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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141918
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】構造体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 70/46 20060101AFI20241003BHJP
   B29C 70/68 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B29C70/46
B29C70/68
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053798
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高野 恒男
【テーマコード(参考)】
4F205
【Fターム(参考)】
4F205AA36
4F205AC03
4F205AD03
4F205AD16
4F205AG07
4F205AJ03
4F205HA14
4F205HA25
4F205HA33
4F205HA37
4F205HA45
4F205HB01
4F205HB11
4F205HC06
4F205HC17
4F205HK03
4F205HK04
4F205HK33
4F205HT26
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本発明は、ワックスからなるコアを用いて、少なくともプリプレグ予備成形体を加圧しながら硬化させること、少なくとも一部が発泡接着剤で接合された接合部を含む構造体の製造方法に関する、有益な改良が提供される。
【解決手段】繊維強化樹脂を含み、且つ実質的に閉じた空間を有する構造体40であって、前記構造体の少なくとも一部が発泡接着剤60で接合された構造体。金属板と繊維強化樹脂を含み、且つ実質的に閉じた空間を有する構造体であって、金属材と繊維強化樹脂との少なくとも一部が発泡接着剤で接合された構造体。プリプレグと発泡接着剤を含む予備成形体20A、20Bを、ワックスからなる可融コアと共に金型内に配置し、加熱して硬化物とし、前記硬化物から前記可融コアを除去し、前記予備成形体の少なくとも一部が前記可融コアの膨張により加圧され、前記可融コアが、熱分解ワックスからなるワックスで形成された、製造方法。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化樹脂を含み、且つ実質的に閉じた空間を有する構造体であって、前記構造体の少なくとも一部が発泡接着剤で接合された構造体。
【請求項2】
金属板と繊維強化樹脂を含み、且つ実質的に閉じた空間を有する構造体であって、金属板と繊維強化樹脂との少なくとも一部が発泡接着剤で接合された構造体。
【請求項3】
金属板と繊維強化樹脂が接合して実質的に閉じた空間を形成する請求項2に記載の構造体。
【請求項4】
繊維強化樹脂に、1つ以上の貫通する孔を有し、孔の大きさが30~500mmである請求項1または2に記載の構造体。
【請求項5】
前記空間内に中間接続部を有し、中間接続部の少なくとも一部が発泡接着剤で接合されている、請求項1または2に記載の構造体。
【請求項6】
前記繊維強化樹脂がチョップド繊維を含む、請求項1または2に記載の構造体。
【請求項7】
前記繊維強化樹脂が連続繊維を含む、請求項1または2に記載の構造体。
【請求項8】
プリプレグと発泡接着剤を含む予備成形体を、ワックスからなる可融コアと共に金型内に配置し、加熱して硬化物とする成形工程と、前記硬化物から前記可融コアを除去するコア除去工程とを有し、前記成形工程では前記予備成形体の少なくとも一部を前記可融コアの膨張により加圧する、繊維強化樹脂を含む構造体の製造方法であって、前記可融コアが、熱分解ワックスからなるワックスで形成された、製造方法。
【請求項9】
