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特開2024-141121R-T-B系焼結磁石およびその製造方法ならびに組成設計方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141121
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】R-T-B系焼結磁石およびその製造方法ならびに組成設計方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/057 20060101AFI20241003BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20241003BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20241003BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20241003BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20241003BHJP
   C22C 30/00 20060101ALN20241003BHJP
   C22C 28/00 20060101ALN20241003BHJP
   C22C 19/07 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
H01F1/057 170
H01F41/02 G
B22F3/00 F
B22F3/24 K
C22C38/00 303D
C22C30/00
C22C28/00 A
C22C19/07 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052596
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100155000
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 修市
(72)【発明者】
【氏名】古澤 大介
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 康太
【テーマコード(参考)】
4K018
5E040
5E062
【Fターム(参考)】
4K018AA27
4K018BA18
4K018BB04
4K018CA04
4K018CA07
4K018CA09
4K018CA34
4K018DA32
4K018FA08
4K018FA11
4K018KA45
5E040AA04
5E040AA19
5E040BD01
5E040CA01
5E040HB11
5E040HB15
5E040NN01
5E040NN06
5E062CD04
5E062CG07
(57)【要約】
【課題】重希土類元素の含有量を低減しつつ、高いB及び高いHcJを有するR-T-B系焼結磁石の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のR-T-B系焼結磁石の組成設計方法は、C+N+Oの含有量が40~60原子数%であり、かつ、C、NおよびOのいずれも含有する希土類酸化物相を粒界に含むR-T-B系焼結磁石の組成設計方法であって、C、NおよびOの含有量から前記希土類酸化物の相に分配されない有効C量を計算し、前記有効C量のCがBに等価であるとして組成を設計する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
14B化合物の主相と、前記主相の粒界に位置する粒界相とを含むR-T-B系焼結磁石(Rは希土類元素であり、NdおよびPrのうち少なくとも1つを必ず含み、TはFe、Co、Ni、Al、Mn、CrおよびVからなる元素の群であり、Feを必ず含む)であって、
元素あるいは元素群Xの含有量(mol%)を[X]で表し、
[Reff]=[R]-0.789[N]-1.58[O]、
[Beff]=[B]-0.8[Zr]-0.8[Ti]-0.4[Nb]、
[Ceff]=[C]+0.123[N]-0.754[O]
とするとき、
前記R-T-B系焼結磁石の元素含有量は、
[C]≧0.754[O]-0.123[N]、
14.13≦[T]/([Beff]+[Ceff])≦15.50、
5.1≦[T]/[Reff]≦6.7、
5.0≦[B]≦6.5、
0.1≦[Ga]≦1.5、
0≦[Co]≦2、
0≦[Nb]≦0.35、および
0≦[Zr]+[Ti]+[Nb]≦0.7、
を満足するR-T-B系焼結磁石。
【請求項2】
前記粒界相は希土類酸化物相を含み、前記希土類酸化物相のC+N+Oの含有量が40~60原子数%であり、かつ、O、CおよびNのいずれも含有する請求項1に記載のR-T-B系焼結磁石。
【請求項3】
前記R-T-B系焼結磁石のある断面において、前記粒界相の断面積に対する前記希土類酸化物相の断面積の割合が20%以上、80%以下である請求項1に記載のR-T-B系焼結磁石。
【請求項4】
磁石表面から磁石内部に向かってNd濃度およびPr濃度の少なくとも一方が漸減する部分を含む、請求項1に記載のR-T-B系焼結磁石。
【請求項5】
磁石表面から磁石内部に向かってTb濃度およびDy濃度の少なくとも一方が漸減する部分を含む、請求項4に記載のR-T-B系焼結磁石。
【請求項6】
[R]≦14.0を満足する、請求項1から5のいずれか1項に記載のR-T-B系焼結磁石。
【請求項7】
5.1≦[B]≦5.6を満足する、請求項1から5のいずれか1項に記載のR-T-B系焼結磁石。
【請求項8】
0≦[O]≦1.2を満足する、請求項1から5のいずれか1項に記載のR-T-B系焼結磁石。
【請求項9】
0≦[N]≦0.4を満足する、請求項1から5のいずれか1項に記載のR-T-B系焼結磁石。
【請求項10】
0≦[C]≦1.0を満足する、請求項1から5のいずれか1項に記載のR-T-B系焼結磁石。
【請求項11】
0.1≦[Ga]≦0.7を満足する、請求項1から5のいずれか1項に記載のR-T-B系焼結磁石。
【請求項12】
14.35≦[T]/([Beff]+[Ceff])≦15.00
を満足する、請求項1から5のいずれか1項に記載のR-T-B系焼結磁石。
【請求項13】
R-T-B系焼結磁石の製造方法であって、
焼結体素材を準備する工程と、
拡散源を準備する工程と、
前記焼結体の表面から前記拡散源に含まれる元素を内部に拡散させる工程と、
を含み、
元素あるいは元素群Xの含有量(mol%)を[X]で表し、
[Reff]=[R]-0.789[N]-1.58[O]、
[Beff]=[B]-0.8[Zr]-0.8[Ti]-0.4[Nb]、
[Ceff]=[C]+0.123[N]-0.754[O]とするとき、
前記焼結体素材の元素含有量は、
[C]≧0.754[O]-0.123[N]、
14.13≦[T]/([Beff]+[Ceff])≦15.50、
5.1≦[T]/[Reff]≦6.7、
5.0≦[B]≦6.5、
0.1≦[Ga]≦1.5、
