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特開2024-14136水素化触媒ならびにこれを用いたフロー式有機合成システム及び水素化有機化合物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014136
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】水素化触媒ならびにこれを用いたフロー式有機合成システム及び水素化有機化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/44 20060101AFI20240125BHJP
   B01J 33/00 20060101ALI20240125BHJP
   C07C 211/52 20060101ALI20240125BHJP
   C07C 209/36 20060101ALI20240125BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240125BHJP
【FI】
B01J23/44 Z
B01J33/00 Z
C07C211/52
C07C209/36
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022116750
(22)【出願日】2022-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003285
【氏名又は名称】千代田化工建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】角 茂
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 利行
(72)【発明者】
【氏名】桐生 麻子
(72)【発明者】
【氏名】前田 恭吾
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169BA01A
4G169BA01B
4G169BA04A
4G169BA04B
4G169BB06A
4G169BB06B
4G169BC72A
4G169BC72B
4G169CB02
4G169CB77
4G169DA06
4G169EB14Y
4G169EB18X
4G169EB18Y
4G169EC11X
4G169EC12X
4G169EC13X
4G169EC14X
4G169EC14Y
4G169EC15X
4G169EC15Y
4G169EC22X
4G169EC22Y
4G169EC25
4G169ED10
4G169EE01
4H006AA02
4H006AC52
4H006BA25
4H006BA55
4H006BB11
4H006BB14
4H006BC10
4H006BE20
4H039CA71
4H039CB30
(57)【要約】
【課題】芳香族ハロニトロ化合物の水素化において、目的生成物のハロゲン化芳香族アミンの選択性がハロゲンの離脱反応の進行によって低下することを抑制する。
【解決手段】芳香族ハロニトロ化合物の水素化に用いられる水素化触媒であって、チタニア及びアルミナのうちの少なくとも1つを含む担体と、前記担体に担持されたパラジウムと、を含み、前記パラジウムの平均粒子径が9.7nm以下である構成とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ハロニトロ化合物の水素化に用いられる水素化触媒であって、
チタニア及びアルミナのうちの少なくとも1つを含む担体と、
前記担体に担持されたパラジウムと、を含み、
前記パラジウムの平均粒子径が9.7nm以下である、水素化触媒。
【請求項2】
次式で示されるCO吸着阻害率が、61%以下である、請求項1に記載の水素化触媒。
【数3】
ここで、DCO :COパルス法に基づく金属分散度
DTEM:TEM(透過電子顕微鏡)の観察に基づく金属分散度
【請求項3】
前記担体は、アルミナ及びチタニアからなる複合担体であり、
前記複合担体は、前記アルミナからなる基材に前記チタニアが被覆されたものを含む、請求項1または請求項2に記載の水素化触媒。
【請求項4】
前記チタニアを含む担体は、結晶構造としてアナターゼ型の割合が38%以上のチタニアを含む、請求項1または請求項2に記載の水素化触媒。
【請求項5】
前記チタニアを含む担体は、結晶構造としてルチル型を含まない、請求項4に記載の水素化触媒。
【請求項6】
前記チタニアを含む担体の平均細孔径が、前記芳香族ハロニトロ化合物の長手方向の分子長さの78倍以下である、請求項1または請求項2に記載の水素化触媒。
【請求項7】
前記担体の平均細孔径が、約50nm以下である、請求項1または請求項2に記載の水素化触媒。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の前記水素化触媒を含む固定触媒と、
ガス原料としての水素と、
液体原料としての芳香族ハロニトロ化合物と、を用いた気液固三相反応を行うフロー式有機合成システム。
【請求項9】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の前記水素化触媒を用いて前記芳香族ハロニトロ化合物の水素化を行う、水素化有機化合物の製造方法。
【請求項10】
前記水素化触媒に対して250℃以上での活性化処理を行うことなく、前記水素化触媒を用いて前記芳香族ハロニトロ化合物の水素化を行う、請求項9に記載の水素化有機化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ハロニトロ化合物の水素化反応に用いられる水素化触媒ならびにこれを用いたフロー式有機合成システム及び水素化有機化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ハロニトロ化合物の不飽和結合に水素を付加する水素化においては、脱ハロゲン化反応(ハロゲンの離脱)が容易に生じるため、目的生成物としてのハロゲン化芳香族アミンの収率や品質が低下する。
【0003】
そこで、従来、芳香族ハロニトロ化合物の水素化における脱ハロゲン化反応を抑制するための技術として、例えば、酸性リン化合物の存在下において、ハロニトロ芳香族化合物の水素還元を行う方法が知られている(特許文献1参照)。また、有機窒素塩基(アルキルアミン類、脂環族アミン類、またはグアニジン)を用いて芳香族ハロニトロ化合物の水素添加を行う方法が知られている(特許文献2参照)。また、ハロゲン化ベンゼン類を共存させて、接触還元によってハロゲン化ニトロベンゼン類からハロゲン化アニリン類を製造する方法が知られている(特許文献3参照)。また、二酸化炭素の存在下において、芳香族ハロニトロ化合物を水素化触媒により水素化する方法が知られている(特許文献4参照)。また、白金等の触媒金属を、リン酸もしくはその塩で活性化させた炭素を含む担体材料上に担持または含浸させた水素化触媒が知られている(特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭51-122029号公報
【特許文献2】特公昭52-35652号公報
【特許文献3】特開平7-133255号公報
【特許文献4】特開2004-277409号公報
【特許文献5】特公昭63-033902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1-5に記載の従来技術のように脱ハロゲン化反応を抑制するための添加剤やガスなど(以下、脱ハロゲン化抑制剤という。)を用いる場合、脱ハロゲン化抑制剤の回収工程が必要となるため製品(目的生成物)の製造工程が煩雑となり、また、それらが製品に混入するリスクもある。更に、上記特許文献4に記載の従来技術では、二酸化炭素を取り扱う製造工程における安全管理や、製品の品質管理の負荷が大きくなる。
【0006】
