IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鉄住金化学株式会社の特許一覧

特開2024-141762樹脂組成物、樹脂フィルム、積層体、カバーレイフィルム、樹脂付き銅箔、金属張積層板及び回路基板
<>
  • 特開-樹脂組成物、樹脂フィルム、積層体、カバーレイフィルム、樹脂付き銅箔、金属張積層板及び回路基板 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141762
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】樹脂組成物、樹脂フィルム、積層体、カバーレイフィルム、樹脂付き銅箔、金属張積層板及び回路基板
(51)【国際特許分類】
   C08L 79/08 20060101AFI20241003BHJP
   C08K 5/5397 20060101ALI20241003BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20241003BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20241003BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20241003BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20241003BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C08L79/08 B
C08K5/5397
C08G73/10
C08J5/18
B32B27/00 M
B32B27/34
H05K1/03 610N
H05K1/03 630H
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053582
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115118
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 和浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095588
【弁理士】
【氏名又は名称】田治米 登
(74)【代理人】
【識別番号】100094422
【弁理士】
【氏名又は名称】田治米 惠子
(74)【代理人】
【識別番号】110000224
【氏名又は名称】弁理士法人田治米国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川上 翔平
(72)【発明者】
【氏名】須藤 芳樹
【テーマコード(参考)】
4F071
4F100
4J002
4J043
【Fターム(参考)】
4F071AA22
4F071AA60
4F071AA81
4F071AA86
4F071AA88
4F071AB25
4F071AE07
4F071AF40Y
4F071AF47
4F071AH13
4F071BA02
4F071BB02
4F071BC01
4F071BC12
4F100AB17
4F100AB17A
4F100AB33
4F100AB33A
4F100AK01A
4F100AK12
4F100AK49
4F100AK49B
4F100AL09
4F100AT00A
4F100BA02
4F100BA07
4F100CB00B
4F100EH46
4F100EJ42
4F100GB43
4F100JA04B
4F100JA05
4F100JA07
4F100JB16B
4F100JG04B
4F100JG05
4F100JG05B
4F100JJ07
4F100JK07
4F100JK07B
4F100JL11B
4F100YY00B
4J002CM041
4J002EW146
4J002FD126
4J002FD136
4J002GF00
4J002GJ01
4J002GQ01
4J043PA04
4J043PA06
4J043PA08
4J043PC025
4J043PC026
4J043PC115
4J043PC116
4J043QA16
4J043QB15
4J043QB26
4J043QB31
4J043RA35
4J043SA06
4J043SA43
4J043SA44
4J043SA46
4J043SA49
4J043SA72
4J043SB02
4J043SB03
4J043TA22
4J043TA32
4J043TA70
4J043TA71
4J043TB02
4J043TB03
4J043UA012
4J043UA022
4J043UA032
4J043UA042
4J043UA121
4J043UA122
4J043UA131
4J043UA132
4J043UA141
4J043UA142
4J043UA151
4J043UA171
4J043UA261
4J043UA331
4J043UA531
4J043UA561
4J043UA632
4J043UA681
4J043UB011
4J043UB012
4J043UB021
4J043UB022
4J043UB061
4J043UB062
4J043UB121
4J043UB122
4J043UB151
4J043UB152
4J043UB162
4J043UB221
4J043UB301
4J043UB302
4J043UB401
4J043UB402
4J043VA011
4J043VA021
4J043VA022
4J043VA031
4J043VA041
4J043VA042
4J043VA051
4J043VA061
4J043VA062
4J043VA071
4J043VA081
4J043VA101
4J043XA03
4J043XA14
4J043XA15
4J043XA16
4J043XA19
4J043XB27
4J043ZA02
4J043ZA05
4J043ZA12
4J043ZA13
4J043ZA43
4J043ZB11
4J043ZB50
4J043ZB58
(57)【要約】
【課題】 熱可塑性ポリイミドの誘電特性を悪化させることなく、難燃性を向上させ得る樹脂組成物及び樹脂フィルムを提供する。
【解決手段】 (A)熱可塑性ポリイミド及び(B)融点が250℃以上であり、一般式(1)で表されるホスフィン化合物を含有する樹脂組成物及び樹脂フィルム。成分(A)に対する成分(B)の重量比(B/A)は、0.1~1の範囲内であることが好ましい。
【化1】
[式(1)中、Xはフェニレン基、キシリレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基、メチレン基、又はエチレン基から選ばれる2価の基を示し、Ar~Arは、それぞれ同一又は異なってアリール基を示す。]
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)及び成分(B);
(A)熱可塑性ポリイミド、
及び、
(B)融点が250℃以上であり、下記の一般式(1)で表されるホスフィン化合物、
を含有する樹脂組成物。
【化1】
[式(1)中、Xはフェニレン基、キシリレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基、メチレン基、又はエチレン基から選ばれる2価の基を示し、Ar~Arは、それぞれ同一又は異なってアリール基を示す。]
【請求項2】
前記成分(A)に対する前記成分(B)の重量比(B/A)が0.1~1の範囲内である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性ポリイミドは、テトラカルボン酸無水物成分から誘導されるテトラカルボン酸無水物残基及びジアミン成分から誘導されるジアミン残基を含有するものであり、前記ジアミン成分に対し、脂肪族ジアミンを40モル%以上含有する請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記脂肪族ジアミンが、ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基が第1級のアミノメチル基又はアミノ基に置換されてなるダイマージアミンを主成分とするダイマージアミン組成物である請求項3に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
下記成分(A)及び成分(B);
(A)熱可塑性ポリイミド、
及び、
(B)融点が250℃以上で、下記の一般式(1)で表されるホスフィン化合物、
を含有する樹脂フィルム。
【化2】
[式(1)中、Xはフェニレン基、キシリレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基、メチレン基、又はエチレン基から選ばれる2価の基を示し、Ar~Arは、それぞれ同一又は異なってアリール基を示す。]
【請求項6】
温度24~26℃、湿度45~55%RHの恒温恒湿条件のもと24時間調湿後に、スプリットポスト誘電体共振器(SPDR)により測定される周波数20GHzにおける誘電正接(Tanδ)と、温度24~26℃での純水浸漬条件のもと48時間後に、スプリットポスト誘電体共振器(SPDR)により測定される周波数20GHzにおける誘電正接(Tanδ)との差Tanδ-Tanδが0.0020未満である請求項5に記載の樹脂フィルム。
【請求項7】
基材と、前記基材の少なくとも一方の面に積層された接着剤層と、を有する積層体であって、前記接着剤層が、請求項5に記載の樹脂フィルムからなることを特徴とする積層体。
【請求項8】
カバーレイ用フィルム材層と、該カバーレイ用フィルム材層に積層された接着剤層とを有するカバーレイフィルムであって、前記接着剤層が、請求項5に記載の樹脂フィルムからなることを特徴とするカバーレイフィルム。
【請求項9】
接着剤層と銅箔とを積層した樹脂付き銅箔であって、前記接着剤層が、請求項5に記載の樹脂フィルムからなることを特徴とする樹脂付き銅箔。
【請求項10】
絶縁樹脂層と、前記絶縁樹脂層の少なくとも一方の面に積層された金属層と、を有する金属張積層板であって、前記絶縁樹脂層の少なくとも1層が、請求項5に記載の樹脂フィルムからなることを特徴とする金属張積層板。
【請求項11】
請求項10に記載の金属張積層板の前記金属層を配線加工してなる回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板等の回路基板において接着剤として有用な樹脂組成物、これを用いる樹脂フィルム、積層体、カバーレイフィルム、樹脂付き銅箔、金属張積層板及び回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の通信機器の高速化に伴い、5G通信、更には6G通信の開発が進んでおり、フレキシブルプリント配線板(FPC;Flexible Printed Circuits)などの回路基板の材料についても、高周波信号の伝送損失の低減への対応が求められている。
【0003】
