(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141719
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】成形体並べ装置および希土類系焼結磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
B25J 15/06 20060101AFI20241003BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B25J15/06 E
B25J15/06 C
H01F41/02 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053514
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100155000
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 修市
(72)【発明者】
【氏名】三好 啓太
(72)【発明者】
【氏名】平山 雄基
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 忠弘
(72)【発明者】
【氏名】瀧野 雅人
【テーマコード(参考)】
3C707
5E062
【Fターム(参考)】
3C707AS01
3C707FS01
3C707FT02
3C707FU02
3C707LV22
3C707MT09
5E062CD04
5E062CE04
5E062CG01
(57)【要約】
【課題】成形体の割れ・欠け・ヒビの発生を抑制し得る成形体並べ装置を提供する。
【解決手段】本発明の成形体並べ装置は、伸縮性を有する吸着パッドを有する吸着装置と、吸着装置を真空装置に接続するエアチューブと、吸着装置の上下動を可能にするリニアガイドと、リニアガイドを動かすロボットハンドと、エアチューブを流れるエア流速を制御するスピードコントローラを備える。吸着パッドが成形体を吸着するとき、真空装置によってエアチューブおよび吸着パッド内の圧力を減少させ、吸着パッドに吸着した成形体を吸着パッドの縮みに応じて第1速度で上昇させる。吸着パッドによる成形体の吸着を解除するとき、スピードコントローラを介してエアチューブ内を流れる真空破壊エアによって吸着パッド内の圧力を増加させ、吸着パッドに吸着した成形体を吸着パッドの伸びに応じて第1速度よりも低い第2速度で降下させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形体をピックアップして台板上に並べる成形体並べ装置であって、
伸縮性を有する吸着パッドを有する吸着装置と、
前記吸着装置を真空装置に接続するエアチューブと、
前記吸着装置の上下動を可能にするリニアガイドと、
前記リニアガイドを動かすロボットハンドと、
前記エアチューブの途中に設けられ、前記エアチューブを流れるエア流速を制御するスピードコントローラと、
を備え、
前記成形体をピックアップするために前記吸着パッドが前記成形体を吸着するとき、前記真空装置によって前記エアチューブおよび前記吸着パッド内の圧力を減少させることにより、前記吸着パッドに吸着した前記成形体を前記吸着パッドの縮みに応じて第1速度で上昇させ、
前記成形体を台板上に置くために前記吸着パッドによる前記成形体の吸着を解除するとき、前記スピードコントローラを介して前記エアチューブ内を流れる真空破壊エアによって前記エアチューブおよび前記吸着パッド内の圧力を増加させ、前記吸着パッドに吸着した前記成形体を前記吸着パッドの伸びに応じて前記第1速度よりも低い第2速度で降下させる、成形体並べ装置。
【請求項2】
前記スピードコントローラは、絞り弁と逆止弁を有しており、
前記逆止弁は、前記真空破壊エアが前記吸着パッドに流れることを抑制するように構成されている、請求項1に記載の成形体並べ装置。
【請求項3】
前記吸着パッドの吸着時と吸着解除時における長さの差であるストロークは、0.1mm以上15mm以下の範囲にある、請求項1に記載の成形体並べ装置。
【請求項4】
前記第1速度は、15mm/秒以上であり、前記第2速度は、10mm/秒以下である、請求項3に記載の成形体並べ装置。
【請求項5】
前記第2速度は、1mm/秒以上、5mm/秒以下の範囲にある、請求項4に記載の成形体並べ装置。
【請求項6】
希土類系焼結磁石の粉末から成形体を作製する工程と、
請求項1に記載された成形体並べ装置を用いて前記成形体をピックアップし、前記成形体を移動させて台板上に置く工程と、
を含む、希土類系焼結磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、成形体並べ装置、および当該成形体並べ装置を用いる希土類系焼結磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
