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特開2024-141148組成物、その製造方法、徐放デバイス及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141148
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】組成物、その製造方法、徐放デバイス及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 29/04 20060101AFI20241003BHJP
   G02C 7/04 20060101ALI20241003BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20241003BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20241003BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20241003BHJP
   A61K 47/52 20170101ALI20241003BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20241003BHJP
   A61L 27/52 20060101ALI20241003BHJP
   A61L 27/02 20060101ALI20241003BHJP
   A61L 27/16 20060101ALI20241003BHJP
   A61L 27/42 20060101ALI20241003BHJP
   A61L 27/54 20060101ALI20241003BHJP
   C08J 3/075 20060101ALI20241003BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C08L29/04 A
G02C7/04
A61K9/06
A61K47/04
A61K47/32
A61K47/52
A61P27/02
A61L27/52
A61L27/02
A61L27/16
A61L27/42
A61L27/54
C08J3/075 CEX
C08K3/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052637
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】山瑞 大貴
(72)【発明者】
【氏名】西郷 優
【テーマコード(参考)】
2H006
4C076
4C081
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
2H006BB07
4C076AA09
4C076AA94
4C076BB24
4C076CC10
4C076DD29
4C076EE06
4C076EE59
4C081AB21
4C081AB22
4C081AB23
4C081BB08
4C081CA052
4C081CF131
4C081DA12
4C081EA02
4C081EA04
4C081EA05
4F070AA26
4F070AC23
4F070BA10
4F070CB14
4J002AJ002
4J002BE021
4J002DJ016
4J002FA096
4J002FB076
4J002FD016
4J002FD202
4J002GB01
4J002GP01
4J002HA06
(57)【要約】
【課題】薬剤成分の徐放性に優れる徐放デバイスを製造できる組成物、薬剤成分の徐放性に優れる徐放デバイス及びその製造方法の提供。
【解決手段】シリカ、ポリビニルアルコール、水及び薬剤成分を含む組成物。前記組成物から形成されたハイドロゲルを含む徐放デバイス。シリカ、ポリビニルアルコール、水及び薬剤成分を含む組成物を冷却して前記組成物の少なくとも一部を凍結させ、前記少なくとも一部が凍結した組成物を昇温して融解させるサイクルを2回以上繰り返してハイドロゲルを形成する、徐放デバイスの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ、ポリビニルアルコール、水及び薬剤成分を含む、組成物。
【請求項2】
前記シリカの表面が、カチオン性基、アニオン性基及びノニオン性基からなる群から選ばれる少なくとも1種を有する官能基によって修飾されている請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記シリカのメジアン径(D50)が1μm以上15μm以下である請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記シリカが多孔質であり、前記シリカの最頻細孔直径(Dmax)が20nm未満である請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記ポリビニルアルコールの平均ケン化度が95モル%以上である請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記薬剤成分が前記シリカに担持されている請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
シリカに薬剤成分を担持させ、
前記薬剤成分を担持させたシリカと、ポリビニルアルコールの水溶液とを混合する、
シリカ、ポリビニルアルコール、水及び薬剤成分を含む組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか1項に記載の組成物から形成されたハイドロゲルを含む、徐放デバイス。
【請求項9】
コンタクトレンズ、結膜リング、涙管プラグ又は結膜シートである請求項8に記載の徐放デバイス。
【請求項10】
以下の薬剤成分徐放性評価試験において、前記薬剤成分の24時間後の累積溶出割合が65質量%以上であり、前記薬剤成分の1時間後の累積溶出割合が24時間後の累積溶出割合の10質量%以上80質量%以下である請求項8に記載の徐放デバイス。
薬剤成分徐放性評価試験:
徐放デバイスを24well細胞培養プレートに入れ、300μLのリン酸緩衝生理食塩水を添加し、37℃で30分静置した後、前記リン酸緩衝生理食塩水を全量採取し、次いで、新たな300μLのリン酸緩衝生理食塩水を添加し、37℃で30分静置した後(計60分後)、前記リン酸緩衝生理食塩水を全量採取し、次いで、新たな300μLのリン酸緩衝生理食塩水を添加し、37℃で60分静置した後(計120分後)、前記リン酸緩衝生理食塩水を全量採取する。これを繰り返し、最初にリン酸緩衝生理食塩水を添加してから30分後、1時間後、2時間後、4時間後、8時間後、24時間後に採取したリン酸緩衝生理食塩水を測定サンプルとし、高速液体クロマトグラフィにより前記薬剤成分の溶出量を求め、下記式により、各時間での累積溶出割合を算出する。
