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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141149
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】アスファルト組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 95/00 20060101AFI20241003BHJP
   C08L 91/06 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C08L95/00
C08L91/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052638
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金丸 正実
(72)【発明者】
【氏名】南 裕
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AE032
4J002AG001
4J002BA013
4J002GL00
(57)【要約】
【課題】耐熱性と強度に優れ、かつ低温で製造でき、低温施工性に優れるアスファルト組成物、及びアスファルト合材を提供する。
【解決手段】ワックス成分(A)及びアスファルト(B)を含有し、ワックス成分(A)の95質量%以上が(1)~(5)を満たすスラックワックスである、アスファルト組成物。(1)融解吸熱量が50~170J/g、(2)示差走査熱量測定により得られた融解吸熱曲線における融解ピークのうち、20℃未満の面積が0~20%、(3)前記融解ピークのうち、20℃以上55℃未満の面積が40~70%、(4)前記融解ピークのうち、55℃以上80℃未満の面積が20~50%、(5)前記融解ピークのうち、80℃以上の面積が0%
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワックス成分(A)及びアスファルト(B)を含有し、
ワックス成分(A)の95質量%以上が、下記(1)~(5)を満たすスラックワックス(A1)である、アスファルト組成物。
(1)融解吸熱量(ΔH)が50~170J/g
(2)融解吸熱曲線における融解ピークのうち、20℃未満の面積が0~20%
(3)融解吸熱曲線における融解ピークのうち、20℃以上55℃未満の面積が40~70%
(4)融解吸熱曲線における融解ピークのうち、55℃以上80℃未満の面積が20~50%
(5)融解吸熱曲線における融解ピークのうち、80℃以上の面積が0%
(ただし、上記(2)~(5)に示す面積は、昇温速度10℃/分での示差走査熱量測定により得られた融解吸熱曲線における融解ピークを分割して得られる面積である。)
【請求項2】
スラックワックス(A1)が、更に下記(6)及び(7)を満たすスラックワックスである、請求項1に記載のアスファルト組成物。
(6)炭素原子1000個に対するブチル分岐の数が0.1個以上
(7)重量平均分子量が500~3000
【請求項3】
スラックワックス(A1)の23℃における針入度が、60~120である、請求項1に記載のアスファルト組成物。
【請求項4】
ワックス成分(A)とアスファルト(B)の組合せが、混合物[(A)/(B)=1/4]が0~15℃にガラス転移温度を有さない組合せである、請求項1に記載のアスファルト組成物。
【請求項5】
ワックス成分(A)の含有量が1~20質量%である、請求項1に記載のアスファルト組成物。
【請求項6】
更に有機シラン化合物(C)を0.1~5質量%含有する、請求項1に記載のアスファルト組成物。
【請求項7】
前記アスファルト組成物が、下記(8)及び(9)を満たす、請求項1に記載のアスファルト組成物。
(8)降温過程の100℃における複素せん断粘度の異相成分が0.01~20mPa・s
(9)昇温過程の60℃における貯蔵弾性率が100~5000Pa
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1つに記載のアスファルト組成物と骨材とを含有し、骨材の含有量が80~99質量%である、アスファルト合材。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1つに記載のアスファルト組成物と骨材とを90~140℃で混合する工程を有する、アスファルト合材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示技術は、アスファルト組成物、及びアスファルト合材に関する。
【背景技術】
【0002】
道路や駐車場等のアスファルト舗装において、石油アスファルトと骨材等の混合や施工は高温で行われる。また、骨材の乾燥にもエネルギーを必要とする。
これらアスファルト合材の製造時や施工時、骨材乾燥時の温度を低減し、消費されるエネルギーを低減することは、排出される二酸化炭素の削減、コストダウンに貢献し、更に合材を製造する工場から施工する現場への長距離輸送も可能となるため、施工範囲の拡大にも貢献する。
そこで、低温での施工性を向上させる検討が行われている。
例えば、特許文献1には、輸送時間、作業時間、作業温度範囲を増加させることを目的として、高温で混合され、その温度より10~55℃低い温度で舗装、圧縮することができる、潤滑剤を含むアスファルト舗装混合物が開示されている。
特許文献2には、ビチューメン及びアスファルト混合加工において優れた性質を与えることを目的として、石油スラックワックス及びフィッシャー-トロプシュワックスを含むビチューメン組成物、これを含むアスファルト組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2012/0213584号明細書
【特許文献2】特表2019-517607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1や2においても、低温施工性を向上することができるものの、更なるエネルギーの削減や、アスファルト合材製造の集約化が進められる近年では、いまだ十分とは言えなかった。特にアスファルト合材製造時には高温を必要とする。また、特許文献2では、ワックスを混合して、低温施工性等を改善しようとするものであるが、複数のワックスを調整する必要があり、最適な配合が困難であるという問題もある。
そこで、実質的に1種類のワックスを配合することで、低温で合材を製造することができ、更に低温で施工できるアスファルト組成物が求められていた。
また、夏場の舗装道路は非常に高温になるため、アスファルト組成物には高い耐熱性も求められており、耐熱性と低温施工性の両立が望まれている。更に舗装道路は長期間にわたる振動や自然災害などにも耐える高い強度が必要とされる。
したがって、本開示技術の課題は、耐熱性と強度に優れ、かつ低温で製造でき、低温施工性に優れるアスファルト組成物、及びアスファルト合材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、特定のスラックワックスとアスファルトを含有するアスファルト組成物が、前記課題を解決することを見出した。
【0006】
すなわち、本開示技術は、以下の<1>~<9>に関する。
<1>ワックス成分(A)及びアスファルト(B)を含有し、ワックス成分(A)の95質量%以上が、下記(1)~(5)を満たすスラックワックス(A1)である、アスファルト組成物。
(1)融解吸熱量(ΔH)が50~170J/g
(2)融解吸熱曲線における融解ピークのうち、20℃未満の面積が0~20%
(3)融解吸熱曲線における融解ピークのうち、20℃以上55℃未満の面積が40~70%
(4)融解吸熱曲線における融解ピークのうち、55℃以上80℃未満の面積が20~50%
(5)融解吸熱曲線における融解ピークのうち、80℃以上の面積が0%
(ただし、上記(2)~(5)に示す面積は、昇温速度10℃/分での示差走査熱量測定により得られた融解吸熱曲線における融解ピークを分割して得られる面積である。)
<2>スラックワックス(A1)が、更に下記(6)及び(7)を満たすスラックワックスである、前記<1>に記載のアスファルト組成物。
