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特開2024-141467セメントクリンカーの製造方法及びこれを用いたセメントの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141467
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】セメントクリンカーの製造方法及びこれを用いたセメントの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 7/44 20060101AFI20241003BHJP
   C04B 7/38 20060101ALI20241003BHJP
   F27B 7/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C04B7/44
C04B7/38
F27B7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053143
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100129296
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 博昭
(72)【発明者】
【氏名】田中 治輝
(72)【発明者】
【氏名】中河 久典
(72)【発明者】
【氏名】植田 隆昌
【テーマコード(参考)】
4G112
4K061
【Fターム(参考)】
4G112KA02
4G112KA03
4K061AA08
4K061BA01
4K061DA01
(57)【要約】
【課題】焼成帯における煉瓦の損耗を抑制できるセメントクリンカーの製造方法及びこれを用いたセメントの製造方法を提供すること。
【解決手段】筒状のシェルの内側に煉瓦が設けられているロータリーキルン内にセメント原料を導入するセメント原料導入工程と、セメント原料を焼成することによって焼成体を得る焼成工程とを含むセメントクリンカーの製造方法であって、セメント原料導入工程が、セメント原料を、アルミニウム含有成分を含み且つ熱履歴の無い第1原料の含有率が7質量%以上となるようにロータリーキルン内に導入する第1工程を含む、セメントクリンカーの製造方法。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のシェルの内側に煉瓦が設けられているロータリーキルン内にセメント原料を導入するセメント原料導入工程と、前記セメント原料を焼成することによって焼成体を得る焼成工程とを含むセメントクリンカーの製造方法であって、
前記セメント原料導入工程が、
前記セメント原料を、アルミニウム含有成分を含み且つ熱履歴の無い第1原料の含有率が7質量%以上となるように前記ロータリーキルン内に導入する第1工程を含む、セメントクリンカーの製造方法。
【請求項2】
前記第1原料中のアルカリ成分の含有率が1.0質量%以上である、請求項1に記載のセメントクリンカーの製造方法。
【請求項3】
前記セメント原料導入工程が、前記第1工程の後に、前記第1原料の含有率が7質量%未満となるように前記ロータリーキルン内に前記セメント原料を導入する第2工程をさらに含む、請求項1に記載のセメントクリンカーの製造方法。
【請求項4】
前記第1原料が建設発生土である、請求項1に記載のセメントクリンカーの製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載のセメントクリンカーの製造方法によってセメントクリンカーを製造するクリンカー製造工程を含む、セメントの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、セメントクリンカーの製造方法及びこれを用いたセメントの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントクリンカーは、円筒状の鋼鉄製のシェルの内側に煉瓦が設けられているロータリーキルン内にセメント原料を導入し、セメント原料を焼成することによって製造される。このとき、セメント原料の焼成は1450℃以上の高温で行われるため、煉瓦が損耗を受ける場合がある。煉瓦が損耗を受けると、煉瓦が薄くなり、煉瓦の外側の円筒状のシェルが加熱されて溶融することも起こりうる。そのため、このような事態を避けるために種々の提案がされている。