累積溶出割合(質量%)=その時間までの薬剤成分の累積溶出量/薬剤成分徐放性評価試験前の徐放デバイスに含まれる薬剤成分の量×100
【請求項11】
シリカ、ポリビニルアルコール、水及び薬剤成分を含む組成物を冷却して前記組成物の少なくとも一部を凍結させ、少なくとも一部が凍結した前記組成物を昇温して融解させるサイクルを2回以上繰り返してハイドロゲルを形成する、徐放デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物、その製造方法、徐放デバイス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
長時間薬効を持続させる手段として、薬剤成分の徐放性を有するコンタクトレンズ(徐放性コンタクトレンズ)が提案されている。
【0003】
徐放性コンタクトレンズについて、カチオン性、アニオン性、ノニオン性など、保持させる薬剤成分の種類によって特徴的な官能基を有するポリマーのハイドロゲルでレンズを構成し、薬剤成分を担持させる方法が提案されている(特許文献1)。
一方、薬剤成分の担持を担う第三成分としてシリカナノ粒子をハイドロゲルに分布させる方法も提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-305313号公報
【特許文献2】特開2022-158879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されるような方法では、薬剤成分の極性によって、ポリマーを形成するモノマーの種類を変更する必要があり、配合を最適化させるために時間がかかり、製造コストが上昇する。
また、特許文献1では、薬剤成分を溶解させた溶液にコンタクトレンズを浸し担持させることで薬剤成分を担持させているが、この方法では、溶液中に担持されない薬剤成分が残存し、担持効率が悪いという問題がある。
特許文献2でも、同様の方法で薬剤成分を担持させており、上記と同様、担持効率が悪いという問題がある。
さらに、特許文献1、2では、コンタクトレンズの成形時にモノマーを重合させており、成形されたコンタクトレンズに未重合のモノマーが残留するため、それらのモノマーを適切な溶媒を用いて抽出除去する工程が必要となる。
【0006】
本発明の目的は、薬剤成分の徐放性に優れる徐放デバイスを製造できる組成物、その製造方法であって薬剤成分の担持効率に優れる組成物の製造方法、並びに薬剤成分の徐放性に優れる徐放デバイス及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討の結果、ポリビニルアルコールとシリカとの組み合わせにより上記課題を解決できることを見出した。
【0008】
本発明は以下の態様を有する。
[1]シリカ、ポリビニルアルコール、水及び薬剤成分を含む、組成物。
[2]前記シリカの表面が、カチオン性基、アニオン性基及びノニオン性基からなる群から選ばれる少なくとも1種を有する官能基によって修飾されている[1]に記載の組成物。
[3]前記シリカのメジアン径(D50)が1μm以上15μm以下である[1]又は[2]に記載の組成物。
[4]前記シリカが多孔質であり、前記シリカの最頻細孔直径(Dmax)が20nm未満である[1]~[3]のいずれかに記載の組成物。
[5]前記ポリビニルアルコールの平均ケン化度が95モル%以上である[1]~[4]のいずれかに記載の組成物。
[6]前記薬剤成分が前記シリカに担持されている[1]~[4]のいずれかに記載の組成物。
[7]シリカに薬剤成分を担持させ、
前記薬剤成分を担持させたシリカと、ポリビニルアルコールの水溶液とを混合する、
シリカ、ポリビニルアルコール、水及び薬剤成分を含む組成物の製造方法。
[8][1]~[6]のいずれかに記載の組成物から形成されたハイドロゲルを含む、徐放デバイス。
[9]コンタクトレンズ、結膜リング、涙管プラグ又は結膜シートである[8]に記載の徐放デバイス。
[10]以下の薬剤成分徐放性評価試験において、前記薬剤成分の24時間後の累積溶出割合が65質量%以上であり、前記薬剤成分の1時間後の累積溶出割合が24時間後の累積溶出割合の10質量%以上80質量%以下である[8]又は[9]に記載の徐放デバイス。
薬剤成分徐放性評価試験:
徐放デバイスを24well細胞培養プレートに入れ、300μLのリン酸緩衝生理食塩水を添加し、37℃で30分静置した後、前記リン酸緩衝生理食塩水を全量採取し、次いで、新たな300μLのリン酸緩衝生理食塩水を添加し、37℃で30分静置した後(計60分後)、前記リン酸緩衝生理食塩水を全量採取し、次いで、新たな300μLのリン酸緩衝生理食塩水を添加し、37℃で60分静置した後(計120分後)、前記リン酸緩衝生理食塩水を全量採取する。これを繰り返し、最初にリン酸緩衝生理食塩水を添加してから30分後、1時間後、2時間後、4時間後、8時間後、24時間後に採取したリン酸緩衝生理食塩水を測定サンプルとし、高速液体クロマトグラフィにより前記薬剤成分の溶出量を求め、下記式により、各時間での累積溶出割合を算出する。
累積溶出割合(質量%)=その時間までの薬剤成分の累積溶出量/薬剤成分徐放性評価試験前の徐放デバイスに含まれる薬剤成分の量×100
[11]シリカ、ポリビニルアルコール、水及び薬剤成分を含む組成物を冷却して前記組成物の少なくとも一部を凍結させ、少なくとも一部が凍結した前記組成物を昇温して融解させるサイクルを2回以上繰り返してハイドロゲルを形成する、徐放デバイスの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、薬剤成分の徐放性に優れる徐放デバイスを製造できる組成物、その製造方法であって薬剤成分の担持効率に優れる組成物の製造方法、並びに薬剤成分の徐放性に優れる徐放デバイス及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1~7の薬剤成分徐放性評価試験の時間経過を横軸に、薬剤成分の累積放出量を縦軸にとったグラフである。
図2】実施例1~7の薬剤成分徐放性評価試験の時間経過を横軸に、薬剤成分の累積放出割合を縦軸にとったグラフである。
図3】比較例2の薬剤成分徐放性評価試験の時間経過を横軸に、薬剤成分の累積放出量を縦軸にとったグラフである。
図4】比較例2の薬剤成分徐放性評価試験の時間経過を横軸に、薬剤成分の累積放出割合を縦軸にとったグラフである。
図5】実施例1~7、比較例2の薬剤成分徐放性評価試験の24時間までの累積放出割合を横軸に、24時間までの累積放出割合に対する1時間までの累積放出割合の比率を縦軸にとったグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0012】
