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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141422
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】光硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 220/26 20060101AFI20241003BHJP
   C09J 4/02 20060101ALI20241003BHJP
   C09J 4/00 20060101ALI20241003BHJP
   C09D 4/02 20060101ALI20241003BHJP
   C09D 4/00 20060101ALI20241003BHJP
   C08F 2/46 20060101ALI20241003BHJP
   C08L 33/14 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C08F220/26
C09J4/02
C09J4/00
C09D4/02
C09D4/00
C08F2/46
C08L33/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053059
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】井川 雅資
【テーマコード(参考)】
4J002
4J011
4J038
4J040
4J100
【Fターム(参考)】
4J002BG071
4J002GF00
4J002GH01
4J002GJ01
4J011AA05
4J011AC04
4J011QA12
4J011SA06
4J011UA01
4J011VA01
4J011WA01
4J011WA06
4J038FA111
4J038FA191
4J038GA01
4J038GA06
4J038GA13
4J038NA01
4J038NA10
4J038NA12
4J038PA17
4J040FA131
4J040GA02
4J040GA07
4J040GA23
4J040JA01
4J040JA09
4J040JB07
4J040LA06
4J040LA07
4J100AL62Q
4J100AL66P
4J100BA02P
4J100CA04
4J100CA23
4J100DA44
4J100DA61
4J100JA01
4J100JA03
4J100JA32
(57)【要約】
【課題】光硬化性を有し、硬化時には接着性を発揮するとともに、硬化後は任意のタイミングで熱処理を施すことで接着強度を簡便に低下させる易解体性を示し、かつ加熱処理による外観の劣化を低減させた光硬化性組成物を提供すること。
【解決手段】特定の官能基(a)を2つ以上有する(メタ)アクリル酸エステル単量体Aと、酸性官能基を有するビニル単量体Bと、を含み、単量体の総質量に対し、前記(メタ)アクリル酸エステル単量体Aの割合が10質量%以上70質量%以下であり、前記ビニル単量体Bの割合が0.5質量%以上15質量%以下である、光硬化性組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(a)で表される官能基(a)を2つ以上有する(メタ)アクリル酸エステル単量体Aと、酸性官能基を有するビニル単量体Bと、を含み、
単量体の総質量に対し、前記(メタ)アクリル酸エステル単量体Aの割合が10質量%以上70質量%以下であり、前記ビニル単量体Bの割合が0.5質量%以上15質量%以下である、光硬化性組成物。
【化1】
(前記式(a)中、Oは酸素原子、Xは酸素原子、硫黄原子又はN(R)を示し、Nは窒素原子、Rは水素原子又はアルキル基を示し、Zは水素原子又はメチル基を示し、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~10のアルキル基を示す。)
【請求項2】
前記ビニル単量体Bが、カルボキシ基又はスルホ基を有するビニル単量体である、請求項1に記載の光硬化性組成物。
【請求項3】
前記式(a)におけるXが酸素原子である、請求項1に記載の光硬化性組成物。
【請求項4】
前記(メタ)アクリル酸エステル単量体Aの分子量を、当該(メタ)アクリル酸エステル単量体Aの分子内に含まれる前記官能基(a)の数で除した値が50以上300以下である、請求項1に記載の光硬化性組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の光硬化性組成物からなる接着剤組成物。
【請求項6】
透明基材と、請求項5に記載の接着剤組成物の硬化物からなる接着層と、被着体とを含み、前記透明基材と前記被着体とが前記接着層により接合されている、積層体。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか一項に記載の光硬化性組成物からなる塗料組成物。
