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特開2024-141463ジオポリマー組成物及びその製造方法、ジオポリマー硬化体及びその製造方法、並びにジオポリマー組成物調製用キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141463
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】ジオポリマー組成物及びその製造方法、ジオポリマー硬化体及びその製造方法、並びにジオポリマー組成物調製用キット
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/26 20060101AFI20241003BHJP
   C04B 18/08 20060101ALI20241003BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20241003BHJP
   C04B 22/06 20060101ALI20241003BHJP
   C04B 22/10 20060101ALI20241003BHJP
   C04B 24/06 20060101ALI20241003BHJP
   C04B 22/16 20060101ALI20241003BHJP
   C04B 24/10 20060101ALI20241003BHJP
   C04B 24/18 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C04B28/26
C04B18/08 Z
C04B18/14 A
C04B22/06 Z
C04B22/10
C04B24/06 A
C04B22/16
C04B24/10
C04B24/18 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053137
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(72)【発明者】
【氏名】久保 雄暉
(72)【発明者】
【氏名】石田 剛朗
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112MA01
4G112MB01
4G112MB02
4G112MB06
4G112MB42
4G112PA03
4G112PA10
4G112PA27
4G112PA29
4G112PB10
4G112PB23
(57)【要約】
【課題】高い圧縮強度と適切なフレッシュ性状を十分に維持しつつ、安全性を向上することが可能なジオポリマー組成物の製造方法を提供すること。
【解決手段】フライアッシュ及び高炉スラグ微粉末を含む無機フィラー、アルカリ源、水、遅延剤、減水剤、並びに消泡剤を含む原料を混合してジオポリマー組成物を得る工程を有し、アルカリ源は、水酸化アルカリと、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム及び炭酸水素ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも一つを含む炭酸アルカリと、を含み、無機フィラー中の高炉スラグ微粉末の含有量は、10体積%以上90体積%以下であり、水酸化アルカリ及び炭酸アルカリに含まれるアルカリ金属全体に対する、炭酸アルカリに含まれるアルカリ金属の比率が、0より大きく70モル%以下である、ジオポリマー組成物の製造方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フライアッシュ及び高炉スラグ微粉末を含む無機フィラー、アルカリ源、水、遅延剤、減水剤、並びに消泡剤を含む原料を混合してジオポリマー組成物を得る混合工程を有し、
前記アルカリ源は、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムからなる群より選ばれる少なくとも一つを含む水酸化アルカリと、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム及び炭酸水素ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも一つを含む炭酸アルカリと、を含み、
前記無機フィラー中の前記高炉スラグ微粉末の含有量は、10体積%以上90体積%以下であり、
前記水酸化アルカリ及び前記炭酸アルカリに含まれるアルカリ金属全体に対する、前記炭酸アルカリに含まれるアルカリ金属の比率が、0より大きく70モル%以下である、ジオポリマー組成物の製造方法。
【請求項2】
前記フライアッシュ及び前記高炉スラグ微粉末の合計に対する前記高炉スラグ微粉末の比率は、10体積%以上90体積%以下である、請求項1に記載のジオポリマー組成物の製造方法。
【請求項3】
前記遅延剤は、グルコン酸ナトリウム、L-酒石酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム二水和物、リン酸二水素ナトリウム、スクロース、及びグルコースからなる群より選ばれる少なくとも一つを含む、請求項1に記載のジオポリマー組成物の製造方法。
【請求項4】
前記減水剤はリグニン誘導体を含む、請求項1に記載のジオポリマー組成物の製造方法。
【請求項5】
前記無機フィラー、及び前記遅延剤を含む固体組成物を調製する第1調製工程と、
前記水酸化アルカリ、前記水、前記減水剤、及び前記消泡剤を含む液体組成物を調製する第2調製工程と、を有し、
前記固体組成物及び前記液体組成物の少なくとも一方は前記炭酸アルカリを含み、
前記混合工程では、前記固体組成物と前記液体組成物とを配合して前記原料を混合し前記ジオポリマー組成物を得る、請求項1に記載のジオポリマー組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の方法で製造されたジオポリマー組成物を硬化して得られるジオポリマー硬化体。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法で得られたジオポリマー組成物を硬化する硬化工程を有する、ジオポリマー硬化体の製造方法。
【請求項8】
固体組成物を含む第1包装体と液体組成物を含む第2包装体とを有する、ジオポリマー組成物調製用キットであって、
前記固体組成物は、フライアッシュ及び高炉スラグ微粉末を含む無機フィラー、並びに遅延剤を含み、
前記液体組成物は、水酸化アルカリ、水、減水剤、及び消泡剤を含み、
前記無機フィラー中の前記高炉スラグ微粉末の含有量は、10体積%以上90体積%以下であり、
前記水酸化アルカリは、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムからなる群より選ばれる少なくとも一つを含み、
前記固体組成物及び前記液体組成物の少なくとも一方は、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム及び炭酸水素ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも一つを含む炭酸アルカリを含み、
前記水酸化アルカリ及び前記炭酸アルカリに含まれるアルカリ金属全体に対する、前記炭酸アルカリに含まれるアルカリ金属の比率は0より大きく70モル%以下である、ジオポリマー組成物調製用キット。
【請求項9】
