(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141818
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】ロースト風味向上剤
(51)【国際特許分類】
A23L 27/20 20160101AFI20241003BHJP
A23L 27/00 20160101ALI20241003BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20241003BHJP
A23J 3/14 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
A23L27/20 G
A23L27/00 Z
A23L5/00 H
A23L5/00 M
A23J3/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053662
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000226976
【氏名又は名称】日清食品ホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】青木 崇幸
(72)【発明者】
【氏名】西尾 柚香
【テーマコード(参考)】
4B035
4B047
【Fターム(参考)】
4B035LC01
4B035LG04
4B035LG15
4B035LG33
4B047LB08
4B047LF03
4B047LG14
4B047LG20
(57)【要約】
【課題】植物性タンパク質を原料として使用する食品に対する新たなロースト風味向上剤を提供する。
【解決手段】
ピラジン類を含有させることで植物性タンパク質を使用した食品のロースト風味を増強することができる。本願においては、ピラジン類を含有する植物性タンパク質含有食品のロースト風味向上剤とともに、植物性タンパク質を使用する食品の製造方法であって、ピラジン類を含有させる工程を含む食品の製造方法及びロースト風味向上方法も意図している。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピラジン類を含有することを特徴とする、植物性タンパク質含有食品に対するロースト風味向上剤。
【請求項2】
ピラジン類を含有する植物性タンパク質含有食品。
【請求項3】
前記食品が乾燥食品である請求項2に記載の植物性タンパク質含有食品。
【請求項4】
植物性タンパク質含有食品の製造方法であって、ピラジン類を添加する工程を含む植物性タンパク質含有食品の製造方法。
【請求項5】
植物性タンパク質含有食品において、ピラジン類を含有させることによってロースト風味を向上する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物性タンパク質を原料として使用する食品に添加して、当該食品に対してロースト風味を向上することができる風味向上剤等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
加工食品をはじめとする各種食品においては、大豆タンパク等の植物性タンパク質が利用される場合がある。このような植物性タンパク質は将来の畜肉原料の不足等の状況が予想されることから、代替肉として重要に考えられるようになってきている。その使用量が増加してきており、将来的にはさらに多く使用されていくことが予想される。
一方、植物性タンパク質と畜肉類のタンパク質とは、生物種の違いやアミノ酸組成、付随する油脂等の違いから風味や味が相違する。
【0003】
このような状況下において、植物性タンパク質に対してロースト風味を効果的に向上することができれば、一層の植物性タンパク質の利用を促進することができる。特に、畜肉を焼いた際に生じる風味を向上することができれば好ましい。
上記に関連する先行特許文献として、植物性タンパク質の風味を改善する素材として例えば、以下の特許文献1に記載の発酵調味料組成物が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【0005】
上記の発酵調味料組成物は、植物性タンパク質の特有の臭いのマスキングに有効な物質である。一方、積極的に植物性タンパク質に対して畜肉のロースト風味を向上するものではない。
