(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141988
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】リポマイセス(Lipomyces)属に属する油脂高産生株、及び当該油脂高産生株を用いて油脂を製造する方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/16 20060101AFI20241003BHJP
C12P 1/02 20060101ALI20241003BHJP
C12P 7/6436 20220101ALI20241003BHJP
【FI】
C12N1/16 G
C12P1/02 Z
C12P7/6436
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053911
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】505111982
【氏名又は名称】学校法人 新潟科学技術学園
(71)【出願人】
【識別番号】000226976
【氏名又は名称】日清食品ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高久 洋暁
(72)【発明者】
【氏名】三根 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】高城 博也
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AD85
4B064CA06
4B065AA72X
4B065BA17
4B065BA24
4B065BC15
4B065CA13
(57)【要約】
【課題】Lipomyces属に属する酵母であって、公知の油脂高産生変異株よりも油脂産生能に優れた新規変異株の取得と、当該新規変異株を使用するパーム油代替油脂の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係る新規な油脂高産生変異株は、リポマイセス(Lipomyces)属に属する酵母であって、受託番号:NITE BP-03796として独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに受託された油脂高産生株である。この新規な油脂高産生変異株は、Lipomyces starkeyiの野生株であるCBS1807に対してUV照射によって変異を誘発することによって得られる変異株N5株に、さらにUV照射によって変異を誘発し、Percoll密度勾配遠心分離法によって低密度分画を分取し、培養を繰り返すことで取得される。
【選択図】
図19
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リポマイセス(Lipomyces)属に属する酵母であって、受託番号:NITE BP-03796として独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに受託された油脂高産生株。
【請求項2】
油脂酵母リポマイセス(Lipomyces)属に属する酵母であって、受託番号:NITE BP-03796によって独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに受託された油脂高産生株を用いて、油脂を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リポマイセス(Lipomyces)属に属する新規な油脂高産生株、及び当該油脂高産生株を用いて油脂を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パーム油は、アブラヤシの果実から得られる常温で固体の植物油である。パーム油は、飽和脂肪酸を多く含有し、パルミチン酸及びオレイン酸が脂肪酸の約8割を占めることを特徴としている。パーム油の用途としては、食用油以外に、マーガリン、ショートニング又は石鹸の原料が知られている。また、パーム油は、即席フライ麺又はポテトチップスのようなスナック菓子の揚げ油としても利用されている。
【0003】
パーム油は、世界で最も生産されている植物油であり、2015年には世界全体で6256万トンのパーム油が生産されている。アブラヤシは、高温多湿の熱帯地域で育つ植物で、原産国は西アフリカ及び中南米であるが、現在、パーム油生産の80%以上はマレーシアとインドネシアで行われている。アブラヤシは、1年を通して実をつけるので単位面積あたりの収穫量が他の植物油原料よりはるかに高く、大豆油又は菜種油と比べて8~10倍もの生産が可能である。そのため、パーム油の価格は、他の植物油脂より安く、安定供給が可能なため、多くの国々がパーム油を輸入している。
【0004】
アブラヤシが育つのは赤道直下の高温多湿の熱帯地方のみであるが、生育条件が熱帯雨林の分布と重なっている。そのため、アブラヤシプランテーションを開発するためには、熱帯雨林を伐採する他なく、毎年多くの熱帯雨林が伐採によって消失している。また、プランテーション開発時には大規模な森林火災も発生している。このような熱帯雨林の消失によって、そこに住む希少な野生動物が絶滅の危機に瀕している。
【0005】
さらに、急速なパーム油需要の拡大に伴い、労働者が劣悪な労働環境におかれたり、土地開発において地域住民と開発業者との衝突を生じたりするなど、パーム油は、地球規模の環境問題のみならず、労働問題及び人権問題を引き起こす原因にもなっている。
【0006】
こうしたことから、近年では、パーム油の代替油脂を、微生物を利用して製造する方法が模索されている。油脂産生酵母であるLipomyces属酵母は、パーム油に脂肪酸組成が近似する油脂を産生することが知られている。Lipomyces属酵母が産生する油脂は、物理的性質もパーム油に類似しており、環境リスク、気候変動リスク及び持続可能性の観点から、代替パーム油として期待されている。
【0007】
油脂産生酵母を利用する代替油脂の製造方法においては、野生型Lipomyces starkeyiによって産生される油脂量が不十分であるため、野生株を変異させ、油脂産生量が多い油脂高産生株(油脂高蓄積株)を得ることも検討されている。非特許文献1及び2には、Lipomyces starkeyiの野生株であるCBS1807をエチルメチルスルホン酸又はUV照射によって突然変異を誘発させ、密度勾配遠心分離法によって油脂高産生株の濃縮を繰り返すことにより、油脂高産生株の濃縮分画を取得することが開示されている。
【0008】
特許文献1には、リポマイセス(Lipomyces)属又はロドスポリジウム(Rhodosporidium)属に属する油脂産生酵母を、ポリビニルピロリドンでコートされたケイ酸コロイド粒子より成る試薬を用いた密度勾配遠心法にかけ、油脂高産生株を製造する方法が開示されている。特許文献1には、酵母に変異源エチルメタンスルホネート(EMS)処理を行うこと、又は酵母に変異源UV処理を行い、その後に酵母を、ポリビニルピロリドンでコートされたケイ酸コロイド粒子より成る試薬を用いた密度勾配遠心法にかけることも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Yamazaki H, Kobayashi A, Ebina S, et al. (2019). Highly selective isolation and characterization of Lipomyces starkeyi mutants with increased production of triacylglycerol. Applied Microbiology and Biotechnology. 103, 6297-6308.
