(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141139
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】研磨および洗浄方法、洗浄剤、ならびに研磨用組成物と洗浄剤とのセット
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20241003BHJP
C11D 3/43 20060101ALI20241003BHJP
C11D 3/20 20060101ALI20241003BHJP
C11D 3/12 20060101ALI20241003BHJP
C11D 1/29 20060101ALI20241003BHJP
B23Q 11/00 20060101ALI20241003BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20241003BHJP
C09K 3/14 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
H01L21/304 622Q
C11D3/43
C11D3/20
C11D3/12
C11D1/29
B23Q11/00 K
B24B37/00 H
C09K3/14 550Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052626
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】中貝 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】織田 博之
【テーマコード(参考)】
3C158
4H003
5F057
【Fターム(参考)】
3C158AA07
3C158AC04
3C158BA02
3C158BA04
3C158BA05
3C158BA08
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3C158ED26
3C158ED28
4H003AB31
4H003AC08
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4H003EB08
4H003ED02
4H003EE04
4H003FA04
4H003FA07
4H003FA13
4H003FA15
4H003FA28
5F057AA21
5F057BA11
5F057BB09
5F057CA25
5F057DA38
5F057EA01
5F057EA06
5F057EA21
5F057EC30
(57)【要約】
【課題】研磨後の炭化ケイ素基板の表面に存在する残渣を十分に除去することができる手段を提供する。
【解決手段】炭化ケイ素基板を研磨し、かつ洗浄する方法であって、研磨用組成物を炭化ケイ素基板に供給して研磨する工程と、前記研磨した炭化ケイ素基板を、洗浄剤を用いて洗浄する工程と、を含み、前記洗浄剤は、キレート剤、界面活性剤、および溶媒を含み、前記溶媒は水のみからなる、方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化ケイ素基板を研磨し、かつ洗浄する方法であって、
研磨用組成物を炭化ケイ素基板に供給して研磨する工程と、
前記研磨した炭化ケイ素基板を、洗浄剤を用いて洗浄する工程と、
を含み、
前記洗浄剤は、キレート剤、界面活性剤、および溶媒を含み、
前記溶媒は水のみからなる、方法。
【請求項2】
前記キレート剤は、ヒドロキシ酸を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記界面活性剤は、ポリオキシアルキレン単位を有するアニオン性界面活性剤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記洗浄剤は、無機酸および酸化剤の少なくとも一方をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記洗浄剤のpHは、7.0未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記研磨用組成物は、砥粒および研磨助剤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記砥粒は非ダイヤモンド砥粒を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の方法に用いられる洗浄剤であって、
キレート剤、界面活性剤、および溶媒を含み、前記溶媒は水のみからなる、洗浄剤。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載の方法に用いられる研磨用組成物と洗浄剤とのセットであって、
研磨用組成物と、洗浄剤と、を含み、
前記研磨用組成物は、砥粒および研磨助剤を含み、
前記洗浄剤は、キレート剤、界面活性剤、および溶媒を含み、前記溶媒は水のみからなる、研磨用組成物と洗浄剤とのセット。
【請求項10】
非ダイヤモンド砥粒および研磨助剤を含む研磨用組成物を用いて研磨した炭化ケイ素基板の表面から、前記非ダイヤモンド砥粒および前記研磨助剤を除去する方法であって、
洗浄剤を用いて前記炭化ケイ素基板を洗浄する工程を含み、
前記洗浄剤は、キレート剤、界面活性剤、および溶媒を含み、前記溶媒は水のみからなる、方法。
【請求項11】
非ダイヤモンド砥粒および研磨助剤を含む研磨用組成物を用いて研磨した炭化ケイ素基板の洗浄に用いられる洗浄剤であって、
キレート剤、界面活性剤、および溶媒を含み、前記溶媒は水のみからなる、洗浄剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨および洗浄方法、洗浄剤、ならびに研磨用組成物と洗浄剤とのセットに関する。
【背景技術】
【0002】
金属や半金属、非金属、その酸化物等の材料の表面に対して、研磨用組成物を用いた研磨が行われている。例えば、炭化ケイ素により構成された表面は、その表面と研磨定盤との間にダイヤモンド砥粒を供給して行う研磨(ラッピング)によって加工される。しかし、ダイヤモンド砥粒を用いるラッピングでは、スクラッチや打痕の発生、残存等による欠陥や歪みが生じやすい。そこで、ダイヤモンド砥粒を用いたラッピングの後に、あるいは当該ラッピングに代えて、研磨パッドと研磨用組成物とを用いる研磨(ポリシング)が行われている。
【0003】
このような研磨技術として、例えば、特許文献1には、砥粒と、過マンガン酸塩と、水和金属イオンのpKaが7.0より小さい金属カチオンとアニオンとの塩である金属塩と、水と、を含む研磨用組成物を用いて、炭化ケイ素により構成された表面を有する研磨対象物を研磨する方法が開示されている。この特許文献1に記載の技術によれば、研磨用組成物のpH上昇および研磨パッドの温度上昇を抑制することができ、また研磨除去速度を向上させることが可能であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術により研磨を行った後の研磨対象物表面には、研磨用組成物に含まれる砥粒等に由来するパーティクルや、金属塩由来の金属(および/または金属イオン)等が残留して、この残渣が課題となることがある。このため、研磨後にこれらの残渣を十分に除去する必要がある。
【0006】
そこで、本発明は、研磨後の炭化ケイ素基板の表面に存在する残渣を十分に除去することができる手段を提供することを目的とする。関連する他の目的は、上記手段に用いられる洗浄剤、および研磨用組成物と洗浄剤とのセットを提供することにある。関連するさらに他の目的は、上記炭化ケイ素基板を洗浄する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、炭化ケイ素基板を研磨し、かつ洗浄する方法であって、研磨用組成物を炭化ケイ素基板に供給して研磨する工程と、前記研磨した炭化ケイ素基板を、洗浄剤を用いて洗浄する工程と、を含み、前記洗浄剤は、キレート剤、界面活性剤、および溶媒を含み、前記溶媒は水のみからなる、方法によって上記課題が解決することを見出し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、研磨後の炭化ケイ素基板の表面に存在する残渣を十分に除去することができる手段を提供されうる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施形態によれば、炭化ケイ素基板を研磨し、かつ洗浄する方法であって、研磨用組成物を炭化ケイ素基板に供給して研磨する工程と、前記研磨した炭化ケイ素基板を、洗浄剤を用いて洗浄する工程と、を含み、前記洗浄剤は、キレート剤、界面活性剤、および溶媒を含み、前記溶媒は水のみからなる方法が提供される。かような方法によれば、研磨後の炭化ケイ素基板の表面に存在する残渣を十分に除去することができる。
【0010】
本発明に係る方法により上記効果が得られる詳細な理由は不明であるが、以下の理由によるものと考えられる。
【0011】
研磨用組成物により研磨された炭化ケイ素基板の表面には、研磨用組成物に含まれる砥粒等に由来するパーティクル残渣や、研磨用組成物に含まれる金属塩由来の金属イオン残渣等が存在する。本発明に係る方法で用いられる洗浄剤に含まれるキレート剤は、金属イオンに対して多座配位を行い、金属イオンの洗浄剤中への溶解性を高めることができる。また、洗浄剤に含まれる界面活性剤により、砥粒等のパーティクル残渣の除去が容易に行われる。このようなことから、キレート剤および界面活性剤を含む洗浄剤を用いた本発明に係る方法により、研磨後の炭化ケイ素基板の表面に存在する残渣を十分に除去することができると考えられる。
【0012】
なお、上記メカニズムは推測によるものであり、本発明の技術的範囲は当該メカニズムにより何ら制限されるものではない。
【0013】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態のみには限定されず、特許請求の範囲内で種々改変することができる。本明細書に記載される実施形態は、任意に組み合わせることにより、他の実施形態とすることができる。本明細書において、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20℃以上25℃以下)/相対湿度40%RH以上50%RH以下の条件で行う。
【0014】
[炭化ケイ素基板]
ここに開示される技術は、炭化ケイ素からなる基板(以下、炭化ケイ素基板、SiC基板、SiCウェーハとも称する)を洗浄する方法を包含し、より具体的には、上記炭化ケイ素基板を研磨した後、洗浄する方法を包含する。したがって、上記炭化ケイ素基板は、洗浄対象基板であるとともに、研磨対象基板でもある。ここに開示される方法によると、上記の炭化ケイ素基板の表面は良好に洗浄される。
【0015】
ここに開示される方法は、機械的かつ化学的に安定な炭化ケイ素の単結晶表面を研磨した後の洗浄に適用することができる。炭化ケイ素は、電力損失が少なく耐熱性等に優れる半導体基板材料として期待されており、その表面性状を改善することの実用上の利点は大きく、研磨によって高い面品質となった表面に対して洗浄処理を実施し、クリーンな表面に仕上げることの利点も大きい。