このため、上述のように植物性タンパク質に対しては代替肉の問題からもロースト風味を向上する方法があれば有用である。
本発明者らは、特に植物タンパク質を使用する加工食品を加熱する場合、通常の動物系の肉を加熱した場合に比較して不足する点を検討した。その結果、ロースト風味が不足することを見出した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の発明者らは植物性タンパク質を原料として使用する食品であって特に喫食時に、加熱処理する加工食品に対する対して、その畜肉の焼いた場合に生じるロースト風味を増強する方法を種々の角度から検討した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、種々の素材を用いてその香気成分について実験を繰り返し実施した。本発明者の鋭意研究の結果、ピラジン類を利用することで、植物性タンパク質を使用する食品に対するロースト風味を向上する効果を見出し、本発明を完成するに至ったのである。
すなわち、本願第一の発明は、
「ピラジン類を含有することを特徴とする、植物性タンパク質含有食品に対するロースト風味向上剤。」、である。
【0008】
次に、本出願人は、ピラジン類を含有する植物性タンパク質含有食品も意図している。すなわち、本願第二の発明は、
「ピラジン類を含有する植物性タンパク質含有食品。」、である。
【0009】
次に、前記植物性タンパク質含有食品は、乾燥タイプの食品であることが好ましい。す
なわち、本願第三の発明は、
「前記食品が乾燥食品である請求項2に記載の植物性タンパク質含有食品。」、である。
【0010】
次に、本出願人は、植物性タンパク質含有食品の製造方法において、ピラジン類を添加する工程を含む植物性タンパク質含有食品の製造方法についても意図している。
すなわち、本願第四の発明は、
「植物性タンパク質含有食品の製造方法であって、ピラジン類を添加する工程を含む植物性タンパク質含有食品の製造方法。。」、である。
【0011】
次に、本出願人は、植物性タンパク質を使用する食品において、ピラジン類を含有させることによってロースト風味を増強させる方法についても意図している。
すなわち、本願第五の発明は、
“植物性タンパク質含有食品において、ピラジン類を含有させることによってロースト風味を向上する方法。”、である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のロースト風味向上剤を利用することで、植物性タンパク質を使用する食品、特に加工食品を始めとする各種食品のロースト風味を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明を実施の形態に準じて詳細に説明する。但し、本発明はこれらの実施態
様に限定されるものではない。本発明の有効成分は以下の物質である。
【0014】
─ピラジン類─
本発明でいうピラジン類(Pyrazines)とは、ベンゼンの1,4位の炭素が窒素で置換された分子式C4H4N2の複素環状部を有する化合物であり、芳香族化合物の一つである。
本発明で利用できるピラジン類(Pyrazines)については、例えば、
1)2-methylthio-3(5/6)methylpyrazine(2-メチルチオ-(3又は5又は6)-メチルピラジン)
2)3-ethyl-2methylpyrazine(=2-ethyl-3methylpyrazine)(3-エチル-2-メチルピラジン)
3)2-ethyl-3,(5/6)dimethylpyrazine(2-エチル-3及び(5又は6)-ジメチルピラジン)
4)2,3,5-trimethylpyrazine(2,3,5-トリメチルピラジン)
等が挙げられる。尚、本発明は上記の化合物に限定されるものではないことは勿論である。
【0015】
本発明に利用するピラジン類(Pyrazines)については、市販のタイプを入手等することができる。日本において使用可能なピラジン類は食品衛生法施行規則 別表第一(指定添加物リスト)で指定されるか、指定添加物のうち、「エステル類」等の一括名称で指定した香料(18類香料)について、18類香料リストとして記載されているものとなっている。
【0016】
