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特開2024-141814レーザ加工装置、レーザ加工方法、及び加工物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141814
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】レーザ加工装置、レーザ加工方法、及び加工物
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/00 20140101AFI20241003BHJP
   B23K 26/364 20140101ALI20241003BHJP
   B23K 26/382 20140101ALI20241003BHJP
【FI】
B23K26/00 N
B23K26/364
B23K26/382
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053657
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福武 直之
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168AD01
4E168AD11
4E168AD18
4E168CB04
4E168CB07
4E168DA02
4E168DA03
4E168DA06
4E168DA46
4E168DA47
4E168EA04
4E168EA15
4E168JA01
4E168JA14
4E168JA17
4E168KA04
(57)【要約】
【課題】高品質の穴又は溝をより深く加工するレーザ加工装置、レーザ加工方法、及び加工物を提供する。
【解決手段】本開示のレーザ加工装置は、加工対象物に複数の超短パルスレーザ光を照射することにより穴又は溝を加工するレーザ加工装置であって、超短パルスレーザ光を出力するレーザ装置と、超短パルスレーザ光のパルスエネルギを制御するプロセッサと、を備え、プロセッサは、加工中に、加工深さに応じてパルスエネルギを変更する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工対象物に複数の超短パルスレーザ光を照射することにより穴又は溝を加工するレーザ加工装置であって、
前記超短パルスレーザ光を出力するレーザ装置と、
前記超短パルスレーザ光のパルスエネルギを制御するプロセッサと、
を備え、
前記プロセッサは、加工中に、加工深さに応じて前記パルスエネルギを変更する
レーザ加工装置。
【請求項2】
前記プロセッサは、前記加工深さが深くなるほど前記パルスエネルギを増加させる
請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記加工深さと、前記超短パルスレーザ光が照射される照射スポットの表面積との関係を表すデータを記憶したメモリをさらに備え、
前記プロセッサは、加工中に、前記データに基づいて前記パルスエネルギを変更することにより、前記超短パルスレーザ光のパワー密度のピーク値を一定の範囲内とする
請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記範囲の上限は、前記加工対象物の表面に前記超短パルスレーザ光を照射した場合における光侵入長を考慮して算出される値である
請求項3に記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
前記範囲の上限は、加工中に、熱加工が生じず、アブレーションのみが生じる前記パワー密度のピーク値の上限である
請求項4に記載のレーザ加工装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のうちのいずれか1項に記載のレーザ加工装置を用いて前記溝を加工することにより切断面が形成された前記加工対象物からなる加工物であって、
前記切断面は、アブレーションで形成された面である
加工物。
【請求項7】
前記切断面が有するバリの長さは、1μm以下である
請求項6に記載の加工物。
【請求項8】
前記切断面の加工方向の長さが100μmである場合、前記切断面のエッジの角度は、80°以上145°以下の範囲内である
請求項6に記載の加工物。
【請求項9】