(6)炭素原子1000個に対するブチル分岐の数が0.1個以上
(7)重量平均分子量が500~3000
<3>スラックワックス(A1)の23℃における針入度が、60~120である、前記<1>又は<2>に記載のアスファルト組成物。
<4>ワックス成分(A)とアスファルト(B)の組合せが、混合物[(A)/(B)=1/4]が0~15℃にガラス転移温度を有さない組合せである、前記<1>~<3>のいずれか1つに記載のアスファルト組成物。
<5>ワックス成分(A)の含有量が1~20質量%である、前記<1>~<4>のいずれか1つに記載のアスファルト組成物。
<6>更に有機シラン化合物(C)を0.1~5質量%含有する、前記<1>~<5>のいずれか1つに記載のアスファルト組成物。
<7>前記アスファルト組成物が、下記(8)及び(9)を満たす、前記<1>~<6>のいずれか1つに記載のアスファルト組成物。
(8)降温過程の100℃における複素せん断粘度の異相成分が0.01~20mPa・s
(9)昇温過程の60℃における貯蔵弾性率が100~5000Pa
<8>前記<1>~<7>のいずれか1つに記載のアスファルト組成物と骨材とを含有し、骨材の含有量が80~99質量%である、アスファルト合材。
<9>前記<1>~<7>のいずれか1つに記載のアスファルト組成物と骨材とを90~140℃で混合する工程を有する、アスファルト合材の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
耐熱性と強度に優れ、かつ低温で製造でき、低温施工性に優れるアスファルト組成物、及びアスファルト合材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[アスファルト組成物]
本開示のアスファルト組成物は、ワックス成分(A)及びアスファルト(B)を含有し、ワックス成分(A)の95質量%以上が、下記(1)~(5)を満たすスラックワックス(A1)である、アスファルト組成物である。
(1)融解吸熱量(ΔH)が50~170J/g
(2)融解吸熱曲線における融解ピークのうち、20℃未満の面積が0~20%
(3)融解吸熱曲線における融解ピークのうち、20℃以上55℃未満の面積が40~70%
(4)融解吸熱曲線における融解ピークのうち、55℃以上80℃未満の面積が20~50%
(5)融解吸熱曲線における融解ピークのうち、80℃以上の面積が0%
(ただし、上記(2)~(5)に示す面積は、昇温速度10℃/分での示差走査熱量測定により得られた融解吸熱曲線における融解ピークを分割して得られる面積である。)
【0009】
<ワックス成分(A)及びスラックワックス(A1)>
本開示のアスファルト組成物に含有されるワックス成分(A)は、ワックス成分(A)の95質量%以上が、下記(1)~(5)を満たすスラックワックス(A1)である。
(1)融解吸熱量(ΔH)が50~170J/g
(2)融解吸熱曲線における融解ピークのうち、20℃未満の面積が0~20%
(3)融解吸熱曲線における融解ピークのうち、20℃以上55℃未満の面積が40~70%
(4)融解吸熱曲線における融解ピークのうち、55℃以上80℃未満の面積が20~50%
(5)融解吸熱曲線における融解ピークのうち、80℃以上の面積が0%
(ただし、上記(2)~(5)に示す面積は、昇温速度10℃/分での示差走査熱量測定により得られた融解吸熱曲線における融解ピークを分割して得られる面積である。)
【0010】
本開示技術のアスファルト組成物に含有されるワックス成分(A)の含有量は、好ましくは1~20質量%であり、より好ましくは3質量%以上であり、更に好ましくは5質量%以上であり、より更に好ましくは7質量%以上である。また、より好ましくは18質量%以下であり、更に好ましくは15質量%以下であり、より更に好ましくは13質量%以下である。ワックス成分(A)の含有量が前記範囲であることによって、得られるアスファルト組成物は十分な耐久性、耐熱性を維持しつつ、低温施工性を実現することができる。
【0011】
ワックス成分(A)中のスラックワックス(A1)の含有量は、95質量%以上であり、好ましくは97質量%以上であり、より好ましくは98質量%以上であり、更に好ましくは99質量%以上であり、より更に好ましくは100質量%である。ワックス成分(A)はスラックワックス(A1)のみからなっていてもよく、ワックス成分(A)中のスラックワックス(A1)の含有量の上限は、100質量%以下である。
【0012】
ワックス成分(A)中に含まれるスラックワックス(A1)以外のワックスとしては、好ましくは鉱物ワックス、合成ワックス及びマイクロクリスタリンワックスからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくは合成ワックスである。
鉱物ワックスとしては、モンタンワックス等が挙げられる。
合成ワックスとしては、ポリエチレンワックスやポリプロピレンワックス等のポリオレフィンワックス、フィッシャー・トロプシュワックス等が挙げられる。
ワックス成分(A)中のスラックワックス(A1)以外のワックスの含有量は、5質量%以下であり、好ましくは3質量%以下であり、より好ましくは2質量%以下であり、更に好ましくは1質量%以下であり、より更に好ましくは0質量%である。ワックス成分(A)はスラックワックス(A1)以外のワックスを含まないことがより更に好ましい。
【0013】
スラックワックス(A1)は、石油を精製し、潤滑油等を製造した際の副生成物として得られる蝋状の物質であり、これを更に精製、脱色、水素添加したものも、スラックワックス(A1)に含まれる。
【0014】
スラックワックス(A1)は、前記(1)~(5)を満たす。
前記(1)~(5)は、昇温速度10℃/分での示差走査熱量測定により得ることができる。
融解吸熱量(ΔH)(前記(1))の具体的な測定方法は、示差走査型熱量計を用い、スラックワックス(A1)の試料を窒素雰囲気下-10℃で5分間保持した後、10℃/分で140℃まで昇温させることにより得られた融解吸熱曲線における融解ピークの全面積から融解吸熱量(ΔH)を求める方法である。融解ピークの全面積は、熱量変化の無い低温側の点と熱量変化の無い高温側の点とを結んだ線であるベースラインと、融解吸熱曲線で囲まれた面積をいう。融解吸熱量(ΔH)は、より具体的には実施例に示す方法によって求めることができる。
【0015】
また、融解吸熱曲線における融解ピークのうちの各温度範囲の面積は、昇温速度10℃/分での示差走査熱量測定により得られた融解吸熱曲線における融解ピークを分割して得られる面積であり、具体的には、融解吸熱曲線における融解ピークのうちの各温度範囲の面積の割合(前記(2)~(5))は次のようにして算出する。
前記融解吸熱量(ΔH)の測定方法と同様にして、示差走査型熱量計を用い、スラックワックス(A1)の試料を窒素雰囲気下-10℃で5分間保持した後、10℃/分で140℃まで昇温させて、融解吸熱曲線を得る。次に融解吸熱曲線の所定の温度(20℃、55℃、80℃)から前記ベースラインに対して、横軸(温度軸)に垂直な直線を引く。融解吸熱曲線、ベースライン及び各温度に対応する直線で囲まれた面積を各温度範囲の面積とする。前記融解ピークの全面積に対する各温度範囲の面積の割合が、融解吸熱曲線における融解ピークのうちの各温度範囲の面積の割合である。
具体的には、「20℃未満の面積」は、融解吸熱曲線、ベースライン及び20℃に対応する直線で囲まれた面積である。「20℃以上55℃未満の面積」は、融解吸熱曲線、ベースライン、20℃に対応する直線及び55℃に対応する直線で囲まれた面積である。「55℃以上80℃未満の面積」は、融解吸熱曲線、ベースライン、55℃に対応する直線及び80℃に対応する直線で囲まれた面積である。「80℃以上の面積」は、融解吸熱曲線、ベースライン及び80℃に対応する直線で囲まれた面積である。
なお、融解ピークが前記温度範囲を含まないときは、その温度範囲の面積はないものとし、その温度範囲の面積は零(ゼロ)とする。
融解吸熱曲線における融解ピークのうちの各温度範囲の面積は、より具体的には実施例に示す方法によって求めることができる。
【0016】
スラックワックス(A1)の融解吸熱量(ΔH)は50~170J/gであり、好ましくは100~150J/gであり、より好ましくは105~130J/gであり、更に好ましくは105~120J/gである。
