(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141686
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】真偽判別印刷物
(51)【国際特許分類】
B42D 25/333 20140101AFI20241003BHJP
B42D 25/382 20140101ALI20241003BHJP
B42D 25/387 20140101ALI20241003BHJP
D21F 1/44 20060101ALI20241003BHJP
D21H 21/40 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B42D25/333
B42D25/382
B42D25/387
D21F1/44
D21H21/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053475
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】303017679
【氏名又は名称】独立行政法人 国立印刷局
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 直子
(72)【発明者】
【氏名】飛田 秀彦
【テーマコード(参考)】
2C005
4L055
【Fターム(参考)】
2C005HA02
2C005JB12
2C005JB13
2C005JB20
4L055CE62
4L055EA34
4L055FA30
4L055GA45
(57)【要約】
【課題】すき入れと機械読取材料を同じ位置に付与した真偽判別印刷物において、すき入れの透過特性と特定波長の反射特性のみを真似ることによる偽造を防止し、偽造防止効果や変造防止効果をさらに向上させた真偽判別印刷物を提供する。
【解決手段】紙基材の少なくとも一部の領域に、紙基材よりも光透過特性の高いすき入れと、特定波長吸収材料を含む第1のインキ組成物によって形成された第1の情報パターンと、を備え、特定波長吸収材料は、紫外波長域又は赤外波長域の少なくとも一方に吸収特性を有し、第1の情報パターンは、紙基材の表裏の少なくとも一方の面における、すき入れの少なくとも一部に重畳されて成り、すき入れと第1の情報パターンが重畳した位置における、紫外波長域又は赤外波長域の少なくとも一方の光透過特性が、紙基材の光透過特性と略同一であることを特徴とする真偽判別印刷物。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙基材の少なくとも一部の領域に、前記紙基材よりも光透過特性の高いすき入れと、
特定波長吸収材料を含む第1のインキ組成物によって形成された第1の情報パターンとを備え、
前記特定波長吸収材料は、紫外波長域又は赤外波長域の少なくとも一方に吸収特性を有し、
前記第1の情報パターンは、前記紙基材の表裏の少なくとも一方の面における、前記すき入れの少なくとも一部に重畳されて成り、
前記すき入れと前記第1の情報パターンが重畳した位置における、前記紫外波長域又は前記赤外波長域の少なくとも一方の光透過特性が、前記紙基材の光透過特性と略同一であることを特徴とする真偽判別印刷物。
【請求項2】
前記第1の情報パターンが、可視光下で透明又は前記紙基材と略等色で形成されて成り、
前記第1のインキ組成物が前記紫外波長域に吸収特性を有する場合、前記特定波長吸収材料は前記紙基材との屈折率差(Δn)が0.2~0.7であり、前記第1のインキ組成物が前記赤外波長域に吸収特性を有する場合、前記特定波長吸収材料はセシウムドープ酸化タングステンであることを特徴とする請求項1に記載の真偽判別印刷物。
【請求項3】
前記第1の情報パターンが前記紙基材と異なる色で形成されて成り、
前記第1の情報パターンと略等色の第2の情報パターンをさらに備え、
前記第2の情報パターンは、前記紫外波長域又は前記赤外波長域に透過特性を有する特定波長透過材料を含む第2のインキ組成物によって形成されて成り、
前記第1の情報パターンと前記第2の情報パターンは隣接又は近接されて成り、
前記第2の情報パターンは、前記紙基材の表裏の少なくとも一方の面における、前記すき入れの少なくとも一部に重畳されて成ることを特徴とする請求項1に記載の真偽判別印刷物。
【請求項4】
前記第1のインキ組成物が前記紫外波長域に吸収特性を有する場合、UVインキ組成物であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の真偽判別印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、すき入れを有するとともに、特定波長の光を吸収する材料を含むインキ組成物を付与した真偽判別印刷物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
銀行券、パスポート、印紙、切手、有価証券、身分証明書、各種チケット、セキュリティラベル等をはじめとする真偽判別印刷物は、高度な偽造防止技術や真偽判別技術を付与することが求められている。これらの偽造防止技術を判別する方法としては、特定の波長領域に吸収特性を有するインキ塗膜を付与し、目視又は機械により判別して、偽造品と真正品を見極める真偽判別方法が広く用いられている。
【0003】
特定の波長域に吸収特性を有するインキ塗膜を、目視又は機械により判別して、偽造品と真正品を見極める真偽判別に係る技術としては、例えば、安価で入手しやすく少量で赤外吸収効果の高い材料であるカーボンブラックなどの黒色顔料を含んだ黒色インキを用いて真偽判別印刷物に情報パターンを形成することが一般的に知られている。この情報パターンが保持している情報は、赤外光を照射し、赤外反射光を測定することにより読み取られる。