ポリイミドは耐熱性、寸法安定性に優れ、骨格に脂肪族鎖を組み込むことによって低極性化したり、ポリイミド骨格部分の結晶化によって分子運動を抑制して低誘電正接化したりすることが可能であり、高周波信号伝送に対応するプリント配線板への利用が期待されている。しかしながら、ポリイミドはその骨格に由来して吸湿性及び吸水性を有することから、その低減が課題となっている。外部環境に起因して誘電体であるポリイミドが吸湿すると、誘電正接が悪化し、伝送損失の増大が引き起こされるためである。
【0004】
特許文献1では、ジアミン成分として脂肪族ジアミンであるダイマージアミンを使用するポリイミド組成物が提案されている。しかし、ポリイミドへの脂肪族鎖の導入により難燃性が低下するという懸念がある。
【0005】
特許文献2では、熱可塑性ポリイミドに難燃性の芳香族縮合リン酸エステルを配合した樹脂組成物が提案されている。しかし、芳香族縮合リン酸エステルは溶剤可溶性であることから、回路基板の製造過程での加熱処理によってブリードアウトが生じる懸念がある。
【0006】
特許文献3では、ジアミン成分としてダイマージアミンを使用する熱可塑性ポリイミドに、難燃剤として有機ホスフィン酸の金属塩を配合した樹脂組成物が提案されている。しかし、有機ホスフィン酸の金属塩は、極性が高いために吸湿性及び吸水性が悪化し、誘電特性を悪化させる懸念があり、例えば、5G通信以降のダイレクトコンバージョン方式での高周波信号の伝送において、電気信号のロスなどの不都合が生じるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5777944号公報
【特許文献2】特開2021-070824号公報
【特許文献3】特許第6267509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
熱可塑性ポリイミドに難燃剤を配合した従来技術では、ブリードアウトの発生や、吸湿性や吸水性に伴う誘電特性の悪化という問題があり、その解決が求められていた。
【0009】
従って、本発明の目的は、熱可塑性ポリイミドの誘電特性を悪化させることなく、難燃性を向上させ得る樹脂組成物及び樹脂フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の樹脂組成物は、下記成分(A)及び成分(B);
(A)熱可塑性ポリイミド、
及び、
(B)融点が250℃以上であり、下記の一般式(1)で表されるホスフィン化合物、
を含有するものである。
【0011】
【化1】
【0012】
式(1)中、Xはフェニレン基、キシリレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基、メチレン基、又はエチレン基から選ばれる2価の基を示し、Ar~Arは、それぞれ同一又は異なってアリール基を示す。
【0013】
また、本発明の樹脂フィルムは、下記成分(A)及び成分(B);
(A)熱可塑性ポリイミド、
及び、
(B)融点が250℃以上で、上記一般式(1)で表されるホスフィン化合物、
を含有するものである。
【0014】
本発明の樹脂組成物及び樹脂フィルムは、前記成分(A)に対する前記成分(B)の重量比(B/A)が0.1~1の範囲内であってよい。
【0015】
本発明の樹脂組成物及び樹脂フィルムは、前記熱可塑性ポリイミドは、テトラカルボン酸無水物成分から誘導されるテトラカルボン酸無水物残基及びジアミン成分から誘導されるジアミン残基を含有するものであり、前記ジアミン成分に対し、脂肪族ジアミンを40モル%以上含有するものであってよい。
【0016】
本発明の樹脂組成物及び樹脂フィルムは、前記脂肪族ジアミンが、ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基が第1級のアミノメチル基又はアミノ基に置換されてなるダイマージアミンを主成分とするダイマージアミン組成物であってよい。
【0017】
本発明の樹脂フィルムは、温度24~26℃、湿度45~55%RHの恒温恒湿条件のもと24時間調湿後に、スプリットポスト誘電体共振器(SPDR)により測定される周波数20GHzにおける誘電正接(Tanδ)と、温度24~26℃での純水浸漬条件のもと48時間後に、スプリットポスト誘電体共振器(SPDR)により測定される周波数20GHzにおける誘電正接(Tanδ)との差Tanδ-Tanδが0.0020未満であってよい。
【0018】
本発明の積層体は、基材と、前記基材の少なくとも一方の面に積層された接着剤層と、を有する積層体であって、前記接着剤層が上記樹脂フィルムからなるものである。
【0019】
本発明のカバーレイフィルムは、カバーレイ用フィルム材層と、該カバーレイ用フィルム材層に積層された接着剤層とを有するカバーレイフィルムであって、前記接着剤層が上記樹脂フィルムからなるものである。
【0020】
本発明の樹脂付き銅箔は、接着剤層と銅箔とを積層した樹脂付き銅箔であって、前記接着剤層が上記樹脂フィルムからなるものである。
【0021】
本発明の金属張積層板は、絶縁樹脂層と、前記絶縁樹脂層の少なくとも一方の面に積層された金属層と、を有する金属張積層板であって、前記絶縁樹脂層の少なくとも1層が上記樹脂フィルムからなるものである。
【0022】
本発明の回路基板は、上記金属張積層板の前記金属層を配線加工してなるものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明の樹脂組成物は、成分(A)の熱可塑性ポリイミドと、成分(B)のホスフィン化合物を含有しているので、フィルム化したときに優れた誘電特性と難燃性を有するものとなる。また、本発明の樹脂フィルムは、誘電正接の吸湿依存性が低く、誘電特性の安定性に優れ、難燃性にも優れている。従って、本発明の樹脂組成物及び樹脂フィルムは、例えば1GHz~60GHz帯の高周波信号の伝送を必要とする電子機器において、FPC等の回路基板の材料として特に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施の形態に係る金属張積層板の断面の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0026】
[樹脂組成物]
本実施の形態の樹脂組成物は、下記成分(A)及び成分(B);
(A)熱可塑性ポリイミド、
及び、
(B)融点が250℃以上で、下記の一般式(1)で表されるホスフィン化合物、
を含有する。
【0027】
【化2】
【0028】
式(1)中、Xはフェニレン基、キシリレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基、メチレン基、又はエチレン基から選ばれる2価の基を示し、Ar~Arは、それぞれ同一又は異なってアリール基を示す。
【0029】
[成分(A);熱可塑性ポリイミド]
成分(A)は熱可塑性ポリイミドである。ここで、「熱可塑性ポリイミド」とは、一般にガラス転移温度(Tg)が明確に確認できるポリイミドのことであるが、本発明では、動的粘弾性測定装置(DMA)を用いて測定した、30℃における貯蔵弾性率が1.0×10Pa以上であり、300℃における貯蔵弾性率が1.0×10Pa未満であるポリイミドをいう。また、「非熱可塑性ポリイミド」とは、一般に加熱しても軟化、接着性を示さないポリイミドのことであるが、本発明では、動的粘弾性測定装置(DMA)を用いて測定した、30℃における貯蔵弾性率が1.0×10Pa以上であり、300℃における貯蔵弾性率が5.0×10Pa以上であるポリイミドをいう。
【0030】
成分(A)の熱可塑性ポリイミドは、テトラカルボン酸無水物成分とジアミン成分とを反応させて得られるものであり、テトラカルボン酸無水物成分から誘導されるテトラカルボン酸無水物残基及びジアミン成分から誘導されるジアミン残基を含有する。成分(A)の熱可塑性ポリイミドは、テトラカルボン酸無水物残基又はジアミンジアミン残基中に、脂肪族鎖又は脂環式骨格を有することが好ましい。成分(A)の熱可塑性ポリイミドが脂肪族鎖又は脂環式骨格を有することによって、樹脂フィルムの低誘電正接化が可能となる。以下、テトラカルボン酸無水物成分及びジアミン成分について、好ましい具体例を挙げて説明する。
【0031】
(テトラカルボン酸無水物成分)
成分(A)の熱可塑性ポリイミドは、原料として一般に熱可塑性ポリイミドに使用されるテトラカルボン酸無水物を特に制限なく使用できるが、全テトラカルボン酸無水物成分に対して、下記の一般式(2)及び/又は(3)で表されるテトラカルボン酸無水物を合計で90モル%以上含有する原料を用いることが好ましい。換言すれば、成分(A)の熱可塑性ポリイミドは、全テトラカルボン酸残基に対して、下記の一般式(2)及び/又は(3)で表されるテトラカルボン酸無水物から誘導されるテトラカルボン酸残基を、合計で90モル%以上含有することが好ましい。下記の一般式(2)及び/又は(3)で表されるテトラカルボン酸無水物から誘導されるテトラカルボン酸残基を、全テトラカルボン酸残基に対して合計で90モル%以上含有させることによって、成分(A)の熱可塑性ポリイミドの柔軟性と耐熱性の両立が図りやすく好ましい。下記の一般式(2)及び/又は(3)で表されるテトラカルボン酸無水物から誘導されるテトラカルボン酸残基の合計が90モル%未満では、成分(A)の熱可塑性ポリイミドの溶剤溶解性が低下する傾向となる。
【0032】
【化3】
【0033】
一般式(2)中、Xは、単結合、または、下式から選ばれる2価の基を示し、一般式(3)中、Yで表される環状部分は、4員環、5員環、6員環、7員環又は8員環から選ばれる環状飽和炭化水素基を形成していることを示す。
【0034】
【化4】
【0035】
上記式において、Zは-C-、-(CH)n-又は-CH-CH(-O-C(=O)-CH)-CH-を示すが、nは1~20の整数を示す。
【0036】
上記一般式(2)で表されるテトラカルボン酸無水物としては、例えば、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、4,4’-オキシジフタル酸無水物(ODPA)、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(6FDA)、2,2-ビス〔4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル〕プロパン二無水物(BPADA)、p-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)(TAHQ)、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート(TMEG)などを挙げることができる。これらの中でも特に3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)が好ましい。BTDAを使用する場合は、カルボニル基(ケトン基)が接着性に寄与するため、成分(A)の熱可塑性ポリイミドの接着性を向上させることができる。また、BTDAは分子骨格に存在するケトン基と、後述する架橋形成のためのアミノ化合物のアミノ基が反応してC=N結合を形成する場合があり、耐熱性を向上させる効果を発現しやすい。このような観点から、全テトラカルボン酸残基に対して、BTDAから誘導されるテトラカルボン酸残基を好ましくは50モル%以上、より好ましくは60モル%以上含有することがよい。
