(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141597
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】ウレタン樹脂の分解方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/00 20060101AFI20241003BHJP
C12N 1/14 20060101ALI20241003BHJP
C12N 9/14 20060101ALI20241003BHJP
C12N 15/55 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
C12N1/00 S
C12N1/14 A
C12N9/14
C12N15/55
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053335
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 和来
(72)【発明者】
【氏名】大野 ふみ
(72)【発明者】
【氏名】山本 恭士
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA57X
4B065AA60X
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA22
4B065CA31
4B065CA55
(57)【要約】
【課題】微生物や酵素を用いたバイオプロセスによりウレタン樹脂を分解する技術の提供。
【解決手段】ウレタン樹脂の分解能を有する微生物、その菌体処理物及び/又は培養上清と、ウレタン樹脂と、を接触させる工程を含む、ウレタン樹脂の分解方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウレタン樹脂の分解能を有する微生物、その菌体処理物及び/又は培養上清と、ウレタン樹脂と、を接触させる工程を含む、ウレタン樹脂の分解方法。
【請求項2】
前記微生物が、アスペルギルス(Aspergillus)属及びドチオラ(Dothiora)属からなる群から選択されるいずれかの属に属する微生物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記微生物が、
アスペルギルス・アリアセウス(Aspergillus alliaceus)、
アスペルギルス・ジャポニカ(Aspergillus japonicus)、
アスペルギルス・オクラセウス(Aspergillus ochraceus)、
アスペルギルス・ソーエ(Aspergillus sojae)、
アスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)、
ドチオラ・エリプチカ(Dothiora elliptica)、
ドチオラ・ローレオラエ(Dothiora laureolae)、
ドチオラ・ラミニ-アルピナエ(Dothiora rhamni-alpinae)及び
ドチオラ・スキゾポーラ(Dothiora schizospora)
からなる群から選択されるいずれかの種に属する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記微生物が、
アスペルギルス・アリアセウス(Aspergillus alliaceus)ATCC20656、
アスペルギルス・ジャポニカ(Aspergillus japonicus)JCM22258、
アスペルギルス・オクラセウス(Aspergillus ochraceus)ATCC1008、
アスペルギルス・ソーエ(Aspergillus sojae)IFO4391、
アスペルギルス・エスピー(Aspergillus sp)MCI3040(受領番号:NITE ABP-03834)、
アスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)ATCC10020、
ドチオラ・エリプチカ(Dothiora elliptica)CBS736.71、
ドチオラ・ローレオラエ(Dothiora laureolae)CBS744.71、
ドチオラ・ラミニ-アルピナエ(Dothiora rhamni-alpinae)CBS745.71及び
ドチオラ・スキゾポーラ(Dothiora schizospora)CBS189.55
からなる群から選択されるいずれか1以上の株である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記微生物が、請求項4に記載の微生物のITS1領域との間で80%以上の配列同一性を有する塩基配列からなるITS1領域を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
ウレタン樹脂の分解能を有する微生物、その菌体処理物及び/又は培養上清と、ウレタン樹脂と、を接触させる工程を含む、ウレタン樹脂含有廃棄物の処理方法。
【請求項7】
ウレタン樹脂の分解能を有する微生物、その菌体処理物及び/又は培養上清と、ウレタン樹脂と、を接触させる工程を含む、ウレタン樹脂分解物の製造方法。
【請求項8】
前記ウレタン樹脂分解物が、ポリオール及び/又はポリアミンである、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記ウレタン樹脂分解物が、アルコール及び/又は有機酸である、請求項7に記載の製造方法。
【請求項10】
アスペルギルス・エスピー(Aspergillus sp.)MCI3040(受領番号:NITE ABP-03834)。
【請求項11】
請求項4に記載の微生物に由来する、ウレタン樹脂の分解反応を触媒する活性を有する酵素。
【請求項12】
請求項11に記載の酵素と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなりかつウレタン樹脂の分解反応を触媒する活性を有する酵素。
【請求項13】
