(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141990
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】光電変換素子から材料を分離回収する方法、及び光電変換素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H10K 30/50 20230101AFI20241003BHJP
H10K 30/81 20230101ALI20241003BHJP
H10K 30/86 20230101ALI20241003BHJP
B09B 3/70 20220101ALI20241003BHJP
【FI】
H10K30/50 ZAB
H10K30/81
H10K30/86
B09B3/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053913
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100175477
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 林太郎
(72)【発明者】
【氏名】古宮 良一
【テーマコード(参考)】
4D004
5F251
【Fターム(参考)】
4D004AA23
4D004AA24
4D004AB03
4D004CA34
4D004CA41
4D004CC04
5F251AA11
5F251CB21
5F251CB30
5F251FA01
5F251FA21
5F251XA01
5F251XA55
5F251XA56
5F251XA61
(57)【要約】
【課題】光電変換素子を構成する材料を簡易に分離回収する新たな手法の提供。
【解決手段】透光性基板に透明導電膜が形成された透明導電性基板上に、第一導電層と、光吸収剤を含む発電層と、単層カーボンナノチューブを含む多孔質自立シートからなる第二導電層とがこの順に積層した光電変換素子から、材料を分離回収する方法であって、前記光電変換素子を分離用溶媒に浸漬して前記光電変換素子の一部の構成部材を溶解させることで、前記光電変換素子を分解して前記材料を回収する溶解工程を含む、方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性基板に透明導電膜が形成された透明導電性基板上に、第一導電層と、光吸収剤を含む発電層と、単層カーボンナノチューブを含む多孔質自立シートからなる第二導電層とがこの順に積層した光電変換素子から、材料を分離回収する方法であって、
前記光電変換素子を分離用溶媒に浸漬して前記光電変換素子の一部の構成部材を溶解させることで、前記光電変換素子を分解して前記材料を回収する溶解工程を含む、方法。
【請求項2】
前記第一導電層が無機材料により形成されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記溶解工程において、前記一部の構成部材として前記発電層を溶解させることで、前記光電変換素子を分解して前記材料を回収する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記材料としての前記光吸収剤を、前記光吸収剤が溶解した溶液として回収する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記材料として、前記透明導電性基板と前記第一導電層の積層体を回収する、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記材料として、前記多孔質自立シートを回収する、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
回収した前記積層体を洗浄する洗浄工程を更に含む、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
回収した前記多孔質自立シートを洗浄する洗浄工程を更に含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法を経て得られた前記材料を用いて、光電変換素子を新たに作製する再利用工程を含む、光電変換素子の製造方法。
【請求項10】
請求項4に記載の方法を経て得られた前記光吸収剤を用いて新たな発電層を形成し、光電変換素子を新たに作製する再利用工程を含む、光電変換素子の製造方法。
【請求項11】
前記再利用工程において、前記溶解工程で回収した前記光吸収剤が溶解した溶液を塗布することで新たな発電層を形成する、請求項10に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項12】
請求項5又は7に記載の方法を経て得られた前記積層体を用いて、光電変換素子を新たに作製する再利用工程を含む、光電変換素子の製造方法。
【請求項13】
請求項6又は8に記載の方法を経て得られた前記多孔質自立シートを用いて、光電変換素子を新たに作製する再利用工程を含む、光電変換素子の製造方法。
【請求項14】
前記再利用工程において、前記溶解工程又は前記洗浄工程後の前記多孔質自立シートで新たな第二導電層を構成する、請求項13に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項15】
前記再利用工程において、前記前記多孔質自立シートに含まれる前記単層カーボンナノチューブを分散媒に分散させて分散液を調製し、前記分散液を用いて単層カーボンナノチューブを含む多孔質自立シートを新たに形成し、そして、前記新たに形成した多孔質自立シートで新たな第二導電層を構成する、請求項13に記載の光電変換素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換素子から材料を分離回収する方法、及び光電変換素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、光エネルギーを電力に変換する光電変換素子が注目されている。光電変換素子としては主として太陽電池が用いられており、太陽電池には、例えばペロブスカイト化合物を発電層として用いたペロブスカイト太陽電池などの種々のタイプがある。そして、光電変換素子や太陽電池に関連した技術が、従来多く検討されている。
【0003】
例えば特許文献1では、ペロブスカイト光電変換素子廃モジュールを所定の条件下に洗浄溶液に浸漬して、ペロブスカイト光吸収体、正孔移動層、金属電極などを除去して、廃モジュールから基板を回収する手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで近年、製造コストや環境負荷低減の観点から、使用済みの光電変換素子や、工程不良で性能が低い等の理由で使用されなかった光電変換素子について、材料を回収して再利用する要望が高まっている。しかしながら、上記特許文献1の手法では基板を回収するに留まり、光電変換素子のその他の材料も簡易に回収して再利用する新たな手法が求められていた。
【0006】
そこで本発明は、光電変換素子を構成する材料を簡易に分離回収する新たな手法、及び当該手法により回収した材料を用いて光電変換素子を再生産する方法の提供を目的とする。
【0007】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして本発明者は、所定の積層構造を有する光電変換素子を分離用溶媒に浸漬させて、積層構造の一部の構成部材を分離用溶媒に溶解させることで、光電変換素子の材料を簡易に分離回収可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明によれば、以下の〔1〕~〔8〕の分離回収方法、〔9〕~〔15〕の光電変換素子の製造方法が提供される。
【0009】
〔1〕透光性基板に透明導電膜が形成された透明導電性基板上に、第一導電層と、光吸収剤を含む発電層と、単層カーボンナノチューブを含む多孔質自立シートからなる第二導電層とがこの順に積層した光電変換素子から、材料を分離回収する方法であって、前記光電変換素子を分離用溶媒に浸漬して前記光電変換素子の一部の構成部材を溶解させることで、前記光電変換素子を分解して前記材料を回収する溶解工程を含む、方法。
【0010】