【0037】
また、一般式(3)で表されるテトラカルボン酸無水物としては、例えば、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘプタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-シクロオクタンテトラカルボン酸二無水物などを挙げることができる。
【0038】
成分(A)の熱可塑性ポリイミドは、発明の効果を損なわない範囲で、上記一般式(2)及び一般式(3)で表されるテトラカルボン酸無水物以外の酸無水物から誘導されるテトラカルボン酸残基を含有することができる。そのようなテトラカルボン酸残基としては、特に制限はないが、例えば、ピロメリット酸二無水物、2,3',3,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'-又は2,3,3',4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3',3,4'-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3'',4,4''-、2,3,3'',4''-又は2,2'',3,3''-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1-ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,2,7,8-、1,2,6,7-又は1,2,9,10-フェナンスレン-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)テトラフルオロプロパン二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,8-ジメチル-1,2,3,5,6,7-ヘキサヒドロナフタレン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、2,6-又は2,7-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-(又は1,4,5,8-)テトラクロロナフタレン-1,4,5,8-(又は2,3,6,7-)テトラカルボン酸二無水物、2,3,8,9-、3,4,9,10-、4,5,10,11-又は5,6,11,12-ペリレン-テトラカルボン酸二無水物、ピラジン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ピロリジン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、チオフェン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、4,4’-ビス(2,3-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルメタン二無水物等の芳香族テトラカルボン酸二無水物から誘導されるテトラカルボン酸残基が挙げられる。
【0039】
(ジアミン成分)
成分(A)の熱可塑性ポリイミドは、原料として一般に熱可塑性ポリイミドに使用されるジアミン化合物を特に制限なく使用できるが、脂肪族ジアミンとして、ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基が1級のアミノメチル基又はアミノ基に置換されてなるダイマージアミンを主成分とするダイマージアミン組成物を、全ジアミン成分に対して、40モル%以上用いることが好ましく、60モル%以上用いることがより好ましい。つまり、成分(A)の熱可塑性ポリイミドは、全ジアミン残基に対して、ダイマージアミン組成物に由来するジアミン残基を、40モル%以上含有することが好ましく、60モル%以上含有することがより好ましい。ダイマージアミン組成物を上記の量で使用することによって、成分(A)の熱可塑性ポリイミドの誘電特性を改善させるとともに、ガラス転移温度の低温化(低Tg化)による熱圧着特性の改善及び低弾性率化による内部応力緩和を図ることができる。
【0040】
(ダイマージアミン組成物)
ダイマージアミン組成物は、下記成分(a)を主成分として含有するとともに、成分(b)及び(c)の量が制御されているものである。
【0041】
(a)ダイマージアミン;
(a)成分のダイマージアミンとは、ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基(-COOH)が、1級のアミノメチル基(-CH-NH)又はアミノ基(-NH)に置換されてなるジアミンを意味する。ダイマー酸は、不飽和脂肪酸の分子間重合反応によって得られる既知の二塩基酸であり、その工業的製造プロセスは業界でほぼ標準化されており、炭素数が11~22の不飽和脂肪酸を粘土触媒等にて二量化して得られる。工業的に得られるダイマー酸は、オレイン酸やリノール酸、リノレン酸などの炭素数18の不飽和脂肪酸を二量化することによって得られる炭素数36の二塩基酸が主成分であるが、精製の度合いに応じ、任意量のモノマー酸(炭素数18)、トリマー酸(炭素数54)、炭素数20~54の他の重合脂肪酸を含有する。また、ダイマー化反応後には二重結合が残存するが、本発明では、更に水素添加反応して不飽和度を低下させたものもダイマー酸に含めるものとする。(a)成分のダイマージアミンは、炭素数18~54の範囲内、好ましくは22~44の範囲内にある二塩基酸化合物の末端カルボン酸基を1級アミノメチル基又はアミノ基に置換して得られるジアミン化合物、と定義することができる。
【0042】
ダイマージアミンの特徴として、ダイマー酸の骨格に由来する特性を付与することができる。すなわち、ダイマージアミンは、分子量約560~620の巨大分子の脂肪族であるので、分子のモル体積を大きくし、熱可塑性ポリイミドの極性基を相対的に減らすことができる。このようなダイマー酸型ジアミンの特徴は、熱可塑性ポリイミドの耐熱性の低下を抑制しつつ、比誘電率と誘電正接を小さくして誘電特性を向上させることに寄与すると考えられる。また、2つの自由に動く炭素数7~9の疎水鎖と、炭素数18に近い長さを持つ2つの鎖状の脂肪族アミノ基とを有するので、熱可塑性ポリイミドに柔軟性を与えるのみならず、熱可塑性ポリイミドを非対象的な化学構造や非平面的な化学構造とすることができるので、熱可塑性ポリイミドの低誘電率化及び低誘電正接化を図ることができると考えられる。
【0043】
ダイマージアミン組成物は、分子蒸留等の精製方法によって(a)成分のダイマージアミン含有量を96重量%以上、好ましくは97重量%以上、より好ましくは98重量%以上にまで高めたものを使用することがよい。(a)成分のダイマージアミン含有量を96重量%以上とすることで、熱可塑性ポリイミドの分子量分布の拡がりを抑制することができる。なお、技術的に可能であれば、ダイマージアミン組成物のすべて(100重量%)が、(a)成分のダイマージアミンによって構成されていることが最もよい。
【0044】
(b)炭素数10~40の範囲内にある一塩基酸化合物の末端カルボン酸基を1級アミノメチル基又はアミノ基に置換して得られるモノアミン化合物;
炭素数10~40の範囲内にある一塩基酸化合物は、ダイマー酸の原料に由来する炭素数10~20の範囲内にある一塩基性不飽和脂肪酸、及びダイマー酸の製造時の副生成物である炭素数21~40の範囲内にある一塩基酸化合物の混合物である。モノアミン化合物は、これらの一塩基酸化合物の末端カルボン酸基を1級アミノメチル基又はアミノ基に置換して得られるものである。
【0045】
(b)成分のモノアミン化合物は、熱可塑性ポリイミドの分子量増加を抑制する成分である。ポリアミド酸又は熱可塑性ポリイミドの重合時に、該モノアミン化合物の単官能のアミノ基が、ポリアミド酸又は熱可塑性ポリイミドの末端酸無水物基と反応することで末端酸無水物基が封止され、ポリアミド酸又は熱可塑性ポリイミドの分子量増加を抑制する。
【0046】
(c)炭素数41~80の範囲内にある炭化水素基を有する多塩基酸化合物の末端カルボン酸基を1級アミノメチル基又はアミノ基に置換して得られるアミン化合物(但し、前記ダイマージアミンを除く);
炭素数41~80の範囲内にある炭化水素基を有する多塩基酸化合物は、ダイマー酸の製造時の副生成物である炭素数41~80の範囲内にある三塩基酸化合物を主成分とする多塩基酸化合物である。また、炭素数41~80のダイマー酸以外の重合脂肪酸を含んでいてもよい。アミン化合物は、これらの多塩基酸化合物の末端カルボン酸基を1級アミノメチル基又はアミノ基に置換して得られるものである。
【0047】
(c)成分のアミン化合物は、熱可塑性ポリイミドの分子量増加を助長する成分である。トリマー酸を由来とするトリアミン体を主成分とする三官能以上のアミノ基が、ポリアミド酸又は熱可塑性ポリイミドの末端酸無水物基と反応し、熱可塑性ポリイミドの分子量を急激に増加させる。また、炭素数41~80のダイマー酸以外の重合脂肪酸から誘導されるアミン化合物も、熱可塑性ポリイミドの分子量を増加させ、ポリアミド酸又は熱可塑性ポリイミドのゲル化の原因となる。
【0048】
上記ダイマージアミン組成物は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いた測定によって各成分の定量を行う場合、ダイマージアミン組成物の各成分のピークスタート、ピークトップ及びピークエンドの確認を容易にするために、ダイマージアミン組成物を無水酢酸及びピリジンで処理したサンプルを使用し、また内部標準物質としてシクロヘキサノンを使用する。このように調製したサンプルを用いて、GPCのクロマトグラムの面積パーセントで各成分を定量する。各成分のピークスタート及びピークエンドは、各ピーク曲線の極小値とし、これを基準にクロマトグラムの面積パーセントの算出を行うことができる。
【0049】
また、本発明で用いるダイマージアミン組成物は、GPC測定によって得られるクロマトグラムの面積パーセントで、成分(b)及び(c)の合計が4%以下、好ましくは4%未満がよい。成分(b)及び(c)の合計を4%以下とすることで、熱可塑性ポリイミドの分子量分布の拡がりを抑制することができる。
【0050】
また、(b)成分のクロマトグラムの面積パーセントは、好ましくは3%以下、より好ましくは2%以下、更に好ましくは1%以下がよい。このような範囲にすることで、熱可塑性ポリイミドの分子量の低下を抑制することができ、更にテトラカルボン酸無水物成分及びジアミン成分の仕込みのモル比の範囲を広げることができる。なお、(b)成分は、ダイマージアミン組成物中に含まれていなくてもよい。
【0051】
また、(c)成分のクロマトグラムの面積パーセントは、2%以下であり、好ましくは1.8%以下、より好ましくは1.5%以下がよい。このような範囲にすることで、熱可塑性ポリイミドの分子量の急激な増加を抑制することができ、更に樹脂フィルムの広域の周波数での誘電正接の上昇を抑えることができる。なお、(c)成分は、ダイマージアミン組成物中に含まれていなくてもよい。
【0052】