【0004】
しかしながら、カーボンブラックを用いた赤外吸収インキにより印刷された情報パターンは、可視光下においても光吸収特性を有することから、目視においてもその存在が解読されやすい。そのため、偽造や変造を有効に防止する手段としては十分ではなかった。
【0005】
そこで、可視光により容易に情報が読み取られることを防止するため、用紙の所定の箇所において用紙の表面から所望される紙層の内部に至るまでの領域に機械読取材料を付与すると同時に、用紙の所定の箇所において紙層構造を部分的に変化させた技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の技術は、すき入れと機械読取材料が同じ位置に付与されていることと、可視光の透過特性と、特定波長の反射特性を真正な値と照合して真偽判別を行うものであるが、すき入れと機械読取材料を同じ位置に形成し、すき入れの透過特性と特定波長の反射特性のみを真似ることで偽造される恐れがあった。
【0008】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、すき入れと機械読取材料を同じ位置に付与した真偽判別印刷物において、すき入れの透過特性と特定波長の反射特性のみを真似ることによる偽造を防止し、偽造防止効果や変造防止効果を更に向上させた真偽判別印刷物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、紙基材の少なくとも一部の領域に、紙基材よりも光透過特性の高いすき入れと、特定波長吸収材料を含む第1のインキ組成物によって形成された第1の情報パターンと、を備え、特定波長吸収材料は、紫外波長域又は赤外波長域の少なくとも一方に吸収特性を有し、第1の情報パターンは、紙基材の表裏の少なくとも一方の面における、すき入れの少なくとも一部に重畳されて成り、すき入れと第1の情報パターンが重畳した位置における、紫外波長域又は赤外波長域の少なくとも一方の光透過特性が、紙基材の光透過特性と略同一であることを特徴とする真偽判別印刷物である。
【0010】
また、本発明は、第1の情報パターンが、可視光下で透明又は紙基材と略等色で形成されて成り、第1のインキ組成物が紫外波長域に吸収特性を有する場合、特定波長吸収材料は紙基材との屈折率差(Δn)が0.2~0.7であり、第1のインキ組成物が赤外波長域に吸収特性を有する場合、特定波長吸収材料はセシウムドープ酸化タングステンであることを特徴とする真偽判別印刷物である。
【0011】
また、本発明は、第1の情報パターンが紙基材と異なる色で形成されて成り、第1の情報パターンと略等色の第2の情報パターンをさらに備え、第2の情報パターンは、紫外波長域又は赤外波長域に透過特性を有する特定波長透過材料を含む第2のインキ組成物によって形成されて成り、第1の情報パターンと第2の情報パターンは隣接又は近接されて成り、第2の情報パターンは、紙基材の表裏の少なくとも一方の面における、すき入れの少なくとも一部に重畳されて成ることを特徴とする真偽判別印刷物である。
【0012】
また、本発明は、第1のインキ組成物が紫外波長域に吸収特性を有する場合、UVインキ組成物であることを特徴とする真偽判別印刷物である。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、特定波長の光を吸収する特定波長吸収材料を含むインキ組成物を付与したすき入れ部の特定波長域における透過特性が、基材の特定波長の透過特性と一致することにより、偽造抵抗力を更に向上させた真偽判別印刷物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の真偽判別印刷物について示す図である。
【
図2】本発明の真偽判別印刷物に係る別の形態について示す図である。
【
図3】本発明の真偽判別印刷物に係る別の形態について示す図である。
【
図4】本発明の真偽判別印刷物に係る別の形態について示す図である。
【
図5】本発明の真偽判別印刷物に係る読取装置の例を示す図である。
【
図6】本発明の真偽判別印刷物に係る真偽判別方法の例を示す図である。
【
図7】本発明の真偽判別印刷物に係る実施例を示す図である。
【
図8】本発明の真偽判別印刷物に係る実施例を示す図である。
【
図9】本発明の真偽判別印刷物に係る別の実施例を示す図である。
【
図10】本発明の真偽判別印刷物に係る別の実施例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他の様々な実施の形態が含まれる。
【0016】
(実施の形態)
本発明の真偽判別印刷物(1)は、
図1に示すとおり、基材(2)の少なくとも一部に、公知の方法で形成されたすき入れ(3)があり、このすき入れ(3)の少なくとも一部に、特定波長吸収材料で構成されるインキ組成物により情報パターン(4)が形成されている。情報パターン(4)の詳細な形態については後述する。なお、特定波長吸収インキ組成物の「吸収」の意味は、吸収や散乱により入射した光が透過しにくいことをいう。また、本発明におけるすき入れ(3)は、紙を製造する工程で、円網やダンディロールによる公知のすき入れ技術を用いて、部分的に厚さが薄い凹形状にすることで、基材(2)よりも光透過特性の高いすき入れ(3)が形成される。なお、基材(2)に付与されたものを「すき入れ」、透かしたときに観察できるものを「すかし」として使い分けて説明する。
【0017】
