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特開2024-142061延伸多孔フィルム、巻回体、使い捨てカイロ及び延伸多孔フィルムの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142061
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】延伸多孔フィルム、巻回体、使い捨てカイロ及び延伸多孔フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/00 20060101AFI20241003BHJP
   B29C 67/20 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C08J9/00 A CFD
B29C67/20 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054036
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】森 亮佑
(72)【発明者】
【氏名】喜多 芹奈
【テーマコード(参考)】
4F074
4F214
【Fターム(参考)】
4F074AA66
4F074AB01
4F074AB03
4F074AB05
4F074AC19
4F074AE01
4F074AE06
4F074AF03
4F074BC11
4F074CA02
4F074CA06
4F074DA08
4F074DA10
4F074DA23
4F074DA33
4F074DA45
4F074DA46
4F074DA53
4F074DA59
4F214AA25
4F214AB16A
4F214AC03
4F214AG01
4F214AG20
4F214AR12
4F214UA32
4F214UB02
4F214UC09
4F214UC28
4F214UC30
4F214UF01
4F214UG02
4F214UJ01
4F214UW02
(57)【要約】
【課題】本発明は、適度な透気度を有し、かつ通気の均等性に優れた延伸多孔フィルムを提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、ポリエステル、無機充填剤及び石油ワックスを含み、石油ワックスの含有量が20~30000ppmである、延伸多孔フィルムに関する。さらに本発明は、延伸多孔フィルムの製造方法、延伸多孔フィルムを巻回してなる巻回体、そして、延伸多孔フィルムを含む使い捨てカイロに関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル、無機充填剤及び石油ワックスを含み、
前記石油ワックスの含有量が20~30000ppmである、延伸多孔フィルム。
【請求項2】
フィルム厚み60μm換算の透気度が5000~50000sec/100ml以上である、請求項1に記載の延伸多孔フィルム。
【請求項3】
前記石油ワックスがパラフィンワックスである、請求項1に記載の延伸多孔フィルム。
【請求項4】
前記パラフィンワックスがノルマルパラフィンである、請求項3に記載の延伸多孔フィルム。
【請求項5】
前記無機充填剤の平均粒子径が0.1~10μmである、請求項1に記載の延伸多孔フィルム。
【請求項6】
前記無機充填剤が炭酸カルシウムである、請求項1に記載の延伸多孔フィルム。
【請求項7】
ポリエステルがポリブチレンアジペートテレフタレートである、請求項1に記載の延伸多孔フィルム。
【請求項8】
厚みが10~150μmである、請求項1に延伸多孔フィルム。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載した延伸多孔フィルムを巻回してなる、巻回体。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか1項に記載した延伸多孔フィルムを備えた、使い捨てカイロ。
【請求項11】
ポリエステルと、石油ワックスで被覆された無機充填剤とを混合し、樹脂組成物を得る工程と、
前記樹脂組成物をシート化してシートを得る工程と、
前記シートを延伸する工程と、を含む延伸多孔フィルムの製造方法。
【請求項12】
前記石油ワックスで被覆された無機充填剤の全質量に対する前記石油ワックスの含有量が、0.01質量%以上である、請求項11に記載の延伸多孔フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、延伸多孔フィルム、巻回体、使い捨てカイロ及び延伸多孔フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリオレフィンと無機充填剤を含有する樹脂組成物を延伸することにより、ポリオレフィンと無機充填剤との間で界面剥離を発生させ、多数のボイド(微多孔)を形成した多孔フィルムが知られている。特に、ポリオレフィンと無機充填剤を含有する樹脂組成物からなる延伸多孔フィルムは、内部の微多孔が連通孔を形成しているため、高い透気度を有しながらも、液体や粉体の透過を抑制した通気性フィルムとして利用されている。このような通気性フィルムは、例えば、使い捨てカイロ等の製造に用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、粘着性物質を繊維化して形成した多孔性粘着層を介してオレフィン系多孔質フィルムと通気性基材とを接着してなることを特徴とする多孔質包装材が開示されている。ここでは、粘着性物質を繊維化して形成した多孔性粘着層を介してオレフィン系多孔質フィルムと通気性基材とを接着して多孔質包装材を形成し、該多孔質包装材を用いて袋体を形成することで通気発熱性組成物の収容袋を提供することが検討されている。
【0004】
また、特許文献2には、空気の存在によって発熱する発熱粉末を含む複数の発熱部と、複数の発熱部に対する通気性を確保した状態で、内部に当該複数の発熱部を互いに間隔をおいて配置した積層構造と、を備えた使い捨てカイロにであって、積層構造の内部には、複数の発熱部における少なくとも2つの発熱部間を空気が流れるように繋ぐ少なくとも1つの連結部が設けられている、使い捨てカイロが開示されている。ここでは、積層構造は、通気性シートを備えており、通気性シートの材料として、ナイロン系不織布の代わりに、ポリエステル系、セルロース、綿、麻、絹、羊毛などの織布又は不織布を用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8-131472号公報