前記切断面の加工方向の長さが300μmである場合、前記切断面のエッジの角度は、87°以上115°以下の範囲内である
請求項6に記載の加工物。
【請求項10】
前記切断面の加工方向の長さが700μmである場合、前記切断面のエッジの角度は、89°以上102°以下の範囲内である
請求項6に記載の加工物。
【請求項11】
レーザ装置から加工対象物に複数の超短パルスレーザ光を照射することにより穴又は溝を加工するレーザ加工方法であって、
プロセッサが前記レーザ装置を制御することにより、加工中に、加工深さに応じて前記超短パルスレーザ光のパルスエネルギを変更する
レーザ加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザ加工装置、レーザ加工方法、及び加工物に関する。
【背景技術】
【0002】
金属等の加工対象物に複数の超短パルスレーザ光を照射することにより穴又は溝を加工する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。超短パルスレーザ光を用いることによりアブレーション加工を行うことができる。アブレーション加工は、光のエネルギにより物質の結合を直接切断して昇華させるので、熱加工に比べて熱の影響が少なく、高品質な微細加工を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2020/031948号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようなレーザ加工を行う場合、加工深さが大きくなるにつれて、超短パルスレーザ光が照射される照射スポットの表面積が大きくなるので、照射スポットにおける超短パルスレーザ光のパワー密度が低下する。したがって、加工深さが大きくなり、パワー密度のピーク値が加工閾値未満となった場合には、それ以上レーザ加工が進行しなくなる。
【0005】
加工深さを大きくするためには、超短パルスレーザ光の出力を上げることが考えられる。しかしながら、高出力でレーザ加工を開始すると、加工領域ではアブレーションの後に熱拡散が生じて加工底面が溶融することにより、加工品質が低下してしまう。
【0006】
したがって、従来の技術では、高品質の穴又は溝を一定以上深く加工することができないという問題がある。
【0007】
本開示の技術は、高品質の穴又は溝をより深く加工するレーザ加工装置、レーザ加工方法、及び加工物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本開示のレーザ加工装置は、加工対象物に複数の超短パルスレーザ光を照射することにより穴又は溝を加工するレーザ加工装置であって、超短パルスレーザ光を出力するレーザ装置と、超短パルスレーザ光のパルスエネルギを制御するプロセッサと、を備え、プロセッサは、加工中に、加工深さに応じてパルスエネルギを変更する。
【0009】
プロセッサは、加工深さが深くなるほどパルスエネルギを増加させることが好ましい。
【0010】
加工深さと、超短パルスレーザ光が照射される照射スポットの表面積との関係を表すデータを記憶したメモリをさらに備え、プロセッサは、加工中に、データに基づいてパルスエネルギを変更することにより、超短パルスレーザ光のパワー密度のピーク値を一定の範囲内とすることが好ましい。
【0011】
範囲の上限は、加工対象物の表面に超短パルスレーザ光を照射した場合における光侵入長を考慮して算出される値であることが好ましい。
【0012】
範囲の上限は、加工中に、熱加工が生じず、アブレーションのみが生じるパワー密度のピーク値の上限であることが好ましい。
【0013】
上記レーザ加工装置を用いて溝を加工することにより切断面が形成された加工対象物からなる加工物であって、切断面は、アブレーションで形成された面である。
【0014】
切断面が有するバリの長さは、1μm以下であることが好ましい。
【0015】
切断面の加工方向の長さが100μmである場合、切断面のエッジの角度は、80°以上145°以下の範囲内であることが好ましい。
【0016】
切断面の加工方向の長さが300μmである場合、切断面のエッジの角度は、87°以上115°以下の範囲内であることが好ましい。
【0017】
切断面の加工方向の長さが700μmである場合、切断面のエッジの角度は、89°以上102°以下の範囲内であることが好ましい。
【0018】
