(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141687
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】排出孔を設けた番号器
(51)【国際特許分類】
B41F 11/00 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
B41F11/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053476
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】303017679
【氏名又は名称】独立行政法人 国立印刷局
(72)【発明者】
【氏名】高村 海斗
(72)【発明者】
【氏名】神谷 未来
【テーマコード(参考)】
2C034
【Fターム(参考)】
2C034AA02
(57)【要約】
【課題】
番号印刷における印刷物への着肉不良を防ぐための番号器を提供する。
【解決手段】
本発明は、円筒体の番号軸と、番号軸に複数並列して嵌合し、表面に記号及び数字が彫刻されている歯車状の字輪と、字輪と接続する位置に設けられ、字輪の回転を制御する字輪固定用バネと、字輪固定用バネを挿入するための中空部を有する筒状の字輪固定用バネブラケットと、を有する番号器において、字輪固定用バネブラケットにおける中空部から、字輪固定用バネブラケットの外周面へと貫通するように設けられ、字輪固定用バネブラケットにおける中空部に滞留した余剰油を、字輪固定用バネブラケットから排出するための少なくとも1つの排出孔を設けたことを特徴とする番号器である。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒体の番号軸と、前記番号軸に複数並列して嵌合し、表面に記号及び数字が彫刻されている歯車状の字輪と、前記字輪と接続する位置に設けられ、前記字輪の回転を制御する字輪固定用バネと、前記字輪固定用バネを挿入するための中空部を有する筒状の字輪固定用バネブラケットと、を有する番号器において、
前記字輪固定用バネブラケットにおける前記中空部から、前記字輪固定用バネブラケットの外周面へと貫通するように設けられ、前記字輪固定用バネブラケットにおける前記中空部に滞留した余剰油を、前記字輪固定用バネブラケットから排出するための少なくとも1つの排出孔を設けたことを特徴とする番号器。
【請求項2】
前記排出孔は、前記字輪固定用バネブラケットの外周面における表面積の50%以下であることを特徴とする請求項1記載の番号器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、日本銀行券、有価証券、宝くじ等の1枚毎に異なる番号が付与されているセキュリティ印刷物に用いる番号器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セキュリティ印刷物における番号印刷は、番号印刷機に設置されたインキ着肉装置によって番号器に組み込まれた字輪にインキを転移させ、その字輪が被印刷体と直接接触することによって印刷するものである。連続番号を印刷するためには、用紙一枚印刷ごとに番号器に組み込まれた字輪を機械的又は電子制御により転換する構造の番号器が用いられる。
【0003】
連続番号を印刷する番号印刷は長期にわたって行われることが多く、連続稼働により、番号器に組み込まれた字輪の側面に異物(流れ込んだインキ、埃、及びチリ)が付着してしまい、字輪の不良になる場合がある。このような不良が発生しないように定期的に番号器及び字輪の洗浄を行う必要がある。なお、洗浄においては、揮発性に優れ洗浄効果を有する番号洗浄液を用いる。
【0004】
また、番号印刷中においては、字輪の高速回転及び字輪の転換を制御する字輪固定用バネの弾性により、字輪と軸との間に摩擦が発生し、少なからず摩耗することで字輪の転換不良が発生する場合があり、洗浄後に番号器字輪の隙間及び軸へ潤滑油の給油を行う。
【0005】
番号器を洗浄する際は、番号印刷機から番号器を取り外し、前述した洗浄液によって洗浄した後、字輪の円滑な転換を得るために潤滑油を補充する方法が用いられている。洗浄及び潤滑油の補充の際、余剰となった洗浄液や潤滑油が字輪への飛散することがあり、飛散を防止するために、鋭利な金属治具を利用し、その先端に布を巻き付けて拭き取りを行うなどの対策を講じているが、その場合、番号器への糸くずの付着や、金属治具の番号器と接触により、番号器に悪影響を与える恐れがあるため、当該作業は、専門的な技術を有する者に限定される上、慎重かつ多大な手間を必要としていた。
【0006】