0≦[Co]≦2、
0≦[Nb]≦0.35、および
0≦[Zr]+[Ti]+[Nb]≦0.7、
を満足するR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項14】
C+N+Oの含有量が40~60原子数%であり、かつ、O、CおよびNのいずれも含有する希土類酸化物相を粒界に含むR-T-B系焼結磁石の組成設計方法であって、
C、OおよびNの含有量から前記希土類酸化物の相に分配されない有効C量を計算し、前記有効C量のCがBに等価であるとして組成を設計するR-T-B系焼結磁石の組成設計方法。
【請求項15】
元素あるいは元素群Xの含有量(mol%)を[X]で表し、
[Reff]=[R]-0.789[N]-1.58[O]、
[Beff]=[B]-0.8[Zr]-0.8[Ti]-0.4[Nb]、
[Ceff]=[C]+0.123[N]-0.754[O]
とするとき、
[C]≧0.754[O]-0.123[N]および14.13≦[T]/([Beff]+[Ceff])≦15.50を満たすように前記組成を決定する、請求項14に記載のR-T-B系焼結磁石の組成設計方法。
【請求項16】
5.1≦[T]/[Reff]≦6.7、
を満足するように前記組成を決定する、請求項15または16に記載のR-T-B系焼結磁石の組成設計方法。
【請求項17】
5.0≦[B]≦6.5、
0.1≦[Ga]≦1.5、
0≦[Co]≦2、
0≦[Nb]≦0.35、および
0≦[Zr]+[Ti]+[Nb]≦0.7、
を満たすように前記組成を決定する、請求項16に記載のR-T-B系焼結磁石の組成設計方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、R-T-B系焼結磁石およびその製造方法ならびに組成設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
R-T-B系焼結磁石(Rは希土類元素のうちの少なくとも一種である。Tは遷移金属元素のうち少なくとも一種でありFeを必ず含む。Bは硼素である)は永久磁石の中で最も高性能な磁石として知られており、電気自動車用(EV、HV、PHVなど)モータ、産業機器用モータなどの各種モータや家電製品などに使用されている。R-T-B系焼結磁石は、主としてR14B化合物からなる主相と、この主相の粒界部分に位置する粒界相(以下、単に「粒界」という場合がある)とから構成されている。R14B化合物は高い磁化を持つ強磁性相である。
【0003】
R-T-B系焼結磁石は、高温で保磁力HcJ(以下、単に「保磁力」又は「HcJ」という場合がある)が低下して不可逆熱減磁が起こるという問題がある。そのため、特に電気自動車用モータに使用されるR-T-B系焼結磁石では、高温下でも高いHcJを有することが要求されている。
【0004】
R-T-B系焼結磁石において、R14B化合物中のRに含まれる軽希土類元素(主としてNd及び/又はPr)の一部を重希土類元素(主としてDy及び/又はTb)で置換すると、HcJが向上することが知られている。重希土類元素の置換量の増加に伴いHcJは向上する。
【0005】
しかし、R14B化合物中の軽希土類元素を重希土類元素で置換すると、R-T-B系焼結磁石のHcJが向上する一方、残留磁束密度B(以下、単に「B」という場合がある)が低下する。また、重希土類元素、特にDyなどは資源存在量が少ないうえ、産出地が限定されている、などの理由から供給が安定しておらず、価格が大きく変動するなどの問題を有している。そのため、近年、ユーザーから重希土類元素をできるだけ使用することなくHcJを向上させることが求められている。
【0006】
特許文献1には、Dyの含有量を低減しつつ保磁力を高めたR-T-B系希土類焼結磁石が開示されている。この焼結磁石の組成は、一般に用いられてきたR-T-B系合金に比べてB量が相対的に少ない特定の範囲に限定され、かつ、Al、Ga、Cuのうちから選ばれる1種以上の金属元素Mを含有している。その結果、粒界にR17相が生成され、このR17相から粒界に形成される遷移金属リッチ相(R13M)の体積比率が増加することにより、HcJが向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2013/008756号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
重希土類元素の含有量を低減しつつ、高いB及び高いHcJを有するR-T-B系焼結磁石の実現するため、B量(硼素濃度)を相対的に少なくすることによって二粒子粒界を厚く制御する技術が検討されている。しかし、二粒子粒界を厚くする条件はB量のみによるわけではなく、他の条件(例えばC量、O量、N量)によってB量の境界条件(B量の好ましい範囲を決める条件)が変動することがわかった。本開示のR-T-B系焼結磁石の製造方法および組成設計方法は、二粒子粒界を改良するために必要なC量、O量、N量、B量の範囲が特定され、優れたR-T-B系焼結磁石を実現することを可能とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示のR-T-B系焼結磁石は、限定的ではない例示的な実施形態において、
14B化合物の主相と、前記主相の粒界に位置する粒界相とを含むR-T-B系焼結磁石(Rは希土類元素であり、NdおよびPrのうち少なくとも1つを必ず含み、TはFe、Co、Ni、Al、Mn、CrおよびVからなる元素の群であり、Feを必ず含む)であって、
元素あるいは元素群Xの含有量(mol%)を[X]で表し、
[Reff]=[R]-0.789[N]-1.58[O]、
[Beff]=[B]-0.8[Zr]-0.8[Ti]-0.4[Nb]、
[Ceff]=[C]+0.123[N]-0.754[O]とするとき、
前記R-T-B系焼結磁石の元素含有量は、
[C]≧0.754[O]-0.123[N]、
14.13≦[T]/([Beff]+[Ceff])≦15.50、
5.1≦[T]/[Reff]≦6.7、
5.0≦[B]≦6.5、
0.1≦[Ga]≦1.5、
0≦[Co]≦2、
0≦[Nb]≦0.35、および
0≦[Zr]+[Ti]+[Nb]≦0.7、
を満足する。
【0010】
本開示のR-T-B系焼結磁石の製造方法は、限定的ではない例示的な実施形態において、
焼結体素材を準備する工程と、
拡散源を準備する工程と、
前記焼結体の表面から前記拡散源に含まれる元素を内部に拡散させる工程と、
を含み、
元素あるいは元素群Xの含有量(mol%)を[X]で表し、
[Reff]=[R]-0.789[N]-1.58[O]、
[Beff]=[B]-0.8[Zr]-0.8[Ti]-0.4[Nb]、
[Ceff]=[C]+0.123[N]-0.754[O]とするとき、
前記焼結体素材の元素含有量は、
[C]≧0.754[O]-0.123[N]、
14.13≦[T]/([Beff]+[Ceff])≦15.50、
5.1≦[T]/[Reff]≦6.7、
5.0≦[B]≦6.5、
0.1≦[Ga]≦1.5、
0≦[Co]≦2、
0≦[Nb]≦0.35、および
0≦[Zr]+[Ti]+[Nb]≦0.7、
を満足する。
【0011】
