(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141923
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】ロール巻き付き糸除去装置及び除去方法
(51)【国際特許分類】
B65H 54/86 20060101AFI20241003BHJP
B26D 7/08 20060101ALI20241003BHJP
B26D 7/18 20060101ALI20241003BHJP
B26D 7/26 20060101ALI20241003BHJP
B26D 5/00 20060101ALI20241003BHJP
B26D 1/04 20060101ALI20241003BHJP
B65H 73/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B65H54/86
B26D7/08 A
B26D7/18 E
B26D7/26
B26D5/00 Z
B26D1/04 Z
B65H73/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053804
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】眞瀬 凌太
(72)【発明者】
【氏名】津田 崇暁
(72)【発明者】
【氏名】広本 泰夫
【テーマコード(参考)】
3C021
3C027
3F057
【Fターム(参考)】
3C021FC04
3C021JA04
3C021JA09
3C027GG01
3C027GG02
3C027GG04
3F057AA06
3F057AB01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は、糸がロールに巻き付いた際、巻き付き糸除去時間を短くでき、糸がロールに厚く巻き付いた場合でも除去が可能な巻き付き糸除去装置及び巻き付き糸除去方法を提供する。
【解決手段】回転するロールの外周面に巻き付いた糸を、超音波カッターで切断し、除去する巻き付き糸除去方法。切断により発生した糸屑を、吸引ノズルで回収すること、超音波カッターの先端をロールに押し付ける荷重が4~12Nであること、超音波カッターの超音波振幅が100μm以下であること、超音波カッターの先端をロールに押し付ける荷重と超音波カッターの超音波振幅の積が、150~350であることなどが好ましい。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転するロールの外周面に巻き付いた糸を、超音波カッターで切断し、除去する巻き付き糸除去装置。
【請求項2】
超音波カッターの先端が、ロールに対し接触する位置と離間する位置とに移動可能な移動手段を有する請求項1に記載の巻き付き糸除去装置。
【請求項3】
切断により発生した糸屑を回収する糸屑回収手段を有する請求項1に記載の巻き付き糸除去装置。
【請求項4】
前記超音波カッターの先端をロールに押し付ける荷重を一定にする機構を有する請求項1に記載の巻き付き糸除去装置。
【請求項5】
前記荷重を一定にする機構がエアシリンダーである請求項4に記載の巻き付き糸除去装置。
【請求項6】
前記荷重が4~12Nである請求項4に記載の巻き付き糸除去装置。
【請求項7】
超音波カッターの超音波振幅が100μm以下である請求項1に記載の巻き付き糸除去装置。
【請求項8】
超音波カッターの刃物の材質がロールの材質と同程度またはロールよりも柔らかい請求項1に記載の巻き付き糸除去装置。
【請求項9】
前記糸屑回収手段が吸引ノズルである請求項4に記載の巻き付き糸除去装置。
【請求項10】
前記超音波カッターは、刃物の形状が両刃であって、ロール軸に対して平行に往復移動する機構を有する請求項1に記載の巻き付き糸除去装置。
【請求項11】
前記移動速度はロール表面速度の0.1倍以上である請求項10に記載の巻き付き糸除去装置。
【請求項12】
超音波カッターの振動方向に対し直角な方向において、刃物の刃先方向と、刃物送り方向とのなす角度が、60度以下である請求項1に記載の巻き付き糸除去装置。
