。)が多い場合、正極からリークしたO
2が負極側のH
2と反応することでH
2Oが生成し、H
2O量が過剰になったと考えられる(2fP-N
O2 > fN-P
H2Oともいえる)。前記理論水蒸気流量は、負極に供給した水蒸気流量(fNin
H2O)から電解反応した水蒸気流量(aI)を引いた値「fNin
H2O - aI」である。したがって、この場合は、正極から負極へのリークO
2量が多く、負極から正極へのリークH
2O流量はほぼゼロと考えてよい。一方、理論水蒸気流量に比べてガスラインL4を流れるH
2O流量が少ない又は同じ場合、先とは反対にH
2O量が不足している(過剰ではない)ことから、負極から正極へのリークH
2O流量が多く(2fP-N
O2 ≦ fN-P
H2Oともいえる)、正極から負極へのリークO
2量はほぼゼロと考えてよい。本実施例では、
図12(A)から(ひし形のプロットで示す)、理論水蒸気流量に比べて負極側で測定されるH
2O流量が多いことから、前者に該当し、下記式(21)、(22)が成り立つ。
fP-N
O2 = 0.5(fN
H2O -(fNin
H2O - aI)) (21)
fN-P
H2O = 0、fN-P
H2 = fP
H2O (22)
一方、理論水蒸気流量に比べて負極側で測定されるH
2O流量が少ない又は同じ場合は、下記式(23)、(24)が成り立つ。
fN-P
H2O = fNin
H2O - aI - fN
H2O (23)
fP-N
O2 = 0、fN-P
H2 = fP
H2O - fN-P
H2O (24)
【0052】
上記式(21)、(22)と、上記式(18)-(20)から、正極から負極へのリークO
2流量、負極から正極へのリークH
2流量を求めた結果を
図14に示す。この結果から、正負極間の全てのリーク流量の電界電流依存性等を正確に評価することができることが分かった。
本実施例によれば、セル負極からのH
2のリーク流量、正極から負極へのO
2の漏れ込みによるH
2の消費量などの測定が可能となることから、水素生成能力、ガスリーク流量などを含めた、SOECの正確な評価が可能となる。
以上より本実施例の装置により、H
2Oを含めてSOEC正極、負極の出口ガス組成・流量が測定可能となった。そして、本実施例によれば、セル負極からのH
2のリーク流量、正極から負極へのO
2の漏れ込みによるH
2の消費量などの測定が可能となることから、水素生成能力、ガスリーク流量などを含めた、SOECの正確な評価が可能となる。
【0053】
なお、マテリアルバランス測定の結果、セル周辺へのリークが無視できない場合でも正極から周辺部へのN2とO2リーク流量(fsO2)が供給ガス組成を保ちながら、N2とO2がリークするなどの場合は、セル周辺部へのN2リーク流量からセル周辺部へのO2リーク流量が以下のように計算できる。この判断基準は、測定者(評価者)が期待する測定精度、測定器の測定精度による。例えば1%精度でリーク流量を測定したい場合はマテリアルバランスもその程度の精度で測定する。その場合、精度が1%より十分大きければリークがあるということになる。一方、測定者が5%程度の精度でも問題ないと判断すれば、同じ測定値の場合でも誤差の範囲ということになる。そして、このリークは、上記した電解質を介する正負極間のリーク(セル内部のリーク)とは異なり、ガスラインL4、L7を流れることなく、セル外部に放出されるリークのことをいう。この場合は、以下の考え方により、求めることができる。電解セル外部にリークしたガス流量をそれぞれfsN2、fsO2、fsH2、fsH2Oとするとマテリアルバランスから、以下の式が導かれる。なお、下記式中、未知数はfsN2、fsO2、fsH2、fsH2Oのみであり、他の値は設定値、測定値又は上記式(1)-(14)等から算出される。
【0054】
fPinN2 = fNN2 + fPN2 + fsN2 (25)
fNinH2 + fNinH2O = fNH2 + fNH2O + fPH2O + fsH2 + fsH2O (26)
fPinO2 + 0.5fNinH2O = fPO2 + 0.5 fNH2O + 0.5 fPH2O + 0.5 fsH2O + fsO2 (27)
fsH2:H2の形で周辺にリークする流量
fsH2O:H2Oの形で周辺にリークする流量
fsO2:O2の形で周辺にリークする流量
fsN2:N2の形で周辺にリークする流量
fPinN2:正極入り口のN2供給量(正極のみ)
【0055】
式(25)では、fsN2のみ未知数であるため、当該式からfsN2を求めることができる。さらに何らかの方法によりfsN2とfsO2の関係が求められる場合、例えばfPinO2≫0.5aIの場合(O2供給流量が過剰の場合を意味するが、所定倍以上とする基準は測定者(評価者)が判断する。)は、電解により生成するO2は0.5aIであることから、電解により生成するO2の正極酸素濃度に対する影響は小さく、正極のN2供給量とO2供給量の比とリークしたN2量とO2量の比はほぼ等しいと考えられるので下記式(28)が成立し、式(28)からfsO2を求めることができる。
fsO2 = (fPinO2 / fPinN2)fsN2 (28)
fsO2が求められれば、上記式(27)からfsH2Oを、上記式(26)から、fsH2を求めることができる。
このように、マテリアルバランスと上記式(28)など、fsN2とfsO2の関係が規定できる式が得られれば、これらから、窒素、酸素、水蒸気、水素の電解セル外部周辺へのリークの測定も可能となる。従って、O2などのリーク流量が推定あるいは測定できれば、上記の方法でセル周辺部へのリーク流量が可能となり得られた値を用いて、電極間の各種リーク流量が以下のように計算可能となる。
2fP-NO2 > fN-PH2Oの時
fP-NO2 = 0.5(fNH2O -(fNinH2O - aI - fsH2O)) (29)
fN-PH2O = 0、fN-PH2 = fPH2O (30)
2fP-NO2 ≦ fN-PH2O
fN-PH2O = fNinH2O - aI - fsH2O - fNH2O (31)
fP-NO2 = 0、fN-PH2 = fPH2O - fN-PH2O (32)
よって水素生成能力、ガスリーク流量などを含めた、SOECの正確な評価が可能となる。
水蒸気電解の他、原料として二酸化炭素を用いた場合や水蒸気と二酸化炭素を用いた共電解にも利用可能性がある。また、水蒸気からの水素製造分野の他、主に水蒸気を含むガスを精密に供給して各種製品を製造する分野において利用可能性がある。