請求項11又は12に記載の酵素、又は該酵素を発現する組換え微生物を、ウレタン樹脂と、を接触させる工程を含む、ウレタン樹脂の分解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ウレタン樹脂の分解方法に関し、より詳しくは、ウレタン樹脂の分解能を有する微生物を用いたウレタン樹脂の分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウレタン樹脂は、易加工性、耐腐敗性、耐変質性、低比重等の優れた特性により、弾性体、発泡体、接着剤、塗料、繊維、合成皮革など幅広い用途を持っており、建材としても広く使用されている。主に建材として使用される発泡ウレタン樹脂は、熱硬化性樹脂であるため、マテリアルリサイクルが困難である。また、発泡ウレタン樹脂を含む製品は、燃料化または焼却により処理されているが、ハロゲン添加されている製品が多いためかつ焼却時のカロリーも高いために炉を傷める原因となる。したがって、発泡ウレタン樹脂は、廃棄物処理において忌避されている。
【0003】
既存のウレタン樹脂のケミカルリサイクル技術は、不純物の混入許容範囲が狭く、高温・高圧での反応が必要であり、環境負荷が高いという課題がある。このため、微生物や酵素を用いてウレタン樹脂をバイオ分解する技術が提案されている。例えば、特許文献1には、イモチ菌マグナポルサ・グリゼア(Magnapostha grisea)70-15由来のエステラーゼを用いてウレタン樹脂等のプラスチックを分解する技術が提案されている。従来報告されているウレタン樹脂のバイオ分解技術は、ポリエステル系ウレタン樹脂を分解するものがほとんどであり、ウレタン樹脂のエステル結合を分解している。したがって、ウレタン樹脂のウレタン結合を分解する技術はほとんど報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、微生物や酵素を用いたバイオプロセスによりウレタン樹脂を分解する技術を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題解決のため、本発明は、以下の[1]-[26]を提供する。
[1] ウレタン樹脂の分解能を有する微生物、その菌体処理物及び/又は培養上清と、ウレタン樹脂と、を接触させる工程を含む、ウレタン樹脂の分解方法。
[2] 前記微生物が、アスペルギルス(Aspergillus)属及びドチオラ(Dothiora)属からなる群から選択されるいずれかの属に属する微生物である、[1]の方法。
[3] 前記微生物が、
アスペルギルス・アリアセウス(Aspergillus alliaceus)、
アスペルギルス・ジャポニカ(Aspergillus japonicus)、
アスペルギルス・オクラセウス(Aspergillus ochraceus)、
アスペルギルス・ソーエ(Aspergillus sojae)、
アスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)、
ドチオラ・エリプチカ(Dothiora elliptica)、
ドチオラ・ローレオラエ(Dothiora laureolae)、
ドチオラ・ラミニ-アルピナエ(Dothiora rhamni-alpinae)及び
ドチオラ・スキゾポーラ(Dothiora schizospora)
からなる群から選択されるいずれかの種に属する、[2]の方法。
[4] 前記微生物が、
アスペルギルス・アリアセウス(Aspergillus alliaceus)ATCC20656、
アスペルギルス・ジャポニカ(Aspergillus japonicus)JCM22258、
アスペルギルス・オクラセウス(Aspergillus ochraceus)ATCC1008、
アスペルギルス・ソーエ(Aspergillus sojae)IFO4391、
アスペルギルス・エスピー(Aspergillus sp.)MCI3040(受領番号:NITE ABP-03834)、
アスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)ATCC10020、
ドチオラ・エリプチカ(Dothiora elliptica)CBS736.71、
ドチオラ・ローレオラエ(Dothiora laureolae)CBS744.71、
ドチオラ・ラミニ-アルピナエ(Dothiora rhamni-alpinae)CBS745.71及び
ドチオラ・スキゾポーラ(Dothiora schizospora)CBS189.55
からなる群から選択されるいずれか1以上の株である、[3]の方法。
[5] 前記微生物が、[4]の微生物のITS1領域との間で80%以上の配列同一性を有する塩基配列からなるITS1領域を有する、[2]の方法。
【0007】
[6] ウレタン樹脂の分解能を有する微生物、その菌体処理物及び/又は培養上清と、ウレタン樹脂と、を接触させる工程を含む、ウレタン樹脂含有廃棄物の処理方法。
[7] 前記微生物が、アスペルギルス(Aspergillus)属及びドチオラ(Dothiora)属からなる群から選択されるいずれかの属に属する微生物である、[6]の方法。
[8] 前記微生物が、
アスペルギルス・アリアセウス(Aspergillus alliaceus)、
アスペルギルス・ジャポニカ(Aspergillus japonicus)、
アスペルギルス・オクラセウス(Aspergillus ochraceus)、
アスペルギルス・ソーエ(Aspergillus sojae)、
アスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)、
ドチオラ・エリプチカ(Dothiora elliptica)、
ドチオラ・ローレオラエ(Dothiora laureolae)、
ドチオラ・ラミニ-アルピナエ(Dothiora rhamni-alpinae)及び
ドチオラ・スキゾポーラ(Dothiora schizospora)
からなる群から選択されるいずれかの種に属する、[7]の方法。
[9] 前記微生物が、
