(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141684
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】潜像物及びその形成方法
(51)【国際特許分類】
B42D 25/324 20140101AFI20241003BHJP
【FI】
B42D25/324
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053473
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】303017679
【氏名又は名称】独立行政法人 国立印刷局
(72)【発明者】
【氏名】森永 匡
【テーマコード(参考)】
2C005
【Fターム(参考)】
2C005HA02
2C005HB01
2C005HB02
2C005HB09
2C005HB10
2C005HB13
2C005JB22
2C005JB25
2C005JB27
2C005JB40
(57)【要約】
【課題】薄型化に適した潜像物を提供する。
【解決手段】本発明に係る潜像物は、第1基画像の画線を分割圧縮した複数の第1潜像画線が第1方向に配列された第1潜像画像と、第1基画像と異なる図形から成る第2基画像の画線を分割圧縮した複数の第2潜像画線が第1方向に配列されて、第1基画像を第2基画像へ連続して瞬間的に変化させる第2潜像画像と、を備える。複数の第1潜像画線および複数の第2潜像画線の各々が、円弧状の複数の格子線を規則的に配列した回折格子の模様を有する。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1基画像を分割圧縮した複数の第1潜像要素が第1方向に配列された第1潜像画像と、前記第1基画像と異なる図形から成る第2基画像を分割圧縮した複数の第2潜像要素が前記第1方向に配列された第2潜像画像と、を備え
前記第1潜像要素は、所定の角度又は所定の密度の少なくともいずれか一方を有する複数の円弧状の格子線を配列した第1凹凸構造を有し、
前記第2潜像要素は、前記所定の角度と異なる角度又は前記所定の密度と異なる密度の少なくともいずれか一方を有する円弧状の複数の格子線を配列した第2凹凸構造を有し、
前記第1潜像画像の中心位置は、前記第2潜像画像の中心位置に対し、前記第1方向にずらして配置され、
前記第1潜像画像及び前記第2潜像画像が重畳した領域において、前記第1潜像要素と前記第2潜像要素は、前記第1方向に沿って交互に配列されてなる、潜像物。
【請求項2】
前記第1潜像要素及び前記第2潜像要素の各々が、前記第1方向と直交する第2方向に断続的に配列されてなる、請求項1に記載の潜像物。
【請求項3】
第1基画像を分割圧縮した複数の第1潜像要素が第1方向に配列された第1潜像画像を形成し、前記第1基画像と異なる図形から成る第2基画像を分割圧縮した複数の第2潜像要素が前記第1方向に配列された第2潜像画像を形成し、
前記第1潜像要素及び前記第2潜像要素の各々に、所定の角度又は所定の密度の少なくともいずれか一方を有する円弧上の複数の格子線を配列した凹凸構造の模様を転写し、
前記第1潜像画像の中心位置は、前記第2潜像画像の中心位置に対し、前記第1方向にずらして配置され、前記第1潜像画像及び前記第2潜像画像が重畳した領域において、
前記第1潜像要素と前記第2潜像要素と、を前記第1方向に沿って交互に配列する潜像物の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2種類の画像がそれぞれ一方向に動く動画効果と、2種類の画像のうちの一方から他方へ連続して瞬間的に変化するチェンジ効果と、を得ることが可能な潜像物及びその形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
画像を動かす、いわゆる動画効果を実現する方式の一つに、パラパラ漫画のように複数の画像を次々に再生させる圧縮画像方式がある。ここで、
図21を参照して一般的な圧縮画像方式の潜像の形成方法を説明する。
【0003】
図21は、一般的な圧縮画像方式の潜像に動画効果を付与する方法の一例を示す図である。