【特許文献2】特開2014-68702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、各種樹脂等を用いた通気性フィルムが開示されているが、特許文献1では、粘着性物質を線維化して体積させることで多孔性粘着層を形成することで通気性を高めており、特許文献2では、カイロに発熱部間を空気が流れるように繋ぐ少なくとも1つの連結部を設けることでセル間の温度ムラを抑制している。しかしながら、従来技術においては、樹脂フィルム自体の透気性をコントロールしたり、通気ムラを抑制することが検討されていない。
【0007】
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、適度な透気度を有し、かつ通気の均等性に優れた延伸多孔フィルムを提供することを目的として検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の具体的な態様の例を以下に示す。
【0009】
[1] ポリエステル、無機充填剤及び石油ワックスを含み、
石油ワックスの含有量が20~30000ppmである、延伸多孔フィルム。
[2] フィルム厚み60μm換算の透気度が5000~50000sec/100ml以上である、[1]に記載の延伸多孔フィルム。
[3] 石油ワックスがパラフィンワックスである、[1]又は[2]に記載の延伸多孔フィルム。
[4] パラフィンワックスがノルマルパラフィンである、[3]に記載の延伸多孔フィルム。
[5] 無機充填剤の平均粒子径が0.1~10μmである、[1]~[4]のいずれかに記載の延伸多孔フィルム。
[6] 無機充填剤が炭酸カルシウムである、[1]~[5]のいずれかに記載の延伸多孔フィルム。
[7] ポリエステルがポリブチレンアジペートテレフタレートである、[1]~[6]のいずれかに記載の延伸多孔フィルム。
[8] 厚みが10~150μmである、[1]~[7]のいずれかに記載の延伸多孔フィルム。
[9] [1]~[8]のいずれかに記載した延伸多孔フィルムを巻回してなる、巻回体。
[10] [1]~[8]のいずれかに記載した延伸多孔フィルムを備えた、使い捨てカイロ。
[11] ポリエステルと、石油ワックスで被覆された無機充填剤とを混合し、樹脂組成物を得る工程と、
樹脂組成物をシート化してシートを得る工程と、
シートを延伸する工程と、を含む延伸多孔フィルムの製造方法。
[12] 石油ワックスで被覆された無機充填剤の全質量に対する石油ワックスの含有量が、0.01質量%以上である、[11]に記載の延伸多孔フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、適度な透気度を有し、かつ通気の均等性に優れた延伸多孔フィルムを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「X~Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意も包含する。また、「X以上」(Xは任意の数字)或いは「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、「Xより大きいことが好ましい」或いは「Y未満であることが好ましい」旨の意図も包含する。なお、以下の説明において使用される「フィルム」と「シート」は明確に区別されるものではなく、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
【0012】
また、本明細書において、フィルムのMD方向とは、フィルム成形時の押出方向(或いは引き取り方向、流れ方向)であり、縦方向とも言う。一方、TD方向とは当該MD方向に直交する方向であり、横方向又は幅方向とも言う。
【0013】
(延伸多孔フィルム)
本実施形態は、ポリエステル、無機充填剤及び石油ワックスを含み、石油ワックスの含有量が20~30000ppmである、延伸多孔フィルム(以下、本延伸多孔フィルムともいう)に関する。本実施形態の延伸多孔フィルムは、多数のボイド(微多孔)を有し、このボイドが厚み方向に連通しているため、適度な透気性を発揮することができる。
【0014】
ボイド(微多孔)の孔径は0.05~0.5μmであることが好ましい。ボイド(微多孔)の孔径が上記範囲内であれば、水蒸気や空気を通しつつも、液体不透過性(防水性)のフィルムとすることができる。なお、上記孔径については、バブルポイント法(JIS K3832:1990又はASTM F316)で測定される最大孔径として評価することができ、より具体的には、パームポロメーターを用いて孔径を測定することができる。
【0015】
本延伸多孔フィルムは、一軸延伸フィルムである。本延伸多孔フィルムは、無機充填剤を含むため、製造工程において樹脂組成物を延伸することにより、ポリエステルと無機充填剤との間で界面剥離を発生させることで、上述した孔径のボイド(微多孔)を多数有するフィルムを形成することができる。
【0016】
本実施形態では、無機充填剤は、石油ワックスで被覆されたものであることが好ましく、このような無機充填剤がポリエステルと混合され、シート状に成形されることで、フィルム中には、石油ワックスが20~30000ppm含まれることになる。なお、石油ワックスは、無機充填剤(微粒子)の表面に存在していてもよく、無機充填剤から脱離した状態で存在していてもよい。無機充填剤の粒子径分布は広いため、延伸時に発生するボイドの大きさもばらつきがあることから、透気性にばらつきが生じると推測される。本実施形態では、本延伸多孔フィルムの製造工程において、石油ワックスで被覆された無機充填剤を用いることにより、極性のあるエステル結合を有するポリエステルと無機充填剤の親和性を適度に低くすることができ、その結果、無機充填剤がゆるく凝集して、粒子径分布が狭くなることで、延伸時に発生するボイドの大きさのばらつきが低減することで、透気度の変動係数が小さくなるものと推測される。
【0017】