【0016】
[洗浄剤]
<キレート剤>
ここに開示される洗浄剤は、キレート剤を含む。キレート剤は、金属イオンに対して多座配位を行い、金属イオンの洗浄剤中への溶解性を高めることができると考えられる。
【0017】
キレート剤の種類としては、特に制限されないが、ヒドロキシ酸、ジカルボン酸、アミノカルボン酸系キレート剤、有機ホスホン酸系キレート剤が挙げられる。キレート剤は、その分子中にカルボキシ基を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。また、キレート剤は、その分子中にヒドロキシ基を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。また、キレート剤は、その分子中にアミノ基を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。
【0018】
ここに開示される洗浄剤は、キレート剤がその分子中にカルボキシ基を含むことが好ましい。カルボキシ基を含むキレート剤としては、ヒドロキシ酸、ジカルボン酸、アミノカルボン酸系キレート剤が挙げられる。それらの中でも、キレート剤はヒドロキシ酸を含むことが好ましい。ここでヒドロキシ酸とは、1分子中にカルボキシ基とヒドロキシ基とをもつ有機化合物である。ヒドロキシ酸は1つのカルボキシ基を含んでいてもよいし、複数のカルボキシ基を含んでいてもよい。ヒドロキシ酸がカルボキシ基を複数含む場合、ヒドロキシ酸は2つ以上のカルボキシ基を含んでいてもよいし、3つ以上のカルボキシ基を含んでいてもよい。ヒドロキシ酸は1つのヒドロキシ基を含んでいてもよいし、複数のヒドロキシ基を含んでいてもよい。ヒドロキシ酸がヒドロキシ基を複数含む場合、ヒドロキシ酸は2つ以上のヒドロキシ基を含んでいてもよいし、3つ以上のヒドロキシ基を含んでいてもよい。ヒドロキシ酸としては、特に制限されず、例えば、脂肪族ヒドロキシ酸、芳香族ヒドロキシ酸が挙げられる。
【0019】
脂肪族ヒドロキシ酸の例としては、例えば、グリコール酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシブタン酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシヘキサン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシノナン酸、ヒドロキシデカン酸、ヒドロキシウンデカン酸、ヒドロキシドデカン酸、ヒドロキシトリデカン酸、ヒドロキシテトラデカン酸、ヒドロキシペンタデカン酸、ヒドロキシヘキサデカン酸、ヒドロキシヘプタデカン酸、ヒドロキシオクタデカン酸、ヒドロキシノナデカン酸、ヒドロキシイコサン酸、ヒドロキシドコサン酸、ヒドロキシテトラドコサン酸、ヒドロキシヘキサドコサン酸、ヒドロキシオクタドコサン酸、乳酸、タルトロン酸、グリセリン酸、ヒドロキシ酪酸、2-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ酪酸、γ-ヒドロキシ酪酸、リンゴ酸、酒石酸、シトラマル酸、クエン酸、イソクエン酸、ロイシン酸、メバロン酸、パントイン酸、リシノール酸、リシネライジン酸、セレブロン酸、キナ酸、シキミ酸等が挙げられ、これらの異性体であってもよい。
【0020】
芳香族ヒドロキシ酸の例としては、例えば、サリチル酸、クレオソート酸(ホモサリチル酸、ヒドロキシ(メチル)安息香酸)、バニリン酸、シリング酸等のモノヒドロキシ安息香酸誘導体;ピロカテク酸、レソルシル酸、プロトカテク酸、ゲンチジン酸、オルセリン酸等のジヒドロキシ安息香酸誘導体;没食子酸等のトリヒドロキシ安息香酸誘導体;マンデル酸、ベンジル酸、アトロラクチン酸等のフェニル酢酸誘導体、メリロト酸、フロレト酸、クマル酸、ウンベル酸、コーヒー酸、フェルラ酸、シナピン酸等のヒドロケイ皮酸誘導体;等が挙げられ、これらの異性体であってもよい。
【0021】
当該ヒドロキシ酸は、1種単独でもまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、当該ヒドロキシ酸は、市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。
【0022】
これらの中でも、脂肪族ヒドロキシ酸がより好ましく、クエン酸がさらに好ましい。
【0023】
カルボキシ基を含むキレート剤として、ジカルボン酸を含んでもよい。ジカルボン酸の例としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等が挙げられる。
【0024】
カルボキシ基を含むキレート剤として、アミノカルボン酸系キレート剤を含んでもよい。アミノカルボン酸系キレート剤の例としては、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸アンモニウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、トリエチレンテトラミン六酢酸およびトリエチレンテトラミン六酢酸ナトリウム等が挙げられる。
【0025】
ここに開示される洗浄剤は、上記の効果を阻害しない範囲内において、上記カルボキシ基を含むキレート剤とともに、他のキレート剤を含んでいてもよい。かような他のキレート剤の例としては、有機ホスホン酸系キレート剤が挙げられる。有機ホスホン酸系キレート剤の例には、2-アミノエチルホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン-1,1-ジホスホン酸、エタン-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1-ジホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1,2-ジカルボキシ-1,2-ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2-ジカルボン酸、1-ホスホノブタン-2,3,4-トリカルボン酸およびα-メチルホスホノコハク酸等が含まれる。これら他のキレート剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
ただし、当該他のキレート剤の濃度(含有量)は、ヒドロキシ酸と他のキレート剤との合計質量に対して、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、2質量%以下であることがさらに好ましく、1質量%以下であることが特に好ましい。最も好ましい形態は、他のキレート剤の濃度(含有量)が0質量%であること、すなわちヒドロキシ酸以外の他のキレート剤を含まない形態である。
【0027】
洗浄剤におけるキレート剤の濃度(含有量)は、キレート剤含有の効果が発揮される範囲で適切に設定され、特定の範囲に限定されない。いくつかの態様において、洗浄剤におけるキレート剤の濃度(含有量)は、0.01質量%以上とすることができ、0.1質量%以上が適当である。いくつかの態様において、洗浄剤中のキレート剤の濃度(含有量)は、0.3質量%以上であってもよく、0.5質量%以上であってもよく、0.8質量%以上であってもよく、1.0質量%以上であってもよく、1.2質量%以上であってもよく、1.5質量%以上であってもよい。かかる態様において、洗浄剤中のキレート剤の濃度(含有量)の上限は、8.0質量%以下とすることができ、6.0質量%以下であってもよく、5.5質量%以下であってもよく、5.0質量%以下であってもよく、4.5質量%以下であってもよく、4.0質量%以下であってもよい。
【0028】
すなわち、いくつかの態様において、洗浄剤中のキレート剤の濃度(含有量)は、0.01質量%以上8.0質量%以下とすることができ、0.1質量%以上8.0質量%以下であってもよく、0.3質量%以上6.0質量%以下であってもよく、0.5質量%以上5.5質量%以下であってもよく、0.8質量%以上5.0質量%以下であってもよく、1.0質量%以上4.5質量%以下であってもよく、1.2質量%以上4.0質量%以下であってもよく、1.5質量%以上4.0質量%以下であってもよい。
【0029】
洗浄剤が2種以上のキレート剤を含む場合には、キレート剤の濃度(含有量)は、これらの合計量を意味する。
【0030】
<界面活性剤>
ここに開示される洗浄剤は、界面活性剤を含む。洗浄剤が界面活性剤を含むことにより、研磨用組成物に含まれる砥粒等に由来するパーティクル残渣の除去をより容易にすると考えられる。
【0031】
洗浄剤に用いられる界面活性剤としては、特に限定されず、アニオン性、カチオン性、ノニオン性、両性のいずれのものも使用可能である。研磨後の炭化ケイ素基板表面に対して良好な洗浄性を発揮する界面活性剤は、アニオン性界面活性剤およびカチオン性界面活性剤の中から好ましく選択され得、より好ましくはアニオン性界面活性剤の中から選択され得る。界面活性剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、界面活性剤は、市販品を用いてもよいし、合成品を用いてもよい。
【0032】
アニオン性界面活性剤の例としては、例えばアルカンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩(例えばノニルベンゼンスルホン酸塩、デシルベンゼンスルホン酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩等)、ナフタレンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩(例えばラウリル硫酸塩、オクタデシル硫酸塩等)、ポリオキシアルキレン硫酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、α-スルホ脂肪酸塩、α-スルホ脂肪酸アルキルエステル塩、アルキルスルホコハク酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩等のスルホン酸系化合物;アルキル硫酸エステル塩、アルケニル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩(例えばポリオキシエチレンオクタデシルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸塩)、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸エステル塩等の硫酸エステル化合物;アルキルエーテルカルボン酸塩、アミドエーテルカルボン酸塩、スルホコハク酸塩、アミノ酸系界面活性剤等のカルボン酸系化合物;アルキルリン酸エステル塩、アルキルエーテルリン酸エステル塩等のリン酸エステル化合物;等が挙げられる。なかでも、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩が好ましい。アニオン性界面活性剤が塩を形成している場合、該塩は、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等の金属塩(好ましくは1価金属の塩)、アンモニウム塩、アミン塩等であり得る。アニオン性界面活性剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