また、成分(b)及び(c)のクロマトグラムの面積パーセントの比率(b/c)が1以上である場合、テトラカルボン酸無水物成分及びジアミン成分のモル比(テトラカルボン酸無水物成分/ジアミン成分)は、好ましくは0.97以上1.0未満とすることがよく、このようなモル比にすることで、熱可塑性ポリイミドの分子量の制御がより容易となる。
【0053】
また、成分(b)及び(c)の前記クロマトグラムの面積パーセントの比率(b/c)が1未満である場合、テトラカルボン酸無水物成分及びジアミン成分のモル比(テトラカルボン酸無水物成分/ジアミン成分)は、好ましくは0.97以上1.1以下とすることがよく、このようなモル比にすることで、熱可塑性ポリイミドの分子量の制御がより容易となる。
【0054】
本発明で用いるダイマージアミン組成物は、(a)成分のダイマージアミン以外の成分を低減する目的で精製することが好ましい。精製方法としては、特に制限されないが、蒸留法や沈殿精製等の公知の方法が好適である。精製前のダイマージアミン組成物は、市販品での入手が可能であり、例えばクローダジャパン社製のPRIAMINE1073(商品名)、同PRIAMINE1074(商品名)、同PRIAMINE1075(商品名)等が挙げられる。
【0055】
成分(A)の熱可塑性ポリイミドに使用されるダイマージアミン以外のジアミン化合物としては、芳香族ジアミン化合物、脂肪族ジアミン化合物などを挙げることができる。それらの具体例としては、1,4-ジアミノベンゼン(p-PDA;パラフェニレンジアミン)、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル(m-TB)、2,2’-n-プロピル-4,4’-ジアミノビフェニル(m-NPB)、4-アミノフェニル-4’-アミノベンゾエート(APAB)、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[1-(3-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、9,9-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]フルオレン、2,2-ビス-[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-メチレンジ-o-トルイジン、4,4’-メチレンジ-2,6-キシリジン、4,4’-メチレン-2,6-ジエチルアニリン、3,3’-ジアミノジフェニルエタン、3,3’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメトキシベンジジン、3,3''-ジアミノ-p-テルフェニル、4,4'-[1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、4,4'-[1,3-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、ビス(p-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(p-β-アミノ-t-ブチルフェニル)エーテル、ビス(p-β-メチル-δ-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(2-メチル-4-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(1,1-ジメチル-5-アミノペンチル)ベンゼン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン、2,4-ビス(β-アミノ-t-ブチル)トルエン、2,4-ジアミノトルエン、m-キシレン-2,5-ジアミン、p-キシレン-2,5-ジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、2,6-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノ-1,3,4-オキサジアゾール、ピペラジン、2'-メトキシ-4,4'-ジアミノベンズアニリド、4,4'-ジアミノベンズアニリド、1,3-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼン、6-アミノ-2-(4-アミノフェノキシ)ベンゾオキサゾール、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン等のジアミン化合物が挙げられる。
【0056】
成分(A)の熱可塑性ポリイミドは、上記のテトラカルボン酸無水物成分とジアミン成分を溶媒中で反応させ、ポリアミド酸を生成したのち加熱閉環させることにより製造できる。例えば、テトラカルボン酸無水物成分とジアミン成分をほぼ等モルで有機溶媒中に溶解させて、0~100℃の範囲内の温度で30分~24時間撹拌し重合反応させることで熱可塑性ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸が得られる。反応にあたっては、生成する前駆体が有機溶媒中に5~50重量%の範囲内、好ましくは10~40重量%の範囲内となるように反応成分を溶解する。重合反応に用いる有機溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、2-ブタノン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサメチルホスホルアミド、N-メチルカプロラクタム、硫酸ジメチル、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム、トリグライム、メタノール、エタノール、ベンジルアルコール、クレゾール等が挙げられる。これらの溶媒を2種以上併用して使用することもでき、更にはキシレン、トルエンのような芳香族炭化水素の併用も可能である。また、このような有機溶媒の使用量としては特に制限されるものではないが、重合反応によって得られるポリアミド酸溶液の濃度が5~50重量%程度になるような使用量に調整して用いることが好ましい。
【0057】
合成されたポリアミド酸は、通常、反応溶媒溶液として使用することが有利であるが、必要により濃縮、希釈又は他の有機溶媒に置換することができる。また、ポリアミド酸は一般に溶媒可溶性に優れるので、有利に使用される。ポリアミド酸の溶液の粘度は、500mPa・s~100,000mPa・sの範囲内であることが好ましい。この範囲を外れると、コーター等による塗工作業の際にフィルムに厚みムラ、スジ等の不良が発生し易くなる。
【0058】
ポリアミド酸をイミド化させて熱可塑性ポリイミドを形成させる方法は、特に制限されず、例えば前記溶媒中で、80~400℃の範囲内の温度条件で1~24時間かけて加熱するといった熱処理が好適に採用される。また、温度は一定の温度条件で加熱しても良いし、工程の途中で温度を変えることもできる。
【0059】
成分(A)の熱可塑性ポリイミドにおいて、上記テトラカルボン酸無水物成分及びジアミン成分の種類や、2種以上のテトラカルボン酸無水物成分又はジアミン成分を適用する場合のそれぞれのモル比を選定することにより、誘電特性、熱膨張係数、引張弾性率、ガラス転移温度等を制御することができる。また、成分(A)の熱可塑性ポリイミドにおいて、ポリイミドの構造単位を複数有する場合は、ブロックとして存在しても、ランダムに存在していてもよいが、ランダムに存在することが好ましい。
【0060】
成分(A)の熱可塑性ポリイミドの重量平均分子量は、例えば10,000~200,000の範囲内が好ましく、このような範囲内であれば、熱可塑性ポリイミドの重量平均分子量の制御が容易となる。また、例えばFPC用の接着剤として適用する場合、熱可塑性ポリイミドの重量平均分子量は、20,000~150,000の範囲内がより好ましく、40,000~150,000の範囲内が更に好ましい。熱可塑性ポリイミドの重量平均分子量が20,000未満である場合、フロー耐性が悪化する傾向となる。一方、熱可塑性ポリイミドの重量平均分子量が150,000を超えると、過度に粘度が増加して溶剤に不溶になり、塗工作業の際に接着剤層の厚みムラ、スジ等の不良が発生しやすい傾向になる。
【0061】
成分(A)の熱可塑性ポリイミドのイミド基濃度は、好ましくは22重量%以下、より好ましくは20重量%以下がよい。ここで、「イミド基濃度」は、熱可塑性ポリイミド中のイミド基部(-(CO)-N-)の分子量を、熱可塑性ポリイミドの構造全体の分子量で除した値を意味する。イミド基濃度が22重量%を超えると、樹脂自体の分子量が小さくなるとともに、極性基の増加によって低吸湿性も悪化し、Tg及び弾性率が上昇する。
【0062】
成分(A)の熱可塑性ポリイミドは、完全にイミド化された構造が最も好ましい。但し、熱可塑性ポリイミドの一部がアミド酸となっていてもよい。そのイミド化率は、フーリエ変換赤外分光光度計(市販品:日本分光製FT/IR620)を用い、1回反射ATR法にて熱可塑性ポリイミド薄膜の赤外線吸収スペクトルを測定することによって、1015cm-1付近のベンゼン環吸収体を基準とし、1780cm-1のイミド基に由来するC=O伸縮の吸光度から算出することができる。
【0063】
<架橋形成>
成分(A)の熱可塑性ポリイミドがケトン基を有する場合に、該ケトン基と、少なくとも2つの第1級のアミノ基を官能基として有するアミノ化合物(以下、「架橋形成用アミノ化合物」と記すことがある)のアミノ基を反応させてC=N結合を形成させることによって、架橋構造を形成することができる。架橋構造の形成によって、接着剤層を形成する熱可塑性ポリイミドの耐熱性を向上させることができる。ケトン基を有する熱可塑性ポリイミドを形成するために好ましいテトラカルボン酸無水物としては、例えば3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)を、ジアミン化合物としては、例えば、4,4’―ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゾフェノン(BABP)、1,3-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン(BABB)等の芳香族ジアミンを挙げることができる。
【0064】
架橋構造を形成させる目的において、本実施の形態の樹脂組成物は、特に、全テトラカルボン酸残基に対して、BTDAから誘導されるBTDA残基を、好ましくは50モル%以上、より好ましくは60モル%以上含有する上記成分(A)の熱可塑性ポリイミド、及び架橋形成用アミノ化合物、を含むことが好ましい。なお、本発明において、「BTDA残基」とは、BTDAから誘導された4価の基のことを意味する。
【0065】