本開示のR-T-B系焼結磁石の組成設計方法は、限定的ではない例示的な実施形態において、
C+N+Oの含有量が40~60原子数%であり、かつ、C、NおよびOのいずれも含有する希土類酸化物相を粒界に含むR-T-B系焼結磁石の組成設計方法であって、
C、NおよびOの含有量から前記希土類酸化物の相に分配されない有効C量を計算し、前記有効C量のCがBに等価であるとして組成を設計する。
【発明の効果】
【0012】
本開示の実施形態によると、二粒子粒界を改良するために必要なC量、O量、N量、B量の範囲が特定され、優れたR-T-B系焼結磁石を実現することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A】R-T-B系焼結磁石の主相と粒界相を示す模式図である。
図1B図1Aの破線矩形領域内を更に拡大した模式図である。
図2】R-T-B系焼結磁石の微細組織構造の断面を示す顕微鏡写真の一例である。
図3】サンプルS1~S6について得られたR酸化物相の中の窒素(N)、酸素(O)、炭素(C)、および希土類元素(R)などの原子数比率(at.%)を示すグラフである。
図4】サンプルS1~S6について、[O]-[N]を白丸で示し、[O]-[C]を黒丸で示すグラフである。
図5】R-T-B系焼結磁石の幾つかのサンプルについて、拡散後の保磁力と[T]/[Beff]との関係を示すグラフである。
図6】上記の同じサンプルについて、拡散後の保磁力と[T]/([Beff]+[Ceff])との関係を示すグラフである。
図7】表3における試料No.2、No.7、No.12の断面のBSE(反射電子)像を示す写真である。
図8】表3における試料No.17、No.28の断面のBSE(反射電子)像を示す写真である。
図9】No.28の試料の断面について試料表面からのPr濃度の分布を示すグラフである。
図10】No.28の試料の断面について試料表面からのTb濃度の分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者は、C量(炭素濃度)、O量(酸素濃度)、N量(窒素濃度)が二粒子粒界を改良するために必要なB量の範囲に影響を与える物理モデルを構築し、優れたR-T-B系焼結磁石を実現するための組成設計の指針を見出した。本開示のR-T-B系焼結磁石の製造方法および組成設計方法の実施形態および実施例を説明する前に、本発明者が見出した知見を説明する。
【0015】
従来、R-T-B系焼結磁石において、例えば、(1)R(希土類元素のうち少なくとも一種でありNd及びPrの少なくとも一方を必ず含む)の含有量をR-T-B系焼結体全体の27mass%以上35mass%以下とし、(2)TがFe、Co、Al、Mn、およびSiからなる群から選択された少なくとも1つであり、Tが必ずFeを含有し、T全体に対するFeの含有量が80mass%以上である場合において、(3)Bに対するTのmol比([T]/[B])が14.0超15.0以下であるとき、Gaなどの元素を添加することにより、二粒子粒界を厚くしてHcJの向上が可能になることが知られている。
【0016】
Bに対するTのmol比([T]/[B])は、Tを構成する各元素(Fe又はCo、Al、Mn、Siの少なくとも1つとFe)の濃度の分析値(mass%)をそれぞれの元素の原子量で除した値を求め、それらの値を合計したmol数(a)の、Bの濃度の分析値(mass%)をBの原子量で除したmol数(b)に対する比(a/b)である。
【0017】
Bに対するTのmol比([T]/[B])が14.0を超えることは、Bの含有比率がR14B化合物の化学量論組成比よりも低いことを意味している。この場合、R-T-B系焼結磁石において、主相(R14B化合物)の形成に使われるTの量に対して相対的にB量が少なくなる。
【0018】
次に、R-T-B系焼結磁石の基本構造を説明する。
【0019】
R-T-B系焼結磁石は、原料合金の粉末粒子が焼結によって結合した構造を有しており、主としてR14B化合物からなる主相と、この主相の粒界部分に位置する粒界相とから構成されている。
【0020】
図1Aは、R-T-B系焼結磁石の主相と粒界相を示す模式図であり、図1B図1Aの破線矩形領域内を更に拡大した模式図である。図1Aには、一例として長さ5μmの矢印が大きさを示す基準の長さとして参考のために記載されている。図1A及び図1Bに示されるように、R-T-B系焼結磁石は、主としてR14B化合物からなる主相12と、主相12の粒界部分に位置する粒界相14とから構成されている。また、粒界相14は、図1Bに示されるように、2つのR14B化合物粒子(グレイン)が隣接する二粒子粒界相14aと、3つ以上のR14B化合物粒子が隣接する粒界三重点14bとを含む。
【0021】
主相12であるR14B化合物は高い飽和磁化と異方性磁界を持つ強磁性相である。したがって、R-T-B系焼結磁石では、主相12であるR14B化合物の存在比率を高めることによってBを向上させることができる。R14B化合物の存在比率を高めるためには、原料合金中のR量、T量、B量を、R14B化合物の化学量論比(R量:T量:B量=2:14:1)に近づければよい。R14B化合物を形成するためのB量又はR量が化学量論比を下回ると、一般的には、粒界相14にFe相又はR17相等のソフト磁性相が生成し、HcJが急激に低下する。しかし、B量をR14B化合物の化学量論比よりも少なくし、且つ、Al、Ga、Cuのうちから選ばれる1種以上の金属元素Mを含有させると、R17相から粒界に遷移金属リッチ相(例えばR-T-Ga相)が生成されるなどして、二粒子粒界が厚くなり、その結果、高いHcJを得ることができる。
【0022】
本発明者らの検討によると、R-T-B系焼結磁石においては、二粒子粒界を厚くするためにはB量だけでなく硼素(B)と類似した働きをする炭素(C)の量が重要であることがわかった。しかし、単純なB量とC量の和だけでなく、酸素(O)および窒素(N)の量も二粒子粒界を厚くする条件として重要であることがわかった。これは、R-T-B系焼結磁石に含まれる全炭素(C)のうちの一部は、酸素(O)や窒素(N)とともに粒界の希土類酸化物相に含まれ、残りの炭素(C)が余剰炭素として、硼素(B)とともに二粒子粒界を厚くする条件に影響しているからであると考えられる。ここで、希土類酸化物相のような安定な相に分配されない炭素(C)を「有効炭素」または「有効C」と呼び、その量を「有効C量」を呼ぶことにする。
【0023】
上述のように、R-T-B系焼結磁石に含まれる炭素(C)の総量が、有効C量と、それ以外のC量とに分配されるメカニズムの理解が進めば、炭素(C)の総量から有効C量を求めることが可能になる。
【0024】
本発明者は、Bに対するTのmol比([T]/[B])ではなく、これを補正した(B+有効C)に対するTのmol比([T]/[B+有効C])を指標とすることに想到するとともに、有効C量を適切に求める方法を見出した。以下、有効C量を適切に求める方法を説明する。
【0025】