【請求項8】
被着体、及び請求項7に記載の塗料組成物の硬化物からなる層を含む、積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化性を有し、硬化時には接着性を発揮し、硬化後は任意のタイミングで熱処理を施すことで接着強度を簡便に低下させることができる光硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
産業上の様々な要請から、各分野で刺激応答材料が注目を浴びている。とりわけ接着剤においては、接着後の任意のタイミングで何らかの刺激を与えることで容易に分解、解体できる易解体技術が、製造工程の省力化や、複合体の分別再利用の観点で期待されている。
【0003】
特許文献1には、特定の分子構造を有するエポキシ樹脂を用いることで、使用中の接着性を損なうことなく、使用後にはエネルギー照射によって接着力を低下させられる易解体性接着剤が報告されている。この易解体性接着剤は、接着層に発泡剤や離型剤を配合しなくても易解体性を発揮するため、経済的あるいは使用時の接着性の観点で実用的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-111716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、リワークやリユースのように、解体したのちの基材を再利用する観点では、特に透明な基材の場合において、易解体処理の際に接着層の変色、発泡といった外観の劣化が目立つと、再利用することができず、易解体性の恩恵を十分に享受することが困難であった。
【0006】
本発明の目的は、光硬化性を有し、硬化時には接着性を発揮するとともに、硬化後は任意のタイミングで熱処理を施すことで接着強度を簡便に低下させる機能(易解体性)を示し、かつ加熱処理による外観の劣化を低減させた光硬化性組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の[1]~[8]を要旨とする。
[1]下記一般式(a)で表される官能基(a)を2つ以上有する(メタ)アクリル酸エステル単量体Aと、酸性官能基を有するビニル単量体Bと、を含み、
単量体の総質量に対し、前記(メタ)アクリル酸エステル単量体Aの割合が10質量%以上70質量%以下であり、前記ビニル単量体Bの割合が0.5質量%以上15質量%以下である、光硬化性組成物。
【0008】
【化1】
【0009】
(前記式(a)中、Oは酸素原子、Xは酸素原子、硫黄原子又はN(R)を示し、Nは窒素原子、Rは水素原子又はアルキル基を示し、Zは水素原子又はメチル基を示し、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~10のアルキル基を示す。)
[2]前記ビニル単量体Bが、カルボキシ基又はスルホ基を有するビニル単量体である、[1]に記載の光硬化性組成物。
[3]前記式(a)におけるXが酸素原子である、[1]又は[2]に記載の光硬化性組成物。
[4]前記(メタ)アクリル酸エステル単量体Aの分子量を、当該(メタ)アクリル酸エステル単量体Aの分子内に含まれる前記官能基(a)の数で除した値が50以上300以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の光硬化性組成物。
[5][1]~[4]のいずれかに記載の光硬化性組成物からなる接着剤組成物。
[6]透明基材と、[5]に記載の接着剤組成物の硬化物からなる接着層と、被着体とを含み、前記透明基材と前記被着体とが前記接着層により接合されている、積層体。
[7][1]~[4]のいずれかに記載の光硬化性組成物からなる塗料組成物。
[8]被着体、及び[7]に記載の塗料組成物の硬化物からなる層を含む、積層体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、硬化後の任意のタイミングで接着強度を簡便に低下させる易解体性を示し、かつ加熱処理による外観の劣化を低減した光硬化性組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において、「構成単位」とは、重合反応によって単量体から直接形成された化学構造、及び重合反応によって得られた重合体を化学反応で処理することによって、前記重合体が有する前記構成単位の構造の一部が別の構造に変換された化学構造を意味する。
「単量体」とは、重合性を有する化合物(重合性単量体)を意味し、「モノマー」とも言う。
「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及びメタクリレートの総称である。
「(メタ)アクリル系共重合体」は、構成単位の少なくとも一部が(メタ)アクリル系単量体由来の構成単位である共重合体を意味する。
【0012】
[光硬化性組成物]
