IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日清製粉株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142038
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】熱処理小麦粉組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/10 20160101AFI20241003BHJP
   A23L 7/109 20160101ALI20241003BHJP
   A21D 6/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
A23L7/10 H
A23L7/109 C
A21D6/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053997
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】301049777
【氏名又は名称】日清製粉株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】若林 万由香
(72)【発明者】
【氏名】吉田 匡
(72)【発明者】
【氏名】柴本 憲幸
(72)【発明者】
【氏名】中村 健治
(72)【発明者】
【氏名】貴島 聡
【テーマコード(参考)】
4B023
4B032
4B046
【Fターム(参考)】
4B023LC05
4B023LE26
4B023LG06
4B023LK17
4B023LP07
4B023LP20
4B023LT01
4B032DB02
4B032DG02
4B032DK03
4B032DK12
4B032DK18
4B032DK43
4B032DP02
4B032DP40
4B032DP78
4B046LA01
4B046LC01
4B046LC11
4B046LG16
4B046LP01
4B046LP14
4B046LP41
4B046LP51
4B046LP69
4B046LP71
(57)【要約】
【課題】二次加工品の食感、特にレンジ加熱後の歯切れを良好とし、硬さを改善できる熱処理小麦粉組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】小麦粉を含む穀粉類100部と、70℃未満の水20~60質量部と、脂質分解酵素とを混合する工程と、混合物を加熱して前記穀粉類中の澱粉を糊化する工程とを有し、加熱をエクストルーダーで行う、熱処理小麦粉組成物の製造方法。前記穀粉類、前記水及び前記脂質分解酵素をエクストルーダーに供給して混合及び加熱するか、或いは、前記穀粉類、前記水及び前記脂質分解酵素を混合後に、混合物をエクストルーダーに供給することが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦粉を含む穀粉類100部と、70℃未満の水20~60質量部と、脂質分解酵素とを混合する工程と、混合物を加熱して、前記穀粉類中の澱粉を糊化する工程とを有し、加熱をエクストルーダーで行う、熱処理小麦粉組成物の製造方法。
【請求項2】
前記穀粉類、前記水及び前記脂質分解酵素をエクストルーダーに供給して混合及び加熱するか、或いは、前記穀粉類、前記水及び前記脂質分解酵素を混合後に、混合物をエクストルーダーに供給する、請求項1に記載の熱処理小麦粉組成物の製造方法。
【請求項3】
前記脂質分解酵素が、リパーゼ及びホスホリパーゼから選択される1種以上を含む、請求項1又は2に記載の熱処理小麦粉組成物の製造方法。
【請求項4】
前記穀粉類として、デュラム小麦粉砕物を50~100質量%含有するものを用いる、請求項1又は2に記載の熱処理小麦粉組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の製造方法で得られる熱処理小麦粉組成物と非熱処理穀粉とを混合する、ミックス組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の製造方法で得られた熱処理小麦粉組成物を原料として用いる、ベーカリー製品又は麺類の製造方法。
【請求項7】
レンジで加熱して喫食されるベーカリー製品又は麺類を製造する、請求項6に記載のベーカリー製品又は麺類の製造方法。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の製造方法で得られた熱処理小麦粉組成物。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱処理小麦粉組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱処理小麦粉により、食品の食感を改善することが知られている。特許文献1には、小麦粉を飽和水蒸気により処理した小麦粉湿熱処理物を配合することにより、電子レンジ加熱後にも食感の硬化や「引き」が抑制され、風味が損われていないベーカリー製品が得られると記載されている。特許文献2には、α化小麦粉を電子レンジ調理用生中華麺に使用する技術が記載されている。
【0003】
また酵素を食品の製造に用いることが知られている。特許文献3には、パン生地の調製時に少なくとも一部が液晶状態あるいはα結晶ゲル状態の乳化剤と、プロテアーゼ類、アミラーゼ類、保水剤から選ばれる1種又は2種以上を用いることが記載されている。
