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特開2024-141685透過潜像画像発現構造及び透過潜像画像形成体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141685
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】透過潜像画像発現構造及び透過潜像画像形成体
(51)【国際特許分類】
   B42D 25/333 20140101AFI20241003BHJP
   G07D 7/12 20160101ALI20241003BHJP
   B41M 3/14 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
B42D25/333
G07D7/12
B41M3/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053474
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】303017679
【氏名又は名称】独立行政法人 国立印刷局
(72)【発明者】
【氏名】堀内 直人
(72)【発明者】
【氏名】木村 健一
【テーマコード(参考)】
2C005
2H113
3E041
【Fターム(参考)】
2C005HA04
2C005HB10
2C005JB20
2H113AA06
2H113BA03
2H113BA09
2H113BB02
2H113BB07
2H113BB10
2H113BB22
2H113CA34
2H113CA37
2H113CA39
2H113CA44
3E041AA02
3E041BA14
3E041BB02
(57)【要約】
【課題】用紙の伸縮変動の影響を受けず、光量が不足している観察環境下においても潜像画像が明瞭に視認できる透過潜像画像発現構造及びそれを備えた透過潜像画像形成体を提供する。
【解決手段】基材の少なくとも一部に、基画像を分割及び圧縮のうち少なくとも一方によって形成した潜像要素が一定のピッチで複数配列されて成る潜像画像と、潜像要素に対応したレンズ要素又は光遮断要素が複数配置されたフィルタとを含む透過潜像画像発現構造であって、潜像要素は、基材を貫通して形成され、潜像画像とフィルタとを重ねて、透過光下で観察すると基画像が潜像として視認され、観察角度又はフィルタの位置を変化させると潜像が変化して視認されることを特徴とする透過潜像画像発現構造である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の少なくとも一部に、基画像を分割及び圧縮のうち少なくとも一方によって形成した潜像要素が一定のピッチで複数配列されて成る潜像画像と、前記潜像要素に対応したレンズ要素又は光遮断要素が複数配置されたフィルタとを含む透過潜像画像発現構造であって、
前記潜像要素は、前記基材を貫通して形成されて成り、
前記潜像画像と前記フィルタを重ねて、透過光下で観察すると前記基画像が潜像として視認され、観察角度又は前記フィルタの位置を変化させると前記潜像が変化して視認されることを特徴とする透過潜像画像発現構造。
【請求項2】
基材の少なくとも一部に、基画像を分割及び圧縮のうち少なくとも一方によって形成した潜像要素が一定のピッチで複数配列されて成る潜像画像と、前記潜像画像に重畳する位置における前記基材の表裏いずれか一方に、前記潜像要素に対応した複数のレンズ要素又は複数の光遮断要素を備えたフィルタとを備えた透過潜像画像形成体において、
前記潜像要素は、前記基材を貫通して形成されて成り、
透過光下で観察すると前記基画像が潜像として視認され、観察角度を変化させると前記潜像が変化して視認されることを特徴とする透過潜像画像形成体。
【請求項3】
前記基画像が複数存在する場合、前記基画像に対応するそれぞれの潜像画像のうち、少なくともひとつは前記基材を貫通して前記潜像要素が形成されて成り、他の潜像画像のうち、少なくともひとつはすかしによって前記潜像要素が形成されて成り、
前記潜像画像と前記フィルタを重ねて、透過光下で観察すると前記基画像が潜像として視認され、観察角度又は前記フィルタの位置を変化させると前記潜像が変化して視認されることを特徴とする請求項1に記載の透過潜像画像発現構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偽造防止効果を必要とする銀行券、パスポート、有価証券、身分証明書等の貴重印刷物の分野において、透過光下で傾けると、画像が変化して視認できる透過潜像画像発現構造及び透過潜像画像発現構造を応用して作製する透過潜像画像形成体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年のスキャナ、プリンタ、カラーコピー機等のデジタル機器の進展により、貴重印刷物の精巧な複製物を容易に作製することが可能となっている。そこで、前述したデジタル機器による複製や偽造を防止するため、プリンタやコピー機では再現不可能な様々な偽造防止技術が必要とされている。
【0003】
この偽造防止技術の一つとして、用紙の薄厚又は繊維の粗密によって模様を形成して透過光下で視認させる、いわゆるすかし技術が存在する。このようなすかしの加工技術の例としては、すかしの模様が凹凸形状としてロール部材に形成された円網やダンディロールを用いて、用紙に厚薄を施す技術が古くから行われている。円網やダンディロールによって形成された、相対的に紙の厚さが薄い部分を透過光下で観察すると、透過光量が高くなって明るく視認され、相対的に紙の厚さが厚い部分を透過光下で観察すると、透過光量が低くなって暗く視認される。
【0004】
また、用紙の薄厚又は繊維の粗密によるすかしの構成とは異なり、印刷技術によって、すかしを形成する技術もあり、具体的には、紙基材に浸透することで、光の透過率を上昇させるすかしインキを用いる技術や、紙基材に印刷して光の透過率を低下させる遮光インキを用いる技術がある。
【0005】
このすかし技術は、通常の反射光下での観察では、模様が視認できないことから、貴重印刷物の他のデザインに影響することなく、一定量以上の光さえ存在すれば、あらゆる環境下で模様を確認することで真偽判別が可能であり、知名度も高いことから、貴重印刷物の分野で広く用いられている。
【0006】