[組成物]
本発明の組成物は、シリカ、ポリビニルアルコール(以下、「PVOH」とも記す。)、水及び薬剤成分を含む。
薬剤成分はシリカに担持されていることが好ましい。薬剤成分がシリカに担持されていることによって、より徐放性が向上する。
【0013】
シリカの含有量は、薬剤成分の種類、含有量、徐放性等を考慮して設定され、特に限定するものではないが、例えば、組成物の総質量に対し、1~40質量%が好ましく、5~20質量%がより好ましい。シリカの含有量がこの範囲であれば、組成物から形成されるハイドロゲルが、コンタクトレンズ等の徐放デバイスの形状を保ちやすい。
【0014】
PVOHの含有量は、組成物の総質量に対し、5~30質量%が好ましく、10~20質量%がより好ましい。PVOHの含有量が前記下限値以上であれば、組成物から形成されるハイドロゲルの強度がより優れる傾向がある。PVOHの含有量が前記上限値以下であれば、組成物から形成されるハイドロゲルの酸素透過性がより優れる傾向がある。
【0015】
水の含有量は、組成物の総質量に対し、60~95質量%が好ましく、80~90質量%がより好ましい。水の含有量が前記下限値以上であれば、組成物から形成されるハイドロゲルの酸素透過性がより優れる傾向がある。水の含有量が前記上限値以下であれば、組成物から形成されるハイドロゲルの強度がより優れる傾向がある。
【0016】
薬剤成分の含有量は、薬剤成分の種類や対象とする疾患に応じて、所望の放出量となるように設定され、特に限定するものではないが、例えば、組成物の総質量に対し、0.1~5.0質量%の範囲で設定することができる。
【0017】
薬剤成分をシリカに担持させる場合、薬剤成分の担持量は、シリカの含有量を考慮して設定することができる。シリカへの薬剤成分の担持量を調節することで、組成物から形成されるハイドロゲルの徐放性を制御できる。
薬剤成分の担持量は、薬剤成分の種類によっても異なるが、例えば薬剤成分が核酸である場合、シリカ1mgに対して1~400μgが好ましく、1~300μgがより好ましく、1~200μgがさらに好ましい。薬剤成分の担持量が前記下限値以上であれば、十分な量の薬剤成分を患部に届けることができる。薬剤成分の担持量が前記上限値以下であれば、薬剤成分の過度な放出が抑制される。例えば後述する薬剤成分徐放性評価試験において、薬剤成分の24時間後の累積溶出割合に対する1時間後の累積溶出割合の比率を低くできる。
【0018】
<シリカ>
シリカとしては、無水ケイ酸、含水ケイ酸が挙げられる。無水ケイ酸としては、例えば石英、トリディマイト、クリストバル石、コーサイト、スティショフ石、石英ガラスが挙げられる。含水ケイ酸としては、例えばシリカゲル、コロイダルシリカ、シリケートオリゴマー、ミセルテンプレート型シリカが挙げられる。シリカゲルは、シリカヒドロゾルをゲル化し乾燥させて得られる非晶質のシリカである。シリカヒドロゾルの原料としては、水ガラスやアルコキシシラン類が挙げられる。ミセルテンプレート型シリカは、有機物等を鋳型として形成されたシリカであり、例えばモービル社製:MCM-41のようなタイプのシリカが挙げられる。
【0019】
シリカのメジアン径は1μm以上15μm以下が好ましく、1μm以上10μm以下がより好ましく、1μm以上5μm以下がさらに好ましい。メジアン径がこの範囲であればシリカがPVOH水溶液に分散しやすく取り扱いやすい。一方、シリカのメジアン径が1μm未満であると、環境への負荷や人体毒性が懸念される。
シリカのメジアン径は、レーザー回折粒度分布計により測定することができる。
【0020】
シリカは、薬剤成分の担持性から、多孔質であることが好ましい。
シリカが多孔質である場合、シリカの最頻細孔直径(Dmax)は、薬剤成分の種類によって適宜選択され得るが、20nm未満が好ましく、10nm未満がより好ましく、5nm以下がさらに好ましい。この範囲であれば薬剤成分を効率よく担持できる。最頻細孔直径(Dmax)の下限は例えば1nmである。
最頻細孔直径(Dmax)は、窒素ガス吸脱着法で測定した等温脱着曲線から、E.P. Barrett, L. G. Joyner, P. H. Haklenda, J. Amer. Chem. Soc., vol. 73,373 (1951) に記載のBJH法により算出される細孔分布曲線、即ち、細孔直径d(nm)に対して微分窒素ガス吸着量(ΔV/Δ(logd);Vは窒素ガス吸着容積)をプロットした曲線から求められる。
【0021】
シリカは、シリカの骨格を構成するケイ素を除いた金属元素(金属不純物)の合計の含有率の値が低く抑えられ、高純度であることが好ましい。具体的には、通常100ppm以下、好ましくは50ppm以下、更に好ましくは10ppm以下、特に好ましくは5ppm以下、最も好ましくは1ppm以下が好適である。このように金属不純物の含有率を低く抑え、その影響を少なくすることによって、徐放デバイスの徐放性能をより一層発現できるようになる。
【0022】
シリカは、市販のものを用いてもよく、公知の製造方法により製造したものを用いてもよい。
シリカの製造方法としては、特に限定されないが、例えば、シリカヒドロゲルを水熱処理し、得られたスラリーの液体成分中の水分含有率を5重量%以下とした後、乾燥する方法が挙げられる。
【0023】
シリカは、その表面が、カチオン性基、アニオン性基及びノニオン性基からなる群から選ばれる少なくとも1種を有する官能基によって修飾されていてもよい。シリカの表面を官能基によって修飾することで、薬剤成分の担持性や徐放性を向上させることができる。
【0024】
カチオン性基としては、例えばジアリルジメチルアンモニウム塩基、(3-メタクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウム塩基、[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド等の第4級アンモニウム塩基、スルホニウム基、オキソニウム基、ホスホニウム基が挙げられる。
アニオン性基としては、例えばカルボキシ基及びその塩、スルホ基及びその塩、リン酸基及びその塩が挙げられる。
ノニオン性基としては、例えばアセト酢酸エステル基、アセタール基、ウレタン基、エーテル基、リン酸エステル基、オキシアルキレン基、アルキレン基、アミド基、シラノール基、エポキシ基、オレフィン基、ジオール基が挙げられる。
【0025】
官能基は、薬剤成分の種類に応じて適宜選定できる。例えば薬剤成分がアニオン系薬剤を含む場合、官能基は、アニオン系薬剤成分との親和性が高く、アニオン系薬剤の徐放性が良好となる点で、カチオン性基を有する官能基を含むことが好ましい。
【0026】
シリカの表面を官能基によって修飾する方法としては、特に限定されないが、例えば官能基を有するシランカップリング剤の水溶液とシリカとを接触させる方法が挙げられる。