特許文献4には、小麦粉にプロテアーゼ及び水を添加混合した後、所定時間酵素反応させ、その後、品温が60~90℃になるまで処理を施し、次いで乾燥処理後粉砕処理を施すことを特徴とするシュー皮用粉体の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平07-147947号公報
【特許文献2】特開2014-87262号公報
【特許文献3】特開平05-68466号公報
【特許文献4】特開平06-007072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、二次加工品の食感、特に、電子レンジ加熱後のベーカリー製品や麺類の歯切れが低下し、硬くなることについて、更に効果的な改善が求められている。
【0006】
本発明は、小麦粉を含む穀粉類100部と、70℃未満の水20~60質量部と、脂質分解酵素とを混合する工程と、混合物を加熱して前記穀粉類中の澱粉を糊化する工程とを有し、加熱をエクストルーダーで行う、熱処理小麦粉組成物の製造方法に関する。
【0007】
また、本発明は上記製造方法で得られる熱処理小麦粉組成物と非熱処理穀粉とを混合する、ミックス組成物の製造方法に関する。
また本発明は、上記製造方法で得られた熱処理小麦粉組成物を原料として用いる、ベーカリー製品又は麺類の製造方法に関する。
また本発明は、上記製造方法で得られた熱処理小麦粉組成物に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、二次加工品の食感、特にレンジ加熱後の歯切れを良好とし、硬さを改善できる熱処理小麦粉組成物の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明する。
まず、本発明の熱処理小麦粉組成物の製造方法について説明する。本発明の熱処理小麦粉組成物の製造方法にて、二次加工食品の食感が優れたものとなる理由は明確ではないが、発明者はリパーゼの処理により分解された小麦粉内の脂質が、澱粉と複合体を形成し、これをα化した本発明の熱処理小麦粉組成物を麺やベーカリーの原料として用いることで、レンジ加熱時の食感を改善するものと考えている。
【0010】
本製造方法では熱処理小麦粉組成物の製造原料として、小麦粉を含む穀粉類を用いる。
小麦粉としては、例えば、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム小麦粉砕物等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。デュラム小麦粉砕物としては、デュラム小麦粉(平均粒径200μm以下のデュラム小麦粉砕物)、デュラムセモリナ(平均粒径200μm超のデュラム小麦粉砕物)が挙げられる。小麦粉以外の穀粉類としては、小麦粉以外の穀粉及び澱粉が挙げられる。小麦粉以外の穀粉としては、そば粉、米粉、コーンフラワー、大麦粉、モチ大麦粉、ライ麦粉、ハト麦粉、オーツ麦粉、コーンフラワー、燕麦、ひえ粉、あわ粉、ふすま粉、大豆粉等が挙げられる。
そのほかの穀粉としては、各種穀物の、ふすまや胚芽を含む全粒粉が挙げられる。
また、澱粉としては、小麦等の植物から単離された「純粋な澱粉」を指す。澱粉の具体例として、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、米澱粉、タピオカ澱粉等の未加工澱粉;未加工澱粉にα化処理以外の加工処理(例えば、架橋化処理、リン酸化処理、アセチル化処理、エーテル化処理、酸化処理)の1つ以上を施した加工澱粉が挙げられる。
【0011】
なお、本明細書において「平均粒径」とは、レーザ回折散乱式粒度分布測定装置(例えば、日機装株式会社製、「マイクロトラック粒径分布測定装置9200FRA」)を用いて乾式で測定したときの累積体積50容量%における体積累積粒径D50を指す。
【0012】
特にベーカリー製品や麺類等の二次加工品の食感に優れ、レンジ加熱後の食感(歯切れ、ヒキのなさ、ソフトな食感)が良好なものとなる観点から、熱処理小麦粉組成物の原料となる穀粉類中、小麦粉の割合が50質量%以上を占めることが好ましく、60質量%以上を占めることがより好ましく、80質量%以上を占めることが特に好ましく、90質量%以上を占めることがより好ましく、100質量%であってもよい。
【0013】
特に本発明では、原料となる穀粉類が、デュラム小麦粉砕物を含んでいると、特に、得られるベーカリー製品や麺類の食感に優れ、レンジ加熱後の食感(歯切れ、ヒキのなさ、ソフトな食感)が良好なものとなる点で好ましい。普通小麦のグルテンと比較して、デュラム小麦のグルテンは歯切れが良く、もともとレンジ加熱による過加熱に起因した食感低下に対してデュラム小麦粉砕物は小麦粉よりも耐性を有するが、本発明では、脂質分解酵素を用いた熱処理により、デュラム小麦粉砕物を用いることによる効果が顕著なものとなる。
【0014】
デュラム小麦粉砕物としては、デュラム小麦粉、デュラム小麦セモリナが挙げられる。デュラム小麦を由来とする小麦粉としては従来、デュラムセモリナ、デュラム小麦粉、デュラム全粒粉が知られている。デュラムセモリナは、デュラム小麦からふすま(表皮)及び胚芽を除いて粗挽きしたものであり、デュラム小麦粉は、デュラムセモリナを更に粉砕・粉末化したものである。デュラムセモリナとデュラム小麦粉との主な違いは粒子の大きさであり、一般に、デュラムセモリナの方がデュラム小麦粉に比べて平均粒径が大きい。デュラム全粒粉は、デュラム小麦をそのまま粉砕したもので、ふすまや胚芽を含む点で、これらを実質的に含まないデュラムセモリナ及びデュラム小麦粉と相違する。本発明では、中でも、デュラム小麦粉を含有することが、デュラムセモリナを含有する場合よりも二次加工性が良いことから好ましい。