【0003】
例えば下記特許文献1には、主バーナーに隣接して投入管を設け、コーチングが生成し易い化学組成の粉体をロータリーキルンの下流側端部から上流側に向けて0~5mの範囲のシェルの内壁に向けて噴射することにより、排ガス中のNOxを高めたりエネルギー原単位を増加させたりすることなく、焼成帯出口から冷却帯の範囲において効果的に煉瓦を保護するコーチングを生成させて煉瓦の熱損傷を防ぐことが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-7925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1に記載のセメントクリンカーの製造方法は、以下に示す課題を有していた。
【0006】
すなわち、上記特許文献1に記載のセメントクリンカーの製造方法は、焼成帯における煉瓦の損耗の抑制の点で未だ改善の余地を有していた。
【0007】
本開示は、焼成帯における煉瓦の損耗を抑制できるセメントクリンカーの製造方法及びこれを用いたセメントの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した。その結果、本開示の発明者らは、ロータリーキルン内に導入されるセメント原料中に、熱履歴の無い原料を含めることで、焼成帯においてコーチング層が効果的に形成されるのではないかと考えた。そして、本開示の発明者らはさらに鋭意研究を重ねた結果、以下の開示により上記課題を解決し得ることを見出した。
【0009】
すなわち、本開示の一側面は、筒状のシェルの内側に煉瓦が設けられているロータリーキルン内にセメント原料を導入するセメント原料導入工程と、前記セメント原料を焼成することによって焼成体を得る焼成工程とを含むセメントクリンカーの製造方法であって、前記セメント原料導入工程が、前記セメント原料を、アルミニウム含有成分を含み且つ熱履歴の無い第1原料の含有率が7質量%以上となるように前記ロータリーキルン内に導入する第1工程を含む、セメントクリンカーの製造方法を提供する。
上記セメントクリンカーの製造方法によれば、セメント原料導入工程が、セメント原料を、アルミニウム含有成分を含み且つ熱履歴の無い第1原料の含有率が7質量%以上となるようにロータリーキルン内に導入する第1工程を含むことで、焼成工程でセメント原料が焼成される際に、焼成体が形成される焼成帯において、煉瓦の上にクリンカーコーチング層が厚く形成されやすくなる。そのため、ロータリーキルンの内部が高温になる場合であっても、その熱がクリンカーコーチング層によって煉瓦に伝わりにくくなり、煉瓦の熱による損耗が抑制される。したがって、煉瓦の交換が長期間にわたって不要となり、セメントクリンカーの製造効率を向上させることができる。
【0010】
上記セメントクリンカーの製造方法において、前記第1原料中のアルカリ成分の含有率が1.0質量%以上であることが好ましい。
第1原料中のアルカリ成分の含有率が1.0質量%以上であることで、クリンカーコーチング層が煉瓦に付着しやすくなり、クリンカーコーチング層を厚く形成しやすくなる。
【0011】
上記セメントクリンカーの製造方法において、前記セメント原料導入工程が、前記第1工程の後に、前記第1原料の含有率が7質量%未満となるように前記ロータリーキルン内に前記セメント原料を導入する第2工程をさらに含むことが好ましい。
この場合、第1工程で既にロータリーキルンの内側にクリンカーコーチング層が厚く形成されて煉瓦が保護されているため、第2工程でセメント原料中の第1原料の含有率が7質量%未満となっても、煉瓦の保護という目的は達成できる。また、セメントクリンカーの品質をより向上させることができる傾向がある。
【0012】
上記セメントクリンカーの製造方法において、前記第1原料が建設発生土であってよい。
【0013】
本開示の別の側面は、上述したセメントクリンカーの製造方法によってセメントクリンカーを製造する工程を含む、セメントの製造方法を提供する。
上記セメントの製造方法によれば、焼成帯における煉瓦の損耗を抑制できるため、セメントクリンカーの製造効率を向上させることができる。このため、セメントの製造効率を向上させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、焼成帯における煉瓦の損耗を抑制できるセメントクリンカーの製造方法及びこれを用いたセメントの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本開示に係るセメントクリンカーの製造方法で用いられるセメントクリンカー製造設備の主要部を示す概略図である。