【請求項13】
回転するロールの外周面に巻き付いた糸を、超音波カッターで切断し、除去する巻き付き糸除去方法。
【請求項14】
切断により発生した糸屑を、吸引ノズルで回収する請求項13に記載の巻き付き糸除去方法。
【請求項15】
超音波カッターの先端をロールに押し付ける荷重が4~12Nである請求項13に記載の巻き付き糸除去方法。
【請求項16】
超音波カッターの超音波振幅が100μm以下である請求項13に記載の巻き付き糸除去方法。
【請求項17】
超音波カッターの先端をロールに押し付ける荷重と超音波カッターの超音波振幅の積が、150~350である請求項13に記載の巻き付き糸除去方法。
【請求項18】
前記超音波カッターの先端をロールに押し付ける荷重が一定である請求項13に記載の巻き付き糸除去方法。
【請求項19】
前記超音波カッターの先端をロールにエアシリンダーで押し付ける請求項13に記載の巻き付き糸除去方法。
【請求項20】
前記超音波カッターは、刃物の形状が両刃であって、ロール軸に対して平行に往復移動する機構を有する請求項13に記載の巻き付き糸除去方法。
【請求項21】
前記移動速度はロール表面速度の0.1倍以上である請求項20に記載の巻き付き糸除去方法。
【請求項22】
超音波カッターの振動方向に対し直角な方向において、刃物の刃先方向と、刃物送り方向とのなす角度が、60度以下である請求項13に記載の巻き付き糸除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロール巻き付き糸除去装置及び除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維等の線状体製品の製造工程においては、糸の搬送、張力や品質の安定化等の
目的で多数のロールが用いられているが、単糸切れや、ロール表面の傷、油剤による粘着
力等に基づくロールへの糸の巻き付きは避けられない。
従来からロールの清浄方法としては、布での拭き取り方法や、ブラシでのかき取り方法、あるいはスクレーパー刃を用いてローラ表面の付着物を削り取る方法がとられてきた。この様な回転体への巻き付糸除去作業は、巻き込まれ等の災害を引き起こす大きな危険性を伴うことになる。また、労働安全上、設備を停機して巻き付糸を取り除くのが最も推奨される方法ではあるが、停機に伴う生産性の低下は、現代においては、非常に莫大な損失を伴うこととなる。
【0003】
従来、この様なロール巻き付糸が発生した場合に装置を停機せず、安全に巻き付糸を除去する手段として、複数の凹凸を表面に有する擦過部材と、ロールに対し接触する位置と離間する位置とに移動可能な移動手段を有し、擦過部材がロールと接触して発生した糸屑を回収する糸屑回収手段とを備え、擦過部材は、擦過により減耗したときに表面に新たな凹凸を生成するものであることを特徴とするロール巻き付糸除去装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような従来のロール巻き付き糸除去装置では、ロールへの巻き付き糸の表面部分に擦過部材を押し当てて糸を掻き取ることにより、除去を実施しているため、巻き付き糸除去時間が長くかかっている。特に、巻き付き糸の量が増えて、厚く巻いた状態になった場合は、除去時間がさらに長くなり、除去している間に屑処理する上流側からの送糸の糸屑量が多くなり、生産効率が低下する。
【0006】
本発明の目的は上述した従来のロール巻き付き糸除去装置における問題点を解決できるロール巻き付き糸除去装置及び除去方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]回転するロールの外周面に巻き付いた糸を、超音波カッターで切断し、除去する巻き付き糸除去装置。
[2]超音波カッターの先端が、ロールに対し接触する位置と離間する位置とに移動可能な移動手段を有する[1]に記載の巻き付き糸除去装置。
[3]切断により発生した糸屑を回収する糸屑回収手段を有する[1]または[2]に記載の巻き付き糸除去装置。
