(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141539
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】多層構造体、包装材及び真空断熱体
(51)【国際特許分類】
B32B 27/28 20060101AFI20241003BHJP
C08L 23/26 20060101ALI20241003BHJP
C08K 5/07 20060101ALI20241003BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B32B27/28 102
C08L23/26
C08K5/07
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053256
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(72)【発明者】
【氏名】片岡 直樹
(72)【発明者】
【氏名】野中 康弘
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
4J002
【Fターム(参考)】
3E086AA23
3E086AB01
3E086AB03
3E086AD01
3E086AD03
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3E086BA35
3E086BB01
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3E086CA01
3E086CA11
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3E086CA29
4F100AK01A
4F100AK01B
4F100AK01D
4F100AK42B
4F100AK51C
4F100AK69A
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4F100BA10A
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4F100CB00C
4F100EC18
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4F100GB15
4F100JA04B
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4F100YY00A
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4J002BB221
4J002EE016
4J002EE037
4J002FD206
4J002FD207
4J002GG02
(57)【要約】
【課題】シーラント層(α)のガスバリア性の均一性が高く、且つヒートシール強度及びヒートシール後の外観が改善された多層構造体、並びにそれを用いた包装材及び真空断熱体の提供。
【解決手段】樹脂組成物からなるシーラント層(α)と融点が190℃以上の熱可塑性樹脂を含む基材層(β)を備え、シーラント層(α)を最表層に有し、上記樹脂組成物が、エチレン単位含有量が20モル%以上60モル%以下であるEVOH(A)及びクロトンアルデヒド(B1)を含み、2,4-ヘキサジエナール(B2)及び2,4,6-オクタトリエナール(B3)からなる群より選ばれる少なくとも1種をさらに含み、上記樹脂組成物が、下記式(1)及び(2)を満たす、多層構造体。
2.0≦b1/(b2+b3)<150.0 ・・・(1)
b2+2b3≦0.65 ・・・(2)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂組成物からなるシーラント層(α)と融点が190℃以上の熱可塑性樹脂を含む基材層(β)を備え、シーラント層(α)を最表層に有し、
上記樹脂組成物が、エチレン単位含有量が20モル%以上60モル%以下であるエチレン-ビニルアルコール共重合体(A)及びクロトンアルデヒド(B1)を含み、2,4-ヘキサジエナール(B2)及び2,4,6-オクタトリエナール(B3)からなる群より選ばれる少なくとも1種をさらに含み、
上記樹脂組成物が、下記式(1)及び(2)を満たす、多層構造体。
2.0≦b1/(b2+b3)<150.0 ・・・(1)
b2+2b3≦0.65 ・・・(2)
上記式(1)及び(2)中、b1は、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)に対するクロトンアルデヒド(B1)の含有量(ppm)であり、b2は、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)に対する2,4-ヘキサジエナール(B2)の含有量(ppm)であり、b3は、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)に対する2,4,6-オクタトリエナール(B3)の含有量(ppm)である。
【請求項2】
上記樹脂組成物において、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)に対するクロトンアルデヒド(B1)、2,4-ヘキサジエナール(B2)及び2,4,6-オクタトリエナール(B3)の含有量の合計(b1+b2+b3)が0.01ppm以上7.0ppm以下である、請求項1に記載の多層構造体。
【請求項3】
上記樹脂組成物において、クロトンアルデヒド(B1)の含有量b1が0.01ppm以上4.0ppm以下である、請求項1又は2に記載の多層構造体。
【請求項4】
上記樹脂組成物において、2,4-ヘキサジエナール(B2)の含有量b2が0.005ppm以上0.65ppm以下である、請求項1又は2に記載の多層構造体。
【請求項5】
上記樹脂組成物において、2,4,6-オクタトリエナール(B3)の含有量b3が0.325ppm以下である、請求項1又は2に記載の多層構造体。
【請求項6】
上記樹脂組成物が共役ポリエン化合物(C)をさらに含み、上記樹脂組成物において、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)に対する共役ポリエン化合物(C)の含有量cが1ppm以上300ppm未満である、請求項1又は2に記載の多層構造体。
【請求項7】
共役ポリエン化合物(C)がソルビン酸である、請求項6に記載の多層構造体。
【請求項8】
シーラント層(α)と基材層(β)とが、接着層(γ)を介して積層されている、請求項1又は2に記載の多層構造体。
【請求項9】
シーラント層(α)、接着層(γ)及び基材層(β)が、この順に直接積層した多層フィルムを有する、請求項1又は2に記載の多層構造体。
【請求項10】
エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)が、エチレン-ビニルアルコール共重合体(Aa)及びエチレン-ビニルアルコール共重合体(Ab)を含み、
エチレン-ビニルアルコール共重合体(Aa)とエチレン-ビニルアルコール共重合体(Ab)との融点差(Aa-Ab)が8℃以上であり、
エチレン-ビニルアルコール共重合体(Aa)とエチレン-ビニルアルコール共重合体(Ab)との質量比(Aa/Ab)が60/40以上95/5以下である、請求項1又は2に記載の多層構造体。
【請求項11】
エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)の少なくとも一部が、下記式(I)で表される構造単位、及び下記式(II)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造単位を、上記少なくとも一部のエチレン-ビニルアルコール共重合体(A)の全ビニルアルコール単位に対して0.3モル%以上40モル%以下有する、請求項1又は2に記載の多層構造体。
【化1】
[上記式(I)中、R
1、R
2及びR
3は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~10の脂肪族炭化水素基、炭素数3~10の脂環式炭化水素基、炭素数6~10の芳香族炭化水素基又は水酸基を表す。R
1、R
2及びR
3のうちの一対が結合していてもよい(但し、R
1、R
2及びR
3のうちの一対が共に水素原子の場合は除く)。上記炭素数1~10の脂肪族炭化水素基、炭素数3~10の脂環式炭化水素基及び炭素数6~10の芳香族炭化水素基が有する水素原子の一部又は全部は、水酸基、アルコキシ基、カルボキシル基又はハロゲン原子で置換されていてもよい。
上記式(II)中、R
4、R
5、R
6及びR
7は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~10の脂肪族炭化水素基、炭素数3~10の脂環式炭化水素基、炭素数6~10の芳香族炭化水素基又は水酸基を表す。R
4とR
5とは、又はR
6とR
7とは、結合していてもよい(但し、R
4とR
5とが、又はR
6とR
7が、共に水素原子の場合は除く)。上記炭素数1~10の脂肪族炭化水素基、炭素数3~10の脂環式炭化水素基及び炭素数6~10の芳香族炭化水素基が有する水素原子の一部又は全部は、水酸基、アルコキシ基、カルボキシル基又はハロゲン原子で置換されていてもよい。]
【請求項12】
融点が190℃未満の熱可塑性樹脂を含む層(δ)をさらに備える、請求項1又は2に記載の多層構造体。
【請求項13】
熱板式ヒートシーラーを用いて温度200℃、圧力0.1MPaの条件で、多層構造体のシーラント層(α)同士を1秒間圧着した際の、JIS Z1707(2019)に準拠し引張速度300mm/minで測定されるヒートシールの強度が20N/15mm以上である、請求項1又は2に記載の多層構造体。
【請求項14】
請求項1又は2に記載の多層構造体を含む、包装袋。
【請求項15】
請求項1又は2に記載の多層構造体を含む、真空断熱体。
【請求項16】
シーラント層(α)の合成ピレスロイドの吸着量が10ng/cm2未満である、請求項1又は2に記載の多層構造体。
【請求項17】
シーラント層(α)のニコチンの吸着量が1000ng/cm2未満である、請求項1又は2に記載の多層構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多層構造体、包装材及び真空断熱体に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン-ビニルアルコール共重合体(以下「EVOH」と略記する場合がある。)は透明性、ガスバリア性、保香性、耐溶剤性、耐油性、ヒートシール性等に優れており、かかる特性を生かして、食品包装材料、工業薬品包装材料、農薬包装材料、医薬品包装材料、真空断熱体等に用いられるヒートシール用フィルムとして使用される場合がある。このようなヒートシール用フィルムは、包装袋やその他ボトル等の容器などに成形加工される。フィルムの成形には、一般に溶融成形が多く用いられる。従って、溶融成形に供される樹脂組成物には、長時間の溶融成形を行ってもフィッシュアイ、ストリーク等の欠陥が発生しないといった、ロングラン性に優れる性能が必要とされる。
【0003】
しかし、EVOHは分子内に比較的活性な水酸基を有するため、酸素がほとんどない状態の押出成形機内部でも、高温溶融状態で酸化・架橋反応が進行し、熱劣化物が生じる場合がある。特に、長期連続運転を行うと上記熱劣化物が成形機内部に堆積し、フィッシュアイの原因となるゲル・ブツを発生させるため、EVOH樹脂組成物はロングラン性が不十分となる場合がある。
【0004】
これに対し、特許文献1には、EVOH及び0.01~100ppmの不飽和アルデヒドを含む樹脂組成物が、フィッシュアイ、ゲル、ストリーク等の欠陥の発生を抑制し、かつ、ロングラン性に優れることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1のEVOH樹脂組成物を用いた場合、Tダイによるフィルム成形において、ダイの有効幅より押出されたフィルムの幅の方が小さくなるネックインが問題となる場合があることが分かった。そして、このようなネックインが生じやすいEVOH樹脂組成物は、形成される層の幅方向の厚み等にムラが生じ易いためか、このEVOH樹脂組成物を用いて得られたフィルム等は、ガスバリア性が部分毎に不均一になる傾向にあることも分かった。本発明者らが鋭意検討した結果、驚くべきことに、特定の複数種類の不飽和アルデヒドを特定の比率で含むEVOH樹脂組成物が、かかるネックインを抑制できることを見出した。しかしながら、ネックイン抑制を試み複数種類の不飽和アルデヒドの含有量を調整した際に、上記複数種類の不飽和アルデヒドの比率によっては、溶融樹脂組成物の吐出口(ダイリップ)の外面にダイビルドアップ(目ヤニ:ダイリップ外面の堆積物を意味する)が付着しやすくなるという問題が新たに生じることが分かった。
【0007】
一方、EVOH層をヒートシール層として用いる場合においては、EVOH層がダイリップと接する範囲が大きいため、多層構造体の最外層としてEVOH層が共押出される場合、及びEVOH層のみの単層フィルムである場合に、ダイビルドアップが著しく問題となることがある。そして、このようなダイビルドアップが生じやすいEVOH樹脂組成物を用いて得られたフィルム等は、ダイビルドアップを原因とするブツ・ストリーク等が発生し易くなり、それらが要因となってヒートシール強度が低下する傾向にあることが分かった。
【0008】
本発明は、このような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、EVOHを含み、溶融成形の際のネックイン及びダイビルドアップが抑制された樹脂組成物を用いて形成されたシーラント層(α)を有し、シーラント層(α)のガスバリア性の均一性が高く、且つヒートシール強度及びヒートシール後の外観が改善された多層構造体、並びにそれを用いた包装材及び真空断熱体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的は、
[1]樹脂組成物からなるシーラント層(α)と融点が190℃以上の熱可塑性樹脂を含む基材層(β)を備え、シーラント層(α)を最表層に有し、上記樹脂組成物が、エチレン単位含有量が20モル%以上60モル%以下であるエチレン-ビニルアルコール共重合体(A)(以下「EVOH(A)」と略記する場合がある)及びクロトンアルデヒド(B1)を含み、2,4-ヘキサジエナール(B2)及び2,4,6-オクタトリエナール(B3)からなる群より選ばれる少なくとも1種をさらに含み、上記樹脂組成物が、下記式(1)及び(2)を満たす、多層構造体;
2.0≦b
1/(b
2+b
3)<150.0 ・・・(1)
b
2+2b
3≦0.65 ・・・(2)
上記式(1)及び(2)中、b
1は、EVOH(A)に対するクロトンアルデヒド(B1)の含有量(ppm)であり、b
2は、EVOH(A)に対する2,4-ヘキサジエナール(B2)の含有量(ppm)であり、b
3は、EVOH(A)に対する2,4,6-オクタトリエナール(B3)の含有量(ppm)である。
[2]上記樹脂組成物において、EVOH(A)に対するクロトンアルデヒド(B1)、2,4-ヘキサジエナール(B2)及び2,4,6-オクタトリエナール(B3)の含有量の合計(b
1+b
2+b
3)が0.01ppm以上7.0ppm以下である、[1]の多層構造体;
[3]上記樹脂組成物において、クロトンアルデヒド(B1)の含有量b
1が0.01ppm以上4.0ppm以下である、[1]又は[2]の多層構造体;
[4]上記樹脂組成物において、2,4-ヘキサジエナール(B2)の含有量b
2が0.005ppm以上0.65ppm以下である、[1]~[3]の多層構造体;
[5]上記樹脂組成物において、2,4,6-オクタトリエナール(B3)の含有量b
3が0.325ppm以下である、[1]~[4]の多層構造体;
[6]上記樹脂組成物が共役ポリエン化合物(C)をさらに含み、上記樹脂組成物において、EVOH(A)に対する共役ポリエン化合物(C)の含有量cが1ppm以上300ppm未満である、[1]~[5]の多層構造体;
[7]共役ポリエン化合物(C)がソルビン酸である、[6]の多層構造体;
[8]シーラント層(α)と基材層(β)とが、接着層(γ)を介して積層されている、[1]~[7]の多層構造体;
[9]シーラント層(α)、接着層(γ)及び基材層(β)が、この順に直接積層した多層フィルムを有する、[1]~[8]の多層構造体;
[10]EVOH(A)が、EVOH(Aa)及びEVOH(Ab)を含み、EVOH(Aa)とEVOH(Ab)との融点差(Aa-Ab)が8℃以上であり、EVOH(Aa)とEVOH(Ab)との質量比(Aa/Ab)が60/40以上95/5以下である、[1]~[9]の多層構造体;