また、芳香族ハロニトロ化合物(例えば、ハロニトロベンゼン)の水素化においては、副生成物として、人体や水性生物等に有害であり、かつ爆発的に燃焼し得るニトロソ体(例えば、ニトロソベンゼン)が生成され得るため、その生成を抑制することが重要である。これに関し、本願発明者らは、芳香族ハロニトロ化合物の水素化において、ニトロソ体の生成を抑制しつつ、脱ハロゲン化抑制剤を必要とすることなく、目的生成物のハロゲン化芳香族アミンの収率を向上させる水素化触媒を開発した。本願発明者らは、その水素化触媒について特許出願済みである。(特願2021-072144号)。
【0007】
一方、芳香族ハロニトロ化合物の水素化反応では、過度の反応(ハロゲンの離脱反応)の進行により目的生成物(ハロゲン化芳香族アミン)の選択性が低下してしまうという問題がある。そのようなハロゲンの離脱反応の進行による目的生成物の選択性の低下については、上記特許文献1-5に記載の従来技術においても特段の対策はなされていない。
【0008】
本発明は、このような従来技術の課題を鑑みて案出されたものであり、芳香族ハロニトロ化合物の水素化において、目的生成物のハロゲン化芳香族アミンの選択性がハロゲンの離脱反応の進行によって低下することを抑制できる水素化触媒ならびにこれを用いたフロー式有機合成システム及び水素化有機化合物の製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の側面では、芳香族ハロニトロ化合物の水素化に用いられる水素化触媒であって、チタニア及びアルミナのうちの少なくとも1つを含む担体と、前記担体に担持されたパラジウムと、を含み、前記パラジウムの平均粒子径が9.7nm以下である構成とする。
【0010】
これによると、芳香族ハロニトロ化合物の水素化において、目的生成物のハロゲン化芳香族アミンの選択性がハロゲンの離脱反応の進行によって低下することを抑制できる。
【0011】
本発明の第2の側面では、次式で示されるCO吸着阻害率が、61%以下であるとよい。
【数1】
ここで、DCO :COパルス法に基づく金属分散度
DTEM:TEM(透過電子顕微鏡)の観察に基づく金属分散度
【0012】
これによると、水素化触媒のCO吸着阻害率を適切な範囲に調整することにより、芳香族ハロニトロ化合物の水素化において、芳香族ハロニトロ化合物の転化速度を高めつつ、目的生成物のハロゲン化芳香族アミンの選択性の低下を抑制することができる。
【0013】
本発明の第3の側面では、前記担体は、アルミナ及びチタニアからなる複合担体であり、前記複合担体は、前記アルミナからなる基材に前記チタニアが被覆されたものを含むとよい。
【0014】
これによると、芳香族ハロニトロ化合物の水素化において、ニトロソ体の生成を効果的に抑制しつつ、目的生成物のハロゲン化芳香族アミンの収率を効果的に向上させることができる。
【0015】
本発明の第4の側面では、前記チタニアを含む担体は、結晶構造としてアナターゼ型の割合が38%以上のチタニアを含むとよい。
【0016】
これによると、芳香族ハロニトロ化合物の水素化において、チタニアを含む担体を用いた水素化触媒を使用する場合に、ニトロソ体の生成を効果的に抑制しつつ、目的生成物のハロゲン化芳香族アミンの収率を効果的に向上させることができる。
【0017】
本発明の第5の側面では、前記チタニアを含む担体は、結晶構造としてルチル型を含まないとよい。
【0018】
これによると、芳香族ハロニトロ化合物の水素化において、チタニアを含む担体を用いた水素化触媒を使用する場合に、ニトロソ体の生成をより効果的に抑制しつつ、目的生成物のハロゲン化芳香族アミンの収率をより効果的に向上させることができる。
【0019】
本発明の第6の側面では、前記チタニアを含む担体の平均細孔径が、前記芳香族ハロニトロ化合物の長手方向の分子長さの78倍以下であるとよい。
【0020】
これによると、芳香族ハロニトロ化合物の水素化において、ニトロソ体の生成を効果的に抑制しつつ、目的生成物のハロゲン化芳香族アミンの収率を効果的に向上させることができる。
【0021】
本発明の第7の側面では、前記担体の平均細孔径が、約50nm以下であるとよい。
【0022】
これによると、芳香族ハロニトロ化合物の水素化において、ニトロソ体の生成を効果的に抑制しつつ、目的生成物のハロゲン化芳香族アミンの収率を効果的に向上させることができる。
【0023】
本発明の第8の側面では、フロー式有機合成システムであって、前記水素化触媒を含む固定触媒と、ガス原料としての水素と、液体原料としての芳香族ハロニトロ化合物と、を用いた気液固三相反応を行う構成とする。
【0024】
これによると、芳香族ハロニトロ化合物の水素化において、バッチ法と比較してより精密な反応の温度制御を実現しつつ、目的生成物のハロゲン化芳香族アミンの選択性がハロゲンの離脱反応の進行によって低下することを抑制できる。
【0025】
本発明の第9の側面では、水素化有機化合物の製造方法であって、前記水素化触媒を用いて前記芳香族ハロニトロ化合物の水素化を行う構成とする。
【0026】
これによると、芳香族ハロニトロ化合物の水素化において、目的生成物のハロゲン化芳香族アミンの選択性がハロゲンの離脱反応の進行によって低下することを抑制できる。
【0027】
本発明の第10の側面では、前記水素化触媒に対して250℃以上での活性化処理を行うことなく、前記水素化触媒を用いて前記芳香族ハロニトロ化合物の水素化を行う構成とする。
【0028】
これによると、適切な水素化触媒を用いることにより、水素化有機化合物の製造工程を簡略化しつつ、芳香族ハロニトロ化合物の水素化を実行することができる。
【発明の効果】
【0029】
このように本発明によれば、芳香族ハロニトロ化合物の水素化において、目的生成物のハロゲン化芳香族アミンの選択性がハロゲンの離脱反応の進行によって低下することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】実施形態に係る芳香族ハロニトロ化合物の水素化に用いられるフロー式有機合成システムの全体構成図
図2】水素化反応における液体原料の4-ClNBの転化率と4-ClANの選択率との関係を示すグラフ(触媒Ta1-Ta5)
図3】TEMによる画像の一例を示す図(触媒Ta1-Ta2及びTa4-Ta5)
図4】滞留時間と粒子表面に露出したパラジウム1原子あたりの4-ClANの消費速度との関係を示すグラフ(平均粒子径9.7nm、7.0nm、1.4nm)
図5】CO吸着阻害率と粒子表面に露出したパラジウム1原子あたりの4-ClNBの消費速度との関係を示すグラフ(触媒Ta1-Ta2及びTa4-Ta5)
図6】Pd担持量とPd分散度との関係を示すグラフ(触媒Ta1-Ta5)
図7】Pd担持量とPd粒子径との関係を示すグラフ(触媒Ta1-Ta5)
図8】水素化反応における液体原料の4-ClNBの転化率と4-ClANの選択率との関係を示すグラフ(触媒Ta4、Tb1、S1、A1、H1)
図9】(A)4-ClNBの転化率と4-ClANの選択率との関係、(B)4-ClNBの転化率と副生成物の選択率との関係を示すグラフ(触媒Ta2、Ta4)
図10】(A)4-ClNBの転化率と4-ClANの選択率との関係、(B)4-ClNBの転化率と副生成物の選択率との関係を示すグラフ(触媒A1、A2)
図11】(A)4-ClNBの転化率と4-ClANの選択率との関係、(B)4-ClNBの転化率と副生成物の選択率との関係を示すグラフ(触媒H1、H2)
図12】(A)4-ClNBの転化率と4-ClANの選択率との関係、(B)4-ClNBの転化率と副生成物の選択率との関係を示すグラフ(触媒Tc1、Tc2)
図13】(A)4-ClNBの転化率と4-ClANの選択率との関係、(B)4-ClNBの転化率と副生成物の選択率との関係を示すグラフ(触媒Tb1、Tb2)
図14】(A)4-ClNBの転化率と4-ClANの選択率との関係、(B)4-ClNBの転化率と副生成物の選択率との関係を示すグラフ(触媒S1、S2)
図15】水素化反応における4-ClNBの転化率とニトロソ体の選択率との関係を示すグラフ(触媒S2、触媒Td1、触媒A2、触媒H2)