本発明における基材(2)は、光透過特性を有する紙基材を用いる。繊維の種類は特に限定されるものではなく、各種木材を原料とするKP、SP等の化学パルプ、GP、TMP、CTMP等の機械パルプ、古紙再生パルプを使用することができる。また、麦、アバカ、バガス、ケナフ、楮、みつまた、竹等の非木材も使用することができる。これらの木材又は非木材から得られる繊維を単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。なお、紙の材料として、一般的に用いられるサイズ剤、紙力増強剤等の薬品、添料は、必要に応じて配合することができる。基材(2)の色に特に制限はなく、白、白色を基調としたクリーム色、薄青色、薄黄色等のごく薄い着色や、赤色、青色、黄色等の有色でもよい。本実施の形態では、白色の基材(2)を用いた例として説明する。
【0018】
本発明の真偽判別印刷物(1)は、すき入れ本来の目的である、光に透かして観察したときに「すかし」が見える必要があり、また、昼光や屋内光源下において反射状態で観察したとき(これを「通常観察状態」という。)に、すかしが見えにくいことが好ましい。そのため、すき入れの少なくとも一部に付与する特定波長吸収インキ組成物で形成される情報パターン(4)は、可視光を透過し、かつ、通常観察状態では周辺の基材と同化し、見えにくい状態であることが好ましい。そのために、特定波長の光を吸収するインキ組成物は、透明又は隠ぺい力が低い淡色で基材(2)と等色であってもよい。
【0019】
(特定波長吸収インキ組成物)
次に、本発明における特定波長吸収インキ組成物について説明する。本発明の特定波長吸収インキ組成物は、少なくとも特定波長を吸収又は散乱する特定波長吸収材料とインキバインダーとを含む。特定波長吸収インキ組成物は、特定波長を吸収しても散乱してもよく、また、これらの組合せでもよく、特定波長を透過しにくければよい。特定波長は、「すかし」の視認性を妨げない波長域として、紫外光や赤外光であることが好ましいが、可視光域の透過光量を大きく低下させなければ、可視光域の一部であってもよい。
【0020】
(紫外線吸収材料)
特定波長の光を吸収する特定波長吸収材料のうち、400nm以下の紫外線を吸収する特定波長吸収材料は、無機材料では、二酸化チタン、酸化亜鉛、導電性酸化亜鉛、酸化タングステン、チタン酸ストロンチウム、酸化セリウム、窒化ガリウム、硫化亜鉛カドミウム、硫化カルシウム、バナジン酸イットリウム、硫化亜鉛系蛍光体、酸化鉄等がある。有機材料では、例えば、フェニルサリシレート、p-tert-ブチルフェニルサリシレート、p-オクチルフェニルサリシレート、等のサリチル酸系紫外線吸収剤、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-オクトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-ドデシルオキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-5-スルホベンゾフェノン等のベンゾフェノン系紫外線吸収剤、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-tert-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’-tert-ブチル-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジtert-アミルフェニル)ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、2-エチルヘキシル-2-シアノ-3,3’-ジフェニルアクリレート、エチル-2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリレート等のシアノアクリレート系紫外線吸収剤、2,4,6-トリ( [1,1’-ビフェニル]-4-イル)-1,3,5-トリアジン等のトリアジン化合物系紫外線吸収剤等が挙げられる。また、その他の紫外線吸収剤として、植物性ワックス、動物性ワックス、植物性オイル及び動物性オイルなどを使用することができる。
【0021】
(赤外線吸収材料)
特定波長の光を吸収する特定波長吸収材料のうち、700nm以上の赤外線を吸収する特定波長吸収材料として、セシウムドープ酸化タングステン、導電性酸化亜鉛、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、酸化インジウムスズ(ITO)、ジルコニウムカーバイト、窒化ジルコニウム、三酸化タングステン、有機材料では、シアニン化合物、アゾ化合物、フタロシアニン化合物などを用いることができるが、少量で赤外線吸収能力が高く可視光透過特性の高いセシウムドープ酸化タングステンが、すき入れの可視光透過特性を大きく低下させることがないことから好ましい。
【0022】
(特定波長吸収材料)
特定波長の光を吸収する特定波長吸収材料は、前述したとおり、透過観察におけるすかしの効果を妨げず、かつ、通常観察状態で見えにくくするため、可視光域で無色透明か基材と等色であることが好ましい。ただし、敢えて有色すき入れとする場合は、通常観察状態で任意の有色を妨げずすかしが見えにくい状態を保てる色相とすることで足りる。
【0023】
(特定波長散乱材料)
本発明の特定波長吸収インキ組成物において、特に好ましい特定波長吸収材料の特徴について述べる。すき入れ本来の特徴である「すかした時に見える」機能を妨げないために、特定波長域、例えば紫外線や赤外線は吸収するが、可視光透過特性を保つ必要がある。例えば、屈折率の大きい無機材料の場合、入れすぎると可視域で白く見えてしまい、偽造防止要素が付与されていることが分かってしまうとともに、可視光透過検知における機械読取性の妨げになる。一方、無機材料以外の、紫外線吸収特性がある植物性ワックス等は、紙のすき入れ部に付与しても、紙との屈折率差が小さいことから、繊維の隙間を埋めることで透過特性が増し、付与量が少ない場合は、材料そのものの吸収特性と相殺し吸収効果が低くなる。よって、屈折率差(Δn)が大きい特定波長吸収材料によって、吸収及び散乱により付与部の光透過特性を低下させるのが好ましい。