[11]EVOH(A)の少なくとも一部が、下記式(I)で表される構造単位、及び下記式(II)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造単位を、上記少なくとも一部のEVOH(A)の全ビニルアルコール単位に対して0.3モル%以上40モル%以下有する、[1]~[10]の多層構造体;
【化1】
[上記式(I)中、R
1、R
2及びR
3は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~10の脂肪族炭化水素基、炭素数3~10の脂環式炭化水素基、炭素数6~10の芳香族炭化水素基又は水酸基を表す。R
1、R
2及びR
3のうちの一対が結合していてもよい(但し、R
1、R
2及びR
3のうちの一対が共に水素原子の場合は除く)。上記炭素数1~10の脂肪族炭化水素基、炭素数3~10の脂環式炭化水素基及び炭素数6~10の芳香族炭化水素基が有する水素原子の一部又は全部は、水酸基、アルコキシ基、カルボキシル基又はハロゲン原子で置換されていてもよい。
上記式(II)中、R
4、R
5、R
6及びR
7は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~10の脂肪族炭化水素基、炭素数3~10の脂環式炭化水素基、炭素数6~10の芳香族炭化水素基又は水酸基を表す。R
4とR
5とは、又はR
6とR
7とは、結合していてもよい(但し、R
4とR
5とが、又はR
6とR
7が、共に水素原子の場合は除く)。上記炭素数1~10の脂肪族炭化水素基、炭素数3~10の脂環式炭化水素基及び炭素数6~10の芳香族炭化水素基が有する水素原子の一部又は全部は、水酸基、アルコキシ基、カルボキシル基又はハロゲン原子で置換されていてもよい。]
[12]融点が190℃未満の熱可塑性樹脂を含む層(δ)をさらに備える、[1]~[11]の多層構造体;
[13]熱板式ヒートシーラーを用いて温度200℃、圧力0.1MPaの条件で、多層構造体のシーラント層(α)同士を1秒間圧着した際の、JIS Z1707(2019)に準拠して測定されるヒートシールの強度が20N/15mm以上である、[1]~[12]の多層構造体;
[14][1]~[13]の多層構造体を含む、包装袋;
[15][1]~[14]の多層構造体を含む、真空断熱体;
[16]シーラント層(α)の合成ピレスロイドの吸着量が10ng/cm
2未満である、[1]~[15]の多層構造体;
[17]シーラント層(α)のニコチンの吸着量が1000ng/cm
2未満である、[1]~[16]の多層構造体;
を提供することで達成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、EVOHを含み、溶融成形の際のネックイン及びダイビルドアップが抑制された樹脂組成物を用いて形成されたシーラント層(α)を有し、シーラント層(α)のガスバリア性の均一性が高く、且つヒートシール強度及びヒートシール後の外観が改善された多層構造体、並びにそれを用いた包装材及び真空断熱体を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本願明細書において多層構造体における「表面(または表層)」とは、表裏を区別する意味ではなく、露出した面をいう。すなわち、多層構造体には、二つの表面が存在する。同様に、多層構造体には、二つの最表層が存在する。
【0012】
本発明の多層構造体は、所定の樹脂組成物からなるシーラント層(α)と、融点が190℃以上の熱可塑性樹脂を含む基材層(β)を備える。当該多層構造体は、上述した層以外に、接着層(γ)、熱可塑性樹脂層(δ)及びその他の層を備えてもよい。以下、各層について説明する。
【0013】
[シーラント層(α)]
シーラント層(α)は、所定の樹脂組成物からなる層である。以下、当該樹脂組成物について詳説する。
【0014】
(樹脂組成物)
当該樹脂組成物は、EVOH(A)及びクロトンアルデヒド(B1)を含み、2,4-ヘキサジエナール(B2)及び2,4,6-オクタトリエナール(B3)からなる群より選ばれる少なくとも1種をさらに含み、下記式(1)及び(2)を満たす。
2.0≦b1/(b2+b3)<150.0 ・・・(1)
b2+2b3≦0.65 ・・・(2)
上記式(1)及び(2)中、b1は、EVOH(A)に対するクロトンアルデヒド(B1)の含有量(ppm)であり、b2は、EVOH(A)に対する2,4-ヘキサジエナール(B2)の含有量(ppm)であり、b3は、EVOH(A)に対する2,4,6-オクタトリエナール(B3)の含有量(ppm)である。なお、本明細書において、ppmで表される含有量は、質量基準の含有量である。
【0015】
b1/(b2+b3)の値が2.0以上150.0未満であることでネックイン耐性が良好となり、得られるシーラント層(α)の厚みムラが低減される。このため、シーラント層(α)のガスバリア性の均一性が高まり、その結果、多層構造体のガスバリア性の均一性が高まる傾向にある。一方、2,4-ヘキサジエナール(B2)及び2,4,6-オクタトリエナール(B3)は、ダイビルドアップへ影響を与え、特に2,4,6-オクタトリエナール(B3)は、ダイビルドアップへ与える影響が大きい。そのため、b2+2b3の値が0.65ppm以下であることでダイビルドアップが抑制され、得られる多層構造体におけるヒートシール強度が高まる。この結果、当該多層構造体は、ヒートシール後であっても良好な外観を示すことができる。さらに、当該樹脂組成物は、繰り返し溶融成形してもブツ、ストリーク等が生じ難い。このため、当該樹脂組成物を用いて得られる多層構造体はリサイクル性にも優れる。なお、本明細書においてクロトンアルデヒド(B1)、2,4-ヘキサジエナール(B2)及び2,4,6-オクタトリエナール(B3)をまとめて不飽和脂肪族アルデヒド(B)と称する場合がある。
【0016】
(EVOH(A))
EVOH(A)は、エチレン単位とビニルアルコール単位とを有し、エチレン単位含有量が20モル%以上60モル%以下である共重合体である。EVOH(A)は、通常、エチレン-ビニルエステル共重合体のケン化により得られる。エチレン-ビニルエステル共重合体の製造及びケン化は公知の方法により行うことができる。ビニルエステルとしては、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル、及びその他の脂肪族カルボン酸ビニルエステル等が挙げられ、酢酸ビニルが好ましい。
【0017】
EVOH(A)のエチレン単位含有量は20モル%以上であり、25モル%以上が好ましく、27モル%以上がより好ましい。EVOH(A)のエチレン単位含有量は60モル%以下であり、55モル%以下が好ましく、50モル%以下がより好ましい。エチレン単位含有量が20モル%未満では、溶融押出時の熱安定性が低下し、ゲル化しやすくなり、ストリーク、フィッシュアイ、ブツ等が発生する傾向にある。なお、ストリーク、フィッシュアイ、ブツ等の発生は、特に一般的な条件よりも高温または高速で長時間運転する際に顕著になる。エチレン単位含有量が60モル%を超えると、ガスバリア性が低下する傾向にある。
【0018】
EVOH(A)のケン化度は90モル%以上が好ましく、95モル%以上がより好ましく、99モル%以上がさらに好ましい。EVOH(A)のケン化度が90モル%以上であると、得られるシーラント層(α)及び多層構造体におけるガスバリア性、熱安定性、耐湿性等が良好となる傾向がある。また、ケン化度は100モル%以下であっても、99.97モル%以下であっても、99.94モル%以下であってもよい。
【0019】
また、EVOH(A)は、本発明の目的が阻害されない範囲で、エチレン単位、ビニルアルコール単位及びビニルエステル単位以外の他の構造単位を有していてもよい。EVOH(A)が上記他の構造単位を有する場合、上記他の構造単位のEVOH(A)の全構造単位に対する含有量は30モル%以下が好ましく、20モル%以下がより好ましく、10モル%以下がさらに好ましく、5モル%以下がよりさらに好ましく、1モル%以下が特に好ましいこともある。また、EVOH(A)が上記他の構造単位を有する場合、その含有量は0.05モル%以上であっても、0.10モル%以上であってもよい。上記他の構造単位は、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸またはその無水物、塩、またはモノ若しくはジアルキルエステル等;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド;ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸またはその塩;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(β-メトキシ-エトキシ)シラン、γ-メタクリルオキシプロピルメトキシシラン等のビニルシラン化合物;アルキルビニルエーテル類、ビニルケトン、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等に由来する構造単位が挙げられる。
【0020】
上記他の構造単位は、下記式(I)で表される構造単位(I)、下記式(II)で表される構造単位(II)、及び下記式(III)で表される構造単位(III)の少なくともいずれか一種であってもよい。
【0021】
【0022】
式(I)、式(II)及び式(III)中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10及びR11は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~10の脂肪族炭化水素基、炭素数3~10の脂環式炭化水素基、炭素数6~10の芳香族炭化水素基または水酸基を表す。また、R1、R2及びR3のうちの一対、R4とR5、R6とR7は結合して環構造の一部を形成していてもよい。上記炭素数1~10の脂肪族炭化水素基、炭素数3~10の脂環式炭化水素基及び炭素数6~10の芳香族炭化水素基が有する水素原子の一部または全部は、水酸基、アルコキシ基、カルボキシ基またはハロゲン原子で置換されていてもよい。式(III)中、R12及びR13は、それぞれ独立して、水素原子、ホルミル基または炭素数2~10のアルカノイル基を表す。
【0023】
EVOH(A)が上記構造単位(I)、(II)または(III)を有する場合、樹脂組成物の柔軟性及び加工特性が向上し、延伸性及び熱成形性等が良好になる傾向がある。
【0024】
上記構造単位(I)、(II)または(III)において、上記炭素数1~10の脂肪族炭化水素基としてはアルキル基、アルケニル基等が挙げられ、炭素数3~10の脂環式炭化水素基としてはシクロアルキル基、シクロアルケニル基等が挙げられ、炭素数6~10の芳香族炭化水素基としてはフェニル基等が挙げられる。
【0025】
上記構造単位(I)において、上記R1、R2及びR3は、それぞれ独立に水素原子、メチル基、エチル基、水酸基、ヒドロキシメチル基又はヒドロキシエチル基であることが好ましい。これらの中でも、樹脂組成物における成形性等をさらに向上させることができる観点から、それぞれ独立に水素原子、メチル基、水酸基又はヒドロキシメチル基であることがより好ましい。
【0026】
EVOH(A)中に上記構造単位(I)を含有させる方法は特に限定されず、例えば、上記エチレンとビニルエステルとの重合において、構造単位(I)に誘導される単量体を共重合させる方法等が挙げられる。構造単位(I)に誘導される単量体としては、例えばプロピレン、ブチレン、ペンテン、ヘキセン等のアルケン;3-ヒドロキシ-1-プロペン、3-アシロキシ-1-プロペン、3-アシロキシ-1-ブテン、4-アシロキシ-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-1-ブテン、3-アシロキシ-4-ヒドロキシ-1-ブテン、4-アシロキシ-3-ヒドロキシ-1-ブテン、3-アシロキシ-4-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-2-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-3-メチル-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-2-メチル-1-ブテン、4-ヒドロキシ-1-ペンテン、5-ヒドロキシ-1-ペンテン、4,5-ジヒドロキシ-1-ペンテン、4-アシロキシ-1-ペンテン、5-アシロキシ-1-ペンテン、4,5-ジアシロキシ-1-ペンテン、4-ヒドロキシ-3-メチル-1-ペンテン、5-ヒドロキシ-3-メチル-1-ペンテン、4,5-ジヒドロキシ-3-メチル-1-ペンテン、5,6-ジヒドロキシ-1-ヘキセン、4-ヒドロキシ-1-ヘキセン、5-ヒドロキシ-1-ヘキセン、6-ヒドロキシ-1-ヘキセン、4-アシロキシ-1-ヘキセン、5-アシロキシ-1-ヘキセン、6-アシロキシ-1-ヘキセン、5,6-ジアシロキシ-1-ヘキセン等の水酸基あるいはエステル基を有するアルケンが挙げられる。中でも、共重合反応性、及び得られるシーラント層(α)及び多層構造体の加工性、ガスバリア性の観点からは、プロピレン、3-アシロキシ-1-プロペン、3-アシロキシ-1-ブテン、4-アシロキシ-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-1-ブテンが好ましい。なお、“アシロキシ”はアセトキシであることが好ましく、具体的には3-アセトキシ-1-プロペン、3-アセトキシ-1-ブテン、4-アセトキシ-1-ブテン及び3,4-ジアセトキシ-1-ブテンが好ましい。エステルを有するアルケンの場合は、ケン化反応の際に、上記構造単位(I)に誘導される。
【0027】
上記構造単位(II)において、R4及びR5は共に水素原子であることが好ましい。特にR4及びR5が共に水素原子であり、上記R6及びR7のうちの一方が炭素数1~10の脂肪族炭化水素基、他方が水素原子であることがより好ましい。この脂肪族炭化水素基は、アルキル基及びアルケニル基が好ましい。得られるシーラント層(α)及び多層構造体におけるガスバリア性を特に重視する観点からは、R6及びR7のうちの一方がメチル基またはエチル基、他方が水素原子であることがより好ましい。また上記R6及びR7のうちの一方が(CH2)hOHで表される置換基(但し、hは1~8の整数)、他方が水素原子であることがさらに好ましい。(CH2)hOHで表される置換基において、hは1~4の整数であることが好ましく、1または2であることがより好ましく、1であることがさらに好ましい。
【0028】
EVOH(A)中に上記構造単位(II)を含有させる方法は特に限定されず、例えば、ケン化反応によって得られたEVOH(A)に一価エポキシ化合物を反応させることにより含有させる方法等が用いられる。一価エポキシ化合物としては、下記式(IV)~(X)で示される化合物が好適に用いられる。
【0029】
【0030】
上記式(IV)~(X)中、R14、R15、R16、R17及びR18は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~10の脂肪族炭化水素基(アルキル基、アルケニル基等)、炭素数3~10の脂環式炭化水素基(シクロアルキル基、シクロアルケニル基等)または炭素数6~10の脂肪族炭化水素基(フェニル基等)を表す。また、i、j、k、p及びqは、それぞれ独立して、1~8の整数を表す。ただし、R17が水素原子である場合、R18は水素原子以外の基である。
【0031】
上記式(IV)で表される一価エポキシ化合物としては、例えばエポキシエタン(エチレンオキサイド)、エポキシプロパン、1,2-エポキシブタン、2,3-エポキシブタン、3-メチル-1,2-エポキシブタン、1,2-エポキシペンタン、3-メチル-1,2-エポキシペンタン、1,2-エポキシヘキサン、2,3-エポキシヘキサン、3,4-エポキシヘキサン、3-メチル-1,2-エポキシヘキサン、3-メチル-1,2-エポキシヘプタン、4-メチル-1,2-エポキシヘプタン、1,2-エポキシオクタン、2,3-エポキシオクタン、1,2-エポキシノナン、2,3-エポキシノナン、1,2-エポキシデカン、1,2-エポキシドデカン、エポキシエチルベンゼン、1-フェニル-1,2-エポキシプロパン、3-フェニル-1,2-エポキシプロパン等が挙げられる。上記式(V)で表される一価エポキシ化合物としては、各種アルキルグリシジルエーテル等が挙げられる。上記式(VI)で表される一価エポキシ化合物としては、各種アルキレングリコールモノグリシジルエーテルが挙げられる。上記式(VII)で表される一価エポキシ化合物としては、各種アルケニルグリシジルエーテルが挙げられる。上記式(VIII)で表される一価エポキシ化合物としては、グリシドール等の各種エポキシアルカノールが挙げられる。上記式(IX)で表される一価エポキシ化合物としては、各種エポキシシクロアルカンが挙げられる。上記式(X)で表される一価エポキシ化合物としては、各種エポキシシクロアルケンが挙げられる。
【0032】