プリプレグと金属板と発泡接着剤を含む予備成形体と、ワックスからなる可融コアを予備成形体の内部に接触した状態で共に金型内に配置し、加熱して硬化物とする成形工程と、前記硬化物から前記可融コアを除去するコア除去工程とを有し、前記成形工程では前記予備成形体の少なくとも一部を前記可融コアの膨張により加圧する、繊維強化樹脂を含む構造体の製造方法であって、前記可融コアが、熱分解ワックスからなるワックスで形成された、製造方法。
【請求項10】
前記成形工程では、前記可融コアが少なくとも一部でゲル状に軟化する、請求項6または7に記載の製造方法。
【請求項11】
前記ワックスがポリプロピレンの熱分解物を含有する、請求項6または7に記載の製造方法。
【請求項12】
前記ワックスがポリエチレンの熱分解物を含有する、請求項6または7に記載の製造方法。
【請求項13】
前記ワックスがポリプロピレンの熱分解物およびポリエチレンの熱分解物を含有する、請求項6または7に記載の製造方法
【請求項14】
前記プリプレグ予備成形体とプリプレグ予備成形体の間の少なくとも一部に発泡接着剤を配置する、請求項6に記載の製造方法。
【請求項15】
前記プリプレグ予備成形体と金属板の間の少なくとも一部に発泡接着剤を配置する、請求項7に記載の製造方法。
【請求項16】
前記予備成形体がSMCを含む、請求項6または7に記載の製造方法。
【請求項17】
前記予備成形体が連続繊維強化熱硬化樹脂を含む、請求項6または7に記載の製造方法。
【請求項18】
前記可融コアが外皮を介して予備成形体と接している、請求項6または7に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化樹脂(FRP)は、自動車用の補強部材を含む様々な用途で使用されている。
中空部や断面U字形部を有するFRP物品の成形方法として、プリプレグ予備成形体をワックスからなるコアと共に金型内に配置し、金型内で該コアを膨張させることにより、加圧しながら硬化させる方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2018/079824号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、実質的に閉じた空間を有する構造体であって、前記構造体の少なくとも一部が発泡接着剤で接合された構造体、及びプリプレグ予備成形体をワックスからなるコアと共に金型内に配置して加熱し、硬化させることを含む繊維強化樹脂を含む構造体の製造方法に関する、有益な改良を提供することを主たる目的とする。
本発明の各実施形態により解決される課題は、本明細書中に明示的または黙示的に開示される場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態は以下を含むが、これらに限定されるものではない。
[1]繊維強化樹脂を含み、且つ実質的に閉じた空間を有する構造体であって、前記構造体の少なくとも一部が発泡接着剤で接合された構造体。
[2]金属板と繊維強化樹脂を含み、且つ実質的に閉じた空間を有する構造体構造体であって、金属材と繊維強化樹脂との少なくとも一部が発泡接着剤で接合された構造体。
[3]金属板と繊維強化樹脂が接合して実質的に閉じた空間を形成する[2]に記載の構造体。
[4]繊維強化樹脂に、1つ以上の貫通する孔を有し、孔の大きさが30~500mmである[1]~[3]のいずれかに記載の構造体。
[5]前記空間内に中間接続部を有し、中間接続部の少なくとも一部が発泡接着剤で接合されている、[1]~[4]のいずれかに記載の構造体。
[6]前記繊維強化樹脂がチョップド繊維を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の構造体。
[7]前記繊維強化樹脂が連続繊維を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の構造体。
[8]プリプレグと発泡接着剤を含む予備成形体を、ワックスからなる可融コアと共に金型内に配置し、加熱して硬化物とする成形工程と、前記硬化物から前記可融コアを除去するコア除去工程とを有し、前記成形工程では前記予備成形体の少なくとも一部が前記可融コアの膨張により加圧される、繊維強化樹脂物品の製造方法であって、前記可融コアが、熱分解ワックスからなるワックスで形成された、製造方法。