まず、図2は、R-T-B系焼結磁石の微細組織構造の断面を示す顕微鏡写真である。図2の写真には、粒子状の主相と主相との間の粒界に位置する粒子状の比較的な大きな希土類酸化物相が現れている。分析の結果、この希土類酸化物(R酸化物)相には、炭素(C)、酸素(O)、および窒素(N)が含有されている。また、主相は、R14B化合物から構成されているが、R14B化合物における硼素(B)の一部は、炭素(C)によって置換されている。
【0026】
本発明者が種々の組成を有するR-T-B系焼結磁石の多数のサンプルについて、図2に例示されるR酸化物相の濃度分析を行ったところ、以下に説明する多くの知見が得られた。
【0027】
まず、図3を参照する。図3は、代表的な6個のサンプルS1~S6について得られたR酸化物相の中の窒素(N)、酸素(O)、炭素(C)、および希土類元素(R)などの原子数比率(at.%)を示すグラフである。「希土類元素(R)など」とは、主として希土類元素から構成されるが、一部に鉄(Fe)などの元素が微量に含まれ得る。ここで、窒素(N)、酸素(O)、および炭素(C)原子数比率を、それぞれ、[N]、[O]、および[C]とする。サンプルS1~S6は、比較的、[O]が比較的少ないR-T-B系焼結磁石の例である。そのようなサンプルにおいて、R酸化物相は、NaCl型のR酸化物相から構成される。しかし、R-T-B系焼結磁石中の酸素(O)が多くなると、R酸化物相としてR相も生成され得る。
【0028】
図3からわかるように、いずれのサンプルでも、R酸化物相に含まれる窒素(N)、酸素(O)、および炭素(C)の合計の原子数比率、すなわち、[N]+[O]+[C]は、約50at.%である。図4は、上記の各サンプルについて、[O]-[N]を白丸で示し、[O]-[C]を黒丸で示すグラフである。図4からわかるように、いずれのサンプルでも、[O]-[C]は、約7at.%である。このように、[N]+[O]+[C]と[Rなど]との間に、1:1のバランスが成立し、かつ、[O]と[C]との間でも、ほぼ1:1のバランスがとれている理由は、R酸化物相において、Rイオンの価数が約+3、Oイオンの価数が-2、Nイオンの価数が-3、Cイオンの価数が-4であることに起因していると推察される。電気的中性を保つには、R酸化物相内に+3の電荷を示す状態にある希土類元素Rの原子数比率[R]と、平均して-3の電荷を示す状態にある酸素(O)、窒素(N)、および炭素(C)の合計原子数比率とがバランスする必要がある。また、電荷が-2のOイオンと電荷が-4のCイオンとが略等しい原子数比率にあることは、Oイオン、Nイオン、およびCイオンの平均電荷が-3に近くなることを意味し、Rイオンの電荷である+3との間で電荷補償が達成される。
【0029】
本発明者は、上記の実験的事実及び理論的考察を踏まえ、更に多数のサンプルについて得た測定データに基づいて、以下の物理モデルを構築した。以下、磁石中の元素Xの原子数比率(mol%)を[X]と表す。
(1) [R]:希土類元素(Scを除く)の原子数比率(mol%)の相和
(2) [T]=[Fe]+[Co]+[Al]+[Mn]+[Ni]+[Cr]+[V]
(3) NはすべてNaCl型のR酸化物相に分配される。
(4) Oは可能な限りNaCl型のR酸化物相に分配され、余剰となる分はR相に分配される。
(5) Cは可能な限りNaCl型のR酸化物相に分配され、余剰となる分をCeff(有効C)とする。
(6) NaCl型のR酸化物相の組成(原子数比率)において、[R]:[T]:([C]+[N]+[O])=45:5:50
(7) NaCl型のR酸化物相の組成(原子数比率)において、[O]-[C]=7at.%
【0030】
この物理モデルをもとにして元素の分配を計算する。まず、NaCl型のR酸化物相、R相に分配される元素Xの原子数比率(mol%)を、それぞれ、[XNaCl]、[XR2O3]とすると、物理モデル(3)、(4)から以下の式が立てられる。
[NNaCl]=[N] (8)
[ONaCl]+[OR2O3]=[O] (9)
【0031】
次に、NaCl型のR酸化物相に分配されるC量([CNaCl])を考える。物理モデル(6)、(7)から、以下の式が立てられる。
([CNaCl]+[NNaCl]+[ONaCl]):([ONaCl]-[CNaCl])=50:7 (10)
【0032】
式(10)を[CNaCl]について解くと、以下の式が得られる。
【数1】
【0033】
ここで、R相の生成の有無で場合分けを行う。低酸素材で[O]が十分低いときなど、R相が生成しない場合がある。その場合、(9)式は
[ONaCl]=[O] (12)
となる。このため、[CNaCl]は以下の式のように書ける。
[CNaCl]=0.754[O]-0.123[N] (13)
【0034】
逆に、酸素導入材で[O]が多いときなど、R相が生成する場合はCが全量NaCl型のR酸化物相に分配されると考えることができる。この場合は[CNaCl]は以下の式のように書ける。
[CNaCl]=[C] (14)
【0035】
よって、R相の生成の有無の場合分けは式(13)と式(14)の大小関係で考えることができる。そして、[C]≧0.754[O]-0.123[N]の場合は、R相が生成せず、[CNaCl]は式(13)で書くことができる。逆に[C]<0.754[O]-0.123[N]の場合は、R相が生成して、[CNaCl]は式(14)で書くことができる。R相が生成する組成領域では、NaCl型のR酸化物相に分配されるRに加えてR相に分配されるRも必要となる。このため、R相が生成する組成領域では、二粒子粒界形成に必要なRが不足してHcJが低下したり、R不足分を補うためにR量を増やした結果、相対的に主相比率が低下してしまうといったことが起こりうる。本実施形態では、R相が生成しない組成領域でR-T-B系焼結磁石の組成設計を行う。以下、[C]≧0.754[O]-0.123[N]の関係が成立するとする。式(13)とモデル(5)から、有効C量([Ceff])は以下の式で表せられる。
[Ceff]=[C]-[CNaCl]=[C]-0.754[O]+0.123[N] (15)
【0036】
次に、他の元素に関しても分配を計算する。まず、[ONaCl]に関しては、R相が生成しない場合を考えているため以下の式のように書ける。
[ONaCl]=[O] (16)
【0037】
[RNaCl]は物理モデル(6)、式(8)、(13)、(16)より、以下の式で表せられる。
【数2】
【0038】
R酸化物相に分配されない有効R量([Reff])を計算すると、式(17)から以下の式で表せられる。
[Reff]=[R]-[RNaCl]=[R]-0.789[N]-1.58[O] (18)
【0039】
以上のように、物理モデル(1)~(7)を考えることにより、各元素の分配を全体組成のみから計算できるように式を導出できた。
【0040】
なお、[Beff]は、硼化物の形成を考慮して以下の式で表される
[Beff]=[B]-0.8[Zr]-0.8[Ti]-0.4[Nb] (19)
【0041】