【0015】
本発明において、原料となる小麦粉を含む穀粉類の平均粒径は好ましくは30~200μmであり、小麦粉としてデュラム小麦粉を用いる場合も同様に、30~200μmが好ましい。この粒径範囲であると、二次加工性の点で一層好ましい。
【0016】
デュラム小麦粉砕物を用いることによる上記効果を高める観点から、デュラム小麦粉砕物の含有割合は、小麦粉を含む穀粉類100質量部中25質量部以上が好ましく50質量部以上が更に好ましく、75質量部以上が特に好ましく、100質量部であってもよい。
【0017】
次に、脂質分解酵素について説明する。
本発明者は、水と、小麦粉を含む穀粉類と、脂質分解酵素とを混合した混合物を加熱処理することで、酵素により澱粉が分解され、この状態でα化処理された熱処理小麦粉組成物を原料に用いることにより、レンジ加熱しても良好な食感となることを知見した。
【0018】
脂質分解酵素としては、ホスホリパーゼ及びリパーゼが挙げられる。
ホスホリパーゼとしてはホスホリパーゼA1、ホスホリパーゼA2、ホスホリパーゼB等のリン脂質のエステル結合を加水分解する酵素や、ホスホリパーゼC、ホスホリパーゼD等のホスホジエステラーゼが知られており、リパーゼとしては、トリグリセリドのエステル結合を加水分解する各種酵素が知られている。リパーゼの油脂位置特異性としては、トリグリセリドの1,3位のエステル結合を特異的に加水分解する特異性や、トリグリセリドの2位のエステル結合を特異的に加水分解する特異性や、油脂位置特異性を有しないものが知られている。またホスホリパーゼ、リパーゼとも、加水分解対象の脂肪酸の鎖長特異性を有するものや有しないものが知られている。
【0019】
本発明では二次加工品に用いた場合の食感改善効果、特にレンジ加熱後の食感改善効果に優れることから、脂質分解酵素として、リパーゼを用いる事が好ましく、とりわけ、トリグリセリドの1,3位への油脂位置特異性を有するか、或いは短又は中鎖への脂肪酸の鎖長特異性を有するものが好ましく、トリグリセリドの1,3位への油脂位置特異性を有し、短又は中鎖への脂肪酸の鎖長特異性を有するものが特に好ましい。なお、短又は中鎖への脂肪酸の鎖長特異性とは、例えば炭素原子数12以下の脂肪酸に対し、炭素原子数18以上の脂肪酸に比して加水分解しやすい性質を指す。
【0020】
リパーゼとしては、リゾプス(Rhizopus)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ムコール(Mucor)属の微生物が生産するリパーゼを好適に使用することができる。
【0021】
例えば市販の脂質分解酵素製剤のなかでもトリグリセリドの1,3位への油脂位置特異性を有するとされるリパーゼとしては、リリパーゼA―5(ナガセケムテックス社製)、リパーゼ AS「アマノ」 (天野エンザイム株式会社)、リパーゼM「アマノ」10(天野エンザイム株式会社)等が挙げられ、トリグリセリドの1,3位への油脂位置特異性を有し、且つ、短又は中鎖への脂肪酸の鎖長特異性を有するリパーゼとしては、リリパーゼA5(ナガセケムテックス社製)、リパーゼ AS「アマノ」(天野エンザイム株式会社)等が挙げられる。
また油脂位置特異性や、鎖長特異性のないリパーゼも使用でき、例えば天野エンザイム社製リパーゼAY「アマノ」30SD等が挙げられる。
ホスホリパーゼとしてはデナベイクRICH(ナガセケムテックス社製)、PLA2ナガセ10P/R(ナガセケムテックス社製)等が知られている。
【0022】
脂質分解酵素の至適温度は20℃~55℃であることが好ましく、25~50℃であることがより好ましく、40~50℃であることが更に好ましい。
【0023】
また、脂質分解酵素に加え他の酵素を併用してもよい。例えば、脂質分解酵素と澱粉分解酵素を併用することも好ましい。
【0024】
脂質分解酵素の使用量としては、小麦粉を含む穀粉類に対し、0.0001質量%以上であることが当該酵素を用いることによる上記効果が得やすい点から好ましく、0.0005質量%以上であることがより好ましく、0.009質量%以上が特に好ましい。一方、脂質分解酵素の使用量の上限としては、小麦粉を含む穀粉類に対し、1質量%以下であることが配合量との費用対効果の点や、脂質分解によって生成される脂肪酸由来の臭いの抑制の点で好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましい。
【0025】
脂質分解酵素の好適な添加量の活性量としてはトリグリセリドの1,3位への油脂位置特異性のないリパーゼの場合は、小麦粉100gに対し、2U~25000Uであることが好ましく、20U~10000Uであることがより好ましい。
またトリグリセリドの1,3位への位置特異性のあるリパーゼの場合は、小麦粉100gに対し、100U~1000000Uであることが好ましく、1000U~500000Uであることがより好ましい。
例えばトリグリセリドの1,3位へ位置特異性のないリパーゼの活性の定義としては、天野エンザイム社製リパーゼAY「アマノ」30SDの1g2500Uを基準とすることができる。