【非特許文献2】Hiroaki Takaku et al., Isolation and characterization of Lipomyces starkeyi mutants with greatly increased lipid productivity following UV irradiation, J Biosci Bioeng., 131(6), 613-621, (2021)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者等は、Lipomyces. Starkeyi野生株CBS1807に対してUV照射によって変異を誘発し、油脂高産生株であるN5株を取得しているが、N5株の産業的利用に関しては、油脂産生速度及び油脂変換効率等の課題があった。本発明は、Lipomyces属に属する酵母であって、N5株よりも油脂産生量(油脂蓄積量)が多い油脂高産生株の取得と、当該油脂高産生株を使用する、パーム油代替油脂の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、Lipomyces. Starkeyi野生株CBS1807から油脂高産生性株であるN5株を得た方法を、さらにN5株を親株として再適用することにより、油脂産生量が増加した新規変異株を得ることが可能であるか検討した結果、本発明を完成させるに至った。
【0013】
具体的に本発明は、
リポマイセス(Lipomyces)属に属する酵母であって、受託番号:NITE BP-03796として独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに受託された油脂高産生株に関する。
【0014】
受託番号:NITE BP-03796として独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに受託された油脂高産生株(後述するN5-15株)は、N5株に対してUV照射によって変異を誘発し、Percoll密度勾配遠心分離法によって低密度分画である上層を分取し、培養を繰り返すことで油脂高産生株を濃縮後、単離とスクリーニングを行うことにより取得される。
【0015】
本発明はまた、油脂酵母リポマイセス(Lipomyces)属に属する酵母であって、受託番号:NITE BP-03796として独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに受託された油脂高産生株を用いて、油脂を製造する方法に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の油脂産生酵母は、リポマイセス(Lipomyces)属に属する従来の油脂産生酵母よりも、効率よくパーム油代替油脂を産生することが可能である。その結果、本発明の油脂の製造方法は、公知の油脂産生酵母を使用する従来の製造方法よりも、より低コストでパーム油代替油脂を製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】密度勾配遠心分離後の菌体層の変化を示す写真である。WTは野生株、K14はK14株、UVは野生株をUV処理した菌体群を示す。
【
図2】N1株~N9株と対照株の顕微鏡写真を示す。
【
図3】3日間の培養中におけるN1株, N3株, N5株、N8株及び対照株の細胞濃度を示すグラフである。
【
図4】各株について平均粒子径を経時的に測定したグラフを示す。
【
図5】各株の培養3日目における顕微鏡写真を示す。
【
図6】各株について培地中のグルコース濃度を経時的に測定したグラフを示す。
【
図7】各株について培地あたりのトリグリセライド(TAG)量を経時的に測定したグラフを示す。
【
図8】各株について細胞あたりのトリグリセライド(TAG)量を経時的に測定したグラフを示す。
【
図9】密度勾配遠心分離後の菌体層の変化を示す写真である。WTは野生株、N5はN5株、UVはN5株をUV処理した菌体群を示す。
【
図10】培養3日目におけるN5-1株~N5-16株と対照株の細胞濃度を測定したグラフを示す。
【
図11】培養3日目におけるN5-1株~N5-16株と対照株のグルコース消費量を測定したグラフを示す。
【
図12】培養3日目におけるN5-1株~N5-16株と対照株の培地あたりのトリグリセライド(TAG)を測定したグラフを示す。
【
図13】培養3日目におけるN5-1株~N5-16株と対照株の細胞あたりのトリグリセライド(TAG)を測定したグラフを示す。
【
図14】6日間の培養中におけるN5-2株, N5-13株及びN5-15株と、対照株の細胞濃度を示すグラフである。
【
図15】6日間の培養中におけるN5-2株, N5-13株及びN5-15株と、対照株の平均粒子径を示すグラフである。
【
図16】各株の培養6日目における顕微鏡写真を示す。
【