上記一価エポキシ化合物の中では炭素数が2~8のエポキシ化合物が好ましい。特に化合物の取り扱いの容易さ、及び反応性の観点から、一価エポキシ化合物の炭素数は2~6がより好ましく、2~4がさらに好ましい。また、一価エポキシ化合物は上記式(IV)または式(V)で表される化合物であることが特に好ましい。具体的には、EVOH(A)との反応性、樹脂組成物及び得られるシーラント層(α)及び多層構造体の加工性、ガスバリア性等の観点からは、1,2-エポキシブタン、2,3-エポキシブタン、エポキシプロパン、エポキシエタンまたはグリシドールが好ましく、中でもエポキシプロパンまたはグリシドールがより好ましい。
【0033】
上記構造単位(III)において、R8、R9、R10及びR11は水素原子または炭素数1~5の脂肪族炭化水素基であることが好ましく、かかる脂肪族炭化水素基は、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基またはn-ペンチル基が好ましい。
【0034】
EVOH(A)中に上記構造単位(III)を含有させる方法については、特に限定されず、例えば、特開2014-034647号公報に記載の方法が挙げられる。
【0035】
EVOH(A)の融点の下限としては、140℃が好ましく、150℃がより好ましく、160℃がさらに好ましい。一方、この融点の上限としては、220℃が好ましく、210℃がより好ましく、200℃がさらに好ましい。EVOH(A)の融点が上記範囲内である場合、溶融成形性が向上し、溶融成形の際のネックイン及びダイビルドアップがより抑制される傾向にある。EVOH(A)の融点は、実施例に記載の方法により測定される値とすることができる。
【0036】
EVOH(A)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
EVOH(A)は、融点の異なる2種のEVOH(Aa)及びEVOH(Ab)を含んでいてもよい。例えば当該樹脂組成物について、実施例に記載の方法により融点を測定した場合、それぞれのEVOHに対応するピーク温度が確認できるものであってもよい。また、当該樹脂組成物においては、一方のEVOHに他方のEVOHが分散した相分離構造を有する形態であってもよく、2種のEVOHが完全に相溶した形態であってもよい。EVOH(Aa)とEVOH(Ab)とは、エチレン単位含有量の異なる2種のEVOHであってよい。
【0038】
EVOH(A)が融点の異なる2種のEVOH(Aa)及びEVOH(Ab)を含む場合、EVOH(Aa)とEVOH(Ab)との融点の差(Aa-Ab)、すなわちEVOH(Aa)の融点からEVOH(Ab)の融点を減じた値の下限としては、例えば5℃であってもよいが、8℃が好ましい。この融点差が8℃以上であると、成形性等が高まる。この融点差の下限は、12℃がより好ましく、16℃がさらに好ましく、20℃がよりさらに好ましく、24℃がよりさらに好ましい。この融点差の下限は、さらに30℃、40℃、50℃又は60であってもよい。EVOH(Aa)とEVOH(Ab)との融点の差の上限としては、例えば100℃であってもよいが、90℃が好ましく、80℃、70℃、60℃、50℃、40℃又は30℃がより好ましい場合もある。上記融点差を上記下限以上とすることで、当該樹脂組成物の成形性、加熱延伸性等を高めることができる。逆に、上記融点差を上記上限以下とすることで、ガスバリア性や、当該樹脂組成物のロングラン(長期間の連続運転)時のフローマークの抑制性効果を高めることができる。
【0039】
EVOH(Aa)の融点の下限としては、150℃が好ましく、160℃がより好ましく、170℃がさらに好ましい。一方、この融点の上限としては、220℃が好ましく、210℃がより好ましく、200℃がさらに好ましい。EVOH(Aa)の融点が上記範囲内である場合、溶融成形性が向上し、溶融成形の際のネックイン及びダイビルドアップがより抑制される傾向にある。
【0040】
EVOH(Aa)のエチレン単位含有量の下限としては、20モル%が好ましく、23モル%がより好ましく、25モル%がさらに好ましい。一方、EVOH(Aa)のエチレン単位含有量の上限としては、50モル%が好ましく、47モル%がより好ましく、43モル%、40モル%又は35モル%がさらに好ましい場合もある。EVOH(Aa)のエチレン単位含有量を上記下限以上とすることで、該樹脂組成物及び得られるシーラント層(α)等の成形性、柔軟性等の効果が十分に奏される。一方、EVOH(Aa)のエチレン単位含有量を上記上限以下とすることで、該樹脂組成物、及び当該樹脂組成物から得られるシーラント層(α)及び多層構造体のガスバリア性を高めることができる。
【0041】
EVOH(Aa)のケン化度は90モル%以上が好ましく、95モル%以上がより好ましく、99モル%以上がさらに好ましい。EVOH(Aa)のケン化度が90モル%以上であると、当該樹脂組成物、及び当該樹脂組成物から得られるシーラント層(α)及び多層構造体におけるガスバリア性、熱安定性、耐湿性等が良好となる傾向がある。また、EVOH(Aa)のケン化度は100モル%以下であっても、99.97モル%以下であっても、99.94モル%以下であってもよい。
【0042】
EVOH(Ab)の融点の下限としては、90℃が好ましく、100℃がより好ましく、110℃、120℃、130℃、140℃又は150℃がさらに好ましい場合もある。一方、この融点の上限としては、220℃が好ましく、210℃がより好ましく、200℃がさらに好ましく、190℃、180℃又は170℃がよりさらに好ましい場合もある。EVOH(Ab)の融点が上記範囲内である場合、溶融成形性が向上し、溶融成形の際のネックイン及びダイビルドアップがより抑制される傾向にある。
【0043】
EVOH(Ab)のエチレン単位含有量の下限としては、30モル%が好ましく、34モル%がより好ましく、38モル%がさらに好ましい。一方、EVOH(Ab)のエチレン単位含有量の上限としては、60モル%が好ましく、55モル%がより好ましく、52モル%がさらに好ましい。EVOH(Ab)のエチレン単位含有量を上記下限以上とすることで、該樹脂組成物及び得られるシーラント層(α)等の成形性、柔軟性等の効果が十分に奏される。一方、EVOH(Ab)のエチレン単位含有量を上記上限以下とすることで、該樹脂組成物及び得られるシーラント層(α)等のガスバリア性を高めることができる。
【0044】
EVOH(Ab)の好適なケン化度は、EVOH(Aa)と同様とすることができる。
【0045】
EVOH(Ab)とEVOH(Aa)とのエチレン単位含有量の差(Ab-Aa)、すなわちEVOH(Ab)のエチレン単位含有量からEVOH(Aa)のエチレン単位含有量を減じた値の下限としては、4.5モル%が好ましく、8モル%がより好ましく、12モル%がさらに好ましく、15モル%がよりさらに好ましい。また、上記エチレン単位含有量の差(Ab-Aa)の上限としては、40モル%が好ましく、30モル%がより好ましく、20モル%がさらに好ましい。EVOH(Ab)とEVOH(Ab)とのエチレン単位含有量差を上記下限以上とすることで、当該樹脂組成物及び得られるシーラント層(α)等の成形性、加熱延伸性等を高めることができる。逆に、上記エチレン単位含有量差を上記上限以下とすることで、当該樹脂組成物のガスバリア性をより高めることなどができる。
【0046】
EVOH(Aa)とEVOH(Ab)との質量比(Aa/Ab)、すなわち、EVOH(Ab)の含有量に対するEVOH(Aa)の含有量の質量比の下限としては、60/40が好ましく、62/38がより好ましく、65/35、68/32、70/30又は75/25がさらに好ましい場合もある。該質量比の上限としては、95/5が好ましく、93/7がより好ましく、92/8がさらに好ましく、91/9がよりさらに好ましく、85/15がよりさらに好ましい場合もある。該質量比が上記範囲であると、各種ガスに対するガスバリア性を保ちつつ、該樹脂組成物及び得られるシーラント層(α)等の成形性、柔軟性等が優れる。例えば上記質量比(Aa/Ab)を上記下限以上とすることで、当該樹脂組成物及び得られるシーラント層(α)等のガスバリア性及び耐油性等を高めることができる。一方、上記質量比(Aa/Ab)を上記上限以下とすることで、当該樹脂組成物及び得られるシーラント層(α)等の成形性、柔軟性等を高めることができる。
【0047】
EVOH(A)の少なくとも一部は、該樹脂組成物及び得られるシーラント層(α)等の成形性、柔軟性等の向上の観点から、上記式(I)で表される構造単位、及び下記式(II)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造単位(x)を有することが好ましい。中でも、EVOH(Ab)が、構造単位(x)を有することが好ましい。
【0048】
少なくとも一部のEVOH(A)である構造単位(x)を有するEVOHにおける全ビニルアルコール構造単位に対する構造単位(x)の含有率の下限としては、0.3モル%が好ましく、1モル%がより好ましく、3モル%がさらに好ましい。構造単位(x)の含有率を上記下限以上とすることで、当該樹脂組成物及び得られるシーラント層(α)等の成形性、柔軟性等を十分に高めることができる。一方、この含有率の上限としては、40モル%が好ましく、30モル%がより好ましく、20モル%がさらに好ましい。構造単位(x)の含有率を上記上限以下とすることで、ガスバリア性等を高めることができる。
【0049】
当該樹脂組成物におけるEVOH(A)の含有量は、ガスバリア性等の観点から、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上が特に好ましく、95質量%以上であっても、99質量%以上であっても、99.9質量%以上であってもよい。当該樹脂組成物を構成する樹脂が実質的にEVOH(A)のみから構成されていてもよい。一方、当該樹脂組成物におけるEVOH(A)の含有量は、例えば99.9質量%以下であってよく、99質量%以下であってもよい。
【0050】
(不飽和脂肪族アルデヒド(B))
当該樹脂組成物はクロトンアルデヒド(B1)を含み、かつ、2,4-ヘキサジエナール(B2)及び2,4,6-オクタトリエナール(B3)からなる群より選ばれる少なくとも1種をさらに含む。
【0051】
当該樹脂組成物におけるEVOH(A)に対するクロトンアルデヒド(B1)の含有量b1の下限は、0.01ppmが好ましく、0.20ppmがより好ましく、0.40ppmがさらに好ましく、0.70ppm又は1.20ppmがよりさらに好ましい場合もある。一方、含有量b1の上限は、4.0ppmが好ましく、3.5ppmがより好ましく、2.7ppmがさらに好ましく、2.0ppm又は1.5ppmがよりさらに好ましい場合もある。含有量b1が上記範囲であると、後述するb1/(b2+b3)、b1+b2+b3及びb2+2b3の値を好適な範囲に調整しやすくなる。また、含有量b1が上記範囲であると着色を抑制できる傾向となる。
【0052】
当該樹脂組成物は、一実施形態として、2,4-ヘキサジエナール(B2)をクロトンアルデヒド(B1)に対して特定比率で含むことで、ダイビルドアップを抑制しつつ、ネックイン耐性に優れる傾向となる。当該樹脂組成物におけるEVOH(A)に対する2,4-ヘキサジエナール(B2)の含有量b2の下限は、0.005ppmが好ましく、0.01ppmがより好ましく、0.02ppmがさらに好ましい。一方、含有量b2の上限は、0.65ppmが好ましく、0.20ppmがより好ましく、0.10ppmがさらに好ましく、0.08ppmがよりさらに好ましく、0.06ppmが特に好ましい。含有量b2が上記範囲であると、後述するb1/(b2+b3)、b1+b2+b3及びb2+2b3の値を好適な範囲に調整しやすくなる。また、含有量b2が上記範囲であると着色を抑制できる傾向となる。
【0053】
当該樹脂組成物は、一実施形態として、2,4,6-オクタトリエナール(B3)をクロトンアルデヒド(B1)に対して特定比率で含むことで、ダイビルドアップを抑制しつつ、ネックイン耐性に優れる傾向となる。2,4,6-オクタトリエナール(B3)は、2,4-ヘキサジエナール(B2)と比べ、添加量に対するダイビルドアップへの影響が大きい。このため、ダイビルドアップを抑制しつつ、ネックイン耐性を向上させる視点からは当該樹脂組成物は、2,4,6-オクタトリエナール(B3)よりは、2,4-ヘキサジエナール(B2)を含むことが好ましい。当該樹脂組成物におけるEVOH(A)に対する2,4,6-オクタトリエナール(B3)の含有量b3の上限は、0.325ppmが好ましく、0.23ppmがより好ましく、0.07ppmがさらに好ましく、0.04ppmが特に好ましい。含有量B3の下限は、0ppmであってもよく、0.005ppmであってもよい。含有量b3が上記範囲であると、後述するb1/(b2+b3)、b1+b2+b3及びb2+2b3の値を好適な範囲に調整しやすくなる。また、含有量b3が上記範囲であると着色を抑制できる傾向となる。
【0054】
当該樹脂組成物においては、クロトンアルデヒド(B1)の含有量b1(ppm)に対する2,4-ヘキサジエナール(B2)の含有量b2(ppm)と2,4,6-オクタトリエナール(B3)の含有量b3(ppm)との合計の比率(b1/(b2+b3))の値が2.0以上150.0未満であることでネックイン耐性に優れる。かかるネックイン耐性は、不飽和脂肪族アルデヒド(B)のいずれかの化合物を単独で用いた場合には見られない効果であり、b1/(b2+b3)が特定範囲となることで初めて奏される効果である。b1/(b2+b3)の下限は、4.0が好ましく、8.0がより好ましい。一方、b1/(b2+b3)の上限は、60.0が好ましく、25.0がより好ましく、13.0がさらに好ましい。b1/(b2+b3)を上記範囲内とすることで、ネックインをより十分に抑制することができる。その結果、得られるシーラント層(α)の厚みの均一性が高まることなどにより、シーラント層(α)及び多層構造体のガスバリア性の均一性及びヒートシール強度を高めることができる。
【0055】
当該樹脂組成物においては、2,4-ヘキサジエナール(B2)の含有量b2(ppm)と2,4,6-オクタトリエナール(B3)の含有量b3(ppm)の2倍量との合計(b2+2b3)の上限は、0.65ppm以下であり、0.50ppmが好ましく、0.30ppmがより好ましく、0.10ppmがさらに好ましい。b2+2b3が上記上限を超えると、ダイビルドアップの発生を抑制できない。ダイビルドアップが発生した場合、得られるシーラント層(α)におけるダイビルドアップ由来のスジ等の発生により、多層構造体におけるヒートシール強度の低下、ガスバリア性の低下等を引き起こす。b2+2b3は、0.005ppm以上であってもよく、0.01ppm以上であってもよい。
【0056】
当該樹脂組成物において、EVOH(A)に対するクロトンアルデヒド(B1)、2,4-ヘキサジエナール(B2)及び2,4,6-オクタトリエナール(B3)の含有量の合計(b1+b2+b3)の上限は、7.0ppmが好ましく、4.0ppmがより好ましく、3.5ppmがさらに好ましく、3.0ppmがよりさらに好ましく、1.5ppmがよりさらに好ましく、1.0ppmが特に好ましい場合もある。b1+b2+b3を上記上限以下とすることで、樹脂組成物の着色を十分に抑えることができる。一方、b1+b2+b3の下限としては、0.01ppmが好ましく、0.10ppmがより好ましく、0.30ppm又は0.50ppmがさらに好ましい場合もある。
【0057】
(共役ポリエン化合物(C))
当該樹脂組成物は、共役ポリエン化合物(C)をさらに含むことが好ましい。共役ポリエン化合物(C)は、溶融成形時のEVOH(A)の酸化劣化による色調悪化を抑制することができる。ここで、共役ポリエン化合物(C)とは、炭素-炭素二重結合と炭素-炭素単結合とが交互に繋がってなる構造を有し炭素-炭素二重結合の数が2個以上である、いわゆる共役二重結合を有する化合物である。但し、2,4-ヘキサジエナール(B2)及び2,4,6-オクタトリエナール(B3)は、共役ポリエン化合物(C)には該当しないものとする。共役ポリエン化合物(C)は、共役二重結合を2個有する共役ジエン、3個有する共役トリエン、又はそれ以上の数を有する共役ポリエンであってもよい。また、共役二重結合の構造が1分子中に複数組あってもよい。例えば、桐油のように共役トリエン構造が同一分子内に3個ある化合物も共役ポリエン化合物(C)に含まれる。共役ポリエン化合物(C)の共役二重結合の数の上限としては、7個が好ましい。当該樹脂組成物は、共役二重結合を8個以上有する共役ポリエン化合物(C)を含有すると、ペレットひいては成形体の着色が起こる可能性が高くなる。
【0058】
共役ポリエン化合物(C)は、共役二重結合に加えて、カルボキシ基及びその塩、水酸基、エステル基、エーテル基、アミノ基、イミノ基、アミド基、シアノ基、ジアゾ基、ニトロ基、スルホン基及びその塩、スルホニル基、スルホキシド基、スルフィド基、チオール基、リン酸基及びその塩、フェニル基、ハロゲン原子、二重結合、三重結合等のその他の官能基を有していてもよい。
【0059】
共役ポリエン化合物(C)の炭素数の下限としては、4が好ましい。また、共役ポリエン化合物(C)の炭素数の上限としては、30が好ましく、10がより好ましい。