なお本明細書において、「多孔質自立シート」とは、複数の細孔が形成されたシートであって、支持体がなくともシートとしての形状を保つシートを指す。そして、本発明で用いる多孔質自立シートは、例えば、膜厚が1μm~200μm、面積が1mm2~100cm2のサイズにおいて、支持体なしでシートとしての形状を保つことが好ましい。
【0011】
〔2〕前記第一導電層が無機材料により形成されている、上記〔1〕に記載の方法。
【0012】
〔3〕前記溶解工程において、前記一部の構成部材として前記発電層を溶解させることで、前記光電変換素子を分解して前記材料を回収する、上記〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
【0013】
〔4〕前記材料としての前記光吸収剤を、前記光吸収剤が溶解した溶液として回収する、上記〔3〕に記載の方法。
【0014】
〔5〕前記材料として、前記透明導電性基板と前記第一導電層の積層体を回収する、上記〔3〕又は〔4〕に記載の方法。
【0015】
〔6〕前記材料として、前記多孔質自立シートを回収する、上記〔3〕~〔5〕の何れかに記載の方法。
【0016】
〔7〕回収した前記積層体を洗浄する洗浄工程を更に含む、上記〔5〕に記載の方法。
【0017】
〔8〕回収した前記多孔質自立シートを洗浄する洗浄工程を更に含む、上記〔6〕に記載の方法。
【0018】
〔9〕上記〔1〕~〔8〕の何れかに記載の方法を経て得られた前記材料を用いて、光電変換素子を新たに作製する再利用工程を含む、光電変換素子の製造方法。
【0019】
〔10〕上記〔4〕に記載の方法を経て得られた前記光吸収剤を用いて新たな発電層を形成し、光電変換素子を新たに作製する再利用工程を含む、光電変換素子の製造方法。
【0020】
〔11〕前記再利用工程において、前記溶解工程で回収した前記光吸収剤が溶解した溶液を塗布することで新たな発電層を形成する、上記〔10〕に記載の光電変換素子の製造方法。
【0021】
〔12〕上記〔5〕又は〔7〕に記載の方法を経て得られた前記積層体を用いて、光電変換素子を新たに作製する再利用工程を含む、光電変換素子の製造方法。
【0022】
〔13〕上記〔6〕又は〔8〕に記載の方法を経て得られた前記多孔質自立シートを用いて、光電変換素子を新たに作製する再利用工程を含む、光電変換素子の製造方法。
【0023】
〔14〕前記再利用工程において、前記溶解工程又は前記洗浄工程後の前記多孔質自立シートで新たな第二導電層を構成する、上記〔13〕に記載の光電変換素子の製造方法。
【0024】
〔15〕前記再利用工程において、前記前記多孔質自立シートに含まれる前記単層カーボンナノチューブを分散媒に分散させて分散液を調製し、前記分散液を用いて単層カーボンナノチューブを含む多孔質自立シートを新たに形成し、そして、前記新たに形成した多孔質自立シートで新たな第二導電層を構成する、上記〔13〕に記載の光電変換素子の製造方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、光電変換素子を構成する材料を簡易に分離回収する新たな手法、及び当該手法により回収した材料を用いて光電変換素子を製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の分離回収方法で分解する光電変換素子の構成の一例を概略的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明の分離回収方法は、例えば、使用済みの光電変換素子や、工程不良で性能が低い等の理由で使用されなかった光電変換素子の材料を再利用する際に用いることができる。なお回収した材料の再利用先は、光電変換素子に限定されず、各種材料に応じて任意の再利用先を選定することができる。また本発明の光電変換素子の製造方法は、本発明の分離回収方法で回収した光電変換素子の材料の少なくとも一つを用いて、再度光電変換素子を製造する方法である。
【0028】
(分離回収方法)
本発明の分離回収方法は、光電変換素子を分離用溶媒に浸漬させる溶解工程を実施することで、光電変換素子を分解して材料を分離回収する方法である。
【0029】
<光電変換素子>
本発明の分離回収方法において分解する光電変換素子は、透光性基板に透明導電膜が形成された透明導電性基板上に、第一導電層と、光吸収剤を含む発電層と、単層カーボンナノチューブを含む多孔質自立シートからなる第二導電層とがこの順に積層した光電変換素子である。なお光電変換素子は、特に限定されないが、例えば、ペロブスカイト太陽電池とすることができる。
【0030】
なお、本発明の分離回収方法において分解する光電変換素子は、上述した各構成部材の順が維持された積層体の一体化物であり、かつ、第二導電層が少なくとも単層CNTを含む多孔質自立シートからなる限り、本発明による効果を損なわない範囲において、他の層などを更に備えていてもよい。
【0031】
以下、本発明の分離回収方法において分解する光電変換素子の一例を、
図1を参照して詳細に説明する。
【0032】
図1は、本発明の分離回収方法において分解する光電変換素子の一例について、その構成を概略的に示した断面図である。光電変換素子100は、透光性基板1と透明導電膜2からなる透明導電性基板3と、下地層4及び電子輸送層5からなる第一導電層6と、発電層7と、第二導電層8とをこの順に備えた積層体が一体化されてなる。そして、第二導電層8は、少なくとも単層カーボンナノチューブ(以下、「単層CNT」という。)を含む多孔質自立シートからなる。以下、光電変換素子100を構成する各構成部材について、順に説明する。
【0033】
<<透明導電性基板3>>
透明導電性基板3は、上述の通り透光性基板1と透明導電膜2とで構成される。
【0034】
〔透光性基板1〕
透光性基板1は、光電変換素子100の基体を構成する。透光性基板1としては、特に限定されず、例えば、ガラス又は合成樹脂からなる基板、合成樹脂からなるフィルムなどが挙げられる。
【0035】
透光性基板1を構成するガラスとしては、例えば、ソーダガラスなどの無機質製のガラスが挙げられる。
【0036】
また、透光性基板1を構成する合成樹脂としては、例えば、ポリアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリシクロオレフィン樹脂などが挙げられる。中でも、薄く、軽く、かつフレキシブルな光電変換素子100が得られる観点からは、合成樹脂として、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)が好ましい。
【0037】
透光性基板1の厚さは特に限定されず、基板としての形状を維持できる厚さであればよい。透光性基板1の厚さは、例えば、0.1mm以上10mm以下とすることができる。
【0038】
〔透明導電膜2〕
透明導電膜2は、透光性基板1の表面上に形成された金属酸化物からなる膜である。透明導電膜2を設けることで、透光性基板1の表面に導電性を付与することができる。
【0039】
透明導電膜2を構成する金属酸化物としては、例えば、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、酸化スズ(SnO)、酸化インジウム(In2O3)、スズドープ酸化インジウム(ITO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化インジウム/酸化亜鉛(IZO)、酸化ガリウム/酸化亜鉛(GZO)などが挙げられる。
【0040】
なお、
図1に示す光電変換素子100では、透光性基板1上の透明導電膜2は1枚であるが、透光性基板1上の透明導電膜2は2枚以上であってもよい。また、光電変換素子100が2枚以上の透明導電膜2を有する場合には、それぞれの透明導電膜は、同一の金属酸化物から構成されていてもよく、互いに異なる金属酸化物から構成されていてもよい。
【0041】
透明導電膜2の膜厚は、透光性基板1に対し所望の導電性を付与し得る膜厚であれば特に限定されず、例えば1nm以上1μm以下とすることができる。なお、透明導電膜2は、透光性基板1の表面全体に形成されていてもよく、
図1に示すように、透光性基板1の表面の一部に形成されていてもよい。
【0042】
<<第一導電層6>>
第一導電層6は、電子を輸送する機能を有する層であって、n型半導体から構成されている。なお、