図21では、まず、星形の複数の基画像101をそれぞれ異なる位置に配置する。次に、各位置に配置された基画像101を垂直方向に所定のピッチP1で分割して、分割した画像の位置をずらして再配置して複数の分割画像102を形成する。これらの分割画像102を、ピッチP1の縞模様(スリット)が形成されたサンプリング器具(図示せず)でサンプリングすると潜像103が動きを伴って再生される。
【0004】
また、動画効果を実現する方式には、基画像を圧縮する圧縮画像方式がある。圧縮画像方式には、さらに、モアレ方式とIP(Integral Photography)画像方式がある。ここで、
図22を参照して一般的なモアレ方式の潜像の形成方法を説明するとともに、
図23を参照して一般的なIP画像方式の潜像の形成方法を説明する。
【0005】
図22は、一般的なモアレ方式で動画効果を付与する方法の一例を示す図である。
図22に示すモアレ方式では、まず、星形の複数の基画像111を垂直方向に圧縮する。次に、各基画像111を圧縮した複数の圧縮画像112を、所定のピッチP1で一列に並べる。これらの圧縮画像112を、ピッチP1と異なるピッチP2の縞模様(スリット)が形成されたサンプリング器具(図示せず)でサンプリングすると、潜像113が動きを伴って再生される。
【0006】
図23は、一般的なIP画像方式で動画効果を付与する方法の一例を示す図である。
図23に示すIP画像方式では、まず、一定の幅を有するフレームを使って星形の基画像121を複数の分割画像に分割する。続いて、各分割画像の配置方向に沿った方向(
図23のX方向)又は配置方向に対して垂直方向(
図23のY方向)、もしくはその両方向に所定の圧縮率で縮小し、縮小した要素を複数配置し、分割圧縮画像122を形成する。このとき、複数の分割圧縮画像122は、所定のピッチP1で一列に並べられる。これらの分割圧縮画像122を、ピッチP1と同じピッチの縞模様(スリット)が形成されたサンプリング器具(せず図示)でサンプリングすると、潜像123が動きを伴って再生される。
【0007】
上述した圧縮画像方式で形成される潜像には、画像が動く動画効果だけでなく一方の画像から他方の画像へ連続して瞬間的に変化させるチェンジ効果も得られるものがある。圧縮画像方式でチェンジ効果を実現した潜像が、特許文献1(特許第6032426号公報)に提案されている。この潜像は、上述した圧縮画像方式とIP画像方式とを足し合わせた構造を有する。具体的には、まず、2つの基画像のIP画像を作成する。次に、圧縮画像方式に基づいてそれぞれのIP画像を短冊状にして交互に配置する。これにより、動画効果とチェンジ効果の両方を実現した潜像を形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の潜像は、蒲鉾状の画線上に形成される。蒲鉾状の画線は、盛り上がりを有するため、ある程度の厚さが必要になる。その結果、薄型化することが困難である。例えば、銀行券、パスポート、有価証券、身分証明書、カード、通行券等のセキュリティ印刷物では、動画効果とチェンジ効果の両方を兼ね備えた潜像は、偽造防止効果の向上に有効である。しかし、このようセキュリティ印刷物には、薄型化を要求される場合があり、この場合、特許文献1に記載の潜像には課題が残る。
【0010】
そこで本発明は、薄型化に適した潜像物及びその形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1基画像を分割圧縮した複数の第1潜像要素が第1方向に配列された第1潜像画像と、第1基画像と異なる図形から成る第2基画像を分割圧縮した複数の第2潜像要素が第1方向に配列された第2潜像画像、を備え第1潜像要素は、所定の角度又は所定の密度の少なくともいずれか一方を有する複数の円弧状の格子線を配列した第1凹凸構造を有し、第2潜像要素は、所定の角度と異なる角度又は所定の密度と異なる密度の少なくともいずれか一方を有する円弧状の複数の格子線を配列した第2凹凸構造を有し、第1潜像画像の中心位置は、第2潜像画像の中心位置に対し、第1方向にずらして配置され、第1潜像画像及び第2潜像画像が重畳した領域において、第1潜像要素と第2潜像要素は、第1方向に沿って交互に配列されてなる、潜像物。
【0012】