スラックワックス(A1)の融解吸熱量(ΔH)が前記範囲であることで、得られるアスファルト組成物が低温施工性に優れるものとなる。
【0017】
スラックワックス(A1)の融解吸熱曲線における融解ピークのうちの20℃未満の面積は、0~20%であり、好ましくは0~15%であり、より好ましくは1~12%であり、更に好ましくは2~9%である。
スラックワックス(A1)の融解吸熱曲線における融解ピークのうちの20℃以上55℃未満の面積は、40~70%であり、好ましくは40~60%であり、より好ましくは40~55%であり、更に好ましくは40~50%である。
スラックワックス(A1)の融解吸熱曲線における融解ピークのうちの55℃以上80℃未満の面積は、20~50%であり、好ましくは25~50%であり、より好ましくは30~50%であり、更に好ましくは35~50%である。
スラックワックス(A1)の融解吸熱曲線における融解ピークのうちの80℃以上の面積は、0%である。
スラックワックス(A1)の融解吸熱曲線における融解ピークのうちの各温度範囲の面積の割合が前記範囲であることで、得られるアスファルト組成物が低温施工性に優れるものとなる。また、スラックワックス(A1)の融解吸熱曲線における融解ピークのうちの各温度範囲の面積の割合が前記範囲であることで、夏場の施工時にも耐熱性に優れるものとなる。
【0018】
スラックワックス(A1)は、好ましくは、更に下記(6)及び(7)を満たすスラックワックスである。
(6)炭素原子1000個に対するブチル分岐の数が0.1個以上
(7)重量平均分子量が500~3000
【0019】
炭素原子1000個に対するブチル分岐の数は、スラックワックス(A1)の分岐の度合いを示す。ブチル分岐の数が多くなると、分岐度が高くなる。
スラックワックス(A1)の炭素原子1000個に対するブチル分岐の数は、結晶性を低減し、得られるアスファルト組成物の低温製造を可能とし、低温施工性を向上させる観点から、好ましくは0.1個以上であり、より好ましくは0.5個以上であり、更に好ましくは1.0個以上であり、より更に好ましくは2.0個以上であり、より更に好ましくは3.0個以上であり、そして、耐久性、耐熱性の観点から、より好ましくは10.0個以下であり、更に好ましくは5.0個以下であり、より更に好ましくは4.0個以下である。
ここで、炭素原子1000個に対するブチル分岐の数は、13C-NMRスペクトルにおける各アルキル分岐由来のピークの積分強度の比から炭素当たりの各アルキル分岐数比率を求め、下記式によって求めることができる。
(炭素原子1000個に対するブチル分岐)=(ブチル分岐の分岐数比率)/(アルキル分岐数比率の総和)×1000
具体的には実施例の方法によって求められる。
【0020】
スラックワックス(A1)の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは500~3000である。機械的強度と耐久性の観点から、スラックワックス(A1)の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは500以上であり、より好ましくは700以上であり、更に好ましくは800以上であり、より更に好ましくは850以上である。そして、アスファルトとの混合性と低温施工性の観点から、スラックワックス(A1)の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは3000以下であり、より好ましくは2000以下であり、更に好ましくは1200以下であり、より更に好ましくは1000以下である。
本開示技術において、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィ(GPC)法により測定したポリスチレン換算の重量平均分子量である。具体的には実施例の方法によって測定される。
【0021】
スラックワックス(A1)の23℃における針入度は、好ましくは、60~120である。スラックワックス(A1)の23℃における針入度は、好ましくは40以上であり、アスファルトとの混合性と低温施工性の観点から、より好ましくは60以上であり、更に好ましくは80以上であり、耐熱性の観点から、より更に好ましくは90以上である。そして、機械的強度と耐久性の観点から、スラックワックス(A1)の23℃における針入度は、好ましくは120以下であり、より好ましくは110以下であり、耐熱性と低温施工性を両立する観点から、更に好ましくは100以下であり、より更に好ましくは90以下である。
本開示技術において、23℃における針入度は、JIS K 2235:2022に準拠して測定した。具体的には実施例の方法によって測定される。
【0022】
<アスファルト(B)>
本開示のアスファルト組成物には、前記ワックス成分(A)及びアスファルト(B)を含有する。
アスファルト(B)は、アスファルト基油として用いられるものである。
アスファルト(B)としては、ストレートアスファルト、溶剤脱れきアスファルト、ブローンアスファルト、及びセミブローンアスファルト等が挙げられ、アスファルト(B)は、ストレートアスファルト、溶剤脱れきアスファルト、ブローンアスファルト、及びセミブローンアスファルトからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
上記アスファルト(B)は、1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記のなかでも、アスファルト(B)は、ストレートアスファルト、溶剤脱れきアスファルト、及びブローンアスファルトからなる群より選ばれる少なくとも1種がより好ましく、ストレートアスファルト、及び溶剤脱れきアスファルトからなる群より選ばれる少なくとも1種が更に好ましく、アスファルト(B)は、ストレートアスファルトがより更に好ましい。2種以上を組み合わせて用いる場合にも、ストレートアスファルトを用いることが好ましい。
アスファルト(B)に含有されるストレートアスファルトの含有量は、アスファルト(B)中、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、更に好ましくは90質量%以上であり、アスファルト(B)は、ストレートアスファルトのみからなっていてもよい。ストレートアスファルトの含有量が前記範囲であることによって、得られるアスファルト組成物は、低温舗装においても粘度の上昇を抑制することができ、低温施工性を有しつつ、十分な耐久性と高い強度、耐熱性を有することができる。
【0023】
ストレートアスファルトは、JIS K 2207:2006に定められるアスファルト又はこれらの混合物を使用することができる。ストレートアスファルトは、針入度グレード40~60から200~300相当品を使用することが好ましい。
溶剤脱れきアスファルトは、減圧蒸留残油から溶剤脱れき油(高粘度潤滑油留分)を抽出した残渣分に相当する(「新石油辞典」,石油学会編,1982年,p.308参照)。特に溶剤としてプロパン、またはプロパンとブタンを用いた場合に、プロパン脱れきアスファルトと呼ぶ。溶剤脱れきアスファルトとしては、プロパン脱れきアスファルトが好ましい。
ブローンアスファルトは、例えば、JIS K 2207:2006に定められるアスファルトである。
セミブローンアスファルトは、例えば、「アスファルト舗装要綱」,社団法人日本道路協会発行,平成9年1月13日,p.51,表-3.3.4に定められるセミブローンアスファルトである。
【0024】
本開示のアスファルト組成物に含有されるアスファルト(B)の含有量は、好ましくは80~99質量%であり、より好ましくは82質量%以上であり、更に好ましくは85質量%以上であり、より更に好ましくは87質量%以上である。また、より好ましくは97質量%以下であり、更に好ましくは95質量%以下であり、より更に好ましくは93質量%以下である。アスファルト(B)の含有量が前記範囲であることによって、得られるアスファルト組成物は低温施工性を有しつつ、十分な耐久性と高い強度、耐熱性を有することができる。
また、本開示のアスファルト組成物におけるワックス成分(A)の含有量とアスファルト(B)の含有量の質量比[(A)/(B)]は、好ましくは1/99~20/80であり、より好ましくは3/97~18/82であり、更に好ましくは5/95~15/85であり、より更に好ましくは7/93~13/87である。ワックス成分(A)の含有量とアスファルト(B)の含有量の質量比が前記範囲であることによって、得られるアスファルト組成物は十分な耐久性と耐熱性を維持しつつ、低温施工性を実現することができる。