ノニオン性界面活性剤の例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のオキシアルキレン重合体;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリルエーテル脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等のポリオキシアルキレン誘導体(例えば、ポリオキシアルキレン付加物);複数種のオキシアルキレンの共重合体(例えば、ジブロック型共重合体、トリブロック型共重合体、ランダム型共重合体、交互共重合体);等が挙げられる。ノニオン性界面活性剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
カチオン性界面活性剤の例としては、アルキルアミドアミン、アルキルアミン等のアミン型カチオン性界面活性剤;テトラアルキル(炭素数1~4)アンモニウム塩(例えばテトラメチルアンモニウム塩)、モノ長鎖アルキル(炭素数8~18)トリ短鎖アルキル(炭素数1~2)アンモニウム塩(例えばラウリルトリメチルアンモニウム塩、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム塩、ステアリルトリメチルアンモニウム塩)、ジ長鎖アルキル(炭素数8~18)ジ短鎖アルキル(炭素数1~2)アンモニウム塩等の四級アンモニウム塩型カチオン性界面活性剤;等が挙げられる。カチオン性界面活性剤が塩を形成している場合、該塩は、例えば、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン化物;水酸化物;炭素数1~5のスルホン酸エステル、硫酸エステル、硝酸エステル等であり得る。なかでも、四級アンモニウム塩型カチオン性界面活性剤(好適にはモノ長鎖アルキルトリ短鎖アルキルアンモニウム塩、ジ長鎖アルキルジ短鎖アルキルアンモニウム塩等)から好ましく選択される。カチオン性界面活性剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
両性界面活性剤としては、特に限定されず、例えばアルキルベタイン型界面活性剤、アミノ酸型界面活性剤、アミンアルキレンオキサイド型界面活性剤、アミンオキシド型界面活性剤等が挙げられる。両性界面活性剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
いくつかの好ましい態様において用いられる界面活性剤は、ポリオキシアルキレン単位を有する化合物であり得る。上記の効果をより発揮させるという観点から、界面活性剤は、ポリオキシアルキレン単位を有するアニオン性界面活性剤であることがより好ましい。上記オキシアルキレン単位は、1つのオキシアルキレン基で構成されてもよく、2以上のオキシアルキレン単位の繰り返し構造であってもよい。オキシアルキレン単位の例としては、オキシエチレン単位(EO)やオキシプロピレン単位(PO)が挙げられる。なかでも、オキシエチレン単位(EO)が好ましい。界面活性剤が、複数のオキシアルキレン単位を有する場合、当該オキシアルキレン単位は、同種(すなわち1種類)であってもよく、2種以上のオキシアルキレン単位を含んで構成されていてもよい。界面活性剤中に含まれるアルキレンオキシドの合計付加モル数は、1以上であってもよく、3以上でもよく、5以上でもよく、10以上でもよく、15以上でもよく、20以上でもよく、また50以下であってもよく、30以下でもよく、22以下でもよく、16以下でもよく、12以下でもよく、8以下でもよく、4以下(例えば3以下)でもよい。
【0037】
いくつかの態様において用いられる界面活性剤(例えばアニオン性界面活性剤)は、炭化水素基を有する。炭化水素基は、アルキル基等の飽和炭化水素から構成されていてもよく、炭素-炭素二重結合等の不飽和結合を含むものであってもよい。また、炭化水素基(典型的にはアルキル基)は、直鎖状および分岐状のいずれであってもよい。上記炭化水素基(例えばアルキル基)が有する炭素原子数は、8以上であってもよく、10以上でもよく、12以上でもよく、また24以下であってもよく、20以下でもよく、18以下でもよく、16以下でもよく、12以下でもよい。炭化水素基(典型的にはアルキル基)の具体例としては、オクチル基、デシル基、ラウリル基(ウンデシル基)、テトラデシル基、ヘキサデシル基、ステアリル基(オクタデシル基)等が挙げられる。
【0038】
界面活性剤のpH(界面活性剤100質量%濃度のpH、または、製品として入手可能な界面活性剤(適当量の水等を含み得る)のpH)は、特に制限されず、例えば、5.0以上が適当であり、好ましくは6.0以上(例えば6.0超)であり、より好ましくは6.5以上、さらに好ましくは7.0以上、特に好ましくは7.5以上(例えば8.0超、さらには8.2以上)である。上記界面活性剤のpHは、例えば11.0未満であることが適当であり、好ましくは9.5未満、より好ましくは9.0以下(例えば9.0未満)であり、8.0未満でもよく、7.0未満でもよく、6.0未満でもよく、5.0未満でもよい。中性に近い領域の界面活性剤を用いた洗浄を実施することにより、高い面品質を実現しやすい。
【0039】
なお、本明細書において、液状の界面活性剤や洗浄剤(典型的には洗浄液)のpHは、pHメーター(例えば、株式会社堀場製作所製のガラス電極式水素イオン濃度指示計(型番F-23))を使用し、標準緩衝液(フタル酸塩pH緩衝液 pH:4.01(25℃)、中性リン酸塩pH緩衝液 pH:6.86(25℃)、炭酸塩pH緩衝液 pH:10.01(25℃))を用いて3点校正した後で、ガラス電極を測定対象の洗浄剤に入れて、2分以上経過して安定した後の値を測定することにより把握することができる。
【0040】
洗浄剤における界面活性剤の濃度(含有量)は、界面活性剤含有の効果が発揮される範囲で適切に設定され、特定の範囲に限定されない。いくつかの態様において、洗浄剤における界面活性剤の濃度(含有量)は、0.01質量%以上とすることができ、0.1質量%以上が適当である。いくつかの態様において、洗浄剤中の界面活性剤の濃度(含有量)は、1質量%以上であってもよく、3質量%以上であってもよく、10質量%以上であってもよく、20質量%以上であってもよく、30質量%以上であってもよく、40質量%以上であってもよい。かかる態様において、洗浄剤中の界面活性剤の濃度(含有量)の上限は、90質量%以下とすることができ、70質量%以下であってもよく、50質量%以下であってもよく、35質量%以下であってもよい。
【0041】
すなわち、いくつかの態様において、洗浄剤中の界面活性剤の濃度(含有量)は、0.01質量%以上90質量%以下とすることができ、0.1質量%以上70質量%以下であってもよく、0.1質量%以上50質量%以下であってもよく、0.1質量%以上35質量%以下であってもよく、0.1質量%以上30質量%以下であってもよく、3質量%以上30質量%以下であってもよく、10質量%以上30質量%以下であってもよく、20質量%以上30質量%以下であってもよい。
【0042】
洗浄剤が2種以上の界面活性剤を含む場合には、界面活性剤の濃度(含有量)は、これらの合計量を意味する。
【0043】
<溶媒(水)>
ここに開示される洗浄剤の溶媒は、水のみからなる。溶媒が水のみからなることにより、上記の効果がよりよく発揮され得る。そのような洗浄剤は、室温(例えば20℃以上25℃以下)で液状である洗浄液であり得る。洗浄剤に用いられる水としては、イオン交換水(脱イオン水)、純水、超純水、蒸留水等が好適である。なお、ここに開示される洗浄剤は、溶媒として有機溶剤(低級アルコール、低級ケトン等)を含有しない。当該洗浄剤が有機溶剤を含む場合、洗浄剤の均一性および洗浄剤の安全性が低下する。
【0044】
<他の添加剤>
ここに開示される洗浄剤は、例えば、pH調整剤、消泡剤、防腐剤、防カビ剤等の、洗浄剤に用いられ得る公知の添加剤の1種または2種以上を、必要に応じてさらに含有してもよい。
【0045】
また、ここに開示される洗浄剤は、無機酸および酸化剤の少なくとも一方をさらに含むことが好ましい。無機酸は、洗浄剤のpHを低下させ、洗浄剤に対する金属イオンの溶解性をより高め、研磨済の炭化ケイ素基板表面の金属イオン残渣をさらに除去しやすくする働きを有すると考えられる。また、酸化剤は、炭化ケイ素表面に存在し得る金属の析出物等をイオン化することができ、炭化ケイ素表面の残渣をさらに除去しやすくする働きを有すると考えられる。
【0046】
無機酸の例としては、硫酸、硝酸、塩酸、炭酸、ホウ酸、次亜リン酸、亜リン酸、リン酸等が挙げられ、硝酸がより好ましい。
【0047】
酸化剤は、後述の研磨用組成物に用いられる酸化剤の中から適宜選択することができる。金属イオン残渣を低減する観点から金属元素を含まない酸化剤が好ましく、酸化剤の例としては、過酸化水素、ペルオキソ一硫酸、ペルオキソ一硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソリン酸、ペルオキソ硫酸、過ギ酸、過酢酸、過安息香酸、過フタル酸、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸、塩素酸、臭素酸、ヨウ素酸、過ヨウ素酸、過塩素酸、次亜塩素酸等が挙げられる。これら酸化剤の中でも、過酸化水素が好ましい。
【0048】
上記無機酸および酸化剤は、それぞれ1種単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0049】
上記他の添加剤の濃度(含有量)は、本発明の効果が著しく妨げられない適当な範囲とすることができる。例えば、他の添加剤を含む場合の洗浄剤中の他の添加剤の濃度(含有量)の上限は、10質量%以下とすることが適当であり、5質量%以下であってもよく、3質量%以下であってもよく、1質量%以下であってもよい。他の添加剤を含む場合の洗浄剤中の他の添加剤の濃度(含有量)の下限は、0質量超である。なお、他の添加剤は、キレート剤、界面活性剤、および水とは異なる成分として定義される。
【0050】
<pH>
ここに開示される洗浄剤のpHは、特に制限されない。例えば、洗浄剤のpHは、0.5以上であってもよく、1.0以上であってもよく、1.5以上であってもよく、2.0以上であってもよい。洗浄剤のpHは、例えば7.0未満であってよく、6.5以下であってもよく、6.0以下でもよく、5.0以下でもよい。いくつかの態様において、洗浄剤のpHは、例えば5.0未満であり、好ましくは4.5未満、より好ましくは4.0以下であり、3.5以下でもよい。酸性領域の洗浄剤を用いた洗浄を実施することにより、炭化ケイ素基板表面の金属イオン残渣や、研磨用組成物に含まれる砥粒等に起因するパーティクル残渣をより低減することができる。
【0051】
<洗浄方法>
