(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141338
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】コンクリーションの製造方法
(51)【国際特許分類】
B28B 11/24 20060101AFI20241003BHJP
C04B 14/26 20060101ALI20241003BHJP
C04B 14/28 20060101ALI20241003BHJP
C04B 18/165 20230101ALI20241003BHJP
【FI】
B28B11/24
C04B14/26
C04B14/28
C04B18/165
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052925
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182914
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 善紀
(72)【発明者】
【氏名】桐山 宏和
【テーマコード(参考)】
4G055
【Fターム(参考)】
4G055AA01
4G055BA02
4G055BA06
4G055BA09
(57)【要約】
【課題】カルシウムイオンを含む溶液と、炭酸イオン及び炭酸水素イオンを含む溶液とを用いた、コンクリーションの製造方法を提供すること。
【解決手段】本開示は、コンクリーションの製造方法であって、筒体と、筒体の下端側の開口を閉塞し、カルシウムイオンを含む第一の溶液が浸透可能な閉塞部材と、を備える容器に、骨材を含む粉体を充填し、粉体層を形成する工程と、容器を、筒体の下端側から第一の溶液に挿入することによって、閉塞部材を介して第一の溶液を容器の内部に導入し、粉体層を第一の溶液に浸漬する工程と、筒体の上端側の開口から、炭酸イオン及び炭酸水素イオンを含む第二の溶液を、容器の内部に注入し、粉体層の内部に固体を析出させる工程と、を備え、第二の溶液のpHが8.30超である、製造方法を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリーションの製造方法であって、
筒体と、前記筒体の下端側の開口を閉塞し、カルシウムイオンを含む第一の溶液が浸透可能な閉塞部材と、を備える容器に、骨材を含む粉体を充填し、粉体層を形成する工程と、
前記容器を、前記筒体の下端側から前記第一の溶液に挿入することによって、前記閉塞部材を介して前記第一の溶液を前記容器の内部に導入し、前記粉体層を前記第一の溶液に浸漬する工程と、
前記筒体の上端側の開口から、炭酸イオン及び炭酸水素イオンを含む第二の溶液を、前記容器の内部に注入し、前記粉体層の内部に固体を析出させる工程と、を備え、
前記第二の溶液のpHが8.30超である、製造方法。
【請求項2】
前記第一の溶液におけるカルシウムイオンの濃度が0.9mol/L以上である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記第二の溶液における前記炭酸イオン及び前記炭酸水素イオンの合計濃度が1.0mol/L以上である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
骨材を含む原料粉末に対して中和処理することによって、前記粉体を得る工程をさらに含む、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記骨材の粗粒率は、2.00以下である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項6】
前記第二の溶液は、水を含む溶媒に、セメント工場の排ガスから回収された二酸化炭素を添加することを含む方法によって作製される、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項7】
海水から第一の溶液を作製する工程をさらに含む、請求項1又は2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コンクリーションの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント製品の製造においては、燃料の燃焼におけるCO2発生、原料の脱炭酸等によるCO2発生など、CO2の発生量が多く、地球温暖化対策の観点から二酸化炭素排出量削減の要求が高まっている。