前述したすかし技術によって、反射光下では潜像が不可視であることで、貴重印刷物のデザインに影響することがないとともに、偽造の防止を図り、透過光下の観察角度の変化により画像が変化する透過潜像画像発現構造及びそれを備えた透過潜像画像形成体が開示されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1の透過潜像画像形成体は、基画像を分割及び圧縮の少なくとも一方により形成した潜像要素が一定のピッチで複数配列されて成る潜像画像と、潜像要素に対応した特殊な判別具を重ねることで透過潜像画像が視認され、判別具の位置を変化させると透過潜像画像が動的変化又はチェンジ効果の少なくとも一方によって視認されるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第6966747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の技術は、ダンディロールや円網抄紙機等のすき入れ技法によって動的効果を有する潜像要素を付与する場合、乾燥工程で用紙の伸縮変動が発生することによって、本来、判別具使用時にサンプリングされない潜像要素がサンプリングされることがある。その場合、視認される潜像画像が変形したり、ぼやけたりして視認される。また、すかしインキや遮光インキによって模様を形成する場合は、インキのにじみが発生することにより精細な潜像要素を付与することが難しい。さらに、前述のすき入れ及びすかしインキによる潜像要素から成る潜像画像を観察するための環境が悪く、具体的には光量が不足している状態では、潜像画像のコントラストが低下することによってチェンジ効果や動的変化の視認性が低下するという問題があった。
【0009】
本発明は、前述した課題の解決を目的とするものであり、透過光下の観察角度の変化により画像が変化する透過潜像画像発現構造及びそれを備えた透過潜像画像形成体において、用紙の伸縮変動の影響を受けず、光量が不足している観察環境下においても潜像画像が明瞭に視認できる透過潜像画像発現構造及びそれを備えた透過潜像画像形成体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、基材の少なくとも一部に、基画像を分割及び圧縮のうち少なくとも一方によって形成した潜像要素が一定のピッチで複数配列されて成る潜像画像と、潜像要素に対応したレンズ要素又は光遮断要素が複数配置されたフィルタとを含む透過潜像画像発現構造であって、潜像要素は、基材を貫通して形成され、潜像画像とフィルタを重ねて、透過光下で観察すると基画像が潜像として視認され、観察角度又はフィルタの位置を変化させると潜像が変化して視認されることを特徴とする透過潜像画像発現構造である。
【0011】
また、本発明は、基材の少なくとも一部に、基画像を分割及び圧縮のうち少なくとも一方によって形成した潜像要素が一定のピッチで複数配列されて成る潜像画像と、潜像画像に重畳する位置における基材の表裏いずれか一方に、潜像要素に対応した複数のレンズ要素又は複数の光遮断要素を備えたフィルタとを備えた透過潜像画像形成体において、潜像要素は、基材を貫通して形成され、透過光下で観察すると基画像が潜像として視認され、観察角度を変化させると潜像が変化して視認されることを特徴とする透過潜像画像形成体である。
【0012】
また、本発明は、基画像が複数存在する場合、基画像に対応するそれぞれの潜像画像のうち、少なくともひとつは基材を貫通して潜像要素が形成され、他の潜像画像のうち、少なくともひとつはすかしによって潜像要素が形成され、潜像画像とフィルタを重ねて、透過光下で観察すると基画像が潜像として視認され、観察角度又はフィルタの位置を変化させると潜像が変化して視認されることを特徴とする透過潜像画像発現構造である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の透過潜像画像発現構造及びそれを一体化して備える透過潜像画像形成体は、用紙の伸縮変動の影響を受けないため、視認される潜像画像の変形等を防ぐことが可能となる。また、透過光下でフィルタを重ねて観察される潜像が明瞭に視認可能で、透過光下で観察する角度又はフィルタの位置を変化させると、視認できる潜像も変化することから、認証性が高いという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の透過潜像画像発現構造の概要を示す図である。
図2】潜像画像の構成を示す図である。
図3】潜像画像が付与された基材の断面図である。
図4】潜像画像がドット状の貫通により形成された一例を示す図である。
図5】フィルタの一例であり、レンチキュラーレンズの構成を示す図である。
図6】レンズ要素と潜像要素の関係を示す図である。
図7】透過潜像画像発現構造を透過光下で観察(角度α1)した場合の効果を示す図である。
図8】透過潜像画像発現構造を透過光下で観察(角度α2)した場合の効果を示す図である。
図9】潜像画像が貫通とすかしの組合せにより形成された構成の一例を示す図である。
図10】潜像画像が貫通とすかしの組合せにより付与された基材の断面図である。
図11】潜像画像が貫通とすかしの組合せにより形成された透過潜像画像発現構造を透過光下で観察(角度α1)した場合の効果を示す図である。
図12】潜像画像が貫通とすかしの組合せにより形成された透過潜像画像発現構造を透過光下で観察(角度α2)した場合の効果を示す図である。
図13】別のフィルタの例であり、万線フィルタの構成を示す図である。
図14】光遮断要素と潜像要素の関係を示す図である。
図15】万線フィルタを用いて透過潜像画像発現構造を透過光下で観察した場合の効果を示す図である。
図16】二つ目の潜像画像と基画像について示す図である。
図17】二つ目の潜像画像の詳細について示す図である。
図18】二つ目の潜像画像の形成方法について示す図である。
図19】二つ目の潜像画像を備えた透過潜像画像発現構造を透過光下で観察した場合の効果を示す図である。
図20】三つ目の潜像画像の構成と基画像を示す図である。
図21】三つ目の潜像画像を備えた透過潜像画像発現構造を透過光下で観察した場合の効果を示す図である。
図22】本発明の透過潜像画像形成体の構成を示す図である。
図23】実施例1の潜像画像の構成を示す図である。
図24】実施例1のフィルタの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他のいろいろな実施の形態が含まれる。
【0016】
(第1の実施の形態)