図1の例では、第一導電層6は、下地層4及び電子輸送層5の2つの層から構成されているが、これに限定されず、第一導電層6は、n型半導体から構成される1つの層であってもよい。
【0043】
〔下地層4〕
下地層4は、任意に設けられる層である。下地層4を設けることで、透光性基板1や透明導電膜2が電子輸送層5に直接接触することが防止される。これにより、起電力の損失が防止されるため、光電変換素子100の光電変換効率を向上させることができる。
【0044】
下地層4は、例えば、n型半導体から構成されるものであれば、多孔質膜であってもよく、非多孔質の緻密膜であってもよいが、透光性基板1や透明導電膜2が電子輸送層5と接触するのを十分に防ぐ観点からは、下地層4は、非多孔質の緻密膜であることが好ましい。なお、下地層4の厚さは特に限定されず、例えば、1nm以上500nm以下とすることができる。また、下地層4は、任意に、n型半導体以外の絶縁体材料を、下地層4のn型半導体としての性質を損なわない割合で含んでいてもよい。
【0045】
〔電子輸送層5〕
電子輸送層5は、多孔質状の層であってもよい。第一導電層6が電子輸送層5を含むことで、光電変換素子100の光電変換効率を向上させることができる。
【0046】
電子輸送層5は、金属酸化物及び/又は有機化合物を含むことが好ましく、金属酸化物微粒子を含むことがより好ましく、金属酸化物微粒子から形成されることが更に好ましい。
【0047】
ここで、電子輸送層5を形成する金属酸化物としては、n型半導体として機能するものであれば特に限定されず、例えば、酸化チタン(TiO2)が挙げられる。
【0048】
また、電子輸送層5を形成する有機化合物としては、例えば、フェニルC61酪酸メチルエステル(PCBM)などのフラーレン誘導体が挙げられる。
【0049】
そして、電子輸送層5に用いられる金属酸化物微粒子の粒子径(一次粒子の平均粒子径)は、好ましくは2nm以上80nm以下であり、より好ましくは30nm以下である。粒子径が小さいことで、電子輸送層5の抵抗を低下させることができる。金属酸化物微粒子は、同一の粒子径のものを単独で用いても、相異なる粒子径のものを組み合わせて用いてもよい。なお、金属酸化物微粒子の平均粒子径は、電子顕微鏡を用いて無作為に選択した100個の金属酸化物微粒子の粒径を測定して求めることができる。
【0050】
電子輸送層5の厚さは、特に限定されないが、通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、通常500nm以下、好ましくは200nm以下である。電子輸送層5は、
図1に示すように、1つの層から形成されていてもよく、複数の層から形成されていてもよい。
【0051】
ここで、第一導電層6は、n型半導体としての酸化チタンなどの、無機材料からなることが好ましい。より具体的には、第一導電層6が下地層4及び電子輸送層5の2つの層から構成されている場合、下地層4及び電子輸送層5の双方が酸化チタンからなる層であることが好ましく、第一導電層6がn型半導体から構成される1つの層である場合、当該1つの層は酸化チタンからなる層であることが好ましい。
第一導電層6が無機材料のみで構成されており有機材料を実質的に含有しなければ、後述する溶解工程の際に第一導電層6に由来する有機材料が分離用溶媒に溶出することを防ぎ、発電層7を構成する光吸収剤を分離用溶媒に単独で溶出させることができる。
【0052】
<<発電層7>>
発電層7は、光吸収剤(光を吸収することにより起電力を発生させる材料)から構成される層である。ここで光吸収剤としては、特に限定されず公知ものを使用することができるが、ペロブスカイト化合物が好ましい。すなわち発電層7は、好ましくは、ペロブスカイト化合物を含む層であり、より好ましくは、ペロブスカイト化合物からなる層(ペロブスカイト層)である。
なお光吸収剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
ここで、発電層7を構成するペロブスカイト化合物としては、特に限定されず、公知のペロブスカイト化合物を用いることができる。具体的には、ペロブスカイト化合物として、例えば、CH3NH3PbI3、CH3NH3PbBr3、(CH3(CH2)nCHCH3NH3)2PbI4[n=5~8]、(C6H5C2H4NH3)2PbBr4などを用いることができる。
【0054】
発電層7の厚さは、特に限定されないが、好ましくは100nm以上、より好ましくは200nm以上であり、好ましくは1μm以下、より好ましくは800nm以下である。発電層7の厚さを100nm以上とすることで、発電層7の起電力を高めることができる。
【0055】
<<第二導電層8>>
第二導電層8は、多孔質自立シートからなる層である。ここで、多孔質自立シートは、少なくとも単層CNTを含むことを必要とし、好ましくは、単層CNTからなるシートである。なお多孔質自立シートは、単層CNTを含む複数本のCNTがシート状(膜状)に集合してなるCNTシート(「バッキーペーパー」と称されることもある。)であることが好ましい。
【0056】
多孔質自立シートからなる第二導電層8は、ホール輸送層としての機能及び集電電極としての機能を一つで果たすことができるという利点がある。また、第二導電層8は、少なくとも単層CNTを含む多孔質自立シートから構成されているため、形状が安定している。したがって、このような構成によれば、光電変換素子の大面積化を容易に実現することができる。
加えて有機半導体からなるホール輸送層や、金(Au)からなる集電電極を用いた場合では、後述する溶解工程の際に、ホール輸送層及び集電電極に由来する材料が分離用溶媒に溶出、混入してしまう。しかしながら本発明の分離回収方法で分解の対象とする光電変換素子では、ホール輸送層及び集電電極に代えて、単層CNTを含む多孔質自立シートからなる第二導電層8を採用している。そのため、ホール輸送層及び集電電極に由来する材料の分離用溶媒への溶出、混入を防いで光吸収剤を分離用溶媒に単独で溶出させることができ、その上、第二導電層8も多孔質自立シートとして、単独で回収することができる。
【0057】
〔多孔質自立シート〕
そして、多孔質自立シートに含まれる単層CNTは、以下の性状を有する単層CNTを含むことが好ましい。
【0058】
〔〔3σ/Av〕〕
多孔質自立シートに含まれる単層CNTは、平均直径(Av)に対する、直径の標準偏差(σ)に3を乗じた値(3σ)の比(3σ/Av)が、0.20超であることが好ましく、0.25超であることがより好ましく、0.50超であることが更に好ましく、0.60未満であることが好ましい。3σ/Avが0.20超0.60未満であれば、多孔質自立シートに含まれる単層CNTの量が少量であっても、第二導電層8に対し、十分なホール輸送層としての機能と、集電電極としての機能とを付与することができる。
【0059】
〔〔単層CNTの平均直径(Av)〕〕
単層CNTの平均直径(Av)は、0.5nm以上であることが好ましく、1nm以上であることがより好ましく、15nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましい。単層CNTの平均直径(Av)が0.5nm以上であれば、単層CNTの凝集を抑制して、第二導電層8中での単層CNTの分散性を高めることができる。また、単層CNTの平均直径(Av)が15nm以下であれば、第二導電層8は、集電電極としての機能を十分に発揮することができる。
【0060】
〔〔t-プロット〕〕
単層CNTは、吸着等温線から得られるt-プロットが上に凸な形状を示すことが好ましい。かかる単層CNTとしては、単層CNTの開口処理が施されていないものがより好ましい。吸着等曲線から得られるt-プロットが上に凸な形状を示す単層CNTを使用すれば、強度に優れる第二導電層8が得られる。
【0061】
なお、単層CNTのt-プロットの屈曲点は、0.2≦t(nm)≦1.5の範囲にあることが好ましく、0.45≦t(nm)≦1.5の範囲にあることがより好ましく、0.55≦t(nm)≦1.0の範囲にあることが更に好ましい。
【0062】
単層CNTの吸着等温線の測定、t-プロットの作成、及び、t-プロットの解析は、例えば、市販の測定装置である「BELSORP(登録商標)-mini」(日本ベル(株)製)を用いて行うことができる。
【0063】