表面修飾率は、使用するシランカップリング剤の種類にもよるが、2mol%以上が好ましく、8mol%以上がより好ましい。この範囲であれば薬剤を有効に担持することができる。また、表面修飾率を上げると徐放性能も向上するが、表面修飾率を上げすぎると徐放性能の向上量が小さくなるため、表面修飾率は90mol%以下が好ましく、80mol%以下がより好ましく、70mol%以下がさらに好ましく、60mol%以下が特に好ましい。
表面修飾率は下記の式によって計算される。
表面修飾率(mol%)=(修飾シリカ表面に修飾されたシランカップリング剤の物質量)/(未修飾シリカ表面のシラノール基の物質量)×100
修飾シリカ表面に修飾されたシランカップリング剤の物質量は、修飾シリカの熱重量測定における重量変化から計算できる。
【0027】
<PVOH>
PVOHは、ビニルアルコール単位を含む重合体であり、典型的には、ビニルエステル系単量体単位を含む重合体のケン化物である。PVOHは、ビニルエステル系単量体単位を含んでいてもよい。PVOHは、ビニルアルコール単位及びビニルエステル系単量体単位以外の他の単量体単位を含んでいてもよい。
【0028】
ビニルエステル系単量体としては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、トリフロロ酢酸ビニル等の脂肪族ビニルエステル、安息香酸ビニル等の芳香族ビニルエステル等が挙げられる。なかでも、好ましくは炭素数3~20、より好ましくは炭素数4~10、特に好ましくは炭素数4~7の脂肪族ビニルエステルであり、殊に好ましくは酢酸ビニルである。これらは通常単独で用いるが、必要に応じて複数種を同時に用いてもよい。
【0029】
PVOHの平均ケン化度は、95モル%以上であることが好ましく、96モル%以上であることがより好ましく、97モル%以上であることがさらに好ましく、100モル%であってもよい。平均ケン化度が前記下限値以上であれば、ゲル化しやすく、ゲルの溶出率を低減できる傾向がある。
平均ケン化度は、JIS K 6726:1994の3.5に準じて測定される。
なお、組成物を後述する凍結融解ハイドロゲルとする前と後で、PVOHの平均ケン化度は変化しない。凍結融解ハイドロゲルを再溶解することで、PVOHの平均ケン化度を測定できる。
【0030】
PVOHを構成する全単量体単位の合計(ビニルアルコール単位とビニルエステル系単量体単位と他の単量体単位との合計)100モル%に対するビニルアルコール単位とビニルエステル系単量体単位との合計の割合は、80モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましく、100モル%であってもよい。
【0031】
PVOHは、市販のものを用いてもよく、公知の製造方法により製造したものを用いてもよい。
PVOHの製造方法としては、特に限定されないが、例えば、種々の重合方式(溶液、塊状、懸濁、乳化重合等)によりビニルエステル系単量体を重合して得られる重合体をケン化して得ることができる。
工業的に主として実施されているPVOHの製造方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。まず、酢酸ビニルを、メタノール等の低級アルコール溶媒中でラジカル重合開始剤を用いて溶液重合し、ポリ酢酸ビニルの重合反応溶液を得る。得られた重合反応溶液を、メタノール等の低級アルコールの蒸気と接触させて未反応酢酸ビニルを除去する。次いで、この重合反応溶液に苛性ソーダ等のケン化触媒を添加混合してケン化し、得られたスラリー状のケン化物を中和・濾過・加熱乾燥することで粉粒状のPVOHが得られる。
【0032】
<薬剤成分>
薬剤成分としては、特に制限は無く、治療しようとする疾患に応じ、公知の薬剤成分のなかから適宜選定できる。薬剤成分は1種でも2種以上でもよい。
薬剤成分は、例えば、核酸、タンパク質、炭水化物(多糖等)、その他の有機化合物、無機化合物、又はこれらの2以上の組み合わせであってよい。
【0033】
眼科疾患に適用される薬剤成分の例としては、特に限定するものではないが、抗感染症剤(抗菌剤、抗ウイルス剤、抗真菌剤、抗原虫剤等)、血管新生抑制剤(抗血管内皮細胞増殖因子(VEGF)剤等)、抗炎症剤、眼圧降下剤、抗悪性腫瘍剤、麻酔剤、自律神経剤、ステロイド(コルチコステロイド等)、抗ヒスタミン剤、肥満細胞安定化剤、免疫抑制剤、有糸分裂阻害剤等が挙げられる。
【0034】
抗菌剤の非限定的な例としては、バシトラシン、クロラムフェニコール、シプロフロキサシン、エリスロマイシン、モキシフロキサシン、ガチフロキサシン、ゲンタマイシン、レボフロキサシン、スルファセタミド、ポリミキシンB、バンコマイシン、トブラマイシン、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
抗ウイルス剤の非限定的な例としては、トリフルリジン、ビダラビン、アシクロビル、バラシクロビル、ファムシクロビル、フォスカーネット、ガンシクロビル、フォルミビルセン、シドフォビル、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
抗真菌剤の非限定的な例としては、アンフォテリシンB、ナタマイシン、フルコナゾール、イトラコナゾール、ケトコナゾール、ミコナゾール、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
抗原虫剤の非限定的な例としては、ポリミキシンB、ネオマイシン、クロトリマゾール、ミコナゾール、ケトコナゾール、プロパミジン、ポリヘキサメチレンビグアニド、クロルヘキシジン、イトラコナゾール、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
【0035】
抗炎症剤の非限定的な例としては、任意の公知のステロイド性抗炎症剤(SAIDs)、任意の公知の非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDs)、又はそれらの組み合わせが挙げられる。SAIDsの非限定的な例としては、デキサメタゾン、プレドニゾロン、フルオロメトロン、ロテプレドノール、メドリゾン、リメキソロン等のグルココルチコイドが挙げられる。NSAIDsの非限定的な例としては、ジクロフェナク、フルルビプロフェン、ケトロラック、ブロモフェナク、ネパフェナク、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
【0036】
抗悪性腫瘍剤の非限定的な例としては、当該分野で周知の化学療法剤が挙げられる。
