(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141674
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】内毒素脱リン酸化用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 35/744 20150101AFI20241003BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20241003BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241003BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20241003BHJP
A23L 33/135 20160101ALI20241003BHJP
A23C 15/00 20060101ALN20241003BHJP
A23C 19/00 20060101ALN20241003BHJP
A23C 9/12 20060101ALN20241003BHJP
A23C 9/00 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
A61K35/744
A61P31/04
A61P43/00 111
A61P29/00
A23L33/135
A23C15/00
A23C19/00
A23C9/12
A23C9/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053460
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河野 通生
(72)【発明者】
【氏名】冠木 敏秀
【テーマコード(参考)】
4B001
4B018
4C087
【Fターム(参考)】
4B001AC31
4B001AC46
4B001EC05
4B018LB01
4B018LB07
4B018LB08
4B018LB09
4B018LB10
4B018MD01
4B018MD86
4B018ME14
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC61
4C087CA09
4C087CA10
4C087NA14
4C087ZB11
4C087ZB35
4C087ZC19
(57)【要約】
【課題】新たな内毒素脱リン酸化用組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】Streptococcus salivarius subsp. thermophilus、Streptococcus lutetiensis、Streptococcus oralisの菌体を有効成分とすることにより、内毒素脱リン酸化作用を有する飲食品および飼料を提供する
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストレプトコッカス(Streptococcus)属の菌の菌体及び/又はその培養物を有効成分とする内毒素脱リン酸化用組成物。
【請求項2】
ストレプトコッカス(Streptococcus)属の菌が、ストレプトコッカス サリバリウス サブスピーシーズ サーモフィルス(Streptococcus salivarius subsp. thermophilus)、ストレプトコッカス オラリス(Streptococcus oralis)及びストレプトコッカス ルテティエンシス(Streptococcus lutetiensis)からなる群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする請求項1に記載の内毒素脱リン酸化用組成物。
【請求項3】
ストレプトコッカス(Streptococcus)属の菌が、ストレプトコッカス サリバリウス サブスピーシーズ サーモフィルス(Streptococcus salivarius subsp. thermophilus)SBT1007(NITE P-03857)及びストレプトコッカス オラリス(Streptococcus oralis)SBT0324(NITE P-03856)からなる群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする請求項2に記載の内毒素脱リン酸化用組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の内毒素脱リン酸化用組成物を含む、内毒素脱リン酸化用飼料組成物、内毒素脱リン酸化用医薬組成物、又は内毒素脱リン酸化用食品組成物。
【請求項5】
ストレプトコッカス サリバリウス サブスピーシーズ サーモフィルスに属する新規乳酸菌であるストレプトコッカス サリバリウス サブスピーシーズ サーモフィルス(Streptococcus salivarius subsp. thermophilus)SBT1007(NITE P-03857)。
【請求項6】
ストレプトコッカス オラリスに属する新規乳酸菌であるストレプトコッカス オラリス(Streptococcus oralis)SBT0324(NITE P-03856)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内毒素に対して脱リン酸化作用を持つ乳酸菌に関する。