上述した性状を有する単層CNTは、特に限定されず、例えば、スーパーグロース法(国際公開第2006/011655号参照)において、基材表面への触媒層の形成をウェットプロセスにより行うことで、効率的に製造することができる。ここで、スーパーグロース法とは、CNT製造用の触媒層を表面に有する基材上に、原料化合物及びキャリアガスを供給して、化学的気相成長法(CVD法)よりCNTを合成する際に、系内に微量の酸化剤(触媒賦活物質)を存在させることで、触媒層の触媒活性を飛躍的に向上させるという方法である。
中でも、膜厚の大きい多孔質自立シートが容易に得られる観点からは、単層CNTとして、スーパーグロース法を用いて得られた単層CNTを用いることが好ましい。
【0064】
さらに、多孔質自立シートは、上述した発電層7を構成する材料、又は、発電層7を構成する材料の一部を含んでいてもよい。より詳細には、多孔質自立シートは、当該多孔質自立シートの複数の細孔内部に、発電層7を構成する材料、又は、発電層を構成する材料の一部を含んでいてもよい。
【0065】
多孔質自立シート中に含まれる単層CNTの割合は、特に限定されないが、多孔質自立シート全体の質量を100質量%として、50質量%以上であることが好ましく、75質量%以上であることが好ましい。
【0066】
また、多孔質自立シート中に任意で含まれ得る単層CNT以外の材料としては、例えば、p型半導体としての有機材料や無機材料、単層CNT以外の繊維状炭素ナノ構造体が挙げられる。
【0067】
ここで、多孔質自立シート中に含まれ得る有機材料としては、例えば、2,2’,7,7’-テトラキス(N,N-ジ-p-メトキシフェニルアミノ)-9,9’-スピロビフルオレン(spiro-MeOTAD)、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)(P3HT)、ポリトリアリルアミン(PTAA)などが挙げられる。
【0068】
また、多孔質自立シートに含まれ得る無機材料としては、例えば、CuI、CuSCN、CuO,Cu2Oなどが挙げられる。
【0069】
多孔質自立シートの膜厚は通常、20μm以上であることが好ましく、30μm以上であることが好ましく、200μm以下であることが好ましく、80μm以下であることがより好ましい。多孔質自立シートの膜厚が20μm以上200μm以下であれば、第二導電層8は、より優れた集電電極としての機能を発揮することができる。
【0070】
〔〔多孔質自立シートの製造方法〕〕
多孔質自立シートの製造方法は、特に限定されず、例えば、少なくとも単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体と、分散剤と、分散媒とを含む繊維状炭素ナノ構造体分散液から分散媒を除去して、多孔質自立シートを成膜する工程(成膜工程)を含む方法を採用することができる。さらに、多孔質自立シートの製造方法は、任意に、成膜工程の前に、少なくとも単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体と、分散剤と、分散媒とを含む粗分散液を分散処理して前記繊維状炭素ナノ構造体分散液を調製する工程(分散液調製工程)を含んでいてもよい。
【0071】
-分散液調製工程-
分散液調製工程では、少なくとも単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体と、分散剤と、分散媒とを含む粗分散液を、特に限定されないが、詳しくは後述するキャビテーション効果又は解砕効果が得られる分散処理に供し、単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体を分散させて繊維状炭素ナノ構造体分散液を調製することが好ましい。このように、キャビテーション効果又は解砕効果が得られる分散処理を行うことで、単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体が良好に分散した繊維状炭素ナノ構造体分散液が得られる。そして、単層CNTが良好に分散した繊維状炭素ナノ構造体を用いて多孔質自立シートを作製すれば、単層CNTを均一に分散させて、導電性、熱伝導性及び機械的特性などの特性に優れる多孔質自立シートを得ることができる。なお、多孔質自立シートの製造に用いる繊維状炭素ナノ構造体分散液は、上記以外の公知の分散処理を用いて単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体を分散媒中に分散させることにより調製してもよい。
【0072】
繊維状炭素ナノ構造体分散液の調製に用いる繊維状炭素ナノ構造体は、少なくとも単層CNTを含むものであればよく、例えば、単層CNTと、単層CNT以外の繊維状炭素ナノ構造体(例えば、多層CNTなど)との混合物であってもよい。
【0073】
ここで、繊維状炭素ナノ構造体分散液は、単層CNTと単層CNT以外の繊維状炭素ナノ構造体との含有割合を、例えば、質量比(単層CNT/単層CNT以外の繊維状炭素ナノ構造体)で50/50~75/25とすることができる。
【0074】
繊維状炭素ナノ構造体分散液の調製に用いる分散剤は、少なくとも単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体を分散可能であり、繊維状炭素ナノ構造体分散液の調製に用いる分散媒に溶解可能であれば、特に限定されない。このような分散剤として、例えば、界面活性剤、合成高分子又は天然高分子を用いることができる。
【0075】
界面活性剤としては、ドデシルスルホン酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、コール酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。
また、合成高分子としては、例えば、ポリエーテルジオール、ポリエステルジオール、ポリカーボネートジオール、ポリビニルアルコール、部分けん化ポリビニルアルコール、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール、アセタール基変性ポリビニルアルコール、ブチラール基変性ポリビニルアルコール、シラノール基変性ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン-ビニルアルコール-酢酸ビニル共重合樹脂、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、アクリル系樹脂、エポキシ樹脂、変性エポキシ系樹脂、フェノキシ樹脂、変性フェノキシ系樹脂、フェノキシエーテル樹脂、フェノキシエステル樹脂、フッ素系樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、フェノール樹脂、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
さらに、天然高分子としては、例えば、多糖類であるデンプン、プルラン、デキストラン、デキストリン、グアーガム、キサンタンガム、アミロース、アミロペクチン、アルギン酸、アラビアガム、カラギーナン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、カードラン、キチン、キトサン、セルロース、並びに、その塩又は誘導体が挙げられる。誘導体とはエステルやエーテルなどの従来公知の化合物を意味する。
【0076】
なお分散剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体の分散性に優れることから、分散剤としては、界面活性剤が好ましく、デオキシコール酸ナトリウムなどがより好ましい。
【0077】
繊維状炭素ナノ構造体分散液の分散媒としては、特に限定されることなく、例えば、水、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、アミルアルコールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル類、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドンなどのアミド系極性有機溶媒、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼン、パラジクロロベンゼンなどの芳香族炭化水素類などが挙げられる。