図17】6日間の培養中におけるN5-2株、N5-13株及びN5-15株と、対照株の培地中のグルコース濃度を示すグラフである。
【
図18】6日間の培養中におけるN5-2株,N5-13株及びN5-15株と、対照株の培地あたりのトリグリセライド(TAG)を示すグラフである。
【
図19】6日間の培養中におけるN5-2株、N5-13株及びN5-15株と、対照株の細胞あたりのトリグリセライド(TAG)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら説明する。本発明は、以下の記載に限定されない。
【0019】
<油脂高蓄積性変異株の取得>
1.野生株からN5株の育種
Lipomyces属酵母であるLipomyces starkeyi CBS1807(野生株)にUV照射することによって変異を誘発させた。Percoll密度勾配遠心分離法によって低密度分画である上層を分取し、培養と分画を繰り返すことで油脂高産生株を濃縮後、単離とスクリーニングを行った。
【0020】
(UV照射による変異誘発)
無菌試験管にYPD 培地(表1)を3 mL採取し、Lipomyces starkeyi CBS1807をストックプレートから植菌した。表1中の最終濃度の単位はw/v%であり、後述する表2~6についても同様である。30℃で2日間培養した(前培養)後、培養液を回収した。回収した培養液を、菌体濃度が1.0×107 cells/mL になるようにYPD培地を使用して調整し、その7 mLをL字試験管内で24 時間培養した(本培養)。次に、本培養液全量を15 mLのチューブに移し、2270×gで5 分遠心分離し、上清を除いた。
【0021】
【0022】
沈殿した菌体を7mLの1×PBSで懸濁し、2270×gで5 分遠心分離して上清を除くことにより、菌体を洗浄した。その後、7mLの1×PBSをL字試験管に添加し、菌体を懸濁させた。菌体濃度が1.0×107cells/mL になるように1×PBSを使用して希釈し、無菌シャーレに10mLずつ菌体溶液を分注した。
【0023】
次に、UV照射装置(東芝ライテック社、型番GL15、出力4.9W)のUV管からの距離が25 cmになるように、菌体溶液を分注したシャーレを設置し、20秒間UV を照射した。UV 照射エネルギーは、例えば、20 秒間の照射の場合、0.816(mW/cm2)×20(秒)=16.32(mJ/cm2)と算出される。UV照射後のシャーレを30℃で2日間培養した。シャーレの菌体懸濁液全量を15 mLチューブに添加し、2270×gで5 分遠心分離して上清を除去した。チューブにSG培地(表2)1 mLを添加して菌体を懸濁させ、2270×gで5 分遠心分離して上清を除くことにより、菌体を洗浄した。
【0024】
【0025】
チューブにSG培地7mLを添加して菌体を懸濁させた。チューブの培養液の全量を無菌L字試験管に植菌し、30℃、120 rpmで3日間培養した(前々培養)。前々培養液を、最終菌体濃度が1.25×106 cells/mLとなるようにS5%培地(表3)を使用して調整し、200mLバッフルフラスコに75mLスケールで植菌した。その後、30℃、160rpmで24時間培養した(前培養)。前培養液を、菌体濃度が1.25×106 cells/mLになるようにS5%培地を使用して調整し、200mLバッフルフラスコに75mLスケールで植菌した。その後、30℃、160rpmで2日間培養した(本培養)。
【0026】
【0027】
(Percoll試薬を用いた密度勾配遠心分離法による油脂高産生変異株群の濃縮)
本培養液の菌体数をセルカウンターで測定し、15 mLチューブに1.0×109 cells分の培養液を採取した。本培養後のLipomyces starkeyi CBS1807(野生株)及びK14株(非特許文献1)の懸濁液を、同様にチューブに採取した。
【0028】
チューブを遠心分離(スイングローター、2270×g、5分間、常温)し、上清を除いた。無菌1×PBS 500μLをチューブに添加して菌体を懸濁させ、1.5 mLチューブに全量移した。その後、1.5 mLチューブの1.0の目盛りまで1×PBSでメスアップした。
【0029】
超遠心用チューブにPercoll 試薬(濃度40%)8 mLを採取し、1.5mLチューブ内の菌体懸濁液を全量加えた。超遠心用チューブを転倒混和した後、超遠心分離機を用いて超遠心分離を行った(70.1Ti ローター、22000 rpm、20分間、常温、ACCEL SLOW、DECEL NO BREAK)。超遠心分離後、形成された菌体層を観察した。その後、ペリスタポンプを用いて低密度分画である上層1 mLを15 mLチューブに分取した。
【0030】
チューブに5倍量の無菌1×PBSを添加して菌体を懸濁させ、2270×gで5 分遠心分離して上清を除くことにより、菌体を洗浄した。次に、チューブにSG培地1mLを添加して菌体を懸濁させ、2270×gで5 分遠心分離して上清を除くことにより、菌体を洗浄した。チューブにSG培地7mLを添加して菌体を懸濁させた。