アスペルギルス・アリアセウス(Aspergillus alliaceus)ATCC20656、
アスペルギルス・ジャポニカ(Aspergillus japonicus)JCM22258、
アスペルギルス・オクラセウス(Aspergillus ochraceus)ATCC1008、
アスペルギルス・ソーエ(Aspergillus sojae)IFO4391、
アスペルギルス・エスピー(Aspergillus sp.)MCI3040(受領番号:NITE ABP-03834)、
アスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)ATCC10020、
ドチオラ・エリプチカ(Dothiora elliptica)CBS736.71、
ドチオラ・ローレオラエ(Dothiora laureolae)CBS744.71、
ドチオラ・ラミニ-アルピナエ(Dothiora rhamni-alpinae)CBS745.71及び
ドチオラ・スキゾポーラ(Dothiora schizospora)CBS189.55
からなる群から選択されるいずれか1以上の株である、[8]の方法。
[10] 前記微生物が、[9]の微生物のITS1領域との間で80%以上の配列同一性を有する塩基配列からなるITS1領域を有する、[7]の方法。
【0008】
[11] ウレタン樹脂の分解能を有する微生物、その菌体処理物及び/又は培養上清と、ウレタン樹脂と、を接触させる工程を含む、ウレタン樹脂分解物の製造方法。
[12] 前記ウレタン樹脂分解物が、ポリオール及び/又はポリアミンである、[11]の製造方法。
[13] 前記ウレタン樹脂分解物が、アルコール及び/又は有機酸である、[11]の製造方法。
[14] 前記微生物が、アスペルギルス(Aspergillus)属及びドチオラ(Dothiora)属からなる群から選択されるいずれかの属に属する微生物である、[11]-[13]のいずれかの製造方法。
[15] 前記微生物が、
アスペルギルス・アリアセウス(Aspergillus alliaceus)、
アスペルギルス・ジャポニカ(Aspergillus japonicus)、
アスペルギルス・オクラセウス(Aspergillus ochraceus)、
アスペルギルス・ソーエ(Aspergillus sojae)、
アスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)、
ドチオラ・エリプチカ(Dothiora elliptica)、
ドチオラ・ローレオラエ(Dothiora laureolae)、
ドチオラ・ラミニ-アルピナエ(Dothiora rhamni-alpinae)及び
ドチオラ・スキゾポーラ(Dothiora schizospora)
からなる群から選択されるいずれかの種に属する、[14]の製造方法。
[16] 前記微生物が、
アスペルギルス・アリアセウス(Aspergillus alliaceus)ATCC20656、
アスペルギルス・ジャポニカ(Aspergillus japonicus)JCM22258、
アスペルギルス・オクラセウス(Aspergillus ochraceus)ATCC1008、
アスペルギルス・ソーエ(Aspergillus sojae)IFO4391、
アスペルギルス・エスピー(Aspergillus sp.)MCI3040(受領番号:NITE ABP-03834).
アスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)ATCC10020、
ドチオラ・エリプチカ(Dothiora elliptica)CBS736.71、
ドチオラ・ローレオラエ(Dothiora laureolae)CBS744.71、
ドチオラ・ラミニ-アルピナエ(Dothiora rhamni-alpinae)CBS745.71及び
ドチオラ・スキゾポーラ(Dothiora schizospora)CBS189.55
からなる群から選択されるいずれか1以上の株である、[15]の製造方法。
[17] 前記微生物が、[16]の微生物のITS1領域との間で80%以上の配列同一性を有する塩基配列からなるITS1領域を有する、[11]-[13]の製造方法。
【0009】
[18] ウレタン樹脂の分解能を有し、アスペルギルス(Aspergillus)属及びドチオラ(Dothiora)属からなる群から選択されるいずれかの属に属する微生物。
[19] アスペルギルス・アリアセウス(Aspergillus alliaceus)、
アスペルギルス・ジャポニカ(Aspergillus japonicus)、
アスペルギルス・オクラセウス(Aspergillus ochraceus)、
アスペルギルス・ソーエ(Aspergillus sojae)、
アスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)、
ドチオラ・エリプチカ(Dothiora elliptica)、
ドチオラ・ローレオラエ(Dothiora laureolae)、
ドチオラ・ラミニ-アルピナエ(Dothiora rhamni-alpinae)及び
ドチオラ・スキゾポーラ(Dothiora schizospora)
からなる群から選択されるいずれかの種に属する、[18]の微生物。
[20] アスペルギルス・アリアセウス(Aspergillus alliaceus)ATCC20656、
アスペルギルス・ジャポニカ(Aspergillus japonicus)JCM22258、
アスペルギルス・オクラセウス(Aspergillus ochraceus)ATCC1008、
アスペルギルス・ソーエ(Aspergillus sojae)IFO4391、
アスペルギルス・エスピー(Aspergillus sp.)MCI3040(受領番号:NITE ABP-03834)、
アスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)ATCC10020、
ドチオラ・エリプチカ(Dothiora elliptica)CBS736.71、