なお分散媒は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0078】
そして、分散液調製工程では、例えば以下に示すキャビテーション効果又は解砕効果が得られる分散処理を行うことが好ましい。
【0079】
キャビテーション効果が得られる分散処理は、液体に高エネルギーを付与した際、分散媒に生じた真空の気泡が破裂することによる衝撃波を利用した分散方法である。この分散方法を用いることにより、単層CNTを良好に分散させることができる。
【0080】
ここで、キャビテーション効果が得られる分散処理の具体例としては、超音波による分散処理、ジェットミルによる分散処理及び高せん断撹拌による分散処理が挙げられる。これらの分散処理は一つのみを行ってもよく、複数の分散処理を組み合わせて行ってもよい。より具体的には、例えば超音波ホモジナイザー、ジェットミル及び高せん断撹拌装置が好適に用いられる。これらの装置は従来公知のものを使用すればよい。
【0081】
単層CNTの分散に超音波ホモジナイザーを用いる場合には、粗分散液に対し、超音波ホモジナイザーにより超音波を照射すればよい。照射する時間は、単層CNTの量などにより適宜設定すればよく、例えば、3分以上が好ましく、30分以上がより好ましく、また、5時間以下が好ましく、2時間以下がより好ましい。また、例えば、出力は20W以上500W以下が好ましく、100W以上500W以下がより好ましく、温度は15℃以上50℃以下が好ましい。
【0082】
また、ジェットミルを用いる場合、処理回数は、単層CNTの量などにより適宜設定すればよく、例えば、2回以上が好ましく、5回以上がより好ましく、100回以下が好ましく、50回以下がより好ましい。また、例えば、圧力は20MPa以上250MPa以下が好ましく、温度は15℃以上50℃以下が好ましい。
【0083】
さらに、高せん断撹拌を用いる場合には、粗分散液に対し、高せん断撹拌装置により撹拌およびせん断を加えればよい。旋回速度は速ければ速いほどよい。例えば、運転時間(機械が回転動作をしている時間)は3分以上4時間以下が好ましく、周速は5m/秒以上50m/秒以下が好ましく、温度は15℃以上50℃以下が好ましい。
【0084】
なお、上記したキャビテーション効果が得られる分散処理は、50℃以下の温度で行なうことがより好ましい。分散媒の揮発による濃度変化が抑制されるからである。
【0085】
解砕効果が得られる分散処理は、単層CNTを分散媒中に均一に分散できることはもちろん、上記したキャビテーション効果が得られる分散処理に比べ、気泡が消滅する際の衝撃波による単層CNTの損傷を抑制することができる点で一層有利である。
【0086】
この解砕効果が得られる分散処理では、粗分散液にせん断力を与えて単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体の凝集体を解砕・分散させ、さらに粗分散液に背圧を負荷し、また必要に応じ、粗分散液を冷却することで、気泡の発生を抑制しつつ、単層CNTを分散媒中に均一に分散させることができる。
なお、粗分散液に背圧を負荷する場合、粗分散液に負荷した背圧は、大気圧まで一気に降圧させてもよいが、多段階で降圧することが好ましい。
【0087】
-成膜工程-
成膜工程では、上述した繊維状炭素ナノ構造体分散液から分散媒を除去して、多孔質自立シートを成膜する。具体的には、成膜工程では、例えば下記(A)および(B)のいずれかの方法を用いて、繊維状炭素ナノ構造体分散液から分散媒を除去し、多孔質自立シートを成膜する。
(A)繊維状炭素ナノ構造体分散液を成膜基材上に塗布した後、塗布した繊維状炭素ナノ構造体分散液を乾燥させる方法。
(B)多孔質の成膜基材を用いて繊維状炭素ナノ構造体分散液をろ過し、得られたろ過物を乾燥させる方法。
【0088】
ここで、成膜基材としては、特に限定されることなく、既知の基材を用いることができる。
具体的には、上記方法(A)において繊維状炭素ナノ構造体分散液を塗布する成膜基材としては、樹脂基材、ガラス基材などを挙げることができる。ここで、樹脂基材としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、アラミド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ乳酸、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、脂環式アクリル樹脂、シクロオレフィン樹脂、トリアセチルセルロースなどよりなる基材を挙げることができる。また、ガラス基材としては、通常のソーダガラスよりなる基材を挙げることができる。
また、上記方法(B)において繊維状炭素ナノ構造体分散液をろ過する成膜基材としては、ろ紙や、セルロース、ニトロセルロース、アルミナ等よりなる多孔質シートを挙げることができる。
【0089】
上記方法(A)において繊維状炭素ナノ構造体分散液を成膜基材上に塗布する方法としては、公知の塗布方法を採用できる。具体的には、塗布方法としては、ディッピング法、ロールコート法、グラビアコート法、ナイフコート法、エアナイフコート法、ロールナイフコート法、ダイコート法、スクリーン印刷法、スプレーコート法、グラビアオフセット法などを用いることができる。
【0090】
上記方法(B)において成膜基材を用いて繊維状炭素ナノ構造体分散液をろ過する方法としては、公知のろ過方法を採用できる。具体的には、ろ過方法としては、自然ろ過、減圧ろ過、加圧ろ過、遠心ろ過などを用いることができる。
【0091】
上記方法(A)において成膜基材上に塗布した繊維状炭素ナノ構造体分散液または上記方法(B)において得られたろ過物を乾燥する方法としては、公知の乾燥方法を採用できる。乾燥方法としては、熱風乾燥法、真空乾燥法、熱ロール乾燥法、赤外線照射法などが挙げられる。乾燥温度は、特に限定されないが、通常、室温~200℃、乾燥時間は、特に限定されないが、通常、0.1~150分である。
【0092】
-多孔質自立シートの後処理-
ここで、上述のようにして成膜した多孔質自立シートは、通常、単層CNTや、単層CNT以外の繊維状炭素ナノ構造体、分散剤などの繊維状炭素ナノ構造体分散液に含まれていた成分を、繊維状炭素ナノ構造体分散液と同様の比率で含有している。そこで、多孔質自立シートの製造方法では、任意に、成膜工程において成膜した多孔質自立シートを洗浄して多孔質自立シートから分散剤を除去してもよい。多孔質自立シートから分散剤を除去すれば、多孔質自立シートの導電性などの特性を更に高めることができる。
【0093】
なお、多孔質自立シートの洗浄は、分散剤を溶解可能な溶媒と接触させ、多孔質自立シート中の分散剤を溶媒中に溶出させることにより行なうことができる。そして、多孔質自立シート中の分散剤を溶解可能な溶媒としては、特に限定されることなく、繊維状炭素ナノ構造体分散液の分散媒として使用し得る前述した溶媒、好ましくは繊維状炭素ナノ構造体分散液の分散媒と同じものを使用することができる。また、多孔質自立シートと溶媒との接触は、多孔質自立シートの溶媒中へ浸漬、または、溶媒の多孔質自立シートへの塗布により行なうことができる。さらに、洗浄後の多孔質自立シートは、既知の方法を用いて乾燥させることができる。
【0094】
また、多孔質自立シートを製造するにあたっては、任意に、成膜工程において成膜した多孔質自立シートをプレス加工して密度を更に高めるなど、空隙の調整を必要に応じて実施してもよい。単層CNTの損傷、又は、破壊による特性低下を抑制する観点からは、プレス加工する際のプレス圧力は3MPa未満であることが好ましく、プレス加工を行なわないことがより好ましい。
【0095】
<<光電変換素子の準備>>
本発明の分離回収方法において、分解の対象となる光電変換素子を準備する方法は、特に限定されない。当該光電変換素子は、例えば、
図1を参照して説明する以下の手順で各構成部材を準備又は形成して得ることができる。
【0096】
〔透光性基板1の準備〕
はじめに、透光性基板1を準備する。透光性基板1の種類としては、「光電変換素子」の項で挙げたものを使用することができる。
【0097】
〔透明導電膜2の形成〕
次に、透光性基板1上に透明導電膜2を形成して透明導電性基板3を得る。透明導電膜2の形成方法は、特に限定されず、例えば、スパッタ法、蒸着法などの公知の方法を採用することができる。なお、表面上に透明導電膜が形成された市販の透光性基板を用いることで、透明導電膜2の形成を省略してもよい。