トリグリセリドの1,3位への位置特異性のあるリパーゼの活性の定義としては、下記実施例で記載のリリパーゼA―5(ナガセケムテックス社製)の1g100000~120000Uを基準とすることができ、この範囲のいずれの力価を基準としてもよい。
【0026】
活性測定方法については本技術分野で使用される一般的な方法を採用できる。例えば、基質をパルミチン酸、エイコサペンタエン酸又はドコサヘキサエン酸を側鎖として有するトリグリセリドとしたときに、温度37℃、pH7.0で基質分解により所定時間(例えば位置特異性がないリパーゼは20分間、位置特異性があるリパーゼは60分間)に生成するパルミチン酸やエイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸の量に基づくものとすることができる。
【0027】
穀粉類、脂質分解酵素及び水を混合する。混合に用いる水の温度は70℃未満であり、60℃以下であってもよく、50℃以下であってもよく、40℃以下であってもよい。このように構成することは、酵素の失活を防ぎやすく、本発明の効果が得やすい点で好ましい。また水の温度は、3℃以上であることが好ましく、10℃以上であることがより好ましい。これらの観点から、本発明で用いる水は常温であってもよい、常温とは、通常15~35℃の範囲内である。
本明細書でいう水温とは常圧下での水温であり、エクストルーダー内で水と穀粉類及び脂質分解酵素を混合する場合には、エクストルーダーに投入する直前の水の温度である。
【0028】
本発明の熱処理小麦粉組成物の製造方法では、前記の混合処理において、小麦粉を含む穀粉類と混合する水の量が所定量である。小麦粉を含む穀粉類と混合する水の量は小麦粉を含む穀粉類100質量部に対して20質量部以上60質量部以下であることを要する。本発明では、小麦粉を含む穀粉類100質量部に対して水の量を20質量部以上にすることで澱粉の糊化度の上昇によるレンジ加熱後の食感が良好なものになるという利点があり、25質量部以上であることが好ましく、30質量部以上であることが特に好ましい。一方水の量を、60質量部以下とすることで、熱処理加工上と圧力をかけて糊化を進ませる利点があり、55質量部以下であることが好ましく、50質量部以下であることが特に好ましい。
【0029】
水と、小麦粉を含む穀粉類と、脂質分解酵素とを混合物を得る工程を混合処理ともいう。混合処理において、小麦粉を含む穀粉類と水と脂質分解酵素との混合物は均質な混合物であることを要さず、混在状態であればよい。また、本明細書において、小麦粉を含む穀粉類と水と脂質分解酵素との混合物を得るための小麦粉を含む穀粉類と水と脂質分解酵素との混合処理では、撹拌等の均質化のための操作を必須としない。しかし、小麦粉を含む穀粉類と水と脂質分解酵素の混合物を得る際における撹拌等の均質化処理は、本発明から除外されるものではなく、求められる熱処理小麦粉組成物の用途や品質等に応じて適宜行うことができる。
【0030】
また、本発明では、エクストルーダーに穀粉類、脂質分解酵素及び水を供給してエクストルーダー内で穀粉類、脂質分解酵素及び水を混合しつつ加熱してもよいが、穀粉類と、脂質分解酵素及び水を混合して混合物を得た後に、混合物をエクストルーダーに供給して加熱しつつ更に混合することが脂質分解酵素の反応時間を長くして、脂質分解酵素を用いることによる食感改善効果を優れたものにできる点で好ましい。このように、エクストルーダー内での混練は、本発明の混合工程の少なくとも一部に該当させることができる。「混練」とは、2つのスクリューの回転による混練、剪断、粉砕等を含む意味に用いる。特に、本発明では、穀粉類と、脂質分解酵素及び水を混合して混合物を得た後に、混合物をエクストルーダーに供給するまでの間に一定の時間(以下、混合物を得た後に、混合物をエクストルーダーに供給するまでの時間を「前段酵素反応時間」ともいう。)を置くことが好ましい。ここでいう前段酵素反応時間における混合物の温度は10℃以上60℃以下であることが好ましく、20℃以上55℃以下であることがより好ましい。また前段酵素反応時間は2分以上であることが好ましく、5分以上であることがより好ましく、生産性確保の観点から30分以下であることが好ましく、20分以下がより好ましい。前段酵素反応は常温で行ってもよい。
【0031】
小麦粉を含む穀粉類と水と脂質分解酵素との混合物を得る方法としては、小麦粉を含む穀粉類と脂質分解酵素を混合し、次いで水を混合する方法や、水に脂質分解酵素を添加し、次いで小麦粉を含む穀粉類を混合する方法、小麦粉を含む穀粉類と水を混合し、次いで脂質分解酵素を混合する方法、小麦粉を含む穀粉類と水と脂質分解酵素とを同時に混合する方法が挙げられる。本発明では、いずれを採用してもよい。
【0032】
次に、加熱処理する工程について説明する。
本発明に係る加熱処理は、エクストルーダーを用いて行うことに特徴がある。エクストルーダーは、例えば、一軸又は二軸のスクリューが配設された空間であるバレル、バレル内に原料を投入するためのフィーダー、バレル内で混練、剪断された試料を所望の形状で排出するため排出口を有するダイプレート等から構成されている。エクストルーダーは、所望の加熱、加圧条件下で、スクリューの回転によりスクリュー間の試料にせん断力や圧力を印加し、試料を混合しながら排出口へと連続的に押し出す。フィーダーへの原料投入は、エクストルーダーへの原料供給方法の一例である。本発明では、小麦粉を含む穀粉類と水と脂質分解酵素との混合物をエクストルーダーで加熱処理することにより、脂質分解酵素による反応が速やかに行われ、小麦粉の澱粉を複合化させることができ、二次加工品に用いたときの食感向上効果に優れる熱処理小麦粉組成物を非常に短時間で得ることができる。またエクストルーダーを用いることは高度なα化を担保する連続製造が可能な利点がある。連続的に生産可能であることから生産性の確保の観点からも一軸又は二軸型エクストルーダーを使用することは有効である。エクストルーダーとしては、一軸又は二軸型エクストルーダーが挙げられる。