本実施形態の延伸多孔フィルムの厚み60μm換算の透気度は、5000sec/100ml以上であることが好ましく、6000sec/100ml以上であることがより好ましく、7000sec/100ml以上であることがさらに好ましく、8000sec/100ml以上であることが一層好ましく、9000sec/100ml以上であることがより一層好ましく、10000sec/100ml以上であることが特に好ましい。また、延伸多孔フィルムの厚み60μm換算の透気度は、50000sec/100ml以下であることが好ましく、48000sec/100ml以下であることがより好ましく、45000sec/100ml以下であることがさらに好ましい。延伸多孔フィルムの透気度を上記範囲内とすることにより、例えば、本延伸多孔フィルムをカイロなどの保温用品や防寒用品などの構成シートとして用いた場合に、熱透過性を適切にコントロールしやすくなる。
【0018】
延伸多孔フィルムの透気度は、JIS P8117:2009に準拠して、透気度測定装置(旭精工製、王研式透気度測定機EGO1-55型)を用いて測定することができる。本実施形態では、フィルム厚み60μm換算の透気度について以下の式を用いて算出することできる。
60μmあたりの透気度=透気度(測定値)×60(μm)/サンプルの厚み(μm)
【0019】
また、本実施形態では、透気度の変動係数が小さく抑えられている。ここで、透気度の変動係数とは、上記の測定で得られた透気度を母集団全体として標準偏差を算出し、得られた標準偏差を透気度の平均値で除することにより算出される値である。具体的に、透気度の変動係数は、0.060以下であることが好ましく、0.055以下であることがより好ましく、0.050以下であることがさらに好ましく、0.045以下であることが一層好ましく、0.040以下であることが特に好ましい。透気度の変動係数の下限値は特に限定されるものではなく、0.000であってもよい。透気度の変動係数が上記範囲内であれば、通気ムラが生じることを抑制することができ、例えば、本延伸多孔フィルムをカイロなどの保温用品や防寒用品などの構成シートとして用いた場合に、熱透過性を均一にすることができる。
【0020】
本実施形態の延伸多孔フィルムのMD方向の引裂強度は0.5N/mm以上であることが好ましく、0.6N/mm以上であることがより好ましく、0.7N/mm以上であることがさらに好ましく、0.8N/mm以上であることが一層好ましく、0.9N/mm以上であることが特に好ましい。なお、延伸多孔フィルムのMD方向の引裂強度の上限値は特に限定されるものではないが、例えば、5N/mm以下であることが好ましい。本実施形態においては、特に延伸多孔フィルムのMD方向の引裂強度が高められている。通常、一軸延伸フィルムを作製する際には、MD方向(縦方向)に延伸がなされるため、特にMD方向の引裂強度が低下する傾向が見られる。しかしながら、本実施形態においては、延伸多孔フィルムを構成する樹脂としてポリエステルを用い、さらに、ポリエステルと石油ワックスで被覆された無機充填剤を混合しているため、引裂強度が低下の傾向が顕著に見られるMD方向の引裂強度を効果的に高めることができる。
【0021】
また、本実施形態の延伸多孔フィルムのTD方向の引裂強度は5.0N/mm以上であることが好ましく、7.0N/mm以上であることがより好ましく、9.0N/mm以上であることがさらに好ましい。なお、延伸多孔フィルムのTD方向の引裂強度の上限値は特に限定されるものではないが、例えば、30N/mm以下であることが好ましい。本実施形態においては、ポリエステルと石油ワックスで被覆された無機充填剤を混合しているため、TD方向(横方向)の引裂強度も高められている。延伸多孔フィルムの引裂強度を高めることで、フィルムの製膜時や印刷時の破断を抑制することができ、、延伸多孔フィルムを使い捨てカイロ等の構成部材に用いた場合の強度も十分となる。なお、本延伸多孔フィルムの引裂強度は、JIS K7128-1:1998に準拠し測定方向に長さ100mm、幅25mmに切り出したサンプルを作製し、幅中央に25mmの切り込みを入れ、引張試験機を用いて、23℃、相対湿度50%の環境下で、引張速度200m/min、チャック間距離25mmの条件で測定される。
【0022】
本延伸多孔フィルムのTD方向の破断伸度は50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上であることがさらに好ましく、80%以上であることが一層好ましく、90%以上であることがより一層好ましく、100%以上であることが特に好ましい。また、本延伸多孔フィルムのTD方向の破断伸度は800%以下であることが好ましい。
【0023】
本延伸多孔フィルムのMD方向の破断伸度は30%以上であることが好ましく、33%以上であることがより好ましく、35%以上であることがさらに好ましい。また、本延伸多孔フィルムのMD方向の破断伸度は200%以下であることが好ましい。なお、本延伸多孔フィルムの破断伸度はJIS K7127:1999に準拠し、測定方向に長さ100mm、幅10mmに切り出したサンプルを作製し、引張試験機を用いて、23℃、相対湿度50%の環境下で、引張速度200m/min、チャック間距離20mmの条件で測定される。
【0024】
本実施形態においては、TD方向の破断伸度がMD方向の破断伸度がよりも大きいことが好ましい。一般的なポリオレフィン系樹脂やポリ乳酸系樹脂を用いた延伸多孔フィルムにおいては、MD方向の破断伸度の方がTD方向の破断伸度よりも大きいことが通常であるが、本実施形態においては、TD方向の破断伸度がより高められ、TD方向の破断伸度がMD方向の破断伸度がよりも大きくなっていることが好ましい。
【0025】
ここで、TD方向の破断伸度をPとし、MD方向の破断伸度をQとした場合、P/Qの値は1.2以上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましく、1.8以上であることがさらに好ましく、1.9以上であることが特に好ましい。また、P/Qの値は20以下であることが好ましく、18以下であることがより好ましく、15以下であることがさらに好ましい。P/Qの値を上記範囲内とすることにより、延伸多孔フィルムの透気性をより効果的に高めることができる。
【0026】
本延伸多孔フィルムのMD方向の引張強度は、10.0MPa以上であることが好ましく、12.0MPa以上であることがより好ましく、14.0MPa以上であることがさらに好ましい。また、本延伸多孔フィルムのMD方向の引張強度は、50MPa以下であることが好ましく、48MPa以下であることがより好ましく、45MPa以下であることがさらに好ましい。
【0027】