更に、本開示のアスファルト組成物におけるスラックワックス(A1)の含有量とアスファルト(B)の含有量の質量比[(A1)/(B)]は、好ましくは1/99~20/80であり、より好ましくは3/97~18/82であり、更に好ましくは5/95~15/85であり、より更に好ましくは7/93~13/87である。スラックワックス(A1)の含有量とアスファルト(B)の含有量の質量比が前記範囲であることによって、得られるアスファルト組成物は十分な耐久性と耐熱性を維持しつつ、低温施工性を実現することができる。
【0025】
<有機シラン化合物(C)>
本開示のアスファルト組成物には、更に有機シラン化合物(C)を含有してもよく、その含有量は、好ましくは0.1~5質量%である。すなわち、本開示のアスファルト組成物は、更に有機シラン化合物(C)を0.1~5質量%含有する。
有機シラン化合物(C)を含有することによって、本開示のアスファルト組成物を用いて得られたアスファルト合材の耐水性を向上させることができる。特に骨材を乾燥させることなく、アスファルト合材に十分な耐水性を付与することができる。これにより、更に消費されるエネルギーを低減し、排出される二酸化炭素の削減、コストダウンに貢献することができる。
【0026】
本開示のアスファルト組成物に含有される有機シラン化合物(C)の含有量は、好ましくは0.1~5質量%であり、より好ましくは0.2質量%以上であり、更に好ましくは0.5質量%以上である。また、より好ましくは4質量%以下であり、更に好ましくは3質量%以下であり、より更に好ましくは2質量%以下である。有機シラン化合物(C)の含有量が前記範囲であることによって、得られるアスファルト組成物を含むアスファルト合材の耐水性を向上させることができる。
【0027】
有機シラン化合物(C)は、好ましくは、トリアルコキシビニルシランと重合性不飽和結合をもつ成分との共重合体やその水添物、及びシラン変性された石油樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
前記トリアルコキシビニルシランは、好ましくは、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、及び3-(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種である。
前記重合性不飽和結合をもつ成分は、好ましくは、スチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、インデン、メチルインデン、エチルインデン、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン、イソプレン、ピペリレン、及びインデンからなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0028】
有機シラン化合物(C)は、より好ましくはシラン変性された石油樹脂(以下、「シラン変性石油樹脂」と記載する)である。
シラン変性石油樹脂は、シラン変性石油樹脂に対してケイ素元素をケイ素原子換算で0.1~10質量%含むことが好ましく、0.3~8質量%含むことがより好ましく、0.5~2質量%含むことが更に好ましい。
シラン変性石油樹脂中のケイ素元素の含有量は、JPI-5S-38-03 潤滑油―添加元素試験方法―誘導結合プラズマ発光分光分析法などのICP発光分光分析によって測定することができる。具体的には、シラン変性石油樹脂0.1gを電気炉にて550℃で12時間加熱し、灰分のアルカリ融解にて測定用溶液を調製し、ICP発光分光分析を行い(ICP発光分光分析装置:720-ES、アジレント・テクノロジー株式会社製)、求めることができる。
シラン変性石油樹脂は、有機シラン構造を有するシラン変性水添石油樹脂であることが好ましい。なかでも、アルコキシシリル基が結合部を介して、水添石油樹脂の主鎖に結合している、シラン変性水添石油樹脂であることが好ましい。
【0029】
ここでいう「石油樹脂」とは、ナフサなど石油類の熱分解によるエチレンなどのオレフィン製造時に副生物として得られる炭素数4~10の脂肪族オレフィン類や脂肪族ジオレフィン類、あるいは炭素数8以上でかつオレフィン性不飽和結合を有する芳香族化合物から選ばれる1種または2種以上の不飽和化合物を、重合または共重合して得られる樹脂である。
石油樹脂は、例えば、脂肪族オレフィン類や脂肪族ジオレフィン類を重合した「脂肪族系石油樹脂」、オレフィン性不飽和結合を有する芳香族化合物を重合した「芳香族系石油樹脂」、脂肪族オレフィン類や脂肪族ジオレフィン類と、オレフィン性不飽和結合を有する芳香族化合物とを共重合した「脂肪族-芳香族共重合石油樹脂」に大別できる。
【0030】
炭素数4~10の脂肪族オレフィン類としては、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテンなどが挙げられる。また、炭素数4~10の脂肪族ジオレフィン類としては、ブタジエン、ペンタジエン、イソプレン、ピペリレン、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン、メチルペンタジエンなどが挙げられる。さらに、炭素数8以上でかつオレフィン性不飽和結合を有する芳香族化合物としては、スチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、インデン、メチルインデン、エチルインデンなどが挙げられる。
また、この石油樹脂の原料化合物は、その全てがナフサなど石油類の熱分解によるオレフィン製造時の副生物である必要はなく、化学合成された不飽和化合物を用いてもよい。
【0031】
石油樹脂の好ましい好適例としては、シクロペンタジエンやジシクロペンタジエンの重合により得られるジシクロペンタジエン系石油樹脂や、これらシクロペンタジエンやジシクロペンタジエンとスチレンを共重合させて得られるジシクロペンタジエン-スチレン系石油樹脂、イソプレンやピペリレンの重合により得られるC5系石油樹脂、インデンやビニルトルエン等のC9モノマーの重合により得られるC9系石油樹脂が挙げられる。
【0032】
ここでいう「水添石油樹脂」とは、前記石油樹脂に水素原子を付加した石油樹脂である。水添石油樹脂は、不飽和結合が実質的に残存しない完全水添石油樹脂及び不飽和結合が残存する部分水添石油樹脂があり、完全水添石油樹脂であることが好ましい。
水添石油樹脂としては、水添脂肪族-芳香族共重合石油樹脂が好ましい。
【0033】
また、「アルコキシシリル基が結合部を介して、水添石油樹脂の主鎖に結合している」とは、たとえば、前記のように脂肪族オレフィン類、脂肪族ジオレフィン類、及びオレフィン性不飽和結合を有する芳香族化合物を重合し、水素原子を付加した水添重合体(水添石油樹脂)に含まれる炭素原子に、直接結合部が結合し、更にアルコキシシリル基が結合していることをいう。
アルコキシシリル基としては、直鎖でも分岐であってもよい炭素数1~20のアルコキシ基を有するトリアルコキシシリル基が好ましく、直鎖でも分岐であってもよい炭素数1~10のアルコキシ基を有するトリアルコキシシリル基がより好ましい。具体的には、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリプロポキシシリル基等が挙げられ、トリメトキシシリル基及びトリエトキシシリル基が好ましい。
前記結合部としては、水添石油樹脂の主鎖の炭素原子に結合でき、アルコキシシリル基が結合できる2価以上の有機基であればよく、アルキレン基が好ましく、炭素数2~3のアルキレン基が更に好ましい。
【0034】
<その他の成分>
本開示のアスファルト組成物には、前記ワックス成分(A)、前記アスファルト(B)及びシラン化合物(C)以外のその他の成分として、芳香族系重質鉱油、補強材、及び任意の添加剤が含まれていてもよい。
【0035】
(芳香族系重質鉱油)