フライアッシュ及び高炉スラグ微粉末を含む無機フィラーと、ナトリウム及びカリウムの少なくとも一方を含むケイ酸アルカリ水溶液と、遅延剤と、減水剤と、消泡剤と、炭酸アルカリと、を含み、
前記無機フィラー中の前記高炉スラグ微粉末の含有量は、10体積%以上90体積%以下であり
前記炭酸アルカリは、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム及び炭酸水素ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも一つを含み、
前記ケイ酸アルカリ水溶液及び前記炭酸アルカリに含まれるアルカリ金属全体に対する、前記炭酸アルカリに含まれるアルカリ金属の比率は0より大きく70モル%以下である、ジオポリマー組成物。
【請求項10】
請求項9に記載のジオポリマー組成物を硬化して得られるジオポリマー硬化体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ジオポリマー組成物及びその製造方法、ジオポリマー硬化体及びその製造方法、並びにジオポリマー組成物調製用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
石炭灰等の非晶質材料をアルカリ溶液で処理することによってコンクリートのように硬化するジオポリマー組成物が知られている。ジオポリマー組成物は、通常のセメントと比べて、製造時に発生するCOを低減することができる。ジオポリマー組成物に用いられるシリカ源としては、水ガラス等の液体、及びシリカフューム等のフィラーが挙げられる。例えば、特許文献1では、水酸化ナトリウムと石炭灰及び高炉スラグの粉体とを攪拌した後、シリカフュームを徐々に溶かす処理を行う方法(以下、「その場溶解法」と称する。)によって、ジオポリマー組成物の凝結時間を稼ぎ、可使時間を確保する技術が提案されている。
【0003】
非特許文献1では、アルカリ溶液として水ガラス及び苛性ソーダ、無機フィラーとしてフライアッシュ及び高炉スラグ微粉末を使用する方法(アルカリ溶液に水ガラスを含む方法を以下、「一般法」と称する。)によって調製されたジオポリマーコンクリートのCO排出量を128kg-CO/mと試算している。これによって、同じ強度レベルのセメントコンクリートと比較して約63~68%のCO排出量削減が可能であるとしている。その理由は、CO排出量の多いポルトランドセメントを使用していないことによるものである。なお、ジオポリマー組成物に用いられる各材料のCO排出量の原単位は、非特許文献2,3にも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-237561号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】原田耕司、一宮一夫、津郷俊二、池田攻、「ジオポリマーの諸特性に関する一考察」、コンクリート工学年次論文集、Vol.34、No.1、pp.1894-1899、2012
【非特許文献2】土木学会、コンクリート技術シリーズ62、「コンクリートの環境負荷(その2)」、2004
【非特許文献3】日本コンクリート工学会、「建設分野へのジオポリマー技術の適用に関する研究委員会報告書」、p.62、2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の製造方法で用いられている水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムといったアルカリ源は、その濃度に応じて使用時の安全性に対する配慮が必要になる場合がある。そこで、本開示では、適切なフレッシュ性状と優れた強度発現性を十分に維持しつつ、安全性を向上することが可能なジオポリマー組成物、及びその製造方法を提供する。また、このようなジオポリマー組成物を、簡便に調製することが可能なジオポリマー組成物調製用キットを提供する。また、製造時の安全性に優れ且つ高い圧縮強度を十分に維持できるジオポリマー硬化体及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、一つの側面において、フライアッシュ及び高炉スラグ微粉末を含む無機フィラー、アルカリ源、水、遅延剤、減水剤、並びに消泡剤を含む原料を混合してジオポリマー組成物を得る混合工程を有し、アルカリ源は、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムからなる群より選ばれる少なくとも一つを含む水酸化アルカリと、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム及び炭酸水素ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも一つを含む炭酸アルカリと、を含み、無機フィラー中の高炉スラグ微粉末の含有量は、10体積%以上90体積%以下であり、水酸化アルカリ及び炭酸アルカリに含まれるアルカリ金属全体に対する、炭酸アルカリに含まれるアルカリ金属の比率が、0より大きく70モル%以下である、ジオポリマー組成物の製造方法を提供する。
【0008】
上記製造方法では、アルカリ源の一部が炭酸アルカリであることから、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム等の水酸化物を低減して安全性を向上することができる。そして、水酸化アルカリ及び炭酸アルカリに含まれるアルカリ金属全体に対する、炭酸アルカリに含まれるアルカリ金属の比率が0より大きく70モル%以下としつつ、無機フィラー中の高炉スラグ微粉末の含有量を10体積%以上90体積%以下とすることによって、適切なフレッシュ性状と優れた強度発現性を十分に維持することができる。また、CO排出量を削減することができる。
【0009】
フライアッシュ及び高炉スラグ微粉末の合計に対する高炉スラグ微粉末の比率は、10体積%以上90体積%以下であることが好ましい。これによって、適切なフレッシュ性状と優れた強度発現性を一層十分に維持することができる。
【0010】
上記遅延剤は、グルコン酸ナトリウム、L-酒石酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム二水和物、リン酸二水素ナトリウム、スクロース、及びグルコースからなる群より選ばれる少なくとも一つを含むことが好ましい。これによって、ジオポリマー組成物の可使時間(打込み、締固め、成型などの施工が可能な時間)を長くすることができる。
【0011】
上記減水剤はリグニン誘導体を含むことが好ましい。これによって、ジオポリマー組成物の粘性が低減され、流動性を一層高くすることができる。
【0012】
上記製造方法は、無機フィラー、及び遅延剤を含む固体組成物を調製する第1調製工程と、水酸化アルカリ、水、減水剤、及び消泡剤を含む液体組成物を調製する第2調製工程と、を有し、固体組成物及び液体組成物の少なくとも一方は炭酸アルカリを含み、混合工程では、固体組成物と液体組成物とを配合して原料を混合しジオポリマー組成物を得ることが好ましい。このような製造方法であれば、例えば固体組成物と液体組成物とを別々に調製しておき、ジオポリマー組成物を使用する直前に固体組成物と液体組成物を配合して混合し、良好なフレッシュ性状と優れた強度発現性を有するジオポリマー組成物を簡便に調製できるうえに安全性にも一層優れる。したがって、この製造方法は、現場で実施し易く、作業性及び施工性に優れる。
【0013】