本延伸多孔フィルムのTD方向の引張強度は、1.0MPa以上であることが好ましく、1.2MPa以上であることがより好ましく、1.4MPa以上であることがさらに好ましい。また、本延伸多孔フィルムのTD方向の引張強度は、10MPa以下であることが好ましく、8MPa以下であることがより好ましく、7MPa以下であることがさらに好ましい。なお、本延伸多孔フィルムの引張強度は、JIS K7127:1999に準拠し、測定方向に長さ100mm、幅10mmに切り出したサンプルを作製し、引張試験機を用いて、23℃、相対湿度50%の環境下で、引張速度200m/min、チャック間距離20mmの条件で測定される。
【0028】
本延伸多孔フィルムの厚みは、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、15μm以上であることがさらに好ましい。また、本延伸多孔フィルムの厚みは、300μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましく、150μm以下であることがさらに好ましい。本延伸多孔フィルムの厚みを上記範囲内とすることにより、フィルムの薄膜化を可能としつつも、透気度と機械的強度のバランスを保つことができる。
【0029】
本実施形態は、延伸多孔フィルムを巻回してなる巻回体に関するものであってもよい。本延伸多孔フィルムは適度な強度と柔軟性を有するため、ロール状体として、保管したり、流通させたりすることができる。
【0030】
(ポリエステル)
本延伸多孔フィルムはポリエステルを含む。ポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート共重合体、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンアジペートテレフタレート、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリエチレンアジペートテレフタレート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートカーボネート、ポリブチレンサクシネートテレフタレート、ポリプロピレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンサクシネートテレフタレート、ポリブチレンサクシネートアジペートテレフタレート、ポリブチレンサクシネートラクテート、ポリブチレンサクシネートヒドロキシカプロエート、ポリブチレンサクシネートカルボネート、ポリテトラメチレンアジペートテレフタレート、ポリテトラメチレンサクシネート;ポリヒドロキシブチレート、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)、ポリヒドロキシブチレートバリレート、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシバリレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシプロピオネート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-4-ヒドロキシブチレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシアシル)、ポリヒドロキシアシル等のポリヒドロキシアルカノエート;ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸-グリコール酸共重合体、ポリカプロラクトン、ポリカプロラクトンブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペートカプロラクトン、ポリプロピオラクトンとこれらの塩や誘導体、ポリエステルエラストマー等が挙げられる。中でも、ポリエステルは、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリプロピレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート及びポリブチレンアジペートテレフタレートよりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、ポリエステルはポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)であることが特に好ましい。
【0031】
ポリブチレンアジペートテレフタレートは、生分解性樹脂であり、熱可塑性樹脂であることが好ましい。本延伸多孔フィルムが構成樹脂としてポリブチレンアジペートテレフタレートを含む場合、本延伸多孔フィルムは生分解性に優れている。本明細書において、生分解性とは、微生物などの生物の作用によりフィルムが分解される性質をいう。
【0032】
ポリブチレンアジペートテレフタレートは、アジピン酸と、テレフタル酸と、ブタンジオールとの共重合体である。アジピン酸、テレフタル酸及びブタンジオールは、同時に共重合させてもよく、多段階的に共重合させてもよい。
【0033】
ポリブチレンアジペートテレフタレートを合成する際には、アジピン酸、テレフタル酸、ブタンジオールの他に、微量の他の共重合成分を加えてもよい。他の共重合成分として、テレフタル酸とアジピン酸以外の他のジカルボン酸や、鎖延長や末端封鎖等を目的とした改質剤等が挙げられる。これらは単独で、または2種類以上組み合わせて用いてもよい。他のジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸等が挙げられる。これらは単独で、または2種類以上組み合わせて用いてもよい。改質剤としては、例えば、ポリイソシアネート化合物、グリコール化合物等が挙げられる。ポリイソシアネート化合物として、ジイソシアネート化合物が挙げられ、ジイソシアネート化合物としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,5-ナフチレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、カルボジイミド変性MDI、ポリメチレンフェニルポリイソシアネート等が挙げられる。グリコール化合物としては、ブタンジオール以外の他のジオール、ポリアルキレングリコールが挙げられる。他のジオールとしては、メタンジオール、エタンジオール、プロパンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール等が挙げられる。ポリアルキレングリコールとしては、ポリメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール(ポリテトラメチレングリコール)等が挙げられる。これらは単独で、または2種類以上組み合わせて用いてもよい。