図5は、R-T-B系焼結磁石の幾つかのサンプルについて、拡散後の保磁力と[T]/[Beff]との関係を示すグラフである。図5には、[T]/[Beff]=14.0の位置を示す破線が示されている。この破線は、保磁力が相対的に高い範囲と相対的に低い範囲との境界条件には対応していない。これに対して、図6は、同じサンプルについて、拡散後の保磁力と[T]/([Beff]+[Ceff])との関係を示すグラフである。図6には、[T]/([Beff]+[Ceff])=14.0の位置を示す破線が示されている。図6から明らかなように、[T]/([Beff]+[Ceff])を指標として採用し、この指標が「14.0」という数値を超えるか否かは、保磁力の高低、言い換えると、「厚い二粒子粒界」が実現するか否かを決める条件として有効である。
【0042】
以上のことから、有効C量である[Ceff]を用いると、二粒子粒界を厚くするために必要な、いわゆる低Bの範囲を14.0≦[T]/([Beff]+[Ceff])と補正することができる。
【0043】
本開示は、C+N+Oの含有量が40~60原子数%であり、かつ、C、NおよびOのいずれも含有する希土類酸化物相を粒界に含むR-T-B系焼結磁石の組成を決定する場合において、C、NおよびOの含有量から希土類酸化物の相に分配されない有効C量を計算し、有効C量のCがBに等価であるとして組成を設計するR-T-B系焼結磁石の組成設計方法が提供される。そして、この組成設計方法では、
14.13≦[T]/([Beff]+[Ceff])≦15.50 (20)
を満たすように組成を決定することができ、その結果、粒界にR13Gaが形成されて二粒子粒界を厚く制御することが可能になる。なお、上記計算はモデル(1)~(7)に基づいておこなったが、場合によってはこのモデルから逸脱して式中の係数などが若干変化し得る。例えば、モデル(7)においてNaCl型のR酸化物相の組成(原子数比率)において[O]-[C]=7at.%としたが、希土類種によって安定なイオンの価数が異なるため[O]-[C]の値が変化し得る。その際は希土類種のイオンの価数に見合った[O]-[C]の値を設定し直すことで上記と同様に各元素の分配を計算することができる。
【0044】
<実施形態>
以下、本開示のR-T-B系焼結磁石、および、その製造方法の実施形態を説明する。
【0045】
本実施形態におけるR-T-B系焼結磁石は、R14B化合物の主相と、前記主相の粒界に位置する粒界相とを含むR-T-B系焼結磁石(Rは希土類元素であり、NdおよびPrのうち少なくとも1つを必ず含み、TはFe、Co、Ni、Al、Mn、CrおよびVからなる元素の群であり、Feを必ず含む)である。
【0046】
前述したように、元素あるいは元素群Xの含有量(mol%)を[X]で表す。本実施形態では、下記の各等式における右辺によって規定される量を左辺の記号に等しいとする。
[Reff]=[R]-0.789[N]-1.58[O]、
[Beff]=[B]-0.8[Zr]-0.8[Ti]-0.4[Nb]、
[Ceff]=[C]+0.123[N]-0.754[O]
【0047】
本実施形態におけるR-T-B系焼結磁石の元素含有量は、以下の関係を満足する。
[C]≧0.754[O]-0.123[N]、
14.13≦[T]/([Beff]+[Ceff])≦15.50、
5.1≦[T]/[Reff]≦6.7、
5.0≦[B]≦6.5、
0.1≦[Ga]≦1.5、
0≦[Co]≦2、
0≦[Nb]≦0.35、および
0≦[Zr]+[Ti]+[Nb]≦0.7。
【0048】
ある実施形態において、粒界相に含まれる希土類酸化物相のC+N+Oの含有量は、40~60原子数%であり、かつ、O、CおよびNのいずれも含有する。R-T-B系焼結磁石のある断面において、粒界相の断面積に対する希土類酸化物相の断面積の割合は例えば20%以上、80%以下である。
【0049】
本実施形態では、NdおよびPrの少なくとも一方を磁石表面から磁石内部に向けて拡散することが好ましい。そのような拡散の結果として、R-T-B系焼結磁石は、磁石表面から磁石内部に向かってNd濃度およびPr濃度の少なくとも一方が漸減する部分を含む。また、同様に、Tb濃度およびDy濃度の少なくとも一方を磁石表面から磁石内部に向けて拡散することが好ましい。そのような拡散の結果として、R-T-B系焼結磁石は、磁石表面から磁石内部に向かってTb濃度およびDy濃度の少なくとも一方が漸減する部分を含む。
【0050】
本実施形態のR-T-B系焼結磁石によれば、粒界にR13Gaが形成されて、二粒子粒界が厚くなるため、1950kA/mを超える高いHcJが実現する。
【0051】
次に、本開示のR-T-B系焼結磁石の製造方法の実施形態を説明する。
【0052】
本実施形態のR-T-B系焼結磁石の製造方法は、焼結体素材を準備する工程と、拡散源を準備する工程と、前記焼結体の表面から前記拡散源に含まれる元素を内部に拡散させる工程と、を含む。
【0053】
そして、焼結体素材の元素含有量は、
[C]≧0.754[O]-0.123[N]、
14.13≦[T]/([Beff]+[Ceff])≦15.50、
5.1≦[T]/[Reff]≦6.7、
5.0≦[B]≦6.5、
0.1≦[Ga]≦1.5、
0≦[Co]≦2、
0≦[Nb]≦0.35、および
0≦[Zr]+[Ti]+[Nb]≦0.7、
を満足する。
【0054】
焼結体素材は、上記元素の他にCu、Ag、Zn、In、Sn、Ni、Hf、Ta、W、Ge、Mo、V、Y、La、Ce、Sm、Ca、Mg、Cr、H、F、P、S、Cl等の不可避的不純物元素を含有してもよい。
【0055】
[T]と[Reff]の比[T]/[Reff]は5.1以上6.7以下である。[T]/[Reff]が5.1未満であると焼結が困難であったり、HcJの低下が著しくなる。また、[T]/[Reff]が6.7超であると主相比率が低下してBが著しく低下する。
【0056】
[B]の範囲は5.0≦[B]≦6.5である。[B]が5.0未満であると、C量などの調整で14.13≦[T]/([Beff]+[Ceff])≦15.50の範囲内に収めることは可能だが、主相のC置換量が増加することにより主相の磁気物性値が低下する。また、[B]が6.5超であると、硼化物形成に寄与するZrやTi、Nbなどの添加により14.13≦[T]/([Beff]+[Ceff])≦15.50の範囲内に収めることは可能だが、これらの元素は主相にも入るため主相の磁気物性値が低下する。
【0057】
[Ga]の範囲は0.1≦[Ga]≦1.5である。[Ga]が0.1未満であると、十分なR13Ga相が形成されずHcJの低下が著しくなる。また、[Ga]が1.5超であると主相比率が低下してBが著しく低下する。
【0058】
Coはレアメタルであり、産出国も限られているためなるべく使用しない方が好ましい。本実施形態において[Co]の範囲は0≦[Co]≦2である。本実施形態では[Co]=0においても十分な磁気特性が得られる。
【0059】
[Nb]の範囲は0≦[Nb]≦0.35である。NbはFeとBとの化合物を形成することで有効B量を低下させる役割があるが、主相やR13Ga相形成に必要なFeまで消費するため、[Nb]が0.35超であると磁気特性が低下する。
【0060】
硼化物形成に寄与する[Zr]、[Ti]、[Nb]の範囲は0≦[Zr]+[Ti]+[Nb]≦0.7である。これらの元素の含有量の和が0.7超であると、主相置換による磁気物性低下が著しくなる。
【0061】
以下、上記の「焼結体素材を準備する工程」と、「拡散源を準備する工程」と、「焼結体の表面から拡散源に含まれる元素を内部に拡散させる工程」の例を説明する。