【0033】
バレル内の温度はバレルのジャケットの外側に設置されたヒーターにより、所望の温度に調節することが可能であり、バレル内における試料の混練りや排出の際の温度を調整することができる。また、スクリューの回転数やダイプレートの開口面積等を調節することで、バレル内の圧力を調節することができる。バレル内の圧力は、排出口に圧力計を設定して測定される。
【0034】
エクストルーダーでの加熱工程では、小麦粉を含む穀粉類と水と脂質分解酵素をフィーダーに投入する。当該小麦粉を含む穀粉類と水と脂質分解酵素は、予め混合してフィーダーに投入しても良いし、別々に投入しバレル内で混合される形態としてもよい。このようにして小麦粉を含む穀粉類と水と脂質分解酵素の混合工程と同時又は混合工程の後に混合状態になった小麦粉を含む穀粉類と水と脂質分解酵素を加熱することができる。
【0035】
二次加工品の電子レンジ加熱後の歯切れ、ソフトな食感を一層良好とできる熱処理小麦粉組成物を得る点から、バレル内の圧力は、0.5MPa以上5.0MPa以下であることが好ましく、1.0MPa以上3.0MPa以下であることが更に好ましい。
【0036】
また、二次加工品の電子レンジ加熱後の歯切れ、ソフトな食感を一層良好とできる熱処理小麦粉組成物を得る点や熱処理加工性の点から、バレル内温度は、バレル内温度は50℃~140℃であることが好ましく、70℃~130℃であることが更に好ましい。特に、バレル内の入り口側端部では50℃~100℃であることが好ましく、70℃~90℃であることが更に好ましい。またバレル内の排出口側端部で100℃~140℃であることが好ましく、110℃~130℃であることが更に好ましい。バレル内温度とはバレルのジャケット部分の温度をいい、バレルヒーター温度ともいう。
【0037】
投入試料の滞留時間(バレル内に穀粉類、水及び脂質分解酵素が投入されてから排出口から排出されるまでの時間)は、二次加工品の電子レンジ加熱後の歯切れ、ソフトな食感を一層良好とできる熱処理小麦粉組成物を得る点や熱処理加工性、生産性の点から、5秒以上であることが好ましく8~60秒とすることがより好ましく、10~30秒とすることが更に好ましい。エクストルーダーを用いて、上述する前段酵素反応時間を特段設けない場合、小麦粉を含む穀粉類と水と脂質分解酵素の混合が開始されてからエクストルーダーの排出口から加熱された混合物が押し出されるまでの時間は、典型的には20秒以上であり、脂質分解酵素の作用が十分発揮される、
【0038】
投入試料のフィード流量は、バレル内容積、滞留時間、バレル内圧力等を考慮し適宜に調節されるものであるが、8~20kg/時間(hr)とするのが好ましく、10~15kg/hrとするのが更に好ましい。
【0039】
なお、エクストルーダーのバレル内に飽和水蒸気を導入する場合があるが、本発明において、この水蒸気は用いても用いなくてもよい。後述する各実施例では熱処理時にバレル内に飽和水蒸気を導入し、その状態で穀粉類、酵素、水を投入した。
【0040】
上記のエクストルーダーによる加熱工程により、前記穀粉類中の澱粉を糊化される。前記穀粉類中の澱粉が糊化されるとは、得られる熱処理小麦粉組成物の糊化度が60%以上であることをいう。糊化した熱処理小麦粉組成物を原料に含有させた二次加工食品の食感が優れ、二次加工食品のレンジ加熱後の食感(歯切れやソフトさ)が良好なものとなる点から上記の方法により得られた澱粉の糊化度が特に80%以上であることが好ましい。
糊化度はBAP法(β-アミラーゼ・プルラナーゼ法)で測定されるものであり、具体的には以下に示す方法により測定することができる。
【0041】
<糊化(α化)度の測定法>
(A)試薬
使用する試薬は、以下の通りである。
1.0.8M酢酸-酢酸Na緩衝液
2.10N水酸化ナトリウム溶液
3.2N酢酸溶液
4.酵素溶液:β-アミラーゼ(ナガセケムテックス株式会社、#1500S)0.017gおよびプルラナーゼ(林原生物化学研究所、No.31001)0.17gを上記0.8M酢酸-酢酸Na緩衝液に溶かして100mlとしたもの。
5.失活酵素溶液:上記酵素溶液を10分間煮沸させて調製。
6.ソモギー試薬およびネルソン試薬(還元糖量の測定用試薬)
【0042】
(B)測定方法
1.評価対象となる組成物サンプルをホモジナイザーで粉砕し、100メッシュ以下とする。この粉砕したサンプル0.08~0.10gをガラスホモジナイザーにとる。
2.これに脱塩水8.0mlを加え、ガラスホモジナイザーを10~20回上下させて分散を行う。
3.2本の25ml容目盛り付き試験管に上記2,の分散液を2mlずつとり、1本は0.8M酢酸-酢酸Na緩衝液で定容し、試験区とする。
4.他の1本には、10N水酸化ナトリウム溶液0.2mlを添加し、50℃で3~5分間反応させ、完全に糊化させる。その後、2N酢酸溶液1.0mlを添加し、pHを6.0付近に調整した後、0.8M酢酸-酢酸Na緩衝液で定容し、糊化区とする。