【0034】
ポリブチレンアジペートテレフタレートを構成するジカルボン酸に由来する構成単位100mol%中、テレフタル酸に由来する構成単位は40~60mol%含まれることが好ましく、アジピン酸に由来する構成単位は40~60mol%含まれることが好ましい。ポリブチレンアジペートテレフタレートを構成するジカルボン酸に由来する構成単位のうち、テレフタル酸に由来する構成単位とアジピン酸に由来する構成単位が占める割合を上記範囲内とすることにより、機械的強度、生分解性及び柔軟性のバランスが良好なフィルムが得られやすくなる。
【0035】
ポリブチレンアジペートテレフタレートの融点は、105℃以上であることが好ましく、108℃以上であることがより好ましく、110℃以上であることがさらに好ましい。また、ポリブチレンアジペートテレフタレートの融点は、130℃以下であることが好ましく、128℃以下であることがより好ましく、125℃以下であることがさらに好ましい。ポリブチレンアジペートテレフタレートの融点は、JIS K 7121(2012)に準拠して、DSC等で測定される。ポリブチレンアジペートテレフタレートの融点を上記範囲内とすることより、耐熱性と成形性のバランスが良好なフィルムが得られやすくなる。
【0036】
ポリブチレンアジペートテレフタレートとしては、日本バイオプラスチック協会のグリーンプラ(生分解性プラスチック)の分類番号A-1のポジティブリストに記載された生分解性合成高分子化合物が挙げられる。市販品としては、例えば、BASF社製のF Blend C1200、台湾長春社製のECO-A05等が挙げられる。
【0037】
ポリエステルの重量平均分子量(Mw)は、50000以上であることが好ましく、70000以上であることがより好ましく、100000以上であることがさらに好ましい。また、ポリエステルの重量平均分子量(Mw)は、400000以下であることが好ましく、350000以下であることがより好ましく、300000以下であることがさらに好ましい。重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)等で求めることができる。ポリエステルの重量平均分子量(Mw)を上記範囲内とすることにより、押出成形性や機械的強度のバランスが良好なフィルムが得られやすくなる。
【0038】
ポリエステルの分子量分布(Mw/Mn)は1.5以上であることが好ましく、1.7以上であることがより好ましく、1.9以上であることがさらに好ましい。また、ポリエステルの分子量分布(Mw/Mn)は5.0以下であることが好ましく、4.5以下であることがより好ましく、4.0以下であることがさらに好ましい。ポリエステルの分子量分布(Mw/Mn)を上記範囲内とすることにより、製膜性、フィルムの剛性及び耐衝撃性のバランスが良好なフィルムが得られやすくなる。
【0039】
本延伸多孔フィルム中のポリエステルの含有量は、延伸多孔フィルムの全質量に対して、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましい。また、ポリエステルの含有量は、延伸多孔フィルムの全質量に対して、80質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましく、60質量%以下であることがさらに好ましい。延伸多孔フィルム中のポリエステルの含有量を上記範囲内とすることにより、延伸多孔フィルムの透気度を適切な範囲にコントロールしやすくなり、さらに通気の均等性をより効果的に高めることができる。
【0040】
(無機充填剤/石油ワックス)
本延伸多孔フィルムは、無機充填剤を含む。無機充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウムなどの各種炭酸塩、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウムなどの各種硫酸塩、酸化亜鉛、酸化ケイ素(シリカ)、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化鉄、アルミナなどの各種酸化物、その他、水酸化アルミニウムなどの水酸化物、珪酸塩鉱物、ヒドロキシアパタイト、マイカ、タルク、カオリン、クレー、モンモリロナイト、ゼオライトなどの各種複合酸化物、リン酸リチウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウムなどの各種リン酸塩、塩化リチウム、フッ化リチウムなどの各種塩などを挙げることができる。中でも、無機充填剤は、透気性や強度等の観点から、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、酸化ケイ素(シリカ)及び酸化チタンよりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、炭酸カルシウム及び硫酸バリウムよりなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、炭酸カルシウムであることが特に好ましい。
【0041】
無機充填剤の平均粒子径は0.1μm以上であることが好ましく、0.3μm以上であることがより好ましく、0.5μm以上であることがさらに好ましい。また、無機充填剤の平均粒子径は10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましく、3μm以下であることがさらに好ましい。無機充填剤の平均粒子径を上記下限値以上とすることにより、無機充填剤の分散不良や二次凝集が抑制され、延伸多孔フィルムを構成する樹脂組成物中に均一に分散させることができるため好ましい。平均粒子径が上記上限値以下であれば、フィルムの薄膜化の際に大きなボイドの発生を抑制することができ、フィルムに十分な強度と耐水性を持たせることができる。
【0042】
無機充填剤の平均粒子径は、恒圧式透過法により、島津式粉体比表面積測定器SS-100を用いて測定した比表面積から算出する。測定条件は、試料重量を3.0g、試料厚を1.35cm、試料層の断面積を2cm、空気圧力を50cmHOとし、空気の粘性係数を181×10-6g/(cm・sec)として平均粒子径を算出する。
【0043】