上述した課題を回避するための対策の一つとして、給油の際に生じる余剰の潤滑油を除去するために、番号印刷機洗浄ヘッドを設けて高圧のエアーを噴射させることで、番号器の乾燥と洗浄液や余剰油の除去を行う洗浄方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1におけるエアーを用いた洗浄方法では、番号器の内部に設けられた字輪固定用バネ及び字輪固定用バネを内包する字輪固定用バネブラケット内に滞留した洗浄液や余剰油を除去しきれないといった問題点があった。さらに、字輪固定用バネの内部及び字輪固定用バネブラケットに滞留した洗浄液や余剰油は、番号器の回転に伴い字輪の表面へ滲み出し、インキの着肉不良の発生及び印刷用紙へ付着による汚損の原因となっていた。本発明は、円滑に洗浄液及び余剰油を排出するための番号器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の番号器は円筒体の番号軸と、番号軸に複数並列して嵌合し、表面に記号及び数字が彫刻されている歯車状の字輪と、字輪と接続する位置に設けられ、字輪の回転を制御する字輪固定用バネと、字輪固定用バネを挿入するための中空部を有する筒状の字輪固定用バネブラケットを有する番号器において、字輪固定用バネブラケットにおける中空部から外周面へと貫通するように設けられ、字輪固定用バネブラケットにおける中空部に滞留した余剰油を、字輪固定用バネブラケットから排出するための、少なくとも1つの排出孔を設けたことを特徴とする番号器である。
【0010】
また、本発明の番号器における排出孔は、字輪固定用バネブラケットの外周面における表面積の50%以下であることを特徴とする番号器である。
【発明の効果】
【0011】
字輪固定用ブラケットに設けられた排出孔から、番号洗浄液や余剰油が排出されるため、番号洗浄液や余剰油が字輪固定用バネブラケット内に滞留することがなくなり、番号印刷中に番号器及び字輪の表面に番号洗浄液や余剰油が滲み出すことがなく、印刷用紙に付着する恐れがなくなるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係る番号印刷機の全体概略図を示す。
【
図2】本発明に係る番号印刷機における印刷部の断面図及び番号胴の正面図を示す。
【
図3】本発明に係る番号器及び番号器駆動部の断面図を示す。
【
図5】本発明に係る字輪固定用バネブラケット及び排出孔の斜視図を示す。
【
図6】本発明に係る字輪固定用バネブラケット及び排出孔の別の配置を示す斜視図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態について図面を用いて説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載における技術的思想の範囲内であれば、その他様々な形態が実施可能である。
【0014】
図1は、番号印刷機(1)全体の概要図である。番号印刷機(1)は、給紙部(1a)において印刷用紙を積載し、1枚ずつ印刷用紙を送り出す。印刷用紙は検査部(1b)を通過し、印刷部(1c)における圧胴によって保持され、詳しくは後述するが、番号胴に取り付けられた番号器と接触し、番号または記番号が印刷される。記番号が印刷された印刷用紙は、デリバリ部(1d)へと搬送される。
【0015】
図2は、番号印刷機(1)における番号胴(10)を示した図である。
図2(a)は印刷部(1c)における断面図を示し、
図2(b)は印刷部(1c)における番号胴(10)の正面図を示す。番号胴(10)の外周において、任意の数の番号器(100)が設けられ、番号器(100)を駆動させるための番号器駆動部(110)が装着されて成る。
【0016】
図3は、番号器(100)及び番号器駆動部(110)の断面図を示した図である。番号器(100)は、接続ネジ(120)によって番号器駆動部(110)と接続されており、番号器駆動部(110)は、番号胴(10)と接続される。以下、番号器(100)及び番号器駆動部(110)における各構成について詳細に説明する。
【0017】
図4は番号器(100)を示した図である。以下、
図4を用いて番号器(100)の各構成について詳細に説明する。
【0018】
番号器(100)は、字輪(101)と、字輪(101)に固着され、字輪(101)と共に回転する歯車(102)と、字輪(101)及び歯車(102)の回転を支持するための番号軸(103)と、字輪(101)を制御するための字輪固定用バネ(104)と、字輪固定用バネ(104)を覆う字輪固定用バネブラケット(105)と、字輪(101)を固定するための字輪固定爪(106)を備えて成る。本発明は、字輪固定用バネブラケット(105)に、洗浄液及び余剰油を排出するための排出孔(107)を有していることが特徴であり、排出孔(107)については後述する。
【0019】
字輪(101)について説明する。字輪(101)の形状は歯車状であり、字輪(101)の外周上に必要な数だけ印字面を備え、印字面には数字、英字、記号等が彫刻される。字輪(101)の側面には、字輪(101)の回転を制御する歯車(102)が固着される。字輪(101)は、番号軸(103)と嵌り合うように接続され、番号軸(103)に沿って複数並列して配置される。
【0020】