【0024】
基材が紙であるため、特定波長吸収材料の屈折率は1.8以上が好ましく、1.9~2.3がより好ましい。この範囲の特定波長吸収材料としては、二酸化チタン、酸化亜鉛、導電性酸化亜鉛、酸化タングステン、バナジン酸イットリウム、硫化亜鉛系蛍光体等が挙げられる。これより屈折率が低すぎると、紙との屈折率差が小さく散乱が少なくなり透過しやすくなる。また、これより高いと隠ぺい力が高くなりすぎることから、可視光で不透明になるためすかしの視認性が低下するとともに、偽造防止要素を付与していることが分かってしまう。なお、紙の屈折率を1.6としたとき、紙より小さい屈折率で屈折率差Δnが0.2以上となると屈折率が1.4以下になり、そのような特定波長吸収材料があまり存在しないことから、屈折率が1.6より上の場合のみ規定した。したがって、特定波長吸収材料は、紙との屈折率差が0.2~0.7の場合に、特定波長吸収材料の屈折率が1.8~2.3となる。また、屈折率分散により、波長により屈折率が変化するが、本願記載の屈折率は公開されている代表値で示しており、例えば632.8nmにおける値で示している。
【0025】
前述した特定波長吸収材料は、単独で使用してもよいし、複数種類の特定波長吸収材料を適宜混合して使用してもよい。
【0026】
(インキバインダー)
本発明の特定波長吸収インキ組成物に使用するインキの乾燥方式は、蒸発乾燥、浸透乾燥、熱乾燥、酸化重合、UVやEBなどの放射線乾燥などいかなる乾燥方式でもよい。ワニスとしては、水溶性樹脂、エマルション、酸化重合ワニス、紫外線や電子線などによる放射線乾燥ワニスを使用できる。バインダーとしては、特に限定されるものではない。例えば、アマニ油、オリーブ油、ヒマシ油、ヒマワリ油等の油脂類、鯨ロウ、ミツロウ、ラノリン、カルナウバワックス、キャンデリアワックス、モンタンワックス等の天然ワックス類、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、酸化ワックス、エステルワックス、低分子量ポリエチレン等の合成ワックス類、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、フロメン酸、ヘベニン酸等の高級脂肪酸類、ステアリルアルコール、ヘベニルアルコール等の高級アルコール類、グルコース、エチレングルコース、アミロース等の炭化水素類、脂肪酸エステル等のエステル類、ステアリンアミド、オレインアミド等のアミド類、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、ポリビニル系樹脂、石油系樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体樹脂、フェノール系樹脂、スチレン系樹脂、ロジン変性樹脂、テルビン樹脂等の樹脂類、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム等のエラストマー類、アクリレート、メタクリレートのオリゴマー及びモノマーからなる紫外線硬化樹脂、水添石油樹脂、シリコーン、流動パラフィン、フッ素樹脂等のタッキファイヤー類等を単独又は含有された物から成るバインダーを使用できる。
【0027】
(好ましいインキバインダー)
この中で、放射線乾燥ワニスは、特に、紫外域の光吸収があることから、特定波長吸収インキ組成物が、紫外線を吸収するUVインキ組成物であることがより好ましい。特定波長を紫外線とする場合、各種光重合開始剤との組合せにより、紫外域の中でも吸収する波長域が異なることから、乾燥性と特定波長吸収特性の兼ね合いを考慮し、樹脂と重合開始剤を適宜組み合わせて使用すればよい。
【0028】
(光重合開始剤)
紫外線硬化型インキに使用する光重合開始剤は、紫外域に吸収を持つことから、乾燥後のインキ皮膜も紫外線吸収する。この中で、ベンジルケタール、α-ヒドロキシアセトフェノン系の光重合開始剤は、320nm以上の紫外線長波の吸収が大きくないが、α-アミノアセトフェノン系の中には320nm以上の長波紫外線を吸収するものがあり、アシルフォスフィンオキサイド、オキシムエステルも長波紫外線を吸収する。インキの乾燥性に支障がない場合は、長波紫外線吸収の光重合開始剤を使用することで、インキの硬化と、硬化後のインキ皮膜の紫外線吸収特性付与の両方の働きができて効率的である。
【0029】
(その他成分)
本発明の特定波長吸収インキ組成物は、粘度調整や印刷適性付与等を目的として、水や溶剤を含んでいてもよい。溶剤としては、例えば、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、炭化水素系溶剤等を用いることができる。また、必要に応じて、特定波長を吸収する特定波長吸収材料以外の顔料、樹脂や光重合性化合物、乾燥剤等の塗膜形成成分、ゲル化剤、界面活性剤、酸化防止剤、沈降防止剤、消泡剤、ブロッキング防止剤、磁性材料、発光性材料、導電性材料等を添加して使用してもよい。本発明においては、これらのその他成分のうち1種類のみを単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
(配合割合)