【背景技術】
【0002】
リポ多糖(Lipopolysaccharide:LPS)により構成される内毒素は、グラム陰性菌の外膜を構成する成分である。外傷や手術等によって血中に多量のLPSが流入すると、病的な炎症応答が誘導され、血管拡張による低血圧や血液凝固による多臓器不全(敗血症)が起こることが知られている。また、近年の報告では、腸管バリアの破綻に伴うLPSの流入が、生活習慣病やメタボリックシンドロームの主因である慢性炎症を引き起こすことが報告されている(非特許文献1)。したがって、LPSを低減、あるいはLPSの炎症誘導能を抑制することにより、敗血症や生活習慣病、メタボリックシンドロームの予防・改善に寄与することが期待される。
【0003】
LPSの毒素の活性本体であるLipid A構造には、リン酸基が二か所存在する。リン酸基を遊離させるとTLR4/MD2シグナルを介したLipid Aの炎症誘導活性が低下することから、LPSの炎症誘導能にはこれらのリン酸基が重要であると考えられている(非特許文献2)。したがって、LPSに対して脱リン酸化能を示すアルカリホスファターゼには、炎症抑制作用が期待できる。例えば、特許文献1では、LPSに対して脱リン酸化作用を示すウシ小腸由来アルカリホスファターゼによってLPSを解毒し、大腸炎を抑制することが開示されている。
【0004】
アルカリホスファターゼは、ヒトやウシのような真核生物だけでなく、大腸菌や乳酸菌のような原核生物もアルカリホスファターゼを持つものが存在することが知られている。例えばLactobacillus casei由来のアルカリホスファターゼを精製した報告がある(非特許文献3)。また、非特許文献4には、Lactobacillus brevis 1.0209等の幾つかの乳酸菌が、有機リン系農薬に対して脱リン酸化作用を示すことが記載されている。しかしながら、LPSに対して、真核生物由来アルカリホスファターゼは脱リン酸化能を示すが、原核生物の一つである大腸菌由来アルカリホスファターゼではその効果は認められないことが報告されている(非特許文献5)。したがって、LPSに対する解毒効果を期待する試験では、多くの場合哺乳動物由来のアルカリホスファターゼを使用している。実際に、前述の特許文献1の実施例においても、ウシ小腸由来アルカリホスファターゼを使用している。しかしながら、哺乳動物からアルカリホスファターゼを得るためには、その動物を殺す必要があるため、動物愛護の観点から望ましくない。また、遺伝子組換え大腸菌等を用いて哺乳動物由来のアルカリホスファターゼを調製する方法も考えられるが、遺伝子組換えタンパク質の使用に関しては一定の安全性評価基準を満たす必要があり、且つ消費者の忌避意識も未だ根強く残っている。したがって、LPSに対する脱リン酸化作用を示す安全な微生物由来のアルカリホスファターゼが求められている。
【0005】
乳酸菌は、古来より発酵食品の製造に使用される細菌であるが、乳酸菌が有するアルカリホスファターゼのLPSに対する脱リン酸化作用については検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】P D Cani et al. Metabolic Endotoxemia Initiates Obesity and Insulin Resistance. Diabetes.2007 Jul;56(7):1761-1772.
【非特許文献2】Komazin et al. Substrate structure-activity relationship reveals a limited lipopolysaccharide chemotype range for intestinal alkaline phosphatase. J. Biol. Chem.2019 294(50):19405-19423.
【非特許文献3】Y H Chu et al. Purification and characterization of alkaline phosphatase from lactic acid bacteria. RSC Adv. 2019;9(1):354-360.
【非特許文献4】Y H Zhang, D Xu, J Q Liu, X H Zhao. Enhanced degradation of five organophosphorus pesticides in skimmed milk by lactic acid bacteria and its potential relationship with phosphatase production. Food Chem. 2014;164:173-178.
【非特許文献5】S Lehrer, A Nowotn. Isolation and purification of endotoxin by hydrolytic enzymes. Infect. Immun. 1972;6(6):928-933.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、新たな内毒素脱リン酸化用組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意研究を重ねた結果、内毒素に対して脱リン酸化作用を有する乳酸菌を見出した。
【0010】