本開示は、一つの側面において、上記製造方法で得られるジオポリマー組成物を硬化して得られるジオポリマー硬化体を提供する。このようなジオポリマー硬化体は、製造時の安全性に優れるとともに、ジオポリマー硬化体の圧縮強度を十分に高く維持することができる。また、CO排出量を削減することができる。
【0014】
本開示は、一つの側面において、上述のいずれかの製造方法で得られるジオポリマー組成物を硬化する硬化工程を有するジオポリマー硬化体の製造方法を提供する。この製造方法は、製造時の安全性に優れるとともに、ジオポリマー硬化体の圧縮強度を十分に高く維持することができる。また、CO排出量を削減することができる。
【0015】
本開示は、一つの側面において、固体組成物を含む第1包装体と液体組成物を含む第2包装体とを有する、ジオポリマー組成物調製用キットであって、固体組成物は、フライアッシュ及び高炉スラグ微粉末を含む無機フィラー、並びに遅延剤を含み、液体組成物は、水酸化アルカリ、水、減水剤、及び消泡剤を含み、無機フィラー中の高炉スラグ微粉末の含有量は、10体積%以上90体積%以下であり、水酸化アルカリは、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムからなる群より選ばれる少なくとも一つを含み、固体組成物及び液体組成物の少なくとも一方は、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム及び炭酸水素ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも一つを含む炭酸アルカリを含み、水酸化アルカリ及び炭酸アルカリに含まれるアルカリ金属全体に対する、炭酸アルカリに含まれるアルカリ金属の比率は0より大きく70モル%以下である、ジオポリマー組成物調製用キットを提供する。
【0016】
上記ジオポリマー組成物調製用キットは、固体組成物と液体組成物が別個の包装体に含まれている。このため、ジオポリマー組成物を使用する直前に固体組成物と液体組成物を混合して、ジオポリマー組成物を高い安全性で簡便に調製することができる。このようなジオポリマー組成物調製用キットは、取り扱いやすく、現場での作業性及び施工性に優れる。そして、水酸化アルカリ及び炭酸アルカリに含まれるアルカリ金属全体に対する、炭酸アルカリに含まれるアルカリ金属の比率は0より大きく70モル%以下であり、無機フィラー中の高炉スラグ微粉末の含有量が10体積%以上90体積%以下であることから、適切なフレッシュ性状と優れた強度発現性を十分に維持することができる。このジオポリマー組成物調製用キットは、CO排出量を削減することもできる。
【0017】
本開示は、一つの側面において、フライアッシュ及び高炉スラグ微粉末を含む無機フィラーと、ナトリウム及びカリウムの少なくとも一方を含むケイ酸アルカリ水溶液と、遅延剤と、減水剤と、消泡剤と、炭酸アルカリと、を含み、無機フィラー中の高炉スラグ微粉末の含有量は、10体積%以上90体積%以下であり、炭酸アルカリは、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム及び炭酸水素ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも一つを含み、ケイ酸アルカリ水溶液及び炭酸アルカリに含まれるアルカリ金属全体に対する、炭酸アルカリに含まれるアルカリ金属の比率は0より大きく70モル%以下である、ジオポリマー組成物を提供する。
【0018】
上記ジオポリマー組成物は、炭酸アルカリを含んでおり、ケイ酸アルカリ水溶液を低減して安全性を向上することができる。そして、ケイ酸アルカリ水溶液及び炭酸アルカリに含まれるアルカリ金属全体に対する、炭酸アルカリに含まれるアルカリ金属の比率が0より大きく70モル%以下であり、さらに無機フィラー中の高炉スラグ微粉末の含有量が10体積%以上90体積%以下であることによって、適切なフレッシュ性状と優れた強度発現性を十分に維持することができる。また、CO排出量を削減することができる。
【0019】
本開示は、一つの側面において、上述のジオポリマー組成物を硬化して得られるジオポリマー硬化体を提供する。このようなジオポリマー硬化体は、製造時の安全性に優れ且つ高い圧縮強度を十分に維持できる。また、CO排出量を削減することができる。
【発明の効果】
【0020】
本開示によれば、適切なフレッシュ性状と優れた強度発現性を十分に維持しつつ、安全性を向上することが可能なジオポリマー組成物、及びその製造方法を提供することができる。また、このようなジオポリマー組成物を、簡便に調製することが可能なジオポリマー組成物調製用キットを提供することができる。また、製造時の安全性に優れ且つ高い圧縮強度を十分に維持できるジオポリマー硬化体及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本開示の実施形態について説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。数値範囲で用いている「~」の記号は、上限及び下限の数値を含む数値範囲を示す。例えば、「X~Y」は「X以上且つY以下」の数値範囲を示す。上限及び/又は下限を実施例に記載の数値で置換した数値範囲も本開示の開示内容に含まれる。複数例示される成分又は材料は、一種のみであってもよいし、複数を組み合わせてもよい。
【0022】
一実施形態に係るジオポリマー組成物の製造方法は、無機フィラー(F)、アルカリ源、水(w)、遅延剤(Ad1)、減水剤(Ad2)、並びに消泡剤(Ad3)を含む原料を混合してジオポリマー組成物を得る混合工程を有する。混合工程では、各材料を同時又は順次に混合してジオポリマー組成物を得てもよいし、一部の材料同士を配合して複数の配合物を調製した後、複数の配合物を混合してジオポリマー組成物を得てもよい。原料は、細骨材を含んでいてもよい。
【0023】
アルカリ源は、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムからなる群より選ばれる少なくとも一つを含む水酸化アルカリと、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム及び炭酸水素ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも一つを含む炭酸アルカリと、を含有する。アルカリ源は、水酸化アルカリ及び炭酸アルカリのみからなっていてもよい。アルカリ源が炭酸アルカリを含むことから、取り扱いに注意が必要な水酸化アルカリの使用量を低減して安全性を向上することができる。
【0024】
水(w)は、ジオポリマー組成物における単位水量が、好ましくは170~230kg/m、より好ましくは180~220kg/m、さらに好ましくは190~215kg/mとなるように配合する。単位水量をこのような範囲にすることによって、優れた流動性と優れた強度発現性を十分に高い水準で両立することができる。
【0025】
水(w)は、全量を単独で他の材料と配合してもよいし、少なくとも一部を水酸化アルカリ(NaOH及びKOH)又は炭酸アルカリの水溶液として配合してもよい。上述の単位水量は、これらの合計値として求められる。水酸化アルカリを水溶液としてアルカリ濃度を低くすることによって、安全性を向上することができる。水(w)に対する、水酸化アルカリ及び炭酸アルカリに含まれるアルカリ金属(元素)の合計のモル比(A/W)は、好ましくは0.1~0.7であり、より好ましくは0.1~0.5であり、さらに好ましくは0.15~0.3である。このような範囲であれば、適切なフレッシュ性状と優れた強度発現性のみならず、安全性を一層高くすることができる。