本発明に利用するピラジン類については、市販のタイプを購入することができる。また、合成したものを利用することもできる。さらに、食品等から抽出(蒸留等)により、その香気成分を抽出したものを用いることもできる。
尚、本ピラジン類を食品の製造において使用する場合は、液体油脂等の溶剤に溶解させた状態のタイプのものを利用することが好ましい。
【0017】
─植物性タンパク質─
本発明にいう植物性タンパク質とは、植物に含まれるタンパク質をいう。植物性タンパク質は、動物性のタンパク質(牛、豚、鶏、卵、魚等)に比べて、脂質量が少なく、カロリー摂取を抑える面からは有利である。また、種々の食品に添加しやすいという特徴を有
している。
主な植物性タンパク質については、大豆、エンドウ豆、そら豆等の豆類や、とうもろこし、そば、小麦等の穀類が原料となる各種タンパク質が挙げられる。その他、植物自体に含まれる量は比較的少ないが、アスパラガス、ブロッコリー等の野菜類や、アボカド、バナナ等の果実類にも含まれている。
【0018】
本発明にいう植物性タンパク質は、主としては大豆やエンドウ豆、そら豆等の豆類や、とうもろこし、そば、小麦等の穀類由来の植物性タンパク質をいうが、これに限定されず、野菜類、果実類の植物性タンパク質も含まれる。
次に、当該植物性タンパク質については、例えば、当該植物体から抽出、分離等された状態から得られたタイプのものが挙げられる。但し、抽出については、厳密な精製等のレベルでなく、粗抽出でもよいことは勿論である。
【0019】
また、大豆等の植物体をそのまま使用することも可能であり、当該植物体に含む植物性タンパク質を利用することもできる。上記のように種々の方法で植物性タンパク質を利用した食品を製造することができる。
植物性タンパク質としては、乾燥タイプやウエットタイプのいずれも利用することができる。特に乾燥タイプの植物性タンパク質を利用する場合、一旦、水と混合してパテ状にしたものを利用する場合もある。
【0020】
─植物性タンパク質含有食品─
本発明にいう植物性タンパク質含有食品とは、上述の植物性タンパク質を原料として用いた食品という。当該植物性タンパク質が原料として一部に利用されていればよく、当該植物性タンパク質以外の原料が含まれていてもよい。より具体的には、植物性タンパク質以外に動物性タンパク質(牛肉、豚肉、鶏肉、魚肉等)、炭水化物(穀類、野菜等)、脂質、食物繊維、水分、ミネラル、ビタミン、色素、食品添加物等を含んでいてもよい。
【0021】
次に、本発明における植物性タンパク質含有食品において植物性タンパク質の使用量は特に限定されない。少量若しくは微量であっても植物性タンパク質含有食品に含まれることは勿論である。
また、植物性タンパク質含有食品は、固体状又は液体状のいずれの形態も可能であることは勿論である。植物性タンパク質を使用した具体的な食品名としては、例えば、即席食品(即席カップ麺や即席袋麺等の即席麺、即席カップライス、即席スープ等)が挙げられる。
【0022】
特に、即席麺(即席カップ麺)や即席カップライスでは、具材として、大豆タンパク等の植物性タンパク質を一部に使用した乾燥具材(熱風乾燥や凍結乾燥による乾燥具材)を使用する場合があるが、本発明は、これらの乾燥具材に好適に適用できる。
【0023】
また、大豆タンパク及び/又はエンドウ豆タンパク等の植物性タンパク質を利用した疑似肉(ハンバーグ、ミンチボール等)にも好適に適用することができる。
尚、当該乾燥具材や疑似肉を構成する他の成分として澱粉等の糖質、動物性タンパク質(牛、豚、鶏等)、塩、醤油及びソース等の調味料並びに香辛料が用いられてもよいことは勿論である。
本発明の植物タンパク質含有食品は、植物タンパク質を利用した加工食品であって、実際に加熱調理(焼成、蒸煮、熱湯注加するものや、植物タンパク質を利用した疑似的な加熱畜肉製品(疑似チャーシュー、疑似焼肉、疑似ハンバーグ等)にも利用することができる。このような植物タンパク質を利用した代替肉に肉様のロースト風味を付与することができる。
【0024】
─植物タンパク質由来のペプチド架橋物─
(植物タンパク質を加水分解することにより植物タンパク質に由来するペプチドを調製し、当該ペプチドを架橋することによって得られるペプチド架橋物)
本発明においては、原料として上記の植物タンパク質とともに、別途、任意の植物タンパク質を加水分解することにより得られる、植物タンパク質に由来するペプチドを架橋することによって得られるペプチド架橋物を利用することも好ましい。当該ペプチド架橋物を利用することによって風味を一層向上させることができる。