前記アスファルト組成物において、芳香族系重質鉱油は、原油の減圧蒸留残油をプロパン等により脱れきして得られた溶剤脱れき油を、更にフルフラール等の極性溶剤を用いて溶剤抽出することにより、ブライトストック(重質潤滑油)を得る際の溶剤抽出油、すなわち、エキストラクトが使用できる。特に本発明の一態様であるアスファルト組成物においては、芳香族重質鉱油としてエキストラクトを添加することが好ましい。
【0036】
前記アスファルト組成物において、エキストラクトの役割は、熱可塑性エラストマーのアスファルトへの溶解性を高め、貯蔵安定性において分離の発生を防ぐもので、熱可塑性エラストマーの添加量が多いとエキストラクトの必要な添加量も増加する。また、エキストラクトは、再生骨材や再生アスファルトを用いたアスファルト合材を利用した舗装材を用いる際に、硬くなったアスファルト成分を柔軟にする性質も有する。また、熱可塑性エラストマーの添加量に対して必要以上のエキストラクトを添加するとアスファルト組成物の弾性率が低下する。
【0037】
アスファルト組成物全体に対するエキストラクトの含有量は、針入度、軟化点、貯蔵安定性、強度を示す複素弾性率とホイールトラッキング試験における動的安定度(DS)、及び、低温性状を示す曲げ仕事量と曲げスティフネスを考慮して決められる。本実施形態で検討した範囲では、アスファルト組成物全体に対するエキストラクトの含有量は、2.0質量%以上8.0質量%以下とされていることが好ましいが、当該エキストラクトが含有されていることは特段必須にはならず、含有されていなくてもよい。
【0038】
(補強材)
前記アスファルト組成物には、更に補強材として熱可塑性エラストマーを含んでもよい。
熱可塑性エラストマーとしては、SBS(スチレン-ブタジエン-スチレンコポリマー)が好ましい。
SBSの性能は、主にその分子量及びスチレン含有量から推定することができる。ここでいうスチレン含有量とは、SBS中に含まれているスチレンの質量%である。
【0039】
SBSの重量平均分子量は、好ましくは12万以上25万以下である。SBSは、スチレン含有量がSBS全体の25.0質量%以上35.0質量%以下であり、好ましくは27.0質量%以上33.0質量%以下である。
【0040】
上記以外にも、分子量およびスチレン含有量の異なるSBSが入手可能で、それらのSBSの分子量は、8万以上9万以下とされている。さらにスチレン含有量がSBS全体の25.0質量%以上50.0質量%以下である。
【0041】
前記アスファルト組成物において、SBSが含有されていることは特段必須にはならず、含有されていなくてもよいが、アスファルト舗装の耐水性を向上する観点からは、アスファルト組成物全体に対するSBSの含有量を、7.0質量%以下とすることが好ましい。SBSの含有量を7.0質量%以下とすることで、アスファルト連続相を維持することが可能となり、上述した課題を解決しつつ、遮水性に優れた密粒度混合物の耐水性の向上を図ることが可能となる。これに対し、舗装内部に積極的に空隙を設けた排水性もしくは透水性の高いアスファルト混合物を製造したい場合には、本実施形態のアスファルト組成物全体に対するSBSの含有量を7.0質量%超とすることで、上述した課題を解決しつつ、SBSの相転移を生じさせることで、高い排水性または透水性を有したアスファルト組成物を製造することが可能となる。
【0042】
前記アスファルト組成物においては、1種類のSBSのみを混合するようにしてもよいし、特定の分子構造を有する2種類以上のSBSを選択して混合するようにしてもよい。1種類のSBSのみを混合する場合には、2種類以上のSBSを選択して混合する煩雑さを解消することができ、製造労力の低減を図ることが可能となるため、好ましい。
【0043】
(任意の添加剤)
本開示のアスファルト組成物には、本開示技術の効果を損なわない範囲で任意の添加剤が含まれていてもよい。
【0044】
任意の添加剤として、石油樹脂及びこれに水素原子を付加した水添石油樹脂が挙げられる。
石油樹脂は、ナフサなど石油類の熱分解によるエチレンなどのオレフィン製造時に副生物として得られる炭素数4~10の脂肪族オレフィン類や脂肪族ジオレフィン類、あるいは炭素数8以上でかつオレフィン性不飽和結合を有する芳香族化合物から選ばれる1種または2種以上の不飽和化合物を、重合または共重合して得られる樹脂である。
石油樹脂は、例えば、脂肪族オレフィン類や脂肪族ジオレフィン類を重合した「脂肪族系石油樹脂」、オレフィン性不飽和結合を有する芳香族化合物を重合した「芳香族系石油樹脂」、脂肪族オレフィン類や脂肪族ジオレフィン類と、オレフィン性不飽和結合を有する芳香族化合物とを共重合した「脂肪族-芳香族共重合石油樹脂」に大別できる。
この炭素数4~10の脂肪族オレフィン類としては、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテンなどが挙げられる。また、炭素数4~10の脂肪族ジオレフィン類としては、ブタジエン、ペンタジエン、イソプレン、ピペリレン、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン、メチルペンタジエンなどが挙げられる。さらに、炭素数8以上でかつオレフィン性不飽和結合を有する芳香族化合物としては、スチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、インデン、メチルインデン、エチルインデンなどが挙げられる。
また、この石油樹脂の原料化合物は、その全てがナフサなど石油類の熱分解によるオレフィン製造時の副生物である必要はなく、化学合成された不飽和化合物を用いてもよい。
石油樹脂の好適例としては、シクロペンタジエンやジシクロペンタジエンの重合により得られるジシクロペンタジエン系石油樹脂や、これらシクロペンタジエンやジシクロペンタジエンとスチレンを共重合させて得られるジシクロペンタジエン-スチレン系石油樹脂、イソプレンやピペリレンの重合により得られるC5系石油樹脂、インデンやビニルトルエン等のC9モノマーの重合により得られるC9系石油樹脂が挙げられる。
水添石油樹脂は、前記石油樹脂に水素原子を付加した石油樹脂であり、不飽和結合が実質的に残存しない完全水添石油樹脂及び不飽和結合が残存する部分水添石油樹脂があり、部分水添石油樹脂が好ましい。
【0045】
また、任意の添加剤として、ポリエチレン系ポリオレフィンを挙げることができる。具体的には、ハイゼックス1300J、ネオゼックス20201J、ウルトゼックス15150J(株式会社プライムポリマー製)、Affinity GA1950、Affinity GA1900H(DOW社製)などを用いることができる。
【0046】
その他、任意の添加剤としては、酸化防止剤等が挙げられる。
酸化防止剤は、熱安定性を高める目的で添加してもよい。
酸化防止剤としては公知のものを使用することができる。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤を用いることが好ましい。フェノール系酸化防止剤としては、例えば、トリエチレングリコール・ビス[3-(3-tert-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6-ヘキサンジオール・ビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルフォスフォネート-ジエチルエステル、N,N’-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナムアミド)、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、3,9-ビス[2-{3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ}-1,1-ジメチルエチル]-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン等を挙げることができる。
酸化防止剤の市販品としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート](BASF株式会社製、IRGANOX1010)、1,3,5-トリス-(3',5'-ジ‐tert-ブチル-4’-ヒドロキシベンジル)イソシアヌル酸(株式会社ADEKA製、アデカスタブ AO-20)等を用いることができる。
【0047】
<アスファルト組成物の特性等>
本開示のアスファルト組成物は、好ましくは、以下のような特性を有する。