R-T-B系焼結磁石(Rは希土類元素のうちの少なくとも一種である。Tは遷移金属元素のうち少なくとも一種でありFeを必ず含む。Bは硼素である)は永久磁石の中で最も高性能な磁石として知られており、電気自動車用(EV、HV、PHVなど)モータ、産業機器用モータなどの各種モータや家電製品などに使用されている。
【0003】
R-T-B系焼結磁石を製造するとき、磁石合金の粉末を成形機によって成形して粉末成形体(以下、単に「成形体」と称する。)を作製した後、焼結炉を用いて成形体を焼結する工程が実行される。成形機から取り出された成形体は、焼結板上に整列された後、焼結炉内に搬入される。
【0004】
焼結板上への成形体の整列は、例えば、吸着部を有する機械(ロボット等)によって行われる。具体的には、ロボットハンドの先端部に設けられた吸着部が成形体を吸着した後、ロボットハンドが成形体を焼結板上の所定位置に搬送し、吸着部から成形体を離すことにより、成形体を焼結板上に配置することができる。複数の成形体について、この動作を順次実行することにより、焼結板上に複数の成形体を配列させることができる。
【0005】
特許文献1は、コンベヤに載置されて搬送されてくる物品を、ピッキングロボットのピッキングヘッドに設けた複数の吸着パッドの夫々に順次吸着保持して移送するようにした装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
成形体の厚さ方向におけるサイズが小さい(例えば、厚さ10mm以下)場合、従来のロボットハンドによって吸着した成形体を焼結板上に置いたとき、成形体に割れ・欠け・ヒビなどが発生する場合があった。
【0008】
本開示は、成形体の割れ・欠け・ヒビの発生を抑制し得る成形体並べ装置、および当該成形体並べ装置を用いる希土類系焼結磁石の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は、以下の項目の解決手段を提供する。
[項目1]
成形体をピックアップして台板上に並べる成形体並べ装置であって、
伸縮性を有する吸着パッドを有する吸着装置と、
前記吸着装置を真空装置に接続するエアチューブと、
前記吸着装置の上下動を可能にするリニアガイドと、
前記リニアガイドを動かすロボットハンドと、
前記エアチューブの途中に設けられ、前記エアチューブを流れるエア流速を制御するスピードコントローラと、
を備え、
前記成形体をピックアップするために前記吸着パッドが前記成形体を吸着するとき、前記真空装置によって前記エアチューブおよび前記吸着パッド内の圧力を減少させることにより、前記吸着パッドに吸着した前記成形体を前記吸着パッドの縮みに応じて第1速度で上昇させ、
前記成形体を台板上に置くために前記吸着パッドによる前記成形体の吸着を解除するとき、前記スピードコントローラを介して前記エアチューブ内を流れる真空破壊エアによって前記エアチューブおよび前記吸着パッド内の圧力を増加させ、前記吸着パッドに吸着した前記成形体を前記吸着パッドの伸びに応じて前記第1速度よりも低い第2速度で降下させる、成形体並べ装置。
[項目2]
前記スピードコントローラは、絞り弁と逆止弁を有しており、
前記逆止弁は、前記真空破壊エアが前記吸着パッドに流れることを抑制するように構成されている、項目1に記載の成形体並べ装置。
[項目3]
前記吸着パッドの吸着時と吸着解除時における長さの差であるストロークは、0.1mm以上15mm以下の範囲にある、項目1に記載の成形体並べ装置。
[項目4]
前記第1速度は、15mm/秒以上であり、前記第2速度は、10mm/秒以下である、項目3に記載の成形体並べ装置。
[項目5]
前記第2速度は、1秒以上/10秒以下の範囲にある、項目4に記載の成形体並べ装置。
[項目6]
希土類系焼結磁石の粉末から成形体を作製する工程と、
項目1から5のいずれかに記載された成形体並べ装置を用いて前記成形体をピックアップし、前記成形体を移動させて台板上に置く工程と、
を含む、希土類系焼結磁石の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態によれば、成形体の割れ・欠け・ヒビの発生を抑制し得る成形体並べ装置、および当該成形体並べ装置を用いる希土類系焼結磁石の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示の実施形態における成形体並べ装置の構成例を示す側面図である。
【
図2】本開示の実施形態における成形体並べ装置の構成例を示す側面図である。
【
図3】本開示の実施形態における成形体並べ装置の構成例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書または特許請求の範囲において、特定の方向または位置を示す用語(例えば、「上」、「下」、「右」、「左」、「前」、「後」及びそれらの用語を含む別の用語)を用いる場合がある。それらの用語は、参照した図面における相対的な方向または位置をわかり易さのために用いているに過ぎない。参照した図面における「上」、「下」等の用語による相対的な方向または位置の関係が同一であれば、本開示以外の図面、実際の製品、製造装置等において、参照した図面と同一の配置でなくてもよい。