【0026】
水酸化アルカリの配合量(固形分換算)は、ジオポリマー組成物1mに対して、例えば10~240kg/mであってよく、30~220kg/mであってよく、50~200kg/mであってもよい。このような量の水酸化アルカリを含むアルカリ水溶液を用いてもよい。これによって、適切なフレッシュ性状と優れた強度発現性を十分に高い水準に維持しつつ、安全性を十分に向上することができる。
【0027】
炭酸アルカリは、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム及び炭酸水素ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも一つを含む。ジオポリマー組成物が炭酸アルカリを含むことによって、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム等のアルカリ水酸化物の含有量を低減することができる。これによって、ジオポリマー組成物の安全性を向上することができる。また、ジオポリマー組成物において炭酸アルカリがアルカリ刺激剤として作用することによって、圧縮強度を向上することができる。
【0028】
炭酸アルカリの配合量(固形分換算)は、ジオポリマー組成物1mに対して、例えば5~100kg/mであってよい。当該配合量は、安全性と圧縮強度を一層向上する観点から、10kg/m以上、20kg/m以上、30kg/m以上、又は40kg/m以上であってよい。このような範囲であれば、炭酸アルカリがアルカリ刺激剤として一層効果的に作用する。当該配合量は、微細なCaCOの生成によって粘性が増加するのを抑制し、ジオポリマー組成物のフレッシュ性状を一層向上する観点から、90kg/m以下、80kg/m以下、又は70kg/m以下であってよい。
【0029】
水酸化アルカリ及び炭酸アルカリに含まれるアルカリ金属(元素)全体に対する、炭酸アルカリに含まれるアルカリ金属(元素)の比率は、0より大きく70モル%以下である。当該比率は、60モル%以下、55モル%以下、又は50モル%以下であってよい。これによって、混合工程の際に微細なCaCOの生成に伴って粘性が増加するのを抑制し、ジオポリマー組成物のフレッシュ性状を一層良好にすることができる。当該比率は、10モル%以上、20モル%以上、30モル%以上、又は40モル%以上であってよい。これによって、製造時の安全性を一層高めつつ、炭酸アルカリがアルカリ刺激剤として一層効果的に作用して、封かん養生によるジオポリマー硬化体の圧縮強度を一層高くすることできる。アルカリ金属(元素)としてはナトリウム及びカリウムが挙げられる。
【0030】
無機フィラー(F)は、フライアッシュ(FA)、及び高炉スラグ微粉末(BS)を含む。無機フィラー(F)は、フライアッシュ及び高炉スラグ微粉末以外の無機成分を含んでよい。そのような無機成分としては、木質バイオマス灰、都市ごみ焼却灰、炭酸カルシウム、メタカオリン、下水汚泥、火山灰等、構成元素としてSi、Al及びCaからなる群より選ばれる少なくとも一つを有するフィラーが挙げられる。
【0031】
無機フィラー(F)中の高炉スラグ微粉末(BS)の含有量は、10体積%以上であり、好ましくは20体積%以上であり、より好ましくは25体積%以上であり、さらに好ましくは30体積%以上である。これによって、良好なフレッシュ性状と優れた強度発現性を十分に高い水準で両立することができる。無機フィラー(F)中の高炉スラグ微粉末(BS)の含有量は、90体積%以下であり、好ましくは80体積%以下であり、より好ましくは75積%以下であり、さらに好ましくは70体積%以下である。これによって、良好なフレッシュ性状と優れた強度発現性を十分に高い水準で両立することができる。
【0032】
フライアッシュ(FA)及び高炉スラグ微粉末(BS)の合計に対する高炉スラグ微粉末(BS)の比率は、好ましくは10~90体積%である。フライアッシュ(FA)及び高炉スラグ微粉末(BS)の合計に対する高炉スラグ微粉末(BS)の比率は、より好ましくは20体積%以上であり、さらに好ましくは25体積%以上であり、特に好ましくは30体積%以上である。これによって、良好なフレッシュ性状と優れた強度発現性を一層十分に高い水準で両立することができる。フライアッシュ(FA)及び高炉スラグ微粉末(BS)の合計に対する高炉スラグ微粉末(BS)の比率は、より好ましくは80体積%以下であり、さらに好ましくは75積%以下であり、特に好ましくは70体積%以下である。これによって、良好なフレッシュ性状と優れた強度発現性を十分に高い水準で両立することができる。
【0033】
フライアッシュ(FA)は、JIS A6201:2015に規定されるI種~IV種のうち、II種が好ましい。フライアッシュII種は、III種やIV種に比べて反応性が高いことから強度発現性に優れる。フライアッシュI種は、II種より比表面積が大きいことから反応性は高いものの、粘性が増加することに加えて、価格が高く流通量が少ないため入手し難い傾向にある。高炉スラグ微粉末(BS)のブレーン比表面積は、好ましくは3500~6000cm/gであり、より好ましくは4000~5000cm/gである。高炉スラグ微粉末のブレーン比表面積が高いほど反応性が高く強度発現性に優れるものの、粘性が高く可使時間が短くなる傾向にある。
【0034】
無機フィラー(F)全体に対する、フライアッシュ(FA)及び高炉スラグ微粉末(BS)の合計の比率は、例えば60体積%以上、好ましくは70体積%以上、より好ましくは80体積%以上、さらに好ましくは90体積%以上、特に好ましくは95体積%以上である。無機フィラー(F)は、フライアッシュ(FA)及び高炉スラグ微粉末(BS)のみからなっていてもよい。
【0035】
無機フィラー(F)の配合量は、ジオポリマー組成物1mに対して、例えば450~600kg/mであってよく、465~590kg/mであってよく、470~580kg/mであってもよい。
【0036】
ジオポリマー組成物を得る際、シリカフューム(SF)を用いてもよいし、用いなくてもよい。シリカフュームを用いる場合は、セメント組成物に用いられる一般的なものを用いることができる。シリカフューム(SF)の配合量は、ジオポリマー組成物1mに対して、例えば45kg/m未満であってよく、25kg/m未満であってよく、15kg/m未満であってよく、9kg/m未満であってもよい。これによって、製造コストを低減することができる。
【0037】
無機フィラー(F)全体に対する、アルカリ源及び水の合計の体積比(L/F)は、好ましくは0.9~1.3であり、より好ましくは1.0~1.3である。このような範囲であることによって、フレッシュ性状と強度発現性を十分に高い水準で両立することができる。
【0038】
遅延剤(Ad1)は、グルコン酸ナトリウム、L-酒石酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム二水和物、リン酸二水素ナトリウム、スクロース、及びグルコースからなる群より選ばれる少なくとも一つを含んでよい。これらのうち、グルコン酸ナトリウムを含むことが好ましい。これによって、可使時間をより延長することができる。
【0039】
無機フィラー(F)全体に対する遅延剤(Ad1)の配合比率(Ad1/F×100)は、0.5~3.5質量%である。このようなジオポリマー組成物は、フレッシュ性状と強度発現性を十分に高い水準で両立することができる。フレッシュ性状と強度発現性を一層高い水準で両立させる観点から、配合比率(Ad1/F×100)は、好ましくは0.5~3.0質量%であり、より好ましくは0.7~2.5質量%であり、さらに好ましくは0.8~2.0質量%である。