【0098】
〔第一導電層6の形成〕
さらに、透明導電性基板3の透明導電膜2上に第一導電層6を形成する。第一導電層6は、透明導電膜2上に下地層4を形成し、次いで電子輸送層5を形成することで得られる。
【0099】
〔〔下地層4の形成〕〕
下地層4の形成方法は特に限定されず、例えば、n型半導体を形成する材料を含む溶液を透明導電膜2に吹き付けることによって形成することができる。ここでn型半導体を形成する材料としては、例えば、四塩化チタン(TiCl4);ペルオキソチタン酸(PTA);チタンエトキシド、チタンイソプロポキシド(TTIP)、チタンジイソプロポキシドビス(アセチルアセトナート)などのチタンアルコキシド;亜鉛アルコキシド、アルコキシシラン、錫アルコキシドなどの金属アルコキシド(チタンアルコキシドを除く);が挙げられる。n型半導体を形成する材料は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0100】
ここで、吹き付け方法としては、例えば、スプレー熱分解法、エアロゾルデポジション法、静電スプレー法、コールドスプレー法などが挙げられる。
【0101】
〔〔電子輸送層5の形成〕〕
電子輸送層5の形成方法は、特に限定されず、例えば、n型半導体の微粒子を含む溶液を下地層4の上にスピンコート法などにより塗布し、乾燥することで形成することができる。また、下地層4がn型半導体層により形成され、電子輸送層5として機能する場合は、下地層4にて第一導電層6を構成してもよい。
【0102】
ここで、n型半導体の微粒子としては、酸化チタン(TiO2)、酸化スズ(SnO2)や、2種類以上の金属原子を含む金属酸化物等、発電層のエネルギー準位に合わせて適宜選択することが出来る。n型半導体の微粒子は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0103】
さらに、下地層4上に塗布した溶液を乾燥する際の温度及び時間は、特に限定されず、用いるn型半導体の微粒子の種類や溶媒の種類などによって適宜調整すればよい。
【0104】
なお、n型半導体を形成する材料を含む溶液に用いられる溶媒、n型半導体の微粒子を含む溶液に用いられる溶媒としては、それぞれ特に限定されず、例えば、エタノールなどのアルコールを用いることができる。
【0105】
〔発電層7の形成〕
それから、第一導電層6の上に発電層7を形成する。発電層7の形成方法は、真空蒸着法や塗布法などがあるが、特に限定されない。光吸収剤としてペロブスカイト化合物を用いる場合では、例えば、ペロブスカイト化合物の前駆体を含む前駆体含有溶液を、第一導電層6の上に塗布し、焼成することで形成することができる。ここで、ペロブスカイト化合物の前駆体としては、例えば、ヨウ化鉛(PbI2)、ヨウ化メチルアンモニウム(CH3NH3I)などが挙げられる。また、前駆体含有溶液中に含まれる溶媒としては、特に限定されず、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどを用いることができる。これらの溶液を塗布した後、貧溶媒を用いてペロブスカイト化合物の析出を促進させることも可能である。本明細書において貧溶媒とは、作製工程において、ペロブスカイト化合物が実質的に変化しない溶媒をいう。作製工程において、ペロブスカイト化合物が目視観察で膜の濁りなど外観的な変質が見られなければ実質的に変化しないということができる。
【0106】
ここで、前駆体含有溶液中のペロブスカイト化合物の前駆体の濃度は、ペロブスカイト化合物を構成する材料の溶解度などにより適宜適当な濃度とすればよく、例えば、0.5M~1.5M程度とすることができる。
【0107】
また、前駆体含有溶液を第一導電層6上に塗布方法する方法としては、特に限定されず、例えば、スピンコート法、スプレー法、バーコート法などの公知の塗布方法を採用することができる。
【0108】
〔第二導電層8の形成〕
発電層7を形成後、発電層7上に第二導電層8を形成する。発電層7上に第二導電層8を形成する方法としては、特に限定されないが、光電変換素子の光電変換効率を高める観点から、発電層7及び多孔質自立シートの少なくとも一方の接合面が接合溶媒又は接合溶液を保持した状態で、多孔質自立シートを発電層7に積層することが好ましい。なお任意に、発電層7に積層された多孔質自立シートをプレスしてもよい。ここで、上述の「接合面」とは、発電層7と多孔質自立シートとが対応する側の面をいう。
【0109】
上記接合溶媒としては、例えば、クロロベンゼン、トルエン、アニソールなどの貧溶媒が挙げられる。これらの貧溶媒を用いれば、例えば発電層7がペロブスカイト化合物からなるペロブスカイト層である場合、発電層7に対し、多孔質自立シートを良好に貼り付けることができる。
【0110】
また、発電層7がペロブスカイト層である場合には、上記接合溶液として、ペロブスカイト化合物の前駆体の少なくとも一種を貧溶媒に溶解してなる溶液を用いることができる。このようにすれば、ペロブスカイト層と多孔質自立シートとの界面をより良好に形成することが可能となる。これにより、得られる光電変換素子100において、発電層7と第二導電層8との間での電荷の受け渡しを効率良く行うことができ、その結果、光電変換効率を向上させることができる。
【0111】
そして、上述した溶媒又は溶液が含浸された多孔質自立シートを用いれば、発電層7及び多孔質自立シートの少なくとも一方の接合面において、接合溶媒又は接合溶液を良好に保持することができる。
【0112】
ここで、接合溶媒又は接合溶液が含浸された多孔質自立シートは、例えば、上述した溶媒又は溶液中に多孔質自立シートを浸漬後、引き上げることで得られる。その際、浸漬時間は特に限定されず、用いる溶媒や溶液の種類などに応じて適宜設定すればよい。
【0113】
さらに、発電層7に積層された多孔質自立シートを加熱プレスすることが好ましい。これにより、一体性に優れた光電変換素子100を得ることができる。その際、加熱温度は、特に限定されず、例えば100℃程度とすることができる。また、加熱プレスする際の圧力は、特に限定されず、例えば、0.05MPaとすることができる。さらに、プレス時間は、特に限定されず、例えば30秒とすることができる。また、加熱プレスする際には、多孔質自立シートに含まれる溶媒成分の除去を促進するため、溶媒の揮発経路を確保する形でプレスすることが好ましい。具体的には、溶媒の揮発経路を確保するために、例えば、厚手のワイプ、多孔質ゴム、多孔質金属、多孔質セラミックなどの空隙を有する部材などを介して加熱プレスすることが好ましい。
【0114】
上述した手順によれば、
図1に示した光電変換素子100を効率よく製造することができる。なお、光電変換素子を準備する方法は、上述した方法に限定されない。
【0115】
<溶解工程>
本発明の分離回収方法では、上述した光電変換素子を分離用溶媒に浸漬させる溶解工程を実施する。なお光電変換素子としては、通常、使用済みのものや、工程不良で性能が低い等の理由で使用されなかったものを用いる。溶解工程では、光電変換素子を分離用溶媒に浸漬することで、光電変換素子の一部の構成部材を溶解させ、光電変換素子を分解する。
ここで、分離用溶媒により溶解する構成部材としては、既知の溶媒で溶解されうる構成部材であれば特に限定されないが、有機材料からなる構成部材を好ましく選定することができる。そして、光電変換素子において、有機材料からなる構成部材としては、光吸収剤を含む発電層や、有機化合物を含む第一導電層が挙げられるが、光吸収剤を含む発電層が好ましい。
図1を例に挙げて説明すると、発電層7を分離用溶媒に溶解させることで、透明導電性基板3と第一導電層6の積層体と、第二導電層8を構成していた多孔質自立シートとを、材料として回収することができる。また、発電層7を構成していた光吸収剤は、分離用溶媒に溶解した溶液(本明細書において、「光吸収剤が溶解した溶液」と称呼する場合がある。)の状態で、材料として回収することができる。
【0116】
<<分離用溶媒>>
分離用溶媒としては、溶解させる構成部材に応じて既知の溶媒から選択することができる。例えば発電層を溶解させる場合、光吸収剤が溶解した溶液をそのまま新たな発電層の形成に用いうる観点から、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドを好ましく挙げることができる。