【0013】
本明細書または特許請求の範囲において、「成形体載置板」とは、ピックアップしようとする成形体が載置された板、台あるいはコンベアのベルトなどのことを指し、焼結板などの台板を共有して使用する場合も含まれる。以下、成形体載置板を「台板M」、「台板M1」と称する場合がある。また、ピックアップした成形体を並べる焼結板などの台板を単に「焼結板」、「台板」あるいは「台板M2」と称する場合がある。
【0014】
図面に示される要素または部材の寸法、寸法比率、形状、配置間隔等は、わかり易さのために誇張されている場合がある。また、図面が過度に複雑になることを避けるために、一部の要素の図示を省略することがある。
【0015】
以下に、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。実施形態は、本発明の技術思想が具体化されたものではあるが、本発明を限定するものではない。実施形態の説明で示される数値、形状、材料、ステップ、そのステップの順序などは、あくまでも一例であり、技術的に矛盾が生じない限りにおいて種々の改変が可能である。以下の説明において、同一の名称、符号によって特定される要素は、同一または同種の要素であり、それらの要素について重複した説明を省略することがある。
【0016】
<実施形態>
成形機によって成形された成形体は、成形機から取り出された後、ロボットハンドを備える成形体並べ装置によって台板上に並べられる。このような成形体並べ装置が成形体をピックアップして焼結板などの台板上に並べるとき、成形体に割れ・欠け・ヒビなどが発生する。発明者の検討によると、その原因は、成形体並べ装置における吸着装置の吸着部から離れた成形体が下方に位置する台板に衝突するときの衝撃に起因すると考えられる。本開示の実施形態では、このような衝撃を低減して、成形体に割れ・欠け・ヒビなどが発生することを抑制する。
【0017】
まず、
図1を参照しながら、本開示の実施形態における成形体並べ装置の構成例を説明する。
【0018】
図1に示されるように、本実施形態における成形体並べ装置100は、成形体50を例えば台板Mからピックアップして、焼結板などの台板上に並べるように構成されたロボットハンド装置である。焼結板は、複数の成形体50が並べられた後、焼結炉内に搬入される。
【0019】
成形体並べ装置100は、伸縮性を有する吸着パッド10を有する吸着装置12と、吸着装置12を真空装置40に接続するエアチューブ20と、吸着装置12の上下動を可能にするリニアガイド64と、リニアガイド64を動かすロボットハンド66と、を備えている。
【0020】
図1に例示される構成において、リニアガイド64は、吸着装置12を保持するL字型の保持部材60に固定されたスライド装置62を上下方向(鉛直方向)に移動(スライド)自在に支持する案内部を有している。スライド装置62とリニアガイド64との間の相対的な移動の長さ(スライド距離)は、例えば10mm以上150mm以下の範囲内にある。保持部材60は、スライド装置62に固定される側板部60Aと、側板部60Aの下端から水平方向に拡がる底板部60Bと、を有している。底板部60Bには、吸着装置12と、後述する高さ規制部材70とが固定されている。保持部材60は、例えば金属のプレートを加工することによって作製される。保持部材60の底板部60Bには、吸着装置12および高さ規制部材70を固定するための開口部が設けられている。
【0021】
ロボットハンド66は、モータなどのアクチュエータによって駆動され、上下左右に移動することができる。ロボットハンド66により、吸着パッド10は、台板Mの上面における任意の位置にアクセスすることができる。
【0022】
本実施形態における成形体並べ装置100は、更に、ロボットハンド66が台板Mに向かって降下するとき、吸着パッド10から台板Mまでの最接近距離を所定値に調整する高さ規制部材70を備えている。高さ規制部材70は、例えば、台板Mに衝突し得るヘッド部70Aを有するボルト部70Bから構成され得る。ボルト部70Bは、保持部材60の底板部60Bに設けられたネジ穴に嵌め合わせられる。ボルト部70Bを軸回りに回転させることにより、底板部60Bから下方に突出するボルト部70Bの長さを調整することができる。高さ規制部材70のヘッド部70Aの下端は、吸着パッド10の下端よりも低い位置に調整されている。高さ規制部材70は、変形しにくい機械的剛性を有する、例えば鋼またはステレンス合金などの金属材料から形成され得る。
【0023】