【0025】
ここで、当該ペプチド架橋物の原料としての植物タンパク質としては特に限定されるものではないが、大豆タンパク質、えんどう豆タンパク質、そら豆タンパク質、ひよこ豆タンパク質、緑豆タンパク質、ライスタンパク質、玄米タンパク質、亜麻仁タンパク質等を利用することができる。
特に、これらの中では、大豆タンパク質、えんどう豆タンパク質、そら豆タンパク質、ライスタンパク質、玄米タンパク質が好ましい。
【0026】
上記のペプチド架橋物の製造方法としては、まず、植物タンパク質を加水分解するが、加水分解については、酵素を利用する方法、塩酸を利用する方法等種々の方法を利用することができる。但し、好ましくは酵素を利用する方法であり、酵素としては、特に限定されず、種々のプロテアーゼを利用することができる。
【0027】
具体的には、種々のエンドペプチダーゼやエキソペプチダーゼを利用することができる
。より具体的には、トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、パパイン、カルパイン、リソソームカテプシン、ペプシン、レンニン、サーモリシン、カルボキシペプチダーゼ等の他、種々のプロテアーゼを利用することができる。
【0028】
さらに、より具体的には、例えば、アルカラーゼ(Alcalase)(登録商標)やフレーバ
ーザイム(Flavourzyme)(登録商標)を利用することも好ましい。
植物タンパク質抽出用のAlcalase(登録商標)は、用途の広いエンドプロテアーゼで、広範囲の加水分解が可能である。 加水分解プロセスの最初の段階で、植物性タンパク質を分解するために使用することが好ましい。また、他のプロテアーゼと組み合わせてもよい。
【0029】
また、植物タンパク質抽出用のFlavourzyme(登録商標)は、エンドペプチダーゼとエキソペプチダーゼの混合であり、独特のフレーバー生成と苦味を取り除く利点を有する。
次に、酵素の処理時間としては特に限定されるものではないが、概ね2時間~6時間程度が好適である。
【0030】
次に、当該加水分解後の得られた植物タンパク質に由来するペプチドを架橋する。例えば、加水分解した状態の大豆ペプチドはやや苦味が強い。一方、これを架橋することによって苦味を低減することができる。前記の加水分解後の大豆ペプチドについて架橋酵素を利用して加工する。使用する酵素としては、トランスグルタミナーゼ(Transglutaminase)等が挙げられる。
【0031】
尚、架橋後のペプチドについては、概ね、当該ペプチドの分子量の範囲が1000~5000Daの範囲のものとすることが好ましい。当該分子量の範囲のペプチドが風味増強に関与して
いると考えられる。
本発明においては、植物タンパク質とともに、当該ペプチド架橋物を原料として0.2重量%~5重量程度の範囲内で使用すると好適である。
尚、原料となる植物タンパク質とペプチド架橋物の原料としての植物タンパク質が同一の植物タンパク質であってもよいし、別の種類であってもよいことは勿論である。
【0032】
〇ペプチド架橋物を加熱することによる加熱されたペプチド架橋物等の調製
本発明においては、上記ペプチド架橋物を利用して、これと糖類、アミノ酸を加熱することによってメイラード反応(アミノカルボニル反応)を生じさせ、加熱されたペプチド架橋物を予め調製しておき、当該加熱されたペプチド架橋物(メイラードペプチド架橋物)を原料として、植物タンパク質と混合して使用することも好ましい。
【0033】
メイラードペプチド架橋物の製造方法としては種々可能であるが、上述の植物タンパク質に由来するペプチド架橋物に対して、上述の糖類、アミノ酸、必要に応じて水分等を添加しながら混合し、加熱することによって調製することができる。尚、メイラード架橋物を調製する際には、上述の糖類、アミノ酸以外に他の糖類(単糖類、多糖類)やタンパク等の成分を同時に含有してもよいことは勿論である。
【0034】
次に、加熱の方法としては、湯浴であってもよいし植物油や動物油脂中において加熱することも可能である。また、オートクレープやフライパン等を利用することもできる。加熱温度は特に限定されないが、概ね80℃~150℃程度の範囲であることが一般的である。特に、90℃~130℃程度がより好ましい。