[4]前記超音波カッターの先端をロールに押し付ける荷重を一定にする機構を有する[1]~[3]のいずれかに記載の巻き付き糸除去装置。
[5]前記荷重を一定にする機構がエアシリンダーである[4]に記載の巻き付き糸除去装置。
[6]前記荷重が4~12Nである[4]または[5]に記載の巻き付き糸除去装置。
[7]超音波カッターの超音波振幅が100μm以下である[1]~[6]のいずれかに記載の巻き付き糸除去装置。
[8]超音波カッターの刃物の材質がロールの材質と同程度またはロールよりも柔らかい[1]~[7]のいずれかに記載の巻き付き糸除去装置。
[9]前記糸屑回収手段が吸引ノズルである[4]に記載の巻き付き糸除去装置。
[10]前記超音波カッターは、刃物の形状が両刃であって、ロール軸に対して平行に往復移動する機構を有する[1]~[9]のいずれかに記載の巻き付き糸除去装置。
[11]前記移動速度はロール表面速度の0.1倍以上である[10]に記載の巻き付き糸除去装置。
[12]超音波カッターの振動方向に対し直角な方向において、刃物の刃先方向と、刃物送り方向とのなす角度が、60度以下である[1]~[11]のいずれかに記載の巻き付き糸除去装置。
[13]回転するロールの外周面に巻き付いた糸を、超音波カッターで切断し、除去する巻き付き糸除去方法。
[14]切断により発生した糸屑を、吸引ノズルで回収する[13]に記載の巻き付き糸除去方法。
[15]超音波カッターの先端をロールに押し付ける荷重が4~12Nである[13]または[14]に記載の巻き付き糸除去方法。
[16]超音波カッターの超音波振幅が100μm以下である[13]~[15]のいずれかに記載の巻き付き糸除去方法。
[17]超音波カッターの先端をロールに押し付ける荷重と超音波カッターの超音波振幅の積が、150~350である[13]~[16]のいずれかに記載の巻き付き糸除去方法。
[18]前記超音波カッターの先端をロールに押し付ける荷重が一定である[13]~[17]のいずれかに記載の巻き付き糸除去方法。
[19]前記超音波カッターの先端をロールにエアシリンダーで押し付ける[13]~[18]のいずれかに記載の巻き付き糸除去方法。
[20]前記超音波カッターは、刃物の形状が両刃であって、ロール軸に対して平行に往復移動する機構を有する[13]~[19]のいずれかに記載の巻き付き糸除去方法。
[21]前記移動速度はロール表面速度の0.1倍以上である[20]に記載の巻き付き糸除去方法。
[22]超音波カッターの振動方向に対し直角な方向において、刃物の刃先方向と、刃物送り方向とのなす角度が、60度以下である[13]~[21]のいずれかに記載の巻き付き糸除去方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の好ましい形態によれば、巻き付き糸除去時間を短くでき、糸がロールに厚く巻き付いた場合でも除去が可能な巻き付き糸除去装置及び巻き付き糸除去方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図3】巻き付き糸を切断除去中の状態での巻き付き糸除去装置の上面図である。
【
図4】巻き付き糸を切断除去中の状態での巻き付き糸除去装置の右側面図である。
【
図5】刃物の刃先方向と、刃物送り方向とのなす角度Xの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態の一例を炭素繊維の製造装置に適用した場合を例にとって説明する。
図1は本実施形態に係る巻き付き糸除去装置および巻き付きが発生したロールの側面図である。また
図2は
図1の矢印A方向から見た右側面図である。
図1および
図2においては、複数の糸条を搬送している糸条生産設備のロールに複数の糸条のうち、1本の糸条が巻き付き、巻き付き糸2が発生している状況で、ロール近傍のロール表面に接触していない状態で巻き付き糸除去装置9が配置された状態を示す。
巻き付き糸除去装置9はロール軸方向に移動可能なようにレール3上に取り付けられている。巻き付き糸除去装置のロール軸上の移動は、図示していないハンドルを手動で操作することにより実施する。