麻酔剤の非限定的な例としては、アミノアミド、アミノエステル、又はそれらの組み合わせが挙げられる。アミノアミドの非限定的な例としては、リドカイン、プリロカイン、メピバカイン、ロピバカイン、又はそれらの組み合わせが挙げられる。可能なアミノエステルの非限定的な例としては、ベンゾカイン、プロカイン、プロパラカイン、テトラカイン、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
【0037】
自律神経剤の非限定的な例としては、アセチルコリン、カルバコール、ピロカルピン、フィゾスチグミン、エコチオフェート、アトロピン、スコポラミン、ホモトラピン、シクロペントレート、トロピカミド、ジピベフリン、エピネフリン、フェニレフリン、アプラクロニジン、ブリモニジン、コカイン、ヒドロキシアンフェタミン、ナファゾリン、テトラヒドロゾリン、ダピプラゾール、ベタキソロール、カルテオロール、レボブノロール、メチプラノロール、チモロール、ベポタスチンベシル酸塩、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
【0038】
抗ヒスタミン剤の非限定的な例としては、フェニラミン、アンタゾリン、ナファゾリン、エメダスチン、レボカルバスチン、クロモリン、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
肥満細胞安定化剤の非限定的な例としては、ロドキサミド、ペミロラスト、ネドクロミル、オロパタジン、ケトチフェン、アゼラスチン、エピナスチン、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
【0039】
薬剤成分としては、修飾シリカへ担持しやすく放出を制御しやすい点から、アニオン系薬剤成分、両性薬剤成分又はカチオン性薬剤成分が好ましい。
アニオン系薬剤成分は、アニオン性基を有し、水中で負電荷を示す薬剤成分である。
アニオン系薬剤成分の非限定的な例としては、核酸、トラニラスト、アシタザノラスト水和物、クロモグリク酸ナトリウム、グルタチオン、プラノプロフェン、ブロムフェナクナトリウム、ジクロフェナクナトリウム、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
薬剤としての核酸としては、例えばアンチセンスオリゴヌクレオチドが挙げられる。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、アンチセンス核酸とも称され、標的遺伝子の転写産物又は標的転写産物の少なくとも一部にハイブリダイズすることが可能な(すなわち、相補的な)塩基配列を含み、主にアンチセンス効果により標的遺伝子の転写産物の発現又は標的転写産物のレベルを抑制し得る、一本鎖オリゴヌクレオチドを指す。
アンチセンス効果によってその発現が抑制され、変更され、あるいは改変される標的遺伝子又は標的転写産物は特に限定されないが、例えば、核酸複合体を導入する生物由来の遺伝子、例えば、様々な疾患においてその発現が増加している遺伝子が挙げられる。また、標的遺伝子の転写産物は、標的遺伝子をコードするゲノムDNAから転写されるmRNAであり、さらにまた、塩基修飾を受けていないmRNA、プロセシングされていないmRNA前駆体などを含む。標的転写産物は、mRNAだけでなく、miRNAなどのノンコーディングRNA(non-coding RNA、ncRNA)も含み得る。さらに一般的には、転写産物は、DNA依存性RNAポリメラーゼによって合成される任意のRNAであってよい。一実施形態では、標的転写産物は、例えば、転移関連肺腺癌転写産物1(metastasis associated lungadenocarcinoma transcript 1、malat1)ノンコーディングRNA、スカベンジャー受容体B1(scavenger receptor B1、SR-B1) mRNA、又はDMPK(dystrophia myotonica-protein kinase) mRNAであってもよい。遺伝子及び転写産物の塩基配列は、例えばNCBI(米国国立生物工学情報センター)データベースなどの公知のデータベースから入手できる。
アニオン系薬剤成分と他の薬剤成分とを併用してもよい。
【0040】
両性薬剤成分は、アニオン性基及びカチオン性基を有し、水中での電荷がゼロとなる薬剤成分である。眼科用薬のオロパタジンは単一の正に荷電した三級アミン基、及び単一の負に荷電したカルボン酸基を有するので、ゼロの正味電荷を有するとみなされる。
両性薬剤成分の非限定的な例としては、塩酸レボカバスチン、アンレキサノクス、オロパタジン、ロメフロキサシン塩酸塩、オフロキサシン、ノルフロキサシン、レボフロキサシン、トスフロキサシン、ピレノキシン、ラパマイシン、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
両性薬剤成分と他の薬剤成分とを併用してもよい。
【0041】
カチオン性薬剤成分は、カチオン性基を有し、水中で正電荷を示す薬剤成分である。
一例では、カチオン性薬剤成分はポリマーである。例となるカチオン性ポリマーとしては、複数のアルギニン及び/又はリジン基を含む抗菌性ペプチドであるイプシロンポリリジン(εPLL)、ポリコート(polyquat)等が挙げられる。
他の一例では、カチオン性薬剤成分は、3個の窒素原子に共有結合した中心炭素原子を含み、1個の窒素原子と中心炭素との間に二重結合を有する、正に荷電した基であるグアニジウム基を含む。少なくとも1つのグアニジウム基を含む眼科用途に典型的な有益な薬剤成分としては、抗ヒスタミン薬、例えばエピナスチン及びエメダスチン;緑内障薬、例えばアプラクロニジン及びブリモニジン;グアニン誘導体抗ウイルス薬、例えばガンシクロビル及びバルガンシクロビル;アルギニン含有抗菌性ペプチド、例えばデフェンシン及びインドリシジン;並びにビグアナイド系抗菌剤、例えばクロルヘキシジン、アレキシジン、及びポリヘキサメチレンビグアナイド(PHMB)が挙げられる。
眼科用途の他のカチオン性薬剤成分としては、ケトチフェン、カチオン性ステロイド、メチル硫酸ネオスチグミン、塩酸オキシブプロカイン、硝酸ナファゾリン、塩酸ナファゾリン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、塩酸ピロカルピン、臭化ジスチグミン、ヨウ化エコチオパート、エピネフェリン、酒石酸水素エピネフェリン、塩酸カルテオロール、塩酸ベフノロール、リパスジルが挙げられる。
カチオン系薬剤成分と他の薬剤成分とを併用してもよい。
【0042】
<他の成分>
組成物は、組成物の性能を著しく損なわない範囲で、シリカ、PVOH、水及び薬剤成分以外の他の成分をさらに含んでいてもよい。
他の成分としては、例えば着色剤などの公知の添加剤が挙げられる。
例えば組成物から形成されるハイドロゲルが眼科疾患の治療に用いられる場合、眼科疾患用の製剤(点眼剤等)における薬剤以外の配合成分として公知の成分を含有させることができる。