ドチオラ・ローレオラエ(Dothiora laureolae)CBS744.71、
ドチオラ・ラミニ-アルピナエ(Dothiora rhamni-alpinae)CBS745.71及び
ドチオラ・スキゾポーラ(Dothiora schizospora)CBS189.55
からなる群から選択されるいずれか1以上の株である、[19]の微生物。
[21] [20]の株との間で80%以上の配列同一性を有する塩基配列からなるITS1領域を有する、[18]の微生物。
【0010】
[22] [18]-[21]のいずれかの微生物に由来する、ウレタン樹脂の分解反応を触媒する活性を有する酵素。
[23] [22]の酵素と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなりかつウレタン樹脂の分解反応を触媒する活性を有する酵素。
[24] [22]又は[23]の酵素、又は該酵素を発現する組換え微生物を、ウレタン樹脂と、を接触させる工程を含む、ウレタン樹脂の分解方法。
【0011】
[25] [22]又は[23]の酵素をコードする核酸、該核酸を含む発現ベクター。
[26] [22]又は[23]の酵素と、ウレタン樹脂と、を含有する樹脂組成物。
【発明の効果】
【0012】
本開示により、微生物や酵素を用いたバイオプロセスによりウレタン樹脂を分解する技術が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本開示の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本開示の範囲が狭く解釈されることはない。
【0014】
[ウレタン樹脂]
ウレタン樹脂は、分子中にウレタン結合(-NHCOO-)を有する高分子化合物の総称である。本開示において、ウレタン樹脂は、ポリイソシアネートとポリオールとの付加重合により得られ、分子構造中にウレタン結合を有するものであればよく特に限定されない。
ポリイソシアネートとして例えばトリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、水添MDI、1,5-ジイソシアナトナフタレン、キシリレンジイソシアネート等が用いられている。
ポリオールはポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオールに大別される。
ポリエーテルポリオールとしては、例えばグリコール・グリセリン・ソルビトール等の、分子内に水酸基を2つ以上持った低分子化合物にプロピレンオキサイドやエチレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを付加重合させて作られたものが用いられており、例えばポリテトラメチレンエーテルグリコール等が挙げられる。
ポリエステルポリオールとしては、例えばアジピン酸等の二塩基酸とエチレングリコール等の多価アルコールを縮合させて末端を水酸基とした化合物等が用いられている。
ポリカーボネートポリオールとしては、例えば1,4-ブチレングリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,10-デカンジオール等の多価アルコールとホスゲンを縮合させて末端を水酸基とした化合物等が用いられている。
【0015】
ウレタン樹脂は、分子構造中にエステル結合を有さないものであってよい。このようなウレタン樹脂としては、例えば、ポリオールとしてポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオールを用いたウレタン樹脂が挙げられる。
【0016】
ウレタン樹脂の形態は、特に限定されず、粉末、フィルム、ペレット、フォーム、及びエマルジョンなどであってよい。
また、ウレタン樹脂は、他の樹脂との混合物であってもよい。
さらに、ウレタン樹脂は、製品に組み込まれたものであってもよい。具体的には、ウレタン樹脂を用いて製造された各種製品またはその廃棄物(以下に「ウレタン樹脂含有廃棄物」ともいう)、あるいは当該製品および廃棄物を前処理した処理物を挙げることができる。製品としては、例えば、建築向け断熱材などを挙げることができる。廃棄物としては、容器包装リサイクル法におけるプラスチック製容器包装などを挙げることができる。
【0017】
[ウレタン樹脂分解微生物]
本開示に係るウレタン樹脂分解微生物は、アスペルギルス(Aspergillus)属及びドチオラ(Dothiora)属に属し、ウレタン樹脂の分解能を有する微生物である。
【0018】
アスペルギルス(Aspergillus)属に属する種として、アスペルギルス・アリアセウス(Aspergillus alliaceus)、アスペルギルス・ジャポニカ(Aspergillus japonicus)、アスペルギルス・オクラセウス(Aspergillus ochraceus)、アスペルギルス・ソーエ(Aspergillus sojae)、アスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)、アスペルギルス・アクリタス(Aspergillus aculeatus)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)、アスペルギルス・セシエルス(Aspergillus caesiellus)、アスペルギルス・キャンディダス(Aspergillus candidus)、アスペルギルス・カルネウス(Aspergillus carneus)、アスペルギルス・セルロサエ(Aspergillus cellulosae)、アスペルギルス・クラバタス(Aspergillus clavatus)、アスペルギルス・デフレクタス(Aspergillus deflectus)、アスペルギルス・フィキュム(Aspergillus ficuum)、アスペルギルス・フィシャリアナス(Aspergillus fischerianus)、アスペルギルス・フラバス(Aspergillus flavus)、アスペルギルス・フミガツス(Aspergillus fumigatus)、アスペルギルス・グラウカス(Aspergillus