超音波カッター本体4は矢印BおよびC方向に摺動可能な機構を有するスライドテーブル5上部に固定されている。スライドテーブル5はエアシリンダー6と接続されており、カッター先端部をロール表面に対して接触・離間させる前後の動作をエアにより制御可能な構成になっており、図示していないエア切り替えバルブにより接触・離間動作を実施する。また、図示していない減圧弁を用いてエアシリンダーへ入力するエア圧力を調整することで、ロール表面に対する超音波カッター刃物4aの荷重を設定することができる。
吸引ノズル7は図示していない治具により、超音波カッター本体4に対して位置が固定されており、図示していないハンドルを手動で操作することによりロール軸上を超音波カッターでの移動に合わせて、ロール軸上を移動する。吸引ノズル7は図示していない吸引手段とフレキホース8で接続されている。
【0011】
本発明の巻き付き糸除去装置は、回転するロールの外周面に巻き付いた糸を、超音波カッターで切断し、除去する。
超音波カッターを使用することで、巻き付いた糸を切断しやすくなる。
【0012】
本発明の巻き付き糸除去装置は、超音波カッターの先端が、ロールに対し接触する位置と離間する位置に移動可能な移動手段を有することが好ましい。
離間する位置に移動可能とは、超音波カッターの先端が、ロールから遠ざかったり、近づいたりできることである。
糸の巻き付きが多いときは、表面の一部から切断することで、超音波カッターの刃が折れることができる。超音波カッターの押し付け荷重が規定値を超えると、ロールから遠ざかる機構を有していることが好ましい。
【0013】
本発明の巻き付き糸除去装置は、切断により発生した糸屑を回収する糸屑回収手段を有することが好ましい。
切断により発生した糸屑が、再度繊維束に付着することを防ぐためである。糸屑回収手段としては、吸引ノズルを超音波カッターの横に配置したり、超音波カッターの下に糸屑回収ボックスを配置したりすることができる。
作業のし易さから、吸引ノズルを設置することがより好ましい。
【0014】
本発明の巻き付き糸除去装置は、前記超音波カッターの先端をロールに押し付ける荷重を一定にする機構を有することが好ましい。
この値が一定にすることで、押し付ける荷重が小さく、巻き付き糸が切断できなかったり、荷重が大きく、ロール表面に傷をつけてしまったりすることを防ぐことができる。
【0015】
本発明の巻き付き糸除去装置は、前記荷重を一定にする機構がエアシリンダーであることが好ましい。
前記機構がエアシリンダーであることで、ロールとの距離を素早く変えることができ、押し付け荷重が規定値を超えた場合、素早く超音波カッターをロールから遠ざけることができやすい。
【0016】
本発明の巻き付き糸除去装置は、前記荷重が4~12Nであることが好ましい。
前記荷重が4N以上であれば、巻き付き糸を切断しやすく、12N以下であればロール表面に傷をつけるのを防ぎやすい。
これらの観点から、前記荷重の下限は、5N以上がより好ましく、6N以上がさらに好ましく、前記荷重の上限は、11N以下がより好ましく、9N以下がさらに好ましい。
【0017】
本発明の巻き付き糸除去装置は、超音波カッターの超音波振幅が100μm以下であることが好ましい。
超音波カッターの超音波振幅が100μm以下であれば、ロール表面に傷をつけることを防ぐことができる。
この観点から、前記超音波振幅は、80μm以下がより好ましく、70μ以下がさらに好ましい。
【0018】
本発明の巻き付き糸除去装置は、超音波カッターの刃物の材質がロールの材質と同程度またはロールよりも柔らかいことが好ましい。
このようにすることで、ロール表面に傷をつけることを防ぐことができる。
【0019】
本発明の巻き付き糸除去装置は、前記糸屑回収手段が吸引ノズルであることが好ましい。
吸引ノズルは、掃除機のように空気により、吸引パイプを通じて回収する。吸引口の大きさは、直径20~50mmであることが好ましい。吸引ホースは吸引した繊維がホース内で詰まってしまうことが考えられるため、詰まり位置特定のため透明ホースであることが好ましく、詰まり部分の除去を容易にできるよう分割できる構造のものが好ましい。