本発明は、第1潜像要素及び第2潜像要素の各々が、第1方向と直行する第2方向に断続的に配列されてなる、潜像物。
【0013】
第1基画像を分割圧縮した複数の第1潜像要素が第1方向に配列された第1潜像画像を形成し、第1基画像と異なる図形から成る第2基画像を分割圧縮した複数の第2潜像要素が第1方向に配列された第2潜像画像を形成し、第1潜像要素及び第2潜像要素の各々に、所定の角度又は所定の密度の少なくともいずれか一方を有する格子線を規則的に配列した凹凸構造の模様を転写し、第1潜像画像の中心位置は、第2潜像画像の中心位置に対し、第1方向にずらして配置され、第1潜像画像及び第2潜像画像が重畳した領域において、第1潜像要素と第2潜像要素と、を第1方向に交互に配列する潜像物の形成方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、潜像物を薄型化した際においても画像のチェンジ効果と動画効果、とりわけ顕著な動画効果を充足する潜像物を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1実施形態に係る潜像物の形成方法を示すフローチャートである。
【
図2】(a)は第1基画像の一例を示す図であり、(b)は第2基画像の一例を示す図である。
【
図3】(a)は第1分割圧縮画像の一例を示す図であり、(b)は第2分割圧縮画像の一例を示す図である。
【
図4】第1実施形態に係る分断画像の形成方法を説明する模式図である。
【
図5】(a)は第1分断画像の一例を示す図である。(b)は第2分断画像の一例を示す図である。
【
図7】(a)は第1実施形態に係る第1凹凸構造の一例を示す図であり、(b)は第1実施形態に係る第2凹凸構造の一例を示す図である。
【
図8】(a)は第1実施形態に係る第1転写画像の一例を示す図であり、(b)は第1実施形態に係る第2転写画像の一例を示す図である。
【
図9】第1実施形態に係る潜像の一例を示す図である。
【
図10】第2実施形態に係る潜像物の形成方法を示すフローチャートである。
【
図11】第2実施形態に係る分断画像の形成方法を説明する模式図である。
【
図12】(a)は、第2実施形態に係る第1分断画像の一例を示す図であり、(b)は、第2実施形態に係る第2分断画像の一例を示す図である。
【
図13】(a)は、第2実施形態の第1変形例に係る分断画像の形成方法を説明する模式図であり、(b)は第2実施形態の第2変形例に係る分断画像の形成方法を説明する模式図である。
【
図14】第2実施形態に係る潜像の一例を示す図である。
【
図15】(a)は第3実施形態に係る第1凹凸構造の一例を示す図であり、(b)は第3実施形態に係る第2凹凸構造の一例を示す図である。
【
図16】(a)は第3実施形態に係る第1転写画像の一例を示す図であり、(b)は、第3実施形態に係る第2転写画像の一例を示す図である。
【
図17】(a)は第3実施形態に係る潜像の一例を示す図であり、(b)は、第3実施形態に係る別の潜像の一例を示す図であり、(c)は、第3実施形態に係るさらに別の潜像の一例を示す図である。
【
図18】(a)は第1凹凸構造における光の入射角度及び回折角度の一例を示す模式図であり、(b)は第2凹凸構造における光の入射角度及び回折角度の一例を示す模式図である。
【
図19】2つの潜像要素の密度が同じである回折格子の模様を有する場合の潜像効果を説明する模式図である。
【
図20】2つの潜像要素の密度が異なる回折格子の模様を有する場合の潜像効果を説明する模式図である。
【
図21】一般的な圧縮画像方式の潜像の形成方法の一例を示す図である。
【
図22】一般的なモアレ方式の潜像の形成方法の一例を示す図である。
【
図23】一般的なIP画像方式の潜像の形成方法の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載における技術的思想の範囲内であれば、その他の様々な実施形態が含まれる。
【0017】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る潜像物の形成方法を示すフローチャートである。なお、このフローチャートに基づく潜像物の形成方法は、イラストレーター(アドビ株式会社製)等の画像処理ソフトをインストールしたコンピュータによって実現することができる。