glaucus)、アスペルギルス・イタコニクス(Aspergillus itaconicus)、アスペルギルス・ルチェンシス(Aspergillus luchuensis)、アスペルギルス・ニジュランス(Aspergillus nidulans)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・パラシティカス(Aspergillus parasiticus)、アスペルギルス・ペニシロイデス(Aspergillus penicilloides)、アスペルギルス・レストリカス(Aspergillus restrictus)、アスペルギルス・サイト(Aspergillus saitoi)、アスペルギルス・スクレロチオラム(Aspergillus sclerotiorum)、アスペルギルス・サイドウィ(Aspergillus sydowii)、アスペルギルス・タマリ(Aspergillus tamarii)、アスペルギルス・ウサミ(Aspergillus usamii)、アスペルギルス・ウツス(Aspergillus ustus)、アスペルギルス・ベルシカラー(Aspergillus versicolor)、アスペルギルス・エスピー(Aspergillus sp.)等が挙げられる。
【0019】
ドチオラ(Dothiora)属に属する種として、ドチオラ・エリプチカ(Dothiora elliptica)、ドチオラ・ローレオラエ(Dothiora laureolae)、ドチオラ・ラミニ-アルピナエ(Dothiora rhamni-alpinae)、ドチオラ・スキゾポーラ(Dothiora schizospora)、ドチオラ・カンナビナエ(Dothiora cannabinae)、ドチオラ・プルノルム(Dothiora prunorum)、ドチオラ・エウロパエ(Dothiora europaea)、ドチオラ・アガパンチ(Dothiora agapanthi)、ドチオラ・フィリーレア(Dothiora phillyreae)、ドチオラ・ケラトニア(Dothiora ceratoniae)、ドチオラ・ブプレリコラ(Dothiora bupleuricola)、ドチオラ・コロニラエ(Dothiora coronillae)、ドチオラ・アロイデンドリ(Dothiora aloidendri)、ドチオラ・ブッキシ(Dothiora buxi)、ドチオラ・コロニコラ(Dothiora coronicola)、ドチオラ・カクタケアルム(Dothiora cactacearum)、ドチオラ・スパルチィ(Dothiora spartii)、ドチオラ・インフスカンス(Dothiora infuscans)等が挙げられる。
【0020】
ウレタン樹脂分解微生物は、特には、アスペルギルス・アリアセウス(Aspergillus alliaceus)ATCC20656、アスペルギルス・ジャポニカ(Aspergillus japonicus)JCM22258、
アスペルギルス・オクラセウス(Aspergillus ochraceus)ATCC1008、アスペルギルス・ソーエ(Aspergillus sojae)IFO4391、アスペルギルス・エスピー(Aspergillus sp.)MCI3040(受領番号:NITE ABP-03834)、アスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)ATCC10020、ドチオラ・エリプチカ(Dothiora elliptica)CBS736.71、ドチオラ・ローレオラエ(Dothiora laureolae)CBS744.71、ドチオラ・ラミニ-アルピナエ(Dothiora rhamni-alpinae)CBS745.71及びドチオラ・スキゾポーラ(Dothiora schizospora)CBS189.55である。
このうち、アスペルギルス・エスピー(Aspergillus sp.)MCI3040株は、特許法施行規則第27条の2及び3の規定に基づく寄託機関であり、微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約に基づく国際寄託当局である、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NPMD)(千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に国際寄託されている。受領番号は、NITE ABP-03834であり、受領日は2023年2月22日である。
アスペルギルス・エスピー(Aspergillus sp.)MCI3040株以外の株は、例えば、ATCC(American Type Culture Collection)、JCM(Japan Collection of Microorganisms)、IFO(Institute for Fermentation, Osaka)、CBS(Centraalbureau voor Schimmelcultures)等から公共に入手できる。
【0021】
また、ウレタン樹脂分解微生物は、上記株と同一種に属する近縁株であってよい。
近縁株としては、アスペルギルス(Aspergillus)属、好ましくはアスペルギルス・アリアセウス(Aspergillus alliaceus)、アスペルギルス・ジャポニカ(Aspergillus japonicus)、アスペルギルス・オクラセウス(Aspergillus ochraceus)、アスペルギルス・ソーエ(Aspergillus sojae)、又はアスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)に属し、アスペルギルス・アリアセウス(Aspergillus alliaceus)ATCC20656、アスペルギルス・ジャポニカ(Aspergillus japonicus)JCM22258、アスペルギルス・オクラセウス(Aspergillus ochraceus)ATCC1008、アスペルギルス・ソーエ(Aspergillus sojae)IFO4391、アスペルギルス・エスピー(Aspergillus sp.)MCI3040、又はアスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)ATCC10020との間で80%以上の配列同一性を有する塩基配列からなるITS1領域を有する微生物が挙げられる。