【0040】
減水剤(Ad2)は、リグニン誘導体、ヒドロキシ系複合体、ナフタリンスルホン酸系化合物、アミノスルホン酸系化合物、及び、ポリカルボン酸系化合物からなる群より選ばれる少なくとも一つを含んでよい。本明細書におけるリグニン誘導体とは、リグニンから誘導される化合物であり、例えば、リグニンスルホン酸塩が挙げられる。減水剤(Ad2)は、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、及び高性能AE減水剤からなる群より選ばれる少なくとも一つを含んでよい。
【0041】
無機フィラー(F)全体に対する減水剤(Ad2)の配合比率(Ad2/F×100)は、0.1~1.5質量%であってよい。このようなジオポリマー組成物は、フレッシュ性状と強度発現性を十分に高い水準で両立することができる。フレッシュ性状と強度発現性を一層高い水準で両立させる観点から、配合比率(Ad2/F×100)は、好ましくは0.2~1.0質量%であり、より好ましくは0.3~0.7質量%である。
【0042】
消泡剤(Ad3)としては、セメント組成物に配合されるものを用いることが可能であり、例えば、非イオン界面活性剤タイプ、オイルタイプ、及びエマルションタイプ等が挙げられる。
【0043】
無機フィラー(F)全体に対する消泡剤(Ad3)の比率(Ad3/F×100)は、好ましくは0.002~0.10質量%であり、より好ましくは0.005~0.05質量%であり、さらに好ましくは0.008~0.03質量%である。ジオポリマー組成物は、減水剤(Ad2)を含むと気泡が発生して硬化させたときの圧縮強度が低下する傾向にある。そこで、上述の比率で消泡剤(Ad3)を含有することによって、ジオポリマー組成物の製造コストを維持しつつ強度発現性を十分に高くすることができる。
【0044】
混合工程で用いる原料は、上述の材料以外の材料を含んでもよい。そのような成分としては、例えば、細骨材(S)、炭酸塩、膨張材、収縮低減剤、防錆剤、及び防水材等が挙げられる。細骨材(S)は、川砂、山砂、陸砂及び海砂等の天然骨材、砕砂、珪砂、高炉スラグ細骨材、フェロニッケルスラグ細骨材及び電気炉酸化スラグ細骨材等の人工細骨材、並びに再生細骨材等から選ばれる少なくとも一つを含んでよい。細骨材として、これらを単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。細骨材(S)の表乾密度は、2.2~2.9g/cmであってよく、2.4~2.8g/cmであってよく、2.5~2.7g/cmであってもよい。細骨材の配合量は、ジオポリマー組成物1mに対して、例えば1000~1600kg/mであってよく、1200~1550kg/mであってよく、1300~1500kg/mであってもよい。
【0045】
混合工程では、無機フィラー(F)を含まず、水及び水酸化アルカリを含む液体組成物と、水及び水酸化アルカリを含まず、無機フィラー(F)を含む固体組成物とを混合してジオポリマー組成物を製造することが好ましい。これによって、混合工程の前にケイ酸アルカリが生成することを抑制できる。例えば、混合工程の前に、無機フィラー(F)、及び遅延剤(Ad1)を含む固体組成物を調製する第1調製工程と、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムからなる群より選ばれる少なくとも一つを含む水酸化アルカリ、水、減水剤(Ad2)、並びに消泡剤(Ad3)を含む液体組成物を調製する第2調製工程とを有していてもよい。第1調製工程及び第2調製工程の少なくとも一方では炭酸アルカリを用い、固体組成物及び液体組成物の少なくとも一方には炭酸アルカリが含まれる。第1調製工程では細骨材(S)を用い、細骨材(S)が固体組成物に含まれてもよい。
【0046】
混合工程では、固体組成物と液体組成物とを配合してよい。このとき必要に応じて水を配合してもよい。液体組成物(アルカリ水溶液)は、一般法のように、ケイ酸ナトリウム(NaSiO、NaSiO、NaSi、NaSi等)、ケイ酸カリウム(KSiO等)、及び水ガラスを含まないことが好ましい。これによって、混合工程で各成分が混合されることとなり、その場溶解法と同様に、無機フィラー(F)が水酸化アルカリ、又は水酸化アルカリと炭酸アルカリを含むアルカリ水溶液中に溶解する。無機フィラー(F)以外の原料に含まれるSiOもアルカリ水溶液中に溶解してよいし、SiO以外の成分もアルカリ水溶液中に溶解してもよい。このようにして、アルカリ金属としてナトリウム及びカリウムからなる群より選ばれる少なくとも一つを含むケイ酸アルカリ水溶液が生成する。このような製造方法では、混合工程によって生じる無機フィラー(F)と水酸化アルカリとの反応が、阻害されることなく円滑に進行する。このようにして、良好なフレッシュ性状と優れた強度発現性を十分に維持することが可能なジオポリマー組成物を得ることができる。
【0047】
第1調製工程では、調製した固体組成物を包装して、固体組成物を含む第1包装体を得てもよい。第2調製工程では、調製した液体組成物を包装して、液体組成物を含む第2包装体を得てもよい。これによって、固体組成物を含む第1包装体と液体組成物を含む第2包装体とを有する、ジオポリマー組成物調製用キットを得ることができる。第1包装体及び第2包装体は、それぞれ、固体及び液体であることから、別々にすることによって運搬を円滑に行うことができる。
【0048】
ジオポリマー組成物調製用キットは、無機フィラー等の溶解及び硬化反応が進行することを抑制できるため、長期間にわたって安定的に保管することもできる。したがって、固体組成物を含む第1包装体と液体組成物を含む第2包装体とを有する、ジオポリマー組成物調製用キットは、取り扱い性に優れる。
【0049】
固体組成物において、無機フィラー(F)全体に対する遅延剤(Ad1)の比率(Ad1/F×100)は、例えば0.5~3.5質量%であってよい。このようなジオポリマー組成物は、フレッシュ性状と強度発現性を十分に高い水準で両立することができる。フレッシュ性状と強度発現性を一層高い水準で両立させる観点から、(Ad1/F×100)は、好ましくは0.5~3.0質量%であり、より好ましくは0.7~2.5質量%であり、さらに好ましくは0.8~2.0質量%である。
【0050】
固体組成物に含まれる無機フィラー(F)全体に対して、液体組成物に含まれる減水剤(Ad2)の比率が0.1~1.5質量%、消泡剤(Ad3)の比率が0.002~0.10質量%となるように、固体組成物と液体組成物とを配合することが好ましい。このようなジオポリマー組成物は、フレッシュ性状と強度発現性を十分に高い水準で両立することができる。同様の観点から、フレッシュ性状と強度発現性を一層高い水準で両立させる観点から、配合比率(Ad2/F×100)は、好ましくは0.2~1.0質量%であり、より好ましくは0.3~0.7質量%である。同様の観点から、無機フィラー(F)全体に対する消泡剤(Ad3)の比率(Ad3/F×100)は、好ましくは0.002~0.10質量%であり、より好ましくは0.005~0.05質量%であり、さらに好ましくは0.008~0.03質量%である。
【0051】
第1調製工程、第2調製工程、及び混合工程で用いる攪拌装置に特に制限はない。第2調製工程では、液体組成物を調製することから、通常の容器を用いて調製してもよい。第1調製工程及び混合工程では、例えば、モルタルミキサ、二軸強制練りミキサ、パン型ミキサ、グラウトミキサ又はハンドミキサ等を使用することができる。このようにして、十分に良好なフレッシュ性状を有しつつ強度発現性にも十分に優れるジオポリマー組成物を製造することができる。