ここに開示される洗浄方法は、洗浄剤を用いて研磨後の炭化ケイ素基板を洗浄する工程(洗浄工程)を含む。洗浄は、砥粒および研磨助剤を含む研磨用組成物を用いて研磨した炭化ケイ素基板の表面から、砥粒および研磨助剤を除去することを含む。洗浄剤としては、上述の洗浄剤が用いられる。洗浄方法は、特に限定されず、目的に応じて適当な手段で実施することができる。例えば、浸漬による洗浄、スプレー噴射による洗浄、スクラブ洗浄、超音波洗浄、リンス研磨等から選択される1または2以上の洗浄プロセスが採用され得る。洗浄性の観点からスクラブ洗浄、リンス研磨が好ましい。なお、スクラブ洗浄とは、スポンジやブラシ、不織布等の洗浄具を用いて、基板表面を拭く、あるいは擦る操作を行う洗浄のことをいう。例えば、スポンジやブラシ、不織布等の洗浄具の表面に洗浄剤を付与し、当該洗浄剤が付与された洗浄具を基板表面に当接させて相対移動させることにより、基板表面に付着した粒子等の付着物は除去され得る。また、洗浄工程は、付着した粒子の除去性の観点から、研磨後の基板表面が乾燥する前に実施することが好ましい。なお、ここに開示される洗浄工程は、超音波洗浄やマイクロ波洗浄を含まない態様で、好ましく実施され得る。
【0052】
付着粒子の除去性の観点から、洗浄手段として、スポンジ(例えばポリビニルアルコール(PVA)スポンジ)を用いたスクラブ洗浄であってもよい。このような洗浄をスポンジ洗浄ともいう。また、スクラブ洗浄においては、必要に応じて基板表面に水(脱イオン水、純水、超純水、蒸留水等)を追加的に供給してもよく、あるいは供給しなくてもよい。
【0053】
洗浄剤を用いた洗浄工程の時間は、特に限定されず、基板表面の粒子除去性の観点から、10秒以上とすることが適当であり、好ましくは30秒以上、より好ましくは1分以上である。また、洗浄効率の観点から、30分以下程度とすることが適当であり、好ましくは10分以下、より好ましくは3分以下(例えば1分以上2分以下)である。
【0054】
洗浄工程における洗浄剤の温度は、通常、常温(典型的には10℃以上40℃未満、例えば20℃以上30℃以下程度)とすることができる。洗浄剤を加温(例えば40℃以上または50℃以上80℃以下程度に加温)して洗浄を実施してもよい。
【0055】
いくつかの好ましい態様において、上記洗浄剤を用いた洗浄工程の前に予備洗浄(プレ洗浄ともいう)を実施する。予備洗浄は、上記洗浄剤を用いない洗浄であり、例えば、浸漬による洗浄や、流水洗浄、スプレー噴射による洗浄、スクラブ洗浄、超音波洗浄、リンス研磨等から選択される1または2以上が採用され得る。例えば、予備洗浄は、水(脱イオン水、純水、超純水、蒸留水等。特に断りがない限り以下同じ)への浸漬、流水洗浄、水をスプレー噴射する洗浄、水を用いたスクラブ洗浄、水を含む水槽での超音波洗浄、水を用いたリンス研磨等であり得る。水への浸漬は、水を溜めた水槽内に基板を浸漬するバッチ浸漬であってもよく、水槽に水をオーバーフローさせながら行うオーバーフロー浸漬であってもよく、クイックダンプ浸漬であってもよい。洗浄性の観点からスクラブ洗浄が好ましい。水を用いたスクラブ洗浄は、基板表面に水を供給(流水)しながら実施することが好ましい。予備洗浄におけるスクラブ洗浄としては、スポンジ(例えばPVAスポンジ)を用いたスクラブ洗浄が好ましい。予備洗浄工程は、付着した粒子の除去性の観点から、研磨後の基板表面が乾燥する前に実施することが好ましく、予備洗浄工程終了後、基板表面が乾燥する前に上記洗浄工程を実施することが好ましい。
【0056】
予備洗浄工程の時間は、特に限定されず、洗浄性の観点から、10秒以上とすることが適当であり、好ましくは30秒以上である。また、洗浄効率の観点から、10分以下程度とすることが適当であり、好ましくは3分以下(例えば1分以上2分以下)である。
【0057】
いくつかの態様において、上記洗浄剤を用いた洗浄工程の後に後洗浄を実施する。後洗浄は、上記洗浄工程の後に実施する他は上述の予備洗浄と同様の方法で実施され得るので、重複する説明は省略する。後洗浄では、流水洗浄と浸漬洗浄(例えばオーバーフロー浸漬)とを組み合わせる方法が好ましく採用され得る。浸漬洗浄が採用される場合、後洗浄工程の時間は、1分以上とすることが適当であり、10分以上(例えば10分以上30分以下程度)することが好ましい。
【0058】
ここに開示される洗浄方法は、界面活性剤を用いて、また好ましい態様においてスポンジを用いたスクラブ洗浄によって、炭化ケイ素基板に対して良好な洗浄効果を実現できるので、その全体において、従来の洗浄方法においてよく利用されている超音波洗浄やマイクロ波洗浄を含まない態様で好ましく実施することができる。
【0059】
(リンス研磨処理(リンス洗浄))
ここに開示される洗浄剤は、リンス研磨処理(リンス洗浄)において好適に用いられる。リンス研磨処理は、研磨対象物について最終研磨(仕上げ研磨)を行って研磨済研磨対象物を得た後、研磨済研磨対象物の表面上の残渣の除去を目的として、研磨パッドが取り付けられた研磨定盤(プラテン)上で行われる。このとき、本発明に係る洗浄剤を研磨済研磨対象物に直接接触させることにより、リンス研磨処理が行われる。その結果、研磨済研磨対象物表面の残渣は、研磨パッドによる摩擦力(物理的作用)および洗浄剤による化学的作用によって除去される。残渣のなかでも、特にパーティクル残渣、金属イオン残渣、金属残渣等は、物理的な作用により除去されやすい。したがって、リンス研磨処理では、研磨定盤(プラテン)上で研磨パッドとの摩擦を利用することで、パーティクル残渣や金属イオン残渣を効果的に除去することができる。
【0060】
具体的には、リンス研磨処理は、研磨工程後の研磨済研磨対象物表面を研磨装置の研磨定盤(プラテン)に設置し、研磨パッドと研磨済研磨対象物とを接触させて、その接触部分に洗浄剤を供給しながら、研磨済研磨対象物と研磨パッドとを相対摺動させることにより行うことができる。
【0061】
ここで、リンス研磨処理の条件には特に制限はないが、例えば、研磨済研磨対象物と、研磨パッドとの圧力は、0.5psi(3.45kPa)以上10psi(68,9kPa)以下が好ましい。ヘッド回転数は、10rpm(0.17s-1)以上200rpm以下(3.33s-1)が好ましい。また、研磨定盤(プラテン)回転数は、10rpm(0.17s-1)以上200rpm(3.33s-1)以下が好ましい。掛け流しの供給量に制限はないが、研磨済研磨対象物の表面が洗浄剤で覆われていることが好ましく、例えば、10ml/分以上5000ml/分以下である。また、洗浄時間も特に制限されないが、5秒以上180秒以下であることが好ましい。
【0062】
このような範囲であれば、炭化ケイ素基板表面上の残渣をより良好に除去することが可能である。
【0063】
リンス研磨処理の際の洗浄剤の温度は、特に制限されず、通常は室温(20℃以上25℃以下)でよいが、性能を損なわない範囲で、40℃以上70℃以下程度に加温してもよい。
【0064】
リンス研磨処理は、片面研磨装置、両面研磨装置のいずれを用いても行うことができる。また、上記研磨装置は、研磨用組成物の吐出ノズルに加え、洗浄剤の吐出ノズルを備えていると好ましい。研磨装置のリンス洗浄処理時の稼働条件は特に制限されず、当業者であれば適宜設定可能である。
【0065】
上記のようにして洗浄された炭化ケイ素基板表面に残留する金属イオンは、非常に少ないものとなる。その金属イオン量は、特に限定するものではないが、一例を挙げれば、アルミニウムイオンの場合、1×1013atoms/cm2以下であり得る。なお、当該金属イオン量は、後述の実施例に記載されるように、蛍光X線分析法(XRF)を用いて測定される。
【0066】
洗浄された炭化ケイ素基板は、自然乾燥や、乾燥機等を用いて強制乾燥させた後、例えば半導体基板材料として、光学デバイスやパワーデバイス等の各種デバイス用途に好ましく用いられる。
【0067】
[基板の製造方法]
また、本明細書によると、上記洗浄方法を含む炭化ケイ素基板の製造方法が提供される。ここに開示される技術には、炭化ケイ素基板の製造方法および該方法により製造された炭化ケイ素基板の提供が含まれ得る。すなわち、ここに開示される技術によると、ここに開示されるいずれかの洗浄剤を、炭化ケイ素基板に供給して該炭化ケイ素基板を洗浄する洗浄工程を含む、炭化ケイ素基板の製造方法および該方法により製造された炭化ケイ素基板が提供される。上記製造方法は、ここに開示されるいずれかの洗浄方法の内容を好ましく適用することにより実施され得る。上記製造方法によると、面質が改善されたクリーンな炭化ケイ素基板が効率的に提供され得る。
【0068】
また、炭化ケイ素基板の製造方法は、上記洗浄工程の前に、研磨対象である炭化ケイ素基板を研磨する工程(研磨工程)を含み得る。上記研磨工程は、具体的には、後述する研磨用組成物を用いて炭化ケイ素基板の表面を研磨する工程である。ここに開示される洗浄剤および洗浄方法は、後述する研磨工程を経た研磨後の炭化ケイ素基板に対して適用されることで、所望の効果を好適に実現することができる。ここに開示される洗浄剤および洗浄方法は、後述の研磨と組み合わせる態様で好ましく実施される。したがって、本明細書によると、炭化ケイ素基板を研磨し、かつ洗浄する方法が提供される。以下、炭化ケイ素基板の研磨に用いられる研磨用組成物および研磨方法について説明する。
【0069】
[研磨用組成物]
<砥粒>
ここに開示される研磨用組成物は、典型的には砥粒を含む。研磨用組成物が砥粒を含むことは、優れた平滑性を効率的に実現する観点から好ましい。研磨用組成物に含まれ得る砥粒の種類としては、特に限定はない。例えば、砥粒は、無機粒子、有機粒子および有機無機複合粒子のいずれかであり得る。例えば、シリカ粒子、アルミナ粒子、酸化セリウム粒子、酸化クロム粒子、二酸化チタン粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化マグネシウム粒子、二酸化マンガン粒子、酸化亜鉛粒子、酸化鉄粒子等の酸化物粒子;窒化ケイ素粒子、窒化ホウ素粒子等の窒化物粒子;炭化ケイ素粒子、炭化ホウ素粒子等の炭化物粒子;ダイヤモンド粒子;炭酸カルシウムや炭酸バリウム等の炭酸塩;等のいずれかから実質的に構成される砥粒が挙げられる。砥粒は、1種を単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、シリカ粒子、アルミナ粒子、酸化セリウム粒子、酸化クロム粒子、酸化ジルコニウム粒子、二酸化マンガン粒子、酸化鉄粒子等の酸化物粒子は、良好な表面を形成し得るので好ましい。いくつかの態様では、アルミナ粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化クロム粒子、酸化鉄粒子がより好ましく、アルミナ粒子が特に好ましい。他のいくつかの態様では、シリカ粒子、酸化セリウム粒子、二酸化マンガン粒子がさらに好ましく、シリカ粒子が特に好ましい。
【0070】
なお、本明細書において、砥粒の組成について「実質的にXからなる」または「実質的にXから構成される」とは、当該砥粒に占めるXの割合(Xの純度)が、質量基準で90%以上(好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上、例えば99%以上)であることをいう。
【0071】