【0060】
共役ポリエン化合物(C)としては、例えばイソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジエチル-1,3-ブタジエン、2-t-ブチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ペンタジエン、2,4-ジメチル-1,3-ペンタジエン、3,4-ジメチル-1,3-ペンタジエン、3-エチル-1,3-ペンタジエン、2-メチル-1,3-ペンタジエン、3-メチル-1,3-ペンタジエン、4-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、2,4-ヘキサジエン、2,5-ジメチル-2,4-ヘキサジエン、1,3-オクタジエン、1,3-シクロペンタジエン、1,3-シクロヘキサジエン、1-フェニル-1,3-ブタジエン、1,4-ジフェニル-1,3-ブタジエン、1-メトキシ-1,3-ブタジエン、2-メトキシ-1,3-ブタジエン、1-エトキシ-1,3-ブタジエン、2-エトキシ-1,3-ブタジエン、2-ニトロ-1,3-ブタジエン、クロロプレン、1-クロロ-1,3-ブタジエン、1-ブロモ-1,3-ブタジエン、2-ブロモ-1,3-ブタジエン、オシメン、フェランドレン、ミルセン、ファルネセン、ソルビン酸、ソルビン酸エステル、ソルビン酸塩等の共役ジエン化合物;1,3,5-ヘキサトリエン、2,4,6-オクタトリエン-1-カルボン酸、エレオステアリン酸、桐油、コレカルシフェロール、フルベン、トロポン等の共役トリエン化合物;シクロオクタテトラエン、2,4,6,8-デカテトラエン-1-カルボン酸、レチノール、レチノイン酸等が挙げられる。
【0061】
共役ポリエン化合物(C)としては、ソルビン酸、ソルビン酸エステル、ソルビン酸塩、ミルセンまたはこれらのうちの2以上の混合物が好ましく、ソルビン酸、ソルビン酸塩(ソルビン酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム等)またはこれらの混合物がより好ましい。ソルビン酸、ソルビン酸塩またはこれらの混合物は、高温での酸化劣化の抑制効果が高く、また食品添加剤としても広く工業的に使用されているため衛生性や入手性の観点からも好ましい。
【0062】
共役ポリエン化合物(C)の分子量としては、通常1,000以下であり、500以下が好ましく、300以下がより好ましい。共役ポリエン化合物(C)の分子量が上記上限以下である場合、樹脂組成物中への共役ポリエン化合物(C)の分散状態が良好になり、溶融成形後の外観が高まる傾向にある。共役ポリエン化合物(C)の分子量の下限は例えば54であり、60であってもよく、80であってもよい。
【0063】
当該樹脂組成物におけるEVOH(A)に対する共役ポリエン化合物(C)の含有量cの下限は、1ppmが好ましく、3ppmがより好ましい。また、当該樹脂組成物におけるEVOH(A)に対する共役ポリエン化合物(C)の含有量cは300ppm未満が好ましく、100ppm以下がより好ましく、70ppm以下がさらに好ましく、30ppm以下がよりさらに好ましく、20ppm以下、10ppm以下が特に好ましい場合もある。共役ポリエン化合物(C)の含有量cが上記範囲であると溶融成形時の色相の悪化をより抑制できる傾向となる。
【0064】
(その他の任意成分)
当該樹脂組成物は、EVOH(A)、不飽和脂肪族アルデヒド(B)及び共役ポリエン化合物(C)以外のその他の任意成分として、ホウ素化合物、カルボン酸類、リン化合物、金属イオン、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、帯電防止剤、滑剤、着色剤、充填剤、熱安定剤、EVOH(A)以外の他の樹脂、高級脂肪族カルボン酸の金属塩等を含んでいてもよい。当該樹脂組成物は、これらの成分を2種以上含有してもよい。当該樹脂組成物が、その他の任意成分を含む場合、その合計含有量の上限は1質量%が好ましく、0.5質量%が好ましい場合もある。
【0065】
ホウ素化合物は、溶融成形時のゲル化を抑制すると共に押出成形機等のトルク変動(加 熱時の粘度変化)を抑制するものである。上記ホウ素化合物としては、例えばオルトホウ酸、メタホウ酸、四ホウ酸等のホウ酸類;ホウ酸トリエチル、ホウ酸トリメチル等のホウ酸エステル;上記ホウ酸類のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、ホウ砂等のホウ酸塩;水素化ホウ素類などが挙げられる。これらの中でも、ホウ酸類が好ましく、オルトホウ酸(以下、「ホウ酸」ともいう)がより好ましい。EVOH(A)に対するホウ素化合物の含有量の下限としては、100ppmが好ましく、500ppmがより好ましい。また、EVOH(A)に対するホウ素化合物の含有量の上限としては、5,000ppmが好ましく、3,000ppmがより好ましく、1,000ppmがさらに好ましい。ホウ素化合物の含有量を上記下限以上とすることで、押出成形機等のトルク変動を十分に抑制することができる。一方、ホウ素化合物の含有量を上記上限以下とすることで、溶融成形時にゲル化が起こりにくくなり多層構造体の外観等が向上する。なお、ホウ素化合物の含有量は、ホウ素化合物のオルトホウ酸換算含有量である。
【0066】
カルボン酸類は、シーラント層(α)の着色を防止すると共に溶融成形時のゲル化を抑制するものである。カルボン酸類としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸、これらの塩等が挙げられる。カルボン酸類としては、炭素数4以下のカルボン酸類又は飽和カルボン酸類が好ましく、酢酸類がより好ましい。この酢酸類は、酢酸及び酢酸塩を含む。酢酸類としては、酢酸及び酢酸塩を併用することが好ましく、酢酸及び酢酸ナトリウムを併用することがより好ましい。EVOH(A)に対するカルボン酸類の含有量の下限としては、50ppmが好ましく、100ppmがより好ましく、150ppmがさらに好ましい。また、EVOH(A)に対するカルボン酸類の含有量の上限としては、1,000ppmが好ましく、500ppmがより好ましく、400ppmがさらに好ましい。カルボン酸類の含有量を上記下限以上とすることで、十分な着色抑制効果が得られ、黄変の発生を十分に抑制することができる。一方、カルボン酸類の含有量を上記上限以下とすることで、溶融成形時、特に長時間に及ぶ溶融成形時にゲル化が生じにくくなり、多層構造体の外観等が良好になる。
【0067】
リン化合物は、ストリーク、フィッシュアイ等の欠陥の発生及び着色を抑制すると共に、ロングラン性を向上させるものである。このリン化合物としては、例えばリン酸、亜リン酸等のリン酸塩等が挙げられる。上記リン酸塩としては、第一リン酸塩、第二リン酸塩及び第三リン酸塩のいずれの形でもよい。また、リン酸塩のカチオン種についても特に限定されるものではないが、アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩が好ましく、これらのうちリン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム及びリン酸水素二カリウムがより好ましく、リン酸二水素ナトリウム及びリン酸水素二カリウムがさらに好ましい。EVOH(A)に対するリン化合物の含有量の下限としては、1ppmが好ましく、10ppmがより好ましく、20ppmがさらに好ましく、30ppmが特に好ましい。EVOH(A)に対するリン化合物の含有量の上限としては、200ppmが好ましく、150ppmがより好ましく、100ppmがさらに好ましい。リン化合物の含有量を上記下限以上とすること、又は上記上限以下とすることで、熱安定性が向上し、長時間にわたる溶融成形を行なう際のゲル状ブツの発生、着色等が生じにくくなる。
【0068】
金属イオンとしては、一価金属イオン、二価金属イオン、その他遷移金属イオンが挙げられ、これらは1種又は複数種からなっていてもよい。中でも一価金属イオン及び二価金属イオンが好ましい。一価金属イオンとしては、アルカリ金属イオンが好ましく、例えばリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム及びセシウムのイオンが挙げられ、工業的な入手容易性の点からはナトリウム又はカリウムのイオンが好ましい。また、アルカリ金属イオンを与えるアルカリ金属塩としては、例えば脂肪族カルボン酸塩、芳香族カルボン酸塩、炭酸塩、塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩及び金属錯体が挙げられる。中でも、脂肪族カルボン酸塩及びリン酸塩が入手容易である点から好ましく、具体的には、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、リン酸ナトリウム及びリン酸カリウムが好ましい。金属イオンとして二価金属イオンを含むことが好ましい場合もある。金属イオンが二価金属イオンを含むと、例えばトリムを回収して再利用した際のEVOHの熱劣化が抑制され、得られる成形体のゲル及びブツの発生が抑制される場合がある。二価金属イオンとしては、例えばベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム及び亜鉛のイオンが挙げられるが、工業的な入手容易性の点からはマグネシウム、カルシウム又は亜鉛のイオンが好ましい。また、二価金属イオンを与える二価金属塩としては、例えばカルボン酸塩、炭酸塩、塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩及び金属錯体が挙げられカルボン酸塩が好ましい。カルボン酸塩を構成するカルボン酸としては、炭素数1~30のカルボン酸が好ましく、具体的には、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ステアリン酸、ラウリン酸、モンタン酸、ベヘン酸、オクチル酸、セバシン酸、リシノール酸、ミリスチン酸、パルミチン酸等が挙げられ、中でも、酢酸及びステアリン酸が好ましい。EVOH(A)に対する金属イオンの含有量の下限は1ppmが好ましく、100ppmがより好ましく、150ppmがさらに好ましい。一方、金属イオンの含有量の上限は1,000ppmが好ましく、400ppmがより好ましく、350ppmがさらに好ましい。EVOH(A)に対する金属イオンの含有量が1ppm以上であると、得られる多層構造体の層間接着性が良好となる傾向となる。一方、金属イオンの含有量が1,000ppm以下であると、着色耐性が良好となる傾向となる。
【0069】
酸化防止剤としては、例えば、2,5-ジ-t-ブチルハイドロキノン、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、4,4’-チオビス(6-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレン-ビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、オクタデシル-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート等が挙げられる。紫外線吸収剤としては、例えばエチレン-2-シアノ-3,3’-ジフェニルアクリレート、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-オキトシキベンゾフェノン等が挙げられる。
【0070】
可塑剤としては、例えばフタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジオクチル、ワックス、流動パラフィン、リン酸エステル等が挙げられる。帯電防止剤としては、例えばペンタエリスリットモノステアレート、ソルビタンモノパルミテート、硫酸化ポリオレフィン類、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール(商品名:カーボワックス)等が挙げられる。
【0071】
滑剤としては、例えばエチレンビスステアロアミド、ブチルステアレート等が挙げられる。着色剤としては、例えばカーボンブラック、フタロシアニン、キナクリドン、インドリン、アゾ系顔料、ベンガラ等が挙げられる。充填剤としては、例えばグラスファイバー、ウォラストナイト、ケイ酸カルシウム、タルク、モンモリロナイト等が挙げられる。熱安定剤としては、例えばヒンダードフェノール系化合物、ヒンダードアミン系化合物等が挙げられる。
【0072】
EVOH(A)以外の他の樹脂としては、例えばポリアミド、ポリオレフィン等が挙げられる。高級脂肪族カルボン酸の金属塩としては、例えばステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等が挙げられる。
【0073】
当該樹脂組成物において、EVOH(A)及び不飽和脂肪族アルデヒド(B)(クロトンアルデヒド(B1)、2,4-ヘキサジエナール(B2)及び2,4,6-オクタトリエナール(B3))の合計含有量は、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、98質量%以上がさらに好ましく、99質量%以上が特に好ましい。当該樹脂組成物は実質的にEVOH(A)及び不飽和脂肪族アルデヒド(B)のみから構成されていてもよく、当該樹脂組成物はEVOH(A)及び不飽和脂肪族アルデヒド(B)のみから構成されていてもよい。なお、本明細書において「実質的に~のみからなる」とは、本発明の効果に影響を与えない範囲で任意成分の含有を許容するものであり、本明細書において「のみからなる」とは、不可避的に含まれてしまう不純物以外の任意成分を除外するものである。シーラント層(α)は当該樹脂組成物のみからなることが好ましい。
【0074】
当該樹脂組成物の210℃、2,160g荷重下でのメルトフローレート(MFR)の下限としては、0.5g/10分が好ましく、1g/10分がより好ましい。一方、このMFRの上限としては、30g/10分が好ましく、20g/10分がより好ましい。当該樹脂組成物のMFRが上記範囲であることで、溶融成形性等を高めることができる。また、当該樹脂組成物のMFRが上記範囲であると、ネックイン耐性がより良好となる傾向となる。
【0075】
<樹脂組成物の調製方法>
当該樹脂組成物の製造方法は、EVOH(A)中に不飽和脂肪族アルデヒド(B)をブレンドできる方法であれば特に限定されない。当該製造方法は、例えば、
(1)エチレンとビニルエステルとを共重合させる工程、及び
(2)工程(1)により得られた共重合体をケン化する工程
を備える樹脂組成物の製造方法であって、上記樹脂組成物中に所定量及び所定比率の不飽和脂肪族アルデヒド(B)を含有させることを特徴とする製造方法等が挙げられる。
【0076】
樹脂組成物中に不飽和脂肪族アルデヒド(B)を含有させる方法としては、特に限定されないが、例えば、上記工程(1)において不飽和脂肪族アルデヒド(B)を添加する方法、上記工程(2)において不飽和脂肪族アルデヒド(B)を添加する方法、上記工程(2)により得られたEVOH(A)に、不飽和脂肪族アルデヒド(B)を添加する方法等が挙げられる。なお、上記工程(1)において不飽和脂肪族アルデヒド(B)を添加する方法、又は上記工程(2)において不飽和脂肪族アルデヒド(B)を添加する方法を採用する場合には、得られる樹脂組成物中に所望量の不飽和脂肪族アルデヒド(B)を含有させるために、上記工程(1)における重合反応、上記工程(2)におけるケン化反応で消費される量を考慮して添加量を多くする必要がある。したがって、重合反応やケン化反応工程で不飽和脂肪族アルデヒド(B)を添加する場合は消費される不飽和脂肪族アルデヒド(B)の量を加算して添加することが好ましい。一方、上記工程(2)より得られたEVOH(A)に不飽和脂肪族アルデヒド(B)を添加する方法は工程内での消費を考慮せずに添加できるため、操作性に優れている。
【0077】
EVOH(A)に不飽和脂肪族アルデヒド(B)を添加する方法としては、例えば不飽和脂肪族アルデヒド(B)を予めEVOH(A)に配合してペレットを造粒する方法、エチレン-ビニルエステル共重合体のケン化後にペーストを析出させる工程で析出させたストランドに不飽和脂肪族アルデヒド(B)を含浸させる方法、析出させたストランドをカットした後に不飽和脂肪族アルデヒド(B)を含浸させる方法、乾燥樹脂組成物のチップを再溶解したものに不飽和脂肪族アルデヒド(B)を添加する方法、EVOH(A)及び不飽和脂肪族アルデヒド(B)の各成分をブレンドしたものを溶融混練する方法、押出機の途中からEVOH(A)溶融物に不飽和脂肪族アルデヒド(B)をフィードし含有させる方法、不飽和脂肪族アルデヒド(B)をEVOH(A)の一部に高濃度で配合して造粒したマスターバッチを作成しEVOH(A)とドライブレンドして溶融混練する方法等が挙げられる。
【0078】