ロボットハンド66が下降すると、リニアガイド64とともに、保持部材60および吸着装置12も下降する。しかし、高さ規制部材70のヘッド部70Aの下端が台板Mに当たると、保持部材60および吸着装置12は降下を停止する。保持部材60とリニアガイド64とは相対的に上下移動することが可能であるため、ロボットハンド66およびリニアガイド64は、高さ規制部材70によって規制されることなく、更に降下することが可能である。このような高さ規制部材70による技術的な効果については後述する。
【0024】
本実施形態において、吸着装置12の下端に設けられた吸着パッド10は、成形体50を吸着して保持する部品であり、「真空カップ」または「サクションカップ」とも呼ばれる。なお、本開示において、「真空」とは、周囲の圧力を下まわる圧力範囲にある状態を広く含む。
【0025】
本実施形態における吸着パッド10は、例えば、1.5段または2.5段以上のベローズ構造を有している。吸着パッド10は、少なくとも上下方向に伸縮可能な構造を有しており、例えばシリコーンゴムなどの弾力性を有する材料から形成され得る。吸着パッド10が成形体50を吸着しているとき、吸着パッド10の上下方向サイズ(長さ)は、吸着パッド10の吸着解除時における上下方向サイズ(長さ)よりも短くなる。吸着時と吸着解除時における長さの差であるストロークは、例えば、0.1mm以上15mm以下の範囲にある。
【0026】
本実施形態における成形体並べ装置100は、エアチューブ20の途中に設けられたスピードコントローラ30を更に備えている。スピードコントローラ30は、エアチューブ20を流れるエア流速を制御するように構成されている。スピードコントローラ30は、絞り弁30Aと逆止弁30Bを有している。絞り弁30Aは、エアチューブ20内を流れるエアの体積流量を可変に調節し、エアの流速をコントロールする。絞り弁30Aの流量調整は、例えば、ニードルによって絞り開度を無段階に調整することによって実現する。逆止弁30Bは、吸着装置12から真空装置40へのエアの流れは抑制せず、真空装置40から吸着装置12へはエアが流れないようにするために用いられる。スピードコントローラ30の役割については、後述する。
【0027】
真空装置40は、吸着動作において真空を発生し、吸着解除時には真空を破壊するように構成されている。真空装置40は、例えば圧縮エアの送入によって真空を発生する装置であり得る。このような装置では、圧縮エアがノズルによって絞られて高速でディフューザへ流入する。圧縮エアがノズルから高速で噴出されるとき、エアの圧力が低下して真空が発生する。真空装置が発生する真空により、エアチューブ20内の圧力が低下し、吸着パッド10に吸引力が発生する。真空の破壊は、真空状態にエアチューブ20および吸着パッド10の内部にエア(真空破壊エア)を導入することによって圧力を上昇させ、真空状態を停止することを意味する。真空の破壊を開始して真空の破壊が達成されるまでの間に、成形体50を吸着している吸着パッド10の上下方向サイズが延び、やがて成形体50は吸着パッド10から離れることになる。
【0028】
成形体並べ装置100は、成形体50をピックアップするために吸着パッド10が成形体50を吸着するとき、真空装置40によってエアチューブ20および吸着パッド10内の圧力を減少させる。これにより、吸着パッド10に吸着した成形体50を吸着パッド10の縮みに応じて第1速度で上昇させることができる。このとき、ロボットハンド66は静止していることが好ましい。
【0029】
また、成形体並べ装置100は、ピックアップした成形体50を台板上に置くために吸着パッド10による成形体50の吸着を解除するとき、スピードコントローラ30を介してエアチューブ20内を流れる真空破壊エアによってエアチューブ20および吸着パッド10内の圧力を増加させる(真空の破壊)。このとき、スピードコントローラ30による流速の制御を行うことにより、吸着パッド10に吸着した成形体50を吸着パッド10の伸びに応じて前記第1速度よりも低い第2速度で降下させることができる。具体的には、真空を破壊するとき、絞り弁30Aの流量を調整することにより、真空の破壊に要する時間を長くすることができ、真空破壊エアによって吸着パッド10を下方に伸長させることができる。真空破壊エアの流量は、例えば0.1リッター/分以下に調整され得る。
【0030】
本実施形態では、スピードコントローラ30により、上記の第1速度を、例えば15mm/秒以上、第2速度を、例えば10mm/秒以下に調整することが好ましい。本実施形態では、ピックアップした成形体50を台板上に置くために吸着パッド10による成形体50の吸着を解除するとき、吸着パッド10の伸びに応じて台板との衝突による衝撃を緩和または抑制するために十分に低い速度(第2速度)で降下させることができる。その結果、成形体50の厚さ方向におけるサイズが小さい(例えば、厚さ10mm以下)場合でも、成形体50を焼結板などの台板上に置くとき、成形体50に割れ・欠け・ヒビなどが発生することを抑制することが可能になる。第2速度の好ましい範囲は、1mm/秒以上、8mm/秒以下の範囲にあり、5mm/秒以下であることが更に好ましい。