本発明の光硬化性組成物は、下記式(a)で表される官能基(a)(以下、単に「官能基(a)」ともいう。)を2つ以上有する(メタ)アクリル酸エステル単量体A(以下、単に「単量体A」ともいう。)と、酸性官能基を有するビニル単量体B(以下、単に「単量体B」ともいう。)とを含む。
本発明の光硬化性組成物は、接着剤組成物や塗料組成物として好適に使用できる。
【0013】
【化2】
【0014】
前記式(a)中、Oは酸素原子、Xは酸素原子、硫黄原子又はN(R)を示し、Nは窒素原子、Rは水素原子又はアルキル基を示し、Zは水素原子又はメチル基を示し、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~10のアルキル基を示す。
【0015】
光硬化性組成物は、重合反応性化合物と光重合開始剤とを含有する。光エネルギーを照射する前は液状を示すが、光エネルギーを照射することで重合反応が開始し、重合の進行とともに硬化して固化する性質を示す。ここで、光エネルギーとは電子線、紫外線、可視光線などを意味する。
【0016】
重合反応性化合物とは、分子中にラジカル重合性結合及びカチオン重合性結合の少なくとも一方を有する単量体を指す。硬化速度が速いことから、ラジカル重合性結合を有する単量体の使用が好ましく、耐光性に優れ、光エネルギーによる分子の劣化が進行しにくい点で、(メタ)アクリル酸エステル単量体の使用がより好ましい。
【0017】
(単量体A)
本発明の光硬化性組成物は、官能基(a)を2つ以上有する(メタ)アクリル酸エステル単量体Aを含有する。
【0018】
官能基(a)は適度な熱分解性を示し、光硬化後に加熱処理を施すことで硬化物中の三次元網目構造を容易に破壊することができる。その結果、硬化物の強度を著しく低下させることができるため、後述する接着性樹脂組成物に易解体性を付与することが可能となる。
【0019】
式(a)中のXは、酸素原子(エーテル系酸素原子;-O-)、硫黄原子(スルフィド系硫黄原子;-S-)、-N(R)-(Nは窒素原子を示し、Rは水素原子又はアルキル基を示す。)のいずれであってもよいが、これらの中でも易解体性の点で、酸素原子が好ましい。すなわち、式(a)のXがOであるアセタール構造を有することが好ましい。
【0020】
式(1)中、R及びRにおける炭素数1~10のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、2-エチルヘキシル基等が挙げられる。
及びRにおけるアルキル基の炭素数は、易解体性の点で1~4が好ましく、1~3がより好ましく、1又は2が更に好ましい。
【0021】
及びRの好ましい組み合わせとしては、水素原子とメチル基との組み合わせ、メチル基とメチル基との組み合わせ、水素原子と炭素数2~10のアルキル基(以下、「長鎖アルキル基」と記載する場合がある。)との組み合わせ、メチル基と長鎖アルキル基との組み合わせ、水素原子と水素原子との組み合わせ、長鎖アルキル基と長鎖アルキル基との組み合わせ等が挙げられる。これらの中でも、易解体性の点で、水素原子とメチル基との組み合わせが好ましい。
単量体Aは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
単量体Aに2つ以上含まれる官能基(a)は、適度な導入密度であることが好ましい。すなわち、単量体Aの分子量を、当該単量体Aに含まれる官能基(a)の数で除した値は、50以上が好ましく、75以上がより好ましく、100以上が更に好ましい。また、前記単量体Aの分子量を、当該単量体Aに含まれる官能基(a)の数で除した値は、300以下が好ましく、250以下がより好ましく、200以下が更に好ましい。
単量体Aに2つ以上含まれる官能基(a)の導入密度が適度であれば、光硬化性組成物を硬化させた際の接着力と、易解体性を両立させやすいため、好適である。
【0023】
光硬化性組成物に含まれる単量体の総質量に対して単量体Aが占める割合は、10質量%以上であり、15質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましい。また、光硬化性組成物に含まれる単量体の総質量に対して単量体Aが占める割合は、70質量%以下であり、65質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましい。
単量体の総質量に占める単量体Aの割合が前記の範囲内であれば、光硬化性組成物の硬化物を接着剤として利用した際に、熱処理により接着力を任意のタイミングで低下させられるため、易解体性に優れる。
【0024】
(単量体B)
本発明の光硬化性組成物は、酸性官能基を有するビニル単量体Bを含有する。
単量体Aの熱分解性は、酸性官能基が系中に存在することで向上する。すなわち、加熱処理を施した際に官能基(a)の分解が速やかに進むため、酸性官能基の量により易解体性を調整することができる。
単量体Bが有する酸性官能基としては、例えば、カルボキシ基、スルホ基、ヒドロキシル基、チオール基等が挙げられる。単量体Bが有する酸性官能基は、1種でもよく、2種以上でもよいが、1種が好ましい。