図16】水素化反応における4-ClNBの転化率と4-ClANの選択率との関係を示すグラフ(触媒S2、触媒Td1、触媒A2、触媒H2)
図17】水素化反応における4-ClNBの転化率とニトロソ体の選択率との関係を示すグラフ(触媒Ta2)
図18】水素化反応における4-ClNBの転化率と4-ClANの選択率との関係を示すグラフ(触媒Ta2)
図19】X線回折法(XRD)に基づくX線回折パターンを示すグラフ(触媒Ta2)
図20】チタニアを含む担体を用いた触媒の作用に対する担体の平均細孔径の影響を示すグラフ(触媒Td1、触媒Ta2、触媒Te1)
図21】チタニアを含む担体を用いた触媒の作用に対する担体の平均細孔径の影響を示すグラフ(触媒Td1、触媒Ta2、触媒Te1)
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照して、実施形態に係る水素化触媒ならびにこれを用いたフロー式有機合成システム及び水素化有機化合物の製造方法について説明する。
【0032】
(水素化触媒)
本実施形態に係る水素化触媒は、チタニア(TiO2)及びアルミナ(Al2O3)のうちの少なくとも1つを含む担体に、周期表第10族元素から選択される少なくとも1種の金属(以下、触媒金属という。)が担持されたものである。
【0033】
触媒金属としては、周期表第10族元素に属するニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、及び白金(Pt)などを用いることができるが、特に、パラジウム(Pd)が好ましい。例えば、パラジウムの前駆体は、特に限定されず、パラジウム化合物として硝酸塩、硫酸塩、塩化物、及びアセチルアセトン錯体等が用いられ得る。触媒金属は、担体の外表面や担体の細孔内表面に分散して担持される。
【0034】
触媒金属としてのパラジウムは、その平均粒子径が9.7nm以下であることが好ましい。これにより、芳香族ハロニトロ化合物の水素化において、目的生成物のハロゲン化芳香族アミンの選択性がハロゲンの離脱反応の進行によって低下することを抑制できる。
【0035】
担体に含まれるチタニア及びアルミナ等の基材の形状やサイズ(平均粒径等)は、特に限定されず、芳香族ハロニトロ化合物の水素化反応に用いられる反応器のスペックや反応条件等に応じて種々の形状やサイズが採用され得る。チタニア及びアルミナのうちの少なくとも1つからなる基材として、市販の触媒担体用の基材を用いることができる。市販の触媒担体用のチタニアとしては、例えば、堺化学工業株式会社製CS-300S-12シリーズおよびCS-950-12シリーズが挙げられる。また、市販の触媒担体用のアルミナとしては、例えば、水沢化学工業株式会社製 ネオビードGBシリーズが挙げられる。
【0036】
また、チタニア及びアルミナのうちの少なくとも1つからなる基材として、金属含水酸化物のヒドロゾル又はヒドロゲルをその沈殿pH領域と溶解pH領域との間で交互に複数回以上スイングさせるpHスイングにより合成したもの(多孔質無機酸化物)を用いることもできる。
【0037】
金属含水酸化物は、チタン(Ti)及びアルミニウム(Al)から選ばれた1種又は2種以上の金属の含水酸化物である。金属含水酸化物のヒドロゾル又はヒドロゲルを合成するために原料として用いる金属化合物としては、例えば、それらの塩化物、弗化物、臭化物、ヨウ化物、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、酢酸塩、燐酸塩、ホウ酸塩、シュウ酸塩、フッ酸塩、ケイ酸塩、ヨウ素酸塩等の塩類や、オキソ酸塩やアルコキシド類等が用いられ得る。それらの金属化合物は、1種のみを単独で用いられるほか、2種以上の混合物としても用いられ得る。
【0038】
チタン化合物としては、例えば、四塩化チタン(TiCl4)、硫酸チタン〔Ti2(SO43, Ti(SO42〕、オキシ硫酸チタン(TiOSO4)、三塩化チタン(TiCl3)、臭化チタン(TiBr4)、弗化チタン(TiF4, TiF3)、酸化チタン(TiO2)、オルトチタン酸(H4TiO4)、メタチタン酸(H2TiO3)、チタンメトキシド〔Ti(OCH3)4〕、チタンエトキシド〔Ti(OC2H5)4〕、チタンプロポキシド〔Ti(OC3H7)4〕、チタンイソプロポキシド{Ti〔OCH(CH3)24}、チタンブトキシド〔Ti(OC4H9)4〕等が用いられ得る。
【0039】
アルミニウム化合物としては、例えば、金属アルミニウム(Al)、塩化アルミニウム(AlCl3, AlCl3・6H2O)、硝酸アルミニウム〔Al(NO3)3・9H2O〕、硫酸アルミニウム〔Al2(SO4)3, Al2(SO4)3・18H2O〕、ポリ塩化アルミニウム〔(Al2(OH)nCl6-n)m(1<n<5,m<10)〕、アンモニウムミョウバン〔NH4Al (SO4)2・12H2O〕、アルミン酸ソーダ(NaAlO2)、アルミン酸カリ(KAlO2)、アルミニウムイソプロポキシド[Al[OCH(CH3)2]3]、アルミニウムエトキシド〔Al(OC2H5)3〕、アルミニウム-t-ブトキシド[Al[OC(CH3)3]3]、水酸化アルミニウム〔Al(OH)3〕等が用いられ得る。
【0040】
このようなpHスイングにより合成した担体およびその製造方法の詳細については、例えば、日本特許第4119144号公報に開示された多孔質無機酸化物およびその製造方法を参照されたい。援用した文献の開示内容については、本明細書の一部を構成するものとし、詳細な説明を省略する。このようなpHスイングにより合成した担体によれば、pHスイングにより触媒の細孔径(平均値や分布)を所望の値に制御することが可能であり、また、焼成時にその焼成温度を調整することにより細孔径の値を微調整することが可能である。
【0041】
また、担体としては、アルミナ及びチタニアからなる複合担体が用いられてもよい。複合担体は、アルミナからなる基材にチタニアが被覆されたものを含む。複合担体の形状としては、例えば、複数の針状体または柱状体が三次元的に絡み合うことにより多数の細孔が形成された骨格構造を採用できる。このような構造により、水素化触媒の比表面積(細孔直径に対する細孔容積の比)を増大させることができ、また、細孔構造の制御が容易となる。
【0042】
このような複合担体の詳細については、例えば、日本特許第6456204号公報に開示された担体およびその製造方法を参照されたい。援用した文献の開示内容については、本明細書の一部を構成するものとし、詳細な説明を省略する。この複合担体によれば、比較的少ない触媒金属量で安定性と副反応の抑制に関して優れた触媒を実現できる。
【0043】
チタニアを含む担体では、結晶相(結晶構造)としてアナターゼ型の割合が38%以上のチタニアを含むことが好ましい。これにより、ニトロソ体の生成を効果的に抑制しつつ、目的生成物のハロゲン化芳香族アミンの収率を安定的に向上させることが可能となる。また、担体は、より好ましくは、結晶相としてアナターゼ型の割合が96%以上のチタニアを含み、更に好ましくは、アナターゼ型の割合が100%のチタニアを含むとよい。結晶相におけるアナターゼ型の割合は、担体の焼成温度の変更により変更することができる。特に、チタニアを含む担体では、結晶相としてアナターゼ型を38%以上含み、かつルチル型を含まないことが好ましい。また、担体の結晶相は、X線回折装置を用いたX線回折分析から確認できる。
【0044】
チタニアを含む担体では、その平均細孔径が、約50nm以下であるとよい。これにより、ニトロソ体の生成を効果的に抑制しつつ、目的生成物のハロゲン化芳香族アミンの収率を安定的に向上させることが可能となる。また、チタニアを含む担体では、担体の平均細孔径は、より好ましくは、約18nm以下、更に好ましくは約7nm以下であるとよい。
【0045】
また、チタニアを含む担体ではその平均細孔径が、芳香族ハロニトロ化合物の長手方向の分子長さの78倍以下であるとよい。チタニアを含む担体の平均細孔径は、より好ましくは、芳香族ハロニトロ化合物の長手方向の分子長さの28倍以下、更に好ましくは、11倍以下であるとよい。
【0046】