いくつかの態様では、砥粒としてアルミナ粒子が用いられる。アルミナ粒子は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。砥粒としてアルミナ粒子を用いる場合、研磨用組成物に含まれる砥粒全体に占めるアルミナ粒子の割合は、概して高い方が有利である。例えば、研磨用組成物に含まれる砥粒全体に占めるアルミナ粒子の割合は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上(例えば95質量%以上100質量%以下)である。
【0072】
いくつかの好ましい態様では、砥粒としてシリカ粒子が用いられる。シリカ粒子としては、コロイダルシリカ、フュームドシリカ、沈降シリカ等が挙げられる。平滑性向上の観点から、好ましいシリカ粒子としてコロイダルシリカおよびフュームドシリカが挙げられる。なかでもコロイダルシリカが特に好ましい。ここに開示される技術は、シリカ粒子を含む研磨用組成物を使用する研磨を含む方法に好適である。シリカ粒子を用いた炭化ケイ素基板の研磨において、シリカ粒子が炭化ケイ素基板表面に付着した場合、その除去は、他の粒子と比べて容易でないことが多い。ここに開示される技術によると、そのような基板表面に付着したシリカ粒子を、上述の洗浄剤を用いて好ましく除去することができる。シリカ粒子は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0073】
砥粒としてシリカ粒子を用いる場合、研磨用組成物に含まれる砥粒全体に占めるシリカ粒子の割合は、概して高い方が有利である。例えば、研磨用組成物に含まれる砥粒全体に占めるシリカ粒子の割合は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上(例えば95質量%以上100質量%以下)である。
【0074】
また、ここに開示される研磨用組成物は、砥粒としてダイヤモンド粒子を実質的に含まない非ダイヤモンド砥粒を用いることもできる。ダイヤモンド粒子は硬度が高いため、平滑性向上の制限要因となり得る。また、ダイヤモンド粒子は概して高価であることから、費用対効果の点で有利な材料とはいえず、実用面からは、ダイヤモンド粒子等の高価格材料への依存度は低いことが望ましい。
【0075】
砥粒(例えばシリカ粒子)の平均一次粒子径は、特に制限されず、研磨除去速度向上の観点から、10nm以上、より好ましくは15nm以上、さらに好ましくは20nm以上であり、50nm以上であってもよく、60nm以上でもよい。平均一次粒子径の増大によって、より高い研磨除去速度が実現され得る。また、研磨後の面品質の観点から、上記平均一次粒子径は、通常は500nm以下であり、300nm以下することが適当であり、好ましくは150nm以下、より好ましくは100nm以下、さらに好ましくは80nm以下であり、例えば60nm以下であってもよい。
【0076】
なお、ここに開示される技術において砥粒の平均一次粒子径とは、BET法により測定される比表面積(BET値)から、平均一次粒子径(nm)=6000/(真密度(g/cm3)×BET値(m2/g))の式により算出される粒子径(BET粒子径)をいう。比表面積の測定は、例えば、マイクロメリテックス社製の表面積測定装置、商品名「Flow Sorb II 2300」を用いて行うことができる。
【0077】
研磨用組成物が砥粒を含む場合において、該研磨用組成物における砥粒の濃度(含有量)は、研磨除去速度の観点から、通常は0.01質量%以上とすることが適当であり、0.1質量%以上としてもよく、1質量%以上としてもよく、3質量%以上としてもよい。効率よく平滑性を向上する観点から、上記砥粒の濃度(含有量)は、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましい。また、良好な分散性を得る観点から、研磨用組成物における砥粒の濃度(含有量)は、通常は50質量%以下とすることが適当であり、40質量%以下とすることが好ましく、20質量%以下であってもよく、10質量%以下でもよく、8質量%以下でもよい。他のいくつかの態様において、所望の面質を得る観点から、研磨用組成物は砥粒を含まないものであってもよい。
【0078】
<研磨助剤>
ここに開示される研磨用組成物は、研磨助剤を含むことが好ましい。研磨助剤は、研磨による効果を増進する成分であり、典型的には水溶性のものが用いられる。研磨助剤は、特に限定的に解釈されるものではないが、研磨において炭化ケイ素基板表面を変質(典型的には酸化変質)する作用を示し、基板表面の脆弱化をもたらすことで、砥粒による研磨に寄与していると考えられる。具体的には、炭化ケイ素基板の研磨において、研磨助剤は、炭化ケイ素の酸化、すなわちSiOxCy化に貢献していると考えられる。当該SiOxCyは、炭化ケイ素単結晶よりも低い硬度である。このようなことから、研磨助剤の添加により研磨除去速度、および炭化ケイ素基板の表面品質は向上すると考えられる。
【0079】
よって、好ましい一態様によれば、上記研磨用組成物は砥粒および研磨助剤を含む。砥粒は非ダイヤモンド砥粒であってもよい。
【0080】
研磨用組成物に用いられる研磨助剤としては、特に限定されず、酸化剤、金属塩が挙げられる。
【0081】
(酸化剤)
酸化剤は、炭化ケイ素のような高硬度の非酸化物材料の硬度を低下させ、該材料を脆弱にすることに有効である。このため、酸化剤は、炭化ケイ素のポリシングにおいて、研磨除去速度を向上させる効果を発揮し得る。本明細書において、酸化剤には、後述する金属塩は含まれないものとする。酸化剤の例としては、例えば、過酸化水素等の過酸化物;ペルオキソ一硫酸カリウム、ペルオキソ二硫酸等の過硫酸、その塩である過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の過硫酸化合物;塩素酸やその塩、過塩素酸、その塩である過塩素酸カリウム等の塩素化合物;臭素酸、その塩である臭素酸カリウム等の臭素化合物;ヨウ素酸、その塩であるヨウ素酸アンモニウム、過ヨウ素酸、その塩である過ヨウ素酸ナトリウム、過ヨウ素酸カリウム等のヨウ素化合物;鉄酸、その塩である鉄酸カリウム等の鉄酸類;過マンガン酸、その塩である過マンガン酸ナトリウム、過マンガン酸カリウム等の過マンガン酸類;クロム酸、その塩であるクロム酸カリウム、ニクロム酸カリウム等のクロム酸類;バナジン酸、その塩であるバナジン酸アンモニウム、バナジン酸ナトリウム、バナジン酸カリウム等のバナジン酸類;過ルテニウム酸またはその塩等のルテニウム酸類;モリブデン酸、その塩であるモリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸二ナトリウム等のモリブデン酸類;過レニウム酸またはその塩等の過レニウム酸類;タングステン酸、その塩であるタングステン酸二ナトリウム等のタングステン酸類;が挙げられる。これら酸化剤は、1種を単独で用いてもよく2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。いくつかの態様において、酸化剤は過マンガン酸またはその塩、クロム酸またはその塩、鉄酸またはその塩が好ましく、過マンガン酸ナトリウム、過マンガン酸カリウムが特に好ましい。他のいくつかの態様において、酸化剤はバナジン酸またはその塩、ヨウ素化合物、モリブデン酸またはその塩、タングステン酸またはその塩が好ましく、メタバナジン酸ナトリウム、バナジン酸ナトリウム、バナジン酸カリウムが特に好ましい。
【0082】
いくつかの好ましい態様では、研磨用組成物は、酸化剤として複合金属酸化物を含む。上記複合金属酸化物としては、硝酸金属塩、鉄酸類、過マンガン酸類、クロム酸類、バナジン酸類、ルテニウム酸類、モリブデン酸類、過レニウム酸類、タングステン酸類が挙げられる。なかでも、鉄酸類、過マンガン酸類、クロム酸類、バナジン酸類、モリブデン酸類、タングステン酸類がより好ましく、過マンガン酸類、バナジン酸類がさらに好ましい。
【0083】
ここに開示される研磨用組成物は、上記複合金属酸化物以外の酸化剤をさらに含んでもよく、含まなくてもよい。ここに開示される技術は、酸化剤として上記複合金属酸化物および上記複合金属酸化物以外の酸化剤(例えば過酸化水素)を含む態様で好ましく実施され得る。また、ここに開示される技術は、酸化剤として上記複合金属酸化物以外の酸化剤(例えば過酸化水素)を実質的に含まない態様でも実施され得る。
【0084】
研磨用組成物における酸化剤の濃度(含有量)は、通常は0.005モル/L以上とすることが適当である。研磨除去速度向上の観点から、研磨用組成物における酸化剤の濃度(含有量)は、0.008モル/L以上が好ましく、0.01モル/L以上がより好ましく、0.03モル/L以上でもよく、0.05モル/L以上でもよく、0.06モル/L以上でもよく、0.07モル/L以上でもよい。より高い研磨除去速度を実現しやすくする観点から、いくつかの態様において、酸化剤の濃度は、0.12モル/L以上でもよく、0.14モル/L以上でもよく、0.16モル/L以上でもよい。平滑性向上の観点から、研磨用組成物における酸化剤の濃度(含有量)は、通常は2.5モル/L以下とすることが適当であり、2.0モル/L以下とすることが好ましく、1.7モル/L以下とすることがより好ましい。研磨用組成物における酸化剤の濃度(含有量)は、1.5モル/L以下でもよく、1.0モル/L以下でもよく、0.75モル/L以下でもよく、0.5モル/L以下でもよく、0.4モル/L以下でもよく、0.3モル/L以下でもよい。なお、研磨用組成物が2種以上の酸化剤を含む場合には、酸化剤の濃度(含有量)は、これらの合計量を意味する。
【0085】
(金属塩)
ここに開示される研磨用組成物は、研磨助剤として酸化剤とは異なる金属塩を含んでもよい。上記金属塩を用いると、研磨除去速度がより向上しやすい。また、上記金属塩を用いると、研磨用組成物の性能劣化(例えば、研磨除去速度の低下等)が抑制されやすい。上記金属塩は、後述の金属塩A、金属塩B、金属塩Cの中から1種、または複数種を選択することができる。
【0086】
(金属塩A)
いくつかの好ましい態様において、研磨用組成物は、アルカリ土類金属塩から選択される金属塩Aを含む。金属塩Aとしては、1種のアルカリ土類金属塩を単独で用いてもよく、2種以上のアルカリ土類金属塩を組み合わせて用いてもよい。金属塩Aを用いることにより、研磨除去速度が向上し得る。金属塩Aは、アルカリ土類金属に属する元素として、Mg、Ca、Sr、Baのうちのいずれか1種または2種以上を含むことが好ましい。なかでもCa、Srのうちのいずれかが好ましく、Caがより好ましい。
【0087】
金属塩Aにおける塩の種類は特に限定されず、無機酸塩であっても有機酸塩であってもよい。無機酸塩の例としては、塩酸、臭化水素酸、フッ化水素酸等のハロゲン化水素酸や、硝酸、硫酸、炭酸、ケイ酸、ホウ酸、リン酸等の塩が挙げられる。有機酸塩の例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、グリシン酸、酪酸、クエン酸、酒石酸、トリフルオロ酢酸等のカルボン酸;メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸等の有機スルホン酸;メチルホスホン酸、ベンゼンホスホン酸、トルエンホスホン酸等の有機ホスホン酸;エチルリン酸等の有機リン酸;等の塩が挙げられる。なかでも、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸の塩が好ましく、塩酸、硝酸の塩がより好ましい。ここに開示される技術は、例えば、金属塩Aとしてアルカリ土類金属の硝酸塩または塩化物を用いる態様で好ましく実施され得る。