[9]プリプレグと金属板と発泡接着剤を含む予備成形体を、ワックスからなる可融コアと共に金型内に配置し、加熱して硬化物とする成形工程と、前記硬化物から前記可融コアを除去するコア除去工程とを有し、前記成形工程では前記予備成形体の少なくとも一部が前記可融コアの膨張により加圧される、繊維強化樹脂物品の製造方法であって、前記可融コアが、熱分解ワックスからなるワックスで形成された、製造方法。
[10]前記成形工程では、前記可融コアが少なくとも一部でゲル状に軟化する、[8]または[9]に記載の製造方法。
[11]前記ワックスがポリプロピレンの熱分解物を含有する、[8]~[10]に記載の製造方法。
[12]前記ワックスがポリエチレンの熱分解物を含有する、[8]~[11]に記載の製造方法。
[13]前記ワックスがポリプロピレンの熱分解物およびポリエチレンの熱分解物を含有する、[8]~[12]に記載の製造方法
[14]前記プリプレグ予備成形体とプリプレグ予備成形体の間の少なくとも一部に発泡接着剤を配置する、[8]~[13]のいずれかに記載の製造方法。
[15]前記プリプレグ予備成形体と金属板の間の少なくとも一部に発泡接着剤を配置する、[9]~[14]のいずれかに記載の製造方法。
[16]前記予備成形体がSMCを含む、[8]~[15]のいずれかに記載の製造方法。
[17]前記予備成形体が連続繊維強化熱硬化樹脂を含む、[8]~[16]のいずれかに記載の製造方法。
[18]前記可融コアが外皮を介して予備成形体と接している、[8]~[17]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
ワックスからなるコアを用いて、少なくともプリプレグ予備成形体を加圧しながら硬化させること、少なくとも一部が発泡接着剤で接合された接合部を含む構造体の製造方法に関する、有益な改良が提供される。
発砲接着剤で接合することにより、構造体表面の外観を良くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、実施形態に係る構造体の製造方法のフロー図である。
図2図2は、実施形態に係る構造体製造方法で使用され得る可融コアの構造を示す断面図である。
図3図3は、プリプレグ予備成形体が、その内側に包まれた可融コアと共に金型内に配置されたところを示す断面図である。
図4図4は、中間接続部を有するプリプレグ予備成形体が、その内側に包まれた可融コア及び発泡接着剤と共に金型内に配置されたところを示す断面図である。
図5図5は、中間接続部を有するプリプレグ及び金属板の予備成形体が、その内側に包まれた可融コア及び発泡接着剤と共に金型内に配置されたところを示す断面図である。
図6図6は、図4に示す中間接続部を有するプリプレグ予備成形体から成形される構造体を示す断面図である。
図7図7は、図5に示す中間接続部を有するプリプレグ及び金属板からなる予備成形体から成形される構造体を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
プリプレグは、繊維強化樹脂(FRP)を含む構造体の製造で中間材料として使用される、繊維強化材を未硬化の熱硬化性樹脂組成物で含浸させた複合体である。構造体は、プリプレグで予備成形体を作製したうえ、その予備成形体を、金型を用いて硬化させることにより製造される。
プリプレグにおける繊維強化材の形態は、連続繊維、チョップド繊維、織物、不織布、ノンクリンプファブリックなど様々である。
平行に並べられた複数の連続繊維束を繊維強化材として有するシート型プリプレグは一方向プリプレグ(UDプリプレグ)と呼ばれる。
連続繊維束からなる織物を繊維強化材として用いたプリプレグはクロスプリプレグと呼ばれる。
チョップド繊維束を堆積させて形成したマットを繊維強化材として用いたプリプレグはSMCと呼ばれる。SMCは複雑な構造にも形が変形しやすいので好ましい。
単一の連続繊維束を強化材として用いたプリプレグはトウプリプレグと呼ばれる。
プリプレグに使用される繊維は、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、炭化ケイ素繊維、金属繊維である。2種以上の繊維が併用されることもある。
【0009】