図2】実施例1に係るコーチング層の厚さとロータリーキルン下流側端面からの距離との関係を示すグラフである。
図3】比較例1に係るコーチング層の厚さとロータリーキルン下流側端面からの距離との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の実施形態について詳細に説明する。
【0017】
<セメントクリンカーの製造方法>
まず、本開示のセメントクリンカーの製造方法の実施形態について図1を参照しながら説明する。図1は、本開示に係るセメントクリンカーの製造方法で用いられるセメントクリンカー製造設備の主要部を示す概略図である。
【0018】
図1に示されるセメントクリンカーの製造設備100は、ロータリーキルン10及びバーナー20を主要部として備えている。
【0019】
ロータリーキルン10は、円筒状のシェル11と、円筒状のシェル11の内側に設けられる煉瓦12とを備えている。シェル11の中心軸Cは、水平面に対して傾斜しており、ロータリーキルン10は、円筒状のシェル11の中心軸Cを中心として回転可能となっている。煉瓦12は、シェル11を保護するために、シェル11の内面全体を覆うように敷き詰められている。
【0020】
バーナー20の先端は、図1に示すように、ロータリーキルン10の下流側端面と一致する位置に配置されていてよいが、ロータリーキルン10の内部に配置されてもよい。符号21はバーナー20の先端から噴射される火焔を示している。
【0021】
本実施形態のセメントクリンカーの製造方法は、ロータリーキルン10内にセメント原料を導入するセメント原料導入工程と、セメント原料を、ロータリーキルン10をシェル11の中心軸Cを中心として回転させながら、バーナー20によって形成される火焔21をロータリーキルン10の上流側に噴出させてセメント原料を焼成することによって焼成体を得る焼成工程とを含む。ここで、上記セメント原料導入工程は、セメント原料を、アルミニウム含有成分を含み且つ熱履歴の無い第1原料の含有率が7質量%以上となるようにロータリーキルン10内に導入する第1工程を含む。
セメントクリンカーの製造方法は、焼成工程で得られた焼成体を冷却してセメントクリンカーを得る冷却工程をさらに備えてもよい。
【0022】
上記セメントクリンカーの製造方法によれば、セメント原料導入工程が、セメント原料を、アルミニウム含有成分を含み且つ熱履歴の無い第1原料の含有率が7質量%以上となるようにロータリーキルン10内に導入する第1工程を含むことで、焼成工程でセメント原料が焼成される際に、焼成体が形成される焼成帯において、煉瓦12の上にコーチング層30が厚く形成されやすくなる。そのため、ロータリーキルン10の内部が高温になる場合であっても、その熱が、コーチング層30によって煉瓦12に伝わりにくくなり、煉瓦12の熱による損耗が抑制される。したがって、煉瓦12の交換が長期間にわたって不要となり、セメントクリンカーの製造効率を向上させることができる。
【0023】
次に、セメントクリンカーの製造設備100、上記セメント原料導入工程及び焼成工程について詳細に説明する。
【0024】
(セメントクリンカーの製造設備)
ロータリーキルン10のシェル11を構成する材料は特に限定されるものではないが、通常は鋼鉄で構成される。
煉瓦12としては、通常、耐火煉瓦が用いられる。
【0025】
バーナー20は、シェル11の中心軸Cとほぼ同軸になるように配置され、燃料を供給することによりその先端から火焔21を噴出するようになっている。
【0026】
製造設備100は、ロータリーキルン10の上流側端部に接続されるセメント原料導入部(図示せず)と、ロータリーキルン10の下流側端部に接続される焼成体受入部(図示せず)とを更に備えてもよい。
セメント原料導入部は、ロータリーキルン10内に導入するセメント原料を貯留する容器である。セメント原料導入部には、セメント原料をロータリーキルン10内に導入する前にあらかじめ加熱するプレヒータが設置されてもよい。
焼成体受入部は、ロータリーキルン10から排出される焼成体を受け入れる容器である。焼成体受入部には、バーナー20が設置される。また、焼成体受入部には、焼成体を冷却するクーラーが設置されてもよい。