【0088】
金属塩Aの選択肢となり得るアルカリ土類金属塩の具体例としては、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化ストロンチウム、塩化バリウム等の塩化物;臭化マグネシウム、臭化カルシウム、臭化ストロンチウム、臭化バリウム等の臭化物;フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウム等のフッ化物;硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸ストロンチウム、硝酸バリウム等の硝酸塩;硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸ストロンチウム、硫酸バリウム等の硫酸塩;炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム等の炭酸塩;酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、酢酸ストロンチウム、酢酸バリウム、安息香酸マグネシウム、安息香酸カルシウム、安息香酸バリウム、クエン酸マグネシウム、クエン酸カルシウム、クエン酸ストロンチウム、クエン酸バリウム等のカルボン酸塩;等が挙げられる。
【0089】
金属塩Aは、好ましくは水溶性の塩である。水溶性の金属塩Aを用いることにより、スクラッチ等の欠陥の少ない良好な表面を効率よく形成し得る。
【0090】
また、金属塩Aは、酸化剤によって酸化されない化合物であることが好ましい。かかる観点から酸化剤および金属塩Aを適切に選択することにより、金属塩Aが酸化剤で酸化されることによる該酸化剤の失活を防ぎ、経時による研磨用組成物の性能劣化(例えば、研磨除去速度の低下等)を抑制することができる。かかる観点から、好ましい金属塩Aとして硝酸カルシウムが挙げられる。
【0091】
研磨用組成物が金属塩Aを含む場合において、研磨用組成物における金属塩Aの濃度(含有量)は、特に限定されず、該研磨用組成物の使用目的や使用態様に応じて、所望の効果が達成されるように適切に設定し得る。金属塩Aの濃度は、例えば凡そ1000mM以下(すなわち、1モル/L以下)であってよく、500mM以下でもよく、300mM以下でもよい。いくつかの態様において、金属塩Aの濃度は、200mM以下とすることが適当であり、100mM以下とすることが好ましく、50mM以下とすることがより好ましく、30mM以下でもよく、20mM以下でもよく、10mM以下でもよい。金属塩Aの濃度の下限は、例えば0.1mM以上であってよく、金属塩Aの使用効果を適切に発揮する観点から0.5mM以上とすることが好ましく、1mM以上とすることがより好ましく、2.5mM以上でもよく、5mM以上でもよく、10mM以上でもよく、20mM以上でもよく、30mM以上でもよい。
【0092】
(金属塩B)
いくつかの好ましい態様において、研磨用組成物は、周期表の第3~16族に属する金属を含むカチオンと、アニオンとの塩から選択される金属塩Bを含む。金属塩Bとしては、周期表の第3~16族に属する金属を含むカチオンと、アニオンとの塩から選択される金属塩の1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。金属塩Bを用いることにより、研磨除去速度が向上し得る。
【0093】
金属塩Bのカチオンは、遷移金属、すなわち周期表の第3~12族に属する金属を含むカチオンでもよく、貧金属、すなわち第13~16族に属する金属を含むカチオンでもよい。上記遷移金属としては、周期表の第4~11族に属するものが好ましく、また、周期表の第4~6周期に属するものが適当であり、第4~5周期に属するものが好ましく、第4周期に属するものがより好ましい。上記貧金属としては、周期表の第13~15族に属するものが好ましく、第13~14族に属するものがより好ましく、また、周期表の第3~5周期に属するものが好ましく、第3~4周期に属するものがより好ましく、第3周期に属する貧金属、すなわちアルミニウムが特に好ましい。
【0094】
いくつかの態様において、金属塩Bは、水和金属イオンのpKaが凡そ7未満である金属を含むカチオンと、アニオンとの塩であることが好ましい。このようなカチオンとアニオンとの塩である金属塩Bは、水中で水和金属カチオンを生成し、その水和金属カチオンは配位水上のプロトンが着脱平衡にあることからpH緩衝剤として作用することにより、経時による研磨用組成物の性能劣化を抑制しやすい。かかる観点から、金属塩Bとしては、水和金属イオンのpKaが、例えばまたは7.0未満、または6.0以下である金属カチオンと、アニオンとの塩を好ましく採用し得る。水和金属イオンのpKaが6.0以下である金属カチオンとしては、例えばAl3+(水和金属イオンのpKaが5.0)、Cr3+(同4.0)、Fe3+(同2.2)、ZrO2+(同-0.3)、Ga3+(同2.6)、In3+(同4.0)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0095】
金属塩Bにおける塩の種類は特に限定されず、無機酸塩であっても有機酸塩であってもよい。無機酸塩の例としては、塩酸、臭化水素酸、フッ化水素酸等のハロゲン化水素酸や、硝酸、硫酸、炭酸、ケイ酸、ホウ酸、リン酸等の塩が挙げられる。有機酸塩の例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、グリシン酸、酪酸、クエン酸、酒石酸、トリフルオロ酢酸等のカルボン酸;メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸等の有機スルホン酸;メチルホスホン酸、ベンゼンホスホン酸、トルエンホスホン酸等の有機ホスホン酸;エチルリン酸等の有機リン酸;等の塩が挙げられる。なかでも、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸の塩が好ましく、塩酸、硝酸、硫酸の塩がより好ましい。ここに開示される技術は、例えば、金属塩Bとして、Al3+、Cr3+、Fe3+、ZrO2+、Ga3+、In3+のいずれかのカチオンと、硝酸イオン(NO3-)または塩化物イオン(Cl-)との塩を用いる態様で好ましく実施され得る。
【0096】
金属塩Bは、好ましくは水溶性の塩である。水溶性の金属塩Bを用いることにより、スクラッチ等の欠陥の少ない良好な表面を効率よく形成し得る。
【0097】
また、金属塩Bは、酸化剤によって酸化されない化合物であることが好ましい。かかる観点から酸化剤および金属塩Bを適切に選択することにより、金属塩Bが酸化剤で酸化されることによる該酸化剤の失活を防ぎ、経時による研磨用組成物の性能劣化(例えば、研磨除去速度の低下等)を抑制することができる。かかる観点から、好ましい金属塩Bとして硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム等が例示される。
【0098】
研磨用組成物が金属塩Bを含む場合において、研磨用組成物における金属塩Bの濃度(含有量)は、特に限定されず、該研磨用組成物の使用目的や使用態様に応じて、所望の効果が達成されるように適切に設定し得る。金属塩Bの濃度は、例えば凡そ1000mM以下(すなわち、1モル/L以下)であってよく、500mM以下でもよく、300mM以下でもよい。いくつかの態様において、金属塩Bの濃度は、200mM以下とすることが適当であり、100mM以下とすることが好ましく、50mM以下とすることがより好ましく、40mM以下でもよく、35mM以下でもよく、32mM以下でもよい。金属塩Bの濃度の下限は、例えば0.1mM以上であってよく、金属塩Bの使用効果を適切に発揮する観点から1mM以上とすることが有利であり、5mM以上とすることが好ましく、10mM以上(例えば15mM以上)とすることがより好ましく、20mM以上であってもよく、25mM以上であってもよい。
【0099】
(金属塩C)
いくつかの好ましい態様において、研磨用組成物は、遷移金属、すなわち周期表の第3~12族に属する金属を含むカチオンと、アニオンとの塩から選択される金属塩Cを含む。金属塩Cは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。酸化剤を含む研磨用組成物において、金属塩Cを用いることにより、研磨対象物の研磨における研磨用組成物のpH変動による研磨用組成物の性能劣化(例えば、研磨除去速度の低下等)を抑制することができる。
【0100】
上記遷移金属としては、周期表の第4~11族に属するものが好ましく、また、周期表の第4~6周期に属するものが適当であり、第4~5周期に属するものが好ましく、第4周期に属するものがより好ましい。
【0101】
いくつかの態様において、金属塩Cは、水和金属イオンのpKaが凡そ7より小さい金属を含むカチオンと、アニオンとの塩であることが好ましい。このようなカチオンとアニオンとの塩である金属塩Cは、水中で水和金属カチオンを形成し、その水和金属カチオンは配位水上のプロトンが着脱平衡にあることからpH緩衝剤として作用し、経時による研磨用組成物の性能劣化を抑制しやすい。かかる観点から、金属塩Cとしては、水和金属イオンのpKaが、例えば7より小さい、または6以下である金属を含むカチオンと、アニオンとの塩を好ましく採用し得る。水和金属イオンのpKaが6以下である金属のカチオンとしては、例えばCr3+(水和金属イオンのpKaが4.2)、Fe3+(水和金属イオンのpKaが2.2)、Hf4+(水和金属イオンのpKaが0.2)、Zr4+(水和金属イオンのpKaが-0.3)、Ti4+(水和金属イオンのpKaが-4.0)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0102】
金属塩Cを構成するカチオンとしては、Cr3+、Fe3+、Hf4+、Zr4+、Ti4+等の単独原子遷移金属カチオン;ZrO2+、ZrO+、HfO+、TiO+、TiO2+等のオキシ遷移金属カチオン;ZrOH+、HfOH+等の遷移金属水酸化物カチオン;等のカチオンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0103】
金属塩Cにおける塩の種類は特に限定されず、無機塩であっても有機塩であってもよい。無機塩の例としては、塩酸、臭化水素酸、フッ化水素酸等のハロゲン化水素酸や、硝酸、硫酸、炭酸、ケイ酸、ホウ酸、リン酸等の無機酸塩;硫化物;酸化物;オキシ塩化物、オキシ臭化物、オキシフッ化物等のオキシハロゲン化物;オキシ硝酸塩、オキシ硫酸塩、オキシ炭酸塩、オキシケイ酸塩、オキシホウ酸塩、オキシリン酸塩等のオキシ無機酸塩;オキシ硫化物;等の化合物が挙げられる。有機塩の例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、グリシン酸、酪酸、クエン酸、酒石酸、トリフルオロ酢酸等のカルボン酸;メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸等の有機スルホン酸;メチルホスホン酸、ベンゼンホスホン酸、トルエンホスホン酸等の有機ホスホン酸;エチルリン酸等の有機リン酸;オキシ酢酸塩等のオキシ有機酸塩;等の有機酸塩が挙げられる。なかでも、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸の塩が好ましく、塩酸、硝酸の塩がより好ましい。ここに開示される技術は、例えば、金属塩Cとして、オキシ遷移金属カチオンと、アニオンとの塩であるオキシ遷移金属塩という態様で好ましく実施され得る。いくつかの好ましい態様として、ZrO2+、ZrO+、HfO+、TiO+、TiO2+のいずれかのオキシ遷移金属カチオンと、硝酸イオン(NO3
