(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141217
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】抗体結合性タンパク質固定化担体を用いた抗体精製方法
(51)【国際特許分類】
C07K 1/22 20060101AFI20241003BHJP
C07K 14/195 20060101ALI20241003BHJP
C12N 15/31 20060101ALN20241003BHJP
C07K 16/00 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
C07K1/22 ZNA
C07K14/195
C12N15/31
C07K16/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052736
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】相田 一希
(72)【発明者】
【氏名】長谷見 崇俊
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 瑛大
(72)【発明者】
【氏名】田中 亨
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA10
4H045AA20
4H045BA10
4H045CA11
4H045EA20
4H045EA50
4H045GA26
(57)【要約】
【課題】 不溶性担体と当該担体に固定化したFinegoldia属細菌由来Protein Lの抗体結合ドメインとを含む抗体吸着剤を用いて、溶液中に含まれる抗体を精製する方法であって、高い抗体収量を維持しながら、溶液中に含まれる宿主細胞由来タンパク質を高効率に除去可能な方法を提供すること。
【解決手段】 溶液中に含まれる抗体を吸着した抗体吸着剤の洗浄に、3.0%(v/v)以上30%(v/v)以下の2-プロパノールおよび2.0mol/L以上3.5mol/L以下の尿素の少なくとも一方を含む洗浄液を用いることで、前記課題を解決する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不溶性担体と当該担体に固定化した抗体結合性タンパク質とを含む抗体吸着剤に抗体を含む溶液を添加し、当該抗体を前記吸着剤に吸着させる工程と、
抗体を吸着した前記吸着剤を洗浄液で洗浄する工程と、
洗浄後の前記吸着剤に吸着した抗体を溶出させる工程と、
を含む抗体の精製方法であって、
抗体結合性タンパク質がFinegoldia属細菌由来Protein Lの抗体結合ドメインを含むタンパク質であり、
かつ洗浄液が3.0%(v/v)以上30%(v/v)以下の2-プロパノールおよび2.0mol/L以上3.5mol/L以下の尿素の少なくとも一方を含む、前記方法。
【請求項2】
洗浄液のpHがpH4.0以上pH6.0以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
Finegoldia属細菌由来Protein Lの抗体結合ドメインが、以下の(a)から(d)のいずれかに記載のポリペプチドである、請求項1または2に記載の方法;
(a)配列番号1に記載の配列からなるアミノ酸残基を少なくとも含むポリペプチド
(b)配列番号1に記載の配列の部分配列からなるアミノ酸残基を少なくとも含み、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド
(c)配列番号1に記載の配列またはその部分配列からなるアミノ酸残基を含み、ただしこれらアミノ酸残基において、1もしくは数箇所での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上有し、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド
(d)配列番号1に記載の配列またはその部分配列と70%以上の相同性を有する配列からなるアミノ酸残基を少なくとも含み、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体結合性タンパク質固定化担体を用いた抗体精製方法に関する。特に本発明は、Finegoldia属細菌由来Protein Lの抗体結合ドメインを抗体結合性タンパク質としたときの最適な抗体精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体医薬は生体内の免疫機能を担う分子である抗体(免疫グロブリン)を利用した医薬である。抗体医薬は抗体が有する可変領域の多様性により標的分子に対し高い特異性と親和性をもって結合する。そのため抗体医薬は副作用が少なく、また、近年では適応疾患が広がってきていることもあり市場が急速に拡大している。
【0003】
抗体医薬の製造は培養工程と精製工程を含み、培養工程では多くの事例においてCHO(Chinese Hamster Ovary)細胞を宿主とした生産系によって製造されている(非特許文献1)。CHO細胞の培養上清には、目的物質である抗体の他に、宿主細胞由来タンパク質(Host Cell Protein[HCP])が含まれている。HCPは、ヒトにとっては異種タンパク質として認識されるため、抗原性を呈するおそれがあり、さらには造腫瘍性リスクが存在することも知られている。従って、精製工程でHCPを十分に低いレベルまで除去しなければならない。
【0004】
抗体医薬の精製工程では、前記目的のために、多くの場合、複数のクロマトグラフィーを含む工程を組み合わせて実施される。クロマトグラフィーを用いた精製は、一般的には、粗精製としてアフィニティークロマトグラフィーを採用し、その後イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、セラミックハイドロキシアパタイトクロマトグラフィー等を用いて、高純度に精製する。
【0005】
粗精製で採用されるアフィニティークロマトグラフィーでは、不溶性担体と当該担体に固定化した抗体結合性タンパク質とを含む抗体吸着剤が用いられており、前記吸着剤に抗体を含む溶液を添加し、当該抗体を前記吸着剤に吸着させる工程と、抗体を吸着した前記吸着剤を洗浄する工程と、洗浄後の前記吸着剤に吸着した抗体を溶出させる工程とを含む方法で、前記溶液中に含まれるHCPの大半を除去し、抗体を精製する。抗体結合性タンパク質としては、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)由来Protein A(以下、「SpA」とも表記する)、Finegoldia属細菌由来Protein L(以下、「FpL」とも表記する)、G群溶血性レンサ球菌(group G streptococci)由来Protein Gなどが使われる。