【0052】
一実施形態に係るジオポリマー組成物調製用キットは、上述のとおり、固体組成物を含む第1包装体と液体組成物を含む第2包装体とを有し、第1包装体及び第2包装体は、第1調製工程及び第2調製工程で得たものであってよい。このような固体組成物と液体組成物とを混合することによって、各成分を上述の含有範囲で含むジオポリマー組成物を得ることができる。
【0053】
ジオポリマー組成物調製用キットは、固体組成物と液体組成物が別個の包装体に含まれている。例えば、第1包装体及び第2包装体は、物理的に別体であってよい。第1包装体及び第2包装体は、例えば、ラベル表示又はICタグ等で紐づけられていてよい。紐づけの手段は特に限定されない。このようなジオポリマー組成物調製用キットは、ジオポリマー組成物を使用する直前に固体組成物と液体組成物を混合して、ジオポリマー組成物を高い安全性で簡便に調製することができる。このようにして調製されるジオポリマー組成物は、良好なフレッシュ性状と優れた強度発現性を有する。また、CO排出量を削減することができる。
【0054】
一実施形態に係るジオポリマー組成物は、無機フィラー(F)、ナトリウム及びカリウムから群より選ばれる少なくとも一つを含むケイ酸アルカリ水溶液、遅延剤(Ad1)、減水剤(Ad2)、消泡剤(Ad3)、並びに、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム及び炭酸水素ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも一つを含む炭酸アルカリ、を含有する。ジオポリマー組成物は上記ジオポリマー組成物の製造方法によって得ることができる。ジオポリマー組成物調製用キットの固体組成物と液体組成物とを配合し混合することによって製造してもよい。各成分の内容及び含有量は、上記ジオポリマー組成物の製造方法及びジオポリマー組成物調製用キットの説明で述べたとおりである。ケイ酸アルカリ水溶液は、水酸化ナトリウム(NaOH)及び水酸化カリウム(KOH)からなる群より選ばれる少なくとも一つのアルカリ水酸化物を含む水溶液に、無機フィラー(F)等が溶解しているものであってよい。ケイ酸アルカリ水溶液には、無機フィラー(F)以外の材料が溶解していてもよい。
【0055】
ジオポリマー組成物の15打フロー(15打モルタルフロー)は、好ましくは140~220mmであり、より好ましくは160~210mmである。このようなジオポリマー組成物は流動性に優れ、施工性にも優れる。15打フローは実施例に記載の方法で測定される。ジオポリマー組成物の可使時間は、好ましくは90分以上であり、より好ましくは120分以上である。このようなジオポリマー組成物はフレッシュ性状に優れており、施工性に優れる。可使時間は実施例に記載の方法で測定される。
【0056】
ジオポリマー組成物は強度発現性に優れており、特に、封かん養生をしたときの強度発現性に優れる。温度20±2℃、相対湿度60±5%の恒温恒湿室で材齢28日まで封かん養生を実施した場合のジオポリマー組成物の圧縮強度は、好ましくは40N/mm以上であり、より好ましくは45N/mm以上であり、さらに好ましくは50N/mm以上である。
【0057】
ジオポリマー組成物は、蒸気養生をしたときの強度発現性にも優れる。最高温度60℃で3時間保持する蒸気養生において、材齢28日におけるジオポリマー組成物の圧縮強度は、好ましくは25N/mm以上であり、より好ましくは30N/mm以上であり、さらに好ましくは40N/mm以上である。各圧縮強度は実施例に記載の条件で測定される。このように、ジオポリマー組成物は、安全性に優れるとともに、良好なフレッシュ性状と優れた強度発現性を有する。そして、炭酸アルカリを含有することから、CO排出量を削減することができる。このため、低炭素ジオポリマー組成物ということもできる。
【0058】
一実施形態に係るジオポリマー硬化体は、上述のジオポリマー組成物又は上述の製造方法で得られたジオポリマー組成物を硬化することによって得ることができる。このジオポリマー硬化体は、製造時の安全性に優れ且つ高い圧縮強度を十分に維持することができる。また、CO排出量を削減できることから、低炭素ジオポリマー硬化体ということもできる。
【0059】
一実施形態に係るジオポリマー硬化体の製造方法は、上述のジオポリマー組成物又は上述の製造方法で得られたジオポリマー組成物を硬化する硬化工程を有する。このようにして得られるジオポリマー硬化体は、製造時の安全性に優れるとともに、高い圧縮強度を十分に維持することができる。また、CO排出量を削減することができる。
【0060】
ジオポリマー硬化体の用途としては、現場での施工の他に、例えば、二次製品が挙げられる。ジオポリマー組成物を硬化させてジオポリマー硬化体を作製するときには、例えば、封かん養生してもよく、蒸気養生してもよい。すなわち、硬化工程は、封かん養生で行ってもよいし、蒸気養生で行ってもよい。早期に強度を発現させることが求められる用途では蒸気養生が好ましい。一方、長期的な強度増進が求められる用途では封かん養生が好ましい。
【0061】
以上、幾つかの実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、本開示は、以下の内容を含む。
【0062】
[1]フライアッシュ及び高炉スラグ微粉末を含む無機フィラー、アルカリ源、水、遅延剤、減水剤、並びに消泡剤を含む原料を混合してジオポリマー組成物を得る混合工程を有し、
前記アルカリ源は、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムからなる群より選ばれる少なくとも一つを含む水酸化アルカリと、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム及び炭酸水素ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも一つを含む炭酸アルカリと、を含み、
前記無機フィラー中の前記高炉スラグ微粉末の含有量は、10体積%以上90体積%以下であり、
前記水酸化アルカリ及び前記炭酸アルカリに含まれるアルカリ金属全体に対する、前記炭酸アルカリに含まれるアルカリ金属の比率が、0より大きく70モル%以下である、ジオポリマー組成物の製造方法。
[2]前記フライアッシュ及び前記高炉スラグ微粉末の合計に対する前記高炉スラグ微粉末の比率は、10体積%以上90体積%以下である、[1]に記載のジオポリマー組成物の製造方法。
[3]前記遅延剤は、グルコン酸ナトリウム、L-酒石酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム二水和物、リン酸二水素ナトリウム、スクロース、及びグルコースからなる群より選ばれる少なくとも一つを含む、[1]又は[2]に記載のジオポリマー組成物の製造方法。
[4]前記減水剤はリグニン誘導体を含む、[1]~[3]のいずれか一つに記載のジオポリマー組成物の製造方法。
[5]前記無機フィラー、及び前記遅延剤を含む固体組成物を調製する第1調製工程と、
前記水酸化アルカリ、前記水、前記減水剤、及び前記消泡剤を含む液体組成物を調製する第2調製工程と、を有し、
前記固体組成物及び前記液体組成物の少なくとも一方は前記炭酸アルカリを含み、