無機充填剤には表面処理が施されていることが好ましく、無機充填剤は、石油ワックスで被覆されたものであることが好ましい。石油ワックスは、石油中に存在する常温で固体の炭化水素であり、直鎖、分枝鎖又は環式の脂肪族飽和炭化水素から構成される。石油ワックスとしては、例えば、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム等が挙げられる。これらのワックスは単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、石油ワックスは、パラフィンワックスであることが好ましく、パラフィンワックスは直鎖状飽和炭化水素であるノルマルパラフィンであることが特に好ましい。なお、石油ワックスには、ノルマルパラフィンに加えて、他の石油ワックスが含まれていてもよい。
【0044】
ノルマルパラフィンの平均炭素数は10以上であることが好ましく、15以上であることがより好ましく、20以上であることがさらに好ましい。また、ノルマルパラフィンの平均炭素数は50以下であることが好ましく、40以下であることがさらに好ましい。
【0045】
また、ノルマルパラフィンの分子量は、100以上であることが好ましく、150以上であることがより好ましく、200以上であることがさらに好ましい。また、ノルマルパラフィンの分子量は、1000以下であることが好ましく、900以下であることがより好ましく、800以下であることがさらに好ましい。
【0046】
このように、石油ワックスで被覆された無機充填剤がポリエステルと混合され、シート状に成形されることで、フィルム中には、石油ワックスが20~30000ppm含まれることになる。なお、石油ワックスは、無機充填剤(微粒子)の表面に存在していてもよく、無機充填剤から脱離した状態で存在していてもよい。
【0047】
石油ワックスは、無機充填剤の表面を被覆するものであるため、表面処理剤やコーティング剤と呼ぶこともできる。すなわち、本実施形態の延伸多孔フィルム中には、無機充填剤の表面処理剤や表面処理剤に由来する化合物が20~30000ppm含まれることが好ましい。
【0048】
石油ワックスの含有量は、延伸多孔フィルムの全質量に対して、20ppm以上であることが好ましく、30ppm以上であることがより好ましく、40ppm以上であることがさらに好ましく、50ppm以上であることが特に好ましい。また、石油ワックスの含有量は、延伸多孔フィルムの全質量に対して、30000ppm以下であることが好ましく、25000ppm以下であることがより好ましく、20000ppm以下であることがさらに好ましく、15000ppm以下であることが一層好ましく、10000ppm以下であることが特に好ましい。延伸多孔フィルム中における石油ワックスの含有量を上記範囲内とすることにより、無機充填剤が適度に凝集することで、その結果、延伸多孔フィルムの透気度を適切な範囲にコントロールしやすくなり、さらに通気の均等性をより効果的に高めることができる。
【0049】
石油ワックスの含有量(無機充填剤中において石油ワックスが占める割合)は、石油ワックスで被覆された無機充填剤の全質量に対して、0.01質量%以上であることが好ましく、0.015質量%以上であることがより好ましく、0.02質量%以上であることがさらに好ましい。石油ワックスの含有量は、石油ワックスで被覆された無機充填剤の全質量に対して、10質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。無機充填剤における石油ワックスの含有量を上記範囲内とすることにより、無機充填剤が適度に凝集することで、その結果、延伸多孔フィルムの透気度を適切な範囲にコントロールしやすくなり、さらに通気の均等性をより効果的に高めることができる。
【0050】
本延伸多孔フィルム中の無機充填剤の含有量は、延伸多孔フィルムの全質量に対して、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましい。また、無機充填剤の含有量は、延伸多孔フィルムの全質量に対して、80質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましく、60質量%以下であることがさらに好ましい。延伸多孔フィルム中の無機充填剤の含有量を上記範囲内とすることにより、延伸多孔フィルムの透気度を適切な範囲にコントロールしやすくなり、さらに通気の均等性をより効果的に高めることができる。
【0051】
無機充填剤としては、上記の無機充填剤の1種のみを用いてもよく、材質や平均粒子径、表面処理剤の種類などが異なるものを2種以上混合して用いてもよい。無機充填剤が2種類以上で構成される場合、その合計が上記範囲内であることが好ましい。
【0052】
(他の樹脂)
本延伸多孔フィルムは、ポリエステル以外に他の樹脂を含んでいてもよい。他の樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、塩素化ポリエチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、エチレン・ビニルアルコール系共重合体、エチレン・酢酸ビニル系共重合体、ポリメチルペンテン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、環状オレフィン系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリエチレンオキサイド系樹脂、セルロース系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、ポリブテン系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアミドビスマレイミド系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリケトン系樹脂、ポリサルフォン系樹脂、アラミド系樹脂、フッ素系樹脂、ポリアセタール系樹脂等が挙げられる。また、他の樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリエチレングリコールなどの生分解性樹脂を用いてもよい。これら他の樹脂は、1種又は2種以上を使用することができる。
【0053】
本延伸多孔フィルムにポリエステル以外に他の樹脂が含まれる場合、他の樹脂の含有量は、延伸多孔フィルムの全質量に対して、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることがさらに好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。