【0003】
砂等の粒子間に炭酸カルシウムが析出することによって凝結し、炭酸コンクリーション等の硬化体が形成されることが自然界においても観測されている。コンクリーションの形成の際にはCO2が消費されることから、コンクリーションの生成プロセスを応用して工業的に利用可能な硬化体を製造することができれば、既存のセメント製品の代替として利用することで環境負荷を低減できると考えらえれる。人工的にコンクリーションを製造する方法の検討が進められている。
【0004】
例えば、特許文献1には、(I’)少なくとも水を含む液にCa源及び/又はMg源を含有する粒子を添加する工程;(II)工程(I’)で得られた液に、CO2を溶解させる工程;を有することにより、Ca(HCO3)2及び/又はMg(HCO3)2を含む液を得、(III)骨材を所定の形状とする工程;(IV)工程(III)で得られた所定の形状に、前記Ca(HCO3)2及び/又はMg(HCO3)2を含む液を添加する工程;及び(V)工程(IV)で得られた所定の形状内の環境を変化させる工程;を有することにより硬化体を得る、硬化体の製造方法であって、該硬化体は、前記骨材;及び前記骨材間に存在する物質;を有して形成され、前記物質が炭酸塩を含有する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
カルシウムイオン源としては、豊富な天然資源である海水の利用が期待される。海水の利用を想定すると、海水を模したカルシウムイオンを含む溶液と、CO2を溶解させた溶液と、の2液と、を用いるコンクリーションの製造方法の開発が望まれる。また、このような2液を利用してコンクリーションを製造可能であれば、セメント製造等で生じるCO2の利用先として、コンクリーションへの固定が可能であり、有用である。
【0007】
そこで、本開示は、カルシウムイオンを含む溶液と、炭酸イオン及び炭酸水素イオンを含む溶液とを用いた、コンクリーションの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らの検討によって、単に、骨材を含む粉体の周辺で、カルシウムイオンを含む溶液と炭酸イオン及び炭酸水素イオン含む溶液とを混合するだけでは、コンクリーションが生成しないことが明らかとなった。具体的には、固体の析出自体が起こらない場合や、粉体から離れた場所で固体の析出が起こる場合があるといった問題があった。
【0009】
本発明者らは、更に鋭意研究を行った結果、筒体と、該筒体の下端側の開口を閉塞し、カルシウムイオンを含む第一の溶液が浸透可能な閉塞部材と、を備える容器を用いて、まず、骨材を含む粉体を容器に充填して粉体層を形成した後、容器の下側から、カルシウムイオンを含む第一の溶液を容器内部に導入して粉体層を第一の溶液に浸漬し、次いで、容器の上側から所定のpHを有する炭酸イオン及び炭酸水素イオンを含む溶液を注入することによって、粉体層の内部に固体が析出し、コンクリーションを製造できることを見出した。
【0010】
本発明は、いくつかの側面において、下記の[1]~[7]を提供する。
[1]
コンクリーションの製造方法であって、
筒体と、筒体の下端側の開口を閉塞し、カルシウムイオンを含む第一の溶液が浸透可能な閉塞部材と、を備える容器に、骨材を含む粉体を充填し、粉体層を形成する工程と、
容器を、筒体の下端側から第一の溶液に挿入することによって、閉塞部材を介して第一の溶液を容器の内部に導入し、粉体層を第一の溶液に浸漬する工程と、
筒体の上端側の開口から、炭酸イオン及び炭酸水素イオンを含む第二の溶液を、容器の内部に注入し、粉体層の内部に固体を析出させる工程と、を備え、
第二の溶液のpHが8.30超である、製造方法。
[2]
第一の溶液におけるカルシウムイオンの濃度が0.9mol/L以上である、[1]に記載の製造方法。
[3]
第二の溶液における炭酸イオン及び炭酸水素イオンの合計濃度が1.0mol/L以上である、[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4]
骨材を含む原料粉末に対して中和処理することによって、粉体を得る工程をさらに含む、[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]
骨材の粗粒率は、2.00以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]