【0062】
・焼結体素材を準備する工程
焼結体素材を準備する工程は、R-T-B系焼結磁石に代表される一般的な製造方法を用いて準備することができる。焼結体素材は、原料合金を粒径D50(気流分散式レーザー回折法による測定で得られる体積中心値=D50)が2.5μm以上10μm以下に粉砕した後、磁界中で配向させて焼結を行うことが好ましい。一例を挙げると、ストリップキャスト法などで作製された原料合金を、ジェットミル装置などを用いて粒径D50が2.5μm以上10μm以下に粉砕した後、磁界中で成形し、900℃以上1100℃以下の温度で焼結することにより準備することができる。原料合金の粒径D50が2.5μm未満では粉砕粉を作製するのが非常に困難であり、生産効率が大幅に低下するため好ましくない。一方、粒径D50が10μmを超えると最終的に得られる焼結体素材の結晶粒径が大きくなり過ぎ、高いHcJを得ることが困難となるため好ましくない。粒径D50は好ましくは、2.5μm以上5μm以下である。
【0063】
焼結体素材は、前記の各条件を満たしていれば、一種類の原料合金(単一原料合金)から作製してもよいし、二種類以上の原料合金を用いてそれらを混合する方法(ブレンド法)によって作製してもよい。また、得られた焼結体素材は、必要に応じて切断や切削など公知の機械加工を行った後、後述する第一の熱処理及び第二の熱処理を実施してもよい。
【0064】
・拡散源を準備する工程
まず、拡散源を準備する工程における拡散源の組成を説明する。
【0065】
拡散源は、Dy、Tb、Gd、Hoなどの重希土類元素から構成されてもよい。好ましくは、希土類元素として、Nd及びPrの少なくとも一方を必ず含む。希土類元素の50mass%以上がPrであることが好ましい。貴重な重希土類元素の含有量を抑制しつつ、より高いHcJを得ることができるからである。本開示によれば、重希土類元素を多量に用いずとも十分に高いHcJを得ることができる。そのため、重希土類元素の含有量は拡散源全体の10mass%以下であることが好ましく、5mass%以下であることがより好ましく、含有しない(実質的に0mass%)ことがさらに好ましい。拡散源が重希土類元素を含有する場合も、希土類元素の50%以上がPrであることが好ましく、重希土類元素を除いた希土類元素がPrのみ(不可避的不純物は含む)であることがより好ましい。
【0066】
希土類元素として、Nd及びPrの少なくとも一方を必ず含む場合の含有量は、例えば、拡散源全体の35mass%以上85mass%未満であることが好ましい。希土類元素の含有量が35mass%未満では、後述する第一の熱処理で拡散が十分に進行しない可能性がある。一方、希土類元素の含有量が85mass%以上になると、拡散源の製造工程中における合金粉末が非常に活性になる。その結果、合金粉末の著しい酸化や発火などを生じることがある。
【0067】
Gaは、拡散源全体の2.5mass%以上30mass%以下であることが好ましい。Gaが2.5mass%未満では、焼結体素材の内部に導入され難くなる。一方、Gaが30mass%を超えると、Bが低下する可能性がある。拡散源中のGaは4mass%以上20mass%以下であることがより好ましく、4mass%以上10mass%以下であることがさらに好ましい。より高いBと高いHcJを得ることができるからである。
【0068】
拡散源は、上記元素の他に、Fe、Cu、Co、Al、Ag、Zn、Si、In、Sn、Zr、Nb、Ti、Ni、Hf、Ta、W、Ge、Mo、V、Y、La、Ce、Sm、Ca、Mg、Mn、Cr、H、F、P、S、Cl、O、N、C等を含有してもよい。
【0069】
含有量は、Alは1.0mass%以下、Ag、Zn、Si、In、Sn、Zr、Nb、及びTiはそれぞれ0.5mass%以下、Ni、Hf、Ta、W、Ge、Mo、V、Y、La、Ce、Sm、Ca、Mg、Mn、Si、Crはそれぞれ0.2mass%以下、H、F、P、S、Clは500ppm以下、Oは6000ppm以下、Nは1000ppm以下、Cは1500ppm以下が好ましい。
【0070】
拡散源は、Nd-Fe-B系焼結磁石に代表される一般的な製造方法において採用されている原料合金の作製方法、例えば、金型鋳造法やストリップキャスト法や単ロール超急冷法(メルトスピニング法)やアトマイズ法などを用いて準備することができる。また、拡散源は、前記によって得られた合金をピンミルなどの公知の粉砕手段によって粉砕されたものであってもよい。また、前記によって得られた合金の粉砕性を向上させるために、水素雰囲気中で700℃以下の熱処理を行って水素を含有させてから粉砕を行っても良い。
【0071】
・焼結体の表面から拡散源に含まれる元素を内部に拡散させる工程
真空又は不活性ガス雰囲気中、700℃以上1100℃以下の温度で熱処理をすることにより、焼結体の表面から拡散源に含まれる元素を内部に拡散させる。本開示において、この熱処理を第一の熱処理という。拡散のための熱処理温度が700℃未満であると、拡散が不十分となり、高いHcJを得ることが出来ない可能性がある。一方、1100℃を超えると主相の異常粒成長が起こりHcJが低下する可能性がある。拡散のための熱処理温度は、800℃以上1000℃以下が好ましい。より高いHcJを得ることができるからである。なお、熱処理時間は焼結体素材や拡散源の組成や寸法、熱処理温度などによって適正値を設定するが、5分以上30時間以下が好ましく、10分以上25時間以下がより好ましく、30分以上20時間以下がさらに好ましい。また、拡散源は、焼結体素材の重量に対し1mass%以上30mass%以下準備した方が好ましい。拡散源が焼結体素材の重量に対し1mass%未満であるとHcJが低下する可能性がある。一方、30mass%を超えるとBが低下する可能性がある。
【0072】
拡散のための熱処理は、公知の熱処理方法を用いて行うことができる。例えば、焼結体素材表面を拡散源の粉末層で覆い、第一の熱処理を行うことができる。例えば、スパッタ法により、拡散源を焼結体素材表面にコーティングしたのちに、第一の熱処理を行ってもよい。例えば、拡散源を分散媒中に分散させたスラリーを焼結体素材表面に塗布した後、分散媒を蒸発させて拡散源と焼結体素材とを接触させてもよい。なお、分散媒として、アルコール(エタノール等)、NMP(N-メチルピロリドン)、アルデヒド及びケトンを例示できる。また、第一の熱処理が実施された焼結体素材に対して切断や切削など公知の機械加工を行ってもよい。
【0073】
拡散のための熱処理が実施された焼結体素材に対して、真空又は不活性ガス雰囲気中、450℃以上600℃以下の温度で熱処理を行ってもよい。本開示において、この熱処理を第二の熱処理という。第二の熱処理を行うことにより、高いBと高いHcJを得ることが出来る。第二の熱処理の温度が450℃以上600℃以下とすることにより、R13Ga相の生成が進行する。第二の熱処理温度は、480℃以上560℃以下が好ましい。より高いHcJを得ることができる。なお、熱処理時間は焼結体素材の組成や寸法、熱処理温度などによって適正値を設定するが、5分以上20時間以下が好ましく、10分以上15時間以下がより好ましく、30分以上10時間以下がさらに好ましい。