なお分離用溶媒は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0117】
<<浸漬条件>>
なお浸漬条件は、光電変換素子を分解することができれば特に限定されないが、浸漬する際の分離用溶媒の温度(浸漬温度)は、例えば10℃以上80℃以下、浸漬時間は、例えば1秒以上60分以下とすることができる。なお、温度は分離用溶媒の揮発温度より低いことが好ましい。
【0118】
<洗浄工程>
本発明の分離回収方法では、上述した溶解工程を経て回収した材料を洗浄する洗浄工程を、任意に実施してもよい。
このような洗浄方法としては、特に限定されないが、例えば、透明導電性基板と第一導電層の積層体や、多孔質自立シートの洗浄は、アセトンなどの洗浄溶媒を用いた洗浄(付け置き、洗い流し、超音波洗浄)が好ましい。また洗浄溶媒を用いた洗浄の後には、乾燥により洗浄溶媒を除去することが好ましい。なおこの乾燥温度は、特に限定されないが、積層体の乾燥時には第一導電層を形成する際の処理温度以下とすることが好ましく、多孔質自立シートの乾燥時には当該シートを形成する際の処理温度以下とすることが好ましい。
【0119】
(光電変換素子の製造方法)
本発明の光電変換素子の製造方法は、上述した本発明の分離回収方法を用いて回収した材料を再利用して光電変換素子を新たに作製する再利用工程を含む。なお本発明の光電変換素子の製造方法は、必要に応じて、再利用工程以外の工程を備えていてもよい。
【0120】
<再利用工程>
再利用工程としては、例えば以下の(a)~(c):
(a)回収した光吸収剤が溶解した溶液を用いて新たな発電層を形成し、光電変換素子を新たに作製する、
(b)回収した透明導電性基板と第一導電層の積層体を用いて、光電変換素子を新たに作製する、
(c)回収した前記多孔質自立シートを用いて、光電変換素子を新たに作製する、
といった態様が考えられる。
本発明の光電変換素子の製造方法では、再利用工程において、上記(a)~(c)の何れかを実施することが好ましく、上記(a)~(c)のうち2つ以上を組み合わせて実施してもよい。換言すると、再利用の対象とする材料は、光吸収剤、透明導電性基板と第一導電層の積層体、及び多孔質自立シートからなる群から選択される少なくとも1つであることが好ましい。
以下、態様(a)~(c)について個別に説明する。
【0121】
<<態様(a)>>
光吸収剤を再利用する態様(a)では、例えば、発電層の形成において「光吸収剤の前駆体を含む前駆体含有溶液」に代えて本発明の分離回収方法で回収して光吸収剤が溶解した溶液を用いる以外は、「光電変換素子の準備」の項で上述した手順と同様にして、光電変換素子を作製することができる。なお態様(a)で用いる光吸収剤が溶解した溶液は、必要に応じてろ過、脱水、濃度調製等がされていてもよい。
【0122】
<<態様(b)>>
透明導電性基板と第一導電層の積層体を再利用する態様(b)では、例えば、当該積層体の第一導電層の上に発電層を形成する以外は、「光電変換素子の準備」の項で上述した手順と同様にして、光電変換素子を作製することができる。なお態様(b)で再利用する積層体は、上述した洗浄工程を経たものでもよい。
【0123】
<<態様(c)>>
多孔質自立シートを再利用する態様(c)としては、以下の二つ:
(c-1)回収した多孔質自立シートをそのまま第二導電層の形成に使用する、
(c-2)回収した多孔質自立シートに含まれる単層CNTを分散媒に分散させて分散液を調製し、得られた分散液を用いて単層CNTを含む多孔質自立シートを新たに形成し、得られた新たな多孔質自立シートを第二導電層の形成に使用する、
といった態様が考えられる。
態様(c-1)では、回収した多孔質自立シートを発電層の上に配置する以外は、「光電変換素子の準備」の項で上述した手順と同様にして、光電変換素子を作製することができる。なお態様(c-1)で再利用する多孔質自立シートは、上述した洗浄工程を経たものでもよいし、形状を維持しうる範囲内で乾燥等の処理を行ったものでもよい。
態様(c-2)において分散液を調製する方法、用いる分散媒、及び多孔質自立シートの形成方法は、「多孔質自立シートの製造方法」の項で上述したものと同様のものを用いることができる。そして新たに形成した多孔質自立シートを発電層の上に配置する以外は、「光電変換素子の準備」の項で上述した手順と同様にして、光電変換素子を作製することができる。
【実施例0124】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、ペロブスカイト太陽電池(以下、本実施例において「太陽電池」と略記する。)の変換効率再現率は、以下の方法を使用して測定した。
【0125】
<変換効率再現率>
分解前の太陽電池の光電変換効率E0(%)と、分解後に材料を再利用して作製した新たな太陽電池の光電変換効率E1(%)とを測定し、変換効率再現率を以下の式で算出した。
変換効率再現率(%)=E1/E0×100
変換効率再現率が高いほど、材料を再利用して作製した太陽電池が光電変換性能に優れることを示す。なお各太陽電池の光電変換効率は、以下の手順で測定した。
光源として、疑似太陽照射装置(WXS-90S-L2、AM1.5GMM、ワコム電創社製)を用いた。光源は、1sun[AM1.5G、100mW/cm2(JIS C8912のクラスA)]に調整した。太陽電池をソースメータ(6244型直流電圧・電流源、ADC社製)に接続し、以下の電流電圧特性の測定を行った。
1sunの光照射下、バイアス電圧を直列数に応じて測定範囲を選択し、電圧で変化させながら出力電流を測定した。出力電流の測定は、各電圧ステップにおいて、電圧を変化させた後、0.5秒後から0.6秒後までの値を積算することで行った。この電流電圧特性の測定結果より、光電変換効率(%)を算出した。
【0126】
(実施例1)
<分解前の太陽電池の準備>
以下の手順により、光電変換素子としての太陽電池を製造した。
<<透明導電性基板の作製>>
ガラス基板の表面に透明導電膜としてのフッ素ドープ酸化スズ(FTO)膜が製膜された導電性ガラス基板(Sigma-Aldrich社製)を準備した。この導電性ガラス基板をエッチング処理することによりFTO膜の一部を除去した。これにより、透光性基板に透明導電膜が形成された透明導電性基板を得た。
<<第一導電層の形成>>
透明導電性基板のFTO膜の表面に、チタンジイソプロポキシドビス(アセチルアセトナート)をイソプロパノールに溶解してなる溶液(Sigma-Aldrich社製)をスプレー熱分解法により吹き付けた。これにより、FTO膜上に、二酸化チタンからなる下地層(厚さ30nm)を形成した。次に、酸化チタンペースト(Sigma-Aldrich社製)をエタノールで希釈した溶液を調製し、得られた溶液を下地層の表面にスピンコート法により塗布し、温度450℃で30分間熱処理することで、二酸化チタン(TiO2)からなる電子輸送層(厚さ120nm)を形成し、第一導電層を得た。
<<発電層の形成>>
光吸収剤(ペロブスカイト化合物)の前駆体を含む前駆体含有溶液として、濃度1.0Mのヨウ化鉛(PbI2)及び濃度1.0Mのヨウ化メチルアンモニウム(CH3NH3I)を含むN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)溶液を調製した。得られた前駆体含有溶液を、クロロベンゼンを滴下しながらスピンコート法により、透明導電性基板/第一導電層の積層体における第一導電層の表面に塗布し、次いで、温度100℃で10分間焼成することで、発電層としてのペロブスカイト層(厚さ450nm)を形成した。これにより、透明導電性基板(透光性基板/透明導電膜)/第一導電層(下地層/電子輸送層)/発電層(ペロブスカイト層)を順に備えてなるプレス前積層体を得た。
<<多孔質自立シートの作製>>
以下の手順に従い、単層CNTを含む多孔質自立シートを作製した。