例えば凍結融解ハイドロゲルがコンタクトレンズに用いられる場合、コンタクトレンズにおける薬剤以外の配合成分として公知の成分(酸化防止剤、安定化剤、防腐剤、浸透圧調整整剤等)を含有させることができる。
他の成分は1種を単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
[組成物の製造方法]
本発明の組成物の製造方法としては、シリカに薬剤成分を担持させ(担持工程)、前記薬剤成分を担持させたシリカと、PVOHの水溶液とを混合する(混合工程)方法が好ましい。薬剤成分をあらかじめシリカに担持させることで、より徐放性能が向上する。また、薬剤成分の担持量を調節しやすい。
【0044】
シリカに薬剤成分を担持させる方法としては、例えば薬剤成分の水溶液をシリカに滴下し、一定時間静置後、乾燥(液体分を蒸発)させる方法が挙げられる。
この時の薬剤成分の水溶液は、薬剤成分の濃度がなるべく高いことが好ましく、飽和水溶液であることが特に好ましい。濃度が高い溶液を使用することで、より効率的に薬剤成分を担持させることができる。
静置時間は特に限定されないが、例えば30分~2時間である。
乾燥条件は、液体分を蒸発させることができればよいが、例えば60~100℃で15分~2時間である。
【0045】
薬剤成分を担持させたシリカと、PVOHの水溶液とを混合することで、本発明の組成物が得られる。
組成物が他の成分を含む場合、薬剤成分を担持させたシリカ、PVOHの水溶液とともに、他の成分を混合してもよく、PVOHの水溶液にあらかじめ、他の成分を含有させてもよい。
【0046】
[徐放デバイス]
本発明の徐放デバイスは、本発明の組成物から形成されたハイドロゲルを含む。
「ハイドロゲル」とは、重合体の分子鎖同士が物理的又は化学的に架橋されて形成された網目構造を有し、この網目構造に水を取り込んで膨潤する構造体である。
本発明の組成物から形成されるハイドロゲルは、シリカ、PVOH、水及び薬剤成分を含む。PVOHは網目構造を形成している。
【0047】
本発明の組成物から形成されるハイドロゲルは、典型的には、凍結融解ハイドロゲルである。「凍結融解ハイドロゲル」とは、PVOHの水溶液について凍結と融解(解凍)を繰り返すことで形成されたハイドロゲルである。PVOHの水溶液について凍結と融解を繰り返すと、PVOHの分子鎖間に水素結合による物理的架橋点が形成され、ハイドロゲルとなる。
ハイドロゲルの形成方法については後で詳しく説明する。
【0048】
ハイドロゲルの形状に特に制限は無く、徐放デバイスに応じた形状であってよい。例えばシート状、レンズ状、プラグ状等であってよい。ハイドロゲルがシート状である場合、その上面視での形状にも特に制限は無く、例えば四角形等の多角形状、環状、半円形状、三日月形状、アーチ状等であってよい。
【0049】
徐放デバイスとしては、特に限定されないが、例えば、眼用の徐放デバイスとして、コンタクトレンズ、結膜リング、涙管プラグ、結膜シートなどが挙げられる。
これらの徐放デバイスは、例えば眼科疾患の治療に用いることができる。本発明の徐放デバイスを角膜や結膜に接触させると、ハイドロゲルから涙液へ薬剤が徐々に溶出する。
眼科疾患の非限定的な例としては、眼(皮膚、眼瞼、結膜又は涙液排出系を含む)の感染症、眼窩蜂巣炎、涙腺炎、麦粒腫、眼瞼炎、結膜炎、角膜炎、角膜浸潤、潰瘍、眼内炎、全眼球炎、ウイルス性角膜炎、真菌性の角膜炎眼部帯状疱疹、ウイルス性結膜炎、ウイルス性網膜炎、ぶどう膜炎、斜視、網膜の壊死、強膜炎、ムコール菌症、涙管炎、アカントアメーバ角膜炎、トキソプラズマ症、ジアルジア症、リーシュマニア症、マラリア、蠕虫感染、緑内障が挙げられる。
ただし、本発明の徐放デバイスは眼用に限定されるものではなく、生体内のどの部分にも適用できる。
【0050】
本発明の徐放デバイスは、本発明の組成物から形成されたハイドロゲルのみからなるものであってもよく、本発明の組成物から形成されたハイドロゲルと他の材料とからなるものであってもよい。
例えば徐放デバイスがコンタクトレンズであり、本発明の組成物から形成されたハイドロゲルが不透明又は半透明である場合には、コンタクトレンズの光軸が通る領域を他のレンズ材料で構成することができる。
【0051】
他のレンズ材料としては、例えば、コンタクトレンズの分野で公知のレンズ材料を使用できる。他のレンズ材料は、ハイドロゲルであってもよい。
他のレンズ材料の非限定的な例としては、Polymacon、Ocufilcon D、Etafilcom、Omafilcon A、Nelfilcon、 Hilafilcom B、Lotrafilcon B、 Senofilcon A、Galyfilcon A、Netrafilcon A、Lidofilcon B、Bufilcon A、Deltafilcon A、Phemfilcon、Hioxifilcon A、Perfilcon A、Methafilcon A等が挙げられる。
【0052】
本発明の組成物から形成されたハイドロゲルと他のレンズ材料とからなるコンタクトレンズの形態例として、(1)レンズ状の他のレンズ材料に本発明の組成物から形成されたハイドロゲルが埋め込まれた形態、(2)レンズ状の他のレンズ材料と本発明の組成物から形成されたハイドロゲルとが積層された形態、(3)レンズ状の他のレンズ材料に本発明の組成物から形成されたハイドロゲルが点在している形態等が挙げられる。
【0053】
上記(1)の形態において、他のレンズ材料に埋め込まれるハイドロゲルは1つでも2つ以上でもよい。ハイドロゲルの一部がコンタクトレンズの表面(例えば角膜や結膜との接触面)に露出していてもよい。
ハイドロゲルは、コンタクトレンズの光軸が通る領域以外の領域に配置されることが好ましい。この場合、ハイドロゲルの形状は、環状、半円形状、三日月形状、アーチ状等であってよい。
【0054】
本発明の組成物から形成されたハイドロゲルと他のレンズ材料とからなるコンタクトレンズは、公知の方法(例えば特表2012-511395号公報に記載の方法)を参照して製造できる。例えば、コンタクトレンズの型の中に本発明の組成物から形成されたハイドロゲルを配置し、液状のレンズ材料前駆体を注入し、注入したレンズ材料前駆体を硬化させることで、上記(1)の形態のコンタクトレンズを製造できる。
【0055】
また、コンタクトレンズの外周に薬剤成分を担持させたシリカをリング状に配置することもできる。例えば特開2022-158879号公報に記載の方法を採用できる。
【0056】
徐放デバイスにおいて、以下の薬剤成分徐放性評価試験により求められる薬剤成分の24時間後の累積溶出割合は、薬剤成分の種類によって好ましい範囲は異なるが、放出効率の観点から、65質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。