5.上記3.および4.で調製した試験区および糊化区の試験液をそれぞれ0.4mlとり、それぞれに酵素溶液0.1mlを加えて、40℃で30分間酵素反応させる。同時に、ブランクとして、酵素溶液の代わりに失活酵素溶液0.1mlを加えたものも調製する。酵素反応は途中で反応液を時々攪拌させながら行う。
6.上記反応済液0.5mlにソモギー試薬0.5mlを添加し、沸騰浴中で15分間煮沸する。煮沸後、流水中で5分間冷却した後、ネルソン試薬1.0mlを添加・攪拌し、15分間放置する。
7.その後、脱塩水8.00mlを加えた後、攪拌し、500nmの吸光度を測定する。
【0043】
(C)糊化度の算出
下式により糊化度を算出する。
糊化度(%)=(試験液の分解率)/(完全糊化試験液の分解率)×100
=(A-a)/(A′-a′)×100
式中、A、A′、aおよびa′は下記の通りである。
A=試験区の吸光度
A′=糊化区の吸光度
a=試験区のブランクの吸光度
a′=糊化区のブランクの吸光度
【0044】
エクストルーダーの排出口から排出された投入試料は、そのまま熱処理小麦粉組成物として用いてもよいが、通常エクストルーダーで処理した熱処理小麦粉組成物は湿潤状態であるため、その保存性や流通、製造の作業性等の点から、通常は乾燥処理に付される。流通性、加工性等の点から、乾燥後の試料を粉砕し、粉体ないしは粒状とすることが好ましい。
【0045】
流通性、加工性等の点から、乾燥時には、熱処理小麦粉組成物の水分含有量が15質量%以下になるように調製するとすることが好ましく、10質量%以下とすることが更に好ましい。製品品質、二次加工性の観点から、熱処理小麦粉組成物の水分含有量は5質量%以上であることが好ましい。水分量は、加熱乾燥法にて測定できる。
乾燥方法は特に限定されず乾燥処理としては、棚乾燥、熱風乾燥、流動層乾燥等の公知の方法によって実施できる。
乾燥の条件は、水分含有量が15質量%以下になるように、乾燥する温度によって適宜時間を調整できる。30~70℃の低温乾燥では、6~24時間の処理が例示でき、70~180℃の高温乾燥では5秒~24時間の処理が例示できる。もちろん、温度条件を変更しつつ乾燥してもよい。
【0046】
加熱処理により得られた熱処理小麦粉組成物を粉砕する場合、粉砕処理の方法は特に限定されず公知の方法を用いることができ、例えば、ロール式粉砕、衝撃式粉砕、気流式粉砕、ピンミル式粉砕等が挙げられるが、このうち、ピンミル式粉砕又は気流式粉砕を好適に使用できる。製造時の作業性や二次加工品の食感を良好なものとする観点から、熱処理小麦粉組成物は、以下の方法で測定したときに目開き200μm以下の篩下の粒度が80質量%以上となるように粒度調整されることが好ましく、90質量%以上となるように粒度調整されることがより好ましい。
500gの小麦粉に対して、目開き200μm試験用の篩を用いて60秒間手ぶるいする。試験用の篩上に残留する小麦粉の重量を測定し、500gで割算する。測定時の室温は25℃、湿度は70℃とする。粒度測定時の小麦粉の水分量は8.0質量%~15.0質量%の範囲内とする。当該水分量は加熱乾燥法で測定できる。
【0047】
本発明の熱処理小麦粉組成物の製造方法で得られた熱処理小麦粉組成物も、本発明に含まれるものである。本発明者は、本発明の熱処理小麦粉組成物の製造方法で得られた熱処理小麦粉組成物を用いることで、パンや麺等の調製に供した場合に、喫食前にレンジで加熱しても良好な食感(歯切れや硬さ)得られること見出した。しかしながら、本発明の熱処理小麦粉組成物の製造方法により得られた熱処理小麦粉組成物の物性や特性は種々のものが存在し、全てを明らかにして出願することは、物性の特定方法から開発する必要があるため長期の研究が必要であり、製品寿命の短い食品の分野において実際的には不可能である。そこで、本出願においては、本発明の熱処理小麦粉組成物の製造方法で得られた熱処理小麦粉組成物であることも、熱処理小麦粉組成物の構成として特許請求の範囲に規定することとした。以上の通り、出願時において本明細書に記載されていること以外に当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在した。
【0048】
本発明の熱処理小麦粉組成物は、ミックス組成物として使用できる。
ミックス組成物は、穀粉類100質量部中、本発明の熱処理小麦粉組成物を1~30質量部使用することが好ましく、3~20質量部使用することが更に好ましい。例えば、ミックス組成物は、本発明の製造方法で得られた熱処理小麦粉組成物に加えて、非熱処理穀粉類を含有することが好ましい。非熱処理穀粉類としては、熱処理されていない未処理の穀粉類を好ましく用いることができ、上記の熱処理小麦粉組成物の原料として挙げた穀粉類をこれらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。特に、非熱処理穀粉類として非熱処理穀粉を用いることが好ましく、非熱処理小麦粉を用いることがより好ましい。ミックス組成物が非熱処理穀粉を含む場合、熱処理小麦粉組成物の配合量は、熱処理小麦粉組成物と非熱処理穀粉の合計100質量部中、1~30質量部が好適に挙げられ、3~20質量部がより好適である。これらの数値範囲は、ミックス用組成物が、ベーカリー用ミックスである場合に好ましく該当させることができる。またミックス用組成物が、麺用ミックスである場合にも好ましく該当させることができる。
【0049】