本発明の特定波長吸収インキ組成物において、特定波長の光を吸収する特定波長吸収材料やその他の成分の配合割合は、特定波長吸収材料の吸収能力、付与方法、付与される膜厚、基材の透過特性、読取装置の特性等によって異なり、すき入れ(3)に付与したときにすき入れの入っていない基材(2)の地合と特定波長の吸収濃度(透過光量)が同一になるよう調整すればよい。特定波長吸収インキ組成物の全固形分を100質量%とした場合、特定波長吸収材料は、0.1質量%以上40質量%以下であることが好ましい。特定波長吸収材料が0.1質量%より少ない場合、十分な特定波長吸収率が得られないため、基材(2)の地合と特定波長吸収率を合わせることが難しくなることから好ましくない。また、特定波長吸収材料が40質量%を超えると、吸収率が高くなりすぎるとともに、特定波長吸収インキ組成物の粘度が高くなりすぎて基材(2)に付与しにくくなる。また、インキの乾燥性が低下するため、40質量%以下とすることが好ましい。
【0031】
(インキの製造方法)
特定波長吸収インキ組成物の製造方法は、上述したインキの構成成分を均一に混合できる製造方法であれば、特に限定されない。特定波長吸収インキ組成物の製造方法における構成成分の混合に際しては、例えば、プラネタリーミキサー、タンブラー、ビーズミル、サンドミル、スターラー、撹拌機、メカニカルホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、ペイントシェーカー、V型ブレンダー、ナウターミキサー、3本ロールミル等の混合機を用いることができる。
【0032】
(付与)
本発明の特定波長吸収インキ組成物による情報パターン(4)は、抄紙機上ですき入れ工程の前工程又は後工程に付与してもよいし、乾燥後の乾紙に、他の有意情報印刷と同時に印刷機で付与してもよい。
【0033】
(印刷方法)
本発明の特定波長吸収インキ組成物は、様々な付与方法を用いて基材(2)上に情報パターン(4)を形成することができる。付与方法の例として、スプレー装置、ディスペンサー、刷毛、コーター、オフセット印刷、凸版印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、スクリーン、インクジェット印刷等がある。
【0034】
基材(2)上に形成される情報パターン(4)について説明する。本発明において情報パターン(4)は、すき入れ(3)の少なくとも一部に重畳するように形成されていればよく、特定波長の吸収特性を検知して真偽判別に用いることができれば形状は限定されない。例えば、
図2(a)に示すように、ベタ印刷又は網点印刷で形成された図形やマーク等でもよいし、
図2(b)に示すように、文字や数字等でもよい。また、
図2(c)に示すように万線(曲万線、直万線)のほか、彩紋模様やカゴメ模様等でもよいし、
図2(d)に示すように、バーコードや二次元コードをはじめとするコード情報でもよい。
【0035】
すき入れの少なくとも一部に重畳するように形成された情報パターン(4)は、
図3(a)に示すように、すき入れ(3)の凹み部に同一形状に形成してもよいし、
図3(b)に示すように、基材(2)におけるすき入れ(3)が付与されていない面において、すき入れ(3)と重畳する位置に同一形状で形成してもよい。本発明において、すき入れ(3)と情報パターン(4)の重畳とは、基材(2)の表裏いずれかにおいて、すき入れ(3)が付与された箇所の少なくとも一部にかかるように情報パターン(4)が形成されていることをいう。
【0036】
情報パターン(4)を形成するに当たり、すき入れ(3)と情報パターン(4)が略同一形状である場合、特定波長域において所望の透過光量が得られるよう、面積率を決定し印刷膜厚を調整すればよい。所望の透過光量とは、すき入れ(3)周辺の基材の地合と同程度の透過光量を示す。
【0037】
所望の透過光量を得るために、情報パターン(4)の面積率や印刷膜厚を調整するが、これらの調整で所望の透過光量が得られなかった場合は、特定波長吸収インキ組成物を構成する諸材料の配合を再調整する。特定波長吸収インキ組成物の配合、図柄の面積率、印刷膜厚のバランスが重要であり、適宜調整して情報パターン(4)を形成する。
【0038】
情報パターン(4)がすき入れ(3)より大きい場合、かつ、すき入れ(3)周辺の基材(2)の透過光量を変化させたくない場合は、
図3(c)に示すように、情報パターン(4)のうち、すき入れ(3)と重なる部分の画線面積率を大きくし、すき入れ(3)と重ならない基材(2)周辺部の画線面積率が小さくなるよう情報パターン(4)を設計すればよい。なお、図面上は、説明しやすいようにすき入れ(3)と重なる部分の情報パターン(4)をベタで塗りつぶし、すき入れ模様と重ならない基材(2)周辺部の情報パターン(4)は網点で表現している。情報パターン(4)がすき入れ(3)より大きく、かつ、すき入れ(3)周辺の基材(2)の透過光量を変化させてもよい場合は、
図3(d)に示すように、透過光量が変化するすき入れ(3)周辺部に、有意の図柄を形成してカモフラージュすることが好ましい。あるいは、すき入れ(3)周辺部に、特定波長を透過する有色画線を付与する方法も有効である。
【0039】
また、
図4(a)に示すように、すき入れ(3)の少なくとも一部に重畳するように形成された情報パターン(4)上に、有色インキによる有色パターン(5)が形成されていてもよい。有色パターン(5)を形成する目的としては、意匠性の目的や、情報パターン(4)と基材(2)の境目をより視認し難くするカモフラージュの目的があり、必要に応じて形成すればよい。また、有色パターン(5)の形状は特に限定されるものではないが、有色パターン(5)は特定波長の光を透過する必要がある。有色パターン(5)は、
図4(b)に示すように、情報パターン(4)と隣接、あるいは一部が重なっていてもよいし、
図4(c)に示すように、情報パターン(4)を囲むように形成してもよい。ここでは、一例としてすき入れ(3)の少なくとも一部に情報パターン(4)として数字の「10」が形成され、更にその上に有色パターン(5)として星の図形が重畳(
図4(a)では、「10」が毛抜き合わせで形成されているように見えるが、図面上わかりやすく示したものであり、構成としては重畳されている)して形成されている。なお、