これらのうち、EVOH(A)中に微量の不飽和脂肪族アルデヒド(B)を均一性高く分散することができる観点から、不飽和脂肪族アルデヒド(B)を予めEVOH(A)に配合してペレットを造粒する方法が好ましい。具体的には、EVOH(A)を水/メタノール混合溶媒等の良溶媒に溶解させた溶液に、不飽和脂肪族アルデヒド(B)を添加し、その混合溶液をノズル等から貧溶媒中に押出して析出及び/又は凝固させ、それを洗浄及び/又は乾燥することにより、EVOH(A)に不飽和脂肪族アルデヒド(B)が均一性高く混合された樹脂組成物ペレットを得ることができる。
【0079】
EVOH(A)中に不飽和脂肪族アルデヒド(B)以外のその他成分を含有させる方法としては、例えば上記ペレットをその他成分と共に混合して溶融混練する方法、上記ペレットを調製する際に、不飽和脂肪族アルデヒド(B)と共にその他成分を混合する方法、上記ペレットをその他成分が含まれる溶液に浸漬させる方法、上記ペレットにその他成分をドライブレンドする方法等が挙げられる。なお、その他成分の混合には、リボンブレンダー、高速ミキサーコニーダー、ミキシングロール、押出機、インテンシブミキサー等を用いることができる。
【0080】
シーラント層(α)の製造に用いるときの樹脂組成物は、ペレット形状であることが、取扱性が容易である点から好ましい。当該樹脂組成物のペレットの形状は特に限定されるものではないが、円柱状、角柱状、球状、略球状(lenticular)などが挙げられ、中でも、ペレットの搬送安定性、取扱性、生産性等の観点から、円柱状、球状または略球状(lenticular)が好ましい。円柱状の場合、直径は1mm以上10mm以下が好ましく、2mm以上8mm以下がより好ましく、高さは1mm以上10mm以下が好ましく、2mm以上8mm以下がより好ましく、3mm以上5mm以下がさらに好ましい。球状または略球状(lenticular)である場合、短手方向の長さは1mm以上10mm以下が好ましく、2mm以上8mm以下がより好ましく、長手方向の長さは1mm以上10mm以下が好ましく、2mm以上8mm以下がより好ましい。
【0081】
シーラント層(α)の平均厚みは特に限定されず、下限は例えば1μm、5μm、7μm又は10μmであってよい。シーラント層(α)の平均厚みを上記下限以上とすることでガスバリア性を高めることなどができる。一方、平均厚みの上限は例えば100μm、70μm、50μm又は40μmであってもよい。シーラント層(α)の平均厚みを上記上限以下とすることで外観特性が良好となる傾向にある。なお、シーラント層(α)及びその他の各層の平均厚みは、別に指定がない場合、任意の5ヶ所以上で測定される厚みの平均値である。
【0082】
シーラント層(α)のISO14663-2 annex Cに準拠して、30℃、65%RHの条件下で測定される酸素透過度の上限としては、50mL・20μm/m2・day・atmが好ましく、10mL・20μm/m2・day・atmがより好ましく、5mL・20μm/m2・day・atmがさらに好ましく、1mL・20μm/m2・day・atmが特に好ましい。
【0083】
(単層フィルム)
シーラント層(α)は、例えば、当該樹脂組成物からなる単層フィルム(基材フィルム)として形成することができる。この場合の形成方法としては、特に限定されず、例えば溶融法、溶液法、カレンダー法等が挙げられ、これらの中で溶融法が好ましい。溶融法としては、キャスト法、インフレーション法が挙げられ、これらの中でキャスト法が好ましい。
【0084】
キャスト法によるフィルム形成の場合、延伸を行ってもよい。延伸方法としては、特に限定されるものではなく、一軸延伸、同時二軸延伸、及び逐次二軸延伸のいずれであってもよい。面積換算の延伸倍率の下限としては、8倍が好ましく、9倍がより好ましい。延伸倍率の上限としては、12倍が好ましく、11倍がより好ましい。延伸倍率が上記範囲であることで、フィルムの厚みの均一性、ガスバリア性及び機械的強度の点を向上させることができる。
【0085】
延伸を行う場合、原反(延伸前のフィルム)に予め含水させておくことが好ましい。これにより、連続延伸が容易となる。延伸前原反の含水率の下限としては、2質量%が好ましく、5質量%がより好ましく、10質量%がさらに好ましい。延伸前原反の含水率の上限としては、30質量%が好ましく、25質量%がより好ましく、20質量%がさらに好ましい。
【0086】
延伸温度は、延伸前の原反の含水率、延伸方法によって多少異なるが、一般に50℃以上130℃以下とされる。延伸温度としては、延伸斑の少ない二軸延伸フィルムが得るためには、同時二軸延伸では70℃以上100℃以下が好ましく、逐次二軸延伸ではロールでの長手方向の延伸においては70℃以上100℃以下が好ましく、テンターでの幅方向の延伸においては80℃以上120℃以下が好ましい。
【0087】
シーラント層(α)は、他の層をさらに有する多層フィルム(基材フィルム)の一つの層であってもよい。多層フィルムとしては、例えば、シーラント層(α)、後述する接着層(γ)及び後述する熱可塑性樹脂層(δ)がこの順に積層された多層フィルム(基材フィルム)を作製することができる。なお、多層フィルムは上記層構造に限定されるものでなく、一方の最外層としてシーラント層(α)を有し、その他の一層以上の他の層を有するものであればよい。但し、多層フィルムは、シーラント層(α)と共に熱可塑性樹脂層(δ)を有することが好ましく、さらにシーラント層(α)と熱可塑性樹脂層(δ)との間に設けられる接着層(γ)を有することがより好ましい。
【0088】
多層フィルムの製造方法としては、特に限定されず、例えば、共押出キャスト成形、共押出インフレーション成形、共押出コート成形等が挙げられる。
【0089】
多層フィルムの全体厚みは、用途に応じて適宜設定することができる。全体厚みは10μm以上が好ましく、13μm以上がより好ましく、15μm以上がさらに好ましい。全体厚みが10μm以上であることで、工業的な生産性が向上する傾向となる。また、全体厚みは300μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましく、100μm以下がさらに好ましく、50μm以下が特に好ましい。全体厚みが300μm以下であることで、工業的な生産性が向上する傾向となる。
【0090】
多層フィルムは、延伸されていることが好ましい。この場合、例えば多層フィルムが少なくともシーラント層(α)、接着層(γ)及び熱可塑性樹脂層(δ)を備える場合、得られる蒸着フィルムは、少なくともシーラント層(α)、接着層(γ)及び熱可塑性樹脂層(δ)が一体で延伸されてなるものとなることが好ましい。延伸の程度としては、少なくとも一軸方向に面積換算の延伸倍率として3倍以上12倍以下延伸されていることが好ましく、4倍以上10倍以下延伸されていることがより好ましく、5倍以上8倍以下延伸されていることがさらに好ましい。上記延伸倍率が3倍以上であることで、ガスバリア性が向上する。一方、上記延伸倍率が12倍以下であることで、膜面が良好になる。
【0091】
多層フィルムは、二軸方向に面積換算の延伸倍率として9倍以上144倍以下延伸されていても良く、16倍以上100倍以下延伸されていることが好ましく、25倍以上64倍以下延伸されていることがより好ましい。上記延伸倍率が9倍以上であることで、ガスバリア性が向上する。一方、上記延伸倍率が144倍以下であることで、膜面が良好になる。
【0092】
多層フィルムの延伸方法としては、特に限定されず、例えば、テンター延伸法、チューブラー延伸法、ロール延伸法などが例示される。製造コストの観点からは、テンター延伸法及びチューブラー延伸法による逐次二軸延伸又は同時二軸延伸が好ましい。また、設備コストの観点からは、ロール延伸法による一軸延伸が好ましい。また、多層フィルムがインフレーション成形体である場合、インフレーション成形後の折りたたまれた円筒状の多層フィルムを容易に一軸方向に延伸できる観点からも、ロール延伸法であることが好ましい。
【0093】
[基材層(β)]
基材層(β)は、融点が190℃以上の熱可塑性樹脂を含む層であり、基材層(β)を備えることで、ヒートシール後の外観を改善することができる。
【0094】
前記融点が190℃以上の熱可塑性樹脂としては、ポリアミド、ポリエステル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリアクリロニトリルなどが挙げられ、ポリエステルが好ましく、ポリエチレンテレフタレートがより好ましい。
【0095】
基材層(β)における融点が190℃以上の熱可塑性樹脂が占める割合は、60質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、95質量%以上であっても、99質量%以上であっても、実質的に190℃以上の熱可塑性樹脂からなっていてもよい。
【0096】
基材層(β)の平均厚みは2μm以上200μm以下が好ましく、3μm以上100μm以下がより好ましく、5μm以上50μm以下であってもよい。
【0097】
基材層(β)は、1層であっても2層以上であってもよく、2層以上の基材層(β)を備える場合、それぞれの基材層(β)は同一であっても、異なっていてもよい。
【0098】
[接着層(γ)]
本発明の多層構造体は、シーラント層(α)と基材層(β)とが接着層(γ)を介して積層されていることが好ましい。接着層(γ)は、シーラント層(α)に直接積層されていることがより好ましい。すなわち、シーラント層(α)、接着層(γ)及び基材層(β)がこの順にそれぞれ他の層を介することなく積層されていることがより好ましい。また、後述する熱可塑性樹脂層(δ)を備える場合、接着層(γ)を用いてシーラント層(α)又は基材層(β)に積層することが好ましい。
【0099】
接着層(γ)は、層間の接着性を高める材料であれば特に限定されないが、接着性樹脂から形成される接着性樹脂層か、接着剤から形成される接着剤層であることが好ましい。接着性樹脂としては、カルボキシ基、カルボン酸無水物基又はエポキシ基を有するポリオレフィンを用いることが好ましい。このような接着性樹脂は、後述する熱可塑性樹脂層(δ)との接着性に優れているため、接着層(γ)として接着性樹脂層が好適な場合は、シーラント層(α)と熱可塑性樹脂層(δ)とを積層し、「/」が直接積層であることを意味する場合に、シーラント層(α)/接着層(γ)(接着性樹脂層)/熱可塑性樹脂層(δ)の層構成とする場合である。
【0100】
カルボキシ基を含有するポリオレフィンとしては、アクリル酸やメタクリル酸を共重合したポリオレフィンなどが挙げられる。このとき、アイオノマーに代表されるようにポリオレフィン中に含有されるカルボキシル基の全部あるいは一部が金属塩の形で存在していてもよい。カルボン酸無水物基を有するポリオレフィンとしては、無水マレイン酸やイタコン酸でグラフト変性されたポリオレフィンが挙げられる。また、エポキシ基を有するポリオレフィンとしては、グリシジルメタクリレートを共重合したポリオレフィンが挙げられる。中でも、無水マレイン酸等のカルボン酸無水物基を有するポリオレフィン、特にカルボン酸無水物基を有するポリエチレン及びカルボン酸無水物基を有するポリプロピレンが接着性に優れる点から好ましい。
【0101】
接着性樹脂のJIS K 7210:2014に従って測定した190℃、2160g荷重におけるメルトフローレート(MFR)は0.1g/10分以上20.0g/10分以下が好ましく、1.0g/10分以上10.0g/10分以下がより好ましい。接着性樹脂のMFRが前記範囲であると、成形時の製膜安定性が良好になる傾向となる。
【0102】
接着剤としては、公知の接着剤を用いることができ、ポリイソシアネート成分とポリオール成分とを混合し反応させる二液反応型ポリウレタン系接着剤であることが好ましい。また、接着層に公知のシランカップリング剤などの少量の添加剤を加えることによって、さらに接着性を高めることができる場合がある。接着剤は、ラミネート法により多層構造体を製造する場合に好適に用いられ、基材層(β)を他の層と積層する際に好適に用いられる。
【0103】
接着層(γ)の平均厚みは、工業的な生産性、品質安定性の観点から、0.5μm以上20μm以下が好ましく、1μm以上10μm以下がより好ましい。本発明の多層構造体が複数のシーラント層(α)、基材層(β)及び熱可塑性樹脂層(δ)を有する場合や、シーラント層(α)とは異なるEVOH層等を備える場合、接着層(γ)はそれぞれの層間に設けられていてもよく、本発明の多層構造体における接着層(γ)の層数は特に限定されない。
【0104】
[熱可塑性樹脂層(δ)]
本発明の多層構造体は、融点が190℃未満の熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂層(δ)を含むことで、機械強度を高められる。また、シーラント層(α)と多層で製膜することで、シーラント層(α)の膜厚を薄くすることができる傾向となり、結果として、本発明の多層構造体のリサイクルが容易となる傾向となる。また、ヒートシール性、機械強度等の特性を、熱可塑性樹脂層(δ)を構成する熱可塑性樹脂の種類に応じて付与できる。
【0105】
融点が190℃未満の熱可塑性樹脂としては、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等のポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、エチレン-プロピレン(ブロック又はランダム)共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、ポリプロピレン、プロピレン-α-オレフィン共重合体、ポリブテン、ポリペンテン等のオレフィンの単独又は共重合体、或いはこれらを不飽和カルボン酸又はそのエステルでグラフト変性したものなどのポリオレフィン;ポリエステル;ポリアミド(共重合ポリアミドも含む);ポリ塩化ビニル;ポリ塩化ビニリデン;アクリル樹脂;ポリスチレン;ポリビニルエステル;ポリエステルエラストマー;ポリウレタンエラストマー;塩素化ポリスチレン;塩素化ポリプロピレン;芳香族ポリケトン又は脂肪族ポリケトン、及びこれらを還元して得られるポリアルコール;ポリアセタール;ポリカーボネート等が挙げられる。中でも、ヒートシール性及びリサイクル性に優れる観点からは、ポリオレフィンが好ましく、ポリエチレン、ポリプロピレンがより好ましい。ポリエチレンとしては、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等のポリエチレンからなる群より選ばれる少なくとも一種が好ましい。
【0106】
熱可塑性樹脂層(δ)における、熱可塑性樹脂の含有量は、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、98質量%以上が特に好ましく、熱可塑性樹脂層(δ)は、実質的に熱可塑性樹脂のみから構成されていてもよく、熱可塑性樹脂のみから構成されていてもよい。
【0107】
熱可塑性樹脂層(δ)を構成する熱可塑性樹脂のJIS K 7210:2014に従って測定した190℃、2160g荷重におけるメルトフローレート(MFR)は0.10g/10分以上10.0g/10分以下が好ましく、0.30g/10分以上5.0g/10分以下がより好ましい。熱可塑性樹脂のMFRが前記範囲であると、製膜安定性が良好になる傾向となる。
【0108】
熱可塑性樹脂層(δ)の平均厚みは、工業的な生産性、機械物性の観点から、5μm以上200μm以下が好ましく、7μm以上100μm以下がより好ましく、10μm以上50μm以下がさらに好ましい。なお、熱可塑性樹脂層(δ)を複数層有する場合は、その厚みの合計が上記範囲であることが好ましい場合がある。
【0109】
本発明の多層構造体において、熱可塑性樹脂層(δ)は、一層でも複数層設けられていてもよい。
【0110】
[その他の層]
本発明の多層構造体が有していてもよいその他の層としては、紙層、無機蒸着層、金属箔層等が挙げられる。また、本発明の多層構造体は、蒸着層が備えられていてもよい。かかる蒸着層は、例えば、シーラント層(α)、基材層(β)及び熱可塑性樹脂層(δ)を基材として、各層上に備えられていてもよい。かかる蒸着層を構成する成分としては、蒸着層として用いられる公知の成分を適宜用いることができる。
【0111】
無機蒸着層は無機物を蒸着することで形成できる。無機物としては、金属(例えば、アルミニウム)、金属酸化物(例えば、酸化ケイ素、酸化アルミニウム)、金属窒化物(例えば、窒化ケイ素)、金属窒化酸化物(例えば、酸窒化ケイ素)、または金属炭化窒化物(例えば、炭窒化ケイ素)等が挙げられる。中でもアルミニウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、または窒化ケイ素で形成される無機蒸着層が、工業的な生産性の観点から好ましく、アルミニウムがより好ましい。
【0112】
なお、アルミニウムの蒸着層であったとしても、不可逆的に酸化が生じ、一部酸化アルミニウムが含まれる場合がある。
【0113】