また、徐放デバイスについて、以下の薬剤成分徐放性評価試験により求められる薬剤成分の24時間後の累積溶出割合に対する1時間後の累積溶出割合の比率は、徐放性の観点から、80質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましく、また、徐放デバイスの使用開始後、なるべく早い段階で、治療効果を発現するのに充分な薬剤成分を放出させる観点から、10質量%以上が好ましい。
ただし、疾患や薬剤成分の種類によって治療に必要な薬剤成分の量は変わるため、上記の好ましい範囲は薬剤成分の種類や疾患によって適宜変更し得る。
【0057】
薬剤成分徐放性評価試験:
徐放デバイスを24well細胞培養プレートに入れ、300μLのリン酸緩衝生理食塩水を添加し、37℃で30分静置した後、前記リン酸緩衝生理食塩水を全量採取し、次いで、新たな300μLのリン酸緩衝生理食塩水を添加し、37℃で30分静置した後(計60分後)、前記リン酸緩衝生理食塩水を全量採取し、次いで、新たな300μLのリン酸緩衝生理食塩水を添加し、37℃で60分静置した後(計120分後)、前記リン酸緩衝生理食塩水を全量採取する。これを繰り返し、最初にリン酸緩衝生理食塩水を添加してから30分後、1時間後、2時間後、4時間後、8時間後、24時間後に採取したリン酸緩衝生理食塩水を測定サンプルとし、高速液体クロマトグラフィにより前記薬剤成分の溶出量を求め、下記式により、各時間での累積溶出割合を算出する。
累積溶出割合(質量%)=その時間までの薬剤成分の累積溶出量/薬剤成分徐放性評価試験前の徐放デバイスに含まれる薬剤成分の量×100
【0058】
[徐放デバイスの製造方法]
本発明の徐放デバイスの製造方法としては、本発明の組成物を冷却して前記組成物の少なくとも一部を凍結させ、少なくとも一部が凍結した前記組成物を昇温して融解させるサイクル(以下、「凍結融解サイクル」とも記す)を2回以上繰り返してハイドロゲルを形成する方法が好ましい。このようにして形成されるハイドロゲルは、凍結融解ハイドロゲルである。
【0059】
組成物の少なくとも一部を凍結させる際の温度(凍結温度)は、物理架橋のしやすさの点から、-5℃以下が好ましく、-10℃以下がより好ましい。
凍結後、凍結した組成物を融解する前に、凍結した組成物を凍結温度で保持することが好ましい。凍結温度での保持時間は、30分以上が好ましく、1時間以上がより好ましい。凍結温度での保持時間の上限は特に限定されないが、例えば24時間である。
凍結した組成物を融解させる際の温度(融解温度)は、物理架橋のしやすさの点から、5℃以上が好ましく、10℃以上がより好ましい。
融解後、次回の凍結融解サイクルで組成物を凍結する前に、組成物を融解温度で保持することが好ましい。融解温度での保持時間は、30分以上が好ましく、1時間以上がより好ましい。融解温度での保持時間の上限は特に限定されないが、例えば24時間である。
1回の凍結融解サイクルによっても凍結融解ハイドロゲルを得ることができるが、強度が充分高い凍結融解ハイドロゲルが得られる点で、凍結融解サイクルを2回以上繰り返すことが好ましく、3回以上繰り返すことがより好ましい。凍結融解サイクルを繰り返す回数の上限は特に限定されないが、例えば20回である。
【0060】
2回以上の凍結融解サイクルの途中で、形成されたハイドロゲルを乾燥することで、水分率を10質量%以上、75質量%以下に調節することが好ましい。一旦、ハイドロゲルを大きく(例えば水分率10質量%以下まで)乾燥したのち、加湿することにより水分率を調整してもよい。水分率を75質量%以下とすることで、最終的なハイドロゲルの強度が優れる傾向にある。
凍結融解サイクル途中のハイドロゲルの水分率は、形成されたハイドロゲルの質量(乾燥前の質量)と、140℃1時間の条件で乾燥したあとの質量(乾燥後の質量)から下記式を用いて算出される。
水分率={(乾燥前の質量)-(乾燥後の質量)}/(乾燥前の質量)×100
【0061】
最終的な徐放デバイス用のハイドロゲルの飽和水分率は、90質量%以下が好ましく、88質量%以下がより好ましく、また、40質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、60質量%以上がさらに好ましい。
飽和水分率は、37℃の精製水に24時間浸漬させたときの水分率である。飽和水分率は、ハイドロゲルの37℃の精製水に24時間浸漬させた後の質量(浸漬後の質量)と、浸漬後に140℃1時間の条件で乾燥したあとの質量(乾燥後の質量)から下記式を用いて算出される。
飽和水分率={(浸漬後の質量)-(乾燥後の質量)}/(浸漬後の質量)×100
【0062】
基材上に組成物の塗膜を形成し、凍結融解サイクルを行うことで、フィルム状のハイドロゲルを得ることができる。基材から剥離したハイドロゲルに対し、さらに、裁断等の加工を行ってもよい。
任意の形状の型に組成物を注型し、凍結融解サイクルを行うことで、型に対応した形状のハイドロゲルを得ることができる。型から取り出したハイドロゲルに対し、さらに、裁断等の加工を行ってもよい。
【実施例0063】
以下、実施例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。「%」は、特に記載がなければ、「質量%」を示す。
【0064】
(薬剤成分徐放性評価試験)
徐放デバイス(薬剤成分含有ハイドロゲルコンタクトレンズ)を24well細胞培養プレートに入れ、300μLのリン酸緩衝生理食塩水を添加し、37℃で30分静置した後、前記リン酸緩衝生理食塩水を全量採取し、次いで、新たな300μLのリン酸緩衝生理食塩水を添加し、37℃で30分静置した後(計60分後)、前記リン酸緩衝生理食塩水を全量採取し、次いで、新たな300μLのリン酸緩衝生理食塩水を添加し、37℃で60分静置した後(計120分後)、前記リン酸緩衝生理食塩水を全量採取する。これを繰り返し、最初にリン酸緩衝生理食塩水を添加してから30分後、1時間後、2時間後、4時間後、8時間後、24時間後に採取したリン酸緩衝生理食塩水を測定サンプルとし、高速液体クロマトグラフィにより前記薬剤成分の溶出量(μg)を求め、下記式により、各時間での累積溶出割合を算出した。
累積溶出割合(質量%)=その時間までの薬剤成分の累積溶出量(μg)/薬剤成分担持量(μg)×100
ここで、薬剤成分担持量は、薬剤成分徐放性評価試験前の徐放デバイスに含まれる薬剤成分の量を示す。
【0065】
(実施例1)
<PVOH水溶液の調製工程>
PVOH(三菱ケミカル社製「ゴーセノール N-300」、平均ケン化度98~99モル%)7.0gを精製水37.5gに攪拌しながら添加し、90℃に昇温して1時間攪拌して完全に溶解させた。攪拌しながら室温まで徐冷した後、純水を加えてPVOHの濃度が15質量%となるように調整し、PVOH水溶液を得た。
【0066】
<シリカ表面修飾工程>