本開示のレーザ加工方法は、レーザ装置から加工対象物に複数の超短パルスレーザ光を照射することにより穴又は溝を加工するレーザ加工方法であって、プロセッサがレーザ装置を制御することにより、加工中に、加工深さに応じて超短パルスレーザ光のパルスエネルギを変更する。
【発明の効果】
【0019】
本開示の技術によれば、高品質の穴又は溝をより深く加工するレーザ加工装置、レーザ加工方法、及び加工物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】レーザ加工装置の構成の一例を概念的に示す図である。
図2】従来の穴あけ加工について説明する図である。
図3】データの一例を概念的に示す図である。
図4】本実施形態に係るパワー制御加工の流れの一例を示すフローチャートである。
図5】本実施形態に係るパワー制御加工により穴を加工した場合における加工深さとパワー密度との関係を示す図である。
図6】光侵入長について説明する図である。
図7】加工レートと光侵入長との関係を示すグラフである。
図8】パワー密度のピーク値が熱加工閾値より大きい場合における穴あけ加工について説明する図である。
図9】加工対象物に溝を加工する方法について説明する図である。
図10】加工物の一例を示す図である。
図11】切断面の加工方向の長さとエッジの角度との関係を示す図である。
図12】加工対象物に溝を加工することにより形成された切断面を示す図である。
図13】レーザ加工装置の変形例を概念的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本開示の技術を実施するための形態例を詳細に説明する。
【0022】
まず、図1を参照して、レーザ加工装置2の構成を説明する。図1に示すように、レーザ加工装置2は、レーザ装置3と、集光レンズ4と、移動ステージ5と、プロセッサ6と、メモリ7と、入力装置8と、を備える。
【0023】
レーザ装置3は、固体レーザ30と、アッテネータ31と、波長変換ユニット32と、を有する。固体レーザ30は、例えば、パルス幅が1~10psで変更可能であって、波長が1030nm、最大パルスエネルギが200μJの超短パルスレーザ光を出力する。本実施形態では、例えば、固体レーザ30が出力する超短パルスレーザ光を1psとする。固体レーザ30から出力される超短パルスレーザ光は、直線偏光である。固体レーザ30から出力された超短パルスレーザ光は、アッテネータ31に入射する。
【0024】
アッテネータ31は、固体レーザ30から入射した超短パルスレーザ光のパルスエネルギを変更可能とする光学素子である。例えば、アッテネータ31は、偏光ビームスプリッタ型アッテネータであり、超短パルスレーザ光が入射し、かつ回転可能に構成された偏光子を有する。偏光子が回転することにより超短パルスレーザ光の透過率が変化(すなわちパルスエネルギが変化)する。アッテネータ31を透過した超短パルスレーザ光は、波長変換ユニット32に入射する。
【0025】
波長変換ユニット32は、非線形光学結晶を有し、アッテネータ31から入射した超短パルスレーザ光を波長変換する。具体的には、波長1030nmの超短パルスレーザ光を、2倍波である波長515nmの超短パルスレーザ光に変換する。
【0026】
波長変換ユニット32により波長変換された超短パルスレーザ光は、レーザ装置3から出力される。以下、レーザ装置3から出力される超短パルスレーザ光を、単にパルスレーザ光PLという。パルスレーザ光PLは、中心から半径方向に距離が大きくなるにつれて強度が低下するガウス分布の放射強度プロファイルを有する。
【0027】
集光レンズ4は、レーザ装置3から出力されるパルスレーザ光PLの光路上に配置されており、パルスレーザ光PLを、移動ステージ5に載置された加工対象物10の表面に集光する。以下、パルスレーザ光PLが加工対象物10の表面に入射する方向をZ方向とする。また、Z方向に直交する1つの方向をX方向とし、Z方向とX方向とに直交する方向をY方向とする。
【0028】
加工対象物10は、例えば金属である。なお、加工対象物10は、金属に限られず、プラスチック、ガラス等であってもよい。加工対象物10には、複数のパルスレーザ光PLが照射されることにより、穴又は溝が加工される。なお、加工対象物10に加工される穴又は溝は、加工対象物10をZ方向に貫通した穴又は溝と、加工対象物10をZ方向に貫通していない有底の穴又は溝とのいずれであってもよい。
【0029】