図1に、本発明の透過潜像画像発現構造(1)を示す。透過潜像画像発現構造(1)は、図1(a)に示すように、潜像画像(10)とフィルタ(20)から成る。図1(b)に示すように、潜像画像(10)とフィルタ(20)を重ねて、透過光下で観察角度を変化させて観察すると、潜像が変化して視認できる。以下、第1の実施の形態の透過潜像画像発現構造(1)の詳細な構成について説明する。
【0017】
本発明において潜像画像(10)を形成するための基材(2)は、特に限定するものではなく、例えば、紙、ポリマー又は金属を基材(2)として用いることができる。
【0018】
基材(2)に紙を用いる場合、基材(2)を構成する繊維の種類は、特に限定されるものでなく、各種木材を原料とするKP、SP等の化学パルプ、GP、TMP、CTMP等の機械パルプ、古紙再生パルプを使用することができる。麦、アバカ、バガス、ケナフ、楮、みつまた、竹等の非木材も使用することができる。これらの木材又は非木材から得られる繊維を単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。有色の紙として、各色の顔料又は染料を配合して作製された紙を基材(2)として用いてもよい。なお、紙の材料として、一般的に用いられるサイズ剤、紙力増強剤等の薬品、添料は、必要に応じて配合することができる。
【0019】
また、本発明において、基材(2)に紙を用いる場合、紙の厚さ、坪量は特に限定されるものではなく、一般的な範囲で用いることができ、薄紙の例としては、坪量20~30g/m2、厚さ30~50μm程度であり、厚紙の例としては、坪量250~300g/m2、厚さ300~500μm程度であるが、これに限定されるものではない。なお、透過潜像画像形成体(1)の取り扱い性や耐久性の点から坪量80~100g/m2、厚さ90~120μm程度の紙を用いることが好ましい。
【0020】
基材(2)にポリマーを用いる場合、ポリマーの種類は特に限定されるものではなく、ポリエステル、ナイロン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメタクリル酸エステル等を使用することができる。
【0021】
基材(2)に金属を用いる場合、金属の種類は特に限定されるものではなく、鉄、アルミ、ステンレス、真鍮等を使用することができる。
【0022】
(潜像画像)
続いて、潜像画像(10)の構成について説明するが、本発明の潜像画像(10)は、三つの構成があり、順に説明する。
【0023】
(分断要素)
一つ目の潜像画像(10)は、透過光下でフィルタ(20)を重ねて観察角度を変化させると、複数の潜像の図柄が変化して視認できる効果を奏する。ここでは、構成を簡単に説明するため、観察角度を変化した際にアルファベット「A」の文字と、アルファベット「B」の文字で潜像が変化する例について説明する。
【0024】
図2(a)は、一つ目の潜像画像(10)の構成を示す図であり、潜像画像(10)は、図2(b)に示すアルファベット「A」の文字を現す第1の潜像要素群(10A)と、図2(c)に示すアルファベット「B」の文字を現す第2の潜像要素群(10B)によって構成される。また、第1の潜像要素群(10A)と第2の潜像要素群(10B)は、複数の潜像要素(11)によって構成される。
【0025】
図2(b)は、第1の潜像要素群(10A)の構成を示す図であり、第1の要素幅(W1)の潜像要素(11)が、第一の方向(S1)に、第1のピッチ(P1)で、万線状に配列されて成る。なお、第1の潜像要素群(10A)を構成する潜像要素(11)を、以降、第1の潜像要素(11A)として説明する。図2(b)に示すように、第1の潜像要素群(10A)を構成する各々の第1の潜像要素(11A)は、潜像として出現する基画像の「A」の文字(図示せず)を分割した各々の要素に対応しており、複数の第1の潜像要素(11A)が合わさることで「A」の文字を現す構成となっている。
【0026】
図2(c)は、第2の潜像要素群(10B)の構成を示す図であり、第2の要素幅(W2)の潜像要素(11)が、第一の方向(S1)に第1のピッチ(P1)で万線状に配列されて成る。なお、第2の潜像要素群(10B)を構成する潜像要素(11)を、以降、第2の潜像要素(11B)という。なお、以降の説明において、個別の潜像要素(11A、11B)を指すのではなく、潜像要素全般を指す場合には潜像要素(11)として説明する。図2(c)に示すように、第2の潜像要素群(10)を構成する各々の第2の潜像要素(11B)は、潜像として出現する基画像の「B」の文字(図示せず)を分割した各々の要素に対応しており、複数の第2の潜像要素(11B)が合わさることで「B」の文字を現す構成となっている。
【0027】
第1の潜像要素(11A)の第1の要素幅(W1)は全て同一であり、第2の潜像要素(11B)の第2の要素幅(W2)も全て同一である必要があるが、第1の潜像要素(11A)の第1の要素幅(W1)と第2の潜像要素(11B)の第2の要素幅(W2)の値は同一であってもよいし、異なっていてもよい。ここでいう同一とは、設計上同一の要素幅で作製し、製造上のあばれ等により要素幅が異なってしまう程度の誤差であれば本発明に含まれる。
【0028】
ここで、それぞれの第1の潜像要素(11A)と第2の潜像要素(11B)の位置関係について説明する。第1の潜像要素(11A)と第2の潜像要素(11B)は重なり合ってはならない。具体的に第1の潜像要素(11A)と第2の潜像要素(11B)は、第一の方向(S1)に位相がずれている必要がある。図2(a)は、その一例として、第1のピッチ(P1)の2分の1ずれて配置された状態を示している。仮に、第1の潜像要素(11A)と第2の潜像要素(11B)が重なり合って配置された場合には、透過光下の観察角度において、第1の潜像要素群(10A)が現す「A」の文字と、第2の潜像要素群(10B)が現す「B」の文字が重なり合った不明瞭な画像が出現するため、そのような構成は避けなければならない。
【0029】
(潜像要素の加工)
潜像要素(11)は、透過光下で明瞭に視認できる構成で基材(2)に形成される。具体的には、基材(2)の一部を貫通して潜像要素(11)が形成される。本発明の貫通とは、基材(2)における表面から裏面にかけて基材(2)が完全に除去された状態をいう。
【0030】