図4(b)及び
図4(c)において、すき入れ(3)は省略されており、実際は
図4(a)のようにすき入れ(3)の少なくとも一部に情報パターン(4)及び有色パターン(5)が形成されている。
【0040】
(読取方法)
本発明の真偽判別印刷物(1)の読取方法を説明する。真偽判別印刷物(1)の情報パターン(4)は200nm~400nmの紫外域の光を吸収及び散乱する特定波長吸収インキ組成物によって形成されているものとして説明する。
図5に示したような搬送系における読取を例に説明するが、特定波長域は紫外域に限定されず、また、読取も搬送系に限定されない。
【0041】
(読取装置)
真偽判別印刷物(1)が出納部(D)から、読取エリア(A)に設けられている搬送路(H)を通過する間に、特定波長域の光を放射する光源L1、L2、L3からの光の透過光は検出器T1、T2及びT3で受光し、反射光は、検出器R1、R2及びR3で受光する。外乱光の影響を排除するため、読取エリア(A)は、外光が入射しない暗所であることが好ましい。検出器R1、R2、R3は、必要に応じて設ければよい。更に、必要に応じて、搬送系の裏面側にも光源Lを設けて(図示せず)、裏面の反射光を受光してもよい。
【0042】
光源L1、L2、L3は、それぞれ順に紫外光、可視光、赤外光を照射する3種類の光源であり、少なくとも紫外光を照射するL1を有しているものとする。その中の波長域は任意でよい。光源は、各種ランプやLED光源、レーザーダイオードなどが使用できるが、小型で特定波長を照射できるLED光源が好ましい。例えば、紫外域については、出力の高いLED光源が使用できる360nm~390nmのいずれかの波長域が利用しやすい。可視光については、青色、緑色、橙色、赤色、白色等に応じて選択できる。赤外域は、センサの受光域にもよるが、800nm~1,000nmの間のいずれかの波長域が利用しやすい。
【0043】
検出器T1及びR1、T2及びR2、T3及びR3は、紫外域から赤外域まで検出できるものであればよく、検出感度の高い光電子増倍管やフォトダイオード検出器が使用できるが、長波紫外線から近赤外線まで検出でき、小型で安価なシリコンフォトダイオード検出器が好ましい。近赤外域については、InGaAsフォトダイオード検出器も使用できる。検出したい波長域に応じて、光学フィルタにより受光する波長域を限定することができる。検出器T1及びR1、T2及びR2、T3及びR3のうち、少なくとも紫外光の透過光を受光するための検出器T1を有しているものとする。
【0044】
光源や検出器の配置は、1組ずつポ任意に配置してもよい。当然、幅方向にライン上に配置してもよく(図示せず)、設置スペースやコスト、判別方法に応じて配置すればよい。
【0045】
出納部(D)から搬送された真偽判別印刷物(1)は、光源L1により紫外域の特定波長が照射され、真偽判別印刷物(1)を透過した光を検出器T1で、表面で反射した光を検出器R1でそれぞれ受光する。次に、光源L2により可視域の特定波長を照射し、検出器T2で透過光を、表面で反射した光を検出器R2でそれぞれ受光する。同様に、光源L3により赤外域の特定波長を照射し、検出器T3で透過光を、表面で反射した光を検出器R3でそれぞれ受光する。
【0046】
(判別方法)
真偽判別印刷物(1)の情報パターン(4)は、すき入れ(3)と略同一形状で形成され、200nm~400nmの紫外域の光を吸収及び散乱する特定波長吸収インキ組成物によって形成されているものとして、
図5の読取装置により検出された光量の値から真偽判別する方法の一例を説明する。判別工程は、
図6に示したように、照射工程(E)において、紫外光を照射する。検出器T1がエリアセンサであるものとして、検出工程(D)において、真偽判別印刷物(1)の情報パターン(4)及び情報パターン(4)周辺の基材(2)を透過した紫外光を検出する。判別工程(J)において、まず、検出された透過光データのうち、真偽判別に用いる判別エリアとして、情報パターン(4)が付与された箇所と、情報パターン(4)周辺の基材(2)を含むエリアを抽出する。この判別エリア内の分布において、情報パターン(4)及び情報パターン(4)周辺の基材(2)の検出値(透過光量)分布に差はなく、全体がフラットで、透過光量が極端に高い部分がないことにより「真正」と判別する。
【0047】
検出器T1、T2及びT3すべての検出値を判別に使用する場合について説明する。検出器T1、T2及びT3において、真偽判別印刷物(1)を透過した紫外光、可視光及び赤外光が検出される。光源及び検出器を、幅方向全面照射及び検出できるように配置した場合、情報パターン(4)を含む真偽判別印刷物(1)全体の透過画像が検出できる。このうち、幅方法における任意の1ラインのみの検出値を使用してもよい。あるいは、任意のごく狭いエリアをポイント的に検出してもよい。
【0048】
画像判別としては、透過画像を、紫外光、可視光及び赤外光それぞれにおいて、あらかじめ登録された真正画像と比較し、紫外光、可視光及び赤外光全てにおいて合致した場合に「真正」と判別する。または、紫外光、可視光及び赤外光それぞれにおいて、異なる透過画像が得られるような情報パターン(4)を付与した真偽判別印刷物(1)の場合、例えば可視画像を基準画像とし、可視画像と紫外画像の差分及び可視画像と赤外画像の差分を算出し、あらかじめ定められた差分になった場合のみ「真正」と判別する方法もある。同様に、情報パターン(4)を含む任意の1ラインにおける透過光量の検出値のラインプロファイルを利用したり、情報パターン(4)上のごく狭いエリアの一つの検出値を利用したりする判別も可能である。
【実施例0049】
以下、発明を実施するための形態にしたがって、 本発明の真偽判別印刷物(1)の実施例について詳細に説明するが、本発明は、この実施例に限定されるものではない。