【0006】
アフィニティークロマトグラフィーによるHCP除去効率をさらに高めるために、特定の緩衝液や添加剤を用いた中間洗浄工程を追加する方法が報告されている。一例として、非特許文献2には、抗体を吸着したSpA固定化担体を、塩化ナトリウム、エタノール、尿素や2-プロパノールを添加した洗浄液で洗浄する方法を開示している。また特許文献1には、抗体を吸着したSpAまたはFpL固定化担体を、4mol/L以上8mol/L以下の尿素を添加した洗浄液を用いて洗浄し、精製抗体溶液中に含まれるHCPを低減させる方法を開示している。しかしながら前述した方法では、HCPの除去が不十分、および/または、HCPの除去効率を高めようとすると精製抗体の回収量が少なくなってしまうという課題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Reichert,J.,MABs,4,413-415,2012
【非特許文献2】Abhinav A.Shukla他,Biotechnol.Prog.,24,1115-1121,2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、不溶性担体と当該担体に固定化した抗体結合性タンパク質とを含む抗体吸着剤を用いて、溶液中に含まれる抗体を精製する方法であって、高い抗体収量を維持しながら、溶液中に含まれる宿主細胞由来タンパク質を高効率に除去可能な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決するため、鋭意検討した結果、溶液中に含まれる抗体を吸着した抗体吸着剤の洗浄に用いる溶液(洗浄液)を最適化することで、高い抗体収量を維持しながら、溶液中に含まれる宿主細胞由来タンパク質を高効率に除去できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明の第一の態様は、
不溶性担体と当該担体に固定化した抗体結合性タンパク質とを含む抗体吸着剤に抗体を含む溶液を添加し、当該抗体を前記吸着剤に吸着させる工程と、
抗体を吸着した前記吸着剤を洗浄液で洗浄する工程と、
洗浄後の前記吸着剤に吸着した抗体を溶出させる工程と、
を含む抗体の精製方法であって、
抗体結合性タンパク質がFinegoldia属細菌由来Protein Lの抗体結合ドメインを含むタンパク質であり、
かつ洗浄液が3.0%(v/v)以上30%(v/v)以下の2-プロパノールおよび2.0mol/L以上3.5mol/L以下の尿素の少なくとも一方を含む、前記方法である。
【0012】
また本発明の第二の態様は、洗浄液のpHがpH4.0以上pH6.0以下である、前記第一の態様に記載の方法である。
【0013】
また本発明の第三の態様は、Finegoldia属細菌由来Protein Lの抗体結合ドメインが、以下の(a)から(d)のいずれかに記載のポリペプチドである、前記第一または第二の態様に記載の方法である;
(a)配列番号1に記載の配列からなるアミノ酸残基を少なくとも含むポリペプチド
(b)配列番号1に記載の配列の部分配列からなるアミノ酸残基を少なくとも含み、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド
(c)配列番号1に記載の配列またはその部分配列からなるアミノ酸残基を含み、ただしこれらアミノ酸残基において、1もしくは数箇所での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上有し、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド
(d)配列番号1に記載の配列またはその部分配列と70%以上の相同性を有する配列からなるアミノ酸残基を少なくとも含み、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、不溶性担体と当該担体に固定化したFinegoldia属細菌由来Protein Lの抗体結合ドメインとを含む抗体吸着剤に抗体を含む溶液を添加し、当該抗体を前記吸着剤に吸着させる工程と、抗体を吸着した前記吸着剤を洗浄液で洗浄する工程と、洗浄後の前記吸着剤に吸着した抗体を溶出させる工程とを含む方法で前記抗体を精製する際、洗浄液に3.0%(v/v)以上30%(v/v)以下の2-プロパノールおよび2.0mol/L以上3.5mol/L以下の尿素の少なくとも一方を含ませることを特徴としている。本発明の方法は、高い抗体収量を維持しながら、溶液中に含まれる宿主細胞由来タンパク質を高効率に除去できるため、抗体医薬を高純度かつ高効率に製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明において、精製対象である抗体(免疫グロブリン)は、本発明で使用する抗体結合性タンパク質に対して結合性を有するものであれば、特に制限はない。免疫グロブリンは、具体的には、κ軽鎖を有するものであってよい。免疫グロブリンは、κ軽鎖に加えて、Fc領域等の他の領域を含んでいてもよく、いなくてもよい。免疫グロブリンは、例えば、シングルチェーンFv(scFv)、Fab、F(ab’)2、IgA、二重特異性T細胞誘導(BiTE)抗体等の、Fc領域を有しないものであってもよい。免疫グロブリンは、モノクローナル抗体であってもよく、ポリクローナル抗体であってもよい。免疫グロブリンは、例えば、IgG、IgM、IgA、IgD、およびIgEのいずれであってもよい。IgGは、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4のいずれであってもよい。免疫グロブリンの由来は、特に制限されない。免疫グロブリンは、単一の生物に由来するものであってもよく、2種またはそれ以上の生物の組み合わせに由来するものであってもよい。免疫グロブリンとしては、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、それらのバリアント(variant)(例えばアミノ酸置換体)があげられる。また二重特異性抗体(バイスペシフィック抗体)、κ軽鎖と他のタンパク質との融合抗体、κ軽鎖と薬物との複合体(ADC)等の人工的に構造改変した抗体も、本発明における抗体(免疫グロブリン)に含まれる。なお、「免疫グロブリン(抗体)」には、抗体医薬も含まれる。
【0017】