-)、硫酸イオン(SO4
2-)または塩化物イオン(Cl-)との塩を用いる態様で好ましく実施され得る。
【0104】
金属塩Cは、溶媒に溶解することによって遷移金属と酸素原子および/または水素とからなる多核遷移金属錯体を生成する。例えば、硝酸ジルコニル、硫酸ジルコニウム、塩化ジルコニウム等の金属塩Cを水に溶解すると、ジルコニウムと酸素原子および/または水素からなる多核遷移金属錯体を生成する。ここに開示される技術において、金属塩Cは、溶媒に溶解して生成した遷移金属と酸素原子および/または水素からなる多核遷移金属錯体という態様でも好ましく実施され得る。好ましい多核遷移金属錯体として、ジルコニウムと酸素原子および/または水素からなる多核遷移金属錯体が例示される。
【0105】
金属塩Cは、酸化剤によって酸化されない化合物であることが好ましい。かかる観点から酸化剤および金属塩Cを適切に選択することにより、金属塩Cが酸化剤で酸化されることによる該酸化剤の失活を防ぎ、経時による研磨用組成物の性能劣化(例えば、研磨除去速度の低下等)を抑制することができる。かかる観点から、好ましい金属塩Cとして硝酸ジルコニル等が例示される。
【0106】
研磨用組成物が金属塩Cを含む場合において、研磨用組成物における金属塩Cの濃度(含有量)は、特に限定されず、該研磨用組成物の使用目的や使用態様に応じて、所望の効果が達成されるように適切に設定し得る。金属塩Cの濃度は、例えば凡そ1000mM以下(すなわち、1モル/L以下)であってよく、500mM以下でもよく、300mM以下でもよい。いくつかの態様において、金属塩Cの濃度は、200mM以下とすることが適当であり、100mM以下とすることが好ましく、50mM以下とすることがより好ましく、30mM以下でもよく、20mM以下でもよく、10mM以下でもよい。研磨用組成物が金属塩Cを含む場合において、金属塩Cの濃度の下限は、例えば0.1mM以上であってよく、金属塩Cの使用効果を適切に発揮する観点から1mM以上とすることが有利であり、5mM以上とすることが好ましく、10mM以上(例えば15mM以上)とすることがより好ましく、18mM以上であってもよく、20mM以上であってもよく、30mM以上であってもよい。
【0107】
<その他の成分>
ここに開示される研磨用組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、キレート剤、増粘剤、分散剤、pH調整剤、界面活性剤、無機高分子、有機高分子、有機酸、無機酸、防錆剤、防腐剤、防カビ剤等の、研磨用組成物(炭化ケイ素基板研磨用組成物)に用いられ得る公知の添加剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。上記添加剤の濃度(含有量)は、その添加目的に応じて適宜設定すればよく、本発明を特徴づけるものではないため、詳しい説明は省略する。
【0108】
<分散媒>
研磨用組成物に用いられる分散媒は、砥粒を分散させることができるものであればよく、特に制限されない。分散媒としては、イオン交換水(脱イオン水)、純水、超純水、蒸留水等を好ましく用いることができる。ここに開示される研磨用組成物は、必要に応じて、水と均一に混合し得る有機溶剤(低級アルコール、低級ケトン等)をさらに含有してもよい。通常は、研磨用組成物に含まれる分散媒の90体積%以上が水であることが好ましく、95体積%以上(典型的には99体積%以上100体積%以下)が水であることがより好ましい。
【0109】
研磨用組成物のpHは、特に限定されない。通常は、研磨用組成物のpHを2以上12以下程度とすることが適当である。研磨用組成物のpHが上記範囲内であると、実用的な研磨除去速度が達成されやすい。研磨用組成物のpHは、好ましくは2以上10以下であり、より好ましくは3以上9.5以下であり、4以上8以下でもよい。いくつかの態様において、研磨用組成物のpHは、例えば6以上10以下であってもよく、8.5以上9.5以下であってもよい。
【0110】
ここに開示される研磨用組成物の調製方法は、特に限定されない。例えば、翼式攪拌機、超音波分散機、ホモミキサー等の周知の混合装置を用いて、研磨用組成物に含まれる各成分を混合するとよい。これらの成分を混合する態様は特に限定されず、例えば全成分を一度に混合してもよく、適宜設定した順序で混合してもよい。
【0111】
ここに開示される研磨用組成物は、一剤型であってもよいし、二剤型を始めとする多剤型であってもよい。例えば、該研磨用組成物の構成成分のうち一部の成分を含むA液と、残りの成分を含むB液とが分けて保管され、基板を研磨する際にA液とB液とが混合されて用いられるように構成されていてもよい。
【0112】
ここに開示される研磨用組成物は、研磨に用いられる前には濃縮された形態(すなわち、研磨液の濃縮液の形態)であってもよい。このように濃縮された形態の研磨用組成物は、製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から有利である。
【0113】
[研磨用組成物と洗浄剤とのセット]
上記より、本明細書によると、炭化ケイ素基板の研磨および洗浄に用いられる研磨用組成物と洗浄剤とのセットが提供される。このセットは、研磨用組成物と洗浄剤とを含む。上記研磨用組成物は、炭化ケイ素基板の研磨に用いられ、上記洗浄剤は、上記研磨用組成物を用いた研磨後の炭化ケイ素基板の洗浄に用いられる。上記セットは、より具体的には、炭化ケイ素基板の製造方法に用いられる。研磨用組成物としては、ここに開示される上述の研磨用組成物が用いられる。洗浄剤としては、ここに開示される上述の洗浄剤が用いられる。具体的には、上記研磨用組成物は、例えば、研磨助剤を含むものであり得る。また、上記研磨用組成物は、例えば砥粒を含むものであり得る。また、上記洗浄剤は、キレート剤、界面活性剤、および溶媒を含み、前記溶媒は水のみからなる。上記研磨用組成物と上記洗浄剤とは、典型的には互いに分けて保管されている。上記セットを用いて製造される基板は、研磨後、高い面品質を有し、かつ洗浄されてクリーンな表面を有するものとなり得る。研磨用組成物および洗浄剤の詳細については、上述のとおりであるので、説明は省略する。
【0114】
[研磨方法]
ここに開示される研磨用組成物は、例えば以下の操作を含む態様で、炭化ケイ素基板を研磨する際に使用することができる。すなわち、ここに開示されるいずれかの研磨用組成物を含む研磨液(スラリー)を用意する。上記研磨液を用意することには、研磨用組成物の濃度を調整すること(例えば研磨用組成物を希釈すること)や、研磨用組成物のpHを調整すること等により研磨液を調製することが含まれ得る。あるいは、上記研磨用組成物をそのまま研磨液として使用してもよい。また、多剤型の研磨用組成物の場合、上記研磨液を用意することには、それらの剤を混合すること、該混合の前に1または複数の剤を希釈すること、該混合の後にその混合物を希釈すること、等が含まれ得る。次いで、その研磨液を研磨面に供給し、当業者によってなされる通常の方法で研磨する。例えば、一般的な研磨装置に炭化ケイ素基板をセットし、該研磨装置の研磨パッドを通じて該炭化ケイ素基板の研磨面に上記研磨液を供給する方法である。典型的には、上記研磨液を連続的に供給しつつ、炭化ケイ素基板の研磨面に研磨パッドを押しつけて両者を相対的に移動(例えば回転移動)させる。かかる研磨工程を経て、炭化ケイ素基板の研磨が完了する。
【0115】
この明細書によると、炭化ケイ素基板を研磨する研磨方法および該研磨方法を用いた炭化ケイ素基板の製造方法が提供される。上記研磨方法は、ここに開示される研磨用組成物を用いて炭化ケイ素基板を研磨する工程を含むことによって特徴づけられる。いくつかの好ましい態様に係る研磨方法は、予備研磨を行う工程(予備研磨工程)と、仕上げ研磨を行う工程(仕上げ研磨工程)と、を含んでいる。いくつかの好ましい態様では、予備研磨工程は、仕上げ研磨工程の直前に配置される研磨工程である。予備研磨工程は、1段の研磨工程であってもよく、2段以上の複数段の研磨工程であってもよい。また、ここでいう仕上げ研磨工程は、予備研磨が行われた基板に対して仕上げ研磨を行う工程であって、砥粒を含む研磨用スラリーを用いて行われる研磨工程のうち最後に(すなわち、最も下流側に)配置される研磨工程のことをいう。このように予備研磨工程と仕上げ研磨工程とを含む研磨方法において、ここに開示される研磨用組成物は、予備研磨工程の一工程で用いられてもよく、仕上げ研磨工程で用いられてもよく、予備研磨工程および仕上げ研磨工程の両方で用いられてもよい。
【0116】
予備研磨および仕上げ研磨は、片面研磨装置、両面研磨装置のいずれによっても実施できる。片面研磨装置では、セラミックプレートにワックスで炭化ケイ素基板を貼りつけ、キャリアと呼ばれる保持具を用いて炭化ケイ素基板を保持し、研磨用組成物を供給しながら炭化ケイ素基板の片面に研磨パッドを押しつけて両者を相対的に移動させることにより炭化ケイ素基板の片面を研磨する。上記移動は、例えば回転移動である。両面研磨装置では、キャリアと呼ばれる保持具を用いて炭化ケイ素基板を保持し、上方より研磨用組成物を供給しながら、炭化ケイ素基板の対向面に研磨パッドを押しつけ、それらを相対方向に回転させることにより炭化ケイ素基板の両面を同時に研磨する。
【0117】
ここに開示される各研磨工程で使用される研磨パッドは、特に限定されない。例えば、不織布タイプ、スウェードタイプ、硬質発泡ポリウレタンタイプ、砥粒を含むもの、砥粒を含まないもの等のいずれを用いてもよい。いくつかの態様において、不織布タイプや砥粒を含まない硬質発泡ポリウレタンタイプの研磨パッドを好ましく採用し得る。
【0118】
ここに開示される方法により研磨された炭化ケイ素基板は、典型的には研磨後に洗浄される。上記洗浄工程は、ここに開示される洗浄方法(キレート剤、界面活性剤、および水を含む洗浄剤を用いた洗浄方法)である。
【0119】
なお、ここに開示される研磨方法は、上記予備研磨工程および仕上げ研磨工程に加えて任意の他の工程を含み得る。そのような工程としては、予備研磨工程の前に行われる機械研磨工程やラッピング工程が挙げられる。上記機械研磨工程は、ダイヤモンド砥粒を溶媒に分散させた液を用いて炭化ケイ素基板を研磨する。いくつかの好ましい態様において、上記分散液は酸化剤を含まない。上記ラッピング工程は、研磨定盤、例えば鋳鉄定盤の表面を炭化ケイ素基板に押し当てて研磨する工程である。したがって、ラッピング工程では研磨パッドは使用しない。ラッピング工程は、典型的には、研磨定盤と炭化ケイ素基板との間に砥粒を供給して行われる。上記砥粒は、典型的にはダイヤモンド砥粒である。また、ここに開示される研磨方法は、予備研磨工程の前や、予備研磨工程と仕上げ研磨工程との間に追加の工程を含んでもよい。