また、加熱時間としては、低温度であれば長く、高温度であれば短くすることが好ましい。具体的には、上記温度まで加熱し達温後1分~60分程度の加熱を行うことが好ましい。
【0035】
─ピラジン類を含有するロースト風味向上剤─
本発明においては、ピラジン類を含有するロースト風味向上剤について意図しているが、当該ロースト風味向上剤はピラジン類を植物性タンパク質含有食品に対して添加又は含有させるものであれば、あらゆる態様を含むものとする。
また、ピラジン類以外の他の香料や油脂類、各種添加物、香辛料等の様々な食品に利用できる成分を含んでいてもよいことは勿論である。
【0036】
─ピラジン類を含有する植物性タンパク質含有食品─
本発明においては、ピラジン類を含有する植物性タンパク質含有食品についても意図している。ここで、植物性タンパク質含有食品がピラジン類を含有するとは、まず、植物性タンパク質含有食品の製造過程のいずれかにおいて、ピラジン類が添加される場合が挙げられる。
【0037】
植物性タンパク質含有食品の製造過程については、当該植物性タンパク質含有食品が乾燥するタイプの乾燥食品であれば、例えば、植物性タンパク質を含む原料を混合→加熱→乾燥等のステップを経て完成させる製造プロセスの例が挙げられる。この場合においては、原料段階で添加してもよいし、混合中に添加してもよい。また、加熱前に添加してもよいし、加熱後に添加してもよい。
【0038】
または、例えば、即席麺や即席ライス等の加工食品等で喫食時に添付フレーバーとして、喫食者が付属のスープパック等を開封して加える場合には、当該スープパック等に含有しているものでもよく、喫食時に植物性タンパク質含有食品とピラジン類が同時に含有する態様であれば、あらゆる態様を含むものとする。
さらに、添加されるピラジン類は精製されたものである必要はなく、ピラジン類をその一部の成分として含む、香料、食品素材等であれば、あらゆる態様を含むことは勿論である。
【0039】
─ロースト風味ついて─
本発明にいうロースト風味とは、主として食材をフライパン、直火、オーブン等で加熱した際の風味をいう。特に、牛肉、豚肉、鶏肉等の畜産物について加熱調理等を行った場合に呈する香り(香ばしさ)をいう。
本発明にいうロースト風味とは、主としてこのような匂い・香りのことをいう。当該加熱されたロースト風味を呈するようにすることで植物性タンパク質含有食品に独特の加熱畜肉様の香ばしさを与えることができる。特に植物タンパク質を利用した代替肉に肉様のロースト風味を付与することができる。
【0040】
─風味向上剤─
本発明の風味向上剤とは、使用する植物性タンパク質含有食品に対して上述のロースト風味を増強させることをいう。
また、本発明の風味向上剤については、少なくともピラジン類を含有していればよく、他の成分として各種の油脂、溶媒、香料、調味料等を含んでいてもよいことは勿論である。
【0041】
さらに、風味向上剤の剤形態は必ずしも所定の形式の容器等に収納されている場合のみならず、植物性タンパク質含有食品を製造等する際に、ロースト風味の増強のために、少なくともピラジン類を含む素材(粉状物、粒状物等の添加用の各種食材)が存在すればよく、当該素材を植物性タンパク質含有食品の製造の際や喫食時に植物性タンパク質含有食品に添加や混合する態様であれば、本発明にいう風味向上剤に該当するものとする。
【0042】
─本発明の風味向上剤を使用する食品─
本発明の風味向上剤は、植物性タンパク質を使用する各種食品に添加して当該食品の畜肉風味を増強することができる。例えば、植物性タンパク質を一部又は全部に使用した疑似肉類に利用することができる。具体的には、ハンバーグやミンチボール等の種々に利用することができる。特に、加工食品である即席麺(即席カップ麺、即席袋めん)、即席スープ、即席カップライス等の即席食品に好適に利用することができる。これらの即席食品の添付スープ(粉末スープ、液体スープ)や添付の乾燥具材等にも好適に利用することができる。
【0043】
─本発明の風味向上剤の有効成分の配合濃度─
本発明においては、ピラジン類を必須の構成要素としている。ピラジン類の添加対象である植物性タンパク質含有食品の重量対する濃度としては特に限定されるものではないが、概ね100ppt~10000ppm1程度が好ましく、より好ましくは10ppb~1000ppmである。
【0044】
─ピラジン類を含有させる工程を含む食品の製造方法─