架橋形成用アミノ化合物としては、(I)ジヒドラジド化合物、(II)芳香族ジアミン、(III)脂肪族アミン等を例示することができる。これらの中でも、ジヒドラジド化合物が好ましい。ジヒドラジド化合物以外の脂肪族アミンは、室温でも架橋構造を形成しやすく、ワニスの保存安定性の懸念があり、一方、芳香族ジアミンは、架橋構造の形成のために高温にする必要がある。このように、ジヒドラジド化合物を使用した場合は、ワニスの保存安定性と硬化時間の短縮化を両立させることができる。ジヒドラジド化合物としては、例えば、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ピメリン酸ジヒドラジド、スベリン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、ジグリコール酸ジヒドラジド、酒石酸ジヒドラジド、リンゴ酸ジヒドラジド、フタル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、2,6-ナフトエ二酸ジヒドラジド、4,4-ビスベンゼンジヒドラジド、1,4-ナフトエ酸ジヒドラジド、2,6-ピリジン二酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド等のジヒドラジド化合物が好ましい。以上のジヒドラジド化合物は、単独でもよいし、2種類以上混合して用いることもできる。
【0066】
また、上記(I)ジヒドラジド化合物、(II)芳香族ジアミン、(III)脂肪族アミン等のアミノ化合物は、例えば(I)と(II)の組み合わせ、(I)と(III)との組み合わせ、(I)と(II)と(III)との組み合わせのように、カテゴリーを超えて2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0067】
また、架橋形成用アミノ化合物による架橋で形成される網目状の構造をより密にするという観点から、本発明で使用する架橋形成用アミノ化合物は、その分子量(架橋形成用アミノ化合物がオリゴマーの場合は重量平均分子量)が5,000以下であることが好ましく、より好ましくは90~2,000、更に好ましくは100~1,500がよい。この中でも、100~1,000の分子量をもつ架橋形成用アミノ化合物が特に好ましい。架橋形成用アミノ化合物の分子量が90未満になると、架橋形成用アミノ化合物の1つのアミノ基が熱可塑性ポリイミドのケトン基とC=N結合を形成するにとどまり、残りのアミノ基の周辺が立体的に嵩高くなるために残りのアミノ基はC=N結合を形成しにくい傾向となる。
【0068】
成分(A)の熱可塑性ポリイミド中のケトン基と架橋形成用アミノ化合物とを架橋形成させる場合は、成分(A)を含む樹脂溶液に、上記架橋形成用アミノ化合物を加えて、熱可塑性ポリイミド中のケトン基と架橋形成用アミノ化合物の第1級アミノ基とを縮合反応させる。この縮合反応により、樹脂溶液は硬化して硬化物となる。この場合、架橋形成用アミノ化合物の添加量は、ケトン基1モルに対し、第1級アミノ基が合計で0.004モル~1.5モル、好ましくは0.005モル~1.2モル、より好ましくは0.03モル~0.9モル、最も好ましくは0.04モル~0.6モルとすることができる。ケトン基1モルに対して第1級アミノ基が合計で0.004モル未満となるような架橋形成用アミノ化合物の添加量では、架橋形成用アミノ化合物による架橋が十分ではないため、硬化後の耐熱性が発現しにくい傾向となり、架橋形成用アミノ化合物の添加量が1.5モルを超えると未反応の架橋形成用アミノ化合物が熱可塑剤として作用し、接着剤層としての耐熱性を低下させる傾向がある。
【0069】
架橋形成のための縮合反応の条件は、成分(A)の熱可塑性ポリイミドにおけるケトン基と上記架橋形成用アミノ化合物の第1級アミノ基が反応してイミン結合(C=N結合)を形成する条件であれば、特に制限されない。加熱縮合の温度は、縮合によって生成する水を系外へ放出させるため、又は成分(A)の熱可塑性ポリイミドの合成後に引き続いて加熱縮合反応を行なう場合に当該縮合工程を簡略化するため等の理由で、例えば120~220℃の範囲内が好ましく、140~200℃の範囲内がより好ましい。反応時間は、30分~24時間程度が好ましい。反応の終点は、例えばフーリエ変換赤外分光光度計(市販品:日本分光製FT/IR620)を用い、赤外線吸収スペクトルを測定することによって、1670cm-1付近の熱可塑性ポリイミド樹脂におけるケトン基に由来する吸収ピークの減少又は消失、及び1635cm-1付近のイミン基に由来する吸収ピークの出現により確認することができる。
【0070】
成分(A)の熱可塑性ポリイミドのケトン基と上記架橋形成用アミノ化合物の第1級のアミノ基との加熱縮合は、例えば、
(1)成分(A)の熱可塑性ポリイミドの合成(イミド化)に引き続き、架橋形成用アミノ化合物を添加して加熱する方法、
(2)ジアミン成分として予め過剰量のアミノ化合物を仕込んでおき、成分(A)の熱可塑性ポリイミドの合成(イミド化)に引き続き、イミド化若しくはアミド化に関与しない残りのアミノ化合物を架橋形成用アミノ化合物として利用して熱可塑性ポリイミドとともに加熱する方法、又は、
(3)上記の架橋形成用アミノ化合物を添加した成分(A)の熱可塑性ポリイミドの組成物を所定の形状に加工した後(例えば任意の基材に塗布した後やフィルム状に形成した後)に加熱する方法、等によって行うことができる。
【0071】
成分(A)の熱可塑性ポリイミドの耐熱性付与のため、架橋構造の形成でイミン結合の形成を説明したが、これに限定されるものではない。
【0072】
[成分(B);ホスフィン化合物]
本実施の形態の樹脂組成物は、成分(B)のホスフィン化合物を含有する。成分(B)のホスフィン化合物は難燃剤として機能するほか、樹脂フィルムの誘電正接を下げる作用も有している。従って、成分(B)のホスフィン化合物を成分(A)の熱可塑性ポリイミドと組み合わせることによって、樹脂フィルムの誘電特性を向上させながら、優れた難燃性を付与することができる。
【0073】
成分(B)のホスフィン化合物は、前記一般式(1)で表されるものであり、2つのホスフィンオキサイド基が2価の連結基Xによって連結された化学構造を有する。一般式(1)中、基Xで表される連結基としては、例えば耐熱性、調製容易性の観点からキシリレン基が特に好ましい。また、一般式(1)中の基Ar~Arで表されるアリール基の具体例としては、フェニル基、トリル基、キシリル基などを挙げることができる。これらの中でも、疎水性と難燃性に対する寄与が大きなフェニル基が特に好ましい。つまり、一般式(1)で表されるホスフィン化合物としては、4つのフェニル基を有するものが特に好ましい。なお、一般式(1)で表されるホスフィン化合物は、単独の化合物に限らず、混合物であってもよい。
【0074】
一般式(1)のホスフィン化合物は、分子中に芳香環を豊富に含む化学構造によって極性基濃度が低く、樹脂フィルムの誘電特性を改善することができる。特に、一般式(1)のホスフィン化合物は、吸湿性及び吸水性が低いため、環境湿度の影響を受けにくく、樹脂フィルムの誘電特性を安定させることができる。
【0075】
一般式(1)で表されるホスフィン化合物は、分子中のリン濃度が例えば10~20重量%の範囲内であることが好ましい。一般に難燃剤はリン濃度が高いほど難燃効果が大きくなるが、一般式(1)で表されるホスフィン化合物では、基Ar~Arとしてアリール基を有していることから、複数の芳香環の存在によってチャー形成までの時間が短縮され、分子中に含まれるリン濃度を相対的に低く抑えながら、十分な難燃性を発現させる。
【0076】
また、成分(B)のホスフィン化合物は、分子中に芳香環を豊富に含むため、250℃以上の高い融点を有している。そのため、FPCの製造工程での熱圧着や、はんだ実装等の加熱処理によるブリードアウトの発生を抑制できる。また、成分(B)のホスフィン化合物は、常温で固体であることから、樹脂組成物が溶媒を含む液状組成物(ワニス)の状態である場合、ワニス中に分散させることができる。樹脂組成物中で安定した分散状態を保つことによって、樹脂フィルム中でも均一な分散状態となり、誘電正接を低下させる効果と、難燃性付与効果を十分に発揮できる。かかる観点から、成分(B)の平均粒子径は、例えば0.1~10μmの範囲内が好ましく、0.5~5μmの範囲内であることがより好ましい。平均粒子径が0.1μm未満であると、分散性が悪化する傾向にあり、10μmを超えるとフィルム時の外観不良、穴あけ加工時の不良等を引き起こす可能性がある。なお、平均粒子径は、レーザー回折法によって測定される平均粒径であり、例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所社製、商品系;SALD-2000)を用いて測定することができる。
【0077】
成分(B)のホスフィン化合物としては、市販品を入手可能であり、例えば、パラキシリレンビスジフェニルホスフィンオキサイド(UFC社製、商品名;Mosaflam386、融点330℃)、パラフェニレンビスジフェニルホスフィンオキサイド(片山化学工業社製、商品名;BPE-3、融点300℃)等を挙げることができる。これらは二種以を組み合わせて使用してもよい。
【0078】
[任意成分]
本実施の形態の樹脂組成物は、有機溶媒などの溶剤を含有することができる。有機溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、2-ブタノン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサメチルホスホルアミド、N-メチルカプロラクタム、硫酸ジメチル、シクロヘキサノン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム、トリグライム、クレゾール等が挙げられる。これらの溶媒を2種以上併用することもでき、更にはキシレン、トルエンのような芳香族炭化水素の併用も可能である。有機溶媒の含有量としては特に制限されるものではないが、固形分の濃度が5~30重量%程度になるような使用量に調整して用いることが好ましい。なお、樹脂組成物中の固形分とは、溶媒を除いた成分の合計を意味する。
また、本実施の形態の樹脂組成物は、任意成分である上記架橋形成用アミノ化合物や溶剤のほかに、さらに必要に応じて任意成分として、エラストマー、無機フィラー、可塑剤、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、オレフィン系樹脂などの他の樹脂成分、硬化促進剤、カップリング剤、有機フィラー、顔料、成分(B)以外の難燃剤などを適宜配合することができる。ただし、可塑剤には、極性基を多く含有するものがあり、それが銅配線からの銅の拡散を助長する懸念があるため、可塑剤は極力使用しないことが好ましい。
【0079】
[配合比率]
本実施の形態の樹脂組成物における成分(A)に対する成分(B)の重量比(B/A)は、0.1~1の範囲内であることが好ましく、0.2~0.8の範囲内がより好ましい。重量比(B/A)が0.1未満では、誘電正接を下げる効果や難燃効果を十分に付与することが出来ず、樹脂フィルムの誘電特性の改善や難燃性向上が不十分となる場合がある。一方、重量比(B/A)が1を超えると樹脂フィルムの形成が困難になる場合があり、また、得られる樹脂フィルムの靭性が低下して脆弱化する場合がある。成分(B)の配合量を上記範囲内とすることで、樹脂フィルムの誘電特性を改善することができる。
【0080】
また、本実施の形態の樹脂組成物は、発明の効果を十分に発現させるため、固形分全体に対する成分(A)と成分(B)の合計量が50重量%以上であることが好ましく、70~100重量%の範囲内であることがより好ましく、80~100重量%の範囲内であることが最も好ましい。