【0048】
本開示のアスファルト組成物に用いられるワックス成分(A)とアスファルト(B)の組合せは、混合物[(A)/(B)=1/4]が0~15℃にガラス転移温度を有さない組合せである。
ワックス成分(A)とアスファルト(B)の相溶性が低い場合、アスファルト合材を製造する工場で骨材とアスファルトを加熱混合した後、舗装現場まで運搬し、施工するまでに分離してしまうと、低温舗装性が損なわれてしまう。一方、相溶性が高いことで、施工範囲の拡大が可能となり、低温舗装性が良好となる。
アスファルト(B)は、通常0~15℃にガラス転移温度を有するが、相溶性の良好なワックス成分(A)を混合することで、このガラス転移温度が消失、または移動する。このような組合せのワックス成分(A)とアスファルト(B)を用いることで、本開示のアスファルト組成物を用いた合材は、施工範囲の拡大が可能となり、低温舗装性が良好となる。
なお、前記混合物は、ワックス成分(A)とアスファルト(B)を質量比で1:4の割合で混合して得られたものを用いる。
ガラス転移温度の有無の評価方法は、示差走査型熱量計を用い、前記混合物の試料を窒素雰囲気下-10℃で5分間保持した後、10℃/分で140℃まで昇温させることにより得られた融解吸熱曲線における0~15℃の範囲に変曲点があらわれるか否かで評価する。変曲点があらわれない場合、混合物は0~15℃にガラス転移温度を有さないと判断することができる。
【0049】
本開示のアスファルト組成物は、下記(8)及び(9)を満たすことが好ましい。
(8)降温過程の100℃における複素せん断粘度の異相成分が0.01~20mPa・s
(9)昇温過程の60℃における貯蔵弾性率が100~5000Pa
【0050】
本開示のアスファルト組成物の降温過程の100℃における複素せん断粘度の異相成分は、好ましくは0.01~20mPa・sである。
本開示のアスファルト組成物は、特に100℃という低温での複素せん断粘度の異相成分が上記範囲であることによって、アスファルト組成物は、低温で製造でき、低温施工性に優れる。
【0051】
特開2018-035625号公報において、アスファルト組成物の複素せん断粘度の異相成分によって、アスファルト合材の施工性を予測することができることが示されている。以下に説明する。
アスファルト組成物と骨材との混合や、締固めを実施する温度域である100℃~140℃程度の温度域におけるアスファルト組成物は、「液体的」に振る舞う。
複素せん断粘度の異相成分は、アスファルト組成物の弾性的な性質のみを示すため、アスファルト組成物の複素せん断粘度の異相成分を測定することで「液体的」に振る舞うアスファルト組成物において、どの程度「固体的」な成分を含むかを確認することができる。具体的には、複素せん断粘度の異相成分は、合材密度との相関関係が強く、たとえば、複素せん断粘度の異相成分が大きいとき、合材密度が小さくなり、アスファルト合材の施工性が悪化する傾向を予測することができる。
特に降温過程の複素せん断粘度の異相成分を測定することによって、加熱され、ワックス成分や添加剤がアスファルト組成物中に十分に分散した状態から測定することで、精度の良い測定が可能となる。また、実際の道路舗装工事の現場においては、アスファルト合材の温度は、時間経過とともに降下するためである(特開2018-035625号公報)。
【0052】
降温過程の100℃における複素せん断粘度の異相成分は、好ましくは0.01mPa・s以上であり、より好ましくは0.02mPa・s以上であり、更に好ましくは0.03mPa・s以上である。また、好ましくは10mPa・s以下であり、より好ましくは7mPa・s以下であり、更に好ましくは1.0mPa・s以下であり、より更に好ましくは0.10mPa・s以下である。
降温過程の100℃における複素せん断粘度の異相成分は、JIS K 7244-10:2005に準拠して測定した。より具体的には実施例に記載の方法で求めることができる。
【0053】
本開示のアスファルト組成物の昇温過程の60℃における貯蔵弾性率は、好ましくは100~5000Paである。
貯蔵弾性率が上記範囲であることによって、アスファルト組成物は、高温での耐久性に優れる。60℃における貯蔵弾性率は、夏場の舗装道路における耐熱性の指標となる。また、舗装道路の強度の指標となる。
昇温過程の60℃における貯蔵弾性率は、高温での耐久性、耐熱性の観点から、好ましくは100Pa以上であり、より好ましくは110Pa以上であり、更に好ましくは150Pa以上である。また、強度の観点から、好ましくは5000Pa以下であり、より好ましくは1000Pa以下であり、更に好ましくは500Pa以下であり、より更に好ましくは200Pa以下である。
昇温過程の60℃における貯蔵弾性率は、粘弾性測定装置を用い、角周波数6.3rad/秒、20℃から160℃まで5℃/分の速度で昇温しながら、歪1%から5%に線形で変更して測定することができる。より具体的には実施例に記載の方法で求めることができる。
【0054】
[アスファルト合材]
本開示のアスファルト合材は、前記アスファルト組成物と骨材を含有し、骨材の含有量が好ましくは80~99質量%である。
【0055】
前記アスファルト合材において、骨材の含有量は、アスファルト合材全体に対して、好ましくは80~99質量%であり、より好ましくは90~97質量%である。
骨材は、砕石、砂利、再生骨材、砂等が用いられ、アスファルト組成物と混合する前に加熱乾燥することが好ましいが、乾燥することなく用いることもできる。特に本開示のアスファルト組成物に有機シラン化合物(C)を含有する場合、アスファルトと骨材の密着性に優れるため、骨材を乾燥することなく、目的とする物性のアスファルト合材を得ることができる。
前記アスファルト合材において、前記アスファルト組成物の含有量は、アスファルト合材全体に対して、好ましくは1~20質量%であり、より好ましくは3~10質量%である。
本開示のアスファルト合材は、上述したアスファルト組成物を含有することから、低温で製造することができ、低温施工性に優れる。
【0056】
<アスファルト組成物の製造方法及びアスファルト合材の製造方法>
本開示のアスファルト組成物は、ワックス成分(A)及びアスファルト(B)を含有し、ワックス成分(A)の95質量%以上が、前記(1)~(5)を満たすスラックワックス(A1)であるアスファルト組成物であれば、その製造方法に制限はない。
また、本開示のアスファルト合材は、前記アスファルト組成物と骨材を含有し、骨材の含有量が好ましくは80~99質量%であれば、製造方法に制限はないが、低温での製造が可能であることから、アスファルト組成物と骨材とを90~140℃で混合する工程を有する製造方法で得ることが好ましい。低温で製造することで、消費されるエネルギーを低減し、排出される二酸化炭素の削減、コストダウンに貢献し、更に合材を製造する工場から施工する現場への長距離輸送も可能となるため、施工範囲の拡大にも貢献する。
【0057】
アスファルト合材は、最終的に前記アスファルト組成物と骨材を含有するものであれば、アスファルト組成物を構成する成分の一部と骨材を混合し、後に残部の成分を混合することもできる。具体的には、アスファルト(B)と骨材とを予め混合し、次にワックス成分(A)を混合する方法が挙げられる。
以下に、アスファルト組成物を製造し、次にアスファルト合材を製造する方法について説明する。
【0058】
アスファルト組成物を製造し、次にアスファルト合材を製造する方法においては、ワックス成分混合工程、第1貯蔵工程(アスファルト組成物貯蔵工程)、骨材混合工程、第2貯蔵工程(アスファルト合材貯蔵工程)をこの順で含む製造方法が好ましい。
【0059】
(ワックス成分混合工程)
ワックス成分混合工程では、アスファルト(B)と、ワックス成分(A)、更に任意の成分(有機シラン化合物(C)、芳香族系重質鉱油、補強材、添加剤等)を加熱混合する工程であることが好ましい。
芳香族系重質鉱油等を用いる場合、アスファルト(B)に芳香族系重質鉱油等を混合し、撹拌装置を設置した混合容器によって、たとえば、140℃以上で、撹拌、混合し、予めアスファルト基油としてもよい。この工程において補強材を同時に添加してもよい。補強材を添加する場合には、温度を180℃以上とすることが好ましい。