第二の溶液は、水を含む溶媒に、セメント工場の排ガスから回収された二酸化炭素を添加することを含む方法によって作製される、[1]~[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7]
海水から第一の溶液を作製する工程をさらに含む、[1]~[6]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、カルシウムイオンを含む溶液と、炭酸イオン及び炭酸水素イオンを含む溶液とを用いた、コンクリーションの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】コンクリーションの製造方法の一実施形態を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態を説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用い、場合によって重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、各要素の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0014】
本明細書において例示する材料は特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、本明細書において、「~」の記号で示される数値範囲は、下限値及び上限値を含む。すなわち、「x~y」で示される数値範囲は、x以上且つy以下を意味する。
【0015】
本開示は、カルシウムイオンを含む第一の溶液と、炭酸イオン及び炭酸水素イオンを含む第二の溶液とを用い、骨材を含む粉体層において、両溶液を接触させることによってコンクリーションを形成することを含む、コンクリーションを製造する方法を提供する。本開示に係る製法では、上記粉体層にカルシウムイオンを含む第一の溶液を先に接触させておくことによって、粉体層内に優先的に炭酸塩等を析出させることを可能とし、所望のコンクリーションを提供することができる。このような効果が得られる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らの検討によれば、上記粉体層に第二の溶液を先に接触させた場合には、コンクリーションが形成されない場合があることから、上記粉体層にカルシウムイオンを先に存在させることにより、第二の溶液中の炭酸イオン及び炭酸水素イオンが粉体層中の溶液中を拡散しながらカルシウムイオンと反応する、又はカルシウムイオンと炭酸イオン等との反応の場を骨材等の表面に偏在化させることができることで、カルシウムイオンと炭酸イオン等との反応で生じる炭酸カルシウムを粉体層内部に優先的に沈殿させることができる、などによって上述のような効果が得られるものと、本発明者らは推測する。
【0016】
コンクリーションの製造方法の一実施形態は、筒体と、筒体の下端側の開口を閉塞し、カルシウムイオンを含む第一の溶液が浸透可能な閉塞部材と、を備える容器に、骨材を含む粉体を充填し、粉体層を形成する工程(以下、「第一の工程」ともいう。)と、容器を、筒体の下端側から第一の溶液に挿入することによって、閉塞部材を介して第一の溶液を容器の内部に導入し、粉体層を第一の溶液に浸漬する工程(以下、「第二の工程」ともいう。)と、筒体の上端側の開口から、炭酸イオン及び炭酸水素イオンを含む第二の溶液を、容器の内部に注入し、粉体層の内部に固体を析出させる工程(以下、「第三の工程」という。)と、を備える。第二の溶液のpHは8.30超である。
【0017】
図1は、コンクリーションの製造方法の一実施形態を説明するための模式断面図である。第一の工程における容器1は、
図1に示されるように、筒体2と、筒体2の下端側の開口を閉塞する閉塞部材(第一の閉塞部材)3と、を備える。
【0018】
筒体2は、容器1の側部として機能する。筒体2は、筒体2の延在方向の両端が開放された筒状となっている。筒体2は、例えば、角筒状、円筒状、又は楕円筒状であってよい。筒体2の形状は、これに限定されず、例えば、製造するコンクリーションの形状に合わせた形状とすることができる。筒体2の延在方向に垂直な断面の形状(筒体2の内壁によってつくられる開口の形状)は、特に限定されるものではないが、例えば、長方形、正方形、及び六角形等の多角形、円形、並びに楕円形等であってよい。上記断面の形状は、コンクリーションを使用する形状(製品形状)とすることもできる。上記断面の形状を製品形状とすることによって、その後の加工等を経ずに使用できることから、CO2発生量の低減により寄与できる。