本発明で用いる抗体吸着剤の構成成分である不溶性担体は、抗体を含む試料や精製に用いる溶液(溶出液、平衡化液、洗浄液など)に対して不溶性であれば特に制限されない。不溶性担体としては、アガロース、アルギネート(アルギン酸塩)、カラゲナン、キチン、セルロース、デキストリン、デキストラン、デンプン等の多糖質を原料とした担体や、ポリビニルアルコール、ポリメタクレート、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリウレタン等の合成高分子を原料とした担体や、シリカ等のセラミックスを原料とした担体が例示できる。中でも、多糖質を原料とした担体や合成高分子を原料とした担体が不溶性担体として好ましい。前記好ましい担体の一例として、トヨパール(東ソー社製)等のヒドロキシ基を導入したポリメタクリレートゲル、Sepharose(サイティバ社製)等のアガロースゲル、セルファイン(JNC社製)等のセルロースゲルが挙げられる。不溶性担体の形状は特に制限されず、例えば、粒状物、モノリス状物、膜状物および繊維状物のいずれであってもよく、また多孔性および非多孔性のいずれであってもよい。中でもカラムに充填できる形状とすると好ましい。
【0018】
本発明で用いる抗体結合性タンパク質は、Finegoldia属細菌由来Protein L(以下、「FpL」とも表記)の抗体結合ドメインを含むタンパク質である。前記ドメインは、
(a)前記ドメインの配列からなるアミノ酸残基を含むポリペプチドであってもよく、
免疫グロブリンへの結合活性を有している限り、
(b)前記ドメインの部分配列からなるアミノ酸残基を含むポリペプチドであってもよい。
さらに免疫グロブリンへの結合活性を有している限り、
(c)前記ドメインの配列またはその部分配列からなるアミノ酸残基を含み、ただしこれらアミノ酸残基において、1もしくは数箇所での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上有したポリペプチドであってもよいし、(d)前記ドメインの配列またはその部分配列と70%以上の相同性を有する配列からなるアミノ酸残基を少なくとも含むポリペプチドであってもよい。
【0019】
以降、前記(c)および(d)に記載のポリペプチドをまとめて「改変体」とも表記する。
【0020】
FpLの抗体結合ドメイン(前記(a))に関して、FpLの由来である、Finegoldia属細菌としては、Finegoldia magnaが挙げられる。Finegoldia magna由来Protein Lの抗体結合ドメインとしては、
ドメインB1(GenBank No.AAA25612の104番目から173番目までのアミノ酸残基)、
ドメインB2(GenBank No.AAA25612の176番目から245番目までのアミノ酸残基)、
ドメインB3(GenBank No.AAA25612の248番目から317番目までのアミノ酸残基)、
ドメインB4(GenBank No.AAA25612の320番目から389番目までのアミノ酸残基)、
ドメインB5(GenBank No.AAA25612の393番目から462番目までのアミノ酸残基)、
ドメインC1(GenBank No.AAA67503の249番目から317番目までのアミノ酸残基)、
ドメインC2(GenBank No.AAA67503の320番目から389番目までのアミノ酸残基)、
ドメインC3(GenBank No.AAA67503の394番目から463番目までのアミノ酸残基:配列番号1)、および
ドメインC4(GenBank No.AAA67503の468番目から537番目までのアミノ酸残基)があげられるが、いずれのドメインを選択してもよい。
【0021】
なお本発明で用いるFpLの抗体結合ドメインは、例えば、選択した抗体結合ドメインに加えて、他の抗体結合ドメインの一部を含んでいてもよい。例えば、FpLの抗体結合ドメインとしてFinegoldia magna由来Protein Lの抗体結合ドメインC3のアミノ酸配列を選択する場合、本発明のタンパク質は、さらに、前記ドメインのN末端側領域(ドメインC1、ドメインC2)の一部を含んでもよく、前記ドメインのC末端側領域(ドメインC4)の一部を含んでもよい。
【0022】
前記(b)に関して、FpLの抗体結合ドメイン(前記(a))は四つのβシートと一つのαヘリックス、それらをつなぐループ部分とN末端ループ領域で構成されているが、N末端ループ領域など、抗体への結合とは無関係の領域のアミノ酸残基は欠損してもよい。具体例として、FpLの抗体結合ドメイン(前記(a))がドメインC3(配列番号1)の場合、N末端ループ領域に相当する、1番目のグルタミン酸から9番目のグルタミン酸までのアミノ酸残基を欠損させても抗体結合能を有していることが知られている(Housden N.G.他,Biochemical Society Transaction,31,716-718,2003)。すなわち前記(b)における部分アミノ酸配列は、少なくとも抗体への結合部位のアミノ酸配列を含んでいればよいといえる。すなわち、前記(b)における部分アミノ酸配列としては、抗体への結合部位のアミノ酸配列を含む部分配列があげられる。
【0023】
前記(c)における「1もしくは数個」とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置やアミノ酸残基の種類によっても異なるが、具体的には、例えば、1個以上20個以下、1個以上10個以下、1個以上9個以下、1個以上8個以下、1個以上7個以下、1個以上6個以下、1個以上5個以下、1個以上4個以下、1個以上3個以下、1個または2個、1個のいずれかを意味する。
【0024】
前記(d)における「相同性」とは、類似性(similarity)または同一性(identity)を意味してよく、特に同一性を意味してもよい。「アミノ酸配列に対する相同性」とは、アミノ酸配列全体に対する相同性を意味する。前記「高い相同性」とは、70%以上、80%以上、90%以上、または95%以上の相同性を意味してよい。アミノ酸配列間の同一性とは、それらアミノ酸配列における種類が同一であるアミノ酸残基の比率を意味する(実験医学 2013年2月号 Vol.31 No.3、羊土社)。アミノ酸配列間の類似性とは、それらアミノ酸配列における種類が同一であるアミノ酸残基の比率と側鎖の性質が類似したアミノ酸残基の比率との合計を意味する(実験医学 2013年2月号 Vol.31 No.3、羊土社)。アミノ酸配列の相同性は、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)やFASTA等のアラインメントプログラム(alignment program)を利用して決定できる。
【0025】
FpLの抗体結合ドメインが、Finegoldia magna由来Protein Lの抗体結合ドメインC3(配列番号1)の全アミノ酸配列を含むポリペプチドである場合、改変体(前記(c)および(d))の好ましい態様として、以下の(α)から(δ)のいずれかに示すポリペプチドが例示できる。