【0020】
本発明の巻き付き糸除去装置は、前記超音波カッターは、刃物の形状が両刃であって、ロール軸に対して平行に往復移動する機構を有することが好ましい。
往復運動することで、巻き付き糸を早く除去することができる。そのため、超音波カッターの刃は両刃であることが好ましい。往復運動の方向は、糸の進行方向に対し直角方向であることが、左右から同様に切断することができる。
【0021】
本発明の巻き付き糸除去装置は、前記移動速度はロール表面速度の0.1倍以上であることが好ましい。
超音波カッターの往復運動の移動速度がロール表面速度の0.1倍以上であれば、巻き付き糸を切断しやすい。この観点から、前記移動速度は、ロール表面速度の0.15倍以上がより好ましく、ロール表面速度の0.18倍以上がより好ましい。
【0022】
本発明の巻き付き糸除去装置は、超音波カッターの振動方向に対し直角な方向において、刃物の刃先方向と、刃物送り方向とのなす角度が、60度以下であることが好ましい。
前記角度が60度以下であれば、巻き付き糸の量が多くなっても切断できやすい。この観点から、前記角度は45度以下がより好ましく、30度以下がより好ましく、0度が最も好ましい。
刃物の刃先方向とは、両刃の場合、両側の刃先を結ぶ方向である。
【0023】
本発明の巻き付き糸除去方法は、回転するロールの外周面に巻き付いた糸を、超音波カッターで切断し、除去するものである。
超音波カッターを使用することで、巻き付いた糸を切断しやすく、除去が容易にできる。
【0024】
本発明の巻き付き糸除去方法は、切断により発生した糸屑を、吸引ノズルで回収することが好ましい。
吸引ノズルは、掃除機のように空気により、吸引パイプを通じて回収する。吸引口の大きさは、直径20~50cmであることが好ましい。直径が20mm以上であれば、吸引力を高くすることができ、ある程度大きな糸屑も吸引できる。また直径が50mm以下であれば、大きな糸屑を吸引することができる。吸引ホースは吸引した繊維がホース内で詰まってしまうことが考えられるため、詰まり位置特定のため透明ホースであることが好ましく、詰まり部分の除去を容易にできるよう分割できる構造のものが好ましい。
【0025】
本発明の巻き付き糸除去方法は、前記荷重が4~12Nであることが好ましい。
前記荷重が4N以上であれば、巻き付き糸を切断しやすく、12N以下であればロール表面に傷をつけるのを防ぎやすい。
これらの観点から、前記荷重の下限は、5N以上がより好ましく、6N以上がさらに好ましく、前記荷重の上限は、11N以下がより好ましく、9N以下がさらに好ましい。
【0026】
本発明の巻き付き糸除去方法は、超音波カッターの超音波振幅が100μm以下であることが好ましい。
超音波カッターの超音波振幅が100μm以下であれば、ロール表面に傷をつけることを防ぐことができる。
この観点から、前記超音波振幅は、80μm以下がより好ましく、70μ以下がさらに好ましい。
【0027】
本発明の巻き付き糸除去方法は、超音波カッターの先端をロールに押し付ける荷重と超音波カッターの超音波振幅の積が150~350であることが好ましい。
前記積が150以上であれば、巻き付き糸を切断しやすく、350以下であれば、ロール表面に傷をつけることを防ぐことができる。
【0028】
本発明の巻き付き糸除去方法は、前記超音波カッターの先端をロールに押し付ける荷重が一定であることが好ましい。
この値が一定にすることで、押し付ける荷重が小さく、巻く付き糸が切断できなかったり、荷重が大きく、ロール表面に傷をつけてしまったりすることを防ぐことができ、安定して巻き付き糸を切断することができる。
【0029】
本発明の巻き付き糸除去方法は、前記超音波カッターの先端をロールにエアシリンダーで押し付けることが好ましい。
前記機構がエアシリンダーであることで、ロールとの距離を素早く変えるこができ、押し付け荷重が規定値を超えた場合、素早く超音波カッターをロールから遠ざけることができやすい。
【0030】
本発明の巻き付き糸除去方法は、前記超音波カッターは、刃物の形状が両刃であって、ロール軸に対して平行に往復移動する機構を有することが好ましい。