基材(2)に対して貫通による潜像要素(11)を形成する方法としては、予め作製しておいた潜像要素(11)のデータを基に、レーザ加工やドリル加工、パンチング加工等によって基材(2)の一部を貫通した構成とすればよい。図3は、紙、ポリマー又は金属の基材(2)にレーザ加工を施して、貫通によって基材(2)に潜像要素(11)が形成された状態を示す断面図であり、図2(a)に示す配置に対応して、第1の潜像要素(11A)と第2の潜像要素(11B)が交互に形成される。また、潜像画像(10)を構成する複数の潜像要素(11)は、基材(2)の一部の領域に形成してもよいし、基材(2)の全体に形成してもよい。
【0031】
また、図2に示す潜像画像(10)は、基材(2)における潜像要素(11)の全てが貫通されて潜像要素(11)が形成されているが、本発明の潜像要素(11)は、図4に示すように、基材(2)における潜像要素(11)が複数のドットによって貫通されることにより、潜像要素(11)の全てを貫通しない構成とすることも可能である。貫通された複数のドットによって潜像要素(11)を形成する場合は、基材(2)が除去される面積率を低減させることにより、基材(2)の耐久性を向上することが可能である。なお、以降の説明においては、潜像要素(11)の全てを貫通して潜像要素(11)を形成した形態で説明する。
【0032】
(フィルタ)
次に、本発明を構成する透過潜像画像発現構造(1)を実現する上で、潜像画像(10)に対応して重なることで潜像を出現させるために必要なフィルタ(20)について説明する。図5(a)にフィルタ(20)の平面図、図5(b)にその断面図を示す。図5に示すフィルタ(20)は、公知のレンチキュラーレンズの構成であり、図5(a)に示すように、第3の要素幅(W3)のレンズ要素(21)が、第1の方向(S1)に、潜像要素(11)と同じ第1のピッチ(P1)で万線状に配置されて成る。また、図5(b)に示すように、各レンズ要素(21)は、所定の高さ(H)を有している。このレンズ要素(21)の要素高さ(H)については、特に限定されるものではなく、一般的に市販されている公知のレンチキュラーレンズと同様の形状である。なお、図5に示すレンチキュラーレンズは、レンズ要素(21)が離れて配置された状態を示しているが、レンズ要素(21)同士が隣接して一体型となっている構成であってもよいし、基材(1)の上にレンズ要素(23)が直接付与されて一体型となっている構成でもよい。また、図5(a)では、図面上分かりやすいように、一部を色付けして図示しているが、本発明におけるレンチキュラーレンズは、透明又は半透明であるため、実際には、ほぼ視認できない色彩となっている。
【0033】
図6は、潜像要素(11)とフィルタ(20)の関係を示す図であり、一例として、図3に示す構成の潜像要素(11)にレンチキュラーレンズを重ねた状態を示している。レンチキュラーレンズを構成するレンズ要素(21)は、図6に示すように、交互に配置された第1の潜像要素(11A)と第2の潜像要素(11B)に、一つのレンズ要素(21)が重なる必要がある。このため、レンズ要素(21)の第3の要素幅(W3)は、第1の潜像要素(11A)の第1の要素幅(W1)と第2の潜像要素(11B)の第2の要素幅(W2)の和よりも大きい形状とする必要がある。なお、第1の潜像要素(11A)及び第2の潜像要素(11B)を配列する第1のピッチ(P1)と、レンズ要素(21)を配置する第1のピッチ(P1)は、同じであることから、図6に示すように、レンズ要素(21)に対する第1の潜像要素(11A)と第2の潜像要素(11B)の位置は、全てのレンズ要素(21)において同じ位置に配列される。
【0034】
なお、それぞれの要素幅(W1、W2、W3)については、前述の第1のピッチ(P1)よりも細ければ特に限定はない。また、フィルタ(20)については、前述のとおり、潜像を発現させることが出来ればよく、少なくとも複数の潜像要素(11)から成る潜像画像(10)を覆う範囲のフィルタ(20)であればよい。
【0035】
(効果)
本発明の透過潜像画像発現構造(1)は、図7に示すように、基材(2)に対して傾いた角度(α1)から透過光下で観察すると、第1の潜像要素(11A)と第2の潜像要素(11B)を透過する光のうち、レンズ要素(21)から成るレンチキュラーレンズを通して第2の潜像要素(11B)のみがサンプリングされることで、複数の第2の潜像要素(11B)から構成された「B」の文字が潜像として基材(2)より明るく視認できる。
【0036】
また、図8に示すように、基材(2)に対して傾いた別の角度(α2)から透過光下で観察すると、第1の潜像要素(11A)と第2の潜像要素(11B)を透過する光のうち、レンズ要素(21)から成るレンチキュラーレンズを通して第1の潜像要素(11A)のみがサンプリングされることで、複数の第1の潜像要素(11A)から構成された「A」の文字が、潜像として基材(2)より明るく視認できる。
【0037】
以上のように本発明の透過潜像画像発現構造(1)は、透過光下でフィルタを重ねて傾けて観察すると潜像が明瞭に視認でき、更に異なる角度で傾けると潜像が変化して視認できる効果がある。なお、潜像画像(10)とレンチキュラーレンズの位置をずらすことでも、レンズ要素(21)によってサンプリングされる潜像要素(11)が変わることから、視認できる潜像が変化する効果が得られる。
【0038】
ここでは、潜像画像(10)の構成を簡単に説明するため、「A」と「B」の文字が視認できる例について説明したが、別の図柄に対応した潜像要素(11)を第1の潜像要素(11A)と第2の潜像要素(11B)と重ならない配置で形成することで、更に多くの図柄の潜像を形成することもできる。また、潜像画像(10)の図柄は、文字に限定されるものではなく、記号、図形や任意の絵柄等であってもよい。
【0039】
また、図9及び図10に示すように、紙の基材(2)に対して貫通によって形成した第1の潜像要素(11A)と、すかしによって形成した第2の潜像要素(11B)を組み合わせた構成としてもよい。図9(a)は、図2(a)に示す潜像画像(10)の構成のうち、第1の潜像要素群(10A)を貫通、第2の潜像要素群(10B)をすかしによって形成し、順次交互に配列した例である。したがって、図9(b)に示す第1の潜像要素群(10A)は図2(b)と同一の構成となっており、図9(c)に示す第2の潜像要素群(10B)は図2(c)と異なり、すかしで形成されるため、第1の潜像要素群(10A)よりも淡い線で図示している。図9に示す潜像画像(10)のピッチや要素幅等の要素構成は、図2に示す潜像画像(10)と同一であるため、要素構成の詳細な説明は省略する。
【0040】