また、近縁株としては、ドチオラ(Dothiora)属に属し、好ましくはドチオラ・エリプチカ(Dothiora elliptica)、ドチオラ・ローレオラエ(Dothiora laureolae)、ドチオラ・ラミニ-アルピナエ(Dothiora rhamni-alpinae)、又はドチオラ・スキゾポーラ(Dothiora schizospora)に属し、ドチオラ・エリプチカ(Dothiora elliptica)CBS736.71、ドチオラ・ローレオラエ(Dothiora laureolae)CBS744.71、ドチオラ・ラミニ-アルピナエ(Dothiora rhamni-alpinae)CBS745.71、又はドチオラ・スキゾポーラ(Dothiora schizospora)CBS189.55との間で80%以上の配列同一性を有する塩基配列からなるITS1領域を有する微生物が挙げられる。
このような近縁種にも上記株と同様のウレタン樹脂分解能が期待できる。
【0022】
ウレタン樹脂分解活性の保持の観点で、上記ITS1領域の配列同一性は、85%以上、90%以上、好ましくは95%以上、98%以上、より好ましくは99%以上、99.5%以上であり得る。
ウレタン樹脂分解微生物は、上述の分類学上の属または種に属する微生物の中から、ITS1領域の塩基配列の配列同一性に基づいて候補微生物を選択し、当該候補微生物のウレタン樹脂分解能を評価することによって取得できる。
【0023】
ITS1領域の解析および同定方法は、例えば、「第16改正日本薬局方;遺伝子解析による微生物の迅速同定法」等を参照することができる。ITS1領域の相同性に替えてITS2領域(5.8S rRNAと28SrRNA間のスペーサー領域)あるいはLSU領域の相同性によっても同様の近縁種を規定し得る。
【0024】
本開示において、「ウレタン樹脂の分解能」とは、ウレタン樹脂分子に化学変化を加える能力を意味し、具体的にはウレタン樹脂の資化、低分子量化、モノマー化、及び修飾等の能力を意味する。
微生物のウレタン樹脂分解能の評価は、ウレタン樹脂と微生物、菌体処理物あるいは培養上清と接触させて反応させ、ウレタン樹脂の分解を目視で確認することによって行うことができる。また、分解反応前後のウレタン樹脂の重量又は分子量分布の測定、あるいは分子構造の解析によっても行うことができる。
【0025】
ウレタン樹脂分解微生物の培養は、通常の培養条件を用いればよく、例えば、培地として、グルコース、デンプン、スクロース等の炭素源、硝酸カリウム、硝酸アンモニウム、酵母エキス、ペプトン等の窒素源を含有し、好ましくは、リン酸カリウム、硝酸マグネシウム、塩化カルシウム等の無機塩類や微量金属類、アミノ酸類、ビタミン類等の微量成分を含有する培地を用いて、静置培養、振盪培養、通気培養、通気撹拌培養等の各種培養条件を用いて培養を行うことができる。培地は、固体培地及び液体培地のいずれも使用することができる。培養の最適条件に関しては、用いる微生物の種類により異なるため、上記培地及び培養方法は用いる微生物に適するものに適宜選択及び調製され、温度、pH、培養期間等のその他の培養条件も適宜選択されて培養が行われることが好ましい。例えば、好ましい培地としては、ポテトデキストロース培地(PD培地;Difco社等より入手可能)、Matsutake培地(1L中、エビオス錠5g、グルコース20g)等が挙げられ、好ましい培養条件は、温度20-30℃、好ましくは約25℃において、pH4-6であり、培養期間はおよそ1週間-3ヶ月程度である。
【0026】
[菌体処理物]
上述したウレタン樹脂分解微生物は、培養液をそのまま用いるか、または、該培養液から集菌操作(遠心分離等)によって得られる菌体またはその処理物を用いることもできる。
菌体処理物としては、アセトンおよびトルエン等で処理した菌体、凍結乾燥菌体、菌体破砕物、無細胞抽出物、およびこれらから酵素を抽出した粗酵素または精製酵素等が挙げられる。菌体処理物は、特に酵素(ウレタン樹脂分解酵素)が好ましい。
【0027】
[ウレタン樹脂分解酵素]
ウレタン樹脂の分解反応を触媒する活性を有する酵素(以下「ウレタン樹脂分解酵素」あるいは単に「酵素」という)は、上述した微生物から単離・精製され得る。
ウレタン樹脂分解酵素は、上述した微生物由来の酵素のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換および/または付加されたアミノ酸配列からなるか、及び/又は、上述した微生物由来の酵素のアミノ酸配列に対して少なくとも70%、75%、好ましくは80%、85%、より好ましくは90%、95%、さらに好ましくは96%、97%、特に好ましくは98%、99%の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質であって、ウレタン樹脂に対する分解活性を有するタンパク質とできる。
ここで、「数個」とは、2-40個、2-30個、好ましくは2-20個、2-10個、より好ましくは2-5個、2-4個、特に好ましくは3個、2個をいう。アミノ酸配列に欠失等を導入するには、Kunkel法やGapped duplex法等の公知手法により、部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット、例えばQuikChangeTM Site-Directed Mutagenesis Kit(ストラタジーン社)、GeneTailorTM Site-Directed Mutagenesis System(インビトロジェン社)、TaKaRa Site-Directed Mutagenesis System(Mutan-K、Mutan-Super Express Km等:タカラバイオ社)等を用いることができる。あるいは、欠失等を含む配列を有する遺伝子全体を人工合成してもよい。