移動ステージ5は、載置した加工対象物10を、X方向及びY方向に移動させることを可能とする。移動ステージ5が加工対象物10を移動させることにより、加工対象物10の表面においてパルスレーザ光PLが照射される照射スポットSPの位置が変更される。
【0030】
プロセッサ6は、例えば、CPU(Central Processing Unit)を含むマイクロコンピュータとして構成されている。メモリ7は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等の記憶装置である。メモリ7は、プログラム70及びデータ71を記憶している。メモリ7は、プロセッサ6に接続又は内蔵されている。
【0031】
プロセッサ6は、プログラム70に基づいて、レーザ装置3及び移動ステージ5を制御する。本実施形態では、プロセッサ6は、アッテネータ31に含まれる偏光子の回転を制御することにより、穴又は溝の加工中に、レーザ装置3から出力されるパルスレーザ光PLのパルスエネルギを変更する。詳しくは後述するが、データ71は、加工深さと、パルスレーザ光PLが照射される照射スポットSPの表面積との関係を表すデータである。
【0032】
入力装置8は、キーボード、マウス等であり、ユーザにより操作される。ユーザは、入力装置8を用いて、加工開始指示、加工終了指示、加工条件の入力等を行うことができる。
【0033】
図2を参照して、従来のように出力を一定、すなわちパルスエネルギを一定とした状態での穴あけ加工について説明する。図2に示す例では、加工対象物10を移動させず、照射スポットSPの位置を一定としている。図2は、照射スポットSPに加工される穴の加工深さDと、照射スポットSPにおけるパルスレーザ光PLのパワー密度Pとの関係を示している。
【0034】
パワー密度Pは、照射スポットSPにおける単位面積当たりのエネルギの量であり、例えば、J/cmを単位として表される。本開示では、パワー密度Pは、照射スポットSPに照射されるパルスレーザ光PLの1パルス当たりのエネルギ密度を表す。パワー密度Pは、照射スポットSPの表面積に依存し、表面積が大きいほど小さくなる。
【0035】
図2に示すように、パルスレーザ光PLの照射パルス数が増えるにつれて、加工される穴の加工深さDが大きくなる。また、穴の加工深さDが大きくなるとともに、穴の内部面積が増加する。パルスレーザ光PLは、穴の内部にも照射されるので、穴の加工深さDが大きくなるとともに、照射スポットSPの表面積が増加する。パワー密度Pは、照射スポットSPの表面積に依存するので、穴の加工深さDが大きくなるとともに、パワー密度Pが低下する。
【0036】
図2に示す例では、パルスレーザ光PLの1パルス目に、パワー密度Pのピーク値Pが加工閾値TH1と熱加工閾値TH2との間となるように、パルスレーザ光PLのパルスエネルギが設定されている。加工閾値TH1は、アブレーションが生じる最低限のパワー密度Pである。熱加工閾値TH2は、熱加工が生じる最低限のパワー密度Pである。すなわち、パルスエネルギは、レーザ加工開始時にアブレーションのみが生じるように設定されている。
【0037】
しかしながら、従来のようにパルスエネルギを一定としてレーザ加工を行うと、加工深さDが大きくなって照射スポットSPの表面積が増加することにより、パワー密度Pが低下する。パワー密度Pのピーク値Pが加工閾値TH1未満に低下すると、それ以上レーザ加工が進行しなくなる。図2は、照射パルス数が少なくとも5000パルスに達すると、パワー密度Pのピーク値Pが加工閾値TH1より低下することにより、レーザ加工が進行しなくなることを示している。
【0038】
図3に、データ71の一例を概念的に示す。データ71は、加工深さDと、照射スポットSPの表面積Sとの関係を示している。表面積Sは、加工深さDが大きくなるほど大きくなる。図3では、表面積Sと加工深さDとの関係を線形としているが、当該関係は線形には限られない。データ71は、シミュレーション又は実験によって求められる。
【0039】
本実施形態では、プロセッサ6は、データ71に基づいて、加工中に、パルスレーザ光PLのパルスエネルギを変更する。具体的には、プロセッサ6は、加工中に、パルスレーザ光PLのパルスエネルギを増加させることにより、パワー密度Pのピーク値Pを一定の範囲E内とする。一定の範囲Eは、加工閾値TH1以上熱加工閾値TH2以下の範囲である。加工閾値TH1は範囲Eの下限であり、熱加工閾値TH2は範囲Eの上限である。
【0040】