【0019】
筒体2の延在方向に垂直な断面における開口の面積は、製造されるコンクリーションの用途等に応じて調整可能である。製造されるコンクリーションが骨材や路盤材等の建材に使用される場合には、上記開口の面積は、例えば、1500~4000000mm2、1500~1000000mm2、又は1000000~4000000mm2であってよい。上記開口の面積が上記数値範囲内である筒体を用いて、例えば、厚みが数cm~数十cmの板状のコンクリーションを製造し、当該コンクリーションを破砕することによって骨材等を製造することができる。また、製造されるコンクリーションをそのまま産業用資材等で使用する場合には、上記開口の面積は、例えば、0.09~25m2、0.09~4m2、又は4~25m2であってよい。
【0020】
筒体2の材質は、後述する第一の溶液、第二の溶液、及び粉体を透過しないものであればよく、これによって、粉体層4以外の箇所において第一の溶液及び第二の溶液の接触が生じることを低減し、所望のコンクリーション形成をより十分なものとすることができる。筒体2を構成する素材は、例えば、木材、ガラス、プラスチック(ポリ塩化ビニル等)、又は金属(鋼等)であってよい。
【0021】
閉塞部材3は、粉体が充填される容器1の底部として機能する。つまり、閉塞部材3は、粉体を透過しないものである。一方で、閉塞部材3は、カルシウムイオンを含む第一の溶液が浸透可能なものである。閉塞部材3は、カルシウムイオンを含む第一の溶液を、筒体2の延在方向に沿って透過可能な経路(例えば、孔)を有していてもよい。閉塞部材3が孔を有する場合、孔の最大径は、例えば、3μm以上であってよい。孔の最大径は、粉体に含まれる骨材の最大粒径より小さくてよく、例えば、50μm以下、又は30μm以下であってよい。閉塞部材3は、例えば、紙、発泡体、織布、不織布、網、及びメッシュ等であってよい。閉塞部材3を構成する素材としては、例えば、セルロース等を含む天然繊維、合成樹脂(ポリプロピレン等)及びこれを含む合成繊維、並びに金属が挙げられる。
【0022】
図1において、閉塞部材3は、筒体2の下端側の開口を覆うように配置した例で示したが、筒体2の内部に配置してもよい。
図1ではまた、閉塞部材3を、筒体2の延在方向に対して閉塞部材3の上面が垂直となるように配置した例で示したが、これに限らず、筒体2の延在方向に対して閉塞部材3の上面が傾斜するように配置してもよい。
図1では、閉塞部材3において、筒体2の開口を閉塞する面は平面状に形成されているが、当該面の形状はこれに限定されない。当該面には、製造するコンクリーションの形状に合わせて、凹部、凸部等が設けられていてよい。閉塞部材3は、粉体層4の形状を固定する型部材としても機能してもよい。
【0023】
第一の工程では、容器1に、骨材を含む粉体を充填し、粉体層4を形成する。粉体層4の形成の際には、粉体を構成する粒子間の空隙を小さくする観点から、圧力等を加えてもよい。この場合、上記粉体層4は、圧縮粉体層ということもできる。粉体は、骨材を含む。骨材は、例えば、粗骨材、細骨材等であってよい。骨材、粗骨材及び細骨材は、JIS A 0203:2019によって定義される。
【0024】
骨材の粗粒率は、1.00以上、1.05以上、1.10以上、又は1.15以上であってよい。骨材の粗粒率が上記下限値以上である場合、製造におけるハンドリング性に優れ、コンクリーションをより効率的に生成させることができる。また、骨材の粗粒率は、5.00以下、4.00以下、3.00以下、2.80以下、2.60以下、2.40以下、2.20以下、2.00以下、1.80以下、1.60以下、1.40以下、又は1.20以下であってよい。骨材の粗粒率が上記上限値以下である場合、粉体層4内部の空隙(すなわち、後述する第三の工程において析出させる固体によって埋めるべき空隙)が小さくなるため、コンクリーションをより速く製造することができる。骨材の粗粒率は、例えば、1.00~5.00、又は1.05~3.00であってよい。骨材の粗粒率は、JIS A 1102:2014に準拠して測定される。
【0025】