【0074】
前述した本発明の考察および物理モデルは、O、CおよびNを含有する希土類酸化物相を粒界に含R-T-B系焼結磁石の組成設計方法を提供する。ここで、C+N+Oの含有量は40~60原子数%である。そして、R-T-B系焼結磁石の組成設計方法によれば、C、OおよびNの含有量から希土類酸化物の相に分配されない有効C量を計算し、有効C量のCがBに等価であるとして組成が設計される。具体的には、以下のようにして組成の設計が行われ得る。
【0075】
希土類酸化物の相に分配されない有効Cの含有量を
[Ceff]=[C]-0.754[O]+0.123[N]、
希土類酸化物の相に分配されない有効Rの含有量を
[Reff]=[R]-0.789[N]-1.58[O]、
ホウ化物の相に分配されない有効Bの含有量を
[Beff]=[B]-0.8[Zr]-0.8[Ti]-0.4[Nb]、
とする。
【0076】
そして、全体の組成は、
[C]≧0.754[O]-0.123[N]、および
14.13≦[T]/([Beff]+[Ceff])≦15.50
を満たすように決定される。また、好ましい実施形態において、5.1≦[T]/[Reff]≦6.7を満足するように組成を決定する。
【0077】
また、好ましい実施形態においては、以下の式を満たすように組成を決定する。
5.0≦[B]≦6.5、
0.1≦[Ga]≦1.5、
0≦[Co]≦2、
0≦[Nb]≦0.35、および
0≦[Zr]+[Ti]+[Nb]≦0.7。
【0078】
[R]≦14.0を満足することが好ましく、5.1≦[B]≦5.6を満足することが更に好ましい。
【0079】
酸素濃度は3000ppm未満、窒素濃度は1000ppm未満、炭素濃度は2000ppm未満にすることが好ましい。このため、0≦[O]≦1.2、0≦[N]≦0.4、0≦[C]≦1.0の少なくともひとつを満足することが好ましい。
【0080】
Ga濃度は0.1~0.7mass%であることが好ましい。
【実施例0081】
本開示を実施例によりさらに詳細に説明するが、本開示はそれらに限定されるものではない。
【0082】
表1の試料No.1~29に示すR-T-B系焼結磁石の組成となるように(O、C、Nは除く)、ストリップキャスト法により、フレーク状のR-T-B系焼結磁石用合金を作製した。得られたフレーク状の合金を水素加圧雰囲気で水素脆化させた後、550℃まで真空中で加熱、冷却する脱水素処理を施し、粗粉砕粉を得た。前記粗粉砕粉をAr中で450℃まで加熱後冷却した。このときの冷却ガスをNにすることでN量の多い粗粉砕粉を、冷却ガスをArにすることでN量の少ない粗粉砕粉をそれぞれ作製した。熱処理後の粗粉砕粉と有機系の粉砕助剤を混合し、気流式粉砕機(ジェットミル装置)に投入して微粉砕粉を得た。本実施例では、不活性ガスとしてArガスを用い、露点を調整することで微粉砕粉のO量を調整した。
【0083】
前記微粉砕粉に潤滑剤を添加後、鉱物油に浸漬してスラリーを準備した。得られたスラリーを磁界中で成形(湿式成形)し、成形体を得た。なお、成形装置には、磁界印加方向と加圧方向とが直行する、いわゆる直角磁界成形装置(横磁界成形装置)を用いた。
【0084】
得られた成形体を真空中で1020~1050℃(焼結による緻密化が十分に起こる温度を選定)で約5時間保持して焼結し、焼結体を得た。焼結体の密度はいずれも7.5g/cm以上であった。前記焼結体を真空中で800℃、2時間の熱処理を行なった後、焼結体を一辺7.2mmの立方体に加工した。加工後の立方体試料を500℃、2時間の熱処理を行なった後、立方体試料の6面を研削して一辺7mmの立方体に加工し、パルスB-HトレーサでBおよびHcJを測定した。また、磁力測定に用いなかった焼結体の一部を乳鉢で粉砕し、各元素の含有量を分析した。ICP(高周波誘導結合プラズマ)発光分光分析法によりFe、Nd、Pr、B、Co,Al、Cu、Ga、Zr、Ce、Mg、Mn、Si、Niの含有量を、ガス融解-赤外線吸収法によりO量を、ガス融解-熱伝導法によりN量を、燃焼-赤外線吸収法によりC量をそれぞれ分析した。表1に成分分析結果(質量%)を示す。
【0085】
【表1】
【0086】
表1の分析結果から各元素の原子数%などを計算した。計算結果、BおよびHcJを表2に示す。
【0087】
[T]/([Beff]+[Ceff])の値が14.13以上15.50以下のときHcJが1300kA/mを超える高い水準となった。さらに、[T]/([Beff]+[Ceff])の値が14.35以上15.00以下のときに全ての試料でHcJが1500kA/mを超えるより高い水準となった。
【0088】
【表2】
【0089】
(一部試料の拡散、組織観察)
一部の試料について、焼結処理後の試料を焼結体素材とし、その表面に拡散源を付着させて拡散熱処理を行い、拡散磁石を作製した。まず、焼結処理後の試料を一辺7.2mmの立方体に加工して焼結体素材を作製した。一方、10Pr-80Tb-7.4Ga-2.6Cu(質量%)の組成となるようにディスクアトマイズ法により、拡散源粉末を作製した。
【0090】
次に、前記焼結体素材の立方体の全面に粘着剤を塗布し、さらにその上に前記拡散源粉末を付着させた。拡散源粉末の付着重量は、焼結体素材の重量に対して約2.7%であった。
【0091】
次に、拡散源付着試料を真空中で900℃、10時間保持した後室温まで冷却し、次いで真空中で500℃、1時間保持した後室温まで冷却する拡散熱処理を行なった。拡散熱処理後の試料の6面を研削して一辺6.9mmの立方体に加工し、パルスB-HトレーサでBおよびHcJを測定した。表3に拡散熱処理後のBおよびHcJを示す。[T]/([Beff]+[Ceff])の値が14.13以上であるNo.28の試料では、HcJが1950kA/mを超える高い水準にあった。
【0092】
【表3】
【0093】
拡散熱処理後の表3の試料を切断加工し、SEM(走査電子顕微鏡)観察の前処理として、樹脂に埋めたのち試料断面を研磨し、さらにイオンミリング法で仕上げ処理を行なった。そして、FE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)による前記試料の観察およびEDX/WDX(エネルギー分散型X線分析/波長分散型X線分析)による局所組成分析を行なった(FeおよびNdはEDX、Pr、Zr、C、N、およびOはWDX)。観察・分析領域は拡散源と焼結体素材の界面から500μmの深さの領域とした。図11および図12に、断面のBSE(反射電子)像を示す。
【0094】
[T]/([Beff]+[Ceff])の値が14.13未満であるNo.2、7、12、および17の試料では、二粒子粒界相の幅が薄く、RFe13Ga相はほとんど見られなかった。これに対して、[T]/([Beff]+[Ceff])の値が14.13以上であるNo.28の試料では、厚い二粒子粒界相が形成されており、また、粒界三重点にR13Ga相が観察された。
【0095】