プリプレグに用いられる熱硬化性樹脂は、例えば、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、ビニルエステル樹脂(エポキシアクリレート樹脂とも呼ばれる)、不飽和ポリエステル、ポリウレタン、フェノール樹脂である。2種以上の熱硬化性樹脂が混合されて用いられることもある。
プリプレグにおける熱硬化性樹脂組成物の含有量は、限定するものではないが、多くの場合15~50質量%である。該含有量は、15~20質量%、20~25質量%、25~40質量%、40~45質量%または45~50質量%であり得る。
熱硬化性樹脂組成物には、様々な添加剤が添加され得る。例えば、反応性希釈剤、難燃剤、消泡剤、脱泡剤、離型剤、粒子状充填剤、着色剤、シランカップリング剤等である。
【0010】
1.構造体の製造方法
本発明の実施形態のひとつは構造体の製造方法に関する。
以下の説明では、実施形態に係る構造体の製造方法を、説明の便宜上、図1にフローを示すように次の3つの工程に分ける。
(i)ワックスからなる可融コアを準備するコア準備工程。
(ii)プリプレグ予備成形体を前記可融コアと共に金型内に配置し、加熱して硬化物(構造体)とする成形工程。
(iii)前記硬化物から前記可融コアを除去するコア除去工程。
【0011】
実施形態に係る構造体の製造方法は、屈曲または湾曲した壁面からなる構造を少なくとも一部に有する構造体の製造に好ましく用いられるものである。屈曲または湾曲した壁面からなる構造の典型例として、中空構造、筒状構造、断面U字形構造、断面L字形構造が挙げられる。各種のアンダーカット部も、構造中に屈曲または湾曲した壁面を有することが多い。
以下、各工程について詳細に説明する。
【0012】
(1)コア準備工程
コア準備工程(i)は、ワックスからなる可融コアを準備する工程である。
可融コアは、熱分解ワックスで形成され、ポリプロピレンまたはポリエチレンを熱分解させる方法により製造される合成ワックスである。従って、ポリプロピレンを熱分解させて製造される熱分解ワックス(以下「PP熱分解ワックス」ともいう)は、ポリプロピレンの熱分解物を含有し、ポリエチレンを熱分解させて製造される熱分解ワックス(以下「PE熱分解ワックスともいう」は、ポリエチレンの熱分解物を含有する。
【0013】
熱分解ワックスは、重合型ワックスと比べ、分子量分布が広いという特徴を有する。そのため、熱分解ワックスを加熱すると、ある温度で急激に軟化してゲル状となるが、直ぐには低粘度の液状とはならず、温度が上がり続けても暫くはゲル状に保たれる。
このような熱分解ワックスの性質が大きく損なわれない限りで、可融コアには熱分解ワックス以外のワックス成分が添加され得る。可融コアは、PP熱分解ワックスとPE熱分解ワックスのブレンドであってもよい。
【0014】
例えば中空構造部を有する構造体を成形する場合、中空構造部における中空部の形状と略同じ形状の可融コアが準備される。従って、成形すべき構造体が、例えば、中空の直方体であるときは、直方体形状の可融コアが準備される。
以下では、可融コアの形状が直方体である場合を例にして、コア準備工程で準備される可融コアが有し得る構造を説明する。
【0015】
図2は、直方体形状の可融コアの断面図であり、可融コア10は、ワックスからなる部分12を有している。
【0016】
図2に示す可融コア10は、モールドにより製作することができるが、限定するものではなく、例えば、削り出しで製作されてもよいし、あるいは、長方形の板を複数積み重ねることにより製作されてもよい。板を積み重ねる方法の場合、加熱することによって板同士を互いに接着させてもよいが、必須ではない。
【0017】
(2)成形工程
成形工程(ii)は、プリプレグ予備成形体を可融コアと共に金型内に配置し、加熱して硬化物(構図体)とする工程である。
プリプレグ予備成形体は、予め金型の外で、ほぼ正味形状となるように、1枚または2枚以上のプリプレグシートを加工することにより作製される。
例えば中空構造部を有する構造体を成形する場合、最初から内部に可融コアを包み込んだ状態となるようにプリプレグ予備成形体を作製することが好ましい。
【0018】
プリプレグ予備成形体は、同種のプリプレグシートが互いに積層された構造を含んでもよいし、2種以上の異なるプリプレグシートが互いに積層された構造を含んでもよい。さらに金属板と組みあわせた構造を含んでもよい。