【0081】
(粘度)
樹脂組成物が溶剤を含有する場合、粘度は、成分(B)を均一な分散状態とするために、例えば、500mPa・s~100000mPa・sの範囲内とすることが好ましい。この範囲を外れると、塗工作業の際に樹脂フィルムに厚みムラ、スジ等の不良が発生し易くなるとともに、樹脂フィルム中でも成分(B)の均一な分散状態が維持できず、成分(B)による低誘電正接効果や難燃性付与効果が十分に発揮されないことがある。
【0082】
[樹脂組成物の調製]
樹脂組成物の調製に際しては、例えば、任意の溶剤を用いて作製したポリアミド酸又は熱可塑性ポリイミドの樹脂溶液に成分(B)を直接配合してもよい。あるいは、成分(B)の分散性を考慮し、ポリアミド酸の原料である酸二無水物成分及びジアミン成分のいずれか片方を投入した反応溶媒に予め成分(B)を配合した後、攪拌下にもう片方の原料を投入して重合を進行させてもよい。いずれの方法においても、一回で成分(B)を全量投入してもよいし、数回分けて少しずつ添加してもよい。また、原料も一括で入れてもよいし、数回に分けて少しずつ混合してもよい。
【0083】
本実施の形態の樹脂組成物は、これを用いて接着剤層を形成した場合に優れた柔軟性と熱可塑性を有するものとなり、例えばFPC、リジッド・フレックス回路基板などの配線部を保護するカバーレイフィルム用の接着剤、多層回路基板における接着剤層、ボンディングシートなどとして好ましい特性を有している。
【0084】
[樹脂フィルム]
本実施の形態の樹脂フィルムは、成分(A)及び成分(B)を含有する樹脂フィルムである。具体的には、樹脂成分として成分(A)の熱可塑性ポリイミドを含む樹脂フィルムであり、上記樹脂組成物をフィルム化してなるものである。
【0085】
本実施の形態の樹脂フィルムは、上記樹脂組成物について説明した理由と同じ観点から、成分(A)に対する成分(B)の重量比(B/A)が、0.1~1の範囲内であることが好ましく、0.2~0.8の範囲内がより好ましい。また、本実施の形態の樹脂フィルムは、樹脂フィルム全体に対する成分(A)と成分(B)の合計量が50重量%以上であることが好ましく、70~100重量%の範囲内であることがより好ましく、80~100重量%の範囲内であることが最も好ましい。
【0086】
本実施の形態の樹脂フィルムは、成分(A)及び成分(B)を含有する熱可塑性ポリイミド層を含むフィルム(シート)であれば特に限定されるものではなく、例えば、銅箔、ガラス板、ポリイミド系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリエステル系フィルムなどの樹脂シート等の基材に積層された状態であってもよい。
【0087】
<誘電特性>
(比誘電率)
本実施の形態の樹脂フィルムは、例えばFPC等の回路基板に使用した際のインピーダンス整合性を確保するため、また電気信号のロス低減のために、温度24~26℃、湿度45~55%RHの条件下で24時間放置したときに(調湿条件)、スプリットポスト誘電体共振器(SPDR)により測定される20GHzにおける比誘電率(ε)並びに温度24~26℃、純水中に浸漬させた条件下で48時間放置したとき(吸水条件)に、同条件で測定される20GHzにおける比誘電率(ε)が、共に、好ましくは3.0以下がよく、より好ましくは2.8以下がよい。比誘電率(ε)及び比誘電率(ε)が3.0を超えると、例えばFPC等の回路基板に使用した際に、高周波信号の伝送経路上で電気信号のロスなどの不都合が生じやすくなる。
【0088】
(誘電正接)
本実施の形態の樹脂フィルムは、例えばFPC等の回路基板に使用した際の電気信号のロス低減のために、、温度24~26℃、湿度45~55%RHの恒温恒湿条件下で24時間放置したときに(調湿条件)、スプリットポスト誘電体共振器(SPDR)により測定される20GHzにおける誘電正接(Tanδ)が0.0015以下であることが好ましく、0.0012以下であることがより好ましい。調湿条件での誘電正接が0.0015を超えると、例えばFPC等の回路基板に使用した際に、1GHz~60GHz帯の高周波信号の伝送において、電気信号のロスなどの不都合が生じやすくなる。
【0089】
また、本実施の形態の樹脂フィルムは、温度24~26℃、純水中に浸漬させた条件下で、48時間放置したときに(吸水条件)、スプリットポスト誘電体共振器(SPDR)により測定される20GHzにおける誘電正接(Tanδ)が0.0030以下であることが好ましく、0.0025以下であることがより好ましい。吸水条件での誘電正接が0.0030を超えると、例えばFPC等の回路基板に使用した際に、環境湿度の影響を受けやすくなり、例えば1GHz~60GHz帯の高周波信号の伝送において、電気信号のロスなどの不都合が生じやすくなる。
【0090】
(吸湿依存性)
また、調湿時誘電正接(Tanδ)と吸水時誘電正接(Tanδ)との差分(Tanδ-Tanδ)が0.0020未満であることが好ましく、0.0015以下であることがより好ましい。差分(Tanδ-Tanδ)が0.0020以上であると、例えばFPC等の回路基板に使用した際に、湿潤時での誘電正接の上昇を招き、高周波信号の伝送経路上で電気信号のロスなどの不都合が生じやすくなる。
【0091】
(ガラス転移温度)
本実施の形態の樹脂フィルムは、ガラス転移温度(Tg)が250℃以下であることが好ましく、40℃以上200℃以下の範囲内であることがより好ましい。樹脂フィルムのTgが250℃以下であることによって、低温での熱圧着が可能になるため、積層時に発生する内部応力を緩和し、回路加工後の寸法変化を抑制できる。樹脂フィルムのTgが250℃を超えると、接着温度が高くなり、回路加工後の寸法安定性を損なう恐れがある。
【0092】
(難燃性)
本実施の形態の樹脂フィルムは、優れた難燃性を示すものである。すなわち、本実施の形態の樹脂フィルムは、多層フィルム化した状態で、UL94薄手材料垂直燃焼試験に準拠して後記実施例に示す方法で測定されるVTM-0の判定基準に合格し、かつ、平均燃焼時間が8秒未満であることが好ましく、平均燃焼時間が5秒未満であることがより好ましい。
【0093】
(厚み)
本実施の形態の樹脂フィルムの厚みは、特に制限はないが、例えば5μm以上150μm以下の範囲内が好ましく、8μm以上125μm以下の範囲内であることがより好ましい。樹脂フィルムの厚みが5μmに満たないと、樹脂フィルムの製造等における搬送時にシワが入るなどの不具合が生じるおそれがあり、一方、樹脂フィルムの厚みが150μmを超えると樹脂フィルムの生産性低下の虞がある。
【0094】
本実施の形態の樹脂フィルムは、回路基板材料として好ましく適用可能であり、例えば、回路基板のカバーレイフィルム、ボンディングシート、金属張積層板の接着剤層などへの適用が可能である。以下、本実施の形態の樹脂フィルムの好ましい適用例について説明する。
【0095】
[積層体]
本発明の一実施の形態に係る積層体は、基材と、この基材の少なくとも一方の面に積層された接着剤層と、を有し、接着剤層が上記樹脂フィルムからなるものである。なお、積層体は、上記以外の任意の層を含んでいてもよい。積層体における基材としては、例えば、銅箔、ガラス板などの無機材料の基材や、ポリイミド系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリエステル系フィルムなどの樹脂材料の基材を挙げることができる。
積層体の好ましい態様として、カバーレイフィルム、樹脂付き銅箔などを挙げることができる。
【0096】
[カバーレイフィルム]
積層体の一態様であるカバーレイフィルムは、基材としてのカバーレイ用フィルム材層と、該カバーレイ用フィルム材層の片側の面に積層された接着剤層とを有し、接着剤層が上記樹脂フィルムからなるものである。なお、カバーレイフィルムは、上記以外の任意の層を含んでいてもよい。
【0097】
カバーレイ用フィルム材層の材質は、特に限定されないが、例えばポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド等のポリイミド系フィルムや、ポリアミド系フィルム、ポリエステル系フィルムなどを用いることができる。これらの中でも、優れた耐熱性を持つポリイミド系フィルムを用いることが好ましい。また、カバーレイ用フィルム材は、遮光性、隠蔽性、意匠性等を効果的に発現させるために、黒色顔料を含有することもでき、また誘電特性の改善効果を損なわない範囲で、表面の光沢を抑制するつや消し顔料などの任意成分を含むことができる。
【0098】
カバーレイ用フィルム材層の厚みは、特に限定されるものではないが、例えば5μm以上100μm以下の範囲内が好ましい。
また、接着剤層の厚さは、特に限定されるものではないが、例えば10μm以上75μm以下の範囲内が好ましい。
【0099】
本実施の形態のカバーレイフィルムは、以下に例示する方法で製造できる。
まず、第1の方法として、カバーレイ用のフィルム材層の片面に、溶剤を含有するワニス状の樹脂組成物を塗布した後、例えば80~180℃の温度で乾燥させて接着剤層を形成することにより、カバーレイ用フィルム材層と接着剤層を有するカバーレイフィルムを形成できる。
【0100】
また、第2の方法として、任意の基材上に、溶剤を含有するワニス状の樹脂組成物を塗布し、例えば80~180℃の温度で乾燥した後、剥離することにより、接着剤層用の接着剤フィルムを形成し、この接着剤フィルムを、カバーレイ用のフィルム材層と例えば60~220℃の温度で熱圧着させることによってカバーレイフィルムを形成できる。
【0101】
[樹脂付き銅箔]
積層体の別の態様である樹脂付き銅箔は、基材としての銅箔の少なくとも片側に接着剤層を積層したものであり、接着剤層が上記樹脂フィルムからなるものである。なお、本実施の形態の樹脂付き銅箔は、上記以外の任意の層を含んでいてもよい。
【0102】
樹脂付き銅箔における接着剤層の厚みは、例えば2~150μmの範囲内にあることが好ましく、2~125μmの範囲内がより好ましい。接着剤層の厚みが上記下限値に満たないと、十分な接着性が担保出来なかったりするなどの問題が生じることがある。一方、接着剤層の厚みが上記上限値を超えると、寸法安定性が低下するなどの不具合が生じる。また、低誘電率化及び低誘電正接化の観点から、接着剤層の厚みを3μm以上とすることが好ましい。
【0103】
樹脂付き銅箔における銅箔の材質は、銅又は銅合金を主成分とするものが好ましい。銅箔の厚みは、好ましくは35μm以下であり、より好ましくは5~25μmの範囲内がよい。生産安定性及びハンドリング性の観点から、銅箔の厚みの下限値は5μmとすることが好ましい。なお、銅箔は圧延銅箔でも電解銅箔でもよい。また、銅箔としては、市販されている銅箔を用いることができる。
【0104】
樹脂付き銅箔は、例えば、樹脂フィルムに金属をスパッタリングしてシード層を形成した後、例えば銅メッキによって銅層を形成することによって調製してもよく、あるいは、樹脂フィルムと銅箔とを熱圧着などの方法でラミネートすることによって調製してもよい。さらに、樹脂付き銅箔は、銅箔の上に接着剤層を形成するため、樹脂組成物の塗布液をキャストし、乾燥して塗布膜とした後、必要な熱処理を行って調製してもよい。