【0025】
単量体Bとしては、例えば、カルボキシ基含有ビニル単量体、酸無水物基含有ビニル単量体、スルホ基含有ビニル単量体、ヒドロキシ基含有ビニル単量体、チオール基含有ビニル単量体等が挙げられる。
カルボキシ基含有ビニル単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルヘキサヒドロフタル酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフタル酸、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルフタル酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルマレイン酸、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルマレイン酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルコハク酸、クロトン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、マレイン酸モノメチル、イタコン酸モノメチル等が挙げられる。
酸無水物基含有ビニル単量体としては、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸等が挙げられる。
スルホ基含有ビニル単量体としては、例えば、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸等が挙げられる。
ヒドロキシ基含有ビニル単量体としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート等が挙げられる。
チオール基含有ビニル単量体としては、例えば、アクリル酸2-(メルカプトアセトキシ)エチル等が挙げられる。
単量体Bは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
単量体Bとしては、単量体Aの熱分解性が良好となるため、カルボキシ基含有ビニル単量体、酸無水物基含有ビニル単量体又はスルホ基含有ビニル単量体が好ましく、カルボキシ基含有ビニル単量体又はスルホ基含有ビニル単量体がより好ましく、工業的に入手可能な品種が多く硬化液の設計自由度を担保しやすい点で、カルボキシ基含有ビニル単量体が更に好ましい。
選択するカルボキシ基含有ビニル単量体や酸無水物基含有ビニル単量体の種類によって硬化物の接着性を調整することも可能であるが、特に理由がない場合は、原料調達の容易さの点で(メタ)アクリル酸や無水マレイン酸を選択することが好ましい。
【0027】
光硬化性組成物に含まれる単量体の総質量に対して単量体Bが占める割合は、0.5質量%以上であり、1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましい。また、光硬化性組成物に含まれる単量体の総質量に対して単量体Bが占める割合は、15質量%以下であり、10質量%以下が好ましく、8質量%以下がより好ましい。
単量体の総質量に対する単量体Bの割合が前記下限値以上であれば、光硬化性組成物の硬化物を接着剤として利用した際に、熱処理により接着力を任意のタイミングで低下させられるため、易解体性に優れる。単量体の総質量に対する単量体Bの割合が前記上限値以下であれば、光硬化性組成物の硬化物の接着力が優れる。
【0028】
(その他の単量体)
本発明の光硬化性組成物は、単量体A及び単量体Bに加えて、単量体A及び単量体B以外のその他の単量体を含有してもよい。
その他の単量体としては、例えば、単官能(メタ)アクリレート、エポキシ基含有ビニル単量体、ビニル単量体、多官能性のビニル単量体等が挙げられる。
【0029】
単官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、i-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-ラウリル(メタ)アクリレート、n-ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
エポキシ基含有ビニル単量体としては、例えば、グリジシル(メタ)アクリレート、グリジシルα-エチルアクリレート、3,4-エポキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
ビニル単量体としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、(メタ)アクリロニトリル、塩化ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等が挙げられる。