カチオン性シランカップリング剤(Gelest社製、CAS-RN:35141-36-7、製品名:SIT8415.0)の1質量%水溶液132gに真空乾燥させたメソポーラスシリカ(三菱ケミカル社製「メソピュア」、最頻細孔直径(Dmax):4nm、メジアン径(D50):5μm)0.8gを加え、室温で3時間攪拌した。その後、ろ過を行い、ろ取物を純水で洗浄し、常温で一晩静置乾燥させて表面修飾シリカを得た。
【0067】
<薬剤成分担持工程>
モデル薬剤成分として核酸(Malat1アンチセンスであって、CdsTdsAdsGdsTdsTdsCdsAdsCdsTdsGdsAdsAdsTdsGdsCdで示されるオリゴヌクレオチド(式中、各核酸塩基はA=アデニン、T=チミン、G=グアニン、C=シトシンで示され、各糖部分はd=2’-デオキシリボースで示され、各ヌクレオシド間結合はs=ホスホロチオエートで示される。))60mgをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)500μLに溶かし、薬剤成分溶液(核酸濃度120g/L)を調製した。この薬剤成分溶液80μLを前記表面修飾シリカ60mgに滴下し、4℃で1時間静置させた。その後、80℃で乾燥させて(前記薬剤成分溶液の液体成分を蒸発させて)シリカに薬剤成分を担持させ、薬剤成分担持シリカを得た。
【0068】
<徐放デバイス製造工程>
徐放デバイスの1例としてコンタクトレンズを以下の手順で作製した。
前記PVOH水溶液1925mgと前記薬剤成分担持シリカ全量を混合した。得られた混合物をDIA11mm、B.C.(ベースカーブ)6.5のコンタクトレンズ型に注入し、オス型とメス型で挟み込み、-20℃で2時間凍結させ、20℃で1時間溶解する工程を5回繰り返し、コンタクトレンズ状の薬剤成分含有ハイドロゲルを作成した。次いで、コンタクトレンズメス型を外しオス型の上でハイドロゲルを40℃のオーブン内で1時間乾燥したのち、60℃、100%RHの恒温恒湿機内で吸湿させ、ハイドロゲルの水分率を40質量%に調整した。その後、再度、ハイドロゲルをコンタクトレンズ型に挟み、-20℃、2時間の凍結と20℃、1時間の溶解を5回繰り返し、薬剤成分徐放性評価用の薬剤成分含有ハイドロゲルコンタクトレンズを得た。
【0069】
(実施例2)
前記実施例1の薬剤成分担持工程において、薬剤成分溶液の滴下量を40μLとした以外は実施例1と同様の方法で、薬剤成分含有ハイドロゲルコンタクトレンズを製造した。
【0070】
(実施例3)
前記実施例1の薬剤成分担持工程において、薬剤成分溶液の滴下量を100μLとした以外は実施例1と同様の方法で、薬剤成分含有ハイドロゲルコンタクトレンズを製造した。
【0071】
(実施例4)
前記実施例1の薬剤成分担持工程において、表面修飾シリカの量を75mgとした以外は実施例1と同様の方法で、薬剤成分含有ハイドロゲルコンタクトレンズを製造した。
【0072】
(実施例5)
前記実施例1の薬剤成分担持工程において、表面修飾シリカの量を75mgとし、薬剤成分溶液の滴下量を100μLとした以外は実施例1と同様の方法で、薬剤成分含有ハイドロゲルコンタクトレンズを製造した。
【0073】
(実施例6)
前記実施例1のシリカ表面修飾工程においてカチオン性シランカップリング剤の水溶液の濃度を2質量%とし、薬剤成分担持工程において表面修飾シリカの量を33mgとし、前記徐放デバイス製造工程においてPVOH水溶液の量を963mgとした以外は実施例1と同様の方法で、薬剤成分含有ハイドロゲルコンタクトレンズを製造した。
【0074】
(実施例7)
前記実施例1の薬剤成分担持工程において、表面修飾シリカの量を75mgとし、前記徐放デバイス製造工程においてPVOH水溶液の量を963mgとした以外は実施例1と同様の方法で、薬剤成分含有ハイドロゲルコンタクトレンズを製造した。
【0075】
(比較例1)
2-ヒドロキシエチルメタクリレート(東京化成工業社製)79mol、N,N-ジメチルメタクリルアミド(東京化成工業社製)18mol、架橋剤1.5mol、重合開始剤1.5molを含むモノマー混合液に、実施例1と同様な方法で表面修飾した表面修飾シリカを、薬剤成分を担持しないまま分散させた。この混合液を実施例1と同様のコンタクトレンズ型に注入し、UVランプを照射して硬化させ、コンタクトレンズ状ポリマー混合物を作成した。その後、得られたコンタクトレンズ状ポリマー混合物を、90℃の熱水に1時間浸漬する工程を、熱水を交換して3回行って未反応のモノマーを洗浄したのち、実施例1で用いた薬剤成分の3.0g/Lリン酸緩衝生理食塩水溶液に15.5時間浸漬させて、薬剤成分含有ハイドロゲルコンタクトレンズを得た。
【0076】
(比較例2)
比較例1と同様の組成のモノマー混合液に、実施例1と同様に調製した薬剤成分担持シリカを混合し、この混合液を実施例1と同様のコンタクトレンズ型に注入し、UVランプを照射して硬化させた。その後、得られたコンタクトレンズ状ポリマー混合物を、90℃の熱水に1時間浸漬する工程を、熱水を交換して3回行って未反応のモノマーを洗浄し、薬剤成分含有ハイドロゲルコンタクトレンズを得た。
【0077】
各例の薬剤成分含有ハイドロゲルコンタクトレンズについて、薬剤成分徐放性評価試験を行った。結果を表1、図1~5に示す。
【0078】
【表1】
【0079】
実施例1~7はいずれもPVOHを使用したコンタクトレンズであり、いずれもよい徐放性を示した。また、実施例1~7の対比から、シリカの量と薬剤成分の量を調節することにより、最終的な放出量や徐放性を変えることができることが分かった。
一方、比較例1、2はアクリルポリマーからなるコンタクトレンズである。比較例1と比較例2は薬剤成分の担持方法が異なる。
比較例1では、シリカを含むコンタクトレンズを浸す前後の薬剤成分水溶液の濃度変化がごくわずかであり、放出量も少なかった。薬剤成分担持前のシリカにアクリルモノマーを混合したことによって、アクリルモノマーがシリカに先に担持されてしまい、薬剤成分が十分に担持できなかったためであると考えられる。
比較例2では、あらかじめシリカに薬剤成分を担持した後にアクリルモノマーと混合して硬化させたが、放出量が極めて少なく、かつ放出速度が極めて遅いため、効果的に薬剤成分を放出できていなかった。硬化後の未反応のモノマーを洗浄する過程において、薬剤成分が洗い流された可能性や、アクリルポリマーが薬剤成分の放出を阻害している可能性が考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の組成物を用いると、薬剤成分の徐放性に優れた徐放デバイス、具体的にはコンタクトレンズ、結膜リング、涙管プラグ、結膜シートといったポリビニルアルコールハイドロゲル徐放デバイスを提供できる。
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