本発明は、具体的には以下のとおりである。ここにいう「組成物」には、製剤、飲食品ならびに飼料等の動物(ヒトを含む)が摂取し得る物が含まれる。
[実施態様1]
ストレプトコッカス(Streptococcus)属の菌の菌体及び/又はその培養物を有効成分とする内毒素脱リン酸化用組成物。
[実施態様2]
ストレプトコッカス(Streptococcus)属の菌が、ストレプトコッカス サリバリウス サブスピーシーズ サーモフィルス(Streptococcus salivarius subsp. thermophilus)、ストレプトコッカス オラリス(Streptococcus oralis)及びストレプトコッカス ルテティエンシス(Streptococcus lutetiensis)からなる群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする実施態様1に記載の内毒素脱リン酸化用組成物。
[実施態様3]
ストレプトコッカス(Streptococcus)属の菌が、ストレプトコッカス サリバリウス サブスピーシーズ サーモフィルス(Streptococcus salivarius subsp. thermophilus)SBT1007(NITE P-03857)及びストレプトコッカス オラリス(Streptococcus oralis)SBT0324(NITE P-03856)からなる群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする実施態様2に記載の内毒素脱リン酸化用組成物。
[実施態様4]
実施態様1~3のいずれか一項に記載の内毒素脱リン酸化用組成物を含む、内毒素脱リン酸化用飼料組成物、内毒素脱リン酸化用医薬組成物、又は内毒素脱リン酸化用食品組成物。
[実施態様5]
ストレプトコッカス サリバリウス サブスピーシーズ サーモフィルスに属する新規乳酸菌であるストレプトコッカス サリバリウス サブスピーシーズ サーモフィルス(Streptococcus salivarius subsp. thermophilus)SBT1007(NITE P-03857)。
[実施態様6]
ストレプトコッカス オラリスに属する新規乳酸菌であるストレプトコッカス オラリス(Streptococcus oralis)SBT0324(NITE P-03856)。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、Streptococcus salivarius subsp. thermophilus、Streptococcus lutetiensis、Streptococcus oralisよりなる群から選択される少なくとも一種の乳酸菌およびその培養物を含有する内毒素脱リン酸化用組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】乳酸菌の菌体破砕上清のアルカリホスファターゼ活性(μg/mg protein)を示したグラフである。1-1:Streptococcus salivarius subsp. thermophilus、1-2:Streptococcus salivarius subsp. thermophilus SBT1007、1-3:Streptococcus salivarius subsp. thermophilus、1-4:Streptococcus lutetiensis、1-5:Streptococcus oralis、1-6:Streptococcus oralis、1-7:Streptococcus oralis、1-8:Streptococcus oralis、1-9:Streptococcus oralis、1-10:Streptococcus oralis SBT0324、1-11:Streptococcus salivarius subsp. thermophilus JCM17834T。
【
図2】乳酸菌の菌体破砕上清から調製した粗酵素抽出物と、LPSとを混和し、5時間反応させたときの遊離リン酸濃度(mM)を示したグラフである。cIAP:ウシ小腸由来アルカリホスファターゼ、2-1:Streptococcus salivarius subsp. thermophilus SBT1007、2-2:Streptococcus oralis SBT0324、2-3:Streptococcus lutetiensis。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(ストレプトコッカス属に属する菌の菌体)
本発明の内毒素脱リン酸化用組成物では、ストレプトコッカス(Streptococcus)属に分類される乳酸菌であり、LPSに対する脱リン酸化能を有するもを用いることができる。
【0014】
具体的には、ストレプトコッカス サーモフィルス(Streptococcus salivarius subsp. thermophilus)、ストレプトコッカス オラリス(Streptococcus oralis)、ストレプトコッカス パラウベリス(Streptococcus parauberis)、ストレプトコッカス サリバリウス(Streptococcus salivarius)、ストレプトコッカス ルテティエンシス(Streptococcus lutetiensis)等を例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0015】