無機蒸着の平均厚みの下限としては、15nmが好ましく、20nmがより好ましく、30nmがさらに好ましく、40nmが特に好ましい。無機蒸着層の平均厚みの上限としては、150nmが好ましく、130nmがより好ましく、80nmがさらに好ましい。無機蒸着層の平均厚みを上記下限以上とすることで、ガスバリア性を高めることができる。一方、無機蒸着層の平均厚みを上記上限以下とすることで、ヒートブリッジを抑制し、断熱効果を高めることなどができる。
【0114】
無機蒸着層は公知の方法で設けることができる。
【0115】
[層構造、物性等]
本発明の多層構造体の層構造としては、「//」を接着層を介して積層されているか直接積層されているとみなすと、例えば、
(1)α//β、
(2)α/γ/δ//β、
(3)α//ε/β
(4)α/γ/δ//ε/β
等が挙げられる。なお、α:シーラント層、β:基材層、γ:接着層、δ:熱可塑性樹脂層、及びε:無機蒸着層である。
【0116】
例えば、上記(2)等における「α/γ/δ」の層構造部分は、上述のような多層フィルム(基材フィルム)として成形されていてよい。多層フィルムの部分は、延伸されていてもよく、延伸されていなくてもよい。上記「α/γ/δ」の層構造からなる多層フィルムが延伸されている場合、蒸着フィルム中の上記「α/γ/δ」の層構造部分は、一体で延伸されたものとなっている。また、例えば上記(4)においては、「α/γ/δ//ε/β」の層構造部分が多層フィルムとして成形されていてもよく、「α/γ/δ」の層構造部分のみが多層フィルムとして成形され、これにさらに別途接着層(γ)を介して熱可塑性樹脂層(δ)が積層されたものであってもよい。
【0117】
本発明の多層構造体の層構造の具体例としては、例えば、樹脂組成物層(シーラント層(α))//ポリエステル層(基材層(β))の2層構造、樹脂組成物層(シーラント層(α))//無機蒸着層/ポリエステル層(基材層(β))の3層構造等を挙げることができる。当該多層構造体における他の層として無機蒸着層を備えることで、包装袋等として用いた際の非収着性やガスバリア性をさらに高めることができる。さらに、他の具体的な多層構造としては、例えば、樹脂組成物層(シーラント層(α))//ポリアミド層(基材層(β))//ポリエステル層(基材層(β))、樹脂組成物層(シーラント層(α))//ポリアミド層(基材層(β))などを挙げることができる。
【0118】
<多層構造体の製造方法>
本発明の多層構造体の製造方法としては特に限定されず、単層又は多層フィルムの公知の製造方法、例えば、押出法、共押出法、ドライラミネート法、押出コーティング法、共押出コーティング法等を採用することができる。具体的には、当該多層構造体のシーラント層(α)が多層フィルムの一つの層である場合は、熱融着層及び他の層を共押出する方法、他の層上に、熱融着層を押出コーティングする方法、熱融着層からなるフィルムと、他の層からなるフィルムとをドライラミネートする方法等が例示される。シーラント層(α)が多層フィルムの一つの層である場合は、積層する際に必要に応じて接着剤や接着性樹脂を使用することもできる。なお、熱融着層又は樹脂から形成される場合の他の層は、一軸延伸又は二軸延伸により配向していてもよい。
【0119】
多層構造体の全体厚みは、用途に応じて適宜設定することができる。全体厚みは10μm以上が好ましく、13μm以上がより好ましく、15μm以上がさらに好ましい。全体厚みが10μm以上であることで、工業的な生産性が向上する傾向となる。また、全体厚みは300μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましく、100μm以下がさらに好ましく、50μm以下が特に好ましい。全体厚みが300μm以下であることで、工業的な生産性が向上する傾向となる。
【0120】
多層構造体は、延伸されていてもよい。例えば多層フィルムが少なくともシーラント層(α)、接着層(γ)及び熱可塑性樹脂層(δ)を備える場合、得られる多層構造体は、少なくともシーラント層(α)、接着層(γ)及び熱可塑性樹脂層(δ)が一体で延伸されてなるものであってもよい。延伸の程度としては、少なくとも一軸方向に面積換算の延伸倍率として3倍以上12倍以下延伸されていても、4倍以上10倍以下延伸されていても、5倍以上8倍以下延伸されてもよい。上記延伸倍率が3倍以上であると、ガスバリア性が向上する傾向となる。一方、上記延伸倍率が12倍以下であると、膜面が良好になる傾向となる。
【0121】
多層フィルムは、二軸方向に面積換算の延伸倍率として4倍以上144倍以下延伸されていても良く、16倍以上100倍以下延伸されていることが好ましく、25倍以上64倍以下延伸されていることがより好ましい。上記延伸倍率が9倍以上であることで、ガスバリア性が向上する。一方、上記延伸倍率が144倍以下であることで、膜面が良好になる。
【0122】
多層フィルムの延伸方法としては、特に限定されず、例えば、テンター延伸法、チューブラー延伸法、ロール延伸法などが例示される。製造コストの観点からは、テンター延伸法及びチューブラー延伸法による逐次二軸延伸又は同時二軸延伸が好ましい。また、設備コストの観点からは、ロール延伸法による一軸延伸が好ましい。また、多層フィルムがインフレーション成形体である場合、インフレーション成形後の折りたたまれた円筒状の多層フィルムを容易に一軸方向に延伸できる観点からも、ロール延伸法であることが好ましい。
【0123】
当該多層構造体の幅方向の端部と中央部の30℃、65%RHで測定した酸素透過度の差は15%未満が好ましく、10%未満がより好ましく、5%未満がさらに好ましく、1%未満がさらに特に好ましい。多層構造体の酸素透過度の差が上記上限以下であることで、当該多層構造体を備える包装材によって形成される袋等の内部空間の酸素濃度を低く維持できる期間が長くなる。ここで、酸素透過度(mL/m2・day・atm)とは、多層構造体を透過する酸素量(mL)を面積(m2)、透過時間(day)及び一方の面側における酸素ガス圧力と他方の面側における酸素ガス圧力との差(atm)で割った値をいう。具体的には、酸素透過度が例えば「5mL/m2・day・atm以下」である場合、酸素ガスの圧力差が1気圧のもとで、1日にフィルム1m2当たりで5mLの酸素が透過することを表す。なお、上記多層構造体の幅方向の酸素透過度の差は、シーラント層(α)の単層フィルムの幅方向の酸素透過度の差と同等となるとみなすこともできる。
【0124】
シーラント層(α)の揮発分の含有量の下限としては、特に限定されないが、0.01質量%が好ましく、0.03質量%がより好ましく、0.05質量%がさらに好ましい。揮発分の含有量の上限としては、1.1質量%が好ましく、0.5質量%がより好ましく、0.3質量%がさらに好ましい。
【0125】
但し、当該多層構造体を真空断熱体に適用する場合、当該多層構造体における揮発分の含有量は、可能な限り小さいことが好ましい。これは、真空断熱体の真空部分に多層構造体から発生する揮発分が侵入し、その結果、真空断熱体の内部の真空度が下がって断熱性能が低下するおそれがあるからである。
【0126】
ここで、揮発分の含有量は、105℃で3時間乾燥前後の質量変化から下記式により求められる。
揮発分の含有量(質量%)=[(乾燥前質量-乾燥後質量)/乾燥後質量]×100
【0127】
当該多層構造体において、熱板式ヒートシーラーを用いて温度200℃、圧力0.1MPaの条件で、多層構造体のシーラント層(α)同士を1秒間圧着した際の、JIS Z1707(2019)に準拠して測定されるヒートシールの強度が20N/15mm以上であることが好ましい。ヒートシール強度が20N/15mm以上であると、包装材としてのガスバリア性が良好となる。前記ヒートシール強度は23N/15mm以上が好ましく、26N/15mm以上がより好ましい。前記ヒートシール強度は、50N/15mm以下であっても、40N/15mm以下であっても、35N/15mm以下であってもよい。
【0128】
当該多層構造体をヒートシールする方法としては、シーラント層(α)同士をヒートシールするのであれば特に限定されず、公知の方法を用いることができ、例えば熱板式ヒートシーラー、インパルスシーラー、超音波シーラー、摩擦熱シーラー、誘電加熱シーラー等によりヒートシールする方法があげられる。ヒートシールする際の温度としては、熱融着層の融点以上、融点+30℃以下であることがヒートシール強度と外観不良防止の点から好ましい。ヒートシールする圧力としては、0.01MPa以上1.0MPa以下であることがヒートシール強度と外観不良防止の点から好ましい。ヒートシールする時間としては、0.05秒以上5秒以下であることが、ヒートシール強度と生産性の点から好ましい。
【0129】
[用途]
本発明の多層構造体は、ヒートシール層(α)のガスバリア性の均一性が高く、ヒートシール強度が高く、ヒートシール後の外観も良好である。このため、当該多層構造体は、様々な用途に適用できる。当該多層構造体の用途としては、例えば食品包装、医薬品包装、工業薬品包装、農薬包装等の各種包装材、真空断熱体等が挙げられる。
【0130】
<包装材>
本発明の包装材は、本発明の多層構造体を備える。本発明の包装材は、例えば本発明の多層構造体、又はこれを備える多層構造体等を二次加工することで形成される。当該包装材は、多層構造体を備えることで、ガスバリア性に優れる。本発明の包装材は、本発明の多層構造体のシーラント層(α)が包装材の内面を構成している、すなわち、多層構造体のシーラント層(α)同士をヒートシールして包装材が作製される。シーラント層(α)は、化合物等を吸着し辛い性質(非吸着性)を有していることから、本発明の包装材は内容物の成分を吸着し辛く、例えば、香気成分や薬効成分を含有した、食品、飲料、嗜好品、医薬品、化粧品、香料、トイレタリー製品などの包装体として好適に利用できる。
【0131】
本発明の包装材は、用途に応じて種々の形態、例えば縦製袋充填シール袋、真空包装袋、スパウト付パウチ、ラミネートチューブ容器、容器用蓋材等に形成される。
【0132】
[縦製袋充填シール袋]
縦製袋充填シール袋は、例えば液体、粘稠体、粉体、固形バラ物、これらを組み合わせた形態の食品、飲料物等を包装するために使用される。
【0133】
縦製袋充填シール袋は、多層構造体のシーラント層(α)をヒートシールすることで形成される。ヒートシールが行われる場合、通常、多層構造体における縦製袋充填シール袋の内側となる層にシーラント層(α)を配置することが必要である。
【0134】
縦製袋充填シール袋の層構成としては、基材層(β)//シーラント層(α)が好ましい。
【0135】
本発明の包装材は、上述のようにガスバリア性に優れるため、当該包装材の一例である縦製袋充填シール袋によれば、内容物の品質劣化を長期間にわたって抑制できる。
【0136】
[真空包装袋]
真空包装袋は、真空状態で包装することが望まれる用途、例えば食品、飲料物等の保存に使用される。真空包装袋の層構成としては、ポリアミド層(基材層(β))//基材層(β)//シーラント層(α)、ポリアミド層(基材層(β))//シーラント層(α)が好ましい。このような真空包装袋は、当該シーラント層(α)を備えることから、真空包装後、真空包装後のガスバリア性、非吸着性に特に優れる。
【0137】
[スパウト付パウチ]
スパウト付パウチは、液状物質、例えば清涼飲料等の液体飲料、ゼリー飲料、ヨーグルト、フルーツソース、調味料、機能性水、流動食などを包装するために使用される。このスパウト付パウチの層構成としては、ポリアミド層(基材層(β))//シーラント層(α)が好ましい。このようなスパウト付パウチは、当該多層構造体を備えるため、ガスバリア性及び非吸着性に優れる。そのため、スパウト付パウチは、輸送後、長期保存後においても、内容物の変質を防ぎ、香りを保つことが可能である。
【0138】
[ラミネートチューブ容器]
ラミネートチューブ容器は、例えば化粧品、薬品、医薬品、食品、歯磨等を包装するために使用される。このラミネートチューブ容器の層構成としては、ポリアミド層(基材層(β))//シーラント層(α)が好ましい。このようなラミネートチューブ容器は、当該多層構造体を備えるためガスバリア性及び保香性に優れる。
【0139】
[容器用蓋材]
容器用蓋材は、畜肉加工品、野菜加工品、水産加工品、フルーツ等の食品などが充填される容器の蓋材である。この容器用蓋材の層構成としては、ポリアミド層(基材層(β))//シーラント層(α)、が好ましい。このような容器用蓋材は、当該多層構造体を備えるためにガスバリア性及び保香性に優れるため、内容物である食品の品質劣化を長期間にわたって抑制できる。
【0140】
<真空断熱体>
本発明の真空断熱体は、本発明の多層構造体を備える。真空断熱体は、保冷や保温が必要な用途に使用されるものである。この真空断熱体としては、例えば外包材内にグラスウール等の芯材が真空状態で封入されるものが挙げられる。外包材は、例えば本発明の多層構造体が少なくとも1層の無機蒸着層を含んでいることが好ましく、かかる多層構造体をヒートシールすることで形成される。
【0141】
外包材における層数及び積層順には特に制限はないが、無機蒸着層を含むことが好ましい。外包材の層構成としては、ポリアミド層(基材層(β))//基材層(β)/無機蒸着層//シーラント層(α)、ポリアミド層(基材層(β))/無機蒸着層//基材層(β)//シーラント層(α)が好ましい。
【0142】
このような真空断熱体は外包材が本発明の多層構造体を備えるためにガスバリア性に優れる。従って、当該真空断熱体は、長期間にわたって断熱効果を保持できることから、冷蔵庫、給湯設備、炊飯器等の家電製品用の断熱材;壁部、天井部、屋根裏部、床部等に用いられる住宅用断熱材;車両屋根材;自動販売機等の断熱パネルなどに利用できる。
【実施例0143】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0144】
[評価方法]
(1)エチレン単位含有量、ケン化度及びエポキシプロパンの変性量(全ビニルアルコール単位に対する変性量)の測定
合成例で得られたEVOHの粗乾燥物について、真空乾燥機にて120℃で12時間乾燥した。真空乾燥したEVOHを、内部標準物質としてテトラメチルシラン(TMS)、添加剤としてトリフルオロ酢酸(TFA)を含む重ジメチルスルホキシド(DMSO-d6)に溶解し、500MHzの1H-NMR(日本電子株式会社製「GX-500」)を用いて80℃で測定し、エチレン単位、ビニルアルコール単位、ビニルエステル単位のピーク強度比よりエチレン単位含有量及びケン化度を求めた。なお、合成例9、10で得られたEVOHペレットについて測定する際には、真空乾燥せずに測定し、エポキシプロパン変性ビニルアルコール単位のピーク強度から、全ビニルアルコール単位に対する変性量も同時に算出した。なお、合成例9、10で得られたEVOH(A9、A10)において、全ビニルアルコール単位に対するエポキシプロパンの変性量は、全ビニルアルコール単位に対する構造単位(x)の含有率に等しい。
【0145】
(2)ナトリウムイオン含有量、リン酸含有量及びホウ酸含有量
参考例、参考比較例、実施例及び比較例で得られた乾燥樹脂組成物ペレット0.5gをテフロン(登録商標)製圧力容器に入れ、ここに濃硝酸5mLを加えて室温で30分間分解させた。30分後に蓋をし、湿式分解装置(株式会社アクタック製「MWS-2」)を用いて150℃で10分間、次いで180℃で5分間加熱することで分解させ、その後室温まで冷却した。この処理液を50mLのメスフラスコ(TPX(登録商標)製)に移し純水でメスアップした。この溶液について、ICP発光分光分析装置(パーキンエルマー社製「OPTIMA4300DV」)で含有金属の分析を行い、ナトリウムイオン(ナトリウム元素)、リン酸及びホウ酸の含有量を測定した。リン酸の含有量に関してはリン酸根換算値として、ホウ酸の含有量についてはオルトホウ酸換算値として算出した。なお、定量に際しては、それぞれ市販の標準液を使用して作成した検量線を用いた。
【0146】
(3)酢酸含有量
参考例、参考比較例、実施例及び比較例で得られた乾燥樹脂組成物ペレット20gをイオン交換水100mLに投入し、95℃で6時間加熱抽出した。フェノールフタレインを指示薬として、1/50規定のNaOHで抽出液を中和滴定し、酢酸含有量を定量した。
【0147】
(4)メルトフローレート(MFR)
参考例及び参考比較例で得られた乾燥樹脂組成物ペレットを、メルトインデクサーL244(宝工業株式会社製)の内径9.55mm、長さ162mmのシリンダーに充填し、210℃で溶融した後、溶融した樹脂組成物に対して、質量2,160g、直径9.48mmのプランジャーを使用して均等に荷重をかけた。シリンダーの中央に設けた径2.1mmのオリフィスより単位時間当たりに押出される樹脂組成物量(g/10分)を測定し、これをMFRとした。
【0148】
(5)クロトンアルデヒド、2,4-ヘキサジエナール及び2,4,6-オクタトリエナールの定量