【0018】
まず、ユーザが上記コンピュータを操作して、基画像に関するパラメータを設定する(ステップS11)。このパラメータには、例えば、第1基画像11及び第2基画像21のそれぞれの図形、その図形の大きさ、及び潜像画像の画線のピッチなどが含まれる。
【0019】
図2(a)は、第1基画像11の一例を示す図である。
図2(b)は、第2基画像21の一例を示す図である。
図2(a)及び
図2(b)に示すように、ステップS11では、星形の第1基画像11と、円形の第2基画像21とがユーザの操作によって選定される。なお、本発明では、各基画像の図形は、星形及び円形のような線対称図形に限定されない。また、各図に示すX方向は、潜像の動く方向(動画方向)に平行な方向を示し、本発明では第1方向とする。一方、Y方向は、XY平面上でX方向に直交する方向を示し、本発明では第2方向とする。
【0020】
次に、第1基画像11を分割圧縮して第1分割圧縮画像12を形成するとともに、第2基画像21を分割圧縮して第2分割圧縮画像22を形成する(ステップS12)。すなわち、第1基画像11及び第2基画像21をそれぞれIP画像化する。
【0021】
図3(a)は、第1分割圧縮画像12の一例を示す図である。
図3(b)は、第2分割圧縮画像22の一例を示す図である。ステップS12では、まず、任意の幅と各基画像よりも大きな高さを有する矩形で構成されたフレームを各基画像に対して一定のピッチP1ずつX方向にずらしながら各基画像の左端から右端まで順番に各画像を分割する。これにより、フレーム内には、基画像の要素を分割した分割要素が描かれる。
【0022】
続いて、各フレームをX方向に特定の縮率によって所定の幅Wになるように圧縮することで、各フレーム内の分割要素を圧縮する。最後に、要素が圧縮された複数のフレームをピッチPでX方向に順次に配置する。その結果、第1基画像11は
図3(a)に示す第1分割圧縮画像12に画像処理されてIP画像となるとともに、第2基画像21は、
図3(b)に示す第2分割圧縮画像22に画像処理されてIP画像となる。
【0023】
次に、第1分割圧縮画像12及び第2分割圧縮画像22の各々の分割圧縮要素を間引いて短冊化した分断画像を形成する(ステップS13)。ここで、
図4及び
図5を参照して、ステップS13の内容について説明する。
【0024】
図4は、第1実施形態に係る分断画像の形成方法を説明する模式図である。第1分割圧縮画像12の分割圧縮要素は、複数のフレーム12a内に描かれている。フレーム12aは、幅Wを有し、ピッチPの間隔でX方向に配置されている。一方、第2分割圧縮画像22の分割圧縮要素は、複数のフレーム22a内に描かれている。フレーム22aも、幅Wを有し、ピッチPの間隔でX方向に配置されている。ただし、
図4では、各フレーム内に描かれた分割圧縮画要素の記載を省略している。なお、フレーム22aの幅は、フレーム12aの幅と異なっていてもよい。ステップS13では、各フレーム内の分割圧縮要素をピッチPの半分の幅1/2PでY方向に分断する。
【0025】
図5(a)は、第1分断画像13の一例を示す図である。
図5(b)は、第2分断画像23の一例を示す図である。上述した分断処理によって、分割圧縮要素が間引かれ、フレーム内に残った要素が短冊化される。その結果、第1分割圧縮画像12は
図5(a)に示す第1分断画像13に画像処理されるとともに、第2分割圧縮画像22は、
図5(b)に示す第2分断画像23に画像処理される。
【0026】
次に、第1分断画像13及び第2分断画像23を合成した合成画像を形成する(ステップS14)。ここで、
図6を参照して、ステップS14の内容について説明する。
【0027】
図6は、合成画像の一例を示す図である。ステップS14では、
図6に示すように、第1分断画像13と第2分断画像23とを合成して合成画像40を形成する。このとき、第1分断画像13の中心位置と、第2分断画像23の中心位置を、X方向に互いにずらしてこれら2つの分断画像を合成する。このときの合成画像40における第1分断画像13及び第2分断画像23のずらし幅Tは、二つの画像の重なり合いの幅を示し、第1基画像11及び第2基画像21の幅にあたる程度の大きさを目安とする。