本発明においては、植物性タンパク質の風味増強を目的として、食品の製造工程においてピラジン類を含有させる工程を含む食品の製造方法も意図している。すなわち、
当該食品の製造過程のいずれかの工程でピラジン類を含有させる工程を含む工程が存在すればよく、その使用時期については限定されない。
【0045】
─ピラジン類を含有させることによって畜肉風味を増強させる方法─
本発明においては、植物性タンパク質含有食品の畜肉風味の増強を目的として、ピラジン類を含有させることによって畜肉風味を増強させる方法についても意図している。
【実施例0046】
以下の本発明の実施例について説明する。但し、本発明はこれらの実施例に限定される
ものではない。
[試験例1] 植物性タンパク質を利用した加工食品に対する2-methylthio-3(5/6)methylpyrazine)の添加効果
植物タンパク質として大豆タンパクを利用した植物タンパク質の加工食品を利用して、当該加工食品に対してピラジン類のうち2-methylthio-3(5/6)methylpyrazine(2-メチルチオ-(3又は5又は6)-メチルピラジン)、を添加して、ロースト風味を向上できるかどうかを確認した。
【0047】
─植物タンパク質を含有食品の製造─
大豆タンパク質500gを水戻し、脱水した後にニーダーによって攪拌した後、押出し成型し、シート状の大豆タンパクシートを調製した。当該大豆タンパクシートについて蒸煮し、スライスし、さらに正方形状(16mm×16mm)にカットした後、着味(醤油、還元水飴等)を行った。
【0048】
当該着味後の大豆タンパクチップについてフリーズドライ処理した後、オイル及びフレーバーとしてピラジン類のうち、2-methylthio-3(5/6)methylpyrazine(2-メチルチオ-(3又は5又は6)-メチルピラジン)をフリーズドライ後の大豆タンパクチップの重量に対して、無添加、100ppt、10ppb、100ppb、1ppm、10pppm、100ppm、1000ppm及び10000ppmの各試験区1-1~1-9の濃度となるように添加して、FDされたチャーシュー様の大豆タンパクチップを作成した。
【0049】
・ロースト風味の評価方法
植物タンパク質に対するロースト風味の向上の評価については、上述の植物タンパク質を原料とする大豆タンパクチップ1gに対して99gの熱湯を注ぎ、表1に記載の各試験区の大豆チップ及び熱湯について官能評価を行った。
ロースト風味の向上効果は各試験区の当該大豆チップ及び熱湯の匂いを官能評価した。評価は、ロースト風味の向上を観点とした。
官能評価は熟練の技術者5名で実施し、ロースト風味の適度な向上効果が大きい程、数値が大きい評価とした。評価は(0:ロースト風味の向上効果が無い、1:ロースト風味の向上効果はあるが小さい又はやや過剰すぎる状態である)⇔10:ロースト風味の適度な向上効果が最も大きい)の11段階とした。評価結果を表1に示す。
【0050】
【表1】
2-メチルチオ-(3又は5又は6)-メチルピラジンを添加することで植物タンパクを利用した加工食品のロースト風味を向上することができることを見出した。
また、好ましくは植物タンパク質を利用した加工食品に対して10ppb~1000ppm程度とすることが好ましいことを見出した。
【0051】
[試験例2] 植物性タンパク質を利用した加工食品に対する3-ethyl-2methyl pyrazine(3-エチル-2-メチルピラジン)の添加効果
植物タンパク質として大豆タンパクを利用した植物タンパク質の加工食品を利用して、当該加工食品に対してピラジン類のうち3-ethyl-2methylpyrazine(3-エチル-2-メチルピラジン)、を添加して、ロースト風味を向上できるかどうかを確認した。
ピラジン類のうち3-ethyl-2methylpyrazine(3-エチル-2-メチルピラジン)を利用した点を除いて試験例1と同様に実施した。各試験区についての官能評価結果を表2に示す。
【0052】
【表2】
3-エチル-2-メチルピラジンを添加することで植物タンパク質を利用した加工食品のロースト風味を向上することができることを見出した。
また、好ましくは植物タンパク質を利用した加工食品に対して10ppb~1000ppm程度とすることが好ましいことを見出した。
【0053】
[試験例3] 植物性タンパク質を利用した加工食品に対する2-ethyl-3,(5/6)dimethylpyrazine(2-エチル-3及び(5又は6)-ジメチルピラジン)の添加効果