好ましい一例において、プリプレグ予備成形体は、連続繊維強化熱硬化樹脂を含む。
また、一例において、プリプレグ予備成形体は、SMCを含み得る。また、一例において、プリプレグ予備成形体は、一方向プリプレグやクロスプリプレグのような連続繊維束を用いたプリプレグとSMCとが互いに積層された構造を含み得る。また、金属板とプリプレグシートを積層された構造も含み得る。金属板の材料としては、鉄、アルミニウム、マグネシウム、チタン、銅、ニッケルなどの合金を含む材料が挙げられる。
プリプレグ予備成形体を金型内に配置する前に、金型は既に成形温度と同じ温度に加熱されていることが好ましい。
成形温度は通常120℃~180℃の範囲内であり、好ましくは130℃以上である。成形温度が高い程、成形に要する時間は短くなる。
プリプレグ予備成形体が可融コアと共に金型内に配置された後、金型が型締めされる。
【0019】
図3は、中空の直方体である構造体を成形するために、プリプレグ予備成形体20がその内側に包まれた可融コア10と共に、下型32と上型34とからなる金型30内に配置されたところを示す断面図である。可融コア10の詳細構造の図示は省略している。
成形工程では、金型30からプリプレグ予備成形体20を介して伝わる熱を吸収して可融コア10が膨張し、プリプレグ予備成形体20が金型30の内面に押し付けられる。換言すれば、金型30の型締め力に抗して可融コア10が膨張しようとすることで発生する内圧が、プリプレグ予備成形体20に印加される。
【0020】
型締め直後は、可融コア10の体積が熱膨張により緩やかに増加するだけであり、プリプレグ予備成形体20に加わる圧力は弱い。可融コア10を構成するワックスの一部で固体から液体への相転移が起こり始めると、プリプレグ予備成形体20に加わる圧力は急激に上昇する。
【0021】
可融コア10の表面でワックスがゲル状に軟化するように成形温度(成形時の金型温度)を設定することにより、プリプレグ予備成形体20を十分に加圧することができる。ワックスのゲル化は低分子量成分の融解により生じるので、大きな体積膨張を伴う。
成形工程でワックスが融解して液状となることは望ましくない。融解してプリプレグ予備成形体と金型の隙間に流入したワックスは、プリプレグ予備成形体の加圧に寄与しないからである。好ましくは成形工程が終了するまで、可融コア10の表面で第一ワックスが融解して液状とならないように、成形温度が設定される。
【0022】
成形中、可融コアの融解により液状化が進行する場合には、可融コアの外周に外皮を配置することができる。すなわち、可融コアは外皮を介して予備成形体と接し得る。
外皮の役割は、プリプレグとプリプレグの間の隙間や、プリプレグと成形型の内面の間の隙間をシールし、これらの隙間に融解したワックスが入らないようにすることである。
外皮の好ましい材料は有機材料であり、特にポリマーである。具体的には、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリウレタン、アクリル、シリコーン、フッ素ゴムのような合成ポリマーが挙げられ、更には、これらのポリマーからなるエラストマーが挙げられる。外皮の厚さは、融解したワックスの漏れ出しを防止するシールとしての目的が達成される範囲内であればよく、特に限定されない。一例では、例えば0.05~1mmであり、0.5mm以下、更には0.1mm以下であってもよい。
【0023】
上記各類型の成形工程において、型締め後、短時間で可融コア10の表面の温度が成形温度に近づくように、成形工程(ii)の前に可融コア10を予備加熱することが好ましい。
この予備加熱は、ワックスが軟化してゲル状とならないように行う必要がある。なぜならば、予備加熱の段階で可融コア10が大きく膨張してしまうと、成形工程で可融コア10の膨張を利用してプリプレグ予備成形体20を加圧できなくなるからである。
【0024】
平面部が大きい構造体、あるいは、平面部の高い剛性が要求される構造体の場合は、中間接続部を有することが好ましい。