参考例、参考比較例、実施例及び比較例で得られた乾燥樹脂組成物ペレット0.50gを凍結粉砕して得られたサンプルを、加熱脱着ガスクロマトグラフ質量分析装置用ガラスチューブに50.0mg秤量し、サンプルチューブを作成した。下記の加熱脱着ガスクロマトグラフ質量分析装置を用い、下記条件にてサンプルを加熱して揮発性ガスをサンプルから吸着管に一度全量吸着させた後、吸着管から再放出されるガスをカラムで分離し、成分毎のピークを検出した。クロトンアルデヒド、2,4-ヘキサジエナール及び2,4,6-オクタトリエナールの標準サンプルのピーク面積から検量線を作成し、絶対検量線法により、それぞれ定量した。なお、標準サンプルを測定する際は、吸着管(Tenax(登録商標)/Carboxen(登録商標)製)に標準サンプルを染み込ませ、サンプルチューブの代わりに標準サンプルを染み込ませた吸着管を用い、サンプル吸着後の放出時の温度について、サンプルチューブの温度170℃から吸着管の温度260℃に変更した以外は、サンプルチューブの測定の場合と同様の方法で測定した。
(加熱脱着部)
装置:TurboMatrix-ATD (パーキンエルマージャパン社製)
吸着管へサンプルを吸着する時の温度:170℃(サンプルチューブ)、-30℃(吸着管)、250℃(バルブ)、260℃(トランスファーライン)
吸着管への吸着時間:10分
サンプル吸着後の放出時の温度:170℃(サンプルチューブ)、260℃(吸着管)、250℃(バルブ)、260℃(トランスファーライン)
吸着管放出時間:35分
キャリアガス:ヘリウム
カラムへのキャリアガスの流速:1.0ml/min
圧力:120kPa
(ガスクロマトグラフ質量分析部)
装置:7890B GC System, 7977B MSD (アジレント・テクノロジー社製)
カラム:DB-WAX UI (長さ:30m、内径:0.25mm、膜厚:0.50μm)
カラムオーブン温度:40℃で5分保持後10℃/minの昇温速度で240℃まで温調後10分保持(合計測定温度35分)
トランスファーライン(接続部)温度:240℃
イオン化条件:EI+
検出イオン質量範囲:m/z=29-600
検出方法:SCAN
(標準サンプル)
クロトンアルデヒド:Aldrich社製
2,4-ヘキサジエナール:Aldrich社製
2,4,6-オクタトリエナール:ナード研究所製
【0149】
(6)ソルビン酸及びミルセンの定量
参考例、参考比較例、実施例及び比較例で得られた乾燥樹脂組成物ペレットを凍結粉砕し、粉砕物22gをソックスレー抽出器に充填し、クロロホルム100mLを用いて16時間抽出処理した。得られたクロロホルム抽出液中のソルビン酸及びミルセンの量を高速液体クロマトグラフィーにて定量分析して、樹脂組成物中のソルビン酸及びミルセンの含有量を定量した。なお、定量に際しては、ソルビン酸及びミルセンの標品を用いて作成した検量線を使用した。
【0150】
(7)ダイビルドアップ評価
参考例、参考比較例、実施例及び比較例で得られた乾燥樹脂組成物ペレットを下記条件で、押出機から吐出させ、60分後のダイス周辺(ダイリップ)のダイビルドアップ(目ヤニ)を目視で確認し、以下の基準で評価した。A~Dの場合、ダイビルドアップが抑制できていると判断した。
(押出機条件)
・装置:20mmφ単軸押出機(D2020、株式会社東洋精機製作所社製)
・L/D:20
・スクリュー:フルフライト
・スクリーンメッシュ:50メッシュ/100メッシュ/50メッシュ
・ダイス:φ1mm、1穴
・設定温度:C1/C2/C3/D=180℃/220℃/220℃/220℃
・吐出量:1.44kg/h
・回転数:100rpm
(評価:判断基準)
A(良好):目ヤニは付着していない
B(やや良好):目ヤニがごくわずかに付着している
C(可):少量の目ヤニが付着している
D(やや不良):明確な目ヤニが付着している
E(不良):大粒の目ヤニがダイホール全周にわたって付着している
【0151】
(8)色相評価
参考例、参考比較例、実施例及び比較例で得られた乾燥樹脂組成物ペレットのイエローインデックス(YI)値をHunter社製LAB Scan XEを用いて、JIS K7373:2006に従って測定、算出した。数値が小さいほど黄変が抑制されており、色相に優れていると判断した。
【0152】
(9)製膜時のネックイン耐性評価
参考例、参考比較例、実施例及び比較例で得られた乾燥樹脂組成物ペレットを用いて、下記の条件にて一軸押出機より樹脂組成物を押出し、乾燥樹脂組成物ペレットを投入して10分後のTダイから吐き出される溶融樹脂(メルトカーテン)の、リップ(Tダイの吐出口)から100mmの位置での幅を測定した。溶融樹脂の幅を、下記基準で評価した。A~Cの場合、ネックインを抑制できていると判断した。
(押出機条件)
・押出機:L/D=26、40mmφの一軸押出機
・スクリュー:フルフライト
・スクリュー回転数:50rpm
・スクリーンメッシュ:50メッシュ/100メッシュ/50メッシュ
・ダイス形状:T型、リップ幅550mm、リップ間隔0.7mm
・設定温度:C1/C2/C3/D=170℃/240℃/260℃/260℃
(評価:判断基準)
A(良好):リップ幅の85%以上
B(やや良好):リップ幅の82.5%以上85%未満
C(やや不良):リップ幅の80%以上82.5%未満
D(不良):リップ幅の80%未満
【0153】
(10)融点測定
合成例で得られたEVOHの粗乾燥物について、真空乾燥機にて120℃で12時間乾燥した。真空乾燥したEVOHについてTA Instruments製の示差走査型熱量計「Q2000」を用い、30℃から250℃までを10℃/分の速度で昇温し、50℃/分で冷却したのち、二次昇温で測定されるピーク温度より融点を求めた。なお、合成例9、10で得られたEVOHペレットについて測定する際には、真空乾燥せずに測定した。
【0154】
(11)酸素透過度(OTR)測定
<単層フィルム作成条件>
参考例及び参考比較例で得られた乾燥樹脂組成物ペレットについて、下記条件で製膜し、平均厚み30μmの単層フィルムを得た。
(押出機条件)
・L/D:26、40mmφの一軸押出機
・スクリュー:フルフライト
・スクリュー回転数:30rpm
・スクリーンメッシュ:50メッシュ/100メッシュ/50メッシュ
・ダイス形状:T型、リップ幅550mm、リップ間隔0.7mm
・設定温度:C1/C2/C3/D=170℃/230℃/230℃/230℃
・引取りロール温度:80℃
・引取りロール速度:10~11m/分
<OTR(酸素透過度)測定>
得られた厚さ30μmの単層フィルムについて、幅方向の中央を中心として直径90mmの円形にサンプルを切り出し、30℃、65%RHの条件下で調湿した後、酸素透過度測定装置(ModernControl社の「OX-Tran2/20」 検出下限0.01mL/(m2・day・atm))を用いて、ISO14663-2 annex Cに準拠して、30℃、65%RHにおける酸素透過度を測定した。また、実施例及び比較例で得られた単層フィルム又は多層フィルムについても同様の方法で酸素透過度を測定した。
【0155】
(12)OTRの幅方向均一性
(11)の測定に用いた単層フィルム又は多層フィルムについて、フィルム端部から70mmの位置を中心に直径90mmの円形にサンプルを切り取り、(11)と同様の条件でOTRを測定した。中心部のサンプルのOTRとの差をとり、差の大きさをA~Cの三段階で評価した。
(評価:判断基準)
A:差が10%未満
B:差が10%以上15%未満
C:差が15%以上
【0156】
(13)ヒートシール強度及び外観
実施例及び比較例で得られた多層構造体について、ヒートシール層(α)を重ね合わせ、熱板式ヒートシーラー(ヒライ商事株式会社製バッグシーラーHBS-280)を用いて温度200℃、圧力0.1MPaの条件で1秒間圧着させた。ヒートシールされたフィルムの幅15mm当たりのヒートシール強度(N/15mm)を引張試験機により、JIS Z 1707(2019)に記載の方法で測定した。なお、シール強度測定の際の引張速度は300mm/分とした。
【0157】
また、ヒートシールされた部分の外観を目視にて以下の基準で評価した。評価Cは、ヒートシール後の外観悪化を抑制できていないと判断した。
A:優れた外観を有する
B:減肉や発泡がわずかに生じており、外観がやや悪い
C:減肉や発泡が目立つなど、外観が悪い
【0158】
<合成例1>
ジャケット、撹拌機、窒素導入口、エチレン導入口及び開始剤添加口を備えた200L加圧反応槽に、酢酸ビニル(以下、VAcと称することがある)を75.0kg、メタノール(以下、MeOHと称することがある。)を7.2kg仕込み、30分間窒素バブリングして反応槽内を窒素置換した。次いで、反応槽内の温度を65℃に調整した後、反応槽圧力(エチレン圧力)が4.13MPaとなるようにエチレンを導入し、重合開始剤として9.4gの2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(富士フィルム和光純薬工業株式会社製「V-65」)を添加し、重合を開始した。重合中はエチレン圧力を4.13MPaに、重合温度を65℃に維持した。4時間後にVAcの転化率(VAc基準の重合率)が49.7%となったところで冷却するとともに、酢酸銅0.2gを20kgのメタノールに溶解させた溶液を容器内に投入して重合を停止した。反応槽を開放して脱エチレンした後、窒素ガスをバブリングして脱エチレンを完全に行った。次いで重合液を容器から抜き取り、20LのMeOHで希釈した。この液を塔型容器の塔頂よりフィードし、塔底よりMeOHの蒸気をフィードして、重合液内に残る未反応モノマーをMeOH蒸気と共に除去して、エチレン-酢酸ビニル共重合体(以下、EVAcと称することがある。)のMeOH溶液を得た。
【0159】
次いで、ジャケット、撹拌機、窒素導入口、還流冷却器及び溶液添加口を備えた300L反応槽にEVAcの20質量%MeOH溶液150kgを仕込んだ。この溶液に窒素ガスを吹き込みながら60℃に昇温し、水酸化ナトリウムの濃度が2規定のMeOH溶液を450mL/分の速度で2時間添加した。水酸化ナトリウムMeOH溶液の添加を終えた後、系内の温度を60℃に保ち、反応槽外にMeOH及びケン化反応で生成した酢酸メチルを流出させながら、2時間撹拌してケン化反応を進行させた。その後酢酸を8.7kg添加してケン化反応を停止した。
【0160】
その後、80℃で加熱攪拌しながら、イオン交換水120Lを添加し、反応槽外にMeOHを流出させ、EVOHを析出させた。デカンテーションで析出したEVOHを収集し、粉砕機で粉砕した。得られたEVOH粉末を1g/Lの酢酸水溶液(浴比20:粉末1kgに対して水溶液20Lの割合)に投入して2時間攪拌洗浄した。これを脱液し、さらに1g/Lの酢酸水溶液(浴比20)に投入して2時間攪拌洗浄した。これを脱液したものを、イオン交換水(浴比20)に投入して攪拌洗浄を2時間行い脱液する操作を3回繰り返して精製を行った。洗浄液の電気伝導度は、3μS/cm(東亜電波工業株式会社の「CM-30ET」で測定)であった。次いで、得られた精製物を酢酸0.5g/L及び酢酸ナトリウム0.1g/Lを含有する水溶液250Lに4時間攪拌浸漬してから脱液し、これを60℃で16時間乾燥させることでEVOHの粗乾燥物を16.1kg得た。
【0161】
上記のEVOHの合成に係る操作を再度行い、EVOHの粗乾燥物を15.9kg得ることで、合計32.0kgのEVOH(A1)の粗乾燥物を得た。EVOH(A1)の粗乾燥物について、上記評価方法(1)及び(10)に記載の方法にしたがって、エチレン単位含有量、ケン化度及び融点を測定した。結果を表2に示す。
【0162】
<合成例2~8>
加圧反応槽のサイズ、VAc及びMeOHの仕込量、エチレン圧力、重合開始剤の添加量、反応槽内温度(重合時の温度)、反応時間、VAcの転化率、ケン化工程におけるEVAcのMeOH溶液の仕込量、並びに水酸化ナトリウムMeOH溶液の添加速度を表1に示す通りとし、合成を1回のみとした以外は合成例1と同様にして各EVOH(A2)~EVOH(A8)の粗乾燥物を得た。EVOH(A2)~EVOH(A8)の粗乾燥物について、上記評価方法(1)及び(10)に記載の方法にしたがって、エチレン単位含有量、ケン化度及び融点を測定した。結果を表2に示す。
【0163】
<合成例9>
特開2003-231715号公報段落[0158]及び
図1に記載の装置を用い、以下の手順でEVOH(A9)ペレットを作製した。東芝機械株式会社製TEM-35BS押出機(37mmφ、L/D=52.5)を使用し、バレルC1を水冷し、バレルC2~C3を200℃、バレルC4~C15を240℃に設定し、スクリュー回転数400rpmで運転した。C1の樹脂フィード口から後述する参考例38で得られた乾燥樹脂組成物ペレットをフィードし、溶融した後、ベント1から水及び酸素を除去し、C9の液圧入口から変性剤2としてエポキシプロパンをフィードした。その後、ベント2から未反応のエポキシプロパンを除去し、ペレタイズした後、80℃2時間熱風乾燥を行い、8モル%変性されたEVOH(A9)ペレットを得た。得られたEVOH(A9)ペレットについて、上記評価方法(1)及び(10)に記載の方法に従ってエチレン単位含有量、ケン化度、エポキシプロパン変性量(全ビニルアルコール単位に対する量)及び融点を測定した。エチレン単位含有量、ケン化度及び融点の結果を表2に示す。また、エポキシプロパンの変性量(全ビニルアルコール単位に対する構造単位(x)の含有率)は8モル%であった。
【0164】
<合成例10>
原料としてフィードする乾燥樹脂組成物ペレットを参考例43で得られた乾燥樹脂組成物ペレットに変更した以外は合成例9と同様にしてペレタイズし、8モル%変性されたEVOH(A10)ペレットを得た。得られたEVOH(A10)ペレットについて、上記評価方法(1)及び(10)に記載の方法に従ってエチレン単位含有量、ケン化度、エポキシプロパン変性量(全ビニルアルコール単位に対する量)及び融点を測定した。エチレン単位含有量、ケン化度及び融点の結果を表2に示す。また、エポキシプロパンの変性量(全ビニルアルコール単位に対する構造単位(x)の含有率)は8モル%であった。
【0165】
【0166】
【0167】
<参考例1>
ジャケット、撹拌機及び還流冷却器を備えた60L撹拌槽に、合成例1で得たEVOH(A1)の粗乾燥物2kg、水0.8kg及びMeOH2.2kgを仕込み、60℃で5時間攪拌し完全に溶解させた。得られた溶液に、ソルビン酸、クロトンアルデヒド、2,4-ヘキサジエナール及び2,4,6-オクタトリエナールを添加した。この溶液を径4mmの金板を通して-5℃に冷却した水/MeOH=90/10の混合液中に押し出してストランド状に析出させ、このストランドをストランドカッターでペレット状にカットすることでEVOHの含水ペレットを得た。得られたEVOHの含水ペレットの含水率をメトラー社製ハロゲン水分計「HR73」で測定したところ、52質量%であった。
【0168】
得られたEVOHの含水ペレットを1g/Lの酢酸水溶液(浴比20)に投入して2時間撹拌洗浄した。これを脱液し、さらに1g/Lの酢酸水溶液(浴比20)に投入して2時間撹拌洗浄した。脱液後、酢酸水溶液を更新し同様の操作を行った。酢酸水溶液で洗浄してから脱液したものを、イオン交換水(浴比20)に投入して撹拌洗浄を2時間行い脱液する操作を3回繰り返して、洗浄液の電気伝導度が、3μS/cm以下(東亜電波工業株式会社の「CM-30ET」で測定)となるまで精製を行い、ケン化反応時の触媒残渣が除去されたEVOHの含水ペレットを得た。
【0169】
得られた含水ペレットを酢酸ナトリウム濃度0.510g/L、酢酸濃度0.8g/L、及びリン酸濃度0.04g/Lである水溶液(浴比20)に投入し、定期的に撹拌しながら4時間浸漬させ化学処理を行った。このペレットを脱液し、酸素濃度1体積%以下の窒素気流下80℃で3時間、及び105℃で16時間乾燥させることで、EVOH(A1)、酢酸、リン酸、ナトリウムイオン(ナトリウム塩)、クロトンアルデヒド、2,4-ヘキサジエナール、2,4,6-オクタトリエナール及びソルビン酸を含有した、円柱状(平均直径2.8mm、平均高さ3.2mm)の乾燥樹脂組成物ペレットを得た。得られた乾燥樹脂組成物ペレットについて、上記評価方法(2)~(9)に記載の方法に従って評価した。乾燥樹脂組成物ペレット中のナトリウムイオン含有量は100ppm、リン酸含有量はリン酸根換算値で40ppm、酢酸含有量は200ppmであった。EVOH以外の各成分の含有量は、いずれもEVOHの含有量を基準とした量である。その他の評価結果は表3に示す。なお、クロトンアルデヒド、2,4-ヘキサジエナール、2,4,6-オクタトリエナール及びソルビン酸の各成分の含有量が表3に記載の通りとなるように、各成分の添加量を調整した。
【0170】
<参考例2~61、参考比較例1~4、6~24>
EVOH(A)の種類、不飽和脂肪族アルデヒド(B)の種類及び含有量、共役ポリエン化合物(C)の種類及び含有量、並びにホウ酸の含有量を表3~表10に示した通りとなるように調整した以外は、参考例1と同様にして乾燥樹脂組成物ペレットを作製し、評価した。なお、ホウ酸を800ppm含む場合は、酢酸ナトリウム等を含む水溶液(浴比20)をホウ酸濃度0.25g/Lとなるように調整した水溶液を用い、ホウ酸を1800ppm含む場合は、酢酸ナトリウム等を含む水溶液(浴比20)をホウ酸濃度0.57g/Lとなるように調整した水溶液を用いた。それぞれの乾燥樹脂組成物ペレット中のEVOHのナトリウムイオン含有量は100ppm、リン酸含有量はリン酸根換算値で40ppm、酢酸含有量は200ppmであった。その他の評価結果は表3~表10に示す。EVOH以外の各成分の含有量は、いずれもEVOHの含有量を基準とした量である。