植物タンパク質として大豆タンパクを利用した植物タンパク質の加工食品を利用して、当該加工食品に対してピラジン類のうち2-ethyl-3,(5/6)dimethylpyrazine(2-エチル-3及び(5又は6)-ジメチルピラジン)、を添加して、ロースト風味を向上できるかどうかを確認した。
ピラジン類のうち2-ethyl-3,(5/6)dimethylpyrazine(2-エチル-3及び(5又は6)-ジメチルピラジン)を利用した点を除いて試験例1と同様に実施した。各試験区についての官能評価結果を表3に示す。
【0054】
【表3】
3-エチル-2-メチルピラジンを添加することで植物タンパク質を利用した加工食品のロースト風味を向上することができることを見出した。
また、好ましくは植物タンパク質を利用した加工食品に対して10ppb~1000ppm程度とすることが好ましいことを見出した。
【0055】
[試験例4] 植物性タンパク質を利用した加工食品に対する2,3,5-trimethylpyrazine(2,3,5-トリメチルピラジン)の添加効果
植物タンパク質として大豆タンパクを利用した植物タンパク質の加工食品を利用して、当該加工食品に対してピラジン類のうち2,3,5-trimethylpyrazine(2,3,5-トリメチルピラジン)、を添加して、ロースト風味を向上できるかどうかを確認した。
ピラジン類のうち2,3,5-trimethylpyrazine(2,3,5-トリメチルピラジン)を利用した点を除いて試験例1と同様に実施した。各試験区についての官能評価結果を表4に示す。
【0056】
【表4】
2,3,5-トリメチルピラジンを添加することで植物タンパク質を利用した加工食品のロースト風味を向上することができることを見出した。
また、好ましくは植物タンパク質を利用した加工食品に対して10ppb~1000ppm程度とすることが好ましいことを見出した。
【0057】
[試験例5] 植物性タンパク質を利用した加工食品に対する複数種のピラジン類の添加効果
植物タンパク質として大豆タンパクを利用した植物タンパク質の加工食品を利用して、当該加工食品に対してピラジン類のうち2-methylthio-3(5/6)methylpyrazine(2-メチルチオ-(3又は5又は6)-メチルピラジン)、3-ethyl-2methylpyrazine(3-エチル-2-メチルピラジン)、2-ethyl-3,(5/6)dimethylpyrazine(2-エチル-3及び(5又は6)-ジメチルピラジン)及び2,3,5-trimethylpyrazine(2,3,5-トリメチルピラジン)の4種を添加して、ロースト風味を向上できるかどうかを確認した。
【0058】
尚、各試験区(試験区5-1~5-8)については、4種類のピラジン類の混合状態において、その混合物全体としての濃度について表5に記載の各試験区の濃度となるように添加して、FDされたチャーシュー様の大豆タンパクチップを作成した。
ピラジン類のうち上述の4種の混合物を利用した点及び10000ppmを実施し無かった点を除いて試験例1と同様に実施した。各試験区についての官能評価結果を表5に示す。
【0059】
【表5】
2-methylthio-3(5/6)methylpyrazine(2-メチルチオ-(3又は5又は6)-メチルピラジン)、2-メチルチオ-(3又は5又は6)-メチルピラジン、2-ethyl-3,(5/6)dimethylpyrazine(2-エチル-3及び(5又は6)-ジメチルピラジン)及び2,3,5-trimethylpyrazine(2,3,5-トリメチルピラジン)の4種の混合物を添加することで植物タンパク質を利用した加工食品のロースト風味を向上することができることを見出した。さらに、単独の場合に比べてよりロースト風味の向上させることが分かった。
また、好ましくは植物タンパク質を利用した加工食品に対して100ppt~100ppm程度とすることが好ましいことを見出した。
【0060】
<試験例6>(ペプチド架橋物をさらに利用した場合)
【0061】
[試験区6-1](ペプチド1% ピラジン類無し)
1) ペプチド架橋物の調製