なお、全ての試料で、O、N、Cを含有する希土類酸化物相が観察された。O+N+Cの含有量は希土類酸化物相の40~60原子数%であった。以下、このような希土類酸化物相を「R-(O,N,C)相」と表記する。表4にR-(O,N,C)相の点分析結果および粒界相の断面積に対するR-(O,N,C)相の断面積比率を示す。点分析結果は3点の分析点の結果の平均値である。R-(O,N,C)相および粒界相の断面積比率は、画像解析ソフトでBSE像の輝度の範囲ごとに相を割り当ててピクセル数をカウントすることで算出した。縦180μm、横240μmの領域のBSE像を解析し、2視野の平均値を記載した。素材のO量やN量が異なるとR-(O,N,C)相のO、N、Cの組成も大きく異なるが、共通してO+N+Cが約50原子数%となった。また、O-Nは試料によって大きく異なるが、O-Cは共通して約7原子数%となった。粒界相の断面積に対するR-(O,N,C)相の断面積比率に関しては、素材のO量やN量によって増減するが、いずれも10%から70%の間となった。
【0096】
【表4】
【0097】
No.28の試料の断面について試料表面からの濃度勾配を調べるためにWDXによるPrおよびTbのライン分析を行なった。図13にPrの、図14にTbの、各試料表面の深さにおけるWDXの強度を示す。ビーム径をφ10μm×100μmとし、5μm間隔でデータを取得後、平滑化のために5点で移動平均処理をおこなっている。Pr、Tbともに特に試料表面(深さ0mm付近)で濃度勾配が負である、拡散材に特有の特徴が観察された。
【0098】
以上のように、本開示は、以下の項目に記載のR-T-B系焼結磁石およびその製造方法ならびに組成設計方法を含む。
【0099】
[項目1]
14B化合物の主相と、前記主相の粒界に位置する粒界相とを含むR-T-B系焼結磁石(Rは希土類元素であり、NdおよびPrのうち少なくとも1つを必ず含み、TはFe、Co、Ni、Al、Mn、CrおよびVからなる元素の群であり、Feを必ず含む)であって、
元素あるいは元素群Xの含有量(mol%)を[X]で表し、
[Reff]=[R]-0.789[N]-1.58[O]、
[Beff]=[B]-0.8[Zr]-0.8[Ti]-0.4[Nb]、
[Ceff]=+0.123[N]-0.754[O]
とするとき、
前記R-T-B系焼結磁石の元素含有量は、
[C]≧0.754[O]-0.123[N]、
14.13≦[T]/([Beff]+[Ceff])≦15.50、
5.1≦[T]/[Reff]≦6.7、
5.0≦[B]≦6.5、
0.1≦[Ga]≦1.5、
0≦[Co]≦2、
0≦[Nb]≦0.35、および
0≦[Zr]+[Ti]+[Nb]≦0.7、
を満足するR-T-B系焼結磁石。
[項目2]
前記粒界相は希土類酸化物相を含み、前記希土類酸化物相のC+N+Oの含有量が40~60原子数%であり、かつ、O、CおよびNのいずれも含有する項目1に記載のR-T-B系焼結磁石。
[項目3]
前記R-T-B系焼結磁石のある断面において、前記粒界相の断面積に対する前記希土類酸化物相の断面積の割合が20%以上、80%以下である項目1に記載のR-T-B系焼結磁石。
[項目4]
磁石表面から磁石内部に向かってNd濃度およびPr濃度の少なくとも一方が漸減する部分を含む、項目1から3のいずれか1項目に記載のR-T-B系焼結磁石。
[項目5]
磁石表面から磁石内部に向かってTb濃度およびDy濃度の少なくとも一方が漸減する部分を含む、項目1から4のいずれか1項目に記載のR-T-B系焼結磁石。
[項目6]
[R]≦14.0を満足する、項目1から5のいずれか1項目に記載のR-T-B系焼結磁石。
[項目7]
5.1≦[B]≦5.6を満足する、項目1から6のいずれか1項目に記載のR-T-B系焼結磁石。
[項目8]
0≦[O]≦1.2を満足する、項目1から7のいずれか1項目に記載のR-T-B系焼結磁石。
[項目9]
0≦[N]≦0.4を満足する、項目1から8のいずれか1項目に記載のR-T-B系焼結磁石。
[項目10]
0≦[C]≦1.0を満足する、項目1から9のいずれか1項目に記載のR-T-B系焼結磁石。
[項目11]
0.1≦[Ga]≦0.7を満足する、項目1から10のいずれか1項目に記載のR-T-B系焼結磁石。
[項目12]
14.35≦[T]/([Beff]+[Ceff])≦15.00
を満足する、項目1から11のいずれか1項目に記載のR-T-B系焼結磁石。
[項目13]
R-T-B系焼結磁石の製造方法であって、
焼結体素材を準備する工程と、
拡散源を準備する工程と、
前記焼結体の表面から前記拡散源に含まれる元素を内部に拡散させる工程と、
を含み、
元素あるいは元素群Xの含有量(mol%)を[X]で表し、
[Reff]=[R]-0.789[N]-1.58[O]、
[Beff]=[B]-0.8[Zr]-0.8[Ti]-0.4[Nb]、
[Ceff]=[C]+0.123[N]-0.754[O]、
前記焼結体素材の元素含有量は、
[C]≧0.754[O]-0.123[N]、
14.13≦[T]/([Beff]+[Ceff])≦15.50、
5.1≦[T]/[Reff]≦6.7、
5.0≦[B]≦6.5、
0.1≦[Ga]≦1.5、
0≦[Co]≦2、
0≦[Nb]≦0.35、および
0≦[Zr]+[Ti]+[Nb]≦0.7、
を満足するR-T-B系焼結磁石の製造方法。
[項目14]
C+N+Oの含有量が40~60原子数%であり、かつ、C、NおよびOのいずれも含有する希土類酸化物相を粒界に含むR-T-B系焼結磁石の組成設計方法であって、
C、OおよびNの含有量から前記希土類酸化物の相に分配されない有効C量を計算し、前記有効C量のCがBに等価であるとして組成を設計するR-T-B系焼結磁石の組成設計方法。
[項目15]
元素あるいは元素群Xの含有量(mol%)を[X]で表し、
前記希土類酸化物の相に分配されるCの含有量を[CNaCl]、前記希土類酸化物の相に分配されない前記有効Cの含有量を[Ceff]、
[Reff]=[R]-0.789[N]-1.58[O]、
[Beff]=[B]-0.8[Zr]-0.8[Ti]-0.4[Nb]、
[Ceff]=[C]+0.123[N]-0.754[O]
とするとき、
[C]≧0.754[O]-0.123[N]および14.13≦[T]/([Beff]+[Ceff])≦15.50を満たすように前記組成を決定する、項目14に記載のR-T-B系焼結磁石の組成設計方法。
[項目16]
5.1≦[T]/[Reff]≦6.7
を満足するように前記組成を決定する、項目15または16に記載のR-T-B系焼結磁石の組成設計方法。
[項目17]
5.0≦[B]≦6.5、
0.1≦[Ga]≦1.5、
0≦[Co]≦2、
0≦[Nb]≦0.35、および
0≦[Zr]+[Ti]+[Nb]≦0.7、
を満たすように前記組成を決定する、項目16に記載のR-T-B系焼結磁石の組成設計方法。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本開示のR-T-B系焼結磁石およびその製造方法ならびに組成設計方法は、原料合金に希少資源元素を含有するR-T-B系焼結磁石の製造分野で広く利用され得る。
【符号の説明】
【0101】
1 焼結体素材
2 拡散源
3 処理容器
12 主相
14 粒界相
14a 二粒子粒界相
14b 粒界三重点
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10