【0026】
(α)配列番号1に記載の配列からなるアミノ酸残基を含み、ただし当該アミノ酸残基において、少なくとも以下の(1)から(53)より選択される1以上のアミノ酸置換を有し、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド
(1)配列番号1の50番目のアスパラギンに相当するアミノ酸残基がチロシンに置換
(2)配列番号1の1番目のグルタミン酸に相当するアミノ酸残基がグリシンまたはバリンに置換
(3)配列番号1の3番目のプロリンに相当するアミノ酸残基がセリンに置換
(4)配列番号1の4番目のグルタミン酸に相当するアミノ酸残基がリジンまたはグリシンに置換
(5)配列番号1の5番目のグルタミン酸に相当するアミノ酸残基がバリンに置換
(6)配列番号1の7番目のリジンに相当するアミノ酸残基がアラニンに置換
(7)配列番号1の8番目のグルタミン酸に相当するアミノ酸残基がグリシンに置換
(8)配列番号1の9番目のグルタミン酸に相当するアミノ酸残基がバリンに置換
(9)配列番号1の17番目のイソロイシンに相当するアミノ酸残基がフェニルアラニンに置換
(10)配列番号1の21番目のグリシンに相当するアミノ酸残基がアルギニンに置換
(11)配列番号1の27番目のグルタミン酸に相当するアミノ酸残基がグリシンまたはアルギニンに置換
(12)配列番号1の29番目のリジンに相当するアミノ酸残基がプロリンに置換
(13)配列番号1の31番目のスレオニンに相当するアミノ酸残基がロイシンに置換
(14)配列番号1の36番目のスレオニンに相当するアミノ酸残基がアラニンに置換
(15)配列番号1の41番目のアラニンに相当するアミノ酸残基がスレオニンに置換
(16)配列番号1の44番目のアスパラギンに相当するアミノ酸残基がセリン、アスパラギン酸およびグリシンのいずれかに置換
(17)配列番号1の49番目のグルタミン酸に相当するアミノ酸残基がバリン、スレオニンおよびイソロイシンのいずれかに置換
(18)配列番号1の50番目のアスパラギンに相当するアミノ酸残基がセリン、リジンおよびアスパラギン酸のいずれかに置換
(19)配列番号1の51番目のグリシンに相当するアミノ酸残基がバリンに置換
(20)配列番号1の52番目のグルタミン酸に相当するアミノ酸残基がバリン、グリシンおよびアスパラギン酸のいずれかに置換
(21)配列番号1の53番目のチロシンに相当するアミノ酸残基がフェニルアラニンに置換
(22)配列番号1の54番目のスレオニンに相当するアミノ酸残基がイソロイシンまたはメチオニンに置換
(23)配列番号1の62番目のアスパラギンに相当するアミノ酸残基がチロシン、ヒスチジン、アルギニン、ロイシン、メチオニンおよびトリプトファンのいずれかに置換
(24)配列番号1の65番目のアスパラギンに相当するアミノ酸残基がチロシンに置換
(25)配列番号1の69番目のアラニンに相当するアミノ酸残基がスレオニンに置換
(26)配列番号1の2番目のスレオニンに相当するアミノ酸残基がセリンまたはプロリンに置換
(27)配列番号1の3番目のプロリンに相当するアミノ酸残基がアルギニンに置換
(28)配列番号1の5番目のグルタミン酸に相当するアミノ酸残基がリジンまたはアルギニンに置換
(29)配列番号1の27番目のグルタミン酸に相当するアミノ酸残基がバリン、リジンおよびイソロイシンのいずれかに置換
(30)配列番号1の32番目のフェニルアラニンに相当するアミノ酸残基がロイシンに置換
(31)配列番号1の38番目のリジンに相当するアミノ酸残基がアラニンに置換
(32)配列番号1の44番目のアスパラギンに相当するアミノ酸残基がイソロイシンに置換、
(33)配列番号1の47番目のアラニンに相当するアミノ酸残基がスレオニンまたはアルギニンに置換
(34)配列番号1の52番目のグルタミン酸に相当するアミノ酸残基がアスパラギンに置換
(35)配列番号1の2番目のスレオニンに相当するアミノ酸残基がアラニンに置換
(36)配列番号1の5番目のグルタミン酸に相当するアミノ酸残基がアスパラギン酸に置換
(37)配列番号1の6番目のプロリンに相当するアミノ酸残基がロイシンまたはスレオニンに置換
(38)配列番号1の7番目のリジンに相当するアミノ酸残基がプロリンに置換
(39)配列番号1の14番目のバリンに相当するアミノ酸残基がアラニンに置換
(40)配列番号1の23番目のイソロイシンに相当するアミノ酸残基がアルギニン、スレオニンおよびバリンのいずれかに置換
(41)配列番号1の29番目のリジンに相当するアミノ酸残基がフェニルアラニンに置換
(42)配列番号1の31番目のスレオニンに相当するアミノ酸残基がメチオニンに置換
(43)配列番号1の33番目のグルタミン酸に相当するアミノ酸残基がアスパラギン酸、グリシンおよびバリンのいずれかに置換
(44)配列番号1の35番目のアラニンに相当するアミノ酸残基がスレオニンに置換
(45)配列番号1の36番目のスレオニンに相当するアミノ酸残基がセリンに置換
(46)配列番号1の37番目のアラニンに相当するアミノ酸残基がスレオニンに置換
(47)配列番号1の41番目のアラニンに相当するアミノ酸残基がイソロイシン、アルギニンおよびチロシンのいずれかに置換
(48)配列番号1の44番目のアスパラギンに相当するアミノ酸残基がアスパラギン酸、ヒスチジンおよびアルギニンのいずれかに置換
(49)配列番号1の52番目のグルタミン酸に相当するアミノ酸残基がロイシンまたはチロシンに置換
(50)配列番号1の60番目のグリシンに相当するアミノ酸残基がアルギニンに置換
(51)配列番号1の64番目のイソロイシンに相当するアミノ酸残基がロイシンに置換
(52)配列番号1の66番目のイソロイシンに相当するアミノ酸残基がバリンに置換
(53)配列番号1の69番目のアラニンに相当するアミノ酸残基がロイシンまたはバリンに置換;
(β)配列番号1に記載の配列からなるアミノ酸残基を含み、ただし当該アミノ酸残基において、少なくとも以下の(54)から(64)より選択される1以上のアミノ酸置換を有し、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド
(54)配列番号1の7番目のリジンに相当するアミノ酸残基がグルタミンに置換
(55)配列番号1の13番目のリジンに相当するアミノ酸残基がバリンに置換
(56)配列番号1の29番目のリジンに相当するアミノ酸残基がバリンまたはイソロイシンに置換
(57)配列番号1の6番目のプロリンに相当するアミノ酸残基がアラニンに置換
(58)配列番号1の8番目のグルタミン酸に相当するアミノ酸残基がアルギニンに置換
(59)配列番号1の15番目のアスパラギンに相当するアミノ酸残基がバリンに置換