【0031】
(菌体培養)
チューブの培養液の全量を無菌L字試験管に植菌し、30℃、120 rpmで3日間培養した(前々培養)。前々培養液を、最終菌体濃度が1.25×106cells/mLとなるようにS5%培地を使用して調整し、200mLバッフルフラスコに75mLスケールで植菌した。その後、30℃、160rpmで24時間培養した(前培養)。前培養液を、菌体濃度が1.25×106 cells/mLになるようにS5%培地を使用して調整し、200mLバッフルフラスコに75mLスケールで植菌した。その後、30℃、160rpmで2日間培養した(本培養)。
【0032】
(Percoll試薬を用いた密度勾配遠心分離法による油脂高産生変異株群の濃縮:2回目)
上述した(Percoll試薬を用いた密度勾配遠心分離法による油脂高産生変異株群の濃縮)~(菌体培養)までの操作を繰り返した。
【0033】
(Percoll試薬を用いた密度勾配遠心分離法による油脂高産生変異株群の濃縮:3回目)
上述した(Percoll試薬を用いた密度勾配遠心分離法による油脂高産生変異株群の濃縮)~(菌体培養)までの操作をさらに繰り返した。ただし、(菌体培養)における本培養は、3日間行った。
【0034】
(Percoll試薬を用いた密度勾配遠心分離法による油脂高産生変異株群の濃縮:4回目)
上述した(Percoll試薬を用いた密度勾配遠心分離法による油脂高産生変異株群の濃縮)~(菌体培養)までの操作をさらにもう一度繰り返した。その後、チューブに本培養液1mLを加え、5倍量の無菌1×PBSを添加して菌体を懸濁させ、2270×gで5 分遠心分離して上清を除くことにより、菌体を洗浄した。次に、チューブにS5%培地1 mLを添加して菌体を懸濁させ、2270×gで5 分遠心分離して上清を除くことにより、菌体を洗浄した。
【0035】
油脂を産生し、高度に蓄積した低密度の細胞群の濃縮は、濃縮回数を重ねるに従い、菌体層の低密度分画への移行が確認できるはずであり、野生株及びK14株の細胞群よりも上層に位置することが考えられた。
図1に示されるように、1回目の濃縮操作後では、対照であるK14株と比較して、UV 処理サンプルの菌体層の浮上は確認されなかった。しかし、UV処理のサンプルは、2回目の濃縮でK14株の菌体層上層よりも高い位置に菌体層が確認された。3回目及び4回目の濃縮では、その菌体層がはっきりした。このことは、UV 処理のサンプルでは、K14株よりも油脂高産生性の細胞群が濃縮されていることを示している。なお、
図1において、WTは野生株を表す。後述する図面においても同様である。
【0036】
(菌株の単離)
チューブにS5%培地100μLを添加して菌体を懸濁させ、S5%固体培地(表4)にプレーティングし、30℃で3日間培養することで、コロニー単離を行った。Lipomyces starkeyi は、マンノース、ガラクトース、グルクロン酸、少量のグルコースを構成糖とする酸性の多糖を生産し、多糖を生産している菌体は、粘稠性のコロニーを形成することが明らかになっている。そのため、培地中のグルコース(炭素源)が多糖に変換されやすい株は、油脂産生量が低下している可能性が考えられた。そこで、プレートから多糖生産の指標となる光沢が見られないコロニーをS5%培地に引き直し、30℃で3日間培養した。引き直した菌体のうち、多糖を生産していると考えられる光沢のあるものを除去し、N1~N9株までの9株を得た。
【0037】
【0038】
(顕微鏡観察による油脂高産生株の一次スクリーニング)
SG培地を7mL 加えたL字試験官に、N1株~N9株の9株のコロニー及びネガティブコントロールとして野生株、ポジティブコントロールとしてK14株を植菌し、30℃、120 rpmで3日間培養した(前々培養)。前々培養液を、最終菌体濃度が1.25×106 cells/mLとなるようにS5%培地を使用して調整し、200mLバッフルフラスコに75mLスケールで植菌した。その後、30℃、160rpmで24時間培養した(前培養)。前培養液を、菌体濃度が1.25×106 cells/mLになるようにS5%培地を使用して調整し、200mLバッフルフラスコに75mLスケールで植菌した。その後、30℃、160rpmで3日間培養した(本培養)。
【0039】
本培養3日目の培養液を顕微鏡で観察し、脂肪球の大きさを比較した。ポジティブコントロールであるK14株と同等以上の大きさの脂肪球を持つN1株,N3株, N5株, N8株について、二次スクリーニングを行うこととした。
図2は、N1株~N9株と対照株の顕微鏡写真を示す。
【0040】
(理化学分析による油脂高産生株の二次スクリーニング)