図6においては、第1基画像と第2基画像が同じ大きさのため、それぞれの幅をずらし幅Tとしたが、第1基画像と第2基画像の幅が異なっていた場合、2つの基画像の幅の平均値をずらし幅Tとする。このずらし幅Tは、チェンジ効果が生じた瞬間の二つの画像の位置関係に直接影響を及ぼすものであり、ずらし幅Tが小さすぎたり、大きすぎる場合、画像がチェンジした瞬間に潜像が一瞬逆方向に動くように認識されたり、瞬間移動して離れた場所に移動したように認識される場合がある。最終的には、完成した潜像物60においてチェンジ効果が生じる瞬間の画像の位置に違和感が生じないかを確認しながらずらし量を微調整することが望ましい。その結果、合成画像40では、第1分断画像13の右半分と、第2分断画像23の左半分とが合成される。合成部分では、1/2Pに分断されたフレーム12aに描かれた要素と、1/2Pにフレーム12bに描かれた要素とが重なり合うことなく、X方向で交互に配置されている。
【0028】
合成画像40の要素に回折格子を転写して潜像画像を形成する(ステップS15)。ここで、
図7を参照して、まず、合成画像40に転写される回折格子について説明する。
【0029】
図7(a)は、第1実施形態に係る第1凹凸構造51の一例を示す図である。第1凹凸構造51には、複数の第1格子線51aがX方向及びY方向に規則的に配列されている。特に、第1分割圧縮画像12及び第2分割圧縮画像22と同じピッチPでX方向に配列されている。各第1格子線51aは、1/4円分の周長、具体的には半円の右半分の周長を有する円弧状に形成されている。
【0030】
図7(b)は、第2実施形態に係る第2凹凸構造52の一例を示す図である。第2凹凸構造52には、複数の第2格子線52aがX方向及びY方向に規則的に配列されている。特に、第2格子線52aは、第1分割圧縮画像12及び第2分割圧縮画像22と同じピッチPでX方向に配列されている。各第2格子線52aは、1/4円分の周長、具体的には半円の左半分の周長を有する円弧状に形成されている。
【0031】
二つの格子線の角度は、チェンジが生じた瞬間に二つの画像が消失又は出現するタイミングに影響を与える。画像をチェンジする瞬間に潜像を二つ同時に出現させる瞬間を生じさせたくない場合、第1凹凸構造51の第1格子線51aの円弧で規定される角度αの範囲は、0度から90度とし、第2凹凸構造52の第2格子線52aの円弧で規定される角度βの範囲は、90度から180度とする。更に、第1格子線51aの両端のうちの一方の角度が、第2格子線52aの両端の角度のうちの一方の角度と90度で連続しており、第1凹凸構造51及び第2凹凸構造52が共通した角度を有さない。また、画像がチェンジする瞬間に二つの潜像がわずかに混ざり合ったような余韻を視覚効果として付与することを意図する場合には、第1凹凸構造51及び第2凹凸構造52の間に共通した角度範囲を設ける必要がある。
【0032】
図8(a)は、第1実施形態に係る第1転写画像14の一例を示す図である。
図8(b)は、第1実施形態に係る第2転写画像24の一例を示す図である。第1分割圧縮画像12の分割圧縮要素に第1凹凸構造51を転写すると、
図8(a)に示す第1転写画像14が形成される。また、第2分割圧縮画像22の分割圧縮要素に第2凹凸構造52を転写すると、
図8(b)に示す第2転写画像24が形成される。
【0033】
第1転写画像14及び第2転写画像24を形成すると、最後に、これら2つの転写画像を合成して潜像を形成する(ステップS14)。ステップS14では、第1転写画像14の中心位置と、第2転写画像24の中心位置を、X方向に互いにずらしてこれら2つの分断画像を合成する。
【0034】
図9は、第1実施形態に係る潜像物61の一例を示す図である。この潜像物61では、第1基画像11を出現させる第1潜像画像が、
図9(a)に示すX方向に配列された複数の第1潜像要素61aで構成され、各第1潜像要素61aは、第1凹凸構造51の模様を有する。また、第2基画像21を出現させる第2潜像画像が、
図9(b)に示すX方向に配列された複数の第2潜像要素61bで構成され、各第2潜像要素61bは、第2凹凸構造52の模様を有する。第2凹凸構造52の第2格子線52aの形状は、第1凹凸構造51の第1格子線51aの形状と異なる。