次に、番号軸(103)について説明する。番号軸(103)は円筒形となっており、回転可能な構造となっている。番号軸(103)の回転に併せて、番号軸(103)と嵌合される字輪(101)も回転可能となっている。
【0021】
また、番号軸(103)及び番号軸(103)と嵌合されている字輪(101)、歯車(102)は、番号器(100)に対して着脱自在に取り付けられている。番号器(100)から番号軸(103)及び字輪(101)を取り外すことで、字輪(101)の洗浄及び調整を容易に行うことができる。
【0022】
次に、字輪固定用バネ(104)及び字輪固定用バネ(104)と接続する字輪固定爪(106)について説明する。字輪固定用バネ(104)の一端は番号器駆動部(110)に固定され、もう一端は字輪固定爪(106)と接続される。字輪固定爪(106)は、歯車状である字輪(101)の凹部に嵌り合うように接触し、番号軸(103)の回転に連動して字輪(101)が回転しないよう固定し、字輪(101)の回転を制御する役割を有している。字輪固定用バネ(104)の弾性または作業員による手動での操作により、字輪(101)から字輪固定爪(106)が開放され、字輪(101)の転換を可能とする。
【0023】
次に、字輪固定用バネブラケット(105)について説明する。字輪固定用バネブラケット(105)は、字輪固定用バネ(104)を支持するために、番号器駆動部(110)に設けられる。字輪固定用バネブラケット(105)は、字輪固定用バネ(104)を挿入するための中空部(108)を有する筒状の構成とする。
【0024】
図5は、字輪固定用バネブラケット(105)及び排出孔(107)を示す図である。
図5を用いて排出孔(107)について説明する。
【0025】
排出孔(107)は、字輪固定用バネブラケット(105)の中空部(108)から外周面へと貫通するように設けられる。本発明の実施形態においては、字輪固定用バネブラケット(105)における中空部(108)から外周面へと、軸方向に対して下方向へ貫通した排出孔(107)を設ける構成としたが、字輪固定用バネブラケット(105)に限らず、余剰油が字輪固定用バネブラケット(105)内に滞留されずに、字輪固定用バネブラケット(105)より外へと排出される位置に設けられれば、排出孔(107)の設ける場所は問わない。
【0026】
本実施の形態においては、排出孔(107)を3か所設けた構成を示しているが、排出孔(107)の数については、少なくとも一つ以上設けていればよい。排出孔(107)を、複数設けた場合、円滑に余剰油を排出することができるが、複数設けた排出孔(107)を総合した表面積が、字輪固定用バネブラケット(105)の外周面における表面積に対して50%を超えると、字輪固定用バネブラケット(105)の強度が低下してしまい、字輪固定用バネ(104)の伸縮に耐えられず破断してしまうおそれがある。したがって、排出孔(107)の表面積は、字輪固定用バネブラケット(105)の外周面における表面積の50%以下の範囲で設けることが望ましい。
【0027】
排出孔(107)の大きさは、排出孔(107)の個数によって適宜設定される。排出孔(107)が1箇所の場合、字輪固定用バネブラケット(105)の外周面における表面積の50%以下の範囲の大きさにすればよく、排出孔(107)が3箇所の場合、3箇所の合計した表面積が、字輪固定用バネブラケット(105)の外周面における表面積の50%以下の範囲にすればよい。以上の通り、排出孔(107)の大きさと個数の関係上、字輪固定用バネブラケット(105)の外周面における表面積の50%以下の範囲で設定すればよい。
【0028】
排出孔(107)の形状については、円形状や多角形、星形形状のいずれであってもよい。しかし、余剰油を排出するための効率及び製造上の容易性から円形状が望ましい。
【0029】
図6は、排出孔(107)を軸方向に沿って不規則な間隔で配置した構成を示している。
図5において、排出孔(107)が軸方向に沿って等間隔で配置した構成を示しているが、排出孔(107)の配置の間隔は問わない。
【0030】
番号器を洗浄する際に高圧のエアーを噴射することで、中空部に滞留した余剰油は、排出孔から字輪固定用バネブラケット(105)の外部へと排出される。余剰油を字輪固定用バネブラケット(105)から排出することで、字輪固定用バネブラケット(105)における余剰油の滞留を解消し、字輪への滲み出しを防止することができる。
【0031】
また、排出孔(107)の下方に受け皿(図示せず)を設けてもよい。受け皿を設けることで排出孔(107)から排出された余剰油が1か所に滞留することとなる。そのため、清掃の際は受け皿の清掃をすることですむことから清掃の効率が向上する。
【符号の説明】
【0032】
1 番号印刷機
1a 給紙部
1b 検査部
1c 印刷部
1d デリバリ部
10 番号胴
100 番号器
101 字輪
102 歯車
103 番号胴軸
104 字輪固定用バネ
105 字輪固定用バネブラケット
106 字輪固定爪
107 排出孔
108 中空部
110 番号器駆動部
120 接続ネジ