【0054】
(任意成分)
本延伸多孔フィルムは、任意成分として各種添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、可塑剤、滑剤、相容化剤、加工助剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、艶消し剤、抗菌剤、消臭剤、帯電防止剤、難燃剤、着色剤、顔料等を挙げることができる。可塑剤としては、例えば、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、金属石鹸、高級アルコール、ワセリン、パラフィンワックス、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ひまし油、水添ひまし油、硬化ひまし油、脱水ひまし油、芳香族エステル、芳香族アミド、ポリエール、ポリエステルなどの低分子量ポリマー(オリゴマー)を用いることができる。添加剤の含有量は延伸多孔フィルムの全質量に対して、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。なお、本実施形態では、可塑剤の添加量が1質量%以下であってもよく、0.1質量%以下であってもよく、可塑剤が実質的に含まれていなくてもよい。とりわけポリエステルとしてポリブチレンアジペートテレフタレートを用いた場合には、本延伸多孔フィルムは、可塑剤を含まなくても、高い柔軟性を発揮することができる。
【0055】
(本延伸多孔フィルムの製造方法)
本延伸多孔フィルムの製造方法は、例えば、ポリエステルと、石油ワックスで被覆された無機充填剤とを混合し、樹脂組成物を得る工程と、樹脂組成物をシート化してシートを得る工程と、シートを延伸する工程を含むことが好ましい。シートを延伸する工程は、シートを少なくとも一軸方向に延伸する工程を含むことが好ましい。
【0056】
本延伸多孔フィルムは、平面状、チューブ状のいずれであってもよいが、生産性(原反シートの幅方向に製品として数丁取りが可能)や内面に印刷が可能という観点から、平面状が好ましい。平面状のフィルムの製造方法は、例えば押出機を用いて樹脂組成物を溶融し、ダイからフィルム状に押出し、冷却ロールや空冷、水冷にて冷却固化して未延伸フィルムを得る工程と、未延伸フィルムを少なくとも一軸方向に延伸することにより延伸多孔フィルムを得る工程を含むことが好ましい。
【0057】
樹脂組成物を得る工程は、ポリエステル及び石油ワックスで被覆された無機充填剤を混合した後、溶融混練させる工程を含むことが好ましい。具体的には、タンブラーミキサー、ミキシングロール、バンバリーミキサー、リボンブレンダ―、スーパーミキサー等の混合機で適当な時間混合した後、異方向二軸押出機、同方向二軸押出機等の押出機を使用し、樹脂組成物を均一に分散させることが好ましい。
【0058】
石油ワックスの含有量(無機充填剤中において石油ワックスが占める割合)は、石油ワックスで被覆された無機充填剤の全質量に対して、0.01質量%以上であることが好ましく、0.015質量%以上であることがより好ましく、0.02質量%以上であることがさらに好ましい。石油ワックスの含有量は、石油ワックスで被覆された無機充填剤の全質量に対して、10質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。樹脂組成物を得る工程において混合する無機充填剤において、石油ワックスの含有量を上記範囲内とすることにより、無機充填剤が適度に凝集することで、その結果、延伸多孔フィルムの透気度を適切な範囲にコントロールしやすくなり、さらに通気の均等性をより効果的に高めることができる。
【0059】
シート(未延伸シート)を得る工程では、押出機の先端にTダイや丸ダイ等の口金を接続し、得られた樹脂組成物をフィルム状に成膜することが好ましい。また、混練機の先端にストランドダイを接続し、ストランドカット、ダイカット等の方法により一旦ペレット化した後、(場合によっては追加する組成物とともに)得られたペレットを単軸押出機等に導入し、押出機の先端にTダイや丸ダイ等の口金を接続し、フィルム状に成形することもできる。フィルム状に成形するにあたり、インフレーション成形、チューブラー成形、Tダイ成形等のフィルム成形方法を採用することが好ましい。
【0060】
シートを延伸する工程では、未延伸フィルムを少なくとも一軸方向に延伸する。例えば、押出機を用いて樹脂を溶融し、Tダイや丸ダイから押出し、冷却ロールで冷却固化し、MD方向(縦方向)へのロール延伸や、横方向(フィルムの流れ方向に対して垂直方向、TD)へのテンター延伸等により、少なくとも一軸方向に延伸される。中でも、延伸多孔フィルムを得る工程は、MD方向(縦方向)へ一軸延伸する工程を含むことが好ましく、本延伸多孔フィルムは一軸延伸多孔フィルムであることが好ましい。なお、MD方向(縦方向)へ一軸延伸する工程では、同じ方向に2回以上延伸する工程を有していてもよい。また、延伸倍率は、2.5~6.0倍であることが好ましく、3.0~5.5倍であることがより好ましい。延伸倍率を上記下限値以上とすることで、適度な透気性を有しつつ、かつ均一に延伸されて優れた外観を有する延伸多孔フィルムが得られる。また、延伸倍率を上記上限値以下とすることで、フィルムの破断伸度を高めることができる。
【0061】
必要に応じて、延伸後に熱処理や弛緩処理を行ってもよい。ロール延伸により延伸を行う場合、延伸工程と巻取工程の間で、延伸後のフィルムを加熱したロール(アニールロール)に接触させることで熱処理を行うことができる。また、アニールロールにより加熱しながら、次に接触するロールの速度をアニールロール速度よりも遅くすることで、弛緩処理を行うことができる。なお、これらの熱処理や弛緩処理は、未延伸フィルムの延伸を延伸し、延伸多孔フィルムを巻き取った後、別工程にて行うこともできる。
【0062】
本延伸多孔フィルムの製造方法は、必要に応じて、スリット、コロナ処理、印刷、粘着剤の塗布、コーティング、蒸着等の表面処理や表面加工処理を行う工程を有していてもよい。本延伸多孔フィルムには、例えば、印刷が施されていてもよく、印刷層を有するフィルムであってもよい。
【0063】
(用途)