往復運動することで、巻き付き糸を早く除去することができる。そのため、超音波カッターの刃は両刃であることが好ましい。往復運動の方向は、糸の進行方向に対し直角方向であることが、左右から同様に切断することができる。
【0031】
本発明の巻き付き糸除去方法は、前記移動速度はロール表面速度の0.1倍以上であることが好ましい。
超音波カッターの往復運動の移動速度がロール表面速度の0.1倍以上であれば、巻き付き糸を切断しやすい。この観点から、前記移動速度は、ロール表面速度の0.15倍以上がより好ましく、ロール表面速度の0.18倍以上がより好ましい。
【0032】
本発明の巻き付き糸除去方法は、ロール軸に垂直な断面において、超音波カッターがロールに接触する位置からロール軸中心を結ぶ線と、超音波カッターの振動方向とがなす角度が、60度以下であることが好ましい。
前記角度が60度以下であれば、巻き付き糸の量が多くなっても切断できやすい。この観点から、前記角度は45度以下がより好ましく、30度以下がより好ましく、0度が最も好ましい。
【実施例0033】
(切断性評価)
巻き付き糸をすべて除去できたものを○、できなかったものを×とした。
【0034】
(ロール傷)
巻き付き糸除去後、ロール表面の刃物が接触していた部分の樹脂レプリカを採取して、高精度形状測定システム(キーエンス社製 型番:KS1100)とダブルスキャン高精度レーザー測定器(キーエンス社製 型番:LT-9010M)で測定して接触部分が検出不可であったものを〇、検出可能であったものを×とした。
【0035】
(刃物荷重)
カッターの先端部をフォースゲージに押し当てて、所定の荷重となるように、エアシリンダーのエア圧を設定した。
【0036】
(巻き付き糸の厚さ)
ロール表面に垂直にスケールを当てて、最も高い部分を巻き付き厚さとした。
【0037】
(総処理時間)
カッターが最初に巻き付き部に接触して切断を開始してから、すべての巻き付きを切断するまでの時間とした。
【0038】
(単位断面積当たりの処理時間)
単位断面積とは、巻き付いた糸の全体の幅と前記巻き付き糸の厚さとを掛けたものを断面積とし、前記総処理時間を、前記断面積で除した値である。
【0039】
(実施例1)
炭素繊維をロールに幅約50mm、厚さ1mmになるようにロールを回転させながら、規定幅内で糸を手で把持してトラバースさせながら巻き付けた。
刃物荷重を7.2Nとなるようにエアシリンダーのエア圧を設定し、超音波カッターの振幅を30μm、刃物取付角度を0度とし、ロールを停止した状態で、超音波カッターを往復運動させながら巻き付き糸の切断を行った。
【0040】
(実施例2~3、比較例1~3)
刃物荷重、超音波カッターの振幅を表1に示す通りに変更した以外は、実施例1と同様に巻き付き糸の除去を行った。
比較例1では、刃物荷重と超音波カッターの振幅の両方が低い場合は、巻き付き糸をすべて切断できなかった。比較例2では、刃物荷重は中程度であったが、超音波カッターの振幅が高かったので、ロール表面に傷が認められた、比較例3では、刃物荷重が高いので、超音波カッターの振幅は低いがロール表面に傷が認められた。
【0041】
(実施例4)
炭素繊維をロールに幅約50mm、厚さ1mmになるようにロールを回転させながら、規定幅内で糸を手で把持してトラバースさせながら巻き付けた。
刃物荷重を8Nとなるようにエアシリンダーのエア圧を設定し、超音波カッターの振幅を30μm、刃物取付角度を0度とし、刃物送り速度を6mm/秒、ロール表面速度を33mm/秒にして、超音波カッターを往復運動させながら巻き付き糸の切断を行った。
巻き付き糸がすべて除去できた時間は9秒であった。また、ロール表面の傷は見当たらなかった。
【0042】
(実施例5~6、比較例4~7)
各条件を表1に示す通りに変更した以外は、実施例4と同様にして巻き付き糸の除去を行った。
実施例5、6は、ロール表面速度が速いにも関わらず、刃物送り速度を相対的に速くしたので、巻き幅が大きくても、厚さが厚くても、巻き付き糸を切断、除去することができた。
【0043】