図9(c)に示す第1潜像画像と第2潜像画像との重畳部分の潜像要素には、第1格子線51a及び第2格子線52aが連続する半円状の格子線パターンが形成されている。
【0035】
以上説明した本実施形態によれば、格子線の配列パターンが異なる回折格子が潜像要素に転写されている。そのため、蒲鉾状の画線を形成しなくても、チェンジ効果及び動画効果を両立することができる。
【0036】
したがって、本実施形態に係る潜像物61は、例えば、銀行券、パスポート、有価証券、身分証明書、カード、通行券等のセキュリティ印刷物の薄型化に適したものとなる。
【0037】
(第2実施形態)
図10は、第2実施形態に係る潜像物の形成方法を示すフローチャートである。
図10に示すフローチャートにおいて、基画像のパラメータを設定するステップS21、基画像を分割圧縮するステップS22、分割圧縮画像に回折格子を転写するステップS23の処理内容については、第1実施形態と同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0038】
本実施形態では、ステップS23で、第1分割圧縮画像12に第1凹凸構造51を転写した第1転写画像14と、第2分割圧縮画像22に第2凹凸構造52を転写した第2転写画像24を形成すると、各転写画像の要素をX方向に間引いて短冊化した分断画像を形成する(ステップS24)。ここで、
図11を参照して、ステップS24の内容について説明する。
【0039】
図11は、第2実施形態に係る分断画像の形成方法を説明する模式図である。第1転写画像14の要素は、複数のフレーム14a内に描かれている。フレーム14aは、幅Wを有し、ピッチPの間隔でX方向に配置されている。一方、第2転写画像24は、複数のフレーム24a内に描かれている。フレーム24aも、幅Wを有し、ピッチPの間隔でX方向に配置されている。ただし、
図14では、各フレーム内に描かれた要素の記載を省略している。なお、フレーム24aの幅は、フレーム14aの幅と異なっていてもよい。ステップS24では、各フレーム内の要素を所定のピッチでX方向に分断する。これにより、転写画像の要素は、Y方向に断続的な形状に変形する。
【0040】
図12(a)は、第2実施形態に係る第1分断画像15の一例を示す図である。
図12(b)は、第2実施形態に係る第2分断画像25の一例を示す図である。第1転写画像14の要素をX方向に短冊化すると、
図12(a)に示す第1分断画像15が形成される。一方、第2転写画像24の要素をX方向に短冊化すると、
図12(b)に示す第2分断画像25が形成される。ただし、本実施形態では、短冊化する方向はX方向に限定されない。
【0041】
図13(a)は、第2実施形態の第1変形例に係る分断画像の形成方法を説明する模式図である。本変形例では、
図13(a)に示すように、各転写画像の要素は、X方向に対して斜めの方向に短冊化される。この場合も、各転写画像の要素は、Y方向に断続的な形状に変形する。
【0042】
図13(b)は、第2実施形態の第2変形例に係る分断画像の形成方法を説明する模式図である。本変形例では、
図13(b)に示すように、各転写画像の要素は、市松形状に短冊化される。この場合、各転写画像の要素は、Y方向及びX方向に断続的な形状に変形する。
【0043】
第1分断画像15及び第2分断画像25を形成すると、最後に、これらの2つの分断画像の要素が重ならないように潜像を形成する(ステップS25)。ステップS25では、第1分断画像15の中心位置と、第2分断画像25の中心位置を、X方向に互いにずらしてこれら2つの分断画像を合成する。二つの画像のずらし量は、第1実施形態と同様で、二つの基画像の幅の平均値を目安とする。また、第1実施形態と同様に、第1分断画像15の第1凹凸構造51と第2分断画像25の第2凹凸構造52は重ならない。これにより、
図14に示す潜像物62が形成される。
【0044】
図14は、第2実施形態に係る潜像物62の一例を示す図である。この潜像物62では、第1実施形態と同様に、第1基画像11を出現させる第1潜像画像が、X方向に配列され、Y方向に断続的に延びている複数の第1潜像要素62aで構成され、各第1潜像要素62aは、第1凹凸構造51の模様を有する。また、第2基画像21を出現させる第2潜像画像が、X方向に配列され、Y方向に断続的に延びている複数の第2潜像要素61bで構成され、各第2潜像要素61bは、第2凹凸構造52の模様を有する。第2格子線52aの形状は、第1格子線51aの形状と異なる。