多官能性のビニル単量体としては、例えば、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、N,N’-メチレンビス(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。硬化物の接着力が調整しやすいため、特に多官能性のビニル単量体の使用が好ましい。
【0030】
(光重合開始剤)
本発明の光硬化性組成物には、光重合開始剤を含有させることができる。光重合開始剤は、電子線、紫外線、可視光線等の照射によって結合が開裂し、重合反応を開始させるラジカルを発生する化合物である。重合に用いる装置コストや生産性(反応時間)の観点から、紫外線照射によりラジカルが発生する化合物を用いることが好ましい。
【0031】
光重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、4,4-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、2,4,6-トリメチルベンゾフェノン、メチルオルソベンゾイルベンゾエート、4-フェニルベンゾフェノン、t-ブチルアントラキノン、2-エチルアントラキノン等、公知のものを用いることができる。光重合開始剤は、1種を単独で用いてもよく、吸収波長の異なる2種以上を併用してもよい。
【0032】
本発明の光硬化性組成物は、硬化物の接着力や易解体性を損なわない範囲で、増粘剤、レベリング剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、溶剤、無機フィラー等の各種配合物を含んでもよい。
【0033】
[積層体]
本発明の一実施形態に係る積層体は、透明基材と、本発明の光硬化性組成物(接着剤組成物)の硬化物からなる接着層と、被着体とを含み、前記透明基材と前記被着体が前記接着層により接合されている積層体(以下、「積層体(I)」ともいう。)が好ましい。
【0034】
透明基材の材質としては、本発明の光硬化性組成物を硬化させるための光を透過するものであれば特に制限はないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリスチレン等のスチレン系樹脂、ガラス等の透明な無機材料が挙げられる。
【0035】
後述するように、積層体(I)の解体時に加熱処理を施すことから、透明基材は加熱処理温度への耐久性を持つものが好ましい。この観点では、透明基材としては、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ガラス等の透明な無機材料がより好ましく、結晶性を示すポリエステル系樹脂、ガラス等の透明な無機材料が更に好ましい。
【0036】
透明基材の一部に、種々の加工による改質を施したものを用いることもできる。加工方法の具体例としては、例えば、塗布によるプライマー処理、金属表面の耐蝕加工、化学的な薬剤又はプラズマによるエッチング加工、メッキ加工、レーザー光等による光学的な加工、切削又は研磨等の機械的加工が挙げられる。
【0037】
被着体の材質としては、本発明の光硬化性組成物の硬化物と接着できるものであれば特に制限はなく、例えば前記透明基材で例示した材質のほか、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体等のポリオレフィン系樹脂、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化エチレン等のポリフッ化エチレン系樹脂、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン9、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6T、ナイロン9T、ナイロン10T等のナイロン系樹脂、ABS、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリオキシメチレン系樹脂、ポリイミド系樹脂等の合成樹脂類、金属、セラミックスが挙げられる。
後述するように、積層体(I)の解体時に加熱処理を施すことから、被着体は加熱処理温度への耐久性を持つものが好ましい。
【0038】
積層体(I)の製造方法としては、本発明の光硬化性組成物を被着体に塗布し、次いで透明基材を重ねて貼り合わせ、光を照射して硬化させる方法、本発明の光硬化性組成物を透明基材に塗布し、次いで被着体に重ねてから光を照射して硬化させる方法等が挙げられる。
【0039】
光照射は、例えば、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ等を用いる。
光照射エネルギー量は、100~10000mJ/cmが好ましい。
光硬化性組成物を利用する方法は、熱硬化性組成物を利用する方法に比べて加熱処理や硬化後の冷却を必要とせず、短時間で硬化することができるため、生産性に優れる。
【0040】
[積層体(I)の解体方法]