混合容器において、アスファルト基油に対し、ワックス成分(A)、有機シラン化合物(C)、その他の任意の添加剤を添加する。そして、撹拌装置にて、たとえば、140℃以上、2,000rpm以上4,000rpm以下の回転数となる条件で、所定の時間撹拌、混合する。本工程によって、アスファルト組成物を得ることができる。
【0060】
(第1貯蔵工程(アスファルト組成物貯蔵工程))
次に、ワックス成分混合工程により得られたアスファルト組成物を一時的に貯蔵・保管するため、第1の製品容器へ移送する。このとき、製品容器内では、所定の温度を維持するように、温度制御が行われていてもよい。
【0061】
(骨材混合工程)
骨材混合工程では、アスファルト組成物を得た後、又は貯蔵後、必要に応じて、アスファルト組成物に骨材を加えて、加熱し、所定の回転数にて混合することで所望の性状を有するアスファルト合材を製造する。
骨材は、アスファルト組成物と混合する前に加熱乾燥することが好ましいが、乾燥することなく用いることもできる。特に本開示のアスファルト組成物に有機シラン化合物(C)を含有する場合、アスファルトと骨材の密着性に優れるため、骨材を乾燥することなく、目的とする物性のアスファルト合材を得ることができる。
アスファルト合材を製造する際には、通常、145℃以上に加熱されるが、本開示のアスファルト組成物は、低温での製造が可能であることから、アスファルト組成物と骨材とを90~140℃で混合することでも所望の性状を有するアスファルト合材を得ることができる。
なお、アスファルト組成物の状態で販売・出荷する際には、本工程は必要なく、ワックス成分混合工程終了直後に出荷してもよく、第1貯蔵工程で一定期間貯蔵した後、必要に応じて出荷してもよい。
【0062】
(第2貯蔵工程(アスファルト合材貯蔵工程))
第2貯蔵工程では、骨材混合工程により得られたアスファルト合材を一時的に貯蔵・保管するため、第2の製品容器へ移送する。この時、製品容器内では、所定の温度を維持するように、温度制御が行われていてもよい。
【実施例0063】
次に、本開示技術を実施例により更に詳細に説明するが、本開示技術はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0064】
[スラックワックス(A1)の分析]
〔1.融解吸熱量(ΔH)〕
示差走査型熱量計(パーキン・エルマー社製、「DSC-7」)を用い、試料10mgを窒素雰囲気下-10℃で5分間保持した後、10℃/分で140℃まで昇温させることにより得られた融解吸熱曲線における融解ピークの全面積から融解吸熱量(ΔH)を求めた。
なお、融解吸熱量(ΔH)は、熱量変化の無い低温側の点と熱量変化の無い高温側の点とを結んだ線をベースラインとして、示差走査型熱量計(パーキン・エルマー社製、「DSC-7」)を用いた、DSC測定により得られた融解吸熱曲線のピークを含むライン部分と当該ベースラインとで囲まれる全面積を求めることで算出した。
【0065】
〔2.融解吸熱曲線における融解ピークのうちの各温度範囲の面積〕
〔1.融解吸熱量(ΔH)〕と同様の方法で融解吸熱曲線を得た。
次に融解吸熱曲線の所定の温度(20℃、55℃、80℃)から前記ベースラインに対して、横軸(温度軸)に垂直な直線を引き、融解吸熱曲線、ベースライン及び各温度に対応する直線で囲まれた面積を各温度範囲の面積とした。前記融解ピークの全面積に対する各温度範囲の面積の割合を求め、融解吸熱曲線における融解ピークのうちの各温度範囲の面積の割合とした。
具体的には、「20℃未満の面積」は、融解吸熱曲線、ベースライン及び20℃に対応する直線で囲まれた面積とし、「20℃以上55℃未満の面積」は、融解吸熱曲線、ベースライン、20℃に対応する直線及び55℃に対応する直線で囲まれた面積とし、「55℃以上80℃未満の面積」は、融解吸熱曲線、ベースライン、55℃に対応する直線及び80℃に対応する直線で囲まれた面積とし、「80℃以上の面積」は、融解吸熱曲線、ベースライン及び80℃に対応する直線で囲まれた面積とした。
なお、融解ピークが前記温度範囲を含まないときは、その温度範囲の面積はないものとし、その温度範囲の面積は零(ゼロ)とした。
【0066】
〔3.炭素原子1000個に対するブチル分岐の数〕
以下に示す装置及び条件で、13C-NMRスペクトルの測定を行った。得られた13C-NMRスペクトルの結果から、炭素原子1000個に対するブチル分岐の数を算出する方法も下記に示す。
装置:日本電子株式会社製、「JNM-EX400型 NMR装置」
方法:プロトン完全デカップリング法
濃度:220mg/mL
溶媒:1,2,4-トリクロロベンゼンと重ベンゼンの90:10(容量比)混合溶媒
温度:130℃
パルス幅:45°
パルス繰り返し時間:4秒
積算:10000回
【0067】
<算出方法>
(ピークの帰属:単位はppm、ケミカルシフト)
メチル分岐由来:20.0、33.3
エチル分岐由来:11.2、26.8、39.7
ブチル分岐由来:23.4、36.0、38.0~38.2
イソブチル分岐由来:23.4、44.9、36.0
アミル分岐由来:32.7、36.0、38.0~38.2
長鎖(ヘキシル以上)分岐由来:36.0、38.0~38.2
【0068】
(分岐数比率の計算方法)
各分岐由来のピークの積分強度の比から、各アルキル分岐数の比率を求める。なお、複数の分岐を由来とするピークは、帰属が明らかなピークの積分強度を差し引くことにより、それぞれのアルキル分岐由来の積分強度を求めた。また、複数の炭素原子に由来するピークは炭素数で除したものを炭素1つあたりの積分強度とした。
【0069】
(炭素原子1000個に対するブチル分岐の数の計算方法)
下式のように、上記のようにして求めたブチル分岐の分岐数を全アルキル分岐数で除し、1000を掛けて炭素原子1000個に対するブチル分岐の数を求めた。
(炭素原子1000個に対するブチル分岐)=(ブチル分岐の分岐数比率)/(アルキル分岐数比率の総和)×1000
【0070】
〔4.重量平均分子量(Mw)〕
ゲルパーミエイションクロマトグラフィ(GPC)法により、重量平均分子量(Mw)を求めた。測定には、下記の装置及び条件を使用し、ポリスチレン換算の重量平均分子量を得た。
<GPC測定装置>
カラム :東ソー株式会社製「TOSO GMHHR-H(S)HT」
検出器 :液体クロマトグラム用RI検出 ウォーターズ・コーポレーション製「WATERS 150C」
<測定条件>
溶媒 :1,2,4-トリクロロベンゼン
測定温度 :145℃
流速 :1.0mL/分
試料濃度 :2.2mg/mL
注入量 :160μL
検量線 :Universal Calibration
解析プログラム:HT-GPC(Ver.1.0)
【0071】
〔5.23℃における針入度〕
23℃における針入度は、JIS K 2235:2022に準拠して、以下の方法で測定した。
加熱溶融した試料を容器に採取、試料の温度が23℃になるまで放冷後、23℃にて、下記自動針入度試験器にて針が進入した深さを0.1mmまで測定し、10倍した数値を針入度とする。
自動針入度試験器:RPM-101 株式会社離合社製
針:型式804(ワックス用)
おもり:黄銅製50±0.05g
プランジャー:保治具 47.5±0.05g
【0072】
[ワックス成分(ワックス成分(A)及びその他のワックス成分)]
実施例及び比較例のアスファルト組成物に用いたワックス成分を表1に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
[有機シラン化合物(C)]
製造例1(石油樹脂の製造)
1リットルのオートクレーブに、キシレン180gを投入し、260℃に昇温した。次に、ジシクロペンタジエン100gとスチレン100gの混合物を3時間かけて投入した。この温度でさらに75分間維持し、重合反応を行い、重合体混合物を得た。
その後、得られた重合体混合物からキシレンを回収し、次いで20mmHgで2時間維持して低沸点物を留去して、石油樹脂を得た。得られた石油樹脂の軟化点は63.0℃、臭素価は58であった。
【0075】
製造例2(水添石油樹脂の製造)
製造例1で得られた石油樹脂180g、エチルシクロヘキサン180g、日揮触媒化成株式会社製ニッケル系触媒(N110シリーズ)4gを1リットルのオートクレーブに投入した。水素を5MPaとなるように投入し、室温から230℃に昇温した。その後、水素圧を5MPaに保ちながら、8時間、水添反応を実施し、水添石油樹脂を得た。得られた水添石油樹脂の軟化点は100℃、臭素価は2.5であった。