本発明に使用するストレプトコッカス属の菌は、ストレプトコッカス サーモフィルス(Streptococcus salivariussubsp. thermophilus)、ストレプトコッカス オラリス(Streptococcus oralis)、ストレプトコッカス ルテティエンシス(Streptococcus lutetiensis)であることが好ましく、Streptococcus salivarius subsp. thermophilus SBT1007(NITE P-03857)、Streptococcus oralis SBT0324(NITE P-03856)であることが特に好ましい。
【0016】
上記の菌株は、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター 特許微生物寄託センター(日本、千葉県、木更津市)から入手することができる。
【0017】
(ストレプトコッカス属に属する菌の調製)
本発明の内毒素脱リン酸化組成物において使用する、ストレプトコッカス属に属する乳酸菌は、各菌の培養の常法に従って培養し、所望の量を調製すればよい。調製の一例を以下に示す。MRS培地(Difco)、1%グルコース含有GAMブイヨン(日水)または1%グルコース含有M17培地(Difco)を用いて培養し、得られた培養物を遠心分離により集菌することにより菌体を得る。得られた菌体をそのまま用いてもよいし、濃縮、乾燥、凍結乾燥処理に供した菌体を用いることもできる。ビーズショッカー、超音波破砕機、フレンチプレス等の破砕装置により破砕した菌体をそのまま用いてもよいし、破砕した菌体を遠心分離して上清の粗酵素抽出物を用いることもできる。なお、本明細書において「粗酵素」とは、乳酸菌を破砕して、遠心分離などを行うことにより得られた抽出物を意味する。
【0018】
(利用方法)
上記したとおり、本発明の組成物は濃縮、乾燥、凍結乾燥処理に供した菌体および粗酵素抽出物を有効成分とすることができることから、製剤、飲食品、飼料の原料として広く用いることができる。製剤、飲食品、又は飼料を培地として菌を培養して、当該培地、培養物、懸濁物、又はその他の菌体含有物をそのまま製剤、飲食品、又は飼料として用いてもよく、または、他の培地で培養した菌体を製剤、飲食品、又は飼料に添加してもよい。
【0019】
培養物などの形態としては、合成培地であるMRS培地(Difco)、1%グルコース含有GAMブイヨン(日水)、1%グルコース含有M17培地(Difco)、あるいは還元脱脂乳培地など一般的に乳酸菌の培養に用いられる培地を用いた培養物だけでなく、チーズ、発酵乳、乳製品乳酸菌飲料などの乳製品などを例示することができるが特に限定されるものではない。
【0020】
本発明の内毒素脱リン酸化用組成物の製剤化に際しては製剤上許可されている賦型剤、安定剤、矯味剤などを適宜混合して濃縮、凍結乾燥することができる。これらの乾燥物、濃縮物、ペースト状物も含有される。また、ストレプトコッカス属に属する乳酸菌の内毒素脱リン酸化作用を妨げない範囲で、賦型剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、懸濁剤、コーティング剤、その他の任意の薬剤を混合して製剤化することもできる。剤形としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、粉剤、シロップ剤などが可能であり、これらを経口的に投与することが望ましい。
【0021】
本発明の内毒素脱リン酸化用組成物はどのような飲食品に配合しても良く、飲食品の製造工程中に原料に添加しても良い。飲食品の例としては、チーズ、発酵乳、乳製品乳酸菌飲料、乳酸菌飲料、バター、マーガリンなどの乳製品、乳飲料、果汁飲料、清涼飲料などの飲料、ゼリー、キャンディー、プリン、マヨネーズなどの卵加工品、バターケーキなどの菓子・パン類、さらには、各種粉乳の他、乳幼児食品、栄養組成物などを挙げることができるが特に限定されるものではない。
【0022】
上記飲食品の分類は、特に制限されず、一般食品や保健機能食品、特別用途食品等に使用することができる。また、保健機能食品としては、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品等に使用することができる。
【0023】
本発明の内毒素脱リン酸化用組成物の用途を付す場合、各種法律、施行規則、ガイドライン等によって定められた表示が挙げられる。用途の表示には、例えば包装、容器等のパッケージへの表示の他、パンフレット等の広告媒体への表示も含まれる。
【0024】
本発明の内毒素脱リン酸化用組成物は、飼料に配合することができる。前記飲食品と同様にどのような飼料に配合しても良く、飼料の製造工程中に原料に添加しても良い。
【0025】
本発明の組成物の投与対象は特に限定されず、ヒトに対して投与することができるが、投与対象はヒト以外の動物(例えば、イヌ、ネコ、ウマ又はウサギ等)であることもできる。投与対象がヒトである場合は、20歳未満の未成年、成人、又は65歳以上の高齢者などに投与することができる。本発明の組成物は、健康な対象に投与することもでき、生活習慣病やメタボリックシンドロームと診断される対象に投与することもできる。一態様において、本発明の組成物は、生活習慣病を患っていない対象に投与するためのものである。別の一態様において、本発明の組成物は、メタボリックシンドロームを患っていない対象に投与するためのものである。更に別の一態様において、本発明の組成物は、敗血症を患っていない対象に投与するためのものである。また更に別の一態様において、本発明の組成物は、歯周病を患っていない対象に投与するためのものである。