前記混合工程では、前記固体組成物と前記液体組成物とを配合して前記原料を混合し前記ジオポリマー組成物を得る、[1]~[4]のいずれか一つに記載のジオポリマー組成物の製造方法。
[6]前記[1]~[5]のいずれか一つに記載の方法で製造されたジオポリマー組成物を硬化して得られるジオポリマー硬化体。
[7]前記[1]~[5]のいずれか一つに記載の製造方法で得られたジオポリマー組成物を硬化する硬化工程を有する、ジオポリマー硬化体の製造方法。
[8]固体組成物を含む第1包装体と液体組成物を含む第2包装体とを有する、ジオポリマー組成物調製用キットであって、
前記固体組成物は、フライアッシュ及び高炉スラグ微粉末を含む無機フィラー、並びに遅延剤を含み、
前記液体組成物は、水酸化アルカリ、水、減水剤、及び消泡剤を含み、
前記無機フィラー中の前記高炉スラグ微粉末の含有量は、10体積%以上90体積%以下であり、
前記水酸化アルカリは、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムからなる群より選ばれる少なくとも一つを含み、
前記固体組成物及び前記液体組成物の少なくとも一方は、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム及び炭酸水素ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも一つを含む炭酸アルカリを含み、
前記水酸化アルカリ及び前記炭酸アルカリに含まれるアルカリ金属全体に対する、前記炭酸アルカリに含まれるアルカリ金属の比率は0より大きく70モル%以下である、ジオポリマー組成物調製用キット。
[9]フライアッシュ及び高炉スラグ微粉末を含む無機フィラーと、ナトリウム及びカリウムの少なくとも一方を含むケイ酸アルカリ水溶液と、遅延剤と、減水剤と、消泡剤と、炭酸アルカリと、を含み、
前記無機フィラー中の前記高炉スラグ微粉末の含有量は、10体積%以上90体積%以下であり、
前記炭酸アルカリは、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム及び炭酸水素ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも一つを含み、
前記ケイ酸アルカリ水溶液及び前記炭酸アルカリに含まれるアルカリ金属全体に対する、前記炭酸アルカリに含まれるアルカリ金属の比率は0より大きく70モル%以下である、ジオポリマー組成物。
[10]前記[9]に記載のジオポリマー組成物を硬化して得られるジオポリマー硬化体。
【実施例0063】
実施例及び比較例を参照して本開示の内容をより詳細に説明するが、本開示は下記の実施例に限定されるものではない。
【0064】
[ジオポリマー組成物の調製]
ジオポリマー組成物の原料として、以下の表1に示す材料を使用した。また、フライアッシュII種(FA)及び高炉スラグ微粉末(BS)の化学成分は、表2に示すとおりであった。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
表1に示す材料を用いてジオポリマー組成物を調製した。具体的には、液体原料を混合して液体組成物を、固体原料を混合して固体組成物を、それぞれ調製した。液体組成物と固体組成物とを、モルタルミキサを用いて混合してジオポリマー組成物を調製した。液体組成物は、苛性ソーダ水溶液(SH)、水(w)、減水剤(Ad2)及び消泡剤(Ad3)を配合して調製した。固体組成物は、炭酸ナトリウム(SC)、フライアッシュII種(FA)、高炉スラグ微粉末(BS)、海砂(S1)、砕砂(S2)及び遅延剤(Ad1)を、モルタルミキサ内に入れて、30秒間空練りして調製した。その後、このモルタルミキサ内に、上述の液体組成物を加えて90秒間練り混ぜた。かき落としを行った後、再度90秒間練り混ぜた。このようにして、各実施例及び各比較例のジオポリマー組成物を調製した。
【0068】
各実施例及び各比較例で調製したジオポリマー組成物1m当たりの各材料の単位量は表3に示すとおりとした。表3に示すとおり、炭酸ナトリウム(SC)を含有しない比較例を基準サンプルとして、各実施例及び各比較例のジオポリマー組成物を調製した。なお、各実施例及び各比較例における無機フィラー(F)の配合量は、体積基準で一定となるようにした。遅延剤(Ad1)、減水剤(Ad2)及び消泡剤(Ad3)のそれぞれの配合量は、表4に示すように無機フィラー(F)の質量に対して一定の質量比率になるように配合した。このため、表3に示すとおり、遅延剤(Ad1)、減水剤(Ad2)及び消泡剤(Ad3)の単位量が、実施例及び比較例毎にわずかに変化した。
【0069】
【表3】
【0070】
表3中の記号「L」は、炭酸ナトリウム(SC)、苛性ソーダ水溶液(SH)及び水(w)の合計を示し、記号「F」は、フライアッシュII種(FA)及び高炉スラグ微粉末(BS)の合計(無機フィラーの合計)を示し、記号「S」は、海砂(S1)及び砕砂(S2)の合計(細骨材)を示し、記号「Ad」は、遅延剤(Ad1)、減水剤(Ad2)、及び消泡剤(Ad3)の合計を示す。
【0071】
表3に示すように、No.2~5は、No.1の比較例(基準)の苛性ソーダ水溶液(SH)の一部を炭酸ナトリウム(SC)で置換した。また、No.7~10は、No.6の比較例(基準)の苛性ソーダ水溶液(SH)の一部を炭酸ナトリウム(SC)で置換した。表4には、上記記号を用いて、各実施例及び各比較例のジオポリマー組成物に含まれる各成分及び各材料の比又は割合を示す。
【0072】
表4中、「A/W」は、L(炭酸ナトリウム(SC)、苛性ソーダ水溶液(SH)及び水(w)の総量)に含まれる水に対するアルカリ金属のモル比を示す。Lに含まれる水は、苛性ソーダ水溶液(SH)に含まれる水と、上水道水である水(w)の合計である。表4に示すように、No.1~10は、いずれも「A/W」及び「L/F」を一定にしつつ、炭酸ナトリウム(SC)と苛性ソーダ水溶液(SH)の配合比を変えて調製したものである。「単位水量」は、苛性ソーダ水溶液(SH)に含まれる水と、水(w)の合計の単位量である。「BS/F」は、無機フィラー(F)全体に対する高炉スラグ微粉末(BS)の体積比率である。「アルカリ構成比」は、アルカリ源(SC+SH)に含まれるアルカリ金属の合計量を基準(100モル%)としたときの、炭酸ナトリウム(SC)に含まれるアルカリ金属(Na)と苛性ソーダ水溶液(SH)に含まれるアルカリ金属(Na)の各モル%である。表4中、「NaOH濃度」は、Lに含まれる水に対するNaOHの質量比率である。
【0073】
【表4】
【0074】
[ジオポリマー組成物の評価]
各比較例及び各実施例で得られたジオポリマー組成物のフレッシュ性状(流動性及び可使時間)、並びに、圧縮強度を以下の手順で評価した。
【0075】
<流動性の評価>
流動性試験として、各実施例及び各比較例のジオポリマー組成物の15打フローを測定した。15打フロー試験は、JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」に準じて実施した。測定結果は表6に示すとおりであった。
【0076】
No.2~5のジオポリマー組成物について、アルカリ源として炭酸ナトリウム(SC)を用いず苛性ソーダ水溶液(SH)のみを用いた比較例(No.1)を基準(100%)としたときの15打フローの比率を算出した。同様に、No.7~10のジオポリマー組成物について、アルカリ源として炭酸ナトリウム(SC)を用いず苛性ソーダ水溶液(SH)のみを用いた比較例(No.6)を基準(100%)としたときの15打フローの比率を算出した。これらの算出結果は、表6の「15打フロー比」の欄に示すとおりであった。