図10は、図9に示した潜像画像(10)が付与された紙の基材(2)に、図5に示したレンチキュラーレンズを重ねた状態を示している。紙を製造する工程で、円網やダンディロールによる公知のすき入れ技術を用いて、部分的に基材(2)より厚さが薄く形成された潜像要素(11B)と、基材(2)にレーザ加工を施して、貫通によって形成された潜像要素(11A)が形成された状態を示す図であり、図9(a)に示す配置に対応して、貫通から成る第1の潜像要素(11A)と、すかしから成る第2の潜像要素(11B)が順次交互に形成される。また、潜像画像(10)を構成する複数の潜像要素(11)は、基材(2)の一部の領域に形成してもよいし、基材(2)の全体に形成してもよい。なお、潜像要素(11)の要素幅(W1、W2)及び第1のピッチ(P1)と、レンズ要素の第3の要素幅(W3)及び第1のピッチ(P1)の関係については図6と同一であることから省略する。また、別の図柄に対応した潜像要素(11)をさらに備える場合も、いずれかの潜像要素(11)をすかしによって形成し、残りの潜像要素(11)を貫通によって形成することができる。例えば、第1の潜像要素(11A)をすかし、第2の潜像要素(11B)を貫通、別の図柄に対応した潜像要素(11)をすかしによって形成し、それぞれの潜像要素(11)を順次交互に配列すればよい。
【0041】
(効果)
図11に示す透過潜像画像発現構造(1)にフィルタを重ねて傾けて透過光下で観察すると、観察角度(α1)において、第1の潜像要素(11A)と第2の潜像要素(11B)を透過する光のうち、レンズ要素(21)から成るレンチキュラーレンズを通して第2の潜像要素(11B)のみがサンプリングされることで、複数の第2の潜像要素(11B)から構成された「B」の文字が潜像として基材(2)より明るく視認できる。
【0042】
また、図12に示すように、基材(2)に対して傾いた別の角度(α2)から透過光下で観察すると、第1の潜像要素(11A)と第2の潜像要素(11B)を透過する光のうち、レンズ要素(21)から成るレンチキュラーレンズを通して第1の潜像要素(11A)のみがサンプリングされることで、複数の第1の潜像要素(11A)から構成された「A」の文字が、潜像として基材(2)より明るく視認できる。なお、図11において視認された「B」の潜像と図12において視認された「A」の潜像を比較した場合、貫通によって形成された潜像要素(11A)から成る「A」の潜像の方が、透過光量が大きくなるためより明るく視認される。
【0043】
本発明において、レンチキュラーレンズを構成するレンズ要素(21)は、図5に示す半球状の構成の他に、フレネルレンズでもよく、この場合、透過潜像画像発現構造(1)全体の厚さが薄くなることから好ましい。
【0044】
(別のフィルタ)
図13は、レンチキュラーレンズとは別のフィルタ(20)の構成を示す図であり、万線フィルタの構成である。図13(a)は、万線フィルタの平面図、図13(b)は、その断面図である。この場合、図13(a)に示すように、第4の要素幅(W4)の光遮断要素(22)が、第1の方向(S1)に潜像要素(11)と同じ第1のピッチ(P1)で万線状に配置されて成る。万線フィルタは、一般的には、透明フィルム(23)に黒色のインキによって光遮断要素(22)が万線状に配置されたものがあり、その透明フィルム(23)を潜像画像(10)に重ねて観察に用いる。
【0045】
図14(a)は、潜像要素(11)と万線フィルタの関係を示す図であり、図3に示す構成の潜像要素(11)に万線フィルタを重ねた状態を示している。なお、図14では、光遮断要素(22)が配置される透明フィルム(23)は省略して図示している。図14(a)に示すように、潜像要素(11)と万線フィルタが重なるとき、光遮断要素(22)は、透過する光を遮断する。このとき、第1の潜像要素(11A)のみ光が透過することから、複数の第1の潜像要素(11A)から構成された「A」の文字を視認することができる。また、図14(a)に示す潜像要素(11)と万線フィルタの配置に対して、万線フィルタの位置をずらして、光遮断要素(22)が図14(b)に示す配置とした場合には、第2の潜像要素(11B)のみ光が透過することから、複数の第2の潜像要素(11B)から構成された「B」の文字を視認することができる。図14(a)及び図14(b)に示すように、潜像要素(11)と光遮断要素(22)が接している場合、基材(2)に対して傾けて観察する必要はなく、潜像要素(11)と万線フィルタの位置をずらすことで、視認できる潜像が変化する効果が得られる。
【0046】
図15は、図14に示すように、万線フィルタをずらすことなく、潜像要素(11)と万線フィルタの位置を固定して観察する状態を示す図である。この場合、図15に示すように、光遮断要素(22)の死角を利用して、基材(2)に対して傾いた方向から観察すると、第1の潜像要素(11A)と第2の潜像要素(11B)のうち、一方の潜像要素(11)のみがサンプリングされ、別の傾いた方向から観察すると他方の潜像要素(11)のみがサンプリングされることで、視認できる潜像が変化する効果が得られる。
【0047】
続いて、本発明の潜像画像(10)の二つ目の構成について説明する。なお、二つ目の潜像画像の符号は、説明の便宜上、「(10a)」として説明する。図16(a)は、インテグラルフォトグラフィ方式の立体画像の形成方法を利用して、透過光下の観察で基画像(12)が潜像として出現し、傾けて観察する角度により、出現した基画像(12)が動いて見える、動画効果を生じさせることが可能な潜像画像(10a)の形態である。ここでは、図16(b)に示す「森」の図柄を基画像(12)とした例について説明する。
【0048】
図16(a)の潜像画像(10a)は、基画像(12)の「森」の文字を基にして形成した潜像要素(11a-1、11a-2、・・・、11a-n(nは、2以上の自然数とする。))が、図5(a)に示すレンズ要素(21)の第1のピッチ(P1)以下の第5の要素幅(W5)、かつ、レンズ要素(21)の第1のピッチ(P1)と同じ第1のピッチ(P1)で規則的に第1の方向(S1)に複数配置されて成る。本実施の形態において、個別の潜像要素(11a-1、11a-2、・・・、11a-n)を指すのではなく、潜像要素全般を指す場合には潜像要素(11a)として説明する。なお、潜像要素(11a)の要素幅が、レンズ要素(21)の第1のピッチ(P1)を超えて形成されると、潜像要素(11a)と隣り合う潜像要素(11a)が重なり合う領域ができ、出現する潜像画像(10a)が複数重なり合った状態で出現してしまう場合があることから、潜像要素(11a)の第5の要素幅(W5)は、第1のピッチ(P1)以下に留めて設計する必要がある。