【0026】
(内毒素脱リン酸化活性の評価方法)
実施例に記載の方法、すなわち、粗酵素抽出物をLPSと反応させる方法で評価が可能である。具体的には、以下の通りである。
(1)滅菌水に溶解した1 mg/ml LPS(from Escherichia coli O55:B5, L2880-10MG, Sigma)150 μlに対して30 U/μl cIAP(2250A, Takara)または10 mg/mlの粗酵素抽出物を1.5 μl添加し、37°Cにて5時間インキュベートする。反応後、試験に供するまで-30℃にて保存する。
(2)サンプルの遊離リン酸濃度の測定にはBIOMOL Green Reagent(BML-AK111-0250, Enzo Life Sciences)を使用する。800 μM phosphate standardを10 mM carbonate-bicarbonate buffer(pH 10.5)で希釈し、0, 0.625, 1.25, 2.5, 5, 10, 20, 40 μMの標準液希釈系列を作成する。サンプルは10 mM carbonate-bicarbonate buffer(pH 10.5)で50倍希釈する。
(3)標準液希釈系列とサンプルを96-well plateに50 μlずつ入れ、100 μlのBIOMOL GREEN Reagentを加えて30分間室温でインキュベートする。
(4)その後、620 nmの吸光度を測定した。phosphate standardの測定結果から、遊離リン酸濃度を算出する。
【実施例0027】
以下、本発明を試験例、実施例をもとにさらに詳細に説明するが、本発明は係る実施例等に限定されて解釈されるものではない。なお、特に説明のない限り、%の表示は質量%を示す。
【0028】
(実施例品1)菌体破砕上清
下記(1)の各供試菌を、MRS培地(Difco)、1%グルコース含有GAMブイヨン(日水)または1%グルコース含有M17培地(Difco)にそれぞれ植菌し、30-37℃にて16-24時間静置培養を行った。培養物を、生理食塩水にて2回、滅菌水にて1回洗浄し、洗浄菌体を得た。この洗浄菌体を凍結乾燥処理して菌体粉末を得た。菌体粉末を10 mM carbonate-bicarbonate buffer(pH 10.5)に20 mg/mlで懸濁し、SONIFIER SFX150HH(BRANSON)を用いて、氷上にて超音波破砕した(on time 10 sec, off time 15 sec, 20 times, Amp 30%, on ice)。超音波破砕後、4℃にて10,000×gで15分間遠心分離し、上清を回収した。上清は試験に供するまで-80℃にて保存した
【0029】
【0030】
(実施例品2)菌体粗酵素抽出物
下記(2)の各供試菌を、MRS培地(Difco)、1%グルコース含有GAMブイヨン(日水)または1%グルコース含有M17培地(Difco)にそれぞれ植菌し、30-37℃にて16-24時間静置培養を行った。培養物を、生理食塩水にて2回、滅菌水にて1回洗浄し、洗浄菌体を得た。この洗浄菌体を凍結乾燥処理して菌体粉末を得た。菌体粉末を10 mM carbonate-bicarbonate buffer(pH 10.5)に20 mg/mlで懸濁し、SONIFIER SFX150HH(BRANSON)を用いて、氷上にて超音波破砕した(on time 10 sec, off time 15 sec, 20 times, Amp 30%, on ice)。超音波破砕後、4℃にて10,000×gで15分間遠心分離し、上清を回収した。上清に対して80%硫酸アンモニウムとなるように硫酸アンモニウムを添加し、4℃にて1時間振盪した。4℃にて12,000×gで10分間遠心分離して上清を除去し、沈殿を超純水に溶解してSlide-A-Lizer Dialysis Cassette(MWCO3500, 66110, Themo Fisher Scientific)で透析した。透析後、サンプルを回収して凍結乾燥し、粗酵素抽出物の乾燥粉末を得た。得られたサンプルは試験に使用するまで-80℃にて保存した。
【0031】
【0032】
上記(1)(2)の菌株は、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター 特許微生物寄託センター(日本、千葉県、木更津市)から入手することができる。
【0033】
[試験例1]アルカリホスファターゼ活性の高い乳酸菌の選抜試験
アルカリホスファターゼ活性の高い乳酸菌を選抜するため、下記の評価を行った。
【0034】
アルカリホスファターゼ活性の評価にはPierce PNPP Substrate Kit(37620, Themo Fisher Scientific)を使用した。ポジティブコントロールであるBacterial alkaline phosphatase(BAP, 2120a, Takara)を10 mM carbonate-bicarbonate buffer(pH 10.5)で必要濃度に希釈したもの、または10 mM carbonate-bicarbonate buffer(pH 10.5)に溶解した実施例品1を96 well plateに10 μl/wellで添加した。