例えば、プロセッサ6は、照射パルス数に基づいて加工深さDを推定し、推定した加工深さDに対応する照射スポットSPの表面積Sをデータ71から求める。そして、プロセッサ6は、求めた表面積Sに対応するパワー密度Pのピーク値Pが一定の範囲E内となるパルスエネルギを求める。なお、データ71は、照射パルス数とパルスエネルギとの関係を直接規定してものであってもよい。
【0041】
図4に、本実施形態に係るパワー制御加工の流れの一例を示す。まず、ステップS10で、プロセッサ6は、初期のパルスエネルギをレーザ装置3に設定する。初期のパルスエネルギは、1パルス目のパワー密度Pのピーク値Pを一定の範囲E内とするパルスエネルギである。
【0042】
次に、ステップS11で、プロセッサ6は、レーザ装置3を制御することにより、ステップS10で設定したパルスエネルギを有するパルスレーザ光PLを加工対象物10に照射させる。
【0043】
次に、ステップS12で、プロセッサ6は、パルスレーザ光PLの照射パルス数が規定値に達したか否かを判定する。規定値は1以上の整数である。プロセッサ6は、照射パルス数が規定値に達したと判定していないと判定した場合には(ステップS12:NO)、処理をステップS11に戻す。プロセッサ6は、照射パルス数が規定値に達したと判定した場合には、処理をステップS13に移行させる。
【0044】
ステップS13で、プロセッサ6は、終了条件を満たすか否かを判定する。例えば、終了条件は、加工深さDが所定値に達したこと、入力装置8から加工終了指示が入力されたこと等である。プロセッサ6は、終了条件を満たしていないと判定した場合には、処理をステップS14に移行させる。プロセッサ6は、終了条件を満たすと判定した場合には、処理を終了する。
【0045】
ステップS14で、プロセッサ6は、パルスエネルギを変更し、変更したパルスエネルギをレーザ装置3に設定する。プロセッサ6は、上述のように、データ71に基づいて、パワー密度Pのピーク値Pを一定の範囲E内とするようにパルスエネルギを変更する。プロセッサ6は、ステップS14の後、処理をステップS11に移行させる。すなわち、プロセッサ6は、終了条件を満たすまで、照射パルス数が規定値に達するたびにパルスエネルギを変更する。
【0046】
以上のパワー制御加工によれば、パワー密度Pのピーク値Pが一定の範囲E内に維持することができる。ピーク値Pを一定の範囲E内に維持すればよいので、パルスエネルギを1パルスごとに変更する必要はない。すなわち、ステップS12の規定値は、1以外であってもよく、加工中にピーク値Pが加工閾値TH1未満とならないように決定すればよい。
【0047】
図5に、本実施形態に係るパワー制御加工により穴を加工した場合における加工深さDとパワー密度Pとの関係を示す。本実施形態では、上述のように、加工深さDに応じてパルスエネルギを変更するので、パワー密度Pのピーク値Pが一定の範囲E内に維持される。このため、本実施形態では、加工中にピーク値Pが加工閾値TH1未満となることはないので、高品質の穴をより深く加工することができる。
【0048】
次に、一定の範囲Eの上限である熱加工閾値TH2について説明する。熱加工閾値TH2は、図6に示すように、加工対象物10の表面にパルスレーザ光PLを照射した場合における光侵入長Lを考慮して算出される値である。光侵入長Lとは、パルスレーザ光PLが加工対象物10の表面から内部へ入り込む長さをいう。
【0049】
本出願人は、光侵入長Lがパワー密度Pのピーク値Pをパラメータとして下式(1)で表されることを見出した。
【0050】
【数1】
【0051】
ここで、Iは、加工対象物10の第1イオン化エネルギである。Tは、加工対象物10のパルスレーザ光PLに対する透過率である。
【0052】
図7に示すように、熱加工閾値TH2は、パルスレーザ光PLによる加工対象物10の加工レートRと光侵入長Lとの関係に基づいて求まる。加工レートRは、加工対象物10の表面にパルスレーザ光PLを照射した場合に加工される穴の深さをいう。加工レートRは、例えば、実験により求めることができる。
【0053】
パワー密度Pのピーク値Pがアブレーションのみが生じる一定の範囲E内である場合には、加工レートRは、光侵入長Lとほぼ一致する。しかし、ピーク値Pが熱加工閾値TH2より大きくなると、加工レートRは、光侵入長Lより大きくなる。これは、図8に示すように、ピーク値Pが熱加工閾値TH2より大きい場合には、光侵入長Lより深く光が届かない領域では熱拡散により熱加工が生じるためである。なお、熱加工が生じた場合には、巣状の溶融物が生成される。