本発明の光硬化性組成物は、硬化後に加熱処理を施すことで、官能基(a)が速やかに分解する。すなわち、積層体(I)における光硬化性組成物の硬化物からなる接着層は、熱応答性を有する。
【0041】
硬化物を構成する三次元網目構造のうち、単量体Aに由来する単量体単位が熱で分解することにより、三次元網目構造の一部が崩壊する。そのため、硬化物の凝集破壊を起こしやすくなり、強固に接着された積層体(I)を容易に解体することが可能となる。つまり、積層体(I)は、光硬化性組成物の硬化物の熱応答性を利用して任意のタイミングで接着力を低下させ、容易に解体できることができ、易解体性を有する。
【0042】
更に驚くべきことに、本発明の光硬化性組成物の硬化物は、熱処理による外観変化が乏しい。すなわち、熱処理による硬化物中の発泡や変色が起こりづらく、解体後の透明基材の外観を損なわない。これは、解体後の透明基材のリユースを想定した場合に好適な性質である。
【0043】
加熱処理の適切な温度範囲としては、80℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましく、120℃以上が更に好ましい。また加熱温度は、200℃以下が好ましく、180℃以下がより好ましく、160℃以下が更に好ましい。加熱温度が前記下限値以上であれば、積層体の長期耐久性を担保しやすくなる。加熱温度が前記上限値以下であれば、被着体や透明基材の劣化が起こりにくくなる。
【0044】
本発明の他の実施形態に係る積層体は、被着体と、本発明の光硬化性組成物(塗料組成物)の硬化物からなる層とを含む積層体(以下、「積層体(II)」ともいう。)である。積層体(II)としては、被着体の表面に塗料組成物の硬化物からなる層が形成された積層体が好ましい。
積層体(II)としては、塗料組成物からなる層の表面にさらに透明基材からなる層を設けて塗料組成物を硬化させてもよい。あるいは、本発明の塗料組成物の硬化物からなる層の表面に、さらに他の塗料組成物を塗布し硬化させて積層してもよい。
【0045】
積層体(II)における被着体としては、積層体(I)の被着体と同じものを例示できる。また、積層体(II)における透明基材としては、積層体(I)の透明基材と同じものを例示できる。
積層体(II)における他の塗料組成物としては、特に制限はなく、アクリル系塗料、ウレタン系塗料、シリコン系塗料、フッ素系塗料など、工業的に入手できるものであれば何でもよいが、本発明の光硬化性組成物の硬化物からなる層との密着性の観点で、アクリル系塗料、ウレタン系塗料が好ましい。
【0046】
積層体(II)の製造方法としては、例えば、本発明の光硬化性組成物を被着体に塗布し、光を照射して硬化させる方法が挙げられる。
積層体(II)の製造における光照射は、積層体(I)の製造と同様に行うことができる。
本発明の光硬化性組成物の硬化物層の表面にさらに透明基材及び/又は他の塗料組成物の硬化層を設ける方法としては、特に限定されず、本発明の光硬化性組成物を硬化させる前に積層してから光を照射して硬化させてもよいし、光を照射した後の硬化物層に積層してもよい。
【実施例0047】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。
尚、以下の記載において「部」及び「%」は、「質量部」及び「質量%」を意味する。
【0048】
[接着性の評価方法]
テンシロン万能試験機(オリエンテック(株)製、商品名:RTC-1250A)を用いて、23℃雰囲気下、剥離速度300mm/minで、基材/光硬化性組成物の硬化物(接着層)/被着体の三層からなる積層体サンプルについてせん断剥離試験を実施し、その破壊形態で接着性を評価した。
なお、前記積層体サンプルは後述の実施例1に記載の方法で作製した。
【0049】
破壊形態は、硬化物の破壊をきっかけに剥離したものを「凝集破壊」、基材又は被着体の破断をきっかけに剥離したものを「材料破壊」と判定した。
材料破壊したものは、基材と接着層の界面強度、接着層と被着体の界面強度、接着層の凝集力のいずれもが十分強固な結果と考えられる。一方で、凝集破壊は、接着層の凝集力が低いために発生すると考えられる。すなわち、接着性の評価基準を以下のように定めた。
<評価基準>
○:積層体サンプルが材料破壊するほど接着性に優れる
×:積層体サンプルが凝集破壊するため接着性に劣る
【0050】
[耐熱性の評価方法]
(加熱処理)
130℃に設定したイナートオーブン(ヤマト科学(株)製、商品名:DN611I)にて、前記接着性の評価方法と同じ方法で作製した積層体サンプルを窒素雰囲気下で加熱処理した。加熱時間はオーブンにサンプルを投じた時点から起算して30分間とし、サンプルは慎重に取り出した後、室温(23℃)にて一晩空冷した。
【0051】
(熱処理後の外観変化)
前記加熱処理を施した積層体を目視で観察し、接着層の外観変化の有無を評価し、以下の基準で評価した。
<評価基準>
○:接着層の外観に目立った変化がない
×:接着層に、変色や発泡等の外観変化が見られた
【0052】
[易解体性の評価方法]