【0076】
製造例3(シラン変性水添石油樹脂の製造)
窒素導入管及び撹拌翼を備えた500mLセパラブルフラスコに製造例2で得られた水添石油樹脂110gを入れ、窒素気流下で油浴にて140℃に加熱した。
水添石油樹脂が溶解したところで、撹拌しながらビニルトリメトキシシラン(東京化成工業株式会社製)12gを添加し、均一になるまで撹拌した。
次いで、有機過酸化物(2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、商品名「パーヘキサ(登録商標)25B」、日油株式会社製)0.5gを滴下した。滴下後、内温(反応混合物温度)145℃で、1時間撹拌し、反応した。
反応終了後、フラスコの内容物をステンレス製のトレーに取り出し、真空下、150℃で1時間乾燥して、シラン変性水添石油樹脂を102g得た。得られたシラン変性水添石油樹脂の臭素価は2.3g/100g、ケイ素元素の含有量は0.8%、重量平均分子量は1120、軟化点は92.5℃であった。
【0077】
[アスファルト組成物の製造]
実施例1
ステンレス製の100mL円筒容器に、アスファルト(B)であるストレートアスファルト(針入度72、出光興産株式会社製)36g、スラックワックス(A1)であるスラックワックスA 4g(アスファルト組成物中の含有量10質量%)を投入し、次にマントルヒーターを用いて加熱し、160℃で15分間撹拌して、アスファルト組成物を得た。
【0078】
実施例2~6及び比較例1~2、4~5
実施例1において、スラックワックスAにかえて、表2に示すワックス成分を表2に示す含有量となるように用いた以外は実施例1と同様にして、アスファルト組成物を得た。
【0079】
実施例7
実施例1において、ストレートアスファルト(針入度72、出光興産株式会社製)36gにかえて、アスファルト(B)であるプロパン脱れきアスファルト(針入度20、出光興産株式会社製)36gを用い、スラックワックスA 4gにかえて、スラックワックスC 4gを用いた以外は実施例1と同様にして、アスファルト組成物を得た。
【0080】
実施例8
ステンレス製の100mL円筒容器に、アスファルト(B)であるストレートアスファルト(針入度72、出光興産株式会社製)35.8g、スラックワックス(A1)であるスラックワックスC 4g(アスファルト組成物中の含有量10質量%)、有機シラン化合物(C)である製造例3で得られたシラン変性水添石油樹脂 0.2g(アスファルト組成物中の含有量0.5質量%)を投入し、次にマントルヒーターを用いて加熱し、160℃で15分間撹拌して、アスファルト組成物を得た。
【0081】
比較例3
実施例1において、スラックワックスAを用いず、ストレートアスファルトの量を40gとした以外は実施例1と同様にして、アスファルト組成物を得た。
【0082】
[アスファルト組成物の評価]
実施例及び比較例で得られたアスファルト組成物の評価を次のようにして行った。結果を表2及び表3に示す。
【0083】
〔1.降温過程の100℃における複素せん断粘度の異相成分(低温施工性の評価)〕
降温過程の100℃における複素せん断粘度の異相成分は、JIS K 7244-10:2005に準拠して測定した。結果を表2に示す。
降温過程の100℃における複素せん断粘度の異相成分の値が小さいものほど、低温施工性に優れる。降温過程の100℃における複素せん断粘度の異相成分は合材密度及びアスファルト合材の施工性の指標となる。降温過程の100℃における複素せん断粘度の異相成分の値が20mPa・sを超えて、大きくなりすぎると、低温施工性に劣るものとなる。また、降温過程の100℃における複素せん断粘度の異相成分の値が0.01mPa・s未満となり、小さくなりすぎると、アスファルト組成物が固まりにくくなり、施工性に劣るものとなる。
以下に具体的な測定器及び測定条件を示す。
レオメーター本体:MCR302(Anton Paar社製)
温調機:P-PTD200およびH-PTD200
使用治具:パラレルプレートPP25
測定条件(降温時):
温度:160℃から20℃に5℃/分で降温
歪:5%から1%に線形にて変更
角周波数:10rad/秒 測定条件(昇温時):
温度:20℃から160℃に5℃/分で昇温
歪:1%から5%に線形にて変更
角周波数:10rad/秒
【0084】
〔2.昇温過程の60℃における貯蔵弾性率(耐熱性と強度の評価)〕
粘弾性測定装置(MCR302、パーキンエルマー社製)を用い、下記条件にて、粘弾性を測定し、昇温過程の60℃における貯蔵弾性率を得た。結果を表2に示す。昇温過程の60℃における貯蔵弾性率の値が大きいものほど、耐熱性に優れる。60℃での貯蔵弾性率は夏場の舗装道路における耐熱性の指標となる。昇温過程の60℃における貯蔵弾性率の値が100Pa未満となり、小さくなりすぎると、耐熱性に劣るものとなる。昇温過程の60℃における貯蔵弾性率の値が5000Paを超えて、大きくなりすぎると、アスファルト組成物が脆くなってしまい、強度が劣る。
治具:25mm パラレル
温度及び歪:160℃から20℃まで5℃/分の速度で降温した。その後、歪1%にて30分間保持した。次に20℃から160℃まで5℃/分の速度で昇温しながら、歪1%から5%に線形で変更した。
角周波数:6.3rad/秒
【0085】
〔3.混合物のガラス転移温度の有無(相溶性の評価)〕
実施例及び比較例で用いたワックス及びストレートアスファルトを質量比でワックス/ストレートアスファルト=1/4となるように混合して、混合物を得た。
次に、示差走査型熱量計(パーキン・エルマー社製、「DSC-7」)を用い、混合物10mgを窒素雰囲気下-10℃で5分間保持した後、10℃/分で140℃まで昇温させることによって融解吸熱曲線を得た。前記融解吸熱曲線における0~15℃の範囲に変曲点があらわれた場合、混合物はガラス転移温度を有するとし、前記融解吸熱曲線における0~15℃の範囲に変曲点があらわれなかった場合、混合物はガラス転移温度を有さないとした。
ガラス転移温度を有さない場合、ワックス成分とアスファルトとの相溶性に優れ、分離しにくく、アスファルト組成物の保存安定性にも優れる。
【0086】
〔4.沸騰水剥離試験(耐水性・剥離抵抗性の評価)〕
アスファルト組成物と9.5mm以上13.2mm以下の硬質砂岩骨材とを、以下に示す手順で混合し、供試体を得た。水洗いして乾燥させた硬質砂岩骨材100g±0.5gに対して、180℃で1時間加熱した各アスファルト組成物5.5g±0.5gを添加して、1分間程度撹拌して、供試体を作製した。
前記供試体から10個を選択し、選択した供試体を1.0mol/Lの炭酸ナトリウム水溶液100mLに投入した。その後、水溶液及び水溶液中の供試体をホットプレートで加熱し、90℃に達してから1分間加熱した。その後、供試体を炭酸ナトリウム水溶液から取り出し、氷水に投入して冷却した。供試体を乾燥し、供試体の剥離面積率を測定した。供試体の上面の剥離面積率を測定し、剥離抵抗性を判断した。
剥離面積率が40%未満の場合、剥離抵抗性が「〇(良好)」と評価し、剥離面積率が40%以上の場合、剥離抵抗性が「×(不良)」とした。結果を表3に示す。
【0087】
【表2】
【0088】
【表3】
【0089】
表2の結果から、本開示のアスファルト組成物は、降温過程の100℃における複素せん断粘度の異相成分の値が小さく、かつ小さすぎないことから、アスファルト組成物は、低温で製造でき、得られるアスファルト合材は低温施工性に優れることがわかる。
低温で製造、施工することで、消費されるエネルギーを低減し、排出される二酸化炭素の削減、コストダウンに貢献し、更に合材を製造する工場から施工する現場への長距離輸送も可能となるため、施工範囲の拡大にも貢献する。
更に本開示のアスファルト組成物は、昇温過程の60℃における貯蔵弾性率が大きく、かつ大きすぎないことから、耐熱性と強度に優れ、得られるアスファルト合材は夏場の舗装道路においても耐熱性が優れ、高い強度を有するものとなる。
また、表3の結果から、有機シラン化合物を含有する本開示のアスファルト組成物は、沸騰水剥離試験の結果が良好であり、耐水性と耐剥離抵抗性に優れる。これにより、得られるアスファルト合材の性能が向上するだけでなく、骨材を加熱乾燥させる必要がなくなるため、消費されるエネルギーを低減し、排出される二酸化炭素の削減、コストダウンに貢献できる。