分離大豆タンパク質(日清オイリオグループ株式会社製 ソルピー4000H)6gを水100gに懸濁し、酵素であるアルカラーゼ(Alcalase)(登録商標 ノボザイムズ社製)を0.024 AU/g(酵素/基質)、添加して、58℃、pH8.0で3時間保持し、第一段階の加水分解反応を行った。
【0062】
次に、酵素であるフレーバーザイム(Flavourzyme)(登録商標 ノボザイムズ社製)2.0 LAPU/g(酵素/基質)、を添加して、50℃、pH6.5で4時間保持し、第二段階の加水分解反応を行った。
加水分解反応後の加水分解反応液を遠心分離し、上層を凍結乾燥して大豆ペプチドの凍結乾燥物を得た。
次に、当該凍結乾燥物3gに水30gを加えて溶解後、トランスグルタミナーゼ(Transglutaminase 天野エンザイム社製)を108GTU/g(酵素/基質)、添加して、45℃、pH8.0で5時間保持し、酵素による架橋反応を行った。反応後の遠心分離し、上清を凍結乾燥することで大豆架橋ペプチドを得た。
【0063】
2) ペプチド架橋物の加熱
上記の凍結乾燥した大豆架橋ペプチド1.0g、キシロース0.15g、水10gを試験管に採取して、沸騰水中で5分間加熱した。加熱終了後、冷める前にアガー0.2gを加え、撹拌して溶解した。その後、冷蔵保存することによって固めて、加熱処理後のペプチド架橋物(メイラードペプチド架橋物)を調製した。
【0064】
3) メチルセルローススラリーの調製
メチルセルロース(VEGEDAN(DPNB社製))2.0gにヒマワリ油7.5gを加え、撹拌して分散し、水29.32gを添加してさらに攪拌機によって1分攪拌した後に、トレーに移して冷蔵保存してメチルセルロースのスラリーを準備した。
【0065】
4) 植物タンパク質組成物の調製
植物タンパク質として、大豆植物タンパク質(不二製油株式会社、ニューフジニック59)約100gに水1000gを加え、3分間煮沸後、流水で洗浄した。その後、ザルにあげて静置し、水で復元後の粒状植物タンパク質を準備した(戻し倍率260~270%)。
【0066】
上記の復元後の植物タンパク質50gに対して、前記のメチルセルローススラリー全量を添加し、さらに、澱粉2.0g、塩0.7gを加え、さらに、前記の加熱処理後のペプチド架橋物の全量を加えた。さらに、粉砕したココナッツオイルを5g及び水3gを加えて、全体を十分攪拌することによって、パテ状の植物タンパク質組成物を調製した。
【0067】
5) パテ状の植物タンパク質組成物の成型・加熱
上述のパテ状の植物タンパク質組成物について100gを直径11cmの円形型に詰めて形を整え、150℃に加熱したフライパンに載せ、加熱のために2分30秒間焼き、さらにひっくり返して反対面も2分30秒間焼いた。
得られた加熱後の植物タンパク質組成物(ハンバーグ様の加工食品)について試食し、次に述べる試験区6-2とともに官能評価した。
【0068】
[試験区6-2](ペプチド1%+ピラジン類あり)
上記試験区1-1の場合のステップ4)において粉砕したココナッツオイルを5g及び水3gとともにさらに、パームオイルに溶解した以下のピラジン類の4種をパテ状の植物タンパク質組成物1g当たり1ppmとなるように添加した。
・2-methylthio-3(5/6)methylpyrazine(2-メチルチオ-(3又は5又は6)-メチルピラジン)
・3-ethyl-2methylpyrazine(3-エチル-2-メチルピラジン)
・2-ethyl-3,(5/6)dimethylpyrazine(2-エチル-3及び(5又は6)-ジメチルピラジン)
・2,3,5-trimethylpyrazine(2,3,5-トリメチルピラジン)
上記以外は試験区6-1と同様に処理した。
【0069】
─官能評価の評価方法─
官能評価は喫食時の味及び匂いの面から評価し、試験区6-1と試験区6-2について対比してロースト風味の向上効果の強弱について評価した。官能評価は熟練の技術者5名で実施し、ロースト風味の適度な向上効果が大きい程、数値が大きい評価とした。評価は(0:ロースト風味の向上効果が無い、1:ロースト風味の向上効果があるが小さい又は過剰すぎる状態である)⇔10:ロースト風味の適度な向上効果が最も大きい)の11段階とした。評価結果を表1に示す。
評価結果を表6に示す。
【0070】
【表6】
ロースト風味が飛躍的に向上した。ピラジン類を添加することで、ペプチド架橋物を利用した、植物タンパク質を含有する加工食品に対して特に優れたロースト風味向上効果を有することを見出した。