【0049】
潜像画像(10a)の具体的な構成について説明する。潜像画像(10a)は、基画像(12)である「森」の文字の上に、一定のピッチ(P)で蒲鉾レンズが連続して配置された縦スリットタイプのレンチキュラーシートを重ねた場合に、レンチキュラーレンズを通して観察される画像を、画像処理ソフトで擬似的に再現したものである。潜像画像(10a)は、複数の潜像要素(11a-1、11a-2、・・・、11a-n)から構成されており、個々の潜像要素(11a-1、11a-2、・・・、11a-n)は、基画像(12)である「森」の文字の一部分が特定の割合で左右に圧縮して形成されて成る。このように、本発明における潜像要素(11a-1、11a-2、・・・、11a-n)は、不連続な画像の合成で形成されているわけではなく、連続した画像によって形成されている。このことは、スムーズで動画的な視覚効果や、自然な立体的な視覚効果を実現させる上で欠かせない条件である。
【0050】
潜像画像(10a)を構成する潜像要素(11a-1、11a-2、・・・、11a-n)は、図面左から潜像要素(11a-1)、潜像要素(11a-2)、・・・、潜像要素(11a-n)とした場合、それぞれ第1のピッチ(P1)ずつ位相が第1の方向(S1)へずれて配置されている。潜像要素(11a-1、11a-2、・・・、11a-n)の第5の要素幅(W5)は、図5(a)に示したレンズ要素(21)のピッチ(P1)を超えない幅で構成されることから、潜像要素(11a)同士が重なり合うことはない。
【0051】
図17に、潜像画像(10a)を形成している潜像要素(11a-1、11a-2、・・・、11a-n)の構成を示す。複数の潜像要素(11a-1、11a-2、・・・、11a-n)のうち、潜像画像(10a)において、図面一番左側に位置する潜像要素(11a-1)、図面ほぼ中央に位置する潜像要素(11a-16)及び図面右側に位置する潜像要素(11a-28)を抜き出して説明する。図示はしていないが、潜像要素(11a-1)と潜像要素(11a-16)の間には、当然、潜像要素(11a-2)から潜像要素(11a-15)までが第1のピッチ(P1)で配置されて成り、同様に、潜像要素(11a-16)と潜像要素(11a-28)の間には、潜像要素(11a-17)から潜像要素(11a-27)までが第1のピッチ(P1)で配置されて成る。潜像要素(11a-1、11a-16、11a-28)は、基画像(12)である「森」の文字に対して、特定の大きさのフレーム(14-1、14-16、14-28)を当てはめることで基画像(12)を分割し、分割された基画像(12)をそれぞれのフレーム内画像(13-1、13-16、13-28)として抜き出し、このフレーム内画像(13-1、13-16、13-28)を第5の要素幅(W5)に圧縮して形成される。
【0052】
基画像(12)に当てはめるフレームの高さは、基画像(12)の高さ以上であればよく、図17に示すフレームの幅(W6)は、基画像(12)の幅以下である必要がある。よって、潜像画像(10a)の左端に位置する潜像要素(11a-1)には、基画像(12)の左端部分の画像のみが含まれ、潜像画像(10a)のほぼ中央に位置する潜像要素(11a-16)には、基画像(12)の中央部分の画像のみが含まれ、潜像画像(10a)の右側に位置する潜像要素(11a-28)には、基画像(12)の右部分の画像のみが含まれている。
【0053】
図18を用いて、具体的な潜像画像(10a)の作製手順の一例を説明する。まず、STEP1として、全てのフレーム位置の基準となる図面実線で示した最左端のフレーム(14-1)位置を決定する。基準となる最左端のフレーム(14-1)の位置は、フレーム(14-1)の右辺が基画像(12)の左端にわずかに重なった位置とする。ここでいう「わずかに重なった位置」とは、フレーム(14-1)と基画像(12)が少しでも重なっている状態の位置のことであり、まったく重ならない位置を除いた状態のことである。このフレーム(14-1)内に含まれる基画像(12)をフレーム内画像(13-1)として、このフレーム内画像(13-1)を第5の要素幅(W5)に圧縮し、潜像要素(11a-1)を形成して配置する。
【0054】
次に、STEP2として、図面点線で示した左端のフレーム(14-1)の位置から第1のピッチ(P1)だけ右側にずらして、図面実線で示したフレーム(14-2)の位置を決定する。フレーム(14-2)内に含まれる基画像(12)をフレーム内画像(13-2)とし、同様に第5の要素幅(W5)に圧縮して潜像要素(11a-2)を作製し、潜像要素(11a-1)から第1のピッチ(P1)だけ離して右側に配置する。
【0055】
次に、STEP3として、同様に、図面点線で示したフレーム(14-2)の位置から第1のピッチ(P1)だけ右側にずらして、図面実線で示したフレーム(14-3)の位置を決定する。フレーム(14-3)内に含まれる基画像(12)をフレーム内画像(13-3)とし、同様に第5の画線幅(W5)に圧縮して潜像要素(11a-3)を作製し、潜像要素(11a-2)から第1のピッチ(P1)だけ離して右側に配置する。この手順をSTEPnまで繰り返し、フレーム内に基画像(12)が含まれない位置まで達した時点で潜像要素(11a)の作製が終了する。つまり、フレーム(14-n)まで同様の手順を繰り返し、最後に潜像要素(11a-n)を配置して潜像画像(10a)が完成する。この潜像画像(10a)の作製には市販の画像処理ソフトを用いればよい。なお、上記の作製手順では、基準となるフレームの位置を基画像(12)の左端を基準点にして作製したが、これに限定されるわけではなく、基画像(12)の中心や右端を基準点にして作製しても何ら問題ない。
【0056】
このように、本実施の形態における潜像要素(11a)は、基画像(12)を基にして分割されたフレーム内画像を横方向、縦方向又は両方向に所定の縮率で圧縮した形状の異なる要素のことであり、それぞれの潜像要素(11a)は、全て同じ縮率で形成されている。
【0057】