(60)配列番号1の23番目のイソロイシンに相当するアミノ酸残基がフェニルアラニ
ンまたはロイシンに置換
(61)配列番号1の34番目のグルタミン酸に相当するアミノ酸残基がアスパラギン酸、フェニルアラニン、ロイシンおよびバリンのいずれかに置換
(62)配列番号1の38番目のリジンに相当するアミノ酸残基がロイシンに置換
(63)配列番号1の50番目のアスパラギンに相当するアミノ酸残基がメチオニンに置換
(64)配列番号1の53番目のチロシンに相当するアミノ酸残基がセリンに置換;
(γ)配列番号1に記載の配列からなるアミノ酸残基を含み、ただし当該アミノ酸残基において、少なくとも前記(1)から(64)より選択される1以上のアミノ酸置換を有し、さらに前記アミノ酸置換以外の1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および/または付加を含み、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド、
(δ)配列番号1に記載の配列からなるアミノ酸残基を含み、ただし当該アミノ酸残基において、少なくとも前記(1)から(64)より選択される1以上のアミノ酸置換を有するアミノ酸配列全体に対して70%以上の相同性を有し、前記アミノ酸置換のうち少なくとも1つが残存した配列からなるアミノ酸残基を含み、かつ抗体結合活性を有するポリペプチド。
【0027】
本明細書において、特定のアミノ酸配列における「配列番号1のX番目のアミノ酸に相当するアミノ酸残基」とは、当該特定のアミノ酸配列におけるアミノ酸残基であって、当該特定のアミノ酸配列と配列番号1のアミノ酸配列とのアライメント(alignment)において配列番号1に示すアミノ酸配列におけるX番目のアミノ酸と同一の位置に配列されるアミノ酸残基を意味する。なお、配列番号1に記載のアミノ酸配列における「配列番号1のX番目のアミノ酸に相当するアミノ酸残基」とは、配列番号1に記載のアミノ酸配列におけるX番目のアミノ酸そのものを意味する。すなわち、上記例示したアミノ酸置換(すなわち前記特定位置におけるアミノ酸置換および任意で他のアミノ酸置換)の位置は、必ずしもFpLの抗体結合ドメインにおける絶対的な位置を示すものではなく、配列番号1に記載のアミノ酸配列に基づく相対的な位置を示すものである。すなわち、例えば、前記ドメインが、上記例示したアミノ酸置換の位置よりもN末端側にアミノ酸残基の挿入、欠失、または付加を含む場合、それに応じて当該アミノ酸置換の絶対的な位置は変動し得る。前記ドメインにおける前記例示したアミノ酸置換の位置は、例えば、当該ドメインのアミノ酸配列と配列番号1に記載のアミノ酸配列とのアライメントで特定できる。前記アライメントは、例えば、前述したアライメントプログラムを利用して実施できる。配列番号1に記載のアミノ酸配列のバリアント配列等の任意のアミノ酸配列における前記例示したアミノ酸置換の位置についても同様である。
【0028】
前記(α)において、アミノ酸置換数に限定はなく、前記(1)から(53)に記載のアミノ酸置換から選択される1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個または9個のアミノ酸置換を有してよいし、10個以上のアミノ酸置換を有してもよい。また前記(β)におけるアミノ酸置換数も限定はなく、前記(54)から(64)に記載のアミノ酸置換から選択される1個または2個のアミノ酸置換を有してよいし、3個以上のアミノ酸置換を有してもよい。
【0029】
前記(γ)における「さらに前記アミノ酸置換以外の1もしくは数個のアミノ酸残基の置換」の一例としては、物理的性質および/または化学的性質が類似したアミノ酸間で置換が生じる保守的置換が挙げられる。保守的置換の場合、一般に、置換が生じているものと置換が生じていないものとの間でタンパク質の機能が維持されることが当業者において知られている。保守的置換の一例としては、グリシンとアラニン間、セリンとプロリン間、またはグルタミン酸とアラニン間での置換があげられる(タンパク質の構造と機能,メディカル・サイエンス・インターナショナル社,9,2005)。また前記(γ)における「さらに前記アミノ酸置換以外の1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加」には、例えば、タンパク質またはそれをコードする遺伝子が由来する微生物の個体差や種の違いに基づく場合などの天然に生じる変異(ミュータント(mutant)またはバリアント)によって生じるものも含まれる。
【0030】
前記(δ)における「相同性」は、前述した前記(d)における「相同性」と同義である。
【0031】
本発明で用いるFpLの抗体結合ドメインは、前記(a)から(d)のいずれかの態様からなるポリペプチドの単量体を用いてもよく、これら単量体を2以上連結した多量体を用いてもよい。前記多量体を用いる場合、前記単量体同士を直結してもよく、リンカーペプチドを介して連結させてもよい。また前記単量体が改変体(前記(c)および(d)の態様)の場合、当該単量体のアミノ酸配列は同一であってもよく、そうでなくてもよい。
【0032】
本発明で用いるFpLの抗体結合ドメインは、例えば、そのN末端側またはC末端側に、目的物を特異的に検出または分離する目的で有用なオリゴペプチドを含んでいてもよい。そのようなオリゴペプチドとしては、ポリヒスチジンやポリアルギニンが挙げられる。また前記ドメインは、例えば、そのN末端側またはC末端側に、本発明のタンパク質をクロマトグラフィー用の支持体等の固相に固定化する際に有用なオリゴペプチドを含んでいてもよい。そのようなオリゴペプチドとしては、リジン残基やシステイン残基を含むオリゴペプチドが挙げられる。
【0033】
本発明で用いる抗体結合性タンパク質は、例えば、共有結合により不溶性担体に固定化することで、本発明で用いる抗体吸着剤を作製できる。具体例として、不溶性担体が有する活性基を介して、前記タンパク質と不溶性担体とを共有結合させ、不溶性担体に前記タンパク質を固定化させることで、本発明で用いる抗体吸着剤を作製できる。すなわち、前記不溶性担体は、その表面などに活性基を有していてよい。前記活性基の一例として、N-ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)活性化エステル基、エポキシ基、カルボキシ基、マレイミド基、ハロアセチル基、トレシル基、ホルミル基、ハロアセトアミドが挙げられる。活性基を有する不溶性担体としては、例えば、活性基を有する市販の不溶性担体をそのまま用いてもよいし、不溶性担体に活性基を導入して用いてもよい。活性基を有する市販の担体としては、TOYOPEARL AF-Epoxy-650M、TOYOPEARL AF-Tresyl-650M、TOYOPEARL AF-Formyl-650M(いずれも東ソー社製)、HiTrap NHS-activated HP Columns、NHS-activated Sepharose 4 Fast Flow、Epoxy-activated Sepharose 6B(いずれもサイティバ社製)、SulfoLink Coupling Resin(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)が例示できる。