【0027】
(セメント原料導入工程)
セメント原料導入工程は、アルミニウム含有成分を含み且つ熱履歴の無い第1原料の含有率が7質量%以上となるようにロータリーキルン10内にセメント原料を導入する第1工程を含む。
【0028】
第1原料について「熱履歴の無い」とは、熱重量示差熱分析装置(TG-DTA)を用いて、第1原料を室温から1000℃まで昇温させて1000℃で1時間保持したときに、未燃カーボン等の燃焼に起因する発熱が認められず、重量変化が2.0質量%以上あることをいう。なお、未燃カーボン等の燃焼に起因する発熱が認められるかどうかは、DTA曲線における発熱ピークの有無により判定することができる。
【0029】
第1原料中のアルミニウム含有成分は、アルミニウムを含有する成分であり、アルミニウム含有成分としては、例えば粘土鉱物が挙げられる。
【0030】
第1原料中のアルミニウム成分(Al成分)の含有率は、特に制限されるものではないが、例えば10質量%以上であってよく、13質量%以上であってもよい。第1原料中のアルミニウム成分の含有率は、例えば20質量%以下であってよく、17質量%以下であってもよい。
【0031】
セメント原料中の第1原料の含有率は7質量%以上であればよく、8質量%以上、10質量%以上、又は15質量%以上であってもよい。
セメント原料中の第1原料の含有率は、25質量%以下であってもよく、20質量%以下であってもよい。
【0032】
セメント原料中の第1原料の含有率は、熱履歴の無い第1原料と、熱履歴のある第2原料との混合割合を変えることによって調整することができる。
第2原料は、熱履歴のある原料であれば特に制限されるものではなく、第2原料としては、例えば石炭灰及びスラグなどが挙げられる。これらはそれぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0033】
第1原料は、アルミニウム成分に加えて、アルカリ成分(RO成分)をさらに含んでもよい。アルカリ成分としては、例えばKO及びNaOなどが挙げられる。
第1原料中のアルカリ成分(RO成分)の含有率は特に制限されるものではないが、1.0質量%以上であることが好ましく、2.0質量%以上であることがより好ましい。第1原料中のアルカリ成分の含有率が1.0質量%以上であることで、コーチング層30が煉瓦12に付着しやすくなり、コーチング層30を厚く形成しやすくなる。
第1原料中のアルカリ成分の含有率は、5.0質量%以下又は3.0質量%以下であってもよい。
なお、第1原料中のアルカリ成分(RO成分)の含有率は、下記式で算出される。
O=NaO+0.658×K
(上記式中、ROは、第1原料中のアルカリ成分(RO成分)の含有率(質量%)、NaOは、第1原料中の酸化ナトリウムの含有率(質量%)、KOは第1原料中の酸化カリウムの含有率(質量%)を表す)
【0034】
熱履歴の無い第1原料としては、例えば建設発生土、建設汚泥、浄水場で発生する浄水ケーキなどが挙げられる。
【0035】
セメント原料導入工程は、第1工程のみで構成されてもよく、第1工程の後に、第1原料の含有率R2が7質量%未満となるようにロータリーキルン10内に導入する第2工程をさらに含んでもよいが、第1工程の後に第2工程をさらに含むことが好ましい。この場合、第1工程で既にロータリーキルン10の内側にコーチング層30が厚く形成されて煉瓦12が保護されているため、R2が7質量%未満となっても、煉瓦12の保護という目的は達成できる。また、セメントクリンカーの品質をより向上させることができる傾向がある。
【0036】
R2が7質量%未満である場合、R2は2質量%以上であってよく、3質量%以上であってもよい。またR2は、5質量%以下、又は、4質量%以下であってもよい。
【0037】
セメント原料は一般的には、予め加熱してからロータリーキルン10内に導入されるが、必ずしも予め加熱されなくてもよい。
【0038】
(焼成工程)
焼成工程では、セメント原料の焼成が行われる。セメント原料の焼成は、バーナー20によってセメント原料を1450℃以上の高温で加熱することによって行うことができる。この焼成工程でセメント原料が徐々に化学変化し、水硬性をもった化合物の集まりであるセメントクリンカーとなる。また、焼成工程では、セメントクリンカーの溶融物であるコーチング層30も生成され、このコーチング層30が焼成帯において煉瓦12を覆い、次第にその厚さを増加させる。その結果、バーナー20からの火焔21による熱によって煉瓦12が損耗することが抑制される。このコーチング層30は、温度が高い領域ほど生成されやすくなるため、温度が高い領域ほど厚く形成されやすくなる。