【0077】
<可使時間の評価>
硬度計(全長:23cm、貫入部位:円錐形)を用いて可使時間の評価を行った。直径18.5cm、高さ10cmの円筒型の容器に、各実施例及び各比較例のジオポリマー組成物を入れ、5分ごとに硬度計を挿入して貫入抵抗値を測定した。打ち込み・成形可能な貫入抵抗値を1.0N/mmとし、この値を超えない時間を可使時間とした。測定結果は表6に示すとおりであった。
【0078】
<圧縮強度の評価>
各実施例及び各比較例のジオポリマー組成物をそれぞれ所定の型枠に流し込んで、封かん養生及び最高温度60℃での蒸気養生を行った。封かん養生は、温度20±2℃、相対湿度60±5%の恒温恒湿室で材齢7日及び材齢28日まで実施した。蒸気養生は、20℃で3時間の前置きの後、蒸気によって、昇温速度13.3℃/hrで60℃に昇温して3時間保持し、降温速度13.3℃/hrで20℃に降温した。その後、材齢1日で脱型し、それ以降は温度20±2℃、相対湿度60±5%の恒温恒湿室で気中養生を行った。このようにして得られた円柱試験体(直径5cm×高さ10cm)を用いて、材齢7日及び材齢28日における圧縮強度を測定した。測定結果は表6に示すとおりであった。
【0079】
No.2~5のジオポリマー組成物について、アルカリ源として炭酸ナトリウム(SC)を用いず苛性ソーダ水溶液(SH)のみを用いた比較例(No.1)を基準(100%)としたときの材齢28日の圧縮強度の比率を算出した。同様に、No.7~10のジオポリマー組成物について、アルカリ源として炭酸ナトリウム(SC)を用いず苛性ソーダ水溶液(SH)のみを用いた比較例(No.6)を基準(100%)としたときの材齢28日の圧縮強度の比率を算出した。これらの算出結果は、表6の「圧縮強度比」の欄に示すとおりであった。
【0080】
<CO排出量の算出>
ジオポリマー組成物のCO排出量については、表5に示す各材料のCO排出量原単位と配合量を用いて算出した。算出結果は表6に示すとおりであった。表5中の※1~3の意味内容は以下のとおりである。なお、水(w)、遅延剤(Ad1)、減水剤(Ad2)、及び消泡剤(Ad3)のCO排出量原単位については、非特許文献2での取扱いを参考に0とした。
※1)フライアッシュII種(FA)、高炉スラグ微粉末(BS)、海砂(S1)及び砕砂(S2)のCO排出量原単位は、非特許文献2の記載値を使用した。
※2)苛性ソーダ水溶液(SH)のCO排出量原単位については、非特許文献3の記載値を使用材料の濃度に換算して使用した。
※3)炭酸ナトリウム(SC)のCO排出量原単位については、炭酸ナトリウム(NaCO)中のCOの割合から算出した。
【0081】
【表5】
【0082】
【表6】
【0083】
[各評価結果について]
表6には、評価結果の理解を容易にするため、表4に示した情報の一部を再度示している。表6に示す結果から、以下の傾向が確認された。
【0084】
<全般>
・無機フィラー(F)中の高炉スラグ微粉末(BS)の割合(以下、「BS/F」という。)が30体積%の実施例(No.2~5)と、70体積%の実施例(No.7~10)とを対比すると、アルカリ構成比が同じであれば、BS/Fが大きい方が、圧縮強度は高く、且つ15打フローは小さくなる傾向が確認された。
・BS/Fが同じ実施例及び比較例で対比すると、水酸化アルカリ及び炭酸アルカリに含まれるアルカリ金属全体に対する、炭酸アルカリに含まれるアルカリ金属のモル比率(以下、単に「モル比率」という。)が高い方が、NaOH濃度が低く、これによって安全性が向上した。
【0085】
<フレッシュ性状>
・BS/F=30体積%のNo.1~5の15打フローを対比すると、No.2,3は、炭酸ナトリウム(SC)を用いていないNo.1と同等であった。また、モル比率が大きいNo.4,5では15打フローがやや低下するものの、No.4,5でも適切なフレッシュ性状を維持できていた。
・BS/F=70体積%のNo.6~10の15打フローを対比すると、No.7,8は、炭酸ナトリウム(SC)を用いていないNo.6と同等であった。また、モル比率が大きいNo.9は15打フローがやや低下するものの、適切なフレッシュ性状を維持できていた。一方、モル比率がさらに大きいNo.10は、練混ぜ不可であり、良好なフレッシュ性状を維持することができなかった。
【0086】
<圧縮強度について>
・BS/F=30体積%のNo.1~5の圧縮強度比(封かん養生)の結果によれば、モル比率が大きくなるほど、圧縮強度比が高くなる傾向にあった。BS/F=70体積%のNo.6~10の圧縮強度比(封かん養生)の結果によれば、No.7~9の実施例の方が、No.6の比較例(基準)よりも圧縮強度比が高かった。一方、No.10の比較例は練混ぜ不可であった。
・BS/F=30体積%のNo.1~5の圧縮強度比(蒸気養生)の結果によれば、No.2~4の実施例では、モル比率が大きくなるほど、No.1の比較例(基準)よりも圧縮強度比が高くなる傾向にあった。一方、No.5の比較例までモル比率が大きくなると、圧縮強度比が急激に低下した。
・BS/F=70体積%のNo.6~10の圧縮強度比(蒸気養生)の結果によれば、No.7~8の実施例は、No.6の比較例(基準)と同等の圧縮強度比であった。また、No.9の実施例は、No.6の比較例(基準)よりも圧縮強度比(蒸気養生)が高かった。一方、No.10の比較例では、練混ぜ不可であった。
【0087】
<CO排出量>
モル比率が大きくなるほど、CO排出量は少なくなった。
【0088】
<まとめ>
・ジオポリマー組成物は、安全性の観点からNaOH濃度が低い方が好ましく、またCO排出量も少ないことが望ましい。一方で、NaOH濃度を低減するとともに、フレッシュ性状(施工性、流動性)及び強度発現性を維持することも必要である。各実施例、及び各比較例の結果から、モル比率が大きくなっても、モル比率70モル%までは、15打フロー比は良好な範囲を維持できることが確認された。
・いずれのBS/Fの場合でも、モル比率が70モル%まではモル比率が大きくなるにつれ、圧縮強度比(封かん養生)が比較例(基準)よりも向上することが確認された。
・いずれのBS/Fの場合でも、モル比率が70モル%まではモル比率が大きくなっても、圧縮強度比(蒸気養生)が適切な範囲に維持できることが確認された。
・以上より、No.2~No.4及びNo.7~No.9の実施例を総合評価「〇:良好」とし、No.5,10を総合評価「×:不良」とした。
【0089】
これらの結果から、アルカリ源に含まれるアルカリ全体に対する、炭酸アルカリに含まれるアルカリの比率が0より大きく70モル%以下であり、無機フィラー中の高炉スラグ微粉末の含有量が、10体積%以上90体積%以下であるジオポリマー組成物は、良好なフレッシュ性状を有し、封かん養生では、圧縮強度を比較例(基準)より向上させることができ、蒸気養生では、優れた圧縮強度を維持できることが確認された。このようなジオポリマー組成物はNaOHの使用量を低減して安全性を向上することができるうえに、CO排出量を削減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本開示によれば、適切なフレッシュ性状と優れた強度発現性を十分に維持しつつ、安全性を向上することが可能なジオポリマー組成物、及びその製造方法が提供される。また、このようなジオポリマー組成物を、簡便に調製することが可能なジオポリマー組成物調製用キットが提供される。また、製造時の安全性に優れ且つ高い圧縮強度を十分に維持できるジオポリマー硬化体及びその製造方法が提供される。