【0045】
以上説明した本実施形態によれば、第1実施形態と同様に、格子線の配列パターンが異なる潜像要素に転写されている。そのため、第1実施形態と同様に、蒲鉾状の要素を形成しなくても、チェンジ効果及び動画効果を両立することができる。
【0046】
したがって、本実施形態に係る潜像物62も、第1実施形態に係る潜像物60及び第2実施形態に係る潜像物61と同様に、例えば、セキュリティ印刷物の薄型化に適したものとなる。
【0047】
(第3実施形態)
上述した第1実施形態及び第2実施形態では、単位長さ(1mm)当たりの格子線の本数を示す密度に関して、第1凹凸構造51は第2凹凸構造52と同じである。一方、本実施形態では、第1分割圧縮画像12には第1凹凸構造53を転写し、第2分割圧縮画像22には、第2凹凸構造54を転写する。第1凹凸構造53の密度は、第2凹凸構造54の密度と異なる。ここで、
図15(a)及び
図15(b)を参照して、第1凹凸構造53及び第2凹凸構造54について説明する。
【0048】
図15(a)は、第3実施形態に係る第1凹凸構造53の一例を示す図である。本実施形態に係る第1凹凸構造53には、複数の第1格子線53aがX方向及びY方向に規則的に配列されている。特に、第1格子線53aが、第1分割圧縮画像12と同じピッチPでX方向に配置されている。各第1格子線53aは、半円分の周長を有する円弧状に形成されている。
【0049】
図15(b)は、第3実施形態に係る第2凹凸構造54の一例を示す図である。本実施形態に係る第2凹凸構造54には、複数の第2格子線54aがX方向及びY方向に規則的に配列されている。特に、第2格子線54aは、第2分割圧縮画像22と同じピッチPでX方向に配置されている。各第2格子線54aも、半円分の周長を有する円弧状に形成されている。ただし、第2格子線54aの密度は、第1格子線53aの密度よりも高い。具体的には、第2格子線54aと第1格子線53aとの密度差は、1mm当たり1000本以上異なることが望ましい。一方で、第1格子線53aと第2格子線54aのそれぞれの回折格子を形成する円弧の形状は同じである。この形態は、X方向のフリップにおいては、潜像の動的効果を発現させ、Y方向にフリップした際、画像のチェンジ効果を発現させるために必須の構成である。
【0050】
図16(a)は、第3実施形態に係る第1転写画像16の一例を示す図である。
図16(b)は、第3実施形態に係る第2転写画像26の一例を示す図である。第1分割圧縮画像12の分割圧縮要素に第1凹凸構造53を転写すると、
図16(a)に示す第1転写画像16が形成される。また、第2分割圧縮画像22の分割圧縮要素に第2凹凸構造54を転写すると、
図16(b)に示す第2転写画像26が形成される。第1転写画像16及び第2転写画像26を形成する。最後に、これら2つの転写画像の中心位置をX方向に互いにずらして交互に配置する。2つの画像のずらし幅は、第1実施形態及び第2実施形態と同様、2つの基画像の幅の平均値とする。これにより、潜像物63が形成される。
【0051】
図17(a)は、第3実施形態に係る潜像物63の一例を示す図である。この潜像物63では、第1基画像11を出現する第1潜像画像の中心位置と、第2基画像21を出現する第2潜像画像の中心位置をずらして合成することで形成される。
【0052】
図17(b)は、第3実施形態に係る別の潜像物64の一例を示す図である。この潜像物64は、第1転写画像16及び第2転写画像26を第2実施形態と同様にX方向にそれぞれ短冊化して合成することによって形成される。潜像物64は、第2実施形態の作製方法に基づくものであり、各潜像画像の潜像要素は交互に配置され、それぞれの回折格子は重ならない。
【0053】
図17(c)は、第3実施形態に係るさらに別の潜像物65の一例を示す図である。この潜像物65は、第1実施形態で説明した第1分断画像13の要素に第1凹凸構造53を転写するとともに第2分断画像23の要素に第2凹凸構造54を転写して合成することによって形成される。この潜像物65でも、各潜像画像の潜像要素は交互に配置され、それぞれの回折格子も重ならない。