【0050】
(実施例1)
実施例1は、無色で紫外光のみ吸収するインキ組成物Aをオフセット印刷によって付与することで情報パターン(4)を形成した真偽判別印刷物(1)において、特定波長の透過特性を読取ることで真偽判別を行った。
【0051】
(インキ)
ピグメントホワイト4 10%+YVB-F(根本特殊化学(株)製)10%+UVオフセットワニス76%+光重合開始剤オムニラッド379 4%の配合で、3本ロールミルによりインキ組成物Aを作製した。
【0052】
(無色印刷)
図7(a)に示すように、基材(2)である薄橙色の上質紙の一部に、「八角形の星」の形状から成るすき入れ(3)を3箇所に並べて形成した。3箇所のすき入れのうち、左のすき入れ(3)に重畳する位置に、すき入れ(3)と略同一形状の図柄を、オフセット印刷によってインキ組成物Aから成る情報パターン(4)として形成し、真偽判別印刷物(1)を作製した。印刷は、(株)下垣鉄工所製オフセット校正機を使用した。反射光下では、すき入れ(3)部分に違和感がなく観察され、光にかざして観察したときに、3箇所に付与されたすかしがはっきり視認できた。
【0053】
(読取)
図7(a)の真偽判別印刷物(1)を、搬送系の機械処理装置に通紙し、365nmの紫外光、白色光、800nm以上の赤外光を照射したときの透過光をフォトダイオードセンサで受光した。
【0054】
(読取1)
真偽判別印刷物(1)の、任意の一ライン(点線部)における検知強度プロファイルを
図7(b)、
図7(c)及び
図7(d)に示した。なお、検知強度プロファイルにおいて、強度が高いのは透過光量が多いことを示している。
図7(b)の紫外光検出において、情報パターン(4)を付与したすき入れ(3)部分は、すき入れ(3)が付与されていない基材(2)部分とおよそ同程度の検知強度であり、紫外光を透過していないのに対し、情報パターン(4)を付与していないすき入れ(3)部分は検知強度が高い、すなわち紫外線の透過光量が多いことが分かる。次に、
図7(c)の可視光検出において、情報パターン(4)を付与した部分と情報パターン(4)を付与していない部分は、いずれも、すき入れ(3)部分は同程度の検知強度であった。この結果から、「すかし」の機能を十分有していることを確認できた。
図7(d)の赤外光検出の場合も同様に、情報パターン(4)を付与した部分もしていない部分も、すき入れ(3)部分は同程度の検知強度であった。
図7(c)及び
図7(d)の結果から、インキ組成物Aによる情報パターン(4)は、可視光及び赤外光の透過検知に影響を与えないことがわかり、
図7(b)の紫外透過検知においてのみ検出強度が変化したことから、選定された判別エリア内において、紫外透過検知で透過光量の高い領域が三つでなく二つであることで、真偽判別を行った。
【0055】
真偽判別印刷物(1)は、目視で「すかし」を視認することができ、可視及び赤外光検知には影響を与えず紫外検知で真偽判別が可能であった。
【0056】
次に、真偽判別印刷物(1)の情報パターン(4)付与面に、375nmの紫外光を照射し反射した可視光をフォトダイオードセンサで受光し検知した。判別エリアの検出画像と、任意の1ライン(点線部)における輝度プロファイルを
図8(b)に示す。なお、
図8(a)は
図7(a)と同じ図である。情報パターン(4)を付与した部分は検知強度が高く情報パターン(4)を付与していないすき入れ(3)の部分はすき入れ(3)が付与されていない基材(2)部分と同程度であり、ほとんど反射光は検知されなかった。真偽判別として、紫外光透過検出において
図7(b)のラインプロファイル及び
図8(b)のラインプロファイルの両方が得られることで「真正」と判定した。
【0057】
(無色印刷+有意画線)
次に、
図9(a)に示すように、
図7(a)の真偽判別印刷物1において、すき入れ部分(符号は省略)を含む基材(2)前面にT&K TOKA製BESTCURENo.6UVカートン紅CWの紅インキを用いて、画線幅70μmピッチ210mmの線画で有意図柄として、NPBの文字を印刷し、これを真偽判別印刷物(1-2)とした。
【0058】
(読取1―2)
図9(a)に示す真偽判別印刷物(1-2)の、任意の1ラインにおける検知強度プロファイルを
図9(b)、
図9(c)及び
図9(d)に示した。紅インキによる有意画像は、紫外透過及び赤外透過に大きな影響はなく、紫外光、可視光、赤外光において、有色インキによる有意画像を付与しない真偽判別印刷物(1)と同様な透過検知パターンを示した。
【0059】
(判別)
読取結果からの真偽判別は、
図9(b)、
図9(c)及び
図9(d)のパターンを比較し、
図9(b)における紫外透過特性のみ、情報パターン(4)を付与したすき入れ(3)部分の透過光量が、すき入れ(3)が付与されていない基材(2)部分と同程度であることを判別基準としていたことから、真偽判別印刷物(1)は「真正」と判定された。
【0060】
(実施例2)
実施例2は、紫外光及び赤外光を透過する特定波長透過材料を含有するインキ組成物2-1と、紫外光及び赤外光を吸収する特定波長吸収材料を含有するインキ組成物2-2とを、有色ペア印刷することで情報パターン(4)を形成した真偽判別印刷物(1)において、特定波長の透過特性を読取ることで真偽判別を行った。
【0061】
(インキ)
表1に示した配合に従い、3本ロールミルを用いて、青色UVオフセットペアインキとしてインキ組成物2-1及びインキ組成物2-2を作製した。なお、インキ組成物2-1は紫外光及び赤外光を透過する特性を持ち、インキ組成物2-2は紫外光及び赤外光共に吸収する特性を持つインキ組成物である。
【0062】
【0063】
(印刷)