【0120】
本発明の実施形態を詳細に説明したが、これは説明的かつ例示的なものであって限定的ではなく、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって解釈されるべきであることは明らかである。
【0121】
本発明は、下記態様および形態を包含する。
1.炭化ケイ素基板を研磨し、かつ洗浄する方法であって、研磨用組成物を炭化ケイ素基板に供給して研磨する工程と、前記研磨した炭化ケイ素基板を、洗浄剤を用いて洗浄する工程と、を含み、前記洗浄剤は、キレート剤、界面活性剤、および溶媒を含み、前記溶媒は水のみからなる、方法:
2.前記キレート剤は、ヒドロキシ酸を含む、上記1.に記載の方法:
3.前記界面活性剤は、ポリオキシアルキレン単位を有するアニオン性界面活性剤を含む、上記1.または2.に記載の方法:
4,前記洗浄剤は、無機酸および酸化剤の少なくとも一方をさらに含む、上記1.~3.のいずれかに記載の方法:
5.前記洗浄剤のpHは、7.0未満である、上記1.~4.のいずれかに記載の方法:
6.前記研磨用組成物は、砥粒および研磨助剤を含む、上記1.~5.のいずれかに記載の方法:
7.前記砥粒は、非ダイヤモンド砥粒を含む、上記6.に記載の方法:
8.上記1.~7.のいずれかに記載の方法に用いられる洗浄剤であって、キレート剤、界面活性剤、および溶媒を含み、前記溶媒は水のみからなる、洗浄剤:
9.上記1.~7.のいずれかに記載の方法に用いられる研磨用組成物と洗浄剤とのセットであって、研磨用組成物と、洗浄剤と、を含み、前記研磨用組成物は、砥粒および研磨助剤を含み、前記洗浄剤は、キレート剤、界面活性剤、および溶媒を含み、前記溶媒は水のみからなる、研磨用組成物と洗浄剤とのセット:
10.非ダイヤモンド砥粒および研磨助剤を含む研磨用組成物を用いて研磨した炭化ケイ素基板の表面から、前記非ダイヤモンド砥粒および前記研磨助剤を除去する方法であって、洗浄剤を用いて前記炭化ケイ素基板を洗浄する工程を含み、前記洗浄剤は、キレート剤、界面活性剤、および溶媒を含み、前記溶媒は水のみからなる、方法:
11.非ダイヤモンド砥粒および研磨助剤を含む研磨用組成物を用いて研磨した炭化ケイ素基板の洗浄に用いられる洗浄剤であって、キレート剤、界面活性剤、および溶媒を含み、前記溶媒は水のみからなる、洗浄剤。
【実施例0122】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。また、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(20℃以上25℃以下)/相対湿度40%RH以上50%RH以下の条件下で行われた。
【0123】
洗浄剤のpHは、pHメーター(例えば、株式会社堀場製作所製のガラス電極式水素イオン濃度指示計(型番F-23))にて確認した。この測定では、標準緩衝液(フタル酸塩pH緩衝液 pH:4.01(25℃)、中性リン酸塩pH緩衝液 pH:6.86(25℃)、炭酸塩pH緩衝液 pH:10.01(25℃))を用いて3点校正した後、ガラス電極を2分以上洗浄剤に入れて、pHが安定した後の値を測定した。
【0124】
(実施例1)
[研磨用組成物の調製]
砥粒としてのコロイダルシリカ(平均一次粒子径:35nm)、過マンガン酸塩としての過マンガン酸カリウム、金属塩Aとしての硝酸アルミニウム9水和物、および脱イオン水を混合して、研磨用組成物を調製した。研磨用組成物中の各成分の濃度(含有量)は、コロイダルシリカ 0.03質量%、過マンガン酸カリウム 4質量%、硝酸アルミニウム9水和物 1.1質量%であった。
【0125】
[研磨対象物の研磨]
SiCウェーハを研磨対象物とし、上記で調製した研磨用組成物をそのまま研磨液として使用して、下記の研磨条件で研磨を行った:
<研磨条件>
研磨装置:不二越機械工業株式会社製の片面研磨装置、型式「RDP-500」
研磨パッド:ニッタ・デュポン株式会社製「IC1000」
ヘッド:4インチ用
テンプレート:フジボウ愛媛株式会社製「TCI100」 d=300μm
加工圧力:7.0psi(48.26kPa)
ヘッド回転数:130rpm
定盤回転数:100rpm
研磨液の供給レート:20mL/分(掛け流し)
研磨時間:5分
研磨対象物:4インチSiCウェーハ(伝導型:n型、結晶型4H-SiC、主面(0001)のC軸に対するオフ角:4°)、1枚/バッチ
研磨液の温度:20℃。
【0126】
<パッドドレッシング>
上記の研磨前にパッドドレッシングを実施した。パッドドレッシングは以下の通り行った。最初に、パッド上に純水をかけ流しながら5分間ブラシでブラシングした。次いで、ブラシングしたパッドを3分間ダイヤドレスした。最後に、ダイヤドレスしたパッドを5分間ブラシでブラシングを行った。
【0127】
[洗浄剤の調製]
キレート剤としてのクエン酸、および界面活性剤Aとしてのポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム(エチレンオキサイド付加モル数:平均3、アルキル基の炭素数:12~14の混合物、濃度27質量%の水溶液、原液pH:8.6)を、純水中で混合し、洗浄剤1を得た。洗浄剤中の各成分の濃度(含有量)は、クエン酸 1質量%、界面活性剤A 27質量%であった。また、洗浄剤1のpHは、2.0であった。
【0128】
[洗浄]
研磨後のSiCウェーハを上記の研磨装置から取り外さずに、研磨液を純水に切り替えて30秒間研磨することで洗浄した。その後、上記で調製した洗浄剤1を用いて、流量100ml/min、洗浄時間1分、その他は上記研磨条件に記載の条件でSiCウェーハを研磨することで洗浄を行った。なお、洗浄剤1をSiCウェーハ表面に滴下させるために、研磨装置の研磨用組成物滴下用のチューブと同じ位置に洗浄剤滴下用のチューブを設け、チューブポンプを用いて洗浄剤1を滴下した。
【0129】
上記の洗浄終了後、SiCウェーハを研磨装置から取り出した。その後、SiCウェーハをクリーンルームに移し、室温環境下において、市販のPVA(ポリビニルアルコール)スポンジを用いて流水(純水)によるスクラブ洗浄を行った。さらにそのウェーハを流水(純水)で15分以上の洗浄(オーバーフロー浸漬)を行った。最後にエアガンを用いてSiCウェーハの乾燥を行い、下記の評価を行った。
【0130】
(実施例2)
洗浄剤中のクエン酸の濃度を2質量%としたこと以外は、実施例1と同様にして、洗浄剤(洗浄剤2)の調製、ならびにSiCウェーハの研磨および洗浄を行った。なお、洗浄剤2のpHは、2.0であった。
【0131】
(実施例3)
洗浄剤に対して、硝酸を1質量%の濃度となるようにさらに加えたこと以外は、実施例2と同様にして、洗浄剤(洗浄剤3)の調製、ならびにSiCウェーハの研磨および洗浄を行った。なお、洗浄剤3のpHは、1.3であった。
【0132】
(実施例4)
洗浄剤に対して、過酸化水素を0.5質量%の濃度となるようにさらに加えたこと以外は、実施例2と同様にして、洗浄剤(洗浄剤4)の調製、ならびにSiCウェーハの研磨および洗浄を行った。なお、洗浄剤4のpHは、2.0であった。
【0133】
(実施例5)
界面活性剤Aの代わりに、界面活性剤Bとしてのポリオキシエチレンイソトリデシルエーテル(エチレンオキサイド付加モル数:9、アルキル基:イソトリデシル基(炭素数13))を用いたこと以外は、実施例2と同様にして、洗浄剤(洗浄剤5)の調製、ならびにSiCウェーハの研磨および洗浄を行った。なお、洗浄剤5のpHは、2.0であった。
【0134】
(実施例6)
界面活性剤Aの代わりに、界面活性剤Cとしての塩化アルキルトリメチルアンモニウム(アルキル基:ヘキサデシル基、ステアリル基(炭素数16~18))を用いたこと以外は、実施例2と同様にして、洗浄剤(洗浄剤6)の調製、ならびにSiCウェーハの研磨および洗浄を行った。なお、洗浄剤6のpHは、2.0であった。
【0135】
(比較例1)
洗浄剤に対して、界面活性剤Aを添加しなかったこと以外は、実施例2と同様にして、洗浄剤(比較洗浄剤1)、ならびにSiCウェーハの研磨および洗浄を行った。なお、比較洗浄剤1のpHは、2.0であった。
【0136】
(比較例2)
洗浄剤として純水のみを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、SiCウェーハの研磨および洗浄を行った。なお、洗浄剤(純水、比較洗浄剤2)のpHは、7.2であった。
【0137】
(比較例3)
洗浄剤に対して、クエン酸を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、洗浄剤(比較洗浄剤3)の調製、ならびにSiCウェーハの研磨および洗浄を行った。なお、比較洗浄剤3のpHは、8.6であった。
【0138】
(比較例4)
洗浄剤の溶媒として、水の代わりにアセトンを用いて、実施例2と同様にして、洗浄剤(比較洗浄剤4)を調製した。しかしながら、比較洗浄剤4はキレート剤が溶解せず、また界面活性剤が白濁して不均一となり、pH測定や研磨後の洗浄を行うことができなかった。
【0139】
(比較例5)
洗浄剤の溶媒として、水の代わりにエタノールを用い、実施例2と同様にして、洗浄剤(比較洗浄剤5)を調製した。しかしながら、比較洗浄剤5はキレート剤が溶解せず、また界面活性剤が白濁して不均一となり、pH測定や研磨後の洗浄を行うことができなかった。
【0140】
[評価]
<洗浄剤の均一性>
洗浄剤の均一性は、目視により、以下の基準に従って評価した:
A:目視により透明
D:目視により溶け残りあり、または白濁。
【0141】
<アルミ洗浄性>
乾燥後のSiCウェーハの表面(Si面、測定領域直径30mm円形領域)について、蛍光X線分析装置(XRF)(株式会社リガク製、型番:ZSX400)を用いて、アルミニウムイオンの濃度を測定し、測定結果を以下の基準により評価した。AおよびBであれば実用可能である:
A:検出限界以下
B:1×1012atoms/cm2以上1×1013atoms/cm2未満
D:1×1013atoms/cm2以上。
【0142】
<パーティクル洗浄性>
乾燥後のSiCウェーハの表面(C面)を、原子間力顕微鏡(AFM;Bruker社製、装置型式:Nanoscope V)を用いて、10μm×10μmの領域を3か所観察し、観察した表面のパーティクルの洗浄性を下記基準により評価した。A、B、およびCであれば実用可能である:
A:最も優れた洗浄効果を示す
B:良好な洗浄効果を示す
C:一定の洗浄効果を示す
D:洗浄効果がなかった。
【0143】
各実施例および比較例で用いた洗浄剤の構成および評価結果を、下記表1に示す。
【0144】
【0145】
上記表1から明らかなように、実施例の洗浄方法の場合、炭化ケイ素基板上のアルミニウムイオン残渣およびパーティクル残渣を十分に除去できることがわかった。一方、比較例1~3の洗浄方法の場合、アルミニウムイオン残渣およびパーティクル残渣の少なくとも一方を十分に除去できないことがわかった。比較例4~5の洗浄方法の場合、洗浄剤の溶媒が有機溶剤であるため、洗浄剤が調製できず、評価ができなかった。