なお、本発明における「基画像を基にして分割されたフレーム内画像」とは、基画像(12)の中心点と潜像画像(10a)の中心点を重ね合わせたと仮定した場合に、潜像画像(10a)を形成しているそれぞれの潜像要素(11a)における要素幅方向の中心に、特定の大きさのフレームにおける幅方向の中心を当てはめた場合に、そのフレーム内に収まっている基画像(12)のことである。したがって、基画像(12)を単純に複数に分割しているわけではないため、図18に示すように、フレーム内画像(13-2)には、隣接するフレーム内画像(13-1)の一部が含まれており、さらにフレーム内画像(13-3)には、隣接するフレーム内画像(13-2)の一部が含まれており、このように隣接するフレーム内画像には、それぞれ重複する基画像(12)の一部が存在することとなる。
【0058】
また、潜像要素(11a)を圧縮する方向は、縦方向、横方向又は斜め方向等の一方向に対して画像を圧縮するものと、縦方向と横方向の両方向(単純な縮小)の圧縮とが可能である。本実施の形態における「所定の縮率」とは、一つの潜像画像(10a)を形成している複数の潜像要素(11a)同士が、全て同じ縮率であるという意味である。ただし、縦方向と横方向の両方向に圧縮する場合は、縦方向の縮率と横方向の縮率を異ならせても良いが、この場合も一つの潜像画像(10a)を形成している複数の潜像要素(11a)同士は、すべて同じ縮率で形成される。なお、インテグラルフォトグラフィ方式の立体画像の形成方法の詳細については、例えば、特許第5200284号公報に記載されており、特許第5200284号公報に記載の要素、画素の構成を本発明の潜像要素(11a)の構成に応用することができる。
【0059】
(効果)
図16(a)に示した潜像画像(10a)を備えた透過潜像画像発現構造(1)は、図19(a)に示すように透過光下で観察すると、基画像(12)である「森」の文字が潜像として視認でき、さらに、図19(b)及び図19(c)に示すように、観察する角度を変化させていくと、潜像が一定の方向に動く様子を視認することができる。
【0060】
続いて、本発明の潜像画像(10)の三つ目の構成について説明する。なお、三つ目の潜像画像の符号は、説明の便宜上、「(10b)」として説明する。図20(a)は、モアレ拡大現象を利用して潜像として拡大モアレが出現し、傾けて観察する角度により、出現した拡大モアレが動いて見える動画効果が生じる潜像画像(10b)の形態である。ここでは、図20(b)に示す「J」の文字を基画像(12)とした例について説明する。
【0061】
モアレ拡大現象を利用する潜像画像(10b)は、図20(a)に示すように、第1の方向(S1)に基画像(12)を圧縮した第7の要素幅(W7)を有する潜像要素(11b)を、レンチキュラーレンズ又は万線フィルタの第1のピッチ(P1)と異なる第2のピッチ(P2)で複数配列した構成を有する。潜像要素(11b)を配列する第2のピッチ(P2)は、レンチキュラーレンズ又は万線フィルタの第1のピッチ(P1)より大きくてもよいし、小さくてもよいが、モアレ拡大現象が生じるために、一方のピッチの値が、他方のピッチの値で割り切れる数値であってはならない。なお、一方のピッチの値が、他方のピッチの値の80%から120%(100%を除く)程度の数値である場合、視認性が高く、動画効果も高い拡大モアレが出現することから好ましい。また、このモアレ拡大現象を利用した要素構成は、図20に記載の構成に限定されるものではなく、特許第4844894号公報、特許第5131789号公報等に記載のその他の構成を用いてもよい。
【0062】
(効果)
図20(a)に示した潜像画像(10b)を備えた透過潜像画像発現構造(1)は、図21(a)に示すように透過光下で観察すると、モアレ拡大現象により、「J」の文字の拡大モアレが潜像として視認でき、更に、図21(b)及び図21(c)に示すように、観察する角度を変化させていくと、潜像が一定の方向に動く様子を視認することができる。
【0063】
本発明の透過潜像画像発現構造(1)は、以上に説明した潜像画像(10)の構成により、透過光下で傾けて観察することで、様々な効果を生み出すことができる。
【0064】
(第2の実施の形態)
続いて、第2の実施形態として、第1の実施の形態で説明した透過潜像画像発現構造(1)を応用して作製する透過潜像画像形成体(100)について説明する。透過潜像画像形成体(100)は、前述の透過潜像画像発現構造(1)の潜像画像(10)とフィルタ(20)とを一体化した技術であって、前述の透過潜像画像発現構造(1)とは異なり、観察者は、フィルタ(20)を別に用意する必要がなく、可視光下で容易に潜像を視認することができるため、真偽判別性に優れた技術である。
【0065】
図22は、第2の実施の形態の透過潜像画像形成体(100)の概要を示す図であり、図22(a)は、透過潜像画像形成体(100)の平面図であり、図22(b)は、図22(a)のA-A’線における断面図である。図22(a)及び図22(b)に示すように、透過潜像画像形成体(100)は、基材(2)の一部に、潜像画像(10)とフィルタ(20)を備える。図22の例では、基材(2)の一部に、潜像画像(10)とフィルタ(20)を備えた構成であるが、基材(2)全体に潜像画像(10)とフィルタ(20)を形成してもよい。また、図22の例では、額面(101)、記番号(102)が印刷された商品券の例を示しているが、本発明の透過潜像画像形成体(100)は、銀行券、諸証券等の形態であってもよい。
【0066】
基材(2)については、前述のように特に限定されず、紙、ポリマー又は金属を基材(2)として用いることができる。
【0067】
(潜像画像)
第2の実施の形態において、潜像画像(10)は、図2図16及び図20に示す構成のいずれの構成であってもよい。ここでは一例として、図16に示す構成の潜像画像(10a)が、基材(2)に形成された構成について説明する。なお、潜像要素(11a)を形成する方法については、前述のとおりであり、紙、ポリマー又は金属の基材(2)にレーザ加工、ドリル加工、パンチング加工を施すことによって貫通から成る潜像要素(11a)を形成することができる。
【0068】
潜像要素(11a)は、図16(a)に示すインテグラルフォトグラフィ方式の立体画像の形成方法を利用した構成であり、基画像(12)の一例として、図16(b)に示す「森」の図柄を一定の幅で分割して取り出して、取り出した画像を第1の方向(S1)に圧縮して第5の要素幅(W5)とした潜像要素(11a)を、第1のピッチ(P1)で複数配列した構成である。
【0069】
(フィルタ)