分散剤を含む分散媒としてのデオキシコール酸ナトリウム(DOC)2質量%水溶液500mLに、単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体としてカーボンナノチューブ(日本ゼオン社製、製品名「ZEONANO SG101」、単層CNT、平均直径:3.5nm、G/D比:2.1、未開口処理でt-プロットは上に凸)を1.0g加え、分散剤としてDOCを含有する粗分散液を得た。この粗分散液を、分散時に背圧を負荷する多段圧力制御装置(多段降圧器)を有する高圧ホモジナイザー(株式会社美粒製、製品名「BERYU SYSTEM PRO」)に充填し、100MPaの圧力で粗分散液の分散処理を行った。具体的には、背圧を負荷しつつ、粗分散液にせん断力を与えて単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体を分散させ、単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体分散液を得た。なお、分散処理は、高圧ホモジナイザーから流出した分散液を再び高圧ホモジナイザーに返送しつつ、10分間実施した。
200mLのビーカーに、作製した単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体分散液を50g加え、蒸留水を50g加えて2倍に希釈したものを作製し、メンブレンフィルターを備えた減圧ろ過装置を用いて0.09MPaの条件下においてろ過を実施した。ろ過終了後、イソプロピルアルコール及び水のそれぞれを減圧ろ過装置に通過させることで、メンブレンフィルター上に形成された炭素膜を洗浄し、その後15分間空気を通過させた。次いで、作製した炭素膜/メンブレンフィルターをエタノールに浸漬し、炭素膜をメンブレンフィルターから剥離することにより、炭素膜を得た。
得られた炭素膜は、メンブレンフィルターと同等の大きさであり優れた成膜性を有し、かつ、フィルターから剥離しても膜の状態を維持しており、優れた自立性を有していた。得られた炭素膜の膜密度を測定した結果、密度は0.85g/cm3であった。これらの結果から、炭素膜は、多孔質自立シートであることがわかった。
<<第二導電層の形成>>
上記得られた多孔質自立シートをクロロベンゼンに10秒間浸漬後、クロロベンゼンから多孔質自立シートを引き上げて、クロロベンゼンを含浸させた多孔質自立シートを得た。温度100℃のホットプレート上で加熱したプレス前積層体に、クロロベンゼンを含浸させた多孔質自立シートを積層し、得られた積層体を多孔質自立シート側から0.05Paの圧力でプレス(加熱プレス)することで、分解前の太陽電池を得た。この分解前の太陽電池について光電変換効率E0(%)を測定した。
<溶解工程及び洗浄工程>
光電変換効率E0(%)を測定した後、太陽電池を、分離用溶媒としてのN,N-ジメチルホルムアミドの中に25℃で20分浸漬し、発電層を溶解させた。この発電層の溶解により光電変換素子を分解し、透明導電性基板と第一導電層の積層体、多孔質自立シート、及び光吸収剤が溶解した溶液(再利用光吸収剤が溶解した溶液)の三つを得た。
上記で得られた積層体をアセトンで洗浄し、450℃で10分間乾燥して再利用積層体を得た。また上記で得られた多孔質自立シートをアセトンで洗浄し、100℃で真空乾燥して再利用多孔質自立シート1を得た。
<新たな太陽電池の作製(再利用工程)>
透明導電性基板/第一導電層の積層体に代えて再利用積層体を使用し、多孔質自立シートに代えて再利用多孔質自立シート1を使用した以外は、「分解前の太陽電池の準備」と同様の手順で新たに太陽電池を作製した。この新たな太陽電池について光電変換効率E1(%)を測定し、当該値と上述の光電変換効率E0(%)から変換効率再現率(%)を算出した。結果を表1に示す。
【0127】
(実施例2)
実施例1と同様に、分解前の太陽電池の準備し、溶解工程及び洗浄工程を行った。そして、多孔質自立シートに代えて再利用多孔質自立シート1を使用した以外は、実施例1の「分解前の太陽電池の準備」と同様の手順で新たに太陽電池を作製し、変換効率再現率(%)を算出した。結果を表1に示す。
【0128】
(実施例3)
実施例1と同様に、分解前の太陽電池の準備し、溶解工程及び洗浄工程を行った。そして、透明導電性基板/第一導電層の積層体に代えて再利用積層体を使用し、前駆体含有溶液に代えて再利用光吸収剤が溶解した溶液を使用した以外は、実施例1の「分解前の太陽電池の準備」と同様の手順で新たに太陽電池を作製し、変換効率再現率(%)を算出した。結果を表1に示す。
【0129】
(実施例4)
実施例1と同様に、分解前の太陽電池の準備し、溶解工程及び洗浄工程を行った。そして、前駆体含有溶液に代えて再利用光吸収剤が溶解した溶液を使用し、多孔質自立シートに代えて再利用多孔質自立シート1を使用した以外は、実施例1の「分解前の太陽電池の準備」と同様の手順で新たに太陽電池を作製し、変換効率再現率(%)を算出した。結果を表1に示す。
【0130】
(実施例5)
実施例1と同様に、分解前の太陽電池の準備し、溶解工程及び洗浄工程を行った。そして、前駆体含有溶液に代えて再利用光吸収剤が溶解した溶液を使用した以外は、実施例1の「分解前の太陽電池の準備」と同様の手順で新たに太陽電池を作製し、変換効率再現率(%)を算出した。結果を表1に示す。
【0131】
(実施例6)
実施例1と同様に、分解前の太陽電池の準備し、溶解工程及び洗浄工程を行った。そして、透明導電性基板/第一導電層の積層体に代えて再利用積層体を使用し、前駆体含有溶液に代えて再利用光吸収剤が溶解した溶液を使用し、多孔質自立シートに代えて再利用多孔質自立シート1を使用した以外は、実施例1の「分解前の太陽電池の準備」と同様の手順で新たに太陽電池を作製し、変換効率再現率(%)を算出した。結果を表1に示す。
【0132】
(実施例7)
<分解前の太陽電池の準備>
実施例1と同様にして、太陽電池を準備した。この分解前の太陽電池について光電変換効率E0(%)を測定した。
<溶解工程及び洗浄工程>
光電変換効率E0(%)を測定した後、太陽電池を、分離用溶媒としてのN,N-ジメチルホルムアミドの中に25℃で20分浸漬し、発電層を溶解させた。この発電層の溶解により光電変換素子を分解し、透明導電性基板と第一導電層の積層体、多孔質自立シート、及び光吸収剤が溶解した溶液(再利用光吸収剤が溶解した溶液)の三つを得た。
上記で得られた多孔質自立シートをアセトンで洗浄し、100℃で真空乾燥した。
<新たな太陽電池の作製(再利用工程)>
真空乾燥後の多孔質自立シートを超音波により解繊し、単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体を回収した。この繊維状炭素ナノ構造体を用い、再度実施例1の「多孔質自立シートの作製」と同様の手順で成膜し、再利用多孔質自立シート2を得た。なお再利用多孔質自立シート2の作製に際し、繊維状炭素ナノ構造体分散液の濃度を実施例1の「多孔質自立シートの作製」の同分散液における濃度と同じ値に調整するため、上記回収した繊維状炭素ナノ構造体に、別途新たに用意した繊維状炭素ナノ構造体(日本ゼオン社製、製品名「ZEONANO SG101」、単層CNT、平均直径:3.5nm、G/D比:2.1、未開口処理でt-プロットは上に凸)を補充した。
そして、透明導電性基板/第一導電層の積層体に代えて再利用積層体を使用し、多孔質自立シートに代えて再利用多孔質自立シート2を使用した以外は、「分解前の太陽電池の準備」と同様の手順で新たに太陽電池を作製した。この新たな太陽電池について光電変換効率E1(%)を測定し、当該値と上述の光電変換効率E0(%)から変換効率再現率(%)を算出した。結果を表1に示す。
【0133】
【0134】
上記実施例1~7より、再利用積層体、再利用光吸収剤、再利用多孔質自立シート1、及び再利用多孔質自立シート2の少なくとも何れかを用いて新たに作製した実施例1~7の太陽電池は、変換効率再現率が高く、分解前の太陽電池と比べて遜色のない光電変換維持率を備えることが分かる。
【0135】
(比較例1)
実施例1と同様にして作製した分解前の太陽電池について、第二導電層を構成する多孔質自立シートを物理的に剥離した。すると、多孔質自立シート内での破壊(バルク破壊)が起こり、発電層上に多孔質自立シートが一部残存した。剥離した多孔質自立シートは破れているため、実施例1で用いた再利用多孔質シート1のようにそのまま新たな太陽電池の作製に利用はできない。また発電層上に多孔質自立シートが一部残存しているため、発電層を構成する光吸収剤を回収するに際しては、多孔質自立シートに由来する繊維状炭素ナノ構造体と分離する手間も生じた。
この比較例1の結果から、多孔質自立シートの形状を維持したまま材料の分離回収が可能な本発明の分離回収方法の優位性が確認できた。
本発明によれば、光電変換素子を構成する材料を簡易に分離回収する新たな手法、及び当該手法により回収した材料を用いて光電変換素子を製造する方法を提供することができる。