焼成帯とは、火焔21の大きさによるが、通常は、ロータリーキルン10において、シェル11の下流側端面から上流側に向かって概ね3~20mの領域である。
【0039】
焼成工程において、ロータリーキルン10の回転速度は、特に限定されるものではないが、例えば1~3rpmであればよい。
バーナー20の火焔21は、セメント原料を1450℃以上の高温で加熱することができるように調整される。
【0040】
<セメントの製造方法>
本開示の別の側面であるセメントの製造方法は、上述したセメントクリンカーの製造方法によってセメントクリンカーを製造するクリンカー製造工程を含む。
【0041】
上記セメントの製造方法によれば、焼成帯における煉瓦12の損耗を抑制できるため、セメントクリンカーの製造効率を向上させることができる。このため、セメントの製造効率を向上させることができる。
【0042】
セメントの製造方法は、クリンカー製造工程の後に、セメントクリンカーを粉砕してセメントを得る粉砕工程をさらに備えてよい。
上記粉砕工程では、セメントクリンカーは、せっこう及び混合材などを添加した上で微粉砕されてセメントとなる。
粉砕は、仕上げミルなどによって行われる。具体的には、円筒状のドラムの中でボールと、セメントクリンカーと、せっこう等がドラムの回転によって互いに衝突しながら粉砕される。
【0043】
なお、本開示の概要は以下のとおりである。
[1]筒状のシェルの内側に煉瓦が設けられているロータリーキルン内にセメント原料を導入するセメント原料導入工程と、前記セメント原料を焼成することによって焼成体を得る焼成工程とを含むセメントクリンカーの製造方法であって、
前記セメント原料導入工程が、
前記セメント原料を、熱履歴の無い第1原料の含有率が7質量%以上となるように前記ロータリーキルン内に導入する第1工程を含み、
前記第1原料がアルミニウムを含む、セメントクリンカーの製造方法。
[2]前記第1原料中のアルカリ成分の含有率が1.0質量%以上である、[1]に記載のセメントクリンカーの製造方法。
[3]前記セメント原料導入工程が、前記第1工程の後に、前記第1原料の含有率が7質量%未満となるように前記ロータリーキルン内に前記セメント原料を導入する第2工程をさらに含む、[1]又は[2]に記載のセメントクリンカーの製造方法。
[4]前記第1原料が建設発生土である、[1]~[3]のいずれかに記載のセメントクリンカーの製造方法。
[5][1]~[4]のいずれかに記載のセメントクリンカーの製造方法によってセメントクリンカーを製造する工程を含む、セメントの製造方法。
【実施例0044】
以下、本開示の内容を、実施例を挙げてより具体的に説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0045】
(実施例1)
熱履歴の無い第1原料と、熱履歴のある第2原料とを、第1原料の含有率が7質量%となるように混合することによりセメント原料を用意した。このとき、第1原料は、表1に示す銘柄1A及び銘柄1Bを1:1の割合(質量比)で混合して用意した。第1原料中のアルミニウム成分(Al)及びアルカリ成分(RO)の含有率はそれぞれ16.45質量%、2.63質量%であった。一方、第2原料は、表2に示す銘柄2A、2B、2C、2D及び2Eを1:1:1:1:1の割合(質量比)で混合して使用した。
なお、表1は、銘柄1A及び銘柄1Bの組成(化学成分の含有率)を示すものであり、数値の単位は質量%である。また、銘柄1Aは建設発生土であり、銘柄1Bは建設汚泥である。
表2は、銘柄2A~2Eの組成(化学成分の含有率)を示すものであり、化学成分の含有率は、石炭灰の入荷品を40℃で乾燥させて得られる石炭灰(以下「乾灰」ともいう)を基準(100質量%)として測定した値である。数値の単位は質量%である。また、銘柄2A~2Eは、石炭灰又はスラッジ灰である。
表2において、湿分は、石炭灰の入荷品を40℃で乾燥させて得られる湿分であり、湿分の値は、石炭灰の入荷品の全質量を基準(100質量%)として測定した含有率である。数値の単位は質量%であり、空欄は0質量%であることを示す。