【0054】
なお、
図17(a)~
図17(c)にそれぞれ示す潜像物63~潜像物65では、第1潜像画像に低密度の回折格子が転写され、第2潜像画像に高密度の回折格子が転写されている。しかし、第1潜像画像に高密度の回折格子が転写され、第2潜像画像の要素に低密度の回折格子が転写されていてもよい。
【0055】
図18(a)は、第1凹凸構造53における光の入射角度及び回折角度の一例を示す模式図である。
図18(b)は、第2凹凸構造54における光の入射角度及び回折角度の一例を示す模式図である。上述したように、第2凹凸構造54の第2格子線54aの密度は、第1凹凸構造53の第1格子線53aの密度よりも高い。このように1mm当たりの格子線の本数が増えると、光の入射角度φが同じであっても回折光の回折角度θが拡がる。その結果、回折光が見える角度範囲が変化する。仮に、1mm当たりの格子線数が500本である回折格子から生じる一次回折光の回折角度が約10度の角度範囲である場合、1mm当たりの格子線数が1,000本である回折格子の回折角度の範囲は約20度に変化する。さらに、1mm当たりの格子線数が1,500本である回折格子の回折角度の範囲は約40度に変化する。
【0056】
本実施形態では、上記現象を利用して、2つの潜像要素にそれぞれ転写する回折格子の密度を変化させている。そのため、潜像物63~潜像物65を垂直方向(Y方向)にフリップすることによって、第1基画像11から第2基画像21へのチェンジ効果を得ることが可能となる。また、潜像物63~潜像物65をX方向にフリップすることによって、各基画像の動画効果を得ることができる。
【0057】
図19は、2つの潜像要素の密度が同じ回折格子の模様を有する場合の潜像効果を説明する模式図である。
図19に示す潜像は、第1実施形態及び2実施形態で説明した潜像物61又は潜像物62のいずれかである。
【0058】
第1基画像11及び第2基画像21の要素に格子線の密度が同じ回折格子を転写した場合、潜像をX方向にフリップすると、入射光の角度変化に伴って、動画効果とチェンジ効果が並行して生じる。そのため、
図19に示すように、第1基画像11と第2基画像21が動く距離が、本来一つの基画像が動くことが可能な距離Lの2分の1に制限される。
【0059】
図20は、2つの潜像要素の密度が異なる回折格子の模様を有する場合の潜像効果を説明する模式図である。
図20に示す潜像は、第3実施形態で説明した潜像物63~潜像物65のいずれかである。
【0060】
第1潜像要素及び第2潜像要素に格子線の密度が異なる回折格子を転写した場合、潜像をX方向にフリップすると動画効果を得られる。一方、潜像を垂直方向にフリップするとチェンジ効果を得られる。このように、動画効果とチェンジ効果を独立的に生じさせることができると、
図20に示すように、第1基画像11と第2基画像21が動く距離が、本来一つの基画像が動くことが可能な距離Lとなる。
【0061】
したがって、本実施形態によれば、第1実施形態に比べて基画像の動く距離を長くすることができる。そのため、チェンジ効果と動画効果の両立を維持しつつ、特に動画効果を向上させることが可能となる。
【0062】
上述した各実施形態で説明した潜像物は、銀行券、パスポート、有価証券、身分証明書、カード、通行券等の印刷物に適しているが、本発明に係る潜像物の用途は、これらの印刷物に限定されない。本発明は、例えばOVD(Optical Variable
Device)等のホログラムや、エンボス加工を施した潜像形成体にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0063】
11:第1基画像
12:第1分割圧縮画像
13、15:第1分断画像
14、16:第1転写画像
21:第2基画像
22:第2分割圧縮画像
23、25:第2分断画像
24、26:第2転写画像
40:合成画像
50:回折格子
50a:格子線
51、53:第1凹凸構造
51a、53a:第1格子線
52、54:第2凹凸構造
52a、54a:第2格子線
61~65:潜像物
61a、62a:第1潜像要素
61b、62b:第2潜像要素
101、111、121:基画像
102:分割画像
103、113、123:潜像
112:圧縮画像
122:分割圧縮画像