SG 培地を 7 mL 加えた L字試験官にN1株, N3株, N5株, N8株と、ネガティブコントロールとして野生株、ポジティブコントロールとしてK14株のコロニーを植菌し、 30℃、 120 rpmで3日間培養した(前々培養)。前々培養液を、最終菌体濃度が1.25×106cells/mLとなるようにS5%培地を使用して調整し、200mLバッフルフラスコに75mLスケールで植菌した。その後、30℃、160rpmで24時間培養した(前培養)。前培養液を、菌体濃度が1.25×106 cells/mLになるようにS5%培地を使用して調整し、200mLバッフルフラスコに75mLスケールで植菌した。その後、30℃、160rpmで3日間培養した(本培養)。
【0041】
(細胞数の測定)
培地中の細胞数(菌体数)は、本培養液を0.75%生理食塩水によって希釈した後、超音波ホモジナイザー(SONICS社、Vibra cell)を使用して超音波処理し(出力20%、on time 5秒、off time 5秒、2サイクル)、CDA-1000 (Sysmex社)を用いて測定した。なお、同時に平均粒子径を測定することも可能である。
【0042】
(培地中のグルコース濃度の測定)
本培養液1mLを1.5mLチューブに採取し、グルコースCII-テストワコー(和光純薬株式会社)を使用してグルコース濃度を測定した。その測定値に基づいて、培養中の各変異株のグルコース消費量(g/L)を算出した。
【0043】
(産生されたトリグリセライド量の測定)
マルチビーズショッカー用2 mLチューブに本培養液を採取し、2270×gで5 分遠心分離して上清を除いた。チューブにPBS 1 mLを添加して菌体を懸濁させ、2270×gで5 分遠心分離して上清を除くことにより、菌体を洗浄した。ヒートブロックを使用して70℃で5分間チューブを加熱して、細胞内の油脂分解酵素を不活化した。チューブを30℃で凍結し、凍結乾燥機(EYELA、FDU-1200)を使用して菌体を凍結乾燥した。凍結乾燥菌体が入ったチューブに500μLのPBSと、予め0.1N塩酸で洗浄し、乾燥させた0.5mmガラスビーズ1gを加え、マルチビーズショッカー(安井器械株式会社)を使用して菌体を破砕した(2500rpm, 900秒)。1×PBS 500μLをチューブに添加し、ミキサー(タイテック株式会社、マイクロミキサーE-36)を使用して37℃で10分間浸透させた。この試料を、トリグリセライド測定用試料とした。1.5mLチューブにトリグリセライドE-テストワコー(富士フイルム和光純薬株式会社)の発色液1mLとトリグリセライド測定用試料6.7μLを添加し、転倒混和した。2分間毎に転倒混和しながら、ヒートブロックを使用して37℃ で 10分間加温した。加温後、同様に加温していた発色液を対照として600nmの吸光度を測定し、検量線からトリグリセライド濃度を測定した。
【0044】
図3は、3日間の培養中におけるN1株, N3株, N5株、N8株及び対照株について、細胞濃度を経時的に測定したグラフを示す。培養初期から生育速度に違いが見られ、N1株、N3株、N5株及びN8株は、野生株よりも生育速度が低下し、最終的な細胞濃度も低くなった。培養3日目の細胞濃度は、野生株と比較してN1株が0.90倍、N3株が0.91倍、N5株が0.89倍、N8株が0.89倍であった。
【0045】
図4は、3日間の培養中におけるN1株, N3株, N5株、N8株及び対照株について、平均粒子径を経時的に測定したグラフを示す。平均粒子径は、培養4日目において、野生株と比較してN1株は約1.05倍、N3株は約1.06倍、N5株は約1.07倍、N8株は約1.07倍大きかった。
【0046】
図5は、各株の培養3日目における顕微鏡写真を示す。
図5に示されるように、N1株、N3株、N5株及びN8株は、野生株よりも脂肪球が大きいことが確認できたことから、油脂産生能に優れていることが確認された。
【0047】
図6は、各株について培地中の残グルコース量(グルコース濃度)を経時的に測定したグラフを示す。
図6に示されるように、培養3日目において、N1株、N3株、N5株及びN8株は、培地中のグルコースを野生株よりも多く資化していた。
【0048】
図7は、各株について培地あたりのトリグリセライド(TAG)量を経時的に測定したグラフを示す。
図7に示されるように、培地あたりのトリグリセライド量は、培養3日目の時点で、野生株と比較してN1 株は約1.93倍、N3株は約2.03倍、N5株は約2.51 倍、N8株は約1.87倍であった。
【0049】
図8は、各株について細胞あたりのトリグリセライド(TAG)量を経時的に測定したグラフを示す。
図8に示されるように、細胞あたりのトリグリセライド量は、培養3日目の時点で、野生株と比較してN1 株は約2.16倍、N3株は約2.23倍、N5株は約2.83 倍、N8株は約2.11倍であった。
【0050】
2.N5株からN5-15株の育種
上述した操作によって取得された油脂高産生株であるLipomyces starkeyi N5株(トリグリセライド産生量が最も高かった変異株)に、再びUV照射によって突然変異を誘発させることで、さらなる油脂高産生株である新変異株を育種した。具体的には、野生株からN5株を育種した方法と同様、Percoll密度勾配遠心分離法によって低密度分画である上層を分取し、培養と分画を繰り返すことで油脂高産生株を濃縮後、単離とスクリーニングを行った。