未燃C(カーボン)は、乾灰に含まれる未燃Cであり、未燃Cの値は、化学成分とは別個に、銘柄2A~2E(乾灰)の全質量を基準(100質量%)として測定した含有率である。数値の単位は、質量%であり、空欄は0質量%であることを示す。
【0046】
上記のようにして得られたセメント原料を、1000℃前後に予熱した後、セメントクリンカーの製造設備100のロータリーキルン10内に導入し、セメント原料の焼成を行い、焼成体を得た。その後、焼成体を冷却してセメントクリンカーを得た。
このとき、セメントクリンカーの製造設備の構成及び焼成条件は以下のとおりとした。
(セメントクリンカーの製造設備の構成)
ロータリーキルン10のシェル11の材質:鋼鉄
ロータリーキルン10のシェル11の厚さ:3~10cm
ロータリーキルン10のシェル11の長さ:99.8m
煉瓦:厚さ23cmの耐火煉瓦(株式会社ヨータイ製、品川リフラクトリーズ株式会社製他)
バーナー20の先端部の位置:シェル11の下流側端面から上流側に向かって0.05mの位置
(焼成条件)
ロータリーキルンの回転速度:1.9rpm
ロータリーキルン10内の最高温度:1,300~1,400℃
【0047】
上記のようにしてセメントクリンカーを得てから5日間を経過した後、ロータリーキルン内に導入するセメント原料中の第1原料の含有率を3質量%に低下させ、セメントクリンカーの製造を165日間にわたって継続した。
【0048】
以上のようにしてセメントクリンカーを製造した。
【0049】
(比較例1)
熱履歴の無い第1原料と、熱履歴のある第2原料とを、第1原料の含有率が3質量%となるように混合してセメント原料を用意し、第1原料中のアルミニウム成分(Al)及びアルカリ成分(RO)の含有率をそれぞれ実施例1と同じ16.45質量%、2.63質量%とし、第2原料を、表3に示す銘柄2F、2G、2H、2Iを1:1:1:1の割合(質量比)で混合して使用し、セメント原料中の第1原料の含有率を途中で変更しなかったこと以外は実施例1と同様にしてセメントクリンカーを得た。
なお、表3は、銘柄2F~2Iの組成(化学成分の含有率)を示すものであり、化学成分の含有率は、石炭灰の入荷品を40℃で乾燥させて得られる石炭灰(乾灰)を基準(100質量%)として測定した値であり、数値の単位は質量%である。また、銘柄2F~2Iは、石炭灰又はスラッジ灰である。
表3において、湿分は、石炭灰の入荷品を40℃で乾燥させて得られる湿分であり、湿分の値は、石炭灰の入荷品の全質量を基準(100質量%)として測定した含有率である。数値の単位は質量%であり、空欄は0質量%であることを示す。
未燃C(カーボン)は、乾灰に含まれる未燃Cであり、未燃Cの値は、化学成分とは別個に、銘柄2F~2I(乾灰)の全質量を基準(100質量%)として測定した含有率である。数値の単位は、質量%であり、空欄は0質量%であることを示す。
【0050】
【表1】

【表2】

【表3】
【0051】
実施例1及び比較例1について、ロータリーキルン10内にシェル11の中心軸Cに沿って生成されるコーチング層30の厚さの分布を、コーチング解体時にコーチングの大きさから測定した。結果を図2及び図3にそれぞれ示す。図2は、実施例1に係るコーチング層の厚さとロータリーキルン下流側端面からの距離との関係を示すグラフ、図3は、比較例1に係るコーチング層の厚さとロータリーキルン下流側端面からの距離との関係を示すグラフである。横軸は、ロータリーキルン10の下流側の端面から上流側に向かう距離を示している。
【0052】
図2及び図3に示す結果によれば、実施例1では、ロータリーキルンの下流側端面から45mの領域までコーチング層が形成されており、特にセメント原料の焼成が行われるシェルの下流側端面から11~19mの領域(焼成帯)において、コーチング層の厚みは250~300mmとなっていた。これに対し、比較例1では、コーチング層が形成されていたのはロータリーキルンの下流側端面から37mの領域までであり、焼成帯において、コーチング層の厚みは200mmとなっていた。
このように、実施例1では、比較例1よりも焼成帯におけるコーチング層の厚みが大きくなっていることが分かった。そのため、焼成工程でセメント原料が焼成される際に、高温の熱がクリンカーコーチング層によって煉瓦に伝わりにくくなり、煉瓦の熱による損耗が抑制されるものと考えられる。
【符号の説明】
【0053】
10…ロータリーキルン、11…シェル、12…煉瓦、20…バーナー、100…セメントクリンカー製造設備。
図1
図2
図3