担体の平均細孔径は、細孔分布測定装置(例えば、水銀ポロシメータ)を用いて測定することができる。また、芳香族ハロニトロ化合物の長手方向の分子長さは、量子化学計算プログラムを用いて算出することができる。
【0047】
上述のような担体に触媒金属を担持させた水素化触媒の製造については、上述の各文献に記載された工程や、公知の触媒製造工程(例えば、含浸工程、乾燥工程、焼成工程、及び還元工程など)を適宜採用することができる。また、触媒(または担体)の形状については、使用目的に応じて球状、円柱状、円筒状などの所望の形状に成形することが可能である。また、触媒(または担体)のサイズ(粒径等)についても適宜設定され得る。
【0048】
(芳香族ハロニトロ化合物の水素化)
次に、本実施形態に係る水素化触媒を用いた芳香族ハロニトロ化合物の水素化反応について説明する。
【0049】
芳香族ハロニトロ化合物の水素化は、以下の一般式(1)で示される。
【0050】
【化1】
【0051】
式(1)において、Xは、フッ素、塩素、臭素、又はヨウ素を示す。また、Rは、水素原子、ヒドロキシル基、カルボキシル基、スルホ基、アルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アリール基、アシル基、アロイル基、アルコキシ基、又はアルコキシカルボニル基を示す。
【0052】
以下では、芳香族ハロニトロ化合物の水素化として、4-クロロニトロベンゼンの水素化を例に説明する。4-クロロニトロベンゼンの水素化では、式(2)の過程に示すように、原料としての4-クロロニトロベンゼンに水素が添加されることにより、中間体の4-クロロニトロソベンゼン及び4-クロロフェニルヒドロキシルアミンを経て、目的生成物としての4-クロロアニリンが生成される。このとき、4-クロロアニリンにおけるハロゲンの離脱反応が進行すると、4-クロロアニリンはアニリンになる。この過度の反応の進行により、4-クロロアニリンの選択性が低下する。
【0053】
一方、4-クロロニトロベンゼンの脱ハロゲン化によりニトロベンゼンが生成され得る。ニトロベンゼンに水素が添加されることにより、中間体としてのニトロソベンゼン及びヒドロキシルアミンを経て、アニリンが生成される。ただし、本実施形態における水素化反応では、中間体として4-クロロニトロソベンゼンのみが検出され、ニトロソベンゼンの検出は無視できる程度であった。
【0054】
【化2】
【0055】
4-クロロニトロベンゼンの水素化は、バッチ(回分)式、セミバッチ(半回分)式、及びフロー(連続)式のいずれによっても実施可能であるが、本実施形態に係る水素化触媒は、特に、気液固三相反応を行うフロー式の反応システムに用いられるフロー反応用触媒として好適である。
【0056】
次に、図1を参照して、フロー式有機合成システム1(水素化反応システム)の構成例について説明する。
【0057】
フロー式有機合成システム1では、ガス原料としての水素、液体原料としての4-クロロニトロベンゼン、及び固体触媒としての水素化触媒を用いた気液固三相反応を行う流通式固定床反応器2(以下、反応器2という。)を備える。液体原料には、反応に不活性な有機溶媒(アルコール、エーテル、その他の芳香族炭化水素類など)を使用することができる。ただし、水素化の対象となる芳香族ハロニトロ化合物が液体である場合には、反応は無溶媒で行うこともできる。
【0058】
反応器2は、水素化触媒を含む触媒層3を収容した公知の管型反応器である。反応器2は、入口ラインL1から連続的に供給されるガス原料及び液体原料を触媒層3に流通させることによって反応させる。また、反応器2には、2つの独立したブロックからなる管状の電気炉4が設けられており、必要に応じて熱供給することにより反応温度(ここでは、触媒層3の温度)を調整することが可能である。反応器2としては、例えば、原料を重力と同方向に流すダウンフロー反応器だけでなく、原料を重力と逆向きに流すアップフロー反応器を用いることもできる。
【0059】
ガス原料は、入口ラインL1に接続されたガス原料供給ラインL2を介して反応器2に連続的に供給される。また、入口ラインL1には、パージガスが流通するパージガス供給ラインL3が接続されている。フロー式有機合成システム1では、メンテナンス時等にパージガス供給ラインL3にパージガスを供給することにより、システム内の機器や配管等のパージ操作を行うことが可能である。
【0060】
液体原料は、液体原料タンク11に貯留される。液体原料は、液体原料用ポンプ12によって、液体原料供給ラインL4を介して入口ラインL1に流通し、ガス原料と共に反応器2に連続的に供給される。また、液体原料供給ラインL4には、予熱/予冷却器13が設けられている。反応器2に供給される液体原料の温度は、予熱/予冷却器13によって加熱または冷却されることにより、予め設定された目標範囲内に調節される。
【0061】
また、反応器2では、主として4-クロロアニリンを含む反応生成物が出口ラインL6から連続的に排出される。出口ラインL6には、熱交換器21が設けられている。反応器2から排出された反応生成物の温度は、熱交換器21によって加熱または冷却されることにより、予め設定された目標範囲内に調節される。
【0062】
熱交換器21によって冷却された反応生成物は、出口ラインL6の下流側に接続されたメインドラム25(気液分離器)に供給される。メインドラム25において、反応生成物は、未反応のガス原料等が含まれるオフガス(残留ガス)と、反応の目的物(製品)が含まれる回収液とに気液分離される。
【0063】
メインドラム25において分離されたオフガス(気相成分)は、オフガス輸送ラインL7(残留ガス輸送ラインの第1ライン)を介して排出される。
【0064】
メインドラム25からの回収液は、回収液輸送ラインL9(目的物回収ライン)を介して製品回収ドラム41に供給される。製品回収ドラム41では、回収液中に残留していた気体が回収液から気液分離される。この分離された気体は、分離ガス排出ラインL10を介して外部に排出される。また、製品回収ドラム41で分離された回収液(目的生成物)は、製品回収ラインL11を介して回収される。
【0065】
フロー式有機合成システム1では、オペレータは、製品回収ラインL11から回収液を所定のタイミングで適宜サンプリングし、これを液体クロマトグラフやガスクロマトグラフによって分析することにより、目的生成物(製品)としての4-クロロアニリン等を同定及び定量することが可能である。
【実施例0066】
フロー式有機合成システム1(図1参照)において、水素化触媒として以下に示す触媒Ta1-Ta5、Tb1-Tb2、Tc1-Tc2、Td1、Te1、A1-A2、H1-H2、及びS1-S2をそれぞれ用いて、4-クロロニトロベンゼン(以下、4-ClNBという。)を水素化することにより、目的生成物として4-クロロアニリン(以下、4-ClANという。)を生成する実験を行った。なお、本実施形態では、市販の金属担持量5%のPd/C(パラジウム炭素)触媒(和光純薬工業株式会社製 5% Palladium on Activated Carbon, Degussa type E 106 R/W 5%Pd (wetted with ca.55% water))を、水素化触媒の比較対象となる触媒(以下、Pd/C触媒という。)として用いた。
【0067】
(触媒Ta1)
市販の触媒担体用のチタニア(堺化学工業株式会社製 CS-300S-12、結晶型:アナターゼ100%)を500℃で3時間焼成したものを5g秤量し、仕込値としてPd担持量(パラジウムの担持量)が5wt%になるように、1.06%硝酸パラジウム水溶液[Pd(NO3)aq]に含侵させ、乾燥後、500℃で3時間焼成し、触媒Ta1(Pd担持チタニア触媒)を得た。触媒Ta1におけるパラジウムの平均粒子径は、9.7nmであった。なお、平均粒子径は、後述するようにTEM(透過電子顕微鏡、日本電子社製JEM-ARM-200F)によって得られた画像(TEM画像)の観察に基づき算出した(他の触媒についても同様)。
【0068】
(触媒Ta2)