【0034】
担体表面に活性基を導入する方法としては、担体表面に存在するヒドロキシ基、エポキシ基、カルボキシ基、アミノ基等に対して2個以上の活性部位を有する化合物の一方を反応させる方法が例示できる。
【0035】
担体表面に存在するヒドロキシ基やアミノ基にエポキシ基を導入する化合物としては、エピクロロヒドリン、エタンジオールジグリシジルエーテル、ブタンジオールジグリシジルエーテル、ヘキサンジオールジグリシジルエーテルを例示できる。
【0036】
また、担体表面に存在するエポキシ基にカルボキシ基を導入する化合物としては、2-メルカプト酢酸、3-メルカプトプロピオン酸、4-メルカプト酪酸、6-メルカプト酪酸、グリシン、3-アミノプロピオン酸、4-アミノ酪酸、6-アミノヘキサン酸を例示できる。
【0037】
また、担体表面に存在するヒドロキシ基、エポキシ基、カルボキシ基、またはアミノ基にマレイミド基を導入する化合物としては、N-(ε-マレイミドカプロン酸)ヒドラジド、N-(ε-マレイミドプロピオン酸)ヒドラジド、4-(4-N-マレイミドフェニル)酢酸ヒドラジド、2-アミノマレイミド、3-アミノマレイミド、4-アミノマレイミド、6-アミノマレイミド、1-(4-アミノフェニル)マレイミド、1-(3-アミノフェニル)マレイミド、4-(マレイミド)フェニルイソシアナート、2-マレイミド酢酸、3-マレイミドプロピオン酸、4-マレイミド酪酸、6-マレイミドヘキサン酸、N-(α-マレイミドアセトキシ)スクシンイミドエステル、(m-マレイミドベンゾイル)N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、スクシンイミジル-4-(マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボニル-(6-アミノヘキサン酸)、スクシンイミジル-4-(マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボン酸、(p-マレイミドベンゾイル)N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、(m-マレイミドベンゾイル)N-ヒドロキシスクシンイミドエステルを例示できる。
【0038】
また、担体表面に存在するヒドロキシ基やアミノ基にハロアセチル基を導入する化合物としては、クロロ酢酸、ブロモ酢酸、ヨード酢酸、クロロ酢酸クロリド、ブロモ酢酸クロリド、ブロモ酢酸ブロミド、クロロ酢酸無水物、ブロモ酢酸無水物、ヨード酢酸無水物、2-(ヨードアセトアミド)酢酸-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、3-(ブロモアセトアミド)プロピオン酸-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、4-(ヨードアセチル)アミノ安息香酸-N-ヒドロキシスクシンイミドエステルを例示できる。
【0039】
また、担体表面に活性基を導入する方法としては、担体表面に存在するヒドロキシ基やアミノ基にω-アルケニルアルカングリシジルエーテルを反応させた後、ハロゲン化剤でω-アルケニル部位をハロゲン化することで活性化する方法も例示できる。ω-アルケニルアルカングリシジルエーテルとしては、アリルグリシジルエーテル、3-ブテニルグリシジルエーテル、4-ペンテニルグリシジルエーテルを例示できる。ハロゲン化剤としては、N-クロロスクシンイミド、N-ブロモスクシンイミド、N-ヨードスクシンイミドを例示できる。
【0040】
また、担体表面に活性基を導入する方法としては、担体表面に存在するカルボキシ基に対して縮合剤と添加剤を用いて活性基を導入する方法も例示できる。縮合剤としては、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)、ジシクロヘキシルカルボジアミド、カルボニルジイミダゾールを例示できる。添加剤としては、N-ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)、4-ニトロフェノール、1-ヒドロキシベンズトリアゾールを例示できる。
【0041】
本発明で用いる抗体結合性タンパク質の不溶性担体への固定化は、例えば、緩衝液中で実施できる。緩衝液としては、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、MES(2-Morpholinoethanesulfonic acid)緩衝液、HEPES(4-(2-Hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid)緩衝液、トリス緩衝液、ホウ酸緩衝液を例示できる。固定化させるときの反応温度は、例えば、活性基の反応性や本発明のタンパク質の安定性等の諸条件に応じて適宜設定できる。固定化させるときの反応温度は、例えば、5℃以上50℃以下であってよく、好ましくは10℃以上35℃以下である。
【0042】
本発明は、
<A>前述した方法で作製した抗体吸着剤に抗体を含む溶液を添加し、当該抗体を前記吸着剤に吸着させる工程(以下、単に「吸着工程」とも表記する)と、
<B>抗体を吸着した前記吸着剤を洗浄液で洗浄する工程(以下、単に「洗浄工程」とも表記する)と、
<C>洗浄後の前記吸着剤に吸着した抗体を溶出させる工程(以下、単に「溶出工程」とも表記する)と、
を含む方法で実施する。なお抗体吸着剤をカラムに充填した態様(以下、「抗体吸着剤カラム」とも表記する)とすると、これら工程を簡便に行なえる点で好ましい。以下、抗体吸着剤カラムを用いた態様を例に、詳細に説明する。
【0043】
<A>吸着工程
本工程で抗体吸着剤カラムに添加する、抗体を含む溶液としては、精製対象である抗体の他に、除去対象である、当該抗体の発現に用いた宿主細胞や、当該宿主細胞由来タンパク質(Host Cell Protein、HCP)などが含まれる。宿主細胞としては、哺乳動物細胞または細菌細胞を例示でき、哺乳動物細胞としては、例えば、HEK(Human Embryonic Kidney)細胞、HeLa細胞、Jurkat細胞、CHO(Chinese Hamster Ovary)細胞、NSO細胞、Sp2/0細胞、COS細胞、K562細胞、BHK細胞、PER.C6細胞が挙げられ、細菌細胞としては、例えば、大腸菌W3110株、大腸菌BL21株が挙げられる。