「配列同一性」とは、比較すべき2つのアミノ酸配列の残基ができるだけ多く一致するように両配列を整列させ、一致した残基数を、全残基数で除したものを百分率で表したものである。上記整列の際には、必要に応じ、比較する2つの配列の一方または双方に適宜ギャップを挿入する。このような配列の整列化は、例えばBLAST、FASTA、CLUSTALW等の周知のプログラムを用いて行なうことができる。ギャップが挿入される場合、上記全残基数は、1つのギャップを1つの残基として数えた残基数となる。このようにして数えた全残基数が比較する2つの配列間で異なる場合には、長い方の配列の全残基数で一致した残基数を除して同一性(%)を算出する。
【0028】
酵素は、従来公知の分子生物学的手法を用いて無細胞合成できる。また、酵素は、従来公知の分子生物学的手法を用いて組換え微生物により発現させ、精製することもできる。
【0029】
[組換え微生物]
組換え微生物の作製は、ウレタン樹脂分解酵素をコードする核酸を一般的な宿主ベクター系に導入し、該ベクター系で微生物を形質転換することより行われる。宿主としては、特に限定されないが、細菌では大腸菌、Rhodococcus属、Pseudomonas属、Corynebacterium属、Bacillus属、Streptococcus属、Streptomyces属などが挙げられ、酵母ではSaccharomyces属、Candida属、Shizosaccharomyces属、Pichia属、糸状菌ではAspergillus属などが挙げられる。これらの中で、特に大腸菌を用いることが簡便であり、効率もよく好ましい。
【0030】
ウレタン樹脂分解酵素は、組換え微生物の細胞内外の任意の部位で発現されてよい。ウレタン樹脂分解酵素の発現は、例えば、細胞質での発現、細胞表層への提示、細胞外への分泌等であってよく、さらに宿主細胞がグラム陰性細菌である場合は、ペリプラズムでの発現であってよい。
【0031】
[ウレタン樹脂・ウレタン樹脂含有廃棄物の処理方法]
ウレタン樹脂の分解方法及びウレタン樹脂含有廃棄物の処理方法においては、ウレタン樹脂またはウレタン樹脂含有廃棄物(以下「ウレタン樹脂等」ともいう)とウレタン樹脂分解微生物、組換え微生物、またはそれらの菌体処理物あるいは培養上清(以下、「分解微生物等」ともいう)とを接触させる前に、分解処理に適するようにウレタン樹脂等を前処理することが好ましい。例えば、シュレッダー等による粉砕、加熱、加熱・加湿処理、乳化処理等を挙げることができる。
【0032】
分解微生物等とウレタン樹脂等とを接触させることにより、ウレタン樹脂をポリオールとポリアミンとに分解させることができる。微生物は、酵素を発現する、天然の微生物又は組換え微生物であってよい。
「接触」とは、ウレタン樹脂等と共にウレタン樹脂分解微生物または組換え微生物を培養すること、ウレタン樹脂等と分解微生物等とを混合すること、ウレタン樹脂等に分解微生物等を塗布すること、分解微生物等を不織布等に接種したものをウレタン樹脂等に静置することなどを指す。
【0033】
分解微生物等とウレタン樹脂等とを接触させる工程は、適当な溶媒中で行ってもよい。例えば、ウレタン樹脂等とウレタン樹脂分解微生物または組換え微生物との培養や、ウレタン樹脂等と分解微生物等との混合は、溶媒中での実施が好適である。溶媒には、通常、緩衝液等の水性溶媒が用いられる。
【0034】
反応の時間や温度、pH、ウレタン樹脂分解微生物等の添加量は、特に制限されず、適宜調整され得る。
反応温度及び時間は、通常10-60℃で1時間~1週間とされ、好ましくは20-50℃で1日以上であり、より好ましくは30-40℃で3日以上である。
反応のpH条件も、例えばpH4~10の範囲、好ましくはpH5.0~9.0である。
反応pHを一定に保ちウレタン樹脂等の分解を効率的に行うために、中和液を反応中に添加してもよい。添加する中和液としては、例えば水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、及びアンモニア水等が挙げられる。
ウレタン樹脂分解微生物等の添加量は、例えば酵素の場合ウレタン樹脂に対して0.001-20%(w/w)、好ましくは0.01-10%(w/w)、より好ましくは0.1-5%(w/w)である。
【0035】
ウレタン樹脂等の分解は、ウレタン樹脂等を分解微生物等と接触させて反応させ、ウレタン樹脂の分解を目視で確認することによって行うことができる。また、分解反応前後のウレタン樹脂等の重量又は分子量分布の測定によっても行うことができる。
【0036】
ウレタン樹脂等の分解終了後は、適切な分離装置(例えば振動篩、膜、ベルトプレスまたは遠心分離装置等)を用いて、分解処理済みのウレタン樹脂分解物等から分解微生物等を分離することができる。
あるいは、分解処理済みのウレタン樹脂等は、分解微生物等の分離を行わずにさらなる処理に供してもよい。このとき、ウレタン樹脂分解微生物又は組換え微生物には、事前に動物試験等により安全性を確認されたものを用いるか、あるいは安全性を徹底するために使用後に殺菌処理を行うことが好ましい。分解処理済みのウレタン樹脂等のさらなる処理としては、例えば水洗浄および油化処理等が挙げられる。
回収したウレタン樹脂分解微生物または組換え微生物は、新しくウレタン樹脂分解微生物または組換え微生物を培養する際の植菌源として利用することができる。
ウレタン樹脂の分解によって生成するポリオールとポリアミンは、ウレタン樹脂の再合成のために回収し利用してもよい。
【0037】
[ポリオール・アルコール・有機酸の製造方法]
上記ウレタン樹脂の分解方法は、ウレタン樹脂の分解産物としてポリオールを生成させる。したがって、本開示は、分解微生物等と、ウレタン樹脂と、を接触させる工程を含む、ポリオールの製造方法をも提供するものである。
【0038】
ポリオールの製造方法の具体的な工程は、ウレタン樹脂の分解方法の工程に同じである。