【0054】
このように、加工レートRが光侵入長Lより大きくなるピーク値Pを求め、求めたピーク値Pを熱加工閾値TH2とする。
【0055】
以上、加工対象物10に1つの穴を加工する場合について説明したが、プロセッサ6が、加工中に移動ステージ5を制御して、加工対象物10を移動させることにより、溝を加工することができる。
【0056】
例えば、図9に示すように、加工対象物10をX方向に移動させることにより、加工対象物10の表面における照射スポットSPの位置をX方向に変更しながらパルスレーザ光PLを照射する。このように、照射スポットSPを加工対象物10の表面上の第1点から第2点まで変更しながらパルスレーザ光PLを照射することを「走査」という。走査を複数回繰り返すことにより、加工対象物10に溝を加工することができる。
【0057】
溝を加工する場合には、プロセッサ6は、走査回数に応じてパルスエネルギを変更する。すなわち、図4に示すステップS12において、プロセッサ6は、走査回数が規定値に達したか否かを判定する。
【0058】
図10に、レーザ加工装置2により加工対象物10を加工することにより得られる加工物20の一例を示す。図10に示す加工物20は、Z方向に貫通する溝を加工することにより切断面21が形成された加工対象物10からなる。切断面21は、アブレーションで形成された面である。
【0059】
本出願人は、ニッケルチタン(NiTi)を材料とするレーザ加工装置2を用いて加工対象物10に溝を加工し、切断面21の下端部に生じるバリ22の長さWを計測した。本実施形態に係るパワー制御加工によれば、バリ22の長さWは、1μm以下となる。
【0060】
また、切断面21の上部のエッジ23の角度θの角度を計測した。エッジ23の角度θは、加工した溝の深さ、すなわち切断面21の加工方向の長さHに依存する。エッジ23の角度θは、長さHが大きいほど90°に近づく。
【0061】
本実施形態に係るパワー制御加工によれば、図11に示すように、長さHが100μmである場合、エッジ23の角度θは、80°以上145°以下の範囲内となる。長さHが300μmである場合、エッジ23の角度θは、87°以上115°以下の範囲内となる。長さHが700μmである場合、エッジ23の角度θは、89°以上102°以下の範囲内となる。
【0062】
図12に、ニッケルチタン(NiTi)を材料とする加工対象物10に溝を加工することにより形成された切断面21を示す。
【0063】
(A)は、本実施形態に係るパワー制御加工により形成した切断面21を示す。本パワー制御加工では、パルスエネルギを順に5μJ、15μJ、30μJと変化させ、各パルスエネルギで5000回走査を行った。切断面21を観察すると、バリ22の長さWは、100nm以下であった。
【0064】
(B)は、従来の定パワー加工により形成した切断面21を示す。本定パワー加工では、パワー密度Pのピーク値Pが熱加工閾値TH2より大きくなる高パルスエネルギで走査を行った。切断面21を観察すると、バリ22の長さWは、1μmより大きい値であった。バリ22は、主に熱加工による溶融によって生じる。
【0065】
従来の定パワー加工では、熱の影響を受けずに加工することが可能な深さは170μmが限界であったが、本実施形態に係るパワー制御加工では、熱の影響を受けずに加工することが可能な深さは700μm以上である。すなわち、本実施形態に係るパワー制御加工によれば、高品質の穴又は溝をより深く加工することができる。
【0066】
本実施形態に係るパワー制御加工は、厚みが大きい金属部材を熱ダメージなく切断する必要がある生検針等の製造に利用することが可能である。
【0067】
なお、上記実施形態では、パルスレーザ光PLの波長をピコ秒のオーダとしているが、パルスレーザ光PLの波長はフェムト秒のオーダであってもよい。すなわち、本開示のパルスレーザ光PLの波長は、10ps以下であればよい。
【0068】
また、上記実施形態では、アッテネータ31を固体レーザ30と波長変換ユニット32との間に配置しているが、アッテネータ31を波長変換ユニット32と集光レンズ4との間に配置してもよい。
【0069】