第2の実施の形態において、フィルタ(20)は、レンチキュラーレンズの構成でもよいし、万線フィルタの構成でもよく、ここでは、レンチキュラーレンズの例で説明する。レンチキュラーレンズの構成は前述のとおりであり、潜像要素(11a)と同じ第1のピッチ(P1)で、レンズ要素(21)を複数配置した構成である。また、レンズ要素(21)の第3の要素幅(W3)は、潜像要素(11a)の第5の要素幅(W5)より大きく、第1のピッチ(P1)より小さければ特に限定はない。また、フィルタ(20)は、潜像を発現させることが出来ればよく、少なくとも潜像画像(10a)を覆う範囲のフィルタ(20)であればよい。
【0070】
基材(2)に、レンチキュラーレンズから成るフィルタ(20)を形成する方法としては、市販されているフィルタから、潜像要素(11a)の第1のピッチ(P1)に対応したレンチキュラーレンズを適宜選択して用い、接着剤により基材(2)に固定すればよい。なお、予め選択したレンチキュラーレンズに対応した第1のピッチ(P1)の潜像要素(11a)を基材(2)に形成してもよい。また、スクリーン印刷や凹版印刷、UVインクジェットプリンタのような盛りのある印刷ができる印刷装置によって、透明な樹脂を印刷材料として用いて印刷し、レンズ要素(21)を形成してもよい。この際、基材(2)の表面を平滑にするための塗工層をフィルタ(20)の一部として設けてもよい。また、基材(2)に所定の厚さの樹脂を塗布した後、エンボス成型により、レンズ要素(21)を形成してもよい。なお、レンズ要素(21)を形成するための透明な樹脂としては、ポリエステルアクリレート系、エポキシアクリレート系、ウレタンアクリレート系、ポリオールアクリレート等の紫外線硬化型樹脂がある。
【0071】
ここでは、レンチキュラーレンズの構成のフィルタ(20)が基材(2)に形成される例について説明したが、万線フィルタの構成のフィルタ(20)を形成する場合には、市販されているフィルタから、潜像要素(11a)の第1のピッチ(P1)に対応した万線フィルタを適宜選択して用い、接着剤により基材(2)に固定すればよい。
【0072】
(効果)
以上の構成で成る第2の実施の形態の透過潜像画像形成体(100)は、図19(a)に示すように、透過潜像画像形成体(100)を透過光下で観察すると、基画像(12)である「森」の文字が潜像として視認でき、更に、図19(b)及び図19(c)に示すように、観察する角度を変化させていくと、潜像が一定の方向に動く様子を視認することができる。前述のように、第2の実施の形態の透過潜像画像形成体(100)は、フィルタ(20)を別に用意する必要がなく、透過光下で容易に潜像を視認することができる。
【0073】
(実施例1)
実施例1は、第1の実施の形態で説明した透過潜像画像発現構造(1)である。実施例1の透過潜像画像発現構造(1)について図面を用いて説明する。
【0074】
図23(a)は、実施例1の潜像画像(10)の構成を示す図であり、潜像画像(10)は、図23(b)に示す「鳳凰」の図柄を構成する第1の潜像要素群(10A)及び図23(c)に示す「桜」の図柄を構成する第2の潜像要素群(10B)を含んで成る。
【0075】
第1の潜像要素群(10A)を構成する第1の潜像要素(11A)及び第2の潜像要素群(10B)を構成する第2の潜像要素(11B)は、いずれも要素幅を172μmとし、ピッチを635μmとして、第1の方向(S1)に複数形成した。なお、第1の潜像要素(1A)と第2の潜像要素(11B)は、第1の方向(S1)に250μmずらした配置とした。このような要素構成の潜像要素(11)を、炭酸ガスレーザマーカー(キーエンス製、型番:ML-Z9610T)による公知のレーザ加工により、紙から成る基材(2)を貫通して形成した。基材(2)の厚さは、100μmのものを使用した。
【0076】
判別具として用いるフィルタ(20)として、図24に示すレンチキュラーレンズを用い、レンチキュラーレンズは線数40Lpi、高さ(H)が830μm、レンズ部の高さ(h)が162μm、視野角(β)が49°のものを用いた。
【0077】
実施例1の透過潜像画像発現構造(1)の効果について説明する。基材(2)に形成された潜像画像(10)にフィルタ(20)としてレンチキュラーレンズを重ね、透過光下でレンズ要素(21)に対して一方の側から観察すると、「鳳凰」の図柄が明るく視認され、レンズ要素(21)に対して他方の側から観察すると「桜」の図柄が明るく視認された。以上のように、潜像画像(10)にフィルタ(20)を重ね、観察角度を変更することで視認される画像がチェンジする効果を有することが確認できた。
【0078】
(実施例2)
実施例2は、第2の実施の形態で説明した透過潜像画像形成体(100)である。実施例2の透過潜像画像形成体(100)において、基材(2)には、白色の上質紙(しらおい 日本製紙株式会社製)を用いた。
【0079】
実施例2の潜像画像(10)は、図16に示す構成とし、図16(b)に示す「森」の図柄の基画像(12)を一定の幅で分割して取り出して、取り出した画像を第一の方向(S1)に圧縮して第5の要素幅(W5)とした潜像要素(11a)を、第1のピッチ(P1)で複数配列した構成である。なお、潜像要素(11a)の第5の要素幅(W5)を172μmとし、第1のピッチ(P1)を635μmで複数配置した。また、潜像要素(11a)は、炭酸ガスレーザマーカー(キーエンス製、型番:ML-Z9610T)による公知のレーザ加工により、基材(2)を貫通して形成した。
【0080】
判別具として用いるフィルタ(20)は、実施例1と同じ構成のレンチキュラーレンズであり、基材(2)に潜像画像(10)を形成した面に、接着剤を用いてレンチキュラーレンズを貼り付けることで、透過潜像画像形成体(100)を作製した。
【0081】
実施例2の透過潜像画像形成体(100)を透過光下で観察すると、基画像(12)である「森」の文字が明るく視認でき、更に、観察する角度を変化させていくと、潜像が一定の方向に動く様子を視認することができた。
【符号の説明】
【0082】
1 透過潜像画像発現構造
2 基材
10、10a、10b 潜像画像
10A 第1の潜像要素群
10B 第2の潜像要素群
11、11a、11a-1、11a-2、11a-16、11a-28、11a-n、11b 潜像要素
11A 第1の潜像要素
11B 第2の潜像要素
12 基画像
13-1、13-2、13-3、13-16、13-28、13-n フレーム内画像
14-1、14-2、14-3、14-16、14-28、14-n フレーム
20 フィルタ
21 レンズ要素
22 光遮断要素
100 透過潜像画像形成体
101 額面
102 記番号
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