触媒Ta1と同様の触媒担体用のチタニアを用いて、触媒Ta1と同様の方法によってPd担持量が2wt%になるように0.42%硝酸パラジウム水溶液[Pd(NO3)aq]に含浸させ、乾燥後、500℃で3時間焼成し、触媒Ta2(Pd担持チタニア触媒)を得た。触媒Ta2におけるパラジウムの平均粒子径は、7.0nmであった。
【0069】
(触媒Ta3)
触媒Ta1と同様の触媒担体用のチタニアを用いて、触媒Ta1と同様の方法によってPd担持量が0.4wt%になるように0.08%硝酸パラジウム水溶液[Pd(NO3)aq]に含浸させ、乾燥後、500℃で3時間焼成し、触媒Ta3(Pd担持チタニア触媒)を得た。
【0070】
(触媒Ta4)
触媒Ta1と同様の触媒担体用のチタニアを用いて、触媒Ta1と同様の方法によってPd担持量が0.2wt%になるように0.04%硝酸パラジウム水溶液[Pd(NO3)aq]に含浸させ、乾燥後、500℃で3時間焼成し、触媒Ta4(Pd担持チタニア触媒)を得た。触媒Ta4におけるパラジウムの平均粒子径は、1.4nmであった。
【0071】
(触媒Ta5)
触媒Ta1と同様の触媒担体用のチタニアを用いて、触媒Ta1と同様の方法によってPd担持量が0.05wt%になるように0.01%硝酸パラジウム水溶液[Pd(NO3)aq]に含浸させ、乾燥後、500℃で3時間焼成し、触媒Ta5(Pd担持チタニア触媒)を得た。触媒Ta5におけるパラジウムの平均粒子径は、1.5nmであった。
【0072】
(触媒Tb1)
市販の触媒担体用のチタニア(堺化学工業株式会社製CS-300S-12、結晶型:アナターゼ100%)を950℃で3時間焼成したものを5g秤量し、Pd担持量が0.2wt%になるように、0.04%硝酸パラジウム水溶液[Pd(NO3)aq]に含侵させ、乾燥後、500℃で3時間焼成し、触媒Tb1(Pd担持チタニア触媒)を得た。触媒Tb1におけるパラジウムの平均粒子径は、5.8nmであった。
【0073】
(触媒Tb2)
触媒Tb1と同様の触媒担体用のチタニアを用いて、触媒Tb1と同様の方法によってPd担持量が2wt%になるように0.42%硝酸パラジウム水溶液[Pd(NO3)aq]に含浸させ、乾燥後、500℃で3時間焼成し、触媒Tb2(Pd担持チタニア触媒)を得た。触媒Tb2におけるパラジウムの平均粒子径は、17.9nmであった。
【0074】
(触媒Tc1)
市販の触媒担体用のチタニア(堺化学工業株式会社製、結晶型:アナターゼ100%)を500℃で3時間焼成したものを5g秤量し、Pd担持量が0.2wt%になるように、0.04%硝酸パラジウム水溶液[Pd(NO3)aq]に含侵させ、乾燥後、500℃で3時間焼成し、触媒Tc1(Pd担持チタニア触媒)を得た。触媒Tc1におけるパラジウムの平均粒子径は、3.2nmであった。
【0075】
(触媒Tc2)
触媒Tc1と同様の触媒担体用のチタニアを用いて、触媒Tc1と同様の方法によってPd担持量が2wt%になるように0.42%硝酸パラジウム水溶液[Pd(NO3)aq]に含浸させ、乾燥後、500℃で3時間焼成し、触媒Tc2(Pd担持チタニア触媒)を得た。触媒Tc2におけるパラジウムの平均粒子径は、7.2nmであった。
【0076】
(触媒Td1)
pHスイングで調製したチタニア担体を500℃で3時間焼成したものを5g秤量し、Pd担持量が2.0%になるように、0.42%硝酸パラジウム水溶液[Pd(NO3)aq]に含侵させ、乾燥後、500℃で3時間焼成し、触媒Td1(Pd担持チタニア触媒)を得た。なお、pHスイングで調製したチタニア担体は、特許第5599212号公報([0123]を参照)に開示されたチタニア担体の製造方法と同様の公知の方法によって製造した。
【0077】
(触媒Te1)
市販の触媒担体用のチタニア(堺化学工業株式会社製 CS-950-12)を500℃で3時間焼成したものを5g秤量し、Pd担持量が2wt%になるように、0.42%硝酸パラジウム水溶液[Pd(NO3)aq]に含侵させ、乾燥後、500℃で3時間焼成し、触媒Te1(Pd担持チタニア触媒)を得た。
【0078】
(触媒A1)
pHスイングで調製したアルミナ担体を500℃で3時間焼成したものを5g秤量し、Pd担持量が0.2wt%になるように、0.04%硝酸パラジウム水溶液[Pd(NO3)aq]に含侵させ、乾燥後、500℃で3時間焼成し、触媒A1(Pd担持アルミナ触媒)を得た。なお、pHスイングで調製したアルミナ担体は、特許第5599212号公報(AS-2を参照)に開示されたアルミナ担体の製造方法と同様の公知方法によって製造した。触媒A1におけるパラジウムの平均粒子径は、3.1nmであった。
【0079】
(触媒A2)
触媒A1と同様のアルミナ担体を用いて、触媒A1と同様の方法によってPd担持量が2wt%になるように0.42%硝酸パラジウム水溶液[Pd(NO3)aq]に含侵させ、乾燥後、500℃で3時間焼成し、触媒A2(Pd担持アルミナ触媒)を得た。
【0080】
(触媒H1)
pHスイングで調製したチタニアコーティングアルミナ担体(HBT)を500℃で3時間焼成したものを5g秤量し、Pd担持量が0.2wt%になるように、0.04%硝酸パラジウム水溶液[Pd(NO3)aq]に含侵させ、乾燥後、500℃で3時間焼成し、触媒H1(Pd担持チタニアコーティングアルミナ触媒)を得た。なお、pHスイングで調製したチタニアコーティングアルミナ担体(HBT)は、特許第5599212号公報(AT-2を参照)に開示されたチタニアコーティングアルミナ担体の製造方法と同様の公知方法によって製造した。触媒H1におけるパラジウムの平均粒子径は、2.7nmであった。
【0081】
(触媒H2)
触媒H1と同様のチタニアコーティングアルミナ担体を用いて、触媒H1と同様の方法によってPd担持量が2wt%になるように0.42%硝酸パラジウム水溶液[Pd(NO3)aq]に含侵させ、乾燥後、500℃で3時間焼成し、触媒H2(Pd担持チタニアコーティングアルミナ触媒)を得た。
【0082】
(触媒S1)
市販の触媒担体用のシリカゲル(富士シリシア化学株式会社製 CARiACT Q-10)を5g秤量し、Pd担持量が0.2 wt %になるように、0.04%硝酸パラジウム水溶液[Pd(NO3)aq]に含侵させ、乾燥後、500℃で3時間焼成し、触媒S1(Pd担持シリカ触媒)を得た。触媒S1におけるパラジウムの平均粒子径は、3.5nmであった。
【0083】
(触媒S2)
触媒S1と同様の触媒担体用のシリカゲルを用いて、触媒S1と同様の方法によってPd担持量が2wt %になるように0.42%硝酸パラジウム水溶液[Pd(NO3)aq]に含侵させ、乾燥後、500℃で3時間焼成し、触媒S2(Pd担持シリカ触媒)を得た。触媒S2におけるパラジウムの平均粒子径は、5.5nmであった。
【0084】
フロー式有機合成システム1を使用した4-クロロニトロベンゼンの水素化反応では、水素化触媒1.0gを反応器2におけるステンレス製の反応管に充填した後、触媒層3の中心が、2つの独立したブロックからなる管状の電気炉4の2段目(上方)に位置するように設置した。そこで、触媒層3の中心温度が40℃になるように加熱した。続いて、液体原料の4-ClNB/TOL-IPA(トルエン、イソプロピルアルコール溶媒)を、液体原料用ポンプ12を用いて0.2ml/min.の流量で、ガス原料の水素を20cm3/min.の流量で各々反応管に供給した。液体原料の水素化反応(還元反応)の開始とともにその発熱によって水素化触媒の温度が上昇するため、反応中は電気炉4の各ブロック温度を調節することにより、反応中の触媒層3の中心温度が40℃になるようにコントロールした。反応後の生成物は冷却回収し、ガスクロマトグラフによって分析を行なった。また冷却後の流出ガスはマスフローメーターによって流量を測定した。分析及び測定の結果から、4-ClNBの転化率、4-ClAN(目的生成物)の選択率、及び4-クロロニトロソベンゼン(ニトロソ体)の選択率を算出した。このような4-クロロニトロベンゼンの水素化反応に関する実験を、上述の各水素化触媒およびPd/C触媒について行った。
【0085】