【0044】
抗体を含む溶液の抗体吸着剤カラムへの添加は、例えば、ポンプ等の送液手段を用いて実施できる。なお本明細書では、液体をカラムに添加することを、「液体をカラムに送液する」または「液体をカラムにアプライする」ともいう。なお抗体を含む溶液は、予め抗体吸着剤カラムに添加する前に適切な緩衝液を用いて溶媒置換してよい。また、抗体を含む溶液を抗体吸着剤カラムに添加する前(すなわち吸着工程前)に、適切な緩衝液(平衡化液)を用いて抗体吸着剤カラムを平衡化してよい。前記平衡化により、例えば、抗体をより高純度に精製できると期待される。溶媒置換や平衡化に用いる緩衝液としては、中性領域(本明細書ではpH4.0以上pH9.0以下の領域を指す)で緩衝能を有する、グリシン緩衝液、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、コハク酸緩衝液、クエン酸緩衝液、トリス緩衝液、HEPES緩衝液、MES緩衝液が例示できる。そのような緩衝液には、例えば、さらに、10mmol/L以上500mmol/L以下の塩化ナトリウム等の無機塩を添加してもよい。溶媒置換に用いる緩衝液と平衡化液は、同一であってもよく、同一でなくてもよい。
【0045】
<B>洗浄工程
本工程は、前記<A>の工程で溶液中に含まれる抗体を吸着した抗体吸着剤カラムに洗浄液を送液し、前記抗体吸着剤を洗浄する工程である。本工程により、抗体吸着剤カラムに残存していた、不溶性担体に吸着していない抗体や、HCPなど抗体以外の夾雑物質を除去できる。本発明は、前記洗浄液に、3.0%(v/v)以上30%(v/v)以下の2-プロパノールおよび2.0mol/L以上3.5mol/L以下の尿素の少なくとも一方を含むことを特徴としている。当該洗浄液で抗体吸着剤を洗浄することで、当該吸着剤に非特異吸着したHCPを抗体収量を維持しながら効率的に除去でき、回収した抗体へのHCPの混入を低減できる。なお洗浄液は緩衝液とするとよく、さらに緩衝液のpHをpH4.0以上pH6.0以下にするとより好ましい。
【0046】
<C>溶出工程
本工程は、前記<B>の工程後の抗体吸着剤カラムに溶出液を送液することで、当該吸着剤に吸着した抗体を溶出させる工程である。溶出液の送液形式は、グラジエント(gradient)であってもよく、イソクラティック(isocratic)であってもよいが、グラジエントで溶出させたほうが分離性能の点でより好ましい。グラジエントは、二以上の段階に分けて(ステップワイズ(stepwise)に変化させてもよく(ステップグラジエント)、直線的(リニア、linear)な勾配をつけて変化させてもよい(リニアグラジエント)。グラジエント溶出の例として、pHを前述した中性領域から酸性領域(前述した中性領域よりも酸性側の領域)に下げるグラジエントがあげられる。開始時の溶出液のpHは前述した中性領域すなわちpH4.0以上9.0以下であればよく、pH4.5以上pH8.0以下であれば好ましい。グラジエント後の溶出液のpHである酸性領域はpH3.5以下であればよく、pH2.0以上pH2.8以下が好ましい。流速の下限は特に制限はなく、上限は抗体吸着剤で使用している不溶性担体の背圧に依存する。グラジエントの時間は、吸着した抗体が適切に溶出できればよい。
【実施例0047】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は当該例に限定されるものではない。
【0048】
実施例1 抗体結合性タンパク質を固定化した不溶性担体(抗体吸着剤)の作製
(1)表面に活性基としてホルミル基を有したポリメタクリレートゲル(東ソー社製、トヨパール)を不溶性担体として用い、当該担体のスラリーをグラスフィルター上で吸引ろ過後、そのまま吸引乾燥することでサクションドライゲルを調製した。
【0049】
(2)(1)で調製したサクションドライゲルを用いて、以下の方法で含水率と嵩密度を算出した。まず加熱乾燥式水分計を用いて、サクションドライゲル1gあたりの含水率を測定し、それをもとにサクションドライゲルから水分を除いたドライゲル重量(g)を算出した。そして1gサクションドライゲルを水スラリーとして調製し、メスシリンダーに移して静置することで沈降ゲル体積(mL)を測った。先ほど算出したドライゲル重量を沈降ゲルで除することで嵩密度(g/mL)を計算した。
【0050】
(3)(2)での計算結果をもとに、不溶性担体の容量が2mLになるように(1)で調製したサクションドライゲルを三角フラスコに測り取った。そこに、抗体結合性タンパク質(Finegoldia magna由来Protein L(以下、「FpL」とも表記)の抗体結合ドメインC3(配列番号1)のアミノ酸置換体(改変体))溶液、200mmol/Lのホウ酸緩衝液、および4mol/Lの塩化ナトリウム水溶液をそれぞれ適量添加後、25℃で4時間振とう反応させることで、不溶性担体と抗体結合性タンパク質とをシッフ塩基(Schiff base)形成により結合させた。
【0051】
(4)(3)の反応終了後、1.1mol/Lジメチルアミンボラン水溶液を適量加え、25℃で2時間振とうすることで、残存シッフ塩基を還元した。
【0052】
(5)(4)の反応終了後、3.6mol/Lの2-アミノエタノール水溶液を適量加え、不溶性担体に残存するホルミル基をブロッキングすることで、抗体吸着剤を得た。
【0053】
実施例2 洗浄液への添加剤検討
(1)実施例1で得られた抗体吸着剤をロボカラム(レプリジェン社製)に200μLずつ充填することで、抗体吸着剤カラムを作製した。
【0054】
(2)(1)で作製した抗体吸着剤カラムを自動分注システムFreedom Evo(テカン社製)に備えた後、0.1mol/Lリン酸ナトリウム(pH7.5)を流速2.2μL/sで3カラムボリューム(以下、「CV」と略す)送液することで、前記カラムを平衡化した。
【0055】
(3)(2)で平衡化したカラムに、抗体を発現可能なCHO細胞の培養上清を、流速1.1μL/sで20CVアプライした。
【0056】
(4)(3)と同じ流速で0.1mol/Lリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)を10CV送液後、洗浄液として、下記条件に示すいずれかの添加剤を含む0.1mol/Lリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)を、(3)と同じ流速で5CV送液することで抗体吸着剤カラムを洗浄した。
【0057】
条件1:添加剤なし
条件2:1.0mol/L塩化ナトリウム
条件3:20%(v/v)2-プロパノール
条件4:3.0mol/L尿素