【0031】
以下、本実施形態の成形体並べ装置100の動作の例を説明する。
【0032】
まず、本実施形態の成形体並べ装置100は、
図2(a)に示される状態にある。次に、ロボットハンド66が降下する。ロボットハンド66は、高さ規制部材70のヘッド部70Aの下端が台板M1に当たったときに停止させる必要はなく、台板M1に当たった後も数mm~数cmは降下を続け、
図2(b)に示される状態に至る。高さ規制部材70のヘッド部70Aの下端が台板M1に当たった状態で、
図1の真空装置40によってエアチューブ20および吸着パッド10内の圧力を減少させることにより、吸着パッド10で成形体50を吸着する。
【0033】
図2(c)に示されるように、吸着パッド10に成形体50が吸着した後、吸着パッド10は上下方向に収縮して、吸着した成形体50を第1速度で持ち上げる。その後、ロボットハンド66によってリニアガイド64を上昇させると、リニアガイド64とスライド装置62との間での相対的上下移動の限界に達して保持部材60の上昇が開始される。こうして、
図2(d)に示されるように、吸着装置12および成形体50を上昇させることができる。
【0034】
この例において、高さ規制部材70の下端(ヘッド部70Aの下端)の位置は、吸着パッド10の下端が成形体50の上面に当たって吸着が可能な高さに設定されることが好ましい。吸着開始前における吸着パッド10は、自重により最も長く伸びた状態にあるため、その長さを考慮して高さ規制部材70の下端の位置が調整され得る。
【0035】
次に、成形体50を台板M2上に並べる動作を説明する。
【0036】
図3(a)に示すように、ロボットハンド66を台板M2の所望の位置の上方に移動させ、ロボットハンド66の降下を開始させる。
図3(b)に示すように、高さ規制部材70の下端が当たるまでロボットハンド66を降下させる。高さ規制部材70の下端が台板M2に当たるまでは、ロボットハンド66とともに、吸着パッド10に吸着された成形体50も降下する。しかし、台板M2の上面に高さ規制部材70の下端があった後は、スライド装置62とリニアガイド64との間で相対的な移動が生じるため、
図3(c)に示すよう、吸着パッド10に吸着された成形体50の降下は停止する。
【0037】
図3(c)に示される例において、吸着パッド10に吸着された成形体50と台板M2との間には隙間が形成されている。この隙間の大きさは、台板M2の歪み、成形体50の形状または寸法のばらつき、吸着位置のずれなどに起因して僅かに変化し得る。台板M2として焼結板が用いられる場合、焼結板は焼結炉内で何度も1000℃程度の高温雰囲気に晒されるため、歪みや撓みが生じていることが多い。隙間が大きすぎると、成形体50の吸着を解除したとき、成形体50が落下して台板M2に衝突する時の衝撃が大きくなるため、成形体50の割れ・欠け・ヒビが発生する可能性が高まる。また、隙間を小さく設定した場合、ロボットハンド66の降下時に成形体50が台板M2に衝突する危険がある。しかしながら、本実施形態では、高さ規制部材70の調整機能により、隙間を高い精度で所望の範囲内に調整することができる。
【0038】
次に、高さ規制部材70の下端が台板M2の上面に当たった状態で、
図1のエアチューブ20内を流れる真空破壊エアによってエアチューブ20および吸着パッド10内の圧力を増加させる。このとき、吸着パッド10は、上下方向に低速度で伸びる。このときの吸着パッド10の伸びる速度あるいは時間は、
図1のスピードコントローラ30によって所望の範囲に調整される。こうして、
図3(d)に示すように、吸着パッド10に吸着した成形体50を台板M2までソフトに降下させることができる。
【0039】
本開示における希土類系焼結磁石の製造方法の実施形態は、希土類系焼結磁石の粉末から成形体を作製する工程と、上記の成形体並べ装置を用いて成形体をピックアップし、成形体を移動させて台板上に置く工程とを含む。
【0040】
本実施形態における希土類系焼結磁石の製造方法によれば、粉末成形体の厚さ方向におけるサイズが10mm以下であっても、粉末成形体に割れ・欠け・ヒビなどが発生することを抑制できる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本開示の成形体並べ装置および希土類系焼結磁石の製造方法は、例えばR-T-B系焼結磁石の製造分野で広く利用され得る。
【符号の説明】
【0042】
10・・・吸着パッド
12・・・吸着装置
20・・・エアチューブ
30・・・スピードコントローラ
30A・・・絞り弁
30B・・・逆止弁
40・・・真空装置
50・・・成形体
60・・・保持部材
60A・・・側板部
60B・・・底板部
62・・・スライド装置
64・・・リニアガイド
66・・・ロボットハンド
70・・・高さ規制部材
70A・・・ヘッド部
70B・・・ボルト部
100・・・成形体並べ装置