図2は、触媒Ta1-Ta5及びPd/C触媒(比較対象触媒)について、水素化反応における液体原料の4-ClNBの転化率と4-ClANの選択率との関係を示すグラフである。図3は、触媒Ta1-Ta2及びTa4-Ta5について、TEMによる画像の一例を示す図である。図4は、触媒の各粒子径について、滞留時間(反応器2における反応流体と水素化触媒との接触時間)と粒子表面に露出したパラジウム1原子あたりの4-ClANの消費(転化)速度との関係を示すグラフである。
【0086】
図2では、触媒Ta1-Ta5による4-ClANの選択率は、4-ClNBの転化率が同様の値である場合には、いずれもPd/C触媒による4-ClANの選択率よりも概ね高いことを確認できる。つまり、Pd担持量が5wt%(後述するICP分析法による測定値で4.34wt%)以下のPd担持チタニア触媒では、一般的に用いられるPd/C触媒と比べて4-ClAN(目的生成物)の選択率が高まる。また、Pd担持チタニア触媒では、触媒Ta1から触媒Ta5へとPd担持量が低下するのに伴い、4-ClANの選択率はより高くなる。ただし、水素化反応に関与し得るパラジウムの減少による触媒活性の低下を回避するために、Pd担持量は、好ましくは0.05wt%以上とし、より好ましくは、0.2wt%(後述するICP分析法による測定値では0.17wt%)以上とするとよい。
【0087】
図3に示すように、TEMによる画像の観察(すなわち、TEMによる画像から算出された粒子径)に基づき、触媒Ta1から触媒Ta5へとPd担持量が低下するのに伴い、触媒に担持されたパラジウムのサイズ(平均粒子径)が概ね低下することを確認した。
【0088】
表1には、TEMによる画像の観察に基づき得られた触媒Ta1-Ta2及びTa4-Ta5の解析結果を示す。
【0089】
【表1】
【0090】
表1では、触媒Ta1-Ta2及びTa4-Ta5の各々について、Pd担持量(%)、平均粒子径(nm)、表面金属原子数(個/g)、及びPd分散度(%)が示されている。Pd担持量(%)としては、触媒調製前の仕込み値および触媒調製後のICP(Inductively Coupled Plasma)分析法による測定値がそれぞれ示されている。また、平均粒子径(nm)は、複数の画像に存在する複数の触媒金属(ここでは、パラジウム)の径(円相当径)を直接計測して得られた長さ平均径である。一方、円形から逸脱した楕円形のもの、特に長径/短径の比が1.5以上のものに関しては、長径と短径を足して2で除した値を平均粒子径としている。TEM画像に基づく平均粒子径の算出方法については、他の触媒についても同様である。表面金属原子数(個/g)は、粒子表面に露出した触媒金属原子の数である。Pd分散度は、後述する方法によって求められる。
【0091】
上述の図2の結果を考慮すれば、パラジウムの平均粒子径が9.7nm以下のPd担持チタニア触媒では、一般的に用いられるPd/C触媒と比べて4-ClAN(目的生成物)の選択率が高まることがわかる。つまり、一般的に用いられるPd/C触媒よりも4-ClANの選択率を高めるためには、Pd担持チタニア触媒におけるパラジウムの平均粒子径を9.7nm以下とするとよい。また、Pd担持チタニア触媒では、触媒Ta1から触媒Ta5へとパラジウムの平均粒子径が低下するのに伴い、4-ClANの選択率はより高くなることがわかる。
【0092】
また、図4に示すように、滞留時間が同様の値である場合には、Pd担持チタニア触媒におけるパラジウムの平均粒子径が小さくなるのに伴い、4-ClANの消費速度が低下する(すなわち、目的生成物のハロゲンの離脱反応(過度の反応)を抑制できる)ことがわかる。
【0093】
図5は、触媒Ta1-Ta2及びTa4-Ta5について、CO吸着阻害率と触媒表面に露出したパラジウム1原子あたりの4-ClNBの消費速度(すなわち、4-ClANへの転化の速度)との関係を示すグラフである。図6は、触媒Ta1-Ta2及びTa4-Ta5について、Pd担持量とPd分散度との関係を示すグラフである。図7は、触媒Ta1-Ta2及びTa4-Ta5について、Pd担持量とPd粒子径との関係を示すグラフである。
【0094】
水素化触媒における金属分散度(ここでは、Pd分散度)は、公知の手法(ここでは、COパルス法及びTEMによる観察)に基づき算出可能である。
【0095】
COパルス法(CO吸着測定)では、金属が担体表面に球体として担持されていると仮定する。また表面に露出しているPd原子一つにつきCO分子一つが吸着すると仮定し、次の式(1)を用いて金属分散度D(%)を算出した。
【0096】
金属分散度D(%)=(n/N)×100 ・・・(1)
ここで、
n:試料1gあたりの吸着ガスのモル数(mol/g)
N:試料1gあたりの金属のモル数(mol/g)
【0097】
また、試料1gあたりの金属表面積S(m2/g)は、次の式(2)に基づき算出できる。
S=n×6.02×1023×σ×10-18 ・・・(2)
ここで、
n:試料1gあたりの吸着ガスのモル数(mol/g)
σ:金属原子の断面積(nm2/atom)
【0098】
さらに、次の式(3)を用いてCO吸着量Vco(0℃、1気圧における試料1gあたりの吸着ガス体積)を算出できる。
Vco=(Vco_t/W)×(273/(273+t))×(P/101.325) ・・・(3)
ここで、
Vco_t:測定時の温度t(℃)における吸着ガス体積(cm3
W:試料質量(g)
P:測定時の圧力(kPa)
【0099】
さらに、金属1gあたりの面積と体積の比を各々表面積と密度を用いて整理すると次の式(4)が導出され、金属粒子の半径rを算出できる。
r=3C/(S×ρ×108) ・・・(4)
ここで、
C:金属含有率(wt%)
S:試料1gあたりの金属表面積(m/g)
ρ:金属密度(g/cm3
【0100】
表2には、COパルス法に基づき得られた触媒Ta1-Ta5の解析結果を示す。
【0101】
【表2】
【0102】
表2では、触媒Ta1-Ta5の各々について、Pd担持量(%)、粒子径(nm)、CO吸着量(cm3/g)、表面金属原子数(個/g)、平均粒子径(nm)、及びPd分散度(%)が示されている。Pd担持量(%)としては、触媒調製前の仕込み値および触媒調製後のICP分析法による測定値がそれぞれ示されている。CO吸着量は、上記の式(3)から求められる。表面金属原子数(個/g)は、粒子表面に露出した触媒金属原子の数である。平均粒子径(nm)は、上記の式(4)から2rとすることで求められる。Pd分散度は、上記の式(1)から求められる。
【0103】
TEMに基づく金属分散度についても、上記の式(1)を用いて算出できる。この場合、上記の式(2)に示すS(m/g)、σ(nm2)、及びn(mol/g)の関係から、式(2)におけるn(mol/g)に相当するものを算出した。なお、S(m/g)は、TEMに基づき計測された平均粒子径から求められる触媒金属の半径r(m)および試料の金属含有率C(wt%)との関係から、上記の式(4)を用いて算出できる。
【0104】
本実施形態に係る水素化触媒では、金属の担持量が同等の場合、COパルス法に基づく金属分散度は、TEMの観察に基づく金属分散度よりも小さくなる場合がある。そこで、次の式(5)で定められる水素化触媒のCO吸着阻害率に基づき、触媒性能を評価した。
【0105】
【数2】
ここで、
D_CO:COパルス法に基づく分散度
D_TEM:TEM(透過電子顕微鏡)の観察に基づく分散度
【0106】
図5に示すように、CO吸着阻害率の上昇に伴い(すなわち、Ta1、Ta2、Ta4、及びTa5の順に)、4-ClNBの消費速度が増大することを確認できる。
【0107】
図5に示した触媒Ta1、Ta2、Ta4、及びTa5のCO吸着阻害率等について表3にまとめた。
【0108】
【表3】
【0109】
図2に示した結果を考慮すれば、水素化反応に関与し得るパラジウムの減少による触媒活性の低下を回避するために、CO吸着阻害率は61%以下であるとよい。
【0110】
図6にも示すように、Pd担持量(wt%)の減少にともない、金属分散度(%)及びCO吸着阻害率はそれぞれ上昇する傾向にある。また、図7にも示すように、Pd担持量(wt%)の減少にともない、パラジウムの平均粒子径(nm)は減少する傾向にある。