例えば、図4に示すように、プリプレグ予備成形体の上層20Aに接するようにプリプレグ予備成形体の下層20Bを凸形状とした断面構造となる金型30内に、略同形状のプリプレグ予備成形体20A、20Bを、内側に包み込んだ可融コア10と共に金型30内に配置して硬化させたとき、得られる構造体40は、図6に示すように、構造体上面をFRP物品下面が支える中間接続部を有する。
構造体上面を構造体下面で支える中間接続部では、構造体上面と構造体下面との間に可融コアが存在せず、可融コアの膨張圧力を利用できないため、予備成形体20A、20Bが硬化にする時、外観不良や層間の剥離などの空隙を生じることがある。
前記中間接続部におけるプリプレグ予備成形体20Aと20Bとの間に発泡接着剤60を挟むことにより、成形中、発泡接着剤60が膨張硬化するため、プリプレグ予備成形体20A、20Bの間に剥離などの空隙を防ぎ、外観不良や層間の剥離などの空隙を生じることなく構造体が得られる。
中間接続部に発砲接着剤ではない接着剤を使用した場合、接着部分に凹凸が出やすく、外観不良となりやすい。
可融コアが存在しないFRP上面をFRP下面で支える構造の部分は、構造体の面内側に限らず、面端部に存在する場合も、可融コアの膨張圧力を利用できないため、同様にプリプレグ予備成形体20A、20Bの間に発泡接着剤60を挟むことにより、プリプレグ予備成形体20A、20Bの間に剥離などの空隙を防ぐことができる。
【0025】
発泡接着剤は、空隙を埋める程度に膨張することが必要であり、発泡倍率1.5倍以上、若しくは2倍以上であることが好ましい。
【0026】
図5に示すように、プリプレグ予備成形体20Aを金属板20Cに置き換えることもできるため、プリプレグ予備成形体20Bと金属板20Cの接合が一体で成形可能となる。金属板とプリプレグ予備成形体との接合部が、可融コアの膨張圧力を利用できる部分では、発泡接着剤の必要はなく、一般的な接着剤を使用することができる。また、金属板が厚さ1mm以下など薄い場合には、可融コアの膨張圧力で、平坦状態から角度の付いた曲げ加工も同時に成形可能となる。
【0027】
(3)ワックス除去工程
ワックス除去工程(iii)では、成形工程(ii)でプリプレグ予備成形体を硬化させることで得られる構造体から、可融コア10が除去される。
構造体が閉じた空間を有する場合には、例えばオーブン内で構造体を加熱して、構造体内部に残った可融コアを融解させ、液状となったワックスを、ドリルやホールソーを用いて構造体に設けられる貫通する孔を通して排出させる。加熱は、構造体が熱変形温度(荷重たわみ温度)に達しないように行うことが望ましい。
構造体がアンダーカット部を有する場合も、閉じた空間を有する場合と同じく、可融コアを融解させて除去することができる。構造体が閉じた空間もアンダーカット部も有さないときは、可融コアを融解させないで除去できる場合がある。
貫通する孔の大きさは、孔の面積が30~500mmであることが好ましい。孔の面積が30mm以上であれば、排出時間を短くできやすく、500mm以下であれば、構造体の強度の低下が少なくできる。
【0028】
本発明の構造体の一態様は、少なくとも繊維強化樹脂を含み、且つ実質的に閉じた空間を有し、前記構造体の少なくとも一部が発泡接着剤で接合された構造体である。
本発明の構造体の別の一態様は、金属板と繊維強化樹脂を含み、且つ実質的に閉じた空間を有し、金属板と繊維強化樹脂の少なくとも一部が発泡接着剤で接合された構造体である。
この構造体において、金属板と繊維強化樹脂は接合により一体化されていることが好ましい。また、金属板と繊維強化樹脂が接合して実質的に閉じた空間を形成していることが好ましい。
また、これらの構造体は、前述の製造方法で説明した通り、前記空間内に中間接続部を有し、中間接続部の少なくとも一部が発泡接着剤で接合されていることが好ましい。
さらに、これらの構造体において、繊維強化樹脂がチョップド繊維を含むことが好ましい。
また、これらの構造体において、繊維強化樹脂が連続繊維を含むことが好ましい。
実質的に閉じた空間とは、構成する面に対し、開口する面の割合が小さい空間であり、具体的には開口割合が50%以下、好ましくは30%以下を指す。
【0029】