骨材の最大粒径は、50μm以上、80μm以上、又は100μm以上であってよい。骨材の最大粒径が上記下限値以上である場合、粉体層4内部にコンクリーションの生成に適した空隙を形成しやすくなる。また、骨材の最大粒径は、250mm以下、100mm以下、又は40mm以下であってよい。骨材の最大粒径が上記上限値以下である場合、粉体層4内部の空隙(すなわち、後述する第三の工程において析出させる固体によって埋めるべき空隙)が小さくなるため、コンクリーションをより速く製造することができる。骨材の最大粒径(最大寸法)は、JIS A 1102:2014に準拠して測定される。
【0026】
粗骨材としては、例えば、砂利、砕石、高炉スラグ粗骨材、電気炉酸化スラグ粗骨材、溶融スラグ粗骨材、再生粗骨材などが挙げられる。また、細骨材としては、例えば、珪砂、川砂、陸砂、海砂、砕砂、高炉スラグ細骨材、銅スラグ細骨材、電気炉酸化スラグ細骨材、再生細骨材などが挙げられる。
【0027】
骨材を含む粉体は、骨材のみを含んでいてよく、骨材及び他の材料を含んでいてもよい。他の材料としては、例えば、無機の鉱物、フィラー、コンクリート用混和材(ただし、上記骨材に該当するものを除く)、合成繊維等の有機繊維、産業副産物などが挙げられる。他の材料の含有量は、粉体全量を基準として、例えば10質量%以下、又は1質量%以下であってよい。
【0028】
後述する第三の工程において、粉体層4の内部に固体をより析出させやすくする観点から、粉体は、酸性物質を実質的に含まないことが好ましい。本発明者らの検討によれば、粉体の原料粉末の種類によっては、原料粉末を水に浸漬したときの上澄み液の液性が酸性となる場合がある。このような場合には、原料粉末に対して中和処理することが好ましい。
【0029】
上記製造方法は、骨材を含む原料粉末に対して中和処理することによって、粉体を得る工程をさらに含んでいてもよい。原料粉末に対して中和処理する方法は、原料粉末を、水、海水等の水を含む溶媒に浸漬する工程を含んでいてよい。当該工程では、原料粉末を、水を含む溶媒に浸漬し、上澄み液のpHが7.00以上になるまで放置してもよく、上澄み液のpHが7.00以上になるまで上記溶媒を複数回交換してもよく、又は浸漬した後、酸又はアルカリを用いて上澄み液のpHが7.00以上になるように調整してもよい。原料粉末を、水を含む溶媒に浸漬する時間は、例えば、1時間以上であってよく、1日以内であってよい。上述のような中和処理の後、上記溶媒を含んだ状態で上記粉体として使用することもできるが、好ましくは、上記溶媒の含有量を低減又は除去してから上記粉体として使用する。上記溶媒の含有量を低減又は除去することによって、粉体に対して第一の溶液を接触させた際の、カルシウムイオンの粉体表面への付着がより生じやすく、またより一層均質化させることを期待し得る。
【0030】
図1において、粉体層4は、柱状(角柱状、円柱状等)に形成されているが、粉体層4の形状はこれに限定されない。粉体層4の形状は、製造するコンクリーションの形状と同様の形状となるように調整されていてよい。この際、例えば、粉体層4の上面側の形状を調整する型部材等を使用してもよい。
【0031】
第一の工程では、粉体層4を形成した後、粉体層4上に、筒体2の開口を閉塞する第二の閉塞部材が配置されてもよい。第二の閉塞部材は、例えば、粉体層4の形状を固定する型部材として機能し得る。第二の閉塞部材において、筒体2の開口を閉塞する面は、筒体2の延在方向に対して垂直であってよく、筒体2の延在方向に対して傾斜していてもよい。第二の閉塞部材において、筒体2の開口を閉塞する面は、平面状に形成されていてよい。また、第二の閉塞部材の粉体層4側の面は、製造するコンクリーションの形状に合わせた形状を有してもよく、傾斜面であってよく、凹部、及び凸部等が設けられていてよい。第二の閉塞部材の形状及び素材は、第一の閉塞部材と同一であっても、異なってもよい。第二の閉塞部材の形状及び素材は、第一の閉塞部材について説明した内容を適用できる。
【0032】
第二の工程では、容器1を、筒体2の下端側(第一の閉塞部材3が設けられた側)から第一の溶液5に挿入することによって、閉塞部材3を介して第一の溶液5を容器1の内部に導入し、粉体層4を第一の溶液5に浸漬する。
図1では、第一の溶液5が水槽6内に収容された例で示したが、水槽6は必須ではない。例えば、第一の溶液5として海水を用いる場合、海に対して容器1を挿入することで第二の工程とすることもできる。
【0033】
第三の工程では、筒体2の上端側の開口から、第二の溶液7を、容器1の内部に注入し、粉体層4の内部に固体を析出させる。粉体層4は粉体を充填することで形成される層であるため、その内部には空隙が存在する。第三の工程において、容器1の内部で、第一の溶液5と第二の溶液7とが接触すると、粉体層4の内部の空隙において、第一の溶液5に含まれるカルシウムイオンと、第二の溶液7に含まれる炭酸イオンとの反応が進行し、炭酸カルシウムを含む固体が析出すると考えられる。このように、第三の工程において析出した固体によって、粉体層4の内部の空隙の一部又は全部が埋められることで、コンクリーションが生成する。