【0051】
(UV照射による変異誘発)
無菌試験管にYPD培地を3mL採取し、Lipomyces starkeyi N5株をストックプレートから植菌し、30℃で2日間培養した(前培養)。回収された培養液を、菌体濃度が1.0×107 cells/mLになるようにYPD培地を使用して調整し、その7mLをL字試験管内で24時間培養した(本培養)。次に、本培養液を全量15mLのチューブに移し、2270×gで5分遠心分離し、上清を除いた。
【0052】
沈殿した菌体を7mLの1×PBSで懸濁させ、2270×gで5分遠心分離して上清を除くことにより、菌体を洗浄した。その後、7mLの1×PBSをL字試験管に添加し、菌体を懸濁させた。菌体濃度が1.0×107cells/mL になるように1×PBSを使用して希釈し、無菌シャーレに10mLずつ菌体溶液を分注した。
【0053】
次に、UV照射装置(東芝ライテック社、型番GL15、出力4.9W)のUV管からの距離が25 cmになるように、菌体溶液を分注したシャーレを設置し、25秒間UV を照射した。UV照射後のシャーレを30℃で2日間培養した。シャーレの菌体懸濁液全量を15mLチューブに添加し、2270×gで5 分遠心分離して上清を除去した。チューブにSG培地1mLを添加して菌体を懸濁させ、2270×gで5 分遠心分離して上清を除くことにより、菌体を洗浄した。
【0054】
チューブにSG培地7mLを添加して菌体を懸濁させた。チューブの培養液の全量を無菌L字試験管に植菌し、30℃、120 rpmで3日間培養した。(前々培養)前々培養液を、最終菌体濃度が1.25×106 cells/mLとなるようにS7%培地(表5)を使用して調整し、200mLバッフルフラスコに75 mLスケールで植菌した。その後、30℃、160 rpmで24時間培養した(前培養)。前培養液を、菌体濃度が1.25×106 cells/mLになるようにS7%培地を使用して調整し、200mLバッフルフラスコに75mLスケールで植菌した。その後、30℃、160rpmで2日間培養した(本培養)。
【0055】
【0056】
(Percoll試薬を用いた密度勾配遠心分離法による油脂高産生変異株群の濃縮)
本培養液の菌体数をセルカウンターで測定し、15 mLチューブに1.0×109 cells分の培養液を採取した。本培養後のLipomyces starkeyi CBS1807(野生株)及びN5株の懸濁液を、同様にチューブに採取した。
【0057】
チューブを遠心分離(スイングローター、2270×g、5分間、常温)し、上清を除いた。無菌1×PBS 500μLをチューブに添加して菌体を懸濁させ、1.5 mLチューブに全量移した。その後、1.5 mLチューブの1.0の目盛りまで1×PBSでメスアップした。
【0058】
超遠心用チューブにPercoll 試薬(濃度40%)8 mLを採取し、1.5mLチューブ内の菌体懸濁液を全量加えた。超遠心用チューブを転倒混和した後、超遠心分離機を用いて超遠心分離を行った(70.1Ti ローター、22000 rpm、20分間、常温、ACCEL SLOW、DECEL NO BREAK)。超遠心分離後、形成された菌体層を観察した。その後、ペリスタポンプを用いて低密度分画である上層1mLを15mLチューブに分取した。
【0059】
チューブに5倍量の無菌1×PBSを添加して菌体を懸濁させ、2270×gで5分遠心分離して上清を除くことにより、菌体を洗浄した。次に、チューブにSG培地1mLを添加して菌体を懸濁させ、2270×gで5 分遠心分離して上清を除くことにより、菌体を洗浄した。チューブにSG培地7mLを添加して菌体を懸濁させた。
【0060】
(菌体培養)
チューブの培養液の全量を無菌L字試験管に植菌し、30℃、120rpmで3日間培養した(前々培養)。前々培養液を、最終菌体濃度が1.25×106cells/mLとなるようにS7%培地を使用して調整し、200mLバッフルフラスコに75mLスケールで植菌した。その後、30℃、160rpmで24時間培養した(前培養)。前培養液を、菌体濃度が1.25×106 cells/mLになるようにS7%培地を使用して調整し、200mLバッフルフラスコに75mLスケールで植菌した。その後、30℃、160rpmで2日間培養した(本培養)。
【0061】
(Percoll試薬を用いた密度勾配遠心分離法による油脂高産生変異株群の濃縮:2回目)
上述した(Percoll試薬を用いた密度勾配遠心分離法による油脂高産生変異株群の濃縮)~(菌体培養)までの操作を繰り返した。
【0062】
(Percoll試薬を用いた密度勾配遠心分離法による油脂高産生変異株群の濃縮:3回目)