【0105】
[金属張積層板]
(第1の態様)
本発明の一実施の形態に係る金属張積層板は、絶縁樹脂層と、この絶縁樹脂層の少なくとも一方の面に積層された金属層と、を備え、絶縁樹脂層の少なくとも1層が、上記樹脂フィルムからなるものである。なお、本実施の形態の金属張積層板は、上記以外の任意の層を含んでいてもよい。
【0106】
(第2の態様)
本発明の別の実施の形態に係る金属張積層板は、例えば絶縁樹脂層と、絶縁樹脂層の少なくとも片側の面に積層された接着剤層と、この接着剤層を介して絶縁樹脂層に積層された金属層と、を備えた、いわゆる3層金属張積層板であり、接着剤層が、上記樹脂フィルムからなるものである。なお、3層金属張積層板は、上記以外の任意の層を含んでいてもよい。3層金属張積層板は、接着剤層が、絶縁樹脂層の片面又は両面に設けられていればよく、金属層は、接着剤層を介して絶縁樹脂層の片面又は両面に設けられていればよい。つまり、3層金属張積層板は、片面金属張積層板でもよいし、両面金属張積層板でもよい。3層金属張積層板の金属層をエッチングするなどして配線回路加工することによって、片面FPC又は両面FPCを製造することができる。
【0107】
3層金属張積層板における絶縁樹脂層としては、電気的絶縁性を有する樹脂により構成されるものであれば特に限定はなく、例えばポリイミド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、シリコーン、ETFEなどを挙げることができるが、ポリイミドによって構成されることが好ましい。絶縁樹脂層を構成するポリイミド層は、単層でも複数層でもよいが、非熱可塑性ポリイミド層を含むことが好ましい。
【0108】
3層金属張積層板における絶縁樹脂層の厚みは、例えば1~125μmの範囲内にあることが好ましく、5~100μmの範囲内がより好ましい。絶縁樹脂層の厚みが上記下限値に満たないと、十分な電気絶縁性が担保出来ないなどの問題が生じることがある。一方、絶縁樹脂層の厚みが上記上限値を超えると、金属張積層板の反りが生じやすくなるなどの不具合が生じる。
【0109】
3層金属張積層板における接着剤層の厚みは、例えば0.1~125μmの範囲内にあることが好ましく、0.3~100μmの範囲内がより好ましい。本実施の形態の3層金属張積層板において、接着剤層の厚みが上記下限値に満たないと、十分な接着性が担保出来なかったりするなどの問題が生じることがある。一方、接着剤層の厚みが上記上限値を超えると、寸法安定性が低下するなどの不具合が生じる。また、絶縁樹脂層と接着剤層との積層体である絶縁層全体の低誘電率化及び低誘電正接化の観点から、接着剤層の厚みは、3μm以上とすることが好ましい。
【0110】
また、絶縁樹脂層の厚みと接着剤層との厚みの比(絶縁樹脂層の厚み/接着剤層の厚み)は、例えば0.03~3.0の範囲内が好ましく、0.05~2.0の範囲内がより好ましい。このような比率にすることで、3層金属張積層板の反りを抑制することができる。また、絶縁樹脂層は、必要に応じて、フィラーを含有してもよい。フィラーとしては、例えば二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、フッ化アルミニウム、フッ化カルシウム、有機ホスフィン酸の金属塩等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0111】
(第3の態様)
本発明のさらに別の実施の形態に係る金属張積層板は、例えば図1に示すように、少なくとも2つの片面金属張積層板を、接着剤層10を介して貼合せてなる貼合せ型金属張積層板100である。貼合せ型金属張積層板100は、第1の片面金属張積層板21と、第2の片面金属張積層板22と、第1の片面金属張積層板21と第2の片面金属張積層板22との間に積層された接着剤層10と、を備えており、接着剤層10が、上記樹脂フィルムからなるものである。
ここで、第1の片面金属張積層板21は、第1の金属層M1と、この第1の金属層M1の少なくとも片側の面に積層された第1の絶縁樹脂層31と、を有している。第2の片面金属張積層板22は、第2の金属層M2と、この第2の金属層M2の少なくとも片側の面に積層された第2の絶縁樹脂層32と、を有している。接着剤層10は、第1の絶縁樹脂層31及び第2の絶縁樹脂層32に当接するように配置されている。なお、貼合せ型金属張積層板100は、上記以外の任意の層を含んでいてもよい。
【0112】
貼合せ型金属張積層板100における第1の絶縁樹脂層31及び第2の絶縁樹脂層32は、第2の態様の3層金属張積層板の絶縁樹脂層と同様の構成であってよい。
貼合せ型金属張積層板100は、第1の片面金属張積層板21と第2の片面金属張積層板22をそれぞれ準備し、
i)第1の絶縁樹脂層31と第2の絶縁樹脂層32との間に樹脂フィルムを配置して貼り合わせる方法、
あるいは、
ii)第1の絶縁樹脂層31又は第2の絶縁樹脂層32の上に樹脂組成物を塗工し、熱処理して接着剤層10を形成する方法、
などの方法によって製造できる。
【0113】
[回路基板]
本発明に係る回路基板は、上記実施の形態の金属張積層板の金属層を配線加工してなるものである。金属張積層板の一つ以上の金属層を、常法によってパターン状に加工して配線層(導体回路層)を形成することによって、FPCなどの回路基板を製造できる。なお、回路基板は、配線層を被覆するカバーレイフィルムを備えていてもよい。
【実施例0114】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0115】
[粘度の測定]
E型粘度計(ブルックフィールド社製、商品名;DV-II+Pro)を用いて、25℃における粘度を測定した。トルクが10%~90%になるよう回転数を設定し、測定を開始してから2分経過後、粘度が安定した時の値を読み取った。
【0116】
[熱可塑性樹脂の重量平均分子量(Mw)の測定]
重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフ(東ソー株式会社製、商品名;HLC-8220GPCを使用)により測定した。標準物質としてポリスチレンを用い、展開溶媒にテトラヒドロフラン(THF)を用いた。
【0117】
[比誘電率および誘電正接の測定]
ベクトルネットワークアナライザ(Agilent社製、商品名;E8363C)ならびにSPDR共振器を用いて、20GHzにおける樹脂フィルムの比誘電率および誘電正接を測定した。なお、測定に使用した材料は、温度;24~26℃、湿度45~55%RHの条件下で24時間放置したもの(調湿条件)又は、温度;24~26℃、純水中に浸漬させた条件下で、48時間放置したもの(吸水条件)である。
【0118】
[貯蔵弾性率及びガラス転移温度(Tg)の測定]
貯蔵弾性率は、5mm×20mmに樹脂フィルムを切り出し、動的粘弾性装置(DMA:ティー・エイ・インスツルメント社製、商品名:RSA-G2)を用いて、昇温速度4℃/分で30℃から400℃まで段階的に加熱し、周波数11Hzで測定を行った。また、測定中のTanδの値が最大となる最大温度をTgとして定義した。また、30℃における貯蔵弾性率が1.0×10Pa以上であり、300℃における貯蔵弾性率が1.0×10Pa未満である樹脂を「熱可塑性」と判定し、30℃における貯蔵弾性率が1.0×10Pa以上であり、300℃における貯蔵弾性率が5.0×10Pa以上であるポリイミドを「非熱可塑性」と判定した。
【0119】
[難燃性の評価]
難燃性の評価は、多層フィルムを200±5mm×50±1mmにサンプルカットし、直径約12.7mm、長さ200±5mmの筒状になるように丸め、UL94VTM規格に準拠して、試験片の作製及び燃焼試験を行った。VTM-0の判定基準を合格し、かつ平均燃焼時間が5秒未満であった場合を「優」とした。VTM-0の判定基準を合格し、かつ平均燃焼時間が5秒以上10秒未満であった場合を「良」とした。VTM-0の判定基準を合格しなかった場合を「不可」とした。
【0120】
[アミン価の測定方法]
約2gのダイマージアミン組成物を200~250mLの三角フラスコに秤量し、指示薬としてフェノールフタレインを用い、溶液が薄いピンク色を呈するまで、0.1mol/Lのエタノール性水酸化カリウム溶液を滴下し、中和を行ったブタノール約100mLに溶解させる。そこに3~7滴のフェノールフタレイン溶液を加え、サンプルの溶液が薄いピンク色に変わるまで、0.1mol/Lのエタノール性水酸化カリウム溶液で攪拌しながら滴定する。そこへブロモフェノールブルー溶液を5滴加え、サンプル溶液が黄色に変わるまで、0.2mol/Lの塩酸/イソプロパノール溶液で攪拌しながら滴定する。
アミン価は、次の式(1)により算出する。
アミン価={(V×C)-(V×C)}×MKOH/m ・・・(1)
ここで、アミン価はmg-KOH/gで表される値であり、MKOHは水酸化カリウムの分子量56.1である。また、V、Cはそれぞれ滴定に用いた溶液の体積と濃度であり、添え字の1、2はそれぞれ0.1mol/Lのエタノール性水酸化カリウム溶液、0.2mol/Lの塩酸/イソプロパノール溶液を表す。さらに、mはグラムで表されるサンプル重量である。
【0121】
[GPC及びクロマトグラムの面積パーセントの算出]
GPCは、20mgのダイマージアミン組成物を200μLの無水酢酸、200μLのピリジン及び2mLのTHFで前処理した100mgの溶液を、10mLのTHF(1000ppmのシクロヘキサノンを含有)で希釈し、サンプルを調製した。調製したサンプルを東ソー株式会社製、商品名;HLC-8220GPCを用いて、カラム:TSK-gel G2000HXL,G1000HXL、フロー量:1mL/min、カラム(オーブン)温度:40℃、注入量:50μLの条件で測定した。なお、シクロヘキサノンは流出時間の補正のために標準物質として扱った。
【0122】
このとき、シクロヘキサノンのメインピークのピークトップがリテンションタイム27分から31分になるように、且つ、前記シクロヘキサノンのメインピークのピークスタートからピークエンドが2分になるように調整し、シクロヘキサノンのピークを除くメインピークのピークトップが18分から19分になるように、且つ、前記シクロヘキサノンのピークを除くメインピークのピークスタートからピークエンドまでが2分から4分30秒となる条件で、各成分(a)~(c);
(a)メインピークで表される成分;
(b)メインピークにおけるリテンションタイムが遅い時間側の極小値を基準にし、それよりも遅い時間に検出されるGPCピークで表される成分;
(c)メインピークにおけるリテンションタイムが早い時間側の極小値を基準にし、それよりも早い時間に検出されるGPCピークで表される成分;
を検出した。
【0123】
本実施例で用いた略号は以下の化合物を示す。
BPDA:3,3',4,4'‐ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
PMDA:ピロメリット酸二無水物
m‐TB:2,2'‐ジメチル‐4,4'‐ジアミノビフェニル
BAPP:2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン
TPE-R:1,3-ビス(4‐アミノフェノキシ)ベンゼン
BTDA:3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物
DDA:炭素数36の脂肪族ジアミン(クローダジャパン株式会社製、商品名;PRIAMINE1074を蒸留精製したもの、アミン価;210mgKOH/g、環状構造及び鎖状構造のダイマージアミンの混合物、成分(a);97.9%、成分(b);0.3%、成分(c);1.8%、芳香環割合;8.2モル%)
なお、成分(a)、成分(b)、成分(c)の「%」は、GPC測定におけるクロマトグラムの面積パーセントを意味する。また、DDAの分子量は次式により算出した。
分子量=56.1×2×1000/アミン価]
ポリスチレンエラストマー:KRATON社製、商品名;MD1653MO(水添ポリスチレンエラストマー、スチレン単位含有割合;30重量%、Mw;80,499、酸価無し)
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
DMAc:N,N‐ジメチルアセトアミド
N-12:ドデカン二酸ジヒドラジド
Mosaflam386:パラキシリレンビスジフェニルホスフィンオキサイド(UFC社製、商品名;Mosaflam386、融点;330℃、リン濃度;12重量%)
OP935:有機ホスフィン酸アルミニウム塩(クラリアントジャパン社製、商品名;Exolit OP935、融点なし、リン濃度;23重量%)
【0124】
(合成例1)
<ポリイミド溶液の調製>
500mlのセパラブルフラスコに、21.34gのBTDA(0.06622モル)、12.99gのBPDA(0.04414モル)、46.7042gのDDA(0.08741モル)、8.97104gのBAPP(0.02185モル)、126gのNMP及び84gのキシレンを装入し、40℃で1時間良く混合して、ポリアミド酸溶液を調製した。このポリアミド酸溶液を190℃に昇温し、5時間加熱、攪拌し、重合後の固形分濃度が31%となる量のキシレンを加えてイミド化を完結したポリイミド溶液1(固形分;31重量%、重量平均分子量;35,886、粘度;2,580mPa・s、Tg;63℃)を調製した。ポリイミド酸溶液1を基材上に塗布・乾燥してイミド化することによって得られたポリイミドフィルムについて、貯蔵弾性率を測定した結果、「熱可塑性」であった。
【0125】
(合成例2)
<ポリイミド溶液の調製>
窒素気流下、1000mlのセパラブルフラスコに、34.04gのBTDA(0.1057モル)、55.89gのDDA(0.1046モル)、126gのNMP及び84gのキシレンを装入し、40℃で1時間良く混合して、ポリアミド酸溶液を調製した。このポリアミド酸溶液を190℃に昇温し、5時間加熱、攪拌し、重合後の固形分濃度が31%となる量のキシレンを加えてイミド化を完結したポリイミド溶液2(固形分;31重量%、重量平均分子量;52,800、粘度;4,750mPa・s、Tg;46℃)を調製した。ポリイミド酸溶液2を基材上に塗布・乾燥してイミド化することによって得られたポリイミドフィルムについて、貯蔵弾性率を測定した結果、「熱可塑性」であった。
【0126】
(合成例3)
<絶縁樹脂層用のポリアミド酸溶液の調製>
窒素気流下で、反応槽に、69.56gのm-TB(0.328モル)、542.75gのTPE-R(1.857モル)、重合後の固形分濃度が12重量%となる量のDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、194.39gのPMDA(0.891モル)及び393.31gのBPDA(1.337モル)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸溶液1(粘度;2,700mPa・s)を調製した。
ポリアミド酸溶液1を用いて作製したポリイミドフィルムの貯蔵弾性率は、30℃では4.3×10Pa、300℃では9.4×10Paであり、「非熱可塑性」であった。
【0127】
(合成例4)
<絶縁樹脂層用のポリアミド酸溶液の調製>
窒素気流下で、反応槽に、64.20gのm-TB(0.302モル)及び5.48gのビスアニリン-M(0.016モル)並びに重合後の固形分濃度が15重量%となる量のDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、34.20gのPMDA(0.157モル)及び46.13gのBPDA(0.157モル)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸溶液2(粘度;28,000mPa・s)を調製した。
ポリアミド酸溶液2を用いて作製したポリイミドフィルムの貯蔵弾性率は、30℃では7.0×10Pa、300℃では5.4×10Paであり、「非熱可塑性」であった。
【0128】
(作製例1)
<片面金属張積層板の調製>
銅箔1(電解銅箔、厚さ;12μm、樹脂層側の表面粗度Rz;0.6μm)の上に、ポリアミド酸溶液1を硬化後の厚みが約1.6μmとなるように均一に塗布した後、120℃で加熱乾燥し溶媒を除去した。次にその上にポリアミド酸溶液2を硬化後の厚みが、約2.4μmとなるように均一に塗布し、120℃で加熱乾燥し溶媒を除去した。更に、120℃から360℃まで段階的な熱処理を行い、イミド化を完結して、片面金属張積層板1を調製した。
【0129】
[実施例1]
ポリイミド溶液1(固形分として43.6重量%)に対して、ポリスチレンエラストマーを37.5重量%、N-12を1.5重量%、Mosaflam386を17.4重量%配合し、固形分濃度が26%となるよう一定量のキシレン、NMPを添加して、樹脂ワニス1を調製した。これを乾燥後厚みが25μmとなるように離型基材(縦×横×厚さ=320mm×240mm×25μm)のシリコーン処理面に塗工した後、100℃で5分間、120℃で15分間加熱乾燥し、離型基材上から剥離することで樹脂フィルム1を得た。樹脂フィルム1の各種評価結果は下記のとおりである。
熱可塑性、Tg;65℃、周波数20GHzにおける調湿条件での比誘電率(ε)および誘電正接(Tanδ);2.57および0.0011、吸水条件での比誘電率(ε)および誘電正接(Tanδ);2.57および0.0016、Tanδ-Tanδ;0.0005
【0130】
[実施例2~7]
表1に示す原料組成とした他は、実施例1と同様にして樹脂ワニス2~7を調製し、また樹脂ワニス1に代えて、樹脂ワニス2~7を使用し、実施例1と同様にして樹脂フィルム2~7を調製した。樹脂フィルム2~7はいずれも熱可塑性であった。各種特性評価結果を表2に示す。
【0131】
比較例1
ポリイミド溶液2(固形分として77.8重量%)に対して、N-12を2.7重量%、OP935を19.5重量%配合し、固形分濃度が26%となるよう一定量のキシレン、NMPを添加して、樹脂ワニス8を調整した。これを乾燥後厚みが25μmとなるように離型基材(縦×横×厚さ=320mm×240mm×25μm)のシリコーン処理面に塗工した後、100℃で5分間、120℃で15分間加熱乾燥し、離型基材上から剥離することで樹脂フィルム8を得た。樹脂フィルム8の各種評価結果は下記のとおりである。
熱可塑性、Tg;34℃、周波数20GHzにおける調湿条件での比誘電率(ε)および誘電正接(Tanδ);2.65および0.0022、吸水条件での比誘電率(ε)および誘電正接(Tanδ);2.65および0.0037、Tanδ-Tanδ;0.0015
【0132】
比較例2
ポリイミド溶液1(固形分として40.3重量%)に対して、ポリスチレンエラストマーを34.7重量%、N-12を1.4重量%、OP935を23.6重量%配合し、固形分濃度が26%となるよう一定量のキシレン、NMPを添加して、樹脂ワニス9を調製した。これを乾燥後厚みが25μmとなるように離型基材(縦×横×厚さ=320mm×240mm×25μm)のシリコーン処理面に塗工した後、100℃で5分間、120℃で15分間加熱乾燥し、離型基材上から剥離することで樹脂フィルム9を得た。樹脂フィルム9の各種特性評価結果は下記のとおりである。
熱可塑性、Tg;64℃、周波数20GHzにおける調湿条件での比誘電率(ε)および誘電正接(Tanδ);2.52および0.0013、吸水条件での比誘電率(ε)および誘電正接(Tanδ);2.49および0.0033、Tanδ-Tanδ;0.0020
【0133】
【表1】
【0134】
なお、成分(A)の熱可塑性ポリイミドに対する成分(B)のホスフィン化合物の重量比が0.1未満ではポリイミドに対し十分な低誘電効果、難燃効果を付与することが出来ず、1.0を超えるとではホスフィン化合物が多すぎるためにフィルムの靭性が低下し、フィルム化が不可能であった。
【0135】
【表2】
【0136】
[実施例8]
樹脂ワニス1を乾燥後厚みが46μmとなるように片面金属張積層板1の絶縁樹脂層側の面に塗工した後、80℃から200℃まで段階的な熱処理にて乾燥を行い、接着剤層付き片面金属張積層板1を調製した。この接着剤層付き片面金属張積層板1を2枚用意し、接着剤層側を合わせて積層し、180℃で2時間、3.5MPaの圧力をかけて圧着して、金属張積層板1を調製した。塩化第二鉄水溶液を用いて金属張積層板1の銅箔層をエッチング除去し、多層フィルム1を得た。多層フィルム1の難燃性の評価結果を表3に示す。
【0137】
[実施例9~14]
実施例8と同様にして樹脂ワニス2~7を用いて多層フィルム2~7を得た。各多層フィルムの難燃性の評価結果を表3に示す。
【0138】
比較例3
樹脂ワニス8を乾燥後厚みが46μmとなるように片面金属張積層板1の絶縁樹脂層側の面に塗工した後、80℃から200℃まで段階的な熱処理にて乾燥を行い、接着剤層付き片面金属張積層板8を調製した。この接着剤層付き片面金属張積層板8を2枚用意し、接着剤層側を合わせて積層し、180℃で2時間、3.5MPaの圧力をかけて圧着して、金属張積層板8を調製した。塩化第二鉄水溶液を用いて金属張積層板8の銅箔層をエッチング除去し、多層フィルム8を得た。多層フィルム8の難燃性の評価結果を表3に示す。
【0139】
比較例4
樹脂ワニス9を用いた以外は比較例3と同様にして多層フィルム9を得た。多層フィルム9の難燃性の評価結果を表3に示す。
【0140】
【表3】
【0141】
実施例1~7は、比較例2と比べて、吸水条件下での誘電正接の悪化が抑制されており、ホスフィンオキサイド基を有するホスフィン化合物の低極性骨格の効果が発現していることが分かる。また、実施例8~14は比較例3と比べてより高い難燃効果を持つ多層フィルムを得ることが可能であった。以上より、本実施形態では低極性骨格に由来する低誘電特性と難燃性を両立した金属張積層板の設計、提供が可能であることが検証された。
【0142】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはなく、種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0143】
10…接着剤層、21…第1の片面金属張積層板、22…第2の片面金属張積層板、31…第1の絶縁樹脂層、32…第2の絶縁樹脂層、M1…第1の金属層、M2…第2の金属層、100…貼合せ型金属張積層板
図1