【0034】
本発明者らの検討によって、第二の工程における操作と第三の工程における操作とを入れ替えた場合には、すなわち、粉体層を形成した後、第二の溶液を容器内部に注入することによって粉体層を第一の溶液に浸漬し、次いで、容器を、筒体の下端側から第一の溶液に挿入した場合には、炭酸カルシウムを含む固体が粉体層の外部に偏析すること等によって目的とするコンクリーションが得られない場合があることが判明した。そのため、上記製造方法では、第二の工程において、粉体層を第一の溶液に浸漬した後に、第三の工程において、第二の溶液を容器内部に注入することが重要である。
【0035】
第二の工程における操作と第三の工程における操作とを入れ替えた場合にコンクリーションが生成しない一因として、本発明者らは、固体の析出が、第一の溶液5と第二の溶液7との接触界面の下側において生じやすいことを見出した。そのため、意図した形状のコンクリーションを製造しやすくする観点からは、第二の工程において、粉体層4は、粉体層4の最上部まで第一の溶液5に浸漬されることが好ましい。また、第三の工程は、粉体層4の最上部まで第一の溶液5に浸漬された後に実施されることが好ましい。第三の工程において、第二の溶液の注入は、粉体層4の最上部が第一の溶液に浸漬された直後に開始されてよい。
【0036】
第二の工程は、粉体層4の最上部までが第一の溶液5に浸漬されたことを確認することを含んでいてよい。第一の溶液5の液面が粉体層4の最上部に達したことを確認して、第三の工程に移行することで、第一の溶液5及び第二の溶液7の接触によって生じる固体を粉体層の全体に亘って一層均質に析出させることでき、得られるコンクリーションの品質をより向上させることができる。粉体層4の最上部までが第一の溶液5に浸漬されたことを確認する方法としては、例えば、目視、粉体層を掘削すること、水分計を設置すること等が挙げられる。例えば、筒体2の内壁に第一の溶液の液面位置を検出する手段を設けてもよい。
【0037】
また、本発明者らの検討によって、第一の溶液と第二の溶液とを入れ替えた場合にも、すなわち、第二の工程において、粉体層を炭酸イオン及び炭酸水素イオンを含む溶液に浸漬した後に、第三の工程において、カルシウムイオンを含む溶液を容器の内部に注入した場合にも、コンクリーションが生成しないことが判明した。そのため、上記製造方法では、第二の工程においてカルシウムイオンを含む第一の溶液を用い、第三の工程において炭酸イオン及び炭酸水素イオンを含む第二の溶液を用いることが重要である。
【0038】
第二の工程においてカルシウムイオンを含む第一の溶液を用い、第三の工程において炭酸イオン及び炭酸水素イオンを含む第二の溶液を用いることが重要となる理由は定かではないが、一実施形態に係る製造方法では、第二の工程において、粉体層がカルシウムイオンを含む溶液に浸漬されることによって、カルシウムイオンが粉体層4に吸着されるなどして粉体層4の空隙に十分にカルシウムイオンが存在する状態となっていることが考えられる。このため、続く第三の工程において、カルシウムイオンの周囲に炭酸イオン及び炭酸水素イオンが供給されたときに、粉体層4の内部において固体が析出しやすくなっているのだと考えられる。
【0039】
第一の溶液5は、カルシウムイオンを含む。第一の溶液5はCaの供給源であるため、海水を用いる場合のように、連続的にカルシウムイオンの供給ができる場合には、第一の溶液5の濃度は低くてもよい。一方で、製造設備の大きさに制限がある場合等には、カルシウムイオンを十分に供給する観点から、第一の溶液5におけるカルシウムイオンの濃度は、例えば、0.01mol/L以上、0.1mol/L以上、0.7mol/L以上、又は0.9mol/L以上であってよい。第一の溶液5におけるカルシウムイオンの濃度は、過飽和となり、第一の溶液5中に溶質が析出することを防ぐ観点から、例えば、7.0mol/L以下であってよい。第一の溶液5におけるカルシウムイオンの濃度は、0.1~7.0mol/Lであってよい。
【0040】