本延伸多孔フィルムは、例えば、各種食品、薬品、日用消耗品等の液状物や粉粒物、固形物の包装用資材、農業用資材、建築資材等幅広い用途において、特に使い捨てにされる用途に好適に用いることができる。具体的用途としては、例えば、農業用マルチフィルム、トンネルフィルム、ハウスフィルム、日覆い、防草シート、畦シート、発芽シート、林業用燻蒸シート、フラットヤーン等を含む結束テープ、おむつや生理用品のバックシート、包装用シート、カイロ用シート、ショッピングバッグ、レジ袋、ゴミ袋、水切り袋、コンポストバッグ等が挙げられる。中でも、本延伸多孔フィルムは、適度な透気性を有するため、使い捨てカイロ用として用いられることが好ましい。
【0064】
本実施形態は、上述した延伸多孔フィルムを備えた、使い捨てカイロに関するものであってもよい。
【実施例0065】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0066】
<厚み>
JIS K7130:1999に準拠して、スタンドタイプ定圧厚み測定器にてフィルムの厚みを測定し、36回の測定値の平均を算出した。
【0067】
<破断伸度・引張強度>
JIS K7127:1999に準拠して、測定方向に長さ100mm、幅10mmに切り出したサンプルを作製し、引張試験機を用いて、23℃、相対湿度50%の環境下で、引張速度200m/min、チャック間距離20mmの条件で破断伸度及び引張強度測定し、3本の測定値の平均を算出した。
【0068】
<引裂強度>
JIS K7128-1:1998に準拠して、測定方向に長さ100mm、幅25mmに切り出したサンプルを作製し、幅中央に25mmの切り込みを入れ、引張試験機を用いて、23℃、相対湿度50%の環境下で、引張速度200m/min、チャック間距離25mmの条件で引裂強度を測定し、3本の測定値の平均を算出した。
【0069】
<透気度(60μm換算)>
JIS P8117:2009に準拠して、透気度測定装置(旭精工製、王研式透気度測定機EGO1-55型)を用いて透気度を測定した。5枚の測定値の平均を算出後、下記の式から60μmあたりの透気度を算出した。
60μmあたりの透気度=透気度(測定値)×60(μm)/サンプルの厚み(μm)
【0070】
<透気度の変動係数>
上記の測定で得られた透気度を母集団全体として標準偏差を算出し、得られた標準偏差を透気度の平均値で除することにより、透気度の変動係数を算出した。
【0071】
<無機充填剤中の表面処理剤濃度の定量>
無機充填剤300mgにTHF5mlを加えて2時間撹拌後、遠心分離を行い、上澄み液を乾固させて得られた抽出物をクロロホルムに溶解した。次いで、ガスクロマトグラフ質量分析装置(GC/MS)を用いて、下記の条件にて定性分析を行った。その後、標準物質として選択したパルミチン酸、ステアリン酸、ステアリン酸メチルをクロロホルムに溶解してガスクロマトグラフ分析(GC測定)を行い、無機充填剤の抽出物のピーク面積を比較した。
<<GC/MS測定条件>>
・装置:GC/MS-QP2020(島津製作所社製)
・カラム:UA1(MS/HT)-30M-0.1F
・キャリアガス:ヘリウム
・流速:1mL/分
・注入量:1μL
・注入温度:320℃
・カラム温度:70℃で1分間保持→25℃/分で320℃まで昇温→320℃で5分間保持
・インターフェース温度:320℃
・イオン源温度:250℃
・イオン化法:EI(70eV)
・検出範囲:35-800m/z
<<GC測定条件>>
・装置:GC-2010Plus(島津製作所社製)
・カラム:UA1(MS/HT)-30M-0.1F
・キャリアガス:ヘリウム
・流速:1mL/分
・注入量:1μL
・注入温度:320℃
・カラム温度:70℃で1分間保持→25℃/分で320℃まで昇温→320℃で5分間保持
・検出器:FID
【0072】
<フィルム中の表面処理剤濃度の定量>
得られた延伸多孔フィルムについて、試料1.8gをクロロホルムで溶解後、メタノールで樹脂を沈殿させ、濾過した後の濾液を乾固させて得られた抽出物をクロロルムに溶解した。次いで、ガスクロマトグラフ質量分析装置(GC/MS)を用いて、下記の条件にて定性分析を行った。その後、標準物質として選択したパルミチン酸、ステアリン酸、ステアリン酸メチルをクロロホルムに溶解してガスクロマトグラフ分析(GC測定)を行い、無機充填剤の抽出物のピーク面積を比較した。
【0073】
<ポリブチレンアジペートテレフタレート(A)>
A-1:BASF社製「F Blend C1200」(密度1.270g/cm、MFR3.8g/10分、融点:116℃、ジカルボン酸に由来する構成単位100mol%中のテレフタル酸に由来する構成単位:48.1mol%、アジピン酸に由来する構成単位:51.9mol%、重量平均分子量:150000、Mw/Mn:2.4)
【0074】
<無機充填剤(B)>
B-1:カルファイン社製、炭酸カルシウム「サンカット-160」(平均粒子径1.5μm、ワックス表面処理品、ノルマルパラフィン濃度0.7質量%)
B-2:備北粉化工業社製、炭酸カルシウム「ライトンBS-0」(平均粒子径1.0μm、脂肪酸表面処理品)
B-3:カルファイン社製、炭酸カルシウム「CSK-5」(平均粒子径1.5μm、脂肪酸表面処理品)
B-4:備北粉化工業社製、炭酸カルシウム「ソフトン1000」(平均粒子径2.2μm、表面未処理品)
【0075】
<実施例1>
原材料を表1に示す組成比率にて計量した後、ヘンシェルミキサーに投入し、5分間混合、分散させた。次いで、同方向二軸押出機を用いて、設定温度200℃にて溶融混練した。同方向二軸押出機の先端に接続したTダイにて、樹脂組成物を押出し、35℃に設定したキャスティングロールにて引き取り、冷却固化させて厚さ62μmの未延伸フィルムを得た。その後、得られた未延伸フィルムを、ロール式延伸機にて温度63℃で縦方向に3.5倍延伸して、延伸多孔フィルムを得た。
【0076】
<比較例1>
原材料を表1に示す組成比率に変更した以外は、実施例1と同様の手法により、厚さ59μmの未延伸フィルムを得た。得られた未延伸フィルムを、ロール式延伸機にて温度63℃で縦方向に3.5倍延伸して、延伸多孔フィルムを得た。
【0077】
<比較例2>
原材料を表1に示す組成比率に変更した以外は、実施例1と同様の手法により、厚さ55μmの未延伸フィルムを得た。得られた未延伸フィルムを、ロール式延伸機にて温度63℃で縦方向に3.5倍延伸して、延伸多孔フィルムを得た。
【0078】
<比較例3>
原材料を表1に示す組成比率に変更して、実施例1と同様の手法により、厚さ65μmの未延伸フィルムを得た。
【0079】
【表1】
【0080】
比較例に比べて実施例では、適切な透気度が達成されていた。また、実施例で得られた延伸多孔フィルムにおいては、透気度の変動(バラツキ)が小さく抑えられており、通気の均等性に優れていた。