【0111】
図6及び図7では、触媒Ta2と同様に調製された触媒であって、焼成温度のみを400℃に変更したものについて、TEMの観察に基づく金属分散度およびパラジウムの平均粒子径がそれぞれ示されている。これらの結果から、焼成温度の変更によって、金属分散度およびパラジウムの平均粒子径がそれぞれ変化することを確認できる。
【0112】
図8は、触媒Ta4、Tb1、S1、A1、H1、及びPd/C触媒(比較対象触媒)について、水素化反応における液体原料の4-ClNBの転化率と4-ClANの選択率との関係を示すグラフである。
【0113】
図8に示すように、触媒Ta4、Tb1、S1、A1、及びH1による4-ClANの選択率は、4-ClNBの転化率が同様の値である場合には、いずれもPd/C触媒による4-ClANの選択率よりも高いことを確認できる。
【0114】
図9は、触媒Ta2、Ta4、及びPd/C触媒(比較対象触媒)について、(A)水素化反応における4-ClNBの転化率と4-ClANの選択率との関係、及び(B)4-ClNBの転化率と副生成物の選択率との関係を示すグラフである。触媒Ta2及びTa4のパラジウムの平均粒子径は、それぞれ7.0nm及び1.4nmである。
【0115】
図9(A)に示すように、Pd担持チタニア触媒による4-ClANの選択率は、Pd/C触媒と比べて、パラジウムの平均粒子径がより小さいほどより高くなる。一方、図9(B)に示すように、Pd担持チタニア触媒による副生成物の選択率は、Pd/C触媒と比べて、パラジウムの平均粒子径がより小さいほどより小さくなる。
【0116】
図10は、触媒A1、A2、及びPd/C触媒(比較対象触媒)について、(A)水素化反応における4-ClNBの転化率と4-ClANの選択率との関係、及び(B)4-ClNBの転化率と副生成物の選択率との関係を示すグラフである。触媒A1パラジウムの平均粒子径は、3.1nmである。
【0117】
図10(A)に示すように、Pd担持アルミナ触媒による4-ClANの選択率は、パラジウムの平均粒子径が3.1nmの場合、Pd/C触媒と比べてより高くなる。一方、図10(B)に示すように、Pd担持アルミナ触媒による副生成物の選択率は、パラジウムの平均粒子径が3.1nmの場合、Pd/C触媒と比べてより小さくなる。
【0118】
図11は、触媒H1、H2、及びPd/C触媒(比較対象触媒)について、(A)水素化反応における4-ClNBの転化率と4-ClANの選択率との関係、及び(B)4-ClNBの転化率と副生成物の選択率との関係を示すグラフである。触媒H1のパラジウムの平均粒子径は、2.7nmである。
【0119】
図11(A)に示すように、Pd担持チタニアコーティングアルミナ触媒による4-ClANの選択率は、パラジウムの平均粒子径が2.5nmの場合、Pd/C触媒と比べてより高くなる。一方、図11(B)に示すように、Pd担持チタニアコーティングアルミナ触媒による副生成物の選択率は、パラジウムの平均粒子径が2.5nmの場合、Pd/C触媒と比べてより小さくなる。
【0120】
上述の触媒Ta1、Ta2、Ta4、及びTa5の場合(表3参照)と同様に、触媒A1及びH1のCO吸着阻害率等について表4にまとめた。
【0121】
【表4】
【0122】
図12は、触媒Tc1、Tc2、及びPd/C触媒(比較対象触媒)について、(A)水素化反応における4-ClNBの転化率と4-ClANの選択率との関係、及び(B)4-ClNBの転化率と副生成物の選択率との関係を示すグラフである。触媒Tc1及びTc2のパラジウムの平均粒子径は、それぞれ3.2nm及び7.2nmである。
【0123】
図12(A)に示すように、Pd担持チタニア触媒による4-ClANの選択率は、触媒担体用のチタニアを触媒Ta2、Ta4とは異なる製品に変更した場合でも、Pd/C触媒と比べて、パラジウムの平均粒子径がより小さいほどより高くなる。一方、図12(B)に示すように、Pd担持チタニア触媒による副生成物の選択率は、触媒担体用のチタニアを触媒Ta2、Ta4とは異なる製品に変更した場合でも、Pd/C触媒と比べて、パラジウムの平均粒子径がより小さいほどより小さくなる。
【0124】
図13は、触媒Tb1、Tb2、及びPd/C触媒(比較対象触媒)について、(A)水素化反応における4-ClNBの転化率と4-ClANの選択率との関係、及び(B)4-ClNBの転化率と副生成物の選択率との関係を示すグラフである。触媒Tb1及びTb2のパラジウムの平均粒子径は、それぞれ5.8nm及び17.9nmである。
【0125】
図13(A)に示すように、Pd担持チタニア触媒による4-ClANの選択率は、触媒担体用のチタニアを触媒Ta2、Ta4とは異なる結晶型(ルチル100%)に変更した場合でも、Pd/C触媒と比べて高くなるが、パラジウムの平均粒子径を小さくしても選択率の向上は確認されなかった。一方、図13(B)に示すように、Pd担持チタニア触媒による副生成物の選択率は、触媒担体用のチタニアを触媒Ta2、Ta4とは異なる結晶型(ルチル100%)に変更した場合でも、Pd/C触媒と比べて小さくなるが、パラジウムの平均粒子径を小さくしても選択率の低下は確認されなかった。
【0126】
このように、実施形態に係るPd担持チタニア触媒及びPd担持アルミナ触媒は、芳香族ハロニトロ化合物の水素化において、目的生成物のハロゲン化芳香族アミンの選択性がハロゲンの離脱反応(過度の反応)の進行によって低下することを抑制できる。下記参考文献によるPt担持チタニア触媒において同様の効果を得ようとすると最低でも250℃以上での水素還元処理などの活性化処理が必要であるが、実施形態に係るPd担持チタニア触媒及びPd担持アルミナ触媒はそのような活性化処理を行わない場合でも、目的生成物としてのハロゲン化芳香族アミンの選択性を向上させることができるという特徴がある。したがって、実施形態に係るPd担持チタニア触媒及びPd担持アルミナ触媒を用いることにより、水素化有機化合物の製造工程を簡略化しつつ、芳香族ハロニトロ化合物の水素化を実行することができる。
参考文献:Angew. Chem. Int. Ed., 2020, 59, 11824-11829, "Strong Metal-Support Interactions between Pt Single Atoms and TiO2"
【0127】
図14は、触媒S1、S2、及びPd/C触媒(比較対象触媒)について、(A)水素化反応における4-ClNBの転化率と4-ClANの選択率との関係、及び(B)4-ClNBの転化率と副生成物の選択率との関係を示すグラフである。触媒S1、S2のパラジウムの平均粒子径は、それぞれ3.5nm及び5.5nmである。
【0128】
図14(A)に示すように、Pd担持シリカ触媒による4-ClANの選択率は、パラジウムの平均粒子径の変化に拘わらずPd/C触媒と同様である。一方、図14(B)に示すように、Pd担持シリカ触媒による副生成物の選択率は、パラジウムの平均粒子径の変化に拘わらずPd/C触媒と同様である。
【0129】
図15は、触媒S2、触媒Td1、触媒A2、触媒H2、及びPd/C触媒(比較対象触媒)について、水素化反応における液体原料の4-ClNBの転化率とニトロソ体(ここでは、4-クロロニトロソベンゼン)の選択率との関係を示すグラフである。図16は、図15と同じ各触媒について、水素化反応における液体原料の4-ClNBの転化率と4-ClANの選択率との関係を示すグラフである。
【0130】
図15では、触媒S2、触媒Td1、触媒A2、及び触媒H2によるニトロソ体の選択率は、4-ClNBの転化率が同様の値である場合には、いずれもPd/C触媒によるニトロソ体の選択率よりも低いことを確認できる。特に、チタニアを含む触媒Td1を用いた場合には、ニトロソ体はほとんど生成しない。
【0131】
図16では、触媒Td1による4-ClNBの選択率は、4-ClNBの転化率が同様の値である場合には、Pd/C触媒による4-ClNBの選択率よりも高いことを確認できる。また、触媒S1による4-ClANの選択率は、4-ClNBの一部の転化率(約80%)においてPd/C触媒による4-ClANの選択率よりもやや低い値が示されているものの、概ねPd/C触媒による4-ClANの選択率と同等かそれ以上であることを確認できる。