熱処理小麦粉組成物をベーカリー製品の製造に用いる場合、好ましくはベーカリー製品を構成する穀粉類100質量部中、本発明の熱処理小麦粉組成物を1~30質量部使用することが好ましく、3~20質量部使用することが更に好ましい。ベーカリー製品の優れた食感及びレンジ加熱後の食感が特に良好なものとなるためである。穀粉類としては上述した熱処理小麦粉組成物の原料となる穀粉類と同様の物を使用できる。
【0050】
本製造方法において、ベーカリー製品は、典型的には、熱処理小麦粉組成物を含む穀粉類を用い、これに必要に応じてイーストや膨張剤、水、食塩、砂糖等の副材料を加えて得られた発酵又は非発酵生地を、焼成、蒸し、フライ等の加熱処理に供して得られる。本発明が適用可能なベーカリー製品の例としては、パン類、ピザ類;ケーキ類;和洋焼き菓子;揚げ菓子等が挙げられる。パン類としては、食パン(例えばロールパン、白パン、黒パン、フランスパン、乾パン、コッペパン、クロワッサン等)、調理パン(ハンバーガー、ホットドッグ、ホットサンド、パニーニ、焼きそばパン、その他サンドイッチ、カレーパン、ピロシキ、などが挙げられる。)、菓子パン等が挙げられる。ケーキ類としては、スポンジケーキ、バターケーキ、ロールケーキ、ホットケーキ、ブッセ、バームクーヘン、パウンドケーキ、チーズケーキ、スナックケーキ、マフィン、パンケーキ等が挙げられる。和洋の焼き菓子としては、ワッフル、シュー、ビスケット、クッキー、バー、焼き饅頭等が挙げられる。揚げ菓子としてはチュロス、ドーナツ等が挙げられる。
【0051】
熱処理小麦粉組成物を麺類に用いる場合、好ましくは穀粉類100質量部中、本発明の熱処理小麦粉組成物を1~30質量部使用することが好ましく、3~20質量部使用することが更に好ましい。麺類の優れた食感及びレンジ加熱後の食感が良好なものとなるためである。麺類は、典型的には、熱処理小麦粉組成物を含む穀粉類を用い、これに必要に応じて、水、食塩、かん水等の副材料を加えて得られた生地から麺線を製造し、必要に応じて加熱、乾燥等の処理に供して得られる。麺類としては、中華麺、うどん、そば、パスタなどが挙げられる。
【0052】
いずれも、喫食前にレンジ加熱される食品において、本発明の食感改善効果が従来技術よりもより奏される。ここでいうレンジ加熱とは、電子レンジによる加熱を言う。レンジ加熱される前の食品は、その態様として、常温保管された食品、冷蔵保管された食品、及び冷凍保管された食品のいずれであってもよい。
【0053】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、上記又は下記の実施例に記載の好ましい構成を上記又は下記に記載の別の任意の好ましい構成と組み合わせることが可能である。なお、ここでいう好ましい構成とは更に好ましい、特に好ましい等の段階を一切問わず何れの段階のものを何れの段階のものとも組み合わせ可能とする。
【実施例0054】
以下、実施例を用いて本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0055】
(比較例1)
普通小麦粉(強力小麦粉、平均粒径80μm)をそのまま比較例1の小麦粉組成物とした。
【0056】
(比較例2)
デュラム小麦粉(平均粒径75μm)をそのまま比較例2の小麦粉組成物とした。
【0057】
(実施例1~7)
(熱処理小麦粉組成物の調製)
小麦粉を含む穀粉類と脂質分解酵素と常温(20℃)の水を二軸エクストルーダーのフィーダー内に投入し、二軸エクストルーダーのバレルヒーター温度(バレル内温度)を80~120℃(80℃は入口部分の温度、120℃は排出口部分の温度)、フィード流量を12.5kg/hr、ヒーターで加熱されたバレル内の通過時間を10~20秒となる条件で、スクリューの回転により混合物を混練しながら押し出した(小麦粉と脂質分解酵素と水が混合されてから押し出されるまで約60秒)。バレル内圧力は1.7MPaであった。
脂質分解酵素としては、天野エンザイム社製リパーゼAY「アマノ」30SD(力価 2500U/g、至適温度40℃、表1にて「リパーゼ1」とも記載。)を用いた。
加熱処理後の混合物を50℃で12-24時間恒温庫で乾燥し水分量を10質量%にした後、ピンミル(ホソカワミクロン社製コロプレックス160Z)で粉砕後、熱処理小麦粉組成物を200μmの篩を通し、篩下を熱処理小麦粉組成物として回収した。
なお、比較例1及び2の糊化(α化)度はBAP法で5%以下であり、対照例1、実施例1~7の糊化(α化)度はBAP法で90%以上であった(以下の実施例8~12以降についても同様)。
【0058】
(対照例1)
対照例1として、脂質分解酵素を用いない以外は実施例1と同様に熱処理小麦粉組成物を調製した。
【0059】
〔評価及び測定〕
【0060】
(評価試験例1)
比較例1、2の非熱処理小麦粉組成物、実施例1~7の熱処理小麦粉組成物を評価対象として、下記方法によりホームベーカリー(SD-MDX102、Panasonic)を用い、食パンを焼成した。
ホームベーカリーのパンケースに常温の水を適正量入れ、強力粉(銘柄「ミリオン」、日清製粉株式会社製)を90質量部、評価対象の小麦粉組成物を10質量部、ドライイースト1.1質量部、食塩2質量部、砂糖6質量部、脱脂粉乳2質量部、ショートニング5質量部を入れて、上記ホームベーカリーの「早焼き食パン」モードにて作製した。基準として、対照例1の熱処理小麦粉組成物を用いて同様に食パンを製造した。
得られたパンを常温で24時間保管した後、電子レンジで600Wで30秒加熱して、専門パネラー10名に、歯切れと硬さを下記評価基準に基づいて評価してもらった。パネラー10名の評価点の平均を表1に示す。