上述した(Percoll試薬を用いた密度勾配遠心分離法による油脂高産生変異株群の濃縮)~(菌体培養)までの操作をさらに繰り返した。チューブに5倍量の無菌1×PBSを添加して菌体を懸濁させ、2270×gで5分遠心分離して上清を除くことにより、菌体を洗浄した。次に、チューブにS7%培地1mLを添加して菌体を懸濁させ、2270×gで5分遠心分離して上清を除くことにより、菌体を洗浄した。
【0063】
油脂を産生し、高度に蓄積した低密度の細胞群の濃縮は、濃縮回数を重ねるに従い、菌体層の低密度分画への移行が確認できるはずであり、野生株及びN5株の細胞群よりも上層に位置することが考えられた。
図9は、密度勾配遠心分離後の菌体層の変化を示す写真である。
図9に示されるように、1回目の濃縮操作後では、対照であるN5株と比較して、UV 処理サンプルの菌体層の浮上は確認されなかった。しかし、UV処理のサンプルは、2回目の濃縮でN5株の菌体層上層よりも高い位置に菌体層が確認された。3回目の濃縮では、その菌体層がはっきりした。このことは、UV 処理のサンプルでは、N5株よりも油脂高産生性の細胞群が濃縮されていることを示している。
【0064】
(菌株の単離)
チューブにS7%培地100μLを添加して菌体を懸濁させ、S7%固体培地(表6)にプレーティングし、30℃で3日間培養することで、コロニー単離を行った。ムコイドを形成しなかったコロニーをS5%培地に引き直し、30℃で3日間培養した。引き直した菌体のうち、多糖を生産していると考えられる光沢のあるものを除去し、N5-1~N5-16株までの16株を得た。
【0065】
【0066】
(油脂高産生株の一次スクリーニング)
SG 培地を7mL加えたL字試験官にN5-1~N5-16株までの16株のコロニー及びコントロールとして野生株とN5株を植菌し、30℃、120 rpmで 3日間培養した(前々培養)。前々培養液を、最終菌体濃度が1.25×106 cells/mLとなるようにS5%培地を使用して調整し、200mLバッフルフラスコに75mLスケールで植菌した。その後、30℃、160rpmで24時間培養した(前培養)。前培養液を、菌体濃度が1.25×106 cells/mLになるようにS5%培地を使用して調整し、200mLバッフルフラスコに75mLスケールで植菌した。その後、30℃、160rpmで3日間培養した(本培養)。
【0067】
本培養3日目の培養液を採取し、「1.野生株からN5株の育種」と同様にして、細胞濃度(菌体数、
図10)、グルコース消費量(
図11)、培地あたりトリグリセライド産生量(
図12)、細胞あたりトリグリセライド産生量(
図13)を測定した。
図10~13に示されるように、N5-2, N5-13及びN5-15株は、N5株と比較して顕著なトリグリセライド産生量の増加が確認されたため、これら3株について二次スクリーニングを行うこととした。
【0068】
(油脂高産生株の二次スクリーニング)
SG 培地を 50 mL 加えた200 mLバッフルフラスコにN5-2, N5-13, N5-15株及びコントロールとして野生株とN5株のコロニーを植菌し、 30℃、160 rpmで3日間培養した(前々培養)。前々培養液を、最終菌体濃度が3.0×106cells/mLとなるようにS7%培地を使用して調整し、500mLバッフルフラスコに200mLスケールで植菌した。その後、30℃、160rpmで24時間培養した(前培養)。前培養液を、菌体濃度が1.2×107 cells/mLになるようにS7%培地を使用して調整し、500mLバッフルフラスコに200mLスケールで植菌した。その後、30℃、120rpmで6日間培養した(本培養)。
【0069】
図14は、6日間の培養中におけるN5-2株, N5-13株及びN5-15株と、対照株の細胞濃度を示すグラフである。培養初期から生育速度に違いが見られ、N5-2株、N5-13株及びN5-15株は、N5 株よりも生育速度が低下し、最終的な細胞濃度も低くなった。培養3日目の細胞濃度は、N5 株と比較してN5-2株が0.88倍、N5-13株が0.90倍、N5-15株が0.79倍であった。
【0070】
図15は、6日間の培養中におけるN5-2株, N5-13株及びN5-15株と、対照株の平均粒子径を示すグラフである。平均粒子径は、N5-2株、N5-13株及びN5-15株全てにおいて、培養0日目の時点で既に野生株よりも大きく、N5-2株とN5-13 株は培養4日目で最大となり、N5-15 株は培養6日目まで大きくなった。培養4日目において、N5株と比較してN5-2株は約1.05倍、N5-13株は約1.06倍、N5-15株は約1.12倍大きかった。
【0071】
図16は、培養6日目における野生株(WT)、N5株、N5-2株, N5-13株及びN5-15株の顕微鏡写真を示す。
図16に示されるように、N5-2株、N5-13株及びN5-15株は、N5株よりも細胞が大きいことが確認された。また、N5-2株、N5-13株及びN5-15 株は、N5 株よりも脂肪球が大きかったことから、油脂産生能に優れていることが確認された。
【0072】