【0132】
図17及び図18は、チタニアを含む担体を用いた触媒の作用(反応特性)に対する担体焼成温度(500℃、600℃、700℃、800℃、900℃、950℃)の影響を示すグラフである。図17には、各担体焼成温度の触媒Ta2について、水素化反応における液体原料の4-ClNBの転化率とニトロソ体(ここでは、4-クロロニトロソベンゼン)の選択率との関係が示されている。図18には、図17と同じ各担体焼成温度の触媒Ta2について、水素化反応における液体原料の4-ClNBの転化率と4-ClANの選択率との関係が示されている。
【0133】
図17では、触媒Ta2における担体焼成温度が500℃、600℃、及び700℃ではニトロソ体の生成が殆ど見られない(ニトロソ体の選択率は略ゼロである)。一方、担体をより高温で焼成したもの(800℃以上)については、ニトロソ体の生成が確認される。特に、担体焼成温度が900℃及び950℃(900℃以上)の場合には、ニトロソ体の生成がより顕著となり、触媒Ta2によるニトロソ体の選択率は、Pd/C触媒によるニトロソ体の選択率と同等かそれ以上となる。
【0134】
図18では、いずれの担体焼成温度についても、触媒Ta2による4-ClANの選択率は、Pd/C触媒による4-ClANの選択率よりも高い傾向にあることを確認できる。
【0135】
図19は、図17及び図18と同じ各担体焼成温度における触媒Ta2の担体について、X線回折法(XRD)に基づくX線回折パターンを示すグラフである。X線回折装置としては、株式会社リガク製の全自動多目的水平X線解析装置(SmartLab X-RAY DIFFRACTOMETER)を使用した。また、X線回折法における定量分析は、RIR(Reference Intensity Ratio:参照強度比)法により行った。
【0136】
図19に示すX線回折パターンでは、チタニアの存在を示すアナターゼ(anatase)型結晶相の{101}面に相当するピーク(X線源にCuKα線を用いた場合に回折角2θ=25.3°付近に出現)が検出された。一方、ニトロソ体が生成された担体焼成温度では(800℃、900℃、950℃)、アナターゼ型のピークに加え、ルチル(rutile)型結晶相の{110}面に相当するピーク(X線源にCuKα線を用いた場合に回折角2θ=27.4°付近に出現)が検出された。ニトロソ体の生成が顕著であった担体焼成温度900℃、950℃では、アナターゼ型のピークが小さくなる一方、ルチル型に起因するピーク強度が著しく高い。これにより、ルチル型結晶相の存在割合とニトロソ体の生成挙動には、相関関係があることが判る。換言すれば、チタニアを含む触媒では、結晶相としてアナターゼ型結晶相の割合を増大させることにより、ニトロソ体の生成を抑制することが可能である。
【0137】
表5には、触媒Ta2の各担体焼成温度(500℃、600℃、700℃、800℃、900℃、950℃)に関するX線回折のデータから、RIR法に基づき算出した各結晶相(アナターゼ型、ルチル型)の割合が示されている。
【0138】
【表5】
【0139】
触媒Ta2に関し、上述の図17及び図18にそれぞれ示した4-ClANの選択率及びニトロソ体の選択率と、表5に示したアナターゼ型結晶相の割合とを考慮すれば、チタニアを含む担体のアナターゼ型結晶相の割合が38%以上の場合には、Pd/C触媒と比べて、ニトロソ体の生成が抑制されつつ、4-ClAN(目的生成物)の収率が向上していることがわかる。チタニアを含む担体の焼成温度を900℃以下とすることにより、アナターゼ型の割合を38%以上とすることができる。
【0140】
図20及び図21は、チタニアを含む担体を用いた触媒の作用に対する担体の平均細孔径の影響を示すグラフである。図20では、触媒Td1、触媒Ta2、触媒Te1、及びPd/C触媒(比較対象触媒)について、水素化反応における液体原料の4-ClNBの転化率とニトロソ体(ここでは、4-クロロニトロソベンゼン)の選択率との関係が示されている。図21では、図20と同じ各触媒について、水素化反応における液体原料の4-ClNBの転化率と4-ClANの選択率との関係が示されている。
【0141】
表6には、触媒Td1、触媒Ta2、及び触媒Te1で使用される担体の平均細孔径がそれぞれ示されている。各平均細孔径は、水銀圧入法に基づき測定した。また、細孔分布測定装置として、株式会社島津製作所製のマイクロメリティックス 自動水銀ポロシメータ オートポアIV9500を用いた。
【0142】
【表6】
【0143】
図20では、触媒Td1、触媒Ta2、及び触媒Te1によるニトロソ体の選択率は、4-ClNBの転化率が同様の値である場合には、いずれもPd/C触媒によるニトロソ体の選択率よりも低いことを確認できる。特に、平均細孔径のより小さい触媒Td1及び触媒Ta2を用いた場合には、ニトロソ体はほとんど生成しない。
【0144】
図21では、触媒Td1、触媒Ta2、及び触媒Te1による4-ClANの選択率は、4-ClNBの転化率が同様の値である場合には、Pd/C触媒による4-ClANの選択率よりも高い傾向にあることを確認できる。
【0145】
チタニアを含む担体を用いた触媒Td1、触媒Ta2、及び触媒Te1に関し、上述の図20及び図21にそれぞれ示した4-ClANの選択率及びニトロソ体の選択率と、表2に示した担体の平均細孔径とを考慮すれば、チタニアを含む担体の平均細孔径が約50nm以下である場合には、Pd/C触媒と比べて、ニトロソ体の生成が抑制されつつ、4-ClAN(目的生成物)の収率が向上していることがわかる。また、触媒Td1及び触媒Dのように平均細孔径を約18nm以下とすることが、ニトロソ体の生成の抑制および4-ClAN(目的生成物)の収率向上の観点からより好ましいことがわかる。また、触媒Td1のように平均細孔径を約7nm以下とすることが、ニトロソ体の生成の抑制および4-ClAN(目的生成物)の収率向上の観点から更に好ましいことがわかる。また、表2に示すように、チタニアを含む担体ではその平均細孔径が、4-ClNBの長手方向の分子長さ(基質長さ)に対して78倍以下であるとよい。これにより、ニトロソ体の生成を効果的に抑制しつつ、目的生成物の4-ClANの収率を安定的に向上させることが可能となる。また、チタニアを含む担体の平均細孔径は、より好ましくは、基質長さに対して28倍以下、更に好ましくは、11倍以下であるとよい。
【0146】
このように、実施形態に係る水素化触媒は、特に、芳香族ハロニトロ化合物の水素化に用いられることにより、従来の芳香族ハロニトロ化合物の水素化に用いられていた触媒にはない特異な効果を奏する。より詳細には、水素化触媒は、芳香族ハロニトロ化合物の水素化において、副生成物であるニトロソ体の生成を抑制しつつ、脱ハロゲン化抑制剤を必要とすることなく、目的生成物のハロゲン化芳香族アミン(水素化有機化合物)の収率を向上させることができる。
【0147】
以上、本発明を特定の実施形態に基づいて説明したが、これらの実施形態はあくまでも例示であって、本発明はこれらの実施形態によって限定されるものではない。上述の実施形態に示した水素化触媒及びこれを用いた水素化有機化合物の製造方法の各構成要素は、必ずしも全てが必須ではなく、少なくとも当業者であれば本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜取捨選択することが可能である。
【符号の説明】
【0148】
1 :フロー式有機合成システム
2 :流通式固定床反応器
3 :触媒層
4 :電気炉
11:液体原料タンク
12:液体原料用ポンプ
13:予熱/予冷却器
21:熱交換器
25:メインドラム
41:製品回収ドラム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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