ウレタン樹脂の分解により生成するポリオールは、ウレタン樹脂の種類に応じて定まるが、例えば1,4-ブチレングリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,10-デカンジオール等の多価アルコールとホスゲンを縮合させて末端を水酸基とした化合物、1,4-ブチレングリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,10-デカンジオール等の多価アルコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等が挙げられる。
これらのポリオールは、微生物による代謝によってさらにアルコールまたは有機酸へ変換され得る。
【0039】
[ポリアミン・アルコール・有機酸の製造方法]
上記ウレタン樹脂の分解方法は、ウレタン樹脂の分解産物としてポリアミンを生成させる。したがって、本開示は、分解微生物等と、ウレタン樹脂と、を接触させる工程を含む、ポリアミン類の製造方法をも提供するものである。
【0040】
ポリアミンの製造方法の具体的な工程は、ウレタン樹脂の分解方法の工程に同じである。
ウレタン樹脂の分解により生成するポリアミンは、ウレタン樹脂の種類に応じて定まるが、例えばトリレンジアミン、ジフェニルメタンジアミン、水添ジフェニルメタンジアミン、1,5-ジアミノナフタレン、キシリレンジアミン等が挙げられる。
これらのポリアミンは、微生物による代謝によってさらにアルコールまたは有機酸へ変換され得る。
【0041】
[リサイクルポリマー]
上記ウレタン樹脂の分解方法、あるいは、ポリオール又はポリアミンの製造方法によって生成するポリオールとポリアミンは、樹脂の再合成のために回収し利用してもよい。再合成される樹脂は、ポリオール及び/又はポリアミンを含む樹脂であれば特に限定されない。例えば、リサイクルウレタン樹脂は、ポリアミンをホスゲンとの反応によりポリイソシアネートとしたのちポリオールと反応させて得ることができる。
【0042】
[樹脂組成物]
ウレタン分解酵素とウレタン樹脂とを含有する樹脂組成物は、優れた生分解性を示す。樹脂組成物は、通常、海水中、淡水中、汽水中、土壌中又はコンポスト中の少なくとも何れかの環境で生分解される。
【0043】
樹脂組成物において、ウレタン樹脂は、1種類を単独で用いても、2種類以上の樹脂を任意の組み合わせと比率で用いてもよい。
【0044】
樹脂組成物中におけるウレタン樹脂に対する酵素の配合量は、特に限定されないが、例えば0.001-20%(w/w)、好ましくは0.01-10%(w/w)、より好ましくは0.1-5%(w/w)である。
【0045】
酵素は、そのまま樹脂組成物中に配合され得る。また、酵素は、樹脂に付着固定した状態や、樹脂に結合固定した状態で樹脂組成物中に配合され得る。さらには、酵素は、形状任意の担体に付着結合または結合固定された状態や、立体格子形の担体の格子空間内に内包された状態、あるいは水溶性のカプセル形の担体内に内包された状態で樹脂組成物中に配合され得る。担体としては、ポリエチレングリコール(PEG)やポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリルアミド、および光硬化性樹脂等の合成高分子や、セルロース、カラギーナン、およびアルギン酸ナトリウム等の天然高分子からなるゲル担体、ポリエチレン、ウレタン樹脂、ポリポロピレン、ポリエステル、ポリオレフィン、およびレーヨン等からなる担体が挙げられる。また、活性炭やアンスラサイト等の無機物主成分の担体を用いることも可能である。これらの担体には、いわゆるマイクロスフィアと称されるものも利用できる。
【実施例0046】
[試験例1:ウレタン樹脂分解微生物の探索]
PDB液体培地 (ポテトデキストロース24 g/L) を滅菌し、15 ml丸底チューブに1 ml分注してAspergillus属あるいはDothiora属に属する真菌をそれぞれ接種し、25℃, 250 rpmで7日間培養した。
培養液を2 mlチューブに移し、12,000 rpmで10分間遠心して上清を取り除き、菌体を回収した。回収した菌体をC1(組成を表1に示す)1 mlで洗浄し、12,000 rpmで10分間遠心して上清を取り除いた。
菌体をC1 1 mlに再懸濁し、15 ml丸底チューブに移して約5 mm四方のポリウレタンナノファイバーフィルム (メック社製) を2~3枚加え、25℃, 250 rpmで14日間振盪して反応させた。菌体を添加しない対照も同時に反応させた。
【0047】
【0048】
反応終了後、ポリウレタンナノファイバーフィルム1枚を2mlマイクロチューブに移し、2.5%グルタルアルデヒド1mlを入れ1時間静置して上清を取り除き、50%エタノール1mlを入れ3分静置して上清を取り除いた。さらに、70%エタノールを加え3分静置して上清を取り除き、99%エタノールを加え3分静置して上清を取り除いた。一晩静置して、GPC測定(条件を表2に示す)を実施した。
【0049】
【0050】
結果を表3に示す。Aspergillus属では、アスペルギルス・アリアセウス(Aspergillus alliaceus)ATCC20656、アスペルギルス・ジャポニカ(Aspergillus japonicus)JCM22258、アスペルギルス・オクラセウス(Aspergillus ochraceus)ATCC1008、アスペルギルス・ソーエ(Aspergillus sojae)IFO4391、アスペルギルス・エスピー(Aspergillus sp.)MCI3040、及びアスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)ATCC10020で、ポリウレタンナノファイバーフィルム中のポリウレタンの分解が確認できた。また、Dothiora属では、ドチオラ・エリプチカ(Dothiora elliptica)CBS736.71、ドチオラ・ローレオラエ(Dothiora laureolae)CBS744.71、ドチオラ・ラミニ-アルピナエ(Dothiora rhamni-alpinae)CBS745.71、及びドチオラ・スキゾポーラ(Dothiora schizospora)CBS189.55で、ポリウレタンナノファイバーフィルム中のポリウレタンの分解が確認できた。
【0051】