加熱処理を施した積層体サンプルについて、前記「接着性の評価方法」と同じ方法でせん断剥離試験を実施し、その剥離力と破壊形態を評価した。
<評価基準>
◎:積層体サンプルが凝集破壊し、かつその剥離力が0.7MPa以下と低く、易解体性に優れる
○:積層体サンプルが凝集破壊し、易解体性を示すが、その剥離力は0.7MPa超である
×:積層体サンプルが材料破壊し、易解体性を示さない
【0053】
[材料の略号]
実施例、製造例及び表で用いた化合物の略号を以下に示す。
BDVE:1,4-ブタンジオールジビニルエーテル(シグマアルドリッチジャパン社製)
BDVEDA:1,4-ブタンジイルビスオキシエチリデンアクリレート(後述する製造例Aで合成した生成物)
C6DA:1,6-ヘキサンジオールジアクリレート(東京化成社製)
AAc:アクリル酸(富士フィルム和光純薬社製)
Omni184:1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルメタノン(商品名:「Omnirad184」、IGM RESINS社製)
TA-100:ベンジル(4-ヒドロキシフェニル)メチルスルホニウム トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート(商品名:熱酸発生剤「TA-100」、サンアプロ社製)
【0054】
<製造例A>
BDVE74.7部(0.525mol)、ヒドロキノン0.13部、フェノチアジン0.27部を室温で撹拌して均一になるまで混合した。空気(10mL/min)を吹き込みながら、アクリル酸72.1部(1.0mol)を、反応液の温度が60℃以下を保つようにして滴下した。滴下後、反応液の温度を80℃まで上げて、6時間反応させた。反応液にt-ブチルメチルエーテル264.5部(3.0mol)を加えて混合し、有機相を20質量%炭酸カリウム水溶液150部で1回洗浄した。有機相にジブチルヒドロキシトルエン0.1部を加え、エバポレータにより低沸分を留出させた。得られた残渣を減圧蒸留して、ブタンジオールジビニルエーテルジアクリレート(BDVEDA)を得た。
BDVEDAの分子量は226.3、官能基数は2であるため、分子量を官能基で除した値は113.2である。
【0055】
[実施例1]
(光硬化性組成物の調製)
単量体Aとして製造例Aで合成したBDVEDAを47.6部、1,6-ヘキサンジオールジアクリレートを47.6部、単量体Bとしてアクリル酸を4.8部、光重合開始剤として1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン3部を混合して、光硬化性組成物を調製した。
【0056】
(積層体サンプルの作製)
調製した前記光硬化性組成物を、厚さ188μmのPETフィルム(東洋紡社製、コスモシャインA4300)の上に流延した後に、流延された光硬化性組成物の表面にもう一枚のPETフィルムで重ねて挟み込み、ケミカルランプを用いて積算光量2000mJ/cmの光を照射して硬化させ、基材/光硬化性組成物の硬化物(接着層)/被着体の三層からなる積層体サンプルを作製した。
得られた積層体サンプルについて、接着性、耐熱性及び易解体性を評価した。
【0057】
[実施例2~5、比較例1~5]
光硬化性組成物の配合を表1のとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして光硬化性組成物を得た。その後、実施例1と同様の方法により、積層体サンプルを作製し、接着性、耐熱性及び易解体性を評価した。
【0058】
各例の光硬化性組成物の配合と評価結果を表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
官能基(a)を2つ以上有する単量体Aと、酸性官能基を有する単量体Bを所定量含む光硬化性組成物を用いた実施例1~5は、接着層(硬化物)の接着力に富み、かつ熱処理による易解体性を示した。また、熱処理による接着層の外観変化がなく、耐熱性も良好であった。
【0061】
単量体Bの量が適切な範囲から外れた光硬化性組成物を用いた比較例1~2は、接着層(硬化物)の接着力又は熱処理後の易解体性のいずれかが乏しかった。
【0062】
官能基(a)を2つ以上有する単量体Aの量が適切な範囲から外れた光硬化性組成物を用いた比較例3~4は、いずれも熱処理後の易解体性が乏しかった。
【0063】
酸性官能基を有する単量体Bの代わりに、加熱処理により酸を発生する配合物を配合した光硬化性組成物を用いた比較例5は、接着層(硬化物)の接着力に劣り、更には熱処理後に硬化物が黒色に変色したため耐熱性も不十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によれば、硬化後の任意のタイミングで接着強度を簡便に低下させる易解体性を示し、かつ加熱処理による外観の劣化が乏しい光硬化性組成物を提供することができる。したがって、本発明の光硬化性組成物は、易解体性が求められる接着剤又は塗料の分野において好適に利用でき、産業上極めて重要である。