【0035】
PNPP substrate solutionを90 μl/wellで添加し、プレートシェイカーにて撹拌した後、暗所にて室温で30分間静置した。
【0036】
静置後、2N NaOHを50 μl/wellで添加して反応を停止し、Varioskan Flash(Themo Fisher Scientific)にて405 nm吸光度を測定した。BAPの測定結果から作出した検量線を用いて、補正前アルカリホスファターゼ活性(U/ml)を算出した。
【0037】
実施例品1のタンパク質濃度を、Pierce BCA Protein Assay Kit(23225,Thermo Fisher Scientific)にて測定した。補正前アルカリホスファターゼ活性(U/ml)をタンパク質濃度(mg/ml)にて補正し、補正値をアルカリホスファターゼ活性(μU/mg protein)とした。
【0038】
各種乳酸菌破砕上清のアルカリホスファターゼ活性を
図1に示した。評価した各菌種の中で最も活性の高いStreptococcus salivarius subsp. thermophilus SBT1007、Streptococcus lutetiensis、Streptococcus oralis SBT0324を、各菌種の代表株として選抜した。
【0039】
[試験例2]内毒素に対する脱リン酸化能検証試験
試験例1において、Streptococcus salivarius subsp. thermophilus SBT1007、Streptococcus lutetiensis、Streptococcus oralis SBT0324にアルカリホスファターゼ活性が認められたが、これらの菌株が、LPSに対して脱リン酸化作用を示すか否かを検証するべく、下記の評価を行った。
【0040】
実施例品2のアルカリホスファターゼ活性を、[試験例1]と同様の方法で測定した。各粗酵素抽出物の酵素活性(U/g乾燥重量)を表3に示した。粗酵素抽出物のアルカリホスファターゼ活性は、Streptococcus lutetiensis、Streptococcus oralis SBT0324、Streptococcus thermophilus salivarius subsp. SBT1007の順に高かった。
【表3】
【0041】
滅菌水に溶解した1 mg/ml LPS(from Escherichia coli O55:B5, L2880-10MG, Sigma)150 μlに対して30 U/μl cIAP(2250A, Takara)または10 mg/mlの実施例品2を1.5 μl添加し、37°Cにて5時間インキュベートした。反応後、試験に供するまで-30℃にて保存した。
【0042】
サンプルの遊離リン酸濃度の測定にはBIOMOL Green Reagent(BML-AK111-0250, Enzo Life Sciences)を使用した。800 μM phosphate standardを10 mM carbonate-bicarbonate buffer(pH 10.5)で希釈し、0, 0.625, 1.25, 2.5, 5, 10, 20, 40 μMの標準液希釈系列を作成した。サンプルは10 mM carbonate-bicarbonate buffer(pH 10.5)で50倍希釈した。標準液希釈系列とサンプルを96-well plateに50 μlずつ入れ、100 μlのBIOMOL GREEN Reagentを加えて30分間室温でインキュベートした。その後、620 nmの吸光度を測定した。phosphate standardの測定結果から、遊離リン酸濃度を算出した。
【0043】
ウシ小腸由来アルカリホスファターゼ(cIAP)、並びに、Streptococcus salivarius subsp. thermophilus SBT1007、Streptococcus lutetiensis、及びStreptococcus oralis SBT0324の粗酵素抽出物をLPSと反応させたときの遊離リン酸濃度を
図2に示した。遊離リン酸は、LPS単独では検出されなかったが、cIAPと反応させると0.4 mM程度検出された。すなわち、哺乳動物由来のアルカリホスファターゼによってLPSからリン酸が遊離することが示された。
【0044】
Streptococcus salivarius subsp. thermophilus SBT1007、Streptococcus lutetiensis、及びStreptococcus oralis SBT0324の粗酵素抽出物とLPSを反応させると、Streptococcus oralis SBT0324ではcIAPと同程度(約0.4 mM)、Streptococcus salivarius subsp. thermophilus SBT1007とStreptococcus lutetiensisではcIAPの半分程度(約0.2 mM)、LPSからリン酸を遊離させた。すなわち、Streptococcus salivarius subsp. thermophilus SBT1007、Streptococcus lutetiensis、Streptococcus oralis SBT0324は内毒素に対して脱リン酸化作用を持つことが示された。