第一の溶液のpHは、第三の工程において固体をより析出させやすくする観点から、6.50以上、6.80以上、又は6.90以上であってよい。第一の溶液のpHは、コンクリーションを生成し易い条件にする観点から、9.00以下、8.80以下、8.50以下、又は8.00以下であってよい。第一の溶液のpHは、6.50~9.00、又は6.80~8.50であってよい。本明細書において、pHは、pHメーターによって測定される値を意味する。
【0041】
第一の溶液の温度は、0℃以上、又は5℃以上であってよい。また、第一の溶液の温度は、40℃以下、又は30℃以下であってよい。第一の溶液の温度は、例えば、10~40℃であってよい。
【0042】
第一の溶液は、例えば、水を含む溶媒に、カルシウムイオンの発生源となる化合物(カルシウムを構成原子として有する化合物)を溶解することによって作製することができる。カルシウムを構成原子として有する化合物としては、例えば、CaCl2、CaBr2、及びCaI2等のハロゲン化カルシウムが挙げられる。また、第一の溶液として、海水、食塩などの製造時に発生するかん水、生コン工場から発生するスラッジ水や回収水等を用いることもできる。
【0043】
第一の溶液は、また、海水を原料として作製されてもよい。上記製造方法は、海水から第一の溶液を作製する工程をさらに含んでいてもよい。海水から第一の溶液を作製する工程は、例えば、海水から塩化カルシウム等のカルシウムを構成原子として有する化合物を調製し、これを水等の溶媒に溶解させることで第一の溶液を作製する工程、海水からカルシウムイオンを抽出し、これを水等の溶媒に添加することで第一の溶液を作製する工程、又は海水を濃縮してカルシウムイオンの濃度を高めることで第一の溶液を作製する工程等であってよい。
【0044】
第二の溶液は、炭酸イオン及び炭酸水素イオンを含む。第二の溶液における炭酸イオン及び炭酸水素イオンの合計濃度は、第三の工程において固体をより析出させやすくする観点から、0.1mol/L以上、0.3mol/L以上、1.0mol/L以上、1.1mol/L以上、又は1.2mol/L以上であってよい。第二の溶液における炭酸イオン及び炭酸水素イオンの合計濃度は、例えば、1.9mol/L以下であってよい。第二の溶液における炭酸イオン及び炭酸水素イオンの濃度は、0.1~1.9mol/Lであってよい。
【0045】
第二の溶液のpHは、8.30超である。第二の溶液のpHは、第一の溶液のpHより大きくてよい。第二の溶液のpHは、固体をより析出させやすくする観点から、8.50以上、9.00以上、9.00超、9.50以上、10.00以上、11.00以上、11.50以上、又は11.60以上であってよい。第二の溶液中の炭酸イオンの濃度を高めることで、固体をより析出させやすくする観点からは、第二の溶液のpHは、9.00超であってよい。第二の溶液のpHは、安全上の観点から、例えば、14.00以下、13.00以下、又は12.00以下であってよい。第二の溶液のpHは、8.30超14.00以下、又は9.00~13.00であってよい。
【0046】
第二の溶液の温度は、10℃以上、又は20℃以上であってよい。また、第二の溶液の温度は、40℃以下、又は30℃以下であってよい。第二の溶液の温度は、例えば、10~40℃であってよい。
【0047】
第二の溶液は、例えば、水を含む溶媒に、炭酸イオン又は炭酸水素イオンの発生源となる化合物を溶解することによって作製してもよい。炭酸イオンの発生源となる化合物としては、例えば、Na2CO3、及びK2CO3等のアルカリ金属炭酸塩、(NH4)2CO3などが挙げられる。炭酸水素イオンの発生源となる化合物としては、例えば、NaHCO3、及びKHCO3等のアルカリ金属炭酸水素塩、Ca(HCO3)2、NH4HCO3などが挙げられる。
【0048】
第二の溶液は、炭酸イオン又は炭酸水素イオンの発生源となる化合物を用いる方法の他、セメント工場の排ガスに含まれる二酸化炭素を原料として作製されてもよい。この場合、上記製造方法は、セメント工場の排ガスに含まれる二酸化炭素を原料として第二の溶液を作製する工程をさらに含んでいてもよい。
【0049】
セメント工場の排ガスに含まれる二酸化炭素を原料として第二の溶液を作製する方法として、水を含む溶媒に、セメント工場の排ガスから回収された二酸化炭素を添加することを含む方法が挙げられる。セメント工場の排ガスから二酸化炭素を回収する方法としては、例えば、セメント工場の排ガスから二酸化炭素ガスを液化炭酸ガスとして回収し、当該液化炭酸ガスを、水を含む溶媒に添加する方法、及び二酸化炭素吸着材に、セメント工場の排ガスに含まれる二酸化炭素を吸着させた後、当該二酸化炭素を脱離させ、水を含む溶媒に添加する方法等が挙げられる。二酸化炭素吸着材としては、例えば、アミン化合物を用いることができる。