図17は、6日間の培養中におけるN5-2株、N5-13株及びN5-15株と、対照株の培地中のグルコース濃度(残グルコース濃度)を示すグラフである。
図17に示されるように、N5株、N5-2株及びN5-13株は、培養6日目に培地中のグルコースを全て資化したが、N5-15株は、他の株よりもグルコースの資化速度が速く、培養5日目~6日目の間にグルコースを全て消費していた。
【0073】
図18は、6日間の培養中におけるN5-2株,N5-13株及びN5-15株と、対照株の培地あたりのトリグリセライド(TAG)を示すグラフである。
図18に示されるように、培地あたりのトリグリセライド量は、培養4日目の時点で、N5株と比較してN5-2株は約1.11倍、N5-13株は約1.09倍、N5-15株は約1.35 倍であった。
【0074】
図19は、6日間の培養中におけるN5-2株、N5-13株及びN5-15株と、対照株の細胞あたりのトリグリセライド(TAG)を示すグラフである。
図19に示されるように、細胞あたりのトリグリセライド量は、N5株と比較してN5-2株は約1.17倍、N5-13株は約1.21倍、N5-15株は約1.82倍であった。グルコースの資化量が大きいほど、トリグリセライド産生量が多く、消費グルコースと産生トリグリセライド量の間に相関性が見られた。すなわち、グルコースの消費が最も速かったN5-15株は、トリグリセライド産生も最も速かった。
【0075】
[脂肪酸組成の分析]
N5-2株、N5-13株及びN5-15株と、野生株及びN5株の5種類の菌体について、産生された脂肪酸の組成を分析した。
【0076】
(菌体培養)
SG培地を50mL採取した200mLバッフルフラスコに、N5-2株、N5-13株及びN5-15株と、野生株及びN5株のコロニーをそれぞれ植菌し、30℃、160rpmで3日間培養した(前々培養)。前々培養液を、菌体濃度が3.0×106 cells/mLとなるようにS培地を使用して調整し、500 mLバッフルフラスコに200 mLスケールで植菌した。その後、30℃、120rpmで24時間培養した(前培養)。前培養液を、菌体濃度が1.2×107 cells/mLになるようにS7%培地を使用して調整し、500mLバッフルフラスコに200mLスケールで植菌した。その後、30℃、120rpmで4日間培養した(本培養)。
【0077】
(脂肪酸組成の分析用試料)
上述した「1.野生株からのN5株の育種」の(産生されたトリグリセライド量の測定)と同様にして、本培養液からトリグリセライド測定用試料を調製した。マルチビーズショッカー用チューブにクロロホルム125μL、メタノール250μL、及びトリグリセライド測定用試料100μLを採取し、さらにガラスビーズ(三昌研磨材株式会社、No.0.40)を 0.4 g 加えた。その後、マルチビーズショッカーを使用して菌体を破砕した(2500rpm、4℃、900秒)。
【0078】
クロロホルム125μLと滅菌精製水125μLをチューブに添加した後、マルチビーズショッカーを使用して菌体を再度破砕した(2500rpm、4℃、300秒)。チューブ内の破砕液を、Vortexミキサーを使用して混和し、新しい2mLチューブに移した。クロロホルム200μL、メタノール200μL及び滅菌精製水180μLをチューブに添加し、Vortexミキサーを使用してチューブ内を混和した。
【0079】
チューブを4℃、10000×g、5分間遠心分離した後、下層である有機層を分取して新しい2mLチューブに移した。窒素ガスを使用してチューブ内の溶媒を留去し、トリグリセライド用の脂肪酸メチル化キット(ナカライテスク株式会社)を使用し、チューブ内の脂肪酸をメチルエステル化した。キットの使用方法に従って、メチルエステル化された試料を脂肪酸組成の分析用試料とした。脂肪酸組成の分析用試料について、表7に示される条件でガスクロマトグラフィーを使用して脂肪酸組成を分析した。
【0080】
【0081】
表8は、培養4日目における5種類の株のトリグリセライドの脂肪酸組成を解析した結果を示す。N5株のパルミチン酸含有率は野生株(WT)より少し高く、ステアリン酸含有率は少し低下していた。N5株からさらに変異したN5-2株、N5-13株及びN5-15株の脂肪酸組成は、N5 株とほとんど変わらなかった。これら変異株の脂肪酸組成は、パルミチン酸とオレイン酸を主要脂肪酸としており、十分にパーム油の代替油脂として期待できる組成であった。
【0082】
【0083】
最も油脂産生能が高いことが確認されたN5-15株は、2022年12月14日に受託番号:NITE BP-03796として、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに受託されている。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は、食用又は化粧品原料等の用途に利用し得る代替パーム油の工業的製造方法として有用である。