【0171】
<参考比較例5>
クロトンアルデヒド、2,4-ヘキサジエナール及び2,4,6-オクタトリエナールを添加せず、ケン化反応時の触媒残渣が除去されたEVOHの含水ペレットをメタノール中(浴比10)に投入して撹拌洗浄を2時間行い脱液する操作を2回繰り返し、得られたペレットをイオン交換水(浴比20)に投入して撹拌洗浄を2時間行い脱液する操作を3回繰り返す操作を追加で行った以外は、参考例1と同様にして乾燥樹脂組成物ペレットを作製し、評価した。乾燥樹脂組成物ペレット中のナトリウムイオン含有量は100ppm、リン酸含有量はリン酸根換算値で40ppm、酢酸含有量は200ppmであった。EVOH以外の各成分の含有量は、いずれもEVOHの含有量を基準とした量である。その他の評価結果は表3に示す。なお、クロトンアルデヒド、2,4-ヘキサジエナール、2,4,6-オクタトリエナール及びソルビン酸の各成分の含有量は検出限界以下であった。
【0172】
【0173】
【0174】
【0175】
【0176】
【0177】
【0178】
【0179】
【0180】
参考例及び参考比較例から、b1/(b2+b3)が2.0以上150.0未満であるとネックイン耐性が良好であり、b1+b2+b3が小さいほどYIが低く、共役ポリエン化合物(C)の含有量cが少量であるとYIが低く、b2+2b3が0.65ppm以下であるとダイビルドアップが抑制されていることがわかる。
【0181】
表3に基づいてより詳細に考察すれば、以下の通りである。不飽和脂肪族アルデヒド(B)が含有されない参考比較例5及び不飽和脂肪族アルデヒド(B)の各種を単独で含有している参考比較例1~3、6~9は、ネックインが抑制されていない。また、b1/(b2+b3)の値が2.0未満である参考比較例10でもネックインが抑制されていない。一方で参考例からわかるようにb1/(b2+b3)の値が2.0以上150.0未満の範囲にあるとネックインが抑制され、特に参考例4、5、13、14、21及び24のようにb1/(b2+b3)の値が10付近(例えば、8.0以上13.0以下)であると最もネックインが抑制される。また、b2+2b3が0.65ppmを超える参考比較例4はダイビルドアップが抑制されないのに対し、参考例からわかるようにb2+2b3が0.65ppm以下である場合はダイビルドアップが抑制され、特にb2+2b3が0.10ppm以下である場合に、よりダイビルドアップが抑制されている。また、クロトンアルデヒド(B1)、2,4-ヘキサジエナール(B2)及び2,4,6-オクタトリエナール(B3)の合計含有量b1+b2+b3については、参考比較例4、参考例1~7、12~26等から読み取れるように、合計含有量が低いほど色相に優れることが分かる。さらに、参考例6、9~11より共役ポリエン化合物の含有量が少量である方が色相に優れることがわかる。
【0182】
<実施例1>
参考例5で得られた乾燥樹脂組成物ペレット(樹脂組成物)について、一軸押出機にて240℃にて溶融し、ダイからキャスティングロール上に押出すと同時にエアーナイフを用いて空気を風速30m/秒で吹付け、厚さ30μmの単層フィルム(シーラント層(α))を得た。得られた単層フィルムについて上記評価方法(11)に記載の方法に従ってOTRを測定した。結果を表12に示す。得られた単層フィルムに、接着剤を用いて基材層(β)として厚さ12μmのPETフィルム(PET12)を積層させることで、シーラント層(α)/接着層(γ)/基材層(β)の多層構造体を作製した。基材層(β)を積層させる際、二液型のウレタン系接着剤(三井化学株式会社製「タケラックA-520」及び「タケネートA-50」)を乾燥厚みが2μmとなるように塗工して接着層(γ)を設け、ドライラミネート法により、積層させた。得られた多層構造体について、上記評価方法(13)に記載の方法でヒートシール強度及び外観を評価した、結果を表12に示す。
なお、用いた参考例5の乾燥樹脂組成物ペレットにおける上記した他の評価結果を表11、12に再掲する。
【0183】
<実施例2~8、比較例1、2>
参考例28、38、43、48、2、7、合成例10及び参考比較例4、3で得られた各乾燥樹脂組成物ペレットを用いた以外は、実施例1と同様にして、単層フィルム及び多層構造体を作製し、評価した。結果を表12に示す。また、用いた参考例又は参考比較例の乾燥樹脂組成物ペレットにおける上記した他の評価結果を表11、12に再掲する。なお、合成例10で得たEVOHの乾燥樹脂組成物ペレット(A10)ついては、上記評価方法(5)~(12)に記載の方法に従って評価した。評価結果を表11、12に示す。
【0184】
<実施例9>
参考例5で得られた乾燥樹脂組成物ペレット(樹脂組成物)について、一軸押出機にて240℃にて溶融し、ダイからキャスティングロール上に押出すと同時にエアーナイフを用いて空気を風速30m/秒で吹付け、厚さ170μmの未延伸フィルムを得た。得られた厚さ170μm未延伸フィルムを、80℃の温水に10秒接触させ、テンター式同時二軸延伸機を用い、90℃雰囲気下で縦方向に3.2倍、横方向に3.0倍延伸し、さらに170℃に設定したテンター内にて5秒間熱処理を行い、フィルム端部をカットすることで厚み12μmの二軸延伸した単層フィルム(シーラント層(α))を得た。得られたシーラント層(α)を用いた以外は、実施例1と同様にして、多層構造体を作製し、評価した。結果を表12に示す。また、用いた乾燥樹脂組成物ペレットにおける上記した他の評価結果を表11、12に再掲する。
【0185】
【0186】
【0187】
<実施例10>
参考例5で得られた乾燥樹脂組成物ペレット(樹脂組成物)を用い、インフレーション押出成形機を用いて、以下の条件で円筒状の多層フィルムを作製した。なお、熱可塑性樹脂層(δ)は30μmの厚みで3層積層させており、結果として90μmの厚みの熱可塑性樹脂層(δ)を1層とした。
(多層フィルム作製条件)
多層構造体の層構成:[外面側]熱可塑性樹脂層(δ)/接着層(γ)/シーラント層(α)[内面側]=90μm/20μm/30μm(総厚み140μm)
熱可塑性樹脂層(δ):δ-1(ポリプロピレン プライムポリマー社製F-704NP)
接着層(γ):γ-1(変性ポリプロピレン 三井化学社製QF―500)
シーラント層(α):上記参考例5で得られた樹脂組成物
装置:5種5層インフレーション押出成形機(Dr Collin社製)
ダイ温度:210℃
ブローアップ比:2.7
引取り速度:4m/min
フィルム折径幅:25cm
(熱可塑性樹脂層(δ)押出機1の条件)
押出機:30φ単軸押出機(Dr Collin社製)
回転数:60rpm
押出温度:供給部/圧縮部/計量部=170℃/190℃/210℃
(熱可塑性樹脂層(δ)押出機2の条件)
押出機:20φ単軸押出機(Dr Collin社製)
回転数:70rpm
押出温度:供給部/圧縮部/計量部=170℃/190℃/210℃
(熱可塑性樹脂層(δ)押出機3の条件)
押出機:20φ単軸押出機(Dr Collin社製)
回転数:70rpm
押出温度:供給部/圧縮部/計量部=170℃/190℃/210℃
(接着層(γ)押出機の条件)
押出機:20φ単軸押出機(Dr Collin社製)
回転数:70rpm
押出温度:供給部/圧縮部/計量部=170℃/190℃/210℃
(シーラント層(α)押出機の条件)
押出機:30φ単軸押出機(Dr Collin社製)
回転数:24rpm
押出温度:供給部/圧縮部/計量部=190℃/210℃/210℃
得られた多層フィルムについて、上記評価方法(11)及び(12)に記載の方法に従って、OTR及びOTRの幅方向均一性について測定した。結果を表14に示す。
【0188】
得られた多層フィルムに、接着層(γ)を介して基材層(β)として厚さ12μmのPETフィルム(PET12)を積層させ、基材層(β)/接着層(γ)/熱可塑性樹脂層(δ)/接着層(γ)/シーラント層(α)の層構成を有する多層構造体を作製した。基材層(β)を積層させる際、二液型のウレタン系接着剤(三井化学株式会社製「タケラックA-520」及び「タケネートA-50」)を乾燥厚みが2μmとなるように塗工して接着層(γ’)を設け、ドライラミネート法により、積層させ、多層構造体を得た。得られた多層構造体について、上記評価方法(13)に記載の方法でヒートシール強度及び外観を評価した、結果を表12に示す。
なお、用いた参考例5の乾燥樹脂組成物ペレットにおける上記した他の評価結果を表13、14に再掲する。
【0189】
<実施例11>
ジャケット、撹拌機及び還流冷却器を備えた60L撹拌槽に、合成例1で得たEVOH(A1)の粗乾燥物1.6kg、合成例7で得られたEVOH(A7)の粗乾燥物0.4kg、水0.8kg及びMeOH2.2kgを仕込み、60℃で5時間攪拌し完全に溶解させた。得られた溶液に、ソルビン酸、クロトンアルデヒド、2,4-ヘキサジエナール及び2,4,6-オクタトリエナールを添加した。この溶液を径4mmの金板を通して-5℃に冷却した水/MeOH=90/10の混合液中に押し出してストランド状に析出させ、このストランドをストランドカッターでペレット状にカットすることでEVOHの含水ペレットを得た。得られたEVOHの含水ペレットの含水率をメトラー社製ハロゲン水分計「HR73」で測定したところ、52質量%であった。
【0190】
得られたEVOHの含水ペレットを1g/Lの酢酸水溶液(浴比20)に投入して2時間撹拌洗浄した。これを脱液し、さらに1g/Lの酢酸水溶液(浴比20)に投入して2時間撹拌洗浄した。脱液後、酢酸水溶液を更新し同様の操作を行った。酢酸水溶液で洗浄してから脱液したものを、イオン交換水(浴比20)に投入して撹拌洗浄を2時間行い脱液する操作を3回繰り返して、洗浄液の電気伝導度が、3μS/cm以下(東亜電波工業株式会社の「CM-30ET」で測定)となるまで精製を行い、ケン化反応時の触媒残渣が除去されたEVOHの含水ペレットを得た。
【0191】
得られた含水ペレットを酢酸ナトリウム濃度0.510g/L、酢酸濃度0.8g/L、リン酸濃度0.04g/L及びホウ酸濃度0.05g/Lである水溶液(浴比20)に投入し、定期的に撹拌しながら4時間浸漬させ化学処理を行った。このペレットを脱液し、酸素濃度1体積%以下の窒素気流下80℃で3時間、及び105℃で16時間乾燥させることで、EVOH(A1及びA7)、酢酸、リン酸、ナトリウムイオン(ナトリウム塩)、クロトンアルデヒド、2,4-ヘキサジエナール、2,4,6-オクタトリエナール及びソルビン酸を含有した、円柱状(平均直径2.8mm、平均高さ3.2mm)の乾燥樹脂組成物ペレットを得た。得られた乾燥樹脂組成物ペレットについて、上記評価方法(2)、(3)、(5)~(9)に記載の方法に従って評価した。乾燥樹脂組成物ペレット中のナトリウムイオン含有量は100ppm、リン酸含有量はリン酸根換算値で40ppm、酢酸含有量は200ppmであった。EVOH以外の各成分の含有量は、いずれもEVOHの含有量を基準とした量である。その他の評価結果は表13、14に示す。なお、クロトンアルデヒド、2,4-ヘキサジエナール、2,4,6-オクタトリエナール及びソルビン酸の各成分の含有量が表13に記載の通りとなるように、各成分の添加量を調整した。
【0192】
上記にて得られた乾燥樹脂組成物ペレットを用いたこと以外は、実施例10と同様にして、多層フィルム及び多層構造体を作製し、評価した。結果を表14に示す。
【0193】
<実施例13、15、16、比較例3、4>
表13に記載の通り、EVOH(Aa)の種類、EVOH(Ab)の種類、質量比(Aa)/(Ab)、ホウ酸含有量、不飽和アルデヒド(B)の含有量及び共役ポリエン(C)の含有量を変更した以外は、実施例11と同様の方法で乾燥樹脂組成物ペレット、多層フィルム及び多層構造体を作製し、評価した。乾燥樹脂組成物ペレット中のナトリウムイオン含有量は100ppm、リン酸含有量はリン酸根換算値で40ppm、酢酸含有量は200ppmであった。EVOH以外の各成分の含有量は、いずれもEVOHの含有量を基準とした量である。その他の評価結果は表13、14に示す。なお、化学処理に用いる水溶液のホウ酸濃度は、得られる乾燥樹脂組成物ペレットのホウ酸含有量が表13に記載の通りとなるように適宜調整した。
【0194】
<実施例12>
参考例5で得られた乾燥樹脂組成物ペレット80質量部と、参考例3で得られた乾燥樹脂組成物ペレット20質量部をドライブレンドして、乾燥樹脂組成物ペレット群を得た。得られた乾燥樹脂組成物ペレット群について、30mmφ二軸押出機(株式会社日本製鋼所製「TEX-30SS-30CRW-2V」)を用い、押出温度200℃、スクリュー回転数300rpm、押出樹脂量25kg/時間の条件で押出し、ペレタイズした後、80℃2時間熱風乾燥を行い、乾燥樹脂組成物ペレットを得た。得られた乾燥樹脂組成物ペレットについて、上記評価方法(2)、(3)、(5)~(9)、(11)、(12)に記載の方法に従って評価した。結果を表13、14に示す。上記にて得られた乾燥樹脂組成物ペレットを用いたこと以外は、実施例10と同様にして、多層フィルム及び多層構造体を作製し、上記(13)~(15)の評価を行った。評価結果を表14に示す。
【0195】
<実施例14>
参考例48で得られた乾燥樹脂組成物ペレット90質量部と、合成例9で得られたEVOH(A9)ペレット10質量部とをドライブレンドしたこと以外は実施例11と同様にして、乾燥樹脂組成物ペレットを得た。得られた乾燥樹脂組成物ペレットについて、上記評価方法(2)、(3)、(5)~(9)、(11)、(12)に記載の方法に従って評価した。結果を表13、14に示す。上記にて得られた乾燥樹脂組成物ペレットを用いたこと以外は、実施例10と同様にして、多層構造体を作製し、上記(13)~(15)の評価を行った。評価結果を表14に示す。
【0196】
【0197】
【0198】
表11~14に示されるように、実施例1~15で用作製された多層構造体はヒートシール強度及び外観が良好である一方、比較例1~4で作製された多層構造体はヒートシール強度及び外観が悪い評価となった。実施例のヒートシール層(α)の原料として用いられた樹脂組成物は、いずれもダイビルドアップ及びネックイン耐性の評価結果が良好であり、これらの評価結果がヒートシール強度及び外観に影響しているものと推察される。 また、各参考例の結果から、シーラント層(α)に用いられる樹脂組成物において、b1/(b2+b3)が2.0以上150.0未満であるとネックイン耐性が良好であり、b2+2b3が0.65ppm以下であるとダイビルドアップが抑制されることがわかる。このことから、シーラント層(α)に用いられる樹脂組成物において、b1/(b2+b3)が2.0以上150.0未満であり、b2+2b3が0.65ppm以下である樹脂組成物を用いることで、ヒートシール強度及び外観が良好な多層構造体が得られることが分かる。
【0199】
実施例1~9で得られた単層フィルムについて、下記評価方法により合成ピレスロイドの吸着量及びニコチンの吸着量を評価した。
(評価方法)
合成ピレスロイドまたはニコチンを40mg秤量後、内容量50cm3の秤量瓶に投入し、そこへ吸着物質に触れない様にU型に加工したSUS網を置いた。この網板の上に上記単層フィルムから切り出した幅1cm長さ4cmのフィルム片各1枚を置いて、20℃50%RH環境下で2週間放置した。吸着量により適した大きさのフィルム片を用い、下記に示す方法で吸着量の測定を行った。
(吸着量の測定)
吸着量の測定には熱脱着ガスクロマトグラフ-質量分析計(TCT-GC/MS、TCT:クロムパック社製「CP-4020」、GC/MS:アジレント社製「5973型」)を使用して以下の方法により吸着量を測定した。
(ガス採取方法)
80℃に加熱されたガラス製チャンバーに上記フィルム片を投入した。一方から清浄な窒素を100ml/minの流速で流しながら、もう一方にTenax捕集管を付し、3分間留出してくるガスを採取したものを試料とした。
(ガス脱着条件)
Tenax捕集管を250℃に加熱し脱着した。
(GC導入法)
脱着ガスを-130℃でコールドトラップした後、250℃に加熱して絡むに導入して吸着量を測定した。
(評価基準)
合成ピレスロイド吸着量
A:1ng/cm2未満
B:1ng/cm2以上、10ng/cm2未満
C:10ng/cm2以上
ニコチン吸着量
A:500ng/cm2未満
B:500ng/cm2以上、1000ng/cm2未満
C:1000ng/cm2以上
【0200】
<比較例5>
三井化学東セロ株式会社製のLLDPEフィルム「T.U.X(商標)MC-S」(厚み30μm)について、上記評価方法により合成ピレスロイドの吸着量及びニコチンの吸着量を評価した。
【0201】
実施例1~9で得られた単層フィルムの合成ピレスロイド及びニコチンの吸着量の評価はいずれも「A」評価であったのに対し、比較例5で用いたLLDPEフィルムの合成ピレスロイド及びニコチンの吸着量の評価はいずれも「C」評価であった。この評価結果から、ヒートシール層(α)のかかる化合物に対する非吸着性の有用性が示された。