【0050】
第二の工程は、0~40℃、又は10~30℃の温度下で実施されてよい。また、第二の工程は、大気圧下で実施されてよい。第三の工程は、10~40℃、又は20~30℃の温度下で実施されてよい。また、第三の工程は、大気圧下で実施されてよい。
【0051】
第三の工程は、筒体2の内圧を制御することを含んでいてよい。筒体2の内圧の制御は、例えば、筒体2の内圧を上昇させることであってよい。第三の工程において、粉体層4の上部の空隙で固体の析出が進行した場合、第二の溶液の下降が妨げられ、粉体層4の下部における空隙に炭酸イオン及び炭酸水素イオンが供給され難くなる。このような場合、筒体2の内圧を上昇させることによって、粉体層4の下部における空隙にまで炭酸イオン及び炭酸水素イオンを供給することが可能となり得る。
【実施例0052】
以下、実施例及び比較例を参照して本開示の内容をより詳細に説明する。ただし、本開示は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0053】
[粉体の作製]
原料粉末(日瓢鉱業株式会社製、商品名「硅砂 N60」、粗粒率1.06、最大粒径0.3mm)に対し、原料粉末が完全に浸かる量の水を添加した。上澄み液のpHが7.00以上になったことを確認した後、濾別によって粉体を得た。
【0054】
[コンクリーションの製造]
<実施例1-1及び1-2>
以下の実験を、大気圧下、20℃の温度下で実施した。まず、筒体(縦5cm×横5cm×高さ25cm、素材:ポリ塩化ビニル)を準備した。次いで、当該筒体の下端側の開口を、濾紙(東邦セパレータ株式会社製、商品名「濾過#6008」、孔サイズ:8~10μm、素材:ポリプロピレン)で覆い、エポキシ接着剤を用いて濾紙を筒体に固定することによって、容器を作製した。この容器に、上記中和処理によって得られた粉体を充填し、粉体層(縦4.0cm×横4.0cm×高さ4.0cm)を形成した。また、その後、容器を、容量5Lの手付きビーカーに収容した第一の溶液(CaCl2水溶液、カルシウムイオンの濃度:1.0mol/L、温度:20℃)に挿入することによって、濾紙を介して第一の溶液を容器内部に導入し、粉体層を第一の溶液に浸漬した。粉体層の全てが第一の溶液に浸漬された直後に、容器の上端側の開口から、第二の溶液(Na2CO3水溶液、炭酸イオン及び炭酸水素イオンの合計濃度:1.7mol/L、温度:20℃)を容器の内部に注入した。この直後に、第一の溶液及び第二の溶液にpHメーター(METTLER TOLEDO株式会社製、商品名「pHメーター FiveEasy F20」)を挿入し、pHを測定した。第二の溶液の注入から7日経過後、容器を引き上げ、コンクリーションの生成状況を評価した。具体的には、容器を解体し、指触によって粉体層が固まっているかを確認し、固まっている場合には、更に、当該層を水に浸漬し、崩れないかを確認した。以下の基準で評価を行い、A又はBの場合はコンクリーションが生成したと判断した。結果を表1に示す。
A:粉体層が固まっており、水に浸漬しても崩れない。
B:粉体層が固まっているものの、水に浸漬すると一部崩れる。
C:粉体層が固まっているものの、水に浸漬すると全て崩れる。
D:粉体層が固まっていない。
【0055】
<実施例2-1及び2-2>
第二の溶液(Na2CO3水溶液)の濃度を変更した以外は上記実施例1-1及び1-2と同様の実験を行った。結果を表1に示す。
【0056】
<比較例1-1及び1-2>
第一の溶液及び第二の溶液を入れ替えることによって、粉体層を先に第二の溶液に接触させるように変更した以外は上記実施例1-1及び1-2と同様の実験を行った。結果を表1に示す。
【0057】
【0058】
表1に示すとおり、実施例1-1及び実施例1-2、並びに実施例2-1及び実施例2-2では、コンクリーションを製造することができた。一方で、第一の溶液と第二の溶液とを入れ替えた比較例1-1及び比較例1-2では、コンクリーションが生成しなかった。以上の結果から、コンクリーションを製造するためには、第一の溶液としてカルシウムイオンを含む溶液を用い、かつ、第二の溶液として炭酸イオン及び炭酸水素イオンを含む溶液を用いる必要があることが分かった。実施例1-2では、縦約1cm×横約1cm×高さ約1cmのコンクリーションが生成していたのに対して、実施例1-1では、縦4cm×横4cm×高さ約1.5cmのコンクリーションが生成しており、より望ましい結果であった。