以上に説明した構造体及びその製造方法は、例示に用いた閉じた空間を有する直方体物品の製造だけではなく、一部面が接合した構造を有する各種の構造体の製造に好ましく用いることができる。ここでいう構造体には、FRPのみからなる物品が含まれることは勿論だが、それだけではなく、金属板のようなFRP以外の材料からなる部品との間で複合体が形成されるようにFRPが成形されてなる構造体も含む。
【0030】
2.実験結果
以下に記すのは本発明者等が行った実験の結果である。
2.1.実験1
以下の手順にて、FRPからなる外寸120mm×120mm×10mm、中央部の上面、下面が接合する実質的に閉じた空間を有する構造体を作製した。
チョップド炭素繊維マットをエポキシアクリレート樹脂で含浸させてなる、繊維含有率53質量%で厚さ約2mmのSMC(三菱ケミカル株式会社製STR120N131)を、所定形状に2枚裁断し、1枚は折り曲げることにより、中央部に凸部を有するほぼ正味形状の形状としたプリプレグ予備成形体下面とし、1枚は平板形状としたプリプレグ予備成形体上面とした。
プリプレグ予備成形体下面の内部に別途準備した角リング形状の可融コアを配置し、プリプレグ予備成形体下面の凸部とプリプレグ予備成形体上面とが接触する部分に発砲接着剤[Mitsubishi Chemical Carbon Fiber and Composites社製51-301]を配置し、さらにプリプレグ予備成形体下面の上に、プリプレグ予備成形体上面配置してプリプレグ予備成形体を準備した。
可融コアは、130℃より低い温度で軟化してゲル状となり、130℃成形では液状に融解しない融点123℃のPP熱分解型ワックス[三洋化成工業株式会社製ビスコール(登録商標)]を用いて、モールドにより、プリプレグ予備成形体の内部にちょうど収まる寸法に作製した。
可融コアの外周には、外皮として、アクリル系液体ゴム[ユタカメイク社製BE-1]を塗布した。
【0031】
作製したプリプレグ予備成形体を、可融コアとともに、予め成形温度と同じ温度に加熱した金型内に配置し、加熱して硬化させた。成形温度は130℃、成形時間は10分間とした。ここでいう成形時間は、型締めから型開きまでの時間である。
金型から取り出した成形品をオーブン内で140℃に加熱し、可融コアを形成するワックスを融解させた後、成形品にドリルで直径10mmの排出孔を開けてワックスを排出させた。
得られたFRP製成形体の外観は、断面においても剥離等空隙が無く、良好であった。
【0032】
2.2.実験2
使用するプリプレグ予備成形体上面をSMCから金属板SUS430、厚さ0.4mmに変更したこと以外は実験1と同様にして、FRP及び金属板からなる実質的に閉じた空間を有する構造体を作製した。
得られた前記構造体の外観、断面においても剥離等空隙が無く、良好であった。
【0033】
2.3.実験3
発泡接着剤を使用しない以外は実験2と同様にして、FRP及び金属板からなる実質的に閉じた空間を有する構造体を作製した。
得られた前記構造体の断面においても剥離等空隙が生じ、欠陥を有していた。
【0034】
以上、本発明を具体的な実施形態に即して説明したが、各実施形態は例として提示されたものであり、本発明の範囲を限定するものではない。本明細書に記載された各実施形態は、発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、様々に変形することができ、かつ、実施可能な範囲内で、他の実施形態により説明された特徴と組み合わせることができる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本明細書に開示された発明は、ある断面において空隙が分離した構造を少なくとも一部に有する構造体の製造に好ましく用いることができる。
本明細書に開示された発明は、限定するものではないが、自動車、船舶、鉄道車両、航空機その他の輸送機器のための部品(構造部品を含む)や、自転車のフレーム、テニスラケットおよびゴルフシャフトを含む各種のスポーツ用品を、繊維強化樹脂で製造するときに好ましく用いることができる。
【符号の説明】
【0036】
10 可融コア
20、20A、20B プリプレグ予備成形体、
20C 金属板
30 金型
32 下型
34 上型
40 構造体
41 中間接続部
42A、42B 空洞
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7