【0061】
(パンの食感の評価基準:歯切れ、ヒキのなさ)
5:対照例1よりも非常に良好。
4:対照例1よりも良好。
3:対照例1よりもやや良好。
2:対照例1と同等。
1:対照例1よりも不良。
【0062】
(パンの食感の評価基準:硬さ)
5:対照例1よりも非常にソフトである。
4:対照例1よりもソフトである。
3:対照例1よりもややソフトである。
2:対照例1と同等。
1:対照例1よりも硬さを感じる。
【0063】
(評価試験例2)
比較例1、2の非熱処理小麦粉組成物、実施例1~7の熱処理小麦粉組成物を評価対象として、下記方法により麺を得た。
中力粉(銘柄「宝雲」、日清製粉株式会社製)80質量部、評価対象の組成物5質量部、加工タピオカ澱粉(「あじさい」、松谷化学株式会社製)15質量部から成る原料粉100質量部に対し、塩4質量部、水41質量部を加え、ミキシングして生地を調製した。該生地を製麺ロールで圧延及び複合して麺帯を作製し、切り刃(#10角)で切り出して麺線を製造した(麺厚3mm)。得られた麺線を、歩留りが170%程度となるように熱湯で茹で、水洗冷却した。その後、調理済み麺類を小分けして個食に包装し、急速冷凍庫(-40℃)で急速凍結させて、冷凍された調理済み麺類を得た。基準として、対照例1の熱処理小麦粉組成物を用いて同様にして調理済み麺類を得た。
-20℃で7日間保管した冷凍麺(200gの麺塊)を、電子レンジで600Wで4分加熱解凍して、専門パネラー10名に、歯切れと麺の中心部分の硬さを下記評価基準に基づいて評価してもらった。パネラー10名の評価点の平均を表1に示す。
【0064】
(麺の食感の評価基準:歯切れ、ヒキのなさ)
5:対照例1よりも非常に良好。
4:対照例1よりも良好。
3:対照例1よりもやや良好。
2:対照例1と同等。
1:対照例1よりも不良。
【0065】
(麺の食感の評価基準:麺中心部分の硬さ)
5:対照例1よりも非常にソフトである。
4:対照例1よりもソフトである。
3:対照例1よりもややソフトである。
2:対照例1と同等。
1:対照例1よりも硬さを感じる。
【0066】
【表1】
【0067】
表1に記載の通り、脂質分解酵素と70℃未満の水を小麦粉とを混合して加熱した熱処理小麦粉組成物を含む実施例1~7は、非熱処理穀粉からなる比較例1~2並びに脂質分解酵素を用いずに小麦粉を加熱処理した対照例1を用いた場合に比して、電子レンジ加熱後のパンの歯切れ、ソフトな食感が良好となることが判る。また、電子レンジで加熱解凍した後の麺の歯切れが良好で麺中心部分のソフトな食感が良好であることが判る。
【0068】
(実施例8)
(熱処理小麦粉組成物の調製)
表2に記載の脂質分解酵素の反応時間を10分追加した以外は実施例1と同様にして熱処理小麦粉組成物を得た。ここで、脂質分解酵素の反応時間を10分追加したとは、小麦粉と脂質分解酵素と水を、二軸エクストルーダーのフィーダーに投入する前に、常温で10分間静置したことをいう。
【0069】
〔評価及び測定〕
実施例8について(評価試験例1及び2)の評価を行った。結果を表2に示す。表2には、実施例1の処理内容及び評価結果も併せて示す。
【0070】
【表2】
【0071】
表2に記載の通り、常温での前段酵素反応時間のない熱処理小麦粉組成物を使用した実施例1よりも常温での前段酵素反応時間を確保して製造した熱処理小麦粉組成物を使用した実施例8の方が、電子レンジ加熱後のパンの歯切れ及びソフトな食感が良好であることが判る。また、電子レンジで加熱解凍した後の麺の歯切れ及び中心部分のソフトな食感が良好であることが判る。
【0072】
(実施例9~10)
(熱処理小麦粉組成物の調製)
表3に記載の脂質分解酵素を、表3に記載の量で用いた以外は実施例1と同様にして熱処理小麦粉組成物を得た。なお、表3の酵素のうち、リパーゼ1以外の酵素としては以下のものを用いた。
ホスホリパーゼとしては、ナガセケムテックス社製PLA2ナガセ10P/Rを用いた。
リパーゼ2としては、ナガセケムテックス社製リリパーゼA―5(力価 100000~120000U/g、至適温度50℃)を用いた。
【0073】
〔評価及び測定〕
実施例9~10の熱処理小麦粉組成物について(評価試験例1及び2)と同様の評価を行った。結果を表3に示す。
表3には、対照例1、比較例1及び実施例1の処理内容及び評価結果も併せて示す。
【0074】
【表3】
【0075】
表3に記載の通り、実施例9~10の熱処理小麦粉組成物を用いたパンや麺は、対照例1及び比較例1に比して、電子レンジ加熱後のパンの歯切れ及びソフトな食感が良好であることが判る。また、電子レンジで加熱解凍した後の麺の歯切れ及び麺中心部分のソフトな食感が良好であることが判る。
【0076】
(実施例11~12)
(熱処理小麦粉組成物の調製)
表4に記載のように二軸エクストルーダーのバレル内の圧力を変更した以外は実施例1と同様にして熱処理小麦粉組成物を得た。
【0077】
〔評価及び測定〕
実施例11~12の熱処理小麦粉組成物について(評価試験例1及び2)と同様の評価を行った。結果を表4に示す。
表4には、実施例1の評価結果も併せて示す。
【0078】
【表4】
【0079】
表4に記載の通り、熱処理小麦粉組成物を調製する際の二軸エクストルーダーのバレル内圧力を変更した場合も、電子レンジ加熱後のパンの歯切れ及びソフトな食感が良好であることが判る。また、電子レンジで加熱解凍した後の麺の歯切れ及び麺中心部分のソフトな食感が良好であることが判る。