また、上記実施形態では、加工対象物10を載置した移動ステージ5を制御することにより加工対象物10の表面における照射スポットSPの位置を変更している。これに代えて、図13に示すように、レーザ装置3と集光レンズ4との間にガルバノスキャナ9を配置してもよい。この場合、移動ステージ5を設ける必要はない。ガルバノスキャナ9は、レーザ装置3から出力されたパルスレーザ光PLが集光レンズ4に入射する角度を変更可能に構成されている。この場合、集光レンズ4は、fθレンズであることが好ましい。プロセッサ6は、ガルバノスキャナ9を制御することにより、加工対象物10の表面における照射スポットSPの位置を変更することができる。
【0070】
また、プロセッサ6のハードウェア構成は種々の変形が可能である。プロセッサ6は、アナログ演算回路及びデジタル演算回路のうちの少なくとも一方を用いて構成することが可能である。プロセッサ6は、1つのプロセッサで構成されてもよいし、同種又は異種の2つ以上のプロセッサの組み合わせで構成されてもよい。プロセッサには、CPU(Central Processing Unit)、プログラマブルロジックデバイス(Programmable Logic Device:PLD)、及び専用電気回路等が含まれる。CPUは、周知のとおりメモリに記憶されたソフトウエア(プログラム)を実行して各種の処理部として機能する汎用的なプロセッサである。PLDは、FPGA(Field Programmable Gate Array)等の、製造後に回路構成を変更可能なプロセッサである。専用電気回路は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである。
【0071】
上記説明によって以下の技術を把握することができる。
[付記項1]
加工対象物に複数の超短パルスレーザ光を照射することにより穴又は溝を加工するレーザ加工装置であって、
前記超短パルスレーザ光を出力するレーザ装置と、
前記超短パルスレーザ光のパルスエネルギを制御するプロセッサと、
を備え、
前記プロセッサは、加工中に、加工深さに応じて前記パルスエネルギを変更する
レーザ加工装置。
[付記項2]
前記プロセッサは、前記加工深さが深くなるほど前記パルスエネルギを増加させる
付記項1に記載のレーザ加工装置。
[付記項3]
前記加工深さと、前記超短パルスレーザ光が照射される照射スポットの表面積との関係を表すデータを記憶したメモリをさらに備え、
前記プロセッサは、加工中に、前記データに基づいて前記パルスエネルギを変更することにより、前記超短パルスレーザ光のパワー密度のピーク値を一定の範囲内とする
付記項1又は付記項2に記載のレーザ加工装置。
[付記項4]
前記範囲の上限は、前記加工対象物の表面に前記超短パルスレーザ光を照射した場合における光侵入長を考慮して算出される値である
付記項3に記載のレーザ加工装置。
[付記項5]
前記範囲の上限は、加工中に、熱加工が生じず、アブレーションのみが生じる前記パワー密度のピーク値の上限である
付記項3又は付記項4に記載のレーザ加工装置。
[付記項6]
付記項1から付記項5のうちのいずれか1項に記載のレーザ加工装置を用いて前記溝を加工することにより切断面が形成された前記加工対象物からなる加工物であって、
前記切断面は、アブレーションで形成された面である
加工物。
[付記項7]
前記切断面が有するバリの長さは、1μm以下である
付記項6に記載の加工物。
[付記項8]
前記切断面の加工方向の長さが100μmである場合、前記切断面のエッジの角度は、80°以上145°以下の範囲内である
付記項6又は付記項7に記載の加工物。
[付記項9]
前記切断面の加工方向の長さが300μmである場合、前記切断面のエッジの角度は、87°以上115°以下の範囲内である
付記項6又は付記項7に記載の加工物。
[付記項10]
前記切断面の加工方向の長さが700μmである場合、前記切断面のエッジの角度は、89°以上102°以下の範囲内である
付記項6又は付記項7に記載の加工物。
【符号の説明】
【0072】
2 レーザ加工装置
3 レーザ装置
4 集光レンズ
5 移動ステージ
6 プロセッサ
7 メモリ
8 入力装置
9 ガルバノスキャナ
10 加工対象物
20 加工物
21 切断面
22 バリ
23 エッジ
30 固体レーザ
31 アッテネータ
32 波長変換ユニット
70 プログラム
71 データ
D 加工深さ
E 一定の範囲
L 光侵入長
P パワー密度
ピーク値
PL パルスレーザ光
R 加工レート
S 表面積
SP 照射スポット
TH1 加工閾値
TH2 熱加工閾値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13