図10(a)に示すように、基材(2)である白色の上質紙の一部に、「四葉のクローバー」の形状から成るすき入れ(3)を形成した。前述したすき入れのうち、一方の対角線状にある2箇所のすき入れ(3)と重畳する位置に、すき入れ(3)と略同一形状の図柄を、インキ組成物2-1を用いてオフセット印刷し、情報パターン(4-1)を形成した。次に、他方の対角線状にある2箇所のすき入れ(3)と重畳する位置に、すき入れ(3)と略同一形状の図柄を、インキ組成物2-2を用いてオフセット印刷し、情報パターン(4-2)を形成した。印刷は、(株)下垣鉄工所製オフセット校正機を使用した。これを、真偽判別印刷物(1-3)とする。反射光下では、すき入れ(3)部分に青色のベタ印刷から成る「四葉のクローバー」が観察された。また、光にかざして観察したときに、「四葉のクローバー」が淡い青色で「すかし」として視認できた。実施例2においても、すき入れ(3)と情報パターン(4)を同一形状で形成した。
【0064】
(読取)
真偽判別印刷物(1-3)を、搬送系の機械処理装置に通紙し、365nmの紫外光、800nm以上の赤色光を照射したときの透過光を、フォトダイオードセンサで受光した。
【0065】
(読取1)
真偽判別印刷物(1-3)の、透過検知画像の模式図と任意の1ライン(点線部)における検知強度プロファイルを
図10(b)、
図10(c)及び
図10(d)に示した。なお、検知強度プロファイルにおいて、強度が高いのは透過光量が多いことを示している。
図10(b)の紫外光検知において、インキ組成物2-1による情報パターン(4-1)部分は、すき入れ(3)が付与されていない基材(2)部分より検知強度が高くなっており、紫外線の透過光量が多いことが分かる。しかしながら、インキ組成物2-2による情報パターン(4-2)は、すき入れ(3)が付与されていない基材(2)部分とおよそ同程度の透過光量を示し周囲とおよそ同化していた。
図10(c)の可視光検知において、インキ組成物2-1による情報パターン(4-1)及びインキ組成物2-2による情報パターン(4-2)は、着色顔料による着色のためやや透過光量は低下しているものの、すき入れ(3)が付与されていない基材(2)部分よりもやや高い透過光量を示し、「すかし」の機能を十分有していることを確認できた。
図10(d)の赤外光検知の場合は、インキ組成物2-1による情報パターン(4-1)は、すき入れ(3)が付与されていない基材(2)部分よりも高い透過光量を示し、一方、インキ組成物2-2による情報パターン(4-2)は、すき入れ(3)が付与されていない基材(2)部分よりもやや吸収が大きく、十分な赤外吸収特性を示した。
【0066】
(判別)
読取結果から真偽判別するために、すき入れ(3)が付与されていない基材(2)部分の透過光量を「0(ゼロ)」として基準値とし、基準値よりも透過光量が大きい場合を「+1(プラス)」、小さい場合を「-1(マイナス)」とした。真偽判別印刷物1-3の検知結果を表2に示した。
【0067】
【0068】
すき入れ(3)部分を含む任意領域全体の透過光量について、紫外検知において「+1」、可視光検知において「+2」、赤外光検知において「+1又は0」として、これに合致した場合のみ「真正」と判定を行うことで、真偽判別を行った。
【0069】
以上、本発明を詳細に説明してきたが、上記の構成において、本発明の範囲から逸脱することなく、様々な変更を行うことができる。したがって、上記の説明に含まれるか又は添付の図面に示される全ての事項は、例示的なものとして解釈されるべきである。
【0070】
(比較例)
比較例として、表3に示すインキ配合で、UVインキ及び水性インキを作製した。UVインキは3本ロールミルで、水性インキはスリーワンモーターで撹拌混合により作製した。
【0071】
【0072】
(印刷)
図11(a)に示すように、基材(2)である白色の上質紙の一部に、「八角形の星」の形状から成るすき入れ(3)を3箇所に並べて形成した。3箇所のすき入れのうち、左のすき入れ(3)に重畳する位置に、すき入れ(3)と略同一形状の図柄を、比較インキ1-1によるオフセット印刷によって情報パターン(4a)として形成した。また、3箇所のすき入れのうち、右のすき入れ(3)に重畳する位置に、すき入れ(3)と略同一形状の図柄を、比較インキ1-2によるフレキソ印刷によって情報パターン(4b)として形成し、比較印刷物(1-4)を作製した。印刷は、オフセット印刷は(株)下垣鉄工所製オフセット校正機を使用した。フレキソ印刷は、(RK Print Coat Instruments社製フレキシプルーフ100UV)を使用した。反射光下では、すき入れ(3)部分に違和感がなく観察され、光にかざして観察したときに、3箇所に付与されたすかしがはっきり視認できた。
【0073】
(読取)
比較印刷物(1-4)を、搬送系の機械処理装置に通紙し、365nmの紫外光、白色光、800nm以上の赤外光を照射したときの透過光をフォトダイオードセンサで受光した。比較印刷物の、任意の1ライン(点線部)における検知強度プロファイルを
図11(b)、
図11(c)及び
図11(d)に示した。なお、検知強度プロファイルにおいて、強度が高いのは透過光量が多いことを示している。
図11(b)の紫外光検出において、比較インキ1-1及び比較インキ1-2を付与した部分もしていない部分も、すき入れ(3)部分と同程度の検知強度であり、すき入れ(3)を付与していない基材(2)部分より検知強度が高かった。
図11(c)の可視光及び
図11(d)の赤外光の場合も同様に、比較インキ1-1及び1-2を付与した部分もしていない部分も、すき入れ(3)部分は同程度の検知強度であった。真偽判別基準を、実施例1と同様に、選定された判別エリア内において紫外透過検知で透過光量の高い領域が三つでなく二つであるとしたことから、透過光量の高い領域が三つある比較印刷物(1-4)は「偽物」と判定された。