条件5:1.0mol/Lアルギニン塩酸塩
条件6:1.0%(w/v)Tween 20(商品名)
(5)(4)の洗浄を行なったカラムに、溶出液として、20mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH2.8)を、(3)と同じ流速で5CV送液することで、抗体吸着剤に吸着していた抗体を溶出させ、精製抗体を含む画分を2.0mLチューブに回収した。
【0058】
(6)精製抗体を含む画分を回収したチューブの重量を測定し、そこから予め測定した空チューブの重量を減ずることで前記画分の重量(mg)を算出後、溶液密度を1.0(mg/mL)と仮定し、前記画分の液量(mL)を算出した。
【0059】
(7)(5)で回収した精製抗体を含む画分の280nmにおける吸光度を分光光度計により測定し、当該画分に含まれる抗体濃度(mg/mL)を定量後、(6)で算出した前記画分の液量(mL)を乗ずることで抗体量(mg)を算出した。
【0060】
(8)(5)で回収した精製抗体を含む画分をD-PBS(Dulbecco’s Phosphate Buffered Saline)(富士フイルム和光純薬社製)で1000倍希釈後、CHO HCP ELISA kit,3G(シグナス社製)を用いて、HCP濃度(ng/mL)を定量した。(7)で定量した抗体濃度で除することで、HCP量(ng/mg)を算出した。
【0061】
結果を表1に示す。なお抗体量は以降の実施例も含め、添加剤なしの条件(条件1)で算出した抗体量(mg)を100%とした、抗体回収率で示している。添加剤として、1mol/L塩化ナトリウム(条件2)、20%(v/v)2-プロパノール(条件3)および3.0mol/Lの尿素(条件4)のいずれかを用いたときに、添加剤なし(条件1)と比較し、HCP量が有意に減少していることがわかる。特に、添加剤として、20%(v/v)2-プロパノール(条件3)または3.0mol/Lの尿素(条件4)を用いたときは、抗体回収率を維持(条件1で回収した抗体量に対して90%以上の抗体量)しながら、HCP量を優位に減少できることがわかる。
【0062】
【0063】
実施例3 添加剤の最適濃度の検討
実施例1で、洗浄液に少なくとも2-プロパノールまたは尿素を添加剤として含ませると、抗体回収率の維持およびHCP量の減少の両方を満たす点で好ましいことがわかった。そこでこれら添加剤の最適濃度を検討した。具体的には、洗浄液として、下記条件に示すいずれかの添加剤を含む0.1mol/Lリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)を用いた他は、実施例2と同様な方法で、HCP量および抗体量(抗体回収率)を算出した。
【0064】
条件1:添加剤なし
条件7:0.50mol/L尿素
条件8:1.0mol/L尿素
条件4:3.0mol/L尿素
条件9:5.0%(v/v)2-プロパノール
条件10:10%(v/v)2-プロパノール
条件3:20%(v/v)2-プロパノール
結果を表2に示す。条件3(20%(v/v)2-プロパノール)および条件4(3.0mol/L尿素)のほかに、条件9(5.0%(v/v)2-プロパノール)および条件10(10%(v/v)2-プロパノール)でも、抗体回収率を維持しつつ、HCP量が優位に減少した。以上の結果から、洗浄液に、3.0%(v/v)以上30%(v/v)以下の2-プロパノールまたは/および2.0mol/L以上3.5mol/L以下の尿素を含ませることで抗体回収率を維持しながら、HCP量を優位に減少できることがわかる。
【0065】
【0066】
実施例4 洗浄液pHの検討(添加剤:尿素)
洗浄液に尿素を添加したときの、当該洗浄液の最適pHを検討した。具体的には、洗浄液として、下記条件に示す緩衝液および添加剤を用いた他は、実施例2と同様な方法で、HCP量および抗体量(抗体回収率)を算出した。
【0067】
[緩衝液]0.1mol/Lリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)(条件1または条件4)、25mmol/L Tris-塩酸緩衝液(pH9.0)(条件11および条件12)および0.1mol/Lクエン酸緩衝液(pH5.0)(条件13および条件14)のいずれか
[添加剤]3.0mol/L尿素(条件4、条件12および条件14)、または添加剤なし(条件1、条件11および条件13)
結果を表3に示す。洗浄剤に尿素を添加することで、洗浄液のpHにかかわらず、抗体回収率を維持しつつ、HCP量は優位に減少した(条件4、条件12、条件14)。特にpH5.0のときの、回収した精製抗体を含む画分に含まれるHCP量は最少となった(条件14)。
【0068】
【0069】
実施例5 洗浄液pHの検討(添加剤:2-プロパノール)
洗浄液に2-プロパノールを添加したときの、当該洗浄液の最適pHを検討した。具体的には、洗浄液として、下記条件に示す緩衝液および添加剤を用いた他は、実施例2と同様な方法で、HCP量および抗体量(抗体回収率)を算出した。
【0070】
[緩衝液]0.1mol/Lリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)(条件1または条件3)、25mmol/L Tris-塩酸緩衝液(pH9.0)(条件11および条件15)および0.1mol/Lクエン酸緩衝液(pH5.0)(条件13および条件16)のいずれか
[添加剤]20%(v/v)2-プロパノール(条件3、条件15および条件16)、または添加剤なし(条件1、条件11および条件13)
結果を表4に示す。洗浄剤に尿素を添加したとき(実施例4)と同様、洗浄液のpHにかかわらず、抗体回収率を維持しつつ、HCP量は優位に減少した(条件3、条件15、条件16)。特にpH5.0のときの、回収した精製抗体を含む画分に含まれるHCP量は最少となった(条件16)。非特許文献2に、Protein Aをリガンドとしたカラムは、pHが低い(pH4.4)洗浄液を用いると、HCP量の減少に伴い、抗体回収率が減少してしまう結果が記載されていた。Protein AとProtein Lはいずれも抗体結合性タンパク質であるが、抗体回収率を維持しつつ、HCPを除去するのに適した洗浄条件が全く異なることについて、非特許文献2には記載も示唆もなく、本発明で新規に発見した。
【0071】
【0072】
本実施例および実施例4の結果をまとめると、洗浄液に、3.0%(v/v)以上30%(v/v)以下の2-プロパノールおよび2.0mol/L以上3.5mol/L以下の尿素の少なくとも一方を含んでいれば、抗体回収率を維持しながら、HCPを優位に除去できることがわかる。特に洗浄液のpH4.0以上pH6.0以下に調整すると、HCPをさらに除去できることがわかる。